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第2回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」

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第2回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」
第2回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」
~地域における防衛当局間の将来の協力~
・
・
気候変動と防衛当局の役割
アジア太平洋地域における安全保障協力枠組み・協力
3 月 26 日
場所:京王プラザホテル
第 2 回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」プログラム
~地域における防衛当局間の将来の協力~
平成 22 年 3 月 26 日(金)(於
1245
京王プラザホテル南館 5F「エミネンスホール」)
【開会】中江公人防衛事務次官による開会の挨拶
1300 ~ 1500
【セッション 1】「気候変動と防衛当局の役割」
(議長)
西原
正
平和・安全保障研究所理事長
(パネリスト) トビアス・フィーキン
サイモン・テイ
大江
博
RUSI 国家安全保障レジリアンス部長(英国)
シンガポール国際関係研究所所長
防衛政策局次長
アントニオ・サントス
1500 ~ 1530
フィリピン国防次官
休憩
1530 ~ 1730
【セッション 2】「アジア太平洋地域における安全保障協力枠組み・協力」
(議長)
西原
正
(パネリスト) 中江公人
平和・安全保障研究所理事長
防衛事務次官
リザル・スクマ
戦略問題研究所長(インドネシア)
ラルフ・コッサ
CSIS 太平洋フォーラム所長(米国)
サヤカーン・シースヴォン
ASEAN 事務次長
(政策・安全保障共同体担当)
1730 ~
議長による閉会の挨拶
i
はじめに
西原正
平和・安全保障研究所理事長(日本)
本セミナーは防衛省が主催する 2 回目のセミ
ナーである。今回、議論する内容について一言申
し上げる。本日、セッション 1 では、気候変動と
それが安全保障および社会全体に与える影響、そ
して各国の安全保障セクターの協力体制のあり
方について議論する。セッション 2 ではアジア太
平洋地域における安全保障の枠組みについて検討する。今回のセミナーでは特に、各国
の防衛当局がこの問題に関して、どのような協力が可能かという点に焦点を当てて議論
を進めていきたいと考えている。気候変動は、新しく浮上してきたテーマとして今後も
多くの専門家による幅広い議論が行われると考えられる。世界各地で発生している干ば
つや洪水も新たな安全保障問題となっている。例えば,干ばつで死亡者が発生し、水不
足が起きれば、紛争につながる可能性がある。本日はこのようなテーマについて検討し
ていく。
本日はまず長島昭久防衛大臣政務官より開会の挨拶をいただく。各セッションには 4
名のパネリストをお呼びしている。それぞれのパネリストにご発言いただいた後、ディ
スカッションを行う。それではさっそく長島防衛大臣政務官の開会の挨拶を中江公人・
防衛事務次官に代読していただく。
1
開会挨拶
中江公人
防衛事務次官(日本)
第 2 回「共通安全保障課題に関する東京セミ
ナー」の開催にあたり、西原正
平和・安全保障
研究所理事長をはじめ、海外から著名なパネリス
トの皆様をお迎えすることができ、たいへん光栄
に思う。近年、アジア太平洋地域内において、国
際救援活動、海上安全保障、平和維持活動、テロ
リズム対策、気候変動等、各国に共通する安全保障問題についての対話が活発になって
きている。2006 年から毎年、ASEAN 国防相会議(ADMM)が開催され、2009 年の
第 3 回国防相会議では、国境を越えた安全保障問題について話し合われた。この会議に
は、ASEAN 地域以外からの参加もあり、「ADMM プラスへの参加原則」 に関するコン
セプト・ペーパーが採択された。
本日のセミナーでは、
(1)アジア太平洋地域が抱える共通の安全保障課題、
(2)共通
の課題への対処に関して地域協力を推進するための方策、
(3)地域協力における防衛当
局の役割と地域協力の強化に向けた対策、の3点について検討する。本日の議論が、安
全保障情勢の改善に向けた活動に寄与し、地域内の対話を推進する一助となることを期
待している。
本日、お招きしたパネリストはいずれもこの分野における豊富な知識と経験を有し、
参加者に貴重な洞察を提示してくださるものと確信している。パネリストの方々に心よ
り歓迎の意を表する。議論を深めるためには、活発な質疑応答やコメントが不可欠であ
る。本日のセミナーを通じて、アジア太平洋地域に共通する安全保障課題への理解が深
まり、各国の協力促進につながる議論の場となることを期待している。
2
セッション 1:気候変動と防衛当局の役割
トビアス・フィーキン
RUSI 国家安全保障レジリアンス部長(英国)
本日は、ここ数年間、気候変動をめぐる討論を
後押ししてきた政治的推進力について、そして将
来、気候変動が安全保障にもたらす主要な影響に
ついて、それに対し、各国政府はどのような対策
を取ることができ、どのような政策を実施すべき
なのかといった点について述べてみたい。
気候変動をめぐる討論を後押ししてきた政治的推進力について考える場合、アメリカ
の動向を見る必要がある。2009 年、バラク・オバマ大統領は、米国が数年以内に取り
組むべき安全保障課題について発言した。安全保障問題が指摘されたのはこの時が初め
てではない。
振り返って 2003 年、対テロ戦争のまっただ中にあった当時、アメリカ国防総省・純
評価局が発表した報告書には、気候変動はテロリズムの脅威を上回る問題だという指摘
がなされている。現在、アメリカの大統領が気候変動に重点を置いているということは、
この問題がいかに重大であるかということを示すものである。
3
将来、この問題がもたらす影響について考えるとき、気候変動は現在、すでに世界が
抱えている問題を悪化させるように作用するということを理解することが重要だ。問題
への対応力が最も弱いのが貧困層である。
これからお見せする地図には、世界の中で特に気候変動の影響を受けることが予想さ
れる地域(ホットスポット)を示してある。これらの地域のほとんどは、赤道付近に集
中している。これらの地域はすでに紛争を抱えており、気候変動によって状況の悪化が
予想される。
食料安全保障の問題も気候変動によって悪化が予想されるものの一つである。ことわ
ざにもある通り、人は「衣食足りて礼節を知る」のである。近年、食糧不足と、手頃な
価格の食糧へのアクセスの縮小を原因とする紛争が多発している。食糧へのアクセスの
不平等さに不満を持つ貧困層が抗議行動を起こしているのだ。2008 年、ハイチでは食
糧の価格が高騰した。この例からもわかるように、食糧不足は地域の安定を脅かすので
ある。ハイチの食糧不足は、大統領の意向や政府のそれまでの努力を無視して、首相を
解任するという事態にまで発展した。現在の食糧価格の上昇は、気候変動が直接的な原
因となっているわけではないが、気候変動がこの問題に拍車をかけることは間違いない。
研究者や政治家が最大の懸念の一つと考えている問題が大量移民の問題である。100
万人単位の人口の移住が行われる可能性は、気候変動の問題よりもはるかに現実的な懸
念として存在する。気候変動により、人々は良好な気候の地域にはより大きなチャンス
があると考え、そのような地域に大量に移住するようになるだろう。ベリーズなどでは、
このような移民がすでに始まっている。ベリーズ最大の都市、ベリーズシティには国民
30 万人のうち、6 万人が居住している。この都市は海抜より低い土地にあり、毎年、
洪水が起きている。洪水が起きると、人々は首都であるベルモパンに移住してくる。そ
の結果、財政面および行政面での対応に政府は苦慮を強いられる。その政府の対応の悪
さに今度は住民が反発し、不満を募らせるという悪循環が起きている。世界の大都市の
過半数は海岸沿いに位置している。これらの都市は洪水の被害を受ける可能性があり、
それは大量移民、ひいては住民同士の衝突や略奪の多発、秩序の崩壊につながる。さら
には、軍事的な問題にも発展する可能性がある。そして、そのような不安定な状況に政
府が対応できない場合、一部の地域が政治空白状態に陥る可能性もある。
政治空白状態の一例が、グアテマラ共和国ペテン県の北部地域である。ペテン県では
組織的犯罪グループの北部地域への移住が頻発しており、これらの犯罪グループによる
4
地域の支配が強まっている。しかし、洪水によって軍隊の能力が低下してしまったため、
この地域に出動することができず、同国の中に統治不能の地域が出現してしまっている。
水の安全保障については多くを語ることはしないが、水問題はさらなる紛争を引き起
こすものであり、水の安全保障も真剣に考えなくてはならない問題であることは論を待
たない。
以上、私が言及した問題の多くは軍事力や経済力などの「ハード・パワー」で解決で
きるものでない。こうした問題のほとんどは、文化や政策の魅力といった「ソフト・パ
ワー」こそが解決への切り札となる。省庁の壁を越えた戦略の策定が求められる。一つ
の省庁が行った政策決定が他の省庁にも関係してくるため、組織間協力が不可欠になっ
てくる。
二つ目に重要なのが、十分な情報を得た上で決定を行う「インフォームド・ディシ
ジョン」である。よりよい決定がなされるよう、政策決定者や研究者は詳細な研究結果
を提供することが重要である。
また、政府は後悔度の低い決定、すなわち、仮に気候変動による問題が起きなかった
場合でも、後悔することのないような決定を行うことが重要である。例えば、建築基準
を強化するといったことが含まれる。つまり、気候変動を考慮に入れたとしても入れな
かったとしても(国民にとって)意義のある決定を行うということである。
従来から存在する脅威が縮小することは考えにくい。脅威は、気象条件が悪化しても、
そのまま存続するものと思われる。極端な気象事象によって、軍事活動の弱点が明らか
になっている。防衛セクターは、気候変動へのレジリアンス(弾力性、回復力)の向上
を図るとともに、化石燃料に依存しない兵站、極端な気候下での行動に適するよう設計
された機器、最新の気候変動リスク評価等、持続可能なインフラ整備に努め、各国の防
衛力を最適化する必要がある。防衛産業は特に最悪のシナリオを検証し、それに備える
ことが得意である。つまり、我々は、将来に備えるための政府の取り組みを支援すると
いう、非常に重要な役割を担っているのである。
気候変動は、国際社会が直面している明白な課題の代表的な例である。しかし、それ
は国家間の協力関係を促進するチャンスでもある。
5
西原氏
食糧安全保障、水の安全保障、大量移民の要因としての気候変動など、気候変動を安全
保障の問題として捉えようというのが本セミナーの目的である。フィーキン博士には、
そこに軍隊がどう関わってくるかという点についてお話しいただいた。最悪のシナリオ
には、この地域の何カ国が関係しているのかといった問題については、後ほどディスカ
ッションの中で話し合っていきたい。
サイモン・テイ
シンガポール国際関係研究所所長
シンガポール国際関係研究所は独立系シンク
タンクであり、各国のシンクタンクが集まって設
立した ASEAN 戦略国際問題研究所連合(ISIS)
の一員でもある。しかし、当研究所は特に環境問
題に焦点を当てた研究に取り組んでいる。
今日、気候変動について考える場合、フィーキン博士がおっしゃっていたように、さま
ざまな側面から考える必要がある。特に国際交渉、科学、経済といった側面は重要であ
るが、本日は安全保障という切り口に限定してお話ししたい。安全保障という観点から、
我々は気候変動にどのように対応したらよいのか。安全保障という切り口を強調したい
のは確かだが、注意していただきたいのはここで言う「安全保障」という用語は、従来
からの安全保障問題を含みつつ、気候変動が国家に影響を与え、社会を変えるという点
で、より広い範囲を指すようになっているという点だ。これは、脅威の乗数上昇という
問題であり、気候変動によってより深刻な問題が発生しやすい、脆弱で不安定な地域に
ある国の国家システムが受ける影響という問題なのである。
気候変動による最大の脅威は 2040 年から 2050 年にかけて起きると予測されている。
これはまだ遠い未来のことのように思えるが、アジア地域では(特にインド、中国、パ
キスタン、バングラデシュ等の国が抱える問題に関して)、それに対する備えがまった
くできていない。緊張が続く難しい政治情勢を考えると、気候変動問題は安全保障問題
であると同時に国内問題でもある。
インドやバングラデシュでは、ヒマラヤ氷河の後退によって何百万人という人々の水
供給に影響が出る。海面上昇も何百万人という人々、特にバングラデシュのような低地
に住んでいる人々に影響を与える。ベンガル湾周辺の地域が直面している脅威は非常に
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深刻なものがある。これが、先ほど申し上げた気候変動は国内問題でもあり、安全保障
問題でもあるということなのだ。中国では熱波、干ばつ、洪水、黄砂などの問題があり、
中国の発展に深刻な影響をおよぼしている。中国の指導者たちが開発モデルのあり方と
持続可能性について真剣に取り組んでいるのはそのためだ。東南アジアももちろんこの
問題と無関係でいられるはずはない。にもかかわらず、これに関する研究はあまり行わ
れていない。この地域における気候変動問題についてもっと幅広く研究を行い、問題を
しっかりと見極める必要がある。
ここでは、淡水資源の劣化、極端な気象事象、気候移民という三つの分野に焦点を当
てる。最初に取り上げたいのがヒマラヤ氷河の問題である。
ヒマラヤ山脈と聞くと、はるか遠くにある山のように思えるが、実はヒマラヤ氷河の
問題は、非常に広い範囲に影響を与える問題なのである。アジアの多くの地域がヒマラ
ヤ山脈を水源としているため、ヒマラヤの氷河後退は何百万人という人々が影響を受け
る。氷河がとけると、一時的に河川の水量は増えるが、氷河がいったん消えてしまえば、
