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目次 - jamstec
目次 Ⅰ.研究計画の概要 1 1.研究の趣旨 1 2.研究概要 1 3.研究年次計画 2 4.平成17年度研究計画 2 5.平成17年度実施体制 4 6.研究運営委員会、研究連絡会議 5 Ⅱ.研究成果の概要 1.総括 9 9 2.サブテーマごと、個別項目ごとの概要 10 3.波及効果、発展方向、改善点等 13 4.研究成果の発表状況 14 5.国際共同 (協力) 研究の状況 27 Ⅲ.研究成果の詳細報告 1.炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル 35 35 1−1.陸域炭素循環モデル 35 1−2.海洋生物地球化学モデル 47 1−3.陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築 68 2. 温暖化・大気組成変化相互作用 2−1. 温暖化・大気組成変化相互作用(大気化学) 2−2.温暖化−雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 81 81 102 3.寒冷圏モデル 109 4.気候物理コアモデル改良 120 I. 研究計画の概要 Ⅰ.研究計画の概要 1.研究の趣旨 本研究の目的は地球環境全体の変化、すなわち気候、大気・海洋の組成、陸・海の生態系が相互 に影響を与えつつ一体となって変化して行くのをシミュレートできる地球環境(地球システム) の統合モデルを開発する事、およびそれを用いて炭素循環のフィードバックを含んだ地球温暖化 予測を行う事である。 これまでの地球温暖化予測では、温暖化の原因である大気中二酸化炭素(CO2)濃度の将来について、 人間活動による CO2 放出シナリオをもとに簡略化したモデルを用いて、海洋と陸域生態系(植生・ 土壌)への吸収量を見積もって大気 CO2 濃度の将来予測を先ず行い、その結果を気候モデルに導 入して温暖化と気候変化のシミュレーションを行って来た。しかしこれでは十分とは言えない。 CO2 増加は温暖化・気候変化を引き起こすが、逆に気候変化は大気中 CO2 濃度に影響を与えるの にそのフィードバック効果が取り入れられていなかったからである。温暖化によって土壌有機物 の分解が進んで大気中に CO2 やメタン(CH4)の濃度が増加する、即ち正のフィードバックが作用 する可能性があるので、これを無視するのは危険である。 気候モデルに炭素循環プロセスを組み込んでそのフィードバック効果を取り入れたモデルで予測 を行わねばならない。また、温暖化・気候変化は生態系の変化を引き起こすと考えられているが、 それも CO2 や CH4 の濃度に影響する。さらに、もう一つの温室効果ガスである対流圏オゾンも 温暖化・気候変化の影響を受ける。そこで、大気・海洋・陸域生態系にまたがる炭素循環や大気 組成変化のプロセスを気候モデルに取り入れ、 (炭素循環・大気組成・気候統合モデルを作り)、 それらのフィードバックを含めて温暖化予測実験を行う必要がある。 2.研究概要 大気・海洋・陸地面の、主に物理的状態を扱う「物理気候モデル」として東大気候センターと 国立環境研で開発された既存の CCSR/NIES モデルを用い、それを基礎として、地球環境フロン ティア研究センターの各プログラムで研究されている、大気・海洋の化学組成変化、陸域生態系 と大気の物質交換などの諸過程をそれぞれに取り入れた部分統合モデルを3年目を目安に作り、 その上で全体を結合した、 「地球システム統合モデル」を研究期間内に完成させる。その過程で3 1 Ⅰ. 研究計画の概要 ∼4年目までに、大気・海洋・陸域生態系にまたがる全球炭素循環モデルを作り、それと気候モ デルを結合させたモデルを用いて温暖化と炭素循環とのフィードバック効果を含んだ温暖化予測 実験を行う。温暖化と大気組成や陸域生態系の相互作用に関して、さらに温暖化そのものについ ても未解明のプロセスが多いので共生プロジェクトの他の課題(陸域生態系モデル作成のための パラメタリゼーションに関する研究、諸物理過程のパラメタリゼーションの高度化 (大気・海洋 分野))のもとに行われる野外観測やプロセス研究によって必要なパラメータを求め、逆にモデル の結果から精度向上に必要なプロセス研究を依頼し、モデルの確度向上を図る。 3.研究年次計画 平成14年度:全体及びサブ課題の研究戦略立案及び各サブ課題での部分統合モデル作製に向け ての個別モデルの整備。 平成15年度:サブ課題ごとに部分統合モデルの開発。 平成16年度:各サブ課題において部分統合モデルを作りあげる。この段階において地球温暖化 にかかわる数値実験着手。次年(2005年)にかけ実験を終了し成果をできる だけ IPCC 第4次報告書に間に合うようまとめる。 平成17年度:部分統合モデルによる実験を終了し同時に並行して全体を統合した「地球システ ム・モデル」の開発に着手。 平成18年度:地球システム・モデル完成。それを用いた温暖化に伴う全地球環境変化予測の試 行。 4.平成17年度研究計画 現在地球環境フロンティア研究センターの各研究プログラムで開発が進められている個別モデル (大気組成、陸域生態系炭素循環など)ひとつを物理気候モデル(大気・海洋・陸面の 物理的 過程を中心としたモデル、CCSR/NIESにより開発された既存のものを利用)と結びつけ、「部分統 合モデル」を作る作業を継続する。またそうした「部分統合モデル」全体を統合した「地球シス テムモデル」の開発に着手する。 2 I. 研究計画の概要 (1)炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル開発 大気海洋結合炭素循環モデルのパラメータチューニングを完了して温暖化時の炭素循環のシ ミュレーションやパラメータ感度実験を行い、論文を執筆する。また C4MIP Phase 1, 2 の 活動に参加する。Phase 1 に関しては、平成16年度中にデータを提出した後CO2濃度季節変化 など、モデル中で再現された現象に関して解析を行う。また Phase 2 に関しては、参加する 各グループに協力を要請し海洋コンポーネントに関する結果をとりよせ、人為起源二酸化炭 素吸収に関する海洋モデル間の振る舞いの違いについて比較研究を行う。 個体ベースの全球 植生動態モデル(SEIB-DGVM)の開発に関しては、各地点を対象とした妥当性検証を経て全球 実験を行い、論文を執筆する。 (業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター 及川武久、[email protected]) (2)温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 ①温暖化・大気組成変化相互作用モデル これまで(平成16年度)の作業により統合モデル本体への化学モデル CHASER とエアロゾ ルモデル SPRINTARS の結合・導入が行われた。対流圏化学とエアロゾルの計算の結合に関 して、本年度はエアロゾル熱力学平衡モデルの導入作業を完了する。また「気候物理コアモ デル改良」グループとの連携の下に統合モデルのハイブリッド鉛直座標化およびモデルトッ プ高度の向上を行った上で、統合モデル内の CHASER にハロゲン化学反応および極域成層圏 雲(PSCs)化学を追加し、成層圏オゾンのシミュレーションも行えるようにする。 (業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター 高橋正明、[email protected]) ②温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 全球雲解像モデル NICAM を用いて、現実的な設定の下で SST±2Kあるいは CO2 倍増の気候 感度実験を実施する。これにより、既存の積雲パラメタリゼイションモデルにはないより詳 細な雲微物理過程による雲-放射フィードバックの定量的評価を行う。 また、平行して、NICAM へのエアロゾルモデルの実装を行い、エアロゾル-雲-放射フィード バックを総合的に評価できるモデルの開発を引き続き行う。 (業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター 高橋正明、[email protected]) (3)寒冷圏モデル開発 1000 年スケールでの気候変動モデリングへ向けた気候-氷床結合モデルの最終調整を行う。地 球温暖化実験(シナリオ実験)および氷期サイクル実験における気候−氷床結合の役割の解析 に着手する。 (業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター 阿部彩子、[email protected]) 3 Ⅰ. 研究計画の概要 (4)気候物理コアモデル改良 統合モデルの上端を成層圏に拡張し、特に成層圏のオゾン量にとって重要な中・高緯度の大 気大循環の季節進行を現実的にすることを目標とする。昨年度までに開発してきたハイブリ ッド鉛直座標や新しい放射コード、および非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションを統合 モデルに導入し、細かなチューニングを行うとともに、長期積分に向けて計算コードの高速 化を図る。重力波抵抗パラメタリゼーションの改良に必要な高解像度大気モデルによる成層 圏の波動や大循環の研究は引き続き行っていく。 (業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター 江守正多、[email protected]) (5)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)関連活動への参加と温暖化予測の比較検討 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 4 次報告書へ寄与する為、国際モデル比較ワー クショップ等の活動に参加し、国内外から報告されている温暖化予測中間結果、シミュレー ション手法、評価手法等について比較検討を行う。また、各国の温暖化研究の動向調査を行 うと共に、内外の研究者による進捗状況についての情報交換と検討を行う。 (業務分担責任者:地球環境フロンティア研究センター、松野太郎、[email protected]) 5.平成17年度実施体制 独立行政法人海洋研究開発機構を主管研究実施機関とし、研究代表者を松野太郎(地球環境フ ロンティア研究センター 特任研究員)とする。次の研究サブテーマを設けて研究開発を実施する。 (1)炭素循環、炭素循環・気候変化結合モデル開発 代表者:及川 武久 ①陸域炭素循環モデル 伊藤 昭彦、田中 克典、加藤 知道 ②海洋生物地球化学モデル 山中 康裕、岸 道郎、相田 眞希、吉川 知里、河宮 未知生 ③陸域生態系変動モデル 甲山 隆司、佐藤 永 (2)温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 代表者:高橋 正明 4 I. 研究計画の概要 ①温暖化・大気組成変化相互作用モデル 滝川 雅之、渡辺 真吾、永島達也、須藤 健悟、竹村 俊彦 ②温暖化-雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 久芳 奈遠美、鈴木 恒明、野沢 徹、對馬 洋子、鈴木 健太郎、中島 映至、 冨田 浩文 (3)寒冷圏モデル 代表者:阿部 彩子 大垣内 るみ、瀬川 朋紀 (4)気候物理コアモデル改良 代表者:江守 正多 鈴木 恒明、鈴木 立郎、高田 久美子、木本 昌秀、羽角 博康、松野 太郎、 渡辺 真吾 6.研究運営委員会、研究連絡会議 <研究運営委員会> (1)任務 研究実施メンバーから研究計画と研究進捗状況、研究結果の報告を行い、これを受けて外部 委員が研究実施計画全体、年次計画について随時評価と助言を行い、特に当該年度の研究計 画について検討し適切な助言をするとともに進捗状況をチェックする。 (2)委員の構成 <本プロジェクト関係者、内部委員> (役職等は平成17年4月1日現在のもの) 松野 太郎(地球環境フロンティア研究センター・特任研究員、共生2代表) 近藤 洋輝(地球環境フロンティア研究センター・共生2代表補佐) 阿部 彩子(地球環境フロンティア研究センター/東大 CCSR) 江守 正多(地球環境フロンティア研究センター/国立環境研) 及川 武久(地球環境フロンティア研究センター 生態系変動予測研究プログラム・グループリーダー/筑波大) 河宮 未知生(地球環境フロンティア研究センター 地球環境モデリング研究プログラム・グループリーダー) 甲山 隆司(地球環境フロンティア研究センター 生態系変動予測研究プログラム・サブリーダー/北大) 5 Ⅰ. 研究計画の概要 高橋 正明(地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム・グループリーダー/東大 CCSR) 山中 康裕(地球環境フロンティア研究センター 地球温暖化予測研究プログラム・サブリーダー/北大) <地球環境フロンティア内部委員> 秋元 肇(地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム・プログラムディレクター) 中澤 高清(地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム・グループリーダー/東北大) <外部委員、共生プロジェクト関係> 住 明正(東大 CCSR・教授、共生 1-1) 安岡 善文(東大生産研・教授、共生 3-1) 日比谷 紀之(東大理・教授、共生 3-2) <外部委員、関連研究機関> 井上 元(国立環境研・研究統括官) 遠藤 昌宏(東大 CCSR・教授) 早坂 忠裕(総合地球環境学研究所・教授) (3)開催日・場所 ●第9回 平成 17 年 5 月 9 日(月) 海洋研究開発機構 横浜研究所 ●第10回 平成 17 年 10 月 25 日(火)、26 日(水) 気象研究所 講堂 ●第11回 平成 18 年 3 月 14 日(火) 海洋研究開発機構 横浜研究所 <研究連絡会議> (1)本プロジェクトを円滑に推進するために、原則として月1回研究連絡会議を開催する。 (2)原則としてプロジェクトメンバー全員が参加し(各サブ課題から少なくとも1名)、サブ課 題の進捗状況を報告し、プロジェクト全体の進行調整を図る。 6 I. 研究計画の概要 (3)本プロジェクトが広範囲の専門領域を含むことから、随時研究報告に加えレビュー講演を 行いメンバーの相互理解に資する。 開催日・場所等 ●第27回 平成 17 年 4 月 20 日(水) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 (1)Past/present/future simulation of ozone and related species in the context of the IPCC- AR4:Impacts 健悟) of changes in emissions, climate, and other factors(須藤 (2)ダスト−気候−海洋系のフィードバックと炭素循環モデリング進捗(河宮 未知生) ●第28回 平成 17 年 5 月 24 日(火) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 (1) 成層圏化学過程関連の最近の研究動向について (滝川 (2) 動的全球植生モデル SEIB-DGVM の開発状況(佐藤 ●第29回 雅之) 永) 平成 17 年 6 月 22 日(水) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 (1)「植生からの非メタン炭化水素類の放出過程」 (須藤 健悟) (2) KISSME 成層圏版の現状(渡辺 真吾) ●第30回 平成 17 年 8 月 2 日(火) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 (1)共生3-1課題運営委員会の参加報告(伊藤 昭彦) (2)寒冷圏モデル(齋藤 冬樹) ●第31回 平成 17 年 9 月 22 日(木) 海洋研究開発機構 横浜研究所 (1)(財)高度情報科学技術研究機構 (2)海洋生物地球化学モデル (河宮 (井上 孝洋) 未知生) (3)気候‐陸域炭素循環結合モデルの開発 ●第32回 地球情報館大会議室 (加藤 知道) 平成 17 年 10 月 21 日(金) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 7 Ⅰ. 研究計画の概要 (1)海洋生物地球化学モデル (河宮 (2)動的全球植生モデルの開発状況 未知生) (佐藤 (3)温暖化・大気組成相互作用(大気化学) (4)寒冷圏モデル (齊藤 永) (須藤 冬樹) (5)気候物理コアモデル改良サブグループ(渡辺 ●第33回 健悟) 真吾) 平成 17 年 12 月 20 日(火) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 (1)モントリオール出張報告‐地球温暖化に対する国際的取組み‐(近藤 (2)成層圏化学過程の進捗状況(滝川 ●第34回 雅之) 平成 18 年 2 月 7 日(火) 海洋研究開発機構 横浜研究所 小会議室 (1)地球環境統合モデルによる 20 世紀再現実験に向けて (2)大気化学現状報告 8 (須藤 健悟) (野沢 徹) 洋輝) Ⅱ. 研究成果の概要 Ⅱ.研究成果の概要 1.総括 共生プロジェクトも 4 年目が終わり残す所あと1年となった。本課題は全く新しいテーマだっ たので、専任研究者がそろって実質的に研究を開始してからは3年経過した事になるが、さすが に3年目らしく計画立案時に思い描いていたものがしっかりとした形で現れて来た。すなわち昨 年度不十分なまま急ぎ実行した炭素循環・気候結合モデルによる温暖化実験を、問題点を洗い出 して修正の後あらためて実行し大変もっともらしい結果が得られた。炭素循環のフィードバック の解析も行われ、モデルの個性による違いはともかく世界の他のセンターと並ぶ所まで来たと思 う。個体ベース植生動態モデル SEIB DGVM もこれまで幾つかの気候条件で個別にテスト計算を していただけだったのが、一応完成との判断のもと T42 解像度(280 km メッシュ)で全陸地上の 自然植生分布のシミュレーションを行い、 「新モデル」としては充分に合格の結果が得られた。こ れもまさに期待したもの、想像してしたものが現実に形になったとの感を抱かせるものであった。 物理気候コアモデルの成層圏・中間圏への拡張も終了し、現状再現のシミュレーション結果が得 られた。これも世界中のモデルの中で明らかに上位の再現性を示している。但し、化学過程の成 層圏・中間圏への拡張は少し進行が遅れまだ出来ていない。 前記のように「統合モデル」開発の主要ポイントで具体的な形が見えるようになった事は本年 度の大きな成果であった。2005 年 10 月に行われた共生プロ課題 1・2・4 合同運営委員会で発表 した際、質問、コメントも多く、大きな手応えがあった。個別に「いよいよ出来て来たね」との 感想も聞いた。あらためて思うに、当事者は将来の姿をそれなりに描いているが、これまでの開 発途中の断片的報告を聞いていた部外の人には「統合モデル」がどんなものか、何を目指してい るか必ずしも実感を伴って理解されていなかったかもしれない。 合同運営委で共生プロ終了後 AR5 に向けてどうするかの討論で、次は統合モデルによる温暖化 予測が中心という事で見解が一致し、具体的に KISSME を中心とした開発・改良体制も話し合わ れた。「次」に向けて大気化学を含めた統合モデルを最終年度中に作り上げねばならない。 9 Ⅱ. 研究成果の概要 2.サブテーマごと、個別項目ごとの概要 (1)炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル ① 陸域炭素循環モデル 人為的温室効果ガス排出による地球環境変動予測モデルを構築する上で、陸域生態系によ る炭素循環をシミュレートするモデルを構築し、当課題で構築する地球システム統合モデル に組み込み、温暖化予測を行うことが当サブグループの目標である。平成 17 年度は、(1) 陸 域炭素循環-気候結合モデル(Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM)による 20 世紀中の炭素循環の 再現、(2) 観測データによる陸域炭素循環モデル(Sim-CYCLE)の高度化の 2 点について作業 を行った。 その結果、(1)開発した結合モデルは、20 世紀の炭素循環をうまく表現することができ、 モデルの利用可能性は高いと考えられた。(2) MODIS 衛星観測データを利用した、パラメー タ値の最適化によって、将来予測性のあるデータ同化の手法開発を行い、陸域モデルの推定 精度向上に寄与する可能性があることが示された。 ② 海洋生物地球化学モデル 昨年度の段階で、大気海洋結合炭素循環モデルによる予備的な温暖化実験は終了していたが、 特に陸域生態系モデルについてパラメーター・チューニングが充分に行われておらず、高い 信頼度を得るためにはいくつか再実験を行う必要があった。本年度において、パラメータ ー・チューニングおよび再実験が終了した。このモデルにより、地球温暖化に対し気候変化 と炭素循環の相互作用がもたらすフィードバックの強さを調べる実験を行った結果、相互作 用は大気中二酸化炭素濃度を高める方向に働き、温暖化を加速する正のフィードバック効果 を持つことがわかった。温暖化により土壌有機物の分解が促進されるのが、その主な原因で ある。この結果において、2100 年時点での二実験間における二酸化炭素濃度差は 130ppmv で ある。これは地表平均気温に換算して 1 度程度にあたり、有意な量といえる。平成 18 年 3 月現在、他のパラメータセットを用いた感度実験も実行中である。ここで結果は、2007 年に 発行が予定されている IPCC の第 4 次報告書に反映される可能性が高い。また数年程度のタ イムスケールにおいて、 気温の変化に追随して CO2 濃度が変化する現象が観測されているが、 類似の現象がモデル結果においても再現されていることが確認された。ただし気温変化と CO2 濃度変化の間のタイムラグは観測よりモデル結果の方が長い。また温暖化した際に海洋 の CO2 吸収量が減る原因について詳細な解析を行ったところ、温度変化以外にも全炭酸・ア ルカリ度の海洋表層における分布の変化が有意な役割を果たしていることが分かった。さら に、植物・動物プランクトンの種構成を陽に表現したモデルを用いた実験も行い、10 年スケ 10 Ⅱ. 研究成果の概要 ールの気候変動が海洋表層生態系に与える影響について調べた。 ③ 陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築 陸面生態系機能を、数百年から数千年といった時間スケールにおいてシミュレートするため には、気候変動に伴う植生分布までを考慮に入れた動的全球植生モデル(DGVM)が必要と される。本サブグループの目標は、独自に DGVM を開発し、そのパフォーマンスを十分に 検証した後に地球統合モデルに結合させる事である。平成 17 年度は、前年度までに開発を 終えた SEIB-DGVM の更なる改良と、その性能チェックを行った。これまでの試行計算にお いて SEIB-DGVM は、植物生態系において典型的に観察される幾つかの現象、また現在の気 候条件における植生分布や生態系機能分布を再現することに、ある程度まで成功した。 (2)温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 ① 温暖化・大気組成変化相互作用 温暖化・大気組成変化相互作用サブモデルでは大気化学過程(オゾン分布など)やエアロ ゾルの温暖化および海洋・陸域植生変化との相互作用を表現・予測することを主な目的とし ており、CCSR/NIES AGCM を土台とした全球化学モデル CHASER やエアロゾルモデル SPRINTARS を用いてエアロゾル・化学のオンライン計算を可能にすることが大きな課題で ある。H17年度(以下、本年度と記す)はまず CHASER モデルに成層圏オゾン変動過程 を簡略的に導入し全球オゾン濃度場の将来予測実験を IPCC-SRES 各シナリオに従って行っ た。将来の温暖化が大気化学過程に及ぼす影響はH16年度(以下、前年度と記す)までに 行った実験で明らかになって来ているが、今回の実験からはさらに将来の成層圏オゾンの変 動がどのような影響を与えるかについて解析を行った。特に将来の成層圏オゾン量の回復は オゾンの成層圏/対流圏間交換(STE)に大きく影響し、どのシナリオにおいても対流圏オ ゾンの全球総量を増加させることが分かった。一方で今回考慮した成層圏オゾン変動は全球 平均のメタンや硫酸エアロゾル濃度にはほとんど影響を与えないことを確認した。また、前 年度より CHASER モデルを用いて IPCC 第 4 次報告書に貢献する実験を行ってきているが、 これについても引き続きリード・オーサー等と連絡をとりながら解析を進めている。本年度 はさらに CHASER モデルに成層圏化学過程を導入する作業を進め、成層圏化学用の光解離 定数の計算法構築・改良、成層圏化学反応の導入、およびエミッションデータの整備を行っ た。今回の成層圏化学対応作業により CHASER 中で考慮する化学種は 79 種類、化学反応は 213 本(成層圏での不均一反応を含まず)となった。 ② 温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 本研究テーマでは、雲とエアロゾルの相互作用の気候影響を評価するために、エアロゾル輸 11 Ⅱ. 研究成果の概要 送と雲の微物理過程を詳細に表現できる数値モデルを開発することを目的としている。非静 力学ビン法雲微物理モデルを用いて昨年度得られた成果である雲の光学特性に関して、エア ロゾルの影響に着目した数値実験を行い、衛星観測で得られている特徴を再現した。また、 地球環境フロンティア研究センターで開発された全球非静力学雲解像モデル NICAM にエア ロゾル化学輸送モデル SPRINTARS を実装する作業を進めた。 (3)寒冷圏モデル開発 温暖化に対する氷床の応答特性や海水準への影響を調べるため、高解像度大気海洋結合モデ ルによる推定、大気海洋モデル結果を氷床モデルに入力した推定、炭素循環を含む地球シス テムモデルへの氷床モデルの組み込み、氷床変動に関するモデルの不確定性要因の検討を行 なった。MIROC3.2 高解像度版と中解像度版を用いたSRESシナリオ(A1B およびB1)温暖 化実験では、グリーンランドと南極氷床の海水準への寄与は各々高解像度モデルでそれぞれ 15cm海面上昇と5cm海面低下となり海洋熱膨張よりは小さいこと、高度の変化傾向は最近 の観測事実と矛盾のない結果を得られることがわかった。さらに長期影響を調べるため、CO2 4倍増加実験やSRESシナリオの濃度を与え続けた大気海洋結合モデル実験結果を、現実をよ く表現するよう開発された氷床モデル(Saito and Abe-Ouchi, 2004, 2006)に入力した。CO24倍 増実験では2000年ほどでグリーンランド氷床はほぼ消滅し海水準が6メートル上昇、また SRES シナリオの濃度を21世紀末以降も200年与え続けた結果を用いると21世紀末に気 温を固定した場合に比べて長期的な影響が持続して最終的に氷床が消滅するほどであるこ とがわかった。氷床モデルの不確実性を明らかにするため、数値手法および質量収支モデル の2点も検討し、氷床消滅に至る条件における不確実性の程度も明らかにした。同期した大 気-氷床結合(部分統合モデル)の計算を可能にするためのプログラム改変はほぼ終了し、現 在調整を続けている。 (4)気候物理コアモデル改良 大気・海洋・陸地面の主として物理過程から成る気候モデル(CCSR/NIES モデル、既存) で成層圏の諸プロセスを改良もしくは新しく取り入れたモデルを開発する。 大気モデル(AGCM)の改良に関しては、現モデルで不十分な中層大気(成層圏・中間圏)の 諸プロセスの改良を図る。即ち、中層大気中への人為起源物質の侵入により、中層大気特有 のオゾン層の物理・化学過程と太陽からの放射の変動が相互に影響し合って中層大気の変動 を引き起こすと共に、それが下層対流圏の変動と結合して気候変動を生じる機構をモデル実 験によって明らかにする。また、内部重力波の挙動とそれが大気循環に及ぼす影響を超高解 像度大気モデルによって明らかにする。 12 Ⅱ. 研究成果の概要 本年度は、大気・海洋・陸面・炭素循環・大気化学・エアロゾル過程の結合が完了した統合モデ ルの中層大気への拡張と、成層圏で必要な物理過程コンポーネント(σ-p ハイブリッド座標 系・新放射コード・Hines パラメタリゼーション)の導入を主に行い、統合モデルのプログラ ム間のバージョン整理・統一作業を行った。また、放射コードと鉛直解像度の変更に伴って、 大気上端の放射収支が変わることから、対流圏の雲水分布に関するチューニングに着手した。 計算コードの高速化に関しては、従来の MPI ノード間並列に加えて、地球シミュレーターの ノード内並列化機能を利用できるように、コードの改良を行った。高解像度 AGCM を用い た大気内部重力波の研究に関しては,Hines 非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションの改 良のため、引き続き行った。また、地球温暖化時における重力波の運動量フラックス変化の 推定のために、共生第一課題・住グループの温暖化実験の結果を解析し、論文にまとめた。 3.波及効果、発展方向、改善点等 気候変化が炭素循環に及ぼす効果が正のフィードバックを持つ事が明らかになってから、今後 は炭素循環を含めた統合モデルで温暖化予測を行うべきだ、という考えが世界全体の流れになっ て来た。日本でも 2005 年 10 月に行われた共生プロジェクト 1・2・4 合同運営委員会の際に共生 プロジェクト終了後、IPCC 第 5 次報告書に向けた研究戦略の検討において、統合モデルを中心に 温暖化実験を行うべき、との意見が強く出された。従って、当プロジェクトは、当初予定したよ うに今回は「開発」が主目的であったが、次回の「実用」につなげて行く事がいよいよ大事にな って来た。その観点で技術的な問題を考えると、多くの専門分野のプロセスを統合するモデルの 構造として、現在採用している集中統合型ばかりでなく分散連結型も考えて置く必要があろう。 アメリカの NCAR における Community Climate System Model では分散連結型、即ち多くの専門 家が作った特定プロセスのモデルをカプラーでつないで統合モデルとする構造をとっている。大 学連合の共同利用施設という性格上必要とされた方針と思われる。ヨーロッパでは、各センター のものとは別に多数のサブシステム・モデルをつなぐ PRISM という EU プロジェクトが行われて いる。我々は既存の物理気候モデルを基礎に炭素循環、化学などの諸プロセスを直接つけ加えて 不可分のひとつのモデルを作ってきた。一つのチームでベストの予測実験を行おうという場合は、 このような集中統合型が向いているし効率も良い。世界の他のセンターで当初分散型を試み、後 に集中型に変えた所もあるようだ。 しかし、 「統合モデル」が開拓段階の時は携わる人も少人数だから集中型で良かったが、前述の 流れに沿ってこれから多くの人が統合モデルによる研究をしたり改良に参画したりするようにな る事を考えると、従来のものに加え分散型構造への変換も考慮する必要があろう。 13 Ⅱ. 研究成果の概要 4.研究成果の発表状況 <口頭発表> ○陸域炭素循環モデル Kato, T., Ito, A. Development of the coupled climate-terrestrial carbon cycle model. ESA 90th Annual Meeting, to be held jointly with the INTECOL IX International Congress of Ecology, Montreal, Canada, 2005 年 8 月 10 日. Kato, T., Ito, A. Development of the coupled climate-terrestrial carbon cycle model. Seventh International Carbon Dioxide Conference, Broomfield, USA, 2005 年 9 月 26 日. Ito, A., Kato, T., Sato, H., Yoshikawa, C., Kawamiya, M., and Matsuno, T. (2006) Development of the Frontier Research Center for Global Change coupled climate and carbon cycle model. American Association for the Advancement of Science (AAAS), 2006 年 2 月 20 日,米国ミズー リ州セントルイス. 加藤知道、伊藤昭彦.気候―陸域炭素循環結合モデルの開発.日本気象学会 2005 年度春季大会, 東京都文京区,2005 年 5 月 16 日. 加藤知道. -Earth Simulator を用いた将来予測-. 公募シンポジウム「陸域生態系の炭素動態と 地球温暖化」 .日本生態学会第 53 回大会, 新潟市, 2006 年 3 月 28 日. ○海洋生物地球化学モデル Aita, M. N., K. Tadokoro, Y. Yamanaka and M. J. Kishi: Interdecadal variation of the lower trophic ecosystem in the Northern Pacific between 1948 and 2002 - in a 3-D implementation of the NEMURO model. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Aita, M. N., K. Tadokoro, Y. Yamanaka and M. J. Kishi: Interdecadal Variation of the Lower Trophic Ecosystem in the Sub-Arctic Northern Pacific between 1948 and 2002, using a 3D-NEMURO coupled Model. Climate Variability and Sub-Arctic Marine Ecosystems (ESSAS), Victoria, B.C., Canada, May 16-20, 2005. 14 Ⅱ. 研究成果の概要 Aita, M. N., K. Tadokoro, Y. Yamanaka and M. J. Kishi: Interdecadal variation of the lower trophic ecosystem in the Northern Pacific between 1948 and 2002, using a 3-D physical-NEMURO coupled model-. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Fujii, M., N. Yoshie, Y. Yamanaka, F. Chai: Simulated biogeochemical responses to iron enrichments in three high nutrient, low chlorophyll (HNLC) regions. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Hashioka, T., Y. Yamanaka and T. Sakamoto: Response of lower trophic level ecosystem to global warming in the western North Pacific. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Hahioka, T. and Y. Yamanaka: Ecosystem Change in the Western North Pacific Associated with Global Warming Obtained by 3-D NEMURO, FRA/APN/IAI/GLOBEC/PICES Joint Workshop "Global comparison of sardine, anchovy and other small pelagics ? building towards a multi-species model", Tokyo, 14-17 Nov. 2005. Hashioka T. and Y. Yamanaka: Seasonal and Regional Variations of Phytoplankton Groups by Topdown and Bottom-up Controls Obtained by a 3-D Ecosystem Model. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Hashioka, T. and Yamanaka, Y.: Change in rain ratio associated with global warming obtained by a 3-D ecosystem model. A Pilgrimage Through Global Aquatic Sciences: ASLO Summer Meeting 2005, Santiago de Compostela, Spain, June 19-24, 2005. Ito, S., K. A. Rose, M. A. Noguchi, B. A. Megrey, Y. Yamanaka, F. E. Werner and M. J. Kishi: Interannual response of fish growth to the 3-D global NEMURO output with realistic atmospheric forcing. Part II: Pacific saury growth. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Kurahashi-Nakamura, T., A. Abe-Ouchi, Y. Yamanaka, and K. Misumi: -Interglacial Variations of Atmospheric CO2 Concentration: A Modeling Study for the Effect of Southern Ocean, AGU Fallmeeing, San Francisco, U.S.A., December 5-9, 2005. 15 Ⅱ. 研究成果の概要 M. Kawamiya, Development of an Integrated Earth System Model at FRCGC, 日独ワークショッ プ, 2005 年 10 月 31 日−11 月 1 日, 東京大学気候システム研究センター. M. Kawamiya, Development of an integrated earth system model on the Earth Simulator, Workshop on Current problems in Earth System Modelling, 2005 年 11 月 24,25 日, JAMSTEC 横 浜研究所 M. Kawamiya, C. Yoshikawa, T. Kato, T. Matsuno, Development of an integrated earth system model on the Earth Simulator, 2005 AGU Fall meeting, 2005 年 12 月 5−9 日, サンフランシ スコ(米国). M. Kawamiya, Interannual variations of atmospheric CO2 and their implication to climate - carbon cycle interactions, 2006 年 2 月 23−25 日, アルバカーキ(米国). Megrey, B. A., K. A. Rose, D. Hay, F. E. Werner, R. A. Klumb, M. J. Kishi, D. W. Ware and Y. Yamanaka: A Coupled Lower and Higher Trophic Level Marine Ecosystem Model of the North Pacific Ocean including Pacific Herring. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. N. Yoshie and Y. Yamanaka: Processes causing the temporal changes in Si/N ratios of nutrient consumption and export flux during the spring diatom bloom. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Rose, K. A., B. A. Megrey, F. E. Werner, Y. Yamanaka, M. A. Noguchi, S. Ito, and M. J. Kishi: Interannual Response of Fish Growth to the 3-D Global NEMURO Output with Realistic Atmospheric Forcing. Part I: Latitudinal Differences in Pacific herring growth. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Smith, S. L. and Y. Yamanaka: Examining the value of exploiting variations in bulk stoichiometry for modeling material flows through ecosystems. