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ヘッジファンドの評価基準とリスク

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ヘッジファンドの評価基準とリスク
販売用資料
2015.5
「クアトロ」をより深く理解するためのガイドブック
実践的オルタナティブ投資
誤解の多い「ヘッジファンド」を中心に
0
「ヘッジファンド」と耳にしたとき、何を思い描くでしょうか?
「儲かりそう。こそこそ何かやっていそう。大きな影響がありそう。怖そう。」
ヘッジファンドに対しては根強い誤解が存在しています。しかし、その誤解をそのまま放置してお
くことは、今後も望ましいのでしょうか?
ヘッジファンド投資は、先進国において市⺠権を得ています。正しい情報を持つ洗練された投資家
は、ヘッジファンドを如何に資産運用に活用するべきか、という目線を持っています。誤解するこ
とによって、食わず嫌いになっているのはもったいないことだと考えます。
様々な情報や投資手段にアクセスできる様になったなか、ヘッジファンドを正しく理解し、ご⾃⾝
の投資に取り入れる時が来ているのではないでしょうか。
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Contents 《目次》
1、ヘッジファンドに対する世間の誤解
P3-8
2、ヴェールに包まれたヘッジファンドの実態
P8-12
3、ヘッジファンドの評価基準とリスク
P12-20
4、ヘッジファンドの運用手法
P20-23
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1、ヘッジファンドに対する世間の誤解
(1) 「市場操作」をする者
ヘッジファンドが市場を操作するほどの大きな存在だと思われることもあるようですが、
実際にはそこまでの⼒はありません。複数のヘッジファンドが協同して⼀⻫に同じポジシ
ョンを組むようなことありません。仮にそのようなことをすれば相場操縦という違法⾏為
であり、ビジネスの存続が揺らぐことになります。過去にはインサイダー取引に手を染め
摘発された⼀部のヘッジファンドがありましたが、これはヘッジファンドに限った問題で
はありません。
ヘッジファンド業界全体の運用総資産額は、3兆ドル程度(2015年)であり、米国の大手
資産運用会社1社の運用資産残高とほぼ同じ規模です。ヘッジファンド業界の規模が意外
と小さいことにがっかりされるかもしれません。しかし、リーマン・ショック後、ヘッジ
ファンド業界への資⾦流入は⼀時停滞したものの、⾜元では再び成⻑プロセスに入ってき
ています。
(2) どんなときでも儲けられる
「ヘッジファンドはどんな時でも儲けられる」といったイメージをお持ちかもしれませ
ん。しかし、事実ではありません。かつて、ヘッジファンド戦略が「全天候型運用戦略」
と称されていたことも、ヘッジファンドはいかなる市場環境でも収益獲得が可能だと誤解
される理由のひとつでしょう。しかしヘッジファンドは万能選手ではなく、必ず得意とす
る環境、苦手とする環境が存在しています。また、ヘッジファンドの運用成績は、運用者
のスキルが如実に反映されます。そのため、運用の良し悪しではなく、どんな市場が苦手
かを予め明⽰する姿勢が大切といえそうです。
(3) 強烈なレバレッジ
ヘッジファンドといえば、「てこの原理で⾃⼰資⾦の何⼗倍ものリスクを取っている」と
いうイメージがあるようです。しかし実際には、ヘッジファンドの平均的なレバレッジは
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1.5〜2倍程度といわれています(出所: National Bureau of Economic Research 2011
年2月)。
「レバレッジなんて怖い、⾃分には縁がない」とお感じの方も多いかと思います。しか
し、住宅ローンもレバレッジを利用した取引です。6,000万円の物件に⾃⼰資⾦600万円
で残りはローンで借りたとすると、10倍のレバレッジを取ったことになります。そう考え
てみると、レバレッジも意外と⼀般的な仕組みなのではないでしょうか。ちなみに10倍も
のレバレッジを取るヘッジファンドを⾒つけることは困難だと思います。
(4) 法令違反
過去にはごく⼀部のヘッジファンドで、詐欺やインサイダー・トレーディングなどの法令
違反が発生したこともあります。このような事例はあくまでごく⼀部のことに過ぎませ
ん。ヘッジファンド業界全体の正しい姿を伝えるために、より⼀層の啓発活動が必要なの
は間違いありません。
(5) 過剰なリスクテイク
リスク水準についてはレバレッジのコントロールによって簡単に上下することができます
が、マーケティングの観点から、インデックスの水準を意識しています。特に最近では低
リスク型のヘッジファンド戦略に注目が集まっており、日本の株価指数と比較して1割ま
たは2割程度の価格変動(ボラティリティ)に過ぎないヘッジファンドも多くあり、ヘッ
ジファンドの全てが大きなリスクを取っているという認識は正しくありません。
ヘッジファンドを評価する際には、単に獲得したリターン水準だけでなく、リターンの源
泉としてのリスクをいかに有効活用してリターンを生み出しているのかにも注目しなけれ
ばなりません。仮に、全く同じ水準のリターンを獲得したヘッジファンドであるAとBがあ
ったとします。Aはその収益を獲得するのに10のリスクを、Bはその5倍の50のリスクを取
っていたとすると、より小さなリスクでより大きなリターンを獲得できたAが優れている
といえます。
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さらに、リターンの継続性や市場への低相関性なども重要です。リスク指標のひとつであ
るボラティリティについては、投資家にとってなじみのある⼀般的な株式や債券のインデ
ックスをベンチマークとする場合が多いです。特殊な指標を用いると、投資家にとって未
知のリスク領域となってしまうためです。
(6) リーマン・ショックの原因
リーマン・ショックは、当時存在したベアスターンズ傘下のヘッジファンドの破綻がきっ
かけとみる場合があります。そのため、リーマン・ショックの原因はヘッジファンドとす
る意⾒もあるようです。しかし実際は、ヘッジファンドよりも遥かに高水準のリスクを取
っていた欧米の投資銀⾏が、相場の急落をきっかけに⼀気にレバレッジを解消しようと
し、「売りが売りを呼ぶ展開」となり、損失幅が拡大した結果がリーマン・ショックで
す。
リーマン・ショックによって破綻したヘッジファンドもありましたが、⼀般的なイメージ
ほど多くありませんでした。しかし⼀方で、ゲートやサイドポケットといった解約制限条
項を発動したヘッジファンドも多くありました。これにより、解約したくても解約できな
いという投資家が急増したため、ヘッジファンド不信に繋がることとなりました。
リーマン・ショックをきっかけに、投資家から過剰なリスクテイクの禁止や透明性および
流動性の向上などが求められるようになり、それらに応えるヘッジファンドが増加してい
