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銅イオンにおける Vibrio 属細菌の制御

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銅イオンにおける Vibrio 属細菌の制御
銅 イ オ ン に お け る Vibrio 属 細 菌 の 制 御
松尾太嗣
細菌性疾病であるビブリオ病は、化学療法やワクチンの登場により被害が軽減されつつ
ある。しかし、仔魚期では、薬剤の効果はほとんど認められない。また、耐性菌の出現や
安全性を求めるトレーサビリティーの観点から、薬剤を使用しない飼育法が求められてい
る。
一方、サケ・マス卵の水カビ病防除では、マラカイトグリーン浴の代替法として、銅イ
オンが用いられている。また、銅イオンは、海産白点虫に有効であることが確認されてい
る 。( 大 田 , 20 06 ) 。そ こ で 、銅 イ オ ン を 用 い 、薬 剤 を 使 用 し な い ビ ブ リ オ 病 防 除 法 に つ い て
検討した。
本 研 究 で は 、i n v it r o で の 銅 イ オ ン に よ る Vib r i o a n gu i l la r um J - O- 3 お よ び 海 水 中 の Vi br io
属細菌に対する抑制効果について検討した。また、銅イオンによる海水中の細菌数抑制効
果についても調査した。
材料と方法
銅 イ オ ン 発 生 装 置 銅 イ オ ン 発 生 装 置 は 、「 銅 し ま し ょ 」 ( エ ル ア ン ド ア ー ル 社 ) を 用 い た
( 図 1) 。1 ℓ の 海 水 に あ ら か じ め 銅 イ オ ン が 発 生 し や す い 状 態 に し た 「 銅 し ま し ょ 」 を 40 秒
間 通 電 す る と 、 1 0 pp m の 銅 イ オ ン 水 が 作 製 で き る こ と が 確 認 さ れ た ( 大 田 , 2 00 6) 。
銅 イ オ ン 測 定 銅 イ オ ン の 測 定 は 、「 銅 測 定 用 高 感 度 テ ス ト キ ッ ト 」 ( セ ン ト ラ ル 科 学 貿 易
社 ) を 用 い た ( 図 2) 。 本 キ ッ ト は 、 銅 複 合 体 法 で 0 .0 4 ∼ 0. 50 pp m の 範 囲 が 測 定 可 能 で あ る 。
また、銅化合物および不溶性銅化合物は、測定前に濃縮硝酸で分解をしない限り検出で
きず、
「 銅 し ま し ょ 」で 発 生 さ せ た 銅 イ オ ン は 1 日 経 過 す る と 銅 お よ び 銅 化 合 物 と な り 、銅
イ オ ン と し て は 検 出 さ れ な い こ と が 確 認 さ れ た ( 大 田 , 20 0 6) 。
図 1.銅 イ オ ン 発 生 装 置 「 銅 し ま し ょ 」
図 2.銅 測 定 用 高 感 度 テ ス ト キ ッ ト
銅 イ オ ン に よ る Vi b r io a n g u i l la r um J-O- 3 の 抑 制 試 験 ( 実 験 1 ) 供 試 細 菌 は 、 水 産 増 殖 専 攻
科 教 棟 内 恒 温 室 に 高 層 培 地 で 保 存 し て あ る Vi br i o an gu i l la r um J -O- 3( 以 下 、V. an gu i l l ar u m と
略 記 ) を 、2 % N aC l 添 加 普 通 寒 天 平 板 培 地 ( ニ ッ ス イ ) ( 以 下 、N A 培 地 と 略 記 ) に 培 養 し た も の
を 用 い た 。 培 養 後 、 コ ロ ニ ー を 滅 菌 海 水 に 懸 濁 し 、 5 m ℓ 小 試 験 管 に V. an gu i l la r um 、 銅 イ オ
ン 、滅 菌 海 水 を 混 合 し 、全 容 量 を 3 mℓ と し た 。銅 イ オ ン は 、0 . 1p p m 、0 . 2p pm 、0 .3 pp m 、0. 4 p pm 、
0. 5p p m と し 、 ま た 、 細 菌 数 は 、 約 1 0 7 ce l l s/ mℓ と な る よ う に 添 加 し た 。 添 加 後 、 イ ン キ ュ
ベ ー タ に よ り 3 0 ℃ で 2 4 時 間 恒 温 後 、試 水 を N A 培 地 に ミ ス ラ 法 で 、2 4 時 間 後 の コ ロ ニ ー 数
を測定した。
銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の Vi b r io 属 細 菌 数 抑 制 試 験 ( 実 験 2 ) 20 0m ℓ 三 角 フ ラ ス コ に 濾 過 海
水 お よ び 銅 イ オ ン を 0 .1 pp m 、0 .2 p pm 、0. 3p pm 、0. 4p pm 、0. 5p p m と な る よ う に 添 加 し 、 全 容
量 を 1 00 mℓ と し た 。3 0 ℃ で 2 4 時 間 恒 温 後 、試 水 0 .1 mℓ を 2 % N aC l 添 加 T CB S パ ー ル コ ア 寒 天
平 板 培 地 ( ニ ッ ス イ ) ( 以 下 、T CB S 培 地 と 略 記 ) に コ ン ラ ー ジ 棒 で 塗 沫 し た 。さ ら に 、2 4 時 間
