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路上作業エリアの安全性向上に関する要因分析 Safety Improvements

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路上作業エリアの安全性向上に関する要因分析 Safety Improvements
報 文
路上作業エリアの安全性向上に関する要因分析
Safety Improvements at Traffic Work Zones
武本 東* 平澤 匡介** 浅野 基樹*** 高田 哲哉****
Azuma TAKEMOTO, Masayuki HIRASAWA, Motoki ASANO and Tetsuya TAKADA
わが国では建設工事の事故防止にあたって要綱や指針を策定しており、近年、建設労働災害は減少
傾向にある。しかし、依然として平成17年にも約27,000人が被災しており、うち約500人が亡くなっ
ている。その原因として交通事故は3番目に多く、通行車両の直近で作業を行う路上作業エリアの安
全性向上は重要である。
本研究では、北海道における路上作業エリアの安全性向上のため、積雪・降雪時を考慮した現状の
路上作業エリアの問題点・課題を整理した。現状の路上作業エリアの交通安全対策に関する満足度調
査を施工者側(警備会社)と道路利用者側(トラック運送会社)に対して行い、CS ポートフォリオ
分析を用いて重点的に改善すべき項目を抽出した。その結果、路上工事用標示板の表示内容の分かり
やすさ、路上工事用標示板と交通整理員の視認性に対する満足度が特に低く改善する必要性が高いこ
とを把握した。
≪キーワード:交通安全;路上作業エリア;CS ポートフォリオ分析≫
In Japan, outlines and guidelines on construction work safety measures have been set up for the
prevention of construction accidents. So recently, such accidents have been showing a downward
trend. However, about 27,000 people suffered those accidents in 2005, about 500 of whom died.
Traffic accidents rank third among the causes of construction accidents, and safety improvements
for traffic work zones are important.
This research examines traffic work zones in Hokkaido toward safety improvement in the
snowy and other seasons. Roadwork builders and road users were surveyed by questionnaire
about their satisfaction with current traffic work zones. Customer satisfaction portfolio analysis of
the survey responses was conducted to clarify the items that should be improved by priority for
safety at traffic work zones. The analysis revealed dissatisfaction with the understandability of
signs, the visibility of road workers, and the visibility of roadwork signs. So it was found that these
items need to improve.
≪ Keywords : traffic safety, traffic work zones, customer satisfaction portfolio analysis ≫
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
17
1.まえがき
そこで本研究では、北海道の路上作業エリアにおけ
る安全性向上を目的として、北海道内の路上作業エリ
わが国の建設工事における労働災害は、平成8年ま
アでの交通事故の実態調査を行った上で、現状の路上
では年間の死者数が1千人を超える状況にあった。
作業エリアにおける交通安全対策に関して施工者側
国土交通省では、平成8年に建設工事における労働
(警備会社)と一般道路利用者側(トラック運送会社)
災害についての「事故データベースシステム」を整備
に対して満足度調査を実施し、路上作業エリアの安全
し、その後、
「安全施工技術指針」の策定、
「安全教育」
性向上に向けた基礎的検討を行うとともに、日本国内
に関する検討等を実施してきた。また、事故の減少・
及び諸外国での路上作業エリアの交通安全対策に関す
再発防止や請負者の安全管理の推進を支援することを
る事例を収集した。
目的として、産学官の有識者による「建設工事事故対
策検討委員会」を平成12年2月に設置し、
「事故デー
タベースシステム」を活用した様々な検討を行ってい
る。
平成8年から平成12年までに登録された建設工事事
故のうち、交通事故は3番目に多く、発生件数は5年
間で422件であり全体の約16%を占めていた(図-1)
。
建設工事事故対策検討委員会では、特に事故が多発し
ている墜落事故、重機事故、交通事故について重点対
策を実施することを提唱した。そこで、国土交通省で
は、建設工事における交通事故の課題として、
・一般ドライバーに対する交通整理員の視認性向上
800
675
700
600
477
件 500
422
400
224
300
161 144
200
108
100
0
墜 重 交 飛 取 工 倒
落 機 通 来 扱 具 壊
事 落 運 取
故 下 搬 扱
等
61 46 37 32 27
19 5
土
砂
崩
壊
第
三
者
転
倒
・
物
損
130
3
3
躓 落 挟 爆 疾 酸 船 そ
き 盤 ま 発 病 欠 舶 の
転
れ 事
事 他
倒
故
故
図-1 建設労働災害の種類別発生状況1)
・一般車両突入時の被災軽減
・適正な交通整理員の配置
の3項目を抽出し、平成13年度から継続して、
・一般ドライバーに対する注意喚起向上のための「交
通整理員の服装改善の徹底」
・事故から作業員を守る「デルタクッション設置の推
図-2 デルタクッション
進(図-2)
」
・
「交通整理員のロボット化の推進」
2.路上作業エリアにおける交通事故発生状況と課題
・
「適正な交通整理員の配置」