ます。また、投資家との対話の機会を設けるヘッジファンドも増えてきました。
(7) 空売りによる破壊
ヘッジファンドは空売りで市場を破壊しているといわれることがありますが、これも誤解
です。理解するためにまずは基本からみてみましょう。まず前提として、空売りをするた
めには株を借りてくる必要があり、貸し手という相手方が存在しない限り空売りできませ
ん。また市場で空売りを実⾏するためにも買い手という相手方が必ず必要です。つまり株
を貸す⼈、株を買う⼈がいないと空売りは成⽴しえません。
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また、数年前に空売り規制の導入が話題となりましたが、先進諸国で規制された空売りの
ほとんどは、俗に言うNaked Short(ネイキッド・ショート)といわれるもので、株式を
手当てする前に売り注文を出すというタイプのものです。しかし、実務上Naked Shortを
しているヘッジファンドは少なく、この規制の影響を受けたヘッジファンドは多くありま
せんでした。
(8) ヘッジファンドの決算期
「ヘッジファンドの決算時期に相場は荒れる」という情報があります。これは日本におけ
るヘッジファンドに対する最大の誤解の⼀つです。ヘッジファンドも⼀般的な投資信託と
同様にファンドの決算日が設定されますが、決算日に合わせて大きくポジション解消に動
くということはありません。
もちろん、⼀般的な投資信託と同じように、決算にあわせて法定書面を当局に提出する必
要があります。
「ヘッジファンドは決算期前に損益を確定する」とか「決算期に受ける解約注文に備えて
売り注文が拡大」という誤解があります。
「決算期前に損益うんぬん」という話ですが、これは単純に成功報酬の計算方法が正しく
理解されていないために生じると思われます。通常、成功報酬は基準価額の計算頻度に合
わせて、あくまで<評価益ベース>で計算されます。実現益ベースではありません。例え
ば、毎日買付及び解約ができるヘッジファンドは毎日計算、月次で買付及び解約が出来る
ヘッジファンドは毎月計算しています。実現益ベースではないので、成功報酬を確定する
ためのポジション解消などそもそも必要ないのです。
(9)「45日前ルール」と荒れる相場
「ヘッジファンドには45日前ルールがあるから、相場が荒れやすい」という情報がありま
す。これも完全な誤解です。
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かつては、四半期ごとに投資家からの買付・解約請求に対応するヘッジファンドが⼀般的
だった時代もありました。例えば、1年間のうちで、3月末、6月末、9月末、12月末の4回
の基準点においてのみ基準価額を計算し、それに合わせて投資家の買付と解約の申し込み
を受けるというものです。さらに、解約申込みの場合は各基準点から45日前までの申込み
締め切りタイミングに間に合わせる必要がある、というのが45日前ルールです(ファンド
によって通知期間は異なります)。
例えば、3月末の基準点において解約したい投資家は45日前に遡及し1月中旬までに解約申
込書を送付する必要があります。ヘッジファンドは解約申込に対応するため、ファンドの
⼀部を現⾦化する期間が45日間あり、その間ポジションを調整すればよいのです。しかし
なぜか、「ヘッジファンドが基準点の45日前に売り注文を浴びせるから相場が荒れる」、
という誤解が広がりました。ちなみに現在では、このような条件(四半期の買付/解約、
45日前ルール)は陳腐化しており、多くのヘッジファンドが日次や週次の流動性を投資家
に提供し始めています。
(10) ヘッジファンドの破綻と世界的大混乱
「ヘッジファンドの破綻=世界的な大混乱」ということを連想する⼈がいるようです。原
因としては、かつてドリーム・チームともてはやされたLTCM(ロング・ターム・キャピ
タル・マネジメント)の破綻に起因した⾦融市場の混乱が、強烈な印象を残したためと思
われます。そもそも、ヘッジファンドは事業会社であるため、事業環境が暗転すると⼀般
企業と同様に倒産リスクが高まり、最悪の場合破綻に至ります。ヘッジファンドの破綻と
いうのは特別な現象ではありません。⼀般企業と同様に、良いヘッジファンドは⻑期に亘
って活躍し、成績不振のヘッジファンドは退場させられるという新陳代謝が存在します。
LTCMは、異常な水準のレバレッジが問題だったといわれています。⼀説には、LTCMは当
時最大で⾃⼰資⾦の28倍程度のレバレッジをかけていたといわれています。つまり、⾃⼰
資⾦のわずか4%弱が⾃分たちの思惑と逆の方向に⾏ってしまうと⼀気に⾃⼰資⾦が消滅
してしまう状況でした。天才集団と呼ばれたLTCMは、投資家や⾦融機関のみならずメデ
ィアの注目を集めました。巨額なレバレッジをかけたヘッジファンドの存在をいちばん喜
んだのは、投資銀⾏でした。投資銀⾏はLTCMに対して資⾦の貸付、ブローカー業務など
で多額の収益機会に恵まれたのです。LTCMの破綻の要因は投資銀⾏からの資⾦供給をも
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とに、巨額のレバレッジをかけ、無謀ともいえるリスクを取っていたことにあるといえま
す。
この問題があまりにメディアを賑わせたため、全てのヘッジファンドはLTCMのように巨
大なレバレッジを使用していると思われがちですが、それは正しい認識ではありません。
LTCMの破綻はヘッジファンド戦略の問題ではなく、無謀なレバレッジ、無作為のリスク
管理が問題だったのです。LTCMが破綻することで、LTCMが構築していた膨大なポジショ
ンが解消されました。その解消する動きが巨大でかつ急速であったため、それまでのバラ
ンスを崩す形で⾦融市場が混乱してしまったのです。
2、ヴェールに包まれたヘッジファンドの実態
(1)
富裕層の投資対象
かつては富裕層に限定した投資対象だったヘッジファンドも、今や投資家の裾野が広がっ
ています。資⾦的余裕があり、様々な投資経験を持つ富裕層はヘッジファンドのような先
進的な投資にも取り組みやすかったといえます。また、大きな規模の投資⾦額で⻑期的な
投資を⾏う傾向にある富裕層は、ヘッジファンドにとってもビジネス効率の高い顧客であ
り、お互いに Win-Winの関係を構築しやすい存在です。運用に集中することが可能とな
り、高い投資収益を獲得できれば新規資⾦を呼び込め、その結果としてヘッジファンドの
収益性向上につながります。
⼀方で投資⾦額が小さく、短期的に出たり入ったりを繰り返して取引コストを膨らませる
投資家は、⻑期的視点で運用に集中したいヘッジファンドにとってあまり好ましい存在と
はいえません。
現在でも相当程度に高い最低投資⾦額を設定するヘッジファンドが多く存在します。ま
た、⾦額の大きな投資家向けに有利な手数料体系を提供しているヘッジファンドもありま
す。
日本国内においても、かねてより富裕層がヘッジファンド投資を積極的に⾏ってきまし
た。また、銀⾏や保険会社、年⾦基⾦や大学基⾦などの機関投資家もヘッジファンドを投
資対象として積極的に活用しています。
