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ガリ勉君が聖剣を抜いちゃってどうしよう!
ガリ勉君が聖剣を抜いちゃってどうしよう! ダオ タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ ガリ勉君が聖剣を抜いちゃってどうしよう! ︻Nコード︼ N5390BT ︻作者名︼ ダオ ︻あらすじ︼ 聖剣を抜いた少年の物語 1 ︵前書き︶ <i96151|10490><br> 第三回小説祭り参加作品 テーマ:剣 ※参加作品一覧は後書きにあります 2 僕は運動が苦手だった。 小学校の頃から体育の成績はいつもアヒル。 運動会の徒競走では、ビリが定位置だった。 運動部なんて入ったこともない。 そんな僕がどうしてこんなことになってしまったんだろう。 それはT大の合格発表の日のことだった。 運動は苦手でも、勉強は得意だった僕は日本一と言われるT大を志 望していた。 何年も必死に勉強を重ねてきていた。 模擬試験でもA判定が出ていた。 だからきっと合格すると思っていたのに。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 僕はメガネを外しメガネ拭きを取り出すと、念入りに拭いた。 もう一度掲示板を見る。 じっくりと見る。 ﹁⋮⋮僕の番号がない﹂ 合格発表の掲示板の前で茫然と立ちすくんでいた。 僕の受験番号はそこには無かった。 落ちていたのだ。 18年の人生で最大のショックが僕を襲っていた。 もっとも、最大のショックはすぐに塗り替えられるのだが。 右にはガッツポーズをする男子学生、左には涙を浮かべる女子高 生が居た。 3 辺りには悲喜交々の姿が見られた。 そんな中で僕は、重い足取りでT大を出て行った。 このまままっ過ぐに帰る気はしなかった。 滑り止めの大学に進学するのか、1年浪人して再びT大を受けるの か、考える必要は有ったがそれは後回しにするつもりだった。 今はとても考えられそうになかったからだ。 何か気晴らしになることがしたかった。 インドア派の僕は読書が好きだ。 行きつけの自由に立ち読みが出来る古本屋に自然と足が向かう。 軽い気持ちで読める本を探す。 モンスターが跋扈する世界が舞台である剣と魔法のファンタジー物 で、聖剣を抜いた少年がやがて国を救う英雄になるという小説が有 った。 その本を買い、ファミレスでドリンク飲み放題を注文して小説を読 み進めた。 おそらくアーサー王伝説をモチーフにしているのだろう。 そのあらすじは以下のようなものだった。 アルデュルク王国は亡国の危機を迎えていた。 100年も続く西の神聖オーク帝国との戦争により国土は荒れ果て、 人心は荒廃していた。 その上、戦況も不利な戦いが続き、凶悪な豚頭のオークにより国土 の半分以上を蹂躙されていたのだ。 おそらくこのままでは20年以内にアルデュルク王国は滅亡するだ ろうと人々は不安に怯えていた。 しかし王国には一つの希望が有った。 アルデュルク王国を283年前に建国した初代国王が使っていた聖 4 剣イスラフィールが、神殿に封印されていたからだ。 王国では初代国王からの言い伝えにより、18歳になった男子は皆 その封印されし聖剣を抜けるかどうかを試すのが伝統だった。 聖剣を抜き、その主となった者は聖剣の騎士と呼ばれ、国を救うと 言い伝えられていた。 その聖剣を18歳の平民の少年が抜いた所から小説は始まってい た。 少年は無双の剣士となり、国軍を率いて戦い、連戦連勝する。 百人長から三百人長、千人長へと出世を遂げていき、5年の歳月を 経て英雄と呼ばれ大将軍へと任命される。 そして天下分け目の戦いで神聖オーク帝国の皇帝を打ち取り、王国 を救うのである。 王国の姫君と結婚し、次の王位を継いだところで小説は終わってい る。 面白かった。 ベタな展開ながら引き込まれる文章で、手に汗を握るようなギリギ リの戦いが綴られていた。 読み終わった時、ふと漏らした一言のせいなのだろうか。 大学に落ちたショックを遥かに超えた衝撃が僕を襲ったのは。 ﹁ああ、こんな人に成れたら良いのに﹂ そう言った瞬間、本が宙へと浮かび、ページが勝手にめくられて いく。 小説の最初のページが開かれると、不思議な光が放たれ、僕は気を 失った。 5 気がつくと僕は、見たこともない神殿の中に立っていた。 辺りは広く、パルテノン神殿のような白亜の石柱が無数に立ってい た。 何人もの神官が驚きの眼で僕を見つめていた。 後ろから人々のざわめきが聞こえ、そちらを見ると何十人もの18 歳くらいの少年達が並んでいた。 皆、僕を凝視し口をあんぐりと開けている。 ふと足元を見ると巨大な台座があり、大きな剣が深々と刺さってい る。 趣向を凝らした美しい装飾がされ美術品としても一級品に違いない。 だけれども明らかに斬ることを目的に造られた剣だった。 ひと目で途轍もなく高価な剣だと分かる。 僕は唖然として立ちすくんでいたが、ふとどこからか鈴の鳴るよ うな女性の声が聴こえた。 何度も聴きたくなるようなとても美しい声だった。 ﹁どうか、その剣を抜いて下さい﹂ どうしたことか何の疑問も感じず、導かれるようにその剣を掴ん だ。 そのグリップはオーダーメイドのようにピッタリと僕の手に収まっ ている。 