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全文PDF - 特定非営利活動法人 日本小児循環器学会

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全文PDF - 特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
日本小児循環器学会雑誌 5巻3号 442∼450頁(1990年)
新生児期1型完全型大血管転換症に対する1期的Jatene手術
適応条件と術前管理について
(平成元年9月11日受付)
(平成元年12月27日受理)
東京女子医科大学循環器小児科,*同 循環器小児外科
全
勇 中沢 誠 高尾 篤良 今井 康晴*
key words:完全型大血管転換症,
1期的Jatene型手術,左室/右室収縮期圧比,左室拡張末期後壁厚,新
生児期
要 旨
1987年4月から89年6月までに,18例の新生児期TGA I型に対し1期的Jatene型手術を実施した.
入院時日齢は0∼19日,平均6.7±5.9日で,入院後2∼27日,平均8.8±7.3日後に,日齢5∼27日,平
均15.5±6.9日で手術となった.生存15例,死亡3例で,心エコー図での左室/右室圧比は0.8以上,左室
後壁拡張末期厚は2.8mm以上を示し,生存例と死亡例に有意差を認めなかった. PGEIを17例に投与し
たが,3例で心不全の増悪のた中止し,2例で反応不良のため早期に手術となった.BASは17例(当院
実施は4例)に実施した.生存例は術後平均5±2.3日で抜管となり,術後16∼36,平均25±6日で退院
した.死亡原因は初期の2例が人工心肺離脱時の高血圧による急性左心不全,1例が術前の高度の心不
全と冠動脈起始異常による術後低心拍出量症候群であった.同期間に他に4例のTGAI型が入院した.
3例は1期的修復術の適応内であったが,腎不全,髄膜炎等の合併症により,残り1例は日齢21で左室/
右室圧比がO.6以下のため断念した.
現時点では①左室/右室圧比0.8以上,②左室拡張末期後壁厚2.8mm以上を1期的修復術の適応基準
としているが生後2週以内では0.8以下でも適応しうると考えている.PGEは一応全例に投与し, BAS
は卵円口を拡張させる程度に実施することにしている.生後1週以内に発見し2週以内に手術を実施す
ることが最良と考えている.
はじめに
完全型大血管転換症(TGA)に対する外科的修復術
左室圧の低下した年長例に対し肺動脈絞拒術(PAB)
はSenning, Mustardという心房内血流変換が従来,
循環系心室として準備した後に2期的にJatene手術
とBlalock・Taussig(BT)短絡術を実施し,左室を体
主流となり良好な成績を収めてきた.しかし,静脈系・
を実施した.87年末までに56例に2期的修復術を行い,
肺静脈系の閉塞や上室性不整脈の出現,遠隔期におけ
52例が生存したが,PAB+BT術後に左室機能が不適
る三尖弁逆流,右室機能の低下という問題点が出現し
のためSenning後に変更になったものが16例, PAB+
始め,近年,左室を体循環系心室として使う,より生
BT術後に死亡した症例が6例DとPAB術を乗リ切
理的なJatene型手術に主流が移りつつある.
ることが困難な症例も少なくないことなどから87年後
本院でも1982年8月からJatene型手術を開始した.
半からは新生児症例に積極的に1期的修復術を実施す
心室中隔欠損を合併しないTGA I型に対しては当初,
る方針とした.
別冊請求先:(〒162)東京都新宿区河田町8−1
東京女子医科大学循環器小児科
対 象
今回,対象としたこは1987年4月から89年6月まで
全 勇
に入院し,手術した新生児TGA I型18例(死亡3例)
Presented by Medical*Online
日小循誌 5(3),1990
443−(77)
表1 新生児期Jatene型手術症例(生存例)の臨床症状・臨床経過
1987. 7∼1989. 6
No
1
2
3
手術
入院
日齢
日齢
TH
5
0
MS
8
名前
KM
PGE1
μ9/kg/min
他のCA
心胸郭比
54
0.01
安定.ASD大きくBAS実施せず
定期手術
∼0.03
6
0.1
低血圧で
中止
9
6
術前の心不全状態,その他
%
0.03
∼0.1
DOB
DOA
60
DOA
60
BAS, PDA,挿管下でPO2が15∼25と不安
定で尿量低下などの心不全増悪に対し緊急
手術
日令1のアンギオ,その後の2DEでも
PDA確認できなかったので早めに手術と
なった.