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(2) マドフ事件
英語ではメイドフと発音することが多いですが、日本ではマドフ事件として知られていま
す。アメリカを舞台にした数兆円に上る巨額詐欺事件で、被害⾦額のみならず、騙した本
⼈が業界の有名⼈であったこと、騙されたのが個⼈投資家だけではなく、⾦融業界を代表
する企業が多数含まれていたことが衝撃的でした。
これだけの巨額詐欺事件が⻑期に亘り可能であった最大の理由は、情報のコントロールを
徹底していたことに尽きます。また、被害を受けた⾦融機関のほとんどが欧州やアジアに
拠点を置く企業だったのも要因といえます。真偽はともかく、アメリカでは従前から怪し
い企業としての噂があったようで、マドフとしては物理的に⾃分たちに近いプロの投資家
は避けたかったのかもしれません。
マドフが詐欺を働いているであろうことを事件発覚前からはっきりと指摘していた専門企
業が複数存在していました。プロ投資家向けのヘッジファンド投資コンサルティング企業
がありますが、従前よりオペレーション機能の不透明性や運用成績の妥当性を問題視し、
当時は⼈気ファンドであったマドフへの投資を控えるように警告を出していました。ま
た、データ解析のアプリケーションを提供している企業は、高度な回帰分析ノウハウで高
い評価を受けていますが、彼らがマドフの運用成績を統計学的なアプローチで再現しよう
と試みたものの、どうしてもそれが可能ではないとの分析結果から、運用成績は⼈為的に
操作された数字であるとの⾒方を⽰していました。これらの企業は事件発覚後に賞賛を受
けたわけですが、発覚前はかなりの少数派意⾒に過ぎない扱いでした。
(3) 日本人ヘッジファンド運用者
欧米の運用者の数と比較すると決して多くはありませんが、日本⼈の著名な運用者もいま
す。ただ、活動の拠点がほとんど海外(シンガポールや香港が多い)であるため、日本国
内での認知は高くありません。日本ではヘッジファンド向けサービスといわれるプライム
ブローカー業を営む証券会社が海外市場と比較して、かなり少ないということが背景とい
われています。また、ヘッジファンドに対する世間の理解や不利な税制なども理由として
挙げる⼈もいます。
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日本⼈運用者の多くは日本株を対象にヘッジファンド戦略を展開していますが、日本を離
れて活動しています。シンガポールに拠点を置く、ある著名日本⼈運用者も「日本を離れ
ていると雑音をシャットアウトでき、中⽴的な側面から日本株を吟味しやすくなる」とい
っています。
(4) ヘッジファンドを始める
ベンチャー企業のように、業務経験の浅い若者が突然ヘッジファンドのビジネスを開始す
るというケースはまれです(中には大学生時代から運用を開始し伝説的なヘッジファンド
を築き上げた⼈もいます)。よくあるケースは、⼀流の投資銀⾏の⾃⼰売買部門において
顕著な実績を挙げた⼈がヘッジファンドを始めるという流れ。そのような⼈は、少なくと
も数億円単位の⾃⼰資⾦と、プライムブローカーなどのサポートを通じて集められた投資
家の資⾦を元手にヘッジファンドを開始します。また大手ヘッジファンドの中には、優秀
な運用者を引き抜き、運用資⾦を提供しながら育てるというアプローチを採用していると
ころもあります。
(5) ヘッジファンドに就職
大手ヘッジファンドを中心に東京に拠点を置いている場合があります。ほとんどが営業拠
点という位置付けであり、営業関連業務の⼈材を募集するのが⼀般的です。また、優良な
ヘッジファンドを選別するヘッジファンド・アナリストを募集する場合も⼀部あります。
概して東京拠点は規模が小さいので、英語⼒を駆使しながら海外の本部機能と協同しなが
ら業務を遂⾏していくことが求められます。ヘッジファンドに関する知識はもちろん、海
外のスタッフと⼀緒にビジネスを作り上げていく能⼒がより重要のようです。また、⼀⼈
で何役もこなせるタイプの⼈材が必要とされています。
(6) 若手とベテラン
若手のヘッジファンド運用者、ベテラン運用者にはそれぞれの強みがあります。若手運用
者の特徴は、これまでにない斬新な投資アイディアを持っている可能性があることや好成
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績を貪欲に追求する姿勢にあることなどが挙げられます。⼀方ベテラン運用者は、⻑年に
亘る豊富な経験に基づき冷静な判断を下せる傾向があることなどが挙げられます。
大手ヘッジファンドの中には、インキュベーション機能を持たせて若手のヘッジファンド
運用者を社内で育成するビジネスモデルを有しているところがあります。また、若手だけ
を集めたファンド・オブ・ヘッジファンズを商品化しているところもあります。
(7) メディアの注目
独⾃の投資哲学や相場観に基づいて多額の資⾦を運用するヘッジファンド運用者は、プロ
中のプロと称され、メディアからも注目を集める存在です。ただ、なかには⾃分にとって
都合のいい話、いわゆるポジショントークをする運用者もおり、参考程度にとどめておく
べきかもしれません。
(8) きらびやかな生活
⼗分な資産規模と好調なパフォーマンスさえあれば、成功報酬を軸に高額の収入を獲得で
きるのは事実です。数億円から数⼗億円規模の年収を得ているヘッジファンド運用者もい
ます。極めて少数ではあるものの数百億円以上の収入を獲得するケースもあります。
そのような収入があれば、超高級なヨットやスーパーカー、豪邸、さらには⾃家用ジェッ
ト、高額な現代アートなどを手にする運用者も沢⼭います。しかし、お⾦の亡者であるか
というとそれは正しい表現ではないかもしれません。
物腰の柔らかい学者肌の運用者がいたり、ITベンチャー企業に勤めるかのように毎日同じ
ジーンズを履いているような無類の運用好きという運用者もいます。いずれも市場に寄り
添いながら、世界最高峰の知的ゲームに集中する姿が共通しています。
また、運用者が運用とは関係のない別のことに興味を持つようになった場合には、大概そ
こでピークアウトします。非常に単純ですが、根っからの運用者であることが、⻑期にわ
たって成功する秘訣のようです。
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(9) ジョージ・ソロス
1990年代のヘッジファンド業界を牽引し、ヘッジファンド業界に大きな注目を集めさせる
きっかけを作った張本⼈であるのがジョージ・ソロス⽒で、彼が率いたクオンタム・ファ
ンドの輝かしい実績とともに大変有名な⼈です。彼の運用手法は、グローバル・マクロ戦
略というもので、名前の通り各国のマクロ経済の動向を分析することで、今後のマクロ経
済のあり方を予測し、それをベースにする⾦融市場に存在する不均衡に着目し、その不均
衡が遅かれ早かれ解消されるとの⾒込みでポジションを構築していくという手法です。
ソロス⽒の活動があまりに有名であったため、ヘッジファンドといえばグローバル・マク
ロ戦略と考える⼈たちが多いのも事実です。
ソロス⽒は現在、顧客資産の運用からは引退しており、⾃⼰資⾦の運用だけに専念してい
