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全文情報 - 労働委員会関係 命令・裁判例データベース

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全文情報 - 労働委員会関係 命令・裁判例データベース
命
申 立 人
書
(写)
フ リ ー ター ユ ニ オ ン 福 岡
代 表 執 行委 員
被申立人
令
X1
株 式 会 社河 合 楽 器 製 作 所
代表取締役
Y1
上記当事者間の福岡労委平成21年(不)第5号河合楽器製作所不当労働行為
救済申立事件について、当委員会は、平成22年7月22日第1833回、同年
8月6日第1834回、同月17日第1835回及び同月20日第1836回公
益委員会議において、会長公益委員野田進、公益委員田中里美、同川嶋四郎、同
五十君麻里子、同植田正男、同大石桂一及び同後藤裕が出席し、合議の上、次の
とおり命令する。
主
1
文
被申立人株式会社河合楽器製作所は、申立人フリーターユニオン福岡が平成
2 1 年 2 月 2 4 日 付 け で 申 し 入 れ た X 2と の 契 約 不 更 新 を 議 題 と す る 団 体 交 渉
を 拒 否 し て は な ら ない 。
2
そ の 余 の 申 立 て を棄 却 す る 。
-1 -
理
第1
1
由
事案の概要等
事案の概要
本 件 は 、 被 申 立 人 株 式 会 社 河 合 楽 器 製 作 所 ( 以 下 「 会 社 」 と い う 。) が 、
申 立 人 フ リ ー タ ー ユ ニ オ ン 福 岡 ( 以 下 「 組 合 」 と い う 。) の 組 合 員 で あ り 、
会 社 が 運 営 す る カ ワ イ 音 楽 教 室 の 講 師 ( 以 下 「 講 師 」 と い う 。) で あ る X 2
( 以 下 「 X 2 」 と い う 。) と の 契 約 を 更 新 し な か っ た こ と は 、 同 人 が 組 合 員
で あ る こ と を 理 由に な さ れ た も の で あり 労 働 組 合 法( 以 下「 労 組 法 」と い う 。)
7条1号に該当し、また、組合が平成21年2月24日付けで申し入れた団
体交渉に対し、講師は労組法上の労働者に当たらないとして会社がこれに応
じなかったことは、同法7条2号に該当するとして、組合が救済を申し立て
た事案である。
2
請 求 す る 救 済 内容
(1) 会 社 は 、 組 合 が 平 成 2 1 年 2 月 2 4 日 付 け で 申 し 入 れ た 団 体 交 渉 を 正 当
な 理 由 な く 拒 否し て は な ら な い 。
(2) 会 社 は 、 X 2 に 対 す る 平 成 2 1 年 2 月 1 4 日 付 け 契 約 不 更 新 の 通 知 を 撤
回 し 、 同 年 4 月1 日 以 降 の 雇 用 を 継続 し な け れ ば な ら ない 。
3
本件の主な争点
本 件 の 主 な 争 点は 、 以 下 の と お り であ る 。
(1) 講 師 で あ る X 2 は 、 労 組 法 上 の 労働 者 に 当 た る か 。
(2) 会 社 が 、 組 合 の 平 成 2 1 年 2 月 2 4 日 付 け 団 体 交 渉 申 入 れ に 応 じ な か っ
た こ と に 、 正 当理 由 が 認 め ら れ る か。
(3) 会 社 が X 2 と の 契 約 を 更 新 し な か っ た こ と は 、 同 人 が 組 合 員 で あ る こ と
を 理 由 と す る 不利 益 取 扱 い に 該 当 する か 。
第2
認定した事実(以下において、特に証拠を摘示したもの以外は、当事者間
に 争 い の な い 事 実で あ る 。)
1
当事者
-2 -
(1) 申 立 人
組合は、平成18年6月にフリーター非正規雇用労働者ユニオンふくお
かの名称で結成された個人加盟方式の合同労働組合であり、申立時の組合
員数は23名である。なお、平成21年6月に開催された定期大会におい
て、フリーターユニオン福岡に改称し、事務所の所在地を福岡市中央区天
神 4 丁 目 9 番 12 号 か ら 肩 書 地 へ 変更 し た 。
(2) 被 申 立 人
会社は、ピアノ等の各種楽器の製造及び販売を業として昭和2年に設立
された株式会社であり、肩書地に本社を置き、関東支社、中部支社及び関
西支社を有している。なお、平成21年1月31日以前には、九州地区の
営業所等を統括する九州支社が福岡市内に設置されていたが、現在は関西
支社に統合されている。また、会社は、楽器の製造・販売と併せて、音楽
普及教育事業を実施しており、全国の約6,000箇所でカワイ音楽教室
を 運 営 し て い る。
2
カ ワ イ 音 楽 教 室の 概 要
(1) カ ワ イ 音 楽 教 室 は 、 幼 児 や 児 童 を 主 な 対 象 と し て 、 カ ワ イ 音 楽 教 育 シ ス
テ ム に 基 づ い たピ ア ノ 学 習 等 の 音 楽の 総 合 教 育 を 行 っ てい る 。
〔 乙 第 7 号 証 (以 下 「 乙 7 」 と 略 記。 以 下 こ れ に 準 じ て表 記 。)〕
(2) カ ワ イ 音 楽 教 育 シ ス テ ム と は 、 入 学 時 の 年 齢 と 経 験 に 応 じ た 様 々 な コ ー
スを設定し、また、そのコースごとにおいても、使用する楽譜等の教材を
段階ごとに詳細に定めるなど、基礎課程から専門課程へと系統性を持った
音 楽 教 育 を 行 える よ う 組 み 立 て ら れた 、 会 社 独 自 の 指 導方 法 で あ る 。
〔乙7〕
(3) カ ワ イ 音 楽 教 室 で 行 わ れ る レ ッ ス ン は 、 音 楽 の 総 合 的 基 礎 能 力 を 身 に 付
けるために幼児や児童を主対象としたグループレッスンや個人レッスンを
行 う コ ー ス ( 以 下 「 音 楽 教 室 」 と い う 。) と 、 音 楽 を 趣 味 と し て 楽 し む た
めに12歳以上の人を対象としたレッスンを行うコース(以下「ポピュラ
ー コ ー ス 」 と いう 。) と に 大 別 さ れる 。
〔乙7、乙8〕
(4) カ ワ イ 音 楽 教室 で 行 わ れ る レ ッ スン は 、 す べ て 、 講 師が 担 当 す る 。
(5) カ ワ イ 音 楽 教室 の 実 施 場 所 は 、会 社 自 ら が 賃 借 し て 設 置 し た 教 室 の ほ か、
-3 -
保育園、幼稚園、公民館等様々であるが、講師の自宅をカワイ音楽教室と
し て 運 営 す る こと は な い 。
〔 乙 2 4 、 第 3 回 審 問 Y 7証 人 陳 述 ( 以 下 「 審 ③ Y 7証 人 」 と 略 記 。 以 下 こ
れ に 準 じ て 表 記。)〕
(6) 福 岡 県 内 の カ ワ イ 音 楽 教 室 は 、 北 九 州 市 周 辺 を 管 轄 す る 北 九 州 地 区 、 久
留米市周辺を管轄する福岡南地区及びその他の福岡県内を管轄する福岡地
区に分けられる。福岡地区内には、約90箇所にカワイ音楽教室があり、
会 社 の 福 岡 事 務所 が 所 管 す る 。
3
X 2 の 講 師 採 用か ら ア ル バ イ ト 講 師と し て の 稼 働 ま で
(1) X 2 の 経 歴
X 2 の 申 告 によ れ ば 同 人 の 経 歴 は以 下 の と お り で あ る 。す な わ ち、X 2 は 、
平成18年3月、短期大学の音楽科作曲教育コースを卒業した後、同年4
月 か ら 1 年 間 、 同 科 の 研 究 生 と し て 作 曲 を 専 攻 し た 。 X 2は 、 平 成 1 9 年
9月に会社の講師採用試験を受けた時点において、16年のピアノの経験
が あ り 、 ま た 、音 楽 の 中 学 校 教 諭 二種 免 許 を 有 し て い た。
〔乙2、乙3〕
(2) X 2 の 講 師 採用 試 験 受 験
ア
平 成 1 9 年 9 月 、 X 2は 、 福 岡 市 内 の カ ワ イ 音 楽 教 室 天 神 セ ン タ ー で
行われた平成20年度カワイ音楽教室講師採用試験を受験した。この採
用 試 験 は 、音 楽 教 室 の 講 師 と ポ ピ ュ ラ ー コ ー ス の 講 師 を 対 象 と し て お り、
X 2 は 、 ポ ピュ ラ ー コ ー ス の 講 師を 受 験 し た 。
〔乙2〕
イ
採 用 試 験 の内 容 は 、ピ ア ノ 実 技 と 面 接 であ り、面 接 に お い て、会 社 は 、
ポ ピ ュ ラ ー コ ー ス の 講 師 を 受 験 し た X 2に 対 し 、 音 楽 教 室 の 講 師 と し て
業 務 を 行 う こ と が で き る か を 問 う た と こ ろ 、 X 2は 、 可 能 で あ る 旨 述 べ
た。また、会社は、講師はいずれも、報酬が歩合制であり、社会保険が
な く 、 賞 与 も な い 旨 説 明 し 、 X 2は 、 そ の 条 件 で も 講 師 の 業 務 に 就 き た
い旨述べた。
〔 乙 2 3 、 審① X 2 証 人 、 審 ③ Y 2 証 人 〕
ウ
講師の選考は、九州支社で取りまとめた試験の採点結果を参考にして
各地区のカワイ音楽教室担当者が行い、選考に当たっては、採点結果だ
-4 -
けでなく、自宅から教室への通勤の可否や、低額な講師報酬でも継続し
て稼働が可能かどうかなども考慮された。これらの検討を経た結果、会
社 は 、 X 2 を、 ポ ピ ュ ラ ー コ ー スの 講 師 と し て は 非 選 考 と し た 。
〔 乙 2 3 、 審③ Y 2 証 人 、 審 ③ Y 7 証 人 〕
(3) X 2 の 業 務 開始
ア
X 2 の 講 師採 用
(ア) 平 成 1 9 年 1 0 月 、 会 社 は 、 同 年 1 2 月 末 に 契 約 を 終 了 す る 講 師 の
後任が必要となり、契約中の講師及び選考試験に合格した者に対し、
後任講師として業務を行うよう依頼したが、日程が折り合わず、いず
れの依頼も断られた。そのため、会社は、採用試験において非選考と
な っ た 者 の う ち 、 唯 一 大 学 を 卒 業 し て い た X 2に 対 し 、 平 成 2 0 年 1
月以降、後任講師として音楽教室の業務を行うよう依頼したところ、
X 2 は こ れを 受 諾 し た 。
〔 乙 2 3 、審 ① X 2 証 人 、 審 ③Y 2 証 人 〕
(イ) 平 成 1 9 年 1 0 月 6 日 、 会 社 は 、 X 2 に 対 し 、 入 社 後 、 カ ワ イ グ レ
ー ド テ ス ト 6 級 ( 後 記 4 (3)オ (イ)) を で き る 限 り 早 い 時 期 に 取 得 す る
こ と 条 件 に 講 師 と し て 採 用 す る 旨 の 通 知 書 を 郵 送 し 、 X 2は 、 こ れ に
対 し 、 同 月1 0 日 付 け の 誓 約 書を 会 社 へ 返 送 し た 。
〔 乙 4 、 乙5 〕
(ウ) 同 年 1 1 月 ご ろ か ら 、 X 2 は 、 会 社 で の 講 師 の 労 務 条 件 や 契 約 内 容
に関して組合に相談を行っていたが、組合には加入していなかった。
〔甲16〕
(エ) X 2 は 、 同 年 1 2 月 5 日 に 、 グ ル ー プ レ ッ ス ン に つ い て の 研 修 を 、
同月13日には、個人レッスンについての研修と生徒の接し方につい
ての研修を受けた。また、同月11日、14日、17日及び21日、
X 2 は 、 業務 引 継 ぎ の た め の レッ ス ン 見 学 を 行 っ た 。
〔甲15〕
(オ) 同 年 1 2月 2 5 日、会 社 の 福岡 事 務 所 職 員 Y 2( 以 下「 Y 2 」と い う 。)
は 、X 2 に対 し 、平 成 2 0 年 1 月 か ら 3 月 ま で の 間 の 身 分 に つい て は 、
契約書を交わさないアルバイト講師とする旨述べた。その理由につい
て 、 Y 2は 、 契 約 書 を 取 り 交 わ す と カ ワ イ 音 楽 教 室 講 師 研 究 会 ( 以 下
「 講 師 研 究 会 」 と い う 。) の 会 費 や 有 料 研 修 の 費 用 が 報 酬 か ら 差 し 引
-5 -
か れ る た め で あ る と 説 明 し た 。 X 2は 、 Y 2に 書 面 で の 契 約 締 結 を 要 望
したが、会社ではアルバイト講師に係る契約書を作成していなかった
こ と か ら 、結 局 、 契 約 書 は 交 わさ れ な か っ た 。
〔 甲 1 5 、審 ③ Y 2 証 人 〕
「講師の手引」
(カ) 会 社 は、X 2 が 業 務 を 開 始 す る に 当 た り、X 2 に 対 し 、
を 交 付 し た 。「 講 師 の 手 引 」 に は 、 会 社 概 要 や カ ワ イ 音 楽 教 育 シ ス テ
ム等についての記載のほか、①講師の心構え、②レッスンの10分前
には清掃を終えることなどのレッスン準備並びに戸締まり及び火元点
