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事業原簿(公開)4(2.31MB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
表 2.1.10 Al、Sn 添加鋳鉄の密度、比熱、熱拡散率、熱伝導率 比熱 熱伝導率 熱拡散率 温度 密度 3 3 -6 2 (℃) ( × 10 kg ( × 10 J / ( × 10 m ( W / ( m ・ /sec) K)) /m3) (kg・K)) FC250※ 室温 7.25 0.503 11.6 42.8 ALSn53 (熱処理前) 室温 6.74 0.516 10.7 37.2 ALSn53 (熱処理後) 室温 6.78 0.499 10.9 36.9 ※手塚則雄,日刊工業新聞社(2003)「設計者に必要な材料の基礎知識 これだけは知 試料 No. っておきたい機械材料の知識とデータ」より (3)e)ウ) 機械的性質 表 2.1.11 に機械的性質を示す。FC300と比較して引張強さは若干劣るが工作機械 の材料として重要視されるヤング率に関しては高い値を示しており、FC300の代替材と して使用に問題ないと考えられる。また、硬さは FC300よりも高い値であるため、加工に 際して工夫が必要だが、特に問題とはならなかった。なお、FC300の引張強さがやや低 いのは、FC300の内でも振動減衰性能が高い C 量の比較的多い試料を評価したため である。 表 2.1.11 Al、Sn 添加鋳鉄の機械的特性 試料 No. FC300 ALSn93 (熱処理前) 引張強さ(MPa) 静的ヤング率(GPa) 硬さ(HB) 257 84 185 221 95 271 (4) 実機モデル鋳造試験 3項で試験片を鋳造してきた 30kg 高周波炉と、実機鋳造で使用する大型の高周波炉 とでは、酸化物(ノロ)の発生状況、成分の歩留り、電気炉操業が大きく異なることが想定 される。そのため、実機鋳造を行う前段階として、実機部品の大きさ、リブ厚等を考慮し た大型モデルを製作し鋳造性の評価を行った。 (4)a)試験内容 実機モデルの形状を図 2.1.18 に示す。実機モデルはリブ構造(リブ厚 20mm)で摺動 面を持たせた形状にし、実機部品のベッドを想定した形状とした(製品重量 240kg)。電 気炉については弊社内にある 500kg 高周波電気炉を使用した。実機モデルのヤング率、 対数減衰率の評価は、実機モデルを鋳造する溶湯で、これまでと同様φ30×300mm の 鋳型で別鋳込み試験片を作製して行った。目標成分も材料開発実験で鋳造した評価 試験片と同様の成分とし、電気炉の違いによる物性値への影響を調査した。また、外 観・寸法、加工性の評価も行った。 - 151 - 重 量:240kg 形状寸法:650×435×455mm、 リブ厚:20mm 図 2.1.18 実機モデル形状 (4)b) 試験結果 (4)b)ア)物性値評価 化学成分、物性値の結果を表 2.1.12 に示す。目標とした化学成分は材料開発実験 の評価試験片で FC300 と同ヤング率で 2.8 倍の対数減衰率を得た組成で鋳込みを行っ た。実績成分は目標成分に対してC量、Si 量がやや高く、Al 量がやや低い組成となった ため、対数減衰率はやや低下し、ヤング率は大きく低下した。そこで第2回モデル実験 では目標成分を再設定し試験を行ったところ、FC300 と同ヤング率で対数減衰率 2.7 倍 を確保することができた。また、化学成分の歩留りについては 30kg 高周波炉と大きな違 いはなかった。 表 2.1.12 別鋳込み試験片の化学組成(%) C 目標値 3.03 第1回モデル試験 実績 3.07 目標値 3.00 第2回モデル試験 実績 2.96 Si 1.86 1.88 1.80 1.80 Mn 0.80 0.82 0.80 0.80 P 0.020 0.018 0.020 0.018 S 0.020 0.003 0.020 0.002 - 152 - Al 5.50 5.38 6.00 5.87 Sn ヤング率GPa 減衰率×10-4 0.070 0.069 111 278 0.070 0.068 123 282 (4)b)イ) 外観・寸法評価 図 2.1.19 に実機モデルの鋳造品写真を示す。実機と同じリブ厚でも湯周り不良が無 い鋳造が可能であることを確認した。なお、上型、側面上方部には、湯じわが発生して いる。これは Al を添加しているため温度が下がりやすくなっており、型内に溶湯が充填 する前に溶湯上面の温度が低下してしまい発生したものと考えられる。第2回モデル実 験では堰位置を上型方向に変更したが、改善されなかった。また、寸法については鋳物 尺で 10 伸程度であった。 100mm 50mm 図 2.1.19 実機モデルの鋳造品(左:鋳造品外観、右:鋳造欠陥部) (4)b)ウ) 被加工性評価 摺動面部の加工を行い、加工性、面精度の評価をおこなった。加工性については FC300 と比べると硬度がかなり高く加工性は悪いという結果となった。しかし、通常の工 具でも加工は可能であることがわかった。面精度については、社内標準の面精度を確保 することができた。 (5) 実機部品鋳造 (5)a) 実機部品 実機に採用する高剛性高減衰能構造材料部品は図 2.1.20 に示す3部品とした。 製品重量はそれぞれ 120kg×1 個、260kg×2 個である。 - 153 - サドル 260 kg へッド 120 kg Xスライダ 260 kg 図 2.1.20 実機採用部品 (5)b) 部品試験結果 (5)b)ア) 物性値評価 図 2.1.21 に実機鋳造のヤング率と対数減衰率の関係を示す。別鋳込み TP(鋳放し) では FC300 と同ヤング率で対数減衰率 2.1 倍~2.3 倍を確保することができた。さらに、 熱処理を行うことにより同ヤング率で対数減衰率 2.9 倍~3.2 倍を達成することができ た。 表 2.1.13 に目標成分について示す。目標成分を表のようの範囲で管理することで物 性値を安定的に得ることができると考えられる。また、電気炉操業を標準化することで化 学成分についても安定させることが可能になった。しかし、現状使用している高周波炉 での標準となるため電気炉を変更した場合には、都度確認が必要である。 - 154 - 600 減衰率 (×10-4) 500 目標値 400 別鋳込み TP 300 (熱処理) 別鋳込み TP 200 (鋳放し) FC300 100 0 115 120 125 130 135 ヤング率(GPa) 別鋳込みTP FC300 熱処理 図 2.1.21 実機部品鋳造のヤング率と対数減衰率の関係 表 2.1.13 別鋳込み試験片の目標化学組成(%) C Si Mn P S Al Sn CE値 C/Si 目標成分 3.05±0.05 1.85±0.05 0.80 0.020 0.020 5.90±0.05 0.070 3.67 1.65 (5)b)イ)外観評価 大型モデル試験で課題となっていた湯じわについては、上型面に細かい揚りを設置 することで、温度が低下した上方の溶湯を揚りに逃がすことで改善された。 (5)b)ウ)鋳造欠陥評価 図 2.1.22 のように実機部品、別鋳込み TP で引け巣欠陥が発生した。原因を引け巣 欠陥に影響が大きいとされる注湯温度と仮定し、予備試験を実施した。注湯温度を 1450℃~1340℃の間で 20℃毎に鋳込みを行い、それぞれの試験片を切断し引け巣欠 陥の有無を確認した。注湯温度が 1380℃以下では引け巣が発生しないことを確認し、 注湯温度を 1450℃から 1380℃と変更した。しかし、別鋳込み TP で引け巣が再発したこ とで、化学成分による引け巣対策を行った。これまでの成分の経緯を調査したところ Al 量が多く、Si 量が少ない場合に引け巣の発生が多いことから、Si 値を 1.85%、Al 値を 5.9%とし再度鋳込みテストを行い、引け巣欠陥が発生しないことを確認した。 - 155 - 100mm 10mm 図 2.1.22 引け巣欠陥(左:外観、右:引け巣部拡大) (5)b)エ)部品の減衰能評価 減衰能評価はハンマリング試験にて行い、固有振動数の比較試験とモード解析を行 った。 1)ヘッド ⅰ)測定方法 図 2.1.23 のように、ヘッド上部にある吊ボスにワイヤーを掛け、工場設備のクレーンで 吊り上げ、部品本体に加速度ピックアップを取付け、ハンマリングによる振動測定を行 う。 図 2.1.23 ヘッド測定状況 ⅱ)測定結果 振動測定結果を図 2.1.24 に示す。(A)は曲げモード、(B)は捩れモードになる。モー ド解析ではいくつかのモードに分かれるが、(A)モードの場合FC300鋳物材料よりも 2.5 倍の減衰効果が得られた。(A)以外のモードでは減衰効果は変わらなかった。各材 料の減衰比は表 2.1.14 の通りである。 - 156 - fx1_1 m /N fx1_1_2 1・10-5 1・10-6 1・10-7 1・10-8 A 1・10-9 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 kHz ―(青線)FC300 ―(赤線)開発材料 B 図 2.1.24 測定結果 表 2.1.14 ヘッド単体の減衰効果測定結果 モード 減衰比 結果 FC300 高剛性高減衰能構造材料 曲げモード(A) 0.00202 0.00565 2.5 倍の向上 捩れモード(B) 0.00676 0.00700 同等 - 157 - 2)サドル ⅰ)測定方法 図 2.1.25 のようにサドル上部にある吊ボスにスリングを掛け、工場設備のクレーンで吊 り上げる。