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鉄道分野用ポリマがいし

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鉄道分野用ポリマがいし
U.D.C.
621.315.62:678.744:621.315.616:621.33:621.315
鉄道分野用ポリマがいし
Polymer Insulators for Railways
真瀬正史* Masafumi Mase
菅原泰男* Yasuo Sugawara
五十川 潔* Kiyoshi Isogawa
塙 大輔** Daisuke Hanawa
電車線路設備の電気絶縁材料には古くから磁器がいしが使用されている。しかし,
この磁器がいしは「非常に重い」,
「衝撃性と大電流アークに弱い」,
「耐汚損性が悪い」
(海岸沿いの設備には塩害による閃絡防止のため定期的なシリコーングリース塗布が
必要)など,施工性,メンテナンス性に大きな難点がある。
そこで当社では,欧州,米国を中心に導入が進んでいる屋外用高分子絶縁材料を用
いたポリマがいしの優れた耐汚損性,軽量性に着目して,がいしのメンテナンスの省
力化と施工性の向上を目的としたポリマがいし「タフロッド」を開発した。
当社のポリマがいしに使用しているEVA系笠カバー材は60∼100年相当の寿命が期
待でき,がいしとしての耐汚損性能においても優れた特性を有する。そして,実線路
での長期フィールド試験により,当社ポリマがいしの優位性を見いだすことができた。
Porcelain insulators have been widely used as the insulators for overhead railway
lines. However, they have a number of disadvantages in installation and maintenance.
They are very heavy and have weak impact and low power arc resistance, and have low
pollution resistance which requires the periodic application of silicone grease in areas of
heavy pollution.
We have studied the light-weight, arc and pollution resistant polymeric (or composite)
insulators for outdoor high-voltage use, whose use has been prevailing in Europe and
the United States. New, easy-to-handle and maintenance-free polymer insulators have
been developed named“Toughrod”.
The“Toughrod”insulators consist of an FRP rod, metal endfittings, and a special
ethylene vinyl acetate(EVA) cover with sheds, which was experimentally proven to
have an outdoor high-voltage-use lifetime of 60 to 100 years.
The advantage of the“Toughrod”over conventional porcelain insulators has been
confirmed by a variety of long-term field tests in JR overhead lines.
損地区およびトンネル内で実施したフィールド試験結果,な
〔1〕 緒 言
らびにJR各社から求められているポリマがいしのメンテナン
電気鉄道における電車線路のメンテナンス作業はいわゆる
3K作業に属し,かつ近年の労働力不足もあいまって,その自
動化,機械化が叫ばれている。一方,近年の技術革新により,
設備の状態監視,検測の自動化,作業の機械化,新素材の出
ス方法の考え方について述べる1),2)。
〔2〕 ポリマがいしの開発経緯
2. 1
ポリマがいしの歴史
現など設備保全の近代化を支える技術が急速に発達しつつあ
屋外用ポリマがいしの開発に最初に着手したのは,米国の
る。電車線路設備の電気絶縁材料には古くから磁器がいしが
GE社で,1950年代半ばに脂環式エポキシ樹脂を用いたポリ
使用されている。しかし,この磁器がいしは耐衝撃性に欠け,
マがいしを開発し,1960年代には送電線用,配電用がいしな
破壊しやすく,さらに重いため取り扱いに注意を要し,作業
どに普及していったが,がいし胴部にクラックが発生するこ
性に難点がある。また,海岸沿いの設備では塩害,トンネル
とがわかり,急速に使われなくなった。
内では塵埃(じんあい)堆積による閃絡防止のため,定期的
な清掃やシリコーングリースの塗布が必要である。
そこで当社では,近年欧米を中心に導入が進んでいる屋外
1970年代には,FRPロッドを芯(しん)材にした送電線用
ポリマがいし構造が考案され,実線路への適用が開始された。
以後のポリマがいしは,すべてがこのタイプであり,芯材の
高分子絶縁材料を用いたポリマがいしの優れた耐汚損性,軽
外側の笠付カバーの材質で分類されるようになった。1970年
量性に着目し,鉄道分野でのがいしメンテナンスの省力化と
代後半には,レイケム社が屋外ケーブル端末用ポリマ材料と
施工性の向上に資するため,ポリマがいしを開発して提供す
して開発したEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)を流用し
ることにした。
たポリマがいしが英国地下鉄に採用された。
本報告では,当社のポリマがいし「タフロッド」の,笠カ
1980年代に,イタリアでPTFE(四ふっ化エチレン)がい
バー材料の耐環境性,耐トラッキング性の長期信頼性を確認
しが開発され,主に電車線路に使われたが,笠部の電気貫通
するために実施した各種加速劣化試験結果と,実線路の重汚
の問題で生産が中止された。また米国では蛮行対策と高強度
*
当社 化学製品事業部門 山崎開発グループ **日立化成工材
(株)
複合材料部 設計グループ
日立化成テクニカルレポート No.42
(2004-1)
25
がいしの必要性からEPDM(エチレンプロピレンジエンモノ
〔3〕 ポリマがいしの構造
マ)
,さらにシリコーンゴムのポリマがいしが開発され,配
一般的なポリマがいしの構造 3)を図1に示す。
電から230 kV級へと適用が拡大した。
1990年代以降には北米を中心に急速に適用が進んでおり,
3. 1
FRPロッドと金具の結合
230 kV級以下の新設送電線では,現在約80%がポリマ化され
強度メンバーとしてFRPロッドを芯材に用い,その両端に
ており,蛮行対策とがいし洗浄費用の低減に役立っていると
