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小型・薄型のワイアレス連動型住宅用火災警報器
特集「情報機器関連技術」 小型・薄型のワイアレス連動型住宅用火災警報器 Thin-Profile Compact Wireless Interlocking Residential Fire Alarm 栗田 昌典* ・ 松本 一弘* ・ 干場 圭太郎* Masanori Kurita Kazuhiro Matsumoto Keitaro Hoshiba ワイアレス連動型住宅用火災警報器において,電池寿命 10 年を確保したまま小型・薄型化を実現す るため,高精度同期間欠受信による超低消費電力の無線通信方式と,煙流入性を阻害しない高性能内蔵 小型アンテナを開発した。 これにより,従来の性能を維持しながら容量が 1/ 3 となる電池の小型化とアンテナ突起をなくすこ とが可能となり,従来品比 60 %となる厚み 26 mm を実現した。 In the development of a wireless interlocking residential fire alarm, to achieve compact size and thin profile while keeping the battery life of a decade, we have developed a wireless communication method of ultra-low power consumption using highly accurate synchronized intermittent reception, and also have developed high-performance small built-in antenna embedded without obstructing the smoke flow. These technologies have enabled to adopt smaller battery of one-third capacity and to eliminate the projected antenna while maintaining performance, thus we have developed the alarm of 26 mm height, which is 60% of the previous model. 1. ま え が き 低消費電力化と,薄型筐体に内蔵しても煙の流れを阻害せ 2004 年に消防法の改正が行われ,住宅にも火災警報器 の設置が義務づけられた。新築住宅には 2006 年から,既 築住宅には市町村条例の定めに応じて 2008 ∼ 2011 年の ずに従来品と同等の通信エリアが確保できる高性能小型ア ンテナの開発が必要になる。 間の設置が求められている。 すでに当社では,火災時に 1 台が火災を検知するとすべ 45 mm ての機器が連動鳴動して知らせるワイアレス連動型住宅用 火災警報器(以下,ワイアレス住警器と記す)を販売して いる。従来のワイアレス住警器は図 1 に示すように,煙検 アンテナ部 知部やアンテナ部が筐体の外に設けられている。 筐体 一方,火災を検知した機器だけが鳴動する単独型住宅用 煙検知部 火災警報器(以下,単独型住警器と記す)では,低消費電 力な煙検知回路の開発による小型電池の採用と,煙検知部 に煙を誘導する構造の開発により,煙検知部の筐体への内 蔵が可能となり,厚み 26 mm の薄型化を実現している 1) (図 2) 。 そこで,ワイアレス住警器においても単独型住警器と同 φ100 mm 図 1 従来のワイアレス住警器外観 様の厚み 26 mm に薄型化し,インテリアに調和するデザ インの実現を図る。そのためには,単独型住警器と同じ小 型電池で従来同等の電池寿命 10 年が確保できる無線部の * 情報機器事業本部 情報機器R & Dセンター Research & Development Center, Information Equipment & Wiring Products Manufacturing Business Unit パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3) 25 このためには,従来のワイアレス住警器に比べて消費電 力を 1/3 に低減する必要があり,無線回路部での使用電 力の削減が課題となる。 26 mm また,従来の外部アンテナと同等のアンテナ利得を内蔵 アンテナで実現するためには,煙の流入性を阻害しない制 約のもとで,高性能小型アンテナを開発することが課題と なる。 