その後は深刻な干ばつに見舞われる。その結果、国内でも、国境周辺地域でも紛争が起
きる。ほとんどの学者が、ダルフールで起きている紛争は、水資源をめぐって起きた初
めての紛争だと考えている。メコン、インダス、ガンジスなどの河川も、氷河の後退に
よって影響を受ける水系である。
氷河後退の影響を受ける国々は、国内資源の管理強化に取り組む必要がある。水供給
管理は河川上流にある国々が掌握していることが多く、下流の国々と協議することはあ
まりないのが現状である。
二つ目の問題として取り上げたいのが極端な気象事象である。この問題はすでによく
知られているが、今日起きている問題は将来、倍増していくものと思われる。そして、
最大の災害ホットスポットとなると予想されているのがアジア太平洋地域である。赤道
や海岸に近い人口密集地は特に異常気象の影響を受けやすい。また、被災後には略奪や
その他の問題も発生し、それが原因で社会的緊張が生まれやすい。その結果、被災後の
混乱収拾において、国内外からの軍事援助の必要性が高まる。被災後の混乱をより適切
に解決していくためには、軍隊間の協力体制の強化を考えていかなくてはならない。軍
事行動や早期警告の発令、災害への対応などは、アジア太平洋地域の国々と ASEAN 諸
国が協力し合える分野である。ある意味、この地域の国々の軍隊は、従来軍隊に求めら
7
れていた役割とは異なる役割をも果たせるように備えておかなければならないのかも
しれない。災害への対応は、軍事紛争への対応とは異なるからである。
三つ目にお話ししたいのは、気候移民の問題である。アジアに関するデータを見たこ
とがあるが、それによれば、気候変動が原因で移住を余儀なくされる人は 2050 年まで
に1億 5000 万人に達すると予想されている。このうちのほとんどは国内での移住にな
ると思われるが、資源をめぐる競争や民族的・文化的衝突が増え、多くの問題が発生す
るであろう。現在、気候難民には法的な保護は適用されない。気候変動が原因となって
発生する問題を国際システムや国際的な枠組みを通じていかに緩和できるかというこ
とを考える必要がある。軍隊であれば、これに国境警備や問題の地域に関する地図の作
成が含まれる。
気候変動は、さらなる認知度の向上と、安全保障問題としての考察が必要とされる問
題である。コペンハーゲンでの気候変動会議以降、各国政府の関心はコストや交渉など、
経済的・政治的側面にばかり集中している。しかし、気候変動が安全保障に与える影響
について考えなくてはならない。紛争に配慮した国内適応対策計画の策定、ハイリスク
地域におけるレジリアンスの構築、予防的外交の実施、脆弱性を抱える地域を明らかに
する統合的な地図の作成、あらゆるステークホルダーの関与促進、将来的に問題となる
ことが予想される地域や分野のマッピングなどに取り組む必要がある。そして何よりも
重要なのは、これらの課題に地域一体となって取り組むことである。
西原氏
気温が 2〜6 度上昇すると、世界で大きな変化が起きると言われている。このような
変化は世界の安全保障にどのように影響してくるのか。テイ教授のお話をうかがってき
たが、フィーキン博士と同じ問題が指摘された一方、特に水不足の問題に焦点を当てて
お話しいただいた。石油に代わる燃料はあるが、水に代わるものはないという意味で、
これは非常に重大な問題である。また、テイ教授は国境警備や国内の安全保障等におけ
る軍隊の役割についても言及されていた。
8
大江博
防衛省防衛政策局次長(日本)
気候変動は、国際社会が直面している最も緊急
を要する課題の一つであるが、これまで安全保障
という視点から議論されたことはあまりなかった。
海面水位の変化や砂漠化など、地球温暖化の影響
による環境の変化は紛争の原因となることがある。
こうした変化が国境の変更につながる可能性もあ
る。気候変動によって水不足となり、その結果、アラブ人が農地を求めてサハラ砂漠以
南に移住するようになったことが民族紛争の原因だという見解がある。そのような紛争
の一つがダルフール紛争である。ソマリアは、無政府状態の失敗国家だと言われている。
無政府状態が続いた結果、同国はテロリズムと海賊行為の温床と化した。これらの問題
は、気候変動によってさらに悪化してきている。
このような問題を解決するのは防衛当局の責任である。しかし、気候変動によって最
も深刻な影響を受けるのは常に発展途上国であり、国際社会がこれらの国々の紛争に介
入しようとしても、効果的に介入することが難しい。したがって、現在は紛争の予防に
重点を置いている。気候変動の根本原因を取り除くことは非常に困難な課題であるが、
そのための唯一の方法が世界全体で温室効果ガスの排出を大幅に削減していくことで
ある。地球温暖化とは、温室効果ガスが増えすぎることによって起きる現象であり、現
在の排出量の 50%以上を削減しなければ温暖化を防止することはできない。COP15 は、
京都議定書に続く国際的な枠組みの構築には至らなかった。先進国も発展途上国もどち
らも満足させるような解決策を考えることは非常に難しい。
発展途上国にしてみれば、気候変動は先進国が引き起こした問題なのだから、先進国
がすべて責任を取るべきだという主張になる。一方、先進国は、第一義的な責任を負う
べきだという点に異論はないが、先進国が最大限の努力を払ったとしても、それだけで
は 50%削減という長期目標を達成するのは難しいと考えている。しかし、中国の排出
量は昨年までの 5 年間で倍以上増加している。つまり、国際社会全体として取り組まな
くてはならない問題なのである。
安全保障への影響に関する二つ目の側面として、大規模自然災害への対応における防
衛当局の役割が拡大しているという点があげられる。日本の自衛隊も 2008 年と 2009
年に、台風 16 号(ケッツァーナ)など大規模暴風雨後の救援に出動した経験を持つ。
9
自然災害と気候変動との関係は証明されたわけではないが、関係があるという見解でお
おむね一致している。大規模自然災害における防衛当局の役割については、さまざまな
国際フォーラムの主要議題として取り上げられるようになっている。また、実際的な協
力も始まっている。災害救援における軍事協力については、昨日、このホテルで開催さ
れた防衛当局次官級会合でも議題の一つとして取り上げられた。東京ディフェンス・フ
ォーラムでもやはり、これを主要な課題として捉えている。また ASEAN 地域フォーラ
ム(ARF)でも議題の一つとされ、ARF の枠組み内における軍事協力として、ASEAN
諸国とその他の国々が参加する ARF 災害救援実働演習が行われた。我が国の防衛省か
らも、陸上自衛隊医療・防疫・給水(浄水)部隊、海上自衛隊救難飛行艇 1 機、そして
航空自衛隊からも一部隊を派遣した。派遣人員は約 100 名にのぼる。2回目の演習は、
日本とインドネシアの共催で来年3月、インドネシアで行われる予定になっている。
気候変動と安全保障との関係に関する三つ目の側面は、気候変動によって防衛セク
ターは省エネの取り組みを強化する必要に迫られるという点である。防衛セクターは、
膨大なエネルギー消費が行われるセクターであり、省エネ努力が非常に重要となる。日
本では、自衛隊の施設にソーラーパネルを設置し、防衛省の公用車の一部はバイオガソ
リンを使用している。装備に関しても、従来の 90 式戦車に比べて燃費のよい小さなエン
ジンを積んだタイプを導入することとしている。こうした取り組みにより、エネルギー
消費効率は約 30%向上した。作戦行動における省エネ努力としては、海上自衛隊の艦
艇がエネルギー消費効率のよいスピードで作戦行動を実施している。しかし、正直に申
し上げれば、最大限の努力を払っているとは言いがたい。その理由の一つとして、省エ
ネ可能な装備は従来の装備に比べてコストが高く、しかし財政状況も厳しいという現状
がある。気候変動問題の解決という必要性を考えた場合、省エネは防衛省としてさらに
力を入れていきたい分野である。
西原氏
大江氏には、日本の防衛省が災害救援協力にどのように取り組んできたか、そしてバ
イオ燃料の利用やその他の方法を通じて、いかに省エネに取り組んでいるかという点に
ついてお話しいただいた。大江氏もおっしゃった通り、防衛セクターはエネルギー消費
の大きいセクターであり、省エネ対策の推進に向けて更なる努力を期待したい。
10
アントニオ・サントス
フィリピン国防次官
本日、私はフィリピン国内の安全保障、フィリ
ピンにおける気候変動、そして平和時および緊急
時における軍隊の役割についてお話しさせていた
だく。
我々は、ガバナンス、
(国際的な)安全保障、開
発の三つが国内安全保障の鍵だと考えている。安
全保障が開発を誘導する環境をつくり、開発が安全保障に影響をおよぼすというように、
これら三つの鍵は三角形を成している。
20 世紀には、地球の平均気温が 4 度上昇し、特に海岸地域が大きな影響を受けた。
過去 50 年間の平均温暖化率は、過去 100 年間の平均に比べると 2 倍も高まっている。
フィリピンでは、こうした気候変動の影響の多くは国の北部と南部で観測されている。
日中や夜間の暑さおよびハリケーン、エルニーニョ、洪水、干ばつ、森林火災などの極
端な気象事象はフィリピンで以前よりも頻繁に発生するようになっており、その被害は
ますます甚大で破壊的になってきている。
気候変動によって、フィリピンは新たなリスクと苦難を抱えるようになっている。例
えば、食糧価格の高騰、水不足、電力不足、集中豪雨の頻発といった苦難である。電力
不足が起きるのは、フィリピンでは水力発電がほとんどであり、一部の発電所が稼働を
停止するためだ。また、大規模な珊瑚の白化現象も観察されている。最近頻発した豪雨
の結果、大規模な地滑りや洪水が起きている。9 月の平年月間降水量は 210mm 程度だ
が、2009 年 9 月 10 日は、雨が降り始めてからわずか 6 時間でこの量に達してしまっ
た。9 時間後には 410mm となり、最大 24 時間雨量は 500mm 以上を記録した。台風
パルマはフィリピンを 3 回も通過し、通過するたびに大量の水を残していったため、我
が国の農業に壊滅的な被害をもたらした。それ以前にも、大勢の犠牲者を出した大規模
な洪水が中部、北部地域で起きている。
気候変動問題はフィリピンの安全保障および開発のあらゆる面に影響をおよぼす。台
風パルマは、被災者だけでなく、避難所として使われた学校や病院にも圧倒的な打撃を
与えた。我々は戦略そのものを変更しなければならない。これまでに認識されている問
題と同じ解決策ではもう対応しきれず、もっと綿密な戦略が必要とされている。フィリ
ピンでは政府の気候変動対応フレームワークが構築されている。このフレームワークに
11
は、気候変動への対応における効果的なガバナンスを支える技術的なソリューション、
生活スタイルの変更等を含む財政的な介入、実施すべき緊急措置令、行動の調整、多様
なステークホルダー間の協力などが規定されている。
災害を受けやすい集落や食糧生産地に注意を向けてみると、フィリピンの食糧生産地
の中には、洪水や海面上昇といった気候変動の影響に対して非常に脆弱な地域がいくつ
か存在する。これらの地域は移転しなければならず、そのための予算も計上してある。
財政イニシアティブに関しては、これらの問題に対応するためのイニシアティブを策定
し、太陽光、風力、その他のグリーン電力の発電施設の開発・設置を支援していきたい
と考えている。
気候変動は、国内安全保障および防衛に関わる問題と認識されており、国内の気候変
動の影響や国防軍の役割に関する事柄については、国防省の市民防衛室が責任を負って
いる。国防省は地球温暖化の現状と影響について、最大の懸念事項の一つであることを
認めている。具体的には、鉄砲水、地滑り、土地の劣化、予想外の熱帯性暴風雨、そし
て津波などが問題視されている。
今度は、軍隊の役割について見ていきたい。平和時においては、政府の包括的な気候
変動イニシアティブを支援するという形で国民と国家主権を保護することが軍隊の任
務となる。緊急時においては、軍隊が緊急措置のイニシアティブをとり、実行し、統括
する役割を担う。紛争地帯であっても、そこで災害が発生し、被害を受けた人々がいれ
ば、その後の復興と開発が最重要事項である。もちろん、気候変動は軍事行動や装備に
も影響を与える。緊急時には、人災であれ自然災害であれ、人命救助と被害の最小化を
目指し、避難、輸送、捜索、復興等の分野で国家調整委員会(NDCC)を支援する。
これまで述べてきたことを要約すると、気候変動は広い意味でいくつかの脅威を提起
している。それを緩和する役割のうち、軍隊は国境警備を強化する役割を担う。資源を
めぐる競争においては、自国の利害を守る必要がある。フィリピンの一部の地域では、
資源保護の必要がある。もし軍隊がきわめて重要な施設を運営することに意味があるな
ら、エネルギー安全保障の強化を考えてもよいかもしれない。そして最後に、軍隊が災
害救援を運用するということである。
12
西原氏
サントス氏には、気候変動による被害が頻発し、軍隊がその対応にあたってきたため、
豊富な経験を蓄積することになった、というフィリピンの状況をお話しいただいた。以
上、4 名のパネリストより、軍隊が最悪のシナリオに対応した事例、災害が軍隊に与え
る影響、軍隊が将来的に開発あるいは所有する必要のある装備といったトピックが提示
された。
討論
フィーキン氏:本日のセミナーの目的は、安全保障に関わる課題だけでなく、防衛当局
の対応について考えることである。防衛セクターが気候変動問題への対応を強化しなけ
ればならない要因として二つの要因が考えられる。取り組みを推進する現実的な要因は、
政府トップの政策である。英国政府は(温室効果ガスの)排出規制を強化した。国防省
は政府全体の排出量の 86%を排出している。したがって、排出量削減に取り組まざる
を得ないのである。二つ目が効率の問題である。イラク戦争における米国軍の最大の弱
点が何だったかと言えば、エネルギー供給ラインであった。戦時中、イラクの真ん中に
駐車してある1台の自動車に化石燃料を補給するのに1ガロンにつき 400 米ドルもか
かっていたのだ。軍隊が環境に優しい組織になれば、その効率も向上するのである。
西原氏:米国は、今年度の QDR(4 年毎の国防計画の見直し)において初めて、軍隊
による気候変動への対応の必要性を明記し、軍に活動中の省エネについて考慮するよう
