...

ネット時代の 応物コミュニケーション

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

ネット時代の 応物コミュニケーション
ネット時代の応物コミュニケーション
Science Communication of the Internet Age in Applied Physics
応用物理学会業績賞(教育業績)
受賞記念講演2015.3.11
Katsuaki Sato (JST, TUAT)
第15回応用物理学会業績賞(教育業績)受賞者と受賞理由
件名‥インターネット書籍等を通じた
応用物性分野の教育・普及活動への貢献
佐藤勝昭氏は,長年にわたり,インターネットや書籍等を通じて応用物理学に関わる科学技術を
わかりやすく解説すること により,広く若手研究者・技術者の育成と社会における普及括動を行
い,応用物理分野に多大な貢献を果たしてきた.
2000年にインターネットのWEBサイト「物性なんでもQ&A」を開設し,半導体・金属・光・磁性・
結晶工学などを 中心とした応用物性に関する質問を幅広く受け,わかりやすく適切な回答を迅
速に掲載し,小中高生,大学・大学院生, 企業研究者・技術者などからの1300件余りの質問に回答
してきた.それらのQ&Aには索引がつけられ,キーワードを 調べることで,容易に目的とする項
目にたどりつけるようにしている. これらの活動により,若手研究開発者や応用物理学に 興味を
もつ青少年や一般人の知的基盤の底上げに貢献してきた.閲覧数も多く,2007年以降でも60万
件を超えている. インタ-ネット時代の理工系教育に対してまさに先鞭をつけた業績である.
さらに,学協会での招待講演,大学での講義や市民講座などで使用したパワーポイントファイル
をWeb公開するほか,e-ラーニングに積極的に取り組むなどインターネ公開 をフルに活用した
教育活動を行ってきた.また,書籍出版に関しても,数多くの一般.初学研究者向けの書籍を執筆し,
科学知識の普及に努めてきた
学会活動の一環として,「物性なんでもQ&A」をコンパクトにまとめた連載記事は応用物理学会
結晶工学分科会の会誌 『Crystal Letters』に毎回掲載され,2014年9月号の最終回までに22
回を数えた. 以上のように「イン.ターネット・書籍等を通じた応用物性分野の教育・普及活動へ
の貢献」に関する同氏の業績は,学生・若手研究開発者の育成・啓発,科学技術に関する青少年,一般
人への啓発に大きく貢献する卓越したものであるといえ,応用物理学会業績賞(教育業績)として
誠に相応しいものである.
• いま、イノベーションを進めるための
人材育成が強く求められています。
「人材育成」は農業と同じです。土を
作り、種をまき、苗を育て、花を咲か
せ、初めて果実を得るのですから、
手間と時間がかかります。
• いま、インターネットであらゆる情報を取得で
きる時代です。この便利な手段を、人材育成
に活用しない手はありません。
• 私は、応物分野の人材育成には、科学コミュニ
ケーションが重要だと考え、2000年以来、インター
ネットを活用した双方向の対話「物性なんでも
Q&A」を進めてきました。
このたび栄えある応用物理学会業績賞(教育業
績)をいただくこととなりました。長年にわたって進
めてきた地道な努力が評価されたものと、大変嬉
しく存じます。
1996年
1995年~1996年にかけて、研究室の院生(M2)秋田君が、
佐藤研究室のホームページを作成し、私にホームページ作成
法を指南し、1996年3月研究室を後にしました。
それ以来、私がtext fileにhtml tagをつける形でホームページを
メンテすることになりました。
当時のWhat’s newの記載によると、
• 1996/7/26 佐藤教授の講義の項に、電子物性工学Ⅱの質問
回答例および光物性工学の質問回答例がリンクされました。
とあるように、学生からの授業内容についての質問と回答が、
最初にネット公開されました。
それは電子物性工学Ⅱの授業での
学生の質問と回答から始まった
電子物性工学Ⅱ 1996.10.24
10/17の質問への回答
Q:テレビカメラ(CCDでないもの)の原理を知りたい
 A:撮像管という真空管の仲間です。画像は撮像管の窓のすぐ後ろ
にある光導電体(光が当たると電気を通しやすくなる半導体材料)
でできたターゲットに結像され、光の強さに応じた正電荷が蓄えら
れます。これを電子ビームが走査したときに、電荷に応じた電流が回路に流れます。
Q:フレームメモリの原理を教えて欲しい
 A:テレビ信号はアナログですからそのままでは扱えませんので、A/D変換して
ディジタル信号になおして、画素毎にRAMに記録させます。1フレームというのは、
1枚の画面(1秒間には30画面が送られています)のことです。実際には、テレビ
信号はインターレースといって、1走査線おきに伝送されています。その荒い画面を
フィールドといいます。フレームメモリでは2フィールド分をため込んで1フレーム
を作ります。最近のパソコンではテレビ信号の処理ができますが、コンピュータの中
のRAMをフレームメモリとして使用しているのです。
Q:普通のテレビジョンとハイビジョンの違いを教えて欲しい
 A:まず横/縦比が普通のTVは4:3であるのに対し16:9です。走査線の数が、
普通の方式では525本であるのに対しハイビジョンでは1125本です。水平解像
度も現行方式の約2倍と鮮明になっています。伝送方式も、ハイビジョンでは静止画
成分と動き成分をわけて送るなどの工夫をしています。現在は信号をアナログで伝送
していますが、将来は、ディジタル伝送方式になる予定です。
10/17の質問への回答(つづき)
Q:偏光の制御とはなにか
