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101 9 国際交流 (1) 本学の教育研究と国際交流 放送大学は、設立趣旨
9 国際交流 (1) 本学の教育研究と国際交流 放送大学は、設立趣旨のなかで、 「開かれた大学」を目指すことを目的と している。国際交流は、この趣旨に沿う意味をもち、放送大学の重要な活動 の一つとなっている。 国際交流の目的は、以下の点にある。第一に、各国で類似した遠隔教育を 実施している公開大学・放送大学との間で、遠隔教育の情報交換を図ること にある。近年、放送・通信技術の発達によって、遠隔教育の技術革新が生じ ており、これらの新しい教育方法についての情報交換を図る意義は大きい。 第二に、教育調査・研究の交流があげられる。各専門分野における最新の知 識を交換し合うことは、互いの教育研究の充実を図ることになる。これによっ て、教職員間の交流も活発になる。第三に、学生交流も促進する意義がある。 学生にとって、他国の学生と交流することによって、異なる文化に触れ、視 野を広くもつことになり、理解が深まることが期待される。 これらの目的を達成するために、これまで放送大学は、以下のような成果 をあげてきている。第一に「アジア公開大学連合(AAOU) 」への参加、第 二に「国際遠隔教育評議会(ICDE)」への参加、第三に「海外協定校との連 携協力」「国際シンポジウムの開催」などのプロジェクトを行ってきている。 (2) アジア公開大学連合への参加 アジア地域では1970年代から80年代にかけて、各国で遠隔教育による高等 教育を行う機関が開学し、学生の受入が開始された。このようなアジアにお ける遠隔教育の高まりを背景に、昭和62年にこれらアジア地域7か国の遠隔 教育機関の代表者がタイのバンコクに集まり、各国の遠隔教育機関相互の交 流の促進と遠隔教育の一層の発展を図ることを目的として、アジア公開大学 連合(AAOU)を設立した。 また、昭和63年7月には、ユネスコと AAOU が協力してアジア・太平洋 地域の遠隔教育を支援するための地域資料センターを設置する運びとなり、 遠隔教育地域資料センター(DERRC)がタイのスコタイ・タマチラート公 開大学内に事務局を置くこととして発足した。なお、平成4年の第6回 AAOU 総会で本学学長が次期 AAOU 会長に選出され、平成5年∼平成7年 まで就任した。 昭和62年設立当初の7校に加えて、平成2年に6校、4年に2校、5年に 5校(うち3校は準会員校)が加盟し、年々加盟機関の数が増え、平成14年 101 末現在15カ国32機関が AAOU に加盟している。 放送大学は、発足以来毎回参加している。AAOU の総会や各分科会では、 遠隔教育などの課題について、シンポジウムが開催され、活発な意見交換が 行われている。これらは、本学の教育研究の発展のために有益な知識と情報 を与えてきている。今後も、積極的な参加が望まれる。 (3) 国際遠隔教育評議会への参加 国際遠隔教育評議会(ICDE)は、遠隔教育の研究と振興に関する国際学 会である。ユネスコの非政府団体(NGO)に登録されており、世界大会は 2年に1回、機関長会議は毎年開催されている。国際遠隔教育評議会の世界 大会は、昭和13年に第1回が開かれている。 平成11年6月に、ウィーンで開かれた第19回世界大会に、放送大学から学 長が初めて出席した。帰国後、今後の対応を検討した結果、平成12年1月か ら国際遠隔教育評議会に加盟することにした。同評議会は、遠隔教育に関す る最大規模の国際団体であり、この分野での情報収集と研究促進に得るとこ ろがあると判断されたためである。 平成12年8月に、サンパウロで開かれた機関長会議(ICDE-SCOP)には、 本学理事長が出席した。この会議には、21カ国から約80人の参加者があった。 また、平成13年4月には、ドイツのデュッセルドルフで開かれた第20回世界 大会に約80カ国から約1,500人が参加して、「学習の未来―未来への学習:そ の行先を見定める」についての議論が行われた。平成14年10月に南アフリカ のプレトリアで開かれた機関長会議では、 「変貌する指導者の任務:地球規 模に拡大した遠隔・バーチャル学習の未来をいかに戦略的に革新するか」が テーマであった。平成14年度現在まで、放送大学はこの評議会の活動に積極 的に参加してきている。 (4) 学生や教職員の交流 放送大学は、スコタイ・タマチラート公開大学(タイ)との教職員および 学生の相互交流や、韓国放送通信大学との間での教育方法等の研究のための 教職員の相互訪問等、AAOU 加盟大学間において遠隔教育の情報交換や研 究者の交流を着実に進めてきている。 