Comments
Description
Transcript
研究にロマンを求めて
研究にロマンを求めて ∼研究者から学生へのメッセージ∼ VOL.8 目 次 研究テーマ 研究者 東アジアのナショナル・アイデンティティ 所属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 社会学コース カテゴリー:社会人類学 鄭 大均 教授 日本政治思想史 所属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 政治学コース カテゴリー:政治学 河野 有理 准教授 行動意思決定論 所属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース カテゴリー:経営学 長瀬 勝彦 教授 有機機能材料の設計と合成 所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 化学コース カテゴリー:基礎化学、ナノマイクロ科学 西長 亨 准教授 未来都市のエネルギー・環境と生活を支える 発電・蓄電システム 所属:都市環境学部 都市環境学科 材料化学コース カテゴリー:材料化学 金村 聖志 教授 マルチメディア信号処理アーキテクチャの研究 所属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 情報通信システム工学コース カテゴリー:メディア情報処理 看護師が直面する倫理的課題とその対応に関する研究 −患者の尊厳・権利を大事にする医療文化の創造をめざして− カテゴリー:看護学 西谷 隆夫 教授 1 2 3 4 5 6 所属:健康福祉学部 看護学科 志自岐 康子 教授 バックナンバーの紹介 7 8∼9 発行:公立大学法人 首都大学東京 東アジアのナショナル・アイデンティティ 研究テーマ カテゴリー:社会人類学 研究者名:鄭 大均(テイ タイキン) 教授 所 属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 社会学コース 担当科目:基礎ゼミナール、地域研究演習、地域論研究演習、 地域研究特論演習など 研究概要 20代には韓国よりアメリカに関心がありました。西海岸で修士課程を終えた後、日本に戻ってきた のが30歳の時。英語学校で教えながら、在日論を書き始めていたのですが、これは今でいうフリーター の生活。将来に不安がありました。韓国の大学で日本語を教えてみないかという誘いを受けたのはそ んな時で、韓国は浅からぬ因縁のある国でしたし、新しい国を知りたいという好奇心もありましたし、 まだ独身でした。人生をやり直すにはちょうどいいチャンスでした。渡韓したのは81年。大学教師になっ たのは偶然です。 研究テーマを考えるようになったのはその後のことで、日本人と韓国人の眺めあいの問題に関心を もちました。私たちが自分をみる見方と、他者をみる見方にはどのような関係があるのか。これが出 発点で、日本人と韓国人がその政治的、文化的垣根越しに互いをどのように眺めあい、眺めあいにお いて認知されたことが、その政治や社会にどのような影響を与えているのかに注目しました。『韓国の イメージ』はその最初の産物です。 韓国では結局14年ほどを暮らしました。都立大学に就職したのが95年。単身赴任です。妻も大学教 師ですが、韓国での大学の仕事を続けていますから、95年以後の私たちは長距離夫婦ということにな ります。1年に会うのは100日くらいでしょうか。これが意外に快適で、おかげで、夫婦喧嘩をする機 会がめっきり減りました。 都立大に赴任して3年後に『日本のイメージ』を刊行。これは『韓国のイメージ』の姉妹書で、韓 国人の日本観の半世紀を整理したものです。それから10年ほどの歳月が過ぎましたが、この間は、研 究者というよりはジャーナリストとしての仕事をすることが多くなりました。日韓の歴史・道徳的な関 係は、日本にとっても、韓国にとっても弊害が多い。これが私の基本的な考えで、それをモチーフに した作品を刊行しました。『在日韓国人の終焉』『在日・強制連行の神話』『韓国のナショナリズム』『在 日の耐えられない軽さ』といった本がそれですが、アカデミズムの世界では私を逸脱者のように考え る人もいるようです。 さて私も還暦を迎え、首都大での仕事もあと3年半となりました。残された月日をどのように過ご すべきか思案しているところですが、もう一度イメージ論に戻ろうかなと考えています。次は『在日 のイメージ』の番でしょうか。完成まで3年ぐらいはかかると思います。