検等のレッスン後片付けについて、③幼稚園及び保育園等でのレッス
ンにおける、あいさつ、言葉遣い、服装及び髪型等の身だしなみなど
の注意事項、④休学及び退学防止等の生徒管理、⑤生徒の進級促進、
⑥家庭連絡、⑦直営教室生徒に対する教材の完全供給(100パーセ
ン ト 販 売 )等 、 担 当 講 師 の 任 務に つ い て の 記 載 が なさ れ て い た 。
〔 乙 7 、 審① X 2 証 人 〕
イ
み か さ 幼 稚園 で の 業 務
(ア) X 2 は 、 平 成 2 0 年 1 月 か ら 、 み か さ 幼 稚 園 で 、 講 師 と し て 業 務 を
開始した。
〔 甲 1 5 、乙 2 3 〕
(イ) X 2 が み か さ 幼 稚 園 で 従 事 し た 業 務 の あ ら ま し 等 は 、 以 下 の と お り
であった。
a
X 2は 、 週 2 回 、 午 後 3 時 か ら 午 後 5 時 ま で み か さ 幼 稚 園 で の 業
務 に 従 事し 、 そ の 報 酬 は 、 月額 で 2 万 円 程 度 で あっ た 。
〔 甲 1 5、 審 ① X 2 証 人 〕
b
X 2が み か さ 幼 稚 園 で 従 事 し た 業 務 は 、 1 0 人 弱 の 生 徒 を 対 象 と
したグループレッスンであった。このグループレッスンでは、みか
さ 幼 稚 園 に 備 付 け の オ ル ガ ン を 使 用 す る た め 、 X 2は 、 そ の 準 備 と
後 片 付 けを 行 っ て い た 。
〔 審 ① X 2証 人 〕
c
X 2の 最 初 の レ ッ ス ン の 後 、 み か さ 幼 稚 園 の 園 長 か ら 会 社 に 、 オ
ルガンの片付けができておらず、また、園児のカスタネットを勝手
に使用した後ピアノの上に置いたままにしていたとの苦情が寄せら
れた。
-6 -
〔 乙 2 3、 審 ① X 2 証 人 、 審③ Y 2 証 人 〕
d
Y 2は 、 み か さ 幼 稚 園 か ら の 苦 情 の 内 容 を 電 話 で X 2に 知 ら せ 、 注
意 を 促 し た 。 そ の 後 、 会 社 や X 2に 、 み か さ 幼 稚 園 か ら 苦 情 が 寄 せ
ら れ る こと は な か っ た 。
〔 審 ③ Y 2証 人 〕
e
Y 2は 、 X 2が み か さ 幼 稚 園 で 行 う レ ッ ス ン を 、 一 度 視 察 し た が 、
そ の 後 、 X 2が 行 う グ ル ー プ レ ッ ス ン や 個 人 レ ッ ス ン を 、 会 社 の 担
当 者 が 視察 す る こ と は な か った 。
〔 審 ③ Y 2証 人 〕
ウ
「 は る の おん が く か い 」 へ の 参加
(ア) X 2 は 、 平 成 1 9 年 1 2 月 か ら 平 成 2 0 年 2 月 に か け て 、「 は る の
おんがくかい」の打合せに2回、合同練習に3回参加した。これらの
合同練習等のうち、打合せと2回の合同練習については会社から交通
費が支払われたが、報酬は支払われなかった。なお、従来から、会社
は合同練習に参加した講師に対して報酬及び交通費を支払っておら
ず 、 こ の と き 、 X 2に 交 通 費 が 支 払 わ れ た の は 、 会 社 が 事 務 処 理 を 誤
っ た た め であ っ た 。
〔 甲 1 5 、乙 1 3 の 2 及 び 3 、審 ③ Y 2 証 人 〕
(イ) 「 は る の お ん が く か い 」 と は 、 カ ワ イ 音 楽 教 室 福 岡 事 務 所 主 催 の 幼
児のグループレッスン発表会であり、複数のカワイ音楽教室の生徒が
合同してグループを形成し自主発表を行うことが多く、グループごと
に合同練習が行われたが、その合同練習については、会社が講師らに
対 し て 業 務指 示 を 行 う こ と は なか っ た 。
〔乙23〕
(ウ) 平 成 2 0 年 2 月 2 4 日 、 X 2 は 、 福 岡 市 内 で 開 催 さ れ た 、「 は る の
おんがくかい」に参加した。この催しは、午後2時から行われたが、
X 2は 、 準 備 も 含 め 午 前 1 0 時 か ら 午 後 5 時 ま で 参 加 し 、 午 後 の 業 務
の み 手 当 を受 け 取 っ た 。
〔 甲 1 5 、乙 9 、 審 ① X 2 証 人〕
エ
筑 紫 野 ベ レッ サ 教 室 で の 業 務
(ア) 平 成 2 0 年 2 月 以 降 、 毎 週 土 曜 日 午 前 1 0 時 か ら 午 後 6 時 ま で 、 X
2
は、新規に開設された筑紫野ベレッサ教室において、レッスン希望
-7 -
者 の 受 付 業務 等 に 従 事 し た 。
〔 甲 1 5 、乙 2 3 〕
(イ) X 2 が 同 年 2 月 か ら 3 月 に か け て 筑 紫 野 ベ レ ッ サ 教 室 で 従 事 し た 業
務 の あ ら まし 等 に つ い て は 、 以下 の と お り で あ っ た。
X 2は 、 1 名 の 個 人 レ ッ ス ン を 担 当 し た ほ か 、 新 規 に 開 設 さ れ た
a
教室であったため、レッスン内容についての問い合わせ等に応対す
る た め の受 付 業 務 と 教 室 周 辺で の チ ラ シ の 配 布 に従 事 し た 。
〔 甲 1 5、 乙 2 3 〕
b
報酬は、個人レッスンに係る歩合給のほか、受付業務とチラシの
配 布 に 対し て 、 1 時 間 当 た り7 0 0 円 の 手 当 が 支払 わ れ た 。
〔 甲 1 5、 乙 2 3 〕
会 社 か ら X 2に 対 す る こ れ ら 業 務 の 依 頼 は 口 頭 で な さ れ 、 契 約 書
c
は 交 わ され な か っ た 。
〔 甲 1 5〕
オ
採 用 事 前 研修
X 2は 、 平 成 2 0 年 3 月 上 旬 か ら 下 旬 に か け て 9 回 開 催 さ れ た 4 月 採
用予定者向けの採用事前研修会に出席した。採用事前研修の内容は、会
社概要、委任契約、処遇待遇、諸制度及び音楽教育システム等に関する
ものであり、研修の時間は3時間ないし7時間で、交通費のみが支給さ
れた。
〔 乙 6 、 乙 7、 審 ① X 2 証 人 〕
4 契 約 書 の 取 り 交わ し 及 び 講 師 の 業 務等
(1) 契 約 書 の 取 り交 わ し
ア
平 成 2 0 年4 月 8 日 に 開 催 さ れた 年 度 当 初 の 講 師 会合( 後 記 (3)ウ (ア))
に お い て 、 X 2は 、 カ ワ イ 音 楽 教 室 に お け る 教 育 指 導 業 務 及 び こ れ に 付
帯する業務の委任を目的とした、平成20年4月1日から平成21年3
月31日までを契約期間とする別紙委任契約書を会社と取り交わした。
契約書を取り交わすに当たり、会社担当者は、福岡事務所に所属する全
講師約100名の前で別紙委任契約書の全文を読み上げ、講師が署名捺
印 し た 契 約 書2 部 の う ち 、 1 部 を講 師 に 交 付 し た 。
〔 甲 1 、 甲 15 、 乙 2 3 、 審 ① X 2 証 人 、 審 ③ Y 2 証 人〕
-8 -
イ
講師と会社が取り交わした別紙委任契約書は、すべての講師との契約
に 使 用 さ れ る会 社 作 成 の 定 型 化 され た 様 式 で あ り 、会 社 は 、講 師 に 対 し 、
別紙委任契約書の内容を変更することが可能であるとの説明をしたこと
はなく、また、講師から個別的な契約内容の変更が申し入れられたこと
もなかった。
〔 乙 2 4 、 審③ Y 7 証 人 〕
ウ
会社は、この講師会合の際、会社が講師に出席を促す研修には有料の
も の が あ る こと や 先 輩 講 師 が 講 師に 対 し て 行 う 有 料 のレ ッ ス ン( 以 下「 有
料 レ ッ ス ン 」と い う 。) が あ る こと な ど に つ い て の 説 明 を 行 っ た 。
〔甲15〕
エ
同 日 の 講 師 会 合 に お い て 、 X 2は 、 会 社 か ら 配 付 さ れ た 講 師 研 究 会 入
会 申 込 書 に 同年 4 月 1 日 付 け で 署名 し た が 、 提 出 は しな か っ た 。
〔 甲 2 、 審 ③Y 2 証 人 〕
オ
講師研究会は、研修等を行うために講師が自主的に設立した組織であ
り、音楽教室の講師は、ほぼ全員、講師研究会に入会している。講師研
究会は、会社とは別組織であるが、会社は、講師に対して、講師研究会
への入会を勧め、また、会社内部の事務処理上、講師研究会に入会した
講師を音楽教室講師、入会していない講師をその他講師として、それぞ
れ区別して登録している。講師研究会に入会した講師は、年1回開催さ
れるシンポジウムに参加するための費用として、毎月3,000円を報
酬 か ら 天 引 きさ れ る 。
〔 甲 1 8 、 乙2 6 の 1 、 審 ③ Y 2 証 人 〕
(2) 担 当 教 室 の 決定 方 法 及 び X 2 の 担当 教 室 決 定
ア
会社は、講師選考試験の面接を実施する際、応募者に対して稼働可能
な曜日や遠隔地でも稼働できるかどうかの確認を行うほか、既に契約し
ている講師については、毎年8月ごろに稼働調査書を郵送し、次年度の
契約を更新する意思の有無とともに稼働可能な曜日や担当したい教室な
ど を 確 認 し てい る 。
〔 乙 3 、 乙 15 〕
イ
講師は、担当する生徒名とレッスン日時を、曜日と時間帯の表組みと
な っ て い る 講師 教 室 担 当 表 に 記 入し 、 毎 月 1 回 、 会 社へ 提 出 す る 。
〔 乙 1 4 、 審③ Y 7 証 人 〕
-9 -
ウ
教室の新規開設や生徒の増加により、教室に新たな講師を配置する必
要がある場合、会社は、稼働可能な曜日や自宅から教室までの距離を勘
案 し て 、 担 当講 師 を 選 定 す る 。
〔乙24〕
エ
教室に新たな生徒が入学した場合、その教室を担当する講師が当該生
徒のレッスンを行うのが原則であるが、講師から担当できないとの申入
れ が あ れ ば 、会 社 は 、 他 の 講 師 に依 頼 す る 。
〔乙24〕
オ
講師が退職した場合、会社は、稼働可能な曜日、自宅から教室までの
距 離 、交 通 手 段 、担 当 す る 生 徒 の年 齢 や 進 度、講 師 のグ レ ー ド 取 得 級( 後
記 (3)オ (イ))等 を 勘 案 し て 、 後 任の 講 師 を 選 定 す る 。
〔 乙 2 4 、 審③ Y 7 証 人 〕
カ
福岡地区において、会社からの教室担当依頼を講師が断った例は、平
成19年度に、講師76名中1名、平成20年度に、講師76名中5名
であった。
キ
X 2は 、 平 成 2 0 年 3 月 末 を も っ て 、 み か さ 幼 稚 園 の 担 当 講 師 か ら 外
さ れ た 。 同 年 4 月 以 降 、 X 2は 、 引 き 続 き 毎 週 土 曜 日 午 前 1 0 時 か ら 午
後6時まで筑紫野ベレッサ教室において、生徒の個人レッスン(当初1
名であったが、後に4名となった)と受付業務に従事するとともに、新
たに毎週水曜日午後5時から7時までサンリブ古賀教室において、3名
の 生 徒 の 個 人レ ッ ス ン に 従 事 す るこ と と な っ た 。
〔 甲 1 5 、 乙1 4 、 審 ① X 2 証 人〕
(3) 講 師 の 業 務 内容 等
ア
教 育 指 導 業務
(ア) 指 導 対 象者 及 び レ ッ ス ン 回 数
講師は、音楽教室において、教育指導業務として、幼児を対象とし
たグループレッスンや、幼児・児童や大人を対象とした個人レッスン
を担当し、会社が定める時間と回数によるレッスンを行う。年間のレ
ッスン回数は、原則として、幼児のグループレッスンが40回、幼児
・ 児 童 の 個人 レ ッ ス ン が 4 0 回、大 人 の 個 人 レ ッ ス ン が 2 2 回 で あ り、
1回当たりのレッスン時間は、幼児のグループレッスンが60分、幼
児 ・ 児 童 と大 人 の 個 人 レ ッ ス ンが 3 0 分 で あ る 。
- 10 -
〔 甲 1 、 乙8 、 乙 2 4 〕
(イ) 実 施 の 日時
レッスンの曜日及び時間帯は、生徒入学時に生徒の希望により決め
ら れ 固 定 され る が 、講 師 の 都 合 で 日 時 を変 更 す る 場 合 が あ り 、講 師 は 、
会 社 へ 事 前に 連 絡 し た 後 、 生 徒と の 日 程 調 整 を 行 う。
〔乙24〕
(ウ) 講 師 の 変更
講師の都合により予定の日時にレッスンを行うことができない場
合、会社に事前に申し出て会社の承諾を得れば、講師は代替講師を選
定して当該レッスンの担当を交代することができる。ただし、このよ
うな場合、会社は、原則としてレッスンの日時を変更して対応するよ
う講師に求めているため、実際に講師変更の申出がなされた例は、ほ
と ん ど な い。
〔 甲 1 2 、審 ① X 2 証 人 、 審 ③Y 7 証 人 〕
(エ) 指 導 の 方法