グッと引っ張るととても常人に扱えるとは思えない大剣が羽のよう に軽く動き、つうっと流れるように引き抜かれていく。 その時、周囲から先ほどを大きく上回る驚きの声が上がった。 僕の手には大きな剣が握られていた。 6 剣の長さは2mに近く、僕みたいな貧弱な男に持てるはずがないの になぜか軽々と動かせた。 この大剣は見覚えがある。 小説の挿絵に出てきた聖剣イスラフィールとそっくりだ。 僕は夢でも見ているのだろうか。 ファミレスの中で居眠りをして、小説のストーリーを夢で見ている に違いない。 頼む、夢なら醒めてくれ。 しかし、握り締める聖剣のひんやりとしたリアル過ぎる感触が、こ れが現実だと僕に知らせていた。 僕は一体どうしたら良いんだ。 まさかここは小説の世界なのか? 僕が主人公になったってことか? そんな馬鹿な話が有ってたまるか。 小説を完結させたら帰れるのか? 読んだ通りなら5年もかかるんだぞ。 絶賛混乱中の僕に、神官達の中でも髭が長くひときわ目立つ威厳 のある老人が声をかけてきた。 見たところ80代のおじいさんだが、とても高級そうな服装をして いるのに気がついた。 老人が深々と頭を下げる。 ﹁生きている内に聖剣イスラフィールが抜かれる姿を拝見すること が出来ますとは、誠に光栄の至りでございます。 私はこのウダイブル神殿の神官長を務めますリスカレム・ヴァレン タインと申します。 貴方様の御尊名を伺えますでしょうか?﹂ 7 自分の5倍ほども生きている人からこんなに丁寧な扱いを受けた のは初めてだ。 リスカレム・ヴァレンタインって小説に出てきたような。 確かアルデュルク王国で最も有名な神官長であり、作中で何度か出 てきて主人公にアドバイスをしてくれたはずだ。 でも怒ると怖いんだよな。 僕は深呼吸して気持ちを落ち着けようとした。 少しはマシになったはず。 つくも まなぶ ﹁えっと、九十九学です。 よろしくお願いします﹂ ﹁ツクモ・マナブ様ですな。 申し訳ないことに寡聞にして存じませんでしたが、さぞや名のある 騎士様なのでは?﹂ ﹁へ? 騎士? 僕は、あの、その﹂ あれ? 咄嗟に本名で答えてしまったんだけど、小説の主人公の名前で答え た方が良かったのかな。 確かガイ・リューブランドのはず。 まあ、答えてしまったものは仕方ないか。 適当に相槌を打ちながら、考えごとをする。 ヴァレンタインさん、日本語か。 周囲の人たちも皆西洋人っぽい外見だけど、日本語話してるな。 日本語吹き替え版の洋画みたい。 8 ここって外国、というか小説の中の異世界なのだろうけれどなぜ日 本語⋮⋮日本語の小説だからかな。 僕の見た目の方は⋮⋮髪の毛が黒いな。 自分の腕を見ると、いつも通りの細い腕だった。 腕立て伏せを10回も出来ない頼りない腕だ。 あれ? 服装がおかしい。 粗末な布の服を着てる。 財布もスマホもない。 靴も薄汚れたサンダルになっている。 格好はこの小説の世界に合わせたのかな。 ガイって小さな頃から剣士に憧れて、必死に剣術の修行をしてた んだよね。 背の高い、がっしりとした体格だって記述が有ったはず。 それに燃えるような赤毛だったんだ。 僕とは全然違う。 ってことは、僕は肉体ごと本の世界に入ってしまった訳だ。 それでいて荷物は何も無し。 それはつまり⋮⋮かなり困った、いや物凄く困ったことになるんじ ゃ。 ガイは10年以上剣の修行をしたマッチョマンで、それでも死にそ うな目にあいながら勝利するシーンが何度も有ったはず。 僕は10年以上体育の授業以外運動をろくにしたことがないガリ勉 君だ。 勿論剣を振り回したことなんて一度もない。 ⋮⋮これってかなりまずい状態なんじゃ。 ﹁おや、どうされました? 顔色が優れられないようですが﹂ 9 ﹁どうも気分が悪くなってきたので、どこかで休ませて貰えません か?﹂ ﹁おお、そうでしたか。 それは大変だ。 どうぞ、こちらへ﹂ 僕は神殿の客間へと案内され、この部屋は当分の間自由に使って 構わないと言われた。食事も神殿の方で用意してくれるらしい。 ベッドに座って休んでいると、少し気持ちが落ち着いてきた。 いま何をしたら良いのだろう。 今すべきことは状況の確認と今後の方針の決定か。 まず状況を整理しないと。 ここは本当に小説の世界なんだろうか。 何か確かめる方法は⋮⋮アレが有ったか。 聖剣イスラフィールにそっくりな剣に向かって、小さくなれと念 じてみた。 すると、その剣は見る間に小さくなっていき、やがて10cmほど のナイフになってしまった。 目の錯覚、じゃないよね。 今度は大きくなれと念じてみると、どんどん大きくなっていく。 5mほどまで伸びたところで、部屋を壊しちゃまずいと停めること にした。 大きくても小さくても、剣は羽毛のように軽く感じられた。 こんなことが地球上で起きるはずがない。 この世界が読んでいた小説の世界であり、この剣が聖剣イスラフィ 10 ールであり、僕がその主になってしまったことはどうやら間違いな いようだ。 小説では聖剣イスラフィールはいくつかの特殊能力を持つとされて いた。 その1つが伸縮自在である。 聖剣を抜いた主しか使えない能力だが、数cmの長さから10mく らいまで自由に伸び縮みさせ状況に応じて使い分けることが出来る のだ。 