表 1 小型・薄型ワイアレス住警器の開発目標 φ100 mm 図 2 単独型住警器外観 2. 開 発 課 題 項目 従来ワイアレス 住警器 小型・薄型ワイアレス 住警器 電池寿命(年) 10 10 電池容量(mAh) 4800 1600 サイズ(mm) φ100×h 45 φ100×h 26 アンテナ利得(dBi) −10 −10 無線方式 RCR STD-30 準拠 RCR STD-30 準拠 システムを構成するすべての機器は,他の機器で火災が検 定期通信頻度 約 1 日に 1 回 約 1 日に 1 回 知された場合にすぐに連動できるように,周期的な間欠受 システム連動時間 最大約 10 秒 最大約 10 秒 図 3 に当社のワイアレス住警器のシステム構成を示す。 2) 信を行い火災信号の有無をチェックしている 。また,親 器はシステム内の全子器にメッセージを送信し,各子器か らの返信の有無で正常な無線通信ができるか否かを定期的 に確認している。このために,火災が検知されない状態で も親器と子器はともに送受信に電力を消費している。 3. 低 消 費 電 力 化 無線回路部で使用する電力は間欠受信と定期通信で大半 を占めており,これらを低減する方法を中心に以下に述べ る。 子器 n 3.1 間欠受信電力の低減 ・ ・ ・ 子器 1 間欠受信電力を低減するためには,間欠受信周期を長く して動作頻度を減らす方法と,間欠受信動作 1 回当りの消 子器 4 費電力を小さくする方法がある。 以下に,筆者らが開発した間欠受信周期を長くして動作 親器 頻度を低減する同期間欠受信方式について述べる。 火元 従来のワイアレス住警器では,図 4(a)に示すように, 一定周期で各機器が個々のタイマに基づくタイミングで間 欠受信を行う非同期間欠受信方式となっていた。この場合, 子器 2 子器 3 火災を検知した際にシステム内の全機器が鳴動を開始する までのシステム連動時間は約 10 秒を要していた。これは, 定期通信 火災信号 図 3 システム構成 電波法の規定から最大 3 秒間の送信の後には 2 秒以上送信 を休止する必要があり,確実な連動には複数回の送信を要 するためである。 そこで,システム連動時間を従来と同等に保ったまま間 小型・薄型ワイアレス住警器の開発目標を表 1 に示す。 電池容量とサイズは単独型住警器と同等,その他項目は従 て間欠受信を行うとともに,火災信号もこれに同期して発 来のワイアレス住警器と同等とする。従来のワイアレス住 信する同期間欠受信方式を提案する(図 4(b) ) 。本方式 警器では 2400 mAh のリチウム電池を 2 本使用しており, によれば,1 回の火災信号の送信でシステム連動が可能に 煙検知部と無線回路部とでそれぞれ電池 1 本相当の電力を なり,間欠受信周期を従来よりも 2 倍以上に長くすること 消費していた。開発品は単独型住警器にワイアレス連動機 ができる。これにより,間欠受信に要する電力を半分以下 能を搭載するが,電池を追加できないことから煙検知部と に抑えることが可能になる。 無線回路部を合わせて 1600 mAh 1 本の電池で寿命 10 年 を実現する必要がある。 26 欠受信動作頻度を減らすため,システムの全機器が同期し パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3) 電波法の規定により 3 秒送信/ 2 秒休止 基準 火元機器 基準 子器 1 連動機器 1 連動機器 2 基準 ビーコン 親器 子器 2 n秒 ・基準タイミングと間欠受信タイミング のずれから親器クロックとの相対偏差を推定 ・各子器は相対偏差を補正したクロックで計時 火災検出→連動 補正前の間欠受信タイミング (a)非同期間欠受信(従来方式) 補正後の間欠受信タイミング 火元機器 図 5 相対偏差補正方式 連動機器 1 m秒 連動機器 2 (3)温度偏差補正 相対偏差補正後に温度変動が生じた場合,水晶振動子 火災検出→連動 (b)同期間欠受信 の周波数温度変動のため,親器−子器間で間欠受信タイ ミングのずれが大きくなることが考えられる。このため, 間欠受信 温度変動に対しては,各水晶振動子の周波数温度特性に 鳴動 合わせて間欠受信タイミングを補正する。 連動鳴動 火災信号送信 図 4 間欠受信タイミングチャート 先に述べたように,1 回の火災信号の送信でシステムを (4)出荷時の常温偏差補正 出荷検査時に水晶振動子の常温偏差値を機器ごとに測 定して不揮発メモリーに記憶させ,実運用時にその値を 呼び出して補正する。 連動させるためには,その送信時間内に各機器は同期間欠 受信を行う必要がある。