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OECD の域外国金融セクター改革支援活動の概要
私は本年7月より OECD(経済 開発協力機 構)の DAFFE(金融財政企業 局)に着任し、
Outreach Unit for Financial Sector Reform というユニット(課)で文字通り、OECD 域外国(中
国、東南アジア、インド、ラ米等の OECD 非加盟国)における金融セクター改革の支援事業を担当
しています。
そこで、本稿では、当ユニットの活動の発足の経緯や現在の活動状況について以下簡単にご紹介す
ることといたします。
OECDの域外国支援活動が正確にいつ始まったかについては私は実は承知していないのですが
(もしご存知の方がいらっしゃれば教えてください)、私の知る限りでは、旧東欧諸国(現在では中
欧諸国と呼ばれている国も多いようですが本稿では従前の慣例に従います)の民主化とともに市場経
済への移行が始まった1980年代の末、先進24カ国による支援体制(これを当時 G24と呼んで
いました)が組まれた際にスタートしたのではないかと記憶しています。
もともと OECD の発足の経緯を遡れば、第2次世界大戦後の欧州諸国の復興のためのマーシャル
プランに端を発しているわけですし、この G24 カ国がほぼ当時の OECD 加盟国とマッチしていたこ
ともあって、OECD による東欧支援は、OECD の国際機関としての経緯や性格にぴったりのものだ
ったのでしょう。その後、皆様ご承知の通り、1991 年末には旧ソ連邦が崩壊する事態に及びました
が、国際社会は「東欧」の概念を拡張する形でその民主化・市場経済移行支援にあたり、OECD も
IMF・世銀・EBRD と協働・分業して支援に当たりました。
丁度こうした時期の1990年に OECD 内部に CCET(移行経済支援センター)が発足し、旧東
欧・旧ソ連といった体制移行国を主たる対象として支援を行う組織が設立され、日本としても、平成
6年度予算(1994年度)から CCET に予算を拠出するとともに人員も派遣しました。その後
CCET は、1997年に、移行経済以外の非加盟国をも含めて対象とする CCNM(非加盟国協力セ
ンター)に改組され、また同年7月にはDAFFEの中で当ユニットが発足しました。
OECDの域外国支援活動は、まず、本体(CCNM予算)で行っているものがありますが、当
ユニットの活動は、日本の拠出金を用い、金融分野について、それを補完する形で行うというのが基
本的な位置づけです。但し、本体の予算の状況が厳しいため、現実には、金融分野で当ユニットが支
えている分野は相対的にはかなり大きいと思われます。
上記の通り、CCET・CCNM の域外国支援活動は、当初は、旧東欧、旧ソ連といった体制移行国
を主たる対象としており、その後、対象国は全域外国に拡大していますが、地理的、歴史的な関係も
あり、ヨーロッパに近い域外国にとかく目が向きがちです。もちろん、最近のアジア経済の躍進もあ
って、アジア、特に中国に対する関心も高まっていますが、予算的な制約もあって、まだ、活動の質、
量とも十分とは言えません。当ユニットの活動も、上記のような世界経済の環境変化等をも踏まえ、
現在は、アジア、中国関係の活動に重点を置くようにしています。
もちろん予算、人員等動員できる「資源」は限られていますので、できるだけ対象分野を効果のあ
1
がる分野(OECDの比較優位のある分野等)に絞って仕事を行うことが必要であり、また、一般論
として、当然のことながら、対象国のニーズに合致しつつ、OECD 加盟国にとっても関心のある地
域、国、テーマを選ぶことを基本的な指針として活動を行っています。
以下、現在の主な活動についてご紹介いたします。
― 証券
OECDの中では、DAFFEの FIN(金融市場課)で OECD 諸国の証券市場関係についての仕事を
していますが、域外国については、実質的にほとんど当ユニットが行っており、特に1999年以来、
アジアの資本市場の改革を目的とした「東京ラウンド・テーブル(Round Table on Capital Market
Reform in Asia)」をADB Institute(ADB 研究所)と共催しています。
出席者はアジアの証券監督委員会の委員長クラスの者を中心とするアジアの専門家と OECD 諸国
の専門家で、これまで IOSCO(国際証券監督者機構)など外部の協力も得ながら、アジア危機後の