を重点対策として推進している。
2.1.北海道の路上作業エリアの交通事故発生状況
その結果、平成17年には年間死者数が約500人まで
路上作業エリアの安全性に関する現状の課題を整理
減少し、この10年間で、建設工事事故による死者数は
するにあたり、まず、北海道における路上作業エリア
半減した。
の交通事故発生状況を把握することとした。
しかし、施工条件の複雑化や労働者の高齢化など、
北海道開発局が所有している「工事現場等における
建設現場を取り巻く環境は大きく変化しており、全労
事故速報調書」を参考資料とし、一般国道の路上作業
働災害のうち建設工事事故における死者数は3分の1
エリアにおける交通事故を抽出した。抽出した期間は、
近くを占めている。また、通行車両の直近で作業を行
平成14年1月∼平成15年12月、平成17年1月∼ 12月
う必要がある路上工事は、常に交通事故発生と隣合わ
の計3年間である。なお、平成16年分は、とりまとめ
せの状況にあり、交通事故から工事関係者(交通整理
の都合で欠損していたため調査対象外とした。
員や路上作業員等)の安全を確保する取り組みは重要
交通事故抽出の基準としては、『もらい事故』とし
であり、北海道においては、実際の交通事故発生状況
て「一般車両が工事関係者を死傷させる事故」
、
「一般
を分析し、積雪・降雪時を考慮した主な事故要因を特
車両が規制車両・作業車両・安全施設等へ衝突等によ
定することや効果的な手法を検討・提案することは重
る事故」を抽出した。工事関係者が関与していない
『自
要である。
損・交通事故』としては「路上作業エリアで停車中の
18
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
一般車両に後続の一般車両が追突する事故」
、
「路上作
業エリア内の一般車両の単独事故」を抽出した。
集計の結果、一般国道の路上作業エリアにおける交
通事故発生件数全体は3年間で170件であり、事故の分
類では、『もらい事故』が54%、工事関係者が関与し
。
ていない『自損・交通事故』が46%であった(図-3)
季節別の発生状況には大きな差は見られなかったが、
もらい事故
(54%)
70
60
50
40
30
20
10
0
N=170
23
30
25
32
38
22
H14
時間帯別では昼間が84%と大半を占め、夏の昼間が最
も多く45%を占めた(図-4)
。
自損・交通事故
(46%)
H15
H17
図-3 路上作業エリアにおける事故発生件数
事故内容としては、負傷・死亡を併せた人身事故が
46%発生しており、
死亡のみでも5%発生していた(図
-5)
。損失発生状況としては、施工者側の被害件数
N=170
0%
季節
のほうが多く、54%を占めた(図-6)。施工者側被
害の内訳は、規制車・作業車の被害が全体の25%を占
め最も多く、最も死亡事故に至りやすい交通整理員の
被害は11%であった。
交通事故の要因については、全体で「脇見・前方不
注意」が58%で最も多くなり、
「運転操作・判断ミス」
20%
60%
80%
夏
90(53%)
夏・昼間
77(45%)
100%
冬
80(47%)
昼間
143(84%)
時間
季節×時間
40%
夜間
27(16%)
夏・
夜間
13
(8%)
冬・昼間
66(39%)
冬・
夜間
14
(8%)
図-4 事故発生状況(季節・昼夜別)
等、運転者側の過失による事故が併せて85%を占めた
(図-7)
。一方、施工業者の過失とされる「作業員の
人身事故
死亡
9
(5%)
不注意」「規制誘導の誤り」
「安全施設の不適・不備」
は、併せても1割に満たない結果となった。なお、「ス
リップ・視程障害等」による事故は8%であった。季
節別・時間帯別の事故要因では、全体同様、どの場合
でも「脇見・前方不注意」が最も多くなった。しかし、
冬期や夜間では、その割合は5割以下と低下し、その
反面、冬期は「運転操作・判断ミス」
「スリップ・視
物損事故
93
(54%)
N=170
人身事故
負傷
68
(41%)
程障害等」、夜間は「過度のスピード」による事故が
多くなった。
2.
2.主な事故要因から考えられる対策
図-5 事故内容
(1)脇見・前方不注意
路上作業エリアへの一般車両の進入等によるもらい
事故の多くは、運転者側の脇見や前方不注意が原因と
交通整理員
18 (11%)
なっている。対策案としては、
路上工事用標示板や音・
振動等による案内・注意喚起効果の向上、交通整理員
の視認性の向上が考えられる。
作業員・
運転手
18 (11%)
一般車両
78 (46%)
N=170
規制車・
作業車
43 (25%)
(2)運転操作・判断ミス
運転操作・判断ミスには、一般車が冬期の除雪作業
車を無理に追い越す事故も含まれる。除雪作業車を追
い越す際の注意喚起効果の向上等も必要と考えられ
る。
また、可変標示板等による適切な情報提供等も重要
安全
施設
13 (7%)
施工者側被害
92 (54%)
図-6 損失発生状況
だと考えられる。
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
19
運 転 者 側の 過 失 �
施 工 者 側の 過 失 �
道路環境�
��
季
節
時
間
帯
���
� � �� � � � �
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N= ��
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��
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����
� �
��
脇 見 ・前方 不 注意 (58%)
施 工 者 側の 過 失 (7%) 道 路 環 境 (8%)
運 転 者 側の 過 失 (85%)
図-7 事故要因(季節別・時間帯別)
(3)過度のスピード
アンケートでは、以下の項目を設定した。
過度のスピードによる事故は夜間に多く、死亡事故
アンケート票の一部を図-8に示す。
に至りやすい。電光掲示板等の視覚的な対策や、音・
・ヒヤリ・事故経験の有無
振動等による注意喚起、デルタクッションの設置によ
・ヒヤリ・事故経験時の状況
る対策が考えられる。
(路面状態・地域・道路種別・季節・時間帯・天候・
道路形状)
(4)居眠り
・路上作業施設設置状況[警備会社のみ]
視覚的な注意喚起は効果が期待できない。対策案と
(電光掲示板・衝突緩衝体・体感マットの設置状況)
しては、音・振動等による注意喚起やデルタクッショ
・現状の路上作業エリアの安全性に関する満足度
ンの設置が考えられる。
(表-1)
「ヒヤリ・事故経験の有無とその時の状況」のアン
3.北海道の路上作業エリアの交通安全対策に関する
ケート結果から、警備会社の約7割、トラック運送会
満足度調査
社の約6割が、路上作業エリアでヒヤリ・事故経験が
。その時の状況につい
あることを把握した(表-2)
3.