金具が強固に結合され,機械的荷重(引張り,圧縮,曲げ,
の報告がある 。
ねじり)を担う。
2)
2. 2
FRPロッドと金具の結合には,①かしめ結合,②くさび結
日本における導入経緯
日本では1985年に電力中央研究所が屋外電力用ケーブル端
合,③テーパかしめ結合の3通りがある(図2)
。かしめ結合
末で世界的なシェアを持つレイケム社のポリマ材料を用い
は結合長を長く取る必要があり,また,かしめ結合,くさび
て,電力機器への研究を開始した。当社もほぼ同時期に,レ
結合ともに,FRPロッドにクラックが入る可能性があり,機
イケム社のケーブル端末として25年(当時)の実績のある
械的信頼性に欠ける。当社は機械的な長期信頼性に優れたテ
EVA系材料を笠カバー材に使ったポリマがいし「タフロッド」
ーパかしめ結合(特許)を考案し,
「タフロッド」に採用し
の開発に着手した。これを契機にして電力中央研究所や鉄道
ている4)。
総合技術研究所(JR総研)で各種ポリマ材料を使ったポリマ
テーパかしめ結合方式のクリープ破壊寿命を,静的引張り
試験およびクリープ試験の実験データから粘弾性理論を用い
がいしの屋外課電曝露試験が開始された 。
2)
当社のEVAがいしはJR総研の勝木塩害試験場で1989年から
約3年間の屋外課電曝露試験を経て,東海道新幹線,羽越本
線,北陸本線などのトンネルを含む海塩害重汚損地区の実線
て検証している(図3)5)。
3. 2
笠カバー材
FRPロッドは耐候性,耐トラッキング性に劣るので,これ
路を重点にして1,000本以上を取り付けてフィールド試験に着
手した。また,JR各社では他社のシリコーンがいしについて
も数年遅れてフィールド試験に入った。
φ20mm
(最小部:16mm)
当社では1992年から各種ポリマがいし用笠カバー材の耐候
φ20mm
性,耐トラッキング性などの長期信頼性評価試験(加速劣化
試験)を開始した。また,電車線の実フィールドから毎年,
45mm
30mm
25mm
定期的にがいしを回収して各種評価試験を行い,4年後の
1997年には新幹線のトンネル外区間に,また,1998年にはJR
九州筑豊・篠栗線70 kmの電化工事に全面的に当社ポリマが
いしが採用され,翌1999年には新幹線トンネル内にも当社品
かしめ結合
45 kN
(a)
が採用された。さらに,私鉄,地下鉄でも採用が始まり,
2001年以降には新設工事中の九州新幹線や,現在電化工事中
の常磐新線への採用決定など,電車線へのポリマがいし採用
が急速に進んでいる。
テーパ結合
45 kN
(b)
図2 各種接合方式の断面 テーパかしめ結合方式(c)は,ほかの2つ
の結合方式(a)
(b)に比べ,引張りクリープ特性と疲労特性が優れており,
このように,日本では鉄道分野が先行して,軽量で耐汚損
性能に優れるポリマがいしを採用し,施工作業の合理化やメ
ンテナンス費用の低減を図ってきた。鉄道分野では既に本格
的なポリマがいしの時代に入っていると言える3)。
長期信頼性に勝る。
Fig. 2 Cross-sections of coupling between FRP rod and metal endfitting
Type ( c ), our patented method, has excellent tensile creep and fatigue
resistance compared with types (a) and (b).
温 度(℃)
取付長
20
150
有効絶縁長
表面漏れ距離
引張り荷重(kN)
結合長
テーパかしめ結合
120 kN
(c)
40
60
80
フラッシオーバ距離
FRPロッド
120
100
50
最大使用引張り荷重
40kN(20℃)
金具
100
0
笠カバー材
50年
5
時 間 log t (min)
10
図1 一般的なポリマがいしの構造 FRPロッドの両端に金具が強固に
図3 テーパかしめ結合方式の引張りクリープ破断特性 20℃におい
結合され,FRPロッドは屋外高電圧用高分子絶縁材料を用いた笠カバー材で一
て最大使用荷重の40 kNが50年間加わってもクリープ破断に至らないことが予
体に被覆さている。
測できる(図2(c):テーパかしめ結合)
。
Fig. 1 Structure of a typical polymer insulator
A polymer insulator consists of a FRP rod strongly coupled with two metal
endfittings and a one-piece shedded cover made of outdoor high voltage-use
polymer.
Fig. 3 Tensile creep rupture curve of the taper coupling joint.
Viscoelastic analyses show that the joint will endure a maximum ordinary
tensile load of 40 kN for more than 50 years.(Fig 2.Type (c))
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を保護すると共に,汚損環境に耐えるのに必要な表面漏れ距
ど損傷を与えないので,どの材料も合格してしまう。
離を持たせるために笠付きのカバーで覆っている。金具の入
むしろIEC 61109では,付録Cにある全天候模擬課電試験
り口と笠カバー材の間は,一般にシール材を詰めて防水して
(表2)が適している。この方法は,フランス電力研究所
いる。また,FRPロッドと笠カバー材の界面は①プライマ処
理し接着,②シリコーングリース介在,③粘着材充填(てん)
太陽光
(紫外線)
のいずれかの方法で防水している3)。
3. 3
実用化のための評価のポイント
以上のようなポリマがいしの構造を考えると,実用化の評
ポリマの劣化
価のポイントは次のようになる3)。
課 電
汚損,
湿潤→表面抵抗低下→
漏れ電流増大→ドライバンド形成→局部放電
クレージング
(1)FRPロッド自体およびFRPロッドと笠カバーの界面につ
汚損物資
(塩,ばい煙)
公 害
(酸性雨)
いては入口のシールが不完全となり,汚損水(塩水および酸
性雨)が侵入した状態を想定した十分な界面信頼性の評価を
行う。
クラック発生
撥水性の低下
耐候性試験
耐オゾン性
耐酸性試験
(2)笠カバー材の屋外環境での課電を想定した試験を実施し,
エロージョン
トラッキング
耐トラッキング性試験
トラッキング(炭化した導電路)が発生せず,かつ期待寿命
図4 笠カバー材の劣化要因,劣化機構と評価 屋外環境における笠カ
の間にFRPロッドを露出させない十分な厚さを有することを
バー材の劣化要因にはさまざまな劣化形態がある。それらの劣化形態を適切に
確認する。
模擬した笠カバー材の加速劣化試験を行う。
処理方法,金具の結合方法がメーカーによって各種,各様な
Fig. 4 Deterioration factors, aging mechanisms, and evaluation tests for
shedded cover materials.