資本市場改革の必要性、機関投資家の育成等のトピックをメインとしながら、アジア各国からカント
リー・レポートで各国で過去1年間に起こったことのレヴューを発表してもらっています(詳細は
OECD の Website を参照願います;なお、本年は11月中旬に開催予定。)
今後、個人的には、最近 ASEAN+3や APEC の財務大臣会合でも取り上げられた、アジアの債券
市場育成、また個別国では特に中国の債券市場の育成等を重点事項に取り上げていくことができれば、
OECD および加盟諸国の経験・ノウハウをうまく活用できるのではないかと考えています。
― 保険・年金
保険・年金関係については従来から OECD・DAFFE が力を入れてきた分野です。というのも先
進諸国がいずれも高齢化および特にその公的年金制度の財政への影響という共通の問題を大なり小な
り抱える中で(読者の皆様も現在大詰めを迎えつつある、来年度からの日本の年金制度改革の議論は
ご承知かと思います)、金融市場および財政にまたがる先進国共通の課題であるという、まさに
OECD・DAFFE の専門知識に最適の課題であるからです。
ただ、高齢化に伴う年金制度改革の必要性という課題は必ずしも先進国固有の問題ではなく、一部
の途上国に残念ながら立派に当てはまる課題であり、また、一部先進国の年金問題がここまで悪化し
たのも、楽観的な年金財政の予測の下、必要な改革を先送りしてきたからです(もっともこの種の問
題は年金制度改革に限りませんが・・・)。いずれにせよ、人口構造が比較的若いとはいえ、途上国
においても一部先進国の経験・教訓に学んで年金制度を早いうちから長期的に持続可能なものに再設
計することが重要であることに変わりはなく、DAFFE でもアジア・ラ米の保険・年金監督者との連
携を強化すべく、本年だけでもこれまでインドやコスタリカでセミナーを企画してきました。
今後 DAFFE ではロシア(9月下旬)・ブラジル(10月上旬)で年金制度改革のセミナーを計画
2
していますが、これと並行して INPRS という年金監督者の国際的なネットワーク作りも進行してお
り、いずれこうしたネットワークを通じて、先進諸国の年金・保険関係の改革の経験・教訓が途上国
の改革で活用されることが期待されます。
―コーポレート・ガバナンス (www.oecd.org/daf/corporate-affairs/)
必ずしも狭義の金融には該当しませんが、 金融に関係の深く、また金融のインフラの一つとも考
えられ、また、最近注目を浴びている分野として、コーポレート・ガバナンス関連の活動があります。
OECD では1999年にコーポレート・ガバナンス原則(以下「OECD 原則」といいます)が
大臣レベルで採択されました。この OECD 原則は、金融安定化フォーラム(FSF)の12の基本原
則として認知される1 とともに、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワークのような民間団体や、
証券監督者国際機構(IOSCO)によっても支持されています。さらに、OECD 原則は、多くの国で、
コーポレート・ガバナンスについての国内規範を策定する際の参考文書ともなっています。
OECD 原則が採択された後、G7からの委託を受け、OECD はこの原則を概念的枠組みとして
途上国のコーポレート・ガバナンス改革を推進する作業に世界銀行と共同で行っています。具体的に
は、コーポレート・ガバナンスについての政策対話を通じて対象国のコーポレート・ガバナンス改革
を促すために、アジア、ユーロアジア、ラテン・アメリカ、ロシア、南東ヨーロッパの5つの国・地
域で地域円卓会議(ラウンドテーブル)を立ち上げて、3-4年かけて対象国と OECD 諸国の対話
を実施し、その成果を政策提言を盛り込んだ白書等として取りまとめることとしています。当ユニッ
ト と して は、 アジ ア 、ユ ーロ アジ アの 円 卓会 議に 対 して 資金 協力 す ると とも に、 DAFFE の
Corporate Affairs Division の主導するプロジェクト運営に参画しています。アジアの円卓会議は、
本年6月に白書を取りまとめた2ところであり、11月に東京で予定している次回会合において今後
のアジアの円卓会議の進め方を議論することとしています。当然のことながら、白書にある政策提言
を如何に実施に移していくかについて焦点が絞られていくと考えられます。ユーロアジアについては、
