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題材でもなく筋でもなく 小説は描写が決め手!
題材でもなく筋でもなく 小説は描写が決め手! 「小説は描写で書くもの」と言います。 では、描写って何? 説明文と描写文はどこが違うの? 情景描写とか心理描写といった区別もあるけど、違いはあるの? 初心の方ならそう思ってしまうでしょうし、小説に通じた方でも、 いざ描写文を書けと言われると、はたと手が止まってしまう人もいます。 そこで今回は「描写文」を特集し、小説を書く参考にしてもらいます。 イラスト もとき理川 19 薄井ゆうじ先生インタビュー 小説は、流動している一瞬を 捕らえようとする行為 た と え ば﹁ 僕 が 飼 っ て い る ペ ッ ト は 柴 ︱︱テーブルの上にコーヒーカップがあ だ ら 覚 え て い る も の で す。 再 び ペ ッ ト を ま た 書 い て し ま う こ と。 読 者 は 一 度 読 ん 描写以前の問題 ったとして、コーヒーの香りやカップの 登 場 さ せ た い な ら、 別 の 情 報 を 入 れ な け 犬 だ ﹂と 書 い た の を、 ペ ー ジ を ま た い で 色など細部を書けば描写になる? ればいけませんね。 にあると書きたくなったのか、なぜ描写 な ら、 最 初 に ペ ッ ト が 登 場 し た と き に、 ということが読者に伝わっているか心配 で す か ら、 ﹁ 右 手 で ド ア を 引 い た ﹂と 書 頭 の 中 で 映 像 を 再 生 す る の は、 訓 練 次 もし﹁僕が飼っているペットは柴犬だ﹂ するのかという問題があります。 少 し 長 め に 説 明 を 書 い て お く。 そ う す れ い て 何 十 ペ ー ジ あ と に な っ て も、 ﹁左手で 第 で う ま く い く ん で す よ。 メ モ は、 メ モ 描写とは何かを説明する前に、今の例 で言いますと、どうしてコーヒーがそこ ︱︱描写する必要があったとして、どん ば 印 象 に 残 り ま す か ら、 同 じ こ と を 二 度 ド ア を 押 し た ﹂と 間 違 う こ と は 決 し て な どうすればいいでしょうか。 な言葉を選べばいいでしょうか。 書かなくて済みます。 自体を書き漏らしてしまう可能性もあり 頭の中に映像を浮かべる ま す し、 頭 の 中 に 映 像 と し て 記 憶 し て し どこかから引っぱってきた珍しい言葉 を使っても、そこだけ目立ってしまいま す。まずは誰にでも分かるように書いて みる。平易に書くのが一番です。﹁テー しょうか。 ﹁ 山 小屋のドアを開けて中へ入った﹂と書 メ モ を 取 る こ と は あ り ま せ ん。 私 は、 屋 の 中 に 何 と 何 が 置 い て あ っ て、 と い う 私 だ っ た ら も っ と カ メ ラ を 引 い て、 部 はいかがですか。 のでした。性格描写や心理描写について ︱︱これまでは主に情景描写に関するも ︱︱薄井先生は、小説を書く前にノート て難解にしても、それは絵画で言うとこ い た と き に は、 す で に そ の 映 像 が 頭 に あ 全 体 を 見 渡 す 視 点 で 書 き 始 め、 そ の 後、 ﹁悲しい﹂と書かないのが小説なんですね。 ブルの上にコーヒーカップがあった﹂と の 例 で い う と、 い き な り カ ッ プ の 描 写 か ろのデッサンが崩れた代物であって、コ る ん で す よ。 山 小 屋 へ 続 く 道 の 様 子 や、 カップへと焦点を合わせます。 に情報をまとめますか。 ーヒーの描写の箇所だけ重量感が出てし ドアをどっちの手で引いたのか押したの ︱︱﹁ワイドからクローズ︵近づく︶﹂ この﹁悲しい﹂という感情が、表現したい ﹁分からない﹂を前提に書く まうんです。 か、 暖 炉 の 位 置 か ら ベ ッ ド の シ ー ツ の 柄 ですね。ところで、映像が頭にない人は ら 始 め て し ま う と、 全 体 の 位 置 関 係 が 分 ︱︱さして重要でない箇所の描写を厚く と 色、 床 の 板 の 目 ま で 見 え て い ま す。 見 かりませんよね。 しても意味がないですね。こうした描写 えないうちは一行も書けません。 登 場 人 物 が 悲 し い 出 来 事 に 遭 っ て も、 以前のことで、ほかに注意しなければい 受賞。本誌の作品添削講座で小説講座の講師を務めている。 けないことはありますか。 書けば済むところを、変にこねくり回し そ う で す が、 先 ほ ど の コ ー ヒ ー カ ッ プ いんです。 家デビュー。1994 年、『樹の上の草魚』で第 15 回吉川英治文学新人賞 ︱︱頭の中に絵がある強みですね。書く を経て、1988 年に『残像少年』で第 51 回小説現代新人賞を受賞し作 ま っ た ほ う が、 効 率 は い い の で は な い で 1949 年、茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営 際は、その絵を言葉にしていく? 薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ) 20 うに周りから攻めていきます。 の 周 り に な り ま す。 将 棋 で 駒 を 詰 め る よ こ の と き、 書 く の は 中 心 で は な く、 そ た 小 説 が 世 に 溢 れ て い る わ け で、 そ れ な 分からないからこそ自分探しを題材にし 格描写や心理描写には欠かせないと思う き な 歯 車 を 回 し て い く よ う な 構 造 が、 性 と で 動 力 を 得 る。 小 さ な 歯 車 が や が て 大 自 分 の 本 当 の 気 持 ち だ っ て 分 か り ま せ ん。 し さ と い う も う 一 つ の 歯 車 と 噛 み 合 う こ 心 の 中 の こ と は、 誰 に も 分 か り ま せ ん。 そ れ が 伊 藤 の 見 せ か け で し か な か っ た 優 走 っ た と い う 事 実 が 一 つ の 歯 車 を 回 し、 う人もいるようですが。 ︱︱心理描写を書こうとして、話を見失 大きな力を生み出せません。 歯 車 が 一 箇 所 に 集 ま っ て い る よ う で は、 こ と は 難 し い で し ょ う ね。 同 じ サ イ ズ の の 認 識 が な け れ ば、 小 説 を 成 り 立 た せ る ︱︱心をいじる? ︱︱周りを書くことで、書かなかった部 の に 分 か っ た つ も り に な っ て﹁ 僕 は 悲 し 中心だとしましょう。 