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粘着テープの引きはがし力モデリングに関する研究 Peeling Force

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粘着テープの引きはがし力モデリングに関する研究 Peeling Force
粘着テープの引きはがし力モデリングに関する研究
Peeling Force Modeling for Adhesive Tape
精密工学専攻
46 号
本杉
勇人
Hayato Motosugi
1. 序論
今日,粘着テープは電子部品や自動車部品の接合に多く用
いられ,その使用目的により粘着テープを構成するフィルム
と粘着層は多様な特性を持つ.一方,環境問題に対応するた
め,粘着構造においても引きはがし解体を行い,リサイクル
品質向上が要請されている.本研究は粘着構造の高品質な引
きはがし解体を目的とし,その概要を Fig.1 に示す.
生産性を落とさずに引きはがし解体を行うためには,引き
はがしにかかる時間の短縮(解体時間の短縮)が必要である.
この場合,引きはがし速度を増加させれば良いが,同時に引
きはがし力も大きくなるためテープちぎれの発生原因とな
る.一方,リサイクル品質の向上(解体精度の向上)のため
にはちぎれを防止すればよいが,引きはがし力を抑制する必
要があるため,生産性が低下してしまう.このようなトレー
ドオフの関係を解決するためには,両者の関係性を示す引き
はがし力モデルを構築し,そのモデルにより最適引きはがし
速度を求める必要がある.
本研究では,まずフィルムの伸長変形と粘着層の粘性を考
慮した引きはがし力モデルを提案し,続いて引きはがし解体
実験を行い,提案モデルの有効性を検証した.
かし,これらの三つのモデルは解体速度の増加とちぎれの防
止という二つの関係性を直接示すモデルではないので,トレ
ードオフを解決できない(1)(2)(3)(4).
そのため,本研究では粘弾塑性モデルを提案して,解体速
度の向上とちぎれの防止の関係を直接結びつけ,トレードオ
フの解決について考察する.
2.1.1 弾性モデル(1)
Fig.2 に弾性モデルの概念図を示す.(a)はパラメータの説
明,(b)はテープの自由端での力のつり合い,(c)は粘着端での
力のつり合いを示している.
本研究では Fig.2(a)のように粘着テープをフィルムと粘着
層の 2 層構造としてモデル化した.ただし,引張変形がかか
る自由端ではフィルムの影響が圧倒的に大きいことが経験
的に明らかであるので粘着層の影響は無視する(4).
幅b
フィルムの
厚さh
粘着層の
厚さa
粘着層
(弾性率Y)
粘着層
内部の
応力σc
・弾性係数(フィルム素材)
・粘性係数(粘着層素材)
多様な粘着テープ
A
解体精度の向上
Pcosω
x
粘着層
速度小
速度大
引きはがし力小
フィルム
変形の
力小
引きはがし力増加
トレードオフの関係
研究内容
操作パラメータ
引きはがし速度
粘着テープのパラメータ
引きはがし角度、厚み、
幅、弾性率、粘性係数
Fig.1
関
係
性
の
明
示
が
必
要
(b)
dx
M+dM
M
Pcosω
M=Pl
引きはがし力大
Q+dQ
Q
R
フィルム
変形の
力大
(c)
塑性変形
弾性変形
粘性小→はく離力小 粘性大→はく離力大
Psinω
引きはがし面
粘着テープのちぎれ防止
引きはがし力大
モーメント
引き M=Pl
はがし
角度ω
Psinω
弾性はり
引きはがし力小
l
P
フィルム
の曲がり
幅l
(a)
ちぎれ
引きはがし速度の増加
A
剛体の基材
粘着テープの引きはがし解体
解体時間の短縮
フィルム
(弾性率E)
ω
引き
はがし
力P
Fig.2
粘着層内部にかかる力 R
  b c dx
Elastic model for peeling process
引きはがし力抑制
力の許容値
・ちぎれ防止の許容力
・引きはがし力
引きはがし力モデルの提案
3、4章
検証実験
2章
有効性の検証
5章
Research flow and concept
2. 引きはがし力のモデリング
2.1 引きはがし力モデル
従来の研究で検証されている引きはがし力のモデルには,
弾性モデル,弾塑性モデル,粘弾性モデルの三つがある.し
このモデルはフィルムを弾性はりとして近似したもので
ある.応力分布は Fig.2(a)のようになる.引きはがし力 P は
Fig.2(c)のような粘着層の微小領域のつり合いから表わされ,
以下の関係式で求められる.