しかし,計時用水晶振動子の周波 3.2 定期通信電力の低減 数精度には限界があり長時間にわたる同期は困難であるた 親器がシステム内の全子器との間で正常に無線通信でき め,間欠受信タイミングの精度を保つには頻繁な同期合せ るか否かを確認する定期通信は,約 1 日に 1 回の頻度で行 通信が必要になる。これによる電力増加が間欠受信の長周 われる。定期通信に必要な親器の消費電力は送信時間によ 期化による電力低減量を上回り,同期間欠受信方式の低消 り決まるため,これを短縮することで低消費電力化ができ 費電力効果が得られなくなる。 る。従来は,非同期で間欠受信している全子器が応答でき そこで,以下の四つの間欠受信タイミングの補正法を組 み合わせた高精度同期間欠受信法を提案する。 (1)無線用水晶振動子による補正 無線回路用に備えている高精度の水晶振動子を用いて, 計時用水晶振動子の周波数誤差を補正する。一般に無線 るように,親器は電波法に準拠した送信パターンで複数回 の定期通信メッセージを送信していた(図 6(a) ) 。 前節で述べた高精度同期間欠受信法を適用することで, 親器からの 1 回の送信で全子器が応答でき(図 6(b) ) , 低消費電力化が可能となる。 回路用には数 ppm 以下の高精度な水晶振動子を使用し 親器の消費電力をさらに低減するためには送信時間も短 ているが,常時駆動させて計時に使用すると電力消費が くする必要があるが,単純に送信時間を短くすると同期ず 大きくなる。このため,無線用水晶振動子の発振を基準 れにより定期通信メッセージであるビーコンを子器が受信 に計時用水晶振動子の周波数精度を測定して誤差を補正 できないケースが発生する。 する。 (2)相対偏差補正 親器 - 子器間での同期合せ通信を利用して,各機器で 使用する水晶振動子の個体ばらつきや経年変化等による そこで,子器はそのビーコンを確実に受信するため, ビーコンが送信されるタイミングの前後のみ間欠受信周期 を通常時よりも短くする方式(以下,ビーコンサーチ方式 と記す)を提案する(図 7) 。 周波数偏差を補正する。これは,図 5 に示すように,親 図 7(b)に示すように,定期通信メッセージは,間欠 器が定期的に送信するビーコンと自器の間欠受信タイミ 受信している子器を起動させるための起動用ダミーデータ ングのずれを各子器が検出し,そのずれ量から親器ク と実際に伝送したい情報が格納される実パケットとで構成 ロックとの相対周波数偏差を推定して全子器が親器ク される。このとき,起動用ダミーデータ送信時間 L と短く ロックと一致するようにクロック補正する。 した間欠受信周期 T の関係を L ≧ T とすれば確実に受信 できることから,ビーコンサーチ方式を用いる場合は,L = T = 0.1 秒とすれば親器の定期通信メッセージの送信時 パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3) 27 間は 0.2 秒にすることができ,従来よりも大幅に短縮でき る。一方,子器はビーコンタイミング前後の間欠受信周期 の短縮により消費電力が増えるが,約 0.3 %の微小な増加 であり,子器の電池寿命にはほとんど影響がない。 リープ時の電流消費を最小化する。 (a)スリープ電力の少ないマイクロコンピュータを選定 する。 (b)スリープ時の外部割込み起動を火災等の緊急項目に 限定する。 (c)使用部品の見直しと削減を行う。 3 秒以下 (3)間欠受信 1 回当りの消費電力の低減 親器 ACK 子器 1 間欠受信時の動作電流を小さくするとともに動作時間 を短くする。このため,無線回路部を以下の視点から見 直し,間欠受信 1 回当りの消費電力を低減する。 ACK 子器 2 (a)間欠受信開始時の起動応答性を改善するため,主要 (a)非同期間欠受信(従来方式) 3 秒以下 部品の特性見直しを実施する。 (b)起動時の無線回路ブロックへの各種動作設定を並列 機器 に処理し,設定に要する時間を短縮する。 ACK 子器 1 ACK 子器 2 (c)間欠受信後のスリープ処理を,次回起動タイミング 設定などの最小限にして高速化する。 これらの方策により,図 8 に示すように全体の消費電力 (b)同期間欠受信 を約 1/3 に低減できる。 間欠受信 定期通信メッセージ送信 定期通信への返信 図 6 定期通信のタイミングチャート (mAh) ⑤その他 4800 親器 ④定期通信 子器 1 ③間欠受信 子器 2 (a)タイミングチャート(全体) 起動用ダミーデータ L 無線部電力(③+④+⑤) ②待機 実パケット 約 0.1 秒 1600 ①検知部 T ②待機 ①検知部 (b)タイミングチャート(拡大) 間欠受信 定期通信メッセージ送信 従来品 単独型 住警器 で開発 開発品 図 8 10 年間での電力消費の内訳 図 7 ビーコンサーチ方式 4. 