小説の中盤にガイが襲ってきたドラゴンと戦うシーンがある。 ガイが攻撃の瞬間に聖剣を大きく伸ばし、巨大なドラゴンを真っ二 つにしたのだ。 ちなみにその後ドラゴンは皇帝のペット兼騎乗用であったことが分 かり、改めて皇帝の強さを知って畏怖を感じることになる。 僕が小説の主人公なら今後の方針もほぼ決まりだ。 神聖オーク帝国の皇帝を倒すしかない。 聖剣が抜かれたという噂はあっという間に国中に広まるだろう。 この世界のことをろくに知らない僕が逃げられる筈がない。 それに小説ではやがて皇帝までがそれを知り、刺客を送ってくると いう展開があった。 まとんきてい 皇帝を倒さなければ、僕に生きる道はない。 皇帝の名を魔豚鬼帝セルケトヌスと言う。 セルケトヌスは元々オークの突然変異、ユニークモンスターであっ たらしい。 この世界では強さをLVで表現する。 村人はLV20∼30程度、一般兵はLV30∼100程度、隊長 クラスになるとLV100∼200、LV200を超える強さは人 外級と言ってよく国中に数人しか居ないほどだ。 だが、セルケトヌスはLV500を超えていた。 11 マジックディスペル しかもユニークスキル・魔法無効化を備えていた。 あらゆる魔法に効果がなく、物理攻撃で倒すしかない。 だが、LV200程度では一撃で殺される。 聖剣イスラフィールの使い手以外に倒せる可能性のある者は居なか った。 ガイが聖剣を抜いた時のLVは128、それから5年でLV482 まで成長した。 セルケトヌスとの戦いは一昼夜続き、ガイは満身創痍になりながら も遂に止めを刺したのだった。 セルケトヌスが死んだ後、神聖オーク帝国軍の統制は乱れ、やがて 瓦解し、アルデュルク王国軍によって壊滅するのだ。 では、僕のLVは一体いくつなんだろうか? その疑問が浮かんだ途端、頭の中に1という数字が現れた。 え!? 悪い予感がする。 非常に悪い予感がするのだが、僕のステータスは何か、と考えてみ た。 すると 九十九学 LV:1 年齢:18 職業:学生 HP:14/14 12 MP:1/1 筋力:6 体力:7 敏捷:4 技術:2 魔力:0.03 精神:24 運のよさ:56 称号:聖剣の騎士 アナライズ スキル:解析︵ユニークスキル・アクティブ︶ 魔法:なし 装備:聖剣イスラフィール・綿の服 こんな文章が頭の中に表示された。 えっと、LV1でどうしろと? 魔力:0.03って何? 僕は泣きたくなった。 どう見ても物凄く弱いぞ。 13 僕ほど弱い騎士なんて他に居ないんじゃないか? New! そう考えた途端、ステータスが変化した。 称号:聖剣の騎士・史上最弱の騎士 史上最弱の騎士って。 何がNew!だ。 ステータスのバカヤロー。 アナライズ しばらく放心状態だった僕は、スキル:解析の効果を調べてみる ことにした。 小説にも出てきたのだが、この世界にはスキルというものが有るそ うだ。 大体100人に1人は何らかのスキルを持っているらしく、その中 アナライズ でもその人固有の能力をユニークスキルというのである。 客室に置かれていたテーブルに向けて、解析と念じてみる。 リビングテーブル 幅132cm 奥行86cm 高さ74cm マラトヤ杉製 高品質 耐荷重量80kg へえ、耐荷重量まで表示されてる。 どうやらこれは念じるだけで発動するみたいだ。 となると、僕のLVやステータスが表示されたのはこのスキルの効 果なのだろう。 14 アナライズ アナライズ 目についた色々な物を解析で調べてみる。 凄く便利だ。 聖剣イスラフィールを解析してみた。 イスラフィール 聖剣・神造武具の1つ 特殊能力:伸縮自在・絶対不壊・万物切断︵一部例外有り︶・防御 力無視・命中率上昇︵+50%︶・人剣一体 オリハルコン製 最高品質 神造武具って、この小説の世界には神がいるのか。 僕がこの世界に来たのは聖剣の前だった。 ってことは、僕をこの世界に連れてきたのは神ってことか? それなら連れてきた目的があるはず。 その目的は⋮⋮どう考えても魔豚鬼帝セルケトヌスを倒させること だろう。 倒せば地球に帰れるかもしれないな。 こっちに来てもう半日くらいかな? 家族が連絡取れなくて心配してるだろうな。 LV1の僕に、本当に倒せるのだろうか。 そのためにも聖剣を使いこなすのが大事なはず。 そういえば、万物切断︵一部例外有り︶って何だ? そう疑問に思うと、更に詳細が表示された。 万物切断:絶対不壊の特性を持つ物以外、あらゆる固体が切断可能 絶対不壊の物と万物切断の物がぶつかった時は、絶対不壊が優先 15 されるってことか。 固体に限定されているのは、気体や液体は切断不可能ってことだろ う。 まあ、当然だな。 最後の人剣一体というのも色々な解釈が出来るな。 どういう意味だ? 人剣一体:主と一体となり、任意の時に剣の出現が可能。また手元 から離れても召喚可能。 ふむふむ、試してみるか。 一体になれ、と念じると剣がするすると手のなかに消えていく。 当然痛みはない。 出ろ、と念じるとまた出てきた。 部屋の端に置いてから、召喚と念じるとパッと手元に出現する。 これは便利だな。 盗まれて無くなるってことがないのか。 一通り試した僕は、具体的に今後のことを考え始めた。 考えなければならないことは多く、その晩は眠れなかった。 翌日、ヴァレンタインさんに相談を申し込んだ。 