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c  2
YP
 2.632  Y 
sin 

 P sin 
ba
2 bh 3 4  Ea 
(1)
sinω/2 項はモーメントによる影響,sinω項は粘着層の引張に
よって発生する粘着層内部にかかる力の影響をそれぞれ示
し,このモデルではこれら二つの力によって粘着テープの引
きはがしが起こるとしている.この場合,フィルムの伸長変
形と粘着層の粘性による変形の影響は無視している.
2.1.2 弾塑性モデル(2)
Fig.3 に弾塑性モデルの概念図を示す.(a)はフィルムの伸
長変形モデル,(b)はフィルムの応力‐ひずみ曲線の例,(c)
は粘着端での力のつり合いを示している.
弾塑性モデルは弾性モデルに加えてフィルムの伸長変形
(Fig.3(a)中のΔl・ε)を考慮するが,粘着テープのパラメ
ータの影響を受けるため,フィルムひずみの弾性限界εe を境
にフィルム変形の様相が弾性変形と塑性変形の 2 種類に分か
れる.その際,それぞれの変形では Fig.3(b)のように弾性係
数が異なるので引きはがし力のモデル式も異なる.弾塑性モ
デルの引きはがし力 N は以下のように求められる.
弾性領域:
 e    P bhE
条件式
N  P
(2a)
P2
2bhE
(2b)
塑性領域:
条件式
条件式
 e    P bhE
(3a)
P e P e   bh
P



N  P
2bhE 2
E
2E2
2E
2
e
2
Δl・ε
Δlcosω
(弾性限界時)
E:フィルムの弾性係数(弾性域)
E2:フィルムの弾性係数(塑性域)
b:フィルム幅
Δl:引きはがし量
Δl・ε :伸長変形量
T:伸長変形による力
P
ω
ω:引きはがし角
T:伸長変形による力
(a)
Nsinω
Psinω
x
Nsinω
T
e
フィルムの
引張応力
傾きE σ P/bh
傾きE2
Ncosω
Tsinω
M=Nl
εe
ε
フィルムひずみ
(b)
Fig.3
T
U O
(5a)
2
O
2bE
(5b)
塑性領域:
P
ε:フィルムひずみ
εe:フィルムひずみの弾性限界
σe:フィルムの引張応力
 e    O bhE
(3b)
どちらの場合も,弾性モデル時の引きはがし力 P にフィルム
の伸長変形を発生させる力 T に関する項が加わっており,伸
長変形を発生させる力 T の増減により引きはがし力も増減す
ることを示している.
塑性変形量 l1  l  (   e )
弾性変形量 l2  l   e
備考;弾性変形時はεe = ε
2.1.4 粘弾塑性モデル
粘弾塑性モデルは上記 2.1.2 項および 2.1.3 項の二つを考慮
したものである.このモデルの特徴としては弾性領域と塑性
領域の区分速度の存在が挙げられる.このモデルでは速度に
対する粘性効果により引きはがし力の大きさが変化し,同一
の粘着テープであってもフィルムの伸長変形の様相が異な
る.そのため,弾性領域のモデルと塑性領域のモデルがある
一定の速度を区分速度として入れ替わることになる.
粘弾塑性モデルの引きはがし力を U とすると,その大きさ
は以下のように求められる.この式は(4)式にフィルムの伸長
変形を発生させる力を加えたもので,O の中に速度項が存在
するため引きはがし速度とフィルムの伸びを考慮した引き
はがし力 U が直接つながった式となる.
弾性領域:
Psinω
(c)
Elastic-plastic model for peeling process
2.1.3 粘弾性モデル(3)(4)
粘弾性モデルは弾性モデルに加えて粘着層の粘性による
変形を考慮したものであり,粘着層に粘性とはく離による応
力がそれぞれかかり,その合力が引きはがし力とつり合う様
子を示している.粘性係数をη,粘弾性モデルの引きはがし
力を O とすると,その大きさは以下の関係式で求められる.
(4)式に導入される粘弾性項には,力のつり合いを考慮し
て Voight モデルを用いている(3)(4).
14
v
YO
 2.632  Y 
c 
sin  3 4 
2
 O sin 
a
ba
2 bh  Ea 
(4)
上式は,(1)式の左辺に粘性による力が加わったものであり,
引きはがし速度によって粘性が増減し,引きはがし力も増減
することを示している.