部品本体に加速度ピックアップを取付け、ハンマリングによる振動測定を行う。 図 2.1.25 サドル測定状況 ⅱ)測定結果 振動測定結果を図 2.1.26 に示す。1kHz 以上の結果は測定時の吊り方の影響が出た と考えられ、評価できない。その他の結果はFC300鋳物材料と同等であり、サドルの構 造では材料による減衰効果は無かった。各材料の減衰比は表 2.1.15 の通りである。 ftz4_1_ch4 ftz4_2D_ch4 m/N 1・10- 6 1・10- 7 1・10- 8 1・10- 9 1・10- 1 0 1・10- 1 1 1・10- 1 2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 kHz ―(青線)FC300 ―(赤線)開発材料 図 2.1.26 測定結果 - 158 - 表 2.1.15 サドル単体の減衰効果測定結果 FC300 3) 高剛性高減衰能構造材料 周波数(Hz) 減衰比 周波数(Hz) 減衰比 946.24 0.002 944.97 0.0014 1155.03 0.0015 1138.73 0.0014 Xスライダ ⅰ)実験方法 図 2.1.27 のように X スライダ上部にある吊ボスにスリングを掛け、工場設備のクレーン で吊り上げる。部品本体に加速度ピックアップを取付け、ハンマリングによる振動測定を 行う。 図 2.1.27 Xスライダ測定状況 ⅱ)測定結果 振動測定結果を図 2.1.28 に示す。減衰比は 1.8 倍から 2.45 倍向上した。 各材料の減衰比は表 2.1.16 の通りである。 ftz4_1_ch4 ftz4_2D_ch4 m/N 1・10- 6 1・10- 7 1・10- 8 1・10- 9 1・10- 1 0 1・10- 1 1 1・10- 1 2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 kHz ―(青線)FC300 ―(赤線)開発材料 図 2.1.28 測定結果 - 159 - 表 2.1.16 X スライダ単体の減衰効果測定結果 FC300 高剛性高減衰能構造材料 周波数(Hz) 減衰比 周波数(Hz) 減衰比 735.0 0.0015 741.26 0.0032 837.50 0.0012 845.0 0.0022 1225.0 0.0012 1240.0 0.0023 1490.0 0.0011 1538.75 0.0027 (6) 高剛性高減衰能構造材料を採用した試験機の製造及び評価 試験機は当社で製造・販売している超精密立形加工機 UVM-450Cを基に、図 2.1.20 で示した、移動構造体3部品を高剛性高減衰鋳物にて置き換えた構造で製造し た。試験機の評価においては、試験機と同一仕様の通常生産機に対し、同一の試験を 行い、比較検証を行った。以後、高剛性高減衰鋳物を採用して製造した機械を試験機、 FC300の鋳物を採用した通常生産機を比較機と呼ぶ。 (6)a) 試験機と比較機の減衰能評価 (6)a)ア)試験機の仕様・構造 1) 仕様 (5)b)エ)で評価した3部品は機械本体の移動構造体であり、図 2.1.29 の位置で使用 している。また、主な仕様は表 2.1.27 に表示する。 - 160 - 機械形式:UVM-450C サドル(Y軸) ヘッド(Z軸) X スライダ(X軸) 図 2.1.29 試験機の構造・移動軸 表 2.1.17 機械仕様 軸名 移動量(mm) 送り速度(m/min) 指令単位(μm) X 500 15 0.01 Y 450 15 0.01 Z 200 10 0.01 (6)a)イ)モード測定 モード測定では加工する工具が取り付けられるヘッド周りの測定を行った。 1)測定方法 図 2.1.30 のように、機械本体の組立が終了し、カバー等の部品が取り付けられる前の 試験機及び比較機のヘッドに加速度ピックアップを取付け、ハンマリング試験を行った。 減衰比の比較はヘッド周り X 軸方向,Y 軸方向で行う。 - 161 - 図 2.1.30 機械モード測定 2)測定結果 ⅰ)X 軸方向の振動測定結果 振動モード測定結果を図 2.1.31 に示す。73,95Hz の固有振動数は、材料の変形する モードではない。この減衰比の差は,接合面の減衰性への影響による個体差といえる。 210Hz 付近の固有振動数は,ヘッドが変形するモードであるため,材料の影響があると 言える。 各機械の減衰比は表 2.1.18 の通りである。 - 162 - f x1_1_ ch2 m/N fx1_1d_ch2 1・10 - 6 1・10 - 7 ―(青線)比較機 1・10 - 8 ―(赤線)試験機 1・10 - 9 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 kH z # 6:214.20 Hz # 3:99.35 Hz Z Z Y X Y X 図 2.1.31 測定結果 表 2.1.18 X 軸方向の減衰効果測定結果 比較機 試験機 周波数(Hz) 減衰比 周波数(Hz) 減衰比 95.05 0.0969 73.75 0.2350 214.99 0.0118 206.21 0.0157 - 163 - ⅱ)Y軸方向の振動測定結果 振動測定結果を図 2.1.32 に示す。減衰鋳物の方が減衰比の悪い場合もあり、この二 つのモードの減衰比の違いは、ほとんど無いものと言える。各機械の減衰比は表 2.1.19 の通りである。 fy1_1_ch3 m/N 1・10 fy1_1d_ch3 -5 1・10-6 ―(青線)比較機 1・10-7 ―(赤線)試験機 1・10 -8 1・10-9 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 kHz # 5:154.05 Hz # 4:104.00 Hz Z Z Y Y X 図 2.1.32 測定結果 表 2.1.19 Y 軸方向の減衰効果測定結果 比較機 試験機 周波数 減衰比 周波数 減衰比 105.01 0.0222 111.24 0.0284 156.24 0.0202 157.49 0.0141 - 164 - X (7) 加工試験結果と評価 加工テストは、導光板金型加工等の超精密加工で行われるプレーナ加工、及びコネクタ 等の精密金型加工に使用されるエンドミル加工について比較機と試験機で行った。 (7)a) プレーナ加工 (7)a)ア)加工試験方法 被削材仕様は母材として□60mm 厚み25mmのSTAVAX(SUS系材料)を使用し、 上面の加工面にNi-Pメッキを行ったものである。加工は、母材を削らないようメッキ部 分のみを切削した。 高剛性高減衰鋳物材料部品となるヘッドにバイトホルダを取付け、バイトホルダ下端に 先端R10のダイヤモンドバイトを取付けた。被削材はマグネットチャックの上に固定し、切 削液はオイルミストを加工点に吹き付けて加工を行った。(図 2.1.33) 図 2.1.33 平面プレーナ加工 加工は図 2.1.34 のように同じワークで加工条件を変更して加工した。 送り速度を変更しながら、加工を行い、試験機と比較機の加工面を比較した。 - 165 - F15 5 速度徐変 20 F2 5 P6.4 F15 F9 F5 F2 表 2.1.20 加工条件表 切込量:10μm ⑤ ④ ③ ② ピッチ:100μm 送り速 加工幅 ① F2m/min 5mm ② F5m/min 5mm ③ F9m/min 5mm ④ F15m/min 5mm ⑤ F2~15m/min 可変 5+20+5mm ① 図 2.1.34 プレーナ加工モデル (7)a)イ)加工結果 各機械の加工面を ZYGO NEW VIEW にて測定した結果を図 2.1.35 に示す。 各送り速度で各機械の加工面を比較しても面性状は同等であった。また、加工溝のうね りについても同等であった。 試験機 比較機 図 2.1.35 加工面測定データ - 166 - (7)a)ウ)加工バイト振動減衰比較 加工面での比較では違いが見られなかったので、実際にバイト刃先で減衰の違いが 無かったのか、加工したときの状態で、バイトのハンマリング試験を行い確認の測定を行 った。測定結果を図 2.1.36 に示す。 fx1_3_ch2 m/N fx1_2_ch2 fy1_3_ch3 fy1_2_ch3 1・10-4 1・10-5 X方向 1・10-6 1・10-7 1・10-8 m/N ―(青線)比較機 1・10-9 1・10-4 ―(赤線)試験機 1・10-5 Y方向 1・10-6 1・10-7 1・10-8 1・10-9 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 kHz 図 2.1.36 バイト部ハンマリングの測定結果 測定の結果、違いはほとんど見られなかった。(6)a)イ)のモード測定の結果を考える と、X 方向 220Hz 付近の固有振動は Z スライダの曲げ固有振動数と思われ、高減衰鋳 物の効果が現れやすい固有振動数であるが、この周波数においても減衰性に違いが無 かった。 700Hz 付近の固有振動数は、ヘッドに取り付けているバイトホルダ自体が振動してい るモードと推測できる。そのため、試験機と比較機の取付け面のあたりの違いや取付け 精度等の機差から減衰性に違いが現れてしまっている。 (7)b)異材質のバイトシャンクテスト プレーナ加工においてバイトのシャンク部を高減衰鋳物で製作した時に、通常バイト のシャンク材料(S45C)で製作したバイトと比較し、減衰性に違いが現れるかテストを行 った。 製作したバイトは図 2.1.37 の形状である。 - 167 - 図 2.1.37 高剛性高減衰能鋳物材バイト S45C材バイト (7)b)イ)実験結果 バイトの振動を比較すると、全体的に減衰鋳物を用いた方が振動が大きくなってしまっ たが、その差は小さく、減衰性は同等の結果であった。 (7)c)エンドミル加工 精密金型加工を模擬した加工において試験機に高剛性高減衰能鋳物を採用するこ とにより、加工面にどのように影響するのか試験する。 (7)c)ア) 側面エンドミル加工 被削材の側面にエンドミル加工を行い、加工面にビビリが出現した時の加工条件を比 較する。 被削材の側面をエンドミルの側面で加工し、切込量を0.01mmから0.01mmずつ大 きくして、ビビリが発生するまで加工していく。側面加工のモデルと加工条件を図 2.1.38 に示す。 主軸回転数 10,000min-1 送り速度 15m/min 切込巾 Ad 5.0mm 被削材料 CENA1 HRC42 使用工具 φ3mm フラットエンドミル 図 2.1.38 側面加工モデル 加工面のビビリ現象は、両機械とも、ラジアル方向の切込量が 0.03mmで発生した。 各加工面の写真及び、加工面をフォームタリサーフで測定した結果を図 2.1.39 に示す。 加工条件が同じ加工面を比較した結果うねり曲線に違いは見られなかった。 - 168 - 試験機加工面 比較機加工面 測定値 単位:μm 試験機 Wt 比較機 Wa Wt Wa 3.6735 0.5403 2.7186 0.4678 図 2.1.39 加工面 とうねり (7)c)イ)上 面エンドミル加 工 被削材の上面に加工を行い、加工面の粗さを比較した。 被削材の上面をボールエンドミルで加工し、送り速度を 1m/min から 15m/min まで 徐 々に上げていき、加工面の面 粗さの差を比較した。上面加工のモデルと加工条件を 図 2.1.40 に示す。 15m/min 加工パス 面粗さ測定方向 44 mm 20μ 主軸回転数 60,000min-1 送り速度 1m/min~15m/min 切込量 Ad/Rd 5μm/20μm 被削材料 CENA1 HRC42 使用工具 R0.5mm 1m/min CBN ボールエンドミ ル 46 mm 図 2.1.40 上面 加 工モデル 加工面のビビリ現象は、両機械とも、目視では確認できなかった。 次に加工面をフォームタリサーフで加工パスを横切るように加工速度が増加する方向 に測定した。 測定結果は図 2.1.41 に示す。 - 169 - 図 2.1.41 上面エンドミル加工 面粗さ測定結果 測定の結果、試験機での面粗さの悪化(B1-A1)は、比較機の面粗さの悪化(B2-A 2)よりも少ない傾向となった。 (7)c)ウ)上面エンドミル加工 追加試験 (7)c)イ)で行った上面エンドミル加工テストでの測定結果で、送り速度が速い領域で 表 面粗さに差を生じていた。ただし、加工条件が逐次変化しているのと、加工ワークが別 なため、差の原因が、高減衰鋳物構造物に よるか確認できなかった。このため、追加試 験 として、同一ワークの面に 10m/min で再度加工を行い、高剛性高減衰能構造材料が 表面粗さの変化に影響を与えているのか確認した。 上面加工追加試験のモデルは図 2.1.42 に示す。 5mm 試験機 NEDO機 ② 比較機 5mm 2号機 主軸回転数 60,000min-1 送り速度 10m/min 切込量 Ad/Rd 6μm/20μm 被削材料 CENA1 使用工具 R0.5mm HRC42 CBN ボールエンドミル ① 50mm 図 2.1.42 上面加工モデルと加工条件 - 170 - 加 工面のビビリ現象は、各機械とも、目視では判断できなか った。加工面をフ ォ ームタ リサーフで測定した結果を図 2.1.43 に示す。 試験機 比較機 Ra(μm) Rz(μm) Ra(μm) Rz(μm) 0.1052 0.5714 0.0986 0.6065 図 2.1.43 追加加工試験測 定結果 追加加工試験の測定では面粗さに差は生じていなかった。 このため、高速送り加工の面粗さの差は高剛性高減衰鋳物によるものか確定できなか った。 (8) 考察 (8)a) 加工条件によるヤング率-対数減衰率特性の変化について 加工先の異なる Al、Sn 添加鋳鉄のヤング率-対数減衰率特性が大きく異なる理由は、 次のように考えらえる。 圧延により磁気特性が変化する現象は、圧延磁気異方性として知られている。これは 圧延加工による材料のすべり変形により磁気特性が変化する現象であり、すべり誘導方 向 性 規 則 配 列 に よ って説 明 さ れ てい る 6) 。 対 数 減 衰 率 を測 定 する 試 料 ( 4 × 20 × 200mm)を製作する過程で切削加工を行うが、この切削加工で試料表面にミクロ的なす べり変形が生じていると考えられる。このすべり変形が圧延のときと同様な磁気異方性を 発生して対数減衰率に影響を及ぼしたものと推察する。つまり、外部負荷(振動)を受け たときに、切削加工によって生じた試料表面の磁気異方性が、磁壁の移動を妨げること によって、強磁性型の減衰機構の発現を抑制したと考える。加工先の加工条件によって 磁気異方性の大きさも変化し、振動減衰の抑制度合いが異なる結果として、得られたヤ ング率-対数減衰率特性が大きく異なったものと推察する。 - 171 - また、先のすべり変形による磁気特性の変化は、残留応力と磁歪から生じる異方性で は説明できないといわれ 6)、これは本研究の結果と合致する。 (8)b) 熱処理によるヤング率-対数減衰率特性の変化について 強 磁性を示す金属間化合物や規則合金では、温度により規則-不規則変態が生じ ると言われている。例えば、Fe 3 Al では塑性加工のすべり変形により生じた磁気異方性 が 、加熱による原子配列の規則化にともない変化し、400℃の時効処理によって消失す るといわれている 7) 。また、Ni 3 Al では、やはり塑性加工により生じた磁気異方性が、 400℃以上になると減少し始め、487℃付近でほとんど消失するといわれている 7)。 Al、Sn 添加鋳鉄は、黒鉛相およびα、γ、κ相が混在していると考えられる。常磁性 体であるγ相は、400℃以上の熱処理により消失しκ相(Fe3AlCX )が形成されると いわ れる 1) 。熱処理によるヤング率-対数減衰率特性の回復は、この強磁性体κ相の形成 とさらに規則-不規則変態による磁気異方性の変化や消失によって生じた可能性があ る。 なお、これら変態による磁気特性の変化とヤング率-対数減衰率特性の関係を、Al、 Sn 添 加鋳鉄で実証するのは、今後の課題とした。 (8)c) 試験機の加工テストについて 高 剛性高減衰鋳物を移動構造体に採用した試験機を製造し、同一仕様のFC300採 用の比較機と種々の比較を行った。 機械の振動モード測定では、工具を取り付けるヘッド部で減衰性に差が見られたが、 加工比較試験では顕著な差を見出す ことはできなかった。これは、規格内ではあるが、 機 械毎の機差の影響が材料による差よりも大きかったと考えられる。 加工負荷の大小や、効果的な機種の選定等は今後の課題とした。 (9) 結論 1) 現用鋳鉄である片状黒鉛鋳鉄に 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加することで振動減 衰性能の優れた鋳鉄素材が得られる。このときの振動減衰性能は、現用鋳鉄・FC 300の 2~2.8 倍であった。 2) 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加した鋳鉄に形成される相は、黒鉛、α鉄そして Fe3AlCX(x=0.5~1.0)であった。Sn の添加は、Fe3AlCX を増加させ振動減衰性能 を改善した。 3) 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加した鋳鉄は、磁気機械的静履歴損失の測定により 残留磁気ひずみが現れることから、強磁性体であると考えられた。 - 172 - 4) 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加した鋳鉄は、優れた振動減衰性能を示した。これは、 Al、Sn の添加により形成された Fe3AlCX 相が、強磁性型減衰機構を発現したことに よるものと判断できた。 5) 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加した鋳鉄は、加工の条件によってその振動減衰性 能が低下する。これは、 評価試料の切削加工の負荷により試料表面に磁気異方 性が生じ、その結果、強磁性型減衰機構が抑制されたことによると考えられた。 6) 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加した鋳鉄は、切削加工後に 500℃、2時間保持の熱 処理を加えると、その振動減衰性能が大幅に改善され、現用鋳鉄・FC300の3倍 以上の値が得られた。これは、切削加工によって生じた磁気異方性が、相変態お よび磁気変態により消失したためと推察した。 