分をくり抜くイメージですね。 登場人物がどんなに泣き叫ぼうが何し 番なんです。 で は、 ど う す る か。 そ こ で 情 景 描 写 の 出 標 が な く な っ て し ま う こ と は あ り ま す。 何を基準にして書けばいいかという座 のです。 です。 他人のことについても同じ。﹁山田は悪 人﹂とか﹁伊藤は優しい男﹂とか書いてし ︱︱情景描写は全体をイメージして、見 外 で 鳥 が 鳴 い た ﹂と 書 け ば、 こ こ が 話 の よ う が、 情 景 描 写 を 入 れ る こ と に よ っ て 軸 だ っ た ん だ と 作 者 も 読 者 も 気 づ い て、 えるものを書く。性格描写と心理描写は 後 者 に つ い て 少 し 補 足 し ま す と、 性 格 話に立ち戻れるんです。 ふっと我に返ることができる。 ﹁山小屋の はこうだと断言できない部分が絶対にあ 分からないものを手探りで書く? 心は捕らえた瞬間に逃げていく い ﹂な ん て 言 い 切 っ て し ま う の は 浅 は か そう、 ﹁僕は君が好きだ﹂、あるいは﹁私 は あ な た に 出 会 え て う れ し い ﹂と い っ た 感 情 は、 ス ト レ ー ト に は 書 か な い。 書 け ないといってもいいです。 実は山田がやむにやまれぬ事情で悪に 一 人 称 だ っ た ら、 主 人 公 の 心 の 中 は 自 ま う。 本 当 に そ う だ ろ う か? も し か し 由 に 書 い て い い と 思 う か も し れ ま せ ん が、 た ら 違 う ん じ ゃ な い だ ろ う か? 立 ち 止 そ う で は あ り ま せ ん。 一 人 称 だ か ら こ そ、 まって考える必要があるんですよね。 人の心をいじってはいけないのです。 っ て、 一 方 の 歯 車 が 回 っ て い る と き に 別 小 説 を 書 く こ と は、 流 動 し て い る あ る ︱︱人間とか心とか、つかみどころがな 一瞬をぱっと捕らえようとする行為であ の歯車が違う動きをすることが往々にし ︱ ︱ 本 来 は 気 の い い Aと い う 男 が い て 、 っ て、 け れ ど も と ら ま え た 気 に な っ て い いですね。 誰 か の 言 動 に よ っ て Aの 嫌 な 面 が 出 て し てあるんですよね。 まうとか? る と 逃 げ て い く も の な ん で す。 逃 げ て い 葉だと理解してうれしくなる場合もある ッ と な る 場 合 も あ る で し ょ う し、 褒 め 言 こ れ は 心 理 に つ い て も 同 じ で す。 誰 か に﹁バカだ﹂と言われたとして、思わずカ て し ま う。 手 か ら 滑 り 落 ち た も の を 追 い 次に何を書けばいいのか分からなくなっ ま っ た ら 読 者 は 面 白 く な い し、 書 き 手 も と こ ろ が、 そ こ で う ま く と ら ま え て し そ う い う 流 動 的 な と こ ろ が あ り ま す。 でしょう。 求めるのが小説とも言えるでしょうね。 くからこそ次の行を書ける。 ︱︱人間を描くのは一筋縄ではいかなそ 手段として描写がある、ということでし ︱︱複雑で掴みどころのない人間を描く ょうか。本日はありがとうございました。 うですね。 人 は み ん な 違 い ま す し、 個 々 を 見 て も 21 少 し ず つ 揺 れ な が ら 変 化 し て い ま す。 そ 聞き手 佐藤克成/ 撮影 賀地マコト 『落とし物』網島 修 スキー場では太陽が沈むのが早い。雄介は 妻と息子と一緒に遅めの昼食を済ませ、コー ﹁そうだな。少し暗くなって来たし⋮⋮。そ ﹁もう、疲れちゃったから、やめようよ﹂ が降りてきた。 停止した。扉が開き、ゆっくりと三人の乗員 三人は、駐車場に向かって歩き始めた。 知装置なのだろうか。四方の雪の山、一箇所 向けていた。タブレット型をした何らかの探 明なガラス板を、雪崩で埋まったゲレンデに その中の一人が、七インチほどの長さの透 ﹁そう言えば、スキー場の上の方で、こんな ヒーをゆっくり味わって、ゲレンデに戻った。 ろそろホテルに帰ろうか﹂ 冬の日も釣瓶落としのように短い。もう太陽 物を拾ったよ﹂ トから透明な電車の切符のような物を取りだ 勇哉はそういうと、スキーウエアのポケッ 使うような杖を二本ずつ手に持ち、雪の上に 探知装置を持たない残りの二人が、登山に 雄介は、数年ぶりに、正月休みを利用して が山に入りかけていた。 家族とのスキー旅行を楽しんでいた。ゲレン した。何の文字も絵も描かれていなかった。 刺した。もう一人が再び探知装置を操作する から反応があったらしく、三人はある地点に デは人の姿も疎らだ。初心者の若いスノーボ ガラスの板のようだったが、どちらかという ﹁あ、あれ!﹂ 右上方の山の斜面を息子は指差した。大き え、気を失った雄介たちの家族が現れた。一 瞬、怪訝そうな顔をした救助者だったが、気 を失っている子どものスキーウエアのポケッ 雄介が一瞬のうちに思っていると、雪崩が るようにめりこんでいった。隕石だろうか? 方形に消した。今度は間違いなく、彼らの仲 場所を確認すると、二人は杖を使って雪を長 持った二人が彼のもとに集まってきた。探知 すぐに一人の探知装置に反応があった。杖を 再び、雪崩の中を捜索し始めた。すると、 トからアクリル板を回収した。 字形にして速度を落とし、ゆっくり回転しな 起き白い波となり、襲いかかってきたのだ。 間だった。彼は気を失っていたが、救援処置 鳴り響いた。火の玉は山の斜面に吸い込まれ がら滑り降りて来ていた。スキー学校で習っ 必死に逃げようとした。人々を大量の雪が飲 そのまま二人に覆いかぶさって家族を守るよ かへ消えた。もう一機の垂直離着陸機のよう やがて、四人は垂直離着陸機に乗り、どこ ❹ たばかりのボーゲンだったが、飲み込みが早 み込みはじめた。もう逃げ切れないと観念す 後ろに転んでしまった。 うにうつ伏せになった。雪は三人の上に容赦 ❺ いらしく様になっていた。 ﹁大丈夫か?﹂ TOL機︶のようで、ヘリコプターのように 戦闘機が現れた。それは、垂直離着陸機︵V 雪崩が収まったころ、どこからかジェット り、彼らの他に生存者はいないようだった。 取り戻した。ゲレンデは雪ですっぽりと埋ま 救助者が去った数分後、雄介たちは意識を 上げると、そのままどこかへ運んで行った。 C ︵了︶ 空中に停止した後、地上すれすれのところで 込んだ物体を目に見えない力で吸引して持ち な飛行物体が現れ、山の斜面に半分ほどめり ったままで雄介のすぐ隣に来た。 息子の後から滑っていた母親がスキーに乗 ﹁勇哉、大丈夫なの?﹂ 起き上がり尻に付いた雪を払い始めた。 