1.満足度調査概要
て共通していたのは、路面状態では凍結時、地域では
路上作業エリアにおける現状の交通安全対策の問題
郊外部、道路種別では国道、勾配では平坦ということ
点を把握し安全性向上を検討するため、交通整理を行
であった。警備会社とトラック運送会社で異なる傾向
う施工者側(警備会社)と一般の道路利用者側(トラ
を示したのは、季節、時間帯、天候、道路形状の項目
ック運送会社)に対して現状の交通安全対策に関する
であった。トラック運送会社の場合、季節では積雪期、
満足度調査を実施し、双方の意識やその差異を把握す
時間帯では夜間、天候では降雪時、道路形状ではカー
ることを目指した。
ブといった悪条件の時に危険を感じる割合が高くなっ
調査の概要を以下に示す。
た。しかし、警備会社の場合、季節では無積雪期、時
・調査期間:H17.2.10(木)∼ H17.2.28(月)
間帯では昼間、天候では晴天時、道路形状では直線道
・調査対象:北海道内の警備会社、
路といった好条件だと思われる時に危険を感じる割合
札幌圏のトラック運送会社
が高くなった。
・調査方法:アンケートの郵送配布、郵送回収
警備会社における路上作業施設の設置状況について
・配布回収状況:警備会社[配布数266票、回収数79
は、電光掲示板の設置が「必ず設置」「たまに設置」
票(回収率29.7%)
]
、トラック運送会社[配布数
を合わせて約9割となり、衝突緩衝体・体感マットに
270票、回収数95票(回収率35.2%)
]
比べ高い設置率となった(図-9)。
20
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
0%
20%
40%
必ず設置
30
電光掲示板
(N=62)
衝突緩衝体
(N=62)
12
体感マット
(N=61)
10
60%
80%
たまに設置
24
29
17
100%
設置しない
8
21
34
図-9 路上作業施設の設置状況
3.2.CS調査による分析結果
(1)CS調査の概要
CS(Customer Satisfaction)調査は、マーケティ
ング分野等に用いられる顧客満足度調査の総称であ
る。主な特徴としては、「満足度に影響を及ぼす要因
の期待度を数値で把握することが可能」、「確立された
統計手法に基づく解析を行うため、結果に対する信頼
性が高い」、「アンケート内容が平易なために回答者が
答えやすく、負担を軽減できる」等が挙げられる。
本調査では、表-1の「現状の路上作業エリアの安
図-8 「現状の路上作業エリアの安全性に関する満足度」
(警備会社用)のアンケート票
全性に関する満足度」の項目を基に、現状の問題点の
把握と優先的な改善が期待される事項の抽出を目的と
して、CS調査の分析手法の一つであるCSポートフ
ォリオ分析を行った。CSポートフォリオ分析は、各
表-1 「現状の路上作業エリアの安全性に関する満足度」
の調査項目
項目の現状の満足度と、総合満足度向上への期待度結
果をそれぞれ標準化(偏差値化)し、双方を考慮した
「改善度」という指標を用いて、各項目の優先的な改
大項目
小項目
路 路上工事用 ①設置場所 ②設置数量 ③日中の見やすさ
安
標示板
④夜間の見やすさ ⑤表示内容のわかりやすさ
上
全
■トラック運送会社 ■警備会社
作
対
業 交通整理員 ①配置場所 ②配置人数 ①安全ベスト ②服装
策
■共通
エ
の
③日中の見やすさ ④夜間の見やすさ
リ
総
ア 電光掲示板 ①日中の見やすさ ②夜間の見やすさ
合
③表示内容のわかりやすさ
に
満
①日中の見やすさ ②夜間の見やすさ
お 工事用信号機 ③表示のわかりやすさ
足
け
①設置場所 ②設置数量 ③大きさ
度
る 衝突緩衝体 ④日中の見やすさ ⑤夜間の見やすさ
善が期待される度合いを把握する手法である。なお、
CSポートフォリオ分析の結果をプロットした図をC
Sプロット図という。CSプロット図は、縦軸を現状
満足度偏差値とし、横軸を期待度偏差値としたグラフ
である(図-10)
。
改善度を算出するには、CSプロット図において、
平均値座標(50,50)から各項目の座標位置までの距
50)と座標(80,
離と、改善度基本軸(平均値座標(50,
20)を結ぶ直線)から各座標までの角度を基とした角
表-2 「ヒヤリ・事故経験時の状況」の選択肢と回答結果
アンケート項目
危険・事故経験
路面状態
地域
道路種別
勾配
季節
時間帯
天候
道路形状
選択肢
ある・ない
乾燥・湿潤・凍結
都市部・郊外部・峠部・
沿岸部・山間部
高速道路・国道・
道道・市道
上り・下り・平坦
無積雪期・積雪期
昼間・夜間
晴・曇・雨・雪・吹雪
直線・交差点・カーブ・
トンネル部・橋梁部
最も多かった選択肢とその割合
警備会社
トラック運送会社
ある
68.0 ある
59.6
凍結
49.0 凍結
61.1
度の修正指数を求め、それらの積を求める。
[改善度]=[①距離]*[②角度の修正指数]
①距離 : ( x � x ) 2 + ( y � y ) 2 , ( x , y ) = (50,50) ②角度の修正指数 : (90−角度)/90
郊外部
41.2 郊外部
42.9
改善度は、平均値座標からの距離が大きく、改善度
国道
48.0 国道
71.2
平坦
無積雪期
昼間
晴
66.0
52.9
68.0
34.7
平坦
積雪期
夜間
雪
46.0
65.5
55.4
40.7
基本軸との角度が小さいほど、つまり、CSプロット
直線
56.9 カーブ
50.9
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
図のより右下に位置する項目ほど大きな値となる。一
般に、改善度が高い項目を優先的に改善することによ
り、総合満足度を効果的に向上させることができる。
21
(2)各小項目の満足度結果
(3)総合満足度向上への期待度の把握
まず、満足度の傾向を明確にするため、計20項目の
次に、各小項目の総合満足度向上への期待度を把握
小項目の評価(不満・やや不満・普通・やや満足・満
するため、重回帰分析を行った(図-13)。重回帰分
足)を1∼5点(平均3点)で得点化した。
析は2段階で行い、1段階目は、目的変数を路上作業