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Smith, S. L., B. E. Casareto, M. P. Niraula, Y. Suzuki, J. D. Annan, J. C. Hargreaves and 16 Ⅱ. 研究成果の概要 Y.Yamanaka: Examining the regeneration of nitrogen by assimilating data from incubations into a multi- element ecosystem model. .Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. T. Hashioka and Y. Yamanaka: Temperature dependency of rain ratio obtained by a 3-D ecosystem-biogeochemical model. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Werner, F. E., K. Rose, B. A. Megrey, M. A. Noguchi, Y. Yamanaka: Simulated Herring Growth Reponses in the Northeastern Pacific to Historic Temperature and Zooplankton Conditions Generated by the 3-Dimensional NEMURO NPZ Model. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Werner, F. E., K. A. Rose, B. A. Megrey, D. Hay, R. A. Klumb, D. W. Ware, M. J. Kishi and Y. Yamanaka: Latitudinal differences in Pacific herring growth response to climatic variability. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Yamanaka Y., M.J. Kishi, M.N. Aita, T. Hashioka, A. Ishida, Y. Sasai, F. Shido and N. Yoshie: Current status of our group: development of Eulerian version of 3D-NEMURO.FISH and etc. FRA/APN/IAI/GLOBEC/PICES Joint Workshop "Global comparison of sardine, anchovy and other small pelagics ? building towards a multi-species model", Tokyo, 14-17 Nov. 2005 Yamanaka, Y., T. Hoshioka, M. N. Aita and M. J. Kishi: Changes in ecosystem in the western North Pacific associated with global warming. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Yamanaka, Y., T. Hashioka, M. N. Aita and M. J. Kishi: Changes in ecosystem and pelagic fish in the western North Pacific associated with global warming. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Yamanaka, Y and T. Hashioka: Ecosystem change in the western North Pacific due to global change obtained by 3-D ecosystem model. A Pilgrimage Through Global Aquatic Sciences: ASLO Summer Meeting 2005, Santiago de Compostela, Spain, June 19-24, 2005. 17 Ⅱ. 研究成果の概要 Y. Yamanaka, T. Hashioka and M. N. Aita: Ecosystem change in the western North Pacific due to global change obtained by 3-D ecosystem model. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Yoshie, N., S. Takeda, P. W. Boyd and Y. Yamanaka: Modelling studies investigating the mechanisms causing high silicic acid to nitrate uptake during SERIES: an iron-fertilization experiment in the subarctic Pcific. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Yoshie, N., Y. Yamanaka and S. Takeda: Development of a marine ecosystem model including intermediate complexity iron cycle. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Yoshie, N., M. Fujii and Y. Yamanaka: Ecosystem changes after the SEEDS iron fertilization in the western North Pacific simulated by a one-dimensional ecosystem model. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Yoshie, N. and Yamanaka, Y.: Processes causing the temporal changes in si/n ratios of nutrient consumption and export flux during the spring diatom bloom. A Pilgrimage Through Global Aquatic Sciences: ASLO Summer Meeting 2005, Santiago de Compostela, Spain, June 19-24, 2005. Yoshikawa, C., Y. Yamanaka and T. Nakatsuka: A study of the marine nitrogen cycle using an ecosystem model including nitrogen isotopes. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. 石田明生, 相田真希, 山中康裕: モデルによる表層pCO2の再現とバリデーションにおけるデータ の必要性, 2006年度日本海洋学会春季大会, 横浜, 2006年03月26日-30日. 河宮未知生・吉川知里・加藤知道・松野太郎, 温暖化が大気海洋 CO2 交換に与える影響, 2005 年 度日本海洋学会秋季大会, 2005 年 9 月 28 日−30 日, 仙台市戦災復興記念館. 河宮未知生・吉川知里・加藤知道・松野太郎, 地球環境変化予測のための地球システム統合モデ 18 Ⅱ. 研究成果の概要 ルの開発, 2005 年度日本気象学会秋季大会, 2005 年 11 月 20−22 日, 神戸大学. 山中康裕: 多様なニーズに答える様々な海洋物質循環-生態系モデリング, 炭素循環および温室 効果ガス観測ワークショップ, 東京, 2005年10月10日-11日. 山中康裕:水産資源に影響を与える気候変動. 独立行政法人海洋研究開発機構一般講演会「地球環 境シリーズ」地球生態系の明日を考える地球観測と予測, 東京, 2005年8月5日. ○ 陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築 Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, ESA-INTECOL 2005 joint meeting, Montreal, 2005. Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 11th US-Japan Workshop on Global Change, Yokohama, 2005. (ポスター) Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 11th US-Japan Workshop on Global Change, Yokohama, 2005. (ポスター) Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 1st iLEAPS Science Conference, Boulder USA, 2006.(ポ スター) Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, The 8th International Workshop on Next Generation Climate Models for Advanced High Performance Computing Facilities, Albuquerque USA, 2006. 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 南西諸島における森林生態系研究に関する現状と展望, 琉 球大学農学部亜熱帯フィールド科学教育研究センター, 2005. 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 日本気象学会 2005 年秋季大会, 神戸大学, 2005. 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 横浜国立大学オープンセミナー, 横浜国立大学, 2005. 19 Ⅱ. 研究成果の概要 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 第 53 回日本生態学会大会, 新潟コンベンションセンター, 2006. ○温暖化・大気組成変化相互作用 Sudo, K., Akimoto H., and Takahashi M., Source attribution of global tropospheric O3 and CO: where do they come from ?, International Association of Meteorology and Atmospheric Sciences, Beijing, China, 1-11 August, 2005. Sudo, K., Akimoto H., and Takahashi M., Past/Future Climate change impacts on atmospheric chemistry in a chemistry coupled climate model, 1st ACCENT Symposium, Urbino, Italy, 12-16th September, 2005. Sudo, K., Atmospheric chemistry and aerosols modeling in the FRCGC Earth System model, 1st German-Japan Workshop on Numerical Climate Modeling, Kashiwa, Chiba, Japan, 31st Oct - 1st Nov , 2005. Sudo, K., Takigawa M., Nagashima T., and Takahashi M., Chemistry-Aerosol modeling in the FRCGC Earth System Model, 1st UJCC International Workshop on Current Problems in Earth System Modelling, Yokohama, Japan, 24-25th Nov., 2005. 須藤健悟、秋元肇、 「オゾン・COの全球分布・収支の起源と全球規模長距離輸送」、第 16 回大気 化学シンポジウム、豊川、2006 年 1 月 11-13 日。 滝川雅之、「気塊年代スペクトルを用いた CCSR/NIES 大気大循環モデルにおける物質輸送検証実 験」、オゾン連絡研究会、神戸、2005 年 11 月. ○温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 Suzuki, K., T. Nakajima, T. Y. Nakajima, and T. Iguchi, 2005: Numerical study of the aerosol effect on water cloud optical properties with non-hydrostatic spectral microphysics cloud model. International Association of Meteorology and Atmospheric Science (IAMAS), Scientific Assembly, Beijing, China, 2-11. August. Suzuki, K., T. Nakajima, and T. Y. Nakajima, 2005: Characteristics of water cloud optical 20 Ⅱ. 研究成果の概要 property as simulated by non-hydrostatic spectral microphysics cloud model. Cloud Modeling Workshop, Fortcollins, CO, 6-8 July. 鈴木健太郎、中島映至、中島孝:衛星観測で得られた水雲の光学特性のビン法雲モデルによる解 釈, 日本気象学会秋季大会, 神戸大学, 2005 年 11 月 20-22 日. ○気候物理コアモデル改良 S. Watanabe, M. Takahashi, and K. Sato, Orographic gravity waves over Antarctica excited by Katabatic winds; a GCM study, IAGA2005 Scientific Assembly, July 21, Toulouse, France. S. Watanabe, Development of Chemistry Coupled Models at CCSR/NIES/FRCGC, IAGA2005 Scientific Assembly, July 21, Toulouse, France. S. Watanabe, M. Takahashi, and K. Sato, GCM Studies on Atmospheric Gravity Waves: Gravity Waves over Antarctica, CAWSES workshop, September 13, Nagoya University. S. Watanabe, On source spectra for the Hines gravity wave drag parameterization in KISSME, The 8th International Workshop on Next Generation Climate models for Advanced High Performance Computing Facilities, February 24, Albuquerque, USA. <論文発表> ○陸域炭素循環モデル Friedlingstein, P., Cox, P., Betts, R., Bopp, L., von Bloh, W., Brovkin, V., Cadule, P., Doney, S., Eby, M., Fung, I., Govindasamy, B., John, J., Jones, C., Joos, F., Kato, T., Kawamiya, M., Knorr, W., Lindsay, K., Matthews, H. D., Raddatz, T., Rayner, P., Reick, C., Roeckner, E., Schnitzler, K.-G., Schnur, R., Strassmann, K., Weaver, A.J., Yoshikawa, C., and Zeng, N., 2006. Climate-carbon cycle feedback analysis, results from the C4MIP model intercomparison, Journal of Climate, in press. Gu, S., Tang, Y., Cui, X., Kato, T., Du, M., Li, Y., Zhao, X., 2005. Energy exchange between the atmosphere and a meadow ecosystem on the Qinghai-Tibetan Plateau. Agric. For. Meteorol. 129(3-4), 175-185. Hirota, M., Tang, Y., Hu, Q., Hirata, S., Kato, T., Mo, W., Cao, G., Mariko, S., 2006. Carbon 21 Ⅱ. 研究成果の概要 Dioxide Dynamics and Controls in a Deep-water Wetland on the Qinghai-Tibetan Plateau. Ecosystems, in press. Hirota, M., Tang, Y., Hu, Q., Kato, T., Hirata, S., Mo, W., Cao, G., Mariko, S., 2005. The potential importance of grazing to the fluxes of carbon dioxide and methane in an alpine wetland on the Qinghai-Tibetan Plateau. Atmospheric Environment 39, 5255-5259. Ito, A. 2005. Climate-related uncertainties in projections of the 21st century terrestrial carbon budget: off-line model experiments using IPCC greenhouse gas scenarios and AOGCM climate projections. Climate Dynamics 24: 435-448. Ito, A. 2005. Regional variability in the terrestrial carbon-cycle response to global warming in the 21st century: simulation analysis with AOGCM-based climate projections. Journal of the Meteorological Society of Japan 83: 251-259. Kato, T., Tang, Y., Gu, S., Hirota, M., Du, M., Li, Y., Zhao, X., 2006. Temperature and biomass influences on interannual changes in CO2 exchange in an alpine meadow on the Qinghai-Tibetan Plateau. Global Change Biology, in press. Kato, T., Kamichika, M., 2006. Determination of a crop coefficient for evapotranspiration in a sparse sorghum field. Irrigation and Drainage, 55(2), 165-175. Kato, T., Hirota, M., Tang, Y., Cui, X., Li, Y., Zhao, X., Oikawa, T., 2005. Strong temperature dependence and no moss photosynthesis in winter CO2 flux for a Kobresia meadow on the Qinghai-Tibetan Plateau. Short communication, Soil Biol. Biochem. 37(10), 1966-1969. Kawamiya, M, C. Yoshikawa, T. Kato, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, T. Matsuno, 2006. Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, Journal of Earth Simulator, 4, 18-30. ○海洋生物地球化学モデル Friedlingstein, P., P. Cox, R. Betts, L. Bopp, W. von Bloh, V. Brovkin, P. Cadule, S. Doney, M. Eby, I. Fung, G. Bala, J. John, C. Jones, F. Joos, T. Kato, M. Kawamiya, W. Knorr, K. Lindsay, H. D. Matthews, T. Raddatz, P. Rayner, C. Reick, E. Roeckner, K.-G. Schnitzler, 22 Ⅱ. 研究成果の概要 R. Schnur, K. Strassmann, A. J. Weaver, C. Yoshikawa, and N. Zeng, Climate - carbon cycle feedback analysis, results from the C4MIP model intercomparison, Journal of Climate, in press. 2006. Fujii M., Y. Yamanaka, Y. Nojiri, M. J. Kishi, F. Chai: Simulated temporal variations in biogeochemical processes at the subarctic western North Pacific Station KNOT (44°N, 155° E). Ecol. Modeling., (in press). Fujii, M., N. Yoshie, Y. Yamanaka and F. Chai: Comparison of the simulated biogeochemical responses to the iron fertilization in three high-nitrate low-chlorophyll (HNLC) regions. Progr. Oceanogr., 64, 307-324, doi:10.1016/j.pocean.2005.02.017. 2005. Hashioka, T. and Y. Yamanaka: Ecosystem Change in the Western North Pacific Associated with Global Warming Obtained by 3-D NEMURO, Ecol. Modeling., (in press). Hashioka, T. and Y. Yamanaka: Seasonal and Regional Variations of Phytoplankton Groups by Top-down and Bottom-up Controls Obtained by a 3-D Ecosystem Model. Ecol. Modeling., (in press). M. Kawamiya, C. Yoshikawa, T. Kato, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, and T. Matsuno, Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, Journal of the Earth Simulator, 4, 18-30, 2005. N. Yoshie, M. Fujii and Y. Yamanaka: Changes of the ecosystem with the iron fertilization in the western North Pacific simulated by a one-dimension ecosystem model. Progr. Oceanogr., 64, 283-306, doi:10.1016/j.pocean.2005.02.014., 2005. Smith, S. L., B. E. Casareto, M. P. Niraula, Y. Suzuki, J. C. Hargreaves, J. D. Annan, Y. Yamanaka: Examining the Regeneration of Nitrogen by Assimilating Data from Incubations into a Multi-element Ecosystem Model. J. Marine Sys., (in press). Yoshie, N. and Y. Yamanaka: Processes causing the temporal changes in Si/N ratios of nutrient consumptions and export flux during the spring diatom bloom. J. Oceanogr., 61, 1059-1073, 2005. 23 Ⅱ. 研究成果の概要 Yoshikawa, C., Y. Yamanaka and T. Nakatsuka: Nitrogen isotopic patterns of nitrate in surface waters of the western and central equatorial Pacific. J. Oceanogr., (in press). Yoshikawa, C., Y. Yamanaka and T. Nakatsuka: An ecosystem model including nitrogen isotopes: Perspectives on a study of the marine nitrogen cycle. J. Oceanogr., 61, 912-942, 2005. ○陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築 Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A New Dynamic Global Vegetation Model using a Spatially Explicit Individual-Based Approach, Submitted to Ecological Modelling. Kawamiya, M., C. Yoshikawa, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, and T. Matsuno, Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, Journal of Earth Simurator, 4, 18-30, 2005. ○温暖化・大気組成変化相互作用 Dentener F., D.Stevenson, K.Ellingsen, T.van Noije, M.Schultz1, M.Amann, C.Atherton, N.Bell, D.Bergmann, I.Bey, L.Bouwman, T.Butler, J.Cofala, B.Collins, J.Drevet, R.Doherty, B.Eickhout, H.Eskes, A.Fiore, M.Gauss, D.Hauglustaine, L.Horowitz, I.Isaksen, B.Josse, M.Lawrence, M.Krol, J.F.Lamarque, V.Montanaro, J.F.Muller, V.H.Peuch, G.Pitari, J.Pyle, S.Rast, J.Rodriguez, M.Sanderson, N.H.Savage, D.Shindell, S.Strahan, S.Szopa, K.Sudo, R.Van Dingenen, O.Wild, G.Zeng, The global atmospheric environment for the next generation, Environmental Science & Technology, in press, 2005. Gauss, M. , Myhre, G., Isaksen, I. S. A., Grewe, V., Pitari, G., Wild, O., Collins, W. J., Dentener, F. J., Ellingsen, K., Gohar, L. K., Hauglustaine, D. A., Iachetti, D., Lamarque, J. -F., Mancini, E., Mickley, L. J., Prather, M. J., Pyle, J. A., Sanderson, M. G., Shine, K. P., Stevenson, D. S., Sudo, K., Szopa, S. and Zeng, G., Radiative forcing since preindustrial times due to ozone change in the troposphere and the lower stratosphere, Atmospheric Chemistry and Physics, Vol. 6, pp 575-599, 24-2-2006. Irie, H., K. Sudo, H. Akimoto, A, Richter, J.P. Burrows, T. Wagner, M. Wenig, S. Beirle, Y. Kondo, V.P. Sinyakov, and F. Goutail, Evaluation of long-term tropospheric NO2 data obtained by GOME over East Asia in 1996-2002, Geophys. Res. Letters., 32, L11810 24 Ⅱ. 研究成果の概要 doi:10.1029/2005GL022770, 2005. Kawamiya, M., C. Yoshikawa, T. Kato, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, and T. Matsuno, Development of an Integrated Earth System Model on the Earth simulator, J. Earth Sim., 4, 2005. Stevenson D.S., F.J. Dentener, M.G. Schultz, K. Ellingsen, T.P.C. van Noije, O. Wild, G. Zeng, M. Amann, C.S. Atherton, N. Bell, D.J. Bergmann, I. Bey, T. Butler, J. Cofala, W.J. Collins, R.G. Derwent, R.M. Doherty, J. Drevet, H.J. Eskes, A.M. Fiore, M. Gauss, D.A. Hauglustaine, L.W. Horowitz, I.S.A. Isaksen, M.C. Krol, J.-F. Lamarque, M.G. Lawrence, V. Montanaro, J.-F. Muller, G. Pitari, M.J. Prather, J.A. Pyle, S. Rast, J.M. Rodriguez, M.G. Sanderson, N.H. Savage, D.T. Shindell, S.E. Strahan, K. Sudo, and S. Szopa, Multi-model ensemble simulations of present-day and near-future tropospheric ozone, J. Geophys. Res., in press, 2005. M.G. Lawrence, O. Hov, M. Beekmann, J. Brandt, H. Elbern, H. Eskes, H. Feichter, and M. Takigawa, The Chemical Weather, Environ., Chem., 2, 6-8, doi:10,1071/EN05014, 2005. Takigawa, M, K. Sudo, H. Akimoto, K. Kita, N. Takegawa, Y. Kondo, and M. Takahashi: Estimation of the contribution of intercontinental transport during PEACE campaign by using a global model, J. Geophys. Res., 110, D21313, doi:10.1029/2005JD006226, 2005. ○温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 Suzuki, K., T. Nakajima, T. Y. Nakajima, and A. Khain, 2006: Correlation pattern between optical thickness and effective radius of water clouds simulated by a spectral bin microphysics cloud model. Geophys. Res. Lett. in review. ○寒冷圏モデル Annan,J., J.C.Hargreaves, R.Ohgaito, A.Abe-Ouchi and S.Emori, 2005, Efficiently Constraining Climate Sensitivity with Ensembles of Paleoclimate Simulations. SOLA, Vol.1, 181-184, doi:10.2151/sola. 2005-047. Jost , A, M.Lunt, M.Kageyama, A.Abe-Ouchi, O.Peyron, P.J.Valdes, and G.Ramstein, 2005, High resolution simulations. Of the last glacial maximum climate over Europe: a solution to 25 Ⅱ. 研究成果の概要 discrepancies with continental paleoclimatic reconstructions? Climate Dynamics, DOI 10.1007/s00382-005-0009-4. Kageyama, M., S.P. Harrison and A. Abe-Ouchi (2005) The depression of tropical snowlines at the Last Glacial Maximum: what can we learn from climate model experiments? Quaternary International, in press. Kageyama, M., A.Laine, A. Abe-Ouchi and 17 members, 2006, Last Glacial Maximum temperatures over the North Atlantic, Europe and Western Siberia: A comparison between PMIP models, MARGO sea-surface temperatures and pollen-based reconstructions, Quaternary Science Reviews, in press.Saito, F. and A. Abe-Ouchi. (2006) Dependence of simulation and sensitivity of Greenland ice sheet to numerical procedures for ice sheet dynamics. Annals of Glaciology, 42, in press. Masson-Delmotte, V., M.Kageyama, P.Braconnot, S.Charbit, G.Krinner, C.Ritz, E.Gailyardi, J.Jouzel, A.Abe-Ouchi and 17members, 2005, Past and future polar amplification of climate change: climate model intercomparison and Ice-Core constraints. Climate Dynamics, DOI 10.1007/s00382-005.0081-9. Saito, F. and A. Abe-Ouchi (2005) Thermal Structure of Dome Fuji and East Queen Maud Land, Antarctica, simulated by a three-dimensional ice sheet model. Annals of Glaciology, 39, in press. Saito, F. and Abe-Ouchi, A. Sensitivity of Greenland ice sheet simulation to the numerical procedure employed for ice sheet dynamics. Ann. Glaciol. 42, in press. Saito. F, A.Abe-Ouchi, H.Blatter, 2006, EISMINT model intercomparison experiments with higher order mechanics. Jounal of Geophysical Research, in press. Suzuki, T, H. Hasumi, T.T. Sakamoto, T. Nishimura, A. Abe-Ouchi, T. Segawa, N. Okada, A. Oka and S. Emori, 2005, Geophysical Research Letters, 32, L19706, doi:10.1029/2005GL023677 Yamagishi, T., A. Abe-Ouchi, F. Saito, T. Segawa and T. Nishimura (2006) Reevaluation of paleo-accumulation parameterization over northern hemisphere ice sheet during the ice age 26 Ⅱ. 研究成果の概要 with a high resolution atmospheric GCM and a 3-D ice sheet model. Annals of Glaciology, 42, in press. ○気候物理コアモデル改良 Watanabe, S., K. Sato, and M. Takahashi, Orographic gravity waves over Antarctica excited by Katabatic winds; a GCM study, J. Geophys. Res., 2006 (submitted). Watanabe, S., T. Nagashima, and S. Emori, Impact of global warming on gravity wave momentum flux in the lower stratosphere, SOLA, vol.1, 189-192, 2005. 5.国際共同 (協力) 研究の状況 (1) 本研究に関連の深い国際協力の枠組み A.