素早く足を外して駆け寄ると、息子はすぐに 雄介がストックを放り投げ、スキー板から なく積み重なって行った。 雄介が声をかけた途端に、息子はそのまま ❸ ﹁ゆっくり来なさい﹂ な火の玉が走り、ドーン、という低い轟音が 移動した。 ーダーが行く手を邪魔することもあるが、珠 と、アクリル板のように見えた。 ❶ にリフト待ちの時間は短く、思う存分に滑る と、その杖に囲まれた長方形の空間の雪が消 ❷ ことができた。 ﹁また、そんなゴミを拾ってきたな﹂ すぐ近くから男の子の声が聞こえた。昼食 後、トイレに妻と一緒に行って遅れてきた七 雄介が微笑んだ時である。 ﹁お父さん、待ってよ﹂ D をされると意識を取り戻した。 待ちをしている雄介の右手の山側のほんの数 E ると、雄介は息子と妻をしっかり胸に抱き、 メートル先から、スキー板の後端を開いてV 歳になったばかりの息子だった。彼はリフト A B 22 情景描写部門 薄井 ゆうじ ﹃落とし物﹄評 ︻細かなアドバイス︼ ① こ れ は 漢 字 で は な く︿た ま に ﹀と、 ひ いているような情景が、読者にも伝わる が変わったことを読者にどう伝えるかで 読者が楽しめるような情景描写︱︱そ は飽き飽きします。どの程度に書けば的 どくどと情景を細かく書きすぎれば読者 けば、読者は取り残されます。逆に、く 書き手だけがわかっていて先に進んでい いいと思います。そのほうが、読者もは に、視点を雄介から移動させないほうが を心配しながら見守っているというふう げた雄介が、雪の下に埋まった妻と息子 やはりこれは、危機一髪でどこかに逃 せん。 者を舞台に引きずりあげなければなりま 取るようにしてリアルに描くことで、読 かだと思います。その映像を文字で写し のなかに、くっきりと描けているかどう その物語の舞台にあるものすべてを、頭 れを書くためにはまず、書き手自身が、 確なのかは、多くの小説を読むことと、 らはらしますし。 かどうかです。まだ伝わっていないのに、 すね。 何度も書いてみて、その情景が正確に伝 この作品はスキー場のシーンで始まり ようなもの﹀という書き方でも伝わるの のでしょうか。雄介の視点であれば、︿の して︿探知機﹀や︿救助者﹀だとわかった 小説という精密機械は作動しません。 情報はすべて書き込むようにしなければ、 に置いて、無駄なことは書かず、必要な そういう大切な作業であることを念頭 手に漢字に変換してしまうのを、こまめ ますが、前半の、ほのぼのとした家族の その神の視点ですが、●と●は、どう にひらがなに戻していかないと、漢字だ 様子はある程度読者に伝わると思います。 ですが。 わっているかどうかを誰かに訊いてみる らけの文章になってしまいます。 そ し て ● で す が、 こ こ で︿あ る 地 点 ﹀ しかし、●から突然、様相が一変します。 ことだと思います。 E ② らがなで書いてください。ワープロが勝 C ③ 然です。 とができることもある﹀としたほうが自 じ ま っ て い る の で、 ︿ 思 う 存 分、 滑 る こ で す。 そ し て こ の 文 章 は︿た ま に ﹀で は ︿ 思 う 存 分 ﹀の︿に ﹀の 送 り 仮 名 は 不 要 読者もゲレンデの混乱に引き込まないと 驚いたりする様子をもっと書き込んで、 そしてゲレンデの人びとの逃げ惑ったり この変化が急激すぎて、読者は混乱しま り上がっている地点﹀などと、さっと描 くに、雪が巨大な白熊のように大きく盛 ンデの最上部、リフト・タワーの足元近 ら、火の玉が落下する様子や、巨大な音、 重要な箇所だと思います。せめて︿ゲレ す。もしこのように急激な変化を書くな 写してあれば、現実感も出てくると思い ここはリアリティを出すための、最大の と、投げやりな描写をしてはいけません。 分はもっと手短に書いて、何かが落下す この︿途端﹀の送り仮名︿に﹀も不要で す。 行くらいは増やしたほう 点で書いてきたのに、主人公たちが雪に 書かなければ、舞台上での出来事が、す って、読者にもその映像が見えるように しかし物語の舞台装置をしっかりとつく っては退屈な作業だと思われがちです。 情景描写は、ややもすると書き手にと ます。 いけません。そのためには●の手前の部 D 埋まってしまってからの●以降は、誰の そして●ですが、ここまでは雄介の視 がいいです。 る様子をあと うが読みやすいです。 こ れ は︿ 一 瞬、 そ う 思 っ た と き ﹀の ほ ④ A は、情景を映し出すカメラです。カメラ ことがわかりにくくなっています。視点 になっているのですが、視点が変化した 視点なのでしょうか。いわゆる神の視点 す。 書かなければ、読者も退屈してしまいま 書き手が楽しみながら情景描写を豊かに べて絵空事になってしまいます。そして B ⑤ ここの︿のだ﹀は、不要だと思います。 ︻情景描写の全体的なアドバイス︼ 情景描写の難しさは、書き手が思い描 薄井先生から講評していただいて、 改めて自分の未熟さを痛感しました。 特に、視点が途中から変わったことは、 先生に指摘されるまで、気が付きませ 小説は物語の舞台装置をうまく作っ んでした。 て、読者にもその映像が見えるように し、書き手も楽しみながら書くのが重 要だというのも納得できました。 これからももっと小説をたくさん読 んで、舞台装置がうまく書けるように なりたいと思いました。 23 10 北海道 網島 修さん (57 歳・非常勤講師) A B 『恐れない受験生』中村美紀 ❶ 時間は既に夜の十時を過ぎていた。ここ数 を開いて指を見ると一目了然だった。爪が伸 ひらに当たるとがった感触が気になった。手 試か。緊張から拳を握りしめる。ふと、手の 考書をバッグに詰め込む。いよいよ明日が入 せる意味で早く寝た方がよさそうだった。参 ていたのだが、さすがに今日は体力を温存さ が次第に強まっていき、所々が凍った地面と はそれほど危機感を感じてはいなかった。風 らない﹂などと友人に言っておきながら実際 ことは無いだろう。口では﹁どうなるか分か 手ごたえから考えても落ちるグループに入る 試験を終え、私は雪の降る通りを歩いてい った。くだらない口論で友人を失うのは嫌だ からの友人だ、特に反論しようとも思わなか のは私には考えられなかったが、小学校の時 そんな理由でわざわざ遠い道を選ぶという 考えても落ちる人はほとんどいないはずだし、 いた。 た。落ちた気はしない。もともと、倍率から という感情くらいはある。 友人と待ち合わせて発表会場である高校へと びている。最近は勉強に集中していたからす 相まって周りを歩く制服姿の人々はそれにお 入試なんて結局は自分の実力なのだからと大 っかり忘れていたなあ、と爪切りを引き出し 会場に着くと、番号を貼りだすボードの前 向かう。 か ら 取 り 出 し た。 