条件式
 e    O bhE
U O
(6a)
O e O e   bh
O



2bhE2
E
2 E2
2E
2
2
e
(6b)
2.2 粘弾塑性モデルのパラメータが引きはがし力に及ぼす
影響
粘着テープの解体作業におけるパラメータには以下のよ
うな項目が考えられる.これらの各項目が粘弾塑性モデルに
おける引きはがし力に及ぼす影響について以下で検討する.
2.2.1 引きはがし速度 v
引きはがし速度 v が増加した場合,式(4)の左辺分子が増大
するため粘弾性モデルでの引きはがし力 O が増大する.同効
果により式(5b),(6b)の粘弾塑性モデルでの引きはがし力 U
も増大する.式(5a)の右辺分子が増大するためεが増大し,
式(6a)の条件を満たすようになるので,モデル式も式(6b)が適
用されるようになる.
2.2.2 フィルム素材の弾性係数 E,E2
フィルム素材の弾性係数 E,E2 が大きい場合,式(5b),(6b)
の右辺分母が増大するため粘弾塑性モデルでの引きはがし
力 U の速度に対する傾きは低下する.式(5a),式(6a)では右辺
分母が増大するためフィルムひずみεの値が低下し,区分速
度が高速域へと移る.
2.2.3 引きはがし角度ω
引きはがし角度ωが増加した場合,式(4)の右辺分子が低下
するため粘弾性モデルでの引きはがし力 O の速度に対する傾
きが増大する.同効果により式(5b),(6b)の粘弾塑性モデルで
の引きはがし力 U の速度に対する傾きも増大する.式(5a),
(6a)では右辺分子がある一定の角度を境に増減するためフィ
ルムひずみεの値も増減し,区分速度はある一定の角度まで
高速域,それ以降は低速域へと移る.
2.2.4 フィルム厚さ h
フィルム厚さ h を大きくした場合,式(4)の右辺分母が増大
するため粘弾性モデルでの引きはがし力 O の速度に対する傾
きが増大する.式(5b),(6b)でも次数の大きい右辺分子の増大
による影響を最も強く受けるため,同効果により粘弾塑性モ
デルでの引きはがし力 U の速度に対する傾きも増大する.
式(4)の h 以外の変数を任意の定数 A として O を導出し,
式(5a)に代入すると,以下の関係が成り立つ.
フィルム厚さ h が大きくなると式(7)の右辺分母が増大するた
めひずみεが低下し,区分速度が高速域へと移る.
2.2.5 フィルム幅 b
フィルム幅 b を大きくした場合,式(4)の右辺分母が増大す
るため粘弾性モデルでの引きはがし力 O の速度に対する傾き
が増大する.同効果により式(5b),(6b)の粘弾塑性モデルでの
引きはがし力 U の速度に対する傾きも増大する.
式(4)の b 以外の変数を任意の定数 B として O を導出し,
式(5a)に代入すると,以下の関係が成り立つ.
  B hE
(8)
式(8)でフィルムひずみεの導出式には b の項が存在しないの
で,フィルム幅 b が大きくなっても区分速度は変化しない.
2.2.6 粘着層素材の粘性係数η
粘着層素材の粘性係数ηを大きい場合,式(4)の左辺分子が
増大するため粘弾性モデルの引きはがし力 O の速度に対する
傾きが増大する.同効果により式(5b),(6b)の粘弾塑性モデル
での引きはがし力 U の速度に対する傾きも増大する.式(5a),
式(6a)でも右辺分子が増大するためフィルムひずみεが増大
し,区分速度が低速域へと移る.
次章において,これらのパラメータを変化させた場合の引
きはがし力を実験的に検証し,粘弾塑性モデルの妥当性につ
いて考察を行う.
3. 引きはがし力モデルの検証実験
3.1 実験内容
2.2 節で述べた各項目をパラメータとして実験を行い,引
きはがし力の計測値 F を得た.また,フィルムの弾性変形量
Δl1,塑性変形量Δl2 も計測し,変形の様相について観察した.
さらに,顕微鏡で粘着層断面の様子を観察した.
3.2 実験方法と実験装置(1)(3)
粘着テープの端に留めたワイヤをモータで巻取ることに
より引きはがし実験を行った.ワイヤの経路は滑車を通すこ
とで任意に変更でき,それによって引きはがし角度ωの初期
値も変更できる.