講師は、カワイ音楽教育システムのコース及び段階に応じて作成さ
れた、楽譜をはじめとする教材を用いてレッスンを行い、また、当該
教 材 に よ るレ ッ ス ン の 進 め 方 など を 記 載 し た 指 導 の手 引 書( 以 下 、
「指
導 書 」 と い う 。) に 沿 っ て レ ッ ス ン を 行 う よ う 求 め ら れ る 。 た だ し 、
講師は、レッスンの進度が遅い生徒に対しては予定された教材以外の
教 材 を 使 うな ど 、 レ ッ ス ン 方 法を 変 更 す る こ と も ある 。
〔 甲 1 5 、審 ① X 2 証 人 、 審 ③Y 2 証 人 〕
(オ) 器 具 等 の負 担
講師がレッスンで使用するピアノは、カワイ音楽教室備付けのピア
ノである。レッスンで用いる教材は、原則として会社から貸与される
が、タンブリン、カスタネットやトライアングル等、講師が買い取る
も の も あ る。
〔 乙 6 、 審① X 2 証 人 〕
(カ) 身 分 証 明書 の 携 行
講 師 は 、 業 務 に 当 た る 際 、「 当 社 音 楽 教 室 の 講 師 で あ る こ と を 証 明
す る 」 と 記載 さ れ た 会 社 発 行 の身 分 証 明 書 を 携 行 する 。
〔甲14〕
- 11 -
イ
付帯業務
(ア) 入 金 事 務
講師は、生徒の入学後、授業料等の口座振替が開始されるまでの約
2か月間、生徒から授業料等を現金で収納し、銀行で会社の預金口座
へ 入 金 し 、そ の 金 額 等 を 伝 票 に記 入 し て 会 社 へ 提 出す る 。
〔 甲 1 5 、乙 2 4 、 審 ① X 2 証人 、 審 ③ Y 2 証 人 〕
(イ) 報 告 業 務
a
講師は、2か月に1回、生徒のレッスンの進度を文書で会社に報
告する。
〔 甲 1 5〕
b
講師は、会社内の連絡網である電子メールにより毎週1回、①当
月と翌月の入学者、当該生徒の所有楽器、調律希望等の情報、②当
月の休学者と退学者、当該生徒に係る教室名、コース、理由、復学
予 定 等 を会 社 に 報 告 す る 。
〔 甲 1 5〕
(ウ) 勧 誘 業 務等
講師は、会社の依頼により、体験レッスンの担当、街頭でのティッ
シュ配り、ダイレクトメールのあて名書き、電話勧誘等やカワイ音楽
教 室 の 受 付業 務 を 行 う 。
〔乙24〕
ウ
講師会合
(ア) 講 師 は 、 毎 月 1 回 開 か れ る 会 社 主 催 の 講 師 会 合 に 出 席 し 、 会 社 の 音
楽教室担当者から毎月の連絡事項の伝達を受ける。この講師会合で会
社は、新規入学生徒の獲得目標や会社主催の楽器販売会・コンサート
に 講 師 の 参加 を 求 め る こ と な どを 記 載 し た 文 書 を 配付 し て い た 。
〔 乙 2 3 、審 ③ Y 2 証 人 〕
(イ) X 2 が 出 席 し た 平 成 2 0 年 9 月 の 講 師 会 合 で は 、 ① 生 徒 獲 得 目 標 と
し て 、「 こ の 秋 一 講 師 2 名 の 新 入 ( 注 : 新 規 入 学 生 徒 を 指 す ) を 入 れ
て く だ さ い 」、 ② 楽 器 の 販 売 協 力 目 標 と し て 、「 一 講 師 2 台 の 紹 介 実
績 を 」、 ③ カ ワ イ コ ン サ ー ト や 講 演 会 へ の 参 加 要 請 と し て 、「 チ ケ ッ
ト を 売 り ま し ょ う 、 満 席 に 。 全 講 師 参 加 で す 。」 な ど と 記 載 さ れ た 文
書 が 配 付 され た 。
- 12 -
〔 甲 1 2 、審 ① X 2 証 人 〕
(ウ) 会 社 は 、 講 師 会 合 に お い て 講 師 に 要 請 し た 上 記 (イ)の よ う な 項 目 に
つ い て 、 講師 の 出 席 状 況 や 目 標達 成 状 況 の チ ェ ッ クを 行 っ て い る 。
〔 審 ③ Y 2証 人 〕
エ
講 師 が 受 講す る 研 修 等
(ア) 会 社 が 講 師 に 受 講 を 促 す 研 修 等 に は 、 無 料 研 修 、 有 料 研 修 及 び 有 料
レ ッ ス ン があ る 。
〔 審 ③ Y 7証 人 〕
(イ) 無 料 研 修 は 、 カ ワ イ 音 楽 教 育 シ ス テ ム に お け る レ ッ ス ン を 行 う 上 で
の具体的な進め方、テキストや教具の使用方法等についての会社主催
の研修であり、会社は、講師に対してこの研修の受講を促し、また、
講 師 の 出 席状 況 を チ ェ ッ ク し てい る 。
〔 審 ③ Y 7証 人 〕
(ウ) 有 料 研 修 は 、 講 師 の 資 質 向 上 を 目 的 と し た 社 外 団 体 主 催 の 研 修 で あ
り、会社は、講師に対し、講師会合で配付する文書等により受講を求
め、また、特に講師からの申出がない限り、すべての講師が参加する
ものとして事務処理を行い、研修費用を講師の報酬から天引きする。
〔 甲 1 2 、乙 2 6 の 1 、 審 ③ Y 2 証 人 〕
(エ) 有 料 レ ッ ス ン は 、 会 社 が 主 催 し 、 講 師 に 対 し て 有 料 の 個 人 レ ッ ス ン
を実施するものであり、会社は、講師に対し、講師会合で配付する文
書等により受講の案内を行うほか、個別に受講を促しており、新規に
講 師 と な った 者 の ほ と ん ど は 、有 料 レ ッ ス ン を 受 講し て い る 。
〔 甲 1 2 、乙 2 3 、 審 ③ Y 7 証人 、 審 ③ Y 2 証 人 〕
(オ) 無 料 研 修 の 場 合 、 会 社 か ら 受 講 者 に 交 通 費 が 支 給 さ れ る が 、 有 料 研
修と有料レッスンの場合、交通費は支給されず、また、手当はいずれ
に お い て も支 給 さ れ な い 。
〔 審 ③ Y 7証 人 〕
オ
講 師 に 対 する 報 酬 の 決 定 方 法 及び X 2 の 報 酬
(ア) 講 師 の 教 育 指 導 業 務 に 対 す る 報 酬 は 、 担 当 し た 生 徒 の 月 謝 に 応 じ た
歩合額であるが、その歩合額は、会社が作成した講師手当支払表にお
いて、生徒の月謝単価ごとに、講師のグレード取得級別に細かく定め
ら れ て い る。
- 13 -
〔 乙 2 0 、乙 2 4 〕
(イ) グ レ ー ド と は 、 演 奏 家 や 指 導 者 を 目 指 す 者 を 対 象 と し た 、 会 社 が 主
催する有料のグレードテストにより認定される等級であり、最高ラン
ク の 2 級 から 6 級 ま で に 分 類 され て い る 。
〔乙7〕
(ウ) 会 社 は 、 グ レ ー ド テ ス ト 以 外 の 方 法 に よ り 講 師 の 演 奏 能 力 や 指 導 能
力 を 認 定 して 歩 合 額 を 増 額 さ せる こ と は な い 。
(エ) 講 師 手 当 支 払 表 に 基 づ く グ レ ー ド 取 得 級 別 の 歩 合 額 の 例 を 示 す と 、
ピアノ個人レッスンで月謝単価7,000円の生徒1名を担当した場
合 、報 酬 月 額 は 、無級 講 師 が 1 ,9 0 0 円、6 級 講師 が 2 ,3 4 0 円 、
5級講師が2,810円、4級講師が3,410円、3級講師が4,
010円である。また、有級講師の歩合額は月謝単価に比例して増え
るのに対し、無級講師の歩合額は2,000円が上限とされている。
〔乙20〕
(オ) 生 徒 の 月 謝 に 対 す る 歩 合 額 の ほ か 、 講 師 の グ レ ー ド 取 得 級 に 応 じ て
支払われる報酬には、会社主催の催事に参加した場合の演奏手当があ
る。
〔乙24〕
(カ) 講 師 の 付 帯 業 務 の う ち 、 前 記 4 (3)イ (ウ)の 勧 誘 業 務 等 に つ い て は 、
街頭でのティッシュ配りや受付業務には1時間当たり700円、個人
の体験レッスン担当には1回につき500円など、手当が支払われる
が 、 前 記 4 (3)イ (ア)の 入 金 事 務 と 同 (イ)の 報 告 業 務 に つ い て は 、 手 当
は 支 払 わ れな い 。
〔 甲 1 5 、乙 2 4 〕
(キ) 会 社 は 、 講 師 に 対 す る こ れ ら の 報 酬 を 月 ご と に 支 払 い 、 ま た 、 講 師
報 酬 の 支 払い に 当 た り 、 税 金 の源 泉 徴 収 を 行 っ て いる 。
〔 甲 1 、 乙7 、 乙 1 1 の 1 ~ 12 、 審 ③ Y 7 証 人 〕
(ク) 平 成 2 0 年 4 月 以 降 、 筑 紫 野 ベ レ ッ サ と サ ン リ ブ 古 賀 で 生 徒 へ の レ
ッ ス ン 等 の 業 務 を 行 っ た X 2の 報 酬 月 額 は 、 交 通 費 を 除 い て 平 均 約 2
万 9 千 円 であ っ た 。な お 、X 2 は 、グ レ ード テ ス ト を 受 験 し てお ら ず 、
無 級 講 師 であ っ た 。
〔 乙 1 1 の1 ~ 1 2 〕
- 14 -
(ケ) 講 師 の 多 く は 、 カ ワ イ 音 楽 教 室 の 講 師 以 外 の 仕 事 に も 就 い て 毎 月 の
収入を確保しており、講師の収入だけで生計を立てている講師は、九
州 地 区 内 にお い て 、 1 割 に 満 たな い 。
〔 乙 2 2 、審 ③ Y 7 証 人 〕
5
X 2 個 人 に よ る会 社 と の 話 合 い か ら組 合 加 入 ま で
(1) 4 月 1 0 日 の話 合 い
ア
X 2は 、 講 師 が 料 金 を 支 払 わ な け れ ば な ら な い 有 料 研 修 や 有 料 レ ッ ス
ン が あ る こ と 、「 は る の お ん が く か い 」 の 合 同 練 習 に 対 し て 手 当 が 支 給
されなかったことについて組合に相談したところ、組合から、個人で会
社と話し合ってはどうかとの助言を受け、平成20年4月10日、Y2
と 話 合 い を 行っ た 。
〔 甲 1 5 、 甲1 6 、 審 ② X 1 本 人〕
イ
Y 2は 、 講 師 が 料 金 を 支 払 わ な け れ ば な ら な い 有 料 研 修 や 有 料 レ ッ ス
ンがあることについては、経営上の理由であるとの趣旨の説明をし、ま
た 、「 は る の お ん が く か い 」 の 合 同 練 習 に 手 当 が 支 給 さ れ な か っ た こ と
については、講師に義務付けられた40回のレッスン以外は会社が依頼
し た 業 務 で はな い た め で あ る と の説 明 を し た 。
〔甲28〕
(2) 4 月 1 9 日 の話 合 い
ア
4 月 1 0 日 の 話 合 い に 納 得 で き な か っ た X 2は 、 同 年 4 月 1 9 日 、 会
社 の 福 岡 事 務 所 専 任 課 長 Y 3 ( 以 下 「 Y 3 課 長 」 と い う 。) 及 び Y 2 と 話
合 い を 行 っ た。
〔甲15〕
イ
Y 3課 長 は 、 講 師 が 料 金 を 支 払 わ な け れ ば な ら な い 有 料 研 修 や 有 料 レ
ッ ス ン に つ いて 、指 導 す る 先 生 に 報 酬 を 支 払 う 必 要 が あ る た め と 説 明 し、
Y 2 は 、「 は る の お ん が く か い 」 の 練 習 に 手 当 が 支 給 さ れ な い こ と に つ
い て 、 4 月 10 日 の 話 合 い と 同 じ回 答 を し た 。
〔甲29〕
ウ
有 料 レ ッ ス ン を 受 け な か っ た 場 合 の 処 遇 に つ い て 、 Y 3課 長 は 、 X 2が
行 う 生 徒 へ の レ ッ ス ン 内 容 を 直 接 確 認 す る 意 向 が あ る 旨 及 び X 2が 有 料
レッスンを受けたくないということについて内部で相談する旨告げた
- 15 -
が 、 Y 2は 、 有 料 レ ッ ス ン を 受 け な い こ と だ け で 解 雇 に な る こ と は な い
旨述べた。
〔甲29〕
エ
X 2 が 報 酬に 係 る 歩 合 割 合 を 明示 し て ほ し い と 要 望 し た と こ ろ、Y 2 は、
報酬については歩合割合が決められているのではなく歩合額として生徒
の月謝単価ごとに細かく定められていること、重要事項であるので当該
書 類 を 渡 す こと は で き な い の で 口頭 で 知 ら せ る 旨 述 べた 。
〔甲29〕
オ
Y 3 課 長 は、 こ の 話 合 い の 内 容を 上 に 報 告 す る と 述 べ た 。
〔甲29〕
(3) 4 月 2 9 日 の話 合 い
同 年 4 月 2 9 日 、 Y 2は 、 X 2を 喫 茶 店 へ 誘 い 、 ド リ マ ト ー ン ( 会 社 が 製
造する電子オルガン)とピアノの有料レッスンを受けるよう説得したが、
X 2 は 、 こ の 説得 に 応 じ な か っ た 。
〔 甲 1 5 、 乙 23 〕