 A:液晶ディスプレイでは液晶分子の配向(並び方)を電圧で制御
することによって偏光の回転を制御し、検光板を透過してくる光の量
を制御します。(詳細は光物性工学:3年前期で)
Q:材料を冷やすことで伝送受信能力が高くなるのはなぜか
 A:熱雑音はkT に比例しますから、一般に低温にすれば雑音が減少し、弱い電波を
増幅することができるようになります。
Q:不純物半導体の導電率のアレニウスプロットにおいて出払い領域が見られない場合
はないのか
 A:あります。いきなり、折れ曲がる場合があります。
Q:デバイスとは何か
 A:英語でdeviceと書きます。仕掛けとか小細工という意味で、一般には、半導体
デバイスは、日本語では半導体素子と訳されていることが多いようで、トランジス
タ、ダイオード、集積回路、発光ダイオード、半導体レーザ、ホトダイオードなど
のことを呼んでいます。
10/17の質問への回答(つづき)
Q:半導体で温度を上げると抵抗が上がるのか、導電率が上がるのかよくわからなかった
 A:半導体では、温度とともにキャリア密度が増加するので電気が流れやすくなりま
す。すなわち、導電率が上がるのです。一方、金属では、キャリアの増加がほとんど
ありませんから、格子振動(フォノン)によるキャリアの散乱が効いて高温では、電
気が流れにくく(抵抗が高く)なります。
Q:半導体が実際の機械の中でどういう役割をしているか
 A:テレビやパソコンの中を覗くと、ムカデのように足のたくさん
ある部品が基盤に半田付けしてあるのが見えるでしょう。あのムカ
デの黒いプラスチックをどけて中を見ると小さな半導体のチップがあります。ダイ
オードでもトランジスタでもプラスチックで保護されていますが、中には、1mm程
度の小さな半導体のチップが納めてあるのです。半導体素子は、ホトダイオードのよ
うにセンサとして使われたり、トランジスタのように増幅器として使われたり、RA
Mのように論理回路素子として使われたりしています。
Q:温度によって抵抗が急激に変化する半導体をどのように制御するのですか。
 A:出払い領域の所ではそんなに大きく変化しませんから、ドーピングの程度をよく
制御すれば、そんなに使いにくくありません。
電子物性工学Ⅱ
佐藤勝昭教官
96.11.21
11/7の質問への回答
Q: TVやプロジェクタでは赤、緑、青で構成されているが、プリンタでは黒、黄、シア
ン、マゼンタで構成されているものがあるが、この違いは何か。
 A: 原色を混ぜて任意の色を作る方法に加色混合と減色混合があります。カラーテレ
ビは加色混合、カラースライドは減色混合です。加色混合の3原色はR(赤)、G
(緑)、B(青)ですが、減色混合の3原色はY(黄)、C(シアン=空色)、M
(マゼンタ=赤紫)です。RGBを加色混合すると白になりますが、YCMを減色
混合すると黒になります。ただ、混ぜ具合でいろんな黒になるので、プリンタの場
合、黒を別途加えているのです。(黒の作り方についての質問があり
ましたが、上の説明でもうおわかりと思います。
Q: たしか、色の3原色は赤、青、黄だったような気がするが・・
 A: 上に述べたように減色混合の場合の3原色はYCMなのですが、
C(シアン)、M(マゼンタ)はなじみのない色なので、小中学生に教える場合、
Cの代わりにGを、Mの代わりにRを使って説明するのです。
Q: 緑は目に優しい、赤は活動的、青は心を落ち着かせるなどといわれるがこれは波長、
反射率どちらに関係があるか。
 A: ものの色は、白色光のうちどの波長をよく反射または散乱するかによって決まっ
ています。この色がどのような心理的効果を持つかは、物理的な性質ではなく人間
の心理学的な性質です。
11/7の質問への回答(つづき)
Q: TVでは真の色は表せないといったが、人間も真の色を見ていないということか。
 A: 人間が見ることのできる色の範囲を全部は表現できないという意味です。
Q: 金属の色は自由電子の集団運動が原因だということだが、半導体の色はどのように見
えるのか。
 A: 半導体の色は、主として光学吸収端の波長で決まります。どのような
波長領域の光を透過するかで色が決まります。本日の講義で説明しますが、
詳しく知りたい方は山田、佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談
社サイエンティフィク)第4章の問4.17の略解(p.196)も参照してください。
Q: 黒に熱が集中するのはなぜか。白の場合はどうなるか
 A: 黒は可視光のすべての波長の光を吸収する場合の色です。吸収された光のエネル
ギーは熱に変わるので、熱が集中するように思えるのです。白というのは、可視域の
波長を波長にかかわらず同程度反射または散乱する場合をいいます。したがって、白
色の物体は光を吸収しないので光をあててもあまり加熱されません。
Q: 金銀銅の自由電子の重さが違ってくるというのはどういう意味か。
 A: 話をわかりやすくするために有効質量が違うとして説明したのですが、この説明
は正確ではありません。実際にはプラズマ(角)周波数ωPは、ωp2=Ne2/m*ε∞で
与えられ、実効的な誘電率が物質によって異なることからωPの違いが生じています。
2000/6/23これまでの講義Q&Aを項目別に整理
「物質の不思議Q&Aコーナー」を新設。
•
•
•
•
•
材料一般
金属の物性と電子状態
物質の硬さと強さ
金属と光・色
合金・金属間化合物
http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/metalQ&A.html
http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/metalQ&A.html