もちろん韓国ナショナリズ ムや在日の民族組織に対する批判も続けます。少し年とったからといって、無難な人間になりたいと は思いません。ただし体力は衰えていますから、あまり興奮してエネルギーを浪費するようなことは 避けたいと考えております。 1 日本政治思想史 研究テーマ カテゴリー:政治学 研究者名:河野 有理(コウノ ユウリ) 准教授 所 属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 政治学コース 担当科目:日本政治思想史専攻 研究概要 政治学とは、知の総合格闘技である。政治学の対象は、人間という厄介な存在が織りなす現世の秩 序である。私たちも、その一部であるところの目前にひろがるこの現実である。それは対象としては いかにも茫漠としている。その内延と外包とは必ずしも自明ではない。だからこそ、政治学は、様々 な技法を用いてこの対象に接近し、分析し、思考し、改善しようと試みてきた。 哲学、歴史学、法学、社会学、経済学、統計学、心理学等々。政治学者たちはこれら様々な分野で 練り上げられてきた知の技法の限りを尽くして敵に立ち向かってきた。敵の手強さを知り、自らの力 の限界をよく知るからである。 政治思想史は、そんな政治学の一流派である。知の総合格闘技としての政治学の中でも、おそらく 最も古い流派の一つである。その名が示しているように、私たちはその技法を哲学や歴史学と一部共 有する。その流儀は端的に言ってしまえば、先人が残したテクストを熟読玩味し、そして自分の頭で 考える、ということである。テクストのみですべてが分かる、というのではない。だが、過去の偉大 な政治学者達はいずれも、先人達のテクストを粘り強く読み、そこから得られた洞察によって、目前 の現実について深い思索を残した。その態度をせめて引き継ごう、というのである。 著者は、政治思想史の中でも、とりわけ日本の政治思想に関心を持っている。 この列島上でも、遙か昔から、実に多様な人々が、実に多様な生のドラマを繰り広げてきた。そこ には当然、愛があり、共感があり、無関心があり、嫉妬があり、反目があり、憎悪があったであろう。 彼ら彼女らの多様な生のありようを想像し、追体験することそれ自体が、すでに下手な小説を読み、 映画を見ることよりも、よほど楽しい経験である。だがさらに、彼ら彼女らの中には、この多様な秩 序の実践を、言語を用いて反省し、それについて高度な思弁を繰り広げるものさえ(しかも少なから ぬ数)いた。人はどのようにあるべきなのだろうか、そして、人と人とがおりなす秩序はどのように あるべきなのだろうか。それぞれの生を懸命に生きつつ、彼ら彼女らはこうした問いについて真剣に 考え抜いたのである。彼ら彼女らの思弁の糸を解きほぐし、その筋道をゆっくりと辿っていくこと。 その上でさらに列島外の諸地域の人々の生活と思索のありようと比べて考えてみること。こうしたこ とは単に楽しいだけではない。時に、それは日常に埋没した私たちの思考枠組みをゆるがし、新たな 思索へと私たちを誘うのである。彼ら彼女らの残したテクストは、楽しくそして真剣に学びたいあな たにも開かれている。 2 行動意思決定論 研究テーマ カテゴリー:経営学 研究者名:長瀬 勝彦(ナガセ カツヒコ) 教授 所 属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース 担当科目:意思決定論 研究概要 私は人間の意思決定を研究しています。意思決定とは物事を決めることですが、もう少し形式的に 定義すると、複数の選択肢からひとつを選び取ることです。私たちの人生は意思決定の連続です。今 日のランチで何を食べるかといった日常の意思決定もあれば、就職や転職、家の購入、結婚などの人 生の一大事的な意思決定もあります。企業の経営者は自社の浮沈に関わる巨額の投資について意思決 定しますし、一国の元首は国家の存亡を懸けた意思決定を下します。そんな意思決定がどのようにお こなわれているのかを研究するのが私が専攻する行動意思決定論です。 行動意思決定論を専攻に定めた理由は、私自身が意思決定を苦手としているからなのかもしれませ ん。レストランでは注文に迷ってなかなか決められないことがありますし、何かを決めた後になって、 別の選択肢にした方が良かったのではないかと後悔することもしばしばです。ところが世の中には、 あまり意思決定に悩んだり後悔したりしない人もいるようです。18 世紀に生きたベンジャミン・フラ ンクリンが友人に宛てた手紙には、自分が意思決定に迷ったときに使う手法が書かれています。紙に 線を引いて左右2つに分け、片方には検討する選択肢の利点を、もう片方には欠点を書き連ねます。 