(4) 同 年 5 月 、 Y 2 は 、 X 2 に 対 し 、 再 度 、 ド リ マ ト ー ン と ピ ア ノ の 有 料 レ ッ
ス ン の 受 講 を 求 め た が 、 X 2は 、 ド リ マ ト ー ン は ほ と ん ど 弾 け な い の で そ
も そ も 生 徒 を 担当 す る の が お か し いと 述 べ た 。
〔乙23〕
(5) 同 年 6 月 、 Y 2 は 、 X 2 に 対 し 、 ド リ マ ト ー ン と ピ ア ノ の 有 料 レ ッ ス ン は
受講しなくてよいが、状況確認のためのテストを行うかもしれない旨伝え
る と と も に 、未 提 出 で あ っ た 講 師 研 究 会 入 会 申 込 書 を 提 出 す る よ う 求 め た。
〔 甲 1 5 、 乙 23 〕
(6) 同 年 6 月 1 3 日 、 X 2 は 、 上 記 の 有 料 研 修 と 有 料 レ ッ ス ン 受 講 の 件 や 講
師研究会への入会問題については、個人ではなく組合を通じて会社と話を
し た ほ う が よ いと 考 え 、 組 合 に 加 入し た 。
〔甲15〕
6
組 合 と 会 社 と の話 合 い の 経 過 と X 2 と の 契 約 不 更 新
(1) 組 合 か ら 会 社へ の X 2 の 組 合 加 入通 知 等
ア
同 年 7 月 1 日 、 Y 2及 び 会 社 の 嘱 託 講 師 で あ る Y 4( 以 下 「 Y 4講 師 」
と い う 。) は 、 X 2 に 対 し 、 講 師 研 究 会 入 会 申 込 書 を 提 出 す る よ う 求 め 、
- 16 -
また、有料レッスンや有料研修を受けないのであればテストを行うこと
を伝えた。
イ
同年7月4日、組合は、会社の九州支社地域政策推進室の音楽教室指
導 主 事 で あ る Y 5 ( 以 下 「 Y 5 主 事 」 と い う 。) へ の 電 話 連 絡 に よ り 、 X
2
の 組 合 加 入 を 通 知 し た 。 そ の 際 、 組 合 が Y 5主 事 に 対 し 、 有 料 研 修 や 有
料 レ ッ ス ン の 受 講 と 講 師 研 究 会 へ の 入 会 に つ い て 尋 ね た と こ ろ 、 Y 5主
事 は 、 い ず れも 任 意 で あ る と 回 答し た 。
〔甲16〕
ウ
同 年 7 月 9 日 、 会 社 は 、 X 2に 、 会 社 が 指 定 し た 課 題 曲 の 演 奏 を 録 音
し た テ ー プ ( 以 下 「 録 音 テ ー プ 」 と い う 。) を 提 出 す る よ う 要 請 し 、 同
年 8 月 6 日 には 、 録 音 テ ー プ の 提出 を 電 子 メ ー ル で 督促 し た 。
エ
同 年 8 月 8 日 、 組 合 は 、 Y 5主 事 へ の 電 話 連 絡 に よ り 、 録 音 テ ー プ を
提 出 し た 後 の 取 扱 い に つ い て 尋 ね た と こ ろ 、 Y 5主 事 は 、 録 音 テ ー プ の
内 容 に よ っ て X 2を 指 導 す る こ と は あ る が 、 そ れ が 就 労 条 件 や 来 期 の 契
約 更 新 に は 影響 を 及 ぼ さ な い と 回答 し た 。
〔甲16〕
オ
同 年 8 月 1 0 日 付 け 文 書 で 、 会 社 は 、 X 2に 対 し 、 有 料 レ ッ ス ン を 受
講していない講師の演奏能力や教材の理解度の把握のためとして、録音
テ ー プ を 提 出す る よ う 求 め た が 、X 2 は 、 こ れ に 応 じ な か っ た 。
〔 甲 3 、 審 ③Y 2 証 人 〕
カ
平成20年度、福岡地区において、録音テープの提出を求められた講
師 は 、 X 2 を含 め て 3 名 で あ っ た。
X 2を 除 い た 2 名 の 講 師 の う ち 、 1 名 は 録 音 テ ー プ を 提 出 し 、 他 の 1
名は録音テープを提出しなかったが、両名とも翌年度の契約の更新を希
望 し な か っ たこ と か ら 、 契 約 の 更新 は な さ れ な か っ た。
〔 審 ① X 2 証人 、 審 ③ Y 2 証 人 〕
キ
同 年 9 月 1 6 日 、 X 2は 、 同 月 の 講 師 会 合 で 案 内 が な さ れ た 、 講 師 全
員 が 参 加 す るよ う 求 め ら れ た 有 料研 修 を 受 講 し た 。
〔 甲 1 2 、 乙1 1 の 6 、 乙 2 3 〕
(2) 団 体 交 渉 要 求書 の 提 出 以 降
ア
組合は、会社に対し、平成20年9月22日付け文書で、①委任契約
の 妥 当 性 、② 講 師 の レッ ス ン に 必 要 と さ れる 費 用 、③講 師 の 研 修 の 報 酬 、
- 17 -
④発表会の練習及び準備にかかる費用、⑤グレード取得の費用、⑥X2
と の 契 約 更 新を 議 題 と す る 団 体 交渉 を 要 求 し た 。
〔甲4〕
イ
同 年 9 月 2 5 日 、 Y 2は 、 X 2に 電 話 で 、 組 合 が 会 社 に 対 し 団 体 交 渉 要
求 書 を 提 出 し て い る こ と を 知 っ て い る か 尋 ね 、 X 2は 、 知 っ て い る 旨 述
べた。
〔乙23〕
ウ
同 年 1 0 月 9 日 、 Y 2と X 2と の 間 で 、 以 下 の よ う な や り 取 り が な さ れ
た。
(ア) Y 2 は 、 X 2 に 対 し 、 講 師 会 合 は 音 楽 教 室 講 師 と し て 登 録 し て い る 講
師のみを対象とした会合とするよう九州支社から指示が来たため、同
年11月からの講師会合には出席しなくてよいこと、文書等がある場
合 は 会 社 か ら 郵 送 す る こ と 、 X 2が 提 出 す る 必 要 が あ る も の に つ い て
は 会 社 か ら送 る 封 筒 で 返 信 す れば よ い こ と を 伝 え た。
〔乙23〕
(イ) X 2 が 、 音 楽 教 室 講 師 と し て 登 録 さ れ な い こ と の 趣 旨 に つ い て 問 う
た と こ ろ 、 Y 2は 、 X 2を 講 師 研 究 会 に 所 属 し な い そ の 他 講 師 と し て の
登 録 に 変 更し た が 、 仕 事 の 内 容に つ い て は 変 更 は ない 旨 述 べ た 。
〔乙23〕
(ウ) X 2 が 、 無 料 の 研 修 に は 参 加 し た い 旨 述 べ る と 、 Y 2 は 、 任 意 で 参 加
し て 構 わ ない 旨 述 べ た 。
〔乙23〕
(エ) Y 2 が 、 X 2 に 対 し 、 同 年 9 月 1 6 日 に 実 施 し た 研 修 を 有 料 と 認 識 し
ていたか否かを問い、もしも無料と認識していた場合は返金を行う旨
述 べ た と こ ろ 、 X 2は 、 有 料 研 修 で あ る こ と は 知 っ て い た が 、 そ の よ
う な 話 は 組合 を 通 し て も ら わ ない と 困 る 旨 述 べ た 。
〔乙23〕
(オ) Y 2 は 、 X 2 に 対 し 、 同 年 9 月 1 6 日 に 実 施 し た 研 修 に 係 る 受 講 料 は
返 金 す る 旨述 べ た 。
〔乙23〕
エ
平 成 2 0 年 4 月 以 降 同 年 9 月 ま で の 間 、 X 2 は 、 前 記 (1)キ の 有 料 研 修
を含め、同年5月に実施された有料研修や数回の無料研修を受講し、同
- 18 -
年 1 0 月 以 降は 、 1 1 月 に 実 施 され た 無 料 研 修 を 1 回受 講 し た 。
〔 乙 1 1 の 2、 乙 1 3 の 1 1 ~ 29 〕
オ
会 社 は 、 組 合 に 対 し 、 同 年 1 0 月 3 0 日 付 け 文 書 で 、 X 2と の 契 約 は
委任契約であり団体交渉には応じられないが、話合いには応じる旨回答
した。
〔甲5〕
カ
同 年 1 1 月 、 X 2が 担 当 し て い た 筑 紫 野 ベ レ ッ サ 教 室 の 生 徒 の う ち 1
名 が 退 学 し た が 、 Y 2は 、 X 2に 対 し て 生 徒 の 退 学 理 由 等 に 関 す る 事 実 確
認 や 指 導 は 行わ な か っ た 。
〔 乙 2 3 、 審③ Y 2 証 人 〕
(3) 1 回 目 の 話 合い
ア
同年11月20日、組合と会社は、1回目の話合いを行い、組合側は
X 2 を 含 む 組合 員 9 名 、会 社 側 は九 州 支 社 統 括 課 長 Y 6( 以 下「 Y 6 課 長 」
と い う 。)、 同 社 地 域 政 策 推 進 室 の 音 楽 教 室 担 当 課 長 Y 7 ( 以 下 「 Y 7 課
長 」 と い う。) 及 び Y 5 主 事 が 出 席し た 。
〔 甲 1 6 、 甲1 8 、 乙 2 6 の 1 〕
イ
この話合いにおいて、組合は、会社の講師の場合、①業務の依頼に対
する諾否の自由がないこと、②レッスンは会社が作成した楽譜をはじめ
とする教材に沿って行われるなど、講師が会社による一般的な指揮命令
下で業務に従事していること、③レッスンの拘束時間や教室の場所等が
会社の指定で決まること、④講師間でレッスンを交代する際は会社に申
し出る必要があるなど、労務提供に代替性が認められていないこと、⑤
会社の指定した有料のグレードテストが報酬額に反映されることなどか
ら、講師の勤務実態は委任契約になじむものではなく、雇用契約である
べ き 旨 を 主 張し た 。
〔 甲 1 8 、 乙2 6 の 1 〕
ウ
これに対し、会社は、①業務の依頼に対する諾否の自由はあること、
②会社の指定した教科書を使用することは、業務の内容上必要であるこ
と、③レッスンの時間や教室の場所は生徒の希望で決まること、④講師
間のレッスン交代について会社へ申し出ることとしているのは、源泉徴
収の上で必要なためであること、⑤グレードテストは指導のために必要
な知識、技量を計るためのものであり、また、その受験は任意であるこ
- 19 -
と な ど か ら 、委 任 契 約 は 正 当 で ある 旨 主 張 し た 。
〔 甲 1 8 、 乙2 6 の 1 〕
エ
この話合いの際、組合が、講師が契約更新を希望した場合の対応を質
問 し た と こ ろ 、 Y 7課 長 は 、 講 師 に 改 善 す べ き 点 が な い 場 合 に は ほ ぼ 更
新され、改善すべき点がある場合には面接を行った上で契約の方向性を
決 め る 旨 回 答し た 。
〔 甲 1 8 、 乙2 6 の 1 〕
オ
ま た 、 Y 6課 長 は 、 X 2の 組 合 加 入 が 契 約 更 新 等 に 不 利 益 な 影 響 を 及 ぼ
す こ と は な い旨 述 べ た 。
〔甲18〕
(4) 契 約 不 更 新 を示 唆 す る 通 知
ア
組合は、同年12月18日付けで、①会社のいう話合いは実質上団体
交渉であること、②講師の委任契約の雇用契約への変更、③グレード制
度 の 廃 止 及 び 経 験 に 応 じ た 合 理 的 な 昇 給 体 系 の 整 備 、 ④ 来 期 の X 2の 労
働 条 件 を 議 題と す る 2 回 目 の 団 体交 渉 要 求 書 を 会 社 に提 出 し た 。
〔甲6〕
イ
会社は、組合に対し、平成21年1月24日付け文書で、①団体交渉
は受けないが話合いは受けること、②講師の実態は委任契約として適法
なものと考えられること、③グレード制度は、講師にとっても合理的な
制 度 と 考 え ら れ る こ と 、 ④ X 2と の 契 約 更 新 は 、 現 在 の 契 約 を 委 任 契 約
と認め、更新後も同契約を雇用契約にせよという要求はしないというこ
と が 前 提 と な る が 、 X 2の 生 徒 へ の 対 応 等 を 聞 き 及 ん だ 限 り で は 契 約 更
新 は 困 難 と 思 わ れ る こ と 、 ま た 、 契 約 更 新 に つ い て は X 2と 面 談 し 、 所
定 の 手 続 を 経た 上 で 決 定 す る こ とを 回 答 し た 。
〔甲7〕
ウ
平 成 2 1 年 1 月 2 6 日 、 組 合 は 、 会 社 へ の 電 話 連 絡 に よ り 、 X 2と の
契約を更新しないことを示唆する回答は不当であると主張し、改めて協
議 を 求 め る とと も に 、 X 2 と の 面接 を 実 施 す る よ う 求 め た 。
〔 甲 1 5 、 甲1 7 〕
(5) X 2 に 対 す る面 接
ア
会社では、講師との契約を更新するか否かについて、会社の各地区の
カ ワ イ 音 楽 教室 担 当 者 が 、 講 師 との 面 接 を 行 っ た 上 で判 断 し て い る 。
- 20 -
〔 甲 1 8 、 乙2 6 の 1 、 審 ③ Y 7 証 人 〕
同 年 1 月 30 日 、Y 3 課 長 、Y 2 及 び Y 4 講 師 と X 2 との 面 接 が 行 わ れ た 。
イ
〔 甲 1 5 、 乙2 3 〕