求めた。海軍の計画を見ると、2016 年までに現在、配備されている空母攻撃群に原子
力動力を導入する予定になっている。ほかにも、軍の目標として省エネルギーをかかげ
ている国がいくつかある。
サントス氏:気候変動は新しい問題ではない。我々は長年、その影響を受けてきた。氷
河時代やアフリカの砂漠化によって、人々は東洋へ、あるいは西洋へと移住を余儀なく
された。DNA 鑑定によって、我々の祖先はアフリカからやってきたことが明らかにな
っている。ただこれまでの気候変動と異なるのは、変化のスピードが非常に速いという
13
ことだ。中央アフリカから中東への移住には 200 年の歳月がかかった。現代人は、自
分たちが環境を破壊してきたせいで、加速する移民という問題に苦しめられている。
フィーキン氏:個人であれ、組織であれ、すべての問題を明白に関連づけるのは不可能
であることを理解することが重要だと思う。A + B = C という数式が常に成り立つわけ
ではない。自己の見解をどのように組み立てるか、きちんと考えることが重要だ。
西原氏:軍隊の任務は、すばやく対応することだ。軍隊が短期間に迅速に対応しなけれ
ばならないのであれば、それを可能とする組織でなければならない。水不足の問題であ
れば、厚生省が対応するのが最も適切であるが、迅速な対応が求められるのであれば、
その問題に対応するのは軍隊の役割である。
テイ氏:緊急時の対応能力をいかに構築するかがポイントとなるが、安全保障問題はあ
る意味、軍事的課題よりも範囲が広い問題だと思う。ほかにも緊急時の対応に向けてシ
ステムを構築しておくべき分野があるのではないか。例えば通商分野では、食糧や水の
安全保障といった面で脆弱な地域を明らかにしておくといったことである。
サントス氏:軍隊の活用は緊急時の対応だけに限定すべきではない。軍隊は、有益な能
力を幅広く備えている。例えば、災害リスク対策に応じて人民を組織したり、警察を訓
練するといった災害リスク管理の一翼を担うことができる。フィリピンは防衛計画の中
で、軍隊を防災機関の支援に活用するという方針を示している。
質問:先ほどの発表の中で、問題はホットスポットで発生しやすく、そういう地域では
外国の軍隊は歓迎されないという指摘があった。これについては、何らかの対策は検討
されているのか。
大江氏:特に日本の自衛隊の活動に関する議論には、常にデリケートさがつきまとう。
国内の災害であれば、そのようなデリケートさは大幅に低減するが、海外での活動は非
常にデリケートな問題となる。私の感覚では、そのようなデリケートさも消えてきつつ
あるような気がする。最近は、自衛隊の海外派遣について、例えばフィリピンでの演習
14
に派遣したときも、幸いなことに他の国から異議を唱えられることはなかった。もし、
自衛隊の中核的な活動としてこのような演習を含めることができれば、先に述べたよう
な問題も徐々に解消していくと思う。
テイ教授:これは、ARF で議論すべき問題だと思う。例えば、サイクロン・ナージス
の後のミャンマーの状況と、四川大地震後の状況を比べてみると、その対応は大きく異
なっている。災害が起きた場合、その地域の自治体当局も打撃を受けていることが多い。
したがって国家間の援助に関しては、国が初期対応を行う機構として機能するべきであ
る。被災国から要請があれば、国外から積極的に援助を提供すべきだ。また、被災国が
自国民を保護する義務を果たそうとしない場合、国際社会が保護責任を負うということ
についても考える必要がある。
サントス氏:ARF を通じて学んだ教訓の一つが、この問題を考える場合、最初に法的
要件を明確にする必要があるということだ。フィリピンでは、災害救援活動を開始する
前に他国と協定を結ばなくてはならないと憲法で規定されている。法務省は、軍隊が災
害への対応を先導することを決定したが、最高裁では、軍隊に許されるのは民間主導の
対応の支援だという判決であった。
フィーキン氏:今後進むべき道は、地域グループによる対応だと思う。伝統的に援助を
受け入れようとしない国がある地域では特にそうだ。こうした地域では、ソフト・パワー
のほうが効果を発揮する。南北アメリカでは、災害への対応における協力がすでにス
タートしており、かなり一般的になっている。特に南米諸国の軍隊は、あまり評判がよ
ろしくなく、国内的な災害救援が紛争の原因となることもある。世界の多くの国にとっ
て、これは単に他国からいかに援助を受けるかという問題ではなく、自国の軍隊がいか
に効果的に国民を援助できるかという問題なのだ。
質問:軍事協力に関して、気候変動に対する適応と対応という二つの分野があると思う。
軍事協力で重視されるのはどちらか。気候変動への対策として、適応と対応の強化のど
ちらがより効果的なのか。気候変動対策として軍隊が貢献できることの一例として、エ
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ネルギー消費効率のよい自動車の使用がある。先進国の軍隊が軍事協力の推進を技術移
転という形で行う可能性はあるか。
大江氏:省エネは発展途上国でも先進国でも非常に難しい課題だ。どの国でも防衛セク
ターは、エネルギー消費が著しいセクターである。しかし、エネルギー消費効率の高い
装備はコストも高い。日本に関して言えば、財務省の理解を得る必要がある。防衛費は
どの国においても非常に重大な問題であり、省エネ装備を増やすためには、省エネに向
けた取り組みを国民に理解してもらわなければならない。
発展途上国に関しては、省エネ装備への急速な転換は期待できない。しかし、技術交
渉や技術移転は先進国から推進しなければならないと考えている。これはすでにポスト
京都議定書の枠組みに含まれている。
フィーキン氏:残念ながら、政府予算の大部分が防衛費に使われているというのは本当
だ。防衛機関は、エネルギー購入に関してもっと賢いやり方ができるはずであり、また
この分野に関して革新的な開発を実施できるだけの能力を備えている。民間部門にとっ
ても有益な物を生産するために予算を使う方法はいくつもある。例えば、GPS も元々
は米軍が開発したものだ。このような問題を戦略的防衛計画の見直しにおいて考慮すべ
きである。経済が低迷しているときは、気候変動に関することは後回しにされがちだ。
西原氏:ASEAN 諸国の軍隊は、どのような省エネ対策を検討しているのか。
サントス氏:フィリピンではグリーン燃料を使用している。軍用車で代替燃料を使用
できるよう、さらなる技術開発が必要だ。過去に燃料費が高騰したことがあり、その
ときココナッツオイルを使い始めた。しかし、これによって腐食が多発した。我々の
技術力は極めて限られており、より環境に優しい戦略に対応した燃料の使い方ができ
ないでいる。
西原氏:では、気候変動への適応と対応の強化のどちらを重視すべきか。
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大江氏:紛争や災害救援の場合は事前協力は難しい。この場合は、いかに迅速に対応す
るかということが重要になる。最近のハイチ地震では、自衛隊を派遣した。今回はこれ
までの派遣より非常に迅速に対応できた。
テイ教授:地図の作成に関して言えば、摩擦が起きやすいポイントや、水や貿易をめぐ
って脆弱さを抱える地域をピックアップする必要がある。貿易は相手国に余剰があるこ
とを前提として成り立っている。例えば、シンガポールはタイ産の米を輸入しているが、
それはタイに余剰米があると想定しているからだ。もし気候変動によってこの前提が崩
れれば、欠乏している商品を売ってもらうことは期待できなくなる。ASEAN 諸国が各
国の脆弱性を明確化することができれば、紛争が起きる可能性がある地点を予測するこ
とができる。貿易システムにおいて、通告も備えとして重要だ。
質問:まず大江氏にうかがいたい。気候変動問題に関して ASEAN 諸国と日本との協
力・支援として、どのような内容の協力が可能なのか。財政支援は非常に重要だ。カン
ボジア政府は気候変動に関して明確な方針を持っている。政府が対応するのは、カンボ
ジア国内の洪水や暴風雨に限定されている。ベトナムのほうが高い能力を備えているた
め、ベトナム政府に支援を要請するのだ。まず、近隣諸国からの援助が必要である。そ
の他の国からの援助も貴重だ。一部の国は、気候変動への対応能力に限界がある。
ASEAN 諸国と日本はどのように協力していけるのか。
大江氏:気候変動に関しては、緩和と適応ということがよく言われる。適応とは、すで
に現れている負の影響に対応することだ。日本の ODA 予算は非常に少ないが、発展途
上国が気候変動の負の影響に備えるのを支援するための若干の資金は確保することが
できる。それは技術移転や技術開発に深く関係している。技術移転は非常に重要である。
しかし、技術移転と技術開発の間には悪循環が存在している。無償で技術移転をすれば、
新たな技術開発に対する意欲を失ってしまう。これは中国のような新興経済に対する技
術移転を行うとき、特にデリケートな問題となる。ほとんどの発展途上国に関しては、
技術移転をしても、新技術への開発意欲が失われることはないと考えている。したがっ
て、新興経済に対する技術移転に関してのみ、そのようなデリケートさがつきまとう。
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災害救援のような緊急事態においては、臨機応変に援助を提供する必要がある。一般
的に言って、日本の納税者は可能な緊急援助を行うことに関して非常に理解がある。問
題はいかに迅速な対応ができるかということだ。そのために何らかの枠組みを構築して
いかなければならない。例えば、2004 年に津波が起きた際、国際社会の反応はかなり
遅かった。それはタイ政府がそのような災害への対応に不慣れだったためだ。したがっ
て、迅速に援助が提供できるような枠組みの構築が求められる。
質問:今日、気候変動は実際に防衛問題となりつつある。防衛軍の役割を皆で考えるべ
きときが来ている。気候変動問題に取り組むには多くの困難がある。その一つが各国の
防衛軍の構造、権限、能力がまったく異なることだ。もっと現実的なアイディアが必要
だ。気候変動が我々にとって共通の脅威なのであれば、共同で防衛する必要がある。気
候変動が少数の人に小さな悲劇しかもたらさないとしても、その少数の人々を協力して
救援しなければならない。将来、アジア太平洋地域の人々が、より洗練された方法でア
イディアを共有し、政策を実行できるようになることを期待している。
テイ教授:今の発言は非常に深い意味を持っている。科学はまだ発展しているとはいえ、
最近の科学者たちは、気候変動は、たとえ多少緩和することができても、人類社会にと
って存続をかけた課題をつきつけているということを警鐘しているように思う。鍵を握
るのはエネルギーに関する取り組みだ。いかに炭素を取り出して隔離するか。これには
経済基盤の変革が必要となる。
今日の討論では、安全保障、特に気候変動に軍隊がいかに関わるかという側面につい
て焦点を当てている。これらは、気候変動という共通項だけでひとくくりにできる問題
ではないと考えている。しかし、軍事協力を通じて、この問題に対する協力関係を築く
ことができる。私は過度に安全保障の問題と考えるのには反対だ。その結果、市場の発
展ではなく、オーナーシップ、権利、エビデンスといった事柄に注目しがちになるから
だ。軍事的側面や安全保障は後ろから支援する立場にとどまるべきで、先導する立場に
なるべきではない。
大江氏:二点ほど申し上げたい。一つは気候変動に対する認識について、もう一つは実
際の協力活動についてである。従来とは異なる安全保障問題が広く認識されるようにな
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っている。先ほども申し上げたように、このような新しい安全保障問題について議論を
行った。昨日、次官級会合でも新しい安全保障という認識が優勢となっており、この地
域の国々の防衛当局の共通認識となっている。それを踏まえると、どのような活動が可
能になってくるだろうか。
フィリピンで行われた演習は実動演習であった。ARF や ASEAN の枠組みにおいて、
実動演習は今後も継続される予定になっている。これは非常に前向きなステップだ。先
ほども指摘されたように、国によって対応能力に差があるのは事実だ。しかし、各国が
相互に補完的な役割を果たすことは可能だ。実動演習の経験を蓄積することによって、
実際的な協力関係が推進されていくと思う。
西原氏:本セッションでは、非常におもしろく、充実した意見交換ができたと思う。気
候変動という概念はこれまでにもさまざまな会合で議論されてきたが、気候変動が安全
保障にもたらす影響について議論が交わされたのは、今日のこのセミナーで初めてだ。
今後もこのような議論の継続を期待したい。
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セッション 2 「アジア太平洋地域における安全保障協力枠組み・協力」
西原氏
ここでは、アジアにおける安全保障協力枠組みの構築方法について論じていく。この問
題に関し協力の方法を検討するのは、我々防衛当局にとって極めて貴重なことだと思う。
中江公人(防衛事務次官)
アジア太平洋における安全保障協力枠組みの概
要を説明したいが、その前にまず、昨日開催され
た、アジア太平洋地域の共通安全保障課題に関す
る第二回日・ASEAN 諸国防衛当局次官級会合につ
いて簡単に報告する。
この会合は、地域の安全保障上の課題に関する
非公式の率直な議論を通じ、日本および ASEAN 諸国の防衛当局間に緊密な人的関係を
構築することを目的とする。
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海賊、大規模災害などの新たな安全保障上の脅威が、アジア太平洋地域の平和と安定
を揺るがすおそれがある。これらの問題の規模と複雑さから、どの国も単独でこれらに
対処する能力を持たない。従って、こうした安全保障課題に対処するため、地域的なキャ
パシティビルディングと国際協力が益々重要になりつつある。
ARF プロセスや ASEAN 国防大臣会議(ADMM)プロセスのイニシアティブなど、
共通安全保障課題の対処に向けた地域協力への近年の動きは、着実な進展を見せている
