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第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
第1節
本章で学ぶこと
本章では,『組織再編行為等』について学習する。
ここで,本テキストにおいては,合併,会社分割,株式交換,株式移転,組織変更のことを組織再編行為と
いうことにする。また,事業譲渡等と組織再編行為を組織再編行為等ということにする。
本章の構成と内容については以下の通りである。
学習範囲
学習内容
株式会社が事業の全部または一部を取引行為として他に譲渡する行為
第2節
事業譲渡等
である事業譲渡について学習する。また,他の会社の事業全部の譲受け・
事業の全部の賃貸等についても学習する。
154
第3節
組織再編行為総論
第4節
合併
第5節
会社分割
第6節
株式交換・株式移転
第7節
組織変更
第8節
組織再編行為の瑕疵
組織再編行為の総論について学習する。
2つ以上の会社が契約によって1つの会社となる行為である合併につ
いての効果・手続について学習する。
会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承
継させる行為である会社分割についての効果・手続について学習する。
完全親子会社関係を創設する行為である株式交換・株式移転について
の効果・手続について学習する。
① 株式会社から持分会社,② 持分会社から株式会社に変更する行為
である組織変更について学習する。
組織再編行為に瑕疵がある場合の取扱いについて学習する。
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
第2節
1.総論
事業譲渡等
(A)
(1) 事業譲渡の意義
① 一般的な意義
事業譲渡は,株式会社が一定の事業目的のために組織化された有機的一体として機能する財産を他に譲渡
する取引行為のことをいう。
② 467条1項1号2号の事業譲渡の意義
(ⅰ) 問題の所在・問題提起
株式会社が事業譲渡(467 条1項1号2号)をする場合には,株主総会
株主総会の
株主総会の特別決議によって,その承認
特別決議
を受けなければならない(309 条2項 11 号)
。しかし,当該規定により株主総会の特別決議
特別決議を
特別決議を要する事業
する事業
譲渡とは
譲渡とは何
とは何かについて,会社法上に定義規定はないため,その意義が問題となる。
また,21 条以下に規制されている事業譲渡との関係についても問題となる。
(ⅱ) 規範定立
1 事業財産・地位承継説(判例)
(a) 結論
467 条1項1号2号の事業譲渡は,21
21 条以下の
単なる事業用財
条以下の事業譲渡と
事業譲渡と同義に解すことができ,単
同義
なる事業用財
産の譲渡ではなく
一定の事業目的に
譲渡ではなく,①
ではなく
事業目的に組織化された
組織化された有機的一体
された有機的一体として
有機的一体として機能
として機能する
機能する財産
する財産の譲渡であっ
財産
て,② 譲受会社が事業活動
事業活動を
その結果,譲渡会社が競業避止義務
競業避止義務(
事業活動を承継し,③
承継
競業避止義務(21 条)を負担する場
負担
合をいう。
(b) 理由
(ア) 株主総会の特別決議が 467 条1項1号2号の事業譲渡の効力要件であるとすれば,467 条1項
1号2号の事業譲渡に該当するか否かについて,譲受会社の事業活動の承継の有無,および,
譲渡会社の競業避止義務の有無という明確
明確な
明確な基準で
基準で判断することができ
判断することができ,
することができ,取引の
取引の安全を
安全を図るこ
とができる。
とができる
(イ) 21 条以下の事業譲渡と同一に解することで,法解釈
法解釈の
法解釈の統一性を
統一性を図ることができる。
ることができる
155
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
【事業財産・地位承継説】
21 条以下の事業譲渡と同義に解し,① 一定の事業目的に組織化された有機的一体とし
結
論
て機能する財産の譲渡であって,② 譲受会社が事業活動を承継し,③ 譲渡会社が競業
避止義務(21 条)を負担する場合をいう
(ア) 467 条1項1号2号の事業譲渡に該当するか否かについて,譲受会社の事業活動の
理
由
承継の有無,および,譲渡会社の競業避止義務の有無という明確な基準で判断する
ことができ,取引の安全を図ることができる
(イ) 21 条以下の事業譲渡と同一に解することで,法解釈の統一性を図ることができる
2 有機的財産譲渡説(有力説)
(a) 結論
467 条1項1号2号の事業譲渡は,単なる事業用財産の譲渡ではなく,一定の事業目的に組織化さ
れた有機的一体として機能する財産の譲渡をいい,譲受会社の事業活動の承継および譲渡会社の競業
避止義務の負担を要件とはしない。
(b) 理由
467 条1項の趣旨は,株主総会の特別決議を要求することで株主の利益を保護することにあるが,
21 条以下の事業譲渡に関する規定の趣旨は,譲受会社・債権者の保護にある。したがって,両者の趣
旨は相違するため,同一に解する必要はなく,事業活動の承継および競業避止義務の負担がない場合
でも株主の利益を保護する必要があるため,株主総会の特別決議を必要とするべきである。
(2) 事業譲渡の法的性質
事業譲渡は,会社分割などの組織法上の行為と異なり,取引法上
取引法上の
事業譲渡
取引法上の行為であるから,事業を構成する資産・
行為
債務などの移転に個別
個別の
個別の移転手続を
移転手続を要する。したがって,移転する不動産に関しては不動産の登記が必要であ
する
り,移転する債務については,債権者の同意が個別に必要となってくるのである。
なお,債務を移転しない場合であっても,譲渡会社の商号を使用した場合や債務引受の広告をした場合は,
譲受会社が弁済責任を負う場合もある(22 条1項,23 条1項)。
156
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
2.事業譲渡等の規制
(B)
(1) 事業譲渡等の意義
事業譲渡等とは,① 事業の全部の譲渡,② 事業の重要な一部の譲渡,③ 他の会社の事業の全部の譲受け,
④ 事業の全部の賃貸,事業の全部の経営の委任,他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに
準ずる契約の締結,変更または解約をいう(467 条1項1号~4号,468 条1項)。
(2) 事業譲渡等の手続の概要
会社法は,事業譲渡等の手続規制として,① 事業譲渡等に係る契約の承認(株主総会の特別決議)
,② 反対
株主の株式買取請求の手続を求めている。
① 事業譲渡等に係る契約の承認
事業譲渡等に係る契約は,原則として,株主総会
株主総会の
株主総会の特別決議によりその承認を受けなければならない(467
特別決議
条1項1号~4号,309 条2項 11 号)。ただし,一定の場合は,株主総会の決議が不要となる場合がある。
② 反対株主の株式買取請求
事業譲渡等をする場合には,反対株主
反対株主は,事業譲渡等をする株式会社に対し,自己
自己の
反対株主
自己の有する株式
する株式を
株式を公正な
公正な
価格で
条1項本文。なお,同条項ただし書)。
価格で買い取ることを請求
ることを請求することができる
請求することができる(469
することができる
また,事業譲渡等をしようとする株式会社は,効力発生日の 20 日前までに,株主に対し,事業譲渡等をす
る旨を通知(一定の場合は公告に代えることができる)しなければならない(同条3項4項)。
(3) 各事業譲渡等の内容
① 事業の全部の譲渡
事業の全部の譲渡(467 条1項1号)とは,ある
ある会社
ある会社の
会社の事業活動の
事業活動の全部を
全部を譲渡すること
譲渡することである。したがっ
すること
て,複数の事業活動を行っている場合(A事業とB事業)については,その全部(A事業とB事業)を他に
譲渡することをいうのである。
② 事業の重要な一部の譲渡
事業の重要な一部の譲渡(467 条1項2号)とは,ある
ある会社
ある会社の
会社の事業活動の
事業活動の重要な
重要な一部を
一部を譲渡すること
譲渡することであ
すること
る。ただし,譲渡する
総資産額の
譲渡する資産
する資産の
資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額
帳簿価額
総資産額の5分の1(定款で厳格にすることが可能)
を超えないものは,
事業の
。
えないもの
事業の重要な
重要な一部の
一部の譲渡(467 条1項2号)には該当
には該当しない
該当しない(467 条1項2号かっこ書)
さらに,総資産額の5分の1を超えるものであっても,事業の重要な一部の譲渡しに該当しない場合もあ
るので,事業の重要な一部の譲渡の「重要」とは,その他の基準で判断することとなる。したがって,
「重
要」か否かは,譲渡会社全体の収益に対して,当該事業により得られる収益の割合が大きく,譲渡会社が競
業避止義務を負うこと等により譲渡会社の経営に重大な影響があるかどうかで総合的に判断するものとさ
れる。
157
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