4
5
6
7
8
9
10
MT
9
RF
11
TM
15
SW
YA
TO
TO
15
1
0.03
15
2
0.01
17
14
17
11
7
62
PGE1投与に動脈管の反応不良で閉鎖傾向がみられたため早めに手術となった.
2.5ng/kg/m
64
安定.
0.05
53→64
心拡大は進行はみられたが,状態は安定し,
0.02
∼0.1
8
LipoPGE
1
58→68
安定.定期手術
58
安定.定期手術
投与せず
62
安定.定期手術
0.02
52
PGE1投与により動脈管は再開通したが,エコーで左室圧は低下傾向にあった.
19
KM
23
13
ST
23
3
0.05
14
KK
27
7
0.07
TM
27
12
15
DOA
∼0.01
AS
11
定期手術
14
19
0.03
DOA
DOB
0.01
71
心不全が進行し,挿管と大量の利尿剤を必
要としたため緊急手術となった.
66
安定.左室圧が低めと判断し早めの手術へ
54→64
安定.定期手術
59→65
安定.定期手術
56→61
日令1に無呼吸発作に対し挿管.その後,
状態安定.定期手術
∼0.06
DOB
∼0.1
0
0.01
∼0.05
DOA
CA カテコールアミソ, DOA ドーパミン, DOB ドブタミン
6,7,13,14,15では胸部レ線上のCTRの増加を認
であった.
めた.症例2は他院にて日齢1でBASを実施し,
PGEユも使用したがPO2は15mmHg前後と改善せず,
生存例の検討
臨床経過(表1)
入院時日齢は6日以内が8例,7∼13が4例,14∼19
が3例で平均6.6±5.6日であった.動脈管を十分に開
存させ,維持するために0.03μg/kg/分前後のプロスタ
挿管下に日齢6に当院へ転院となった.転院後もPO2
は20前後を変動した.心エコー図ではPDA, ASDは開
グランヂンE1(以下PGE1と略す)を14例に投与し,
存しており,肺高血圧遺残によるmixing不良のため
のhypoxiaと診断した. PGE1の持続投与により血圧
PO2も症例2以外は30mmHg以上で安定していた.症
が低下したので中止した.ドーパミン,ドブタミン等
例9はPDAが安定して開存し, PGE1非投与で転院し
を使用したが,尿量は低下し,呼吸状態も不安定のた
てきた.PGE1投与にもかかわらず症例10は動脈管が
め転院2日後緊急で修復術を行った.症例11は動脈管
閉鎖し,症例4,10は動脈管開存状態が不安定で,左
開存による過度の容量負荷のために心不全が増悪した
室圧も低めと判断し,早めに手術となった.PGE1によ
ため緊急下に手術を実施した.
り動脈管開存を維持したため,肺血流量の増加,容量
心エコー図所見(表2)
負荷の結果,全例で程度の差はあったが心不全状態に
左室拡張末期内径が小さな症例はなく,左室短縮率
あり,特に2週間以上,術前管理を行った初期の症例
は0.29以上であった.図1に示す様な左室短径と心室
Presented by Medical*Online
日本小児循環器学会雑誌 第5巻 第3号
444−(78)
表2 新生児期Jatene型手術症例(生存例)の心エコー図所見
名前
1
TH
2
3
手術
入院
測定
日齢
日齢
日齢
5
0
左室拡張末
左室収縮末
期内径mm 期内径mm
0
15
10
5
15
9
短縮率
5’
6
7
8
9
10
動脈管流速
末期厚mm
m/秒
0.33
2.9
0.63
100
3.3
1.1
100
〈1
100
MS
KM
8
6
7
19
13
0.32
2.8
9
6
7
14
7
0.5
3.1
*2
3
*2.9
MT
9
7
8
12
5
0.58
RF
11
8
TM
SW
15
15
1
1
YA
15
2
TO
TO
17
14
17
11
a/b
0.4
8
4
左室後壁拡張
%
No
3.1
1
90
91
8
20
12
0.4
3.3
1.75
100
10
22
14
0.37
3.2
1.5
100
1
17
12
0.29
3
1
100
12
22
14
0.36
3.2
1
100
1
18
11
0.39
2.4
1
100
13
21
15
029
3.8
1
95
2
17
10
0.41
2.4
0.75
95
12
20
11
0.45
3.1
17
20
10
0.5
3.3
11
13
6.5
0.5
3
17
15
7
0.53
3
100
L5
83
測定不能
94
3
80
11
AS
19
14
18
25
17
0.32
3.3
1.5
100
12
KM
23
19
22
21
12
0.43
4.3
2.5
82
13
ST
23
3
14
15
KK
TM
27
27
7
0
4
17
10
0.41
2.8
0.9
100
22
22
13
0.41
3.6
1.5
100
7
18
12
0.33
2.9
1.5
86
26
21
14
0.33
3.6
L2
88
3
15
8
0.47
3
L5
88
25
15
10
0.33
3.5
79
’心室中隔欠損口流速
中隔径から左室/右室圧比を%で求める2)と全例,79%
23日と27日齢が各2例,平均16±6.6日であった.症例
以上を示した.左室拡張末期後壁厚は手術日に最も近
2,11は重症心不全のため,症例3はPDAが閉鎖し,
い値で2.8mm以上,平均3.3±0.4mmであったが,測
症例4,10,12はPDAにもかかわらず左室圧が低めと
定者間,測定時毎のバラッキがみられた.
