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7~9月期は成長率回復、トランプの政策で加速も

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7~9月期は成長率回復、トランプの政策で加速も
Nov21, 2016
No.2016-056
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
上席研究員 鈴木裕明 03-3497-3656 [email protected]
米国経済 UPDATE:7~9 月期は成長率回復、トランプの政策で加速も
米国の 7~9 月期の実質 GDP 成長率は前期比年率 2.9%増となり、成長率が回復した。雇用や所得が伸
びていることから、個人消費を中心として米国経済は堅調な拡大が続いていく見通し。
トランプ氏が掲げる政策は、減税や規制緩和、インフラ投資拡大など成長志向が強い。選挙戦中の極端
な政策が穏当かつ合理的なものへと調整されることが前提ではあるが、新政権では成長率が上振れし、財
政赤字が拡大しても持続可能な水準に収まるという理想的なシナリオとなる可能性もある。
大統領選挙余波で市場は振れやすくなっており様子を見守る必要はあるが、トランプ当選により市場で
インフレ懸念と金利上昇が生じており、ここ数か月は賃金上昇率も加速してきていることから、12 月の
利上げは「当確」に。来年も、今年よりペースを上げて利上げが続いていく可能性が高まってきた。
7~9 月期 GDP は成長が加速
米国の 7~9 月期の実質 GDP 成長率は、
前期比年率 2.9%
増となり、昨年の 7~9 月期以来、1 年ぶりに 2%以上の水
準を回復した。先行きについては、後述の需要動向を総合
実質GDP成長率(寄与度、前期比年率、%)
6.0
5.0
4.0
すると、個人消費を中心とする緩やかな成長の継続がメイ
3.0
ンシナリオと考えられる。
2.0
純輸出
1.0
在庫投資
なお、トランプ新大統領の経済への影響は、今後数か月
政府投資
政府消費
住宅投資
0.0
設備投資
程度は、新政権の政策運営見通しを市場がどう捉えるかと
-1.0
個人消費
いったマインド面に左右される。当選後、足元までの状況
-2.0
GDP
は、トランプ新政権への楽観論が市場の大勢となり、株価
-3.0
-4.0
が上昇、マインドも改善に向かっている。
12
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14
15
16
(出所)米国商務省
その後は、政策の影響が徐々に実体経済に及ぶようにな
る。トランプ氏は、①減税、②規制緩和、③インフラ投資拡大など成長志向が強い施策を掲げている。選
挙戦中の極端な政策(減税規模の大きさ、強い保護主義傾向、大量の不法移民送還など)が穏当かつ合理
的なものへと調整されていけば、新政権下では個人消費・設備投資ともに増勢を強めて成長率が上振れし、
財政赤字が拡大しても持続可能な水準に収まるという理想的なシナリオとなる可能性もある。他方におい
て、調整に失敗すれば、財政赤字急拡大、金利急上昇、保護主義化による貿易停滞などに陥るリスクもあ
る。
なお、昨今の米国経済の潜在成長率低下懸念(2%台半ば⇒2%以下へ)については、①雇用政策等によ
り、雇用のミスマッチを解消して労働力を増やす、②イノベーションや効率改善のための投資を拡大して
生産性を高める等が必要とされる。トランプの移民規制強化は労働力増加にはマイナスとなるが、衰退地
域の活性化による労働参加率アップは労働力増加にプラス、また、規制緩和やインフラ強化は生産性にプ
ラスに働く。政策のバランスの取り方次第で、潜在成長率上昇につながることも考えられる。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
GDP 主要需要項目の状況
個人消費:堅調が続きペース加速も
7~9 月期の実績は、前期比年率 2.1%増とここ 2~3 年の
430,000
420,000
とが響いた。ただし、後述するように雇用・所得環境が堅調
410,000
に改善していることから、家計の資金面からは当面は年率 2.5