③ 他の会社の事業の全部の譲受け
他の会社の事業の全部の譲受け(467 条1項3号)とは,ある
ある会社
ある会社の
会社の事業活動の
事業活動の全部を
全部を譲り受けることで
けること
ある。ここで,他の会社の事業の全部の譲受けについて株主総会の特別決議が要求されるのは,譲受会社が
吸収合併の存続会社に近い立場に立つためである。
また,他の会社の事業の全部の譲受けをする場合において,譲り受ける資産に自己株式(譲受会社の株式)
が含まれるときは,取締役は,当該株主総会において,自己株式に関する事項を説明しなければならない(同
条項2項)。
④ 事業の全部の賃貸等
事業の全部の賃貸等は,経営形態が基本的に変わる行為であるため,株主総会の特別決議が要求される。
(ⅰ) 事業全部の賃貸
事業全部の賃貸借契約が締結されると,賃貸借期間中,賃借人が,自己の名・自己の計算において事業
全部の使用・収益を行う。その間,賃貸会社は,賃料収入を得るだけの存在となる。
(ⅱ) 事業全部の経営の委任
事業全部の経営の委任とは,事業全部の経営を他人に委任することであり,受任者は,委任会社の名前
で事業の経営をすることである。
(ⅲ) 他人と事業上の損益の全部を共通にする契約
他人と事業上の損益の全部を共通にする契約とは,会社が他人と一定期間における事業上の損益を合算
し,あらかじめ定められた割合で各自に分配する契約である。
158
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(3) 事業譲渡等に係る契約の承認
① 内容
株式会社は,事業譲渡等をする場合には,効力発生日の前日までに,原則として,株主総会
株主総会の
株主総会の特別決議に
特別決議
よって,その承認を受けなければならない(467 条1項1号~4号,309 条2項 11 号)。
② 趣旨
事業譲渡等は,事業の移転を目的とする取引法上
取引法上の
取締役
取引法上の行為であるため,業務執行に関する決定として取締役
行為
会あるいは代表取締役
会社の
あるいは代表取締役の
代表取締役の権限に
権限に属するはずである。しかし,事業譲渡等が行われると,会社
するはず
会社の事業および
事業および株
および株
主の利益に
利益に重大な
重大な影響を
影響を及ぼすことがあるため,原則として株主総会の特別決議が要求されているのである。
ぼす
補 足
事後設立
(B)
事後設立は,467 条1項5号に規定されているものであるが,468 条1項が規定している事業譲渡等には含まれないことに
注意する必要がある。ここで,事業譲渡等に含まれない理由であるが,事後設立の規制は,現物出資・財産引受の規制の潜
脱防止を目的としているものであり,467 条1項1~4号の事業譲渡等とは性質が異なるためである。
したがって,事後設立には株主総会の特別決議が要求されるのみであり,468 条~470 条の規定の適用はない。
補 足
株主総会の特別決議を欠く事業譲渡の効力
(B)
判例の見解によると,株主総会の特別決議を欠く事業譲渡の効力は,無効である。また,信義則に反して許されない場合
を除いて,その無効はだれでも主張できるとし,譲受会社からの無効主張も認められるとしている。
③ 組織再編行為等(組織変更を除く)の承認を要しない場合
組織再編行為等(組織変更を除く)をする場合には,原則として,株主総会の特別決議が必要となる(467
条1項,783 条1項,795 条1項,804 条1項,309 条2項 11 号 12 号)
。しかし,略式組織再編行為
略式組織再編行為・
略式組織再編行為・簡易
組織再編行為に
株主総会の
組織再編行為に該当する
該当する場合
する場合については,株主総会
場合
株主総会の決議が
決議が不要となる
不要となる場合
となる場合がある
場合がある。
がある
(ⅰ) 略式組織再編行為等
1 内容
略式組織再編行為等とは,組織再編行為等に係る契約
契約の
契約の相手方が
相手方が,特別支配会社である
特別支配会社である場合
である場合をいう。
場合
その場合,被支配会社は,株主総会
株主総会の
株主総会の決議による
決議による承認
による承認が
承認が不要となる。
不要
2 趣旨
略式組織再編行為等が認められるのは,このような支配従属関係のある会社間で組織再編行為等を行
う場合には,当該組織再編行為等に係る承認決議
承認決議の
承認決議の成立が確実視される
確実視されるためであり,その場合には,株
される
主総会招集の費用と時間を節約するため,その省略
省略を
省略を認めることが合理的
めることが合理的だからである。
合理的
159
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
補 足
特別支配会社
(B)
特別支配会社とは,ある株式会社の総株主の議決権の 10 分の9(定款で加重可)以上を他の会社および当該他の会社が発
行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の
会社をいう。
例えば,A
A会社が
会社が,B株式会社
,B株式会社の
株式会社の議決権の
議決権の 90%
90%以上を
以上を有している場合
している場合,A
場合 A会社は
会社はB株式会社の
株式会社の特別支配会社である。
特別支配会社
(ⅱ) 簡易組織再編行為等
1 内容
簡易組織再編行為等とは,組織再編行為等に係る契約
契約の
契約の相手方に
相手方に承継させる
承継させる資産
させる資産の
資産の額が,当該会社の
総資産の
を超えない場合
契
総資産の5分の1(定款で厳格にすることが可能)を
えない場合,または,組織再編行為等に係る契
場合
約の相手方に
純資産の
を超
相手方に交付する
交付する対価
する対価の
対価の額が,当該会社の純資産
純資産の5分の1(定款で厳格にすることが可能)を
えない場合
えない場合をいう。
場合
その場合,当該会社は,株主総会
株主総会の
株主総会の決議による
決議による承認
による承認が
承認が不要となる。
不要
2 趣旨
簡易組織再編行為等は,株主
株主に
株主に与える影響
える影響が
影響が小さいと予想され,株主総会による承認を要求しなくと
さい
も株主保護に欠けることはないと考えられるためであり,その場合には,株主総会招集の費用と時間を
節約するため,その省略
省略を
省略を認めることが合理的
めることが合理的だからである。
合理的
【略式組織再編行為等・簡易組織再編行為等】
内容
趣旨
支配従属関係のある会社間では,承認決議
略式組織再編行為等
契約の相手方が,特別支配会社である場合
をいう
の成立が確実視されるためであり,その場合
には,株主総会招集の費用と時間を節約する
ため,その省略を認めることが合理的
簡易組織再編行為等
160
契約の相手方に承継させる資産の額が,当
株主にとって影響は小さいと予想され,株
該会社の総資産の5分の1(定款で厳格にす
主総会による承認を要求しなくとも株主保
ることが可能)を超えない場合,または,契
護に欠けることはないと考えられるためで
約の相手方に交付する対価の額が,当該会社
あり,その場合には,株主総会招集の費用と
の純資産の5分の1(定款で厳格にすること
時間を節約するため,その省略を認めること
が可能)を超えない場合をいう
が合理的
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
④ 事業譲渡等の承認を要しない場合
(ⅰ) 略式事業譲渡等
事業譲渡等(467 条1項1号~4号)に係る契約
契約の
特別支配会社
契約の相手方が事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社
相手方
である場合
株主総会の
条1項)。
である場合には,被支配会社は,株主総会
場合
株主総会の決議による
決議による承認
による承認が
承認が不要となる(468
不要
(ⅱ) 簡易事業譲受け
1 内容
事業の
譲り受ける事業全部
純資産額
事業の全部の譲受けをする場合において,譲
全部
ける事業全部の
事業全部の対価の
対価の総額が,譲受会社の純資産額
総額
として法務省令
を超えな
として法務省令で
法務省令で定める方法
める方法により
方法により算定
により算定される
算定される額
される額の5分の1(定款で厳格にすることが可能)を
い場合には,事業の全部を譲り受ける株式会社は,原則として,株主総会
株主総会の
場合
株主総会の決議による
決議による承認
による承認が
承認が不要とな
不要
る(468 条2項)。
2 簡易事業譲受けが認められない場合
(a) 内容
簡易事業譲受けの要件を満たす場合であっても,事業の全部の譲受けをする旨の通知
通知・
通知・公告(469
公告
条3項4項)を
を行った日
った日から2
から2週間以内に
週間以内に,一定の
一定の数の株式を
株式を有する株主
する株主が
株主が,当該事業の
当該事業の全部の
全部の譲受
けに反対する
反対する旨
する旨を会社に
会社に通知したとき
通知したときは,会社は簡易事業譲受けをすることができず,効力発生日の
したとき
前日までに株主総会
株主総会の
条3項)。
株主総会の決議による
決議による事業譲渡等
による事業譲渡等に
事業譲渡等に係る契約の
契約の承認が
承認が必要となる(468
必要
補 足
一定の数について
(C)
簡易事業譲受けを阻止することができる一定の数とは,① 特別決議の成立を阻止できる数(会社法施行規則 138 条1号~