Y 2ら は 、 X 2に 対 し 、 来 期 の 契 約 更 新 を 希 望 す る か を 尋 ね 、 X 2は 、
ウ
希 望 す る 旨 答え た 。そ の 後 、Y 2 ら は 、X 2 に 対 し、① み か さ 幼 稚 園 か ら 、
オルガンの片付け方が悪かったことや園児のカスタネットを勝手に使用
した後ピアノの上に置きっぱなしにしていたことについて苦情があった
こと、②受け持っていた生徒が退学したこと、③体験レッスンの生徒獲
得 率 が 3 割 程度 で あ っ た こ と に つい て 指 摘 し た 。
〔 甲 1 5 、 乙2 3 、 審 ① X 2 証 人〕
Y 2は 、 X 2が 研 修 等 に 参 加 す る こ と が 少 な か っ た こ と か ら 、 X 2に 対
エ
し、社外で一般に行われている研修会や大学の講座などを受講している
か を 問 う た とこ ろ 、 X 2 は 、 受 講し て い な い 旨 述 べ た 。
〔 乙 2 3 、 審③ Y 2 証 人 〕
(6) 2 回 目 の 話 合い
ア
同年1月31日、組合と会社は、2回目の話合いを行い、会社側は、
Y 6 課 長 、 Y 7 課 長 及 び Y 5 主 事 が出 席 し た 。
〔 甲 1 9 、 乙2 6 の 2 〕
イ
組合が、契約更新の判断を行う者はだれかについて尋ねたところ、Y
7
課 長 は 、 X 2を 面 接 し た 福 岡 事 務 所 の 担 当 者 が 判 断 す る 旨 回 答 し た 。 ま
た、組合が、1月24日付け文書の内容はだれが決定したのか問うたと
こ ろ 、 Y 6課 長 及 び Y 7課 長 は 、 九 州 支 社 長 及 び 本 社 の 判 断 を 踏 ま え て 文
書 を 作 成 し た旨 回 答 し た 。
〔 甲 1 9 、 乙2 6 の 2 〕
(7) 3 回 目 の 話 合い
ア
同年2月13日、組合と会社は、3回目の話合いを行った。この話合
い に 、 会 社 側 は 、 Y 6課 長 、 Y 7課 長 、 Y 5主 事 に 加 え 、 会 社 の Y 8関 西 副
支 社 長 ( 機 構 改 革 前 の 九 州 支 社 長 。 以 下 「 Y 8 支 社 長 」 と い う 。) が 出
席 し 、 Y 8支 社 長 は 、 X 2と の 契 約 更 新 に 係 る 判 断 の 最 終 責 任 者 は 自 身 で
あ る 旨 述 べ た。
〔 甲 2 0 、 乙2 6 の 3 〕
イ
Y 8支 社 長 は 、 X 2の 1 年 間 を 通 じ た 業 務 内 容 を み た 上 で 総 合 的 な 判 断
- 21 -
を 行 っ た 旨 述 べ 、「 こ れ か ら 契 約 更 新 は で き ま せ ん と い う 文 書 を 出 す 予
定 で あ る 」 と述 べ た 。
〔 甲 2 0 、 乙2 6 の 3 〕
ウ
組 合 が X 2と の 契 約 を 更 新 し な い と の 判 断 に 至 っ た 具 体 的 な 理 由 を 問
う と 、 会 社 は 、 ① X 2が 担 当 し て い た 幼 稚 園 か ら 苦 情 が あ っ た こ と 、 ②
体 験 レ ッ ス ン に つ い て 、 通 常 受 講 者 の 8 割 ぐ ら い は 入 学 す る が 、 X 2の
場合、11名のうち4名しか入学しないなど、生徒獲得率が低いこと、
③ 生 徒 の レ ッ ス ン へ の 出 席 率 が 低 い こ と 、 ④ X 2が 研 修 に 出 席 し な い な
ど 、 技 量 を 高め る 努 力 が 認 め ら れな か っ た こ と な ど を挙 げ た 。
〔 甲 2 0 、 乙2 6 の 3 〕
エ
組合は、①幼稚園からの苦情については、契約書取り交わし以前のこ
と で あ り 、本 件 不 更 新の 理 由 と な ら な い こと 、② 生 徒獲 得 率 に つ い て は 、
講師の資質に本質的な原因があるとはいえないこと、③出席率について
は 、 他 の 講 師 に 比 し て 、 X 2の 担 当 す る 生 徒 の 出 席 率 が 著 し く 低 い と い
う事実は認められないこと、④会社の指示ないし要請によって技量を高
める努力が求められるということは、委任契約であるとする会社の主張
と矛盾することなど、会社の挙げる契約不更新の理由にはいずれも正当
性 は な い 旨 主張 し た 。
〔 甲 2 0 、 乙2 6 の 3 〕
オ
Y 8支 社 長 は 、 話 合 い は こ れ で 最 後 に し た い 旨 申 し 述 べ る 一 方 、 双 方
の主張に対立があることから、金銭による解決はできないか、組合に打
診した。
〔 甲 2 0 、 乙2 6 の 3 〕
カ
組合は、たとえ金銭解決の場合であっても、再度話合いを行うことを
求 め た が 、 Y 8支 社 長 は 、 今 後 は 話 合 い を 行 う つ も り は な く 、 金 額 の 調
整 に つ い て のみ 、 連 絡 に 応 じ る 旨述 べ た 。
〔 甲 2 0 、 乙2 6 の 3 〕
(8) 会 社 か ら の 契約 不 更 新 通 知 及 び 話合 い の 拒 否
ア
平成21年2月14日付け文書で、会社は、契約の更新を見合わせる
旨 X 2 に 通 知し た 。
〔甲9〕
イ
講師が契約の更新を希望したにもかかわらず会社が契約を不更新とし
- 22 -
た事例は、以下のとおり、平成18年度から20年度の間に、全国で9
件 あ っ た が 、福 岡 地 区 で は X 2 のみ で あ っ た 。
(ア) 講 師 会 合の 度 重 な る 無 断 欠 席及 び そ の 他 素 行 不 良に よ る も の( 埼 玉)
(イ) 講 師 会 合の 度 重 な る 無 断 欠 席及 び 受 任 業 務 の 放 棄に よ る も の( 埼 玉)
(ウ) 多 数 の 生 徒 が 退 学 し た が 、 指 導 に よ っ て も 改 善 し な か っ た こ と に よ
る も の ( 静岡 )
(エ) 週 3 日 の稼 働 日 数 が 困 難 で あっ た こ と に よ る も の( 京 都 )
(オ) 契 約 年 齢限 度 の 6 5 歳 に 達 した こ と に よ る も の (東 京 )
(カ) 講 師 会 合 及 び 研 修 の 度 重 な る 無 断 欠 席 並 び に 本 人 と 音 信 不 通 に な っ
た こ と に よる も の ( 三 重 )
(キ) 生 徒 の 月謝 を 横 領 し た こ と によ る も の ( 北 海 道 )
(ク) レ ッ ス ン を 無 断 欠 席 し 、 振 替 で 設 定 し た レ ッ ス ン も 無 断 で 遅 刻 し た
こ と に よ るも の ( 北 陸 )
(ケ) 同 業 他 社 と の 契 約 を 内 緒 で 進 め 、 同 社 の 研 修 に 参 加 し た こ と に よ る
も の ( 秋 田)
〔乙24〕
ウ
同 年 2 月 2 4 日 、 組 合 は 、 X 2と の 契 約 不 更 新 を 議 題 と す る 団 体 交 渉
要 求 書 を 会 社へ 送 付 し た 。
〔甲10〕
エ
同年2月26日付け文書で、会社は、組合に対し、団体交渉にも話合
い に も 応 じ ない 旨 回 答 し た 。
〔甲11〕
オ
同年3月5日、組合は、団体交渉の開催と雇用契約の締結を求めて当
委員会にあっせんを申請し、同月19日にあっせんが行われたが、不調
に終わった。
第3
1
判 断 及 び 法 律 上の 根 拠
X 2 の 労 働 者 性に つ い て
(1) 申 立 人 の 主 張
労組法上の労働者には、請負、委任ないし準委任契約によって業務を遂
行する者であっても、以下のように企業との関係性において従属的地位に
あ る と 認 め ら れる 者 が 含 ま れ る 。
- 23 -
ア
報 酬 の 決 定方 法 と 労 務 対 価 性
講師の報酬は、グレード取得級に応じた歩合給で支払われ、この額は
会社が一方的に決定するものであり、講師と会社との間に協議の余地は
全くない。また、1回当たりのレッスン時間も会社が決めており、報酬
は 、 一 定 時 間の 労 務 の 提 供 へ の 対価 と 認 め ら れ る 。
イ
契 約 内 容 の一 方 的 決 定
講師は、会社が作成した委任契約書に署名捺印をするか否かの自由し
か 有 せ ず 、 その 契 約 内 容 は 、 会 社が 一 方 的 に 決 定 し てい る 。
ウ
会 社 組 織 への 組 込 み
講師は、講師なくしてはその事業遂行が困難なカワイ音楽教室のため
に 、会 社 が そ の 合 否 を一 方 的 に 決 定 す る 採用 試 験 に よ り 採 用 さ れ 、ま た 、
業務中、会社所定の身分証の携行を義務付けられるなど、会社組織に組
み 込 ま れ て いる 。
エ
業 務 遂 行 上の 指 揮 監 督
講師は、会社が用意した教材を会社が定める指導書に沿って用い、レ
ッスンを行っている。また、講師は、業務を開始する前に採用事前研修
を受けなければならず、業務開始後も、無料研修、有料研修、有料レッ
スンの受講を求められるなど、生徒に対して行うレッスンの方法につい
て 、 会 社 の 指揮 監 督 を 受 け て い る。
なお、レッスンの方法について講師の裁量に委ねられる部分があると
しても、これは、雇用契約下においても当然に認められるものである。
オ
業 務 依 頼 に対 す る 諾 否 の 自 由
講師は、業務依頼を断ればその分の報酬が減るため、実態として、会
社 か ら の 業 務依 頼 を 断 る の は 例 外的 で あ る 。
なお、使用者が、労務提供者に対し、労務提供の日時や場所等の希望
を聴取することは、雇用契約下においてもなされることであり、諾否の
自 由 と は 関 係が な い 。
カ
時 間 的 ・ 場所 的 拘 束 性
会社は、事前に講師の希望は聴取するものの、担当教室を会社の基準
で決定している。また、会社は、講師の自宅でのカワイ音楽教室の開催
を 認 め て お らず 、 労 務 提 供 の 時 間的 ・ 場 所 的 拘 束 性 が存 す る 。
キ
専 属 的 拘 束性
- 24 -
会社が講師との契約を更新しなかった例として、同業他社との契約を
内緒で進め研修にも参加したため、とするものがあり、講師と会社との
間 に は 専 属 的拘 束 性 が 存 す る 。
ク
労 務 提 供 の代 替 性
会社は、講師同士が自主的にレッスンの担当を交代することを認めて
お ら ず 、 労 務提 供 の 代 替 性 は な い。
以上、会社と講師との間には使用従属関係が認められ、講師であるX
2
の 労 働 者 性は 明 白 で あ る 。
(2) 被 申 立 人 の 主張
労組法上の労働者とは、基本的に雇用契約関係下にある者をいうが、雇
用契約に準ずる程度の労務供給契約関係下にあるものもこれに当たり、具
体 的 に は 、 以 下の よ う な 点 を 総 合 勘案 し て 判 断 す べ き であ る 。
ア
報 酬 の 決 定方 法 と 労 務 対 価 性
講師の報酬は、グレード取得級に応じた歩合制であるが、これは多数
の 講 師 間 の 平 等 を 確 保 す る 点 か ら 合 理 的 で あ る 。 ま た 、 X 2の 報 酬 は 、
月 額 2 ~ 3 万円 程 度 で あ り 、 一 般の 賃 金 と 同 視 し 得 るも の で は な い 。
イ
契 約 内 容 の一 方 的 決 定
これまで、講師から契約内容を個別に変更してほしいとの申入れがあ
ったことはないが、講師からの申出があれば、契約内容の変更は可能で
ある。
ウ
会 社 組 織 への 組 込 み
講師は会社所定の身分証を携行するが、そのことをもって、会社が講
師 を 会 社 組 織の 一 員 と し て 扱 っ てい る こ と に は な ら ない 。
エ
業 務 遂 行 上の 指 揮 監 督
講師は、カワイ音楽教室における教育指導業務を行うのであるから、
会社が用意した教材や方法でレッスンを行う必要があることは、業務の
性質上当然である。しかしながら、研修あるいは指導書はあるものの、
個 々 の 生 徒 に対 す る レ ッ ス ン の 方法 は 講 師 の 裁 量 に 委ね ら れ て い る 。
オ
業 務 依 頼 に対 す る 諾 否 の 自 由
会社は、事前に講師から聴取した稼働可能な日時や場所を考慮して担
当 教 室 を 決 定し て お り、講 師 は 、業 務 依 頼 に 対 す る 諾否 の 自 由 を 有 す る 。
また、講師は、他の仕事に就いて収入を確保している者が大半であり、
- 25 -
業 務 依 頼 を 断る か 否 か は 、 講 師 の自 主 的 な 判 断 に 委 ねら れ て い る 。
カ
時 間 的 ・ 場所 的 拘 束 性
レッスンは、生徒の希望する場所や時間に応じて行うため、講師の労
務 提 供 の 場 所や 時 間 は 自 ず と 決 定さ れ る 。し か し 、会 社 は 、講 師 に 対 し 、
稼働可能な日時や場所を聴取しており、担当教室を一方的に決定してい