There are various forms in the shedded cover materials deterioration factor in
outdoor environments. An acceleration deterioration examination of the
shedded cover materials is performed, under the condition simulated those
deterioration forms precisely.
ので,現地現物主義で十分なフィールド試験を実施する。
表1 EVA笠カバー材の耐環境性加速劣化試験結果
(3)ポリマがいしとして,IEC 61109
6)
に規定されている
一連のヒートサイクル,煮沸,汚損耐電圧,大電流アークな
どに耐え,所定の電気的,機械的性能を満足する。
(4)磁器がいしと異なり,笠カバー材の材質や形状,界面の
〔4〕 カバーの耐環境性,耐トラッキング性の評価
ポリマがいしの笠カバー材は,屋外の汚損環境を一手に引
Table 1
Accelerated test results of the EVA material used for The "Toughrod ".
加速劣化条件
自然曝露 水滴の接触角
き受けている。劣化要因には太陽光(紫外線)
,公害(酸性
雨,SO2,NOXなど)
,汚損物質(塩,煤煙,セメントなど)
,
課電に伴う表面放電などがあり,
図4に示す機構で劣化する7)。
それぞれの劣化機構についてはフィールドの50年に受けるス
トレス分を加速的に与えて評価する。
相当年
(°)
(s)
4.5kV(h)
―
122
>300
>6
60年
108
>300
>6
100年
110
>300
>6
70年
70
>300
>6
80年
103
>300
>6
(初期性能)
紫外線照射
(サンシャインウエザオ
メータ,10,000h)
それらの劣化の判定は,絶縁性能を調べるための耐アーク
性と耐トラッキング性の低下を,また表面の撥(はっ)水性
を調べるために,水滴の接触角の変化をとらえる。
4. 1
耐環境性加速劣化試験結果
耐環境性は,サンシャインウェザオメータを用いた紫外線
照射,人工酸性雨浸漬,オゾン曝露,SO 2曝露などにより加
速劣化を与えて評価した。
劣化後の評価は,耐アーク性(IEC 61621の高電圧小電流
耐アーク性試験)
,耐トラッキング性(IEC 60587の傾斜平板
法)
,および撥水性の変化からとらえた。撥水性は接触角計
を用い,イオン交換水のφ1.5mmの液滴を試料表面にのせ
(滴下法)
,30秒以内に静止接触角を測定した。
各種笠カバー材料の評価試験結果のうち 8),9),当社使用笠
カバー材であるEVAの結果について表1にまとめた。
人工酸性雨浸漬
(pH 3,50℃,120日)
オゾン曝露
(25 ppm,20℃,90日)
SO2曝露
(30 ppm,20℃,90日)
補足説明:試験したいずれの劣化要因においても,自然曝露の60年相当以上で
著しい特性劣化がみられなかった。
Serious degradation problems were not observed for each deterioration
factor tested after 60 or more years equivalent of natural environmetnal
exposure.
表2 全天候模擬課電の1サイクル(IEC 61109)
Table 2 One cycle (24 h) in the aging test under operating voltage simulating
weather conditions of IEC 61109.
各種笠カバー材料を評価した中で,EPR(エチレンプロピ
レンゴム)は耐アーク性,耐トラッキング性が著しく劣化し,
加速劣化条件
またEPRと屋外用エポキシ樹脂では,撥水性の低下が大きい
加 湿(98%RH)
が,EVAやHTV(高温加硫)シリコーンゴムは,自然曝露の
加 温(50℃)
60∼100年相当の加速劣化試験でも特性の顕著な変化はなく,
絶縁性能も低下しないことがわかった。
4. 2
耐アーク性 耐トラッキング性
(IEC 61621)(IEC 60587)
降 雨
試験経過時間(h)
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20 22 24
○
○
○ ○
○ ○
○
塩 霧(食塩7kg/m3)
耐トラッキング性,耐侵食性加速劣化試験結果 ポリマがいしの耐トラッキング性の加速劣化試験として
は,IEC 61109の塩霧室法(1,000 h)があるが,使用する塩
水(10 kg/m3)の導電率(16,000µS/cm)が高すぎて,アーク
が絶縁物の表面を浮き上がってしまい,導電率が低い場合ほ
紫外線(キセノンランプ) ○ ○
○
○ ○
○ ○
○ ○
○ ○
課 電(常規対地電圧) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
補足説明:この加速劣化試験の1サイクルがフィールドの約2週間に相当する。
One cycle in this accelerated test is equivalent to about two weeks in a
heavily polluted area.
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(EdF)が開発した方法で,フィールドの年間平均気象の2週
そこで,先に評価した高電圧小電流耐アーク性と傾斜平板
間分を1日(24h)で模擬する。重汚損地区でのフィールド
法耐トラッキング性に加えて,IEC 61302の回転輪浸漬法
試験結果との照合で約15倍の加速倍率であることがわかって
いる3)。
(表3)
による耐トラッキング性の評価を実施した(図5)12)。
回転輪浸漬法による試験の結果を表4,図6,図7に示す。
IEC 61109の全天候模擬課電では5,000h(8.6年相当)実施
図6よりEPR(No.12)やシリコーンゴム系材料(No.8,9,
し,その間に1A(実効値)を超える過電流トリップが3回以
11)は侵食速さが一様でなく,約0.4∼0.6 mm侵食されると
上おこらず,笠カバー材のトラッキングと貫通破壊がなく,
最大侵食深さdmは急激に大きくなり,著しい速さで局所侵食
FRPロッドが露出しなければ合格としている。この試験では
が進んでいると思われる。図8はHTVシリコーンゴム
EVAにトラッキングが発生せず,最大侵食深さは0.1mm以下
(No.11)の例であるが,高電圧側の電極から約70 mmまでの
であるが,これでは主に海塩重汚損地区やトンネルで使用さ
間でトラッキングによってFRPロッドが露出し,その先は
れる鉄道分野用ポリマがいしの評価としては不十分と考え
FRPロッドとシリコーンゴムの界面に沿って全路絶縁破壊し
る 2 ),10 ),11)。
ている12)。
表3 回転輪浸漬法試験条件(IEC 61302)
表4 供試材料とトラッキング寿命
Table 3
Table 4
Rotating wheel dip test conditions of IEC 61302.