その結果、警備会社において3点未満の不満傾向を
エリアの安全対策に関する総合的な満足度とし、説明
示したのは20項目中8項目あった。そのうち、路上工
変数を表-1で設定した5つの大項目の満足度とした。
事用標示板の「夜間の視認性」が2.51点で最も低く、
2段階目は、目的変数を各大項目の満足度とし、説明
次いで交通整理員・衝突緩衝体の「夜間の視認性」が
変数を各小項目の満足度とした。ここで、2段階目の
2.73点となった(図-11)。一方、トラック運送会社
重回帰分析から求まる各小項目の期待度は、大項目の
において3点未満の項目は9項目あった。警備会社と
満足度向上に対しての期待度を示すため、これに1段
同じく路上工事用標示板の「夜間の視認性」が2.42点
階目の重回帰分析から求めた各大項目の総合満足度向
で最も低く、次いで交通整理員の「夜間の視認性」が
上への期待度を乗じることにより、総合満足度向上に
2.61点となった(図-12)。また、路上作業エリアの
対する各小項目の期待度を算出した。なお、それぞれ
各安全対策を総合した満足度は、双方とも平均の3点
における期待度は、項目間を相対的に比較するための
以下となった。
値である。
トラック運送会社における交通整理員の項目につい
重回帰分析の結果、警備会社において総合満足度向
て全項目が3点未満となり警備会社の回答の傾向と異
上への期待度が最も高くなった項目は、路上工事用標
なる傾向を示したことは、警備会社とトラック運送会
示板の「表示内容のわかりやすさ」となり、次いで交
社の満足度の差を表すものとして注意すべきものと考
通整理員の「服装の色」、衝突緩衝体の「夜間の視認性」
えられる。
となった(図-14)。一方、トラック運送会社におい
ては、電光掲示板の「表示内容のわかりやすさ」が最
現状の満足度 満足度
も期待度が高くなり、次いで路上工事用標示板の「表
80.0
70.0
①平均値座標からの距離 2
2 ( x � x ) + ( y � y)
( x , y ) = (50,50) 示内容のわかりやすさ」、交通整理員の「日中の視認性」
2位
要因3
60.0
50.0
40.0
となった(図-15)。
②改善度基本軸との角度の
修正指数:(90-角度)/90
警備会社では、交通整理員の「服装の色」、衝突緩
衝体の「大きさ」や「夜間の視認性」といった自己防
平均 平均
1位
要因1
3位
要因2
衛に関する事項の期待度が高くなった。トラック運送
会社では、路上工事用標示板や電光掲示板の「表示内
改善度基本軸
改善度基本軸
30.0
容のわかりやすさ」、交通整理員の「日中の視認性」
20.0
20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0
や「夜間の視認性」といった路上作業エリアや交通整
期待度 影響度
理員の早期認知に関する事項の期待度が高くなった。
要 因 1 の 改 善 が 最 も 効 果 的 !
図-10 CSプロット図
設置場所
3.04
日中の視認性
2.51
夜間の視認性
3.41
服装の色
3.32
日中の視認性
3.35
夜間の視認性
工事用
信号機
電光
掲示板
3.43
3.25
表示内容のわかりやすさ
工事用
信号機
3.09
3.33
3.17
2.84
3.04
3.16
夜間の視認性
設置場所
3.01
2.93
2.89
数量
衝突緩衝体
3.11
3.19
2.99
大きさ
3.00
日中の視認性
2.73
2.76
夜間の視認性
路上作業エリアの総合満足度
2.98
3.00
3.24
日中の視認性
表示のわかりやすさ
2.00
2.98
2.61
夜間の視認性
2.93
1.00
2.82
日中の視認性
設置場所
路上作業エリアの総合満足度
2.78
配置人数
2.93
夜間の視認性
2.64
日中の視認性
表示のわかりやすさ
大きさ
2.42
夜間の視認性
表示内容のわかりやすさ
2.86
日中の視認性
4.00
図-11 現状の満足度の得点結果(警備会社)
22
3.05
夜間の視認性
夜間の視認性
数量
衝突緩衝体
交通整理員
3.29
夜間の視認性
3.05
配置場所
2.73
日中の視認性
日中の視認性
3.10
数量
日中の視認性
表示内容のわかりやすさ
2.74
安全ベスト
電光
掲示板
路上工事用
標示板
3.09
表示内容のわかりやすさ
交通整理員
設置場所
3.26
数量
路上工事用
標示板
5.00
2.81
1.00
2.00
3.00
4.00
5.00
図-12 現状の満足度の得点結果(トラック運送会社)
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
重回帰式:Y=b0+b1・x1+b2・x2+b3・x3+…+bn・xn Y:目的変数、xi:説明変数、bi:期待度 ■ 2 段階に分けて重回帰分析を行う(以下、警備会社の結果を示す)。
1 段階目 Y:路上作業エリアの総合満足度 x1:路上工事用標示板の満足度 x2:交通整理員の満足度 x3:電光掲示板の満足度 x4:工事用信号機の満足度 x5:衝突緩衝体の満足度 重回帰分析結果 分散分析表
要 因
**:1%有意 *:5%有意
偏差平方和 自 由 度 平均平方 F 値 P 値 判 定
29.77
5.21
34.98
回帰変動
誤差変動
全体変動
5
55
60
5.95
0.09
0.375
0.243
0.122
0.123
0.278
b1 路上工事用標示板の期待度
b2 交通整理員の期待度
b3 電光掲示板の期待度
b4 工事用信号機の期待度
b5 衝突緩衝体の期待度
62.80
0.00
**
0.8772
全体変動
3
65
68
b2 夜間の見やすさの期待度
b3 表示内容のわかりやすさの期待度
路上工事用標示板の「表示内容のわかりやすさ」は
警備会社・トラック運送会社双方にとって優先的に改
善すべき度合いが高くなった。交通整理員の「夜間の
F 値
P 値
判 定
決定係数
69.12
0.00
**
0.7613
視認性」については、警備会社に比べトラック運送会
社のほうが優先的に改善すべき度合いが高くなった。
0.425
0.216
