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3455 高電圧絶縁抵抗計
3455 高電圧絶縁抵抗計 1 3455 高電圧絶縁抵抗計 神津 直人 *1 要 旨 3455 は最大 5 kV の高電圧を発生できる絶縁抵抗計である.ここに製品概要,構成など について解説する. 1. はじめに 発変電所 , 送電設備 , 工場 , ビルなどの 1 kV を超 える高電圧設備の点検 , 保守においては,2.5 kV や 5 kV の直流高電圧を印加して絶縁抵抗試験が行わ れる.近年,世界ではこのような高電圧設備を増 設している地域もあり,高電圧を発生できる絶縁 抵抗計の要求が高まってきている.高電圧設備は ケーブル , モータ , トランスなど多くの機器で構成 されているが,測定対象物によっては単に絶縁抵 抗を測定するだけでなく,各種の方法で絶縁状態 を診断する.また地域によっても診断手法はさま ざまであるので高電圧絶縁抵抗計は多機能である 3455 の外観 ことも要求される.このようなニーズに応え 3455 高電圧絶縁抵抗計を開発した. (2) 高絶縁抵抗 / 微小電流の測定 最大 5 TΩ の高絶縁抵抗を測定できるため絶縁抵 2. 概要 抗の傾向管理にも役立つ.また,漏れ電流表示モー 3455 は絶縁抵抗や電圧の基本測定機能に加え, 高電圧設備の絶縁診断におけるさまざまな評価手 法や規格に対応するため漏れ電流や温度の測定, ドでは最小 1 nA までの微小電流を測定できるので 高圧ケーブルの直流漏れ電流試験が可能である. (3) PI(成極指数), DAR(誘電吸収比)の自動計算機能 絶縁抵抗の時間的変動や電圧依存性,温度依存性 直流高電圧を印加してからの絶縁抵抗の時間的 などを考慮した豊富な付属機能を持つ.また,多 機能でありながら低価格である点,現場の使用環 変動を PI, DAR というパラメータとして見ること 境や持ち運びを考慮した使いやすさ,高電圧を扱 きいほど絶縁状態が良好と判断される. う上での安全性をコンセプトとしている. で絶縁劣化の判断に使う.一般に PI も DAR も大 PI, DAR は以下の式で求める. PI=10 分後の絶縁抵抗 /1 分後の絶縁抵抗 3. 機能・特長 DAR 1 min/15 s=1分後の絶縁抵抗/15秒後の絶縁抵抗 (1) 広範囲の電圧発生 250 V から 5 kV までの広範囲な試験電圧を発生 DAR 1 min/30 s=1分後の絶縁抵抗/30秒後の絶縁抵抗 PI 算出のための時間はユーザが変更することも できるため低電圧設備から高電圧設備まで幅広く 可能である.PI, DAR は絶縁抵抗測定のたびに必ず 使用できる.電圧は 25 V, 100 V ステップで細かく 計算されるので,測定前に PI, DAR の専用モード 設定することも可能. を呼び出す操作が不要である. 使用頻度の高い電圧 (250 V, 500 V, 1 kV, 2.5 kV, 5 kV) は簡単に選択できるよう,細かい電圧ステップ での設定時とは別のキーを使用する. *1 技術本部 開発支援課 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 2 3455 高電圧絶縁抵抗計 電源回路 AC アダプタ 電源切換 過放電 監視 高電圧 発生 発生電圧設定信号 電池 NiMH 電 池 LR6 充 電 高電圧発生停止信号 回路 電源 + 端子 絶縁抵抗 安定化 交流電圧 放電 電圧 検出 GUARD 端子 全波整流 AC/DC/ 極性判定 電源識別 A/D 変換 I/V変換 レンジアンプ 電池 電圧 検出 - 端子 電流検出 温度測定 温度センサ マイコン RTC フラッシュ メモリ ブザー バックライト キー 表示 USB コントローラ PC 図 1 ブロック図 ( 全体 ) (4) 温度補正,温度測定機能 絶縁抵抗は温度の影響を受けやすく高温になる 抵抗を記録していく方式であり,絶縁抵抗の変動 ほど絶縁抵抗は低くなる.設備が運転中の高温下 を調べることができる. ロギング記録は一定時間間隔で 360 回まで絶縁 での絶縁抵抗を予測する場合や規格で定められた どちらの記録方式でも測定したときの日付 , 時刻 , 基準温度での絶縁抵抗を算出したい場合に絶縁抵 温湿度を記録できる.