400,000
~3%の消費拡大が可能な状況にある。足元 10 月の小売・外
390,000
食売上高は前月比 0.8%増と、9 月の同 1.0%増に続いて好調
380,000
を維持しており(右図は振れの大きいガソリンを除外したベ
370,000
性が高まっている。
Jul-16
Oct-16
Jan-16
Apr-16
Jul-15
Oct-15
Jan-15
Apr-15
Jul-14
Oct-14
Jan-14
Apr-14
Jul-13
360,000
Jan-13
ース)、10~12 月期の個人消費は増加ペースが加速する可能
Oct-13
久財消費は堅調ながら、非耐久財消費がマイナスとなったこ
Apr-13
巡航速度(約 3%増)と比べると弱かった。新車販売など耐
小売・外食売上高(ガソリンスタンドを除く。季節調整値)(百万ドル)
440,000
(出所)米国商務省
設備投資:基調は弱いが最悪期は脱出
7~9 月期の実績は、前期比年率 1.2%増となり 2 四半期連続プラス。構築物投資は、7~9 月期も鉱業
関連のマイナスが続いたが、商業関連がこれをカバーして全体でプラスとなった。他方、機械投資は 4 四
半期連続のマイナスであり、全体としても依然として力強さに欠ける。設備投資の先行指標となる非国防
資本財受注(除・航空機)の足元の動きをみると、9 月は前月比 1.3%減。6~8 月は 3 か月連続でプラス
となったが、その後に失速し、10~12 月期にかけてもなお増勢が強まらない状況となっている。
昨年のドル高や原油安などの影響により企業収益が悪化、これが設備投資を抑える要因となり、2015
年 10~12 月期が前期比年率 3.3%減、2016 年 1~3 月期も同 3.4%減となった。今年に入ってからはドル
高は修正に向かい、また原油価格も底打ちして持ち直すなど経営環境は改善しており、企業収益も下げ止
まりつつある。また、トランプ当選によって米国の経済政策についてある程度の方向性が見えてきたこと、
シェール関連投資が回復してきていることも、今後はプラス材料となろう。足元での急速なドル高が気掛
かりではあるが、以上より、設備投資は基調は弱いものの、最悪期は脱したものと考えられる。
住宅投資:足元は強く
7~9 月期の実績は、前期比年率 6.2%減で 2 四半期連続の
マイナス。住宅着工件数をみると、昨年 6 月に年率 120 万
件を超えた後は頭打ちとなり、それ以来、今年 9 月まで概ね
110~120 万件程度で推移してきた。住宅投資は、プラス要
住宅着工件数(年率、百万戸)
2.5
2.0
1.5
因(低金利、歴史的低水準にある賃貸住宅空室率、雇用・所
得の拡大)は豊富ながら、マイナス要因(緩まない金融機関
の審査基準、学生ローンの過剰債務、雇用の不安定性、土地
1.0
0.5
や労働力の供給制約)がより強く影響しており、その結果、
新たな世帯形成等の潜在需要が顕在化するペースが落ちて
きている。
0.0
2000
2005
2010
2015
(出所)米国商務省
ただし、10 月の着工件数は前月比 25.5%伸びて年率 132.3 万件となった。105.4 万件と落ち込んだ 9
月からの反動増も含まれており、また単月の数字ではあるが、130 万件超えは 2007 年 8 月以来。来年以
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Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
降は、トランプの掲げる規制緩和は住宅供給面でのプラス、経済活性化に成功すれば雇用・所得の拡大に
も追い風となるが、それ以前に既に長期金利が上昇してきており、これが逆風となることが考えられる。
住宅投資の増加ペースは緩やかなものにとどまるとみられる。
外需:ドル高修正の追い風は 7~9 月期までか
7~9 月期の実績は、輸出が前期比年率 10.0%増となり、2 四半期連続増。好調の要因の 1 つとしては、
2 月以降のドル高修正(=ドル安)がタイムラグを伴って輸出を後押ししたことが考えられる。他方、輸
入は同 2.3%増となり、内需の増加に合わせて堅調に拡大している。その結果、7~9 月期は純輸出の赤字