るようです(⾃⼰資⾦だけでも数兆円規模ではありますが!)。しかしながら、同⽒は積
極的にメディアインタビューを受けたり、国際会議に出席したりと、現在でも多くの注目
を集める存在です。
3、ヘッジファンドの評価基準とリスク
(1) 優れたヘッジファンド
・厳しい⼀流の戦い:ヘッジファンドの収益源は、運用者のスキル(腕)です。腕に覚え
のある運用プロフェッショナルが目指す最高峰のフィールドがヘッジファンド業界と言わ
れています。彼らはいかなる市場環境でも、運用成績の向上を狙い続けています。運用成
績が伴わなければビジネスとして成⽴せず、ヘッジファンド業界から撤退することにつな
がります。つまり運用資産規模が多いヘッジファンドほど、運用実績と投資家からの支持
が高い傾向があるということです。超⼀流の投資銀⾏等で優れた実績を残し、限られたチ
ケットを手に入れた運用者が、ヘッジファンド業界で生き残りをかけて全⼒で戦うという
のが基本的なあり方です。新しいコンセプトや投資手法の導入も含め、熾烈な知的競争が
繰り広げられています。
・⼀般的な資産に対する低相関性:ヘッジファンドの運用は、株式や債券などの⼀般的な
投資対象との相関が低い特性を持つ傾向があります。機関投資家はこの効用を高く評価
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し、⻑年に亘りヘッジファンド投資を⾏ってきました。ヘッジファンドを既存のポートフ
ォリオに組み込むことで、ポートフォリオ全体のリスクを低減させると同時にパフォーマ
ンスの改善が⾒込めるからです。ヘッジファンドは株式や債券などとは異なる収益特性を
構成しながらプラスのパフォーマンスを追及していますが、簡単なようでいて実は大変な
ことです。
(2) 成功報酬
ヘッジファンドの特徴のひとつは、成功報酬の存在です。 名前のとおり、運用がうまくい
ったときにだけ運用者側であるヘッジファンドが投資家から受け取ること出来るもので
す。ヘッジファンドの大きな収益源である成功報酬を稼ぐことは、最重要課題です。成功
報酬を獲得するには、良好な運用成績を上げ続けなければなりません。また、ヘッジファ
ンド運用者は、⼀般的に相当程度の⾃⼰資⾦を⾃分のファンドに投資しています。つま
り、投資家と運用者が同じ船に乗っているのです。運成功報酬はヘッジファンド運用者が
投資家と同じ方向の利益を追求するために必要との考えに基づきます。
専門的なことに踏み込むと、成功報酬には「ハイウォーター・マーク」、「ハードル・レ
ート」といった仕組みが導入されています。「ハイウォーター・マーク」については、ダ
ムの最高水位を、「ハードル・レート」は陸上競技のハードル種目をイメージしてみると
分かりやすいと思います。ヘッジファンドが成功報酬を獲得し続けるには、ダムの最高水
位を常に更新し続けていく必要があるのです。
例えば、梅⾬の終わりから夏場にかけてダムの水位が減ったとします(ヘッジファンドで
いうと損をしたとイメージしてください)。梅⾬の終わりの時期に1億円の運用額があっ
たのを、夏場にかけて7000万円に減らし、その後は持ち直して秋に1億円に戻したという
ようなイメージです。7000万円→1億円という時期、確かに運用成績により資⾦を増やし
てはいますが、元を辿ると1億円(梅⾬の終わり)→7000万円(夏場)→1億円(秋)と
なり、最初の状態から資⾦は増えていません。この際、7000万円→1億円の実績を使って
成功報酬を徴収されたらフェアだと思いますか?
フェアではないですよね。成功報酬の計算に関しアンフェアな状態を防ぐため、ヘッジフ
ァンド業界における成功報酬には「ハイウォーター・マーク(最高水位)」という仕組み
が導入されているのです。また、陸上競技のハードル種目のように、「この高さのハード
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ルをうまく越えられたときにだけ成功報酬をください」という最低条件を設定していると
ころがあります。確かに素晴らしい仕組みではありますが、⼀般的には短期⾦利が多いの
で、今の⾦利水準では有名無実化しています。しかしながら、運用能⼒に⾃信のあるヘッ
ジファンドの中には、数パーセントの「ハードル・レート」を設定していることもありま
す。
(3) 注意すべきこと
ヘッジファンド投資の際に注意すべき項目は以下の通りです。
・流動性:高いリターンを追求するために、未公開株など流動性の低いものに投資をして
いるヘッジファンドもあります。また、ヘッジファンドによっては解約制限条項が付与さ
れている場合があり、その内容の⾒極めも大切です。
・透明性:どのような投資対象からどのような収益状況となったのかをきちんと説明する
資料の有無が重要です。リーマン・ショック以降、情報の透明性が不⼗分なヘッジファン
ドに対して投資家は厳しい目を向けるようになりましたので、状況は大きく変わっていま
す。
・運用成績の⼀貫性:スポーツ選手のように、ヘッジファンド運用者もスランプに陥るケ
ースもあります。そのスランプが⼀時的なものなのか、決定的なものなのか⾒極めること
が重要です。パフォーマンスが劣化した運用者の中には、「スタイル・ドリフト」という
⾏動に移る場合があります。ヘッジファンド運用者は、⾃分の得意な運用手法に集中すべ
きですが、それがうまくいかないと経験値の低い(あるいは全くない)戦略を突然始めた
りすることがあります。例えば、株式運用を専門としていたのに突然債券も投資対象に組
み入れはじめるようなことがあったとすると、これは全く好ましい傾向ではなく、投資家
としてはすぐに解約を検討するべきかもしれません。
・苦手とする市場環境が分かる:ヘッジファンドは万能選手ではありません。苦手とする
市場環境が必ずあります。それをきちんと説明されているかが重要です。「頭と尻尾はく
れてやる」を実践しているヘッジファンドこそが中⻑期的に期待できるヘッジファンドと
言えます。
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・コミットメント:ヘッジファンドの運用成績はそれを運用する⼈次第です。運用者が、
⾃⾝の運用に⻑期的なコミットができるのか、過去もそのような傾向があったのかを⾒極
めることが重要です。ファンドを短期間でオープンしたり閉鎖したり、また次々と新しい
ファンドを⽴ち上げる運用者には注意が必要です。
・組織的な安定性:どのようなヘッジファンド戦略を展開するにしても、その戦略の⺟体
となる安定的な組織がなければ、運用に集中することは不可能です。ヘッジファンド戦略
のみならず、その戦略を運営する企業が信頼できる組織なのかを⾒る必要があります。運
用者が運用に集中できる安定した事業環境が存在していることが重要です。
(4) キーマンリスク
ヘッジファンドにおける運用成績の優劣は、運用者本⼈次第で決まります。つまり、その
運用者⾃⾝の調子が崩れたり、運用者が他の会社に移ってしまうなどした場合は、そのヘ
ッジファンドが多大な影響を受けてしまいます。このようなリスクを「キーマンリスク」