記録したデータは 3455 の表示 抗と温度を測定することにより補正した絶縁抵抗 部に呼び出す以外に PC への転送もできる. を簡単に求められる. 温度測定は 3455 にサーミスタ温度センサを接続 (7) USB インタフェース して行うが,このほかに別の温度計で測定した温 USB インタフェースにより 3455 の記録データの 度を 3455 のキー操作で入力する方法も可能なた PC への転送と PC から 3455 の条件設定ができる. め,高温のためセンサを接触できない機器の温度 PC 上では専用の PC アプリケーションソフトウェ を放射温度計で測定し,その温度値を使用するこ アによりデータの表示 , グラフ化 , レポート作成な とも可能である. どが可能である. (5) ステップ電圧テスト 試験電圧を一定時間ごと 5 段階に上げていき,絶 (8) 操作性 測定値が一目でわかるよう表示部には大形 LCD 縁抵抗や漏れ電流の電圧依存性を調べることがで を使用し,アナログメータの感覚で絶縁抵抗の大 きる.試験電圧が高いほど絶縁抵抗が小さくなる 小の把握ができるよう対数バーグラフも表示でき 傾向がみられれば被測定物に吸湿や汚損などがあ る.また,薄暗いところでの使用でも表示が見え り絶縁性は要注意と判断する. るよう LED によるバックライト機能がある.現場 (6) データメモリ機能 測定したデータを内部メモリに記憶する機能とし での操作性を考慮しキースイッチも大きくした. てマニュアル記録とロギング記録の 2 種類がある. キー自体を光らせている. 高圧警告ランプの視認性を上げるためメジャー データを 100 個まで記録する.絶縁抵抗 , 試験電圧 (9) コンパクトなハードケース 作業環境や現場への持ち運びを考慮し,小型・軽 のほかに PI, DAR, 温度補正データ , ステップ電圧 量で,かつ丈夫なハードケースを採用した. マニュアル記録は測定後ホールドされている データも記録できる. 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 3 3455 高電圧絶縁抵抗計 C4 C3 V C1 C4 C2 C3 V V C1 C2 C4 2V 2V V V C3 C1 C4 2V C2 2V V V C3 C2 2V 2V 4 C1 最終的には ① ② ③ ④ 図 2 コッククロフトウォルトン回路の動作原理 (10) 安全性 高電圧を扱うため安全性を考慮し,端子部の (1) 絶縁抵抗測定 高電圧発生部から被測定抵抗物に電圧を印加し シャッタ構造 , 高圧発生 / 入力警告表示機能 , 自動 て,印加した電圧と被測定抵抗物に流れた電流を 放電機能を採用した.また,安全規格の測定カテ 測定することで被測定抵抗物の絶縁抵抗値を求め ゴリは CAT IV 600 V, CAT III 1000 V に対応した. る. 高電圧発生部では,電池電圧を約 30 kHz でス (11) 2 種類の電池を使用 電源は単 3 形アルカリ電池と充電式ニッケル水 素電池 ( 専用バッテリパック ) の両方を使用でき る.また,これらの電池を同時にケースに装着す ることができるため山間部など電池の入手が困難 な場合や,逆に充電のための交流電源が無い,あ るいは充電する時間が無いなどいろいろな状況に 対応できる. イッチングし,トランスで約 1 kV まで昇圧した後, コッククロフトウォルトン回路により 5 kV まで昇 圧する.この回路は,ダイオードとコンデンサを 直列に積み上げ,その積み上げた段数だけ,トラ ンスの 2 次側電圧の倍数の電圧を取り出せる回路 である.図 2 に 4 段構成のコッククロフトウォル トン回路の昇圧の原理を示す.トランス 1 次側に 矩形波を入力したときに 2 次側に電圧 V が発生す るとすると,2 次側の電圧の極性が図①のときにコ 4. 構成 ンデンサ C1 が充電される.次に,図②のようにト 4.1 ハードウェア ランス 2 次側の電圧の極性が反転すると,C1 の電 ハードウェア全体のブロック図を図 1 に示す. 圧 V とトランス 2 次側の電圧 V を加えた電圧 2 V ワンチップマイコンを中心にしたディジタル部・ まで C2 が充電される.この動作を繰り返すこと 高電圧発生部・A/D 変換器を中心にした測定部な よって C3,C4 も充電されていき最終的には図④の どから構成される.