外径26 mmの丸棒状試料の両端に140 mm
離して厚さ0.2 mmのステンレス電極を巻き付ける。
芯材:φ20mmFRPロッド使用
試
ステンレス電極
(アース側)
料
試料
回転輪浸漬法
試料
ホースクランプ
ステンレス電極
(高圧側)
1
屋外用エキシポ樹脂
Al(OH)3
755
22
2
PTFE
なし
>4,500
14
4
EVA
Al(OH)3
>4,500
5
LTVシリコーンゴム SiO2,Al(OH)3
>3,457
137
HTVシリコーンゴム
>3,300
39
>2,687
26
>1,780
22
8
9
50
140
AC10kV
汚損液
体積抵抗率 7.5 Ω・mの食塩水
Al(OH)3
HTVシリコーンゴム Al(OH)3,SiO2
EPR
12
*1
電 圧
局所的侵食
の倍率*1
(h)
11
50
寿命時間
充填材
ベースポリマ
No.
電極摺動
Test samples and tracking lifetimes.
クレータルク
局所的侵食の倍率:それぞれの材料の質量減少(図7)
から比重を用いて体
積減少を求める。これを表面積で割って平均侵食深さを求める。そして最
大侵食深さ
(図6)
を平均侵食深さで割ったものを局所的侵食の倍率と称す。
補足説明:EVA(No.4)とPTFE(No.2)が4,500h以上の長寿命であるが,
回転輪
直径1 m,水平に対し回転軸が15°
傾斜
回転数
3 rpm
回 転
1周360°
のうち、浸漬60°
,休止60°
,課電180°
,休止60°
終 点
フラッシオーバまたは漏れ電流(r.m.s)
が300 mAを超えたとき
局所的侵食の程度が比較的低いことと関係がある。
EVA(No.4)and PTFE(No.2)showed a longer lifetime of more
than 4,500 h, probably because severe partial erosion is
comparatively difficult to make happen.
dm(最大侵食深さ)
最大侵食深さ dm (mm)
3.0
1
12
11
9
8
2.5
FRPロッド
2.0
笠カバー材
4
1.5
1.0
2
0.5
0
0
1
2
3
4
5
3
時 間 (×10 h)
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
5
回転数 (×10 回)
図5 回転輪浸漬法(IEC 61302)試験状況
回転体に各試料を取り付
図6 最大侵食深さの変化
EVA(No.4)
とPTFE(No.2)
は局所侵食されに
け,汚損液浸漬と電圧印加を繰り返す。試料がフラッシオーバもしくは規定の
くく,4500 h以上と寿命を保った。
漏れ電流以上になるまで試験を継続する。
Fig. 6 Change in maximum erosion depth with time.
EVA(No.4) and PTFE(No.2) were slow to erode partially and exceeded a
lifetime of 4,500 h.
Fig. 5 Set up for Rotating Wheel Dip Test (IEC 61302).
Set sample rods on the rotating ring and repeat soaking in pollution liquid
and voltage application until either the samples flashover or the leakage current
along each rod exceeds 300 mA.
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一方EVA(No.4)は,質量減少は供試材料のなかで大きい
方だが(図7)
,最大侵食深さは小さく(図6)
,つまり局所
侵食が起きにくい特長を有する材料であることがわかった
初に表面放電が起きて撥水性が低下した路に,漏れ電流が集
中し続けるからであろう。
笠カバー材の耐トラッキング性,耐侵食性に対する期待寿
命50年を予測するには,加速倍率のわかっているIEC 61109
(図9)
。
シリコーンゴムに代表される撥水性を特長とする材料に
は,撥水性を回復する間もなく次の課電を行うIEC 61302の
回転輪浸漬法は適さないといわれているが,電車線路のトン
付録 Cの全天候模擬課電試験と,IEC 60587の回転輪浸漬法を
組み合わせることで可能になる(図10)
。
この試験を実施することにより,笠カバー材の耐トラッキ
ネル内のように電車が通行するたびにダストがふりかかり,
ング性,耐侵食性に対して約43年相当(8.6年×5倍)の試験
撥水性を損なうような使用環境を模擬するには,回転輪浸漬
をしたことになる。
また,ポリマがいしを設計するに当たっては,上記の試験
法は有効な試験方法と考える3),12)。
また,シリコーンゴムに局所侵食が起きるのは,EVAに比
結果をベースにして胴部の適正な肉厚設計が可能になる10)。
べて良すぎる撥水性に原因するとも考えられる。つまり,最
5
1
4
質量減少( g )
4
IEC 61109付録Cの全天候模擬課電試験 (5,000h;8.6
年相当)を実施し,胴部の最大侵食深さdmを測定する。
3
12
11
2
9
2
1
8
0
0
1
2
3
4
5
3
時 間 (×10 h)
図7 質量の減少 EVA(No.4)
は,質量減少が他材料よりも大きい。
Fig. 7 Decrease in weight.
EVA(No.4) showed a larger weight decrease than the other materials.