次に左右の項目で等価値のものを相殺していきます。残った要因を眺めれば、然るべき結論に至るこ とができるというのです。フランクリンは自らこの手法を「精神的代数」と名付けています。現代は コンピュータを使った意思決定支援ツールがたくさんありますが、たいていは精神的代数を原型とし ています。 こういう手法は一見するととても合理的に見えますが、簡単に納得してもらっては困ります。近年 の研究により、人間の意思決定は全く別のプロセスでおこなわれていることが明らかになってきまし た。意思決定のプロセスで人間の理性が意識できる部分はごく僅かしかありません。残りは、かつて は非合理的と切り捨てられてきた「無意識」や「直観」、「感情」などが重要な役割を果たしているら しいのです。合理的な意思決定支援手法を使うことで、かえって誤った選択肢を選んでしまうことす らあります。行動意思決定論はもともとは実験心理学や経営学、経済学などの複合領域でしたが、今 や神経科学や哲学、進化心理学などを巻き込んで展開しているホットな学問です。若い人たちの参入 を心からお待ちしています。 3 有機機能材料の設計と合成 研究テーマ カテゴリー:基礎化学、ナノマイクロ科学 研究者名:西長 亨(ニシナガ トオル) 准教授 所 属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 化学コース 担当科目:化学概説Ⅰb、有機化学Ⅱ、有機化学Ⅲ 研究概要 現在の私の主な研究テーマは、“有機半導体などの機能材料” や “導電性高分子の導電機構解明のた めのモデル分子” を設計・合成し、評価することです。これらの研究は有機化学と物質科学の学際領 域に位置付けられますが、私自身は有機化学の視点から研究を進めています。有機化学の研究は、有 機化合物の「合成法の開発」と「性質の探究」の2つに大きく分類され、後者では、有機化合物の基 礎物性のみならず、電子材料などの物質科学関連の物性から医薬品などの生体関連の物性まで幅広い 分野が研究対象となります。その中で、私は有機化合物の基礎物性の研究から研究生活をスタートし、 現在、そこで得られた知見を物質科学へ展開している段階です。 昨今、日本人のノーベル化学賞連続受賞や日本の化学系企業の業績好調を背景に、化学のイメージ が回復してきていると言われていますが、私が大学に進学した 22 年前は、オイルショックや公害問題 が尾を引いて、化学の人気が低迷している時代でした。それにもかかわらず大学進学時に迷わず有機 化学の道を選んだ一番の理由は、有機化学者である父の影響により、小さい頃から “亀の甲”(ベンゼ ン環の構造式)を目にする等、無意識に有機化学に慣れ親しんでいたということが挙げられます。学 部4年での講座配属時には、有機化合物の物性を研究したいという漠然とした希望から研究室を選び、 その講座の教授とは多少分野の異なるテーマを行っていた助教授の指導の下、研究を行うことになり ました。そして博士課程修了(1995 年)と同時期に、その恩師が京都大学化学研究所で教授の職を得、 助手として残ることになったことで、現在に至る大きな研究の流れが決まりました。こうして振り返 ると、大枠では自分で選択してきた道ですが、詳細な分野の選択では、自らの意思が及ばないところ で決まって行ったとも言えます。その後、首都大学東京の発足と同時(2005 年)に本学に移籍し、研 究活動を続けています。 有機化合物の物性探究における最大の魅力は、目的の物性を発現すると期待される分子を自ら設計 し、実際に合成することにより、この世になかった新物質を創造できる点です。私のこれまでの研究 で、有機合成化学協会から奨励賞を受けたテーマとして、“従来の方法では安定に取り出すことが困難 であった不安定化学種を剛直な炭素骨格で取り囲むことによって安定化させる” というものがあります が、現在、この成果を活用して物質科学の分野に切り込んで行っています。このような有機合成を基 盤とする分子レベルでの機能の制御は究 極のナノテクノロジーであると考え、ま た基礎研究の中からこそ真に新しいもの が生み出されるという多くの先達の信念 を念頭に置き、既存の概念にとらわれな い分子設計を基に有用な新物質を生み出 すべく、研究室に所属する学生・院生諸 君とともに日夜研究に励んでいます。 4 剛直な骨格で安定化された導電性高分子モデル (チオフェン6量体ジカチオン)の結晶構造 研究テーマ 未来都市のエネルギー・環境と生活を支える 発電・蓄電システム カテゴリー:材料化学 研究者名: 金村 聖志(カナムラ キヨシ) 教授 所 属:都市環境学部 都市環境学科 材料化学コース 担当科目:エネルギー環境化学 研究概要 大学の4年生になり、研究室を選択したのは、30年ぐらい前になります。