小説の流れであれば数日後には王都で国王との謁見があり、色々な ことを質問されるはずだ。 その謁見後、近衛騎士との模擬戦が行われる。 ガイはそこで圧勝し、公式に騎士の位を授けられていた。 だが今の僕はLV1であり、住所不定無職、身分証明書なし、保護 者なしの怪しさ大爆発の人間だ。 どう考えても謁見も模擬戦も無事に終わるはずがない。 16 だから僕は謁見までに味方を作らなければならなかった。 ﹁大事な話があるとお聞きしましたが、何ですかな?﹂ ﹁まず確認したいのですが、この国に於いて僕が期待されているの は魔豚鬼帝セルケトヌスを倒すことですね?﹂ ﹁ううむ、セルケトヌスは恐るべき強さです。 如何に聖剣の騎士様とはいえ容易ならざる相手のはず。 まず期待されているのは時々刻々と進行する神聖オーク帝国の侵略 の魔の手を少しでも食い止めること。 更に望ましいのはその侵略を押し返すこと。 奪われたこの国の大地を取り戻すこと。 豊かな地を占領され、田畑を失い飢えて死ぬ者も少なくありません からな。 オーク帝国の帝都まで攻め上りセルケトヌスを討つのはその上での 話です﹂ ヴァレンタインさんが言っているのは尤もな話だ。 実際にガイもそのようにストーリーを進めていく。 まずは防衛、次に攻撃、最後に皇帝を倒すのだ。 だが僕は⋮⋮。 ﹁そうですか。 確かに納得できる話です。 ですが、セルケトヌスを倒すのが遅くなればそれだけ戦争が長引き、 多くの犠牲が出ます。 僕は1日も早く、この戦争を終わらせたい﹂ ﹁この百年戦争を1日も早く終わらせると仰る? 17 こころざ 誠に尊い志しです。 ですが、千里の道も一歩から。 長大な目的に向かう時は一歩々々の歩みを大事にされるべきですぞ﹂ ﹁勿論僕も地道な努力を否定するつもりは更々ありません。 しかし、僕は知っているのです﹂ ﹁ほほう、それは何ですかな?﹂ ﹁魔豚鬼帝セルケトヌスを倒す方法を知っているのです﹂ ﹁な、何ですと! それは真ですか?﹂ 落ち着いていたヴァレンタインさんが紅潮している。 この国の人たちにとってそれほど驚くべき発言らしい。 ﹁はい、本当です。 ただし、飽くまでも倒す方法を知っているというだけで、僕1人で 倒せるという意味では有りません。 多くの人の協力が有ってこその話です﹂ ﹁ええ、それは勿論です。 セルケトヌスは10万匹以上ものオークを率いて戦場へと姿を現す とのこと。 それを1人で倒せなどと言えるはずも有りませぬ﹂ 小説では天下分け目の戦いにて王国軍12万がオーク帝国軍15 万と戦い、これを撃破。 ガイは総攻撃に於いて帝国軍の本陣まで突き進み、魔豚鬼帝セルケ 18 トヌスを倒すのである。 セルケトヌスには聖剣による攻撃しか通用しないため、多くの支援 魔法や援護を受けながらもガイは一騎打ちにて倒すのだ。 ﹁そのことですが、実は3ヶ月後セルケトヌスはごく少数の護衛を 連れて、国境近くまで出てきます。 そのタイミングで叩くのです﹂ ﹁どういうことです? どうして3ヶ月も先のことが? しかもセルケトヌスの予定など知っている人間が居るはずが﹂ 約3ヶ月後にそのような展開があることを小説を読んで知ってい る。 しかし、小説にそう載っていたんですなどと言って信用されるはず がない。 だから僕はこう説明することにした。 ﹁分かります。 それは僕にユニークスキル・未来視があるからです。 飽くまでも断片的な情報でしかありませんが、未来のことを知るこ とが出来ます﹂ ﹁ユニークスキル・未来視ですと! 凄い! 何という凄いスキルを持っておられるのですか﹂ 無論、ユニークスキル・未来視などハッタリだ。 だが、この世界が小説の世界だと知らせずに僕の発言を信じてもら うにはこう言うのがベストだったのだ。 19 ごく少数の信頼できる仲間に対してならば、事実をそのまま伝える ことが出来るかもしれない。 しかし、戦争をしている以上僕の発言を幾千幾万もの人々に信用し て貰わなければならない。 そのために、この世界の人々がよく知るスキルの力で未来を知るこ とが出来るのだと説明したのである。 ﹁せっかくですから、その証拠をお見せしましょう。 バロットカードを持っておられませんか?﹂ ﹁バロットカードですな。 しばらくお待ち下され﹂ バロットカードとはこの世界にあるタロットカードのようなもの だ。 片面は全て同じ絵柄で、もう片面には違う絵柄が書かれている。 バロットカードを持ってきたヴァレンタインさんに適当に繰って裏 アナライズ を向けて並べてもらった。 アナライズ 解析を使い、それを次々と当てていく。 解析を使えばカードの裏面から表面が分かるのは、昨晩テストして おいたのだ。 ﹁では、めくった後の未来を見て当てていきますね。 これは⋮⋮太陽ですね。 これは悪魔。 これは恋人。 む⋮⋮これはちょっと分かりませんね﹂ 実際は100%分かるのだが、時々分からないと言っておく。 小説を読んだだけで未来のことが100%分かるわけじゃない。 20 載っていないことは知らないのだから。 これで少なくとも特別なスキルを持っているということは信じてく れたはずだ。 アナライズ 後は小説の展開から未来の出来事を時々話せば問題ないだろう。 僕以外にユニークスキル・解析を持つ人は居ないため、まず気づか れないはずだ。 ﹁おお、素晴らしいスキルですな。 このことは国王陛下にお伝えしてもよろしいですかな?﹂ ﹁はい、構いません。 国王陛下だけでなく、伝える必要が有る人にはヴァレンタインさん の判断で伝えて下さって構わないです。 今は国家存亡の危機です。 保身を考えて秘密にしている時では有りませんので﹂ こうして僕はヴァレンタインさんの支援を得て、国王との謁見を 乗り切ることが出来た。 近衛騎士との模擬戦が提案されたが、僕は知略で戦うタイプですの でと言って逃れた。 HP:14/14なんて下手をすると、鎧を来ていても木刀で殴ら れるだけで死にかねなかったからだ。 それからの3ヶ月は怒涛の毎日だった。 魔豚鬼帝セルケトヌスを倒すためのアイディアを具体的な作戦とし、 国家の重臣達への根回しの上で正式に承認された。 戦闘に必要な道具の設計と開発を行い、着々と準備が整っていった。 筋トレもした。 21 もっとも腕立て伏せ20回を超えるのがやっとだったが。 そして、遂にその日がやってきた。 戦闘予定地は神聖オーク帝国の東南部、アンカラ平原である。 僕以外の誰も知らないことだが、実はアンカラ平原はセルケトヌス の出身地であり、年に1度ここを訪れている。 約100年前セルケトヌスの家族が人間によって殺されているので ある。 どうやらセルケトヌスが建国を目指した理由もその経験が大きく影 響しているらしい。 人間から見ればオークはモンスターと呼ばれるのだが、結局は生存 競争の1つなのだろう。 だがしかし、神聖オーク帝国建国のための土地と食料をアルデュル ク王国から奪うため、既に200万人以上の人々が死んでいるのだ。 農耕ができるほど知恵のあるオークはごく少数なため、アルデュル ク王国が滅亡すれば餌を求めてより広範囲での侵略と略奪が行われ るはずだ。 そうなればどれほどの人が死ぬことになるか想像も出来ない。 セルケトヌスに同情すべき点はあるが、手加減を加える訳にはいか なかった。 この3ヶ月でしたことの中に望遠鏡の開発とアンカラ平原の地図 作成がある。 アルデュルク王国には既にある程度無色透明なガラスを造る技術は アナライズ あったが、レンズや望遠鏡の概念はなかった。 解析を使えば、レンズの歪みや焦点距離の測定も簡単だった。 アナライズ ガラス職人には何度もやり直しをさせたが、そこそこ高性能な望遠 鏡の開発に成功した。 メガネのレンズ越しでも解析が発動するためおそらく可能だろうと 22 アナライズ 予想していたが、望遠鏡越しでも解析は使用出来た。 それが偵察に於いて非常に大きな意味を持つことは言うまでもない。 地図を分析しセルケトヌスの移動ルートを予測する。 アンカラ平原は帝国の土地であり基本的に人は存在しない上、セル ケトヌスは自分のLVに絶対的な自信を持っている。 わずか10数匹の護衛のオークを連れて帝都からの最短距離を進ん できていた。 ただし、ドラゴンに騎乗してである。 アタックポイントは見通しの悪い渓谷を選んだ。 川沿いを移動するためセルケトヌスの周囲には遮蔽物が少なく、山 側のこちらは相当に見つかりにくい。 それにオークの村落とは相当に離れている。 そして予定通りセルケトヌスの一団がやってきた。 護衛のオークは16匹で、騎馬に乗っていた。 身長は約2mで、緑色の肌をして毛深く、醜い豚面である。 アナライズ プロレスラーよりも一回り太い腕をしていた。 ジョブ 解析を使うとナイトオーク、オークソードマン、オークメイジ、オ ークプリーストなどであることが分かった。 ノーマルオークが経験を積み、ランクアップして職業を得た姿であ る。 魔豚鬼帝セルケトヌスは赤いドラゴンに乗り、地上10mほどを 悠々と飛んでいた。 LV524である。 身長4mほどもあり、体重は優に1トンを超えていた。 赤黒い肌をして筋骨隆々の鍛え上げられた姿だ。 5mを超えるハルバードを握っている。 23 予想通り魔法は使えないようだ。 あの重さのセルケトヌスを乗せて、ドラゴンはよく空を飛べるもの だ。 敵軍のルートが分かっているのだから、基本的な罠である落とし 穴を掘っておいた。 土属性の魔法使いを用意しておいたのだから当然だ。 まずは護衛のオークを片付ける。 予め連れてきていた名人の作った落とし穴は、誰が見ても不自然な 点に気づかなかった。 ましてや自国の領土だと油断しているオークが分かるはずがない。 地響きを立ててオーク14匹とその騎馬14頭が落とし穴へとはま り込む。 その中には数百本の槍を用意していた。 全身串刺しになって息絶えていく。 落とし穴を免れたのは僅か2匹だけだった。 ﹁落とし穴だと! 人間どもの襲撃か。 一体どうやって﹂ セルケトヌスは驚いて動きを止めている。 ここがチャンスだ。 バリスタ バリスタ ドラゴンごと飛んで逃げられる訳にはいかない。 その為に用意したのは大型弩砲だ。 ここまで移動可能な限界ぎりぎりの大きさの大型弩砲を500機用 意していた。 雨あられと槍が降り注ぐ。 ただの槍ではなく槍先には返しが付いており、そう簡単には抜けな い物だ。 24 槍の石突きには鋼線がしっかりと付けられており、もう片方の端は 近くの木に結びつけてある。 ドラゴンの強固な鱗を突き破り、次々と刺さっていく。 ドラゴンが槍1本を抜いているあいだに槍10本が刺さっていた。 