3号),または,② 定款で定めた数(会社法施行規則 138 条4号)である。
(b) 趣旨
簡易事業譲受けによれば,株主総会の決議が不要となるため,株主
株主の
株主の意思に
意思に反する事業譲受
する事業譲受けがな
事業譲受けがな
される可能性
特別決議が
される可能性がある
可能性がある。そこで,仮に株主総会が開催された場合に特別決議
がある
特別決議が否決されるだけの
否決されるだけの株主
されるだけの株主の
株主の
反対がある
反対がある場合
がある場合については,原則通り,株主総会の特別決議によって事業の全部の譲受けの承認を受
場合
けることが要求されるのである。
補 足
事業の重要な一部の譲渡に該当しない場合
(C)
事業の一部の譲渡により譲渡する資産の帳簿価額が,当該株式会社の総資産額の5分の1(定款で厳格にすることが可能)
を超えない場合には,事業の重要な一部の譲渡に該当することはない(467 条1項2号かっこ書)
。したがって,そもそも当
該譲渡は事業譲渡等には含まれため,株主総会の特別決議によって,その承認を得る必要はない。
なお,株主総会の特別決議により承認を得る必要がないのは,そもそも事業譲渡等ではないためであり,簡易組織再編行
為等には該当しないことに注意すること。
161
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(4) 反対株主の株式買取請求
① 内容
事業譲渡等をする場合には,反対株主
反対株主は,事業譲渡等をする株式会社に対し,自己
自己の
反対株主
自己の有する株式
する株式を
株式を公正な
公正な
価格で
条1項本文)
。ただし,事業の全部の譲渡をする場合にお
価格で買い取ることを請求
ることを請求することができる(469
請求
いて,譲渡会社が,承認決議と同時に解散の決議(471 条1項3号)がされたときは,当該買取請求権は認
められない(469 条1項ただし書)。
② 趣旨
事業譲渡等の反対株主の株式買取請求の趣旨は,事業譲渡等に反対する株主の投下資本回収
投下資本回収の
投下資本回収の手段を
手段を保障
し,経済的利益
経済的利益を
経済的利益を保護することにある。
保護
また,事業の全部の譲渡についての承認決議と同時に解散決議がされた場合に当該請求が認められない理
由は,解散することにより,清算手続がなされ,残余財産の分配(504 条)がなされるためである。
③ 反対株主
(ⅰ) 事業譲渡等をするために株主総会の決議を要する場合(469条2項1号)
事業譲渡をするために株主総会の決議を要する場合の反対株主は,次に掲げる株主である。
1 当該株主総会に先立
先立って
反対する
通知し,かつ
かつ,当該株
先立って当該事業譲渡等に反対
って
反対する旨
する旨を当該株式会社に対し通知
通知
かつ
主総会において当該事業譲渡等に反対
反対した
反対した株主
した株主
2 当該株主総会において議決権
議決権を
議決権を行使することができない
行使することができない株主
することができない株主
(ⅱ) 事業譲渡等をするために株主総会の決議を要しない場合(469 条2項2号)
事業譲渡等をするために株主総会の決議を要しない場合の反対株主は,すべての
すべての株主
すべての株主である。
株主
例えば,略式事業譲渡等
略式事業譲渡等や簡易事業譲受
略式事業譲渡等 簡易事業譲受け
簡易事業譲受けの場合には,株主総会の決議は不要であるため(468 条1項
2項),すべての
すべての株主
すべての株主が
株主が反対株主として
反対株主として株式買取請求権
として株式買取請求権を
株式買取請求権を行使することができる
行使することができるのである。
することができる
④ 通知・公告
事業譲渡等をしようとする株式会社は,効力発生日の 20 日前までに,株主に対し,事業譲渡等をする旨
を通知しなければならない(469 条3項)
。ただし,次に掲げる場合には,株主に対する通知は,公告をもっ
てこれに代えることができる(同条4項)。
(ⅰ) 事業譲渡等をする株式会社が公開会社である場合
(ⅱ) 事業譲渡等をする株式会社が株主総会の特別決議によって事業譲渡等に係る契約の承認を受けた場
合
162
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
⑤ 株式買取請求権の行使
株式買取請求は,効力発生日の 20 日前の日から効力発生日の前日までの間に,その株式買取請求に係る
株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならな
い(469 条5項)。
【事業譲渡等】
契約の承認
承認を要する
会社
事業の全部
の譲渡
譲渡会社
備考
例外
原則
特別決議
(特別決議不要)
略式
簡易
○
×
・ 承認決議と同時に解散の決議がされたときは,反
対株主の株式買取請求権は認められない
・ 譲渡する資産の帳簿価額が,当該株式会社の総資
産額の5分の1を超えない場合には,事業の重要
事業の重要な
一部の譲渡
譲渡会社
特別決議
○
×
な一部の譲渡に該当することはないので,事業譲
渡等には含まれず,株主総会の特別決議によって,
その承認を得る必要はないし,反対株主の株式買
取請求権も認められない
・ 譲り受ける資産に自己株式が含まれるときは,取
締役は,株主総会において,自己株式に関する事
項を説明しなければならない
他の会社の事業
の全部の譲受け
・ 簡易事業譲受けの要件を満たしている場合であっ
譲受会社
特別決議
○
○
ても,法務省令で定める数の株式を有する株主が
通知,または,公告の日から2週間以内に反対す
る旨を株式会社に対し通知したときは,当該株式
会社は,効力発生日の前日までに,株主総会の特
別決議により承認を受けなければならない
事業の全部
の賃貸等
賃貸会社等
特別決議
○
×
-
163
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
3.事業譲渡の効果
(B)
(1) 譲渡当事者間における効果
事業譲渡契約が締結されると,譲渡当事者間では,① 事業財産を移転する義務,② 競業避止義務(21 条)
が発生する。
① 事業財産を移転する義務
事業譲渡は,会社分割などの組織法上の行為と異なり取引法上
取引法上の
取引法上の行為であるから,事業譲渡契約の締結に
行為
よって当然に事業財産が譲受会社に移転するわけではない。したがって,譲渡会社に事業財産を移転する義
務が生じるため,事業
事業を
事業を構成する
構成する資産
する資産・
資産・債務などの
債務などの移転
などの移転に
移転に個別の
個別の移転手続が必要となる。
移転手続
まず,物や権利の移転については,意思表示のほか特別の手続が移転に必要となる場合は,当該手続が必
要となる。例えば,株券の交付(128 条1項本文)などである。
また,物や権利の移転に加えて,対抗要件を個別的にみたす必要がある。例えば,不動産については登記
(民法 177 条),株式については,株主名簿の名義書換(130 条1項)が必要となる。
そして,のれんやノウハウなどの事実関係については,譲受会社がそれを利用し,または,享受できるよ
うにする必要がある。例えば,譲渡会社は,譲受会社を得意先や仕入先に紹介・推薦したり,事業上の秘訣
を伝授したりする必要がある。
② 競業避止義務
事業譲渡がなされた場合,譲渡会社は,一定の範囲内で,譲渡した事業と同一の事業をしてはならないと
いう競業避止義務(21 条)が課せられる。
(ⅰ) 内容
1 同一市町村等における 20 年間の競業禁止
譲渡会社は,当事者の別段の意思表示がない限り,同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町
村の区域内においては,その事業を譲渡した日から 20 年間は,同一の事業を行ってはならない(21 条
1項)。
2 譲渡会社が同一事業を行わない旨の特約をした場合
譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には,その特約は,その事業を譲渡した日から
30 年の期間内に限り,その効力を有する(21 条2項)。
なお,30 年を超える特約があった場合でも,当該特約が全体として無効になるわけではなく,法定の
範囲(30 年)においては有効である。
3 不正競争目的の競業禁止
1,2
2にかかわらず,譲渡会社は,不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない(21 条
3項)。不正競争目的の競業禁止は,地域や時期を問わず一切禁止されている。
164
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(ⅱ) 趣旨
譲渡会社に競業避止義務を課した趣旨は,事業譲渡
事業譲渡の
事業譲渡の実効性を
実効性を確保すること
確保することにある。
すること
譲渡会社が事業譲渡をしておきながら,譲渡した事業と同種の事業を再開したのでは,譲受会社が対価
を支払って事業を譲り受けた意味がなくなってしまう。
したがって,
事業譲渡の実効性を確保するために,
譲渡会社に一定の範囲内での競業避止義務を課したのである。
(2) 債権者との間における効果
事業譲渡がなされると,当事者間においては,事業上の債務も譲受会社に移転するが,そのような場合であ