刃 を 爪 に 当 て る と、 ﹁夜に びえているように見えた。私には分かる。み は既に人でごった返していた。友人は前へ前 して気にも留めていなかった。 爪を切ると親の死に目にあえない﹂という母 んなこの道で転ぶのが怖いのだ。受験におい へと行こうとしたが、別に急いで見るほどの 日は、寝る間を惜しんで勉強する日々が続い の言葉が思い出された。しかしそんな言葉も て﹁すべる﹂﹁転ぶ﹂は禁句なのだから。しか もう答案の中身を変えることは出来ない。も のが見えた。不安そうな声が絶え間なく聞こ てくる。遠くには中学校の先生が何人かいる 待つことにした。場の緊張が私の中に伝わっ ﹁最近黒猫が通るんだよ﹂ こんなことを言うのは珍しいので理由を聞 ﹁こっちの道は通りたくないな﹂ 次の瞬間には爪が弾ける音とともにかき消さ し私は恐れることなく足を前へ勧めていった。 ものでもないと思い集団の最後部で大人しく う転んだって関係無い。転ばなくたって落ち える。そして発表の時間が近づいてきた。 ❹ れていた。そんなの迷信に過ぎない。私はそ 入試当日、私は同じ中学校の友だちと一緒 る時は落ちる。わざとらしいレベルでそろそ 模造紙を二人がかりで運んでくる先生と思 ボタンを押すと、熱いペットボトルと二十円 緊張する。その時私は気付いた。私を除く全 消えた。私もそれを見つめる。さすがに少し ❷ に参考書を開きあって確認をしていた。床に ろと歩いていた人が転んでこの世の終わりか われる人物が見えた。誰かが大声を張り上げ のお釣りが返ってきた。つまり百三十円のお ての生徒が手を合わせ始めていたことに。ま んなの信じない。 置かれている友人の鞄が目に付いた。よく見 と言わんばかりの声で慌てていたのが滑稽 てそれを指差したと同時に、ざわめきが一瞬 けである合格祈願ストラップらしい。言われ ﹂を連想させるからこ ❺ ると、他の同級生の鞄にも同じものが付いて に 写 っ た。 寒 い の で 近 く の 自 動 販 売 機 で 温 て思い出した。受験生応援グッズという名で 茶か。﹁130﹂は﹁ ❻ かいお茶を買う事にした。百五十円を入れて 商品名やパッケージを工夫したお菓子が沢山 ❸ ると相手は驚いた。なんでも、お菓子のおま いる。私はそれが何なのか友人に尋ねた。す A えた。合格を祈る生徒という名の信徒。しか るで紙を持つ先生が神様であるかのように見 し私はその中に入ろうとは思わなかった。寒 れでも縁起が悪いと感じる人もいるのだろう 合格発表日。家を出ようとすると母がやっ さに震える手をただ重力に任せて下に下ろし と考えながらお茶を流し込んだ。 格祈願絵馬﹂が付いていて、志望校を書く欄 て き て﹁ 合 格 を 祈 っ て 仏 壇 に お 祈 り し な さ 売られているではないか。私もそんなお菓子 があった。でも、そんなものはとうに捨てて た ま ま、 ﹁神様﹂ではない﹁先生﹂を見つめて ︵了︶ い﹂と言う。私はめんどくさいとそれを一蹴 ケージがたまたまいつもと違っていただけだ。 してゆっくりとした足取りで玄関を後にした。 いた。 いた。私にとっては、よく買うお菓子のパッ を買った覚えがある。確か、パッケージに﹁合 13 24 性格描写部門 ︻性格描写の全体的なアドバイス︼ 書き手は、わかっているのに、読者には を 大 学 受 験 生 の 男 性 に し て、 ︿い い 年 を と思いました。 ︿夜、爪を切る﹀︿合格応 ぐりながら書ききっているのだろうか、 この作品は本当に主人公の性格を深くえ 高校入試かなとは思うのですが、もしか あ た り に︿ 同 じ 中 学 の 友 達 ﹀と あ る の で それと主人公の年齢なのですが、❷の 熟語は漢字とひらがなを使用する︿交 深く切り込んでもよかったのではないで 書いたのなら、もっと人間の心のなかに 集めたとは思いますが、せっかくこれを 祈る﹀ ︿ 黒 猫 を 避 け る ﹀な ど な ど。 よ く います。 ったくわからなかったのではないかと思 か大学入試なのかの手がかりはなく、ま ずれにしても❷の表現がなければ、高校 と思います。 名前に、私の名前はなかった﹀と書いた せ ん が、 私 な ら は っ き り と、 ︿合格者の そして受験発表の結果が書かれていま ます。 だわっていた﹀という結末にすると思い した男の子が、迷信なんてと馬鹿にして ほ ん の 少 し で も、 ︿制服のスカートに 伝わっていないという典型的な見本です ア イ ロ ン を か け な が ら ﹀と か︿ 坊 主 頭 を いながら、実は本人がいちばん迷信にこ ない迷信を、これだけ並列的にならべて ね。 も、さほど飽きずに読むことができまし 撫でながら﹀などと書いてあれば、男女 面白い話を考えつきましたね。他愛の た。 こ れ は 漢 字 で は な く︿す で に ﹀と、 ひ したら中学時代からの友人で、大学入試 ただし性格描写という観点から言えば、 の区別がつくのですが。 らがなで書いてください。ほかにもひら 援グッズに頼る﹀ ︿す べ る、 転 ぶ こ と を かもしれないという不安が残ります。い 薄井 ゆうじ ﹃恐れない受験生﹄評 ︻細かなアドバイス︼ がなのほうがいいと思うものがいくつか 嫌う﹀︿ という数字を避ける﹀︿仏壇に ① ありました。 ぜ書き﹀はしないで、 ︿友達﹀と書いてく ② ださい。 しょうか。 性格描写についての指摘に戻りますが、 ③ 実は主人公だった﹀のではないでしょう からどのように性格を読み取ればいいの がはっきりしないと、書かれている事実 までは誰かに作品を批評してもらった 数年前から趣味で小説を書き始めま こにも書かれていないので、この文章だ か。友達は実は、そんなことなどにかま かの座標を失うことになります。書き手 経験がなく、自分の文章が物足りない つ ま り、 ︿ 迷 信 に こ だ わ っ て い る の は、 やはりその人物の性別や、およその年齢 け が 宙 に 浮 い て い ま す。 ︿こ ん な も の も わず、自然に振舞っているだけなのに、 はわかっているので、当然のように︿高 すると相手は驚いた︱︱その理由がど 知らないの﹀という意味だとは思います 主人公だけが一人で気にしていた︱︱そ 最近の若い人の話しかたは、文字にする と男女の区別がつきにくくなっています。 や は り 私︵ 薄 井 ︶な ら こ こ は、 主 人 公 ます。 です。 て、様々な新人賞に挑戦していきたい 手の気持ちを考えた文章作りを心がけ した。今後はアドバイスを参考に読み 手に伝わっていないことが実感できま を書いたつもりでしたが、設定が読み 今回の作品は高校入試を受ける女性 が分かりませんでした。 作品を書き進めているところです。今 した。現在は新人賞への応募を目標に が、端折ってはいけません。 