図8
HTVシリコーンゴム
(No.11)のトラッキング破壊品の外観
IEC 61302の回転輪浸漬法を実施し,その最大侵食深さ
がdmに達する時間 tを測定しておく。
シリ
回転輪浸漬法を時間t×5(43年相当)まで続行する。
FRPロッドが露出しなければ合格とする。
コーン系材料は,電極近傍に発生した著しい局所侵食がトラッキングに発展し,
FRPロッドに達する。
Fig. 8 Tracking breakdown of HTV silicone rubber (No. 11)
For silicone rubbers, severe partial erosion near the electrode developed into
tracking to reach the FRP rod.
図10
耐トラッキング性・耐侵食性の評価試験の提案
全天候模擬課
電試験と回転輪浸漬法を組み合わせて評価することによって,笠カバー材の寿
命を推定することが可能になる。
Fig. 10 A proposed test method of tacking and erosion resistance.
The absolute lifetime can be assumed by combining IEC 61109 and 61302
tests in the proposed manner.
〔5〕 EVAがいしの実フィールド試験結果
図9 試験時間4,500 h経過時のEVA(No.4)表面状態 漏れ電流が試
料表面を平均的に流れるため,全体的な重量減少は大きいが,シリコーン系材
料のような激しい局所的侵食は見られない。
(重量減少が大きいが,局所的な
侵食が小さい)
Fig. 9 Surface of EVA (No.4) after 4,500 h.
For EVA (No. 4), weight decrease was larger; however, severe partial
erosion did not occur because the leakage current will flow fairly evenly on the
surface.
実線路でのフィールド試験では,定期的にがいしを回収し
て,塩分,ダスト付着量の推移や汚損湿潤時の閃絡電圧特性,
笠カバー表面状態の変化を継続して調査している。長いもの
では10年を経過している3)。
実線路への当社EVAがいし使用例を図11,図12,図13に示
す。
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(2004-1)
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/cm2以下で,またNSDDは0.10mg /cm2以下で推移している。
(2)トンネル内では,設置年数と共に徐々に増加傾向を示し
ており,8.5年経過品ではESDDが0.10mg /cm2を超えるものも
みられる。NSDDも微増傾向にあり,8.5年経過品で1.0mg
/cm2を超えるものが出てきた。
(3)海岸線に近い長さが500m以下の比較的短いトンネルや,
1,000m以上の長いトンネルでもトンネルの出入口から200∼
300mまでは塩分や湿分を含んだ風の影響を受けて汚損しや
すく,笠カバー材の撥水性も低下する。
図11
当社EVAがいしの使用状況1
(4)一方、長大トンネルの内奥部や地下鉄では外気の影響が
東海道新幹線トンネル外区間(浜
名湖)に設置したEVAやぐらがいしの例である。
Fig. 11 Example of EVA insulators on a commercial ac 30kV railway.
These are insulator cross beams on a the Tokaido Shinkansen (over
Hamana Lake).
少なく,比較的乾燥状態にあるので,塩分の影響を受けにく
く撥水性の低下も少ない。
(5)トンネル内の磁器がいしは,汚損閃絡を防止するために
清掃やシリコーングリース塗布を1回/年程度実施している。
一方,EVAがいしでは,台風による海からの塩分付着など,
特殊な環境下において単発的に清掃を実施するのを除き,現
時点まで定期的な清掃をすることなく使用継続中である。
参考までに,設置後8.5年経過したEVAがいしの笠カバー材
の表面状態を図16に示す3)。
0.16
図12
当社EVAがいしの使用状況2
常磐線交流区間(日立駅構内)に
設置したEVA耐張がいしの例である。
Fig. 12 Example of EVA insulators on a commercial ac 20 kV railway.
These are tension insulators on the Joban Line. (Hitachi station).
ESDD(mg / cm2)
0.14
磁器がいし:
トンネル内設置
0.12
EVAがいし:
トンネル内設置
0.10
0.08
0.06
0.04
EVAがいし:
トンネル外設置
0.02
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
設置期間(year)
図14
ESDDの推移
雨洗効果がないトンネル内設置品においては,8.5年
経過の時点でESDDが0.10mg/cm2を超えるものが出てきた。
長幹がいし
Fig. 14 Change in equivalent salt deposit density (ESDD) for EVA insulators.
In the tunnel with no washing effect from by rainfall, the ESDD of some of the
EVA insulators after 8.5 years exceeded 0.10 mg/cm2.
耐張がいし
1.2
1.1
図13
1.0
当社EVAがいしの使用状況3 羽越本線のトンネル内に設置した,長
磁器がいし:
トンネル内設置
0.9
NSDD(mg / cm2)
幹がいしと耐張がいしの組み合わせの例である。トンネルは海岸から数十mほどに
位置する。海塩害地区で雨洗効果がないトンネル内は非常に厳しい環境である。
Fig. 13 Example of EVA insulators in a tunnel of a commercial ac 20 kV
railway.
This is a combination of a rod insulator and two tension insulators hung on
the tunnel ceiling. The tunnel is situated only some ten meters away from the a
mind section of the sea, with a very severe pollution environment with no
washing effect as a result of rainfall.
0.8
0.7
EVAがいし:
トンネル内設置
0.6
0.5
0.4
0.3
EVAがいし:
トンネル外設置
0.2
5. 1
0.1
塩分およびダスト付着量の推移
0
重汚損地区のトンネル外およびトンネル内に設置したポリ
0
1
マがいしの経過月数による等価塩分付着密度(ESDD)
(図14)およびダスト付着密度(NSDD)
(図15)の推移を継
続的に調査している。
3
4
5
6
7
8
9
10
11
設置期間(year)
図15
NSDDの推移
雨洗効果がないトンネル内設置品においては,8.5年
経過の時点でNSDDが1.0 mg/cm2を超えるものが出てきた。
(1)トンネル外区間では,海岸沿いや車両基地などの厳しい
汚損環境で,塩分が一時的に多く付着することがあるが,雨
洗効果により堆積することはなく,ESDDはおおむね0.01mg
30
2
Fig. 15 Change in non solubility deposit density (NSDD) for EVA insulators.