っても,債務引受けなどの手続がとられないのであれば,債権者との関係では,譲受会社は当然には債務者と
はならず,依然として譲渡会社が債務を負担することとなる。
しかし,会社法は,一定の場合については,債権者を保護するために,債務引受けなどの手続がとられない
場合であっても譲受会社が弁済責任を負う場合を規定している。
① 譲渡会社の商号を続用する場合の譲受会社の責任
(ⅰ) 内容
譲受会社が譲渡会社
譲渡会社の
譲受会
譲渡会社の商号を
商号を続用する
続用する場合
する場合には,譲渡会社の事業によって生じた債務について,譲受会
場合
社も弁済する
弁済する責任
する責任を
責任を負う(22 条1項)。その結果,譲渡会社および譲受会社の両社が責任を負う。
(ⅱ) 趣旨
当該規定の趣旨は,債権者
債権者の
債権者の外観に
外観に対する信頼
する信頼を
信頼を保護すること
保護することにある。譲受会社が譲渡会社の商号を続
すること
用する場合に譲受会社にも弁済責任を認めているのは,一般的に,商号が続用される場合には,債権者は,
事業主の交代を知ることが困難であるか,知っていたとしても債務が事業譲渡により移転したと誤認する
ことが多いため,そのような外観を信頼した債権者の誤認を救済する必要があるからである。
(ⅲ) 譲受会社が債務を弁済する責任を負わない旨の登記等をした場合
1 内容
譲受会社が譲渡会社
譲渡会社の
譲渡会社の商号を
商号を続用する
続用する場合
する場合であっても
場合であっても,事業を譲り受けた後,遅滞なく,本店の所在
であっても
地において譲渡会社
譲渡会社の
譲受会社は
譲渡会社の債務を
債務を弁済する
弁済する責任
する責任を
責任を負わない旨
わない旨を登記した
登記した場合
した場合には,譲受会社
場合
譲受会社は弁済責任を
弁済責任を負
わない(22
条2項前段)
。また,事業を譲り受けた後,遅滞なく,譲受会社
譲受会社および
わない
譲受会社および譲渡会社
および譲渡会社から
譲渡会社から第三者
から第三者
に対し譲渡会社の
譲渡会社の債務を
債務を弁済する
弁済する責任
する責任を
責任を譲受会社が
譲受会社が負わない旨
わない旨の通知をした場合
をした場合には,その通知を受け
場合
た第三者に対しても,譲受会社
譲受会社は
。
譲受会社は弁済責任を
弁済責任を負わない(同条項後段)
わない
2 趣旨
商号を続用する場合であっても,登記
登記または
手続をとる場合
債権者の
登記または通知
または通知という
通知という明確
という明確な
明確な手続をとる
をとる場合については,債権者
場合
債権者の
誤認のおそれがない
誤認のおそれがないため,譲受会社に責任を課さなくてもよいと考えられるためである。
のおそれがない
165
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(ⅳ) 譲渡会社の責任の消滅
譲受会社が商号を続用することにより譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には,譲渡会社の責任
は,事業を譲渡した日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては,その期間を経過し
た時に消滅する(22 条3項)。その後は,譲受会社のみが責任を負うことになる。
② 譲受会社が債務引受けの広告をした場合
(ⅰ) 内容
譲受会社が譲渡会社
譲渡会社の
債務
譲渡会社の商号を
商号を引き続き使用しない
使用しない場合
しない場合であっても
場合であっても,譲渡会社の事業によって生じた債務
であっても
を引き受ける旨
譲受会社に
ける旨の広告をしたとき
広告をしたときは,譲渡会社の債権者は,その譲受会社
をしたとき
譲受会社に対して弁済
して弁済の
弁済の請求をすること
請求をすること
ができる(23
条1項)。その結果,譲渡会社および譲受会社の両社が責任を負う。
ができる
(ⅱ) 趣旨
事業譲渡があったとしても,譲渡会社が当該事業により負った債務について,譲受会社は債務引受けを
しない限り弁済をする責任を負わないが,会社
会社が
会社が債務を
債務を引き受けた旨
けた旨の広告をしたとき
広告をしたときは,実際には債務
をしたとき
引受けをしていないときでも,債権者
債権者は
債権者は債務引受けがあったものと
債務引受けがあったものと信頼
けがあったものと信頼する
信頼することから,当該信頼を保護す
する
るために譲渡会社の債権者は譲受会社に対して弁済の請求をすることができるものとされている。
(ⅲ) 譲渡会社の責任の消滅
譲受会社が債務引受けの広告により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には,
譲渡会社の責任は,
当該広告があった日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては,その期間を経過した
時に消滅する(23 条2項)。その後は,譲受会社のみが責任を負うことになる。
(3) 債務者との間における効果(譲渡会社の商号を続用する場合の譲受会社に対する弁済)
譲受会社が譲渡会社
譲渡会社の
譲渡会社の
譲渡会社の商号を
商号を続用する
続用する場合
する場合において,譲渡会社
場合
譲渡会社の事業によって
事業によって生
によって生じた債権
じた債権について
債権について,
について,譲受会
社に弁済がなされた場合は,弁済者が善意
善意無重過失
有効である(22
条4項)。
弁済
善意無重過失であるならば有効
無重過失
有効
当該規定の趣旨は,債務者
債務者の
債務者の外観に
外観に対する信頼
する信頼を
信頼を保護すること
保護することにある。つまり,事業譲渡があった場合に譲
すること
受会社が商号を続用するときには,譲渡会社の事業によって生じた債権が事業譲渡において譲渡されたという
外観が生じ,譲渡会社の債務者はこの外観を信頼して譲受会社に対して弁済することがあり得るためである。
補 足
会社と商人との間での事業の譲渡または譲受け
(C)
会社が商人に対して事業譲渡をした場合には,譲渡会社を営業譲渡人(商法 16 条1項)とみなして,譲渡人の商号を使用
した譲受人の責任等(商法 17 条)
,譲受人による債務の引受け(商法 18 条)の規定を適用する(24 条1項)
。また,会社が
商人の営業を譲り受けた場合には,当該商人を譲渡会社とみなして,譲渡会社の商号を続用した譲受会社の責任等(22 条)
,
譲受会社による債務の引受け(23 条)の規定を適用する(24 条2項)。
すなわち,譲受人の側に即して法が適用される。
166
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
第3節
1.総説
組織再編行為総論
(A)
(1) 組織再編行為とは
組織再編行為とは,合併,会社分割,株式交換,株式移転,組織変更のことをいう。
(2) 各組織再編行為の意義
① 合併
合併とは,2
2つ以上の
以上の会社が契約によって1
会社
1つの会社
つの会社となること
吸収合併と新設合併
会社となることをいう。合併には,吸収合併
となること
吸収合併 新設合併
がある。
(ⅰ) 吸収合併
吸収合併とは,会社が他の会社とする合併であって,合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併
後存続する会社に承継させるものをいう(2条 27 号)。
(ⅱ) 新設合併
新設合併とは,2以上の会社がする合併であって,合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併に
より設立する会社に承継させるものをいう(2条 28 号)。
167
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
② 会社分割
会社分割とは,株式会社または合同会社が事業
事業に
新たに
事業に関して有
して有する権利義務
する権利義務の
権利義務の全部または
全部または一部
または一部を分割後新
一部
設立する
吸収分割と新設分割
設立する会社
する会社または
会社または既存
または既存の
既存の他の会社に
会社に承継させること
承継させることをいう。会社分割には,吸収分割
させること
吸収分割 新設分割がある。
新設分割
(ⅰ) 吸収分割
吸収分割とは,株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後
他の会社に承継させることをいう(2条 29 号)。
(ⅱ) 新設分割
新設分割とは,1または2以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部ま
たは一部を分割により設立する会社に承継させることをいう(2条 30 号)。
168
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
③ 株式交換・株式移転
株式交換と株式移転は,ともに,既存の株式会社を完全子会社とする完全親子会社関係
完全親子会社関係を
完全親子会社関係を創設することを
創設することを
目的とする会社の行為である。
目的
(ⅰ) 株式交換
株式交換とは,株式会社がその発行済株式の全部
全部を他
全部 他の株式会社また
株式会社または
または合同会社に
合同会社に取得させること
取得させることをい
させること