気候変動に関する政府間パネル第 1 作業部会の第4次評価報告書に向けた動向 z AR4 本文(専門要約、及び各章)執筆の状況 IPCC 第 1 作業部会(WG1)の AR4 本文の執筆に関しては、すでに平成 16 年(2004 年)9 月の第 1 回 WG1 責任執筆者(LA=Lead Author)会合(トリエステ)に基づいて作成された第 0 次原稿 (ZOD=Zero Order Draft)が平成 17 年 1 月半ばにまとめられたている。それに対する専門家による非 公式レビューが平成 17 年(2005 年)4 月初めまでに寄せられ、 5 月中旬に開かれた第 2 回 LA 会合(北 京)での討論を経て、8 月までに第 1 次原稿(FOD=First Order Draft)に更新された。FOD は、専門差 読者(ER)による公式の査読にかけられた。その結果は、12 月中旬に開かれた WG1 の第 3 回 LA 会合(ニュージーランド・クライストチャーチ)での討論を経て第 2 次原稿(SOD=Second Order Draft) となり、平成 18 年(2006 年)4 月 7 日に、各国政府および ER に送付され、査読が開始される。そ の後の予定としては、査読を受けた、6 月の WG1 の第 4 回 LA 会合での検討をへて最終原稿がま とめられ、10 月 27 日に各国政府に送付されて査読が開始される。その結果をふまえ、平成 19 年 (2007 年)に開かれる WG1 全体会合(場所未定、1 月 29 日∼2 月 1 日)で、受諾がなされる。 AR4 の気候変化予測(AR4 の第 10、11 章)や、気候変化原因特定(第 9 章)などに関して、2005 年 は 2004 年に続き大きな進展があった。これらの分野の評価を進めるために、IPCC/WG1(共同議 長:Susan Solomon 及び Dahe Qin)は、世界気候研究計画(WCRP=World Climate Research Programme) の結合モデル作業部会(WGCM=Working Group on Coupled Modelling、部会長:John Mitchell)の下で 進められている、結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP=Coupled Model Intercomparison Project、 27 Ⅱ. 研究成果の概要 主査:Gerald Meehl)と協力し、世界の気候モデルグループに要請し 20 世紀再現実験、漸増予測実 験、シナリオ予測実験などの結果は 2004 年 9 月までに気候モデル診断・相互比較プログラム (PCMDI= Program for Climate Model Diagnosis and Intercomparison)に提出された。これらの計算結果 の利用に関する解析研究が公募され、研究が進められてきたが、主にモデル結果比較研究などの 解析研究結果は、2005 年 3 月上旬にハワイでのワークショップで発表され、WG1 の LA に早い段 階で成果を伝える機会となった。ただ、実際に AR4 に反映させるためには、原則として、2005 年 12 月には専門査読のある学術誌に受諾されることがスケジュール的に必要とされており、各研 究グループではそのための努力が注がれてきた。 z 政策決定者向けの要約(SPM)執筆状況 IPCC/WG1 による、AR4 の政策決定者向けの要約(SPM=Summary for Policy Makers)に関しては、 松野太郎共生 2 代表を含む執筆者チームが、平成 17 年(2005 年)5 月までに選出された。同チーム により、ZOD は 9 月までに作成され、非公式査読にかけられ、その結果に基づいて、執筆者チー ムの会合が上記第 3 回 LA 会合の直後に同地で開かれて検討され、それに基づいて原稿がまとめ られ、上記の本文の SOD と同時に各国政府及び ER による査読が開始される。その後のスケジュ ールは、上記本文と同じであり、最終的には、上記 WG1 全体会合において、行ごとの(line by line) の承認を審議する。本文は SPM の承認がなされた後、それとの整合性の観点からの調整を前提に 受諾されることになる。 z IPCC 全体の状況 平成 17 年(2005 年)4 月にエチオピア・アジスアベバにおいて、第 23 回 IPCC 総会が開かれ、そ の直前に同地で開かれた WG1・WG3 の第 2 回合同会合で審議された「オゾン層及び気候システ ムの保護に関する特別報告書」を受諾した。これは、今後のオゾン層破壊物質の代替え物質で温 室効果を有するものに関し、オゾン層破壊の今後の見通しをふまえ、科学・技術的な面と対応政 策の面について、政策に適切な知見をまとめた報告書である。 9 月にはカナダ・モントリオールで第 24 回 IPCC 総会が開かれ、その直前同地で開かれた WG3 の第 8 回会合で審議された「二酸化炭素の回収・貯留に関する特別報告書」を受諾した。また、 この総会では、IPCC の新排出シナリオに関する審議がなされた(下記 B 参照)。さらに、今後の AR4 のアウトリーチについても、活発な討論がなされたが審議は次回(第 25 回 IPCC 総会: 平成 18 年 4 月にモーリシャスにて開催予定)に継続となった。 また、関連する気候変動枠組み条約(UNFCCC=United Nations Framework Convention on Climate Change)の下では 5 月にドイツ・ボンで、同条約の締約国会議(COP=Conference of Parties)の分科会 である、科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA=Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice の第 22 回会合(SBSTA22)が開かれたほか、11∼12 月には、第 11 回締約国会 28 Ⅱ. 研究成果の概要 議 (COP11)、京都議定書が 2 月に発効したことに伴うその第 1 回締約国会合(COP/MOP1=1st Meeting of the Parties serving as the Conference of Parties to the Kyoto Protocol)、及び SBSTA の第 23 回会合(SBSTA23)がカナダ・モントリオールで開催された。COP11 では、IPCC から要請に基づき、 IPCC 統合報告書案の検討時間を確保するため 2007 年 11 月開催予定であった COP13 の日程を 4 週間延期するという懸案が正式に承認された。 B. 今後の IPCC 活動:新排出シナリオに関する状況 第 3 次評価報告書(TAR)や AR4 においては、基本的に「排出シナリオに関する IPCC 特別報告書 (SRES=Special Report on Emission Scenarios、2000 年)」による排出シナリオに基づいた気候変化予 測の成果がまとめられているが、その後の国際状況の加味や、モデル予測研究との連携などに関 して、新排出シナリオを検討する必要性が指摘されてきた。IPCC/WGⅢでは、新排出シナリオに関 するワークショップ(オーストリア・ラクセンブルグ、平成 17 年 6 月 29 日∼7 月 1 日)を開催し、 新排出シナリオと研究手順に関し 3 つのオプションについて議論した。 ¾ オプション A:IPCC は単に出てくる関係論文をレビューするだけ。 ¾ オプション B:IPCC はシナリオ作成の手順を示し、ワークショップ開催等を調整するが、 シナリオは各国の研究者が独自に作成する。IPCC はその結果を評価する。 ¾ オプション C: SRES のように、研究者による世界的な検討グループを結成して、新シナリ オを作り、それをモデル予測に用いる。 上記 IPCC 第 24 回総会では、このワークショップの討論内容が報告され、以下に関して検討す る任務を帯びた新排出シ ナリオ に関 するタ スク グルー プ*(TGNES=Task Group on Emission Scenarios)の設置が承認され、第 25 回総会におけるこの課題の審議に際して、TGNES による検討 結果が報告されることになっている: 9 IPCC が果たすべき、推進役(Facilitation)、調整役(Coordination)の詳細 9 排出シナリオ開発プロセスより得られる成果 9 新しい排出開発のプロセスとスケジュール 9 シナリオの調整、評価、利用に関する IPCC の活動の組織的整備 日本からは、共生課題 2 の江守正多(国立環境研)、甲斐沼美紀子(国立環境研)の両氏がメンバー に選定されている。江守氏によれば、TGNES では、上記ワークショップでの議論をふまえ、改め て 3 つの案が検討中である。 ¾ 案 1:新排出シナリオが気候モデルの予測実験に用いられる前に、SRES に似た中間評価と 特別報告書の作成を行なう:AR5 は 2014 年にずれ込む可能性がある。 ¾ 案 2:新排出シナリオの中間評価は何らかの形で簡略化し、 AR5 は 2013 年に間に合わせる。 ¾ 案 3:気候モデル予測実験に用いる新排出シナリオをまず決める。その後、気候モデル予 29 Ⅱ. 研究成果の概要 測実験と社会経済シナリオの作成を並行して行なう(影響評価も可能な範囲で平行して行 なう)。新排出シナリオの中間評価は必要ない。AR5 は 2013 年完成。 WG1 関係者からは、将来の AR5 に向けた研究で地球システムモデルによるモデル実験が本格 的に行われるようになることを想定して、エアロゾル、オゾン前駆物質、土地利用変化等を含む 地域的に詳細なシナリオが必要である点が指摘されている。この観点から、WCRP/WGCM と IGBP/AIMES の共催により、地球システムモデルに必要なシナリオの詳細な仕様を検討するワー クショップが、CMIP 主査 Gerald Meehl らにより、2006 年 9 月の開催が企画されている。 IPCC25 回総会(モーリシャス、今年 4 月)では、主要な議題の 1 つとして、TGNES の報告に基づ く、新排出シナリオについての今後の策定方針について審議する予定である。 (2)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)への関与 =IPCC WG1 国内支援事務局の運営= 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 4 次報告書(AR4)へ寄与する為、IPCC関連会合の開 催及び参加を通し、温暖化予測研究の手法の比較、情報交換、専門家としての意見の提供、動向 調査等を行った。その成果は、会合及びホームページを通じて関係者へ報告した。主な活動は下 記のとおり: z 「IPCC WG1 国内幹事会」を開催し、事業計画の策定や情報交換を行った。 (2005 年 6 月、9 月、2006 年 2 月) z 「第 3 回 IPCC 国内連絡会」の支援(2005 年 6 月)及び「第4回 IPCC 国内連絡会」の支援(2006 年 3 月)を行い、国内の他作業部会関係者との情報交換と取り組みに関しての検討を行った。 z 「国連気候変動枠組み条約第 11 回締結国会議(COP11)及び京都議定書発効に伴う第 1 回締結 国会議(MOP1)」での文部科学省主催展示ブースを企画・運営し、日本の温暖化予測研究(共 生プロジェクト)を世界に発信した。(2005 年 12 月) z 下記の IPCC 関連会合及びワークショップ出席者の IPCC への推薦及び旅費支援を行った。 「第 23 回 IPCC 総会及び第 2 回 WG1/WG3 合同会合」 (2005 年 4 月エチオピア) 「第 2 回 IPCC−WG1 LA 会合」(2005 年 5 月中国) 「第 24 回 IPCC 総会」(2005 年 11 月カナダ) 「第 3 回 IPCC-WG1 LA 会合」(2005 年 12 月ニュージーランド) 「国連気候変動枠組み条約第 11 回締結国会議(COP11)及び京都議定書発効に伴う第 1 回締結 30 Ⅱ. 研究成果の概要 国会議(MOP1)」(2005 年 12 月) z IPCC WG1 国内支援事務局のホームページを通じて、IPCC 関連会合及びワークショップ等の報 告や最新情報を国内に発信した。(随時) z IPCC 関連のコメント等の紹介取り纏め(随時) (付録) 共生第2課題が運営に関与した国際会合のアジェンダ The 8th International Workshop on Next Generation Climate Models for Advanced High Performance Computing Facilities Program VENUE: Hilton, Albuquerque, USA DATE: February 23-25, 2006 February 23(Thursday) 08:00-08:30 Registration Welcome 08:30-08:40 Welcome Speech by David Kahaner (Asian Technology Information Program (ATIP)) Opening Session 08:40-08:50 Opening Remark by Akimasa Sumi (Convener: Center for Climate System Research, The University of Tokyo) - Objectives of The 3rd “Kyousei “International Workshop and the 8th International Workshop on the Next-generation Climate models for Advanced High Performance Computing Facilities Session 1: 08:50-09:20 Kyosei-Project: Keynote Session Masahide Kimoto (Center for Climate System Research, The University of Tokyo) - High-resolution coupled ocean–atmosphere modeling for climate studies 09:20-09:50 Akira Noda (Meteorological Research Institute) - The SST dependence found in time-slice experiments with a 20-km-mesh AGCM 09:50-10:20 Michio Kawamiya (Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology) 31 Ⅱ. 研究成果の概要 - Dealing with complexity in climate modeling 10:20-10:40 Session 2: 10:40-11:10 Break Advanced Computing & Facility: Keynote Session William Camp (Sandia National Laboratories) - Petascale Computing for Environmental Sciences-architectural requirements 11:10-11:40 Erik DeBenedictis (Sandia National Laboratories) - Petaflops Exaflops and Zettaflops for Climate Modeling 11:40-12:10 Yoshio Oyanagi (The University of Tokyo) - Prospects for Future Supercomputing in Japan 12:10-13:30 Session 3: 13:30-13:50 and Energy Lunch Climate Modeling 1 Koki Maruyama (Central Research Institute of Electric Power Industry) - Global warming projections for IPCC AR4 and CRIEPI's future perspective on new models 13:50-14:10 14:10-14:30 14:30-14:50 Peter Gent (National Center for Atmospheric Research) - Changes in Ocean Ventilation during the 21st Century in the CCSM3 Junichi Tsutsui (Central Research Institute of Electric Power Industry) - Atmospheric impacts of 11-year solar variability in climate experiments by the Whole Atmosphere Community Climate Model (WACCM) Hideki Kanamaru (Scripps Institution of Oceanography) - High Resolution Dynamical Downscaling by Regional Spectral Model 14:50-15:10 Philip Jones (Los Alamos National Laboratory) - POP, HYPOP, CICE and other acronym development (AD) 15:10-15:30 Session 3: 15:30-15:50 Break Climate Modeling 2 Keiichi Nishizawa (Central Research Institute of Electric Power Industry) - Regional Precipitation Changes Due to the Poleward Shift of Storm Tracks in the Global Climate Projections for the 21st Century 15:50-16:10 Hisashi Sato (Frontier Research Center for Global Change, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology) - SEIB-DGVM, a new Dynamic-Global-Vegetation-Model using a Spatially-Explicit Individual-Based approach 16:10-16:30 Shingo Watanabe (Frontier Research Center for Global Change, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology) - On source spectra for the Hines gravity wave drag parameterization in KISSME 16:30-16:50 Norikazu Nakashiki (Central Research Institute of Electric Power Industry) - Study on the Effect of Stabilization and Overshoot Scenarios 16:50-17:10 Kazutaka Yamada (Japan Meteorological Agency) - Orographic gravity wave drag parameterization for high-resolution 32 Ⅱ. 研究成果の概要 global model 17:10-17:30 Kengo Miyamoto (Advanced Science and Technology Organization / Japan Meteorological Agency) - A New Dynamical Core for the JMA/MRI High-Resolution Global Spectral Atmospheric Model 17:30-17:50 Ryouji Nagasawa (Japan Meteolorogical Agency) - Improvement of a radiation process for the non-hydrostatic model 17:50-18:10 Cecelia DeLuca (National Center for Atmospheric Research) - The Earth System Modeling Framework and the Earth System Curator 19:00- Reception & Poster Session February 24(Friday) 08:00-08:30 Session 4: 08:30-08:50 Registration Future Climate Modeling 1 Masaki Satoh (Center for Climate System Research, The University of Tokyo) - A multi-scale structure of tropical convection simulated with the 3.5km-mesh global cloud resolving model 08:50-09:10 Marat Khairoutdinov (Colorado State University) - Evaluation of the intraseasonal and interannual variability of climate as simulated by a CSU Multi-Scale Modeling Framework 09:10-09:30 Chiashi Muroi (Meteorological Research Institute) - High resolution regional climate simulation using nonhydrostatic model 09:30-09:50 Yoshiharu Iwasa (Center for Climate System Research, The University of Tokyo) - Atmospheric Experiments using RAMS over the Tropical and Subtropical Band Region around the Whole Globe 09:50-10:10 Session 4: 10:10-10:40 Break Future Climate Modeling 2 John Dennis (National Center for Atmospheric Research) - Performance Tuning of the POP2 barotropic solver - HOMME: A High-Performance Scalable Atmospheric Modeling Framework 10:40-11:00 Osamu Arakawa (Advanced Earth Science and Technology Organization) - Tropical rainfall diurnal variation in a 20km-mesh atmospheric GCM 11:00-11:20 George Backus (Sandia National Laboratories) - Simulating the Strategic Adaptation to Climate Change 11:20-11:40 Patrick Worley (Oak Ridge National Laboratory) - Performance and Scalability of the Community Atmospheric Model 11:40-12:00 Bill Spotz & Mark Taylor (Sandia National Laboratories) - Massively Parallel Performance of the HOMME Spectral Element Atmosphere Model 12:00-12:30 Yun (Helen) He (Lawrence Berkeley National Laboratory) - Efficient parallel I/O with ZioLib in Community Atmosphere Model (CAM) 33 Ⅱ. 研究成果の概要 - MPH: a Library for Coupling Multi-Component Models on Distributed Memory Architectures and its Applications 12:30-12:50 Rene-Andreas Redler (NEC Europe Ltd.) - The OASIS4 Multigrid Search Algorythm: Design and First Results 12:50-14:20 Session 5: Lunch Future Computing: Keynote Session 14:20-14:50 Doug Kothe (Oak Ridge National Laboratory) - TBD 14:50-15:20 Ryutaro Himeno (RIKEN) - Next Generation Supercomputer R&D Project in Japan 15:20-15:50 Yasumasa Kanada (The University of Tokyo) - Computer systems at the Information Technology Center, the University of Tokyo - Past and Present 15:50-16:20 Jonathan Carter(Lawrence Berkeley National Laboratory) - Climate Simulations at NERSC: Past and Future 16:20-16:40 Break Vendor Session 16:40-17:00 Toshifumi Takei(NEC) - NEC’s Parallel Vector Supercomputer and its Application to Weather and Climate Simulation 17:00-17:20 Per Nyberg (Cray Inc.) - Microprocessors versus Vector Processors: The Wrong Debate ? 17:20-17:40 Yaoko Nakagawa (Hitachi Ltd.) - Hitachi Super Technical Server SR11000 K1’s Performance of Meteorological Codes 17:40-18:00 Wrap-up 19:00- Conference Dinner February 25(Saturday) 08:30-12:00 08:00-08:30 Registration 08:30-12:00 Free Discussion 12:00 34 End Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Ⅲ.研究成果の詳細報告 1.炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル 1−1.陸域炭素循環モデル 担当機関:地球環境フロンティア研究センター 研究者名:伊藤昭彦(生態系変動予測研究プログラム) 加藤知道(生態系変動予測研究プログラム) 田中克典(水循環変動予測研究プログラム) 及川武久(生態系変動予測研究プログラム・筑波大学 生物科学系) a.要約 人為的温室効果ガス排出による地球環境変動予測モデルを構築する上で、陸域生態系による炭 素循環をシミュレートするモデルを構築し、当課題で構築する地球システム統合モデルに組み込 み、温暖化予測を行うことが当サブグループの目標である。平成 17 年度は、(1) 陸域炭素循環気候結合モデル(Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM)による 20 世紀中の炭素循環の再現、(2) 観測デー タによる陸域炭素循環モデル(Sim-CYCLE)の高度化の 2 点について作業を行った。 その結果、(1)開発した結合モデルは、20 世紀の炭素循環をうまく表現することができ、モデル の利用可能性は高いと考えられた。(2) MODIS 衛星観測データを利用した、パラメータ値の最適 化によって、将来予測性のあるデータ同化の手法開発を行い、陸域モデルの推定精度向上に寄与 する可能性があることが示された。 b.研究目的 現在の地球の炭素収支においては、人為的(化石燃料消費・土地利用変化等)に排出された二 酸化炭素(1980 年代で約 7PgC/年)のうち、約半分が大気中に残留し、残り半分が海洋・陸域に吸収 されている。陸域生態系は、グローバルな観点からも地球の炭素収支に重要な役割を果たしてい る。しかし、現在の炭素循環研究において、陸域生態系の炭素収支は未解決の問題が多く、さら に、温室効果ガス排出による将来の地球環境変動予測においても予測の不確定性を大きくする要 因の一つと考えられている。地球システム統合モデルを用いたいくつかの研究を比較すると、将 来の二酸化炭素濃度や気候変動予測は、モデル間によって大きく異なり(例えば Friedlingstein et al. 2003)、陸域生態系の地球環境変動に対する炭素収支の応答の違いが一つの大きな要因と考えられ 35 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 ている。 本サブグループの目的は、(1)陸域生態系炭素循環をより高精度で推定するモデルを構築し、(2) 当課題において構築される地球システム統合モデルに組み込むことである。 大気と陸域植生間の炭素収支としては、植物による光合成と植物と土壌生物による呼吸が主で あるが、長期の生態系を再現するために、生態系内部における複雑多様な過程を考慮する必要が ある。それらの生理生態学性質に関して解明されていることは少なく、一般的モデルの導出は困 難であることから、経験的な部分を残しつつも誤差の少ないパラメタリゼーションを目指す必要 がある。そのために、共生第 3 (陸域生態系)などの観測プロジェクトと連携を深めつつモデル化を 進める。 地球システム統合モデルへの組み込みに当たっては、現在の大気―海洋結合大循環モデル (AOGCM)に対して、陸域炭素循環モデルを結合させることにより、気候と炭素循環の相互作用を 考慮した、より信頼性の高いシミュレーションが可能となる。例えば、温暖化によって寒冷地で の植生生長期間が伸び、植生が CO2 をより多く吸収し、CO2 濃度上昇を緩和する方向に働くこと もあれば、温暖化によって、土壌有機物分解速度が加速し、CO2 濃度上昇を促進させることもあ る。こういった気候と炭素循環のリンクを考慮したシミュレーションが可能となる。 c.研究計画・方法・スケジュール ・平成 14∼16 年度: 陸域モデルの単体評価 地球システム統合モデルの構築に際しては、個々のコンポーネントが十分に検証されている必 要がある。モデルの検証については、(1)共生第 3 (陸域)の地上観測グループや、環境省総合研究 推進費 S1 のフラックスグループなどによる大気―陸域間の水・熱・二酸化炭素交換の継続観測デ ータを用いた小面積ベースの検証、(2)共生第 3 (陸域)の衛星観測グループなどによる広域的な植 生活動の衛星観測データ(LAI, 光合成有効放射の吸収率, 植生の光合成生産量)とモデル推定値の 比較、などを行う。 上記のモデルの検証と並行して、モデルのオフライン評価を行う。過去∼現在のグローバルス ケールでの炭素収支を再現し、将来の二酸化炭素濃度・気候変動シナリオ条件下での陸域炭素循 環の変動をシミュレートする。種々の温室効果ガス排出シナリオ条件下で再現された気候シナリ オを用いて、現在の統合モデル研究における将来予測の不確定性の要因について、オフラインシ ミュレーションによる解明を進める。 ・平成 14∼16 年度:陸域統合モデルの構築と大気大循環モデルへの結合 陸域統合モデルの構築に当たって、当グループでは、炭素循環を再現する Sim-CYCLE モデル(Ito and Oikawa, 2002)と、熱・水循環を再現する MATSIRO モデル(Takata et al., 2003)の双モデルを結合 することで、最も効率よく達成される。大気―陸域の相互作用について、Sim-CYCLE による LAI に基づいて MATSIRO が熱・水交換と光合成速度を計算する。その MATSIRO による光合成量に 36 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 基づいて、Sim-CYCLE が植生の各部への分配、呼吸や枯死による消費、土壌中での分解といった 生態系内部の諸過程を計算する。つまり MATSIRO は大気から陸域への CO2 吸収、Sim-CYCLE は 陸域からの CO2 放出を推定することで合計として正味の交換量を得るという相補的な関係にある。 ・平成 15∼17 年度:統合モデル相互比較プロジェクト参加のためのモデル拡張 国際的には、当プロジェクト以外にも統合モデルへの試みはいくつか存在する。その背景から、 より総合的な評価を行うために、地球システム統合モデルの国際比較プロジェクト(Coupled Climate Carbon Cycle Model Intercomparison Project: C4MIP; 気候―炭素循環結合モデル相互比較プ ロジェクト)が平成 15 年度に提示された。現在、各研究機関が比較のためのモデルシミュレーシ ョンを行っている。当課題でも、このプロジェクトに参加することが国際的な競争を行う上での 必須条件と考え、取り組みを進める。第一段階として、20 世紀の CO2 濃度や土地利用変化データ をモデルの入力として与え、陸域炭素循環モデルと大気大循環モデルの相互作用の評価を行うこ ととなっており、実験の手順書(プロトコル)も提示されている。この対応を行う。 ・平成 16∼18 年度 次の段階として、陸域生態系の構造的変化を考慮するための拡張が行われる。当課題の陸域動 態サブグループが開発する全球動的植生分布モデル SEIB-DGVM とリンクすることで、生態系を 構成する植物機能タイプ(常緑広葉樹、低木、草地など)の組成変化を考慮した、より現実に近い予 測実験を行うことを目指す。すなわち、MATSIRO と Sim-CYCLE、植生動態モデルをリンクした 陸域炭素循環の統合的なモデルを構築し、水・熱収支―炭素収支―植生分布の変化が気候システ ムに与える影響を導入した統合モデルによる予測実験の実施がなされる。 d.平成 17 年度研究計画 本年度は、(1) Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM の結合モデルによる 20 世紀中の炭素循環の再現、 (2) 観測データによる Sim-CYCLE の高度化の 2 点を行う。詳細は以下の通り。 (1) Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM の結合モデルによる 20 世紀中の炭素循環の再現 昨年度までに、気候―陸域炭素循環結合モデルのコードの整備やパラメータチューニングがほ ぼ完了した。しかしながら、このモデルを用いて将来予測をするためには、十分な精度の検証が 必要である。そこで、今年度は 20 世紀中の炭素循環を再現し、モデルの妥当性を検証すると共に、 20 世紀の炭素動態の詳細把握を試みた。 (2) 観測データによる Sim-CYCLE の高度化:共生3-陸域課題との協力 陸域生態系炭素循環モデルによるシミュレーションには大きな不確実性が残されていることが、 モデルの相互比較実験や観測データとの比較検証から示唆されている。共生第3-陸域課題では衛 37 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 星観測、野外観測、実験を通じて陸域生態系に関するデータ収集を行っており、そのデータを用 いた陸域生態系モデル(例えば共生第2課題の地球システム統合モデルで使用されている炭素循 環モデル Sim-CYCLE)の高度化が今後の重要な課題となっている。そこで本年度は、共生第3陸域課題と連携を取りつつ、陸域生態系モデルに含まれる生理生態パラメータの高度化について、 特に衛星データを利用した手法について検討を行う。 e.平成 17 年度研究成果 研究計画に則り、(1) Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM の結合モデルによる 20 世紀中の炭素循環 の再現、(2) 観測データによる Sim-CYCLE の高度化の 2 点を行った。詳細を以下に示す。 e.1.Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM の結合モデルによる 20 世紀中の炭素循環の再現 1. はじめに 昨年度に完成した気候−陸域炭素循環結合モデル(Sim-CYCLE-MATSIRO-AGCM)を用いて、20 世紀中の全球炭素動態と土地利用変化による炭素放出量との関係を調べた。 Forcing データとして、英国 Hadley Centre で作成された海表面温度 SST と大気放射過程に CO2 濃度の年々変化を与えた。また、我々のモデルでは、土地利用変化による炭素動態変化プロセス (Houghton et al., 1983)を導入しており、その入力値として、ウィスコンシン大学 SAGE グループに よって作成された、土地利用変化のデータを与えた。このデータは、0.5o の空間分解能で作成さ れていたが、モデルの分解能に合うように内挿し利用した。 陸域炭素プールについて、安定した初期値を作成するために、次のような手順でスピンナップ ランを行った。①各グリッドの炭素プールに、ごく小さな値(0.001 Mg C/ha)を代入し、Sim-CYCLE 単体にて、1000 年間実行する。入力する気候データとしては、結合モデルによってあらかじめ作 成された 1875-1899 年までのシミュレーション結果を、40 回繰り返し利用した。②作成された炭 素プールデータを初期値として、結合モデルを 1875 年から 1899 年までの 25 年間について、3 回 繰り返し計算させた。これによって、1900 年 1 月 1 日の、結合状態において安定した炭素プール の初期値が作成された。 2.陸域炭素動態の変化 全球積算した純一次生産量(NPP)と従属栄養生物呼吸(HR)は、100 年間に徐々に増加し、1990 年 代の平均値は 1900 年代のものより NPP で 6.7% 、HR で 4.7%増加していた (図1.上図) 。一方 で、それらの差し引きである生態系純生産(NEP: NPP-HR)は、±2.0 Pg C yr-1 の幅で変動しており、 20 世紀前半では平均的に見て中立的であったが、20 世紀後半はおおよそ正の値を示しており、 陸域生態系が大気 CO2 のシンクであったことを示している(図1.下図黒線)。しかしながら、土 地利用変化による炭素の放出量(LUCefflux)を考慮した場合、しばしば陸域の正味炭素吸収量が負に 38 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 なることがわかった(NEP-LUCefflux; 図 1.下図赤線)。この LUCefflux は、東南アジアや南米で特に 大きく、100 年間の全球の総計は、44.4 Pg C にものぼり、全球の炭素循環に及ぼす影響はとても 大きいということがわかった。 64 NPP Carbon flux (Pg C yr-1) 62 60 HR 58 4 NEP 2 0 -2 NEP - LUC efflux -4 1900 1920 1940 1960 1980 2000 year 図1: 陸域生態系における全球炭素動態 次に、NPP と HR の増加の原因を調べるために、SST のみを 1900 年で固定したコントロール実験 (SST-ctrl)と CO2 濃度のみを 1900 年で固定したコントロール実験(CO2-ctrl)を行った(図 2)。その 結果、NPP について、SST-ctrl の値は基準値(Normal)と近い動きを示したが、CO2-ctrl は Normal よりも大幅に下回った。このことから、20 世紀中の NPP の増加は、温暖化よりもむしろ CO2 濃 度増加による光合成速度の上昇によってもたらされた可能性が示唆された。 一方で、HR は CO2-ctrl が NPP と同様にほとんど変化しなかったのに対して、SST-ctrl では値が増 加したが、その度合は Normal と CO2-ctrl の中間的なものであった。このことから、20 世紀中の HR の増加は、温暖化による微生物活動の活発化と、CO2 濃度増加による NPP 上昇に伴ったリタ ーや土壌バイオマス等の呼吸基質の増加という二つのプロセスが原因であることが示唆された。 39 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 66 64 a) NPP Normal Carbon flux (Pg C yr-1) 62 SST-ctrl 60 58 CO2-ctrl 56 66 64 b) HR SST-ctrl 62 Normal 60 58 CO2-ctrl 56 1900 1920 1940 1960 1980 2000 year 図2: 陸域生態系における(a)NPP と(b)HR の推移 (Normal: 図1上図と同等, SST-ctrl: SST のみを 1900 年で固定したコントロール ラン, CO2-ctrl: CO2 濃度のみを 1900 年で固定したコントロールラン) 3.全球炭素収支 1959 年より大気輸送モデルを利用し、大気 CO2 濃度の変化を調べた(図 3)。