が、昨今の災害により、域内でさらに効果的な調整と協力を実現するには、一層の努力
が必要であることも明らかになった。
次官級会合を通じ築かれる緊密な人的関係は、さらなる二国間・多国間協力を推進す
る基盤となるだろう。
上記のような背景から、日本はこの会合を開催した。
参加者は、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、
シンガポール、タイ、ベトナムならびに ASEAN 事務局であり、ミャンマーからは大使
がオブザーバーとして参加した。
第一の議題は、海上安全保障、災害救援、平和維持、平和構築などの「非伝統的な安
全保障問題」である。
会合において我々は、海上安全保障、災害救援、平和維持、平和構築などの非伝統的
な安全保障課題に対する地域協力の進展、および共通の目標について議論した。議論を
通じ、参加者間で経験とノウハウの共有を行った。
第二の議題は、「アジア太平洋地域における安全保障協力枠組みの構築・協力」で
ある。
ADMM プラスなどのアジア太平洋地域における安全保障協力枠組み、および多様な
防衛・安全保障上の共通課題に対処するための将来的な協力の展望について議論を行っ
た。重層的な枠組みの構築により、アジア太平洋地域の安全保障協力がさらに深化する
であろうことに、全参加者が合意した。
昨日の会合の最後に参加者は、地域の共通安全保障課題をめぐる各々の見解について、
互いに理解を深めた。この種の対話は、相互信頼と協力に立脚するより強固な二国間・
多国間関係の基盤を構築する上で、真に有益であるという見解を、参加者全員が確認し
共有した。
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ではこれから、「アジア太平洋地域における安全保障協力枠組み・協力」という昨日と
同じ議題に対する私の視点を述べる。
このスライドにあるように、この地域の多国間協力枠組みは重層的な構造から成り、
地域に共通の様々な課題や問題に対処するため我々は協力を行っている。見ての通り、
ASEAN は疑いなく全ての地域協力枠組みの中核である。ASEAN のおかげで、我々ア
ジア太平洋諸国は重層的な枠組みを構築し、この枠組みを通じ協力を強化することがで
きる。
この地域に数ある経済関連の枠組みと異なり、ARF はアジア太平洋地域全体で唯一
の安全保障に関する閣僚級会合(ただし外相会合)である。
だが 2006 年から、ASEAN 諸国間で ADMM が発足し、ADMM では近年、ADMM
プラス設立に向けた議論が始まった。ADMM とは ASEAN 国防大臣会議の略である。
ADMM は、ASEAN10 カ国に加え対話国をも含む形への参加国拡大を検討している。
この ADMM 拡大版を ADMM プラスと呼ぶ。ADMM プラスが設立されれば、この地
域の国防大臣会議が遂に実現することになる。私はこれを、将来に向けて実に歓迎すべ
き動きだと考える。ADMM プラスは、アジア太平洋諸国の防衛部門にとって将来的に
計り知れない可能性を持っている。
アジア太平洋地域では現在、非伝統的な安全保障問題を中心にの地域協力が進ん
でいる。
海上安全保障、災害救援、平和維持、平和構築などの非伝統的な安全保障課題に対処
するための地域協力に向けた近年の動きは、着実な進展を示し、ルール作りや実際的協
力の段階に達している。こうした協力を通じ、我々は経験とノウハウを共有し、地域な
らびに国家の対処能力を高め、非伝統的な安全保障課題に対する協力を促し能力を向上
させることができる。
このスライドは、地域内の今後の安全保障協力のイメージを示したものである。アジ
ア太平洋地域では、二国間・三国間の安全保障協力が進展し関係諸国間にネットワーク
が組織される一方、多国間協力も進んでいる。加えて日本は、防衛部門の地域対話を促
すため、アジア太平洋諸国間における防衛関係の多国間会議を開催している(東京ディ
フェンス・フォーラム、アジア太平洋地域の共通安全保障課題に関する日・ASEAN 諸
国防衛当局次官級会合、共通安全保障課題に関する東京セミナーなど)。
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政府の取組だけでなく、民間シンクタンクも多国間対話を主催している。国際戦略問
題研究所(IISS)は毎年 6 月、シャングリラ会合を開催している。この会合には、米国
を含めアジア太平洋諸国の国防大臣が招聘され、会合期間中に多くの国が、二国間また
は三国間会合を実施した。
アジア太平洋地域の安全保障協力を一層深化させるため、我々は ARF、ADMM、
ADMM プラス、および二国間・三国間の安全保障協力などの重層的な多国間枠組みを
通じ、地域における安全保障環境の安定化に向けた一連の取組を今後も続けていく予定
である。
最後に私は、安全保障協力を推進する地域初の防衛大臣会議である ADMM プラスの
設立は、地域における安全保障協力の核になると考えている。
以上でプレゼンを終える。本日のセミナーが有意義なものとなり、安全保障協力をめ
ぐる議論がさらに活発化し、地域諸国間の一層の協力に寄与できるよう願っている。
西原氏
中江氏から、昨日の次官級会合の報告を受けた。この報告を基盤として、今日の議論を
進めていただきたい。
リザル・スクマ(インドネシア戦略国際問題研究所副所長)
アジア太平洋地域の地域的な安全保障枠組みの
状況について、私の考えをお話ししたい。これに
関する議論の発端は、オーストラリアのケビン・
ラッド首相が演説の中で、新たな地域枠組みの設
立を提唱したことにある。この提唱を行った意図
は極めて明白で、特に中国およびインドの台頭に
伴って、アジア太平洋地域に生じつつあるパワーシフトにどう対応するかということに
あった。ラッド首相は、既存の枠組みの不十分さも指摘した。
こうした背景に基づくアジア太平洋地域の新たな安全保障枠組みの提唱により、極め
て興味深い論点が提起される。すなわち、現在の枠組みのどこが問題なのかということ
である。
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現在の枠組みには、2 つの重要な要素がある。ひとつは、米国主導の同盟である。こ
れは疑いなく、既存の安全保障枠組みの最も重要な柱のひとつである。第二の要素は、
ARF や東アジア首脳会議から成る ASEAN を基盤とするプロセスで、これももう一本
の柱となっている。この 2 つの要素を通じ、中国とインドの台頭がもたらす将来的な課
題に本当に対処できるかどうかについては、盛んに議論が行われている。これら両アク
ターは、中国とインドを地域的枠組みに受け入れ統合できるのか?
米国主導の同盟は、
この点で問題だと思われる。中国が、米国主導の同盟の一員になるはずがない。ASEAN
に関しては、中国とインドを取り込んだ枠組みを構築できるのではないかという意見も
聞かれるが、私が見るところ、ASEAN は既に手一杯で我々が現在直面している課題に
対処できない。カンボジアとタイの関係などの二国間関係を緊張緩和させることなど、
ASEAN は ASEAN 内の対立に関し多数の課題を抱えている。そのため、ASEAN の有
効性が疑問視されている。とはいえ ADMM や ADMM プラスは、まだ初期段階にある
ものの、非伝統的な安全保障課題への対処に極めて有用だろう。
上記 2 つの要素いずれにも問題があるとはいえ、この地域の将来的な地域的枠組みを
めぐる新たな構想は全て、次の 2 つの問題に直面する。ひとつは、域内に新たな枠組み
に対する意欲が全くないこと――大部分の国はいまだ、地域における現行の枠組みを明
確にしこれを理解しようと努めている。オーストラリアの提唱をめぐるこの議論では、
詰まるところどの国を入れ、どの国を入れるべきでないかという問題にたどり着く。こ
れは常に難しい論争であり、これだけを根拠として多くの論者が、新機構の設立は良い
アイディアではないと主張している。第二の根本的な問題は、主要大国自身の見解を
我々がよく分かっていない点にある。中国や米国、インドは本当に新たな枠組みを求め
ているのか?
差し当たり、我々には現在の枠組みでやっていくしか選択肢はない。それでも我々は、
新たな枠組みに何が求められるかについて話し合いを重ねる必要がある。オーストラリ
アと日本の見解は、極めて明確である。日本の鳩山首相も東アジア共同体構想を提唱し
ている。数日前、インドネシアは新たな枠組みの設立ではなく、おそらくはロシアの参
加を含め東アジア首脳会議の見直しと拡大を望むことをかなり明確にした。
まだ解決されていない問題もある。それは日本と中国の意見の相違である。全般的な
安全保障枠組みの将来は不透明なままである。以上の文脈から、防衛政策および防衛計
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画は依然として国家的関心事によって左右されると考えられ、どうすれば各国の軍が協
力できるかといった問題ではない。
最後に、このような議論の重要性について一言触れておきたい。防衛当局が遂行でき
る唯一の仕事は、現在の枠組みの有用性を示すことだと思う。ワークショップを超えた
イニシアティブが必要である。ASEAN のワークショップ開催の手腕には定評があるが、
ADMM と ADMM プラスが重要な役割を果たせるような災害救援、海上安全保障にお
ける具体的計画を含め、具体的な計画が求められている。
西原氏
スクマ氏から、現在の枠組みの可能性とその限界について議論があった。同氏は、地域
的な枠組みに対する中国の見解、東アジア首脳会議の将来などについて論じた。
ラルフ・A・コッサ(戦略問題研究所(CSIS)太平洋フォーラム所長)
私の研究所は、東アジア安全保障に極めて大き
な重点を置いている。我々は、アジア太平洋安全
保障協力会議(CSCAP)にも参加している。今日
は、安全保障枠組みに関する米国の見解について
話をするが、私は米国政府を代弁するわけではな
い。ここで述べるのは、米国の政策、および米国
の政策が何をなすべきかに関する私の解釈に過ぎない。ヒラリー・クリントン国務長官
が今年初めに示した、東アジアにおける米国のエンゲージメントを規定する 5 つの指針
に焦点を当てて話をしたい。
これまで何のために枠組みを構築するかではなく、誰が立案者になるべきかに多くの
議論が割かれてきた。これはいささか本末転倒ではないかと主張したい。我々は、どん
な枠組みを構築したいかにもっと目を向けるべきである。何を目的として、地域におけ
る安全保障協力の推進を求めるのか?
信頼醸成措置なのか、危機への対応なのか?
その枠組みに対し何らかの行動を期待するのか、それとも何らかの行動をめぐる話し合
いを求めるのか?
あるのか?
枠組みの存在理由は、行動を促すことにあるのか、行動することに
私は、ARF などの組織を信頼醸成の場とみなしている。各国間の対話が
増えるほど、紛争も少なくなる。
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二週間ほど前、私はタイで同じテーマを扱った会議に参加した。地域的な枠組みにつ
いて議論するはずだったが、ASEAN 加盟国の発表者は全員一様に、ASEAN が主導権
を握らねばならないと述べた。だが、彼らがどこへ向かいたいのか誰も語らなかった。
問題は ASEAN が主導権を握るべきかどうかではなく、ASEAN に舵をとる用意が整っ
ているか、そして ASEAN はどこを目指すのかである。
私は、全員に主導権を持たせてもよいと考えている。アジア太平洋安全保障協力会議
(CSCAP)では、全ての会合で ASEAN 加盟国および ASEAN 非加盟国が共同で議長
を務めている。また 80%ルールを設け、作業グループの 80%が特定の行動方針に賛成
すれば、極めてデリケートな問題を除き、その方針を進める。
クリントン国務長官の発言に戻りたい。ブッシュ政権は反多国間主義だったが、オバ
マ政権は多国間主義を支持しているとみなされている。だがオバマ政権は、ブッシュ政
権が残した業績を足場としてアジアの多国間主義を推進している。クリントン国務長官
の指針に示された全般的な目的、問題点、懸念は、前政権時代に耳にしたものと何ら変
わりない。
5 つの指針とはどのようなものか? 第一に、米国とアジアの関係は地域における二
国間関係発展の基礎である。二国間同盟という構造が提供する基盤の上に、協力関係
を構築することができる。米国の視点に立つと、二国間同盟と多国間協力は「二者択
一」ではなく、互いに補い強化しあうものだ。危機が生じれば、米国には対応する能
力がある。
第二に、地域機構は、明確さを増しつつある共通の目標の推進に取り組むべきである。
議論の必要がある問題として、核不拡散、地域協力、領土紛争などが挙げられる。私は
ARF を強く支持してきたが、ARF は今や「トークショップ」を越えた存在に成長した。
ARF は昨年、核不拡散と核軍縮に関する持続的な会合を設置し、フィリピンで初の軍
事演習を実施した。ARF は明確な目標を定めた具体的な問題に注力している。東アジ
ア首脳会議に対する米国の最大の懸念はここにある。その目的は一体何かということだ。
第三に、
(地域)機構は成果の実現に重点を置いた実効的なものでなければならない。
この指針は、非常に米国中心的だと思う。単に新たな組織を作るのではなく、プロセス
を通じ何らかの時点で成果を生み出す必要がある。
第四に、我々はアジア太平洋諸国として、この地域における決定的な地域機構がどの
ようなものになるかを決めなければならない。そしてここから結局、米国が東アジア首
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脳会議に参加するかどうかという問題に帰り着くと思う。東アジア首脳会議は
ASEAN+3 と関わりが深いため、米国はおそらく参加するだろう。だが、オバマ政権は
現在、ブッシュ政権がこの件に関し抱いていた懸念と同じ方針を掲げていると思う。そ
れは、東アジア首脳会議の目的が分からないということである。
最後の問題――国務長官の方針では 4 番目に挙げられていた――は、近隣諸国の発展
を支援するサブ・リージョナルな機構を支持しなければならないということである。こ
れは、ASEAN 支持への米国の意思を表すものだと思う。この文章は実際のところ、何
を意味するのか?
