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高効率水素発生プロセスの開発(有機ハイドライド)

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高効率水素発生プロセスの開発(有機ハイドライド)
高効率水素発生プロセスの開発(有機ハイドライド)
○谷口貴章、塚越庄一、岸田遼、飯塚優介、小林幸雄
JXエネルギー株式会社
1.研究開発の目的
製油所の水素化脱硫装置、水素化分解装置には高純度の水素が必要であり、我が国の製
油所では年間 142 億 Nm3 の水素が投入されている。このうち 85 億 Nm3 は接触改質の副生水
素で賄われており、残る 57 億 Nm3 が水素製造装置(HPU)で LPG、ナフサの水蒸気改質によっ
て製造されている。脱硫、分解に用いられた水素は 108 億 Nm3 程度と推定され、残る 34 億
Nm3 は装置の出口から他のオフガス成分とともに排出されている(図1-1)1)。付加価値
の高い水素は、可能な限り有効利用されることが望ましいが、オフガスの水素は約 5~25%
程度の低純度な水素であるために、製油所内の燃料としてしか利用できず、さらに一部は
フレアで燃焼させて消費しているのが現状である。よって、付加価値の高い水素を可能な
限り有効活用するために、低純度水素を回収して高純度な水素に精製し、再度製油所内で
再利用できる技術が求められている。
図1-1
製油所内の水素バランス概要 1)
上記技術として、水素キャリアを用いた水素回収、精製プロセスが適用できる可能性が
ある。プロセスの概要を図1-2に示す。低純度水素を水素化装置にて水素キャリアであ
るトルエン(TOL)に付加し、メチルシクロヘキサン(MCH)の形で水素を貯蔵する。MCH は液
体であり、ガスの状態と比較して長期保管、取り扱いが容易である。貯蔵された水素は、
製油所内の需要に応じて、水素発生装置にて取り出すことができる。水素を取り出す際に
精製する TOL は、再度水素化装置にて利用することが可能である。
図1-2
有機ハイドライド水素キャリアを用いた低純度水素回収、精製フロー
上記プロセスのうち回収した水素を取り出す水素発生装置における技術課題として、脱
水素触媒の劣化、副生成物の生成が挙げられる。これらの課題に対して、参画会社では本
研究実施前から取り組んできており、触媒活性、耐久性を大幅に向上させた脱水素触媒の
自社開発を完了している
2)
。本触媒の開発によって、脱水素反応技術は大きく進歩したと
考えらえるが、ラボレベルでの製造実績しかないため、製油所導入に必要な製造規模での
量産化技術を確立する必要がある。また、開発した脱水素触媒を搭載した水素発生装置を
製油所に導入するためには、小規模な水素発生装置(10 Nm3/h-H2)を設計、開発し、大規模
な装置を設計するためのエンジニアリングデータを採取する必要がある。
そこで本研究開発では、低純度水素を回収し、精製して再利用するための水素キャリアを
用いた新しいプロセスのうち、水素発生に関する技術を開発し、製油所の省エネルギー化、
高効率化に貢献することを目的として、上記課題に対する技術開発に取り組む。
2.研究開発の内容
2.1
2 か年の研究開発計画
本研究開発の平成 26 年度から平成 27 年度までの 2 か年長期計画を表2-1に示す。平
成 26 年度に小規模水素発生装置を設計・製作し、平成 27 年度にエンジニアリングデータ
を採取する。平成 26 年度から 27 年度の 2 年間で、参画会社が開発した脱水素触媒の商業
規模での量産化技術確立を目指すとともに、耐久性 8000 時間、転化率 90%を見通すための
劣化シミュレータを構築する。平成 26 年度は、ラボで決定した脱水素条件における水素キ
ャリアの繰り返し使用の影響を評価する。平成 27 年度は項目①-2で得られたエンジニア
リングデータを基に、実プラントを模擬した脱水素反応条件に変更し、水素キャリアの繰
り返し使用が副生成物生成挙動に与える影響を定量的に評価する。
表2.1-1 研究開発日程長期計画
年
項
度
目
平成 26 年度