その結果、推定さ れた全球平均の大気 CO2 濃度は、マウナロアと南極の地上ステーションで観測された大気 CO2 濃 度の重み付け平均値と同様の年々変化・季節変化を示した。また、1980 年代の陸域の平均炭素吸 収量は、NEP が+0.62 Pg C yr-1、LUCefflux が-0.51 Pg C yr-1 と、同様の土地利用変化プロセスを取り 370 CO2 concentration (ppmv) Observation (0.25*spo+0.75*mlo) 360 350 340 Simulation 330 320 310 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 year 図3: 大気 CO2 濃度の変化。観測値(Observation)は、南極とマウナロアの観測値を 0.25 と 0.75 を掛けて足したものを採用している。 40 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 入れた非結合型の陸域モデルによる推測値(それぞれ+2.3 ∼ +1.1、0.6 ∼ 1.0 Pg C yr-1; McGuire et al., 2001)とは比較的近い値をとったが、インベントリーデータからの計算値(それぞれ+2.40, -2.00 。しかしながら、結果とし Pg C yr-1; Houghton, 2003)と比べて絶対値が大幅に小さくなった(表1) て全球の大気 CO2 濃度は、観測値と非常に良く合致しており、開発した結合モデルは 20 世紀の炭 素循環をうまく表現することができたと考えられる。 表1: 1980 年代における平均全球炭素収支(単位: Pg C yr-1)。 本研究 化石燃料による放出* McGuire et al. (2001) Houghton (2003) 5.4 5.4 ± 0.3 海洋による吸収* † -2.2 -1.7 ± 0.6 陸域による吸収† -0.1 -1.5 ~ -0.3 -0.4 ± 0.7 0.5 0.6 ~ 1.0 2.0 ± 0.8 -0.6 -2.3 ~ -1.1 -2.4 ± 1.1 ※分割された値(下二行) 土地利用変化に伴う放出 (LUCefflux) 陸域生態系による吸収† (-NEP) 大気CO2濃度の増加分 * 3.3 ± 0.1 3.3 本研究ではあらかじめ用意したデータを利用。 † 負の値は”吸収”を示す。 e.2.観測データによる Sim-CYCLE の高度化:共生3-陸域課題との協力 1. 共生第3-陸域課題との情報交換:観測研究の概要 共生第3課題「陸域生態系モデル作成のためのパラメタリゼーションに関する研究」は、総括 機関である東京大学生産技術研究所(代表:安岡善文)および、北海道大学と森林総合研究所が 主要な参画機関となっている。当プロジェクトの主目的は、陸域生態系の炭素循環に関する各種 観測データを取得し、それを用いてモデル Sim-CYCLE(Ito and Oikawa, 2002)に含まれるパラメ タリゼーションの高精度化を図ることである。このような課題の設立が必要となった背景には、 現在の陸域生態系モデルによる推定・予測には大きな不確実性が残されており、地球システム統 合モデルを用いた将来の温暖化予測の信頼性を高めるには、その不確実性を低減することが不可 欠という事情がある。2005 年 6 月 30 日に共生第3-陸域課題の運営委員会に参加し、当課題で行 われている主要4テーマの概要と状況を把握した。 I. 衛星リモートセンシングによる広域スケールでの陸域植生モニタリング 東大生産研および森林総研により、MODIS などによる全球陸域植生における葉面積指数(LAI) や光合成有効放射吸収率(fAPAR)の観測に関するアルゴリズム開発、検証、モデルでの利用 41 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 に関する研究が行われている。 II. 東シベリアカラマツ林における火災が炭素収支に与える影響の観測 東シベリアのヤクーツク近郊において、カラマツ林を対象とした CO2 収支のフラックス観測お よび土壌呼吸などの調査が行われている。そこでは森林火災が炭素収支に与える影響に焦点が 当てられており、火災後の熱水収支の変化が永久凍土の融解を引き起こすなどの地域特有な現 象解明が試みられている。 III. 札幌羊が丘サイトにおける CO2 フラックスおよび炭素循環要素の観測 札幌市羊が丘の森林総合研究所構内の冷温帯落葉広葉樹林において、渦相関法による CO2 フラ ックス観測および土壌呼吸や個葉特性などの調査が実施されている。このサイトは 2004 年秋に 台風により森林と観測タワーは甚大な被害を受けたが、観測設備が再建され、森林倒壊後の回 復過程における炭素収支の変化に関する観測が行われている。 IV. 北海道大学構内における高 CO2 濃度への植物暴露実験 将来の高 CO2 濃度環境が植物の生理過程および動態に与える影響について、樹木を対象とした 研究はほとんど行われていなかった。本研究では Free-Air CO2 Enrichment(FACE)システムを 用いて稚樹を高 CO2 濃度環境で成育させる実験を行い、栄養条件の差による施肥効果の程度の 違いなどについて検討が行われている。 2. 観測データを用いた Sim-CYCLE の高度化の試み モデルにおいて観測データを利用する方法には、入力、較正、検証などいくつかの方法がある。 共生3-陸域課題ではパラメタリゼーションの高度化を目指しており、既存モデルで使用している パラメータ値の検証と再較正だけでなく、最終的にはデータ同化による逐次的なパラメータ修正 と予測システムへの発展をも視野に入れている。実際、前年度までに MODIS による全球スケー ルの LAI および fAPAR データを用いた、ナッジング法による光合成生産量推定の高度化が実施さ れた(Hazarika et al., 2005)。また、東シベリアにおける観測データは、景観スケールの火災様式炭素循環結合モデル(Ito, 2005)で利用されている。 一方、ナッジング法ではパラメータ値の補正は行われないため、将来予測に対する精度向上は 見込めない。そのため、今年度は同様に MODIS による LAI および fAPAR を用いるが、パラメー タ値の最適化による将来予測性のあるデータ同化の手法開発を試みた(東大生産研との共同研究)。 データの利用可能性やモデル中での重要性に関する検討の末、個葉の形態パラメータである比葉 面積(SLA、Specific Leaf Area)を対象パラメータとした。従来の地球システムモデルなどで使用 されている陸域モデルの SLA は植生タイプごとの定数であり、季節変化や空間変化は考慮されて いない。一方、SLA は葉の炭素重量と表面積を関係付ける重要なパラメータと考えられている。 ここでは、モデルから炭素収支式で推定された葉重量と、衛星観測による LAI を関係付けるよう 42 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 SLA 値の最適化を行った。その結果、SLA には顕著な植生タイプ内での空間変動および季節変動 が生じていることが示唆され、ここで得られた SLA を将来予測に用いることでモデルシミュレー ションの精度向上に寄与する可能性があることが示された。 f.考察 f.1.Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM の結合モデルによる 20 世紀中の炭素循環の再現 今年度は、結合モデルの推定可能性を検証するために、20世紀における炭素循環の再現を中心 に行ってきた。その結果、開発した結合モデルは、20世紀の炭素循環をうまく表現することがで き、モデルの利用可能性は高いと考えられた。次年度は、この結合モデルを用いて将来予測実験 を行うとともに植生変化の機能を取り入れるための改良を行う予定である。具体的には、 Sim-CYCLE−MATSIRO−AGCM結合モデルを用いた21世紀中の気候−炭素動態相互作用変化の 予測と、当課題の陸域動態サブグループが開発する動的植生分布モデルSEIB−DGVMの導入を行 う予定である。 f.2.観測データによる Sim-CYCLE の高度化:共生3-陸域課題との協力 陸域生態系モデルによるデータ同化は、最近の重要テーマの一つであり、すでに欧州で行われ ている CarboEuro では CCDAS(Carbon Cycle Data Assimilation System)、米国では LDAS(Land Data Assimilation System)や EcoCast といったプロジェクトが進行中である。そこではいずれも、フラ ックス観測などの地上データと、衛星観測による広域データ、時には大気 CO2 濃度の観測データ が取得され、陸域モデルの高度化へと集約されようとしている。このような流れの中、共生3-陸 域課題において同様な試みを開始したことは非常に重要な進展と見ることができる。今後は衛星 観測以外の取得データ(例:フラックス観測、生態系調査、FACE 実験)を利用したモデル高度 化に着手し、陸域モデルの不確実性の低減をさらに加速させることが重要と考えられる。 g.引用文献 Friedlingstein, P., Dufresne, J. L., Cox, P. and Rayner, P. 2003. How positive the feedback between climate change and the carbon cycle. Tellus 55B, 692-700. Hazarika, M., Y. Yasuoka, A. Ito, and D. G. Dye. 2005. Estimation of net primary productivity by integrating remote sensing with an ecosystem model. Remote Sensing of Environment 94:298-310. 43 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Houghton, R.A., Hobbie, J.E., Melillo, J.M., Moore, B., Peterson, B.J., Shaver, G.R., and Woodwell, G.M. (1983) Changes in the carbon content of terrestrial biota and soils between 1860 and 1980: A net release of CO2 to the atmosphere, Ecological Monographs., 53, 235-262. Houghton, R. A. 2003. Revised estimates of the annual net flux of carbon to the atmosphere from changes in land use and land management. Tellus 55B, 378-390. Ito, A. 2005. Modelling of carbon cycle and fire regime in an east Siberian larch forest. Ecological Modelling 187:121-139. Ito, A., and T. Oikawa. 2002. A simulation model of the carbon cycle in land ecosystems (Sim-CYCLE): A description based on dry-matter production theory and plot-scale validation. Ecological Modelling 151:147-179. McGuire, A. D., Sitch, S., Clein, J. S., Dargaville, R., Esser, G., Foley, J., Heimann, M., Joos, F., Kaplan, J., Kicklighter, D. W., Meier, R. A., Melillo, J. M., Moore III, B., Prentice, I. C., Ramankutty, N., Reichenau, T., Schloss, A., Tian, H., Williams, L. J. and Wittenberg, U. 2001. Carbon balance of the terrestrial biosphere in the twentieth century: Analysis of CO2, climate and land use effects with four process-based ecosystem models. Global Biogeochem. Cycles 15, 183-206. h.成果の発表 学会発表 加藤知道、伊藤昭彦.気候―陸域炭素循環結合モデルの開発.日本気象学会 2005 年度春季大会, 東京都文京区,2005 年 5 月 16 日. Kato, T., Ito, A. Development of the coupled climate-terrestrial carbon cycle model. ESA 90th Annual Meeting, to be held jointly with the INTECOL IX International Congress of Ecology, Montreal, Canada, 2005 年 8 月 10 日. Kato, T., Ito, A. Development of the coupled climate-terrestrial carbon cycle model. Seventh International Carbon Dioxide Conference, Broomfield, USA, 2005 年 9 月 26 日. Ito, A., Kato, T., Sato, H., Yoshikawa, C., Kawamiya, M., and Matsuno, T. (2006) Development of the Frontier Research Center for Global Change coupled climate and carbon cycle model. 44 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 American Association for the Advancement of Science (AAAS), 2006 年 2 月 20 日,米国ミズー リ州セントルイス. 加藤知道. -Earth Simulator を用いた将来予測-. 公募シンポジウム「陸域生態系の炭素動態と地球 温暖化」.日本生態学会第 53 回大会, 新潟市, 2006 年 3 月 28 日. 論文発表 Friedlingstein, P., Cox, P., Betts, R., Bopp, L., von Bloh, W., Brovkin, V., Cadule, P., Doney, S., Eby, M., Fung, I., Govindasamy, B., John, J., Jones, C., Joos, F., Kato, T., Kawamiya, M., Knorr, W., Lindsay, K., Matthews, H. D., Raddatz, T., Rayner, P., Reick, C., Roeckner, E., Schnitzler, K.-G., Schnur, R., Strassmann, K., Weaver, A.J., Yoshikawa, C., and Zeng, N., 2006. Climate-carbon cycle feedback analysis, results from the C4MIP model intercomparison, Journal of Climate, in press. Gu, S., Tang, Y., Cui, X., Kato, T., Du, M., Li, Y., Zhao, X., 2005. Energy exchange between the atmosphere and a meadow ecosystem on the Qinghai-Tibetan Plateau. Agric. For. Meteorol. 129(3-4), 175-185. Hirota, M., Tang, Y., Hu, Q., Hirata, S., Kato, T., Mo, W., Cao, G., Mariko, S., 2006. Carbon Dioxide Dynamics and Controls in a Deep-water Wetland on the Qinghai-Tibetan Plateau. Ecosystems, in press. Hirota, M., Tang, Y., Hu, Q., Kato, T., Hirata, S., Mo, W., Cao, G., Mariko, S., 2005. The potential importance of grazing to the fluxes of carbon dioxide and methane in an alpine wetland on the Qinghai-Tibetan Plateau. Atmospheric Environment 39, 5255-5259. Ito, A. 2005. Climate-related uncertainties in projections of the 21st century terrestrial carbon budget: off-line model experiments using IPCC greenhouse gas scenarios and AOGCM climate projections. Climate Dynamics 24: 435-448. Ito, A. 2005. Regional variability in the terrestrial carbon-cycle response to global warming in the 21st century: simulation analysis with AOGCM-based climate projections. Journal of the Meteorological Society of Japan 83: 251-259. Kato, T., Tang, Y., Gu, S., Hirota, M., Du, M., Li, Y., Zhao, X., 2006. Temperature and biomass influences on interannual changes in CO2 exchange in an alpine meadow on the 45 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Qinghai-Tibetan Plateau. Global Change Biology, in press. Kato, T., Kamichika, M., 2006. Determination of a crop coefficient for evapotranspiration in a sparse sorghum field. Irrigation and Drainage, 55(2), 165-175. Kato, T., Hirota, M., Tang, Y., Cui, X., Li, Y., Zhao, X., Oikawa, T., 2005. Strong temperature dependence and no moss photosynthesis in winter CO2 flux for a Kobresia meadow on the Qinghai-Tibetan Plateau. Short communication, Soil Biol. Biochem. 37(10), 1966-1969. Kawamiya, M, C. Yoshikawa, T. Kato, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, T. Matsuno, 2006. Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, Journal of Earth Simulator, 4, 18-30. 46 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 1−2.海洋生物地球化学モデル 担当機関:地球環境フロンティア研究センター 研究者名:地球環境モデリング研究プログラム・河宮未知生 生態系変動予測研究プログラム・吉川知里 生態系変動予測研究プログラム・相田眞希 生態系変動予測研究プログラム・山中康裕(兼任:北海道大学地球環境科学研究科) 生態系変動予測研究プログラム・岸道郎(兼任:北海道大学水産科学研究科) a. 要約 昨年度の段階で、大気海洋結合炭素循環モデルによる予備的な温暖化実験は終了していたが、特 に陸域生態系モデルについてパラメーター・チューニングが充分に行われておらず、高い信頼度 を得るためにはいくつか再実験を行う必要があった。本年度において、パラメーター・チューニ ングおよび再実験が終了した。このモデルにより、地球温暖化に対し気候変化と炭素循環の相互 作用がもたらすフィードバックの強さを調べる実験を行った結果、相互作用は大気中二酸化炭素 濃度を高める方向に働き、温暖化を加速する正のフィードバック効果を持つことがわかった。温 暖化により土壌有機物の分解が促進されるのが、その主な原因である。この結果において、2100 年時点での二実験間における二酸化炭素濃度差は 130ppmv である。これは地表平均気温に換算し て 1 度程度にあたり、有意な量といえる。平成 18 年 3 月現在、他のパラメータセットを用いた感 度実験も実行中である。ここで結果は、2007 年に発行が予定されている IPCC の第 4 次報告書に 反映される可能性が高い。また数年程度のタイムスケールにおいて、気温の変化に追随して CO2 濃度が変化する現象が観測されているが、類似の現象がモデル結果においても再現されているこ とが確認された。ただし気温変化と CO2 濃度変化の間のタイムラグは観測よりモデル結果の方が 長い。また温暖化した際に海洋の CO2 吸収量が減る原因について詳細な解析を行ったところ、温 度変化以外にも全炭酸・アルカリ度の海洋表層における分布の変化が有意な役割を果たしている ことが分かった。さらに、植物・動物プランクトンの種構成を陽に表現したモデルを用いた実験 も行い、10 年スケールの気候変動が海洋表層生態系に与える影響について調べた。 b. 研究目的 海洋中の全炭酸鉛直分布は表層付近で濃度が低くなる特徴的な分布をしている。二酸化炭素の大 気海洋交換にとって大きな意味を持つこうした分布は生物ポンプ・アルカリポンプ・物理ポンプ といった過程によって決定されており、中でも表層生態系における有機物の形成とそれに続く沈 降に起因する生物ポンプが最も重要な寄与をなしている。その生物ポンプの効率は、海洋混合層 の深さやエクマン湧昇、大気による鉄分の輸送など様々な物理過程から影響を受けている。人間 47 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 活動により排出された二酸化炭素がどの程度大気中に残存するかを把握し、将来の大気中二酸化 炭素濃度の予測を確からしいものにするためには、海洋中の炭素循環過程をきちんとモデル化す ることが不可欠である。 ハドレーセンター(英)や IPSL(仏)が行った陸域−大気−海洋結合炭素循環モデルの結果によれ ば 、 気 候 変 動 が 海 洋 の 二 酸 化 炭 素 吸 収 に 与 え る 影 響 は 小 さ い と さ れ る ( Cox et al., 2000; Friedlingstein et al. 2001)。しかしながら、海洋炭素循環モデル相互比較プロジェクト(Ocean Carbon-Cycle Model Intercomparison Project, OCMIP)に提出された結果を見ると、気候変動を考慮に 入れずに行ったベースラインの海洋二酸化炭素吸収量将来予測において、モデル間のばらつきが 大きくなっており、2100 年時点での予測値は最小値と最大値の間で 2 倍の開きがある(Fasham, 2003)。大気中二酸化炭素濃度の予測のためには、引き続き海洋炭素循環モデルを改善し、こうし た不確定性を減らしていくことが必要である。本研究テーマでは、4変数の単純な海洋生態系モ デルを炭素循環モデルとともに海洋大循環モデルへ組み込んで海洋炭素循環と気候変化との相互 作用を調べ、さらに発展して陸域−大気−海洋結合炭素循環モデルの構築とそれによる全球規模 炭素循環の研究を行うことを目的にしている。 c. 研究計画、方法、スケジュール 統 合 モ デ ル 海 洋 炭 素 循 環 コ ン ポ ー ネ ン ト に 組 み 込 む 生 態 系 モ デ ル と し て は 、 Oschlies and Garçon(1999) による植物プランクトン、硝酸、動物プランクトン、デトライタスの4コンパート メント表層生態系モデルに Oschlies (2001)による改変を加えたものを採用する。このモデルの海洋 大循環モデルへの組み込みは 2 年目までで終了した。さらに 4 年目までに、上記海洋炭素循環モ デルおよび陸域炭素循環モデル Sim-CYCLE を組み込んだ大気海洋結合モデルを用いて温暖化実 験を行い、気候と炭素循環の間に有意なフィードバックループが存在することを示した。 また 4 年目には、共生プロジェクト第 3 課題(代表:日比谷紀之)の海洋研グループ(「太平洋 における炭素循環モデルの高度化」)とも協力して鉄の大気輸送の効果も考慮した最先端のモデ ル開発の検討を始めた。鉄の効果を取り入れた海洋生態系モデルは既にいくつか開発されてきて おり(e.g., Leonard et al., 1999; Archer and Johnson 2000; Moore et al, 2002)、それらを参考に我々独 自のモデルを開発していくのは十分可能であると考えられる。また鉄分の大気輸送に関しては、 研究実施者の一人が開発したダスト輸送モデルが大気大循環モデルにすぐ組み入れられる形で既 に存在する。これらを組み合わせることで将来的には大気による鉄分輸送が生物ポンプに与える 影響を陽に取り扱えるようになり、氷期−間氷期サイクルや地球温暖化に関して提案されている 鉄を介したフィードバック機構(Kumar et al. 1995; Ridgwell and Watson 2002)等に関しより具体的 な議論ができるようになると期待される。最終年度の 5 年目には、大気化学過程も組み入れた全 球統合モデルを用いて 20 世紀気候再現実験および温暖化実験を行う予定でいる。 48 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 d. 平成 17 年度研究計画 大気海洋結合炭素循環モデルのパラメータチューニングを完了して温暖化時の炭素循環のシミュ レーションやパラメータ感度実験を行い、論文を執筆する。また C4MIP Phase 1, 2 の活動に参加 する。Phase 1 に関しては、平成 16 年度中にデータを提出した後 CO2 濃度季節変化など、モデル 中で再現された現象に関して解析を行う。また Phase 2 に関しては、参加する各グループに協力 を要請し海洋コンポーネントに関する結果をとりよせ、人為起源二酸化炭素吸収に関する海洋モ デル間の振る舞いの違いについて比較研究を行う。 e. 平成 17 年度研究成果 e.1. モデルと実験設定 本年度においては、Cox et al. (2000)や Friedlingstein(2001)によって指摘された気候−炭素循環系の フィードバックの強さについて調べるため、炭素循環過程を組み込んだ大気海洋大循環モデルを 用い 2100 年までの温暖化実験を行った。同様の実験は昨年度も行っているが、気候モデルのバイ アスのため高緯度域の LAI が極端に小さくなるなどの問題があった。そこで本年度は、特に陸域 生態系モデルのパラメータチューニングを充分に行い、現実により近い形でシミュレーションが 行えるよう改良したバージョンで実験を行った。 炭素循環モデルや大気海洋結合大循環モデルの詳細については、昨年度既に報告しているので省 略し、時間積分の手順から述べる。モデルのスピンアップは、CO2 濃度を 285ppmv に固定し、気 候値データに基づく種々の場を初期値とし 280 年間行った。陸域の炭素貯蔵や海洋循環は 1000 年 以上の長い時間スケールを持っており、280 年のスピンアップでは決して充分とはいえない。し かしながら、時間積分開始直後に見られる CO2 フラックスの時間トレンドを全球スケールで除去 する程度には充分な期間であり、この実験で得られた結果を解析することには充分意味がある。 ここでは 3 つのランを行う。一つはコントロールランであり、スピンアップ後も CO2 濃度を 285ppmv に固定して 1850 年から 2100 年までモデルを走らせる。他の 2 つのランを「結合ラン」 、 「非結合ラン」と呼ぶことにする。CO2 排出データ(SRES A2)を与えモデル内部で CO2 濃度を計算 する。しかしながら非結合ランでは、放射過程に関するルーチンには一定の CO2 濃度(285ppmv) が与えられ気候そのものは変化しない。従って、非結合ランには気候−炭素循環系のフィードバ ック効果は入っていない。一方結合ランでは、炭素循環モデルを用いて計算した CO2 濃度の変化 が放射過程にも与えられ気候変化が起きる。ここで起こった気候変化は炭素循環モデルに影響を 与えるため、結合ランには気候−炭素循環系のフィードバック効果が入っている。 49 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 e.2. 結果と議論 e.2.1. 地球温暖化や気候変動にたいする全球炭素循環の応答 図4に、モデルによって計算された全休平均 CO2 濃度の時系列を示す。図中では、赤い線が結合 ランの、緑の線が結果を表している。 2000 年までの CO2 濃度の推移をモデルはよく再現している。 2100 年の時点で、2 つのランの間での CO2 濃度差は約 130ppmv となった。これは地表面平均気温 に換算して 1℃程度にあたる。各国の研究機関が予測する 2100 年時点での温暖化の典型的な値が 2-4℃であることを考えると、本実験で得られた 1℃という差は有意なものであるといえる。 以上のことから、気候と炭素循環の結合は温暖化を加速する正のフィードバック効果を持つこと が分かる。これは、本モデルが予測する全球平均 4℃という気温上昇にともない土壌温度も上昇 して土壌中の有機物分解が促進されるためと、水温の上昇等により海洋への CO2 溶解度が低下す るためである。世界各国の研究機関でも同様のシミュレーション実験が行われており、ここで得 られた結果を他のモデルのものと比較し違いの原因を議論することは、地球規模炭素循環過程の より深い理解につながると考えられる。そうした比較研究を容易にするため、気候−炭素循環結 合モデル相互比較プロジェクト(Coupled Climate - Carbon Cycle Intercomparison Project, C4MIP)と呼ばれる国際プロジェクトが活動している(Friedlingstein et al., 2006)。ここで示し た結果も含め、C4MIP での議論は IPCC の第 4 次報告書に反映される可能性が高い。 図4: 全球炭素循環・気候結合モデルに 1900 年からの人為的 CO2 放出源 を与えてシミュレーションした大気 CO2 濃度の変化。赤い線が温暖化と 炭素循環の相互作用を考慮した場合、緑の線がしなかった場合、破線は 観測値。単位は ppmv。 C4MIP に参加しているモデルについて、結合ランにおける CO2 濃度から非結合ランのものを引い た値を、時系列として示したのが図 5 である。この図から、我々のモデルにおける気候−炭素循 環系のフィードバックは C4MIP 参加モデルのなかで比較的強いものであることが分かる。 50 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Friedlingstein et al. (2006) は、Friedlingstein et al.(2003)が提案した手法に基づいて C4MIP 参加モデ ル結果の気候−炭素循環系フィードバック強度評価を行っている。それによれば、我々のモデル は気候変化に対する陸域生態系の応答がハドレーセンターのモデルについで高い。C4MIP 参加モ デル中で我々のモデルのフィードバックが強いのは、このことが主な原因になっている。また、 気候変化に対する海洋の応答をあらわすファクターについても、我々のモデルは平均より高くな っている。 図 5 に見られるように、気候−炭素循環系のフィードバックの強さにはモデル間で大きなばらつ きがある。C4MIP 参加モデルの温暖化結果がどの程度現実的であるかを評価するのに、短周期の 気候変動に対する炭素循環過程の応答を見ることはよい指標になると考えられる。実際、Keeling et al (1989)は、マウナ・ロアにおいて観測された CO2 濃度と全球平均気温の時系列を比較し、エル・ ニーニョなどの影響で全球平均気温が上昇すると 1 年程度の時間遅れをもって CO2 濃度も上昇す ることを見出している(図 6a)。我々のモデルでも同様の現象が再現されているかどうかを調べる ことは、図 4 に示す結果の現実性を推し量る上で重要である。 図5: 気候−炭素循環結合モデル相互比較プロジェクト(C4MIP)参加モデルで の、結合ランと非結合ランとの間の CO2 濃度差の時系列。単位は ppmv。 FRCGC と注釈のついた紫の実線が我々のモデル結果。Friedlingstein et al. (2006) より引用。 図 6b に、モデル結果における 1970 年−2005 年の期間について、全球平均の気温と CO2 濃度との 関係を示す。なおこの図を作るにあたって、気温については全球平均したデータにさらに 12 ヶ月 の移動平均を施し季節変動を取り除いてある。CO2 濃度については長期トレンドも大きいため、 12 ヶ月移動平均を施したデータとさらに 10 年移動平均をとったデータとの差をとって短周期成 分を取り出してある。気温の上昇・下降に伴い一定の時間遅れを伴って CO2 濃度が増減するとい う、Keeling et al. (1989)による観測結果をモデルは再現していることが分かる。しかしながら、モ 51 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 デルにおける典型的な時間遅れは 2 年ほどであり、図 6a における 1 年より長い。この原因は明ら かでないが、他のモデル出力を調べた結果陸面過程モデル MATSIRO により予報される土壌水分 量が気温よりさらに 1 年遅れで変動して CO2 濃度の時間微分と非常によい相関を持つことが分か り、こうした気温以外の要素が関係している可能性が高い。また、モデル結果における CO2 濃度 変動の振幅は peak to peak で 2.5ppm ほどあり、観測に基づく図 6a の約 1.5ppm より大きくなっ ている。一方、気温の変動幅はモデル結果と観測とで同程度なので、我々のモデルは数年程度の 周期をもつ気温変動に対する炭素循環過程の応答を過大評価していると言える。ただし、数年程 度のタイムスケールにおける炭素循環過程の応答と、地球温暖化に対するそれとではメカニズム が異なるところもある。メカニズムの違いの一例としては、地球温暖化の際には北半球高緯度で の昇温が顕著であるため、この緯度帯における応答の相対的寄与度が、数年程度のタイムスケー ルにおけるものより高いこと、などを挙げることができる。したがって、図 4 で示したような気 候−炭素循環系のフィードバックが過大評価であると、図 6 の比較から直ちに言えるわけではな い。しかしながら、観測される現象をできるだけ忠実に再現することは予測の信頼性を上げるた めの必要条件である。今後は、更なるパラメータ・チューニングやモデルの改良により再現性の 向上に努める。 (a) (b) 図6: (a)Keeling et al. による、全球平均の気温(実線)とマウナ・ロアにおい て観測された CO2 濃度の年々変動。(b)モデル結果における、全球平均の気温 (赤)とマウナ・ロアに対応する地点の CO2 濃度(緑)の年々変動。 52 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 e.2.2. 地球温暖化が大気海洋 CO2 交換に与える影響 前節で示した通り、将来の温暖化による環境の変化を考慮に入れた場合と入れない場合とでは、 前者で海洋の人為起源 CO2 吸収量が少なくなる。これは水温の上昇により海洋表層の二酸化炭素 分圧が高くなることが主要因であると考えられているが、海洋環境の変化による全炭酸、アルカ リ度の変化なども他の要因として考えられる。これら諸要因の相対的寄与がどのようになってい るかについて、定量的な解析を行った例は少ない。本節においては、上で挙げた諸要因の相対的 寄与度を求める解析を行う。 図 7 に、海洋による人為起源 CO2 吸収量の時系列を結合実験・非結合実験両方について示す。結 合ランの方が大気中 CO2 濃度が高くなっているが、同時に海面の二酸化炭素分圧(fCO2)も高くな っているため、結果として海洋の吸収量は大きくは変わらない。2070 年以降は、図 8 に示すよう な海面 fCO2 上昇の効果が大気中 CO2 濃度増加の効果を上回り、結合ランにおける人為起源 CO2 吸収量の方が若干少なくなっている。 [PgC/y] 図7: モデルにより評価された、海洋による人為起源 CO2 吸収量時系列。 赤線が結合ラン(温暖化の影響を考慮に入れた場合)の、黒線が非結合 ラン(入れない場合)の結果を表す。 図 8 を見ると、太平洋東部熱帯域を除く海域の大部分で、結合ランでの fCO2 が高くなっているこ とが分かる。2 つのランの間における fCO2 の変化を、線形論に基づいて要因別に分け議論するこ とにする。まず、fCO2 を温度 T、塩分 S、全炭酸 TCO2、アルカリ度 Alk の関数として、 fCO2 = F (T , S , TCO2, Alk) (1) 53 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 と表すことにすると、fCO2 の全微分は次のように書ける。 ∆fCO2 = ∂F ∂F ∂F ∂F ∆S + ∆TCO2 + ∆Alk ∆T + ∂TCO2 ∂Alk ∂S ∂T (2) ここでモデル結果を用い、右辺の第一項を次のように評価する。 ∂F ∆T ≅ {F (Tc, Su, TCO2u, Alku ) − F (Tu , Su, TCO2u, Alku ) ∂T 1 + F (Tc, Sc, TCO2 c, Alkc ) − F (Tu , Sc, TCO2c, Alkc )}× 2 (3) 上式で、添え字 c, u はそれぞれ結合、非結合ランの結果であることを示す。他の各項についても 同様に評価し、全球平均をとった結果を図 9 に示す。 図8:温暖化の影響を考慮する場合(結合ラン)としない場合(非結合ラ ン)の間での、二酸化炭素分圧(fCO2)の差(ppmv)。西暦 2100 年時点での もの。正の値が温暖化を考慮したとき値が高くなることを示す。 図 9 より、水温の上昇により結合ランの fCO2 が高くなっていることが分かる。しかし、アルカリ 度の低下による fCO2 の上昇も同程度の寄与をもっており、また全炭酸の低下によって fCO2 が低 下する効果も有意な寄与をもつことが分かる。図 8 に見られるような結合ランにおける fCO2 の上 昇は、単に水温上昇の結果ととらえるべきではなく、全炭酸やアルカリ度の値が変化することに 54 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 よる効果との競合の結果として理解すべきである。 図 9 に見られるような全炭酸やアルカリ度の変化による寄与がどのようにもたらされるかを調べ るため、2 つのランの間での全炭酸・アルカリ度の差の地理分布を示したのが図 10a,b である。 両者の分布は非常に良く似ていることが分かる。 図9: 結合ランと非結合ランの間における fCO2 の変化を、線形論に基づいて要因別に 分け全球平均を示した結果。左から4つがそれぞれ温度、塩分、全炭酸、アルカリ度 による変化を表す。 Total は左 4 つの要因による変化の和を、 Actual は線形 近似を使わず 2 つのランの間の fCO2 の差を直接とって全球平均したものを示す。 (a) (b) 図10: 結合ランと非結合ラン との間の、(a)全炭酸・(b)アルカ リ度の差。単位はμmol/m3。(c)2 つのランの間の塩分の差。単位は PSU。(d)2 つのランの間の(降水 量−蒸発量)の差。単位は mm/day。 (c) (d) いずれの図においても、正の値が 結合ランにおいて値が高くなる ことを示す。 55 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 これは全炭酸とアルカリ度の分布を決定する生物地球化学的・物理的プロセスが(少なくともモ デルの中で)よく似ていることからある程度予想される結果ではある。しかしここで興味深いの は、これらの分布が図 10c に示した塩分の差の分布に非常に良く似ていることである。このこと から、図 10a,b の全炭酸・アルカリ度の分布の変化は生物ポンプの変化によるものではなく、移 流・拡散・降水といった物理過程の変化によるものであることが分かる。特に降水量の変化につ いては従来この種の議論を行う際重視されてこなかったが、Dore et al. (2003)が指摘したよう に、大気海洋 CO2 交換量に変化をもたらす要因として無視できない場合がある。図 10d に降水量 の変化を示した。