電池は単 3 形アルカリ乾電池 6 ようになり,トランス 2 次側電圧 V の 4 倍の電圧 本,専用充電式ニッケル水素電池を使用者がス を作り出すことができる. イッチで選択できるようにしている.AC アダプタ 発生電圧の切り替えは安定化部で行っている は専用充電式ニッケル水素電池を充電するために が,12 ビットの乗算型 D/A コンバータを使用する 使用する.AC アダプタと電池の切り替えは自動で ことによって発生電圧の細かな切り替えを実現し ある.また,温度センサ , USB ケーブル , AC アダ ている. プタのいずれかが接続されている場合には安全の 被測定抵抗の抵抗値が大きい場合には定電圧制 ため絶縁抵抗測定ができないようソフトウェアで 御されるが,抵抗値が小さい場合には定電流制御 制御をしている. が働き,測定電流が一定となるよう制御される. 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 4 3455 高電圧絶縁抵抗計 安定部に入力される信号によって出力は制御され るが,定電圧制御されているときは電圧検出部か らの信号,定電流制御されているときは電流検出 部からの信号によって出力が制御される.定電圧 制御 / 定電流制御の切り替えは,マイコンを介さず 安定部内で行われる. GUARD 端子には,誤結線した場合に 3455 へ大 きな電流が流れ込まないよう約 10 MΩ の保護抵抗 が内蔵されている. (2) 交流電圧測定 交流電圧を図 1 の電圧検出部で分圧し,全波整 図 3 発生電圧誤差‐設定電圧特性 流回路を通してからローパスフィルタで平滑した 後,A/D 変換器へ入力し表示する.交流電圧を測 定する場合,コッククロフトウォルトン回路を構 成しているダイオードにより入力端子間が短絡し てしまう.これを防ぐため,ダイオードにより短 絡してしまう経路にリレーを挿入し,交流電圧を 測定する場合にはコッククロフトウォルトン回路 を切断するように制御している.3455 では交流電 圧は 750 V まで測定できる. (3) 試験電圧出力特性 図 3 に設定電圧と発生電圧の誤差の関係を示す. 試験したい電圧よりも高い電圧が被測定抵抗に確 図 4 発生電圧‐被測定抵抗特性 実に印加されるよう,設定電圧に対して約 5% 大き な電圧を発生するように設計している.図 4 に被 測定抵抗に対する発生電圧の特性を示す. (c) 測定開始直後の表示と高速化 絶縁抵抗測定開始直後は安定値を予測し,バー グラフ表示を行っている. 4.2 ソフトウェア また予測値に従いオートレンジ移動の高速化処 理も行っている. (1) 測定 (a) 測定機能 (d) 温度測定 測定機能は主に電圧発生部,電圧値測定と表示部, 温度センサ端子を監視しているので,温度セン 電流値測定部,抵抗値演算部,抵抗値 ( 電流値 ) 表 サ端子を接続するだけで,自動で温度測定が開始 示部,測定停止部,温度測定部で構成されている. するように設計している.サンプリング方法は (b) と同様である. (b) サンプリング 1 回の測定は二重積分方式を用いている.二重積 (e) 安全対策設計 分方式では 100 ms の正積分をした後,逆積分を 外部電圧を常に監視し,測定電圧を発生する際 行っている.絶縁抵抗測定時は,電圧値と電流値 に,外部電圧が 50 V 以上あると測定電圧を発生し をそれぞれ二重積分で測定しソフトウェアで絶縁 ない ( 測定開始しない ) ように設計している.また 抵抗を演算している.そして絶縁抵抗測定のサン 測定中にプローブ先端でショートした場合 (1100 V プリング周期は 500 ms であり,さらに測定値のふ 以上発生時 ),USB コネクタ・温度センサ・AC ア らつきを抑えるためサンプリングした 2 回分を平 ダプタが接続された場合には,測定および測定電 均して毎秒 1 回表示の更新をしている. 圧発生を停止し安全性を考慮している.さらに,測 定停止時には,外部電圧が 10 V 未満になるまで放 電してから測定終了している. 