物質の不思議Q&Aコーナー登場
物質のふしぎコーナー
「材料一般」
1. 構造材料と機能材料の違いがよくわからない→A.自動車のボディーを作っている鋼板は構造材料です。し
かし鉄を磁性体としてみたらそれば機能材料ということになります。
2. 金属は昔からよく使われているが、今現在でも精製法に改良が加えられているか→A. 省資源、省エネル
ギー、環境適合性などの観点から、改良が行われています。特に環境汚染物質をどうすれば出さないで作
れるかが大きな課題になっています。すべてのプロセスの見直しがなされているようです。
3. 金は食べたりするが毒性はないのか→A. 金はさびにくいものですが、他の分子と結合しにくく体内にほとん
ど取り込まれません。金は安定で蓄積作用もないので安全性には全く問題ありません。
4. 金属元素の結晶構造にはプリントに乗っている以外のもあるか→A. プリントのはあくまで室温で、1気圧で
安定な相のみです。高温相では別の構造をとるものもありますとるものもあります。
5. なぜアルミは軽いのか→A: Alの原子番号は13, 原子量は27ですから、Mg(原子番号12, 原子量24)につい
で軽い金属です。実用金属としてAlの次に軽いのはTi(原子番号22, 原子量48)ですから、はるかに軽いこと
は明らかです。(このことは、高校生でも知っていると思うのですが)
6. マイクロチップのボンディングにAuが使われているそうだが、Agの方が電気伝導率も低く、引っ張り強さも
大きく有利ではないのか。 ボンディングワイヤはCuの方がよいと思うが。→A: AgはAuよりさびやすいです。
CuはAuに比べて軟らかくないので、圧着や超音波ボンディングが難しいので使いません。
7. 金について18Kと24Kはどう違うのか→A: 純金が24K(カラット)、18Kは金の含有量が18/24の合金です。
8. 純粋な鉄はさびにくいと言われたがどのくらいですか→A: ステンレス並といっておきましょう。
9. 鉄にも固体・液体・気体という相は存在するのでしょうか→A: はい、存在します。高温にしますと、融液とい
う液体になります。溶鉱炉の中の鉄はどろどろに溶けた液体です。また、高温の鉄融液からは鉄の気体が
蒸発しています。真空蒸着で鉄の薄膜が出来ますが、気体となって飛んでいくのです。
10.先生がちらっとおっしゃった透明な誘電体が気になる→A. 誘電体でなく電気伝導体です。透明電極などと
いいます。In-Sn-Oの化合物の薄膜です。これは金属ではなく縮退した半導体といって伝導電子がたくさん
ある半導体です。ZnOも透明電極になります。
物質のふしぎコーナー
金属の物性と電子状態
1. 金属は自由電子を持っているがどうやって結合しているか分からない→A: マイナスの電荷の海にプラス
の電荷が浮かんでいて、プラスの電荷が等間隔に並ぶと静電エネルギーが低くなるのです。
2. 金属の電気的性質は原子の配置で変わるのですか→A: 金属は金属結合という結合の仕方で電気的性
質が決まっていますが、その移動度などの詳細は、電子構造によってきまっており、電子構造は結晶構造
つまり原子の配置によって変わります。
3. 金属の自由電子は全ての電子でなく最外殻電子ですか→A:その通りです。さらにフェルミ準位付近のエネ
ルギーを持つ電子のみです。
4. 授業でCuは1価だということだった。1価の金属なのにイオンになると2価になるのは何故でしょう→A. Cu
の電子配置はアルゴンの閉殻(1s22s22p63s23p6)の外に3d104s1という外殻電子をもっています。4s電子を1
個もっていて、これが金属結合に関与していることが1価金属である由来です。硫黄と結合するときにはこ
の1個の電子が硫黄との共有結合に使われCu1+となります。しかし、酸素と結合すると、4s電子1個と3d電
子1個がイオン結合に使われて結果的にCu2+になります。つまりイオン価数は、金属の価数とは関係なく
アニオンの種類や結合の性質によって変わるのです。遷移金属はイオンになるといろいろの価数をとりま
す。例えばCr(3d54s1)はGaAsに添加されたとき、Cr1+(3d5), Cr2+(3d4), Cr3+(3d3)のいずれの価数をもとること
が知られています。
5. なぜAuがよく伸び、金属の中にはほとんど伸びないものもあるのはなぜですか→A: Auなど貴金属の結合
にはs,p電子が寄与していますが、Fe, Tiなど遷移金属の結合にはd電子が寄与しています。金属結合は、
原子の外殻電子のうちs,p電子が結晶全体に広がることによって全エネルギーが低下することが原因です
が、このことが通常金属(Na, Mg, Alなど)や貴金属(Cu, Ag, Au)の柔らかさをもたらします。一方、d電子は
隣接原子付近に局在しており、このことが結合の強さをもたらしています。
「物質のふしぎコーナー」に、農工大学生や
検索でたどり着いた方からメールで質問
• 農工大学生「音波」「超音波」「光の波動性」
• 他大学学生(阪大、埼玉大、東大、阪府大、
豊田工大)
• 日テレ「伊東家の食卓」
• 公共機関(警察大学校・・)
• 企業(鉱物科学研究所、T社、TK社、S電機、
I技研、X社、A社、K精鋼・・)
「物性なんでもQ&A」コーナーを作ることに
「物性なんでもQ&A」コーナーを新設
• 2000/10/24 メールで寄せられたさまざまなご質問への回答を記
した「物性なんでもQ&A」コーナーを新設(2000/1/7 以来のQ&Aを遡っ
てアップ)
日付
質問項目
分類
質問者
2000.6.1
「光と磁気」
磁気光学
阪大M.Y.さん
2000.5.21
フェライト
磁性
埼玉大澤田さん
2000.5.10
「光と磁気」
磁気光学
阪大M.Y.さん
2000.5.9
光速を超音波の速度まで落とせるか?