0.381
警備会社
**
**
**
**
**
**
0.8772
0.6633
0.6170
0.6687
0.7613
0.6277
「表示内容のわかりやすさ」となり、次いで、衝突緩
認性」となった(図-17)。
また、トラック運送会社にとっては、交通整理員の「日
中の視認性」の優先順位も高くなった。今後、路上工
事用標示板の「表示内容のわかりやすさ」や交通整理
※ 各重回帰分析の決定件数とその判定を以下にまとめる。 決定件数
総合満足度
工事案内標識
交通整理員
電光掲示板
工事用信号機
衝突緩衝体
目は、重点改善項目エリアにある路上工事用標示板の
の「夜間の視認性」、路上工事用標示板の「夜間の視
10.29
0.15
b1 日中の見やすさの期待度
その結果、警備会社において最も優先順位が高い項
。一方、トラック運送会社におい
となった(図-16)
**:1%有意 *:5%有意
30.87
9.68
40.55
して改善度を算出し、CSプロット図にまとめた。
示内容のわかりやすさ」となり、次いで、交通整理員
偏差平方和 自 由 度 平均平方
誤差変動
る総合満足度向上への期待度結果を標準化(偏差値化)
て最も優先順位が高い項目は、路上工事用標示板の
「表
分散分析表
回帰変動
各小項目の満足度得点結果、及び、重回帰分析によ
衝体の「夜間の視認性」、交通整理員の「夜間の視認性」
決定係数
2 段階目 【工事用信号機の場合】 Y:工事用信号機の満足度 x1:日中の見やすさの満足度 x2:夜間の見やすさの満足度 x3:表示内容のわかりやすさの満足度 重回帰分析結果 要 因
(4)優先順位の検討と問題点の整理
トラック運送会社
0.7138 **
0.7648 **
0.6728 **
0.7083 **
0.7842 **
0.7084 **
**:1%有意 員の視認性について検討・改善していくことにより、
一般の道路利用者側にとっての路上作業エリアに対す
る満足度が向上する可能性が示唆された。
■ 2 回の重回帰分析結果から、「総合満足度向上に対する大項目の期
待度」と「大項目の満足度向上に対する小項目の期待度」を乗じるこ
とにより、「総合満足度向上に対する各小項目の期待度」を算出する。
なお、それぞれにおける期待度は、項目間を相対的に比較するため
総合満足度
の値である。 総合満足度 大項目 に対する
に対する に対する 小項目の
大項目の 小項目の 期待度
期待度 期待度 日中の見やすさの期待度 : 0.123 * 0.425 * 100 = 5.22 0.123 * 0.216 * 100 = 2.66 夜間の見やすさの期待度 : 表示内容の分かりやすさの期待度 : 0.123 * 0.381 * 100 = 4.69 3.3.運輸関係協会への意識調査
前節の北海道の路上作業エリアの交通安全対策に関
するCSポートフォリオ分析結果を踏まえ、優先順位
が高くなった路上工事用標示板と交通整理員につい
て、現状の問題点・課題を把握し、改善・対策案を検
図-13 重回帰分析におけるパラメータの設定と分析結果
討するため、国道等の道路を頻繁に走行している北海
道トラック協会、北海道バス協会、北海道ハイヤー協
会に対して意識調査を実施した。
10.05
数量
服装の色
電光
掲示板
日中の視認性
3.78
夜間の視認性
3.75
4.08
表示内容のわかりやすさ
工事用
信号機
数量
衝突緩衝体
工事用
信号機
0.02
日中の視認性
9.39
夜間の視認性
0.10
表示のわかりやすさ
0.21
大きさ
衝突緩衝体
1.18
日中の視認性
夜間の視認性
11.16
夜間の視認性
平 均
5.35
0.00
0.19
1.98
3.73
数量
大きさ
平 均
16.26
日中の視認性
設置場所
2.43
設置場所
3.07
夜間の視認性
4.69
表示のわかりやすさ
7.06
表示内容のわかりやすさ
2.66
夜間の視認性
7.56
夜間の視認性
日中の視認性
電光
掲示板
5.22
日中の視認性
10.97
日中の視認性
7.17
夜間の視認性
12.90
5.42
配置人数
交通整理員
0.52
日中の視認性
2.30
夜間の視認性
表示内容のわかりやすさ
14.71
12.95
表示内容のわかりやすさ
交通整理員
3.26
日中の視認性
2.65
夜間の視認性
1.60
数量
路上工事用
標示板
2.89
日中の視認性
8.36
設置場所
2.33
設置場所
路上工事用
標示板
5.00
10.00
15.00
図-14 総合満足度向上への期待度(警備会社)
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
20.00
1.21
3.93
4.31
4.97
0.00
5.00
10.00
15.00
20.00
図-15 総合満足度向上への期待度(トラック運送会社)
23
現状の満足度
現状の満足度 満足度
満足度
80.0
80.0
重点維持項目
維持項目
凡例
凡 例
凡例
凡 例
重点維持項目
維持項目
路上工事用標示板
路上工事用標示板
70.0
日中の
視認性
60.0
日中の
視認性
設置
日中の 場所
視認性
夜間の
視認性
50.0
数量
服装の色
表示内容の
わかりやすさ
日中の
視認性
設置
場所
40.0
交通整理員
電光掲示板
工事用信号
衝突緩衝体
夜間の
視認性
表示の
わかりやすさ
表示の
わかりやすさ
50.0
夜間の
視認性
4位
2位
夜間の
視認性
4位
日中の
視認性
大きさ
設置
場所
衝突緩衝体
5位
日中の
視認性
平均
平均 設置
場所 数量
1位
日中の
視認性
工事 用信 号機
表示内容の
わかりやすさ
日中の
数量 視認性
日中の
視認性
大きさ
平均 平均
電光掲示板
日中の
視認性
夜間の
視認性
60.0
数量 5位
交通整理員
夜間の
視認性
70.0
表示内容の
わかりやすさ
配置
人数
40.0
夜間の
視認性
3位
30.0
2位
夜間の
視認性
1位
表示内容の
わかりやすさ
30.0
改善度基本軸
夜間の
視認性
改善項目
20.0
20.0
改善度基本軸
重点改善項目 重点改善項目