また、放送大学は、平成4年9月にカナダの公開大学「アサバスカ大学」 と国際交流協定を締結している。アサバスカ大学は昭和45年創立のカナダで 最初の公開大学である。人文科学、マネジメント、行政学、教養学等の学士 102 号を授与する大学課程を持つ。教育媒体としては、印刷教材、ラジオ、テレ ビ放送(通信衛星)、視聴覚教材、電話を用いた指導を行っている。 平成元年10月に、第2回大学放送教育国際シンポジウムが放送大学で開催 され、基調講演者としてアサバスカ大学のモリソン学長が来日した。それ以 来、同大学との交流が始まった。平成2年度と平成4年度に放送大学の学生 を対象として、同大学への英語研修旅行を実施した。 このような実績を踏まえて、学生と教員間の相互交流をさらに促進するた めに、平成4年9月にアサバスカ大学の学長と前理事長が来日して、 「放送 大学とアサバスカ大学との協力および交流に関する協定書」を締結した。平 成7年9月には、学生研修旅行として、放送大学の教職員2人と学生24人が アサバスカ大学を訪問している。また、平成5年度から平成12年度までに、 アサバスカ大学から本学への訪問は5回を数えている。学生交流、視察、意 見交換、さらに調査研究の一環として、幅広い交流が行われている。 さらに、平成5年4月に、台湾国立「空中大学」と国際交流協定を締結し ている。空中大学は、昭和61年創設の台湾唯一の遠隔教育機関であり、人文 学部、社会科学部、商学部及び一般教養学部等を有している。教育方法は印 刷教材を主体として、テレビ放送は UHF とチャイニーズテレビジョンを通 し、ラジオ放送は教育放送局を通して放送している。 平成4年9月に、空中大学の学長が本学を訪問し、その際放送大学との国 際交流協定を締結したいとの提案があった。この経緯を踏まえて、活動内容 等の協議を重ね、平成5年4月に放送大学学長が同大学を訪問し、 「放送大 学と空中大学との交流に関する協定書」を結んだ。その後、平成7年5月に 放送大学の教職員が意見交換のため空中大学を訪問しており、また平成6年 4月から平成9年8月までの間に、空中大学の学生、教職員が交流、視察、 調査研究のために放送大学を訪れている。 瀋陽市広播電視大学との交流協定は、平成7年度に締結されている。平成 6年1月に、瀋陽市広播電視大学の学長が来訪して、本学学長と懇談したと きに、本学との国際交流協定について打診があった。平成6年3月と平成7 年2月にも事務的な打合わせが行われ、平成7年5月に本学教授会で協定書 案が了承された。 平成7年10月に、本学学長が瀋陽市広播電視大学を訪れ、 「放送大学と瀋 陽市広播電視大学との交流に関する協定書」が締結された。平成6年1月か ら平成11年4月までに、瀋陽市広播電視大学の教員が3回程、調査研究、意 見交換等のために、放送大学を訪問している。 103 (5) 放送大学と世界の遠隔教育機関との国際比較 世界の高等遠隔教育機関には、それぞれの学生の性質、教員組織などから 見ると、多様な組織が存在する。例えば、多くの遠隔教育機関が1980年代以 降に成立してきたのに対して、フランスの国立遠隔教育センターのように、 1930年代から活動を行っている歴史を持つものがある。また、アジアの遠隔 教育機関のなかには、学生数が50万人を超えるような「メガ大学」が育って きているという状況が見られる。このような状況において、日本の放送大学 は世界の遠隔教育機関のなかで、どのように位置付けられるのであろうか。 表9−1は、世界の遠隔教育の機関を学生数別に比較したものである。こ れによると、それぞれの地域でいくつかの特徴を読みとることができる。第 一に、全般的に見て、その遠隔教育機関・大学のある国の人口が大きければ、 学生数規模もまた大きい傾向が見られる。第二に、ヨーロッパ地域では、設 立年が早い大学ほど、学生数も多い傾向がある。第三に、とりわけアジア地 域で、大規模な大学が多く見られる。 表9−1によりもう少し詳しく、各遠隔教育機関の学生数について見てみ たい。これによれば、最大の学生数を誇るのは、トルコのアナドル大学であ り、約78万人である。次に、インドのインデラ・ガンジー公開大学であり、 60万人に迫る学生規模を示している。さらに、中国の中央広播電子大学であ り、55万人に近づいている。これらの2位、3位の両国は、世界のなかでも 人口が多い国として知られているので、上記で指摘したように、人口の多い 国の遠隔教育機関の学生数は多い傾向にあることを示している。 これらの機関のなかで、日本の放送大学は15位の学生数規模を示しており、 今回のサンプルのなかでは、放送大学は中規模であることを示している。