光物性
農工大Nさん
2000.5.9
黄錫鉱は人工的に作れるか
結晶成長学
鉱物科学研究所の####
金属の反射スペクトル
光物性
TS社$$$$
音波
音波物性
農工大Nさん
「光と磁気」(初版)
磁性
M.Y.さん
アルミパイプの中を磁石が回りながら落ちる
磁性
伊東家の食卓リサーチ担当さん
スチール缶が方位磁石になる
磁性
伊東家の食卓リサーチ担当さん
2000.4.24
2000.03.31
2001/07/14 物質のふしぎコーナーに
物性なんでもQ&Aの質問を合体
その後
• 2007年には佐藤研究室HPの総閲覧数が27万
アクセスを突破。(アクセスの大部分はなんでも
Q&A)
• 2007年5月に佐藤は農工大を退職
• これに伴い、HPをプロバイダに移設
– 2007年2月:なんでもQ&Aを先行移設
– 2007年5月:佐藤ぎゃらりーをniftyに移設
– 2007年5月:なんでもQ&Aにアクセスカウンター設置
移設後順調に閲覧数が増加、
もうすぐ65万アクセスに
物性なんでもQ&A
和文索引を作成
半導体物性なんでもQ&A
-対話から生まれた半導体教本講談社, 2010年6月10日発行
この本は、「物性なんでもQ&A」に寄せられた多くのご質問と、それに
対する回答のうちから半導体に関するものを収録したものです。
半導体デバイスの分野は進展が速く、常に積極的な開発が行われていま
す。このため、新規材料の探索、既存材料・製品の改良といろいろな研
究段階で基礎となる物性に立ち戻ることになります。
半導体を理解するにはかなりの基礎知識が必要です。学生時代に半導体
の教育を受けた経験のある電気電子系の人でも実際の問題解決に直面し
たとき、「授業で学んだことがあるが身に付いていない」、「なんとな
くわかっていたつもりだったけど・・」ということがよくあります。ま
た、異分野の出身者も「教科書を読んでもわからない・・」、「どこか
ら取りかかってよいか・・」と困っているかたも多いようです。
「物性なんでもQ&A」は、このようなお困り研究者の駆け込み寺です。
それゆえ、ホームページに読者が集まり、それぞれの置かれた立場でそ
のつど再勉強しているようです。
この本では、ナマのホームページの雰囲気をできるだけ伝えるために、
質問に対する回答を受けての再質問、それに対する回答・・というやり
とりも再録しました。
ホームページでは、htmlで記述しているため数式がわかりにくい、図が
少ないなど、やや不親切な部分もありましたので、この本では、数式の
記述、適切な図の挿入などに手を加えました。また、WebのQ&Aで
は質問者のレベルに合わせて専門用語の意味をわかっているとしてお答
えしている部分があり、分野の離れた読者には不親切ではないかと考え、
Follow upという項目を設け解説しました。
結晶工学分科会会報
Crystal Letters連載
2007年以来「物性なんでもQ&A」に寄せら
れた質問と回答の中から、結晶工学関係
者にご関心のありそうなものをピックアップ
してご紹介しています。
号
タイトル
号
タイトル
36
GaN
47
サファイアとアルミナ
37
金属の光学的性質(1)
48
ステンレス鋼の物性
38
金属の光学的性質(2)
49
バンドギャップと物性
39
ITOの物性
50
熱物性いろいろ
40
グラファイトとダイヤモンド
51
固体中の遷移金属物性
41
ZnO
52
ラマン散乱
42
表面プラズモン
53
ルミネッセンス
43
誘電体物性
54
仕事関数
44
赤外光物性
55
薄膜の光学評価
45
機械的性質
56
磁気物性
46
アモルファス
57
連載の終わりにあたって
http://home.sato-gallery.com/research/essay.html#crystal
(例1)「物性なんでもQ&A」第12回
Al2O3の物性-サファイアとアルミナ
分類
番号
質問内容
所属
プロセス
195
サファイアのエッチャント
企業
熱物性
631
サファイアの1850℃までの高温特性
企業
結晶工学
892
サファイア単結晶のX線回折
企業
機械的性質
978
γアルミナの硬度
企業
プロセス
1039
アルミナのレーザ加工
企業
結晶工学
1213
サファイアガラスとは?
企業OB
195 サファイアのエッチャント
Date: Thu, 8 May 2003 14:22:12
Q: 佐藤勝昭先生へ
はじめまして。F社に勤務するKと申します。初めての
メールで少し緊張しておりますが。先日会社の上司から
サファイアのエッチングを依頼されたのですが、まずは
サファイアとは一体どのようなものなのか、そして、ど
のような薬液で腐食されるのかをまず知るべきであり、
自分自身でも調べてはみたのですがまだまだ不十分で分
からない状態であり、佐藤先生の力をお借りしたくメー
ル差し上げました。
将来的にはそのサファイアにパターンニングして製品に
なっていくわけなのですが、実際ちょこっとだけ実験し
ました。その内容は、材料:厚さ1mm 4×5.3cm角
の透明なサファイア基板を、35%の薄めないフッ酸に
5分間浸したというものです。結果、全く腐食されませ
んでした。フッ酸だけではだめでしたので、フッ酸に硝
酸や塩酸などを調合しないといけないのではないかなと
思いました。
サファイアとは何か?またそれをエッチングする(腐食
させる)液とはどのようなものがあるのか、お忙しい中
恐縮ですが、教えて頂けませんでしょうか?よろしくお
願い致します。
Date: Thu, 8 May 2003 16:09:39
A: K様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございました。私の知る限りサファイ
アの有効なエッチャントはないと思います。もしあった
ら、私も使いたいのですが・・・。
たとえば、UCOPのホームページにあるBlue and
Green InGaN VCSEL Technologyという論文 には
No efficient etchant exists for sapphire removal.