私は、
「高い柔軟性をもって求める結果を追求する」という文章は、
地域協力の進展が行き詰った場合、米国は有志連合とともに様々な課題に取り組み続け
ることを意味すると考える。オバマ政権は、(地域協力の)進展への道を歩むだろう。
西原氏
東アジアへの米国のエンゲージメントに関する 5 つの指針、および米国の東アジア首脳
会議への関わりについて、コッサ氏から発表があった。
サヤカーン・シースヴォン(ASEAN 事務次長(ASEAN 政治・安全保障共同体担当))
私は ASEAN 加盟国を代表して話すわけではな
い。ここで述べるのは、ASEAN のこれまでの活動、
成果、および今後の方向性に関する私の個人的見解
である。ASEAN が地域および世界に貢献してきた
かどうか、私の評価を皆さんにお伝えしたい。
ASEAN は新たな未来にたどり着いたと思う。
最初に、過去数年間に地域的枠組みに関し域内で多くのワークショップやセミナー
が開催されたことに触れたい。ASEAN は地域の平和に貢献すること、および東南ア
ジアならびに世界の人々が豊かな生活を享受できるようにすることに、強い関心を抱
いている。
この問題に関するイニシアティブもいくつかあり、ASEAN 加盟国はこうしたイニシ
アティブ策定にこれまで極めて敏感だった。オーストラリアのラッド首相、日本の鳩山
首相がイニシアティブを提唱している。ASEAN 首脳陣は、こうした世界的な要因を注
視してきた。だからこそ 2007 年の ASEAN 首脳会議で、2015 年までの ASEAN 共同
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体創設を求めるセブ宣言に署名したのだ。ASEAN 政治安全保障共同体(APSC)は、
域内諸国の平和共存を目標とし、政治的発展、規範の形成・共有、紛争予防、紛争解決、
紛争後の平和構築、メカニズム実施などの内容を扱う。
ASEAN は新時代に突入した。ASEAN は今、ASEAN 憲章に謳われた地域共同体の
成功を保障する上で必要な全てのメカニズムを確立している。ASEAN 憲章は、ASEAN
に包括的な制度的枠組みを提供し、ASEAN に法的人格を与えるものである。我々は現
在、ASEAN の規範、規則、価値観の成文化、および ASEAN 主要機関の活動分野の規
定に取り組んでいる。
かつて実務レベルでは、ASEAN 職員は会合のため東京やバンコクに出張しなければ
ならなかったが、これからは全ての会合がジャカルタで行われるべきだ。今月初めて、
ジャカルタで会合が開催される。
東南アジア友好協力条約(TAC) は、ASEAN にとって極めて重要である。TAC は
1976 年にインドネシアのバリ島で開催された第一回 ASEAN 首脳会議で調印された。
これは、域内諸国の友好的な関係を規定した法的拘束力のある条約である。共同体が核
不拡散条約(NPT)の三本柱への全面的な支持を約すのは重要であるため、東南アジア
非核地帯条約(SEANWFZ)も、ASEAN にとって極めて重要な合意である。ASEAN
政治安全保障共同体(APSC) ブループリントも作成され、
(i)共通の価値観・規範を
持つ規則に基づく共同体、
(ii)包括的安全保障の責任を共有する結束力ある平和で安定
的な、回復力ある地域、(iii)統合と相互依存が進む世界における躍動的で外向き志向
の地域、の 3 つを主な特徴とする APSC 実施に向けたロードマップを定めている。
ASEAN は、東アジアにおける共同体構築の実現に向け懸命に努力しているといえる。
APSC 理事会は外相で構成され、関連分野に関する ASEAN 首脳会議の決定の実施を保
障するとともに、APSC の目的実現に向け管轄下の各分野の作業を調整する権限を与え
られる。6 つの分野別機関が、APSC の枠組みの下に位置づけられる。この 6 機関とは、
ASEAN 外相会議(AMM)、ASEAN 国防大臣会議(ADMM)、ASEAN 法相会議
(ALAWMM)、ASEAN 国境を越える犯罪に関する閣僚会議(AMMTC)、東南アジア
非核地帯委員会(SEANWFZ)、ASEAN 地域フォーラム(ARF)である。
AMM は、ASEAN の対外関係の処理における整合性、一貫性を確保する重要な政策
決定機関である。ASEAN 憲章には、ASEAN の対外関係に関する戦略的政策の方向性
は全て、AMM に協議しなければならないと定められている。
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ADMM は、対話国を含めた協力拡大に大きな重点を置いている。我々は今こそ協力
を拡大すべき時であり、協力拡大を通じメリットを分かち合い、安全保障課題を共有で
きると考えている。この地域の安全保障問題に対処するという極めて困難な立場を担う
のは、ASEAN のみだろう。
上記の会議は APSC の傘下に置かれる。AMMTC は近年、中国との合意に署名し、
日本とは毎年テロ対策対話を開催している。また、カンボジアとは武器密輸、インドネ
シア、シンガポールとは国際サイバー犯罪、タイとは域内人身売買(に関する会議、ワー
クショップの開催)といった自主的制度の策定を通じ、安全保障および国境を越えた犯
罪の両分野における協力に寄与している。 ARF は 1994 年より開始された。これまで
「トークショップ」と批判されてきたが、多くのアナリストによると、近年 ARF は安
全保障上の議論に貢献している。ARF の実効性を高める方法をさらに議論する必要が
ある。ARF は今後も重要な推進力であり続ける。
ASEAN が域内パートナーおよび先進国パートナーにメリットをもたらすためには、
各国の調整役として機能しなければならない。インドネシアは現在日本との調整役であ
り、今後 3 年間この機能を果たすだろう。
ASEAN は、先進国パートナーだけでなく他の地域との協力も拡大するため、あらゆ
る努力を行っている。たとえば 6 月 1 日には、シンガポールとバンコクで閣僚級会合を
開催する。ASEAN は、全てのパートナーに戦略的メリットをもたらすべく尽力してき
た。もうひとつの例として、南米南部共同市場(MERCOSUR)との会合が挙げられる。
1997 年のアジア通貨危機に見舞われた際、ASEAN および日中韓の 3 カ国は協力の
必要性を痛感した。この ASEAN+3 は多大なメリットをもたらし、既に ASEAN+3 の
枠組みの下で 58 回の会合が実施されている。
東アジア首脳会議は、開かれた包括的な枠組みである。米国はここ数週間、このフォー
ラムの検討を行っている。
最後に、ASEAN は最も大きな成功を収めた地域機関のひとつだと述べておきたい。
ASEAN は全ての協力分野で成果を挙げ、地域および世界の平和と安定に貢献している。
また加盟国のみならず、先進国パートナーにも戦略的メリットをもたらすべく取り組ん
でいる。ASEAN 主導の既存の枠組みの支持を通じ、我々は今後直面する様々な課題に
十分に対応できると信じている。
29
議論
西原氏:3 つ質問がある。まずコッサ氏に対し、米国と東アジア首脳会議の関係はどの
ようなものになるか?
6 カ国協議はどこに位置づけられるか?
サヤカーン氏に対
しては、ASEAN が推進力となるべきとのことだが、ASEAN はどこへ向かっているの
か? パキスタン、パプアニューギニア、東ティモールが加盟に関心を持っていること
を考えると、ASEAN 加盟をめぐり問題が生じる可能性がある。プラス 3 カ国どうしで
会合を開催している今、ASEAN+3 の枠組みは ASEAN の強みに寄与しているのか?
3 つ目として高見澤氏に対し、鳩山首相の東アジア共同体構想についてご説明いただき
たい。
コッサ氏:東アジア首脳会議に参加するか否か、米国はまだ検討中であり、東アジア首
脳会議との関わりがどのようなものになるか決まっていない。オバマ大統領は「加盟」
ではなく、
「フォーマルな関わり」という慎重な表現をした。米国の判断はひとつには、
東アジア首脳会議の達成目標は何かによって左右されるだろう。
6 カ国協議に関しては、同協議が東アジアにおける協力の枠組みを提供しうると考え
る人が大勢いる。だが私は、その意見に賛成しない。我々にとってより望ましい選択肢
である朝鮮半島統一を進められるよう、北朝鮮が国際社会の責任ある一員となるか、あ
るいは崩壊するのを待った方がよいと思う。
スクマ氏:ASEAN の目標のひとつは、ASEAN 加盟国の目標を一段高い次元に引き上
げることだ。というのも、特に首脳陣の多くが、彼らが直面する問題の多くは ASEAN
では解決できないのではと憂慮していることを考えると、1997 年以来進歩を遂げたと
はいえ、ASEAN が意義を失うのではないかと懸念されるからだ。だからこそ、ASEAN
安全保障共同体構想が極めて重要だったのだ。共同体設立に向けた合意に、表現が弱く
行動志向的ではない文言が多用されたため、この共同体の進展は難航している。
東アジア域内では、域内諸国が共通の利益の調整を行っている。ASEAN は、(共同
体)発展に向け協力を拡大する上でいまだ多くの課題に直面していることを、今もって
認めたがらない。とはいえ、ASEAN はこれまで東南アジアにとって極めて重要だった。
たとえば、少なくとも ASEAN 主要 5 カ国間では、戦争という概念が時代遅れとなっ
30
た。我々の取組を強化する必要がある。私は ASEAN 地域において、ASEAN が行動の
主たる推進力になれるとはもはや考えていない。 我々が解決できない問題がまだたく
さんある。共同体という構想を最初に採用した際、我々は 2020 年でさえ期限として妥
当だと思わなかった。ASEAN 共同体は 2015 年までに実現しないだろう。
西原氏:サヤカーン氏もこれと同じ意見か?
サヤカーン氏:ここでも私の個人的見解を述べる。ASEAN では、経済発展や政治体制
に関するこの地域の多様性を誰もが認識している。だが ASEAN 内部から状況を見る限
り、2015 年までに全てのブループリントを確実に実施できるよう、加盟国が高いレベ
ルのコミットメントを行っていると断言できる。確かに課題は多々あるだろう。だが先
進国パートナーは、ASEAN に援助を提供する必要性を感じるべきではない。ASEAN
は互恵的な組織であるべきで、我々にはこれを達成できる自信がある。
高見澤將林(防衛省防衛政策局長)
:防衛省は東アジア共同体のため何を成してきたか?
まず、我々が取り組む具体的な活動内容を明らかにする必要がある。地域内、グローバ
ル、二国間、多国間など協力の種類は問わないが、行動志向型の協力でなければならな
い。さらに我々は、近隣諸国と緊密な実務関係を育みたいと考えている。この種のフォー
ラムは非常に重要だろう。たとえ 3 週間の会合でも、近隣諸国の情勢について大きな洞
察が得られる。ASEAN には、皆さんが実際に考える以上に大きな価値がある。我々は
知識および計画を共有すべきであり、これが共同体成功への鍵となるだろう。
二国間関係は極めて重要であり、地域協力を通じ二国間関係を推進できるかもしれな
い。共同体について議論することで、数多くの新たなアイディアが得られる。
東アジア共同体構想に戻ると、鳩山首相の意図は、共通課題に関し二国間、三国間、
多国間協力を促すことにある。日本政府は、地域協力を推進するプロジェクトの探求に
非常に意欲的だ。鳩山首相の構想は、日本および地域における有用だが調整が不十分な
プロジェクトを発掘する機会を提供するだろう。これは、開かれた包括的な構想と解釈
されるべきである。アイディアの集約には多大な時間を要する。この構想に関し意見が
あれば伺いたい。
31
質問:今日は得るものが多かった。まずサヤカーン氏に質問がある。ASEAN はアジア
太平洋地域に大きく貢献してきた。今後の役割はさらに重要になるだろう。他国との関
係において、紛争発生時、ASEAN は紛争の可能性に対しどのような措置を講じるの
か? 紛争処理に関する ASEAN の枠組みに不十分かつ不適切な点がある場合、将来的
にどのような対策をとる予定か?
(コッサ氏に対して)これまで二国間、多国間同盟が重視されてきた。特に日米同盟
の枠組みは、地域の強みに寄与してきた。この種の同盟は将来的に不十分になると思う
が、今後の同盟についてどのような意見をお持ちか?
サヤカーン氏:ASEAN 憲章第 35 条に紛争管理メカニズムが定められており、解決で
きない紛争は ASEAN 首脳会議の決定に付託される。ASEAN 加盟国間には伝統的に深
い理解があり、そのおかげで信頼醸成が比較的容易になっている。
コッサ氏:私も最初の質問にコメントしたい。スクマ氏は先ほど、ASEAN 主要 5 カ国
間で戦争が抑制されていると述べられたが、数カ月前、タイとカンボジアが国境周辺の
兵力を増強した際に ASEAN はどのような対応をしたか?