と頭で思っていても、具体的な改善点 もしれませんが、読者は置き去りにされ ういう結末にしてもよかったと思います。 校入試の女性﹀だとして書いているのか それと、これはとても大事なことなの ています。そのために、︿夜の爪切り﹀︿お ④ これは︿進めて﹀ですね。 で す が、 ● で︿ 私 ﹀と い う 一 人 称 が 出 て きます。そしてこれ以降の文章から読者 て主人公は、どの程度反応するのが普通 ⑤ ︿わざとらしいレベル﹀とは、何なので は最後まで、この主人公が男性なのか女 なのか、どの程度からは異常な性格なの ﹀︿ 黒 猫 ﹀︿ 仏 壇 ﹀な ど に 対 し しょう。わざとらしく、ということを書 性なのかの情報を得ていません。友人た 守 り ﹀︿ きたかったのだと思いますが、意味不明 13 ですので、この部分は不要だと思います。 ちの話し言葉から性別を類推しようにも、 か、手がかりがつかみきれなくなってい これは︿映った﹀のほうが的確ですね。 ⑥ 25 秋田県 中村美紀さん (23 歳・大学生) 13 A 『前門の虎、後門の狼』藤原 崇 ❶ ❷ 公男は、カフェの椅子に座って文庫を読ん ❸ でいた。日曜とはいえ午前中とあって、店内 には客はまばらだった。 ❶ 萌香も来ない。毎週日曜、ここで落ち合っ ているのに、今日は遅いなあ。そう思ったと き、窓の外に小柄な女性が現れた。胸元で小 さく手を振っている。萌香だ。 彼女は公男からは死角になる横手の入り口 のほうに歩いていった。 直後に、入り口のドアが開く音がし、公男 のほうに歩いてくるヒールの音がした。公男 は振り向きざま、遅かったね、と言いかけて 言葉を飲んだ。 ゆっくり本も読めませんから﹂と丁寧な言葉 ﹁お急ぎなら、そのお茶、引き取るけど﹂ のように。 公 男 は 曖 昧 に う な ず き、 ﹁ 日 曜 ぐ ら い し か、 せていた。誰なのよ、その女、とでも言うか で言った。もちろん、萌香に、あの人は近所 公男の言葉に、麻由美はお茶をすすりなが ら横目で睨んだ。 ﹁なによ、おじゃま?﹂ 言で、近所の知り合いで通すことは難しくな ﹁これ﹂を示そうと文庫本を持ちあげたら、 たいと思ってね、これ﹂ ﹁そういうわけじゃないけど、ゆっくり読み った。さて、どうしたものか。 コーヒーカップの端に当たり、こぼれたコー ヒーで袖を汚してしまった。 ﹁何やってんのよ﹂ 麻由美はテーブルの紙ナプキンに手を伸ば んと言っていいか戸惑っていると、間の悪い そこにいたのは妻だった。突然のことにな た。 で、 ﹁また年寄り扱いして﹂と突っかかってき しかし、麻由美はこれも皮肉ととったよう ならないんだから﹂ ﹁かまうわよ、クリーニング代だってバカに したが、かいがいしく世話をされてはかなわ ことに続けて萌香が店に入ってきた。公男に ﹁まあまあ﹂なだめるように言い、 ﹁今日はテ 麻由美は弾かれたように立ち上がった。心 に答えたが、それが藪蛇になった。 家計を同じくする者でなければ、クリーニ ング代など心配しない。これはなんと言いわ けしたものだろうか。 では、萌香が不穏な空気をかもしながらこち ったが、妙案は思いつかなかった。どうした 席を立ち、トイレに入った。袖は洗い終わ ﹁分かった。トイレで洗ってくる﹂ 麻由美は公男の隣の席に座り、萌香の注文 らをちらちらと見ているが、その視線からも の中でガッツポーズをする。麻由美の向こう な い。 ﹁ど う ぞ、 お か ま い な く ﹂と 他 人 行 儀 笑顔を向けたが、しかし、それはすぐに、お ❹ 萌香は顔中を疑問符にしたまま入り口近く の席に座り、水を持ってきたウェイトレスに を聞き終えたウェイトレスに﹁ルイボスティ D 笑顔で振り返り、声を揃えて言った。 ﹁お帰り。さあ、ここに座って﹂ ︵了︶ 公男の気配に気づいたのか、二人が同時に ﹁なんで?﹂ 談笑していた。 ものかと席に戻ると、萌香と麻由美がなぜか ー﹂と告げた。 を持ってきた。まったく間が悪い。 かと思いながら萌香を見ると、眉間に皺を寄 直し、お茶に口をつけた。ふりだしに戻った 腰を浮かせかけた麻由美はまた椅子に座り きたって聞いて、あなたにぴったりだと思っ を落とした。 ﹁でも、知ってたのね﹂ 麻由美は目を見開いて見せたが、すぐに肩 で、もうびっくりよ﹂ ﹁まだ飲んでなかったわね﹂ ﹁あのね、本を読むためのカフェが近所にで B て下調べに来たのよ。そしたら本人がいるん と、そこにウェイトレスがルイボスティー もうすぐ解放されるだろう。 カプチーノを注文した。 ﹁そうだ、忘れてた﹂ ニスはいいんですか﹂と水を向けた。 ってもおかしくはない。 かったが、麻由美は三つ年上だから、そう言 した。妻のことをお姉さんと呼んだことはな 今度は、あの人は実家の姉、で通すことに ﹁そんなことはありませんよ、お姉さん﹂ 敬語で答えたのを皮肉と思ったのか、麻由 美は頬を膨らませた。酷使だなんて。この一 ﹁私が酷使してるって?﹂ の知り合いだと言いわけするためだ。 C 取り込み中?という顔に変わった。 ﹁麻由美!﹂ C C C A 26 心理描写部門 ﹃ 前 門 の 虎 、後 門 の 狼 ﹄評 あたりが愉快でした。 のだと思います。なぜなら一人称である いておきます。 かりにくい存在だからです。だからこそ、 議そうな顔で言った。 ︿笑顔でそう言った二人に、公男は不思 自分自身を知ろうとする︿自分探し的な ︿ 僕 ﹀は、 い ち ば ん 自 分 自 身 の こ と が わ て 困 っ た ﹀と か︿ 問 い 詰 め ら れ て ど き ど 小説﹀の場合、一人称で書くことが多く 特 に 感 心 し た の は、 ︿バレそうになっ きした﹀などと、心のなかをナマな言葉 っとシリアスなラストも考えられます。 かるい笑いを取ることもできるし、も ﹁どちらさまでしょうか?﹂﹀ で書いていないところです。心理描写と なるのだと思います。 と書いてもよかったかなと思いました。 のあと三十秒間くらいのシーンをきちん いからという理由だけで一人称を選ぶと、 もいいとは思うのですが、もうすこしこ 薄井 ゆうじ いうと、 いきおい︿腹が立った﹀ ︿悲しい﹀ ろですが、実は、そういうナマな言葉を 主人公の本当の心はどこにあるのかとい 読者は貪欲ですので、たしかな決着を求 ﹁さ あ、 こ こ に 座 っ て ﹂と い う ラ ス ト で ① 使用しないで心理を書くからこそ、そこ う部分が書きにくくなります。つまり、 それなので、主人公の心理が書きやす ︿公男﹀ ︿ 萌 香 ﹀の よ う な 人 名 や 地 名 な に小説的な醍醐味が生まれ、読者に小説 ︿ 僕 は 本 当 は ∼ な の だ ﹀と 書 け ば 書 く ほ ︿ 悔 し か っ た ﹀な ど と 書 い て し ま う と こ どの固有名詞は、いろいろな読み方があ を読む楽しさを提供できるのです。