恒 温 後 に コ ロ ニ ー 数 を 測 定 し 、 銅 イ オ ン 添 加 に よ る 海 水 中 の Vi b r io 属 細 菌 抑 制 効 果 に つ い
て 調 査 し た 。 本 試 験 は 、 2 00 7 年 1 0 月 1 6 日 に 実 施 し た 。
銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の 細 菌 数 抑 制 試 験 ( 実 験 3 ) 本 試 験 は 、実 験 2 と 同 様 の 方 法 で 行 い 、
試 水 0 .1 mℓ を N A 培 地 に 塗 抹 し 、コ ロ ニ ー 数 か ら 銅 イ オ ン 添 加 に よ る 海 水 中 の 細 菌 数 抑 制 効
果 に つ い て 調 査 し た 。 ま た 、 調 査 は 、 6∼ 12 月 ま で の 6 回 行 っ た 。
結果
V. a n g u il l a r um J-O- 3 に 対 す る 銅 イ オ ン の 抑 制 試 験 ( 実 験 1 ) 銅 イ オ ン 添 加 2 4 時 間 後 の
V. a ng u il l a rum は 、対 照 区 1 0 7 cf u/ mℓ に 対 し て 、0 .1 pp m 区 で は 、1 0 5 c f u/ mℓ と 2 オ ー ダ ー 、0 . 2p pm
区 で は 、1 0 2 c fu /m ℓ と 5 オ ー ダ ー 、さ ら に 、 0. 3p p m 区 以 上 で は 、0 と 7 オ ー ダ ー と な り 対 照
区 と 比 べ 細 菌 数 が 著 し く 減 少 し た (表 1・ 図 3)。
し た が っ て 、 i n v it ro に お い て は 、 0 . 3 pp m 以 上 の 銅 イ オ ン に よ り 全 て の V. a ng u i ll ar um
を死滅させることが確認された。
表 1. 銅 イ オ ン に よ る Vi br io a ngui ll ar u m J -O - 3 の 細 菌 数 の 変 化
細菌数
( c f u / mℓ )
時間
0h
24h
対照区
4.0×107
1.6×107
0 . 1 p pm 区
4.0×107
1.2×105
0 . 2 p pm 区
4.0×107
1.8×102
0 . 3 p pm 区
4.0×107
0
0 . 4 p pm 区
4.0×107
0
0 . 5 p pm 区
4.0×107
0
図 3 . 銅 イ オ ン に よ る Vi b ri o a ng uil la ru m J - O -3 の 細 菌 数 の 変 化
銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の Vi br i o 属 細 菌 数 抑 制 試 験 ( 実 験 2 ) 銅 イ オ ン 添 加 2 4 時 間 後 の 海 水
中 に お け る Vi br i o 属 細 菌 数 は 、対 照 区 1 0 3 c fu /m ℓ に 対 し 、0. 1 pp m 、0 .2 p pm 区 で は 、1 0 1 c fu /m
ℓ と 2 オ ー ダ ー 、 0 .3 ∼ 0 .5 pp m 区 で は 、 0 と 3 オ ー ダ ー 細 菌 数 が 減 少 し た ( 表 2 ・ 図 4 ) 。
し た が っ て 、 0 . 3p pm 以 上 の 銅 イ オ ン に よ り 海 水 中 の T C BS 培 地 に 増 殖 可 能 な Vib r io 属 細
菌を全て死滅させることが確認された。
表 2 . 銅 イ オ ン に よる 海 水 中 の Vi br io 属 細 菌 数 の 変 化
細菌数
( c f u / mℓ )
時間
0h
24h
対照区
5.6×103
5.8×103
0 . 1 p pm 区
5.6×103
2.0×101
0 . 2 p pm 区
5.6×103
1.0×101
0 . 3 p pm 区
5.6×103
0
0 . 4 p pm 区
5.6×103
0
0 . 5 p pm 区
5.6×103
0
図 4 . 銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の Vi br io 属 細 菌 数 の 変 化
銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の 細 菌 数 抑 制 試 験 (実 験 3) 海 水 中 の 細 菌 数 は 、 水 温 22℃ 以 下 の 6
月 、1 1 月 、1 2 月 で は 、1 0 3 cf u/ mℓ に 対 し 、水 温 2 2 ℃ 以 上 の 7 月 、9 月 、1 0 月 で は 、1 0 4 cf u/ m
ℓ と 約 1 オ ー ダ ー 多 か っ た ( 図 5 ) 。 こ の こ と か ら 、 高 水 温 期 ( 22 ℃ 以 上 ) は 、 低 水 温 期 (2 2 ℃
以 下 )よ り 、 NA 培 地 上 に 検 出 さ れ る 細 菌 数 が 多 い こ と が 確 認 さ れ た 。
銅 イ オ ン 添 加 区 で は 、調 査 す る 月 日 に よ っ て 銅 イ オ ン に よ る 細 菌 へ の 感 受 性 が 異 な っ た 。