う(2条 31 号)。
(ⅱ) 株式移転
株式移転とは,1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部
全部を新
全部 新たに設立
たに設立する
設立する株式会社
する株式会社に
株式会社に取得さ
取得さ
せることをいう(2条
32 号)。
せること
169
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
④ 組織変更
組織変更とは,会社の組織を変更することにより,株式会社
株式会社が
持分会社
株式会社が持分会社に
持分会社に変わること,または,持分会社
わること
が株式会社に
26 号)。
株式会社に変わることをいう(2条
わること
2.吸収型再編と新設型再編
(A)
組織変更を除く組織再編行為は,吸収型再編
吸収型再編と新設型再編
吸収型再編 新設型再編に分類することができる。
新設型再編
(1) 吸収型再編
吸収型再編とは,吸収合併・吸収分割・株式交換をいう。
① 対価
吸収型再編においては,認められる対価
対価について
対価の
対価について制限
について制限はない
制限はない。したがって,対価
はない
対価の柔軟化が
柔軟化が図られている
といえる(対価のない吸収型再編も認められる)。
② 効力発生時期
吸収型再編の効力発生時期は,あらかじめ契約
契約で
契約で定めた効力発生日
めた効力発生日である。
効力発生日
(2) 新設型再編
新設型再編とは,新設合併・新設分割・株式移転をいう。
① 対価
新設型再編においては,設立会社
設立会社の
株
設立会社の株式・
株式・持分を
持分を必ず対価に
対価に含めなければならない。また,設立会社の株
めなければならない
式・持分・
持分・社債・
社債・新株予約権・
新株予約権・新株予約権付社債以外の
新株予約権付社債以外の財産を
財産を対価とすることも
対価とすることも認
とすることも認められない。
められない したがって,
対価の
対価の柔軟化は
柔軟化は図られていない。
られていない
ここで,新設型再編において設立会社の株式・持分を必ず対価に含めなければならない理由は,設立会社
設立会社
の社員が
社員が一人もいなくなってしまうため
一人もいなくなってしまうためである。
もいなくなってしまうため
② 効力発生時期
新設型再編の効力発生時期は,設立会社の設立
設立の
設立の登記を
登記をした日
した日である。
【吸収型再編と新設型再編】
吸収型再編
組織再編行為
170
吸収合併・吸収分割・株式交換
新設型再編
新設合併・新設分割・株式移転
対価
対価の柔軟化が認められる
対価の柔軟化は認められない
効力発生日
効力発生日
設立登記日
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
3.略式組織再編行為・簡易組織再編行為
(A)
前述したように,組織再編行為(組織変更を除く)をする場合には,原則として,株主総会の特別決議が必
要となる(783 条1項,795 条1項,804 条1項,309 条2項 12 号)
。しかし,略式組織再編行為
略式組織再編行為・
略式組織再編行為・簡易組織再
簡易組織再
編行為に
株主総会の
編行為に該当する
該当する場合
する場合については,株主総会
場合
株主総会の決議が
決議が不要となる
不要となる場合
となる場合がある
場合がある。
がある
(1) 吸収型再編
吸収型再編においては,すべての
すべての当事会社
条1項,796 条1項)。
すべての当事会社で
当事会社で略式組織再編が
略式組織再編が認められる(784
められる
これに対して,簡易組織再編行為が認められるのは,
吸収合併存続会社・
簡易組織再編行為
吸収合併存続会社・吸収分割承継会社・
吸収分割承継会社・吸収分割会社・
吸収分割会社・
株式交換完全親会社である(784
条3項,796 条3項)
。吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社において簡易
株式交換完全親会社
組織再編行為が認められないのは,吸収合併消滅会社は会社が消滅してしまうためであり,また,株式交換完
全子会社は完全子会社となるものであるから,どのような場合であっても株主に与える影響が大きいためであ
る。
(2) 新設型再編
新設型再編においては,略式組織再編
略式組織再編は
略式組織再編は認められない。なぜなら,新設型再編は新たに会社を設立するもの
められない
であるため,支配・被支配の関係が新設型再編を行う前に形成されていないためである。
これに対して,簡易組織再編
簡易組織再編は
条)
。まず,新設合併設立会社・新設分
簡易組織再編は,新設分割会社のみ
新設分割会社のみ認
のみ認められる(805
められる
割設立会社・株式移転設立完全親会社については,新たに新設される会社であるため,簡易組織再編が認めら
れないのは当然である。また,新設合併消滅会社・株式移転完全子会社において簡易組織再編が認められない
のは,新設合併消滅会社は会社が消滅してしまうためであり,また,株式移転完全子会社は完全子会社となる
ものであるから,どのような場合であっても株主に与える影響が大きいためである。
【略式組織再編と簡易組織再編】
略式組織再編
吸
収
型
再
編
新
設
型
再
編
簡易組織再編
吸収
存続会社
○
合併
消滅会社
×
吸収
承継会社
分割
分割会社
株式
完全親会社
交換
完全子会社
新設
設立会社
合併
消滅会社
新設
設立会社
分割
分割会社
株式
設立完全親会社
移転
完全子会社
○
○
×
×
×
○
×
171
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
4.組織再編行為の条文の構造
(A)
組織再編行為は,会社法第5編(743 条~816 条)に規定されている。第5編の条文の構造は,以下の通りで
ある。
【組織再編行為の条文の構造】
規定
743 条~774 条
775 条~781 条
782 条~793 条
794 条~802 条
803 条~813 条
814 条~816 条
172
組織変更・合併・会社分割・株式交換・株式移転
の契約締結・計画作成,効力発生等
組織変更の手続
吸収型再編(消滅会社等)の手続
吸収合併消滅会社・吸収分割会社・株式交換完全子会社
吸収型再編(存続会社等)の手続
吸収合併存続会社・吸収分割承継会社・株式交換完全親会社
新設型再編(消滅会社等)の手続
新設合併消滅会社・新設分割会社・株式移転完全子会社
新設型再編(設立会社等)の手続
新設合併設立会社・新設分割設立会社・株式移転設立完全親会社
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
第4節
1.総説
合併
(A)
(1) 合併の意義
合併とは,2
2つ以上の
1つの会社
吸収合併と新設合併
以上の会社が契約によって1
会社
つの会社となること
会社となることをいう。合併には,吸収合併
となること
吸収合併 新設合併が
新設合併
ある。
① 吸収合併
吸収合併とは,会社が他の会社とする合併であって,合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後
存続する会社に承継させるものをいう(2条 27 号)。
② 新設合併
新設合併とは,2以上の会社がする合併であって,合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併によ
り設立する会社に承継させるものをいう(2条 28 号)。
173
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(2) 合併当事会社の種類
会社は,他の会社と合併することができる(748 条前段)
。会社とは,2条1号において,
「株式会社,合名
会社,合資会社または合同会社」と定義されている。
したがって,合併は会社
会社の
会社の種類を
種類を問わず自由
わず自由に行うことができ,また,株式会社と持分会社のいずれが存続
自由
会社となることも認められ(749 条,751 条),設立会社の種類も自由である(753 条,755 条)。
【合併当事会社の種類】
吸収合併
存続会社
会社の種類
新設合併
消滅会社
設立会社
消滅会社
株式会社・合同会社・ 株式会社・合同会社・ 株式会社・合同会社・
株式会社・合同会社・
合資会社・合名会社
合資会社・合名会社
合資会社・合名会社
合資会社・合名会社
(3) 合併の効果
会社が合併することにより,次の①~③に掲げる効果が発生する。合併手続は,当該効果の発生に向けての
一連の手続からなる。したがって,合併手続を理解するためには,合併によってどのような効果が発生するか
を理解しておく必要がある。
① 合併当事会社の一部または全部の解散・消滅
合併により,合併当事会社のうち,消滅会社(吸収合併の場合には吸収合併消滅会社,新設合併の場合に
は新設合併消滅会社)が解散
解散することになる
(471 条4号,641 条5号)
。しかし,いずれの場合においても,
解散
通常の解散の場合と異なり清算手続
清算手続は
(475 条1号かっこ書,644 条1号かっこ書)
。したがって,
清算手続は不要である
不要
合併により
合併により解散
により解散した
解散した会社
した会社は
会社は,清算手続を
清算手続を経ることなく消滅