人 口規模から考えれば、ほぼ日本の学生規模は適正と考えられるが、同様の人 口規模を示すパキスタンやバングラデシュと比較すると、学生数はまだ少な いと言える。 各遠隔教育機関がそれぞれの国で、どのくらい国民層に浸透しているかに ついて見るために、表9−2で「人口千人当たりの遠隔教育機関学生数」を 算出した。これによって、それぞれの機関の普及度をある程度測ることがで きる。最も普及度の高いのは、トルコのアナドル大学であり、人口千人当り 11.6人を示している。次に、ノルウェー遠隔教育連合であり、ノルウェーの 人口千人当り8.9人もの学生が在籍している。さらに、ニュージーランドの マッセイ大学も8.1人で、ほかの3位以下の機関と比べてもかなり高い普及 度を示している。ここでわかることは、比較的人口の少ない国では、学生規 104 表9−1 順位 名 世界の遠隔教育機関の学生数比較 称 国 設立年 学生数 1 2 3 4 5 アナドル大学 国立インディラ・ガンジー公開大学 中央広播電子大学 国立遠隔教育センター パヤム・ヌーア大学 トルコ インド 中国 フランス イラン 1982 1985 1979 1939 1987 781,475 594,227 547,925 400,000 365,000 6 7 8 9 10 テルブカ大学 スコタイ・タマチラート公開大学 韓国国立公開大学 オープン・ユニバーシティ 遠隔教育大学 インドネシア タイ 韓国 英国 ミャンマー 1984 1978 1972 1969 1975 225,203 221,269 215,788 210,195 198,000 11 12 13 14 15 アラマ・イクバル公開大学 国立遠隔教育大学 南アフリカ大学 バングラデシュ公開大学 放送大学 パキスタン スペイン 南アフリカ バングラデシュ 日本 1974 1972 1873 1992 1985 188,000 143,324 117,046 103,000 89,770 16 17 18 19 メリーランド大学カレッジ ハーゲン通信教育大学 ベトナム国立遠隔教育機関 モナッシュ大学 米国 ドイツ ベトナム オーストラリア 1947 1974 1968 1958 71,303 52,000 48,500 48,246 20 イスラエル公開大学 イスラエル 1974 45,000 21 ノルウェー遠隔教育連合 ノルウェー 1968 40,000 22 23 24 25 国立空中大学 マレーシア科学大学 マッセイ大学 香港公開大学 台湾 マレーシア ニュージーランド 中国・香港 1986 1971 1964 1989 40,000 31,529 31,000 26,000 26 27 28 29 30 アサバスカ大学 オランダ公開大学 スリランカ公開大学 スウェーデン遠隔教育連合 アベルタ大学 カナダ オランダ スリランカ スウェーデン ポルトガル 1970 1984 1980 1984 1988 23,000 21,000 19,287 15,000 11,100 31 32 33 34 35 ネッツーノ 南太平洋大学 タンザニア公開大学 ニューブルガリア大学 フィリピン公開大学 イタリア フィジー タンザニア ブルガリア フィリピン 1992 1968 1992 1990 1995 10,000 10,000 1,800 1,500 1,440 36 ユトランド大学 デンマーク 1982 864 (注) 国立遠隔教育センター、遠隔教育大学、ベトナム国立遠隔教育機関、ノルウェー遠隔教育連合、スリ ランカ公開大学、スウェーデン遠隔教育連合、アベルタ大学、ネッツーノ、タンザニア公開大学、ニュ ーブルガリア大学、フィリピン公開大学、ユトランド大学は、放送大学教務関係資料集からの数値。そ れ以外は、「The World of Learning 2004」版の数値である。 105 表9−2 人口千人当り学生数による遠隔教育機関の国際比較 称 国 名 1 2 3 4 5 アナドル大学 ノルウェー遠隔教育連合 マッセイ大学 イスラエル公開大学 国立遠隔教育センター トルコ ノルウェー ニュージーランド イスラエル フランス 781,475 40,000 31,000 45,000 400,000 67,377 4,493 3,831 6,040 58,892 11.60 8.90 8.09 7.45 6.79 6 7 8 9 パヤム・ヌーア大学 韓国国立公開大学 遠隔教育大学 香港公開大学 イラン 韓国 ミャンマー 中国・香港 365,000 215,788 198,000 26,000 63,664 47,275 47,749 6,665 5.73 4.56 4.15 3.90 10 国立遠隔教育大学 