内 蔵 ア ン テ ナ 3.3 低消費電力回路 前述の同期間欠受信方式に加えて,煙検知部と無線回路 従来のワイアレス住警器は可動式アンテナが筐体の外に ブロックを合わせた消費電力をさらに低減するため,以下 取り付けられているが,開発品の薄型ワイアレス住警器で の方策を実施する。 はアンテナを内蔵する。そのために,従来と同等の水平面 (1)煙検知部の低消費電力化 単独型住警器用に開発した超低消費電力の煙検知回路 を採用する。 (2)待機電力の低減 ワイアレス住警器はスリープ時間が長いことから,ス 28 4.1 アンテナ方式 パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3) 内無指向性でアンテナ利得− 10 dBi を維持しつつ,煙流入 性を阻害しない内蔵アンテナを開発する。 厚み 26 mm の筐体に内蔵するため,低背アンテナであ る線状逆 L アンテナ方式を採用する。この方式は図 9 に 示すように金属板上に設置すると水平成分がイメージで キャンセルされるため,アンテナ高さをできるだけ高くす る。また,アンテナ素子長は使用電波(周波数 426 MHz, 放射パターン 0 波長λ= 70 cm)のλ/ 4 である約 17 cm とし,筐体の底 −10 面に電池など金属物の影響のないように配置する。 −20 なお,アンテナ素子は煙流路となる筐体の下面側に密着 させて煙流入性への影響を抑制している。 水平成分 線状逆Lアンテナ 金属板 従来品 開発品 金属板 図 11 アンテナ性能の実測結果 垂直成分 (a)線状逆Lアンテナ (dBi) (b)電流分布のイメージ 5. 開 発 品 の 特 徴 図 9 金属面上の線状逆 L アンテナ 従来品比 1/3 の低消費電力化と従来品同等の性能を保っ 次に,内蔵するときの形状で目標アンテナ利得を達成す るため,回路基板グランドにアンテナ地線を接続する。こ れは,小型・薄型筐体に収納可能な回路基板のグランドプ た高性能小型内蔵アンテナの開発により,従来品比で約 60 %となる厚み 26 mm を実現している(図 12)。また, 開発品の特徴を表 2 に示す。 レーンが波長と比較して小さいことから線状逆 L アンテナ のグランドプレーンとして不十分でありアンテナ効率が低 26 mm 下するのを防ぐためである。図 10 にアンテナの外観図を 示す。 アンテナ地線 φ100 mm 回路基板 図 12 開発品の外観 表 2 開発品の特徴 アンテナ素子 図 10 アンテナ外観 4.2 アンテナ性能 従来品(ヘリカルアンテナ)と開発品(地線付き線状逆 L アンテナ)のアンテナ放射パターンを測定した結果を図 11 に示す。 開発品のアンテナ利得は,従来品と同等以上である。ま 項目 仕様 電池寿命 約 10 年 システム連動時間 発報元の警報開始から約 10 秒 最大連動台数 親器 1 台+子器 14 台 電波到達距離 水平見通し 約 100 m 音声機能 火災警報,試験,登録ガイド サイズ φ100 ×h26 mm 6. あ と が き ワイアレス連動型住宅用火災警報器において,電池寿命 た,モデルハウスを用いた実環境の電波伝搬測定では,通 10 年を確保したまま小型・薄型化を実現するため,高精度 信エリアも従来品と同等以上である。 同期間欠受信による超低消費電力の無線通信方式と,煙流 入性を阻害しない高性能内蔵小型アンテナを開発した。 これにより,従来の性能を維持しながら容量が 1/3 とな る電池の小型化とアンテナ突起をなくすことが可能となり, 従来品比 60 %となる厚み 26 mm を実現した。 パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3) 29 *参 考 文 献 1)阪本 浩司,畑谷 光輝,島田 佳武,福井 卓,本田 亜紀子,小松 幹生:煙誘導構造による薄型住宅用火災警報器,パナソニック 電工技報,Vol. 57, No. 2, p. 21-26(2009) 2)長田 雅裕,松本 一弘,藤井 隆,栗田 昌典,奥野 裕寿,大和 弘治:間欠受信による低消費電力の電池式無線連動型住宅用火災 警報器,パナソニック電工技報,Vol. 57, No. 2, p. 27-33(2009) ◆執 筆 者 紹 介 30 栗田 昌典 松本 一弘 干場 圭太郎 情報機器 R & D センター 情報機器 R & D センター 情報機器 R & D センター パナソニック電工技報(Vol. 59 No. 3)