Table 1 に本実験のパラメータを示す.実験値と比較するた
め理論計算に用いた主要な特性値は,ポリエステル素材の弾
性係数 28 [N/mm2],PP 素材の弾性係数 16[N/mm2],アクリル
系粘着剤の粘性係数 1.1×10-2[N・s/ mm2],ゴム系粘着剤の
粘性係数 3.0×10-2[N・s/ mm2]などである.
Film material
Film
material
Peeling
angle
PP,polyester
Peeling
angle[deg]
120
Film
Thickness[mm]
0.1
Film
width[mm]
20
Adhesion
Material
Acrylic
0.1
20
Acrylic
Non-waven fabric
90,120,
135,150
120
Film
Thickness
20
Acrylic
Non-waven fabric
120
0.11,0.15,
0.17
0.1
Film
width
Adhesion
Material
15,20,35
Acrylic
PP
120
0.15
20
Acrylic,
Rubber
PP
Flex speed
Same speed
Onset point of
plastic deformation
Peeling speed V [mm/s]
◆Peeling
force
▲Elastic
deformation
●Plastic
deformation
Fig. 4 Influences of peeling speed, peeling force and film
deformation
4.2 引きはがし面の顕微鏡観察
Fig.5 に引きはがし速度を変化させた場合の粘着層断面の
様子を示す.低速,高速の両方の場合において,粘着層の界
面は鋸刃状に伸びが発生していることが図中の一点鎖線で
囲んだ部分から分かる.
また,二つの断面を比較した場合は,低速時では粘着層の
伸びが大きく,高速時では粘着層の伸びが小さくなる.
Fig.5 の現象は鋸刃状糸曳きと呼ばれ,引きはがし解体時に
発生する特徴的な現象である.伸びの大きさを比較した結果
は式(4)の傾向と一致しており,粘着層の粘性による変形をモ
デル中に含む意義を示す.
substrate
Adhesive
substrate
Adhesive
(a) 3[mm/s](×75)
(b)60[mm/s](×75)
Fig.5 Surface profile of peeled adhesive layer
Table 1 Experimental Conditions
Parameter
この結果が 2.2.1 項の傾向と一致していることは,図中の
◆の近似線の区分速度と●の近似線の上昇開始点が同一速
度で発生している(一点鎖線)ことから確認できる.一方,
弾性変形の上昇開始点が区分速度と無関係であることは▲
の近似線から確認できる.
他の実験条件においてもグラフの傾向は同様の結果とな
り,引きはがし力の大きさ,速度に対する力の傾き,モデル
間の区分速度の位置などについては 2.2 節で述べたパラメー
タの変化による理論をほぼ裏付けられる.
Extension ΔL [mm]
(7)
h1 4 E
Peeling force F [N]
A
4. 実験結果
4.1 全体的な傾向
Fig.4 に実験結果の代表例を示す.◆は引きはがし力,●
は塑性変形量,▲は弾性変形量をそれぞれ示している.
Fig.6 に引きはがし角度を変化させた際の粘着層の断面の
様子を示す.白で囲った部分は空孔で,粘着層の伸びによっ
て穴が開いたものである.
Adhesive
Film
substrate
Adhesive
substrate
Film
(a) 90[deg] (×75)
(b) 180[deg] (×75)
Fig.6 Cross-sectional view of peeled adhesive layer
上図より 90°と 180°の場合両方で粘着層の伸びによって
5. 検証結果の考察
5.1 粘弾塑性モデルの妥当性
Fig.7 に 2.1 節で述べた四つのモデルから示される理論値
と実測値を比較して示す.横軸は引きはがし速度 v,縦軸は
引きはがし力 F,P,N,O,U の大きさをそれぞれ示す.◆
は実測値,破線は弾性モデル,点線は弾塑性モデル,一点鎖
線は粘弾性モデル,実線は粘弾塑性モデルを表している.
×Film width
Peeling force F [N]
引きはがしが起こっていることが分かる.これによって断面
の観察からも 180°引きはがしの場合でも粘着層のせん断に
よる影響を無視できる.