平成 27 年度
①規模装置を用いた大規模装置設計のためのエンジニ
アリングデータ採取
①-1
小規模水素発生装置の設計、製作
①-2
小規模装置を用いた大規模装置設計のため
のエンジニアリングデータ採取(負荷変動時
の追随性デ-タ取得)
②参画会社開発の脱水素触媒の量産化技術確立
②-1
開発脱水素触媒(転化率≧90%、触媒寿命≧
1年)の商業規模での量産化技術確立
②-2
劣化シミュレータの構築
③水素キャリアの繰り返し使用が副生物生成挙動に及
ぼす影響把握
③-1
水素キャリアの繰り返し使用の影響評価
③-2
実プラントを想定した脱水素反応条件にお
ける、水素キャリアの繰り返し使用が副生物
生成挙動に及ぼす影響把握
2.2
2 か年の研究開発目標
以下に、2 か年の研究開発目標を示す。
①ラボスケールの 1,000 倍程度(10 Nm3/h-H2)の規模を有する小規模装置を用いた、大規
模装置設計に必要なエンジニアリングデータ採取の完了
②開発水素発生触媒(転化率≧90%、触媒寿命≧1年)の商業規模での量産化技術確立
2.3 平成 26 年度の研究開発成果
2.2に記載の目標達成に向け、平成 26 年度に実施した研究開発の成果を以下に記す。
①小規模水素発生装置の設計、製作
製油所導入規模での水素発生装置設計に必要なエンジニアリングデータを採取するため
に、小規模なプロトタイプ脱水素反応評価装置(水素精製能力:10 Nm3/h)の設計、製作を
実施した。装置の設計に際しては、可能な限り生成水素および脱水素反応後の TOL を回収
することをコンセプトとし、水素精製機に入ってくる生成水素の回収率 95%以上、TOL 回収
率 99%以上、水素精製機で精製した水素の純度 99%以上を目標とした。詳細設計に基づき各
機器の製作を行い、評価体制構築が完了した。
②参画会社開発の脱水素触媒の量産化技術確立
参画会社で開発した脱水素触媒の量産化技術確立に向けた事前検討を行った。製油所導
入を想定した規模での量産化検討を実施し、一部を抜き取って活性評価を実施した結果、
ラボ触媒と比較して同等以上の活性を示すことが確認できた。また、量産化検討触媒の強
度も参画会社基準以上の強度を示すことが確認できた。一方で、1回目の量産化検討では
触媒の粒ごとに色ムラが見られた。色ムラの原因について調査を行った結果、Pt 担持量と
相関性があることが判明した。そこで製造条件の見直しを行い、量産化検討を再度実施し
た(量産化検討2回目)
。その結果、触媒の色ムラは抑制され、量産化検討1回目と同等以
上の性能を示すことが分かった。量産化検討触媒にて連続耐久試験を実施し、2500 時間経
過後も転化率 93%(目標値:>90%)を維持することが確認できた。
③水素キャリアの繰り返し使用が脱水素触媒に与える影響の定量化
水素キャリアの繰り返し使用による副生成物生成挙動の定量的な評価を実施した。MCH
を出発原料として、参画会社が開発した脱水素触媒にて脱水素反応処理を行った後、反応
器出口ガスを冷却し、気液分離器で液成分を回収した。回収液は市販の水素化触媒を用い
て水素化反応処理を行い、反応器出口ガスを冷却して液成分を回収した。このサイクルを
1 回とし、計 5 回の繰り返し試験を行った。その結果、水素キャリアの繰り返し使用によ
ってシクロヘキサン、ベンゼンなどの脱メチル化物含有量が増加する傾向が認められた。
また、ビフェニル、ビシクロヘキシルなどの二量化物についても微増傾向が見られた。一
方で、他の副生成物については有意な増加は認められなかった。
2.4 平成 27 年度の研究開発計画
平成 27 年度に実施した研究開発内容について以下に記す。
①小規模装置を用いた大規模装置設計のためのエンジニアリングデータ採取(負荷変動時
の追随性デ-タ取得)
小規模装置を用いた実証試験を行い、大規模装置設計のためのエンジニアリングデータ
採取を完了させる。実証試験については、設計時の条件にて設計通りの性能を示すか確認
した後、運転条件(反応器出口温度、反応器出口圧力)を変化させた時の挙動把握、およ
び負荷変動時の追従性等を評価する。また、より高いエネルギー効率が期待できる水素精