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
影響度
期待度
図-16 CSプロット図(警備会社)
3位
改善項目
20.0
20.0
30.0
夜間の
視認性
40.0
重点改善項目
重点改善項目
50.0
60.0
70.0
80.0
影響度
期待度
図-17 CSプロット図(トラック運送会社)
意識調査では、「路上工事用標示板等のわかりやす
3.4.安全性向上対策における課題整理
さ」に関して、①色・標示板の大きさ・文字の大きさ・
北海道における路上作業エリアの交通事故発生状
夜間の視認性、②設置数・位置、③セフティコーンや
況、警備会社・トラック運送会社への満足度調査結果、
バリケード等の色・大きさ・夜間の視認性についての
各運輸関係協会への意識調査結果を踏まえ、現状の課
調査項目を設け、「交通整理員のわかりやすさ」に関
題として、①路上工事用標示板や安全施設の視認性・
して、①服の色・夜間の視認性、②安全ベストの色・
わかりやすさの向上と、②交通整理員の視認性の向上
夜間の視認性、②配置人数・位置についての調査項目
の2つに大別し整理する。
を設けた(図-18)。その上で、まず概括的な3段階
評価(良い・普通・悪い)をしてもらい、さらに、市
(1)路上工事用標示板・安全施設
街地・市街地別の意見を記述回答により収集した。
路上工事用標示板の問題点として、視認性と表示内
調査の結果、各項目の概括的評価(3段階)では、
容のわかりやすさを指摘する意見が多かった。今後の
ほぼ全項目において「普通」の回答が最も多くなった。
課題として、「気象や地域、道路交通環境、視覚的影
「夜間の視認性」については、路上工事用標示板、セ
響を考慮した設計」や、「LED等を使用した高視認
ーフティコーン・バリケード、交通整理員のいずれも
性標示板の適切な配置の検討」を挙げる。こういった
否定的評価の割合が高くなった。
対策を通して運転者への事前周知を徹底することによ
市街地・非市街地別の改善案・問題点を表-3に示
り、路上工事用標示板に対する満足度が向上し、結果
す。路上工事用標示板については、市街地では、高さ
的に脇見や前方不注意などによる路上作業エリア内で
や数の改善に関する意見が多くなり、非市街地では、
の交通事故削減につながる可能性があると考えられ
文字の大きさの改善や予告標示板の位置の改善に関す
る。
る意見が多くなった。
安全施設についても視認性の向上は重要な課題であ
セフティコーン・バリケードについては、市街地の
る。運転者にとって判別しやすい配置を検討するとと
場合、通行車線の十分な確保を考慮した配置を指摘す
もに、通行車線を十分に確保し、衝突緩衝体を適切に
る意見が多くなり、非市街地の場合、安全施設自体の
配置することにより、交通事故の削減や被害の縮小に
視認性向上に関する意見が多くなった。
つながると考えられる。
交通整理員のわかりやすさについては、市街地・非
市街地ともに、服の色の視認性向上と統一、反射・発
(2)交通整理員
光部分の拡大・増量、誘導位置の改善に関する意見が
交通整理員の問題点として、視認性を指摘する意見
多くなった。また、市街地における問題点として、交
が多かった。今後の課題としては、運転者が余裕を持
通整理員の誘導指示が曖昧・不適切という意見が多く
って交通整理員を認識できるように服装の色彩や反
なった。
射・発光部分を改善することが挙げられる。時間帯や
24
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
気象、道路交通環境等を考慮し、周囲の色彩から判別
4.1.国土交通省関東地方整備局における取組み
できる服装を着用することが望ましい。また、交通誘
国土交通省関東地方整備局では、平成12年度の建設
導技術に関する教育の徹底や、状況に合わせた交通整
工事事故が、局内全体で138件(死亡6名)発生し過去
理員の適切な配置の検討は、運転者に対する早期の案
最多の件数を記録したことから、平成13年度に建設工
内・注意喚起効果を向上させるために有効であると考
事事故防止に向けて「平成13年度重点的安全対策」が
えられる。
策定され、対策の推進・向上が図られた。重点的安全
0%
25%
良い
凡例
標示板
標
示
板
文字の大きさ
夜間の視認性
設置数
位置
交通整理員のわかりやすさ
悪い
60
19
20
緩和対策を適切に実施する」、「有資格交通整理員等を
26
60
配置し、交通整理員・誘導員の質を向上することによ
48
28
大きさ
服の色
服の夜間の視認性
81
21
り事故防止を図る」ことが掲げられた。
36
27
51
21
109件に減少し、現道上のもらい事故・第3者の不注
40
58
20
67
61
意による事故も5件と大きく減少した3)
(表-4)。
13
50
30
て挙げた。その結果、平成15年度の建設工事事故は
30
56
ベストの夜間の視認性
位置
や、一般車両の突入に対する退避等の徹底を課題とし
55
66
55
策を引き続き推進するとともに、誘導ロボットの活用
19
61
33
26
14年度は164件と増加したため、上記の重点的安全対
8
83
15
しかし、平成13年度の建設工事事故は159件、平成
27
81
ベストの色
配置人数
18
82
による事故の防止』として、
「電光掲示板、体感マット、
ラム等の使用や危険性の低い休憩場所の確保等の被災
18
71
対策の中には、『現道上のもらい事故・第3者の不注意
交通誘導ロボット等による衝突防止策、クッションド
7
81
24
色
夜間の視認性
交
通
整
理
員
の
わ
か
り
や
す
さ
100%
標示板のわかりやすさ
大きさ
75%
普通
37
色
路
上
工
事
用
標
示
板
の
わ
か
り
や
す
さ
50%
32
表-4 もらい事故・第3者の不注意による事故の発生状況2),3)
45
工事事故 図-18 運転手からみた標示板・交通整理員の全体的評価
現道上のもらい事故・第 3
表-3 市街地・非市街地別の改善案・問題点
者の不注意による事故 平成 平成 平成 12 年度 13 年度 15 年度
11 件 11 件 14 件 5 件 (3 件 3 名) (1 件 1 名) (1 件 1 名)