つま ︻細かなアドバイス︼ るので、ルビ︵ふりがな︶を振ってくだ 称であれば、 ︿山田は本当は∼なのだ﹀と ④ まばらだった﹀のように。 ば ら だ っ た ﹀ま た は︿ 店 内 に い る 客 は、 度な距離を保ちながら書けるので、押し うところです。三人称は、心のなかと適 ︿ 泣 き そ う に な っ た ﹀な ど と 書 い て し ま 書 き や す く な っ て、 つ い︿ 困 っ た ﹀と か 完全な一人称で書いたなら、心のなかが と 思 い ま す。 こ れ を も し︿ 僕 は ﹀と い う ︿ 公 男 ﹀の 視 点 か ら の 描 写 だ か ら こ そ だ 作品が何に向かって、どんな読後感を用 と書くべきでした。そうしないと、この に丸投げしないで、ていねいに、きちん 類推することはできますが、それを読者 らしめてやろうという雰囲気なのかなと か。たぶん、これから主人公を二人でこ 性二人はなぜ笑顔で公男を迎えているの は、●のラストシーンだと思います。女 この作品の、いちばんわかりにくい部分 由は、一人称的な三人称で書かれており、 性がとれていないと思いました。そして、 と思います。 これからは少しずつ書いていきたい ーニングだったと。 て分かりました。あれば、描写のトレ 麻雀ばかりしていましたが、今になっ 当時は意味が分からず、課題も出さず、 内面を書かずに内面を表現しろとか。 てきて、それについて十枚書けとか。 課題ばかり出しました。石ころを拾っ 大学のときの先生は、毎週おかしな 書くのは二十年ぶりぐらいです。 めるのではないでしょうか。 り、行間を読ませるわけです。 この作者は、そのあたりの微妙なバラ 書けば、それが確定した事実になるとい 思ったのは●では毎週来ているのに、● さて、作品に戻ります。ひとつ疑問に う利点があります。 ンスを知っているのか、●のあたりでも ど、その言葉が嘘くさくなります。三人 さい。 ② こ れ は︿ 文 庫 本 ﹀と、 て い ね い に 書 い 主人公の、あるいは妻や不倫相手の女性 の心のなかが自在に読み取れるように、 それを行動や言動だけで書いています。 ︿?﹀や︿!﹀の 直 後 は、 一 文 字 ぶ ん の つけがましくない心理描写ができる手法 意して書かれたのかも読み取りにくくな D 岡山県 藤原 崇さん (47 歳・会社員) て く だ さ い。 あ と の ほ う で は ち ゃ ん と ︿文庫本﹀になっているのですが。 ③ 空白を作って下さい。 だと思います。反面、一人称は、心のな ります。この作品の終わりかたは、いろ では最近できた店と言っています。整合 面白いですね。特に主人公が二人の女 かをくどくどと書くのには向いているの いろ考えられますが、ひとつだけ例を書 この作品が成功しているもう一つの理 性を前にして、丁寧語を使ったり、お姉 ですが、どんなに詳細に書いたとしても す こ し 変 な 文 章 で す。 ︿店内は客がま さんと呼んだり、たたみかけるように行 心のなかというものは、書ききれないも ︻心理描写の全体的なアドバイス︼ 動を起こすのですが、それらがすべてう B まくいかずに、少しずつボロが出てくる 27 A C 描写とは? 描写が書けなければ 小説にはならない とりわけ目をひいた。 いい小説の要件というと、着想、ストーリー、構成といったことがあがると 思います。でも、描写でない文章、たとえば、あらすじのような文章だった ら、どれだけ設定が斬新で、どれだけストーリーが巧みだったとしても、いい 小説とは言えませんし、それ以前に、それでは小説になりません。ということ 写生といひ写実といふは実際有のまゝに 写すに相違なけれども固より多少の取捨選 とす。︵中略︶ のまゝ見たるまゝに其事物を模写するを可 で、ここでは描写についてまとめてみます。 話の主旨は伝わりますが、いわく言葉 にしがたい情感なり雰囲気なりはすべて 取りこぼされてしまいます。 そ れ に、 そ ん な に 単 純 に﹁ 孤 独 ﹂と 言 っていいのか、孤独には違いないけれど、 択を要す。取捨選択とは面白い処を取りて つまらぬ処を捨つる事にして、必ずしも大 たとえば隣り合わせの原っぱで野球を する子供らは、貴重なボールが築地塀を越 を取りて小を捨て、長を取りて短を捨つる 描写とは何かというと、辞書では﹁物 えて邸に飛びこんでしまったら最後、頼 一言では言えない、だから、描写で伝え ︵ 正岡子規﹁叙事文﹂︶ ちょっと違う色合いもあったんじゃない の形や状態、心に感じたことなどを言葉 みこむことも忍び入ることもできなかっ か、という気もします。 によって写しあらわすこと﹂とか、 ﹁いき た。そこで近所に友人のいなかった僕は、 るわけです。 ま模写しろ、写生しろと言っています。 言葉を飾らず、誇張を加えず、見たま つまり、説明しただけでは伝わらない、 事にあらず。 いきと写す﹂ ﹁あ り あ り と 書 く ﹂の よ う ︻写生文という基本︼ つまり、ある出来事があったとして、 たとえば、感じやニュアンスを伝えよう まま〝保存〟しろということです。 ま、感じたままを書いて、出来事をその うところに原因があるのだから、見たま ら、説明しただけでは伝わりにくいもの、 言葉、観念的な言葉︶に置き換えてしま それを別の言葉︵元の像を再現しにくい は堅く戒められていたので、姿の見えぬ として過剰に形容詞や比喩を重ねていく しかし、言葉には多義性がありますか もう一人の外野手になってファウル・ボ と、かえって意味が遠ざかっていったり ︵浅田次郎﹁悪魔﹂︶ とは言え、見聞きしたこと、感じたこ とをすべて書いていたら、話がなかなか 書くのか、なぜ必要なのか、あとの展開 こう記しています。 或る景色又は人事を見て面白しと思ひし 時に、そを文章に直して読者をして己と同 とどう関わるのか、そうしたことを考え 前に進みませんね。 ちで、﹁子どもの頃、僕は大邸宅に住ん 様に面白く感ぜしめんとするには、言葉を たうえで捨てろと、そういうわけです。 描写というより回想のようですが、た だ、全体を通じて匂ってくるものはあり でいた。孤独な少年だった﹂とだけ書い 飾るべからず、誇張を加ふべからず只あり そこで取捨選択です。なぜこの描写を たらどうでしょうか。 ます。では、これを要約するようなかた します。では、どうするか。正岡子規は ールを投げ返すほかはなかったのだ。 に野球をやりたかったのだけれど、それ つまでも待ったものだった。本当は一緒 庭に出、ボールが飛びこんでくるのをい 歓声が聴こえ始めるとグローブをはめて 僕の生家は、山の手の邸宅街の中でも では、なぜ描写をするのでしょう。 ります。 色合いだとか筆づかいだとかが描写にな か、輪郭を描いたりしたものが説明で、 絵であれば素描と言えばいいでしょう ︵島田雅彦﹃小説作法ABC﹄ ︶ 色に相当します。 