と呼んでいます。よって、ヘッジファンドに投資をする際は、ヘッジファンドを運営する
会社だけではなく、運用者個⼈の現状がどうなっているのかをきちんと知ることが重要で
す。運用者の退社が明らかになった場合には、運用の継続性が維持されているのかを⾒極
めて、場合によっては投資を引き上げるなどの判断が重要です。
(5) 海外にばかり
有名なヘッジファンドはどうして海外ばかりにいるのか?日本において投資活動はギャン
ブルの⼀種で「楽なお⾦儲け」とみなす風潮が依然として根強いようです。欧米では、資
産運用ビジネスは究極の知的産業のひとつであるとの認識が形成されています。欧米にお
いてヘッジファンド運用者として成功すれば、世間の賞賛や投資家の評価が待っていま
す。日本ではそれが難しい状況です。また、ヘッジファンド・ビジネスはファンド単体で
成り⽴つものではなく、ヘッジファンド向けサービスを提供する外部業者や、同僚になり
得る優秀な⼈材が必要ですが、残念ながら日本には少ないのです。そのため、ヘッジファ
ンド関連ビジネスを香港やシンガポールに開設する流れが過去に拡大したため、日本でヘ
ッジファンド・ビジネスを展開することが大変難しくなっています。
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(6) キャパシティ
英語のCapacityには「収容能⼒」や「容量」という意味があります。ヘッジファンド運用
者は、無制限に巨額な資⾦を運用することはありません。⾃分の目の届く範囲でかつ流動
性の面でも問題のない水準の運用規模というものが存在します。その許容量を超えた資⾦
量は⾃らの運用の⾜かせとなり運用成績に悪影響を及ぼしますので、ヘッジファンドでは
キャパシティを設定するのが⼀般的です。運用規模がキャパシティ水準に近付くと、ヘッ
ジファンドでは「ソフトクローズ」を発動し、既存投資家以外の新規の投資申し込みを⼀
時停止します。さらに「ハードクローズ」では⼀切の投資申し込みを⼀時停止する措置で
す。
パフォーマンスが好調であることや、⼈気があるファンドはこのキャパシティ問題に直面
します。また、クローズが間近であるという理由でさらにそのファンドの⼈気が加速する
場合もあるようです。ハードクローズした後に、運用規模と現状の市場流動性を検証し、
投資対象を拡大するなどすることで、ハードクローズの水準を引き上げる場合もありま
す。
(7) ファンドの流動性
投資家が買付または解約できる頻度をいいます。ヘッジファンド投資では四半期ごとに買
付・解約ができるのが⼀般的とされていましたが、現在は普通の投資信託のように毎日買
付・解約が可能であるものや、週ごとまたは月ごとの流動性が⼀般的となっています。ヘ
ッジファンドの流動性というのは極端に低い、というのは昔話です。
⼀方、流動性の低い投資対象の運用を得意とするヘッジファンドもあり、そのようなヘッ
ジファンドの解約流動性は⼀般的に低いものとなります。解約流動性が低いヘッジファン
ドが全て問題であるということではなく、運用戦略とマッチしない流動性を無理に提供し
ているヘッジファンドこそパフォーマンスを犠牲にしている可能性があり注意が必要で
す。つまり、流動性が高ければ全て良しとするのは賢明な判断ではなく、運用戦略に適し
た流動性を提供しているヘッジファンドが理想的な姿です。
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(8) 流動性の制限条件
流動性の制限条件は、ヘッジファンドの⼀般的な条件です。例えばファンド全体の20%を
超えるような解約請求が同じ取引日に集中した場合、その解約⾦額を手当てするためにフ
ァンドのポジションを⼀部処分します。しかしながら、⼀気に処分すると⾃分たちが理想
とする価格から乖離した水準での約定となる場合があり、注意が必要です(安い値段で処
分することになれば顧客資産はその分毀損します)。そのような大規模な解約請求が来た
場合、投資家の経済合理性を守るために、「ゲート(Gate)」という解約申し込み制限をす
るファンドもあります。
通常の市場環境においてこの条件が使用されることはほとんどありませんが、リーマンシ
ョックのような極度の市場ストレスが発生したケースでは、多くのヘッジファンドが実際
にこの条件を発動しました。
(9) 透明性
ヘッジファンドに対する⼀般的なイメージの中に、「どのような投資をいつどこで⾏って
いるのかわからない」というものがあるようです。つまり、ヘッジファンドが⾃分たちの
手の内を明かしたくないという傾向が強いことに関するイメージです。それはある意味で
正しい認識ですが、ここ数年において投資家層の拡大を意図するヘッジファンド業界は業
界全体の透明性向上に寄与してきましたので、現状は変わりつつあります。
ヘッジファンドの収益源は、運用者の腕(スキル)のみです。運用者が頭を痛めて捻り出
した投資アイディアや投資対象の選定について、外部に積極的に伝えたくないというのは
理解できます。真似されてしまう可能性が高いからです。しかし、さらに高いレベルの情
報提供を求める投資家の声が強くなりました。そうした声に応えるために、積極的な情報
提供を⾏うヘッジファンドが増えています。ただショート・ポジションの対象となる株式
銘柄について広く明⽰するヘッジファンドはほとんどありません。⼀方で、通貨や債券ま
たは指数などについてはショート・ポジションの開⽰はされます。情報開⽰については、
ヘッジファンドと投資家の双方が心地良いというバランスが重要のようです。
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(10)プロの評価ポイント
プロである機関投資家はヘッジファンドの何を評価しているのか。市場環境に頼らず、運
用者のスキル(腕)次第で収益の獲得を目指すヘッジファンドに対して、機関投資家はそ
の腕の善し悪しを判断します。腕のいいヘッジファンドは、市場環境とは異なるパターン
の収益⼒を持っています。実はこの異なるパターンというのは非常に重要です。機関投資
家は優れた分散型ポートフォリオを構築することで安定的に収益獲得を目指しています。
これまでの投資対象と同じような動きを持つものを増やしても分散効果は得られません。
株式投資だけではなく、債券投資や不動産投資、または全体の資産に投資をするバランス
型投資というように、分散投資という考え方はすでに⼀般的になっています。
さらに踏み込むと、株式や債券などに対して相関関係が低いのがヘッジファンド投資の特
徴です。運用能⼒に優れ、相関関係が低いヘッジファンドを組み込むことで、ポートフォ
リオ全体の性能が向上するのです。たとえば、リスクが下がると同時にリターンも向上す
るような効用が期待できるのです。ヘッジファンドは、プロの投資家にとって必要不可⽋
な投資対象といっても過言ではありません。
(11) プロによる投資
銀⾏や保険会社は、古くから⾃⼰資⾦の運用としてヘッジファンド投資を⾏ってきまし
た。リサーチの手間や分散投資の観点から、ファンド・オブ・ヘッジファンズが⼀般的な
時代がありましたが、ヘッジファンド投資への⾒識が高まったことや海外にアクセスでき