やがてギャオオオオオンとドラゴンが叫び声を上げ、地面へと墜 落した。 生き残っていた2匹のオークとドラゴンには無数の槍が突き刺さっ ている。 ドラゴンは流石にまだ生きているが、逃げるのはもう無理だろう。 だが、魔豚鬼帝セルケトヌスは無事だった。 自由自在にハルバードを振り回し、飛んでくる槍を弾き飛ばす。 アナライズ 上手く当たった槍であってもろくにかすり傷もついていない。 解析で確認するとHP:67982/68000と表示された。 これだけやってダメージは18だ。 マジックディスペル この百年戦争でセルケトヌスを倒せなかった理由がこの鉄壁の防御 力とユニークスキル・魔法無効化だ。 バリスタ 遂にドラゴンが死んだ。 それを確認して、一旦大型弩砲を停める。 距離を詰めて鋼線を編み込んで作ったネットをかぶせていくのだ。 それと同時に、土魔法使いがセルケトヌスの周囲を凹ませていく。 近くの川から水を流し込み、泥沼へと作り変えた。 振り回すハルバードが当たって死ぬ者も居たが、やむを得ないだろ う。 ネットのためにハルバードを動かしにくくなり、泥沼のために敏捷 が半減している。 バリスタ 再び大型弩砲による集中砲火だ。 25 HP:67968/68000まで減ったが先は長い。 ネットを全て破られ、泥沼から抜け出られたら厳しいことになる。 槍が刺さらないため、槍に付けた鋼線によって動きを止めることが 出来ないからだ。 ここで奥の手を使う。 ドラゴンが死んで、逃がす可能性がほぼ無くなったためだ。 奥の手を使ってもし逃げられたら、もう同じ手は通用しないだろう。 この奥の手には重大な欠点があるためだ。 聖剣イスラフィールを長さ20cmほどに調整し、槍の先へと接 続させる。 パチっとはめるだけで固定される。 バリスタ 短時間でしっかりと接続させるこの道具はこの3ヶ月で作っておい た。 バリスタ 聖剣付きの槍を大型弩砲により打ち出す。 大型弩砲の威力は僕のLVとは関係がない。 しかし、僕がスイッチを入れれば特殊能力:防御力無視・命中率上 昇︵+50%︶はしっかりと働き、セルケトヌスの胸に深々と突き 刺さった。 ﹁ば、馬鹿な⋮⋮﹂ セルケトヌスは驚きの声を上げる。 HP:65742/68000だ。 まだまだこれからだ。 特殊能力:人剣一体を発動。 手元にイスラフィールだけが戻ってくる。 イスラフィールがあけた穴から突き刺さった槍はそのままだ。 返しと鋼線でセルケトヌスの動きが拘束されている。 再び聖剣イスラフィールを槍の先へと接続させる。 26 バリスタ 大型弩砲発射。 HP:63628/68000⋮⋮HP:61282/6800 0⋮⋮HP:59164/68000⋮⋮HP:56994/68 000⋮⋮HP:54828/68000。 バリスタ 一撃ごとにセルケトヌスのHPが大きく削られていく。 バリスタ 当然ながら牽制のため他の大型弩砲も次々と発射している。 だがまともにダメージを与えているのは僕が撃っている大型弩砲だ けだと気付いたらしい。 僕を恐ろしい形相で睨みつけている。 ﹁おのれええええ。 貴様、殺してくれるわ﹂ 地獄の底から聞こえてくるような声を上げると、必死で泥沼から 抜け出ようとしていた。 セルケトヌスに付いた鋼線はこちら側ばかりのため、逃がさない効 果はあるが、近づかせない効果は無い。 セルケトヌスがこちらに突撃してきたら非常に厄介なことになる。 それが奥の手の重大な欠点。 すなわち、聖剣イスラフィールの使い手が僕しかおらず、僕がとて も弱いことだ。 僕は間違いなくたった一撃で死ぬ。 そしてそうなればセルケトヌスを倒すのは不可能だ。 だから僕は⋮⋮逃げ出した。 とびっきりの駿馬に乗り、必死に逃げる。 この3ヶ月、乗馬も練習したのだから。 実はこれも計画通りだ。 27 予想された状況の1つに過ぎない。 オーク達を落とした巨大な落とし穴と僕が居た場所のあいだに無数 の小さな落とし穴を作っておいた。 その落とし穴にセルケトヌスが落ちる。 面白いように次々と落ちていく。 バリスタ そうやって時間を稼ぎ、僕と僕の周囲にいた兵士たちは逃げ延びた。 この戦場に於いて用意した大型弩砲は500機だ。 しかし第1弾の攻撃で使用したのは100機のみ。 残りはどこにあると思う? バリスタ こうして僕は第2弾の大型弩砲へとたどり着く。 再びセルケトヌスへの攻撃だ。 HP:52663/68000⋮⋮HP:50583/68000 ⋮⋮HP:48268/68000⋮⋮HP:46074/680 00⋮⋮HP:43947/68000。 バリスタ 第4弾の大型弩砲から避難する頃には、セルケトヌスはHP:4 821/68000になっていた。 全身ボロ切れのようになっており、ハルバードももはや無い。 しかしその目だけは力を失わず、爛々と殺気を放っていた。 あと3発有れば倒せるはずだが、その3発が遠かった。 ここで僕はミスをしたのだ。 第5弾まで行く途中、馬から降りる時に足を滑らせてしまった。 たった3ヶ月の乗馬の練習で、命のかかった戦場でよくここまで持 ったものだと思うけれど、僕の膝はプルプルと生まれたての小鹿の ように震えていた。 僕のLVは12だった。 3ヶ月では11しか上がらなかった。 いや、他のことが忙しかったというのも有るんだけど。 