その時にオイルショックとい うものがあり、また公害問題もいろいろ発生し、エネルギーと環境に興味を持っていました。一方で、電 気(いまだと電子かな)にも興味を持っていました。その時に、電気化学という研究室があることを知り、 そこに行くことに決めました。そして、最もエネルギーと環境に関係のある電池の研究を選択しました。 これが電池との出会いです。その後、自動車に使用されている鉛蓄電池の研究、そして今ではどこにでも 使用されているリチウム電池(コイン型の電池)に関する研究を行いました。それから、約30年間電池の 研究を行っています。現在では、リチウムイオン電池、燃料電池に関する研究がメインになっています。 電池の研究は100年以上の歴史を有しますが、実はそのサイエンスは未だによく分かっていないのが現状 です。また、リチウムイオン電池や燃料電池では新しい材料が使用されるので、ますます研究が必要になっ ています。この分野はある意味で、研究に関するセンスが求められる領域で、何かを地道に研究していると、 時々びっくりするような現象に出会うことが多いですし、その出会いを大切にすることでより深く電池の ことを知ることができます。無機的な研究対象ですが、ある意味で非常に有機的で生物的な研究対象であ ります。一度、このような研究を行うと大変面白く、毎日毎日何か新しい発見がないか楽しみに研究を行っ ています。電池の領域は、基礎研究と応用研究が隣り合っているので、なにか新しい発見をすると直ぐに 応用研究に結びつく面白さもあります。自分が発見したことが、本当に商品になることもあります。 最近は、未来の電池を日本から発信することを大きな目標として、写真のような電池の作製を精力的に 行っています。この電池はすべてセラミックスからで 電池材料のミクロ 構造制御が必要 きていて、決して燃えることもないし、劣化しない電 池になる予定です。究極の電池と思って、研究を行っ ています。この電池は三次元電池と呼ばれるもので、 まだ誰も作ったことがない電池です。なんとか、世界 に先駆けて首都大学東京からこのような電池に関する サイエンスやテクノロジーが発信できればと思ってい ます。研究はやっぱり大変ですが、若い学生の方々と 集電体 正極 負極 e- Li+ 電解質 正極 e負極 集電体 3D電池の作製 正極材料 一緒にいろいろな問題に取り込むことは本当に楽しい なと思っています。また、若い人たちが一人でも多く、 この東京という大都市のエネルギーや環境の問題に高 い意識を持ってくれることを願いながら教育・研究活動 を行っています。 負極材料 LLT LiCoO2 日本ガイシ株式会社 LLT 図 ナノ・マイクロの技術を使用して作製できる 新しい電池(全てセラミックスでできています) 5 マルチメディア信号処理アーキテクチャの研究 研究テーマ カテゴリー:メディア情報処理 研究者名:西谷 隆夫(ニシタニ タカオ) 教授 所 属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 情報通信システム工学コース 担当科目:エンベデッドシステム、応用通信システム、情報通学第 2 研究概要 昔からビデオやオーディオに興味がありました。このようなメディアがケイタイに載るようになって 益々この分野が面白くなりました。現状ではケイタイに搭載されているプロセッサで自分の撮った写真 やビデオから面白い部分を抽出したり、声や音楽を分離したりすることはできません。でも、ほしい部 分を鮮明にかつ簡単に取り出して遊びたいと思いませんか?このような夢を実現できるようにするのが 研究です。 「なあんだ、簡単じゃないか。人間ができるのだから、やればできるんじゃないの。 」なんて思うと大 間違いであることも研究をちょっと行えばわかります。実は人間はとんでもないことを平気でやっての ける能力があり、どのようにやっているのか良くわかっていません。わかっていないなら機械に学習さ せ、その結果を利用するニューラルネットワークという分野も現れてきましたが、人間の作った機械は 人間ほど賢くないのが現実です。学習したとおりの状況にしないとだめのようです。 今皆さんが持っているケイタイには必ず私が昔考えたDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)を内 蔵しており、音声や写真を圧縮して送るようになっています。