In the tunnel with no washing effect from rainfall, the NSDD of some of the
EVA insulators after 8.5 years exceeded 1.0 mg/cm2.
日立化成テクニカルレポート No.42
(2004-1)
〔新幹線トンネル内設置品:運転最高電圧 AC30 kV〕
180
湿潤状態のAC閃絡電圧値(kV)
160
汚損状態(乾燥)
EVAがいし
湿潤閃絡電圧
140
120
100
80
磁器懸垂がいし(4個連)
湿潤閃絡電圧
60
40
汚損耐電圧39kV
磁器懸垂がいし
汚損管理範囲
20
汚損状態(湿潤)
0
0.0
0.02
0.05
0.1
0.2
0.3
ESDD( mg / cm2 )
図17
ESDDと湿潤状態汚損閃絡電圧特性
新幹線がいしに要求される
汚損耐電圧39kVをクリアするには,磁器がいしではESDDを0.10 mg/cm2以下
に管理する必要がある。EVAがいしは70 kVを維持している。
清掃後(乾燥)
Fig. 17 Change in wet flashover voltage with ESDD.
The ESDD must be controlled below 0.10mg/cm2 for porcelain insulators to
satisfy the wet flashover voltage of 39 kV required for the Shinkansen railways.
EVA insulators have been maintaining 70 kV at the same ESDD value.
5.3
回収がいしの残存引張り破壊荷重
ポリマがいしの使用温度は+50℃∼−35℃であり,機械的
清掃後(湿潤)
設計寿命は50年とされている6)。
前述のテーパかしめ結合方式のクリープ破断特性(図3)
では,粘弾性理論を用いて検証した結果から,40kN(20℃)
の50年間に耐えられると予測した。ここでは実際にフィール
ドから8.5年間経過までのEVAがいしを回収し,引張り破壊試
図16
EVAがいし回収品の表面状態(設置後8.5年経過品) 回収状態
ではダスト付着の影響で若干,撥水性の低下が認められるが,ダストを除去す
ると初期の撥水性に回復する。
験を実施した結果を図18に示す。
回収したEVAがいしで,初期の最小引張り破壊荷重120kN
を下回ったものは皆無であり,劣化の兆候は見られない。
Fig. 16 Surface condition of an EVA insulator after 8.5 years in a tunnel.
Hydrophobicity of the surface degraded a little because of dust deposits;
however, it recovered to its original level after deposit removal.
160
汚損閃絡電圧特性
140
引張り破壊荷重(kN)
5. 2
新幹線のトンネルで使用している磁器懸垂がいし250EP-J
の4個連に対応する表面漏れ距離1200mmのポリマ耐張がいし
のESDDと湿潤状態の汚損閃絡電圧の関係を示す
(図17)3)。
新幹線の運転電圧AC 25kV(最高電圧AC 30 kV)に対して,
磁器(懸垂)がいしの汚損湿潤閃絡電圧は,ESDDが0.10 mg
/cm2ではAC 40 kVまで低下するので,この0.10mg /cm2を超え
120
最小引張り破壊荷重 120kN
100
80
60
全数引張り耐荷重 60kN
40
20
る前のタイミングでがいしの清掃を行い,汚損閃絡を防止し
0
ている。
0
一方,EVA(耐張)がいしの初期湿潤閃絡電圧は,AC 170
1
2
3
4
5
6
7
8
9
設置年数(year)
kVあったものが,塩分とダストが付着してESDDが0.10mg
/cm2になった時点でも, 約AC 70 kVの汚損湿潤閃絡電圧を維
持している。
図18
したがって当面は,0.10mg /cm2という磁器がいしの管理基
準にこだわる必要はないが,ESDDのばらつきを考えると十
分な余裕があるとはいえない。今後の推移に注目する必要が
ある3)。
回収がいしの残存引張り破壊荷重 図2のType(C)結合は8.5年後に
おいても劣化の兆候が見られなかった。
Fig. 18 Change in residual tensile strength of EVA tension insulators.
Type(C) joint (Fig. 2) showed no significant degradation after 8.5 years in the
field.
日立化成テクニカルレポート No.42
(2004-1)
31
5. 4
EVA笠カバーの物理的経時変化
防止でき,いつまでも初期の特性が維持されるものと考える
フィールドから回収したEVAがいし笠カバーの物理的経時
変化をとらえるため,表面のSEM写真(図19)3)による観察
と表面粗さ,硬度,接触角の測定を行った(表5)3)。
笠カバーの物理特性の経時変化については,SEM写真の観
ことができる11)。
〔6〕 ポリマがいしのメンテナンス方法
従来の磁器がいしでは,海塩害地区などの重汚損地区にお
いては1∼2年の周期で清掃やシリコーングリース塗布が行わ
察結果と表5とから次のことが推測できる。
(1)トンネル内では汚損の進行により,がいし笠カバー材表
れている。これに対して,汚損特性に優れるポリマがいしに
面で部分放電が発生し,そのエネルギーでベースポリマが熱
はメンテナンスフリーもしくは清掃周期の長期化が期待され
分解を起こして,表面が荒れた状態を呈したり,平滑な面を
ている。
形成したりする。これは,EVA笠カバー材の特徴である自己
ポリマがいし導入当初は,トンネル外,トンネル内設置品
ともにメンテナンスフリーを期待し,フィールド試験に着手
浄化作用が働いているためと考えられる。
(2)海塩害地区のトンネル外区間は,海からの波飛沫などの
した。
影響で,雨洗効果のないトンネル内よりも,大きな漏れ電流
その各所で行ってきた回収試験の結果では,現在まで笠カ
が流れるケースがあり,トンネル内と同様,放電エネルギー
バー材のトラッキングの発生は皆無である。また,トンネル
による自己浄化作用によって荒れた面や平滑な面を繰り返し
外設置品については,メンテナンスフリー化が可能であるこ
作り出していると考えられる。
とが実証できた。しかし,重汚損地区の中でも特に厳しい環
(3)硬度や接触角の特性も経年劣化することなく,初期の特
境下にあるトンネル内設置品については,ばらつきも含める
といまだに汚損が飽和せず,汚損湿潤閃絡電圧の低下傾向が
性を維持している。
(4)このことは,EVAはシリコーンゴムと比較して結合エネ
続いている。また,トンネル長さと設置環境によっては,笠
ルギーが小さいために,比較的小さな放電のエネルギーでも
カバー材表面に付着したダストが経過時間と共に固着化して
ベースポリマの熱分解が起きやすく,次々と新しい面が露出
しまい,水拭きではダストを除去することが困難なものも出
されてくるので,表面局所的な侵食やトラッキングの発生を
てきている。そのため,ポリマがいしについても清掃方法,
初 期
経過年数
トンネル内設置
トンネル外設置(海塩重汚損地区)
5年
図19 EVA笠カバーの表面の変化−
SEM写真(×200倍) 笠カバー表面は
放電エネルギーの影響で荒れた面を形成し
5.5年
たり,平滑な面を形成したりすることを繰
り返す(EVA笠カバー材の自己浄化作用)
。
Fig. 18 Change in surface appearance of
EVA sheds (SEM images, ×200).