●Peeling angle
+Adhesive
material
120°
90°
big
small
▲Film thickness
150° 135°
Over100[mm/s]
◆Film material
Peeling force F,P,N,O,U [N]
Peeling speed V [mm/s]
Viscoelastoplastic
model
Fig.8
Experimental value
Elastic model
Viscoelastic
model
Elastic-plastic
model
Peeling speed V [mm/s]
Fig.7
Comparison of peeling force models
同図によると,実測値に対して弾性モデルと粘弾性モデル
の理論引きはがし力は小さい側に存在し,実測値との差も大
きい.弾塑性モデルと粘弾塑性モデルは大きい側に存在し,
弾塑性モデルでは高速域で実測値との差が大きくなる.すな
わち,モデルがフィルムの伸長変形を考慮しているかどうか
でグラフの傾向が別れており,フィルムの伸長変形をモデル
中に含む意義を示している.
一方,粘弾塑性モデルはごく低速域では弾塑性モデルに比
べて差が大きいが,それ以外の速度では実測値と理論値がよ
く一致している.特に速度 50[mm/s]以降,実測値が塑性変形
を始めてからは粘弾塑性モデルのみが実測値とよく一致し
ている.この結果は,粘弾塑性モデルがフィルム変形の様相
に対応して二つのモデル式を使い分けることの意義を示す.
これらの結果から,引きはがし解体における引きはがし力
を表すモデルとして粘弾塑性モデルは有効であると言える.
5.2 粘弾塑性モデルの弾性領域と塑性領域との区分速度
粘弾塑性モデルでは弾性領域と塑性領域との区分速度が
存在する(Fig.4 参照).この区分速度に及ぼす引きはがし
プロセスパラメータの影響を Fig.8 に実測値で示す.横軸は
引きはがし速度 v,縦軸は引きはがし力 F である.◆はフィ
ルム素材の弾性係数,●は引きはがし角度,▲はフィルム厚
さ,×はフィルム幅,+は粘着層素材の粘性係数を変えた実
験結果をそれぞれ示す.角度以外の各パラメータの大小関係
は図中の矢印で表わし,矢印の先端側が大きな値である.
なお,角度をパラメータとした実験における 135°時の区
分速度は計測可能範囲を超えていたが,100[mm/s]以上である
ことは実験結果より明らかになっている.
同図の結果をまとめると以下のようになる.
①フィルム素材の弾性係数が大きくなると区分速度が大き
くなる.
Influences of peeling speed on peeling force
②角度が大きくなると 90°から 135°までの間は区分速度が
大きくなり,135°から 150°までの間は小さくなる(1).
③フィルム厚さが大きくなると区分速度が大きくなる.
④フィルム幅が大きくなっても区分速度は変わらない.
⑤粘着層素材の粘性が大きくなると区分速度が小さくなる.
これらの傾向は 2.2 節で示した傾向と一致しており,弾性
領域と塑性領域との区分速度を表すモデルとしても粘弾塑
性モデルは有効であると言える.
引きはがし解体の最適速度を 1 章で述べた引きはがし力が
小さく速度が速いものとすると,本研究の実験範囲では上図
における角度 135°,速度 70[mm/s]に近い値で引きはがし解
体を行うことが望ましい.
6. まとめ
本研究では,粘着テープの高品質な引きはがし解体を目的
として,引きはがし力のモデリングについて検討すると共に,
各モデルについて実験的な検証を行った.
本研究の成果は以下のようにまとめられる.
①粘弾塑性モデルを提案した.その後,粘着テープの各パラ
メータが引きはがし力に与える影響を実験し,粘弾塑性モ
デルが引きはがし解体に表すモデルとして有効であると
いう結論を得た.
②粘弾塑性モデルが現実の引きはがし解体による引きはが
し力を正確に表すことができる事を検証した.
③粘着テープの引きはがし角度,フィルムの弾性率,フィル
ムの厚み,フィルムの幅,粘着層の粘性係数,引きはがし
速度による引きはがし力への影響を検証した.
今後の課題は引きはがし力を操作量とする引きはがしシ
ステムの構築である.
参考文献
(1)三田村隆司,引き剥がし解体機械の開発に関する基礎研究,
2005 年度中央大学修士論文
(2)Introduction to Adhesion Science, Three Bond Technical News
Issued April 1, 1983
(3)黒川慎,製品の引きはがし解体に関する基礎研究,2008
年度中央大学修士論文
(4)W. T chen, T.F. Flavin, Mechanics of Adhesion:Elastic and
Elastic-Plastic Behavior, IBM J. RES. DEVELOP., MAY 1972,
pp.203-213
Fly UP