る⼈材が増えてきたこと、ヘッジファンドからの情報提供がより拡大したことなどを背景
に、⾃らヘッジファンドをひとつずつ吟味し投資を決定する日本の機関投資家が増えてい
ます。
通常は、世界全体を網羅するヘッジファンド・データベースから、⾃らの望むリスク・リ
ターン特性や運用戦略に合致するヘッジファンドを定量的にスクリーニングします。その
中から定性的スクリーニングの対象となるヘッジファンドを選定し、資料の請求、
RFP(Request For Proposal) の提出、電話/ビデオ会議を実施し、オンサイト・デューデ
ィリジェンス(実地訪問による調査)候補を絞り込みます。このプロセスを経て満⾜の⾏
く調査内容となった判断した場合は、投資を実⾏します。投資開始後のモニタリングも非
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常に重要で、パフォーマンス特性やリスク水準、組織変更の有無、スタイル・ドリフトの
有無などを入念に調査し、納得が⾏かない場合は途中解約も躊躇しません。
(12) 元本確保
日本国内では、ヘッジファンド戦略に元本確保機能をつけた投資信託が非常に⼈気を集め
た時期がありました。このため、ヘッジファンドというと元本確保型ファンドを連想する
⼈が多いようです。なぜヘッジファンドに元本確保機能をつけたのかというと、ヘッジフ
ァンドに投資をして高い利益を追求したい⼀方で、⾃分の元本を出来るだけ守りたい、と
いう投資家ニーズが強かったからだと考えられます。仕組みは単純で、ファンドに10年か
ら12年程度の満期を設定し、当初投資資⾦を60:40程度に振り分け、60を元本確保用の
ゼロクーポン債の購入、40をヘッジファンド戦略に投資します。ゼロクーポン債部分の60
の部分は満期時(⾦利水準によりますが、10年から12年という満期を設定する元本確保型
ヘッジファンド商品が多かったようです。⾦利水準が高ければ満期を短く設定できま
す。)に、ヘッジファンド戦略部分の運用成績に関わらず100で戻ってくる仕組みです。
ヘッジファンド戦略部分の40については、運用がうまくいけば増えていきますが、最悪ゼ
ロになるケースがあります。この部分がゼロになってしまうと、ヘッジファンド戦略で運
用する部分がなくなることで、通常はここでファンドは元本確保モードに入ります。投資
家は、満期まで待てば当初投資した分の元本が戻ってくるという仕組みです。
元本確保型ファンドの多くは⾦利が高めの外貨で設定されていることや債券のエクスポー
ジャーを持つことから、ヘッジファンド戦略以外の投資リスクとして、通貨リスク、⾦利
リスク、信用リスク等も付随しています。
(13) 元本確保型のデメリット
元本確保は仕組みであり、仕組みをしっかり理解すれば投資家によっては有用な選択肢と
なりますが、内包されるリスクをきちんと理解しておく必要があります。主な投資リスク
としては、ヘッジファンド戦略へ投資するリスク、通貨リスク(元本確保型ファンドの多
くが外貨建てのため)、⾦利リスク(元本確保用の債券投資部分)、さらに信用リスク
(債券の発⾏体のリスク)などが挙げられます。
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また、円⾦利は恒常的に低水準であったことから、ヘッジファンド戦略を内包するファン
ドでは、円での元本確保機能の付与は困難であるため、外貨建てとなること。さらに、⼀
定以上の⾦利水準がないと元本確保型ファンドが成⽴しにくくなります。元本確保部分に
ついて、⼀番単純な仕組みは満期時に当初元本額と同じ⾦額が戻ってくるゼロクーポン債
への投資であることから⾦利リスクにさらされることなどを理解した上で投資決定するべ
きです。
さらに、ヘッジファンド戦略部分への投入割合は、損失に対する許容度が限定的であるこ
とも多く、市場環境の急変時等で損失を膨らませた場合は、ヘッジファンド戦略部分を全
て失ってしまう可能性があります。市場環境の急変時に⼀時的に損失幅を拡大させるヘッ
ジファンドはよくありますが、その後に市場が落ち着きを取り戻すタイミングで、その損
失を取り戻す可能性が⼗分考えられます。しかしながら、当初投資⾦額の4割程度の資⾦
投入では、急変時に⼀気に元本確保モード入りとなりヘッジファンド運用部分が停止して
しまうと、その後の回復局面を享受することが出来なくなります。損失幅を限定させると
いう元本確保機能にはこのようなデメリットも存在しています。
4、ヘッジファンドの運用手法
(1) 最先端のヘッジファンド
コンピュータシステムにより投資判断を下すヘッジファンドを中心に、市場における大規
模データの解析や取引執⾏システムの超高速化など、ITシステムを中心とした開発競争が
激しくなっています。最先端の技術を駆使したからといって収益⼒が必ず強化されるとい
うことではありませんが、ヘッジファンド業界は様々な投資アプローチで運用能⼒を競っ
ています。
また、膨大な市場データのみならずインターネット上に存在する大規模データを集積し高
度に高速処理することで、投資家の興味の変遷などを捉え、投資判断に利用するヘッジフ
ァンドも存在します。⼈⼯知能を活用するヘッジファンドは昔からありました。更に、ハ
ードウェアのコストやネットワーク環境の充実、効率的なデータベース構築手法の導入な
ど、IT分野の進展がヘッジファンド戦略のあり方にも影響を与えていることが⾒て取れま
す。
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ただ、運用者⾃⾝のスキルの善し悪しが運用成績の最も重要な要素であることは今も昔も
変わりません。
(2) ファンド・オブ・ヘッジファンズ
打ち上げ花火の中⾝をイメージしてください。ひとつの丸い紙包みの中に小さな丸い火薬
玉が多く入っています。ファンド・オブ・ヘッジファンズを打ち上げ花火の構造にたとえ
ると、ファンドが⼀番外側の紙包みでヘッジファンズが中⾝の小さな火薬玉です。つま
り、多くのヘッジファンド(火薬玉)をひとつのファンド(紙包み)に仕⽴てた商品が、
ファンド・オブ・ヘッジファンズということです。世界に数多く存在するヘッジファンド
から、厳選してベストミックスの打ち上げ花火を作るというのがファンド・オブ・ヘッジ
ファンズの狙いです。ヘッジファンド投資における「ゲート・キーパー(門番)」と呼ば
れることがあります。文字通り、投資家に代わる門番として、厳選したヘッジファンドだ
けを招き入れる、という機能が求められています。
(3) ファンド・オブ・ヘッジファンズの⻑所短所
⻑所として挙げられるのは、プロが厳選したヘッジファンドに分散投資できるということ
です。個⼈⼀⼈で同じポートフォリオを作ることはほぼ不可能です。ファンド・オブ・ヘ
ッジファンズには、ヘッジファンドを厳選し、投資後のモニタリングを担当するアナリス
トがいます。さらにはリスクマネジメント機能などもあり、プロ集団がヘッジファンドの
分散投資を⾏っている点は魅⼒的です。
短所として挙げられるのは、手数料が⼆重で発生することです。中⾝の個別ヘッジファン
ドと、それを包み込むファンドの⼆段階で手数料が発生します。また、中⾝のヘッジファ