が縮小して GDP を 0.8%Pt 押し上げた。今後は、輸出に対するドル安の追い風が消える一方で、輸入は
引き続き内需に合わせての着実な増加が見込まれるため、純輸出の赤字は拡大に転じ、外需の GDP への
寄与もマイナスへと向かう可能性が高い。足元でのドル高も半年程度のタイムラグの後に、輸出への逆風
となってくる。トランプ新政権発足のタイミングで赤字が拡大していると、政権の保護主義色を一層強め
てしまう恐れがある。
賃金上昇ペースの加速にトランプ当選で利上げも「当確」に
10 月の雇用増加数は前月比 16.1 万人となった。8~10 月平均では 17.6 万人となり、昨年の平均(22.9
万人)からは縮小しているものの、余剰労働力が減少してきている現状を踏まえれば、人口増を吸収する
のに十二分な水準と考えられる。10 月の失業率は 4.9%となり、過去 1 年間、失業率はほぼ 4.9~5.0%で
推移していることからも、完全雇用にかなり近づいていることが示唆される。
その結果として、労働需給の逼迫が徐々に強まってきてお
り、賃金(時給)上昇率が加速してきた。10 月は前年同月比
民間部門時給の推移(前年同月比、%)
4.0
+2.8%(9 月は同+2.7%)
、前月比では+0.4%(9 月は+0.3%)
3.0
と加速してきている。
こうした足元での賃金上昇の加速は、今のところは、物価
2.0
には影響を及ぼしていない。9 月の個人消費(PCE)デフレ
ータは前年同月比 1.2%、前月比 0.2%の上昇、PCE コアは前
1.0
年同月比 1.7%、前月比 0.1%の上昇にとどまる。
太線は3か月移動平均
FRB は、大統領選挙直前となる 11 月の FOMC では、
「利
上げに向けて状況は整ってきたが、さらなる証拠を得るため
0.0
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(出所)米国労働省
に待つ」という文言を 9 月 FOMC に続いて声明文に記載して、利上げを見送った。これまで FRB がゆっ
くりとした利上げペースを維持してきた最大の要因は、就労意思を失って労働市場から離脱してしまい、
失業率にもカウントされなくなっている層が依然として多く残り、なかなか、労働市場に戻って来ないた
めである。FRB は金融緩和状態を維持して、この層が労働市場に帰ってくることを期待して待った。し
かし、10 月の労働参加率は 62.8%となり、9 月から 0.1%Pt 低下した。7~10 月は 62.8~9%で推移して
おり、労働市場への参加者の増加ペースが鈍くなってきている。そうするうちに賃金加速が生じ、11 月 9
日からは止めを指す形で、トランプ当選により先々のインフレ懸念が急拡大した。
トランプ政権が上述した政策の方向性に沿って稼働を始めた場合、成長率が加速して労働市場の逼迫が
進み、賃金上昇から物価上昇が始まるとともに、財政赤字の拡大に伴い国債が増発され、国債の需給が緩
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Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
むことにより金利が上昇することが考えられる。市場は即座に、これを織り込みに行った。その結果、投
票日前日から 1 週間で、10 年債利回りが 0.40%Pt、2 年債利回りが 0.18%Pt、1 年債利回りが 0.14%Pt、
それぞれ上昇した。そのために足元の実質金利もまた急上昇し、FRB としても放置できない状況になり
つつある。こうした状況を受けて、イエレン議長は 11 月 17 日の議会証言において、比較的早期に利上げ
する可能性があるとの認識を示した。
大統領選挙余波で市場は大きく振れやすくなっており、今後トランプの言動等から再び市場に不安が広
がる恐れもある。しかし、そうした不安が顕在化しなければ、12 月 FOMC において利上げ、来年も、ト
ランプの成長路線の下、賃上げ⇒物価上昇に促される形で、今年よりもペースを上げて少なくとも 2 回程
度の利上げが実施される可能性が高まってきた。
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