スペイン 143,324 39,466 3.63 11 12 13 14 15 スコタイ・タマチラート公開大学 オープン・ユニバーシティ 南アフリカ大学 モナッシュ大学 国立空中大学 タイ 英国 南アフリカ オーストラリア 台湾 221,269 210,195 117,046 48,246 40,000 62,320 59,501 43,686 19,157 22,216 3.55 3.53 2.68 2.52 1.80 16 17 18 スウェーデン遠隔教育連合 アラマ・イクバル公開大学 マレーシア科学大学 スウェーデン パキスタン マレーシア 15,000 188,000 31,529 8,872 137,500 23,266 1.69 1.37 1.36 19 20 オランダ公開大学 アベルタ大学 オランダ ポルトガル 21,000 11,100 15,864 10,008 1.32 1.11 21 22 23 24 テルブカ大学 スリランカ公開大学 バングラデシュ公開大学 アサバスカ大学 インドネシア スリランカ バングラデシュ カナダ 225,203 19,287 103,000 23,000 210,486 19,359 137,439 30,770 1.07 1.00 0.75 0.75 25 放送大学 日本 89,770 126,926 0.71 26 27 28 29 30 ハーゲン通信教育大学 ドイツ ベトナム国立遠隔教育機関 ベトナム 国立インディラ・ガンジー公開大学 インド 中央広播電子大学 中国 メリーランド大学カレッジ 米国 52,000 48,500 594,227 547,925 71,303 82,017 77,686 1,002,142 1,275,133 283,230 0.63 0.62 0.59 0.43 0.25 31 32 33 34 ニューブルガリア大学 ネッツーノ ユトランド大学 タンザニア公開大学 ブルガリア イタリア デンマーク タンザニア 1,500 10,000 864 1,800 7,949 57,762 5,337 35,119 0.19 0.17 0.16 0.05 35 フィリピン公開大学 フィリピン 1,440 76,320 0.02 4,938,791 4,175,517 1.18 総 計 と 平 均 学生数 人口(千人) 人口千人 当り学生数 順位 (注) 機関によっては、外国在住の学生数も含まれているため、人口千人当り学生数を遠隔教育の普及度と 見なすことはできない場合もある。 106 模にあまり関係なく、遠隔教育機関の示す普及度は高いということである。 もちろん、トルコのような例外はある。そして、人口の多い国では、千人当 り学生数は比較的小さい結果が示されている。インドや中国が典型例である。 けれども、実際にはインドや中国で、もし一国内での正確な遠隔教育の普及 度を測る場合には、両国には学生数の多い遠隔教育大学が、上記の表に掲載 されている大学以外にも、複数存在しているので、それらを合算して普及度 を測らなければならない。 日本の放送大学は、 「人口千人当りの遠隔教育機関学生数」に関してみる と、0.71人で、今回のサンプルのなかでは平均以下の数値を示しており、25 位である。カナダのアサバスカ大学に次ぐところに位置している。放送大学 の学生数は15位を示しており、また普及の度合いでは25位である。つまり、 人口規模では7位であるにも関わらず、学生数規模が15位であるため、普及 度が低くなっている。したがって、今回の結果から見ると、まだ学生数が増 加し、さらに普及する余地を残していると言える。けれども、このような遠 隔教育の普及については、各国による国内事情の違いも考慮して、評価しな ければならない。たとえば、経済発展の相違、国内の大学数の違い、さらに は他の通信制教育機関との競合の程度などが、普及度には密接に関係してい ると考えられる。 海外の大学・国際機関を通じて国際交流を図ることは、多様な考え方に接 し、放送大学の教育研究の在り方を改善し向上させていくうえで十分意味の あることと考えられる。このような観点から、情報交換、教育・研究成果の 交換、学生・教職員の交流を進めることは重要である。このような交流のな かで、放送大学の位置付けが行われることになる。また、国際比較を行うこ とによって、本学の学生数や教員組織についての特徴を把握し、今後の大学 運営に反映させることも重要である。今後も、可能な範囲でできる限り、国 際交流の推進を図り、世界の中での放送大学の位置づけを図ることが必要で ある。また、こうした目的のために AAOU、ICDE への積極的参加と国際交 流経費の効率的、戦略的運用が望まれる。 107