そこで、わたしの研究はアルゴリズムで はすでに述べた興味のある部分を抽出する方法を探ることであり、また、このようなアルゴリズムに沿っ た処理が実時間で実行できるプロセッサの方式を作り上げることの2つです。現在のアルゴリズムの研 究成果では、最新のPCの100倍の能力を持つプロセッサであって、電池で動く携帯電話にでも載せる ことのできる1/100ぐらいの消費電力のプロセッサを作る必要があります。 写真は風の強い夕暮時に撮った首都大学東京のキャンパスを歩いているビデオから前景部分を取り出 したものです。風が強いため、背景の木は揺れているのですが、それは無視するようにしました。また、 見えにくいのですが遠景に道路が写っており、そこを自動車が走っていますがこれも背景として検出し ていません。つまり、動きの多いビデオであっても、安定して前景の人のいる部分を検出しています。 また、もう一つのプロセッサの検討ではアーキテクチャを工夫してペンティアムより高速で消費電力が 1/100程度のものができました。 (a)元画像 6 (b)前景領域 研究テーマ 看護師が直面する倫理的課題とその対応に関する研究 -患者の尊厳・権利を大事にする医療文化の創造をめざして- カテゴリー:看護学 研究者名:志自岐 康子(シジキ ヤスコ) 教授 所 属:健康福祉学部 看護学科 担当科目:看護倫理学、看護管理学、看護学概論Ⅰ・Ⅱ、基礎看護学 研究概要 私が専門とする看護倫理学は、看護学の中でも比較的新しい分野であり、100を超える看護系大学院で も看護倫理学を開設しているところは数校に過ぎません。 看護界が看護倫理に本格的に取り組み始めたのは、平成に入り、日本看護科学学会に看護倫理検討会が 設置されたのが契機といえます。当時大学院の学生であった私もその委員として活動する機会を得ました が、看護倫理はまだ貘としたものでした。しかし、1993年、米国のメ イヨー・クリニックでの研修が一つのターニングポイントになりまし 看護の実践において正しいことは何か? その人にとって最善とは何か?…という問いに 看護職者として答え、行動していくこと た。院内の臨床倫理委員会がベッドサイドで起こる倫理問題(例:終末 期に人工呼吸器を外すかどうか)に深く関わっていること、その活動 に看護師が重要な役割を担っていることに強烈な印象を受け、 「患者の アドボケーター(権利擁護者)として機能できる看護職」の育成には 生命倫理 看護倫理 個人の生命、 尊厳及び権利 の尊重 専門職 としての 倫理 看護倫理の探求と実践への適用が不可欠であると確信したことを今で も鮮明に覚えています。 図 看護倫理の定義 その後1998年に、「本当に認知症高齢者に抑制(身体拘束)を全く行っていないの?」という驚きと疑 問にかられ、4カ所の高齢者医療施設の看護師を対象に「抑制を止めることができたのはなぜか」につい て調査しました。この研究結果を他の施設に応用でき、高齢者が縛られなくてすむようになると考えたか らです。当時はまだ介護保険法(2000)も施行されておらず、抑制は安全を守る(転倒・転落を防ぐ)技 術として使われていました。研究の結果、看護師は抑制の替わりに、多様な優れた看護技術を駆使しており、 (高齢者の尊厳を貶める)抑制を使わないことに誇りをもっていることが明らかになり、抑制しなくても 安全を守ることが可能であると示唆されました。次に取り組んだ「臓器移植看護」の研究は、「患者の家 族は自分の肝臓を半分以上も提供しなければならないのか?」という疑問から始まりました。移植医療は、 他者の臓器を必要とする点で従来の治療法とは大きく異なります。特に日本は、健康な人(生体)からの 移植が大多数を占めており、誰がドナーとなるかは家族にとって深刻な問題です。研究の結果、1) 移植に 携わる看護師は、生体ドナーが臓器提供に心から同意してない場面に遭遇し、葛藤を抱いていること、2) 看護職のクリニカル移植コーディネーター (CTC) は、まだ2割の移植医療機関にしか配置されていないが、 生体ドナーの決定過程にも深く関与しており、ドナー候補者が、ドナーとなる(ならない)自由性をどの ように確保するか悩んでいること、等が明らかになりました。現在、看護職 CTC が生体ドナーの権利擁 護を含め、さらに移植医療の質の保証と向上に資するように、CTC の高度実践のための教育プログラム の作成及び資格制度について研究を進めている段階です。 医療の現場には多様な倫理的課題が存在しています。私たちは、患者にとって何が最善かを熟慮し、倫 理的判断を行い、権利擁護者として発言し、行動していく力をもつ人材の育成をめざしています。