心臓カテーテル・造影検査所見(表3)
判断し,早めの手術となった.径5mm以下で直接閉
鎖が可能であった心室中隔欠損が5例にみられ,3例
手術直前に心カテを実施したのは症例15のみで,基
は傍膜様部型,3例はinlet muscular typeであった.
本的に他院で心房中隔欠損口作成術(BAS)が実施さ
れていれぽ,心カテは実施しなかった.BASは14例で
冠動脈の大動脈からの起始の仕方はShaher分類の1
型が11例,2型が2例,5a,7a型が1例つつであった.
行い(当院実施は4例),症例1(最新例)は心エコー
左冠動脈起始部が右側Valsalva洞へ偏位,起始する5
図で心房中隔欠損が認められ,PO2も30前後あったた
a型に対しては,通常の冠動脈の移植が無理のため,新
めBASを行わなかった.
しい大動脈壁から元の大動脈(新しい肺動脈)内の左
術中・術後経過(表4)
右冠動脈ロヘロールで通路を作成するAubert型手
手術時日齢は5から9日が4例,11から19日が7例,
術3)を実施した.術中・術後経過は9例で順調,初期の
Presented by Medical*Online
445−(79)
平成2年5月1日
表3 新生児期Jatene型手術症例(生存例)の心カテ所見
No
名前
3
KM
TM
SW
YA
TO
TO
6
7
8
9
10
左室収縮期
右室収縮期
圧mmHg
圧㎜Hg
42
42
手術
入院
日齢
日齢
9
6
1
15
1
1
15
1
2
50
52
カテ
日齢
佐室拡張末期
*右室拡張末期
肺血管
容積(駆出率)
容積(駆出率)
抵抗u
177(53)
333(56)
0.96
106(61)
111(63)
106(53)
122(63)
116(70)
116(62)
3.1
148(59)
214(62)
4.8
左室/右室収
縮期圧比
1.0
15
2
1
50
60
0.83
17
14
4
62
62
1.0
17
11
6
58
80
0.73
14
11
62
68
0.91
11
AS
19
12
KM
23
19
13
50
50
1.0
13
ST
23
3
3
54
60
0.9
14
KK
27
7
TM
15
27
0
<1.0
3
55
66
0.84
19
50
64
0.78
2
46
52
0.89
87(74)
127
1.3
24
62
80
0.78
171(72)
210
1.3
*対正常化%
左図の様に左室短軸面で収縮中期の左室短径(a)と心
室中隔径(b)を測定し,
{(a/b)×1.1+0.11}×100%に当てはめ,左室/右室圧
比を求めた.心カテ時の圧比との相関係数は0.87(文
献2より引用)
#、︷
曇
工 亡具
▽
v
⇔
三、≧⊇造㌦蝋・ぷ
線藩「 :こ =曇ピ
ぜ’ .己 ぷ
蛋籔≡ 二護汽
w へ
茶已ぷ
二=
螺A
{
夢
叢で
麟㎡燈
や疋w MY
ぺ
壌縛
ぺ 灘
㍉集
症例10,TO,日齢17
a=10,b=16,推定圧比は80%
鍵
ン
図1 心エコー図による左室/右室圧比の推定法
Presented by Medical*Online
日本小児循環器学会雑誌 第5巻 第3号
446−(80)
表4 新生児期Jatene型手術症例(生存例)の術中・術後経過
手術日体重9
手術
入院
日齢
日齢
TH
5
0
MS
8
3
KM
9
6
4
MT
9
5
RF
11
6
TM
15
1
7
SW
15
8
YA
15
9
TO
17
14
3200
/3254
10
TO
17
11
2564
/2500
AS