Formation of rough surfaces by discharge
erosion and renewal of smooth surfaces by
discharge energy will occur alternately on
the shed surfaces. (Self-cleaning effect of
EVA sheds)
6.5年
8.5年
表5 EVA笠カバー材の表面物理特性の変化
Table 5
Change in physical properties of EVA shed surfaces
特性項目
初期特性
表面粗さ
5 ∼ 10 µm
硬度(shore A)
90 ∼105
接触角
105∼125°
設置場所
設置後の経過年数
5年
5.5年
6.5年
8.5年
トンネル内
7.8∼8.4
7.3∼8.7
8.3∼9.0
3.8∼4.2
トンネル外
2.3∼3.2
4.1∼4.7
3.4∼5.0
3.7∼4.1
トンネル内
92∼94
91∼93
93∼95
96∼97
トンネル外
94∼95
92∼93
94∼95
95∼96
トンネル内
106∼122
105∼122
105∼123
110∼123
トンネル外
115∼126
120∼122
107∼116
110∼114
補足説明:表面粗さ,表面硬度,水滴の接触角のいずれにおいても,はっきりした変化はみられなかった。
Surface roughness, surface hardness, and surface contact angle of water drops showed no significant changes after 8.5 years in the field (both in and out
of tunnels).
32
日立化成テクニカルレポート No.42
(2004-1)
清掃周期などのメンテナンス基準を検討しなければならない
ることにすれば,この期間がすべての汚損環境に対応できる
時期にきている。
と考える。
6. 1
ポリマがいしの清掃方法
しかし,それを割り出すためには、まだ回収がいしの試験
フィールドから回収したポリマがいしを用いて清掃方法に
本数が不足しており,今後のデータ蓄積が必要で,現在のと
ついて検討した。清掃手法として,①ホースでの水の流し掛
ころ的確な清掃時期を提案できる段階にない。現時点で暫定
け,②ウエスを用いた水拭き,③高圧水洗浄の3つの方法を
的に言える清掃周期としては,下記の実績から5年/回を提案
適用し,清掃後の笠カバー材に残存している塩分,ダストの
する。
測定結果を表6に示す。
非常に厳しい環境である海塩害地区において,7∼10年間
清掃なしで、笠カバー材にトラッキングや侵食の発生がなく,
また,清掃試験状況の写真を図20に示す。
塩分の除去では,塩分は水に溶解することから,いずれの
問題なく使用されていた実績がある。しかし,7∼10年間使
方法も有効であることがわかった。ダストの除去では,
「ウ
用したがいしは,ダストが多量に付着し,激しく汚損されて
エスを用いた水拭き」と「高圧水洗浄」に効果が認められた。
おり,その中には,ドライバンドアークの発生頻度が多くな
また,これらの方法が笠カバー材へ裂傷などの悪影響を与え
り,その伸展による閃絡の危険性をはらんだ外観を呈してい
ないことも表面拡大観察から確認された。
るものもある。また,トンネル入口付近に設置されているポ
現在,ポリマがいしの清掃は,一般的に水を湿らせた布に
リマがいしについては,設置年数がおよそ6年を経過してし
よって拭き取る方法が取られているが,清掃本数が多くなる
まうと,ダストが固着化し,水拭き(または高圧水洗浄)で
と作業性,コストの面で問題が生じてくる。そこで,現実的
は除去することが困難な状況になってくることがわかった。
には「高圧水洗浄」が推奨できる清掃方法であると考える。
現地での高圧水洗浄の進め方の一例をあげておく。
(1)軌陸車に高圧水洗浄機および使用する分量の水を入れた
そこで,今までの実績を総合的に考えると,ダストの固着
化が進む前の段階である設置5年程度を,ポリマがいしの清
掃周期として提案したいと考える。
なお、トンネル入口付近以外の非常に厳しい特殊環境(漏
タンクを載せる。
(2)軌陸車を移動させながら,順番にがいし笠カバー材の洗
水個所,風の吹きだまり個所)については,急速に汚損が進
行する場合があることがわかっているため,状況を定期的に
浄を実施する。
(3)洗浄完了後に,吸収の良いタオルなどで笠カバー材表面
の水滴を簡単に拭き取る。
実際に高圧水洗浄を実施するに当たっては,放水設備,放
点検して,随時,清掃の要否を判断していく必要がある。
〔7〕 結 言
水圧力,水の掛け方(場所,角度)
,放水時間などの諸条件,
(1)各種のポリマがいし用笠カバー材について耐環境性加速
トンネル内での作業効率などを検討の上で,清掃作業条件を
劣化試験を行った結果,EVAとHTVシリコーンは紫外線,酸
決める必要がある。
性雨,オゾンやSO2などの自然環境の中で60∼100年相当の寿
6. 2
具体的な清掃時期(清掃管理基準)の提案
命が期待できることがわかった。
がいしの汚損状態は、設置場所の環境によってまちまちで
(2)耐トラッキング性と耐侵食性については,汚損環境が厳
あるため,的確な清掃時期を提案することは非常に難しい問
しくて笠カバー材の撥水性が期待できないような電車線の使
題である。1つの方法(案)としては,最も環境が厳しい設
用環境では,EVAが最も優れた特性を有しており,電車線用
置場所(重汚損地区や海塩害地区)を基準にして,汚損度が
に適した笠カバー材であることがわかった。
飽和する設置年数と残存電気特性のデータを割り出し,管理
(3)また,加速倍率のわかっているIEC 61109の付録CとIEC
基準内の電気特性レベル(湿潤フラッシオーバ電圧)に対し
61302の回転輪浸漬法を組み合わせることにより,耐トラッ
て十分な裕度がある汚損度(ESDDを指標とする)の上限値
キング性,耐侵食性の寿命予測や笠カバーの肉厚設計が可能
を設定し,その汚損度に達する期間を清掃が必要な時期とす
になった。
表6 清掃方法と汚損残量
Table 6
Washing methods and residual pollution rates.