ることなく消滅することになる。
消滅
② 消滅会社の権利・義務の承継
合併により,存続会社・設立会社は,消滅会社の権利および義務を包括的
包括的に
条1項,752
包括的に承継する(750
承継
条1項,754 条1項,756 条1項)
。したがって,消滅会社の権利および義務はすべて一括して当然に存続会
社・設立会社に移転されるため,事業譲渡の場合のように財産の個別の移転手続等は必要ない。また,契約
によってすべての権利および義務が包括承継されるので,その一部についての承継を留保することは認めら
れない。
174
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
③ 消滅する会社の株主・社員に対する対価の交付
合併により,存続会社または設立会社は,消滅会社の株主・社員に対して,合併対価
合併対価を
合併対価を交付する。
交付
(ⅰ) 吸収合併の場合の対価
吸収合併は
対価の
吸収合併は吸収型再編に
吸収型再編に分類される。したがって,対価
分類
対価の柔軟化が
柔軟化が認められており,吸収合併存続会社
められており
の株式・持分を交付しなくてもよいし,株式等(株式・新株予約権・社債)以外の財産を交付することも
認められる(749 条1項2号,751 条1項2号3号)
。つまり,金銭や親会社株式などを交付することも認
められる。
(ⅱ) 新設合併の場合の対価
新設合併は
対価の
新設合併は新設型再編に
新設型再編に分類される。したがって,対価
分類
対価の柔軟化は
柔軟化は認められておらず,新設合併設立会
められておらず
社の株式・持分を,必ず対価に含めなければならない。また,株式等以外の財産を交付することは認めら
れていない(753 条1項6号8号,755 条1項6号)。
補 足
対価の柔軟化の利用例
(B)
(1) 現金対価合併
現金対価合併とは,現金(金銭)を吸収合併消滅会社の株主・社員に交付する合併のことである。これにより,消滅会社
の株主・社員は,株主・社員としての地位を失うことになる。
(2) 三角合併
三角合併とは,消滅会社
消滅会社の
存続会社の
消滅会社の株主・
株主・社員に
社員に対して,吸収合併の対価として存続会社
して
存続会社の親会社株式を
親会社株式を交付すること
交付することである。
すること
三角合併が利用される場合として想定されるのは,外国の会社(甲社)が日本に子会社(乙社)を設立し,乙社を存続会
社,日本にある丙社を消滅会社とした吸収合併契約を締結し,合併の対価として丙社の株主・社員に対して甲社株式(存続
会社の親会社株式)を交付するような場合である。
175
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
甲社が丙社と直接合併しないで,わざわざ日本で乙社を設立して丙社と合併させる理由であるが,合併
合併は
合併は内国会社間でし
内国会社間でし
か行うことができないためである(2条1号,748
条参照)。
うことができないため
補 足
吸収型再編を行う場合に子会社が親会社株式を交付するために取得する場合
(B)
吸収合併消滅会社の株主・社員に対して交付する金銭等の全部または一部が存続会社の親会社株式である場合には,当該
存続会社は,吸収合併に際して消滅会社の株主・社員に対して交付する当該親会社株式の総数を超えない範囲において当該
親会社株式を取得することができる(800 条1項)。これは,吸収分割,株式交換でも同様である。
(4) 株主(社員)・債権者の保護の必要性
① 株主(社員)の保護の必要性
合併がなされると,会社の組織運営の基本的なあり方に重大な変更をもたらす。
まず,存続会社
存続会社については,合併により,消滅会社の権利・義務を包括的に承継することになるため,会
会
存続会社
社組織に
存続会社の
社組織に重大な
重大な変更が
変更が生じる。また,消滅会社の株主に対して株式が交付される場合は,存続会社
じる
存続会社の持株割
合が変動する
消滅会社については,合併により会社
会社が
変動することとなる。一方,消滅会社
する
消滅会社
会社が消滅してしまい,また,合併の対
消滅
価として存続会社・設立会社の株式が交付されることにより,存続会社
存続会社・
存続会社・設立会社の
設立会社の株主として
株主として収容
として収容される
収容される
こととなるため,その地位
地位に
地位に重大な
重大な変更が
変更が生じることになる。
じる
このように,合併によって合併当事会社の株主に重大な影響を与えることになるので,合併の際には株主
株主
の保護手続が
保護手続が必要となるのである。
必要
② 債権者の保護の必要性
存続会社の債権者については,合併により,消滅会社の権利・義務を包括的に承継することになるため,
存続会社
存続会社の
存続会社の債務が
債務が増加することとなるし,消滅会社の財政状態が悪い場合は,合併後に存続会社の財政状態
増加
が悪化することも考えられるため,債権
債権の
消滅会社の債権者につい
債権の回収が
回収が困難となる
困難となる可能性
となる可能性がある
可能性がある。一方,消滅会社
がある
消滅会社
ては,合併によって,債務者
債務者が
債務者が消滅会社から
消滅会社から,
から,存続会社・
存続会社・設立会社へと
設立会社へと交代
へと交代する
交代することとなる。
する
このように,合併によって合併当事会社の債権者に重大な影響を与えることになるので,合併の際には債
債
権者の
権者の保護手続が
保護手続が必要となるのである。
必要
補 足
合併の法的性質
(C)
合併の法的性質は,合併当事会社が合体する組織法上の特別の行為であるとされる(人格合一説)
。合併は,組織法上の行
為であるのに対して,前述した事業譲渡は取引法上の行為であるという点で対比される。
176
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
2.合併の手続の流れ
(B)
ここでは,合併当事会社が株式会社であることを前提に,合併の手続の方法について説明する。
(1) 吸収合併の場合
吸収合併の手続の流れとしては,① 合併契約の締結 → ② 事前開示 → ③ [合併契約の承認(特別決議)
,
株式買取請求の手続 ,新株予約権買取請求の手続(消滅会社のみ)
,債権者異議手続](順不同)→ ④ 合併の
効力発生 → ⑤ 事後開示(存続会社のみ) → ⑥ 吸収合併の登記 となる。
※ ③の手続については,順不同である。ただし,債権者異議手続は,1か月以上の公告・催告を要し(789
条2項柱書ただし書4号,799 条2項柱書ただし書4号)
,株式買取請求の手続・新株予約権買取請求の手
続は,効力発生日の 20 日前までに通知等を要する(785 条3項本文,787 条3項,797 条3項)
。また,合
併契約の承認は,効力発生日の前日までに受けなければならない(783 条1項,795 条1項)。
177
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(2) 新設合併の場合
まず,新設合併消滅会社の新設合併手続の流れとしては,① 合併契約の締結 → ② 事前開示 → ③ [合併
契約の承認(特別決議)
,株式買取請求の手続 ,新株予約権買取請求の手続,債権者異議手続](順不同)→ ④
新設合併の登記(合併の効力発生)となる。
これに対して,新設合併設立会社の新設合併手続の流れとしては,① 新設合併の登記(合併の効力発生) →
② 事後開示 となる。
※ 新設合併消滅会社の③の手続については,順不同である。ただし,債権者異議手続は,1か月以上の公告・
催告を要し(810 条2項柱書ただし書4号)
,株式買取請求の手続・新株予約権買取請求の手続は,合併契
約の承認決議の日から2週間以内に通知等を要する(806 条3項本文,808 条3項)。
178
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
3.吸収合併の手続
(B)
(1) 吸収合併存続株式会社・吸収合併消滅株式会社の手続
① 合併契約の締結
合併をする株式会社は,合併契約を締結しなければならない(748 条)。
② 事前開示
(ⅰ) 吸収合併契約の備置
存続会社および消滅会社は,吸収合併契約備置開始日から効力発生日後6か月を経過する日(消滅会社
では効力発生日)までの間,吸収合併契約の内容その他法務省令で定める事項を記載・記録した書面・電
磁的記録をその本店に備え置かなければならない(782 条1項,794 条1項)。
補 足
吸収合併契約備置開始日
(C)
(1) 存続会社の場合
存続会社における吸収合併契約備置開始日は,次のうちいずれか早い日をいう(794 条2項)。
① 合併契約について株主総会の決議によってその承認を受けなければならないときは,当該株主総会の日の2週間前の日
② 株式買取請求に関する通知・公告の日
③ 債権者異議手続に関する公告・催告の日
(2) 消滅会社の場合
消滅会社における吸収合併契約備置開始日は,次のうちいずれか早い日をいう(782 条2項)。
① 合併契約について株主総会の決議によってその承認を受けなければならないときは,当該株主総会の日の2週間前の日
② 株式買取請求に関する通知・公告の日
③ 新株予約権買取請求に関する通知・公告の日
④ 債権者異議手続に関する公告・催告の日
(ⅱ) 株主・債権者の閲覧・交付請求権