28 いまの僕はやっと村人Aの半分の強さってところだ。 LV524のセルケトヌスとは比べ物にならない。 ﹁あと少しだ。 もはや逃がさぬわ﹂ 僕は聖剣イスラフィールを持ち、構えを取った。 だが僕が剣をひと振りする間に、たとえ満身創痍であろうともセル ケトヌスはいとも容易く命を奪えるだろう。 では、こういう状況になることを僕は予想しなかったと思うだろう か? 僕が構えを取った時にはもう終わっていた。 大きな物音を立てて、セルケトヌスが倒れた。 いや、正確にはセルケトヌスの亡骸が倒れたのだ。 その傍らには首が落ちていた。 僕の動きは遅い。 僕がひと振りするあいだに熟練の戦士なら3回は攻撃できると、訓 練で言われた。 セルケトヌスならなおさらだろう。 ならば僕はひと振りもせずに敵を倒すしかない。 特殊能力:伸縮自在である。 構えを取ろうとする動きのなかで毛ほどの不自然さも感じさせるこ となく、刃を相手に向けるよう練習した。 そして伸縮自在を思考操作する練習をした。 今なら長さ15m、幅1mまでコントロールが可能だ。 伸ばす時間は0.1秒。 陸上競技でフライングになるのは、合図から0.1秒以内に反応 29 した場合だという。 これはどれほど訓練した運動神経の良い人でも0.1秒以内に反応 することは出来ないという医学的根拠に基づくものらしい。 オークで実験したことはないが、やはり0.1秒以内での反応は無 理だったようだ。 New! LV12の僕がLV524のセルケトヌスを倒したため、LV3 48になっていた。 恐ろしいほどのLVUPだ。 称号:聖剣の騎士・アルデュルク王国最強の騎士 終わってから最強の騎士なんて言われてもね。 それに未だに剣術はからっきしだし。 LVUPしてステータスは上がったのに、剣術は下手なままだった。 泣きたくなるよ。 祝勝会などが終わって数日後、聖剣イスラフィールが不思議な光 を放った。 眩しくて目を閉じ、また開いてみると見たこともないほど美しい女 性が立っていた。 サファイア 見たところ、17か18歳くらいだと思う。 絹糸のように滑らかな金髪、蒼玉のような神秘的な瞳、形の整った 眉宇、どんなに優れた画家であってもこの美しさを絵で表すのは不 可能でないだろうか。 ﹁私は女神ヘルベティア。 30 よくぞ、この世界の人々を救ってくれましたね。 深く感謝しています﹂ その声は、この世界に来た最初に﹃どうか、その剣を抜いて下さ い﹄と聞こえてきたあの声だった。 出来ることならいつまでも話していたい、そう思わせる美声だった。 ﹁貴方が僕をこの世界に呼んだのですね?﹂ ﹁大変申し訳ないことですが、その通りです﹂ ﹁僕の意思を確認することなく連れてきたのですから、人間同士で あれば誘拐に相当します。 どういう理由でだったのですか?﹂ ﹁実は聖剣の騎士になるのは、元々この世界の住人であるガイ・リ ューブランドのはずでした。 しかしちょっと目を離した隙にガイは虫垂炎になって死んでしまっ たのです。 それが貴方を呼ぶ3日前でした﹂ ﹁虫垂炎ってつまり盲腸ですね。 この世界の医療水準だと確かに盲腸で助からないでしょうね﹂ ﹁その通りです。 その後、聖剣の適合者を探したのですがこの世界では見つからず、 今から誕生させるのであれば18年後までかかってしまい、オーク による被害があまりにも大きくなることが予想されました。 そのため、異世界でも探したところ、あなたを見つけた訳です﹂ 31 ﹁そういうことでしたか。 しかし、それならなぜ説明をしてから呼ばなかったのですか?﹂ ﹁それはそのう⋮⋮﹂ その様子からは慚愧の念に堪えないことが伺われた。 ﹁どうしたんです?﹂ ﹁恥をしのんで申します。 異世界でも見つけた適合者はあなた1人でした。 しかし、受験生に何ヶ月、もしくは何年も異世界で戦ってほしいと お願いしても断られるに違いないと思いました。 しかし、断られたら後がなく、断られた後に無理矢理に連れてくる のは神としてのルールに反します。 その為、有無を言わさず連れてきてしまった訳です。 本当に申し訳ございませんでした﹂ 女神ヘルベティアは深々と頭を下げる。 正直なところ、驚きだった。 自分は女神であり何百万人もの人命がかかっているのだから、1人 の意思は無視せざるを得なかったと主張されれば僕はそれ以上の非 難はできないだろう。 だが、彼女は女神としてではなく、真摯に対等な立場での謝罪をし ているのだ。 果たしてT大に落ちた時点で事情を説明されていたら、異世界で アナライズ 戦うことを了承していただろうか。 結果論では解析を上手く使って勝つことが出来たが、本来の僕の強 さなら100%負ける戦いだった。 32 僕は自分に出来ないことは引き受けない主義だ。 おそらく断っていたのではないだろうか。 ﹁分かりました、謝罪を受けましょう。 どうも説明を受けていたら、断っていた可能性が高いですし。 最終的に上手くいった訳ですから、そう自分を責めないで下さい﹂ ﹁そうですか。 有り難うございます﹂ ﹁それで僕はこれからどうなるんです?﹂ ﹁地球に戻るか、この世界に留まるか、どちらか好きな方を選んで 下さい。 それから報酬として私に叶えられる範囲で何でも願いをかなえます。 大金持ちとか高い地位とか、歴史に名を残すとか、健康で長生き、 美人で優しい彼女などです。 