7) 5.5~6%Al、0.07%Sn を添加した鋳鉄の線膨張係数、熱伝導率、機械的性質は、 現用鋳鉄と比較すると差はあるが、実用上は問題が無いと判断できた。 8) 500kg 高周波電気炉を使用した実機の部品製作では湯流れ、物性値、鋳造欠陥 等について問題なく鋳造できることを確認した。 9) 高剛性高減衰鋳物を機械構造部品に使用した場合、梁状部品の曲げや板状部 品のねじれ等では減衰性の向上が見られたが、箱状構造物の様な剛性の高い構 造物では減衰性の向上は見られなかった。 - 173 - 研究項目③ 設計・評価ツールの研究開発 (1) 本研究項目の概要 本研究項目では、新規構造材料の開発も含め近年、高度化、複雑化している工作機 械設計について、主としてその初期の設計段階を支援する方法を提案することを目的と している。この目的のため、ロバスト設計手法に基づく概念設計評価手法と、有限要素 法による詳細な構造変形の計算を組み合わせた工作機械設計支援ツールを提案した。 概念設計支援手法では、構造計算用の有限要素法ソフトウェアを用いて部材の変形量 を推定し、この値を概念設計ソフトウェアに投入した。これにより工作機械の設計パラメ ータ、構造変形などが性能に与える影響をより妥当に見積もることを試みた。また、研究 項目Aにおいて開発した高剛性高減衰能構造材料を工作機械構造に用いた際の効果 を検証するため、開発材料を導入するものと同タイプの工作機械形状を想定して、簡易 的に動剛性の向上効果を確認することを行った。 また、概念設計における重要な決定事項として工作機械のタイプがあるが、異なる設 計コンセプトを有する機械同士の比較を試みた。この結果、門形、ハイブリッド形、シング ルコラムの各タイプにおける全体的性能、影響の大きい誤差要因、設計パラメータなど について概念設計における設計指針となる知見を得た。さらに、近年、実用化開発が盛 んな5軸加工機においては、その構造設計の選択肢が多いことから、本研究で取り組む ような構造設計支援の必要性が高いとされる。この点に着目し、現在開発されている5軸 加工機の構造を調査、分類するとともに、代表的な5軸加工機の構造形式について、提 案した設計評価手法を用いて解析し比較を行った。 (2)構造変形の考慮による精度の高い概念設計支援の試み (2)a) 構造変形の取り扱い 形状創成理論とロバスト設計の手法を組み合わせた工作機械の設計評価法に関す る一連の研究 8),9)において,これまで工作機械の軸構成,構造,設計パラメータ,誤差要 因などが工作機械の全体性能にどのような影響を与えるかを同定する方法を提案してき た.これまでの方法では,通常の形状創成理論で行うように,工作機械の要素を剛体と みなし,直動機構の真直度誤差,主軸の熱変形など機械要素特性に起因する誤差の みを,各構造要素に付与した局所座標系間の変換における変換誤差の形で取り扱って きた.しかし,工作機械の性能を考える上で,構造体内部の変形もまた重要な誤差要因 であり,無視することはできない.そこで、既存の有限要素法に基づく計算ソフトウェアと 組み合わせ、構造体の内部変形をより詳細に計算し、その構造変形が全体性能にどの ように影響するかをより精密に見積もる方法を提案する. - 174 - 設計対象としてはこれまでの例と同様、3 つの直動軸のみを有する立型のフライス盤と し,理論的には最も性能の良いとされる XY テーブルを有する形式を考える.解析対象と する工作機械の単純化した模式図を図 2.1.44 に示す. Column Ld Spindle head Tool Lt Workpiece Acutator (X) Ls Actuator (Y) Actuator (Z) 図 2.1.44 対象とした工作機械の構造形式 この工作機械の理論的性能の解析を行うに際して,表 2.1.21 に示す局所誤差を定義し た.各誤差パラメータは機械要素の特性に起因する誤差と構造構成要素の内部変形に 起因する誤差の合計として表される. 表 2.1.21 定義した誤差パラメータ パラメータ名 変数 XY方向直動機構の角度誤差 α1 , β1, γ1 XY方向直動機構の並進誤差 δ ξ 1 , δ ψ 1 , δζ 1 Z 方向直動機構の角度誤差 α3 , β3 , γ3 Z 方向直動機構の並進誤差 δ ξ 3 , δ ψ 3 , δζ 3 主軸の角度誤差 α4 主軸の偏心 δ ξ4 主軸の伸び δζ 4 2.2 有限要素法計算結果の導入 いま,図 2.1.44 に示す工作機械モデルにおいて,コラム部が単純な梁形状ではなく,リ ブ構造をもつ中空形状だと考える.工作機械において典型的に見られるリブ構造を仮 定し,主軸頭重量が作用した際に,コラム部がどのように変形するかを有限要素法によ って計算した結果を次の図 2.1.45 に示す. - 175 - 図 2.1.45 工作機械コラムの変形量計算結果 (2)c) 解析結果 図 2.1.45 に示される工作機械部材の変形量の値を開発した概念設計評価手法に導 入し,各誤差要因の影響度について指針を得ることができた.(図 2.1.46)この結果,構 造体を単純な中実の梁形状と考え,材料力学の基礎式により変形量を計算して与える 場合に比べ,内部構造を考慮した中空モデルの場合,全体性能に対する構造変形の 影響は大きくなることが確認された. Positioning error shift ٛm (構造変形の寄与量が増加) 40 30 20 振動等 外部熱源 加工熱 軸方向熱変位 工具取付け 形状誤差 加工力 自重 10 0 直動機構の並進 誤差成分 直動機構の角度 鉛直軸の並進誤 成分 差成分 鉛直軸の角度誤 差成分 主軸関連の誤差 成分 図 2.1.46 全体性能に与える各局所誤差の影響 (2)d) 既存設計知識との比較 既存の3軸の加工機においては,提案している設計評価手法による評価結果と,熟練 - 176 - 設計者の知見が一致していることを示す. 工作機械構造を,その制御軸の順番などで整理して記述したものを構造コードと呼ぶが, 3軸立フライス盤の構造コードを,工作物から工具側に記述してみる.このとき,X軸とY 軸の特性が同一であることを仮定すると,根本的に異なる構造コードはXYZ/,XY/Z, X/YZ,/XYZの4種類に集約される.(ただし“/”はベッドを表す.)これら4種類の構 造のうち,提案した設計評価手法によれば,各制御軸,主軸などの要素特性が同等で あれば,図 2.1.44 に示す“XY/Z”形が最も高性能であることがこれまでの研究で示さ れている 10). それに対して,次の図 2.1.47 は,“3軸加工機(立フライス盤)における最も優れた構造は 4つの構造のうちどれか”という質問に対するに回答結果である.アンケート結果におい ても,3/4以上の設計者がXY/Z形が最も優れていると回答しており,残る回答も状況 によって異なる,としている.この結果から,冒頭に記したように,計算結果と,熟練設計 者へのアンケート結果は良く一致している,と言って良い. このことは,提案する設計評価手法が基本的に妥当であることを示している.しかし, 一方で,既存の工作機械形状に適用するだけでは熟練設計者の知識を追認している だけであり,設計支援手法としての有効性を示すことは出来ない.そこで,さらに本研究 で提案する設計評価手法を,既存設計知識の蓄積の無い機械構造に適用することを考 えるべきである.この点に着目した検討結果については(4),(5)において記述する. XY/Z XY/Z or X/YZ 図 2.1.47 「3軸立フライスで最も性能の良い設計は?」に対する回答 (3) 開発機における減衰能向上効果の評価 (3)a) 開発機の構造 研究項目①で開発した構造材料は工作機械用の構造材として開発されたものであり, 特に動高速動作時の振動の収束が問題となると考えられ移動体部分に適用が考えられ ている.次の図 2.1.48 に新しい構造材料の適用対象である開発機の概要を示す.図に 見られるように,開発機は門形の構造をしており,本研究における構造形式の表記法に - 177 - 基づくと,X/YZ形である. サドル(Y軸) ヘッド(Z軸) X スライダ(X軸) 図 2.1.48 開発材料を適用する工作機械の構造(図 2.1.29 の再掲) (3)b) 開発機の設計パラメータ,誤差要因 開発機の設計評価に必要な設計パラメータ,誤差要因については規準となる値が下 記のとおりである. 設計パラメータ: Ls:直進軸の案内面からテーブル上面までの距離(X軸)=220mm Ld:Z 軸の案内面から主軸中心までの距離=160mm Lt:主軸頭の駆動の中心から工具先端までの距離=550mm 門巾=836mm 誤差成分の大きさ 水平方向の直進軸の真直度誤差:1.5μm/500mm(水平・垂直方向) 水平方向の直進軸の角度誤差(ローリング,ピッチング,ヨーイング):規定なし 垂直方向の直進軸の真直度誤差:1.5μm/200mm(水平・垂直方向) 垂直方向の直進軸の角度誤差(ローリング,ピッチング,ヨーイング):規定なし (3)c) 減衰能向上効果の検証方法 本研究で提案する設計評価手法では直接的に工作機械の動特性を考慮して設計評 価を行うことは出来ない.なんとなれば,本方法は工作機械の各部の静的変形が工具 -工作物の位置決め精度にどのように影響するかを感度解析的に求めるものであって, 直接的な変位量が明らかの場合にのみ計算が可能だからである.しかし,動剛性の違 いによる影響をある時点での部材の振動振幅の違いとして簡易的に考慮することは可 能である. - 178 - 今,外力による構造部材の振動について図 2.1.49 のようにモデル化する.