ASEAN は法的拘束力を
持つかもしれないが、この問題については何もしなかった。
日米同盟に関しては、状況が複雑さを増しつつある中、日米同盟で世界の全ての問題
を解決できるとは思えないが、日米同盟は東アジアに一定の安定をもたらしている。こ
の同盟は極めて堅固な基盤の上に成り立っている。普天間基地移設が現在大きな問題に
なっているが、考えるべき要素は他にもある。ひとつには、他の国々も日米同盟が提供
する安全保障に依存している。ARF が、地域全体の核兵器輸送を防止するための安全
保障イニシアティブを採択してくれれば望ましい。
テイ氏:コッサ氏の今の発言の一部は、公正ではないと思う。タイとカンボジアの問題
は高度に政治的なレベルのもので、どのような組織であれこれを阻止するのは難しい。
加えて、ASEAN と ASEAN 事務局を区別する必要がある。ASEAN 事務局は、紛争解
決のメカニズムとなることを目的としていない。意見の相違はあっても、ASEAN 加盟
国首脳の参加を得て多数の ASEAN 首脳会議が開催され続けている。
32
コッサ氏:我々の間に意見の不一致があるとは思わない。ASEAN 諸国間に紛争が生じ
た場合、ASEAN に紛争解決を期待する者は誰もおらず、紛争解決は ASEAN が目的と
するところでもないという点で、我々双方の意見は一致している。私は ASEAN を批判
したのではない。ASEAN が、安全保障上の紛争に対し被害管理を実施していないのは
事実である。
西原氏:ADMM プラスの見通しはどうか?
スクマ氏:前に述べたように、ADMM プラスは、ASEAN 地域共同体設立に向けた進
展の一端を担う小さな動きのひとつである。特に災害対応活動などのテーマでの具体的
行動について ADMM が発表したペーパーでは、私は ADMM 内の進展を目の当たりに
して勇気づけられた。ASEAN の安全保障協力モデルを東アジアに拡大できるかどうか、
まだよく分からない。ASEAN 諸国にとって、地域枠組みに対する関心はいたってシン
プルである。ASEAN は、大国に支配されるような枠組みの出現を防がねばならない。
こうしたことは、明らかに ASEAN の利益に反する。加えて我々は、主要大国が対抗す
るような枠組みの出現も阻止したいと考えている。だが私自身はあまり楽観的ではなく、
ASEAN 諸国が変わらない限り ASEAN はこれを実現できないと思う。
サヤカーン氏:ASEAN 加盟国は、防衛に関する具体的なペーパーの採択において大き
な成果を挙げた。ADMM は既に、
「ADMM コンセプト・ペーパー」
「ADMM3 カ年ワー
クプログラム」
「ADMM コンセプト・ペーパーに向けた議定書」「ADMM プラス・コン
セプト・ペーパー」
「人道支援および災害救援への ASEAN 軍事資産・能力の使用に関す
るコンセプト・ペーパー」「ASEAN 防衛当局および市民社会組織(CSO)の非伝統的
安全保障への協力に関するコンセプト・ペーパー」
「ADMM プラス:原則と参加国に関
するコンセプト・ペーパー」の 7 つのコンセプト・ペーパーを採択している。
サントス氏:要するに、諺にあるように「形は機能に従う」ということだ。ASEAN フ
ォーラムは、ASEAN のためにある。ASEAN フォーラムを説得しさらに大きな役割を
遂行させるのは、困難だろう。ASEAN には、より広い地域の機能を担う準備が整って
いないからだ。
33
スクマ氏:私もその意見に同感だ。ASEAN は、ASEAN の目的を果たすため設置され
た。現在、ASEAN はその能力を拡大し、アジア太平洋地域における他の目的を果たそ
うとしている。だが ASEAN 自体が目標を変えない限りそれは不可能であり、このこと
が問題である。
先ほどの質問に答えると、かつて ASEAN は紛争への対応に極めて有用な方法を採用
していた。それは、首脳間の人間関係を基盤とするインフォーマルなプロセスである。
だが民主化が進むにつれ、変化が生じた。もはやタイの首相とインドネシアの大統領が
ドリアンを会食することはない。首脳間に緊密な人間関係があれば、紛争への対応を首
脳同士で決められるが、そうした関係は今はもうない。ASEAN 憲章第 25 条は紛争管
理メカニズムの設置を定めているが、これは ASEAN が自ら掘った落とし穴である。現
在、政治的、軍事的な紛争解決のための法制化されたメカニズムはないが、経済紛争に
関して ASEAN は依然として有用なメカニズムである。
議長による閉会の挨拶
西原氏
2 つのテーマをめぐり、非常に有益な意見交換が行われた。気候変動が国家安全保障に
及ぼす影響に関する議論に、私は大いに勇気づけられた。防衛当局が、気候変動が国家
安全保障に及ぼす影響について議論するというのは、これまで日本であまりなかった話
である。その意味では、防衛当局の間で気候変動の影響に対する認識が高まりつつある。
食糧不足、水不足、旱魃、洪水などの問題を考える際、我々は気候変動の影響を意識す
る。こうした事態が繰り返し起こったため、軍は迅速な対応方法を検討するようになっ
た。軍の間で、気候変動への対応として何ができるかを検討する必要性が高まっている。
迅速な対応、警察の訓練、新型軍事機器によるエネルギー節減、省エネ軍事機器のコス
トなどについても、軍は一層の検討を迫られている。気候変動により、軍の迅速な対応
が求められる状況が生まれるだろう。こうした状況において、軍は一定の役割を果たす
ことができる。
2 つ目の議論では、米国と ASEAN 双方の見解を伺うことができた。ASEAN をめぐ
る議論に多くの時間を費やした。ASEAN は推進力なのか、そして ASEAN はどこへ向
かうのか?
ASEAN は、域外の安全保障課題への寄与を望んでいるのか?
34
ASEAN
という概念は、日本とオーストラリアが提唱している共同体構想とどのように調和する
のか?
6 カ国協議の枠組みを東アジア地域の安全保障枠組みとして活用することに対し、否
定的な意見が提示された。東アジアの枠組みに関し、さらに議論を続けられればと思う。
ASEAN が新たな枠組みに意欲的ではないという発言を、興味深く拝聴した。ASEAN
と他の地域機関の関係については、あまり議論がなされなかった。一方、このセッション
では地域枠組みにおける軍同士の関係、あるいは軍の関与に関心が集まった。こうした
文脈の中で、ARF や ADMM の拡大について発言があった。少なくとも日本は、ADMM
との関係進展に関心を抱いていると思う。皆さんの積極的な参加に感謝申し上げる。
35
議長・パネリスト略歴
議長・パネリスト略歴
議
西原
長
正(にしはら
まさし)
平和・安全保障研究所理事長(2006 年)
。ミシガン大学博士(政治学)
。京都産業大学、
防衛大学校で教鞭をとり、6年間防衛大学校校長を勤める。小泉総理の私的懇談会「対
外関係タスクフォース」メンバー、大量破壊兵器(WMD)委員会メンバー等を歴任。
パネリスト(アルファベット順)
ラルフ・A・コッサ(米国)
戦略問題研究所(CSIS)太平洋フォーラム所長。ペッパーダイン大学(経営学修士)、
米国防情報大学(戦略学修士)。27年間の米空軍勤務後、ASEAN 地域フォーラム及
びエミネント・パーソンズ・グループのメンバー、アジア太平洋安全保障協力会議
(CSCAP)設立メンバー、アジア太平洋地域における大量破壊兵器の拡散を防ぐこと
を目的とした CSCAP 研究グループの共同議長などを歴任。
トビアス・フィーキン(英国)
王立統合軍防衛研究所(RUSI)国家安全保障レジリアンス部長。ブラッドフォード大
学博士(国際安全保障政策)。イタリアの Landau Network- Centro Volta で研究員と
して勤務後、2006 年から RUSI。対テロ政策や技術、復興、国家インフラ、気候変動
による安全保障への影響に関する論文、著書等多数。
中江公人(なかえ
きみと)
防衛事務次官(2009 年-)
。京都大学卒業後、大蔵省に入省し、金融庁総務企画局審議
官(検査局担当)、金融庁総務企画局審議官(企画担当)、金融庁総務企画局総括審議官、
防衛省経理装備局長、防衛省大臣官房長等を経て、現職。
大江
博(おおえ
ひろし)
防衛省防衛政策局次長(2009 年-)
。東京大学卒業後、外務省に入省し、在タイ日本国
大使館公使、東京大学大学院総合研究文化研究科教授、大臣官房参事官兼国際協力局(地
球規模課題担当)、防衛省防衛参事官(国際担当)を経て、現職。
36
議長・パネリスト略歴
アントニオ・C・サントス(フィリピン)
フィリピン国防次官(防衛問題担当)。フィリピン工科大学。35年以上に亘る国軍勤
務の中で、フィリピン国軍総司令部副参謀総長(作戦担当)等の要職を歴任。2000 年
に少将で退役後、国防省において国防次官(作戦担当)、国防次官(計画、政策及び特
別課題担当)等を歴任。
サヤカーン・シースヴォン(ラオス)
ASEAN 事務次長(ASEAN 政治・安全保障共同体担当)
。キューバ・ラス・ビラス・
セントラル大学(言語学修士)。オーストラリア国立大学(国際関係学修士)
。外務省に
おいて、欧米総局北米局長、アジア太平洋・アフリカ総局 ASEAN 局長、ASEAN 総局
次長、ASEAN 総局長、無任所大使兼ラオス ASEAN・SOM リーダー等を歴任。
リザル・スクマ(インドネシア)
インドネシア戦略国際問題研究所(CSIS)副所長。ロンドン大学博士(国際関係論)。
東南アジア安全保障、ASEAN、インドネシアの内政、国防及び外交に関する政策等、
広範囲にわたり研究。2005 年 7 月、インドネシア人として初の中曽根賞受賞。現職の
ほか、ムハマディア(インドネシアのイスラム組織)中央執行理事会国際関係部門議長
及び平和民主主義研究所バリ民主主義フォーラム実施機関理事会メンバーも務める。
サイモン・S・C・テイ(シンガポール)
シンガポール国際関係研究所所長。シンガポール大学(法学士)、ハーバード大学(法
学修士)
。国会議員として(1997-2001)、シンガポール・グリーン・プラン 2012 の協
議会を率いた後、2002 年~2008 年にかけて、シンガポール環境庁長官を務める。現職
のほか、シンガポール大学で国際法及び公益について教鞭を執っているが、現在は
ニューヨークにてアジア・ソサイエティ・シュワルツの特別研究員として、オバマ政権
下の米国・アジア関係のプロジェクトチームを指導している。
37
参考資料
・ 気候変動
・ 大規模自然災害
・ 海上安全保障
・ 国際平和協力
・ テロリズム
・ 大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散
・ ADMM プラス
・ 東アジア共同体構想
(本資料は、
第 2 回共通安全保障課題に関する東京セミナーの席上配布されたものである。)
38
参考資料
気候変動
地球温暖化、洪水・旱魃の多発等の気候変動のほか、砂漠化や森林破壊を含む地球環
境変動は、水、食糧、土地等の不足をもたらすことにより、民族・宗教間の対立や資源
をめぐる争いを誘発・悪化させると考えられている。とりわけ、地球温暖化による気候
変動に関しては、安全保障上の脅威をもたらす要因の一つとして、軍事力を含む危機管
理能力の増強が提言されている。また、大規模災害の増加による救難活動、人道復興支
援活動、治安維持活動等の任務に各国の軍隊が出動する機会が増大することが見込まれ
る。さらに、北極海域では海氷融解を見越した軍事態勢強化の動きも見られる。 1
日本の取り組み
2009 年 12 月の第 15 回国連気候変動枠組条約締約国会合(COP15)では、先進国・
途上国双方の削減努力を求める「コペンハーゲン合意」が留意された。それに先立ち、
日本は 1990 年比 25%の 2020 年削減目標を改めて表明するとともに、気候変動対策に
積極的に取り組む、
または気候変動に脆弱な途上国を対象に、2012 年末までに 1 兆 7500
億円の支援を実施していく旨発表した。 2
• 「クールアース・パートナーシップ」資金メカニズム等を通じた支援
− クリーンエネルギーアクセス支援(「適応」支援)
− 気候変動対策円借款、民間プロジェクト支援等(「緩和」支援)
• 途上国における「コベネフィット・アプローチ」の推進
• APEC 首脳会議や東アジア首脳会議(EAS)等における協議や各種国際セミナーの
開催
− 「防災・気候変動適応アジアフォーラム」の開催(2009 年、JICA 兵庫/DRLC
主催)
• 「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」
(APP)を通じた取
り組み
• 政府調達、行動規範策定、生産国支援等を通じた違法伐採対策
地域の取り組み
各国で国会計画等に基づき対策がとられているほか、各種地域枠組みを通じた取り組
みが実施されている。
• 東アジア首脳会議(EAS)を通じた取り組み
− 域内途上国に対する財政的支援、技術移転、等
− 環境技術、適応措置、影響評価等に関する知見共有と共同研究・開発
− エネルギー効率改善、クリーンエネルギーの導入
− 海洋並びにサンゴ礁、マングローブ等の保護地域・脆弱地域の保全
− 急速な都市化への対応(「住みよい都市に関する EAS 会議」の開催、等)
• ASEAN における取り組み
− ASEAN 環境大臣会合(AMME)
防衛省『防衛白書』平成 20 年版 20 頁。
外務省プレスリリース(平成 21 年 12 月 20 日)。なお、90 年比 25%の削減目標は、全主要排
出国が参加する公平で実効性のある枠組みの構築と野心的な目標の合意を前提とする。また、1
兆 7500 億円の途上国支援は、COP15 における政治合意の成立を要件とする。
1
2
39
参考資料
− ASEAN 持続可能性宣言(2007 年) 3
− 「ASEAN 環境的に持続可能な都市に向けたイニシアティブ(Initiative on
Environmentally Sustainable Cities)」の実施
− 各国・地域レベルでの大気・水質汚染への取り組みと安全な飲み水の確保
− 「ASEAN 環境教育行動計画(Environmental Education Action Plan)」の実施
− 気候変動条約の次期枠組みに向けた協議への積極的参加(バリ会議(COP13)に
関する ASEAN 宣言(2007 年)
、等)
共通の課題
• クリーンエネルギーまたは最優良技術の導入と、そのための技術移転および資金調
達に関するメカニズムの構築と発展
• 都市部における環境汚染対策と脱炭素化取り組み
• 次期気候変動枠組み協議への積極的参加
• 各種環境課題に関する情報交換・共同研究、並びに、国際的な環境モニタリングと
政策評価
• 気候変動による異常気象(サイクロンや洪水の多発等)への対策と災害管理
• 食料安全保障の確保
• 違法伐採対策等を通じた森林保護
• サンゴ礁の保護、その他、漁業取り決め等による海洋資源の保全
ASEAN Declaration on Environmental Sustainability。第 13 回 ASEAN サミット(2007 年
11 月)にて採択。以下参照。
<http://www.aseansec.org/21060.htm>
3
40
参考資料
大規模自然災害
アジアは地震、台風、洪水、噴火、旱魃、森林火災等、自然災害が多く発生する地域
である。とりわけ、東南アジア地域においては、近年、2004 年 12 月のインドネシア・
スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波、2006 年 6 月のインドネシア・ジャワ島中