変化量分布のパターンは図 10a-c のものと似ていない点も多いが、値としては 全炭酸・アルカリ度の収支に有意な影響を与えうるものである。 e.3. プランクトンの種構成を陽に表現したモデル(NEMURO)による実験 「地球システム統合モデル」で得られた結果の解析の際の参考となるべく、やや複雑である が 比 較 的 用 い ら れ て い る 全 球 3 次 元 中 程 度 複 雑 生 態 系 モ デ ル (Intermediate complexity ecosystem model)を用いて、経年変動数値シミュレーションを行い、平成17年度は、海面に おける二酸化炭素分圧などに注目してみた。数少ないものの利用出来る長期観測データと比較 することによりモデルの有効性を検証した。具体的には、NCEPの1948年から2002年までの再解 析データの風応力、光、海面気温、淡水フラックスなどを生態系モデルに与えることにより、 海洋物理場の経年変動、その変動に伴う海洋循環による栄養塩供給や生態系の変動を見ること が出来る。特に海洋による二酸化炭素の吸収量を見るためには、1780年代から徐々に大気中二 酸化炭素分圧を観測に従って上昇させていく必要があり、国際海洋炭素循環モデル相互比較研 究(Ocean Carbon-cycle Model Intercomparison Project, OCMIP)第3期の手続きに従って、 1948年から2002年までの55年間の再解析データを予め3回繰り返すことにより、1760年から 1948年までの大気中二酸化炭素分圧を与えながらスピンアップを行った。 図11は全球平均した海洋による二酸化炭素吸収量の経年変動である。海洋による人為起源二 酸化炭素の吸収量は、傾向として徐々に増加しており、1980年代には年間1.62PgC、1990年代 には年間1.88PgCとなっている。IPCC第3次報告書(2001)では、それぞれ年間1.9±0.6PgC、年 間1.7±0.5PgCと報告されており、誤差の範囲内で一致している。また、1990年代の方が1980 年代よりもよく吸収しているのは、OCMIPでの多くのモデルに共通する傾向である。標準実験、 漸増実験ともに55年毎に大きな吸収をおこしているピークが見られるが、これは南極周辺海域 において物理場の計算によって深層との大規模な混合(おそらく再解析データを繰り返して使 う人工的な問題)によって生じたものであるが、それらの差を取ることにより、人為に酸化炭 素の吸収量の計算では回避されていることが分かる。 56 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図11: 全球平均した海洋による二酸化炭素吸収量の経年変動。大気中二酸化 炭素濃度を産業革命の値278ppmにして計算した結果(標準実験、青線)と観測さ れた値にして計算した結果(漸増実験、緑線)、および、それらの差としての人 為起源二酸化炭素吸収量(赤線)。両者は同じ海洋循環場、水温・塩分分布を用 いている。太線は年平均値、細線は10年の移動平均を取ったもの。 数十年スケールの気候変動として、太平洋十年振動(PDO)がよく知られており、とくに、1970 年代に起こった PDO指標の変化は気候ジャンプあるいはレジュームシフトと呼ばれている (Mantua et al., 1997; 図12)。平成17年度は、この気候ジャンプに伴って、北太平洋の海 面水温や混合層深、生物生産量、プランクトン量、二酸化炭素分圧がどのように変化している のかを調べてみた。 北太平洋中央部の海面水温は、気候ジャンプに伴い、0.4∼1.0℃低下し、東西亜熱帯域やア ラスカ湾においては、0.2∼0.6℃上昇した(アラスカ湾の沿岸では0.2∼0.6℃低下)。これらの 結果はYasunaka et al. (2002)などの観測と良く一致している。気候ジャンプに伴い、亜寒帯 海域(50N, 180Eを中心とする海域)でのエクマン湧昇流が強化され、亜熱帯海域(30N, 180Eを 中心とする海域)ではエクマン沈降流が強化されている。これは、アリューシャン低気圧や西 武北太平洋での偏西風が強化されたことによる。 海面より密度が 0.125kg/m3 大きい深さで定義される海洋混合層は、西部や東部北太平洋で 10m∼ 30m 浅くなり、中央北太平洋や西部ベーリング海で 20m∼50m 深くなった。 以上の物理場の変化に伴い、エクマン湧昇流の増加海域に対応した中央北太平洋(40N, 180E)での 基礎生物生産は 30%以上増加し、三陸沖の混合水域では逆に 30%ほど減少した。アラスカ湾では、 水温低下に伴う混合層が 10m 深くなったものの、エクマン湧昇が弱まったために、基礎生物生産 は 20%程弱まった。 57 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図12: 北太平洋における気候ジャンプ前後の(a)海面水温、(b)冬季混合層深度、 (c)エクマン湧昇速度、(d)年平均した基礎生物生産量。気候ジャンプ後(1977年 から1996年まで20年間)の平均値から気候ジャンプ前(1956年から1975年までの 20年間)の平均値をひいた値を示している。 さらに、北太平洋の代表的な3海域での生態系の各要素の変動と二酸化炭素分圧や大気-海 洋間二酸化炭素フラックスの経年変動を見てみた(図13)。西部北太平洋(NWP)の亜熱帯海域で は、Sugimoto & Tadokoro(1998)が示したように、1980年代から1990年代初期にかけてクロロ フィルa濃度が1970年代よりも低くなっている。我々のモデルでも、植物プランクトンや動物 プランクトンの生物量および基礎生物生産量が低くなっており、これらは海面水温の上昇に伴 って混合層深度が浅くなったことやエクマン沈降流が強くなったことによる。大気-海洋間に 酸化炭素フラックスは、明瞭だが振幅が比較的小さな季節変動を示している。経年変動は小さ く、気候ジャンプに伴う変化は余り見られず、基礎生物生産との相関も明瞭ではない。 中央北太平洋(NCP)では、PDO指標が正のとき、植物プランクトンや動物プランクトンの生物 量および基礎生物生産量が増加している。アリューシャン低気圧の強化と偏西風の強化に伴い 海面水温が0.6℃低下して混合層が深くなった地点(30N, 160W)や、黒潮俗流に伴う移流効果で 海面水温は余り変化しないものの混合層が深くなった地点(35N, 180E)では、物理的メカニズ ムは異なるものの、共に海洋表層への栄養塩の供給増加は、基礎生物生産を高めている。大気 -海洋間に酸化炭素フラックスは、振幅が比較的大きい季節変動を示している。さらに経年変 動が大きく、気候ジャンプに伴う変動も見られ、基礎生物生産が高いときに、海洋による二酸 化炭素吸収フラックスが大きい結果が得られている。 カリフォルニア湧昇域(CU)では、植物プランクトンや動物プランクトンの生物量および基礎 生物生産量が気候ジャンプ後に減少し、1990年代後半に再び増加している。カルフォルニアで の沿岸湧昇はENSO(エルニーニョ南方振動)に強く影響を受けており、エルニーニョの年では、 南からの暖水の貫入により生物基礎生産が明らかに減少している(図13中の緑色ハッチをした 58 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 年)。大気-海洋間に酸化炭素フラックスは、大きな経年遠藤を示しており、エルニーニョの年 では、南からの暖水の貫入に伴って、大気から二酸化炭素を吸収しないか、大気へ放出してい る場合もある。 図13: 西部北太平洋(NWP, 左列)、中央北太平洋(NCP, 中央列)、カリフォルニア湧昇域 (CU, 右列)における、(上から)珪藻やカイアシの生物量、基礎生物生産の平均からのずれ (パーセントで表示)、海面水温(最下図の赤線)、基礎生物生産(最下図の緑線)、大気-海洋 間に酸化炭素フラックス(最下図の黒線)、海面二酸化炭素分圧(最下図の青線)。黄緑のハ ッチは、エルニーニョ年を表す。 f. 考察 平成 17 年度の大きな目標の一つは、パラメーター・チューニングを十分に施した大気海洋結合炭 素循環モデルを用いて温暖化実験を行い、C4MIP ひいては IPCC 第 4 次報告書への貢献を行うこ とであった。この点については充分目標を達成したといえる。また本報告書で示した結果をもと にした論文も受理・出版されている(Kawamiya et al., 2005, Friedlingstein et al., 2006)。しかし、 「C4MIP Phase2 に参加する各グループに協力を要請し海洋コンポーネントに関する結果をとりよ せ、人為起源二酸化炭素吸収に関する海洋モデル間の振る舞いの違いについて比較研究を行う」 という目標(「d. 平成 17 年度研究計画」節)については、達成することができなかった。これは、 59 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 参加 10 グループには我々から結果の提出要請を行ったものの、提出に応じたグループが 1 つしか なかったためである。データ転送用の FTP サーバの設置や提出データフォーマットの簡略化など は行い、データ提出にともなう負担は最大限取り除いたつもりであった。が、もともとのデータ 提出要請が C4MIP 進行途中でのものであったため、参加グループがデータ提出のために時間を割 くスケジュールが立てづらかったのが原因と考えられる。今後我々のグループが国際的なコミュ ニティの中で一定の役割を果たしていくための反省材料としたい。 g. 参考文献 Archer, D. 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Climate Variability and Sub-Arctic Marine Ecosystems (ESSAS), Victoria, B.C., Canada, May 16-20, 2005. Aita, M. N., K. Tadokoro, Y. Yamanaka and M. J. Kishi: Interdecadal variation of the lower trophic ecosystem in the Northern Pacific between 1948 and 2002, using a 3-D physical-NEMURO coupled model-. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. 62 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Fujii, M., N. Yoshie, Y. Yamanaka, F. Chai: Simulated biogeochemical responses to iron enrichments in three high nutrient, low chlorophyll (HNLC) regions. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Hashioka, T., Y. Yamanaka and T. Sakamoto: Response of lower trophic level ecosystem to global warming in the western North Pacific. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Hahioka, T. and Y. 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PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Kurahashi-Nakamura, T., A. Abe-Ouchi, Y. Yamanaka, and K. Misumi: -Interglacial Variations of Atmospheric CO2 Concentration: A Modeling Study for the Effect of Southern Ocean, AGU Fallmeeing, San Francisco, U.S.A., December 5-9, 2005. M. Kawamiya, Development of an Integrated Earth System Model at FRCGC, 日独ワークショッ プ, 2005 年 10 月 31 日−11 月 1 日, 東京大学気候システム研究センター. M. Kawamiya, Development of an integrated earth system model on the Earth Simulator, Workshop on Current problems in Earth System Modelling, 2005 年 11 月 24,25 日, JAMSTEC 横 浜研究所 63 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 M. Kawamiya, C. Yoshikawa, T. Kato, T. Matsuno, Development of an integrated earth system model on the Earth Simulator, 2005 AGU Fall meeting, 2005 年 12 月 5−9 日, サンフランシ スコ(米国). M. Kawamiya, Interannual variations of atmospheric CO2 and their implication to climate ‒ carbon cycle interactions, 2006 年 2 月 23−25 日, アルバカーキ(米国). Megrey, B. A., K. A. Rose, D. Hay, F. E. Werner, R. A. Klumb, M. J. Kishi, D. W. Ware and Y. Yamanaka: A Coupled Lower and Higher Trophic Level Marine Ecosystem Model of the North Pacific Ocean including Pacific Herring. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. N. Yoshie and Y. Yamanaka: Processes causing the temporal changes in Si/N ratios of nutrient consumption and export flux during the spring diatom bloom. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Rose, K. A., B. A. Megrey, F. E. Werner, Y. Yamanaka, M. A. Noguchi, S. Ito, and M. J. Kishi: Interannual Response of Fish Growth to the 3-D Global NEMURO Output with Realistic Atmospheric Forcing. Part I: Latitudinal Differences in Pacific herring growth. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Smith, S. L. and Y. Yamanaka: Examining the value of exploiting variations in bulk stoichiometry for modeling material flows through ecosystems. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Smith, S. L., B. E. Casareto, M. P. Niraula, Y. Suzuki, J. D. Annan, J. C. Hargreaves and Y.Yamanaka: Examining the regeneration of nitrogen by assimilating data from incubations into a multi- element ecosystem model. .Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. T. Hashioka and Y. Yamanaka: Temperature dependency of rain ratio obtained by a 3-D ecosystem-biogeochemical model. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Werner, F. E., K. Rose, B. A. Megrey, M. A. Noguchi, Y. Yamanaka: Simulated Herring Growth Reponses in the Northeastern Pacific to Historic Temperature and Zooplankton Conditions 64 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Generated by the 3-Dimensional NEMURO NPZ Model. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Werner, F. E., K. A. Rose, B. A. Megrey, D. Hay, R. A. Klumb, D. W. Ware, M. J. Kishi and Y. Yamanaka: Latitudinal differences in Pacific herring growth response to climatic variability. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Yamanaka Y., M.J. Kishi, M.N. Aita, T. Hashioka, A. Ishida, Y. Sasai, F. Shido and N. Yoshie: Current status of our group: development of Eulerian version of 3D-NEMURO.FISH and etc. FRA/APN/IAI/GLOBEC/PICES Joint Workshop "Global comparison of sardine, anchovy and other small pelagics ? building towards a multi-species model", Tokyo, 14-17 Nov. 2005 Yamanaka, Y., T. Hoshioka, M. N. Aita and M. J. Kishi: Changes in ecosystem in the western North Pacific associated with global warming. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, September 29-October 9, 2005. Yamanaka, Y., T. Hashioka, M. N. Aita and M. J. Kishi: Changes in ecosystem and pelagic fish in the western North Pacific associated with global warming. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Yamanaka, Y and T. Hashioka: Ecosystem change in the western North Pacific due to global change obtained by 3-D ecosystem model. A Pilgrimage Through Global Aquatic Sciences: ASLO Summer Meeting 2005, Santiago de Compostela, Spain, June 19-24, 2005. Y. Yamanaka, T. Hashioka and M. N. Aita: Ecosystem change in the western North Pacific due to global change obtained by 3-D ecosystem model. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. Yoshie, N., S. Takeda, P. W. Boyd and Y. Yamanaka: Modelling studies investigating the mechanisms causing high silicic acid to nitrate uptake during SERIES: an iron-fertilization experiment in the subarctic Pcific. 13th Ocean Science meeting 2006, Hawaii U.S.A., February 20-24, 2006. Yoshie, N., Y. Yamanaka and S. Takeda: Development of a marine ecosystem model including intermediate complexity iron cycle. PICES XIV Annual Meeting, Vladivostok, Russia, 65 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 September 29-October 9, 2005. Yoshie, N., M. Fujii and Y. Yamanaka: Ecosystem changes after the SEEDS iron fertilization in the western North Pacific simulated by a one-dimensional ecosystem model. Advances in Marine Ecosystem Modelling Research, Plymouth, United Kingdom, June 27-29, 2005. Yoshie, N. and Yamanaka, Y.: Processes causing the temporal changes in si/n ratios of nutrient consumption and export flux during the spring diatom bloom. A Pilgrimage Through Global Aquatic Sciences: ASLO Summer Meeting 2005, Santiago de Compostela, Spain, June 19-24, 2005. Yoshikawa, C., Y. Yamanaka and T. Nakatsuka: A study of the marine nitrogen cycle using an ecosystem model including nitrogen isotopes. European Geosciences Union General Assembly 2005, Vienna, Austria, April 24 - 29. 2005. 論文出版 Friedlingstein, P., P. Cox, R. Betts, L. Bopp, W. von Bloh, V. Brovkin, P. Cadule, S. Doney, M. Eby, I. Fung, G. Bala, J. John, C. Jones, F. Joos, T. Kato, M. Kawamiya, W. Knorr, K. Lindsay, H. D. Matthews, T. Raddatz, P. Rayner, C. Reick, E. Roeckner, K.-G. Schnitzler, R. Schnur, K. Strassmann, A. J. Weaver, C. Yoshikawa, and N. Zeng, Climate - carbon cycle feedback analysis, results from the C4MIP model intercomparison, Journal of Climate, in press. 2006. Fujii M., Y. Yamanaka, Y. Nojiri, M. J. Kishi, F. Chai: Simulated temporal variations in biogeochemical processes at the subarctic western North Pacific Station KNOT (44°N, 155° E). Ecol. Modeling., (in press). Fujii, M., N. Yoshie, Y. Yamanaka and F. 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Oceanogr., 61, 912-942, 2005. 67 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 1−3.陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築 担当機関: 地球環境フロンティア研究センター 研究者名: 佐藤永 (生態系変動予測研究プログラム) 伊藤昭彦 (生態系変動予測研究プログラム) 甲山隆司 (生態系変動予測研究プログラム/北海道大学大学院地球環境科学研究科) a.要約 陸面生態系機能を、数百年から数千年といった時間スケールにおいてシミュレートするためには、 気候変動に伴う植生分布までを考慮に入れた動的全球植生モデル(DGVM)が必要とされる。本 サブグループの目標は、独自に DGVM を開発し、そのパフォーマンスを十分に検証した後に地球 統合モデルに結合させる事である。平成 17 年度は、前年度までに開発を終えた SEIB-DGVM の更 なる改良と、その性能チェックを行った。これまでの試行計算において SEIB-DGVM は、植物生 態系において典型的に観察される幾つかの現象、また現在の気候条件における植生分布や生態系 機能分布を再現することに、ある程度まで成功した。 b.研究目的 植物生態系の構造(植物種の分布や構成など)と機能(炭素循環や水循環)は気候環境によって 強く規定されるが、生態系の構造と機能もまた、蒸発散・炭素循環・陸面粗度の変化・アルベド の変化などを通じて、気候環境にフィードバック的な影響を与える(Foley et al. 2003)。このような 気候−植生間の相互作用は、地球環境問題の顕在化に伴い、その定量的解明がますます強く望ま れている。気候環境が植生の構造と機能へ与える影響をシミュレートするため、これまで多くの Biogeochemical モデルが開発され (Peng 2000; Arora 2002)、それらの幾つかは GCM(General Circulation Model)と双方向に結合することで気候−植生間のフィードバックを扱っている(e.g. Woodward et al., 1998; Cox et al., 2000; Joos et al., 2001)。 Biogeochemical モデルは、静的モデルと動的モデルの2つに大きく区分する事ができる。静的な Biogeochemical モデル(e.g. Neilson, 1995; Woodward et al., 1995; Haxeltine and Prentice, 1996)は、入力 した気候環境の元で光合成・呼吸・成長などの生理過程をシミュレートし、NPP や LAI などを最 大とする植生タイプを優占させる。その際に静的モデルは、気候変化に対して植物生態系の分布 が直ぐに平衡に達することを仮定している。しかし、実際には気候が変化しても、その新しい環 境に適応した植物生態系が生じるまでには 100 年∼数千年のオーダーの時間遅れがあると予想さ れる(Neilson, 1995; Woodward et al., 1995; Haxeltine and Prentice, 1996)。 そこで、現在地球が経験しているような急速に進行する気候変化の元における、植物生態系の過 68 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 渡的変化を的確にシミュレートするため、動的な Biogeochemical モデルが構築されてきた。いず れの動的 Biogeochemical モデルも基本構造はほぼ共通で、既存の静的モデルに植生動態モジュー ル(定着・競争・死亡・攪乱を扱う)を結合させることで、気候変化に対する植生の過渡的反応 のシミュレートを可能にしている(Cramer et al., 2001)。動的モジュールの構造は様々であるが、 大きな地理スケールにおける長期演算を可能とするために、いずれも極めて簡便な方式を採用し ている。例えば LPJ モデル(Sitch et al. 2003)では、植物種を 10 種類の PFTs(Plant Functional Types) で代表させ、グリッド毎に与えられる各 PFT の被覆割合を各 PFT の単位面積あたり NPP に応じ て変化させている。幾つかのモデルでは、PFT 間の競争をより機構的に扱ってはいるものの、そ の殆どは各 PFT を平均的な1個体で代表させており(An average individual approach)、PFT 内の個体 間競争は無視されている。 本研究の目的は、より機構的な植生動態モジュールを有する SEIB-DGVM (Spatialy-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetaion-Model)を新たに構築することである。SEIB は、グリッド ボックスごとに幾つかの代表森林(草地)をおき、その中で個体ベースで扱われた木本が定着し、 成長し、そして死亡する。このようなモデルの構造は、従来の動的 Biogeochemical モデルに対し て次のような利点を持つ。(1) 局所的な光条件によって規定される木本個体間の競争が適切に表現 され、したがって気候変動に伴った植生変動の速度を、より的確に予測できることが期待される。 (2) ギャップの再生速度が適切に表現され、そのようなギャップ動態に伴う炭素収支の変動 (Shugart, 1998)を適切にシミュレートできる。(3) 既存の植物個体群動態の知見やデータとの親和 性が高く、パラメーターの推定やモデルの検証が、容易かつ直感的である。このような、局所的 競争に基づく植生動態はギャップモデルにより長く解析が行われてきており(Bugmann, 2001)、こ のような扱いになしには、植生遷移や生産構造を機構ベースで適切に表現できない事が示されて いる。しかし、ギャップモデルは特定地域の森林動態の再現を目的とする事が多く、これまで全 球規模のモデルでは用いられることはなかった。その理由は、より多くの計算力を要求すること と、特定の生態系に特異的な相互作用を扱う傾向があるため、より多くのパラメーターを必要と するためである。我々は、最新の計算環境を用い、入手の容易なパラメーターだけで組み上げた 植生動態モジュールを開発することにより、これらの制約を克服した。 c.研究計画、方法、スケジュール SEIB-DGVM の基本設計 SEIB-DGVM は、気象・土壌データを入力に用いて、植生の短期的応答(光合成量や呼吸量など) と長期的応答(生物量や生態系の分布など)の両者を出力する(図 14)。従来の DGVMs と比較 して、SEIB-DGVM を特徴づけているのは、グリッドボックスごとに幾つかの代表森林(草地) をおき、その中で個体ベースで扱われた木本が定着し、成長し、そして死亡する点である(図 15)。 定着した場所から移動することの出来ない植物にとって、例えば多少の気温上昇よりも、隣の木 69 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 が枯れて光環境が改善される事の方が、よほど大きな環境変化であり、このような局所的に生じ る個体間相互作用を無視しては過渡的な植生変化を的確に予測する事はできない、というのがこ の設計を採用した理由である。また、このようなモデルの設計は、既存の植物個体群動態の知見 やデータとの親和性が高く、パラメーターの推定やモデルの検証が、容易かつ直感的であるとい う利点も併せ持つ。このようなアプローチは膨大な計算を伴うため、地球シミュレーターでの運 用を前提として初めて可能となった。 図14: 基本構造と入出力 図15: SEIB-DGVM における仮想林分 のスナップショット 本モデルでは、陸上高等植物種を少数の植物機能型(Plant functional types、以下 PFTs)で要約し た。この分類法は LPJ-DGVM の分類法に準じ、次の 10 種類の PFTs を仮定した:熱帯性常緑広葉 樹、熱帯性落葉広葉樹、温帯性常緑針葉樹、温帯性常緑広葉樹、温帯性落葉広葉樹、寒帯性常緑 針葉樹、寒帯性常緑広葉樹、寒帯性落葉広葉樹、C3 草本、C4 草本。これらのうち木本 PFT は個 体ベースで扱われ、各木本個体は樹冠、幹、細根の3部位から構成される。このうち、樹冠と幹 は円柱で近似される形態を持つが、細根はバイオマスのみで表現した。他方、草本 PFT は葉と根 からのみ構成され、それぞれ単位面積あたりのバイオマスによって表現される。 モデル全体の炭素の流れを図 16 に示す。光合成によって大気中より取り込まれ同化された CO2 は、植物の各器官へ配分される。各器官における維持呼吸や成長呼吸に伴って、ある割合の同化 産物は、再び CO2 として大気中に放出される。各器官の Turnover、落葉、そして木本の死に伴っ て生成されるリターは、土壌中のリタープールへと追加される。リターが分解されると、その一 部は CO2 として大気中に放出され、残りが土壌有機炭素として残留する。この土壌有機炭素は、 分解速度の速い画分と遅い画分とに分けられ、これらは分解されると CO2 として大気中に放出さ れる。 70 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図16: 炭素循環の概略 水循環の概略を図 17 に示す。このモデルでは降水が唯一の水の供給源であり、そして供給された 水は「積雪」 「土壌上層貯留水」「土壌下層貯留水」のいずれかの形態で仮想林分内に貯留するこ とができる。仮想林分の外に排出される際には、「降雨遮断」「流出」「蒸発」「蒸散」いずれかの 経路を通じる。これら一連の水循環過程は、気温・飽差・日射量・土壌粒度などの物理的環境の 他、葉面積指数や日光合成量などといった生態的な特徴からも強く制御を受け、そして、土壌貯 留水の大小が光合成速度を制御するというフィードバックが働く。 図17: 水循環の概略 71 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 d.平成17年度研究計画 平成 17 年度は昨年度に引き続き、(1)SEIB-DGVM の改良、(2)現在の気象条件を用いた各種シミュ レーションによる評価、(3)これらの結果を発表する論文の執筆、を中心として作業を行った。 e.平成17年度研究成果 -1.5 乗則の検証 小個体が高密度で存在する個体群においては、平均個体重の対数値と個体密度の対数値との間に、 通常傾き-3/2 の直線関係が成立し、これは-3/2 乗則と呼ばれている(Yoda et al. 1963)。この現象は、 個体重 w は植物の一片 l の3乗に比例するのに対し、占有面積 a(すなわち光を含む利用可能な 資源量)は植物の一片 l の2乗に比例する事に起因すると説明されている。すなわちw ∝ l と 3 a ∝ l 2 より、w 1 3 ∝ a1 2 となり、w ∝ a 3 2 となる。そして、一個体の専有面積 a は個体密度 d −1 −3 2 と反比例の関係( a ∝ d )にあるため、w ∝ d という関係が導き出される。そこで本モデルに おいて、この関係が成立するか確かめるための計算実験を行った。寒帯・温帯・熱帯の3地域に、 それぞれ稚樹を初期密度 1 (tree/m2)で配置し、100 年間のシミュレーションを行った。この 100 年 間の間には新しい稚樹の定着はさせなかった。図 18 は、このシミュレーションにおける木本密度 と平均個体重との関係の変化を示した両対数グラフである。稚樹がある程度成長した以降は、い ずれの地域においても概ね傾き-3/2 の関係で両者が変化し、-3/2 乗則が成立した。これより、樹 木の専有面積とバイオマスとの相対成長関係が、本モデルにおいて適切に再現されていると言う ことが出来る。 図18: -3/2 乗則の検証結果 72 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 遷移パターンへの初期条件依存性 SEIB-DGVM の最大の特色は、空間構造を明示的に取り扱った仮想林分において、個体ベースで 扱われた木本の動態をシミュレートする点にある。これによって、高密度な森林においては既存 木本が太陽光を遮り、また定着場所を占め続けることにより、新しい気候環境に適応した木本の 侵入が遅れる様子がシミュレートができるはずである。そこで、このような、既存植生の差によ る環境変動時の植生変化速度への影響が表現されるかどうか、計算実験を行った。シミュレーシ ョンは、屋久島サイト(北緯 30 度 20 分、年平均気温℃、年降水量 3200mm、標高 600m、自然植 生は温帯性常緑広葉樹林)の気象データを与え、定着可能な木本 PFT の間で林床ポイントを等し く分けた。シミュレーションにはパラメーター推定時と同じ気象データを入力に用いたが、スピ ンアップは次の2通りの条件で行った;処理 1. 寒冷条件(元の気象データより、10℃低い気温と 地温を用いる)、 処理 2. 乾燥条件(元の気象データより、降水量を 10 分の 1 とする)。上記の条件 で、それぞれ 1000 年のスピンアップした後、250 年間のシミュレーションを行った。 図 19 に各処理における、シミュレーション開始時点(スピンアップ完了時点)、シミュレーショ ン 50 年後、シミュレーション 100 年後、シミュレーション 250 年後の相観を示した。シミュレー ション開始時点においては、処理 1 は温帯性針葉樹(TeNE)が優占する森林、処理 2 は C3草本 が優占する温帯草原となった(草本は可視化していない) 。シミュレーション 250 年後には、いず れの処理においても温帯性落葉広葉樹(TeBE)と TeBS が優占する森林へと変化するが、処理1 では TeNE の高木が長い期間残存することによって、この植生変化が大幅に遅れた。このような 処理間の差は、バイオマス構成の時系列変化を比較すると更に明確であった。例えば、TeBE と TeBS の合計バイオマスが 100 Mg C/ ha に達するまでの所要期間は、実験1では 90 年程度、実験 2では 40 年程度であり、そして 200 Mg C/ ha に達するまでの所要期間は、実験1では 190 年程度 であったが、実験2では 110 年程度であった。また、実験1では TeNE のバイオマスが、150 年程 度も高い状態に留まっていた。これは、気候変化によって potential vegetation が変化した場合でも、 光条件に恵まれた高木は長く留まる事ができる表している。なお、このような既存木本がもたら す植生変化のタイムラグは、新しい環境に適応した木本の種子の制限により増幅されると考えら れており(Kohyama & Shigesada 1995) 、現実の状況では更に大きいはずである。 73 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図19: 遷移パターンの初期条件依存性の検証 全球実験 T42(128×64 points)の各グリッドを、30m×30m の林分1つで代表させることにより、全球シミ ュレーションを行った。初期条件は裸地とし、シミュレーション期間は 200 年間とした。木本 PFT の定着条件は次の通りである:最初の 50 年間は、稚樹が定着できるメッシュを、その場所で定着 可能な全ての木本 PFT へ等しく分配させ、50 年目以降は現存バイオマスに比例して分配させる。 図 20 は、植生の分布と自然植生とを、シミュレーション 200 年後との間の比較である。自然植生 の分布図は、Haxeltine and Prentice (1996)を簡素化した。また、シミュレーション出力の植生タイ プの分類基準も、Haxeltine and Prentice (1996)の基準を簡素化したものを用いた(Table 10)。なお、 この natural vegetation map の作成には、植生データのみが用いられ、気象データや他のモデルの出 力は用いられていない。 全体的に、SEIB-DGVM は全球の植生分布を、ある程度までは再現することに成功したといえる。 しかし、幾つかの地域の植生タイプ、特に熱帯域の乾燥の程度に応じた植生タイプの移り変わり などは、適切に再現されなかった。例えば、インド全域やアフリカのサハラ以南には、自然植生 では熱帯季節林・サバナ・Xeric woodland といった乾燥環境に適応した熱帯性植生が生じているが、 シミュレーションでは砂漠が出力さてしまっている。 74 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図20: 自然植生分布と SEIB−DGVM が出力した植生分布 f.考察 一連のシミュレーション結果は、SEIB-DGVM が植生動態・炭素循環・陸面水循環の概略を、少 なくとも幾つかの選択地点においては再現できることを明らかにした。