19
12
KM
23
13
ST
23
14
KK
27
7
15
TM
27
0
No
名前
1
2
11
/出生体重
2400
冠状動脈Shaher分類
と合併心奇形
術中・術後経過
抜管
退院
POD CA POD
そ の 他
6
15
30
9
13
32
順 調
3
3
19
1.small PDA
順 調
3
5
17
1.PDA&VSD
順 調
4
7
30
2918
/3042
1.PDA&VSD
(3mm)
順 調
3
6
19
1
3100
/3328
1.PDA&VSD
(5mm)
順 調
4
6
30
創部治癒遷延
2
2872
/3128
7
10
27
術後カテあり
Aubert型手術
性喘鳴強く,再挿管
2、PDA
順 調
3
6
23
1、PDA&small
一 過性ブロック出現
8
14
26
3900
/3750
7a. PDA
ECC離脱後,左心不
7
10
24
19
3460
/3500
1.PDA
順 調
3
6
20
3
3142
/3220
1.PDA&muscu
順 調
3
9
16
3200
/3080
2.PDA
順 調
9
12
20
2696
/2788
1.PDA
順 調
4
14
36
1.PDA
当日止血再開胸
1.PDA
術直後一過性左心不
2920
/2900
1.VSD(5㎜)
7
2400
/2560
8
3588
/2522
6
3000
/3066
/3700
14
2日後閉胸
(V)5mm
5a. PDA
muscular VSD
軽度肝機能障害
全,PD4日間
3日で抜管時,吸気
創部治癒遷延
心機能回復やや遅い
全に対しassist ECC
軽度喘鳴残存
lar VSD(5mm)
ECC人口心肺, PD腹膜灌流, CAカテコールアミン投与期間, POD術後日数
症例14を除き4日以内に抜管可能であった.術前に心
を受けた.入院時,PO2は25mmHg, BEは一16で,
不全が強く,緊急下で手術となった症例2,11は術後
TGAの診断でBASを実施され, PGE1投与下に当院
もしぼらく左心不全が継続し,症例2に対しては4日
へ転科した.転入後はPDAによる心不全が進行し,
間腹膜透析を実施した.症例10は術前,転院時,PDA
PGEIを中止しても改善せず,多量の利尿剤を必要と
が閉鎖しかけ,PGE1投与にて再開存したが,左室/右
するようになったため,GOT, GPT, Crはまだ高めで
室圧比は6日間で94,87,80%と低下し,術後の左心機
あったが緊急手術とした.3例共,心エコー図での左
能の安定に時間を要した.症例2は術後4ヵ月後,自
室拡張末期後壁厚は2.8mm以上,左室/右室圧比も
宅で突然死し,剖検にて左右冠動脈移植吻合口の萎縮
90%以上であった.症例3は両側円錐,並列大血管関
性狭小化と心筋の著明な虚血性変化が認められた.
係,小さな心室中隔欠損,冠動脈起始異常を合併して
死亡例の検討(表5)
いた.症例1,2は人工心肺離脱まではスムーズであっ
症例1,2は87年の初期例で,症例2に対しては体
たが,離脱後,血圧が80以上に上昇した時点で肺出血
循環系心室としての左心機能を養成するために積極的
等の急性左心不全症状が出現し,症例1は12時間後,
に容量負荷を行った.症例3は日齢15,自宅で,PDA
症例2は7日後胸腔内感染を併発し死亡した.症例3
の急激閉鎖の為と思われるショック症状が出現し,
は術後も心不全の改善がみられず,24時間後,低心拍
33.2度の低体温下に他院に緊急入院し,挿管等の蘇生
出量症候群のため死亡した.
