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抗腫瘍剤であるヌクレオシドアナログの消化管吸収に関与する トランス
抗腫瘍剤であるヌクレオシドアナログの消化管吸収に関与する トランスポーターの研究 創生医科学専攻 平成 21 年度入学 主指導教員 岡山 幸誠 太田 茂 [序論] 薬物の体内動態を考える上で,生体膜を介した輸送過程の理解は必須である.近年,p糖タンパク質をはじめ,多くのトランスポーターが薬物動態に深く関わっていることが明 らかとなり,トランスポーター研究は盛んに行われている. TAS-102 は,大鵬薬品工業において開発中の経口抗腫瘍剤であり,現在臨床試験を実施 中である.TAS-102 は,抗腫瘍効果をもつヌクレ オシドアナログである trifluorothymidine (FTD, Fig.1)とその不活性化代謝酵素である thymidine phosphorylase の阻害剤(TPI)との合剤である. FTD はその三リン酸化体が DNA に取り込まれ, DNA break を引き起こすことにより強い抗腫瘍 効果を示す.本研究では現在まで明らかとなっ ていない FTD の消化管吸収機構に関して検討を 行った. Fig. 1 Structure of trifluorothymidine (FTD) [方法,結果及び考察] ① FTD の吸収率と膜透過性の評価 ヒト大腸癌由来細胞である Caco-2 細胞を用いて FTD の膜透過性を評価したところ, FTD は paracellular マーカーである Mannitol と同程度の低膜透過性を示した.一方,ラ ットの吸収率を評価するために,ラットに TAS-102 (14C-FTD 50 mg/kg+ TPI 23.6 mg/kg) を経口投与した後に,ラットを代謝ケージで飼育し,尿,糞及び呼気を採取した.その結 果から FTD の吸収率は 75%以上と吸収が良好であることが明らかとなった. ② FTD の吸収部位の検討 一晩絶食したラットをウレタン麻酔下で開腹を行い,消化管の各部位にループを作 製した.作製したループに 14C-FTD 投与液を投与した後に,経時的に頸静脈から採血 を行い,投与 120 min 後の採血終了時に,ループ内の残存率を評価した.その結果,FTD は,胃からはほとんど吸収されないのに対し,十二指腸,空腸及び回腸からは速やか に吸収され,FTD は小腸全域から吸収されることが明らかとなった. ③ FTD の吸収機構に関する検討 ①の項目の結果より,in vitro の Caco-2 細胞を用いた膜透過性の結果が,in vivo の吸収を反映していないことが明らかとなった.そこで,FTD の吸収に何らかの特殊 なメカニズムがあると考え,ラット小腸を 用いて FTD の吸収メカニズムについて検 討を行った.はじめに,ラット空腸より調 製した反転腸管を用いて,FTD の消化管内 腔から組織への取り込みを評価した.その 結果,FTD の取り込みは濃度依存的に飽和 傾向がみられ,Eadie-Hofstee plot は二相性 を示した(Fig. 2).また,FTD の取り込みは, Na+非存在下で有意に減少し,pyrimidine nucleoside である thymidine 及び uridine, Na+,K+-ATPase inhibitor である NaN3 及び 2, 4-DNP によって有意に抑制された(Fig. 3).これらの結果から,FTD の取り込みは Na+依存的であり,かつ thymidine のような pyrimidine nucleoside によって阻害される ことから,核酸トランスポーターである concentrative nucleoside transporters (CNTs) の関与が示唆された.ラットの小腸には CNT1 及び CNT2 が発現していることが過 去に報告されている 1).そこで,rat CNT1 (rCNT1) cRNA 及び rCNT2 cRNA を injection した Xenopus laevis oocyte を用いて 取り込み試験を行った.その結果,rCNT2 cRNA を injection した場合,FTD の uptake clearance は water を injection した場合と同 程度であった(Fig. 4).一方,rCNT1 cRNA を injection した oocyte では water と比べて 数百倍の FTD の取り込み活性がみられ, rCNT1 に対する Km 値は 27 ± 7 μmol/L であった(Fig. 5). ④ FTD の消化管吸収における CNT1 寄与に 関する検討 FTD の吸収における CNT1 の寄与につい て評価するため,in situ single pass perfusion 法を用いて検討を行った.thymidine を CNT1 の阻害剤として用い,FTD の吸収は, Peff (cm/sec)で評価した.その結果, 14 C-FTD (0.4μM)の Peff は,1.02×10-4 cm/sec であったが,1 mM の thymidine を加 えると,Peff の値は 0.54×10-4 cm/sec とな Fig.2 Eadie–Hofstee plot analysis for FTD uptake in the everted sacs. Fig.3 Effect of Na+ ,pyrimidine nucleosides and Na+-K+-ATPase inhibitors on the uptake of FTD using everted sacs method **p < 0.01, ***p < 0.001 Fig.4 Uptake of FTD by Xenopus laevis oocytes injected with rCNT1, rCNT2 cRNA or waters り(Fig. 6),FTD の取り込みは thymidine 添 加によって半分程度にまで低下した. ⑤ rCNT1 を発現させた Caco-2 細胞を用いた 膜透過性試験 Caco-2 細胞には CNT1 が発現していない. そこで,rat CNT1 を発現させた細胞を用い て FTD の膜透過性を評価した.その結果, Mock 細胞では FTD の膜透過性は Mannitol と同程度であったが,CNT1 を発現させた Caco-2 細胞ではその膜透過性は著しく増 Fig.5 Concentrations-dependent uptake of FTD by Xenopus laevis oocytes injected with rCNT1 cRNA. 加し,Metoprolol と同程度以上の高い膜透 過性を示した. [結論] FTD はラットおいて高い吸収率を示し, 小腸全域において吸収されることを明らか にした.また,in vitro の膜透過性が in vivo を反映していなかったことから,その吸収 メカニズムについて検討を行ったところ, FTD は核酸トランスポーターである CNT1 の良好な基質であり,FTD の吸収に CNT1 Fig.6 Inhibitory effect of thymidine on FTD uptake based on the in situ single-pass perfusion method using rats small intestine *p < 0.05 が寄与していることを明らかとした.また,Caco-2 細胞において FTD が低膜透過性を示し た原因は CNT1 が発現していなかったためであった. 結論として,ラットにおける FTD の消化管吸収は良好で,その吸収に CNT1 が重要な役 割を果たしていた.FTD はヌクレオシドアナログであるため,他のヌクレオシドアナログ の吸収においても CNT1 が関与している可能性が本研究の結果から示唆された. [引用論文] 1) Lu H et al., Drug Metab Dispos.; 32 (12) : 1455-1461 (2004) [学位申請論文の基礎となる原著] Takashige Okayama, Kunihiro Yoshisue, Keizo Kuwata, Masahito Komuro, Shigeru Ohta, and Sekio Nagayama Involvement of concentrative nucleoside transporter 1 in intestinal absorption of trifluorothymidine, a novel antitumor nucleoside, in rats. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics. in press.