と書かれていますし、Naval Researchのホームページ
にある
Newsletter Report: Large Freestanding GaN
Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy Using
GaAs as a Starting Substrate
という論文 にも、
However, it is neither very easy nor productive to
separate the GaN layer from the sapphire
substrate because sapphire is very hard and is
not etched by any etchant.
と書かれています。あとは、Ar-millingとかGa-ion
beamを用いたFIBで物理的に剥離するしかないと思いま
す。
Date: Thu, 8 May 2003 16:27:48 +0900
AA: 敏速な対応ありがとうございます。やはり、サファイアなどのファイン
セラミックスは耐薬品性に優れておりエッチング加工は難しいのですね。残
念ですが、自分なりに実験して上司に結果を報告したいと思います。ご回答、
本当にありがとうございました。
http://www.shinkosha.com/Al2O3.html
1213. サファイアガラスとは?
Date : Mon, 2 Aug 2010 17:08:55
Q: 佐藤勝昭 様
Date : Mon, 2 Aug 2010 18:23:47
A: T様、佐藤勝昭です。
いつも先生のホームページを拝読し、知識の深さに感銘していま
す。また、時折見かける院生・卒論生からの質問にもまことに適切
なご指導をされ、我が意を得たりの思いです。
「なんでもQ&A」をごひいきにして頂きありがとうございます。ご
質問にお答えします。
(1) サファイアガラスはガラス窓のように無色透明なサファイアと
いうことでα-Al2O3の単結晶(コランダム)です。アルミナ・セラミク
スは、炉心管などに使いますが、あれはα-Al2O3微結晶の集合体
です。そもそもα-Al2O3は高融点物質(Tm=2072℃)なので、ガラス
転移点もよく知られていないのではないかと思います。アルミニ
ウムシリケートのように固溶体を作ると融点も下がりガラス化でき
るのですが、アルミナそのものではガラスにするのは難しいので
はないかと思います。
(2) 一方、Alは酸化しやすく、空気中に置くと直ちに自然酸化膜が
できますが、これはアモルファスです。MTJ(磁気トンネル接合)の
TMR(トンネル磁気抵抗)素子では、最近になるまでAlのアモル
ファス酸化膜をトンネルバリアとして用いていました。今では湯浅
氏らの開発したMgO単結晶バリアが普通になりましたが・・。
アモルファスAl2O3薄膜は一種のガラスです。ただ、Alを自然酸
化すると、数ナノメートルの膜を作った段階でこれが不動態となっ
て、これ以上酸化が進行しないという特徴があります。おそらく
CVDやALEなどの方法を採ればかなり厚くできるとは思うのですが、
そんな面倒なことをして作った高価なガラスは、耐摩耗性・耐食
性コーティングなど特殊な用途以外に使われないと思います。
小生いまは半ばリタイアの身ですが、一時期素材メーカーで化合
物半導体(Ⅲ-Ⅴ族、Ⅱ-Ⅵ族の両方とも扱っていました)の単結晶
作りに勤しんでおりましたこともあり、今でも単結晶と聞くと血が騒
ぎます。T*と申します。先日、ふとある単語が気になり、少々調べ
てみましたが答えが得られずにおります。ご教示賜りたくメールを
送らせて頂きます。
=====================================
サファイアガラスというモノです。
酸化ケイ素なら、非晶質の物質は「石英ガラス」と呼ばれ、単結晶
は「石英」と呼ばれます。では、アルミナの場合はどうなのか?第
一に、サファイアガラスはガラスなのか単結晶なのか、という疑問。
どうも、メーカーのホームページでは、単結晶アルミナのことを「サ
ファイアガラス」と表記しているように思えますが、そうなのでしょう
か?第二に、非晶質のアルミナは、ガラスのように使えないのか、
という疑問です。
かなり良い耐熱材料です。どうやって加工するのか、というのが問
題のようにも思いますが。
Date : Mon, 2 Aug 2010 20:28:11 +0900
佐藤勝昭 様
早々にお返事を頂き、まことにありがとうございます。疑問が氷解しました。ご指摘のガラス転移点には思いが及びませんでした。glass transition
temperature (of) alumina でネット検索をしても、何も出てこないところをみると、ガラス転移しないのかとも思います。固化後は、機械加工以外に加工
方法が無いようでは、用途も限定されます。もっとも現在、サファイア・ウェーハはGaNのLED用基板として供給不足とのことですので、それで十分に
世間のお役に立ってはいるんでしょう。
余談ですが、単結晶屋の端くれとしては「単結晶をガラスと呼ぶな!」という思いも多少あります。 ありがとうございました。T拝。
「物性なんでもQ&A」第6回
ZnOの物性
分類
光物性
番号
321
質問内容
ZnOのフォトルミネッセンス
所属
大学院修士学生
光物性
光物性
335
ZnOの赤外吸収
企業
909
ポーラスZnOの発光
大学院修士学生
電気特性
1001 ZnO透明導電膜について
大学院修士学生
圧電性
329
ZnOの圧電性について
大学院修士学生
電気特性
709
なぜZnOはn型で、NiOはp型か
大学生
321. ZnOのフォトルミネッセンス
Date: Sun, 1 Feb 2004 13:50:03 +0900
Q: 佐藤先生、こんにちは。S大学修士学生Hと申します。
私は、修士のテーマとして、フォトルミネッセンス測定をすることになりまし
た。材料はZnOバルク焼結体について行なっています。現在フォトルミ
ネッセンス測定の詳しい解析が出来ずに困っています。
バンド端近くに、ZnO不純物無添加試料では酸素空孔によるものと思わ
れる、ブロードの発光を確認しています。Al2O3添加(3,5,10wt%)で、ブ
ロードのスペクトル、空孔による発光が無添加試料よりもかなり大きく出
ました。Alが亜鉛位置を置換して、ドナー準位を形成、酸素空孔は、深い
ドナー準位を形成していると言われていますが、キャリア(電子)の増大、
このキャリアが光励起によって遷移し、発光に関与するのでしょうか。発
光強度が大きくなる理由が良くわからないでいます。
また、束縛励起子はフォノンを放出する過程フォノンレプリカをもつので
しょうか。(測定温度77K) 酸化亜鉛の場合、ドナー準位に束縛された励
起子発光をとらえていると私は考えているのですが考察に苦しんでいる
状況です。幾分、参考になるものが少なく、もし良い参考書があれば教え
ていただきたいと思います。よろしく御願いします。
--------------------------------------------------------------------------------------------Date: Sun, 01 Feb 2004 20:47:04 +0900
A: H君、佐藤勝昭です。ZnOの発光についてのお尋ねですが、発光のメカ
ニズムは必ずしも明らかになっていないようです。Y.G. Wang et al., J.Cryst.