来年初に白書に準じたプログレス・レポート(政策提言ではなく現状分析が中心)を取りまとめる予
定です。なお、新規プロジェクトとして、中国のコーポレート・ガバナンス改革についてアジアの円
卓会議とは切り離して取り上げることとしており、これについては当ユニットが中心的な役割を担っ
ています。
一方、OECD 加盟国間の作業として、本年3月からステアリング・グループ3において OECD 原
則の見直し作業が開始されています。これは、99年の OECD 原則の採択の後、先進国において
1
したがって、世銀の ROSC の活動においてもベンチマークとして活用されている。
2
当該白書は日本を対象国とはしていないが、提言内容に中には日本のコーポレート・ガバナンス改革にも役立つものが
ある。白書は、上記サイトで検索可能。
3
資本市場委員会、保険委員会等の OECD の各種委員会に準じた意思決定主体。コーポレート・アフェアの活動の歴史が
浅いこと等から委員会ではなく、グループと位置づけられている。
3
様々な企業不祥事が生じ、これに対する対応策が各国でとられたことを踏まえたものです。この見直
し作業において、事務局としては99年の原則に欠けていた、「いかに基準を効果的に実施・執行で
きるのか」という面に力点を置くことを目指しています。今後の日程としては、来年始めには実質的
な交渉作業は終了し、5月の閣僚会合に報告するということが想定されています。改定 OECD 原則
には、資本市場委員会や保険委員会において同時並行的に進んでいる、投資信託等の集団的投資スキ
ーム(CIS)、年金、保険といった機関投資家についてのガバナンス原則も付属資料として添付され
ることが予定されています。OECD の金融関係の作業がニッチを求めて、ガバナンスに活路を見出
そうとしていると見えなくもありません。なお、原則の見直し作業には、各地域円卓会議の活動の成
果が反映されることとなり、そうして策定される改定原則が、また、今後の地域円卓会議の枠組みを
提供するという、「加盟国向け活動」と「非加盟国向け活動」の双方向の有機的関係が構築されるこ
とになります。
コーポレート・ガバナンスに関連するプロジェクトとしては、上記以外にも、アジアの倒産制度
にかかるプロジェクト4(世銀におけるグローバルな活動と連携)、裁判外の紛争処理についてのプ
ロジェクト5にも、当ユニットから資金協力し、プロジェクトに参画しているところです。
以上の他、当ユニットでは政策金融(中小企業金融、住宅金融、農業金融)についても域外国
支援活動を行っていますが、上述した当ユニットの諸活動については、OECD(または DAFFE)
全体に共通する以下のような制約条件等にも留意する必要があります。まず、OECD 加盟国向け
の作業は加盟各国が参加する各種委員会により運営されていますが、域外国活動も委員会の活動と位
置づけられているため、加盟国向け作業との連携が重要であることです。また、既存の資本市場委員
会や保険委員会では、BIS、IOSCO、IAIS といった各分野の専門機関との関係もあって純粋に各分
野の規制監督のあり方といった事項は議論しにくくなっており、DAFFE では(年金、保険、投信の
ガバナンスといった)規制の延長上にある分野などにニッチを求めています。なお、OECD は、国
際金融機関とは異なり、途上国と対等の立場で政策対話を通じて先進国の経験を啓蒙していくという
ソフト・アプローチをとっているため、レバレッジは弱いものの、途上国に警戒感を持たれずにすむ
とのメリットもあるのではないかと考えられます。
4
アジア危機により、円滑な市場退出制度がないために実質には破綻した会社が市場に残り続けていたり、債権者保護制
度が整備されていないために清算手続きが円滑に進められないといった問題が顕在化しており、これに対応するもの。
5
全てのコーポレート・ガバナンス円卓会議に共通する問題として、規制や原則が効果的に執行されていないという点が
ある。これを解決する一つの方法として、裁判制度が未成熟で訴訟に時間とコストがかかる途上国において、裁判代替
的な手段として仲介・調停・和解等の活用を促進することを念頭においたプロジェクト。
4
以上、OECD における域外国金融セクター改革支援活動の概要について申し述べてきました。
ご意見・ご質問がある方は是非当方([email protected])までお寄せください。
(以上)
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