存続会社・消滅会社の株主および債権者は,存続会社・消滅会社に対して,その営業時間内は,いつで
も,吸収合併契約の内容等を記載した書面等の閲覧および交付請求をすることができる(782 条3項本文,
794 条3項本文)。
補 足
新株予約権者の合併契約の閲覧・交付請求権
(C)
782 条3項でいう債権者には新株予約権者が含まれるとされる。なぜなら,消滅会社の新株予約権者には,新株予約権買取
請求権が与えられているため,当該権利を行使するか否かの判断資料が必要であるからである。
なお,803 条3項も同様である。
179
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(ⅲ) 事前開示の趣旨
事前開示によって提供される情報は,株主
株主にとっては株主総会による合併承認決議
合併承認決議に
株主
合併承認決議に賛成するか
賛成するか否
するか否か,
あるいは,株式買取請求権
株式買取請求権を
債権者にとっては,異議
異議を
株式買取請求権を行使するか
行使するか否
するか否かを判断する資料となる。また,債権者
債権者
異議を述
べるか否
新株予約権者にとっては,新株予約権買取請求
新株予約権買取請求を
べるか否かを判断する資料となる。そして,新株予約権者
新株予約権者
新株予約権買取請求を行使するか
行使するか
否かを判断する資料となる。
③ 合併契約の承認
(ⅰ) 株主総会の特別決議による承認
存続会社・消滅会社は,効力発生日の前日までに,株主総会
株主総会の
株主総会の特別決議
特別決議によって,合併契約の承認を受
決議
けなければならない(783 条1項,795 条1項,309 条2項 12 号)。
(ⅱ) 趣旨
存続会社においては,吸収合併により消滅会社の権利・義務を包括的に承継することになるため,会社
会社
存続会社
の組織に
存続会社の
組織に重大な
重大な変更が
変更が生じる。また,消滅会社の株主に対して株式が交付される場合には,存続会社
じる
存続会社の持
株割合が
株割合が変動する
変動することとなる。
する
消滅会社においては,合併により会社が消滅してしまい,また,合併の対価として存続会社の株式が交
消滅会社
付されることにより,存続会社
存続会社の
地位に
存続会社の株主として
株主として収容
として収容されることとなるため,その地位
収容
地位に重大な
重大な変更が
変更が生じる
ことになる。
このように,株主に重大な影響を与えることとなるから,株主に吸収合併を行うか否かの決定権を与え
る必要があるのである。
(ⅲ) 承認決議の例外
1 存続会社における例外
(a) 存続会社が種類株式発行会社であり消滅会社に交付される対価が譲渡制限株式である場合
存続会社が種類株式発行会社である場合において,消滅会社に交付される対価が譲渡制限株式であ
る場合には,当該譲渡制限株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議がなければ,その
効力を生じない(795 条4項1号,324 条2項6号。なお,795 条4項柱書ただし書)。
これは,種類株式発行会社において譲渡制限株式を発行する場合には,当該譲渡制限株式の種類株
主総会が要求されているため,同様の要件を求めているのである。
(b) 略式・簡易吸収合併
略式・簡易吸収合併に該当する場合には,存続会社において,株主総会決議は不要である(796 条
1項3項)。
180
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
2 消滅会社における例外
(a) 消滅会社の株主に持分会社の持分等が交付される場合
消滅会社の株主に持分会社の持分等が交付される場合は,消滅会社の総株主の同意(種類株式発行
会社では,持分等の割当てを受ける種類株主の全員の同意)を得なければならない(783 条2項4項)
。
これは,
譲渡性の低い持分会社の持分を取得することとなる消滅会社の株主を保護する趣旨である。
(b) 消滅会社が種類株式発行会社でない公開会社であり合併対価が譲渡制限株式等である場合
消滅会社(種類株式発行会社を除く)が公開会社であり,その会社の株主に対して交付する金銭等
の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の合併契約の承認は,株主総会の特殊決議を要する
(309 条3項2号)。
これは,譲渡制限が付されていない株式を保有していた株主が,吸収合併によって譲渡制限株式を
有することとなるため,株式譲渡制限の定款の定めをする場合と同様の要件を求めているのである。
(c) 消滅会社が種類株式発行会社であり譲渡制限株式でない種類株主に譲渡制限株式等が交付される場合
消滅会社が種類株式発行会社であり,譲渡制限株式でない種類株主に対して譲渡制限株式等が交付
される場合は,当該種類株主を構成員とする種類株主総会の特殊決議がなければ,その効力を生じな
い(783 条3項本文,324 条3項2号。なお,783 条3項ただし書)。
これは,譲渡制限が付されていない種類株式を保有していた種類株主が,吸収合併によって譲渡制
限株式を有することとなるため,株式譲渡制限の定款の定めをする場合と同様の要件を求めているの
である。
(d) 略式吸収合併
略式吸収合併に該当する場合には,消滅会社において,株主総会決議は不要である(784 条1項)。
(ⅳ) 取締役の説明義務(存続会社のみ)
1 合併差損が生じる場合
合併差損が生じる場合には,存続会社の取締役は承認決議において,その旨を説明しなければならな
い(795 条2項1号2号)。
2 承継する資産に自己株式が含まれている場合
消滅会社から承継する資産に存続会社の株式が含まれている場合には,存続会社の取締役は承認決議
において,当該株式に関する事項を説明しなければならない(795 条3項)。
これは,自己株式の取得に該当するためである(155 条 11 号)。
181
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
④ 株式買取請求の手続
(ⅰ) 株式買取請求権
吸収合併をする場合には,反対株主は,会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを
請求することができる(785 条1項柱書,797 条1項)。
ただし,消滅会社の株主に持分会社の持分等が交付されるため,消滅会社の総株主の同意(種類株式発
行会社では,持分等の割当てを受ける種類株主の全員の同意)を要する場合(783 条2項4項)
,は,消滅
会社の株主(種類株式発行会社では,持分等の割当てを受ける種類株主)に当該請求権は認められない(785
条1項1号,785 条2項柱書かっこ書)。この場合は,反対株主が存在しないためである。
(ⅱ) 趣旨
反対株主に株式買取請求権を与えた趣旨は,株主に重大な影響を与える合併について反対
反対する
反対する株主
する株主に
株主に投
下資本回収の
下資本回収の手段を
手段を保障し,経済的救済
保障
経済的救済を
ること
経済的救済を図ることにある。
補 足
公正な価格の意味
(B)
合併の際の株式買取請求にかかる「公正な価格」は,会社が合併をしなければ当該株式が有していたであろう価格とは限
らず,合併から生ずるシナジー(相乗効果)の分配も含められ,公正に定められる必要がある。すなわち,公正な価格とは,
シナジーを含んだ価格である。これは,他の組織再編行為にもいえる。
簡単な例を挙げると,合併がなかったならば株価は1株 1,000 円であるが,合併がなされたために株価が1株 1,500 円に
なったと想定すれば,公正な価格は 1,500 円となる。
なお,新株予約権者については,株式会社の債権者にすぎないので,新株予約権の買取請求に係る公正な価格については,
シナジーの分配の問題はない。
(ⅲ) 反対株主
1 吸収合併をするために株主総会の決議を要する場合
吸収合併をするために株主総会の決議を要する場合の反対株主は,次に掲げる株主である(785 条2
項1号,797 条2項1号)。
(a) 当該株主総会に先立
先立って
反対する
通知し,かつ
かつ,当該
先立って当該吸収合併に反対
って
反対する旨
する旨を当該株式会社に対し通知
通知
かつ
株主総会において当該吸収合併に反対
反対した
反対した株主
した株主
(b) 当該株主総会において議決権
議決権を
議決権を行使することができない
行使することができない株主
することができない株主
2 吸収合併をするために株主総会の決議を要しない場合
吸収合併をするために株主総会の決議を要しない場合の反対株主は,すべての
すべての株主
条2
すべての株主である(785
株主
項2号,797 条2項2号)。
例えば,略式吸収合併
略式吸収合併や簡易吸収合併
条1項,
略式吸収合併 簡易吸収合併の場合には,株主総会の決議は不要であるため(784
簡易吸収合併
796 条1項3項),すべての
すべての株主
すべての株主が
株主が反対株主として
反対株主として株式買取請求権
として株式買取請求権を
株式買取請求権を行使することができる
行使することができるのである。
することができる
182
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
(ⅳ) 株式買取請求に関する通知等
存続会社・消滅会社は,効力発生日の 20 日前までに,株式買取請求権を行使することができる反対株主