このとき要 素 i において共振現象は無く,振動振幅は一定,振動は紙面に沿ってのみ起きており, 固有振動数から充分に離れた微小振幅の振動において,要素は剛体として振舞うと考 えて良いとする.このとき要素の角度誤差をγ i,末端の振動振幅をδyi とするとき,γi = δyi/L,である.また角度誤差が微小であるとすれば,X 方向の振動振幅についてδxi= 0 である. Y 座標系:Si’ X 0 要素 i-1 要素 i xi-1’ 座標系:Si-1’ xi+1 yi’ xi’ yi yi-1’ 要素 i+1 yi+1 xi 座標系:Si 外力F yi’ xi’ yi+1 xi+1 座標系:S Si+1 i+1 座標系: 要素 i+1 座標系:Si’ 図 2.1.49 外力による構造部材の振動 また,開発材料を対象となる機械の移動部に適用した結果の表 2.1.14 に,ヘッド部に おいて1次の曲げモードの周波数付近において,減衰比が 0.002 から 0.0057 に向上し たことが示されている.同様に表 2.1.16 には,X軸スライダに適用した場合に同じく曲げ 1次において減衰比が 0.0011 から 0.0023 に向上したことが示されている.いま仮に,あ る部材端における振動振幅を 1 とすると,1周期後の振動振幅は上記4つの減衰比につ いてそれぞれ,0.998,0.994,0.999,0.997 となる.今,ヘッド部がZスライダ上を立移動 する際に,案内面のうねり、ガタなどの形状誤差により反力をうけ案内面の法線方向の 振動が発生し,それがテストカットの1パスの間、減衰自由振動として継続するとする.図 2.1.38 に示したフライス加工のテストカットにおいては,送り速度は 15,000mm/min である から,250mm/s となる.テストピース幅が 50mm であるので,0.2 秒で1回のパスが終了す ることにある.対象とする曲げ振動の周期は約 1.1kHz であるから,0.2 秒の間に,約 220 周期の振動が起こる.220 周期経過後の振動振幅は初期値に対してそれぞれ,0.64, 0.27,0.80,0.52 となる. - 179 - 図 2.1.38 のテストカットの状態において,上で仮定したように,案内面の形状誤差によ り、Yスライダ部に振動が生じ,220 周期経過後の振動振幅がその位置での要素の最大 誤差になるものと仮定する.このとき,振動振幅は上に示した“垂直方向の直進軸の真 直度誤差”の値から最大 1.5μm 程度であると考えられる.このことから,比較対象とする 時点のヘッドのY方向案内面における振動振幅をそれぞれ,0.96μm,0.41μm と推定 する.また,同様にX軸スライダ部に関しては,発生する最大の振動振幅をX方向の案 内面の形状変化によるものと仮定し,1.5μm とする.このとき同じ条件下におけるスライ ダの曲げ振動の振幅は新材料を使用しない場合と使用した場合でそれぞれ 1.2μm, 0.78μm となる.ヘッド部の振動に関しては,ヘッドのY方向変位,X軸スライダの振動に 関しては,スライダ上面のZ軸方向変位として考える. (3)d) 検証結果 前節で推定した構造材料の振動減衰能向上による過渡的な振動振幅の減少効果と, (3)b)節に記載した開発機の設計パラメータ,誤差要因を併せて,本研究の設計評価 計算に導入する.開発機の構造形式であるX/YZ形の基礎式に,推定した誤差要因 及び実際の設計値を代入して計算した.計算結果を誤差要因別の影響として整理し、 新材料を使用した場合と使用しない場合の比較を示したものを次の図 2.1.50 に示す. Positioning error shift μm 2 各誤差要因の影響 新材料の影響箇所 1.5 1 0.5 0 α1 β1 γ1 δx1 δy1 δz1 α3 β3 γ 3 δx3 δy3 δz3 α4 δx4 δx4 図 2.1.50 新構造材料の使用による誤差要因の影響度の変化 図においては材料の変更に係る部分を網掛けにして示している.当然の結果ではある が,新材料の使用により,工具端のX軸方向への振動による変位の影響がある程度低 減できることが示されている.また,新構造材料を使用する場合と使用しない場合につい て,誤差要因が与えられた範囲内で変動した際の平均的位置決め誤差量の違いとした - 180 - 比較することができる.計算される平均誤差量を表 2.1.22 に示す.表から新構造材料の 導入により約%8 程度平均的な位置決め誤差量が減少する可能性があることがわかる. 表 2.1.22 新材料の使用による平均位置決め誤差量の変化 計算される平均の誤差量 新材料を使用しない場合 4.57μm 新材料を使用する場合 4.18μm (4) 異なる設計コンセプト間の設計支援 (4)a) 解析対象モデル 設計の最も初期の段階においては,工作機械のタイプをどのようなものとするかも重要 な決定事項であると考えられる.通常は,工作機械の加工対象の大きさ,これまでの設 計知識の蓄積から,工作機械タイプは自明のものとして設計を開始する場合が多いが, 経験則に拠らない設計支援手法の確立を目的とする本研究においては検討すべき点 である.ここでは,図 2.1.44 に示したシングルコラムタイプの機械の他に,門形機(図 2.1.51),ハイブリッド機(図 2.1.52)を解析し,比較を行うことで設計指針を導出すること を試みた.その際の設計パラメータはそれぞれ次の表 2.1.23,2.1.24 に定義した. 表 2.1.23 門形フライス盤モデルの設計パラメータ 変数 工作機械における意味 Ws 工作物の幅,奥行き,高さ Db 主軸軸受径 Lw クロスバー長さ/2 Lz 主軸頭の突出し長 Ld 主軸中心-クロスバー距離 Ls 直動機構高さ 表 2.1.24 ハイブリッド形フライス盤モデルの設計パラメータ 変数 変数の意味 Ws 工作物の幅,奥行き,高さ Db 主軸軸受径 Lw コラム間隔/2 Lz 主軸ユニットの長さ Lc コラムの高さ Ls 直動機構高さ - 181 - X 方向直動機構の 角度誤差:α3,β3,γ3 並進誤差:δx3,δy3,δ Lw Ws 0 X Ld Y Z 方向直動機構の 角度誤差:α2,β2,γ2 X 直動機構 並進誤差:δx2,δy2 コラムの伸び:δz1 Z 直動機構 Z Lz コラム Lt 主軸 工作物 テーブル(Y 直動機構) Ls 0 主軸頭 X 主軸頭の角度誤差:α4,β4 Y 方向直動機構の 主軸の伸び:δz4 角度誤差:α1,β1,γ1 主軸の偏心:δx5 並進誤差:δx1,δy1,δz1 図 2.1.51 門形フライス盤モデル - 182 - Lw Ws X 0 主軸の伸 び:δy5 Y Lz Lt アームの伸 び:δx4 Z コラム コラムの伸 び:δz3 Lc 主軸 工作物 テーブル(Y 直動機構) Ls 0 主軸頭 X Y 方向直動機構の 角度誤差:α1,β1,γ1 並進誤差:δx1,δy1,δz1 図 2.1.52 ハイブリッド形フライス盤モデル (4)b) 解析結果 門形フライス盤モデルにおける設計パラメータの影響,同サイズのハイブリッド形モデ ルにおける同等の設計パラメータの影響を図 2.1.53 に比較する.また,それぞれの形式 における局所誤差の影響をそれぞれ図 2.1.54,2.1.55 に示す. - 183 - ハイブリッド形 同サイズの門形 Positioning error μ m 100 90 80 70 60 50 40 30 50 100 150 Ws[mm] 25 50 Db[mm] 75 200 400 Lw[mm] 600 150 300 Lz[mm] 450 100 200 300 Ld[mm] 50 100 150 Ls[mm] Positioning error shift μm 図 2.1.53 門形,ハイブリッド形フライス盤における設計パラメータと性能の関係 40 振動等 外部熱源 30 軸方向熱変位 形状誤差 20 自重 10 0 α1 β1 γ1 δx1 δy1 δz1 α2 β2 γ1 δx2 δy2 δz1 α3 β3 γ3 δx3 δy3 δz3 図 2.1.54 門形フライス盤における局所誤差の影響 - 184 - α4 β4 δz4 δx5 Positioning error shift μm 40 振動等 30 外部熱源 内部損失熱 形状誤差 20 10 0 α1 β1 γ1 δx1 δy1 δz1 δz3 δx4 δy5 図 2.1.55 ハイブリッド形工作機械における局所誤差の影響 (4)c) 比較に基づく設計指針 前節の計算結果から,構造の異なるフライス系の工作機械の比較として定性的に次の ことを言うことができる. A) ほぼ同サイズの工作機械の比較では,ハイブリッド形における理論的位置決め誤差 は従来型の門形に比べて小さい. B) 門形とシングルコラム形では寸法が異なるため直接の比較はできないが,同サイズ の工作物を加工するという条件下ではほぼ同程度の位置決め誤差が予想される. C) 門形機とハイブリッド形では全体性能は,設計パラメータの変動に対して比較的ロバ ストである.すなわち,この2形式は機械の大型化に向くことが予想される. D) シングルコラム形を含むいずれの形式においても直動機構の角度誤差が重要であ り,この誤差の管理が高精度化のために重要である. 一般的に,ハイブリッド形などの新構造の工作機械は同程度の加工領域を有するシン グルコラム形の機械に比べて誤差量が減少し,高精度な機械構造であるとともに,設計 パラメータの変動に対しても比較的ロバストであることが明らかになった.