描写とは、絵画における筆づかいや配 んだか漠然としていますね。 確かにそのとおりですが、これではな に書かれていると思います。 ︻描写は筆づかいや配色︼ §1 28 描写の方法 ︻五感を働かせる︼ ぎった鼻の頭に当たった。 ﹁吉岡の背中に﹂も効いています。描写 して五感を使って書いていきます。 ︻人物の主観で書く︼ 人いきれとヤニ臭い煙の中で、男の片 頬にはっきりと笑みが浮かんだ。相手を 値踏みしたうえでの、見下しきった薄笑 ︻動きのある場面は文を短く︼ 富治の侵入に気づく様子もなく、文枝 その時、ふいに文枝の瞼が開き、富治 体が硬直した。動くに動けず、相手の の顔をまともに見あげた。 口を塞ぐこともできない。 文枝の口から悲鳴が迸る。そう思って 逃げ出そうとした。 聞こえた。 人物のことです︶ 。 の役割を担ってシーンを写している登場 観です︵ちなみに視点人物とは、カメラ 心に映ったものになります。つまり、主 説に書くことは、基本的には視点人物の 一元視点の場合は特にそうですが、小 ︵真保裕一﹃繋がれた明日﹄︶ じゃないか。半笑いの口元から心の声が いだ。目は口ほどにものを言う。何か用 明かりが点いている部屋での夜這いな は、あられもない寝姿を、まったくの無 どしたことがなかった。だからためらい ︵重松清﹁ゲンコツ﹂︶ 会社での飲み会のひとこまです。吉岡 かよ。俺に意見しようなんて度胸がいい という主任が、ウケを狙って無理して頑 防備で晒している。︵中略︶ 城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密 が頭をもたげたのだと考え、ロウソクを 道がつづら折りになって、いよいよ天 林を白く染めながら、すさまじい早さで 張っている場面です。状況や雰囲気がよ というか説明ですが、この一言で場の空 消しに動こうとした。 麓から私を追って来た。 紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを 間、位置関係が認識できます。 私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、 く伝わってきます。 肩にかけていた。一人伊豆の旅に出てか 止画になって目に浮かびますね。 また、最後の6行は、一瞬の光景が静 ら四日目のことだった。 ︵川端康成﹃伊豆の踊子﹄︶ 目を使って描写していますから情景が カメラが固定されてシーンが安定するか 一人の視点で書く利点は、そのほうが らですが、一人の人物の主観で書いたほ が、予想に反して、彼女の口から悲鳴 があがることはなかった。 豊樹がそういいかけたところで、手を ﹁誰?﹂とひとこと言ったあとで﹁あっ﹂ 視覚的ですし、 ﹁私を追って来た﹂のあた つかまれ室内に引きこまれた。背中でド た結論は出ないと思いますが、聞いてい たとえば、十人で討論会をやれば偏っ あります。 アが閉まる音がする。部屋のなかの暗さ りには作者の筆使いを感じますね。 布のこすれる高い音が背中越しに鳴って、 と呟いた。 ︵ 熊谷達也﹃邂逅の森﹄︶ うが意味を引き出しやすいということも つぎの瞬間豊樹は目隠しをされていた。 と小さく漏らし、 ﹁アメ流しの時の︱︱﹂ 若い連中は一斉に笑った。ジョッキに残 肌をすべるなめらかな感触でシルクだと ﹃仮面ライダー﹄のイントロが流れると、 は目を閉じていてもわかった。勢いよく っていたビールを飲み干してソファーか わかる。冷たい闇が頭に巻きついたよう るほうは混乱したりします。一方、ただ ら立ち上がり、マイク片手にステージに 文枝が目を開くまでは比較的ゆっくり 向 か う 吉 岡 の 背 中 に、 ﹁ 主 任、 が ん ば っ 小説の場合も同じです。一人の人物の 一人が演説をした場合、独善的にはなる 世界だからこそ、私たちはそれが理解で と描写していますが、文枝に気づかれた だった。 場面に動きがないときはじっくり書い かもしれませんが、話は理解しやすいは ていますが、動きのあるシーンでは描写 あとはセンテンスが短くなり、改行も多 目を閉じている状態から目隠しをされ ︵石田衣良﹁1ポンドの悲しみ﹂︶ てえ!﹂と女子社員の声が飛ぶ。 ︵中略︶とっくに歌は始まっているのに、 ます。視覚がないので、聴覚と触覚で描 きるというところはあります。 ずです。 ンザイのポーズでジャンプした。高さ、 や解説は最小限にとどめています。 くなっています。 約五センチ。体の動きにワンテンポ遅れ 写をしています。このように描写は主と 吉 岡 は﹁と お ー っ!﹂と 一 声 吠 え て、 バ てふわりと浮き上がったネクタイが、脂 29 §2 るような手振りで話を打ち切った。 キムタクだったかソリマチだったか、 我家の人間はみんな嫌っていた。 じゃこじゃこのビスケットは、若いこ ︵江國香織﹃じゃこじゃこのビスケット﹄︶ 男にしか見えないが、とにかく学校でい とは愉快なことではなかったという十七 雄介には格好つけて斜にかまえただけの ちばん人気のある俳優が主演するドラマ 歳の主人公の気持ちを象徴したもので、 描写の効果 こうした描写を削り、話をさくさく進 で、これを観ていないと友だちとのおし 作品のタイトルにもなっています。 めることで読み手を心地よくさせる場合 ゃべりに入っていけないのだという。 ︻話に幅を持たせる︼ もありますが、そんな書き方をしてばか その意味では同作に不可欠の要素では りいると、筋しかない、なんの情感も醸 ありますが、ストーリー展開という観点 心深そうに交互に秀美と朝世を見あげた。 から、多すぎれば話は停滞しますが、逆 描写は話が前に進むのを阻む要素です うなときには真っ先に削られる部分でし う背景は、この小説をあらすじ化するよ 気タレント主演のドラマを見ているとい クッキーを食べながら紅茶を飲み、人 なく、主人公の気分やテーマを表すため つまり、ストーリーのための描写では ︵重松清﹁セッちゃん﹂︶ ﹁ねえ、見てみて。どの子もすごくかわ 引越し会社の段ボールのなかに古い毛 に言えば、描写は話が進み過ぎるのを抑 で見ると、じゃこじゃこのビスケットが えてくれますし、話に膨らみも持たせて の描写ということでしょう。 布が敷いてあった。母猫は横になり、用 細く締まった筋肉質の猫だが、腹の皮だ ょう。話の主旋律ではありません。 なくても話は成り立ちます。 けがすこしたるんでいた。明るい栗色の くれます。 しかし、要らないかというと、そんな 信号の粒子が、粗い。粗くてつぶつぶ 刑務所を出たHが最初に思ったのは、 小説も同じで、リアルに場面を浮き立た している。バスが次の信号で停車すると、 ことはありません。映画にしろ絵画にし 残ってテレビを観ていた加奈子は、ドラ せるためには、背景の描写も重要です。 唐突に切りだした話だった。