部地震、2008 年 5 月のミャンマーにおけるサイクロン等が発生している。さらに最近
の動きとしては、2010 年 1 月 12 日(現地時間)に発生したハイチ大地震を受けて、日
本、中国、韓国が救援・救護活動を実施したほか、ASEAN 諸国も震災を経験したイン
ドネシアを中心に支援を表明・実施している。
日本の取り組み
• 国際緊急援助活動
自然災害等の規模・状況に応じて、救助チーム、医療チーム、専門家チーム、自衛隊
部隊の 4 種類の援助隊が単独又は混合で派遣される。陸上自衛隊は、医療、輸送及び給
水活動を組み合わせた活動をそれぞれ自己完結的に行えるよう、中央即応集団及び各方
面隊が任務に対応できる態勢を維持している。海上自衛隊は自衛艦隊が、航空自衛隊は
航空支援集団が、国際緊急援助活動を行う部隊や同部隊への補給品等の輸送ができる態
勢を維持している。自衛隊は国際緊急援助活動をインドネシア、インド、パキスタン、
タイ、イラン、ハイチ等で行った。最近の例では、2009 年 9 月 30 日に発生したインド
ネシア西スマトラ州パダン沖地震災害に際し、自衛隊の医療援助隊(約 30 名)を派遣
し、同年 10 月 5 日から 17 日までの間、計 919 名の患者を診察した。
• 被災国における PKO 協力
2010 年 1 月の大地震により壊滅的な被害を受けたハイチに対して、防衛省は国際緊
急援助隊による医療支援を実施した。さらに、急激な治安悪化等による国連の PKO 部
隊増員決定を受けて、日本は国連平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和
協力法)に基づき、同地への自衛隊派遣を決定。2010 年 11 月末までの 10 カ月間に約
350 人を派遣することとなった。
• 東京ディフェンス・フォーラム(TDF)1の開催、アジア太平洋地域多国間協力プロ
グラム(MCAP) 2の開催
• 防災・災害復興支援無償資金協力の実施
• 日・インドネシア防災に関する共同委員会の創設(2005 年)
• 災害救援実動演習(ARF/DIREX)の実施(2011 年予定、インドネシアとの共催)
• アジア防災センター(ADRC) 3の設置(1998 年)
地域の取り組み
• ARF における取り組み
− 災害救援に関する会期間会合(ISM)
− 「災害救援協力に関する ARF 一般ガイドライン」の採択(2007 年)
− 「ARF 人道支援・災害救援に関する戦略的指針」の作成
1
当該分野においては、特に災害救援における国際協力の推進に重きを置いている。詳細は以下
を参照のこと。<http://www.jda-trdi.go.jp/j/defense/dialogue/tdf/index.html>
2 2006 年 8 月、
「大規模災害における軍民協力の理想的な活動モデル」について議論を行った。
3 防災情報の共有、人材育成、コミュニティの防災力向上を通して、アジアにおける防災関係者
の人材の交流を含む多国間の防災能力向上のためのネットワークづくりを進めている。メンバー
国は 27 カ国であり、日本、中国、韓国、ASEAN10 諸国はメンバーである。アジア防災センター
ホームページ<http://www.adrc.asia/top_j.php>
41
参考資料
− 机上演習(豪・インドネシア共催、2008 年 5 月)
− 実動演習(Voluntary Demonstration of Response)
(フィリピン・米共催、2009
年 5 月)
− 「ARF 待機制度(Standby Arrangements)」の検討
− 災害救援協力に関する各国コンタクト・ポイントの設置
• ASEAN における取り組み
− ASEAN 防災委員会(ACDM)の設立(2003 年)
− ASEAN 防災緊急対応協定(AADMER)の締結(2005 年)
− 地域待機制度及び共同災害救援・緊急対応活動のための標準運用手続(SASOP)
− ASEAN 災害救援演習(ARDEX)
− ASEAN 人道支援・災害管理調整センター(AHA センター)
− ASEAN 国防大臣会合(ADMM)における、人道支援及び災害救援における
ASEAN の軍用資産及び能力の使用に関するコンセプト・ペーパーの採択(2009
年)
• 多国間共同訓練(コブラ・ゴールド、等)
• 東南アジア災害早期警報システムの設置(アジア災害予防センター:ADPC)
共通の課題
• 被災国と支援国・機関間の調整と情報共有の促進
• 迅速に対応するための制度及び手続きの整備
• キャパシティ・ビルディング、相互運用性の促進
• 地域相互支援・調整メカニズムの発展
• 気象関連情報・技術の共有
• 気候変動による異常気象(サイクロンや洪水の多発等)への対応と緩和策
• 災害に備えた食料等の備蓄、「東アジア緊急米備蓄」制度の早期創設
• 人道支援及び災害救援における軍用資産及び能力の使用に関する体制整備
42
参考資料
海上安全保障
海上の安全に対する脅威は、紛争、海難、海洋汚染等多様であるが、東南アジア海域
において近年特に大きな問題となっているのが、海賊や武器・人・麻薬の海上密輸、密
航等の海上犯罪である。また、東アジアと欧州・中東間航路の要所であるソマリア沖・
アデン湾においては、近年武装した海賊による事案が急増している。
日本の取り組み
海上保安庁は東南アジアにおける海賊対策として、巡視船・航空機を東南アジア海域
に派遣し、公海上における哨戒を行うとともに、関係諸国との連携訓練、情報収集・分
析・提供体制の強化、東南アジア諸国の海上保安機関への犯罪取締り能力向上のための
支援を実施している。また、防衛省は我が国周辺の秩序維持や海上輸送路の安全確保の
ための取組を進めるとともに、2009 年 3 月以降は、ソマリア沖・アデン湾に海上自衛
隊の護衛艦を派遣。現在、護衛艦 2 隻が航行する民間船舶の護衛活動を行い、固定翌哨
戒機 2 機が広域な海域の警戒監視等を行うなどの海賊対処行動を実施中。
•
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アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP) 1
各国海上保安機関に対する無償資金協力(港湾施設体制強化、巡視船の供与、等)
各国海上保安機関の設立支援(フィリピン、インドネシア、マレーシア)
海上保安機関間の連携強化(海賊対策国際会議、海賊対策アジア協力会議、アジア
海上保安機関長官級会合、海上薬物取締セミナー(MADLES)等の開催と「アジア
海賊対策チャレンジ」の採択)
各国海上保安機関取締能力向上支援(若手職員の育成)
ARF 海上安全保障に関する会期間会合(ISM)の共催
海上保安庁と各国沿岸警備隊との合同訓練
− 海保、フィリピン海賊対策合同訓練(2009 年 2 月)
海上警備行動によるソマリア沖・アデン湾の海賊対処(2009 年 3 月~6 月)
海賊対処法に基づく海賊対処行動(2009 年 6 月~)
地域の取り組み
1) 地域会合
• ARF 海上安全保障に関する ISM(第 2 回は NZ 開催)
• APEC STAR イニシアティブ
• 北太平洋海上安全保安フォーラム、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)、等
2) 地域諸国間による主な二国間・多国間海上安全保障協力
• 調整された(coordinated)パトロール(マラッカ海峡パトロール(MSP)、等)
• 航空パトロール Eyes in the Sky (EiS)(インドネシア、マレーシア、シンガポー
ル、タイ)
• 海峡利用国との軍事演習(米・協力海上即応訓練(CARAT)2、シンガポール・インド
海洋二国間演習(SIMBEX)
、インドネシア・インド合同哨戒演習(INDINDO)
、等)
協定締結国(15):日本、ASEAN 8 カ国(インドネシア、マレーシアを除く)、中国、韓国、
インド、バングラデシュ、スリランカ、ノルウェー。インドネシア、マレーシアはオブザーバー
として会議に参加。
2 米国がブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイとの間で実施
している、一連の二国間海上演習の総称。
1
43
参考資料
• 多国間共同訓練(日・タイ・マレーシア 3 カ国海賊対策連携訓練、5 カ国防衛取り決
め(FPDA) 3 における海上阻止訓練、等)
共通の課題
• 各国海上保安機関及び海軍等の海上犯罪対処能力の向上、教育研修
• 海上保安機関と海軍等の連携強化及び調整
• 国内及び地域諸国間の関連法執行機関間の連携強化
3
マレーシア、シンガポール、英国、オーストラリア、ニュージーランド。
44
参考資料
国際平和協力
東アジア・東南アジアにおいては、これまで国連カンボジア暫定機構(UNTAC)、
国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)、国連東ティモール支援団(UNMISET)
等の国連平和維持活動が行われてきた。2006 年 8 月からは国連東ティモール統合ミッ
ション(UNMIT)が活動中である。
日本の取り組み
• 国連 PKO 活動への参加(ハイチでの先般の大地震を受けて、我が国は MINUSTAH
へ施設部隊約 350 名を派遣)
• 自衛隊における国際平和協力活動の本来任務化(2007 年 1 月)
• 陸自中央即応集団における国際活動教育隊(2007 年 3 月)と中央即応連隊(2008
年 3 月)の新編
• 自衛隊の国際平和協力演習の実施、等
• 「平和構築に関するベストプラクティス参照ペーパー」案の作成(アジア太平洋地
域防衛当局者フォーラム(TDF)第 7 回分科会にて)1
• アジア太平洋地域多国間協力プログラム 2
• 平和構築に関する各種会合・セミナー(東京平和構築シンポジウム、等)
• 平和構築人材育成事業
地域の取り組み
• ARF における取り組み
− 平和維持活動に関する会期間会合(ISM)
(1996-1997 年)
− ARF における各種会合(平和維持専門家会合、平和維持活動に関するセミナー、
等)
− 平和維持活動に関する各国 ARF コンタクト・ポイントの設置
− セミナー及び演習を含む地域的イベントのリスト化
• PKO 演習(コブラ・ゴールド、Khaan Quest、等)
• 米国「世界平和活動イニシアティブ(GPOI)」における平和活動演習(インドネシ
ア、マレーシア、タイ他)3
• ASEAN における取り組み
− 平和維持・平和構築に関し以下の点に合意
• 各国の平和維持センターの活用 ・標準運用手続(SOP)の採択
• 平和・安定維持のための地域取極の設立
共通の課題
• 平和維持共同訓練の実施
• 要員の教育及び訓練(現地の文化や言語等)
東京ディフェンス・フォーラム(TDF)は防衛省が 1996 年から主催している国際会議である。
2008 年の第 7 回分科会ならびに「平和構築に関するベストプラクティス参照ペーパー」につい
ては以下を参照。<http://www.jda-trdi.go.jp/j/defense/dialogue/tdf/pdf/7th_sub_summary.pdf>
2 2008 年 8 月、アジア太平洋地域の陸軍等からオブザーバーを招へいし、
「平和活動における各
種連携について~陸軍及び軍民間の連携について~」をテーマとし意見交換や研修を行った。
3 アメリカはマレーシア平和維持研修所を東南アジア地域における平和活動研修の拠点
(Center of Excellence)と位置付けている。GPOI については以下を参照。
<http://www.state.gov/t/pm/ppa/gpoi/c20212.htm>
1
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参考資料
•
•
•
•
•
•
(計画・研修・活動を含めた)統合ミッションコンセプトの草案
各国の平和維持センターの活用およびセンター間の連携強化
平和構築・紛争後の国家建設に関する教育プログラムの実施
相互運用性の向上(ガイドラインや標準運用手続)
現地情勢に関する情報共有及び活動の調整
軍民協力の模索(平和維持・平和構築・紛争後の国家建設における防衛・軍当局と
市民社会・NGO との有機的な役割分担と協力の強化)
46
参考資料
テロリズム
インドネシアでは 2002 年から 2005 年にかけてイスラム過激派組織「ジュマ・イス
ラミーヤ(JI)」が関与したとみられる大規模なテロが発生した。テロ組織の取締りな
どに一定の進捗が見られたこともあり、2006 年以降は大規模なテロは発生していない
が、昨年 7 月にもジャカルタの外資系ホテルで同時爆破テロが発生するなど、東南アジ
アには依然としてテロの脅威が存在している。
日本の取り組み
2001 年の 9.11 テロを受けて、同年に制定された旧テロ対策特措法(2007 年 11 月に
失効)及び 2008 年 1 月に制定された補給支援特措法に基づき、海上自衛隊はインド洋
において補給活動を実施してきたが、2010 年 1 月の補給支援特措法失効をもって活動
を終了した。また、テロに対する危機管理能力向上を目的に、東南アジア諸国を中心に
1)出入国管理、2)航空保安、3)港湾・海洋保安、4)税関協力、5)不拡散・輸出管
理、6)警察・法執行機関の協力、7)テロ資金対策、8)CBRN(化学、生物、放射性
物質、核)テロ対策、9)テロ防止関連条約締結促進等の分野において、研修生の受け
入れ、専門家の派遣、機材供与等の支援活動を実施している。 1
• テロ対策等治安無償資金協力の創設(2006 年度 70 億円、2007 年度 72 億円、2008
年度 60 億円)
• 捜査・テロ対策関連機材の供与(無線通信システム構築、捜査活動通信システム、
鑑識活動資機材の供与、等)
• 日 ASEAN テロ対策対話
• セミナーの実施(テロ資金供与防止条約締結促進セミナー、テロ防止関連条約締結
促進セミナー、化学・生物テロ事前対処及び危機管理セミナー、等)
地域の取り組み
法執行機関間協力を中心に、情報交換や能力向上支援が行われている。
• テロ対策関連センターの設置(東南アジア地域テロ対策センター(SEARCCT)、ジャ
カルタ法執行協力センター(JCLEC)、等)
• 共同声明、協定の締結(ASEAN テロ対策協定)
• 域外諸国(特に米国、オーストラリア)との協力
− 米国:経済・軍事支援、国際軍事教育訓練(IMET)、軍事演習(米比バリカタン、
コブラ・ゴールド(米・タイ・シンガポール・インドネシア・日本 )、等)
− 豪国:経済・軍事支援、インドネシア陸軍特殊部隊 KOPASSUS との連携再開・
強化、等
• ASEAN 諸国間の協力(法執行機関間の情報共有、セミナーの実施、等)
• 地域会合を通じての取り組み
− ARF「テロ対策及び国境を越える犯罪に関する会期間会合(ISM)」
、その他の対
テロ声明採択、等
− APEC における安全な貿易を確保するための各種取り組み(テロ対策・タスク・
フォース(CTTF)の設置、STAR イニシアティブ、等)
− アジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)
詳細は外務省 HP 以下を参照のこと。
<http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_06.html#b>.