また,従来から ある,門形の構造では誤差量そのものは同等の加工領域を有するシングルコラム形フラ イス盤と比較してほぼ同程度であったが,設計パラメータの変化に対しては性能の変化 が緩やかで,比較的ロバストな工作機械構造であることが明らかになった.このことから, これまで大型の機械構造に門形が主として用いられてきたことが別の観点から補強され る. また,局所誤差の影響についても解析を行った結果,やはり門形,ハイブリッド形はシ ングルコラム形の機械に比べ局所誤差の変動に対して概ねロバストであることが言えた. - 185 - すなわち,これらの機械は比較的精度の低い機械要素を用いても精度が確保し易いと いうことが言え,実用的には有望な工作機械構造である. (5) 5軸加工機の概念設計支援 (5)a) 5軸加工機における設計評価の必要性 5軸加工機(マシニングセンタ)は,一般に5軸以上の同時制御可能なNC制御軸を有 する工作機械とすることができる.この定義の場合,パラレルリンク工作機械など機械構 造も含むが,一般的に5軸加工機として使用されているものは,直動3軸,回転2軸を有 する形式がほとんどである.この形式に限り,また重複,実現不可能な形式,5面加工が 実現的ない形式を除いても,可能な構造形式は 216 通りに上るとされる 11).216 通りの構 成形式を全て解析して,相互比較することも不可能では無いが,実際の工作機械設計 においては,要素特性,寸法,構造材料による性能の違いも考慮しなくてはならず,構 造形式の優劣のみで設計が決定されるわけではない.実用的な手法としては,候補とな る構造形式を初期段階において絞り込むための汎用的な設計指針を提示することが目 標となろう.なお,本報告では,提案している手法が5軸加工機の設計評価に有効であ ることを示すことと,大きく異なる典型的な5軸加工機の構造形式の比較により初歩的な 設計指針を類推することを行う. 設計評価に先立って,現在日本国内の工作機械メーカにおいてどのような構造形式 の5軸加工機が開発されているかについての調査を行った.次の表 2.1.25 が調査結果 を示すものである.表中に見られるように,所謂“Tilting rotary table”という,工作物テー ブル側に回転2軸を有するものが多いことがわかる.ただし,“Swivel head and a rotary table(工作物側,工具側各回転1軸)”,“Double pivot(工具側回転2軸)”などの他の形 式も,特に大型の機械においては見られる.このように実際に開発,製造されている5軸 加工機の形式も多数に上ることから,本手法のような設計評価手法の有効性は言えるも のと考えている. 本研究ではこの3つの基本形式全てを解析対象とするが,本報告書においては最も 基本的な形式間の比較結果を示すにとどめ,多岐の工作機械構造に対する実際の設 計評価に対しては,今後開発する予定のソフトウェアに譲る. - 186 - 表 2.1.25 国内で開発されている5軸加工機構造の調査結果 立形 Tilting rotary table トラニオン形 コラムトラバース形 コラム前後形 プロファイラタイプ ガントリータイプ コラムトラバース形 CBY/XZ CAY/XZ CA/YXZ CB/YXZ CB/XYZ CX/YZA X/ZYCB /XZYCB BAX/ZY コラム前後形 BAZ/XY コラムトラバース形 CBX/ZY ABX/ZY ABZ/XY CBZ/XY CB/ZXY AB/ZXY BX/ZYA BXZ/YA X/ZYCA X/ZYCB /XZYCA /XZYCB X/YZBA /XYZBA テーブル固定形 Swivel head and rotary table MC タイプ Double pivot 門形 横形 Tilting rotary table トラニオン形 Table on table 形 コラム前後形 テーブル固定形 Swivel head and rotary table MC タイプ Double pivot MC タイプ コラム前後形 テーブル前後形 テーブル移動形 テーブル固定形 門形 プロファイラタイプ ガントリータイプ (5)b) 自由度の分散,集中による性能の違い 前項に記したとおり,ここでは次の図 2.1.56,2.1.57 に模式図を示す2種類の5軸マシ ニングセンタの構造形式を解析対象とする.図 2.1.56 の形式は,通常の3軸の立形マシ ニングセンタに2軸の割り出しが可能なロータリーテーブルを搭載して簡易的に5軸加工 が可能なようにしたものである.一方,図 2.1.57 の形式は専用設計であり,回転の2軸が ベースの両側に1軸づつ割り振られている.先の構造コード表記法によれば,それぞれ CAXY/Z形,CY/ZXB形と表すことができる. - 187 - Z X Z B C A C Y Y X 図 2.1.56 CAXY/Z 形の加工機 図 2.1.57 CY/ZXB 形の加工機 この2つの構造形式に対し,要素特性は全く同じであると仮定し,構造変形の影響は 考えないこととする.また,両形式に共通の設計パラメータとして表 2.1.26,制御要素の 誤差として表 2.1.27 を与える.表 2.1.27 のノイズファクタが存在する条件下で,表 2.1.26 のコントロールファクタを表中に示した4つの値に変動させたとき,その変動が全体性能 に与える影響をロバスト設計の手法により計算することができる.図 2.1.58 に計算結果を 示す. 表 2.1.26 設計パラメータ 変数の意味 θ(回転テーブルの回転角) φ(テイルト角,主軸傾斜角) Lt(主軸長さ) Ls(直動機構高さ) Lr(傾斜機構高さ) 変動範囲 -90°, -30°, 30°, 90° -45°, -15°, 15°, 45° 0.16m, 0.32m, 0.48m, 0.64m 0.08m, 0.16m, 0.24m, 0.32m 0.16m, 0.32m, 0.48m, 0.64m 表 2.1.27 誤差成分 誤差成分 変動範囲 回転軸の角度誤差 ±20″ 回転軸の並進誤差 ±1μm 直動軸の角度誤差 ±10″ 直動軸の並進誤差 ±2μm - 188 - Positioning error μ m CY/ZXB type CAXY/Z type 160 140 120 100 80 60 -90 90 -45 45 0.16 0.64 0.08 0.32 0.16 0.64 図 2.1.58 5軸加工機の2形式の性能比較 計算結果からは,CAXY/Z形に比べてCY/ZXB形の性能が良いことが示された. 要素特性,設計パラメータは同じ値を与えているので,この差は構造形式の違いによる ものである.3軸加工機に関するこれまでの設計評価結果においても,静止部(ベース) の両側に,制御軸が均等に割り振られた形式が,片側に制御軸が集中した形式に比べ て性能が良いことが示されている.図 2.1.58 から,5軸加工機においても,制御軸が静 止部の両側に均等に振り分けられた自由度分散形の構造形式が有利であることが類推 できる.ただし,この結果は容易に想像できるものであり,実際には構造形式によって設 定しうる設計パラメータもその変動範囲も異なる.また,制御軸の要素特性も,構造形式 や,どの位置に配置されるかにより異なることが予想される.この点の,より実際の工作機 械設計に即した評価は今後の課題であるが,本設計評価手法により5軸加工機の設計 評価が可能であることは示すことができたと考えている. (5)c) 3種類に基本構造形式における性能比較 さらに本課題では,より一般的に見られる5軸加工機の構造形式相互の性能比較を試 みた.先に述べたように5軸加工機の構造形式は多岐に渡り,分類方法も様々である. しかし,実用的観点からは,5軸加工機といえどもこれまでの3軸加工機の延長であり, 直線3軸,回転2軸に限って良い.この場合,回転2軸がどのように配置されるかによって 構造形式を分類することが可能であり,ISO,JIS 規格制定へ向けての研究 12) においても そのように分類されている.このとき,代表的な5軸加工機の構造形式は 5.1 節に述べた ように,“Tilting rotary table(工作物側回転2軸)”,“Swivel head and a rotary table(工 作物側,工具側各回転1軸)”,“Double pivot(工具側回転2軸)”の3種類である.次の - 189 - 図 2.1.59 に3種類の構造形式の模式図を示す.この3種類の構造形式の性能比較を行 うに当たって,これまで同様3種類の形式に共通の設計パラメータとして表 2.1.28 のもの, 誤差要因として表 2.1.29 を定める. Y B X X Z Z Z B A C A X C Y (a) Tilting rotary table 形 (b) Double pivot 形 Y (c)Swivel head and rotary table 形 図 2.1.59 5軸加工機(立形)の代表的な構造形式 変数 θ φ Lt Ls Lr 表 2.1.28 設計パラメータ 意味づけ ロータリテーブル(または主軸頭)の回転角 テーブル(または工具)ティルトの角度 工具長 直動機構(またはロータリテーブル)の高さ ティルト機構の高さ 変動範囲 -90-90 deg. -60-60 deg. 0.16-0.64 m 0.08-0.32 m 0.16-0.64 m 表 2.1.29 要因の名称 回転軸の角度誤差 回転軸の並進誤差 直動軸の角度誤差 直動軸の並進誤差 誤差要因 最大誤差量(絶対値) 0.0000625rad. 5 μm 0.0000485rad. 1-5 μm(方向によって異なる) 今回の仮定の場合は,表 2.1.27 の場合と異なり,直動軸の並進誤差に対して方向性 を考えた.