製機を導入し、設計通りの性能を示すことを確認する。
②参画会社開発の脱水素反応触媒の量産化技術確立
参画会社が開発した脱水素触媒について量産化検討を行い、量産化技術を確立する。ま
た参画会社が開発した劣化シミュレータを、量産化検討触媒に合わせてチューニングを行
い、当該触媒の劣化予測を可能とする。チューニングされた劣化シミュレータについて、
単管反応器を用いた耐久試験を行い、妥当性を検証する。
③実プラントを想定した脱水素反応条件における、水素キャリアの繰り返し使用が副生物
生成挙動に及ぼす影響把握
水素反応器均温化装置を導入して脱水素反応器の温度制御機構を変更し、より実条件に
近い温度制御系を構築する。脱水素反応器均温化装置を用いて、温度、圧力等の運転条件
を変えた時の副生成物生成挙動への影響を把握する。また、小規模装置の設計、実証試験
で得られた知見を基に脱水素反応条件を見直して、水素キャリアの繰り返し使用が副生物
生成挙動に及ぼす影響を定量的に把握する。繰り返し試験で濃縮が確認された副生成物に
ついて、脱水素触媒に与える影響を評価する。
3.研究開発の結果
3.1
小規模装置を用いた大規模装置設計のためのエンジニアリングデータ採取
平成 26 年度に設計、製作した小規模水素発生装置(10 Nm3/h-H2)を用いて、大規模装置
設計のためのエンジニアリングデータ採取を実施した。図3.1-1に小規模水素発生装
置のプロセスフロー概要図を示す。本装置の設計においては、高純度水素(>99 %)を取り
出せることを要求仕様とし、下記項目を設計コンセプトとした。
・可能な限り排熱を回収し、高エネルギー効率を目指す。
・脱水素反応で生成する TOL および未反応 MCH を可能な限り回収する。
・水素精製工程で発生する水素オフガス量を減らす。
脱水素反応器は Shell & Tube の多管式熱交換型反応器を採用した。Tube 内に脱水素触媒
を充填し、Shell に熱媒をフローさせて脱水素反応に必要な熱を供給した。脱水素反応器
出口ガスは、冷却したのち気液分離器にて液化した TOL を回収した。分離後のガス成分は
水素精製機で精製処理を行い、高純度な水素を取り出す設計とした。
図3.1-1
小規模水素発生装置(プロトタイプ脱水素反応評価装置)のプロセスフロー
概略図
*緑の長鎖線で囲んだ機器が JPEC 設備、その他の機器は参画会社設備
本装置の試運転を行い、装置が正常に動作することを確認した後、基準設計条件にて性
能確認試験を実施した。その結果、熱媒の温度が設定温度まで昇温されない現象が確認さ
れた。プロセスフローの熱収支解析を実施した結果、配管、機器表面からの放熱が想定よ
りも大きく、基準設計条件で必要な反応熱量を供給できていないことが明らかとなった。
そこで、電気式熱媒ボイラの増強、および小型熱交換器採用による放熱量低減対策を実施
した。放熱対策後の基準設計条件における運転トレンドを図3.1-2に示す。昇温工程
において、熱媒温度は設定値(340℃)まで昇温することが確認できた。また、MCH の供給
開始とともに反応器内の触媒層入口温度が低下し、脱水素反応が進行していることが確認
できた。設計条件にて運転状態が安定した後、水素炎イオン化型検出器を有するガスクロ
マトグラフ(GC-FID)を用いて気液分離後回収液の組成分析を行うとともに、水素精製機入
口ガス(粗水素)流量、水素精製機出口ガス(精製水素)流量を測定し、水素発生効率(転
化率)、水素回収率(= 精製水素流量/粗水素流量)を求めた。その結果、設計時の目標
であった水素発生効率>95 %、水素回収率>95 %、PvSA 出口の精製水素流量≒10 Nm3/h の
達成が確認できた。表3.1-1に GC-FID、メタン連続分析計を用いた精製水素中のガス
組成分析結果を示す。粗水素中に含まれた不純物は水素精製機にて除去されており、設計
時の目標である精製水素純度>99 %の達成を確認できた。また、カーボンのマテリアルバ
ランスを確認するために、MCH の供給量に対する各気液分離器の TOL 回収量からトルエン
回収率を求めた結果、99.8 %となり、ほとんどの TOL が回収可能であることを確認できた。
図3.1-2