に対し,吸収合併をする旨,合併する会社の商号および住所を通知しなければならない(785 条3項,797
条3項)
。ただし,存続会社・消滅会社が公開会社である場合,または,合併契約の承認決議において承認
を受けた場合は,株式買取請求の対象となる株主への通知を公告に代えることができる(785 条4項,797
条4項)。
(ⅴ) 株式買取請求権の行使
株式買取請求権は,効力発生日の 20 日前の日から効力発生日の前日までの間に,その株式買取請求に係
る株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類および種類ごとの数)を明らかにしてしなければ
ならない(785 条5項,797 条5項)。
株式買取請求をした株主は,存続会社・消滅会社の承諾を得た場合に限り,株式買取請求を撤回するこ
とができる(785 条6項,797 条6項)。
⑤ 新株予約権買取請求の手続(消滅会社のみ)
(ⅰ) 新株予約権買取請求権
吸収合併をする場合には,一定の新株予約権者は,消滅会社に対し,自己の有する新株予約権を公正な
価格で買い取ることを請求することができる(787 条1項柱書1号)。
(ⅱ) 行使できる新株予約権者
新株予約権買取請求を行使することができる新株予約権者は,吸収合併契約において消滅会社の新株予
約権者に設立会社の新株予約権を交付することを定めた場合の当該新株予約権の取扱い(749 条1項4号
5号)が,新株予約権を発行する際に新株予約権の内容として定められた,吸収合併がなされる場合に消
滅会社の新株予約権者に対して存続会社の新株予約権を交付する条件(236 条1項8号イ)に合致する新
株予約権の新株予約権者以外である(787 条1項1号)。
すなわち,新株予約権の内容として 236 条1項8号イの定めがあり,当該定めと吸収合併における新株
予約権者の取扱いが異なる場合の新株予約権者,または,236 条1項8号イの定めがない新株予約権者が
新株予約権買取請求をすることができる。
(ⅲ) 趣旨
あらかじめ定められた新株予約権
新株予約権の
投下資本回収の
新株予約権の内容と
内容と異なる取扱
なる取扱いを
取扱いを受
いを受ける新株予約権者
ける新株予約権者に,投下資本回収
新株予約権者
投下資本回収の手段
を保障し,経済的救済
経済的救済を
保障
経済的救済を図ることにある。
ること
183
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
補 足
新株予約権買取請求に関する通知等
(C)
消滅会社は,効力発生日の 20 日前までに,新株予約権買取請求権を行使することができる新株予約権者に対し,吸収合併
をする旨,存続会社の商号および住所を通知しなければならない(787 条3項1号)
。当該通知は,公告に代えることもでき
る(同条4項)。
補 足
新株予約権買取請求権の行使
(C)
新株予約権買取請求は,効力発生日の 20 日前の日から効力発生日の前日までの間に,その新株予約権買取請求に係る新株
予約権の内容・数を明らかにしてしなければならない(787 条5項)。
新株予約権買取請求をした新株予約権者は,消滅会社の承諾を得た場合に限り,新株予約権買取請求を撤回することがで
きる(同条6項)。
⑥ 債権者異議手続
(ⅰ) 債権者の異議
吸収合併をする場合,存続会社および消滅会社の債権者は,吸収合併について異議を述べることができ
る(789 条1項1号,799 条1項1号)
。なお,異議を述べることができる期間は,1か月以上であること
が求められている(789 条2項柱書ただし書4号,799 条2項柱書ただし書4号)。
(ⅱ) 趣旨
存続会社の債権者については,合併により,消滅会社の権利および義務を包括的に承継することになる
存続会社
ため,存続会社
存続会社の
存続会社の債務が
債務が増加する
増加することとなるし,消滅会社の財政状態が悪い場合は,合併後に存続会社の
する
財政状態が悪化することも考えられるため,債権
債権の
債権の回収が
回収が困難となる
困難となる可能性
となる可能性がある
可能性がある。
がある
消滅会社の債権者については,
合併によって,債務者が
消滅会社
債務者が消滅会社から
消滅会社から存続会社
から存続会社へと
存続会社へと交代
へと交代する
交代することとなる。
する
このように,債権者に重大な影響を与えることとなるから,債権者異議手続が設けられている。
(ⅲ) 債権者に対する公告・催告
1 原則
存続会社および消滅会社は,次に掲げる事項を官報
官報に
知れている債権者
官報に公告し,かつ,知
公告
れている債権者には
債権者には,
には,各別に
各別に
これを催告
条2項各号,799 条2項各号)。
これを催告しなければならない(789
催告
(a) 吸収合併をする旨
(b) 合併する会社の商号および住所
(c) 存続会社および消滅会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
(d) 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨(1か月以上が求められる)
184
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
2 二重公告をする場合の例外
存続会社・消滅会社が,公告
公告を
による日刊新聞紙
公告を官報に
官報に加え,定款の
定款の定め(939 条1項)による
による日刊新聞紙または
日刊新聞紙または電子
または電子
公告で
各別の
条3項,
公告で行う場合によってもする
場合によってもする場合
によってもする場合には,知れている債権者への各別
場合
各別の催告は
催告は必要ない
必要ない(789
ない
799 条3項)。
なぜなら,この場合は,各別の催告を省略しても,会社債権者に対する公示
公示の
公示の機能は
機能は十分であると
十分であると考
であると考
えられるからである。
えられるから
(ⅳ) 債権者が異議を述べなかった場合
債権者が異議を述べることができる期間内に異議を述べなかったときは,当該債権者は,当該吸収合併
について承認をしたものとみなす(789 条4項,799 条4項)。
(ⅴ) 債権者が異議を述べた場合
債権者が異議を述べることができる期間内に異議を述べたときは,存続会社・消滅会社は,当該債権者
に対し,弁済をするか,相当の担保を提供するか,当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託
会社等に相当の財産を信託しなければならない(789 条5項本文,799 条5項本文)。
⑦ 合併の効力発生
存続会社は,吸収合併契約において定められた効力発生日
効力発生日(749
条1項6号)に,消滅会社の権利義務を
効力発生日
承継する(750 条1項)
。ただし,吸収合併の登記(921 条)の後でなければ,消滅会社の吸収合併による解
散を第三者に対抗することができない(750 条2項)。
⑧ 事後開示(存続会社のみ)
(ⅰ) 事後開示事項の作成・備置
存続会社は,効力発生日後遅滞なく,吸収合併により存続会社が承継した消滅会社の権利義務その他の
吸収合併に関する事項として法務省令で定める事項を記載・記録した書面・電磁的記録を作成しなければ
ならない(801 条1項)。
また,存続会社は,効力発生日から6か月間,事後開示事項を記載・記録した書面・電磁的記録をその
本店に備え置かなければならない(同条3項)。
(ⅱ) 株主および債権者の閲覧・交付請求権
株主および債権者は,存続会社に対して,その営業時間内は,いつでも,事後開示事項を記載した書面
等の閲覧・交付請求をすることができる(801 条4項)。
(ⅲ) 事後開示の趣旨
事後開示によって,適正
適正な
合併手続の履行が
履行が担保され,株主
担保
株主および
吸収合併無効の訴え(828
適正な合併手続の
株主および債権者
および債権者が
債権者が吸収合併無効の
条1項7号)を
を提起すべきか
提起すべきか否
すべきか否かを判断する資料となる。
185
第9章 組織再編行為等 (WEB講義で使用する範囲を抜粋)
⑨ 吸収合併の登記
会社が吸収合併をしたときは,効力発生日から2週間以内に,本店所在地において,消滅会社については
解散の登記をし,存続会社については変更の登記をしなければならない(921 条)。
(2) 吸収合併存続持分会社・吸収合併消滅持分会社の手続
① 合併契約の締結
合併をする持分会社は,合併契約を締結しなければならない(748 条)。
② 合併の承認
(ⅰ) 存続会社の場合
存続会社は,吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併により存続会
社である持分会社の社員となる場合は,効力発生日の前日までに,吸収合併契約について,総社員の同意
(定款で別段の定めが可能)を得なければならない(802 条1項1号)。
(ⅱ) 消滅会社の場合
消滅会社は,効力発生日の前日までに,吸収合併契約について,総社員の同意(定款で別段の定めが可
能)を得なければならない(793 条1項1号)。
③ 債権者異議手続
存続会社および消滅会社は,債権者異議手続が必要となる(793 条2項,789 条,802 条2項,799 条)
。
186
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