看護倫 理学の探求に関心がある方は是非参加してください! 7 バックナンバーの紹介 Vol.1 研究テーマ 研究者 情動の発達と、人とのあいだでの調整の不全 所属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 心理学・教育学コース 憲法裁判の研究 所属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 法律学コース イギリス社会史、都市史、企業者史 所属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース 微分方程式、変分問題 所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 数理科学コース 高齢者・障害者の交通と道路や移動しやすい交通環境の創出 所属:都市環境学部 都市環境学科 建築都市コース スポーツ医学の画像診断 所属:健康福祉学部 放射線学科 カテゴリー:心理学 カテゴリー:法学 カテゴリー:経済学・経営学 カテゴリー:数学 カテゴリー:交通工学・国土計画 カテゴリー:健康・スポーツ科学 須田 治 教授 宍戸 常寿 助教授 岩間 俊彦 准教授 高桑 昇一郎 教授 秋山 哲男 教授 新津 守 教授 Vol.2 研究テーマ 研究者 言語の脳科学 所属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 国際文化コース 比較政治 所属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 政治学コース カテゴリー:言語科学、認知神経科学 カテゴリー:政治学 萩原 裕子 教授 森山 茂徳 教授 NMR 構造生物化学(生体高分子の NMR についての方法論的研究)所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 化学コース 伊藤 隆 教授 カテゴリー:生物分子科学 都市のヒートアイランド現象 所属:都市環境学部 都市環境学科 地理環境コース 建築の造り方 所属:都市環境学部 都市環境学科 建築都市コース 磁石で創る新しい高分子機能材料 所属:都市環境学部 都市環境学科 材料化学コース ロボットの視覚システムの実現を目指して 所属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 情報通信システム工学コース カテゴリー:地理学 カテゴリー:建築学 カテゴリー:材料化学、応用物理学 カテゴリー:メディア情報処理 三上 岳彦 教授 深尾 精一 教授 山登 正文 准教授 田川 憲男 助教授 記憶とアルツハイマー病: 高齢者、療養者、障害者の生活の質を支えるケア方法とシステム開発 所属:健康福祉学部 看護学科 カテゴリー:看護学 勝野 とわ子 教授 スポーツ映像を読み解き、オリンピック文化を分析解釈する 所属:基礎教育センター カテゴリー:スポーツ科学、体育学 舛本 直文 准教授 Vol.3 研究テーマ 研究者 環境問題と法政策的対応 所属:都市教養学部 都市教養学科 都市政策コース 金融資産の価格付け、金融リスク管理 所属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース 日本の企業会計体制 所属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース 発生生物学(脊索動物の基本的な発生プログラムとその変化) 所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 生命科学コース 都市の地震防災に関する研究、多摩地域、逗子地域の地震観測と 地盤の地震応答特性に関する基礎的研究 カテゴリー:土木工学 所属:都市環境学部 都市環境学科 都市基盤環境コース 金ナノ粒子・クラスターの触媒作用と環境に優しい化学の開拓 所属:都市環境学部 都市環境学科 材料化学コース カテゴリー:法学 カテゴリー:経済学・経営学 カテゴリー:会計学(制度会計、日英中比較会計制度史) カテゴリー:基礎生物学 カテゴリー:材料化学 8 奥 真美 教授 木島 正明 教授 千葉 準一 教授 西駕 秀俊 教授 岩楯 敞広 教授 春田 正毅 教授 Vol.4 研究テーマ 研究者 イメージの組み立てとしての言語表現 所属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 国際文化コース 企業買収に関する法制度の研究 所属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 法律学コース カテゴリー:表象言語論 カテゴリー:法学 瀬尾 育生 教授 矢﨑 淳司 教授 電気の力で細菌を捉える!