放熱対策後の基準設計条件における運転トレンド
表3.1-1
設計基準運転時におけるガス組成分析結果
水素中不純物
粗水素(molppm)
精製水素(molppm)
メタン
236
11
エタン
14
<3
MCH
4390
<3
TOL
6506
<3
設計基準条件にて、設計通りの性能を示すことが確認できたため、温度、圧力を変えた
時の運転挙動を確認し、問題なく動作することを確認できた。また、負荷変動時の追従性
についても確認した結果、100 %⇒50 %負荷変動時、50 %⇒100 %負荷変動時共に、0.1 h
以内に各温度、圧力、流量等が安定化することを確認できた。プロセス効率向上のために、
TSA の高エネルギー効率化検討を実施した結果、消費電力量が従来比 53 %まで削減可能で
あることが示唆される結果を得た。
3.2
参画会社開発の脱水素反応触媒の量産化技術確立
参画会社では脱水素触媒の耐久性予測、および反応器設計のために、ラボ触媒での評価
結果を基に劣化シミュレータの開発を完了している。本シミュレータを量産化検討触媒へ
適用するためには、量産化検討触媒にて各パラメータを取得し、シミュレータをチューニ
ングする必要がある。そこで、コーキングによる劣化の影響評価、Pt 凝集による劣化の影
響評価を実施し、劣化シミュレータのチューニングを行った。
Pt 凝集による劣化の影響評価として、所定の時間耐久試験を行った脱水素触媒を抜き取
り、HAADF-STEM 分析を行った。得られたデータを基に画像解析を行い、Pt 粒子径の平均値
を求めた(N 数:500~900 個)。結果を図3.2-1に示す。2000 h の耐久試験において、
明確な Pt 粒径の増大は見られなかった。従って、Pt 凝集が触媒劣化に及ぼす影響は非常
に小さいと考えられる。そこで劣化シミュレータにおいては、計算式簡素化のために Pt
凝集の影響を考慮しないこととした。
コーキングによる劣化の影響を評価するために、耐久試験を行った。所定の時間運転し
たあとの触媒を抜き取り、触媒活性とコーク生成量を評価した。図3.2-2に量産化検
討触媒の脱水素反応における頻度因子相対値と、コーク生成量の経時変化を示す。反応初
期において頻度因子が大幅に低下し、またコーク量は大幅に増大することが分かった。100
h 以降も頻度因子の低下とコーク量増大は見られるものの、緩やかであることが分かった。
また、コーク生成量と触媒活性には相関性があることが確認できた。
上記結果を用いて参画会社開発の劣化シミュレータのチューニングを実施し、MCH 転化
率の推移を算出した。単管反応器での試験結果と、チューニングした劣化シミュレータの
計算結果を図3.2-3に示す。赤点線は、目標である 8000
h、転化率 90 %を示してい
る。チューニングにより、試験結果と計算結果が良く一致していることを確認できた。ま
た、劣化シミュレータを用いた 8000 h 運転後の MCH 転化率計算結果は 92.8 %となり、目
標の耐久時間>8000 h、MCH 転化率>90 %を達成できる見込みを得ることができた。
5
Pt平均粒子径平均値
(初期を1とする)
4
3
2
1
0
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
運転時間, h
図3.2-1 連続運転における脱水素触媒の Pt 粒径の変化
頻度因子相対値、 コーク生成量, wt%
1.2
コーク生成量
1.0
0.8
0.6
0.4
頻度因子相対値
0.2
0.0
0
1000
2000
3000
4000
5000
反応時間,h
図3.2-2
コーキングの影響による頻度因子相対値とコーク生成量の経時変化
図3.2-3
単管反応器試験結果と、劣化シミュレータ計算結果の比較
また、平成 26 年度に実施した脱水素触媒の量産化検討の結果、工程簡略化にともなう製
造コストを削減できる可能性があること、Pt 担持工程にて、担持工程の残液中に Pt が数
十 ppm 残ること、触媒強度が、参画会社の基準値以上ではあるものの、ラボ触媒と比較し
て低下することが分かった。そこで、これらの課題について検討を行った。