Presented by Medical*Online
447−(81)
平成2年5月1日
表5 新生児期Jatene型手術症例(死亡例)の検討
1.術前状態
入院
日齢
日齢
PGE1
μ9/kig/min
他のCA
YS
4
2
0.03
DOA
2
KS
12
2
0.03∼0.1
3
AO
23
17
名前
1
CTR
%
手術
No
DOA
0.01
減量中止
術 前 状 態
56
BAS前からBEはマイナス傾向で呼吸不安定の為,
BAS後挿管し,日齢3で小康状態となった
58→62
水分制限 管理で心不全状態は中等度で安定
65
ショック状態となり日齢15他院にて挿管,BAS後転院.
GOT(1035→93), GPT(330→65), Cr1.2と高めであった
が,乏尿傾向となり多量の利尿剤を必要となった為,緊
急手術となった
2.心エコー図所見
No
名前
1
YS
KS
2
3
AO
手術
入院
日齢
日齢
4
2
12
2
23
17
日齢
左室拡張末
左室収縮末
期内径mm 期内径mm
4
18
12
短縮率
左室後壁拡張
末期厚mm
0.33
2.9
動脈管流速
m/秒
a/b
そ の 他
%
<1
100
1
20
11
0.45
2.7
85
11
25
14
0.44
2.8
90
17
21
13
0.38
3.9
1.6
100
23
21
12
0.43
4.5
1.5*
100
両側円錐,冠状動脈
起始異常(3bor5b)
small VSD有り
率心室中隔欠損口流速
3.心カテ所見
No
名前
1
YS
KS
2
3
*
AO
手術
入院
日齢
日齢
4
2
左室/右室収
縮期圧比
奉左室拡張末期
*右室拡張末期
肺血管
容積(駆出率)
容積(駆出率)
抵抗u
左室収縮期
右室収縮期
圧mmHg
圧㎜Hg
2
52
61
0.85
85(60)
133(72)
58
72
0.81
147(59)
172(59)
日齢
12
2
2
23
17
15
3
BASのみ実施
対正常比%
4.術中・術後経過
No
名前
1
YS
手術
入院
日齢
日齢
4
2
手術日
手術日体重9
87.
12.14
/出生体重
2710
/2760
冠動脈分類
合併心奇形
1.PDA
術 中 経 過
ECC離脱までは順調だっ
術 後 経 過
術後12時間後死亡
たが,左室圧が85に上昇し,
急性左心不全,多量の肺出」血
が出現補助循環を実施した
2
3
KS
12
AO
23
2
87.
4.3
17
89.
3.6
3350
/3320
3345
/3660
1.PDA
ECC離脱後の圧上昇によ
術後7日後感染死
㌔nusual type
ECC離脱後,心拍数130/
分,血圧40∼50台でICUへ
2DEにて左室短縮率
PDA, VSD
両側円錐
り急性左心不全が出現,補
助循環後,開胸のままICUへ
*unusual type冠動脈起始・走行異常
PD
LAD Left anterior descending branch
LCX Left circumflex branch
PD Posterior descending branch
AMB Anterior marginal branch
AMB
しAD
CB Couns branch
∧
CB
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0.22だが,血圧は40台,
薬剤に反応不良で,24時
間後死亡
日本小児循環器学会雑誌 第5巻 第3号
448−(82)
非手術例
1.5
●
当該期間中に入院した新生児期1型TGA症例は合
計22例で,1期的修復術とならなかったのは4例で
● ●
● ●
●
2週以内で左室/右室圧比は80%以上,左室後壁厚も
●
0,5
●
●
■● ●
●
●
2.8mm以上であったが,1例は入院時ショック状態で
●
●
●
左室/右室圧比は57%と低下していた,他の3例は生後
● ●一一一一一一一●●●
.一一●一一一一一一
●●
●
●● ●● ● ●
●●
1.0
一
● ●
あった.1例は来院時,日齢21でPDAは既に閉鎖し,
右室圧
/左室圧
一 ●一一●一●
腹膜透折が必要となり,1例は術前に髄膜炎を発症し
たため,1期的修復術を断念した.残り1例は初期例
で,PDAが閉鎖したため断念した.
5
考 案
10
20
28
日令
TGAに対する手術法としてはJatene型手術に代
図2 新生児期TGA I型の心カテ時の左室/右室圧
表される大血管レベルの解剖学的修復術が心房内血流
上ヒ. 40イタ‖
変換術に比し,長期的予後の面で優位に立つことが
除々に認められている.Jatene型手術も前述したよう
離脱後しぽらくは血圧を50mmHg位で管理しており,
に,新生児期に1期的に行うほうが,2期的手術より,
生後早期なら,左室/右室圧比が0.8以下でも生存の可
はるかに円滑に実施できる様になりつつある1).