また、既存植生の違いが、 植生の移行速度へ影響する様子を、特別なパラメタリーゼーションなしで表現することが出来た。 これは、本モデルの特徴的な設計(個体ベース+明示的な空間構造)によって初めて可能となっ たことであり、従来の DGVMs では為しえなかったことである。今後は、温暖化や CO2 濃度の増 加がおきた際の生態系機能や植生分布の変化パターンを調べ、これらを既存のモデルの結果と比 較することにより、本モデルの特徴的な設計が、モデル出力にどのような与えるのか更に検討し たい。また我々の研究プロジェクトでは、現在開発が進められている地球統合モデル KISSME (Kawamiya et al. 2005)へ SEIB-DGVM を結合させ、陸面−大気間の相互作用が今後の地球環境 変動にどのような影響を与えうるのかシミュレーション実験を行う予定である。 SEIB-DGVM は、既存のどの全球植生モデルよりも実際の植生動態メカニズムを明示的に反映さ せているものの、幾つかの問題点が残存することを指摘しておく。第1には全ての陸上維管束植 物を僅か 10 種類の PFT でまとめている点である。全球シミュレーションにおいて、自然植生を 正しく再現できなかった地域が生じた理由の一つは、この多様性の単純化に端を発している可能 性が高いと考える。例えば、本モデルでは xeric woodland/scrub が生じなかったが、そのようなバ 75 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 イオームで優占種となる灌木種をモデルに導入する事で解決できると期待される。 問題点の第2は、木本 PFT の定着率を一定としている点である。木本の定着は栄養繁殖能、種子 休眠性、耐陰性等に大きく影響を受け(reviewed by Greene et al. 1999)、そのような定着の可否は、 植生動態や景観を強く規定している。しかし、定着率は様々な要因によって決まる複雑かつ多様 な過程であり、これを全球モデルにおいて機構ベースで取り込むことは現実的ではないだろう。 一つの可能性としては、各木本 PFT の定着率を遷各移段階や各気候区分別に経験則として与えて やることである。Starfield & Chapin (1996)は、そのような経験則をベースとしたモデル ALFRESCO において、アラスカの過渡的な景観変化パターンを、気候条件・山火事からの経過年数・森林伐 採の頻度などの関数として再現することに成功している。 問題点の第3は、広大な地域を 30m×30m といった小さな平面空間で代表させてしまい、景観の 多様性を考慮に入れていない点である。従来の高度に単純化されたモデルでは、そのような景観 の多様性を含めてパラメタライズしていることが暗に想定されており、この点には大きな注意が 払われてこなかった。しかし、実際の機構をより強くモデルに反映させるに従って、この問題の 相対的な重要性も増すであろう。ある限定された地域のシミュレーションであれば、単純にグリ ッドメッシュを細かくし、各グリッドメッシュに個別の環境条件を与えてやるというのが本質的 な解決法となる。しかし、全球計算のためには、計算量を節約するため、何らかの sophisticate さ れた手法を模索しなければならない。これも今後の課題である。 シミュレーションモデルの構造を複雑することは、モデル出力の不確実性を増大させる。したが って、上記で指摘した様々なプロセスを次々と結合していくことには、十分な注意が必要である。 しかし、気候変動時の植生応答を予測するという、実験のできない現象を高い精度で予測するた めには、その現象において本質的な過程は、少なくとも簡素化した形では導入しなければならな い。そして、陸面生態系プロセスは複雑かつ多様であるため、それは多くの生態学者の協力を仰 がなければ為しえない事業である。SEIB-DGVM は、このような陸域生態学者の知見を集積させ る過程において、中心的な役割を担うことが出来る。なぜならば、SEIB-DGVM は、木本の定着・ 競争・死亡といった局所的空間構造に制約されらながら個体ベースで生じる現象を明示的にシミ ュレートする、唯一の全球モデルだからである。問題となるのは SEIB が大きな計算力を要求する 点である。Hurtt et al.(1998)や Moorcroft et al.(2001)は、確率的なデモグラフィー過程を近似する方 法を提案しており、これは、そのような過程を限られた計算力で扱うことを可能にする。しかし、 SEIB-DGVM は一林分における計算であれば小型のワークステーションで十分に運用可能であり、 また計算環境は今後ますます充実していく方向にある。さらに、明示的な計算は明解性や直感性 が高いことから、幅広い分野の研究者から知見を集めるのに適している。 なお SEIB-DGVM は、さらなる改良を加えることでモデル信頼性の向上に努め、農業生態系や土 地利用変化モジュールを導入した後に、共生第2プロジェクトにおいて開発が進行している地球 統合モデルへと結合される事が予定されている。 76 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 g.引用文献 Arora, V., 2002. Modeling vegetation as a dynamic component in soil-vegetation-atmosphere transfer schemes and hydrological models. Rev. Geophys. 40, 1006, doi:10.1029/2001RG000103. Bugmann, H., 2001. A review of forest gap models. Clim. Change 51, 259-305. Cox, P.M., Betts, R.A., Jones, C.D., Spall, S.A., Totterdell, I.J., 2000. Acceleration of global warming due to carbon-cycle feedbacks in a coupled climate model. Nature 408, 184-187. Cramer, W., Bondeau, A., Woodward, F.I., Prentice, I.C., Betts, R.A., Brovkin, V., Cox, P.M., Fisher, V., Foley, J.A., Friend, A.D., Kucharik, C., Lomas, M.R., Ramankutty, N., Sitch, S., Smith, B., White, A., Young-Molling, C., 2001. Global response of terrestrial ecosystem structure and function to CO2 and climate change: results from six dynamic global vegetation models. Global Change Biol 7, 357-373. Foley, J.A., Costa, M.H., Delire, C., Ramankutty, N., Snyder, P., 2003. Green surprise? How terrestrial ecosystems could affect earth's climate. Frontier Ecol. 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Self-thinning in overcrowded pure stands under cultivated and natural conditions (Intraspecific competition among higher plants XI). Journal of Biology, Osaka City University 14, 107-129. h.成果の発表 口頭発表 Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, ESA-INTECOL 2005 joint meeting, Montreal, 2005. Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 11th US-Japan Workshop on Global Change, Yokohama, 2005. (ポスター) Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 11th US-Japan Workshop on Global Change, Yokohama, 2005. (ポスター) Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 1st iLEAPS Science Conference, Boulder USA, 2006.(ポ スター) Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, The 8th International Workshop on Next Generation Climate Models for Advanced High Performance Computing Facilities, Albuquerque USA, 2006. 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 南西諸島における森林生態系研究に関する現状と展望, 琉 球大学農学部亜熱帯フィールド科学教育研究センター, 2005. 79 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 日本気象学会 2005 年秋季大会, 神戸大学, 2005. 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 横浜国立大学オープンセミナー, 横浜国立大学, 2005. 佐 藤 永 , 伊 藤 明 彦 , 甲 山 隆 司 , SEIB-DGVM: A Spatial-Explicit Individual-Base Dynamic-Global-Vegetation-Model, 第 53 回日本生態学会大会, 新潟コンベンションセンター, 2006. 論文出版 Sato, H., A. Itoh, and T. Kohyama, SEIB-DGVM: A New Dynamic Global Vegetation Model using a Spatially Explicit Individual-Based Approach, Submitted to Ecological Modelling. Kawamiya, M., C. Yoshikawa, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, and T. Matsuno, Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, Journal of Earth Simurator, 4, 18-30, 2005. 80 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 2. 温暖化・大気組成変化相互作用 2−1. 温暖化・大気組成変化相互作用(大気化学) 担当機関:地球環境フロンティア研究センター 研究者名:須藤 健悟(大気組成変動予測研究プログラム・名古屋大学大学院環境学研究科) 滝川 雅之(大気組成変動予測研究プログラム) 永島 達也(国立環境研究所) 高橋 正明(大気組成変動予測研究プログラム・東京大学気候システム研究センター) a. 要約 温暖化・大気組成変化相互作用サブモデルでは大気化学過程(オゾン分布など)やエアロゾル の温暖化および海洋・陸域植生変化との相互作用を表現・予測することを主な目的としており、 CCSR/NIES AGCM を土台とした全球化学モデル CHASER やエアロゾルモデル SPRINTARS を用 いてエアロゾル・化学のオンライン計算を可能にすることが大きな課題である。H17年度(以 下、本年度と記す)はまず CHASER モデルに成層圏オゾン変動過程を簡略的に導入し全球オゾン 濃度場の将来予測実験を IPCC-SRES 各シナリオに従って行った。将来の温暖化が大気化学過程に 及ぼす影響はH16年度(以下、前年度と記す)までに行った実験で明らかになって来ているが、 今回の実験からはさらに将来の成層圏オゾンの変動がどのような影響を与えるかについて解析を 行った。特に将来の成層圏オゾン量の回復はオゾンの成層圏/対流圏間交換(STE)に大きく影 響し、どのシナリオにおいても対流圏オゾンの全球総量を増加させることが分かった。一方で今 回考慮した成層圏オゾン変動は全球平均のメタンや硫酸エアロゾル濃度にはほとんど影響を与え ないことを確認した。また、前年度より CHASER モデルを用いて IPCC 第 4 次報告書に貢献する 実験を行ってきているが、これについても引き続きリード・オーサー等と連絡をとりながら解析 を進めている。本年度はさらに CHASER モデルに成層圏化学過程を導入する作業を進め、成層圏 化学用の光解離定数の計算法構築・改良、成層圏化学反応の導入、およびエミッションデータの 整備を行った。今回の成層圏化学対応作業により CHASER 中で考慮する化学種は 79 種類、化学 反応は 213 本(成層圏での不均一反応を含まず)となった。 b. 研究目的 成層圏のオゾン(オゾン層)は有害な紫外線を遮断するという重要な役割を持ち、気候変動にとっ 81 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 ても無視できない存在である。一方対流圏中でも窒素酸化物(NOx)や炭化水素類などの汚染物質か ら化学反応を介してオゾンが生成される。対流圏におけるオゾンは植物・人体に有害であり、強力な 温室効果気体として重要性が認識されている。対流圏の各種エアロゾルも太陽光反射・吸収、雲の生 成に強く関与し共に気候に大きく影響する。またオゾンは対流圏においては水酸化ラジカル(OH) の生成に直接関与し、メタンやハローカーボン類(CFCs)など他の温室効果気体の化学的な寿命を左右 する(図21) 。さらに対流圏オゾン、硫酸塩エアロゾルは酸性雨などに代表される大気環境変化の鍵 を実質的に握っているのでこれらが今後の人間活動(特に東アジア域)によりどのように変動してい くかは重要である。またエアロゾル種のなかには硫酸塩エアロゾルや炭化水素類の酸化過程で生じる 二次有機エアロゾル(SOA)など対流圏の化学と強い関連性のあるものがあるので、将来のエアロゾル 分布およびその気候への影響を考察する際にも化学過程と結合したモデルを用いる必要がある。さら に対流圏の化学過程は水蒸気、温度、循環場などの気象場の条件(気候)に左右されるところが大き い (例えば、Sudo et al., 2001,2003)。したがって、より高度な気候変動・大気環境変化予測を目 指すために気候モデルの枠組みのなかでオゾン・エアロゾル分布を同時に計算し、気候・オゾン・エ アロゾルの相互作用的な変動過程について検討可能なモデルの開発・高度化が必要である。 この様な背景の下、本共生プロジェクト第2課題の枠組みにおいては CHASER・SPRINTARS 両モデル を土台として対流圏/成層圏化学およびエアロゾルのオンライン計算が可能な気候モデルの構築を 行い、化学・エアロゾル変動と気候変動(植生変動も含む)との相互作用を予測・研究する。 図21: オゾン化学とメタン・2次粒子(エアロゾル)との関係。対流圏中のオゾンは多くは対 流圏中で光化学反応により生成されるが、成層圏からの輸送の寄与も無視できない。対流圏中の 光化学反応はメタン(CH4)やフッ素化合物などの大気中の寿命を支配し、硫酸塩や有機炭素エア ロゾル(OC)の生成過程にも深く関与する。 82 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 c. 研究計画、方法、スケジュール 本サブグループ研究では、全球化学・気候結合モデル CHASER (Sudo et al., 2002a) を軸とし たモデル開発・研究を行う。CHASER モデルは東大気候システム研究センター(CCSR)、地球フロン ティア研究システム(FRSGC)、および国立環境研究所(NIES)で共同開発されている全球化学モデル であり、CCSR/NIES 気候モデル中で大気中の光化学反応、人為・自然起源気体放出(emission)過 程、地表面・降水による沈着(deposition)過程などの詳細な化学過程がオンラインで考慮されて いる(表 2:現状の設定では化学反応として対流圏オゾンを中心とした化学反応系を考慮してい る:図 22)。CHASER モデルにより計算されるオゾン(O3)や前駆気体(窒素酸化物 NOx、一酸化炭素 CO、炭化水素類 VOCs など) および重要関連気体の分布は衛星や航空機を利用した各種観測デー タと定量的にも非常に良い一致を見せており、対流圏オゾン化学のシミュレーション能力として は世界的にも最先端をいくものである(Sudo et al., 2002b)。また、CHASER モデルでは化学種や 化学反応系について設定ファイルを通じてプリ・プロセッサーにより自動的にモデルコード (Fortran)を生成する(図 23)ので、化学種・反応の変更および追加は容易である。本研究計画 では、CHASER モデルを土台として、対流圏および成層圏のオゾン化学過程と各種エアロゾルの同 時シミュレーションが可能な化学・エアロゾル結合気候モデルの構築を目指す。 全球化学モデル CHASER は現状設定では主に対流圏化学を対象としたものであるが、種々の化学 反応を含み標準の AGCM に比べて計算コストが非常に大きい。そこで CHASER へのオゾンホールを 含む成層圏化学やエアロゾル計算の導入作業に先立って、CHASER の(特に化学過程の)高速化を 行い地球シミュレータ上での実行性能を評価する。またこの評価を基に「気候物理コアモデル改 良」サブグループと連携の上、統合モデルとしての鉛直解像度等について吟味し決定する(平成1 5年度)。さらに、高速化を行った CHASER モデルにエアロゾルモデル SPRINTARS(Takemura et al., 2002)を結合する作業を開始する。エアロゾル種の内、硫酸エアロゾルについてはその生成過程が 過酸化水素(H2O2)、水酸化ラジカル(OH)、およびオゾン分布などの化学場に強く依存するため CHASER の化学反応過程でオンライン計算する(cf., Sudo, 2003)。この際、硫酸塩エアロゾルの 液相での酸化に重要な雲水 pH についても土壌粒子(ダスト)やアンモニア(NH3)による中和過程 を導入し現実的な硫酸塩シミュレーションを実現する(平成15∼16年度)。モデル中の輸送過 程は特に成層圏/対流圏物質交換に重要であり、対流圏・成層圏の化学物質分布にも影響が大き いので、使用している輸送スキームの評価および改良も並行して行う。また、平成16年度(前 半)の時点で CHASER にエアロゾル過程を導入したものを統合モデル(KISSME)に組み込む。その後 モデルトップの拡張を行い、CHASER 化学過程に成層圏化学を導入する作業を行う(平成16∼1 7年度)。 83 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 表2: 化学気候モデル CHASER の概略(H15 年度時点の設定:対流圏化学中心) 基本モデル CCSR/NIES/FRSGC GCM (5.7b) : o o (大気)気候モデル 空間解像度 水平:T42(2.8 x2.8 ), 輸送過程 グリッドスケール(flux-form semi-Lagrangian) サブグリッドスケール(積雲対流, 鉛直拡散) 53 化学種, 139 化学反応(気相,液相,不均一*) (1)O3-HOx-NOx-CO-CH4 (成層圏 Ox 化学を含む), (2)非メタン炭化水素(NMHCs)酸化, (3)SO2, DMS 酸化(硫酸塩エアロゾルシミュレーション) *不均一反応は N2O5, HO2, RO2 ラジカルについて雲粒子、硫酸エアロゾル、および海塩 粒子表面上で考慮 (高度 20km 以上の O3, NOy については衛星データなどで prescribe) 産業・交通, 森林火災, 植生/土壌/海洋, 雷からの NOx 生成 (NOx, CO, C2H6, C2H4, C3H8, C3H6, アセトン, イソプレン, テルペン, メタノール, SO2, DMS) 地表面の植生タイプ、気温、太陽光入射、積雪などの関数 [Wesely, 1989] 化学過程 Emission Dry deposition (乾性沈着) Wet deposition (湿性沈着) 鉛直: 32 layers(地表∼40km) Rain-out (in-cloud), wash-out (below-cloud), ice-sedimentation Reevaporation & reemission processes considered. 図22: 対流圏オゾン化学の基本サイクル。NOx (= NO+NO2) と一酸化炭素(CO)、炭化水素類 (NMHCs)の存在下でオゾンが光化学的に生成される。反応中では過酸化水素(H2O2)など硫酸塩エア ロゾルの生成に深く関与するものも生成される。 成層圏化学導入については、CCSR および NIES で開発された成層圏化学・オゾンホールモデル (Takigawa et al., 1999; Nagashima et al., 2002)を基本とし、成層圏でのハロゲン化学反応 (塩素・臭素系)および極域成層圏雲(PSCs)上の不均一反応を導入する。統合モデルの枠組みにお 84 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 いては、植生からの VOCs の大気中への放出過程および植生による大気中物質の沈着過程 (deposition)、さらに硝酸などの物質の沈着による植生への影響を考慮し、陸域生態系・大気化 学間の相互作用も表現することを想定している。以上のようなモデル構築作業と並行して、大気 化学・エアロゾル変化と温暖化の結合将来予測のための前段階的な実験も行っていく。例えば CHASER を用いて IPCC SRES シナリオに従った将来予測実験を開始しており、将来のオゾン・メ タンや硫酸塩エアロゾルの分布に NOx、CO、VOCs、SO2 などの汚染物の emission 増加(特に東ア ジア域)および温暖化がそれぞれどのような効果を持つかについて解析を行っている(温暖化に よる影響については水蒸気増加により対流圏下層のオゾン破壊が促進され、同時にオゾンからの OH ラジカルの生成が増加しメタンの増加傾向に影響を与えるなどの可能性がある) 。図 24 に本サ ブグループのモデル開発の大略的なスケジュールを示す。 図23: CHASER モデル計算の流れ。力学(輸送を含む)、物理過程、および化学過程それぞれに ついて CCSR/NIES AGCM 中でオンラインで計算される。化学反応や化学種の追加などの化学過程 の設定は設定ファイルを通じて行い、Fortran ソースコードを自動生成する(cf., Sudo, 2003)。 85 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図24: 温暖化・大気組成変化相互作用サブグループの開発・研究スケジュール。赤線は K2 統合モ デル開発(KISSME)の流れを示す。 d. 平成17年度研究計画 これまで(平成16年度)の作業により統合モデル本体への化学モデル CHASER とエアロゾ ルモデル SPRINTARS の結合・導入が行われた。対流圏化学とエアロゾルの計算の結合に関して、 本年度はエアロゾル熱力学平衡モデルの導入作業を完了する。また「気候物理コアモデル改良」 グループとの連携の下に統合モデルのハイブリッド鉛直座標化およびモデルトップ高度の向上を 行った上で、統合モデル内の CHASER にハロゲン化学反応および極域成層圏雲(PSCs)化学を追加 し、成層圏オゾンのシミュレーションも行えるようにする。 e. 平成17年度研究成果 e.1. IPCC-SRES 将来予測実験(つづき):emission/温暖化/成層圏オゾン変動 昨年度に引き続いて IPCC/SRES の A2、A1、B1 各シナリオに従い、対流圏オゾン、メタン、 硫酸塩エアロゾル全球分布の将来予測実験を行っている。実験は化学結合気候モデル CHASER を 用いて地球シミュレータ(L 系)上で実行した。本年度は将来の前駆気体エミッション変化及び 気候変動の影響に加えて将来見込まれる成層圏オゾン量の変化(オゾン層の回復)が化学場(特 に対流圏)にどのような影響を及ぼすかについて実験・解析し、シナリオごとに詳しく評価を行 った。 86 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 本研究ではエミッション・気候変動・成層圏オゾン変動の各影響を分離するため、窒素酸化物 NOx や一酸化炭素 CO などのオゾン前駆気体の放出(emission)変化のみの実験(Exp1)、emission 変化に加え気候変動も考慮した実験(Exp2)、さらに将来の成層圏オゾン変動(オゾン層回復)も 考慮した実験(Exp3)の3種類の実験を実行した(表 3)。これらの実験では将来の emission 変化、 気候変動はともに IPCC SRES の A2(エミッション増加大) 、A1(同中) 、B1(同小)の各シナリ オに従い、Exp2 の気候変動についてはモデル中で CO2 などの温室効果気体濃度を増加させるとと もに、CCSR/NIES 大気海洋結合モデルにより各シナリオについて予測された海面水温(SSTs)と海 氷(Sea-ice)分布を与えた。 表3:CHASER による将来予測の実験シナリオ Exp1 Exp2 Exp3 エミッション(*1) Future Future Future 気候(*1) Present Future Future 成層圏オゾン(*2) Present Present Future *1 それぞれ(Exp1,2,3)について SRES A2、A1、B1 の各シナリオを適用。 (エミッションは対流圏オゾンの前駆気体・CH4 および SO2 について考慮) *2 全球ハロゲン総量(有効塩素換算、EESCl)の関数で与える(IPCC-TAR)。 また、Exp3 は Exp2 の設定に加えて将来起こり得る成層圏オゾン量の変動(オゾン層回復)を簡 略化して考慮する;(方法)対流圏界面以上の高度領域(実際には O3>500ppbv の領域)の東西平 均オゾン濃度場を SAGE-I/II・TOMS のオゾンデータを基本に全球ハロゲン量の関数として予め予 測し(D. Karoly and D. Sexton の方法: Randel and Wu (1999))、CHASER 中の東西平均オゾン場 をこの予測値に緩和させる(全球ハロゲン量の時間発展としては IPCC-TAR で提唱されているシナ リオを使用した)。 図 25 は今回の実験で計算された成層圏から対流圏への正味のオゾン流入量の時間発展である。 昨年度行った実験と同様にエミッション変化のみの実験(Exp1)では対流圏のオゾン量を反映し た成層圏オゾン流入量変動となっているが、気候変動も考慮する実験(Exp2)では温暖化に伴い 成層圏循環(Brewer-Dobson 循環)や対流圏循環(ハドレー循環)が強化され成層圏→対流圏輸 送が活発化したことにより、どのシナリオについても 100 年間で 30-40%の増加となっている。将 来のオゾン層(成層圏オゾン)回復を想定した実験(Exp3)では特に 2020 年以降さらなら成層圏 オゾン流入量の増加が計算されており、2100 年ではどのシナリオにおいても Exp2 に比べ 15-20% の増加を示している。 87 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図25: 成層圏/対流圏間オゾン交換量(STE、正味の成層圏→対流圏オゾン流入量)の時間発展 (TgO3/yr)。図は 2000 年から 2100 年までで SRES-A2、A1、B1 各シナリオについて Exp1,2,3 の結 果をそれぞれ示す。 図26: 対流圏間オゾン全球総量(TgO3)の時間発展(2000∼2100 年)。SRES-A2、A1、B1 各シナ リオについて Exp1,2,3 の結果をそれぞれ示す。 表4: エミッション以外の各要因が対流圏オゾン量に与える影響 温暖化 (対流圏下層) (1)水蒸気増加 成層圏オゾン回復 (対流圏上層) (2)STE量の増加 (対流圏上層) (3)STE量の増加* (成層圏大気循環の強化) ―(マイナス) +(プラス) +(プラス) * 成層圏オゾン増加による対流圏オゾン量への影響はSTE量の増加だけでなく、対流圏への紫 外光減少を通じ対流圏でのオゾンの光化学的な寿命を延ばす効果もあるが、本実験では個別に定 量化していない。 各シナリオおよび各実験における上述のような成層圏からのオゾン流入量の時間発展の違いは 対流圏オゾン量の時間変化にも少なからず影響する(図 26)。特に Exp3 の将来の成層圏オゾンの 88 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 増加(オゾン層の回復)は対流圏オゾンの全球総量にも大きく影響し、Exp2 に比べ 2100 年時で 5%程度の対流圏オゾン量増加を引き起こしている(成層圏オゾンの増加は対流圏への入射紫外光 を減少させ対流圏オゾンの光化学的寿命を増加させる効果があることにも注意が必要)。表 4 にオ ゾン前駆気体のエミッション以外の要因が対流圏オゾン量に及ぼす影響をまとめた。図 26 の対流 圏オゾン総量の時間発展においてエミッション変化のみの実験 Exp1 と温暖化も考慮する実験 Exp2 との間にはほとんど差がなく、 一見温暖化の影響は大きくないように見える。 しかしながら、 これは表 4(1)温暖化に伴う水蒸気増加による対流圏下層オゾンの減少と(2)温暖化による 成層圏オゾン流入量増加による上部対流圏オゾン増加の逆方向の効果が全球オゾン総量の計算の 際にキャンセルした結果である。 図 27 は同様に全球平均メタンの時間発展の計算結果を示す。昨年度までの実験で得られたよう に、温暖化実験(Exp2)では対流圏中の水蒸気増加による OH ラジカルの濃度上昇でメタン破壊が 強まるため、Exp2 の 2100 年時のメタン濃度は標準実験(Exp1)に比べてどのシナリオでも 20%程度 低く計算されている。一方で、Exp3 で考慮している将来の成層圏オゾン増加は対流圏への紫外光 を減少させ、 O3 + hν(紫外光) Æ O(1D) + O2 O(1D) + H2O Æ OH + OH (1) (2) の反応で生じる OH ラジカル濃度を抑制し、メタン濃度が相対的に高くなると予想できる。しかし ながら図 27 に見るように実際には Exp2 と Exp3 のメタン濃度の差はどのシナリオについても非常 に僅かなものであった。これは図 25、26 で示したような Exp3 の成層圏オゾン増加に伴う成層圏 オゾンの対流圏への流入量の増加とそれに伴う対流圏オゾン量の増加が上(1)式の反応を補償 的に強化した結果と理解することが可能である。 さらに図 28 は硫酸塩エアロゾルの対流圏総量の時間発展を示す。どのシナリオについても 2020 年以降温暖化の影響が顕著に現れており、これは温暖化に伴う OH ラジカルの増加による二酸化硫 黄(SO2)の気相酸化(SO2+OHÆSO42-)の強化および、雲水の増加による液相酸化の強化に起因する。 硫酸塩エアロゾルの場合、その大気中での生成過程の大部分は雲水中の液相反応によるので成層 圏オゾン変動の影響は小さく、Exp3 と Exp2 ではほとんど差は見られない。 89 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図27: 全球平均メタン濃度(ppmv)の時間発展(2000∼2100 年)。SRES-A2、A1、B1 各シナリオ について Exp1,2,3 の結果をそれぞれ示す。 図28: 硫酸塩エアロゾル(SO42-)の対流圏全球総量(TgS)の時間発展(2000∼2100 年)。SRES-A2、 A1、B1 各シナリオについて Exp1,2,3 の結果をそれぞれ示す。 e.2. CHASER への成層圏化学の導入 昨年度までの作業により化学モデル CHASER およびエアロゾルモデル SPRINTARS を結合する作業 が完了している。本年度は本サブプロジェクトの目標である統合モデル内でのエアロゾル・ (成層 圏・対流圏)化学の完全結合シミュレーション(図 29)に向けて対流圏化学中心であった CHASER モデルに成層圏化学過程を導入する作業(化学種・光化学反応の追加、光解離定数計算方法の新 放射コードへの対応及び改善、ハロゲン化合物のエミッション等データの整備など)を進めた。 e.2.1. 化学種・光化学反応の追加 成層圏でのオゾン化学に対応するため CHASER 中にハロゲン系化合物を中心として新たに化学 種を導入した。表 5 は成層圏化学まで含めた実験時に CHASER 中で考慮される化学種を示す。 Ox-NOx-HOx 系に関しては対流圏化学と共通な反応が多いため大きな変更はない(NOx に関しては 窒素原子 N、HOx 系に関しては水素原子 H を新たに考慮した)が、塩素系(Cl)・臭素系(Br)化 合物や亜酸化二窒素 N2O によるオゾン破壊過程の表現のために 25 種類の化学種を新たに追加した。 これにより対流圏のみの設定では 55 種類であった化学種数は約 80 種類と増加し、トレーサー数 としては 38 種類(対流圏化学中心)から 64 種類に増加した。 90 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図29: 共生第 2・地球システム統合モデルの枠組みにおける大気化学・エアロゾル過 程のモデリング。詳細な化学反応過程とエアロゾル計算を含み、オゾン・メタンなど 温室効果気体の放射過程への影響および、エアロゾル種の雲過程への影響が考慮に入 れられている。 表5: CHASER で考慮されている化学種一覧(2006 年 2 月 version) Species-ID Tracer-Family Name Species-ID Tracer-Family Name 01 O3 Ox Ozone 41 DMS single Dimethyl Sulfide 02 O Ox atomic Oxygen (3P) 42 SO4 single Sulfate SO4(--) 03 O1D Ox atomic Oxygen (1D) 43 CH4 single Methane 04 N NOx Nitrogen 44 N2O single Nitrous Oxide 05 NO NOx Nitric Oxide 45 Cl ClOx atomic Chlorine 06 NO2 NOx Nitrogen Dioxide 46 ClO ClOx Chlorine oxide 07 NO3 NOx Nitrogen Trioxide 47 ClOOCl ClOx Dichlorine dioxide 08 N2O5 single Nitrogen Pentoxide 48 ClONO2 single Chlorine nitrate 09 HNO3 single Nitric Acid 49 HOCl single Hypochlorous acid 10 HNO4 single Peroxynitric Acid 50 HCl single Hydrogen Chloride 11 H2O2 single Hydrogen Peroxide 51 CH3Cl single Methyl Chloride 12 CO single Carbon Monoxide 52 CCl4 single Tetrachloromethane 13 C2H6 single Ethane 53 CH3CCl3 single Methyl Chloroform 91 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 14 C3H8 single Propane 54 CFC11 single CFC-11 (CFCl3) 15 C2H4 single Ethene 55 CFC12 single CFC-12 (CF2Cl2) 16 C3H6 single Propene 56 CFC113 single CFC-113 17 ONMV single other NMVOCs 57 CFC114 single CFC-114 18 C5H8 single Isoprene 58 HCFC22 single HCFC-22 19 C10H16 single Terpenes 59 Br BrOx atmoic Bromine 20 CH3COCH3 single Acetone 60 BrO BrOx Bromine Oxide 21 HCHO single Formaldehyde 61 BrONO2 single Bromine Nitrate 22 CH3CHO single Acetaldehyde 62 HOBr single Hypobromous acid 23 CH3OH single Methanol 63 HBr single Hydrogen Bromide 24 NALD single Nitroxyacetaldehyde 64 CH3Br single Methyl Bromide 25 MGLY single 65 OCS single Carbonyl Sulfide M-glyoxal: C3 aldehydes 26 HACET single H-acetone: C3 ketones 66 H non-tracer atomic Hydrogen 27 MACR single Methacrolein: C4 carb. 67 OH non-tracer Hydroxyl radical 28 PAN single Peroxyacetyl Nitrate 68 HO2 non-tracer Hydroperoxy radical 29 MPAN single higher PANs 69 CH3O2 non-tracer Methyl peroxy radical 30 ISON single Hydroxyalkylnitrates 70 C2H5O2 non-tracer Ethyl peroxy radical 31 CH3OOH single Methyl Hydro-Peroxide 71 C3H7O2 non-tracer Propyl peroxy radical 32 C2H5OOH single Ethyl Hydro-Peroxide 72 CH3COO2 non-tracer Peroxy acetyl radical 33 C3H7OOH single Propyl Hydro-Peroxide 73 CH3COCH2O2 non-tracer Acetylmethyl peroxy 34 ISOOH single Hydroxyperoxides 74 HOC2H4O2 non-tracer Hydroxy ethyl peroxy 35 HOROOH single Peroxides from CnH2n 75 HOC3H6O2 non-tracer Hydroxy propyl peroxy 36 CH3COOOH single Peracetic Acid 76 ISO2 non-tracer Peroxy radicals 37 MACROOH single Hydroperoxides 77 MACRO2 non-tracer Peroxy radicals 38 O3S Ox(S) Ozone(Stratosphere) 78 CH3SCH2O2 non-tracer Dimethyl Sulfide peroxy Bromine 39 O1DS Ox(S) O(1D)(Stratosphere) 79 BrCl non-tracer monochloride 40 SO2 single Sulfur Dioxide ※ カラー部は成層圏化学用に新たに追加された気相化学種。 ※ 考慮する化学種(CFCs など)は簡単に変更可能。 92 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 表6: CHASER に新たに追加された成層圏関連の化学反応(気相反応のみ)。 ※この他にも NOx および HOx 系について反応を数本追加している。 (kinetic-reaction は K154 ま でが今回の追加に該当) 表 6 は今回の作業で追加された成層圏関連の化学反応(気相反応のみ)を示す。CFCs、MCF、四塩 化炭素、塩化・臭化メチルの分解(主に光解離)やそれに続く反応がメインであり、対流圏中心 の version に比して光解離反応 24 本、kinetic 反応 39 本、合計 63 本程度の追加となっている(化 学反応数は全体で 204 本)。今回追加された成層圏関連の化学反応は CHASER 中の化学スキームに より対流圏化学と同時に計算(時間積分)されるが、計算速度向上のためには対流圏化学および 成層圏化学の高度領域をそれぞれ分離して計算を行うことも想定している。 e.2.2. 光解離定数計算手法の修正及び改良 CHASER では光解離反応に関わる光解離定数の計算を CCSR/NIES/FRCGC GCM 中の放射スキーム中 でオンラインで計算する。そのため光解離定数の計算に必要な吸収断面積や量子収率などのデー タは GCM の放射スキームで考慮されている波長分解能ごとに用意する必要がある。本年度は CCSR/NIES/FRCGC GCM の放射スキームの更新に伴い、CHASER 光解離定数計算の新スキームへの対 応作業を行った。CCSR/NIES/FRCGC GCM 新放射スキーム(mstrnX)における主な改良点は、(1) 線吸収データベースの HITRAN92 から HITRAN2000 への更新、 (2)連続吸収帯プログラムを LOWTRAN7 93 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 のものから MT_CKD_1 へ変更、 (3)気体吸収帯の大幅な増加、 (4)積分点選択の際の最適化手法 の変更などである。