簡略化した工程にて量産化検討を実施した結果、初期活性はラボ触媒と比較し同等以上
であり、Pt 担持量、Pt 分散度、圧懐強度、およびかさ密度などの各物性値においても、ラ
ボ触媒と同等であることが確認できた。触媒強度については、量産化検討を触媒を用いた
熱サイクル試験、および連続耐久試験を行い、明確な強度低下が無いことが確認できた。
また、残液中の Pt はろ過によって 99%が回収でき、かつコスト試算の結果、Pt 回収に対す
る採算性が見込めることを確認できた。
3.3
水素キャリアの繰り返し使用が水素発生触媒に与える影響の定量化
平成 26 年度に繰り返し試験を実施した結果、下記のような課題が得られた。
・試験に用いた脱水素反応器は電気ヒータによる加温方式であり、製油所への適用時想
定している熱媒加熱方式とは触媒層の温度分布が異なる。
・平成 26 年度での試験条件はラボでの知見を基に決定しているため、製油所への適用を
考えると、小規模装置での検討結果を基に脱水素反応条件を見直すことが望ましい。
そこで平成 27 年度は、脱水素反応器の加温方式を電気ヒータ加熱方式から二重管型の脱
水素反応器による熱媒加熱方式に変更した。脱水素触媒を充填した内側の反応管内に MCH
を供給し、外側の管内に熱媒を流して反応に必要な熱を供給できるようにした。本装置の
導入により反応器内の温度制御性が向上し、製油所適用時に近い試験条件での評価が可能
となった。熱媒加熱方式脱水素反応器への変更後、小規模装置の検討を基に見直した脱水
素反応条件にて繰り返し試験を行い、副生成物の生成挙動を定量的に評価した。試験条件
を表3.3-1に示す。MCH 原料を出発点として脱水素反応、水素化反応を繰り返し行い、
各反応後の回収液の一部を GC-FID で分析し、副生成物の定性・定量評価を実施した。
表3.3-1
脱水素反応、水素化反応の試験条件概要
脱水素反応
水素化反応
Pt/CeO2-Al2O3
Ni-5256 (BASF 社製)
(量産化検討触媒)
α-Al2O3 で 1/11 に希釈
90%前後
98-100%
圧力
0.15 MPaG
0.19 MPaG
触媒層内最高温度
340℃以下
250℃以下
触媒
転化率
繰り返し試験に伴う回収液中の全副生成物含有率の変化を図3.3-1に示す。全副生
成物量は、脱水素反応後に増加し、水素化反応後に減少する傾向が見られた。繰り返し回
数の増加に伴い、全副生成物含有率は増加し続ける傾向が見られた。
構造別に分類した回収液中副生成物の含有率変化を図3.3-2に示す。繰り返し回数
の増加に伴い、脱メチル化物[シクロヘキサン、ベンゼン]の含有率が最も顕著に増加する
傾向が見られた。また、開環物[C5~C8 パラフィン]、環状化合物(6 員環)[MCH、TOL、シク
ロヘキサン、ベンゼン除く 6 員環構造物。キシレン、ジメチルシクロヘキサン等]、二量化
物[ビフェニル等]、環状化合物(5 員環)[エチルシクロペンタン等]の含有率についても、
試験を繰り返すごとに増加する傾向が見られた。本結果を基に、脱水素触媒へ与える影響
が無いことが分かっている脱メチル化物以外の含有率が増加した上記副生成物種が、脱水
素触媒へ与える影響を評価した。モデル化合物を MCH 原液に 1 mol%添加した液を用いて 120
h の連続運転試験を行い、試験前後の転化率変化を評価した。結果を図3.3-3に示す。
今回評価した全てのモデル化合物において、明確な転化率低下は見られなかった。よって、
水素キャリアの繰り返し使用が副生成物脱水素触媒に与える影響は無い、または非常に小
さいと推測される。
また、脱水素反応において反応器出口圧力、触媒層出口温度が副生成物生成挙動に与え
る影響についても評価した。その結果、温度が高くなるほど、また圧力が高くなるほど全
副生成物含有率が高くなる傾向が見られた。
回収液中の全副生成物含有率, mol%
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
図3.3-1
脱水素⑩
水素化⑨
脱水素⑨
水素化⑧
脱水素⑧
水素化⑦
脱水素⑦
水素化⑥
脱水素⑥
水素化⑤
脱水素⑤
水素化④
脱水素④
水素化③
脱水素③