また回転軸,直動軸ともに,回転テーブル,直動機構など実際の機械要素の 典型的な誤差量を範囲として考えている.上の設計パラメータ,誤差要因の値を用いて, 図 2.1.59 の3種類の構造形式の理論的な性能を比較したものが次の図 2.1.60 である. - 190 - CA/XYZ CY/ZXB XY/ZBA Overall error μ m 150 130 110 90 70 50 -90 90 -45 45 0.16 0.64 0.08 0.32 0.16 0.64 図 2.1.60 3種類の基本構造形式の性能比較 計算結果からは回転軸,傾斜軸,直進軸の特性が構造形式によらず同一であるとす るとき,double pivot 形の理論的誤差が小さいことが示されている.これは立形機ではコ ラム高さがある程度大きいため,比較的大きな角度誤差が構造リンクの工作物側にある 場合,コラムの反対端で誤差が拡大するため,全体的誤差が比較的大きくなるものと考 えられる.今回仮定した値では回転軸の誤差が直動軸に比べて大きいためである. (6) まとめ 1)従来から提案してきた設計評価手法に既存の有限要素法に基づく部材変形の計算 結果を導入し,構造構成要素の内部変形の影響をより正確に見積もる方法を提案し た. 2)この手法を用いて工作機械の実際のリブ構造を想定した構造構成要素の形状が工 作機械性能に与える影響を解析できることを示した. 3)シングルコラム形,門形,ハイブリッド形の異なる構造形式が工作機械の全体性能に どのように影響するかを比較した. 4)比較の結果,門形,ハイブリッド形では全体性能に対する設計パラメータ,局所誤差 の影響は,シングルコラム形に比べて概ね小さく,ロバストな構造形式であることが明ら かになった. 5)従来から提案してきた設計評価手法を用いて,5軸加工機の設計評価を行うことが可 能であった. 6)2種類の構造形式の比較からは,制御軸が静止部の両側に均等に振り分けられた自 由度分散形の構造形式が有利であることが類推できた. - 191 - 7)全ての構造形式で回転軸,直動軸の誤差要因の大きさが同じと仮定した場合,3種 類の基本構造形式の中で“Double pivot”形の性能が僅かに高かった.ただし,これは 設計パラメータ,誤差要因の大きさが同じとした場合であり,実際には“Double pivot”形 は比較的大型の機械に多いなどの差があることを考慮する必要がある. - 192 - 2.1.1 節文献 1) 藤村浩志,井野博満:日本金属学会誌,59(1995),686-693. 2) 水内潔,大神田佳平,元木信弥:化学と工業,64(1990),417-423. 3) 千田邦浩,石田昌義,中須洋一,八木正昭:材料とプロセス 18(2005),1570. 4) 大塚秀幸,許亜,和田仁:電磁力関係のダイナミックスシンポジウム講演論文集, 11(2000),341-342. 5) 田中良平:制振材料(日本規格協会),(1992),196. 6) 近角聰信:強磁性体の物理下(裳華房),(2000),56-78. 7) 高橋正氣:検査技術(日本工業出版),12(2007),48-65. 8) 三島, 石井, 森, タグチメソッドを用いた工作機械設計のロバスト性評価法, 精密 工学会誌, 64, 10(1998)pp. 1502-1506. 9) 三島,工作機械の設計評価の研究-小型化を指向した設計パラメータ評価-, 精密工学会誌, 67, 11(2001) pp.1787-1791. 10) 三島,芦田,谷川,前川,田中,マイクロファクトリと小型工作機械の概念設計, 精密工学会誌, 68, 4(2002)pp. 586-590. 11) 佐藤,日本における5軸MCの設計と性能,第 12 回国際工作機械技術者会議 講演テキスト,2006 年 11 月,pp.45-61 12) (社)日本工作機械工業会,5 軸制御マシニングセンタ精度検査規格標準化説 明会資料 - 193 - 2.1.1 節自己判定 ①高減衰能片状黒鉛鋳鉄の研 ②実機鋳造品による性能評価 ③設計・評価ツールの研究開 究開発 技術の研究開発 発 FC300に対し、 高減衰能片状黒鉛鋳鉄の実機 開発材料の特性を考慮可能な ヤング率:同等 減衰能:3倍以 応用 上 工作機械の設計・評価ツール 及び試験機と比較機(従来機) の比較測定 鋳鉄組成の制御、鋳造後の熱 機械の構造部品として重量12 ロバスト設計手法に基づく概念 処理施工により、現用鋳鉄FC 0kg~260kgの部品を製作 300に対して、ヤング率同等 設計評価手法と、有限要素法 し、製造ノウハウの蓄積を行っ による詳細な構造変形の計算 減衰能3倍の材料を開発達成 た。製作した部品の減衰能を測 を組み合わせた工作機械設計 定し、減衰効果の有効な部品 支援ツールを提案した。この方 形状の確認ができた。また、製 法を開発機やその他の工作機 作部品を組み込んだ試験機を 械構造に適用して設計支援を 製造し、比較機(従来機)と比 行う方法を示した。減衰能の向 較測定、加工比較試験を実施 上による性能変化については した。ただし、試験機と比較機 簡易な推定を行ったが、より高 での加工比較試験での差を見 精度な検証が必要である。 出すことはできなかった。 ◎ ○ - 194 - ○ 2.1.1 節 成果リスト (1) 研究発表・講演(口頭発表も含む) 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) 10) 11) 12) 13) N.Mishima, Development of design tool supporting design reviewing of machine tools, Proceedings of ASPE2005, Norfolk, VA, Oct.2005 N.Mishima,Robust conceptual design of machine tools,Proceedings of International Conference on Design Engineering and Science 2005, Vienna, Austria, Nov.2005 N.Mishima, Optimum size consideration of machine tools,Proceedings of Asian Symposium of Precision Engineering and Nanotechnology 2005, Shenzen, China, Nov.2005 N.Mishima, Robust conceptual design of machine tools,Selected Articles of the 1st International Conference on Design Engineering and Science, Japan Society for Design Engineering, (2006.6), pp7-11 N.Mishima, Development of a design tool for machine tools combining conceptual design support and detail design method,Proceedings of International Conference on Precision engineering, Tokyo, Japan, Aug.2006 N.Mishima, Development of a design tool supporting conceptual design of machine tools, Proceedings of ASPE2006, Monterey, CA, Oct.2006 N.Mishima, Optimum size consideration of machine tools, Key Engineering Materials, Vol.339 (2007), pp337-342 内村浩他,Alを添加した片状黒鉛鋳鉄のヤング率と対数減衰率の変化,日 本鋳造工学会第150回全国講演大会講演論文集,2007年5月19日 内村浩他,Alを添加した片状黒鉛鋳鉄の組織と振動減衰機構,日本鋳造工 学会第150回全国講演大会講演論文集,2007年5月19日 内村浩他,Alを添加した片状黒鉛鋳鉄の振動減衰能,日本鋳造工学会鋳 鉄溶解研究部会,2007年8月3日 内村浩他,Alを添加した片状黒鉛鋳鉄の振動減衰能,日本学術振興会鋳 物第24委員会鋳鉄分科会,2007年9月18日 三島望,工作機械の概念設計支援手法の研究-5軸加工機の設計評価への適 用-,精密工学会2007年度秋季大会講演論文集,2007年9月 N.Mishima, Development of a design tool supporting conceptual design of machine tools - application to multi-axis machine tools -, Proceedings of ASPE2007, Dallas, TX, Oct.2007 - 195 - (2) 特許等 国 内 特 許 出 願 2件 高剛性高減衰能鋳鉄 高剛性高減衰能鋳鉄 外 国 特 許 出 願 1件 高剛性高減衰能鋳鉄 特 願 2007- 33894 特 願 2007-326447 PCT/JP2008/051410 (3) 受賞実績 (1)に記載の成果発表 2) “Robust conceptual design of machine tools”について,同会 議の Best paper award を受賞. - 196 - 2.1.2 軽量高剛性構造材料と評価技術の開発 (株式会社 森精機製作所、大阪大学産業科学研究所、大阪大学接合科学研究所) 近年、国際競争の激化による製造現場の海外流出などにより、製品を生産する手法や過 程における技術に係わる国際的優位性が失われつつあり、我が国製造業の競争力低下に つながりかねない事態となっている。