夕食後、 マがコマーシャルに切り替わるのと同時 信号機のランプが見慣れないものに変わ さかった。二匹は元気にじゃれあってい にセッちゃんの話を始めたのだ。 とメインのシーンが沈んでしまうので、 っているということだった。 たが、残りの一匹はスフィンクスのよう ﹁ソッコーだよ、速攻で嫌われちゃった その点には注意してください。 ろ、背景がしっかり描かれていないと情 に澄まして、やんちゃな兄弟を見つめて の、みんなから﹂ 景が生きないということがありますが、 いた。その一匹だけ毛の色は青みがかっ ﹁なんで?﹂と和美が訊くと、加奈子は 和美に小言を言われながらリビングに居 たシルバーで、落ち着いた賢そうな表情 ﹁ 宿 題 が あ る ん じ ゃ な い の?﹂と 母 親 の をしている。俊樹がやってきて中腰で段 ﹁さ あ ⋮⋮﹂と 首 を か し げ、 口 の 中 の ク どこか古ぼけてみえる。 さっきのあの信号機の光こそが﹁二十 一世紀﹂だ。なんとなくそう思った。 成り立ちます。つまり、 ﹁LED﹂はスト この導入部も、なくてもストーリーは ︵長嶋有﹁青色LED﹂︶ じゃこじゃこのビスケット、は母の考 ーリー展開の要から出てきた小道具では ︻イメージやテーマの隠喩︼ それは十年前にみたのと同じランプで、 ボールをのぞきこんだ。 ッ キ ー を 紅 茶 で 喉 に 流 し 込 ん で、 ﹁よ く ただ、背景にウェイトをかけてしまう ﹁おー、ちびはみんな元気だな。そこの えた言いまわしで、削ったココナッツだ かけらだのが入ったビスケットのことだ。 なく、刑務所にいた空白の十年を象徴さ の砕いたアーモンドだの、干した果物の はドラマに戻る。和美はまだなにか言い 舌触りが悪く、混乱した味がするので、 せた小道具と言えます。 たそうだったが、加奈子は通せんぼをす コマーシャルが終わり、テレビの画面 ︵中略︶ わかんないけど﹂と付け加えた。 描写が挿入されています。 三つのセリフの間に、やや長めの情景 ︵石田衣良﹁ふたりの名前﹂ ︶ 端っこの銀色だけ、格好つけてるな﹂ 三匹の子猫はてのひらにのるほどちい くて迷うなあ﹂ ﹁お母さんもりりしいね。どれもかわい 黒い瞳が縦長に浮かんでいる。 毛並みは密で美しく、グリーンの目には さない話で終わる危険があります。 いいよ﹂ §3 30 描写と時間 額どうしがぶつかった。 線が始まるかどうかのところの曲線が、 る。ブラウスの襟ボタンを留めてほしい。 かしい。ブラジャーのレース模様が透け ﹁痛っ﹂と言って顔をあげたすぐそばに、 こんなふうに思いたくはないが、なまめ おでこをさすっている若い娘の顔があっ もう朝夕は息が白くなるのだから、ブレ た。 見た瞬間、アメの毒が回ってしまった そのとき、ステージわきに立っている いいと、彼女ははっきりいった。︵中略︶ で、ラブホテルより自分の部屋のほうが バーをでると、翌朝のんびりできるの かけての色白の頬が、思わず指でつねる 治には見えた。しもぶくれの耳から顎に 息が詰まるほどに器量のよい娘に、富 しばらく言葉が出てこなかった。 ﹁あのさあ﹂ を隠してほしい。︵中略︶ だりはしません。 女性が片手で耳のイヤホンを押さえた。 か、ぱくりと噛んでしまいたくなるほど、 まなざしで見据えていた。 ︻ ﹁再生﹂と﹁停止﹂ボタン︼ 口元につきでたマイクにむかってなにか 彼女とのセックスはいつもの平均的なセ ﹁言いたいことがあるんだったら、言っ ザーの下にベストかセーターを着て、胸 返事をしてうなずく。黒いタイトスカー ックスだった。期待しているあいだのほ ふっくらと可愛らしかった。それ以上、 みたいに体が痺れた。 トのスーツをぴしりと着た小柄な女性だ うが楽しいという、ゆきずりの場合によ てくんない?﹂ ︵重松清﹁パンドラ﹂︶ 穂美が言った。孝夫をまっすぐに、強い ペットボトルをテーブルに戻して、奈 った。髪は底光りするような輝きでうし 何がどうと説明するのは難しい。文字通 前半部分は、思春期の娘をもった父親 の心情が書かれているだけで、物語は動 ョンになっているからこそ、読み手は筋 しかし、ビデオの画面がストップモーシ いていません。時間の感覚もありません。 ビ デ オ で 言 え ば﹁ 再 生 ボ タ ン ﹂が 押 さ に追われることなく、落ちついて、しみ 一点を取り上げ、娘を描写をしながら主 を 止 め、 娘 の 特 徴 の 中 か ら﹁ 色 白 の 頬 ﹂ ボタンを押し、 ﹁一時停止﹂になっていた エ ン ジ ン が か か り ま す。 誰 か が﹁ 再 生 ﹂ で、 ﹁あのさあ﹂というセリフで一転、 じみと感慨にふけることができます。 人公の一目惚れぶりを描いています。ビ 画面を動かしたかのようです。 ところが、後半では一転、作者は時間 る感じです。 れ、現実と同じ速さで出来事が再現され らえつつ、物語を動かしています。 引用文では、前半は主人公の動作をと ︵熊谷達也﹃邂逅の森﹄︶ りの一目惚れというしかなかった。 くあるパターンだ。 こちらは、作中の現在を書く描写の手 た。 明け方、慶司は女のいびきで目が覚め ろに束ねられている。年齢は二十代なか ばだろうか。彼女は軽い身のこなしでテ ーブルを縫ってやってきた。 法ではなく、あらすじ的に出来事をなぞ ︵石田衣良﹁スローガール﹂︶ 中盤の﹁黒いタイトスカートのスーツ っています。説明的です。 ︵石田衣良﹁誰かのウエディング﹂︶ をぴしりと着た小柄な女性だった。髪は この書き方の場合、 ﹁明け方﹂と書けば 底光りするような輝きでうしろに束ねら れている。 年齢は二十代なかばだろうか﹂ ﹁ 明 日 ﹂に な り ま す し、 ﹁十年が過ぎた﹂ デオは﹁一時停止﹂になっています。 奈穂美はペットボトルに直接口をつけ ります。描写はそれぐらい重要です。 描写いかんで秀作にもなれば駄作にもな ということで、ストーリーが同じでも、 ボンを捲りあげて沢に入り、小さな淵の て 飲 ん で い く。︵ 中 略 ︶あ ら わ に な っ た ら、日々研究してみてください。 皆さんも実際に書きながら、読みなが 喉の筋がゆっくりと動く。肌の白さは喉 からブラウスの襟元にまでつづき、肩の ところで、痺れから醒めかけた大物のサ 同じマスに手を伸ばした別の誰かと、 クラマスを掴んだ時のことだ。 陸軍から払い下げてもらった軍服のズ ︻動から静へ、静から動へ︼ と書けば一瞬で十年が経ちます。 のあたりでは時間が止まっている感じが しますね。 一方、この前後は﹁イヤホンを押さえ た ↓ うなずく ↓ やってきた﹂というふ うに人物が動いていますから、時間も動 いているように感じます。しかも、現実 と同じような速さで動いています。 このように描写中は時間が止まってい るか、または、現実と同じように一秒ず つ時間が進み、後戻りしたり、急に進ん 31 §4