これらの更新により、従来の放射コードを用いた場合に比べて、Line by Line 計算との一致が良くなり、全体的な精度の向上が達成されており(関口 2004)、特に下部成層圏で の低温バイアス解消に貢献している(H15 年度成果報告書「気候物理コアモデル改良」参照)。こ の新放射スキームでは大気化学用に改良された波長分解能を選択することが可能となっており、 今回の光解離定数計算手法の更新作業ではこの波長分解能に対応したデータの整備と光解離定数 計算方法の改良を行った。図 30 に旧放射コードの波長分解能を CHASER 用に切り直したもの(従 来版)と新放射コードの波長分解能を比べる。従来まで 200nm までであった短波領域が 185nm ま でとられており、酸素(O2)の Schuman-Runge 帯での光解離および N2O や CFCs の光解離過程がよ り正確に計算できるようになっている。 図30: 放射コード波長分解能と重要な光解離反応の吸収波長領域;旧コード(パラメータファ イル:PARA.CH37.chaser2)および新コード(同:PARA.bnd31ch92 for radX)。 また、長波長側では 690nm の次の区切りとして 800nm が採用され、690nm の次の区切りが 2500nm であった従来版と比べてオゾンの Chappuis 帯での吸収が扱い易くなっている。この他、従来版の 400-600nm 領域を 2 等分し、対流圏光化学計算の精度を高めている。光解離定数の計算では上記 のような波長分解能(ビン)について吸収断面積・量子収率をそれぞれの物質に対して以下のよ うに与える: 94 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 (3) 基準スペクトル(F0)は対流圏化学中心の CHASER では各波長領域一律に 300 ドブソン単位(DU) のオゾンカラムを通した後の太陽光スペクトルを用いていたが、今回の作業では成層圏化学にも 対応する必要があることから、波長領域ごとに基準スペクトルを可変とした。また、吸収断面積 や量子収率については基本的に温度依存性があるが、これについては CHASER 中でオンラインで計 算する。CHASER の化学過程で計算されるオゾンやメタン、N2O などの短波・赤外吸収ガスの分布 は放射スキームにオンラインで渡され放射過程に反映される。この他、Lyman-α線による以下の ようなメタン、水蒸気、酸素分子の光解離反応を考慮する必要がある: CH4 + hν Æ CH3 + H (4) H2O + hν Æ H + OH (5) 1 O2 + hν Æ O( D) + O (6) これらについては、現状の放射スキームでは対応できないため、パラメタリゼーション(Brasseur and Solomn, 1984)を使用して与えることを検討中である。 図31: 三陸沖(左図)およびハイデラバード(右図)における N2O の鉛直分布。青丸が気球観 測による観測値、赤線が旧放射スキームでのモデル計算結果、青線が新放射スキームでのモデル 計算結果をそれぞれ示す。単位は ppbv で、地表での濃度を基準としている。 上述の新しい放射スキーム(mstrnX)と CHASER 用の波長分解能を使用した場合の一例として N2O のシミュレーションの改善を図 31 に示す。従来の放射スキームを用いた計算では 200nm より も短い波長の放射による N2O の光解離が無視されているため、上部成層圏・中間圏で観測値を過 95 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 大評価しているが、185-200nm の波長領域を含む新スキームではそのような傾向は解消されてい る。 さらに特に高緯度帯の光解離定数の計算においては大気球面の効果が重要であり検討が必要で ある。本年度は極渦の周縁部での光化学反応をより詳細に再現するため、Kurokawa et al. (2005) を基に光解離速度への球面効果の導入を行った。図 32 に、球面効果による短波フラックスの全短 波放射フラックスに占める割合を示す。北緯60度以北の極夜状態の部分では、特に成層圏から 中間圏にかけて球面効果によって太陽フラックスが顕著に増加していることがわかる。極渦周縁 部での太陽フラックスは、極渦内で極成層圏雲表面上での不均一反応などで生成されたハロゲン 化合物によるオゾン破壊を加速する可能性があるため、化学物質の分布に球面効果が与える影響 について今後さらに評価を行っていく予定である。 図32: 全短波フラックスにおける球面効果の影響の占める割合(%)の緯度 -高度断面図。コンター間隔は 5%。 96 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図33: CHASER で考慮している成層圏関連化学種のエミッションデータの例:(a)CFC-11、 (b)CFC-113、(c)メチルクロロフォルム(MCF)、(d)N2O. 塩素系化合物(a,b,c)は塩素原子換算 (kgCl m-2 sec-1). e.2.3. 成層圏関連化学種のエミッションデータ 成層圏オゾン関連化学のより現実的なシミュレーションのために、ハロゲン系化合物や N2O の エミッションデータの整備を行った。データは GEIA および EDGAR インベントリを使用し GCM(CHASER、T42)入力用に加工を行った。データには工業・交通起源や森林火災・農業起源のエ ミッションが含まれる。しかしながら、将来予測などの長期実験をする際には便宜的に対流圏(も しくは地表)での各物質濃度を固定して計算を行うことも必要になるので、地表固定濃度を入力 して実験を行うことも可能となっている。 f. 考察 本年度はまず、化学モデル CHASER で将来のエミッション変化、気候変動(温暖化)、成層圏オ ゾン変動が対流圏オゾンやメタンに及ぼす影響について実験し、詳しい評価を行った。エミッシ ョン変化及び温暖化が及ぼす影響は昨年度までに行っている実験と同様の結果を得たが、本年度 の実験ではさらに成層圏オゾン量変動(オゾン層の回復)も無視できない要因であることを明ら 97 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 かにした。しかしながら今回の実験では成層圏オゾン変動は簡略化した方法で診断的に与えてお り、対流圏・成層圏化学の相互作用および大気化学・気候の相互作用という意味では CHASER 中で の成層圏化学・対流圏化学の完全結合が必要である。このような知見を受けて本年度は更に対流 圏化学中心であった CHASER 化学モデルに成層圏化学過程を導入し成層圏オゾンのシミュレーシ ョンも同時に行えるようにする作業を行った。本年度の作業では CHASER モデルに成層圏関連の化 学種・化学反応の導入および光解離定数計算方法の改良を行ったが、成層圏での不均一反応やオ ゾンホール化学スキームの導入は完了していない。次年度(H18年度)では Akiyoshi et al (2004)などで採用されているオゾンホールスキームや不均一反応の導入を完了し成層圏・対流圏 化学の完全結合を行うとともに重力波抵抗スキームや放射過程における大気球面効果について調 整を行っていく予定である。 g. 参考文献 Akiyoshi H., T. Sugata. S. Sugita, H. Nakajima, H. Hayashi, J. Kurokawa, M. Takahashi, Lower-N2O air masses after the breakdown of the arctic polar vortex in 1997 simulated by the CCSR/NIES nudging CTM, J. Meteorol. Soc. Jpn, 80, 451-463, 2002. Akiyoshi H., T. Sugita, H. Kanzawa, N. Kawamoto (2004), Ozone perturbations in the Arctic summer lower stratosphere as a reflection of NO X chemistry and planetary scale wave activity, J. Geophys. Res., 109, D03304, doi:10.1029/2003JD003632. Brasseur, G., and S. Solomon, Aeronomy of the Middle Atmosphere, 1984. Kurokawa J., H. Akiyoshi, T. Nagashima, H. Masunaga, T. Nakajima, M. Takahashi, H. Nakane (2005), Effects of atmospheric sphericity on stratospheric chemistry and dynamics over Antarctica, J. Geophys. Res., 110, D21305, doi:10.1029/2005JD005798. Nagashima, T., M. Takahashi, M. Takigawa, and H. Akiyoshi, Future development of the ozone layer calculated by a general circulation model with fully interactive chemistry, Geophys. Res. 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J., Prather, M. J., Pyle, J. A., Sanderson, M. G., Shine, K. P., Stevenson, D. S., Sudo, K., Szopa, S. and Zeng, G., Radiative forcing since preindustrial times due to ozone change in the troposphere and the lower stratosphere, Atmospheric Chemistry and Physics, Vol. 6, pp 575-599, 24-2-2006. Irie, H., K. Sudo, H. Akimoto, A, Richter, J.P. Burrows, T. Wagner, M. Wenig, S. Beirle, Y. Kondo, V.P. Sinyakov, and F. Goutail, Evaluation of long-term tropospheric NO2 data obtained by GOME over East Asia in 1996-2002, Geophys. Res. Letters., 32, L11810 doi:10.1029/2005GL022770, 2005. Kawamiya, M., C. Yoshikawa, T. Kato, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, and T. Matsuno, Development of an Integrated Earth System Model on the Earth simulator, J. Earth Sim., 4, 2005. Stevenson D.S., F.J. Dentener, M.G. Schultz, K. Ellingsen, T.P.C. van Noije, O. Wild, G. Zeng, M. Amann, C.S. Atherton, N. Bell, D.J. Bergmann, I. Bey, T. Butler, J. Cofala, W.J. Collins, R.G. Derwent, R.M. Doherty, J. Drevet, H.J. Eskes, A.M. Fiore, M. Gauss, D.A. Hauglustaine, L.W. Horowitz, I.S.A. Isaksen, M.C. Krol, J.-F. Lamarque, M.G. Lawrence, V. Montanaro, J.-F. Muller, G. Pitari, M.J. Prather, J.A. Pyle, S. Rast, J.M. Rodriguez, M.G. 100 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Sanderson, N.H. Savage, D.T. Shindell, S.E. Strahan, K. Sudo, and S. Szopa, Multi-model ensemble simulations of present-day and near-future tropospheric ozone, J. Geophys. Res., in press, 2005. M.G. Lawrence, O. Hov, M. Beekmann, J. Brandt, H. Elbern, H. Eskes, H. Feichter, and M. Takigawa, The Chemical Weather, Environ., Chem., 2, 6-8, doi:10,1071/EN05014, 2005. Takigawa, M, K. Sudo, H. Akimoto, K. Kita, N. Takegawa, Y. Kondo, and M. Takahashi: Estimation of the contribution of intercontinental transport during PEACE campaign by using a global model, J. Geophys. Res., 110, D21313, doi:10.1029/2005JD006226, 2005. 口頭発表 Sudo, K., Akimoto H., and Takahashi M., Source attribution of global tropospheric O3 and CO: where do they come from ?, International Association of Meteorology and Atmospheric Sciences, Beijing, China, 1-11 August, 2005. Sudo, K., Akimoto H., and Takahashi M., Past/Future Climate change impacts on atmospheric chemistry in a chemistry coupled climate model, 1st ACCENT Symposium, Urbino, Italy, 12-16th September, 2005. Sudo, K., Atmospheric chemistry and aerosols modeling in the FRCGC Earth System model, 1st German-Japan Workshop on Numerical Climate Modeling, Kashiwa, Chiba, Japan, 31st Oct - 1st Nov , 2005. 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Han 103 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 et al., 1994; Nakajima and Nakajima, 1995; Asano et al., 1995)。このような相関パターンがビン法雲モ デルでも再現されることは前年度に報告した通りであるが、今年度はさらに、このような相関パ ターンに対するエアロゾルの影響を調べた。そのために、雲生成の計算に初期条件として与える エアロゾル数を増減させた数値実験を行い、有効半径と光学的厚さの相関パターンがどのように 変化するかを調べた。その結果を図 34 に示す。これによると、エアロゾルが少ない清澄な条件(図 34 上段)では、プロットは主に負の相関部分からなり、正の相関部分はわずかしか見られないの に対し、エアロゾルが多い汚れた条件(図 34 下段)では、逆に正の相関部分のみが再現され、負 の相関部分は形成されないことがわかった。このような相関パターンの違いは、エアロゾル量の 変化によって雲の微物理的な粒子成長パターンが変化することによって起こる。エアロゾルが少 ないときには、生成される雲粒の数密度が小さいために水蒸気の消費は少なく過飽和度が高いの で、粒子の凝結成長速度は大きく、衝突併合過程が活性化されるサイズに容易に到達し、ドリズ ル粒子が活発に生成されるので、負の相関パターンが卓越する。これに対して、エアロゾルが多 いときには、生成される雲粒の数密度が大きいので水蒸気が多く消費されて過飽和度が下がり、 粒子の凝結成長速度は小さくなる。その結果、雲粒子は衝突併合が活性化されるサイズに到達で きずドリズル粒子が生成されないために、負の相関部分は現れずに正の相関部分のみが形成され る。このシミュレーション結果は、Nakajima and Nakajima (1995)による衛星リモートセンシングで 観測的に報告されている結果によく類似した特徴を示している。Nakajima and Nakajima (1995)によ れば、FIRE 領域(カリフォルニア沖)と ASTEX 領域(北大西洋)とでは有効半径と光学的厚さ の相関パターンは顕著に異なり、FIRE 領域では負の相関が卓越して正相関部分はわずかしか見ら れないのに対し、ASTEX 領域では正の相関が支配的である。前者はエアロゾルが少ない条件下で のモデルシミュレーション結果(図 34 上段)に類似し、後者はエアロゾルが多い条件下での計算 結果(図 34 下段)に類似している(Suzuki et al., 2006)。このことから、これら二つの領域で観測さ れた相関パターンの違いは、エアロゾル量の違いによる微物理的な粒子成長過程の違いを反映し てもたらされたものと解釈できる。このようにしてモデル実験と衛星観測データを組み合わせる ことにより、全球の雲に対して観測的に得られつつある有効半径と光学的厚さの間の相関パター ンをエアロゾル数と対応づけて分類することができ、雲の微物理的な粒子成長のパターンを全球 規模で調べることが今後可能になっていくと考えられる。 本サブテーマでは、このような詳細な雲微物理モデリングと並行して、エアロゾルが雲システ ムに及ぼす影響の全球シミュレーションを行う目的で、全球非静力学雲解像モデル NICAM(Satoh, 2002, 2003; Tomita et al., 2002, 2004)にエアロゾル化学輸送モデル SPRINTARS(Takemura et al., 2000, 2002)を結合したモデルの開発を行っている。全球シミュレーションを行うために計算コストの制 約から、当面は、エアロゾル間接効果の導入はバルク雲物理スキームに基づいた定式化(Suzuki et al., 2004; Takemura et al., 2005)を用いて行うこととした。この定式化では、エアロゾル輸送モデル から得られるエアロゾル数密度をもとに雲粒数密度を診断的に計算し、こうして得られた雲粒数 104 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 密度に依存する形で雲水から降水への変換を計算することでエアロゾル第二種間接効果を考慮し、 雲粒数密度と雲水量から平均的な有効粒子半径を算出する。このような間接効果計算モジュール を全球雲解像モデルに取り入れることにより、近年観測的に明らかになりつつある対流雲へのエ アロゾルの影響を評価できることが従来の GCM を用いた研究と本質的に異なる点である。現在、 SPRINTARS 実装作業の約8割程度が終了し、作業の最終段階に入っている。計算結果の初期的な 例として、硫酸塩および炭素性エアロゾルの分布を図 35 に示す。硫酸塩エアロゾル(図 35 上段) は工業活動域に多く存在し、炭素性エアロゾル(図 35 下段)は工業活動域と森林火災の発生域に 多く存在する様子が見られる。 f. 考察 エアロゾルが雲の微物理過程への影響を介して雲の光学特性・降水生成特性に及ぼす影響評価 のためのモデリングには、雲微物理過程を詳細に扱うビン法雲モデルを用いて小領域での計算を 行う方法と、バルク雲物理スキームを用いてエアロゾル輸送過程と結合した全球シミュレーショ ンを行う方法の二通りの路線が存在する。これら二つの方法は将来的には統合されると思われる が、現時点ではこれらを並行して行うのが現実的なアプローチであると考えられる。その意味で、 全球非静力学雲解像モデル NICAM にエアロゾル輸送モデル SPRINTARS を結合したモデルの開発 は後者の研究に属し、雲解像モデルを用いたエアロゾル気候影響を進めるために、NICAM と SPRINTARS の結合作業を早急に進める必要がある。 105 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図34: ビン法雲モデルで得られた有効半径と光学的厚さの相関 (上段:清澄な条件、下段:汚れた条件) 図35: NICAM+SPRINTARS で得られた高度 1km 付近でのエアロ ゾル濃度分布の計算例(上段:硫酸塩、下段:炭素性) g. 引用文献 Asano, S., M. Shiobara, and A. Uchiyama, Estimation of cloud physical parameters from 106 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 airborne solar spectral reflectance measurements for stratocumulus clouds, J. Atmos. Sci., 52, 3556-3576, 1995. Han, Q., W. B. Rossow, J. Chou, and R. M. Welch, Global survey of the relationships of cloud albedo and liquid water path with droplet size using ISCCP, J. Climate, 11, 1516-1528, 1998. Nakajima, T., M. D. King, and J. D. Spinhirne, Determination of the optical thickness and effective particle radius of clouds from reflected solar radiation measurements. Part II: Marine stratocumulus observations. J. Atmos. Sci., 48, 728-750, 1991. Nakajima, T. Y. and T. Nakajima, Wide-area determination of cloud microphysical properties from NOAA AVHRR measurements for FIRE and ASTEX regions. J. Atmos. Sci., 52, 4043-4059, 1995. Satoh, M., Conservative scheme for a compressible non-hydrostatic models with moist processes, Mon. Wea. Rev., 131, 1033-1050, 2003. Satoh, M., Conservative scheme for the compressible non-hydrostatic models with the horizontally explicit and vertically implicit time integration scheme, Mon. Wea. Rev., 130, 1227-1245, 2002. Suzuki, K., T. Nakajima, A. Numaguti, T. Takemura, K. Kawamoto, and A. Higurashi, A study of the aerosol effect on cloud field with simultaneous use of GCM modeling and satellite observation, J. Atmos. Sci., 61, 179-194, 2004. Suzuki, K., T. Nakajima, T. Y. Nakajima, and A. Khain, Correlation pattern between optical thickness and effective radius of water clouds simulated by a spectral bin microphysics cloud model, Geophys. Res. Lett. in review. Takemura, T., H. Okamoto, Y. Maruyama, A. Numaguti, A. Higurashi, and T. Nakajima, Global three-dimensional simulation of aerosol optical thickness distribution of various origins, J. Geophys. Res., 105, 17853-17873, 2000. Takemura, T., T. Nakajima, O. Dubovik, B. N. Holben, and S. Kinne, Single-scattering albedo 107 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 and radiative forcing of various aerosol species with a global three-dimensional model, J. Climate, 15, 333-352, 2002. Takemura, T., T. Nozawa, S. Emori, T. Y. Nakajima, and T. Nakajima, Simulation of climate response to aerosol direct and indirect effects with aerosol transport-radiation model, J. Geophys. Res., 110, D02202, doi:10.1029/2004JD005029, 2005. Tomita, H., M. Satoh, K. Goto, An optimization of the icosahedral grid modified by the spring dynamics, J. Comput. Phys., 183, 307-331, 2002. Tomita, H., and M. Satoh, A new dynamical framework of nonhydrostatic global model using the icosahedral grid, Fluid Dyn. Res., 34, 357-400, 2004. 鈴木健太郎, 粒子成長に関わる雲微物理過程の数値モデリングに関する研究, 東京大学理学系研 究科地球惑星科学専攻博士論文, 2004 年 9 月 h. 成果の発表 印刷発表 Suzuki, K., T. Nakajima, T. Y. Nakajima, and A. Khain, 2006: Correlation pattern between optical thickness and effective radius of water clouds simulated by a spectral bin microphysics cloud model. Geophys. Res. Lett. in review. 口頭発表 Suzuki, K., T. Nakajima, T. Y. Nakajima, and T. Iguchi, 2005: Numerical study of the aerosol effect on water cloud optical properties with non-hydrostatic spectral microphysics cloud model. International Association of Meteorology and Atmospheric Science (IAMAS), Scientific Assembly, Beijing, China, 2-11. August. Suzuki, K., T. Nakajima, and T. Y. Nakajima, 2005: Characteristics of water cloud optical property as simulated by non-hydrostatic spectral microphysics cloud model. Cloud Modeling Workshop, Fortcollins, CO, 6-8 July. 鈴木健太郎、中島映至、中島孝:衛星観測で得られた水雲の光学特性のビン法雲モデルによる解 釈, 日本気象学会秋季大会, 神戸大学, 2005 年 11 月 20-22 日. 108 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 3.寒冷圏モデル 担当機関:地球環境フロンティア研究センター 研究者名:阿部彩子(地球温暖化予測研究プログラム/東大気候システム研究センター) 齋藤冬樹(地球温暖化予測研究プログラム) 瀬川朋紀(地球温暖化予測研究プログラム) 大垣内るみ(地球温暖化予測研究プログラム) 小倉知夫(国立環境研究所) 羽角博康(東大気候システム研究センター) a. 要約 温暖化に対する氷床の応答特性や海水準への影響を調べるため、高解像度大気海洋結合モデルに よる推定、大気海洋モデル結果を氷床モデルに入力した推定、炭素循環を含む地球システムモデ ルへの氷床モデルの組み込み、氷床変動に関するモデルの不確定性要因の検討を行なった。 MIROC3.2 高解像度版と中解像度版を用いたSRESシナリオ(A1B およびB1)温暖化実験では、 グリーンランドと南極氷床の海水準への寄与は各々高解像度モデルでそれぞれ15cm海面上昇と 5cm海面低下となり海洋熱膨張よりは小さいこと、高度の変化傾向は最近の観測事実と矛盾のな い結果を得られることがわかった。さらに長期影響を調べるため、CO2 4倍増加実験やSRESシ ナリオの濃度を与え続けた大気海洋結合モデル実験結果を、現実をよく表現するよう開発された 氷床モデル(Saito and Abe-Ouchi, 2004, 2006)に入力した。CO24倍増実験では2000年ほどでグリー ンランド氷床はほぼ消滅し海水準が6メートル上昇、またSRES シナリオの濃度を21世紀末以 降も200年与え続けた結果を用いると21世紀末に気温を固定した場合に比べて長期的な影響が 持続して最終的に氷床が消滅するほどであることがわかった。氷床モデルの不確実性を明らかに するため、数値手法および質量収支モデルの2点も検討し、氷床消滅に至る条件における不確実 性の程度も明らかにした。同期した大気-氷床結合(部分統合モデル)の計算を可能にするための プログラム改変はほぼ終了し、現在調整を続けている。 b. 研究目的 地球上南北両極には陸上に氷床、海上に海氷があり、それらの生成変動は地球規模の気候変動と 直結している。このため、温暖化に伴い氷床や海氷が敏感に反応して融解したり、さらに広範囲 の気候や海面変動に影響を及ぼすことが懸念されている。そこで、このグループでは、最終的に 109 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 は地球シミュレータ上で稼動する大気/海洋/海氷/氷床結合モデルを構築し、地球温暖化や海 面変動の予測実験を行なう。まず、部分モデルの改良をしながら様々な感度実験を通じて不確定 要素の把握につとめる。さらに、結合されたモデルを用いて現在や過去の再現実験を行いながら、 予測実験の精度を高めることをめざす。また、2万年前の最終氷期以降に関して、海洋底堆積物 や地形のデータによる過去の気候や氷床変動/海水準の復元がかなり高精度で行われるようにな ってきたので、これを再現する数値実験を試みることを通してモデルの検証を行っていく。 c. 研究計画、方法、スケジュール 氷床については14年度までに部分モデルの製作は一通り行ない、応答特性を調べてきた。15 年度は、各部分の改良を行ったり、地球シミュレータ用に氷床モデルプログラムを並列化最適化 したり、カップラーの開発を行って気候モデルと氷床力学モデルの結合の特性を調べた。16年 度と17年度は中程度の解像度の大気海洋結合モデルを用いて温暖化実験をおこない、海氷や氷 床への影響について考察した。今後は、氷床モデルと大気モデルの結合を完成し、定量的に温暖 化影響について論じていく。 d. 平成 17 年度研究計画 昨年度は観測データや古気候再現実験を通した検証を行い、東大気候センターで開発された氷 床モデルや、MIROCに導入されている海氷モデルの高精度化を行ってきた。17年度はこれらの大 気海洋海氷結合大循環モデルと氷床モデルを組み合わせた数値実験を行うことで、地球温暖化に おいて南極やグリーンランドの氷床や海氷などの寒冷圏がどのような影響をうけるのか検討を始 める。CO2 4倍くらいまでで温室効果ガスレベルが安定化した場合に、長期にわたって気候と氷 床がどのように応答するかを数百年積分して実験する予定である。 e. 平成 17 年度研究成果 e.1. SRES シナリオによる氷床の変動の予測に関する研究 気候モデルによる温暖化実験の不確定性は様々な時間スケールでどのように氷床変動に影響する かを、共生第一課題の温暖化実験の結果を用い、さらに氷床モデルの入力とし、グリーンランド 氷床の温暖化応答を調べた。 MIROC3.2 高解像度版と中解像度版を用いたSRESシナリオ(A1B およびB1)温暖化実験の結果 110 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 を観測の氷床形状に内挿して(GCM の氷床形状が粗すぎるのを補正Wild et al (2000))詳細に解析 したところ、グリーンランドと南極氷床の海水準への寄与は各々高解像度モデルではそれぞれ 15cm海面上昇と5cm海面低下となり海洋熱膨張よりは小さい結果となった(図36、Suzuki et al, 2005)。グリーンランド氷床は温暖化により融解が卓越するが、南極では降水量増加による体積増 加がしばらくは効くからである。変化は小さいのは氷床の影響が長期に遅れて現れるためである、 それでも高度の変化傾向は図37のようにでており、高解像度の結果は内陸で高度が高まり縁辺で 融解が促進しているという最近の観測事実と矛盾のない結果を得られた。 (a) (b) 図36: (左)海面上昇の時間変化の予測、海洋熱膨張の寄与と氷床(グリーンランド、南極) の寄与をシナリオ A1B と B1 および高解像度モデル(a)と中解像度モデル(b)で示す。 (右)高解像度モデルの全球年平均および、グリーンランド氷床上夏と南極氷床上夏の気温変化。 111 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図37: 正味質量収支(かん養量および融解量)の21世紀末と現在との差、南極およびグリー ンランド、左中解像度、右は高解像度モデル。正味質量収支は当面の高度変化傾向を示す。高解 像度により氷床の地形による降水量が現実的に表現できるので、高解像度モデルでは観測の質量 収支や高度変化の分布をよりよく再現している。 つぎに氷床モデルを導入した長期影響を調べる実験では、2100 年以降の排出シナリオを固定して 2300 年まで積分した実験を用いた。従来の氷床モデルを用いた温暖化実験は 2100 年以降の気候 状態を固定したものである。今回は 2100 年以降の遷移過程がどのように氷床変動に影響をあた えるために、従来と同様に 2100 年以降の気温分布を固定したもの (T-fix 実験)と、2300 年まで の温暖化計算結果を用いてそれ以降を固定したもの(S-fix実験)の二種類の感度実験を行った。氷床 モデル積分は1850 年から積分を開始し、定常解を得るまで 10000 年以上積分をした。 氷床モデルへの入力は、バイアスを取り除くためにそれぞれの年の気候モデル結果と、気候モデ ルの 1990 年付近の気候値との差を現在の観測値に加えて入力の気温とした。降雪量は同様に比 を用いて入力とした。時間積分の初期値は、20世紀再現実験の初期状態(中解像度では 1850 年、 112 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 高解像度では 1900 年)の温度、降雪量のもとで(上の記述したように偏差を観測に加えて)定常解 を求め、それを対応する年の状態と仮定した。20世紀再現実験の入力で得られた 1990 年付近の グリーンランド全体の質量収支はモデル再現は表のようになる。表の観測の涵養量は今回観測値 として使用した Calanca et al. (2000) のデータから算出した値である。また融解量は Wild et al (2000) を参考にした。涵養量や融解量の再現と観測との差は、氷床モデルで再現された 1990 年 のグリーンランドの面積が現実と若干のずれがあるため、あるいは外挿方法の違いのためと考え られる。しかしながら 1990 年での全体の質量収支は概ねよい再現であるといえる。 表7: グリーンランド全体の質量収支(mm/yr)。観測の値は Wild et al (2000) による 涵養量 融解量 観測 273 152, 147-199 中解像度 MICOC 入力 243 151 高解像度 MICOC 入力 266 174 以降、計算機資源の制約上、中解像度実験の結果を述べる。 図38はMIROC 温暖化実験でのグリーンランド氷床上で平均した夏平均気温の時系列である。 2100 年から 2300 年の間も気温はゆっくりと上昇し定常に近づいていく様子がわかる。2100 年 と 2300 年では 1K 程度の温度差となっている。 図39は 西暦3000 年までのグリーンランド氷床の体積変化を海水準上昇に換算して表したもので ある。A1B, B1 シナリオ実験いずれとも S-fix と T-fix の 1度程度の温度上昇の違いは数 100 年 という比較的短い時間スケールでも海水準に換算して 10cm 程度の違いをもたらす。さらに定常 にいたるまで積分を続けた場合、A1B シナリオではグリーンランド氷床は消失する。21世紀末 の濃度固定と温度固定を比較した場合、最終的に到達する氷床の状態が特に A1B 実験において、 大きく異なり、S-fix 実験ではほぼ全融解となっているのに比べて、T-fix 実験では半分程度残る 結果となった。 さらに 別のシナリオ実験として、二酸化炭素 4 倍増実験の結果のもとのグリーンランド氷床 の応答も調べた。MIROC3.2大気海洋結合モデルによる二酸化炭素 4 倍実験の 2500年目から 100 年間の気候値をもとにグリーンランド氷床の体積変動を求めたのが図39である。二酸化炭素 4 倍 の状態が、3000 年以内に氷床が消失し、定常解としては氷床がない状態であることがわかった。 113 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 図38: MIROC 中解像度モデルによる温暖化実験でのグリーンランド上夏平均気温。赤線、緑 線がそれぞれ A1B, B1 シナリオ実験に相当。本文中の S-fix 実験は実線のような外力を与えた場 合に相当する。また T-fix 実験は点線に相当する。 図39: 中解像度 MIROC 温暖化実験の結果を用いた氷床モデル実験の結果。体積変動の時系列 114 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 を海水準に換算して表す。赤線が A1B, 緑線が B1 シナリオ実験。実線が S-fix 実験 (2300 年以 降の気候を固定)、点線が T-fix 実験(2100年以降の気候を固定) 青線はCO2 4倍増実験結果。右 図はさらに長期的な変化傾向。下図はそれぞれのシナリオ実験の定常解の標高分布。 開発していた双方向の結合モデルは現在地球シミュレータで運用している。気候モデルは炭素循 環を組み込んだものを利用した。モデル時間一か月に一度氷床モデルを呼出し、氷床にとっての 境界条件である表面質量収支を計算する。さらに一年に一度氷床流動を計算し、求められた新し い地形、氷床分布、海洋への淡水供給を気候モデル側に渡す仕組みとなる。モデルは大気 16 海 洋 16 CPU (合計 32CPU = 4 ノード)の並列化モデルで、大気 CPU の一つにグリーンランド氷床 が含まれている。一年の時間積分におよそ 10 ノード時間積必要で、4 ノード使用した場合は2.5 時間かかる。大気-氷床間の相互作用のみを考慮した場合の 2100 年から 2200 年までの積分を行 い、現在結果を解析している。 e.2. 氷床モデルの不確実性要素の把握 グリーンランド氷床の縁辺は融解が支配的な領域であり、温暖化の際はそこでの融解量の変化が 応答に大きな影響を与えると考えられる。融解量は気温に依存し、気温は氷床の標高に強く影響 される要素である。そのため縁辺の標高(氷厚)再現の性質が温暖化実験での氷床応答にいくらかの 影響を与えることが予想される。従って縁辺の標高(氷厚)再現の不確定性がどの程度なのか、そし てその不確定性によって氷床応答がどのくらい影響されるかの考察が、温暖化実験の解釈のため にも重要であるといえる。 これまで多くの氷床モデルは氷厚分布の時間積分を拡散形で表し数値的に解いている。この拡散 形を差分表現する方法に大きくわけて二つの方法がある(Hindmarsh and Payne, 1996; Huybrechts et al, 1996)。