このような状況の中、製造業を支える機械加工システム に対して、従来以上の高効率化・高精度化、生産ライン変更の迅速化、省エネルギー化等 が強く望まれている。上記のような要望に対して、軽量化を図る手法として、従来アルミニウ ムを使用してきたが、機械剛性の低下、熱膨張係数が大きい等のデメリットもあり、普及には 至っていない。 そこで、このような様々な欠点を補う新素材として、気孔に方向性をもたせたロータス型ポ ーラス金属を工作機械構造体として応用することにより、軽量化及び制動性向上を図ること が可能となる。また、ロータス型ポーラス金属は、ノンポーラス金属(中実材)と比較して制振 性が良いという特性をもつことから、工具寿命の長期化や加工面精度の向上が期待できる。 ロータス型ポーラス金属とは、多数の微細孔 が一方向に整列した蓮根のようなポーラス(多 孔質)金属で、図Ⅲ.2.1.2.1 のようなものである。 従来の多孔質金属と異なり、ロータス型ポーラ ス金属は気孔が細長く、気孔が一方向に揃っ ており、従来の多孔質金属より格段に強度が 優れている。また、気孔が細長い為、気孔長 手方向に負荷を与えた場合、気孔はほとんど 応力集中部とはならない。 疲労特性におい ても、ロータス型ポーラス金属は、実験で疲労 図Ⅲ.2.1.2.1 ロータス型ポーラス金属 寿命がノンポーラス金属と断面積当り同等であ (Mg 及びステンレス鋼) ることが実証されている。よって、ロータス型の 気孔は、亀裂発生を誘発するようなことはない。 また、亀裂が進展するような負荷が掛かった場 合、気孔により亀裂進展が抑制される実験結 果も報告されている。 後で述べているが、構造体は溶接構造で 形成されるため、応力除去焼鈍を施さなけれ ばならず、経年変形については特に問題ない と考えられる。 ロータス型ポーラス金属の作製原理は、溶 融金属におけるガス原子の溶解度が大きく、 図Ⅲ.2.1.2.2 ロータス型ポーラス金属の その固体金属中での固溶度が小さい場合、凝 作製法例 - 197 - 固時に固溶しきれないガス原子が気泡を形成することを利用している。 ロータス型ポーラス金属の作製は、現在連続帯溶融法で作製している。この方法は、金属 棒を高周波コイルで部分溶解させ、溶融状態で吸収されたガスが凝固に伴い過飽和ガスと なって気泡を形成させることを利用している。気孔径と気孔率は凝固速度に依存して変化す ることが知られているが、この凝固速度は棒材試料の移動速度と比例している。従って、棒 材試料の移動速度を一定に保てば均一な気孔径と気孔率をもつロータス型ポーラス金属を 作製することができる。(図Ⅲ.2.1.2.2 参照) また、窒素で作製したロータス鉄(純鉄の場合)では、気孔率が50%でも、気孔のないノン ポーラス鉄と同等の強度を示すという驚くべき結果が得られた。これは、微量に固溶した窒 素原子が鉄の格子を歪ませることによって塑性変形に伴う転位が移動し難くなり鉄が固溶強 化されたためであると考えられる。 このようなロータス型ポーラス金属を使用し、軽量・高剛性の工作機械を実用化することに より、工作機械使用時のエネルギー消費量の削減が期待でき、製造業を支える機械加工シ ステムに対して、高効率化・高精度化、省エネルギー化等が図れ、わが国製造業の国際競 争力強化に寄与することが大きいと予想される。 (1) 研究目標 工作機械の構造体の軽量高剛性材料として、気孔率20%のロータス炭素鋼を用いる。 工作機械の構造体を形成するには、900mm×1800mm の定尺の鋼材による溶接構造また は鋳物構造のような自由な形状が求められる。しかし、ロータス炭素鋼では、300mm幅程 度の板形状までが現状では限界寸法と考えられる。本事業では、構造体の形状は、300mm 幅、500mm 長さの板材のロータス炭素鋼を作製してこれを溶接構造で900mm 幅×250mm 奥行×1400mm 高さ程度のサドルを製作し て従来の小型の横形マシニングセンタのサ サドル ドル(図Ⅲ.2.1.2.3)に採用して同形状の鋳鉄 製のサドルとの剛性及び軽量化の効果を比 較する。また、溶接性を考慮して、材質は一 X軸 般構造用鋼(低炭素鋼)を使用する。図 Ⅲ.2.1.2.3 の工作機械は、新しい重心駆動 機を採用するなど新規性に富む機械であり、 大型機の場合、特に軽量・高剛性化が必要 となるので、今後の機種開発を見込んで選 定した。 本研究開発での実施内容は下記の通りで ある。 ①ロータス炭素鋼の作製については、現状、 図Ⅲ.2.1.2.3 小型の工作機械 高周波溶解による連続帯溶融法で直径11 - 198 - mmの丸棒ロータス炭素鋼が作製できている。本研究開発では300mm幅の板材が必要で あるため、現状の方法では作製が困難である。そのため、平成16年4月に小型連続鋳造装 置が開発された。銅のような冷却能がよい材料を用いることにより、すでに板状のロータス銅 は、一部作製可能となっている。しかし冷却能が悪い炭素鋼では、気孔を制御しにくく、制 御方法が確立されていない。現状までの評価では、ロータス炭素鋼は気孔率20%程度で、 気孔径0.3~1mmが最適であると考えられ、本研究開発では、この制御方法について確立 する。 この研究開発は、森精機製作所と再委託先の大阪大学産業科学研究所との共同開発で 行なう。 ②ロータス炭素鋼の概略の機械的性質は既に調べられているが、制振性、冷却能(熱伝導 性)等については、詳細なデータがないため、これを測定する。 現状解明されているロータス炭素鋼の機械的性質は、下記の通りである。 1.強度に関しては、窒素による固溶強化のため、気孔率20%までノンポーラス炭素鋼と 比較して降伏強度は低下しないことがわかっている。 ロータス炭素鋼の降伏強度は気孔率20%で、250~300MPa 程度であり、ねずみ 鋳鉄(FC250,300)の引張強度250~300MPa と同等である。 2.材料単体の制振性に関しては、内部摩擦測定法ではノンポーラス炭素鋼でQ-1 =6 ×10-5、気孔率20%のロータス炭素鋼でQ-1=1.2×10-4となることがわかっており、 気孔率20%ロータス炭素鋼が、ノンポーラス炭素鋼の 2 倍の減衰能がある。但し、文 献によると鋳鉄と一般構造用鋼の減衰能の比較は、鋳鉄が10倍程度良い。 3.冷却能力に関しては、冷却装置ヒートシンクのポーラス銅の実験では、通常の銅のヒ ートシンクに対してポーラス銅で作製したヒートシンクは、同量の冷媒を流した場合、3 倍以上の冷却能力を持つことがわかっている。そのため、ロータス炭素鋼でも同様の 効果が得られると考えられる。 ③ロータス炭素鋼を使用して工作機械の構造体を構成する場合に必要な板状ロータス炭素 鋼の溶接技術は、再委託先の大阪大学接合科学研究所中田研究室で実施する。 ④300mm幅×500mm長さの板材のロータス炭素鋼を作製してこれを溶接構造で900mm 幅×250mm奥行×1400mm高さ程度のサドルを設計し、従来の小型の横形マシニングセ ンタのサドルに採用して、同形状の鋳鉄製のサドルと、剛性、軽量化、熱変位について比較 する。その結果、鋳鉄及び一般構造用鋼と同等の剛性を持ち、20%軽量化、制振性及び熱 変位が50%削減可能な構造体を設計する。また、ロータス炭素鋼は異方性があり、負荷が 気孔の長手方向にかかる場合は特に問題とならないが、負荷が長手直角方向に掛かる場合 は、気孔の長径端が応力集中部となるので、ロータス炭素鋼の気孔の向きを考慮した構造設 計を検討する必要がある。 結論として、本研究開発では、ロータス炭素鋼を工作機械の移動体の構造体に採用する と、下記の効果があると考えられる。 剛性については、気孔率20%で従来の鋳鉄と同等の強度が得られる。気孔率20%の板 - 199 - 材のロータス炭素鋼を溶接構造で作製するが、ロータス炭素鋼の表皮層の中実部分で溶接 されるために実質の重量の変化はなく、気孔率通りの軽量化が図れる。そのため、無負荷時 の電流値を考慮して10%以上の消費エネルギーが削減できると考えられる。 気孔率20%のロータス炭素鋼が、ノンポーラス炭素鋼の 2 倍の減衰能があることが判って おり、ロータス炭素鋼を使用して構造体を形成した場合においても、その効果が発揮できる ような研究をする必要がある。 熱変位に関しては、冷却装置ヒートシンクのポーラス銅の実験によると冷却能が従来の3 倍以上の効果がある。また、一般構造用鋼とロータス炭素鋼は、同じ熱膨張係数であるが、 ロータス炭素鋼の方が、冷却能力が高い特性を生かし、機械構造設計の工夫により構造体 に冷媒等を流し、熱変位を従来比50%に抑える研究を行なう必要がある。 - 200 -