Growth 259 (2003)335-342によると、MBEで成膜したZnO薄膜の発光は、
NBE(near band-edge emission)発光 (3.3eV付近)と、DLE(deep level
emission)のブロード発光(1.8eV, 2.3-2.4eV) からなります。
NBEは自由励起子発光、DLEは欠陥に関連した発光にアサインされてい
ます。NBEは900℃1時間半のアニールによってエンハンスされ,さらにア
ニールを続けるとNBE発光が弱くなるということが書かれています。DLEの
オレンジ発光(1.85eV)はアニールによって減少するが、緑色発光(2.32.4eV)はアニールでエンハンスすると言うことです。この緑色発光帯のメ
カニズムが酸素空孔によるか亜鉛空孔によるか、あるいは、両空孔が関
与するかについては論争があり、決着が付いていないようです。この論
文では、アニールによって発光が強くなる理由について、非発光中心の
密度が減少したことによると述べています。
あなたの試料は、バルク焼結体なので、MBE薄膜に比べ、欠陥が多いも
のと考えられます。あなたのおっしゃる「バンド端近くの酸素空孔によるも
のと思われるブロードの発光」のエネルギー位置はどのあたりですか。「酸
素空孔による」ということは、上の論文のNBE発光ではなくDLE発光なので
しょうか。あなたの試料では、Al2O3を添加することによるキャリア密度の
増大が発光の増大の原因ではないかと考えておられるようですが、フォト
ルミネセンス(PL)においては、自由キャリアの励起が発光に結びつくことは
ありません。もし、Zn空孔が非発光再結合に関与しているならば、AlがZnを
置換することによって、非発光再結合が減少して、よく光るようになったと
考えられませんか。
次に、束縛励起子発光ですが、どのエネルギー位置にでる発光を指して
いるのですか。束縛励起子発光は線幅が狭いのでフォノンレプリカが明確
に分離して見えると思います。(77Kでは、ややブロードになると思います
が・・) いずれにせよ、データをお見せ頂かないと、判断のしようがありま
せん。スペクトルのデータをjpgファイルなどの電子ファイルでお送り下さい。
-------------------------------------------------------------Date: Tue, 3 Feb 2004 20:30:11 +0900
Q2: 夜分すいません、S大学 H です。
丁寧なご指導ありがとう御座いました。大変参考になりました。おっしゃる
とおり、空孔による深い準位による発光をとらえたものであるとおもいます。
前日、先生のHPを拝見いたしました。やはり、自分のデータについては、
指導教官との話し合うべきものと私自身も思いました。お恥ずかしい次第
です。
しかし疑問は尽きないもので、勉強不足を露呈するものですが再度、質問
を2,3さて頂きたいと思います。
1. 空孔はどのような発光過程を持つのでしょうか.例えば酸素空孔であれ
ば、酸素が抜けドナーの振る舞いをしていることが予測できますが、深い
準位を形成すると、この準位に励起子が束縛されて、発光が起こるので
しょうか。
2. バンド端の発光についてですが、先生から頂いた論文では、室温での
測定でしたが、なぜ、自由励起子は室温でも存在できるのでしょうか。自
由励起子は、並進による運動エネルギーを持つと言われていますが、そ
のために、室温でも存在できるのでしょうか。
3. 最後に、PLスペクトルにおいて測定温度が低温から高温に変化するに
つれて、スペクトルが低エネルギー側にシフトしますが、その理由がよく分
かりません。お忙しいところ申し訳御座いません、ご指導よろしく御願い致
します。
321. ZnOのフォトルミネッセンス(続き)
Date: Tue, 3 Feb 2004 23:06:51 +0900
A2: S大学H様
(空孔の発光過程) あなたが観測したブロードな発光は励起子発
光ではありません。DLEはDAP(donor-acceptor pair)発光ではない
かと存じます。この場合、Znを置換したAlドナーに捉えられた電子
とZn空孔のアクセプタに捕まったホールの間の発光遷移が考えら
れます。あるいは酸素空孔(ドナー)に捕まった電子と、亜鉛空孔
(アクセプタ)に捉えられたホールの再結合かもしれません。DAP発
光であれば、PLスペクトルの励起強度依存性をとると、発光ピーク
の高エネルギーシフト(blue shift)が起きます。いっぽう、時間分解
スペクトルをとると、励起終了後時間とともに発光ピークは低エネ
ルギーへシフトします。
(自由励起子の室温での存在) ZnOの励起子束縛エネルギーは
60meVもあります。室温のkT=25meVなので、室温でも電子とホー
ルの束縛は解けず、自由励起子は解離しないのです。大きな束縛
エネルギーは大きな有効質量と小さな比誘電率のせいです。
(スペクトルの温度シフト) 一般に、半導体のバンドギャップは温
度を上昇すると小さくなります。従って、半導体の発光も、バンド間
発光も、励起子発光も、バンドー束縛準位間発光も、DAP発光も、
バンドギャップが小さくなれば、低エネルギー側にシフトします。
-----------------------------------------------------------------------------Date:
Sun, 22 Feb 2004 21:14:07 +0900