いずれの方法も氷床の内陸部の再現はよいが、氷床の縁辺の氷厚再現の誤差が大きいこ とが指摘されている。またこの二つの方法は内陸ではほとんど同じ再現になるが、縁辺部の再現 は比較的に差が大きい。ここではその数値表現に起因するグリーンランド氷床の定常解の不確定 性を調べた。モデル氷床は全て 5 万年時間積分した。さらに、従来の多くの氷床モデルを用いた 研究では、気候条件の表現になんらかの質量収支モデルを使用している。よく使われる質量収支 モデルは気温分布から融解量を求める経験的な式である。GCM による氷床の質量収支解析にお いても、GCM の温度分布などを用いて質量収支モデルで診断する方法が多く用いられている。 さらに近年見られる GCM-氷床結合モデルも、その間に質量収支モデルを導入している。これら は空間スケールの小さい融解域(数 10 km 程度)を精度よく表現するために使用されている。現在 運用中の氷床気候結合モデルでも気候モデルの出力を質量収支モデルで診断して氷床モデルに入 115 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 力する同様の方法を採用している。質量収支モデルと熱収支モデルの再現性の比較をした研究は 今までいくつかあった(van de Wal 1996; Ohmura 2001)。しかし質量収支モデルの違いがグリーンラ ンド氷床の感度にどう影響するかを調べた研究はない。本研究では代表的な二つの表面質量収支 モデルを用いて、上記の数値表現に関する感度実験と同様の手法で、質量収支モデルの違いに起 因するグリーンランド氷床の定常解の不確定性を調べた( Saito and Abe-Ouchi (in press) 、Saito and Abe-Ouchi, 投稿準備中)。 ここで用いた表面質量収支モデルの一つは Positive Degree Day (PDD) と呼ばれる方法で(Reeh 1991)、氷床モデルを用いた研究では標準的に使われた手法である。もう一つは Ohmura et al. (1996) で使用された手法で、融解量を夏平均気温から見積もる方法である(ここでは以降 LTI と 呼ぶ)。いずれの手法も観測された融解量をよく再現しているが、特徴としてはより温度が高い場 合に PDD による融解量が LTI のそれよりも大きくなることである。 数値手法および質量収支モデル二つの点から考えられる氷床モデルの四種類の組み合わせによ って、再現されたグリーンランド氷床の定常解の体積は図40のようになる。特に与えた温度変動 が高い所で、同じ温度に対する定常解の体積の不確定性が大きくなっていることがわかる。例え ば現在から一様に 4K温度上昇した気候下でのグリーンランド氷床の不確定性は全部融解する場 合から半分以上氷床が残る解までに広がることが判明した。この 4-5K という温度上昇は、気候 モデルから予測される将来の温暖化上昇の範囲に含まれる。すなわち地球温暖化へのグリーンラ ンド氷床の応答の最終的な到達する状態にこれだけの不確定性があるということであり、ある程 度の短期間の応答の推定にも影響があると考えられる。従って再現された氷床応答の解釈には十 分注意が必要であるといえる。 図40: 方程式の数値表現の違い、および表面質量収支モデルの違いによるグリーンランド氷床 定常解の体積。太線はPDD, 細線は LTI モデルによる結果。点線と実線は数値表現の違うモデル を表す。横軸は外力の温度分布。 116 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 f. 参考文献 Wild, M. and Ohmura, A. Change in mass balance of polar ice sheets and sea level from high-resolution GCM simulations of greenhouse warming. Ann. Glaciol. 30, 197-203, 2000. Calanca, P. et al. Gridded temperature and accumulation distributions for Greenland for use in cryospheric models. Ann. Glaciol. 31, 118-120, 2000. Hindmarsh, R. C. A. and Payne, A. J. Time-step limits for stable solutions of the ice-sheet equation. Ann. Glaciol. 23, 74--85, 1996 Huybrechts, P. et al. The EISMINT benchmarks for testing ice-sheet models. Ann. Glaciol. 23, 1--12, 1996 van de Wal, R. S. W. Mass-balance modelling of the Greenland ice sheet: a comparison of an energy-balance and a degree-day model. Ann. Glaciol. 23, 36--45, 1996. Saito, F. and Abe-Ouchi, A. Sensitivity of Greenland ice sheet simulation to the numerical procedure employed for ice sheet dynamics. Ann. Glaciol. 42, in press. Ohmura, A. et al. A Possible change in mass balance of Greenland and Antarctic Ice Sheets in the Coming Century. J. Climate 9, 2124--2135, 1996. Ohmura, A. Physical Basis for the Temperature-Based Melt-Index Method. J. Appl. Meteorol. 40, 753--761, 2001. Reeh, N. Parameterization of melt rate and surface temperature on the Greenland ice sheet. Polarforschung 59, 113--128, 1991. g. 成果の発表 論文発表 Annan,J., J.C.Hargreaves, R.Ohgaito, A.Abe-Ouchi and S.Emori, 2005, Efficiently Constraining Climate Sensitivity with Ensembles of Paleoclimate Simulations. SOLA, Vol.1, 117 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 181-184, doi:10.2151/sola. 2005-047. Jost , A, M.Lunt, M.Kageyama, A.Abe-Ouchi, O.Peyron, P.J.Valdes, and G.Ramstein, 2005, High resolution simulations. Of the last glacial maximum climate over Europe: a solution to discrepancies with continental paleoclimatic reconstructions? Climate Dynamics, DOI 10.1007/s00382-005-0009-4. Kageyama, M., S.P. Harrison and A. Abe-Ouchi (2005) The depression of tropical snowlines at the Last Glacial Maximum: what can we learn from climate model experiments? Quaternary International, in press. Kageyama, M., A.Laine, A. Abe-Ouchi and 17 members, 2006, Last Glacial Maximum temperatures over the North Atlantic, Europe and Western Siberia: A comparison between PMIP models, MARGO sea-surface temperatures and pollen-based reconstructions, Quaternary Science Reviews, in press.Saito, F. and A. Abe-Ouchi. (2006) Dependence of simulation and sensitivity of Greenland ice sheet to numerical procedures for ice sheet dynamics. Annals of Glaciology, 42, in press. Masson-Delmotte, V., M.Kageyama, P.Braconnot, S.Charbit, G.Krinner, C.Ritz, E.Gailyardi, J.Jouzel, A.Abe-Ouchi and 17members, 2005, Past and future polar amplification of climate change: climate model intercomparison and Ice-Core constraints. Climate Dynamics, DOI 10.1007/s00382-005.0081-9. Saito, F. and A. Abe-Ouchi (2004) Thermal Structure of Dome Fuji and East Queen Maud Land, Antarctica, simulated by a three-dimensional ice sheet model. Annals of Glaciology, 433--438 Saito, F. and Abe-Ouchi, A. Sensitivity of Greenland ice sheet simulation to the numerical procedure employed for ice sheet dynamics. Ann. Glaciol. 42, in press. Saito. F, A.Abe-Ouchi, H.Blatter, 2006, EISMINT model intercomparison experiments with higher order mechanics. Jounal of Geophysical Research, in press. Suzuki, T, H. Hasumi, T.T. Sakamoto, T. Nishimura, A. Abe-Ouchi, T. Segawa, N. Okada, A. 118 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Oka and S. Emori, 2005, Geophysical Research Letters, 32, L19706, doi:10.1029/2005GL023677 Yamagishi, T., A. Abe-Ouchi, F. Saito, T. Segawa and T. Nishimura (2006) Reevaluation of paleo-accumulation parameterization over northern hemisphere ice sheet during the ice age with a high resolution atmospheric GCM and a 3-D ice sheet model. Annals of Glaciology, 42, in press. 119 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 4.気候物理コアモデル改良 担当機関:地球環境フロンティア研究センター 研究者名:地球環境モデリング研究プログラム 渡辺 真吾 a.要約 大気・海洋・陸地面の主として物理過程から成る気候モデル(CCSR/NIES モデル、既存)で成層 圏の諸プロセスを改良もしくは新しく取り入れたモデルを開発する。 大気モデル(AGCM)の改良に関しては、現モデルで不十分な中層大気(成層圏・中間圏)の諸プロ セスの改良を図る。即ち、中層大気中への人為起源物質の侵入により、中層大気特有のオゾン層 の物理・化学過程と太陽からの放射の変動が相互に影響し合って中層大気の変動を引き起こすと 共に、それが下層対流圏の変動と結合して気候変動を生じる機構をモデル実験によって明らかに する。また、内部重力波の挙動とそれが大気循環に及ぼす影響を超高解像度大気モデルによって 明らかにする。 本年度は、大気・海洋・陸面・炭素循環・大気化学・エアロゾル過程の結合が完了した統合モデルの中 層大気への拡張と、成層圏で必要な物理過程コンポーネント(σ-p ハイブリッド座標系・新放射コ ード・Hines パラメタリゼーション)の導入を主に行い、統合モデルのプログラム間のバージョン 整理・統一作業を行った。また、放射コードと鉛直解像度の変更に伴って、大気上端の放射収支 が変わることから、対流圏の雲水分布に関するチューニングに着手した。計算コードの高速化に 関しては、従来の MPI ノード間並列に加えて、地球シミュレーターのノード内並列化機能を利用 できるように、コードの改良を行った。高解像度 AGCM を用いた大気内部重力波の研究に関して は,Hines 非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションの改良のため、引き続き行った。また、地球 温暖化時における重力波の運動量フラックス変化の推定のために、共生第一課題・住グループの 温暖化実験の結果を解析し、論文にまとめた。 b.研究目的 本研究の目的は、気候物理モデルの開発・改良と、それに結びつく大気中の様々な過程をより良 く理解することにある。とりわけ、中層大気中における、大気組成の変化と気候との相互作用過 程を正確にシミュレートするためには、大気微量成分やエアロゾルの輸送を支配する大気の運動 と、光化学反応過程に重要な大気の温度場を適切に再現できる必要がある。 中層大気中の大規模な循環と温度場の季節変化や年々変動をよりよく再現するためには、オゾン による太陽紫外線吸収がもたらす加熱や、二酸化炭素・メタン・オゾン・水蒸気を代表とする温 120 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 室効果気体が放つ赤外放射による冷却、すなわち放射過程と、数百メートルから惑星規模にわた るさまざまな大気波動が、それぞれモデル中で適切に表現される必要があると考えられている。 放射過程および小規模の大気波動を正しく表現するためには、モデルの水平・鉛直解像度がある 程度高くなければならないと考えられている。 しかしながら、長期間にわたって、大気組成変化との相互作用までも含めた温暖化予測実験を行 ううえで必要十分な解像度は、今もって十分明らかにはされていない。地球シミュレーターを用 いた大規模計算により、各々の過程のモデル解像度に対する依存性を明らかしていくことは、統 合モデルの設計にとって必須であるとともに、学術的にも意義深いものであり、本サブテーマの 中心課題である。 全体計画において、最終的な統合モデルの基礎となる大気大循環モデルの開発を長期的な目標と するとともに、各サブグループ(部分統合モデル)のニーズに合わせた大気モデルの開発・提供を行 っていく。 c.研究計画、方法、スケジュール 大気・海洋・陸地面の主として物理過程から成る気候モデル(CCSR/NIES モデル、既存)で成層 圏の諸プロセスを改良もしくは新しく取り入れたモデルを開発する。成層圏・中間圏大気の温度 と循環・物質輸送に大きな役割を果たす内部重力波の効果を正しく取り入れるため、内部重力波 をパラメタライズせず直接取り扱う水平解像度 20 km、鉛直層厚 100 m 程度のモデルで数値実験 を行う必要がある。この実験を 2 年目までに実施し、3 年目には、中層大気までを含む中解像度 大気化学・気候結合モデルに新しいパラメタリゼーションを組み込めるようにする。中層大気を 含む化学・気候結合モデルは、サブテーマ(2)−「温暖化・大気組成相互作用モデル」の開発−と も協力して並行して開発を進め、オゾン層破壊と温暖化の相乗効果など中解像度モデルで実験を 行う。 d.平成17年度研究計画 統合モデルの上端を成層圏に拡張し、特に成層圏のオゾン量にとって重要な中・高緯度の大気大 循環の季節進行を現実的にすることを目標とする。昨年度までに開発してきたハイブリッド鉛直 座標や新しい放射コード、および非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションを統合モデルに導入 し、細かなチューニングを行うとともに、長期積分に向けて計算コードの高速化を図る。重力波 抵抗パラメタリゼーションの改良に必要な高解像度大気モデルによる成層圏の波動や大循環の研 究は引き続き行っていく。 e.平成17年度研究成果 121 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 e.1 統合モデルの上端拡張に関する成果 統合モデルの中層大気への拡張と、成層圏で必要な物理過程コンポーネント(σ-p ハイブリッド座 標系・新放射コード・Hines パラメタリゼーション)の導入を行った。これらのうち、σ-p ハイブ リッド座標系と新放射コード導入による、物理気候の再現性の向上に関しては、既に一昨年度の 報告書に AGCM 単体を用いた場合の実験結果を詳しく述べた。以下では、Hines 非地形性重力波 抵抗パラメタリゼーションを実際に導入した統合モデルを用いた実験結果について記す。 最初に、Hines 重力波パラメタリゼーション(Hines 1997)に入力する、非地形性重力波ソースの導 出手順について詳述する。他機関のモデルにおいては、現在のところ以下の 2 つの手法が用いら れている。ひとつは、全球一様で等方的かつ時間変化しない重力波ソースを仮定し、それを対流 圏下部から打ち上げる方法である(e.g., Manzini and McFarlane 1998)。この方法の大きなデメリット は、ソースの地理分布・重力波の伝播方位・季節変化を無視していることである。もうひとつの 手法は、モデルの積雲対流パラメタリゼーションから求まる非断熱加熱や、前線活動などの情報 を用いて、モデル内部で重力波ソースをある程度経験的に求める方法である。ここで用いられる 経験則とは、別途行った雲解像モデル(その多くは 2 次元)を用いた実験でシミュレートされた、積 雲対流の熱源分布と背景場の風の分布に対する、積雲対流の上空に現れた重力波運動量フラック スの位相速度スペクトルとの関係のことである(e.g., Beres et al. 2004)。ただし、水平数 km スケー ルの対流と重力波の関係を、AGCM の積雲対流パラメタリゼーションから求められた非断熱加熱 (およそ 300 km 四方の平均値)に適用できるのかという問題がある。また、そもそも非断熱加熱と 背景場との関係のみで、重力波の位相速度スペクトルを近似的に求められるのかということに関 しても、いまだ議論があるところである(Chun et al. 2004)。これらに代わり、我々のグループで は、T213L256 という高解像度 AGCM によるシミュレーション結果から、下部成層圏の重力波の 気候値を求め、それを入力することにしている。この方法のメリットは、必要な水平スケールの 波を選択的に抽出できることと、重力波の現実的な地理分布・伝播方向・季節変化をソースに含 めることができる点である。 T213L256 AGCM をトータルで 2 年間積分した。その結果から、統合モデルの水平解像度では表現 できない水平波長約 950 km 未満の波動成分のみを高波数フィルターによって取り出し、重力波ソ ースを求める。T213 の水平解像度で表現できる水平グリッド間隔は約 60 km、最小水平波長は約 190 km であり、個々の対流やスコールライン等から出る重力波を解像するには不十分であるが、 寒冷前線や積乱雲のエンベロープ程度の水平スケールの擾乱は解像できる。実際にこのモデルの 中層大気の大循環の構造はかなり現実的であり、重力波による運動量フラックスと、中間圏にお ける砕波による平均流の減速作用が、ある程度定量的に正しく表現できていると考えられる (Kawamiya et al. 2005)。ソースの高度としては、中・高緯度においては、下部成層圏で卓越する慣 122 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 性重力波の水平伝播の影響を考慮して、70 hPa 面で求め、低緯度では、赤道 QBO の東西風が 70 hPa 面よりも下に下りてくる関係で、少し低い 100 hPa 面で求めることとした。毎時平均で出力され た水平風と鉛直風のデータから、水平波長 950km 未満の成分を取り出したのち、48 時間の時間平 均値を引き去ることで地形成重力波に相当する準定常成分を除去する。上記の等圧面上において、 各グリッドにおける東西・南北運動量の鉛直フラックスを求め、そのベクトルの向きから最も近 い 8 方位にその大きさの運動量フラックスを持った重力波が伝播していると仮定する。実際には、 様々な方向にいろいろな性質の波が飛んでいるが、ここではその集合としてひとつの瞬間値に対 してひとつの方位に波が伝播しているように取り扱う。これを一月分のデータを繰り返し計算し て平均し、月平均の 8 方位別の重力波の運動量フラックスと水平風速の分散を求める。オリジナ ルの Hines パラメタリゼーションでは、水平風速の分散と代表的な水平波数を入力して、重力波 の分散関係式を用いて運動量フラックスを求めるが、AGCM のデータからは容易に運動量フラッ クスと水平風速の分散が求まるため、この両者をパラメタリゼーションに入力し、分散関係式に 矛盾しないように水平波数が求まるように、一部プログラムの変更を行っている(昨年度の報告書 参照)。 図 41 は、こうして求めたソースの一例である。北半球の夏至を含む 8 日間に限定して作図してあ る。ここでは詳しく述べないが、南半球のストーム・トラックに伴う重力波や、南アンデス付近の 山岳斜面に伴って立つ対流による重力波、ベンガル湾付近の熱帯低気圧に伴う重力波、東アジア の梅雨前線付近の対流活動に伴う重力波などが、特に大きいソースとなっている。一方、西太平 洋の ITCZ 付近の強い対流活動に伴う重力波は水平波長が比較的大きいものが主であるため、こ のソース分布にはあまり強く現れていない。 図41: 6 月 21-28 日の 70 hPa 面における重力波運動量フラックスの分布。矢印は 8 方位の重力波 運動量フラックスの大きさの平方根、色は各グリッドの重力波運動量フラックスの全方位成分の 123 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 大きさの平均の平方根。 (平方根を示したのは図の判読性のため) こうした重力波ソースを Hines パラメタリゼーションに入力しつつ、統合モデルを用いた実験を 行った。Hines パラメタリゼーションの中で、重力波は、統合モデルの風や温度成層の影響を受け ながら一部は上空に伝播し、一部は散逸して、統合モデルの風や温度の分布に影響していく。こ こでは物理気候の再現性の向上に重点を置いているため、大気化学モデル CHASER は結合しない で、適当な初期条件から 4 年間の実験を行い、最後の 3 年間の結果を観測気候値と比較した。図 42 は、北半球の冬季(12-2 月)、夏季(6-8 月)平均の、帯状平均東西風の緯度-高度分布を示している。 左側が CIRA86 の気候値、右側が統合モデルの結果である。北半球冬季(図の上段)には、成層 圏極夜ジェットと、中間圏ジェット付近の構造を、定性的に良く再現できている。これは、現実 同様の分布をした重力波ソースが、現実同様の場所において散逸を生じ、その場の西風を弱めて いることを意味する。このようなジェットの構造は、従来のレイリー摩擦や、一様重力波ソース を用いたモデルでは再現できないものである。一方、南半球冬季(図の下段)には、極渦の軸が、 高高度ほど赤道側に傾く構造が中間圏において定性的に再現されている反面、成層圏の極夜ジェ ットが観測に比べて強すぎるバイアスが見られる。このバイアスの主な原因は、現実大気中で重 要な、南半球中緯度重力波の極向き伝播が Hines パラメタリゼーションでは表現できないことに ある(昨年度の報告書参照)。 図42: 季節平均帯状平均東西風の緯度-高度断面。左列:CIRA86 気候値。右列:統合モデル。 124 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 等値線間隔:10 m s-1。 図 43 は、季節平均の帯状平均温度の、英国気象局同化データ気候値(1994-2001 年平均)からのバ イアスである。観測が不十分な 1 hPa 以上の高度と、中・高緯度の対流圏界面付近を除けば、Hines パラメタリゼーション(新放射コードも重要)を用いた統合モデルは、大気の温度構造をおよそ正し く表現できていることが分かる。とりわけ、オゾンホールの再現に重要な南半球春季の南極下部 成層圏(SON の 50 hPa 付近)に、目だった低温バイアスが無いことは大きな成果であるといえる。 図43: 統合モデル季節平均帯状平均温度の英国気象局同化データ(1994-2001 平均)からのバイア スの緯度-高度断面。等値線間隔:2K。 最後に、赤道上空の QBO や SAO の再現性についてであるが、現時点では対流圏の物理気候のチ ューニングが完全に済んでおらず、統合モデルが陽に解像できる波動成分が十分正しく表現され ていないこととも関連して、QBO の周期が観測事実(26 ヶ月程度)よりも短い傾向にある(16 ヶ月 程度)。この点については、来年度も引き続き対流圏気候のチューニングを行ったうえで検討する 必要がある。 125 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 e.2 統合モデルの計算コード高速化に関する成果 成層圏と化学過程を含まなかった対流圏版の統合モデルに比べて、成層圏へと拡張した統合モデ ルは、鉛直総数の増加(20 層→80 層)、中間圏ジェットが含まれることによるタイムステップの減 少、トレーサー数の増加、化学過程の計算などにより、計算コストが大幅に増える。このため、 従来と同じ並列化手法を用いていては、温暖化予測実験を行う際に、十分に高速な実行ができな い。そこで、従来の「MPI プロセスによる緯度方向の領域分割」に加えて、新たに「ノード内の マイクロタスク」を使用する「ハイブリッド並列化」による高速化を行った。 従来の MPI による並列化は、緯度方向に領域分割を行うというプログラム構造上、T42 のモデル の場合には 64 分割が上限で、さらにベクトル長を考慮すると現実的には 32 分割までしか並列化 できない。水平方向の分割が限界のため、鉛直方向あるいはトレーサーの種類などで分割を行う 必要があるが、MPI での領域分割はソースコード全体に影響を及ぼす。緯度方向に加えて、さら に鉛直方向に MPI プロセスで分割するのは作業コストが大きい。一方、マイクロタスクで並列化 する場合は、自動並列化機能が利用できるので作業量は少なくてすむ。また、一般的に並列化に 伴う通信のパフォーマンスはプロセス間よりもスレッド間(マイクロタスク間)のほうがよい。 このため、ノード内は鉛直方向をマイクロタスクで並列化するのが自然な方法であるといえる。 新たな次元(鉛直方向やトレーサー種類など)で分割することにより、使用できる PE 数(並列数) は従来よりも増やすことができる。MPI による分割後、各 MPI プロセスをマイクロタスクでさら に分割できるためである。マイクロタスク数の通常の上限値はノード内のプロセッサ数であり、 地球シミュレーターの場合は 8 である。したがって、MPI プロセスのみの場合の 8 倍の PE を使 用することが可能である。ただし、PE 数を増やしても 1PE あたりの性能を保たないと意味が無い 点は注意しなければならない。 ハイブリッド化は大気側のみ行い、海洋側は計算コストが変わらないため従来どおりの MPI プロ セスのみを用いた並列化を行う。大気側がハイブリッド、海洋側が MPI のみと異なる構造が混在 する形なので、プログラムは必然的に MPMD となる。MPI プロセスとマイクロタスクを組み合わ せたスタイルを hybrid MPI と呼ぶのに対し、MPI プロセスのみのものを flat MPI と呼ぶ。ハイブ リッド並列化に関する具体的な作業は詳述しないが、プログラムの SAVE 忘れや初期化忘れなど の除去、並列化以外に可能であった最適化を行ったのちに、コンパイラの自動並列化機能が働か ない箇所に対してノード内並列化に必要な指示行を追記する必要がある。さらに自動並列化機能 が使えない一部のソースファイルに Open MP による並列化指示行を加えている。 パフォーマンスに関して、重要なのは 1PE あたりの性能を落とさないことであったが、この目標 126 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 は達成できた。1PE あたりのパフォーマンスを比較するために、flat MPI と hybrid MPI を同じ PE 数で実行してテストした。両方とも、使用 PE 数は大気側 32、海洋側 16 である(大気側の MPI プロセスの数は、flat MPI の場合 32、hybrid MPI の場合 4 である。海洋側は両方とも変わらず 16 である。)Real time を比較すると flat MPI の 2807 秒に対して、hybrid MPI は 2690 秒と速かった。 これにより、ノード内のマイクロタスクによる並列化は、flat MPI と比較して劣っていないだけの 並列化率を達成しているといえる。 どこまで PE 数を増やせるかを確認した。上限として考えられるのは、大気側のプロセス数を flat MPI の現実的な上限である 32 と同じにした場合の 256PE である。ただし、これは上限であり並 列化効率を考えると、この数を用いて効率的な並列化はムリだと予測できる。なぜなら、鉛直層 の増加がハイブリッド並列にとって有利に働いているが、すべての計算が鉛直層を含む 3 次元計 算を行っているわけではないからである。また、3 次元計算であっても鉛直方向に依存性があり 並列化できない場合も多い。そのような場合は、水平方向のグリッドを MPI プロセスとマイクロ タスクの両方で分割することになり十分な粒度あるいはベクトル長が確保できない。 PE 数を増やしたときの性能の変化を表 8 にまとめた。並列化率を求めると 99.3%以上あり、144PE の利用申請は可能である。ただし 144PE の場合、性能はかなり落ち込んでいる。今後成層圏化学 を導入したのちに再度性能を評価しなくてはならないが、効率を重視するなら、80PE ぐらいで実 行するほうがよいと思われる。 表8: PE 数による性能変化 PE 数(大気+海洋) 実 行 時 間 ベクトル長 ベクトル化率[%] MFLOPS [SEC] 48 (32+16) 2690.8 162.9 99.1 1715.9 80 (64+16) 1688.4 155.6 98.8 1420.7 144 (128+16) 1191.7 132.8 98.3 1037.3 e.3 二酸化炭素倍増時における下部成層圏の重力波運動量フラックスの変化の推定 (Watanabe et al. 2005 として SOLA 誌に掲載済み) 統合モデルでは Hines 非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションのソースとして、高解像度 AGCM の重力波気候値を使用している。これを用いて温暖化予測実験を行う際に、もしかすると 大きな影響を及ぼすかもしれないのが、地球温暖化にともなう重力波運動量フラックスの変化で ある。たとえば、対流圏の対流活動の地理的分布や強度・頻度が現状気候と大きく異なるならば、 127 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 そこから出てくる重力波の性質の変化も無視できない可能性がある。こうした問題は赤道 QBO の 周期などに影響すると考えられ、近年注目され始めている(例えば Giorgetta and Doege 2005)。し かし、地球温暖化に対する全球的な対流活動の応答としては、AGCM を用いた温暖化実験で調べ る以外には現在のところ手段が無く、しかも通常の AGCM の水平解像度は重力波を解像できるほ どには高くないのが現状である。そのような中で、共生第一課題の住グループが行った高解像度 大気海洋結合モデルによる温暖化想定実験は、T106L56 AGCM を海洋と結合させて行ったもので あり、最小水平波長 380 km 程度までの重力波を解像できるという点で、温暖化時の全球規模の重 力波変化を調べる上で唯一の材料であるといえる。 pre-industrial 標準実験(CTL)と、1%/year 二酸化炭素漸増実験(GHG)の二酸化炭素倍増気候に相当す る年代の、それぞれ 20 年間の平均状態として、下部成層圏 70 hPa 面における小規模擾乱成分(水 平波長 380 km ∼ 930 km)にともなう東西運動量の鉛直フラックスを求め、その違いを温暖化に ともなう重力波運動量フラックスの変化と定義した。温暖化時の主な変化と、それをもたらす要 因について、以下文章のみで要約する。まず、対流圏の対流活動の変化は、熱帯の ITCZ(特に東 部太平洋上)と、中・高緯度のストームトラックにおける強化という分布をしていたが、これに対 応して、その上空における重力波の運動量フラックスの増加が見られた。そして、亜熱帯ジェッ トの強化により、その上空では西向きの重力波による運動量フラックスが増加した。これらは、 定性的には予期された変化といえる。一方、注目した 70 hPa 面のほぼ全域で、20-40%程度も、重 力波による運動量フラックスが増加した。この変化は対流圏のソースの強度や背景の風の変化に よるものではなく、温暖化に伴って対流圏界面が全球的に 1-2 km 程度上昇することと関係して、 主な重力波の生成域である対流圏上層部もまた高高度にシフトするため、下部成層圏に到達する 重力波が増加するためと考えられる。 この実験結果の信頼性に関しては今後も調べていかなければならないが、もしも現実にそのよう なことが起こるとするならば、T213L250 GCM の現状気候実験から得られた 70 もしくは 100 hPa 面の重力波ソースを、統合モデルの温暖化実験に用い続けることは適当ではないと言えるかもし れない。今後も高解像度 AGCM を用いた重力波研究を継続し、必要に応じて新しい重力波ソース を導出するか、もしくはさらに新しい取り組みを行っていかなければならない。 f.考察 統合モデルの中層大気への拡張と成層圏で必要な物理過程の導入を完了することができた。成層 圏大循環の季節進行に関しては、独自のソースを与える Hines パラメタリゼーション導入の甲斐 もあり、現在の他機関の最新のモデルの中で最もよい再現性を得ることができた。今後は、対流 圏気候のチューニング、温暖化時の気候感度のチェックなど、温暖化実験に向けた作業を行って 128 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 いかなければならない。さらに、成層圏赤道 QBO の再現に関して、現状で不十分な点を改良した のちに、成層圏化学を結合した統合モデルを用いた実験に着手していく。また、Hines パラメタリ ゼーションに入力する重力波ソースを、より温暖化実験に適したものにしていくために、高解像 度 AGCM を用いた実験を継続して行っていく必要もあると考えられる。計算コードの高速化に関 しては、現在の地球シミュレーターと統合モデルを用いる上で、考えられる限りの高速化を実施 した結果、従来の計算時間の 6 割程度で成層圏化学なしの統合モデルを実行できるようになった。 来年度初頭には成層圏化学過程の導入が完了し、統合モデルを用いた具体的な温暖化実験の計画 が策定できるようになる見通しである。 謝辞: 本研究の計算は地球シミュレーターを用いて行われた。作図には GFD-DENNOU Library および GTOOL を使用した。 g.引用文献 Beres, J. H., M. J. Alexander, and J. R. Holton, A method of specifying the gravity wave spectrum above convection based on latent heating properties and background wind, J. Atmos. Sci., vol.61, 324-337, 2004. Chun, H.Y., I. S. Song, and T. Horinouchi, Momentum flux spectrum of convectively forced gravity waves: Can diabatic forcing be a proxy for convective forcing?, J. Atmos. Sci., vol.62, 4113--4120, 2005. Giorgetta, M., and M. C. Doege, Sensitivity of the quasi-biennial oscillation to CO2 doubling, Geophys. Res. Lett., vol.32, L08701, doi:10.1029/2004GL021971, 2005. Hines, C. O., Doppler-spread parameterization of gravity-wave momentum deposition in the middle atmosphere. Part 2: Broad and quasi monochromatic spectra, and implementation, J. Atmos. Solar Terr. Phys., vol.59, no.4, pp.387--400, 1997. Kawamiya, M., C. Yoshikawa, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe and T. Matsuno, Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, J. Earth Simulator, vol.1, 2005. Manzini, E., and N. A. McFarlane, The effect of varying the source spectrum of a gravity wave parameterization in a middle atmosphere general circulation model, J. Geophys. Res., vol.103, no.D24, 31523--31539, 1998. 129 Ⅲ. 研究成果の詳細報告 Watanabe, S., T. Nagashima, and S. Emori, Impact of global warming on gravity wave momentum flux in the lower stratosphere, SOLA, vol.1, 189-192, 2005. h.成果の発表 投稿済み論文 Watanabe, S., K. Sato, and M. Takahashi, Orographic gravity waves over Antarctica excited by Katabatic winds; a GCM study, J. Geophys. Res., 2006 (submitted). Watanabe, S., T. Nagashima, and S. Emori, Impact of global warming on gravity wave momentum flux in the lower stratosphere, SOLA, vol.1, 189-192, 2005. 国際学会における口頭発表、ポスター発表 S. Watanabe, M. Takahashi, and K. Sato, Orographic gravity waves over Antarctica excited by Katabatic winds; a GCM study, IAGA2005 Scientific Assembly, July 21, Toulouse, France. S. Watanabe, Development of Chemistry Coupled Models at CCSR/NIES/FRCGC, IAGA2005 Scientific Assembly, July 21, Toulouse, France. S. Watanabe, M. Takahashi, and K. Sato, GCM Studies on Atmospheric Gravity Waves: Gravity Waves over Antarctica, CAWSES workshop, September 13, Nagoya University. S. Watanabe, On source spectra for the Hines gravity wave drag parameterization in KISSME, The 8th International Workshop on Next Generation Climate models for Advanced High Performance Computing Facilities, February 24, Albuquerque, USA. 130