ンドが多数に及ぶため、全体の透明性や流動性を管理することが難しい点が挙げられま
す。良いパフォーマンスを提供できれば問題視されませんが、それが出来ないと短所部分
がより⼀層注目されてしまう傾向があります。
(4)大局的な戦略分類
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ヘッジファンド戦略を大局的に説明すると、銘柄間の相対価値に着目するアービトラージ
系、市場の方向性に着目するディレクショナル系の2つに大別されます。
・アービトラージ系:例えば最も⼀般的なヘッジファンド戦略である株式ロングショート
戦略では、良い銘柄をロング(買い持ち)し、悪い銘柄をショート(売り持ち)すること
を基本としています。ロングかショートの判断方法は様々です。個別銘柄を徹底的に分析
し、相対的に値上がりが予想される割安銘柄をロングし、相対的に値下がりが予想される
割高銘柄をショートします。予想通り割安銘柄が相対的に上昇し、割高銘柄が相対的に下
落した場合、この2銘柄間の相対的な格差が収斂します。この格差が狙い通りに収斂した
とき収益を獲得します。
・ディレクショナル系:日本でも⼈気のトレンドフォロー戦略やソロス⽒のグローバル・
マクロ戦略もディレクショナル系です。例えば株式市場が上がり続けるのか、下がり続け
るのか、どちらの方向を形成するのか⾒極めることが重要です。トレンドフォロー戦略の
場合は、過去の膨大なデータに基づき、コンピュータシステムが投資の意思決定をしま
す。グローバル・マクロ戦略の中にもコンピュータシステムを利用する場合があります
が、ソロス⽒のようにDiscretion(⾃⼰裁量)に基づき、運用者⾃⾝の判断でマクロ経済
動向を予測し、市場に現存する不均衡がその予測結果を目指して収斂していく過程を投資
機会とするものが⼀般的です。
(5)マルチストラテジー型戦略
「マルチ=様々な」、「ストラテジー=運用戦略」という意味があります。つまり、複数
の戦略を束ねてひとつにするという意味で、団体競技のイメージです。ファンド・オブ・
ヘッジファンズが外部の運用者を束ねる戦略である⼀方、マルチストラテジー戦略は同⼀
社内の運用者で⼀つのチームを作る戦略です。
ひとつのヘッジファンド戦略に投資をする際、もしその戦略がうまくいかないと投資資⾦
が大きくダメージを受けます。分散投資が重要と巷ではよく言われますが、それをヘッジ
ファンド戦略にも応用し、ファンド・オブ・ヘッジファンズの短所を克服しようとしたの
がマルチストラテジー型戦略です。異なる特性を有する戦略を束ねて、多様性を持たせる
ことで、どのような市場環境でも収益機会を捉えるという目標が設定されます。デメリッ
トとしては、単体の戦略で大きく収益を獲得できる環境下でも、他の戦略が⾜を引っ張
り、全体として低水準の成績となるケースがありうることです。
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(6)トレンドフォロー戦略
日本ではかつて、ヘッジファンド投資といえばトレンドフォロー戦略と認識する投資家が
多くおり、この戦略が大変な⼈気を誇った時代がありました。高水準な運用実績を⻑年に
亘り達成してきたトレンドフォロー戦略は、⾦融危機に強いといわれていましたが、実際
にリーマンショック発生時に好調な結果を残し、更に評価を高めました。しかし、その後
の市場環境においては、これまでにない大規模な政府・中央銀⾏による市場介入が発生し
たことなどから、過去のパターンとは異なる市場環境が形成されたことで、数年間に亘り
苦戦を強いられるトレンドフォロー戦略が目⽴ちました。
トレンドフォロー戦略とは、名前の通り、市場トレンドに追随(フォロー)する戦略で
す。過去における膨大な市場データを大規模なコンピュータシステムにより分析し、将来
発生する市場トレンドを予測します。上昇トレンドがくると予想すれば買い持ち(ロン
グ)ポジションを、下落トレンドがくると予想すれば売り持ち(ショート)ポジションを
構築します。単純ですが、トレンドをいかに早く⾒つけ、トレンドが終わるぎりぎりまで
ポジションを保持できるかが収益幅を決定します。また、トレンドを追いかけることで収
益機会を捉えますので、市場に方向性が⾒出せない状態、いわゆる凪(なぎ)の状態は苦
手としています。
トレンドフォロー戦略が⾦融危機時に強い背景には、⼈間心理があります。⾦融危機時に
は投資家の不安心理が強まり、売りが売りを呼ぶ展開となり、⼀方通⾏の相場が形成され
る傾向がありますが、⼀方でコンピュータシステムは冷静に市場を分析できます。
年⾦基⾦などの機関投資家もトレンドフォロー戦略に⻑く親しんできました。トレンドフ
ォロー戦略が持つ、高水準の収益⼒、⾦融危機時の堅牢性、株式や債券に対する低相関性
が、機関投資家の評価ポイントとして挙げられます。
現在となってはなじみのある存在となったトレンドフォロー戦略ですが、本格的な運用が
開始された30年近く前の当時を知る運用責任者が、「当時は怪しげな呪術のように扱われ
たこともあった」と言っていました。コンピュータを駆使して市場情報を分析し、将来を
予測するという⾏為が怪しげな印象を与えてしまったのでしょう。
トレンドフォロー戦略はイギリスで活発なヘッジファンド戦略ですが、オクスフォード大
学やケンブリッジ大学など、高度な経済・⾦融分野の解析技術を研究開発し続ける優秀な
教育・研究機関があることは多大なサポート材料となっています。
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手続・手数料等
[お申込みメモ]
購入単位
販売会社が定める 1 円または 1 口(当初元本 1 口=1 円)の整数倍の単位とします。
購入価額
購入申込受付日の翌営業日の基準価額とします。(ファンドの基準価額は 1 万口当たりで表示しています。)
換金価額
換金申込受付日の翌営業日の基準価額とします。
換金代金
購入・換金の
申込不可日
原則として換金申込受付日から起算して 7 営業日目からお支払いします。
以下のいずれかに該当する日においては、購入・換金のお申込みはできません。
①次に掲げる日の前営業日または当日:ルクセンブルグの銀行の休業日、ロンドンの銀行の休業日
②一部解約金の支払い等に支障を来すおそれがあるとして委託会社が定める日
換金制限
信託財産の資金管理を円滑に行うため、大口換金には制限を設ける場合があります。
信託期間
平成 25 年 12 月 12 日(当初設定日)から無期限とします。
繰上償還
決算日
受益権の口数が 10 億口を下回ることとなった場合等には信託が終了(繰上償還)となる場合があります。
毎年 2 月、8 月の各 15 日(休業日の場合は翌営業日)とします。
年2回の決算時に、収益分配方針に基づき分配を行います。
収益分配
※ファンドには収益分配金を受取る「一般コース」と収益分配金が税引後無手数料で再投資される「自動けいぞく投資コース」があります。ただし、販売会
社によっては、どちらか一方のみのお取扱いとなる場合があります。
[ファンドの費用]
投資者が直接的に負担する費用
購入時手数料