1
47
参考資料
共通の課題
• 地域諸国間のテロ対策能力の不均衡是正
• 国境警備・入国管理の強化
• 防衛当局と警察当局との連携
• 国内治安の強化と人権擁護のバランス
48
参考資料
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散
核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)兵器等の大量破壊兵器
やその運搬手段である弾道ミサイルの移転・拡散は、冷戦後の大きな脅威の一つとして
認識され続けてきた。特に、従来の抑止が有効に機能しにくいテロリスト等の非国家主
体が大量破壊兵器(放射性物質含む)などを取得・使用する懸念は依然として高い。 1
一方、北朝鮮の核問題に関して、国連安全保障理事会は 2009 年 6 月 13 日、同年 5
月 25 日の核実験実施を受けて、武器禁輸、貨物検査、金融制裁措置等、各国がとるべ
き措置に関する決議第 1874 号を全会一致で採択した。2006 年 10 月の核実験後に採択
された決議第 1718 号の措置に加えた強い内容となっている。
日本の取り組み
北朝鮮の核・ミサイル問題に関し、政府は六者会合を通じてこの問題の平和的解決
と朝鮮半島の非核化を目指している。また、アジア地域における大量破壊兵器不拡散
体制整備にはアジア諸国・地域の協力が不可欠との認識の下、「拡散に対する安全保
障構想(PSI)」を含む包括的な不拡散体制強化のための働きかけ(アウトリーチ活動)
を行っている(アジア不拡散協議(ASTOP)、アジア輸出管理セミナー、等)。日本は
2004 年 10 月に相模湾沖合等で、2007 年 10 月に伊豆大島東方海域等で PSI 海上阻止
訓練を主催したほか、各国主催の PSI 阻止訓練のほぼ全てに参加している。特に最近
では、2006 年の豪主催の航空阻止訓練、2008 年の NZ 主催海上阻止訓練及び 2009
年のシンガポール主催の海上阻止訓練に参加。我が国の警察、税関、海上保安庁及び
防衛省・自衛隊から艦船、航空機、検査チーム等の装備・人員を派遣し、訓練の成功
に貢献している。
さらに、決議第 1874 号等を踏まえた貨物検査等に関する特別措置法案が、第 174 回
通常国会(2010 年 1 月 18 日~)にて審議予定である。
地域の取り組み
地域のほぼ全諸国が大量破壊兵器を包括的に禁止する法的枠組みである核不拡散条
約(NPT)
、生物兵器禁止条約(BWC)、化学兵器禁止条約(CWC)に署名しているが、
国際輸出管理レジームへの参加は少数にとどまっている。 2ASEAN諸国が輸出管理レ
ジームに消極的である理由の一つに、品目・技術等の移転や原子力平和利用の権利に制
限を与えうることに懸念を抱いている点が一般的に挙げられる。 3
また、拡散阻止のための取組である PSI には、アジア地域においては日本、シンガ
ポール、ブルネイ、カンボジア、フィリピン、韓国、モンゴル、スリランカが支持を表
明しており、日本、シンガポールが PSI 訓練を開催した実績がある。
地域レベルの法的枠組みは東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ)のみである。
同条約は ASEAN 諸国全てが加盟国になっている。
共通の課題
• 大量破壊兵器等の拡散防止のための各国・国内関連当局の連携強化
防衛省『防衛白書』平成 21 年版第I部第 1 章第 2 節。
ASEAN 諸国では、カンボジアとフィリピンが弾道ミサイルに立ち向かうためのハーグ行動規
範(HCOC)に参加しているのみである。
3 この点について、インドネシア、ラオス、マレーシア、ベトナムは、国連安保理に設置された
1540委員会に提出した報告書において言及している。
<http://disarmament2.un.org/Committee1540/report.html>
1
2
49
参考資料
• 国際輸出管理レジームへのより積極的な参加
• 輸出管理体制の不備と能力の不足、貨物検査等に関する法的整備
• 政策課題としてのプライオリティの低さ(大量破壊兵器拡散に対する脅威認識の差異)
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参考資料
ADMM プラス
東南アジア諸国においては、アジア太平洋地域における政治・安全保障分野の対話を
目的とするASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)に加えて、ASEAN
国防相会議(ADMM)が 2006 年以降年 1 回のペースで開催されている。2007 年の第
2 回ADMMでは、「ADMMプラス・コンセプト・ペーパー」が採択され、2009 年の第
3 回ADMMでは、
「ADMMプラス:原則と参加国に関するコンセプト・ペーパー」が採
1
択された。
日本の取り組み
2010 年 2 月 16 日の日・シンガポール防衛相会談にて、北澤防衛大臣は、アジア太平
洋地域における既存の対話枠組を補完的・重層的に強化・連携していくと同時に、
ADMM プラスの早期設立と地域における具体的な防衛協力の進展が重要である旨発言
した。
地域の取り組み
2006 年に開催された第 1 回 ADMM は、ASEAN 設立後初めて加盟国の防衛担当大
臣が正式に集まる歴史的な会合となった。また、第 13 回 ASEAN 首脳会議(2007 年
11 月)と第 14 回 ASEAN 首脳会議(2009 年 2 月)において「ASEAN 憲章」と「ASEAN
政治・安全保障共同体青写真」がそれぞれ採択されるなど、2015 年までの ASEAN 共
同体設立に向けた動きが進んでいる。
• ASEAN 政治・安全保障共同体(ASEAN Political Security Community)の 実現
− ASEAN 防衛分野組織(ASEAN Defense Sectoral Body)の設立
• オープンかつ包括的な安全保障枠組みの構築
• ADMM プラスの実現に向けたアセアン諸国間の合意形成
• ADMM と ARF の継続的実施と既存枠組みの連携強化
共通の課題
• 平和、安定、民主主義、経済的発展を軸とした防衛対話、並びに、IISS「アジア安
全保障会議」
(シャングリラ会合) 2等を通じたアジア太平洋規模の防衛対話の深化
• 防衛対話、防衛交流等を通じた相互信頼の構築と強化
• オープンで包括的な安全保障枠組みの構築による情報伝達と連携の促進
• 伝統的な安全保障課題に加えて、気候変動、大規模災害、感染症拡大等の非伝統的
な安全保障課題における協力体制の構築 3
1
コンセプト・ペーパーによると、ADMM プラスの参加国は、①ASEAN 憲章に従って対話国
の位置付けを与えられた完全な ASEAN の対話国であること。 ②ASEAN の防衛当局と重要な
交流及び関係を有すること。 ③実質的に地域の安全保障を強化する能力を構築するため
ADMM と協力することができること。ASEAN 諸国と対話パートナー国から、ASEAN 全加盟
国の承認を得て決定することとなっている。
2 アジア太平洋地域の国防大臣クラスを集めた多国間会議。
防衛問題や地域の防衛協力について
議論することを目的に、民間研究機関である英国際戦略研究所(IISS:The International
Institute for Strategic Studies)の主催により 2002 年から始まった。
3 日・ASEAN 共通の伝統的安全保障課題としては、テロ、海上安全保障、南アジアにおける核
拡散等がある。共通の非伝統的安全保障課題としては、地球温暖化・気候変動、環境悪化、感染
症の拡大、エネルギー資源獲得競争、大規模災害、世界経済危機等がある。「第1回「共通安全
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参考資料
• テロ、海賊、核拡散等、国境を越えた問題への対処
• 中国及びインドの成長に鑑みた軍事・安全保障体制の見直し
• アジア太平洋経済協力(APEC)、ARF との相乗効果の発揮
保障課題に関する東京セミナー:地域における防衛当局間の将来の協力」報告要旨参照。
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参考資料
東アジア共同体構想
近 年の ASEANを 中 心と する地 域協 力が深 化す る中で 、将 来の東 アジ ア共同 体
(EAC:East Asian Community)構築に向けた議論が高まりを見せ、2005 年 12 月の
「第1回東アジア首脳会議」
(EAS:East Asia Summit)1開催に至っている。さらに、
2007 年 11 月の第 3 回EASでは「気候変動、エネルギー及び環境に関するシンガポー
ル宣言」が採択されるなど、従来の経済中心の協力を越えたより包括的な連携が推進さ
れている。
日本の取り組み
日本は、日・ASEAN 特別首脳会議「東京宣言」
(2003 年)にて、将来の東アジア共
同体構築へのコミットメントを表明。さらに、2009 年 9 月の政権交代を機に、鳩山首
相は同年、
「アジア政策講演:アジアへの新しいコミットメント-東アジア共同体構想の
実現に向けて-」と題するスピーチを行い、東アジア共同体構想へのコミットメントを
改めて強調した。
• 東アジア包括的経済連携(CEPEA) 2構想等、域内FTA/ETAの推進
• 東アジア・ASEAN 経済研究センター(ERIA)事業
− ERIA 東京シンポジウム「東アジアの持続的成長に向けたエネルギー・食料資源
戦略」(2008 年 12 月)
• エネルギー安全保障、環境・気候変動、青少年交流、災害・感染症対策等における
協力
− 「21 世紀東アジア青少年大交流計画」日・ASEAN 学生会議の開催(2009 年 11
月)
− 日・ASEAN 環境対話(2008 年~)
• 民主主義、人権、法の支配等の基本的価値観に基づく ASEAN 統合支援
− 日・ASEAN 統合基金(JAIF)の設立
• 日中韓パートナーシップの強化
地域の取り組み
東アジア共同体構想の背景には、域内諸国の経済発展と域内貿易の拡大のほか、通
貨・金融危機、テロ、気候変動、自然災害等の危機管理における地域協力の重要性に対
する認識の高まりがある。
• 2015 年までの ASEAN 共同体形成に向けた取り組み
− ASEAN 統合イニシアティブ(IAI:Initiative for ASEAN Integration)の実施
• ARF、ADMM、ADMM プラス等を通じた幅広い安全保障課題への取り組み
• 日中韓、インド、EU 等、東アジア内外の主要国・地域との関係強化
• ASEAN を軸とした EPA/FTA ネットワークの構築
共通の課題
• EAS、ASEAN+3、ARF、アジア太平洋経済協力 (APEC)、アジア欧州会合(ASEM)
等、域外国との重層的な協力の推進
• 地域の潜在力の最大化と基本的価値(民主主義、人権、法の支配等)の共有
ASEAN 諸国及び日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの 16 カ国の首脳が出
席した。
2 ASEAN 10 カ国と日中韓、インド、豪州、ニュージーランドを加えた計 16 カ国(ASEAN+6)
での経済連携協定。
1
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参考資料
• ASEAN の域内格差の是正
• 東アジア通貨統合の検証
• 通貨・金融危機、自然災害、感染症等に関する危機管理体制の確立
− 「アジア通貨基金」
(AMF)の設立
• 米国の役割に関する検証
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