る も の で は ない 。
キ
専 属 的 拘 束性
X 2の 労 務 提 供 は 週 に 2 日 で あ り 、 ま た 、 報 酬 も 月 額 2 ~ 3 万 円 で あ
ったことから、他で就労していたと考えられ、労務提供が専属的ではな
い こ と は 明 らか で あ る 。
ク
労 務 提 供 の代 替 性
ピアノ講師という業務の特性から、その労務提供を一般の人が代わっ
て行うことはできないが、カワイ音楽教室の講師が代わって行うことは
許 さ れ て お り、 代 替 性 が な い わ けで は な い 。
以 上 を 総 合 考 慮 す れ ば 、 講 師 で あ る X 2は 、 労 組 法 上 の 労 働 者 と い え
な い こ と は 明ら か で あ る 。
(3) 当 委 員 会 の 判断
ア
労 組 法 3 条の 労 働 者 に つ い て
本 件 に お い て 、 被 申 立 人 は 、 X 2が 労 組 法 上 の 労 働 者 に 当 た ら な い 旨
主 張 す る た め、 ま ず こ の 点 に つ いて 検 討 す る 。
労 組 法 は、そ の 3 条 に お い て、労 働 者 を「 職 業 の 種 類 を 問 わ ず 、賃 金 、
給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と規定する。すなわ
ち、労組法上の労働者とは、提供する労務の対価として報酬の支払いを
受けるべき地位にある者であり、このことからすれば、その労務供給に
係る契約形態が雇用、請負、委任等のいずれであるかが問われるもので
はない。
以 下 、講 師 と 会 社 と の 契 約 の 内 容 等 及 び そ の 決 定 方 法 に つ い て 検 討 し、
X 2 が 労 組 法3 条 の 労 働 者 に 当 たる か に つ い て 判 断 す る 。
(ア) は じ め に 、 講 師 と 会 社 と の 契 約 の 内 容 及 び 業 務 の 実 態 か ら 、 報 酬 が
労 務 の 対 価と い え る か に つ い て検 討 す る 。
まず、別紙委任契約書3条1項1号に定める内容及び前記第2の4
(3)ア (ア)に 認 定 の 事 実 か ら す れ ば 、 講 師 の 行 う 教 育 指 導 業 務 は 、 会 社
- 26 -
が定めた年間のレッスン回数及び1回当たりの時間に応じた労務を提
供 す る も のと い え る 。
次に、別紙委任契約書5条1項1号及び3項に定める内容並びに前
記 第 2 の 4 (3)オ (ア)な い し (エ)に 認 定 の 事 実 に よ れ ば 、 講 師 の 教 育 指
導 業 務 に 対す る 報 酬 は 、講 師 の グ レ ー ド 取 得 級 に 応 じ た 歩 合 給 で あ り、
また、その歩合給は、同一のレッスンを行った場合でもグレード取得
級により額が異なることが認められる。なお、会社は、グレードテス
ト以外の方法により講師の演奏能力や指導能力を認定して歩合額を増
額 さ せ る こと は な い 。
また、会社は、講師に対するこれらの報酬を月ごとに支払っている
( 別 紙 委 任契 約 書 5 条 2 項 及 び前 記 第 2 の 4 (3)オ (キ))。
以上からすると、会社は、会社が定めた回数及び時間に則って講師
に労務を提供させ、会社の認定によるグレード取得級に応じた歩合額
を、その月ごとに支払うのであるから、講師の行う教育指導業務に対
す る 報 酬 は、 講 師 の 提 供 し た 労務 の 対 価 で あ る と いえ る 。
な お 、 被 申 立 人 は 、 X 2の 報 酬 が 月 額 2 ~ 3 万 円 程 度 で あ る こ と か
ら一般の賃金と同視し得るものではない旨主張するが、その金額の多
寡によって労務対価性が左右されるものではないのであるから、被申
立 人 の 主 張は 認 め ら れ な い 。
(イ) つ づ い て 、 上 記 (ア)の 内 容 を 含 む 契 約 が 、 講 師 と 会 社 と の 間 で ど の
よ う に 決 定さ れ て い る か に つ いて 検 討 す る 。
講師と会社が取り交わす契約書は、すべての講師との契約に使用さ
れ る 会 社 作 成 の 定 型 化 さ れ た 様 式 で あ る ( 前 記 第 2 の 4 (1)イ )。 こ
の点について、被申立人は、講師から契約内容を個別に変更してほし
いとの申入れがあったことはないが、講師からの申出があれば、契約
内 容 の 変 更は 可 能 で あ る 旨 主 張す る。し か し な が ら、前 記 第 2 の 4 (1)
イに認定のとおり、会社は、講師に対して別紙委任契約書の内容を変
更することが可能であるとの説明を行ったことはなく、また、仮に、
講師から個別的な契約内容の変更の申入れがあったとしても、講師の
報酬に係る条項についての内容変更に応じることはないとみられる
( 審 ③ Y 7証 人 ) の で あ る か ら 、 契 約 内 容 の 変 更 は 可 能 で あ る と の 被
申 立 人 の 主張 は 認 め 難 い 。
- 27 -
さ ら に 、 前 記 第 2 の 4 (1)ア で 認 定 し た と お り 、 当 該 年 度 に 契 約 を
締結する全講師約100名が集められた場において、会社担当者が別
紙委任契約書の全文を読み上げた後、講師は署名捺印を求められたの
であるから、会社は、講師から個別的な契約内容の変更申入れがある
ことを前提に契約書の取り交わしの場を設定しているとは到底考えら
れない。
以上のことから、講師と会社との契約内容は、会社が一方的に決定
し た も の とい え る 。
(ウ) 小 括
以 上 の こ と か ら す れ ば 、 講 師 す な わ ち X 2は 、 会 社 が 運 営 す る カ ワ
イ音楽教室において労務を提供し、その対価として、会社が一方的に
決定及び計算した報酬を得る立場にあったのであるから、労組法3条
の 労 働 者 に当 た る 。
し か し 、 労 組 法 3 条 の 労 働 者 に 当 た る か ら と い っ て 、 当 然 に X 2が
使 用 者 の 「 雇 用 す る 労 働 者 」( 労 組 法 7 条 2 号 ) で あ る と は い え な い
こ と か ら 、こ の 点 に つ き 別 途 検討 す る 。
イ
労 組 法 7 条2 号 の 「 雇 用 す る 労働 者 」 に つ い て
X 2が 労 組 法 3 条 に い う 労 働 者 で あ る と し て も 、 そ の 所 属 す る 労 働 組
合との関係で、使用者に団体交渉義務を課すには、団体交渉を申し入れ
た労働組合が、使用者の「雇用する労働者」を代表する組織であること
が 必 要 で あ る ( 労 組 法 7 条 2 号 )。 そ こ で 、 X 2 が 会 社 と し て 団 体 交 渉
義 務 を 負 う べき 「 雇 用 す る 労 働 者」 と い え る か 、 別 途検 討 す る 。
労組法7条2号にいう「雇用する」とは、労働組合による団体交渉を
助成・促進する労組法の保護を及ぼすことが必要ないし適切と認められ
る 最 も 典 型 的な 関 係 性 と し て 示 され て い る も の と 解 され る 。し た が っ て、
たとえ、委任、請負その他の労務供給契約に基づいて労務供給を行う者
であっても、使用者との関係性の諸要素を検討した結果、団体交渉の助
成・促進による保護を及ぼすべき必要性ないし適切性が認められれば、
労 組 法 7 条 2号 の 「 雇 用 す る 労 働者 」 に 当 た る と い える 。
以 下 、 本 件に つ い て 検 討 す る 。
(ア) 報 酬 の 決定 方 法 と 労 務 対 価 性
前 記 ア (ア)に お い て 判 断 し た と お り 、 講 師 の 教 育 指 導 業 務 に 対 す る
- 28 -
報酬は、労務の対価といえるものであり、また、その支払額は、会社
の 基 準 に より 決 定 さ れ る も の であ る 。
(イ) 契 約 内 容の 一 方 的 決 定
前 記 ア (イ)に お い て 判 断 し た と お り 、 講 師 と 会 社 と の 契 約 内 容 は 、
会 社 が 一 方的 に 決 定 し て い る とい え る 。
(ウ) 会 社 組 織へ の 組 込 み に つ い て
申立人は、講師なくしてはカワイ音楽教室の事業遂行が困難である
がために、会社はその合否を一方的に決定する採用試験を行って講師
を採用しているのであって、講師は会社組織に組み込まれている旨主
張する。
前 記 第 2 の 2 (4)及 び (6)に 認 定 の 事 実 に よ れ ば 、 会 社 の 福 岡 地 区 で
は約90箇所のカワイ音楽教室があり、当該カワイ音楽教室で行われ
るレッスンは、すべて、講師が担当することが認められる。これらの
事実からみれば、会社の音楽普及教育事業を遂行する上で、講師が必
要 不 可 欠 であ る こ と は 明 ら か であ る 。
そ し て 、 講 師 の 採 用 手 続 は 、 前 記 第 2 の 3 (2)で 認 定 し た と お り 、
採用試験におけるピアノ実技等や面接を通じて、会社が求める技量を
有し、かつ、低額な講師報酬であっても中途で労務供給を辞すること
のない者を選考するのであるから、先に述べた事業遂行上不可欠な講
師の絶対数を、恒常的に確保しようとするものであると認められる。
ま た 、 前 記 第 2 の 4 (3)ア (カ)に 認 定 の と お り 、 会 社 は 、 講 師 に 会 社
所定の身分証明書を携行させており、このことからみれば、会社が顧
客との対外的関係では、講師を会社組織の一員として取り扱っている
も の と 認 めら れ る 。
さらに、後述のとおり、講師は、新規生徒の獲得や楽器の販売協力
についても具体的な数値を掲げて目標を達成するよう会社から指示を
受けていることからすれば、教育指導業務のみならず営業活動の面に
お い て も 重要 な 役 割 を 果 た す こと を 期 待 さ れ て い たと い え る 。
以上のことから、講師は、会社の事業遂行に不可欠な労働力として
会 社 組 織 に組 み 込 ま れ て い る と判 断 さ れ る 。
(エ) 業 務 遂 行上 の 指 揮 監 督
申立人は、講師が、会社の定める指導書に沿って会社の作成した教
- 29 -
材 を 用 い てレ ッ ス ン を 行 っ て いる こ と 、ま た、講 師 が 、採 用 事 前 研 修 、
無料研修、有料研修及び有料レッスンの受講を求められることから、
生徒に対して行うレッスンの方法について、会社の指揮監督を受けて
い る 旨 主 張す る 。
一方、被申立人は、講師が、会社の用意した教材や方法でレッスン
を行う必要があるのは業務の性質上当然であること、また、レッスン
に関して研修あるいは指導書はあるものの、個々の生徒に対するレッ
スンの方法は講師の裁量に委ねられていることから、会社の指揮監督
は な い 旨 主張 す る 。
たしかに、講師が行うカワイ音楽教室のレッスンは、会社が開発し
た カ ワ イ 音 楽 教 育 シ ス テ ム ( 前 記 第 2 の 2 (2)) に 則 っ た も の で あ る
から、会社が用意した教材や方法を用いてレッスンを行うことは、業
務の性質上、当然といえなくもない。その一方で、レッスンの進度が
遅い生徒に対しては予定された教材以外の教材を用いることもある
( 前 記 第 2 の 4 (3)ア (エ)) な ど 、 講 師 は 、 一 定 の 裁 量 を 有 し て い る よ
う に も 認 めら れ る 。
しかしながら、レッスンの方法に関して、会社は、講師に対し、教
材の進め方に係る指導書に沿ったレッスンを行うよう求め(前記第2
の 4 (3)ア (エ))、 無 料 研 修 の 出 席 を 促 し ( 前 記 第 2 の 4 (3)エ (イ))、
有料研修については特に申出がない限り出席するものとし(前記第2
の 4 (3)エ (ウ))、 有 料 レ ッ ス ン に つ い て は 新 規 に 講 師 と な っ た 者 に は
受 講 を 求 め る ( 前 記 第 2 の 4 (3)エ (エ)) な ど 、 詳 細 に 定 め ら れ た 手 順
どおりにレッスンを遂行できるよう、研修等をシステム化しているこ
とが認められる。会社がこのような枠組みの下に講師を置くのは、講
師がその経験等から個々にカワイ音楽教育システムの理念を理解し、
レッスンを行うことを期待することよりも、むしろ、会社組織に組み
込んだ講師が行うレッスンの質ないし水準を一定程度以上に維持する
ことを目的としていると考えられる。そして、このように、講師が行
うレッスンの質ないし水準を一定程度以上に維持するのは、会社が顧
客との関係において、講師が行うレッスンについて責任を負い、その
信用を維持すべき立場にあるためと考えられるのである。このことか
らすれば、講師は、レッスンを自らの裁量で自由に行う立場にあった
- 30 -