清掃方法と汚損残量
塩分残存率(%) ダストの残存率
(%)
ホースでの水の流し掛け
△
×
ウエスを用いた水拭き
○
○
高圧水洗浄
○
○
<判定基準>
○:5%未満 △:5%以上∼30%未満 ×:30%以上
<参考データ>
「ホースでの水の流し掛け」の水道水流量:0.2R/ s
「高圧水洗浄」の水圧と給水量:6.4 MPa,6.2R/ min(放水時間1分間)
補足説明:ウエスを用いた水拭きと高圧水洗浄が有効であるが,後者のほうが
費用効果が高い。
Alithough wiping off the in sulato with a wet cloth and high pressure
water jet are both effective, the latter is more cost-effective.
図20
清掃試験実施状況(EVA長幹がいし) 高圧水洗浄を実施してい
るところ。
Fig. 20 Washing of EVA rod insulator.
High pressure water jet is being sprayed onto EVA sheds.
日立化成テクニカルレポート No.42
(2004-1)
33
(4)1,000本以上のEVAがいしを実電車線のフィールドから定
期的に回収して評価を行った結果,トンネル外では海塩害重
汚損地区でもメンテナンスフリーで使用できる見通しを得
た。トンネル内では,漏水などが起こる特殊環境を除き,約
10年経過した現在でも清掃することなく使用継続中である
が,特に海岸沿いのトンネル内では,ばらつきを含めると汚
損がいまだに飽和せず進行中で,湿潤汚損閃絡電圧の低下も
飽和に達していないので,今後の推移に注目する必要があ
る。
参考文献
1) 電車線路設備保全の近代化技術,電気学会技術報告 , 第544号
(1995)
2) 泉,門谷:Applications of Polymeric Outdoor Insulation in Japan,
IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation Vol.6
No.5(1999)
3) 五十川,塙:鉄道分野へのポリマがいし導入検討,Insulation'02
予稿集,135-143,
(2002)
4) 真瀬:タフロッド耐張がいしのFRPロッドと金具の結合方式 ,
Insulation ’
98予稿集,58-59,
(1998)
(5)EVA笠カバー材は,自己浄化作用の働きで常に表面状態
が変化し,新しい面が露出されていることが,SEM写真から
判断できた。その結果,表面粗さや硬度,接触角が劣化する
ことなく初期特性を維持していることが確認できた。
(6)長期(約10年間)に渡るフィールド試験の結果から,海
塩害地区など,非常に厳しい環境にあるトンネル内設置品に
ついては,笠カバー材にトラッキング発生などの不具合はな
いものの,設置が6年を超えると,付着したダストが固着化
して除去しにくくなるものがあることがわかってきた。これ
に対処する暫定的な清掃周期として5年程度を提案したい。
(7)今後もさらなるフィールド試験データを蓄積し,ポリマ
がいしのメンテナンス基準化,ポリマがいしの信頼性向上に
努めたい。
5) 宮野,星,外:FRPロッドのテーパ構造継手の引張クリープ挙動
の評価,材料,第42巻,第475号,371-376(1993)
6) IEC 61109,Composite Insulators for a.c. Overhead lines with a
nominal voltage greater than 1000V- Definitions, test methods and
acceptance criteria,595-604(1992)
7) 門谷:(総説)複合がいしの設計,日立化成テクニカルレポー
トNo.21,7-10(1993)
8) 梅沢,西野,外:屋外用高分子材料の耐候性,電気学会電力・
エネルギー部門大会460(1996)
9) 本山,市川,外:複合がいし笠カバーのSO2による劣化,電気学
会全国大会360(1996)
10) 門谷,五十川:ポリマがいしの設計と試験,Insulation'96予稿集,
124-135(1996)
11) 西村:ポリマがいしの劣化と寿命評価,電気評論1998.11,4248(1998)
実フィールドでの抜き取り回収試験の実施に当たり,JR各
社殿の多大なるご協力をいただき,誠にありがとうございま
12) 江連,真瀬,外:屋外用高分子材料の回転輪浸漬法による耐ト
ラッキング性,電気学会全国大会391(1997)
した。
長期の回収試験を通して得られたデータの数々は,今後の
ポリマがいし発展の礎になる大変貴重なものであり,このよ
うな経験をさせていただけたことを感謝申し上げます。
34
日立化成テクニカルレポート No.42
(2004-1)
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