能性が高いと思われ,圧比の適応下限を今後下げる方
TGA心で肺循環を維持している左室が修復術後に
向にある.実際に1977年から88年までのTGA I型入院
体循環を維持する機能を有しているかどうかが手術の
例で新生児期に心カテでの左室/右室圧比を図示(図
成否を担っている.胎児期には肺呼吸が行われず,胎
2)すると,生後2週以後でも0.6以上あり,高率に1
盤,動脈管開存,卵円口開存のため出生直後までは両
期的修復術の適応となりうる.
心室は等圧で,この時点では確実に左室は体循環を維
術前管理としては左室機能を低下させず,良好な状
持しうる.生後いつまでこの左室機能が維持されるか
態で手術に持っていかなけれぽならない.生後2週以
が問題となるが,左室心筋厚の生後の増加をTGA心,
内なら出生時の左室機能は維持され,生理的肺高血圧
正常心で比較すると,当然,正常心では着実に増加す
も残存している可能性が大であるが,やはり動脈管の
るが,TGA心では純く,ほぼ横這いである.しかし,
開存は手術上有利であり,PGE1の投与が必要と考え
生後1ヵ月まではその差が少ない4}.VSD+PH,
ている.しかし,今回示した症例2,11,死亡症例3
VSD+PS合併TGAでは生後に左室後壁厚は増加す
の様に動脈管短絡により,過度の容量負荷が左室にか
るが,1型では増加せず,生後1ヵ月で差が明確になっ
かり,心不全が増悪し,呼吸不全や腎機能低下を合併
てくる5).実際には心以外の腎臓等の器官は強く未熟
し,手術の成否を左右することがあったり,動脈管壁
性が残存している為,手術実施時期の選択は難しいが,
組織の脆弱性を増し,分離・結紮を困難にすることが
現在は出生後早期に実施される傾向にある.修復術実
ある.左室圧が右室圧の1/2以上あれぽ左室心筋厚は維
施適応基準としては,左室/右室圧比が用いられてい
持されうる5)ので,患者発見時に動脈管が大きく開存
る.圧比が低いから左室に体循環維持能力が無いとは
している症例では非投与,投与例でも極力早期に手術
断定はできないが,手術実施例の左室/右室圧比は0.6
を実施した方が良いと考えられる.BASは低酸素血
以上,拡張末期左室後壁厚は2.7mm以上6)であった
症,肺匿血の改善の為に必要とする意見が多い.現在,
り,0.8以上,2.8mm以上7)という報告が代表的だが,
我々はまずPGE、を投与し, PO2が20台前半の症例や,
日齢10前後で圧比が0.32で生存の報告8)もあり,最近
卵円口が狭く肺欝血の著明な症例や,手術までに間隔
では生後2週以内は全例,2週以上では左室/右室圧比
の空く症例にBASを実施している. BASの方法で
がO.6以上例が1期的修復術の適応とし9)1°),出生後1
∼
2週以内の実施が最良とされている.今回の報告で
も,4Fカテーテルの1ml位で,卵円口を裂開するので
はなく拡大するように実施している.
は,心エコー図での左室/右室圧比は全例で0.8以上,
ま と め
左室後壁厚も2.8mm以上を示し,生存例,死亡例に有
18例の生後4週以内のTGA I型に対して1期的
意差を認めなかった.現在,当院では人工心肺からの
Jatene型手術を行った.術前の心エコー図検査で左
Presented by Medical*Online
平成2年5月1日
449−(83)
室/右室圧比は0.8以上,左室拡張末期後壁厚は2.8mm
Left ventricular wall stress and thickness in
以上であった.生存15例,死亡3例であった.死亡2
complete transposition of the great arteries. J.
例は初期例で人工心肺離脱時の左室圧を高めに維持し
Thorac. Cardiovasc. Surg.,89:610−615,1985.