と は い え ず、 会 社 の 指 揮 監 督 を受 け て い る と い え る。
このほかにも、講師は、毎月1回開かれる会社主催の講師会合にお
いて、会社の音楽教室担当者から連絡事項として、新規の生徒を獲得
することや楽器販売に協力することを講師に求めた文書の配付を受け
て い る ( 前 記 第 2 の 4 (3)ウ )。 し か も 当 該 文 書 に 講 師 一 人 当 た り の
目標として、新規入学生徒の人数や楽器の紹介台数について具体的な
数値が記載されていることからすれば、講師は、会社からその目標を
達成するよう指示を受けていると解するのが自然である。また、講師
は、会社内の連絡網である電子メールにより、当月と翌月の入学者及
び当該生徒の所有楽器や調律希望等の情報を毎週会社に報告している
( 前 記 第 2 の 4 (3)イ (イ)b )。 こ れ ら の こ と か ら す れ ば 、 講 師 は 、 教
育指導業務のみならず、新規入学生徒の獲得や楽器の販売促進を行う
という会社の営業活動の面においても、重要な役割を果たすことを会
社 か ら 期 待さ れ 、 そ の た め に 指揮 監 督 を 受 け て い るも の と い え る 。
以上のことからすれば、講師は、生徒に対して行うレッスンの方法
を 含 む 業 務遂 行 全 般 に つ い て 、会 社 の 指 揮 監 督 を 受 け て い る と い え る。
(オ) 業 務 依 頼に 対 す る 諾 否 の 自 由
申立人は、講師が会社からの業務依頼を断るのは例外的であり、講
師 は 業 務 依頼 に 対 す る 諾 否 の 自由 を 有 し な い 旨 主 張す る 。
一方、被申立人は、講師の担当教室の決定に際し、事前に講師から
聴取した稼働可能な日時や場所を考慮して担当教室を決定しているこ
と、また、講師は他の仕事に就いて収入を確保している人が大半であ
り、業務依頼を断るか否かは講師の自主的な判断に委ねられているこ
とから、講師は、業務依頼に対する諾否の自由を有する旨主張する。
そこで、講師が会社からの業務依頼を断った例についてみると、前
記 第 2 の 4(2)カ に 認 定 の と おり 、平 成 19 年 度 に 講 師 7 6 名 中 1 名、
平成20年度に講師76名中5名であり、確かに少数であることが認
められる。しかしながら、これは、被申立人が主張するとおり、会社
が事前に聴取した講師の希望を基に担当教室を決定している(前記第
2 の 4 (2)ア な い し オ ) た め と 考 え ら れ 、 会 社 か ら の 教 室 担 当 依 頼 を
断った講師が少ないからといって、講師に諾否の自由がないとは断じ
難い。
- 31 -
一 方 、 前 記 第 2 の 3 (3)ア (ア)に 認 定 の と お り 、 会 社 が 、 退 職 す る 講
師の後任を契約中の講師に依頼したところ、いずれも断られ、採用試
験 に お い て 非 選 考 で あ っ た X 2に 後 任 を 依 頼 せ ざ る を 得 な く な っ た こ
とからすれば、講師がその個別の事情を理由に会社からの担当教室依
頼を断っている事実が認められる。だとすれば、会社は、講師が担当
す る 教 室 を一 方 的 に 決 定 す る 立場 に あ っ た と は い えな い 。
以上のことから、講師は、会社からの業務依頼に対する諾否の自由
が な い と はい え な い 。
(カ) 時 間 的 ・場 所 的 拘 束 性
申立人は、会社は事前に講師の希望は聴取するものの、担当教室を
会社の基準で決定しており、また、会社は講師の自宅での音楽教室の
開催を認めていないことから、労務提供の時間的・場所的拘束性が存
す る と 主 張す る 。
一方、被申立人は、カワイ音楽教室は生徒の希望する場所や時間に
応じて行うため、講師の労務提供の場所や時間は自ずと決定されるの
で あ り 、 労務 提 供 の 時 間 的 ・ 場所 的 拘 束 性 は 存 し ない 旨 主 張 す る 。
たしかに、カワイ音楽教室が、生徒の希望する教室において、その
希 望 す る 時 間 に 行 わ れ る ( 前 記 第 2 の 4 (3)ア (イ)) こ と は 、 被 申 立 人
の 主 張 の と お り で あ る 。 し か し 、 前 記 第 2 の 4 (2)ア な い し オ に 認 定
の と お り、会 社 は 、最 終 的 に は 担 当 教 室 を 会 社 の 基準 で 決 定 し て お り 、
その限りでは、講師に対して、業務の場所及び時間を拘束していると
いえる。
また、被申立人自らが主張するように、カワイ音楽教室の場所が生
徒の希望によるのであれば、講師の自宅でカワイ音楽教室を開催して
も何ら不都合を生じないと思われるにもかかわらず、会社は講師の自
宅 で の 音 楽 教 室 の 開 催 を 認 め て い な い ( 前 記 第 2 の 2 (5)) の で あ る
か ら 、 会 社の 意 向 と し て 、 場 所的 拘 束 性 は 強 い と いえ る 。
以上のことから、講師は、労務提供に関して、時間的・場所的拘束
を 受 け て いる と い え る 。
(キ) 専 属 的 拘束 性
申立人は、講師が同業他社との契約を内緒で進め研修にも参加した
ことを理由に、会社が講師との契約を更新しなかった例があり、講師
- 32 -
と 会 社 と の間 に は 専 属 的 拘 束 性が 存 す る 旨 主 張 す る。
たしかに、講師が同業他社との契約を内緒で進め研修にも参加した
ことを理由に会社が講師との契約を更新しなかった事実が認められる
が ( 前 記 第 2 の 6 (8)イ (ケ))、 そ の こ と を も っ て 直 ち に 、 当 該 不 更 新
が、講師が専属的に労務提供をしなかったことを理由になされたもの
と は 推 認 でき な い 。
むしろ、講師の多くが、カワイ音楽教室の講師以外の仕事にも就い
て毎月の収入を確保しており、講師の収入だけで生計を立てている講
師 は 九 州 地区 内 で 1 割 に 満 た ない と い う 事 実( 前 記 第 2 の 4 (3)オ (ケ))
か ら す れ ば、 講 師 の 専 属 的 拘 束性 の 程 度 は 低 い と いえ る 。
(ク) 労 務 提 供の 代 替 性
申立人は、会社が講師同士で自主的にレッスン担当を交代すること
を認めておらず、労務提供の代替性はない旨主張し、被申立人は、ピ
アノ講師という業務の特性から、その労務提供を一般の人が代わって
行うことはできないが、カワイ音楽教室の講師が代わって行うことは
許 さ れ て おり 、 代 替 性 が な い わけ で は な い 旨 主 張 する 。
まず、会社は、採用試験により選考した講師に業務を依頼すること
( 前 記 第 2 の 3 (2)) か ら 、 講 師 が 第 三 者 に 業 務 を 依 頼 す る こ と を 、
本 来 想 定 して い な い と 認 め ら れる 。
つぎに、会社は、講師が他の講師に業務を依頼すること自体は、会
社に事前に申し出て承諾を得さえすれば可能であるとするが、会社は
原則としてレッスンの日時を変更して対応するよう講師に求めてお
り、また、講師変更の申出がなされた例がほとんどないことからすれ
ば ( 前 記 第 2 の 4 (3)ア (ウ))、 講 師 が 自 由 に 他 の 講 師 に 業 務 を 依 頼 す
る こ と が 許さ れ て い る と は い い難 い 。
以上のことからすれば、その実態において、講師は自らその労務提
供 を 行 う こと を 求 め ら れ て お り、 代 替 性 が あ る と まで は い え な い 。
(ケ) 小 括
以上、講師は、カワイ音楽教室に専属的に拘束されているとはいえ
ず、また、業務依頼に対する諾否の自由がないとはいえない実態が認
められるとしても、労務対価である報酬が会社の基準で定められてい
ること、契約内容が会社の一方的決定となっていること、会社の事業
- 33 -
遂行に不可欠な労働力として会社組織に組み込まれていること、生徒
に対して行うレッスンの方法を含む業務遂行全般について会社の指揮
監督を受けていること、労務提供に関して時間的・場所的拘束を受け
ていること、労務提供に代替性があるとまではいえないことからみる
な ら ば 、 講 師 す な わ ち X 2は 、 会 社 と の 関 係 に お い て 、 団 体 交 渉 の 保
護 を 及 ぼ す必 要 性 な い し 適 切 性が 認 め ら れ 、労 組 法 7 条 2 号 に い う「 雇
用 す る 労 働者 」 に 当 た る 。
2
会 社 が 組 合 の 団体 交 渉 申 入 れ に 応 じな か っ た こ と に 、労 組 法 7 条 2 号 の「 正
当 な 理 由 」 が 認 めら れ る か
(1) 申 立 人 の 主 張
会 社 は 、 X 2と の 契 約 が 委 任 契 約 で あ る こ と を 理 由 に 、 組 合 と の 面 談 を
あ く ま で 話 合 いと 称 し 、 団 体 交 渉 を受 け た こ と は 一 度 もな い 。
ま た 、会 社 は、X 2 と の 契 約 不 更 新 に つ い て 説 明 を 尽 く し た と はい え ず 、
組合が平成21年2月24日付けで申し入れた団体交渉を正当な理由なく
拒否している。
(2) 被 申 立 人 の 主張
会 社 と X 2と の 契 約 は 、 準 委 任 契 約 で あ り 、 雇 用 契 約 が 存 在 し な い こ と
はいうまでもなく、そもそも労使関係が成立していないのであるから、申
立人は「雇用する労働者の代表者」に該当せず、組合が申し入れた団体交
渉に会社が応じなかったことは、労組法7条2号の団体交渉拒否には当た
らない。
(3) 当 委 員 会 の 判断
前 記 1 (3)イ で 判 断 し た と お り 、 X 2 は 、 労 組 法 7 条 2 号 に い う 「 雇 用 す
る労働者」に当たるのであるから、被申立人のいう、組合は「雇用する労
働者の代表者」ではなく、会社が団体交渉に応じなかったことは不当労働
行 為 に 当 た ら ない と の 主 張 は 認 め られ な い 。
ま た 、組 合 が 平 成 2 1 年 2 月 2 4 日 付 け で 申 し 入 れ た 団 体 交 渉 の 議 題 は、
X 2と の 契 約 の 不 更 新 に つ い て で あ り 、 こ れ は 、 労 働 者 で あ る X 2の 労 務 に
関する基本的事項に関わる問題であるから、義務的団交事項であることは
明らかである。
よって、組合が平成21年2月24日付けで申し入れた団体交渉につい
- 34 -
て、会社がこれに応じなかったことは、労組法7条2号の不当労働行為に
当たる。
3
会 社 が X 2と の 契 約 を 更 新 し な か っ た こ と は 、 労 組 法 7 条 1 号 の 「 不 利 益
な 取 扱 い 」 に 当 たる か
(1) 申 立 人 の 主 張
ア
会社は、話合いにおいて、講師に改善すべき点がない場合、契約はほ
ぼ 更 新 さ れ る 旨 述 べ た 。 に も か か わ ら ず 、 X 2と の 契 約 は 更 新 さ れ な か
った。また、平成18年度から平成20年度の間、福岡地区で、契約更
新 を 希 望 し な が ら 契 約 を 更 新 さ れ な か っ た 講 師 は 、 X 2の み で あ っ た 。
こ の こ と か ら み れ ば 、 会 社 が X 2と の 契 約 を 更 新 し な か っ た こ と は 、 組
合 員 排 除 を 目的 と し た も の と 考 えら れ る 。
イ
会 社 が 話 合 い に お い て 挙 げ た X 2と の 契 約 不 更 新 の 理 由 は 、 以 下 の と
お り 、 正 当 とは 認 め ら れ な い 。
(ア) 会 社 は 、 X 2 が 行 っ た レ ッ ス ン に 関 し 、 み か さ 幼 稚 園 か ら の 苦 情 が
あったとするが、その後、筑紫野ベレッサ教室の担当を依頼し、さら
に、平成21年4月以降の契約を締結していることからすれば、当該
苦 情 は 契 約不 更 新 の 理 由 と は なり え な い 。
(イ) 会 社 は 、 X 2 の レ ッ ス ン を 受 け て い た 生 徒 が レ ッ ス ン 内 容 に 不 満 を
持 ち 退 学 し た な ど と す る が 、 X 2は 、 生 徒 が 退 学 し た こ と に つ い て の
指 摘 を 受 けた こ と は な か っ た 。
(ウ) 会 社 は 、 X 2 が 研 修 を 受 け な か っ た こ と か ら 向 上 心 が な い と 判 断 し
たとする。しかし、組合が確認したところ、会社は、研修が任意であ
ると回答しており、研修を受けなかったことを契約不更新の理由とす
るのは矛盾している。結局、組合活動をしたことを理由として契約を
更新しなかったものと考えられるのであり、会社の不当労働行為意思
が 推 認 さ れる 。
ウ
講師との契約更新については、会社の現場担当者が実質的に判断する