※( )内は死亡事故
(記述式回答で特徴的であった項目)
■路上工事用標示板の色・大きさ・文字の大きさ・夜間の見やすさ等
回答内容
市街地
非市街地
標示板を大きく(高く)する
4
10
文字を大きくする
8
23
■路上工事用標示板の設置数・位置等
回答内容
市街地
非市街地
数が多すぎて注意喚起に逆効果
2
17
走行車両から見えづらい箇所に設置
0
10
もっと前方に予告標示板を設置
7
16
■セフティコーンやバリケード等の色・大きさ・夜間の見やすさ等
回答内容
市街地
非市街地
設置箇所が不適切(通行車道が狭い等)
11
7
大きく(高く)して目立たせる
5
13
■交通整理員の服の色・安全ベストの色等
非市街地
回答内容
市街地
目立つように黄色やオレンジ等の明るい色に統一
29
11
ベスト以外箇所の反射・発光部の拡大・増量
7
9
■交通整理員の配置・人数等
回答内容
市街地
非市街地
より前方からの誘導、徐行指示
18
22
誘導指示が曖昧・不適切
13
3
平成 11 年度 4.2.国土交通省近畿地方整備局における取組み
国土交通省近畿地方整備局近畿技術事務所では、
「道
路上のもらい事故防止対策の技術開発」をテーマとし
て施設・システムを公募し、その中で効果的と考えら
れるものについて検討を加え、国土交通省近畿地方整
備局との共同開発や直轄工事でのフィールド実証を行
っている。また、事故防止技術として広く導入・普及
開発を図り、これらを審議して現道工事の安全対策を
推進することを目的として、「現道上のもらい事故対
策検討委員会」を設立し検討を進めている。現在、も
らい事故を防止する有効な技術として、公募の中から
「速度センサー付き警報装置(図-19)」と「衝撃吸収
」の2技術を選定し、提
ライフジャケット(図-20)
4.国内における取組み事例
案者とともに共同開発を行い製品化に至っている4)。
「速度センサー付き警報装置」とは、速度センサー
路上作業エリアの安全性向上に関する日本国内の取
によって通行車両の速度を計測し、運転者および工事
組み事例については、
以下の地方整備局を参考とした。
関係者に対して警報動作を行う事により、路上作業エ
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
25
リアにおけるもらい事故を未然に防ぐ装置である。
「衝撃吸収ライフジャケット」とは、緊急時に内蔵
するエアバッグを展開する事により、不注意で路上作
業エリアに進入してきた通行車両との衝突後の衝撃を
緩和し被害の軽減を図る機器である。
2つの技術とも、もらい事故防止のために多くの工
事関係者に対し使用推進が提唱されている。
4.
3.国土交通省中部地方整備局における取組み
国土交通省中部地方整備局では、路上作業時の事故
防止のため「交通誘導ロボット」や「小型移動式電光
(写真-1)
。
掲示板」を開発し使用推進を図っている5)
図-20 衝撃吸収ライフジャケットのシステム4)
「交通誘導ロボット」は、自動感応標識システムと
組み合わせて使用することで、片側交互通行規制の誘
導を行う際に用いる。交通状況に応じて最適な信号サ
イクルを自動感応標識システムに設定することによ
り、車線絞り込み規制の誘導をロボット単体で行う。
なお、このロボットは、運転手からの視認性を考慮し
て蛍光オレンジ色の制服を着用している。
「小型移動式電光掲示板」は、道路上の工事や作業
等の道路状況を通行車両にあらかじめ的確・迅速に通
知することにより、通行車両の安全かつ円滑な交通を
図る装置である。小型トラック(1t 程度)に搭載可
写真-1 交通誘導ロボット(左)と小型移動式電動掲示板(右)5)
能で、搭載状態及び単独のどちらでも使用可能である。
また、任意の位置での工事情報はもとより、異常気象
5.海外における取組み事例
時における崖崩れ、突風、高潮、積雪、凍結など、危
険な状況の情報提供ができる。さらに、オプションの
路上作業エリアの安全性向上に向けた諸外国の取り
速度感知器を接続することにより、路上作業エリアへ
組みについては、欧米を中心とした8ヶ国の事例を調
高速で進入してくる車両に対して、
「工事中この先走
査し整理した。本稿では、そのうち4ヶ国(アメリカ、
行注意」などの注意喚起の表示を行い、進入防止を図
カナダ、イギリス、フランス)の事例を取りまとめた。
るシステムとしても使用可能である。
5.1.路上作業エリアにおける交通事故発生状況
本稿で調査対象とした諸外国における路上作業エリ
アでの交通事故は、一般道(路上作業エリア以外)で
の交通事故と比較して件数的には多くないが、工事関
係者が被災する人対車両の交通事故が多く、路上作業
エリアでの安全性向上に関する様々な取り組みが行わ
れている。
アメリカでは、一般交通への影響がある維持管理作
業区間での死亡事故発生件数は、1995年に約60件であ
ったものが2004年には約110件となり、10年間で約2倍
となった6)
(図-21)
。米国運輸省(U.S.DOT)では、
図-19 速度センサー付き警報装置のシステム4)
路上作業エリアでの死亡事故発生件数増加の原因とし
て、老朽化・道路建設時の財政的支援増加による路上
作業自体の増加や交通量の増加等を挙げている。
26
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
カナダでは、1997 ∼ 2001年までの5年間に路上作
る。具体的には、高輝度反射のバリケード上部へのビ
業エリアで発生した事故は、死亡事故197件、負傷事
ーコン設置やドラム缶タイプの視認性の高いバレルが
7)
故が10,677件であった 。なお、内8割は人口が多い
。
あり、路上作業エリアで使われ始めている(写真-3)
上位3州が占めていた。
なお、このバレルはクラッシュ・クッションとしての
役割も果たしている。
120
人 100
80
60
40
20
0
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
図-21 路上作業エリアでの死亡事故数の推移(アメリカ)6)
5.