6)Sidi, D., Planche, C., Kachaner, J., Bruniaux, J.,
た為の左心不全で失い,1例は術前の動脈管開存によ
Villain, E., Bidois, J., Pichaud, J−F. and Lacour−
る高度の心不全と冠動脈奇形のため失った.生後2週
Gayet, F.:Anatomic correction of simple
以内であれぽ,ほぼ全例が,3∼4週齢では左室/右室
transposition of the great arteries in 50
圧比0.8以上がJatene手術実施の現時点での基準と考
neonates. Circulation,75:429−435,1987.
えられ,生後1∼2週での実施が最良と思われた.
文 献
1)全 勇,安井寛,中沢誠,高尾篤良,今井康
晴:1978年以来の完全型大血管転換症(TGA)入
院症例の治療歴・自然歴の検討.日小循誌,5:61,
1989.
7)Idris, F.S., Ilbawi, M.N., DeLeon, S.Y., Duffy, E,
Muster, AJ., Backer, CL, Berry, T.E. and
Paul, M.H.:Transposition of the great
arteries with intact ventricular septum. J. Thor−
ac. Cardiovasc. Surg.,95:255−262,1988.
8)Quaegebeur, J.A., Rohmer, J., Ottenkamp, J.,
Buis, T., Kirklin, J.W., Blacjstone, E.H. and
2)片山博視,里見元義,青墳裕之,神田 進,高尾篤
良,矢嶋茂裕:完全大血管転換、症に於ける肺動脈
絞拒術後の心ECHO図による左室圧評価の再検
討.J. Cardiography,18:194,1988.
Brom, A.G、:The arterial switch operation.
An eight・year experience. J. Thorac. Car・
diovasc. Surg.,92:361−384,1986.
9)Planche, C., Brinaux, J., Lacour・Gayet, F.,
3)Aubert, J., Pannetier, A., Couvelly, J.P., Unal,
D.,Rouault, F, and Delarue. A.:Transposition
of the great arteries. New technique for ana−
tomical correction. Br. Heart J.,40:204−206,
1978.
4)Smith, A., Wilkiinson, J.L, Arnold, R, Dickson,
D.F. and Anderson, R.H.:Growth and devel・
opment of ventricular walls in complete trans’
position of the great arteries with intact septum
(Simple transposition). Am. J. Cardio1.,49:362
Kachaner, J., Binet, J.−P., Sidi, D. and Villain,
E.:Switch operation for transpostion of the
great arteries in neonates. A study of 120
patients. J. Thorac. Cardiovasc. Surg.,96:354
−363,1988.
10)Castaneda, AR, Mayer, J.E, Jonas, RA,
Wernovsky, G. and Donato, R.:Transpositon
of the Great Arteries:The Arterial Switch
Operation. Cardiology Clinics. Saunders,
Philadelphia,1989, p.369−376.
−368,1982.
5)Danford, D.A., Huhta, J℃. and Gutgesell, H.P.:
Presented by Medical*Online
日本小児循環器学会雑誌 第5巻 第3号
450−(84)
The Arterial Switch Operation for Transposition of the Great Arteries with
Intact Ventricular Septum in Neonates
Yong Chon, Makoto Nakazawa, Atsuyosi Takao and Yasuharu Imai
Department of Pediatric Cardiology and Department of Pediatric Cardiac Surgery*,
Heart Institute of Japan, Tokyo Womens Medical College
Eighteen neonates with simple transposition of the great arteries and intact ventricular septum
have received an arterial switch repair from April 1987 to June 1989. The age at admission ranged from
Oto 19 days(mean 6.75.9 days)and the age at operation rangered from 5 to 27 days(mean 15.56.9
days). Seventeen patients had balloon atrial septostomy. While 17 patients recieved prostaglandin El
infusion, which was stopped because of worsening congestive heart failure in 3 patients. The left
ventricular−right ventricular systolic pressure ratio estimated with two−dimensional echocardio−
graphy was greater than O.8 in all patients and the left ventricular diastolic wall thickness varied
between 2.8 and 4.5 mm(mean 3.30.4 mm). There were three early deaths, but only one of the last 14
patients treated died. There was one late death due to a secondary myocardial infarction caused by
stenosis of bilateral coronary ostium. The 14 late survivors are doing well clinically. We presently
believe that a neonate with a left ventricular−right ventricular ratio of less than O.8 is not a good
candidate for a primary arterial switch operation, particulary beyond the first 2 weeks of age. The
optimal age for anatomic repair seems to be around the age of l week.
Presented by Medical*Online
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