と さ れ て い る 。 に も か か わ ら ず 、 X 2と の 契 約 不 更 新 に つ い て は 、 会 社
の福岡事務所のみならず、九州支社及び本社も判断に関わっている。こ
の よ う に 、 通 常 で は 考 え ら れ な い 対 応 を 行 っ た の は 、 X 2が 組 合 員 で あ
ったためと考えられ、組合員を排除しようという不当労働行為意思が働
- 35 -
い て い る も のと 考 え ら れ る 。
(2) 被 申 立 人 の 主張
会 社 が X 2と の 委 任 契 約 を 更 新 し な か っ た の は 、 X 2が 講 師 と し て の 資 質
に 欠 け て い た た め で あ り 、 ま た 、 X 2と の 契 約 期 間 は 、 約 1 年 半 と 短 期 間
で、更新が継続されてきたとの事情もなく、契約を更新しないことには合
理 性 が あ り 、 社会 的 に 相 当 な 理 由 があ る 。
X 2 の 講 師 とし て の 問 題 点 は 次 のと お り で あ る 。
ア
X 2が レ ッ ス ン を 担 当 し て い た み か さ 幼 稚 園 か ら 、 オ ル ガ ン の 片 付 け
ができていないことや、カスタネットを勝手に使用しピアノの上に置い
た ま ま に し て い た こ と に つ い て の 苦 情 が 寄 せ ら れ る な ど 、 X 2は 、 講 師
と し て の 資 質に 問 題 が あ っ た 。
イ
X 2は 、 会 社 に 毎 月 提 出 し な け れ ば な ら な い 会 計 伝 票 に つ い て 、 督 促
してようやく提出する状況であり、また、その事務処理も通常考えられ
る 時 間 の 3 倍を 要 し 、 書 き 間 違 いも 多 か っ た 。
ウ
会社作成のテキストは、最初はほとんどの生徒が楽しく取り組めると
い っ て お り 、 退 学 者 は あ ま り い な い 。 し か し 、 X 2の レ ッ ス ン を 受 け て
い た 生 徒 の 一 人 が 退 学 す る 際 、 当 該 生 徒 の 保 護 者 か ら 、 X 2の レ ッ ス ン
に 不 満 が あ る 旨 の 発 言 が な さ れ て お り 、 X 2の レ ッ ス ン 内 容 に は 問 題 が
あった。
エ
X 2の 演 奏 能 力 及 び 指 導 力 は 、 採 用 時 に お い て 、 グ レ ー ド 6 級 の 取 得
が 困 難 な レ ベ ル で あ っ た 。に も か か わ ら ず 、 X 2 は 、 参 加 を 希 望 し て い た
無料研修も「他の仕事をして忙しかったから」との理由で受講しないな
ど 、 技 術 の 向上 に 努 め よ う と し なか っ た 。
(3) 当 委 員 会 の 判断
本件において、申立人が不当労働行為として申し立てているのは、会社
が 有 期 契 約 の 期間 満 了 後、こ れ を 更 新 し な かっ た こ と で あ る 。有 期 契 約 は 、
その契約期間の満了によって終了するのが原則であるため、その更新がな
されないことは、通常、不利益な取扱いとはいえない。しかしながら、不
当労働行為救済手続における不当労働行為成否の判断においては、労組法
7条1号が労働組合の組合員であること又は労働組合の正当な行為をした
ことの故をもって解雇その他の不利益取扱いを禁止するものである以上、
有期契約の期間満了後の不更新の場合であっても、その反復更新の程度や
- 36 -
更新手続の実態及びその不更新理由等からして、契約更新について合理的
期待ないし保護すべき利益が認められるなど特段の事情が認められるとき
には、労組法7条1号にいう不利益取扱いと認められる余地があることか
ら 、 こ の 点 に つき 以 下 検 討 す る 。
ア
ま ず 、 会 社 と X 2と の 契 約 の 反 復 更 新 の 程 度 に つ い て 検 討 す る と 、 X 2
は 、 前 記 第 2 の 3 (3)ア (オ)に 認 定 の と お り 、 平 成 2 0 年 1 月 か ら 3 月 ま
での間は、契約書を交わさないアルバイト講師という身分であり、別紙
委任契約書に基づく契約の更新としては、事実上1回目の更新がなされ
な か っ た も のと 認 め ら れ る 。
イ
申立人は、講師が希望すれば契約をほぼすべて更新している旨会社自
ら述べている上、平成18年度から平成20年度の間、福岡地区におい
て 、 契 約 更 新 を 希 望 し な が ら 更 新 が な さ れ な か っ た の は X 2だ け で あ る
( 前 記 第 2 の 6 (8)イ ) か ら 、 X 2 と の 契 約 不 更 新 は 不 利 益 取 扱 い で あ る
旨主張する。
た し か に 、 会 社 が X 2を 除 く 大 多 数 の 講 師 と の 契 約 を 更 新 し て い る 事
実は認められる。しかしながら、会社は、講師に対し、毎年8月ごろに
稼働調査書を郵送して、次年度の契約更新の意思を確認し(前記第2の
4 (2)ア )、 ま た 、 会 社 の 担 当 者 は 、 講 師 に 改 善 す べ き 点 が な い か を 検
討 し ( 前 記 第 2 の 6 (3)エ )、 そ の 上 で 、 講 師 と の 個 人 面 接 を 行 っ た の
ち、契約を更新するかどうかを毎年個別に判断している(前記第2の6
(5)ア ) の で あ る か ら 、 講 師 は 、 希 望 す れ ば 当 然 に 契 約 を 更 新 さ れ る 実
態 に あ っ た とは い え な い 。
ウ
そ し て 、 X 2は 、 講 師 の グ レ ー ド 級 と し て は 最 低 の 6 級 を 早 急 に 取 得
す る こ と を 条 件 に 会 社 に 採 用 さ れ た に も か か わ ら ず ( 前 記 第 2 の 3 (3)
ア (イ)及 び 4 (3)オ (イ)) グ レ ー ド テ ス ト を 受 験 せ ず ( 前 記 第 2 の 4 (3)オ
(ク))、 ま た 、 講 師 の 演 奏 能 力 や 教 材 の 理 解 度 把 握 の た め に 会 社 が 求 め
た 録 音 テ ー プ の 提 出 を 行 わ な か っ た ( 前 記 第 2 の 6 (1)オ )。 さ ら に 、
X 2は 、 参 加 を 希 望 し て い た 無 料 研 修 に つ い て 平 成 2 0 年 1 0 月 以 降 は
1 回 受 講 し た の み で あ り ( 前 記 第 2 の 6 (2)ウ (ウ)及 び エ )、 社 外 で 行 わ
れ る 研 修 会 等も 受 講 し て い な い (前 記 第 2 の 6 (5)エ )。
エ
以 上 の こ と か ら す れ ば 、 X 2が 契 約 更 新 に つ い て 期 待 を 抱 い て い た と
しても、そのことについて、合理的ないし保護すべき利益があるとは認
- 37 -
め ら れ な い 。 よ っ て 、 会 社 が X 2と の 有 期 契 約 の 期 間 満 了 後 、 こ れ を 更
新しなかったことは不利益取扱いとはいえず、労組法7条1号の不当労
働 行 為 に は 当た ら な い 。
4
救済の方法
上記第3の2で判断したとおり、組合が平成21年2月24日付けで申し入
れた団体交渉について、会社がこれに応じなかったことは、労組法7条2号に
該当する不当労働行為であり、その救済方法としては、主文第1項のとおり命
じることとする。
5
法律上の根拠
以上の次第であるので、当委員会は、労組法27条の12及び労働委員会規
則 4 3 条 に 基 づ き 、主 文 の と お り 命 令 する 。
平成22年8月20日
福 岡 県 労 働 委 員 会
会
- 38 -
長
野田
進
㊞
別紙
委任 契 約 書 ( 抜 粋 )
株式会社
河 合 楽 器 製 作 所 ( 以 下 甲 と い う ) と X 2( 以 下 乙 と い う ) は 、 カ ワ イ 音 楽 教 室 に お け
る 担 当 講 師 とし ての 教育 指導 業 務の 委任 に 関 し 、 次 の と お り 契 約 を 締 結 す る 。
第1条(目的)
甲 は 乙 に 対 し 、「 カ ワ イ 音 楽 教 育 シ ス テ ム 」 及 び 「 カ ワ イ お と な の ミ ュ ー ジ ッ ク シ ス テ ム 」
に基づく教育普及活動のため、カワイ音楽教室における教育指導業務及びこれに付帯する業務
を 委 任 し、 乙はこ れ を受 任 する 。
第 2 条 ( 遵 守事 項)
乙は、受任業務遂行にあたり、法令並びに甲の定める「カワイ倫理規範」及び「カワイ講師
用・倫理行動規準」に定められた事項を遵守しなければならない。また、甲の音楽指導者とし
て 品 位 ある 言動・ 姿 勢に 努 めな けれ ば な ら な い 。
第 3 条 ( 教 育指 導業 務)
1 . 甲 が乙 に委任 す る教 育 指導 業務 は 次 の と お り と す る 。
(1) カワ イ 音楽 教 室生 徒へ の、 甲が 定 め る レ ッ ス ン 時 間 と 回 数 に よ る 教 育 指 導
(2) 教育 指 導の 一 環と して 甲が 開催 す る 各 種 イ ベ ン ト へ の 生 徒 参 加 の 促 進
(3) 生徒 指 導の 一 環と して の生 徒募 集 、 進 級 相 談 及 び 退 学 防 止
2.乙は、教育指導業務を遂行するに必要な業務調整や事務手続き等のために定期開催される
講 師 会合 及び 教 育研 修 のた めの 研修 会 に 出 席 す る も の と す る 。
3.乙は、やむを得ない事由により生徒指導が困難な場合には、甲と十分な連絡調整の上、自
らの責任において生徒並びに教場側の了承の基に、レッスン開催曜日の変更等の手続きを遅
滞 な く行 わな け れば な らな い。
第 4 条 ( 付 帯業 務)
1.乙は生徒指導に伴なう月度授業料、設備維持費、冷暖房費等の諸経費及び教材費等の徴収
並 び に そ の入 金 事務 処 理を 受任 し、 甲 の 定 め る 期 日 ま で に 確 実 実 施 す る 。
2.甲は、教育指導の一環として開催するイベント等の実施にあたり、乙に対し、必要に応じ
て 業 務 を 依頼 す るも の とす る。
3.乙は、甲の取扱う商品等の販売について全面的に甲に協力するものとする。なお、乙本人
使用のための甲取扱い商品等の購入に際しては、甲の定める割引販売規程を適用するものと
する。
- 39 -
第5条(報酬)
1 . 甲 は 乙 に対し 、 委任 業 務の 対価 と し て 次 の 報 酬 を 支 払 う 。
(1) 教 育 指 導 業 務 に 対 す る 報 酬 と し て の 、 乙 の 指 導 資 格 級 に 基 づ く 担 当 生 徒 授 業 料 の 歩 合 額
合計
(2) イベ ン ト等 実 施時 に業 務依 頼し た 場 合 の 、 甲 所 定 の 業 務 手 当 ま た は 行 事 手 当
(3) イベ ン ト等 の 生徒 参加 促進 への 協 力 に 対 す る 、 甲 が 特 別 に 定 め る 諸 手 当
(4) 生徒 募 集実 績 に対 する 、甲 所定 の 手 数 料
2.前項の報酬は、原則として毎月15日にて締め切り、翌日10日に乙指定の金融機関口座
へ 振 り込 みに て 支払 う 。
3 .乙 の 報酬 算定 の基 礎と な る担 当 生 徒 一 人 あ た り の 歩 合 額 単 価 は 、甲 に お い て 別 途 定 め る「 カ
ワ イ 講師 資格 認 定制 度 」に 基づ く資 格 認 定 級 に 対 応 し て 算 出 す る 。
4 . 乙 の 資 格認定 級 の変 更 発生 に際 し て は 、 認 定 月 日 以 降 の 担 当 生 徒 歩 合 給 よ り 適 用 す る 。
第 6 条 ( 交 通費 )
1 . 甲 は 乙 に対し 、 委任 業 務に 伴う 次 の 交 通 費 を 支 払 う 。
(1) レッ ス ン業 務 遂行 のた めの 交通 費 ( 実 費 )
(2) 甲 が 定 期 的 に 開 催 す る 講 師 会 合 、 教 育 研 修 会 へ の 出 席 及 び イ ベ ン ト 等 実 施 時 に 業 務 を 依
頼 し た 場合 の 、甲所 定の 交 通費
2 . 前 項 の 交通費 は 、第 5 条の 報酬 に 加 算 し て 支 払 う も の と す る 。
第 7 条 ( 自 己研 鑽)
乙は、教育効果を高めるために、常に自らの能力向上を図り、甲は必要に応じてその機会を
提 供 す る も のとす る 。
第 8 条 か ら 第1 1条 (略 )
第 1 2 条 ( 契約 期間 )
本契約の期間は、平成20年4月1日より平成21年3月31日までの一年間とし、契約を
更 新 す る 場 合は新 た な契 約 を締 結す る も の と す る 。
第 1 3 条 及 び第 14 条( 略)
- 40 -
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