Q3: S大学 Hといいます。
酸化亜鉛のバンド端近くの
スペクトルの解析について
の質問です。私は、DAP
(ドナーアクセプター対)
発光であると考えている
のですが、右から二番目
の大きなピークの解釈が
出来ずにこまっています。
もし、DAPであれば、アク
セプターとなる不純物を
ドーピングしていなければ、
起こらないのでしょうか。
フォノン線と考えられるピークがあることからDAP発光考えました
。無添加のZnO焼結体です。(24時間1000℃で焼成したものをZn
によって熱処理したも >のです。)自分での解釈を試みましたが、
理解に苦しんでいます。何度も先生にご質問をさせていただき恐
縮ですが、よろしく御願いします。
---------------------------------------------------Date: Mon, 23 Feb 2004 23:39:16 +0900
A3: H様、佐藤勝昭です。 添付の図を見ました。まず、フォノンレ
プリカのアサインメントについて考察しました。
ZnOのフォノンのエネルギーは N. Ashkenov et al.: JAP 93
(2003) 126 に出ています。それによれば、LO phononのエネルギ
ーは、E1 590cm-1(=73meV), A1 574cm-1(71meV) となっています。
あなたは、3.318eVをDAPと見ましたが、私は、自由励起子FEを
3.391eV として、3.318eVをFE-1LO, 3.241eVをFE-2LO, 3.169eVを
FE-3LOと見るのが自然でしょう。そうすると、3.366eVのピークは
FEから25meVの差であり、浅いドナーに束縛された束縛励起子
D0Xと見てよいでしょう。古い論文ですが、ZnO結晶のPLについて
は、S. Miyamoto: JJAP 17 (1978) 1129を参照して下さい。 論文
によれば、1.5Kでは束縛励起子線I(369nm=3.36eV)とそのLOフォノ
ンレプリカ(I-LO, I-2LO・・)が支配的であると書かれています。また
、374.6nm(3.31eV)と383nm(3.23eV)にはそれぞれEx-1LO、Ex-2LO
のフォノンレプリカも同時に見えていると書かれています。Ex-1LO
発光線の強度は温度を上げると弱くなり、Ex-2LOの相対強度が
上がってくると書かれています。フォノンレプリカに関する限り、H様
の図は、宮本氏のデータの120Kのグラフに似ていますね。参考に
なれば幸いです。
こんな風に学生さんとのやりとりは
延々と続くことがおおいのです。
物性なんでもQ&Aこぼればなし
時には出張サービスも
2008年12月17日。X大の院生Y君から
以下のような質問がありました。
「先生の著書にならってPEMを用いて
薄膜の磁気光学効果の膜厚依存性
を測定しました。するとファラデー回
転は膜厚に比例するのに楕円率は
比例しません。なぜでしょう。」
翌10日、X大の研究室に出張、直接指
導しました。見ていくと、ロックインアン
プの使用法、PEMの制御方法、さらに
は光学系の調整方法に問題があるこ
とがわかりました。
エレクトロニクス系、光学系を再調整し
た結果、完璧なデータがとれることに
回転角も楕円率も物理的には同じ起 なり、回転角、楕円率ともに膜厚に比
源から生じているので、一方が比例し、 例するデータがとれました。
他方が比例しないことはあり得ないこ 学生が原理を知らずに、見よう見まね
とでした。そこで測定方法に問題があ で実験装置を組み立てていると、実験
ると考えアドバイスしましたがらちが のポイントが押さえられていないこと
あきません。そこでY君に1月9日にオ がよくありますが、その典型例でした。
フィスに来てもらい、話を聞いた結果、 指導教員から感謝されたことはいうま
装置の総点検が必要との結論になり えもありません。
ました。
「卑弥呼の青銅鏡をつくる」
高校理科部の生徒からの質問
Q: こんばんは、初めまして。Y高校2年生の
Aと申します。
物性なんでもQ&AのHPを見て質問させて
頂きます。
部活で青銅の研究(卑弥呼の青銅鏡を作
る)をしています。
錫と銅の割合を変えて反射度などの測定
をしているのですが、うまく結論に持ってい
くことができずに悩んでいます。
そこで質問があります。
・合金の組織のδ相、ε相、η相などと反射
率に関係はあるのか
・(関係がある場合)それぞれの相がどの
ように反射率に関わっているのか
・間隙の出来やすさとしてソリダスとリキダ
スの温度差は考えられるのか
お忙しいとは思いますが、よろしくお願いし
ます。
A1: Aさん、佐藤勝昭です。 面白い研究を
しているのですね。
本来の青銅は光沢ある金色で、青銅色と
いう青白色はCuの酸化物の色です。Cu-Sn
の色はSnの量によって変わります。添加す
るSnの量が少なければ十円硬貨のように
純銅に近い赤銅色に、多くなると次第に黄
色味を増して黄金色となり、ある一定量以
上の添加では白銀色となるそうです。金
属・合金の色は、自由電子の密度だけでな
く、電子が光を吸って高いエネルギーの電
子状態に励起されるために必要なエネル
ギーによっても決まります。
このあたりのことは、大学で固体物理学を
勉強しないと、完全には理解できないと思
います。
間隙が出来るのは均一に固化しないため
です。これは、Cu-Sn系合金が「包晶相図」
を示すことと関係しているのではないでしょ
うか?