3.78%(税抜3.5%)の手数料率を上限として、販売会社が独自に定める率を購入申込受付日の翌営業日の基準価額に乗じて得た額とします。
(上記は 1 口当たりの購入時手数料です。購入時手数料の総額は、これに購入口数を乗じて得た額となります。)
信託財産留保額 ありません。
投資者が信託財産で間接的に負担する費用
運用管理費用
(信託報酬)
毎日、信託財産の純資産総額に年1.107%(税抜1.025%)の率を乗じて得た額とします。
運用管理費用(信託報酬)は、毎計算期末または信託終了のとき信託財産中から支払うものとします。
[運用管理費用(信託報酬)の配分(税抜)]
委託会社
販売会社
受託会社
年率 0.3%
年率 0.7%
年率 0.025%
純資産総額の最大年率2.22%(上場投資信託を除く)
投資対象とする 別途成功報酬がかかるものがあります。
投資信託証券 (平成27年3月末日現在)
※上記の報酬率等は、今後変更となる場合があります。
実質的な負担
概算で最大年率2.0%(税込)程度(注)に指定投資信託証券の成功報酬(適用されない場合もあります。)が加算された額となります。
(注)ファンドは市場環境により積極的に組入比率の見直しを行いますので、実際の投資信託証券の組入状況により変動します。
なお、平成27年3月末日現在の資産配分比率に基づいた試算値は、年率1.66%(税込)程度です。
その他の費用・
手数料
毎日計上される監査費用を含む信託事務に要する諸費用(信託財産の純資産総額の年率0.054%(税抜0.05%)相当を上限とした額)ならびに
組入有価証券等の売買の際に発生する売買委託手数料等および外国における資産の保管等に要する費用等(これらの費用等は運用状況等
により変動するため、事前に料率、上限額等を示すことができません。)は、そのつど信託財産から支払われます。マザーファンドの投資先ファ
ンドにおいて、信託財産に課される税金、弁護士への報酬、監査費用、有価証券等の売買に係る手数料および借入金の利息等の費用が当該
投資先ファンドの信託財産から支払われることがあります。また、購入・換金時に信託財産留保金が購入価格に付加または換金価格から控除
されるものがあります。
※当該費用の合計額については、投資者の皆様がファンドを保有される期間等に応じて異なりますので、表示することができません。
[税金]
●税金は表に記載の時期に適用されます。
●以下の表は、個人投資者の源泉徴収時の税率であり、課税方法等により異なる場合があります。
時期
項目
分配時
所得税
および地方税
配当所得として課税
普通分配金に対して 20.315%
税金
換金(解約)時
および償還時
所得税
および地方税
譲渡所得として課税
換金(解約)時および償還時の差益(譲渡益)に対して 20.315%
※少額投資非課税制度「愛称:NISA(ニーサ)」をご利用の場合
NISA は、平成 26 年 1 月 1 日以降の非課税制度です。NISA をご利用の場合、毎年、年間 100 万円の範囲で新たに購入した公募株式投資信託などから生じる配当所得および譲渡所得
が 5 年間非課税となります。ご利用になれるのは、満 20 歳以上の方で、販売会社で非課税口座を開設するなど、一定の条件に該当する方が対象となります。詳しくは、販売会社にお問
い合わせください。
※上記は、当資料発行日現在のものですので、税法が改正された場合等には、税率等が変更される場合があります。
※法人の場合は上記とは異なります。
※税金の取扱いの詳細については、税務専門家等にご確認されることをお勧めします。
ファンドに関する
お問い合わせ先
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【電話番号】
【ホームページ】
【携帯サイト(基準価額)】
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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委託会社
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金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第380号 / 加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
三菱UFJ信託銀行株式会社(ファンドの財産の保管および管理を行う者)
<再信託受託会社:日本マスタートラスト信託銀行株式会社>
ピクテ・アセット・マネジメント・エス・エイ(ファンドおよびマザーファンドの資産配分に関する助言を行う者)
下記の販売会社一覧をご覧ください。(募集の取扱い、販売、一部解約の実行の請求受付ならびに収益分配金、償還金および一部解約代金の
支払いを行う者)
販売会社一覧
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商号等
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SMBC日興証券株式会社
株式会社SBI証券
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東洋証券株式会社
マネックス証券株式会社
楽天証券株式会社
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金融商品取引業者
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金融商品取引業者
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登録金融機関
日本証券業
協会
近畿財務局長(金商)第15号
関東財務局長(金商)第2251号
関東財務局長(金商)第44号
関東財務局長(金商)第61号
関東財務局長(金商)第121号
関東財務局長(金商)第165号
関東財務局長(金商)第195号
東北財務局長(登金)第2号
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加入協会
一般社団法人
一般社団法人
日本投資
金融先物
顧問業協会
取引業協会
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一般社団法人
第二種金融商品
取引業協会
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る有価証券等(外貨建資産に投資する場合は、為替変動リスクもあります)に投資いたしますので、基準価額は変動します。したがって、投資者
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はなく元本および利回りの保証はありません。●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象で
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