す な わ ち 、 2 2 ℃ 以 下 の 低 水 温 期 で は 、 6 月 は 0 .4 pp m 、 1 1 月 は 0 .5 pp m 、 1 2 月 は 0 . 2p p m で 細
菌 数 が 0 と な っ た 。一 方 、2 2 ℃ 以 上 の 高 水 温 期 で あ る 7 月 、9 月 、1 0 月 で は 、銅 イ オ ン 0 . 5p pm
に お い て も 、 1∼ 2 オ ー ダ ー 減 少 し た が 、 細 菌 を 抑 制 す る こ と は で き な か っ た 。
6 月 水 温 2 1 . 8℃
7 月 水 温 2 2 . 1℃
9 月 水 温 2 6 . 1℃
10 月 水 温 2 2 .1 ℃
11 月 水 温 1 8 .2 ℃
12 月 水 温 1 6 .2 ℃
10 5
細
10 4
菌
9月
数
c
f
u
/
m
ℓ
10 3
10 月
7月
10 2
10 1
12 月
11 月
6月
0
添 加 前 (0h) 対 照 区 (24h)
0 . 1p pm 区
0 . 2p pm 区
0 . 3p pm 区
0 . 4p pm 区
0 . 5p pm 区
図 5.銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の 細 菌 数 抑 制 効 果
考察
本 研 究 で は 、 銅 イ オ ン に よ る V.a ng u i l la ru m 、 海 水 中 の Vib r io 属 細 菌 の 抑 制 効 果 を 検 討
した結果、銅イオンによる著しい殺菌効果が確認された。
V.a ng u i ll a rum に 対 す る 銅 イ オ ン の 抑 制 試 験 で は 、0 . 3p pm 以 上 の 銅 イ オ ン に よ り 、1 0 7 c fu /m
ℓ か ら 0 ま で 減 少 さ せ る こ と が で き た 。こ れ は 、大 田 ら ( 2 00 6) と 同 様 、銅 イ オ ン が 細 胞 表 面
の マ イ ナ ス イ オ ン 部 分 に 吸 着 し 、 細 胞 内 に 侵 入 後 、 細 胞 内 の 酵 素 と 結 合 し 、 A TP の 生 化 学
反応を阻害する。それにより、タンパク質の結合や凝集が起こり細菌を死滅させたのでは
な い か と 推 察 さ れ る 。 し た が っ て 、 in vi tr o に お い て は 、 0 .3 pp m 以 上 の 銅 イ オ ン が 、
V. a ng u il l a ru m に 対 し て 著 し い 殺 菌 効 果 が あ る こ と が 示 さ れ た 。
銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の Vi br i o 属 細 菌 数 抑 制 試 験 で は 、 0 . 3p p m 以 上 の 銅 イ オ ン に よ り 、
海 水 中 の T C BS 培 地 に 増 殖 で き る Vib r io 属 細 菌 を 死 滅 さ せ る こ と が で き た 。 こ れ は 、
V. a ng u il l a rum を 死 滅 さ せ る の と 同 様 の メ カ ニ ズ ム に よ り Vib r io 属 細 菌 が 死 滅 し た と 推 察 さ
れた。
銅 イ オ ン に よ る 海 水 中 の 細 菌 数 抑 制 試 験 で は 、 6 月 は 0. 4p pm 、 1 1 月 は 0 . 5p pm 、 1 2 月 は
0. 2p p m で 細 菌 数 が 1 0 3 cf u/ mℓ か ら 0 と な っ た 。し か し 、7 月 、9 月 、1 0 月 は 、銅 イ オ ン 0 . 5p pm
に お い て 、 1∼ 2 オ ー ダ ー 減 少 し た が 、 細 菌 を 抑 制 す る こ と が で き な か っ た 。 こ れ に は 、 3
つの仮説が考えられた。1 つ目は、夏季の高水温期にプランクトンやその他の懸濁物が増
加したため、細菌まで銅イオンが吸着できなかった。すなわち、すべての銅イオンが他の
物質と結合し、銅化合物への変化により細菌と結合しなかったため。2 つ目は、銅イオン
の細菌に対する属レベルの感受性の違いのため。3 つ目は、一旦抑制した細菌が、時間の
経過により、再増殖したためと推察された。
こ れ ら の こ と か ら 、V. an gu i l l ar um お よ び 海 水 中 の Vib r i o 属 細 菌 に 対 し て は 、0 .3 pp m 以 上
の銅イオンによる殺菌効果が認められることから、ビブリオ病予防および治療に有効であ
ると推察された。しかし、銅イオンによる海水中の細菌数抑制については、さらに検証が
必要である。
今後は、銅イオンを用い、薬剤を使用しないビブリオ病防除法への応用を図るため、細
菌抑制機構や魚類飼育における銅イオンの添加量などを検証する必要がある。
謝辞
本研究を行うにあたり、実験に協力して頂いた愛媛県立宇和島水産高等学校水産増殖科
専攻科の椀田翔太郎氏に対し、記して厚くお礼を申し上げる。
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