2.調査・研究等の取り組み状況
(1)ガイドラインの改正
欧米諸国では、70年代∼ 80年代の道路事業ブーム
で建設された道路の補修事業等の必要性が高まってお
り、今後も路上作業数の増加が予想されることから、
写真-2 作業エリア標示車両(フランス)9)
路上作業エリアでの安全性の確保が急務となってい
る。
これに伴い、近年、路上作業エリアの安全性向上を
目的としたガイドラインやマニュアル等の策定・改正
が行われている。その際、特に欧米では、路上作業エ
リア内およびその周辺でのモビリティの向上が路上作
業エリアでの交通事故低減につながるとして、重要視
されている。アメリカでは、2003年に安全性の向上に
加えて、モビリティの向上の必要性を強調する事項が
追記されたガイドラインが策定された8)。ドイツやフ
ランスでも、モビリティが考慮された施策・関連方針
写真-3 夜間作業用バレル(アメリカ)10)
を定めている。
(3)音・振動による注意喚起
(2)路上作業エリアの視認性向上対策
アメリカでは、運転者が路上作業エリアに進入した
諸外国において、道路環境の変化等による工事関係
時の注意喚起と速度抑制を目的として、取り外し可能
者の視認性向上のための調査・研究が、人間工学や心
(写
なランブルストリップスの設置を推進している11)
理学などを含めた様々な角度から進められている。
真-4)
。これは、中央線や車道外側線付近に用いる
フランスでは、路上作業エリア並びに維持管理車両
通常のランブルストリップスを路上作業エリアに応用
の視認性を高めることが安全性向上には必要不可欠で
したものである。カンザス州交通省は、車線の閉鎖を
9)
あるというスタンスを取っている 。具体例としては、
必要とする2車線以上の道路での路上作業時には、走
交通誘導・注意喚起を行う作業エリア標示車両に遠く
行車線に取り外し可能なランブルストリップスを設置
からでも運転者が認識できる標識の設置(写真-2)
、
することと規定している。
維持管理車両の後部に標識トレーラーと呼ばれる注意
イギリスでは、路上作業エリアでの速度抑制手法の
喚起を促す標識の設置等が挙げられる。
一つに “THUMPS” と呼ばれる熱加工しやすい新し
アメリカでは、ここ数年、夜間の道路作業が増加傾
い タ イ プ の ハ ン プ の 設 置 が 推 進 さ れ て い る 12)。
向にあり、それによる交通事故も増加している10)。そ
THUMPS は設置・撤去が簡単にでき、従来のハンプ
のため、夜間の視認性を高めることを目的とした自発
と比較し高低差がないため騒音が小さいという特徴が
光型や高輝度反射型の視線誘導標の設置を推進してい
ある。
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
27
交通整理員については、運転者が余裕を持って交通
整理員を認識できるように服装の色彩や反射・発光部
分を改善する必要があると考える。その際、積雪・降
雪時における交通整理員の視認性への影響把握のた
め、交通整理員をより前方から認識するための適切な
服装の検討など、北海道特性を考慮した検討を行うこ
とが重要である。また、交通誘導技術に関する教育の
徹底や、状況に合わせた交通整理員の適切な配置の検
討は、運転者に対する早期の案内・注意喚起効果を向
上させるために有効であると考えられる。
さらに、運転者側の注意不足や居眠り等によるもら
11)
写真-4 取り外し可能なランブルストリップス(アメリカ)
い事故の対策として、危険警報システムやランブルス
トリップス等の音や振動による注意喚起手法を状況に
(4)教育プログラムの必要性
路上作業エリアにおける交通施設などのハード的対
応じて導入することにより、路上作業エリアの安全性
向上に寄与できると考えられる。
策に加えて、工事関係者自身も安全性向上のための対
策を取るべきであるとし、交通整理員・作業員の質を
向上させることが安全性の向上にも繋がるという考え
から、教育プログラムの必要性も課題として挙げられ
【参考文献】
ている。教育プログラムは、交通省など単体の機関が
実施するのではなく、労働省や大学、労働者関連機関・
1)国土交通省事故データベース
団体など関連する全ての機関との協働により進めるこ
2)建設マネジメント技術 2002.6
とが効果的であるとしており、体制づくり等、プログ
3)関東地方整備局記者発表資料(H15数値)
ラムのマネージメントが課題となっている。
4)近畿地方整備局近畿技術事務所 HP
5)中部地方整備局中部技術事務所 HP
6.あとがき
6)National Work Zone Safety Information
Clearinghouse [Fatalities from Fatality Analysis
本研究では、路上作業エリアのより一層の安全性向
上のため、北海道の路上作業エリアの実態調査や交通
Reporting System(FARS)](http://wzsafety.
tamu.edu/crash_data/fatal.stm)
安全対策に関する満足度調査、さらに国内外の事例調
7)Bushman et. Al [A Canadian Perspective on
査を実施することにより、現状における問題点や課題
Work Zone Safety, Mobility and Current
を把握し、効果的な対策の検討を行った。
Technology](2004)
CSポートフォリオ分析を用いて検討した結果、特
に路上工事用標示板の表示内容の分かりやすさ・視認
性と交通整理員の視認性に対する満足度が低く、改善
8)The U.S. Government Printing Office [Federal
Register: Vol.68, No.88](2003)
9)Federal Highway Administration, U.S.
する必要性が高いことを把握した。
Department of Transportation 「Innovative
今後、路上工事用標示板については、
「気象や道路
Traffic Control: Technology and Practice in
交通環境、沿道状況、視覚的影響を考慮した設計」や、
Europe」
(1999)
「LED等を使用した高視認性標示板の適切な配置の
検討」といった対策を通して、運転者への事前周知を
10)Federal Highway Administration「Worker
Safety and Visibility」
徹底していく必要がある。なお、積雪寒冷地である北
11)Texas Transportation Institute(2003)
海道においては、雪や濃霧による視程障害の影響、お
12)Department for Transport [Thermoplastic Road
よび、スリップ等の冬型事故対策を考慮した配置や設
Humps](http://www.dft.gov.uk)
計を検討していくことが重要である。
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寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
武本 東*
平澤 匡介**
浅野 基樹***
高田 哲哉****
寒地土木研究所
寒地道路研究グループ
寒地交通チーム
研究員
寒地土木研究所
寒地道路研究グループ
寒地交通チーム
主任研究員
博士(工学)
技術士(建設)
寒地土木研究所
寒地道路研究グループ
寒地交通チーム
上席研究員
博士(工学)
技術士(建設・総合)
国土交通省
北海道開発局
札幌開発建設部
札幌道路事務所
第1工事課
第1建設係
(前 交通研究室研究員)
寒地土木研究所月報 №642 2006年11月
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