「卑弥呼の青銅鏡を作る」(続き1)
このあと、Y高校に行って、金属の反射金色とはなに
の原理、金色を反射スペクトルから判断することを
理科部で講義します。そして、東京芸術大学文化財
保護専攻の桐野教授を紹介してあげました。
学生さんたちは東京芸大に試料をもってお邪魔して
反射スペクトル測定や、電子顕微鏡観察などをさせ
てもらいました。
--------------------------------------------------------Q2: 佐藤先生こんばんは。Y高校のAです。
A2: A様、佐藤勝昭です。
赤の波長650nmの反射率と青450nmの反射率の
比r=R(450)/R(650)を測ってみました。
金ではr=39/96=0.41と小さく、銀ではr=97/98=0.99と
ほぼ1と大きいのです。
図のように曲線(1)ではr=0.78,(2)ではr=0.83, (3)で
はr=0.84ですが、(4)ではr=0.65, (5)ではr=0.63なの
です。おそらく(4)と(5)はrが小さく、金色っぽく見え、
(1)~(3)はrが1に近く銀色っぽく見えるはずです。
あれから青銅の研究をまとめています。作った
青銅をよく見てみると黄色がかかっているものが
ありました。他のものは銀白色~暗灰色です。し
かし分光光度計の結果ではどの試料も傾きが一
緒で急落が見られません。
このスペクトルから色の変化について言える事
はあるのでしょうか。よろしくお願いします。
AA: 迅速なお返事ありがとうございます。悩んでいた事が分かってスッキリしました。発表に向
けてうまくまとめられるよう頑張ります。また分からない事があったらよろしくお願いします。
「卑弥呼の青銅鏡を作る」(後日談)
2013.3.21 「物性なんでもQ&A」への生徒さんからの質問がご縁で、Y高校理
数科の生徒160名に対し、「科学するちから----身の回りの科学」という講演を
行いました。
2013.10.25 「物性なんでもQ&A」への質問が縁で指導することになったサイ
エンス部化学班の女子高校生が青銅鏡の合金についての論文を書いて私
の家に送ってくれました。神奈川大が主催する全国高校生理科・科学論文
大賞に応募するという。まだ荒削りだが、ここまでよくやったと感心した。
2014.1.24 上記論文「最古の合金~青銅~の新たな道」が第12回神奈川大
学全国高校生理科・科学論文大賞の努力賞に輝きました。
幅広い質問者の層
• 質問は、大手メーカーの研究職、中小企業の技術職、大学
の教員、大学院学生など、研究・開発に関連したものが主
流です。お答えしながら感じることは、企業の技術者や大
学の研究者の周りには非常に多くの「わからないこと」があ
るということです。昔は、職場に必ず知恵袋みたいな物知り
がいて教えてくれたものですが、最近ではそういう方がいな
くなり、疑問を持ったときに質問しようにも周辺に教えてもら
える人がいなくなっているのが実情のようです。
• この他,小学生の「ニッケル,コバルト,鉄はなぜ磁石の材料
になるの」、中学生の「夕日の色の変化の仕組み」,高校生
の「トンボの紫外線視感度」,今回紹介した「青銅の相と光
学的性質」、建築関係者の「鉄,アルミ,ステンレスの熱膨
張係数、印刷業界新入社員からの「なぜ、林檎は赤く見え
るのか」など幅広い層におよび,インターネット検索が日常
的になっていることを痛感します。
研究室所属の学生さんからの質問
研究室に所属する卒論性や大学院生が、指導教員から与えら
れた課題や、得られたデータの解釈について、匿名で聞いてくる
ケースが増えています。このような場合は、「本来、指導教官に
尋ねるべきです。」と諭し、ヒントや参考書・文献などの紹介に留
めています。なお、指導教員に聞いても答えられない場合に教
員の了解のもとの質問である旨書いてあればお答えしています。
中には、JST-CRESTの研究代表者の研究室の院生が、最先端の
研究の貴重な1次データの解析について(先生に無断で)質問し
てきたことがあり、「JSTとしては、こんなに簡単に知財に関わるこ
とが流出するのは困る」と諭し、指導教員とよく相談するよう指導
したこともあります。その研究室では、学生に知財教育をしてい
なかったようです。
インターネット検索の安易な利用
本来なら図書館に行っていろんな文献を調べるべきなのに,ハン
ドブック代わりに安易にインターネットで検索して、このサイトに辿
り着いて質問される方もいます。
私は,決してインターネットで情報を得ることを否定しているわけ
ではありません.上手に利用すれば,得られる情報の幅が広が
ると思っています.英語で検索すると日本語の何百倍もの情報
が見つかります.特に,欧米の大学の授業用サイトは信頼性が
あります.日本ではほとんど研究されていないマイナーなテーマ
でも世界中探せば見つかります.世界にはいろんな人がいるも
のだと感心することしきりです.
最近STAP問題に関係して、論文の図や文章のコピペが問題に
なっています。研究倫理上問題です。また、インターネットで得ら
れる情報の危うさをいつも認識していなくてはなりません.情報の
真贋を見抜くことが必要です.このためには,受け手に確かな基
礎的知識と,情報をフォローする努力が必要でしょう.
集合知としての質問コーナー
質問内容が専門外で私が答えられない場合は、できるだけ専
門家に問い合わせて、正確な情報をお伝えするように努めてい
ます。
しかし、知っているつもりで答えた内容が古くなっていたり、私
の知識不足であったりすると、読者からご指摘があります。
Facebookもそうですが、ネットワークによる集合知の時代だと痛
感します。
WebのなんでもQ&Aはこれからも続きますのでよろしくお願いし
ます。ご協力いただいた方々に感謝します。
Fly UP