水素化②
脱水素②
水素化①
MCH原液
脱水素①
0
繰り返し試験に伴う回収液中の全副生成物含有率の変化
0.25
開環物
脱メチル化物
環状化合物(5員環)
0.2
環状化合物(6員環)
二量化物
フルオレン
0.15
0.1
環状化合物(6員環)
環状化合物(5員環)
0.05
脱水素⑩
水素化⑨
繰り返し試験における、構造別に分類した回収液中副生成物の含有率変化
初期
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
MCH原料
図3.3-3
脱水素⑨
水素化⑧
脱水素⑧
水素化⑦
脱水素⑦
水素化⑥
脱水素⑤
水素化④
脱水素④
水素化③
脱水素③
水素化②
脱水素②
水素化①
脱水素①
MCH原液
転化率, %
脱水素⑥
フルオレン
0
図3.3-2
開環物
二量化物
水素化⑤
回収液中の副生成物含有率(mol% )
脱メチル化物
環状化合物(6員環) 環状化合物(5員環)
(ジメチルシクロヘキサン) (エチルシクロペンタン)
開環物
(2-メチルヘキサン)
120 h
二量化物
(ビシクロヘキシル)
モデル化合物添加 MCH を供給した連続運転試験における転化率の変化比較
4.まとめ
本年度の研究によって、以下の成果が得られた。
・平成 26 年度に設計・製作を行った小規模水素発生装置(10 Nm3/h-H2)を用いた実証試験
を行った。基準設計条件にて運転を行い、設計通りの性能が得られることを確認できた。
また、反応器出口温度、反応器出口圧力を変えた時の挙動を把握することができた。負
荷変動時の追従性について評価を行い、100 % ⇒ 50%、50 % ⇒ 100 %の負荷変動共に
0.1 h 以内で安定化することを確認できた。以上、大規模水素発生装置の設計に必要な
エンジニアリングデータの採取を完了した。
・量産化検討触媒のコーキング影響評価、Pt 凝集影響評価を基に、参画会社が開発した劣
化シミュレータのチューニングを実施した。単管反応器による耐久試験を行い、劣化シ
ミュレータで算出した転化率と良く一致することを確認できた。本シミュレータを用い
て 8000 h 後の転化率を試算した結果 92.8 %となり、目標である 8000 h、転化率 90 %以
上を達成できる見込みを得た。
脱水素触媒の工程簡略化に関して量産化検討を行い、ラボ触媒と同等以上の活性、物
性を示すことを確認できた。またラボ触媒と比較して量産化検討触媒の触媒強度が若干
低下した点についても、耐久試験を行って問題ないことを確認できた。Pt 担持工程で発
生する残液中の Pt は、ろ過によって 99%が回収でき、かつコスト試算の結果、採算性が
充分見込めることを確認できた。
以上、劣化予測技術を含めた、脱水素触媒の量産化技術を確立することができた。
・脱水素反応器を電気ヒータ加熱方式から熱媒加熱方式へと変更し、より製油所適用時
の温度条件に近い試験が実施可能になった。小規模水素発生装置での検討結果を基に脱
水素反応条件を見直し、MCH を出発原料とした脱水素反応、水素化反応の繰り返し試験
を10サイクル実施した。繰り返し回数の増加に伴い全副生成物含有率が増加すること
が分かった。また、構造別に分類して解析を行った結果、最も顕著に増加傾向が見られ
た脱メチル化物に加えて、開環物、環状化合物(6 員環)、環状化合物(5 員環)、二量化物
についても含有率が増加する傾向が見られた。上記含有率が増加した副生成物について、
モデル化合物を用いて脱水素触媒に与える影響を評価した結果、水素キャリアの繰り返
し使用が副生成物脱水素触媒に与える影響は無い、または非常に小さいことが分かった。
また、脱水素反応において反応器出口圧力、触媒層出口温度が副生成物生成挙動に与
える影響についても評価した。その結果、温度が高くなるほど、また圧力が高くなるほ
ど全副生成物含有率が高くなる傾向が見られた。
引用文献
1)JPEC NEWS,11, P.1~4, (2014)
2) 第 43 回石油・石油化学討論会 講演要旨 2D08, (2013)
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