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 3455 高電圧絶縁抵抗計 5 図 5 アプリケーションソフトウェア画面 (2) 温度補正について 測定した抵抗値を基準温度での抵抗値に換算し (4) PC アプリケーションソフトウェア て表示することができる. データをPC上でグラフ表示できるアプリケーショ 例として被測定物が油浸式電力変圧器の場合, 次の補正式で換算している.( 文献 :1) (t-tref)/10 Rtref=1.5 × Rt : 温度 t ℃の環境で実測した抵抗値 tref : 基準温度 [°C] t ンソフトウェアを用意している.以下に機能を示 す. (a) データのダウンロード Rtref : 基準温度 tref °C での補正後の抵抗値 Rt 付属品として,3455 の内部メモリに保存された (b) データリストの表示 (c) データのグラフ表示 (d) データ保存 ( 表計算ソフトウェアで扱いやすい CSV 形式 ) : 実測温度 [°C] (e) レポート作成 (3) メモリ機能 採用したフラッシュメモリでは 10 万回の保存が (f) 印刷 (g) 3455 の条件設定 図 5 にアプリケーションソフトウェアの画面の 可能である. マニュアル記録データ ( 標準測定データ , 温度補 一例を示す. 正測定データ , ステップ電圧試験データ ) およびロ ギング記録データの4種類のデータフォーマットを 用意し,各データエリアに測定値を格納している. 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 6 3455 高電圧絶縁抵抗計 シャッタ パネル ラバースイッチ 上ケース 基板 付属品収納部 下ケース ハンドル 電池カバー 図 6 構造図 シャッタ 測定時 インタフェース使用時 図 7 シャッタ位置 位置決めアーム 図 8 シャッタの位置決めアーム 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 3455 高電圧絶縁抵抗計 4.3 機構 (1) 外観 外観はコンパクトにまとめながらも,堅牢なイ メージを与える大きめの凹凸を配している.筐体 色は過酷な環境を考慮しダークグレーを採用,パ ネル面では使用者の安全を確保し,可動すること を強調させたブルーのシャッタをポイントにお き,視認性を高める大型の液晶表示器をセンター に配置した.操作部は防塵性能に優れたラバース イッチとし,測定スイッチには半透明材料を使用 し,内部に LED を埋め込むことで高電圧発生時に スイッチ自体が点滅し,使用者に高電圧の発生を 知らせる効果も持たせた. (2) 筐体構造 筺体は携帯用ケースの一部に本体を埋め込んだ形 の構造となっており,本体横のスペースに付属品 を収納し,上ケースを閉じることでコンパクトに 収納・持ち運びが可能となっている.筺体部品の 嵌合は,個々の部品を深くはめ込むことで強度 UP・ 安全距離・防塵性能を確保している.図 6 に構造 図を示す. 特長となるシャッタは,安全のため測定端子と インタフェースを同時に使用することができない ことを目的としている ( 図 7).シャッタにはスラ イドしたときの位置決めをするアーム形状も同時 に作りこみ,1 部品のみで目的を達成するシンプル な構造となっている ( 図 8). (3) テストリード テストリードは 5 kV 発生時や測定カテゴリ IV の 電圧測定時にも安全に使用できるよう高耐圧品を 採用した.また,高絶縁抵抗の測定への影響を小 さくするため超高絶縁抵抗の絶縁被覆材をリード 線に使用している. 5. おわりに 低価格で多機能の 3455 高電圧絶縁抵抗計が高電 圧設備の絶縁診断に幅広く利用されることを期待 する. 冨山 英樹 *2,斎藤 竜太 *3,永井 健司 *3 参考文献 1) GB50150-91 Standard for hand - over test of electric equipment electric equipment installation engineering,China Planning Press (1991) *2 技術本部 技術 10 課 *3 FMI 部 技術 4 課 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1 7 8 3455 高電圧絶縁抵抗計 日 置 技 報 VOL.27 2006 NO.1