不老不死は無理ですけれど、老化を遅くして120歳まで生きられ る程度なら可能ですよ﹂ ﹁僕は家族が待ってますし、地球に帰ります。 願いの方は、うーん、どの願いも運と努力で叶えられるものばかり ですね﹂ ﹁あら、凄い自信。 あと、やっぱり3ヶ月程度でしたら地球の方が優先なんですね﹂ ﹁まあ、3ヶ月でセルケトヌスを倒すことに比べると何だか自分で 叶えられそうだなと思いまして。 あ、そうだ。 33 本当にどんな願いでも貴方に叶えられる範囲なら、何でも良いので すね?﹂ ﹁ええ、その通りですが﹂ ﹁じゃあ、こういうのはどうですか? 貴方に今後彼女としてずっと傍に居てほしいというのは?﹂ ﹁えええええええええ! ほ、本気ですか?﹂ ﹁これなら僕がどんなに努力しても本来なら叶わない願いですし、 それに貴方の意思次第で叶えられることですよね? まあ、絶対嫌だなって思われるなら無理矢理にってつもりはないで すよ﹂ 女神が人間と付き合うってことは考えにくいし、無理やりに連れ てこられた意趣返しにこれくらい言っても良いよね。 でも、こんな彼女が出来たら良いなって思ったのは本当だ。 ﹁う﹂ ﹁う?﹂ ど、どうしたんだろ。 女神さま泣いてるぞ。 ﹁う、嬉しいですうううう。 苦節9800年、遂に私にも春が来たんですね﹂ 34 ﹁ええっ! 9800年って﹂ ﹁学さん、不束者ですが末永くよろしくお願いしますね﹂ ﹁え、あ、うん。 よろしくね﹂ こうして僕は地球へと帰ってきた。 3ヶ月も行方不明ということで、家族は大泣きだった。 入学手続きが出来なかったため、滑り止めの大学に入ることは不可 能だ。 9ヶ月の浪人生活の末、T大には合格することが出来たから結果オ ーライだろう。 小説を見てみたところ、主人公の名前がツクモ・マナブになってい た。 後日談が載っていて、アルデュルク王国はちゃんと平和になったら しい。 ツクモ・マナブはどこかへと旅立ったというエンディングだった。 女神ヘルベティアは隣の家に引っ越してきた。 女神の基準だと10000歳までに結婚出来ないと行き遅れらしい。 僕の寿命が尽きたら、あの世界の人々を救った功績によって天界の 人に転生してほしいと言われた。 キリッとしていたら凄い美人なんだけど、実は意外と泣き虫で甘え んぼだ。 色々困ったところもある人だけど、結構楽しくやっている。 35 ︵後書き︶ 元々長編用のプロットを削って書いたものですから、説明不足の点 も有るかもしれません。 あんなに削ったのに15000文字って長いですね。 読んでくださって有り難うございます。 分かりにくい点が有れば、感想へどうぞ。 第三回小説祭り参加作品一覧︵敬称略︶ 作者:靉靆 作品:僕のお気に入り︵http://ncode.syoset u.com/n6217bt/︶ 作者:月華 翆月 作品:ある鍛冶師と少女の約束︵http://ncode.sy osetu.com/n5987br/︶ 作者:栢野すばる 作品:喉元に剣︵http://ncode.syosetu.c om/n6024bt/︶ 作者:はのれ 作品:現代勇者の決別と旅立ち︵http://ncode.sy osetu.com/n6098bt/︶ 作者:唄種詩人︵立花詩歌︶ 作品:姫の王剣と氷眼の魔女︵http://ncode.syo setu.com/n6240br/︶ 36 作者:一葉楓 作品:自己犠牲ナイフ︵http://ncode.syoset u.com/n1173bt/︶ 作者:朝霧 影乃 作品:封印の剣と異界の勇者︵http://ncode.syo setu.com/n8726br/︶ 作者:てとてと 作品:ナインナイツナイト︵http://ncode.syos etu.com/n3488bt/︶ 作者:葉二 作品:凶刃にかかる︵http://ncode.syosetu. com/n5693bt/︶ 作者:辺 鋭一 作品:歌姫の守り手 ∼剣と魔法の物語∼︵http://nco de.syosetu.com/n5392bt/︶ 作者:ダオ 作品:ガリ勉君が聖剣を抜いちゃってどうしよう!︵http:/ /ncode.syosetu.com/n5390bt/︶ 作者:電式 作品:傀儡鬼傀儡︵http://ncode.syosetu. com/n5602bt/︶ 作者:舂无 舂春 37 作品:ライマレードの狂器︵http://ncode.syos etu.com/n5743bt/︶ 作者:小衣稀シイタ 作品:剣と争いと弾幕とそれから︵http://ncode.s yosetu.com/n5813bt/︶ 作者:ルパソ酸性 作品:我が心は護りの剣∼怨嗟の少女は幸福を知る∼︵http: //ncode.syosetu.com/n6048bt/︶ 作者:三河 悟 作品:復讐スルハ誰ニアリ︵http://ncode.syos etu.com/n6105bt/︶ 38 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n5390bt/ ガリ勉君が聖剣を抜いちゃってどうしよう! 2016年8月31日03時28分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 39