(誘電泳動を利用した微生物計測・処理の研究)所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 電気電子工学コース カテゴリー:静電気学、計測工学 内田 論 准教授 電気化学プロセスによるナノ構造材料の作製 所属:都市環境学部 都市環境学科 理工学系 材料化学コース プラズマの宇宙への利用を目指して 所属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 航空宇宙システム工学コース ES 細胞から神経系細胞への分化 所属:健康福祉学部 理学療法学科 カテゴリー:材料化学、ナノマイクロ科学 カテゴリー:宇宙推進工学、宇宙システム工学 カテゴリー:神経再生科学 益田 秀樹 教授 竹ヶ原 春貴 教授 井上 順雄 教授 Vol.5 研究テーマ 研究者 著作権法と権利制限規定 所属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 法律学コース ゲーム理論 所属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース 水の問題 所属:都市環境学部 都市環境学科 都市基盤環境コース 持続的農村システムの構築による農村再編とルーラルツーリズムの適正利用 所属:都市環境学部 都市環境学科 自然・文化ツーリズムコース 生産性と人間性の調和を目指したシステム設計 所属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 経営システムデザインコース カテゴリー:法学 カテゴリー:経済学 カテゴリー:水文学、水資源学、河川工学 カテゴリー:人文地理学 カテゴリー:産業人間工学 山神 清和 准教授 渡辺 隆裕 教授 河村 明 教授 菊地 俊夫 教授 川上 満幸 教授 Vol.6 研究テーマ 研究者 静かで快適なクルマを作ろう!(自動車の振動・騒音の解析に関する研究)所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 機械工学コース カテゴリー:機械工学 吉村 卓也 教授 都市政策とコミュニティ研究 所属:都市教養学部 都市教養学科 都市政策コース 地質環境の長期安定性評価の研究-地形・地質から過去を探り未来を知る- 所属:都市環境学部 都市環境学科 地理環境コース 既存鉄筋コンクリート建物の耐震性評価の精密化 所属:都市環境学部 都市環境学科 建築都市コース モノづくりのディレンマを解く-サービス工学 所属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 ヒューマンメカトロニクスシステムコース クライアントに対する心理社会的アプローチ 所属:健康福祉学部 作業療法学科 カテゴリー:都市社会学 カテゴリー:地理学、地球惑星科学、環境学 カテゴリー:建築構造学、耐震構造学 カテゴリー:機械工学 カテゴリー:社会医学、リハビリテーション 和田 清美 教授 山崎 晴雄 教授 芳村 学 教授 下村 芳樹 教授 山田 孝 教授 Vol.7 研究テーマ 研究者 北東アジアの人類文化生成研究・日本人の「森と木の文化」研究 所属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 国際文化コース 合理性と非差別という平等概念の二つの理解 所属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 法律学コース 会計士組織の職業社会学的研究 所属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース 強相関電子系の物理学 - 理系研究の楽しみ - 所属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 物理学コース 家具と建築の中間的領域 所属:システムデザイン学部 システムデザイン学科 インダストリアルアートコース 高次神経機能障害例のリハビリテーション 所属:健康福祉学部 理学療法学科 カテゴリー:考古学 カテゴリー:法学 カテゴリー:経営学 カテゴリー:物理学、ナノマイクロ科学 カテゴリー:家具・インテリアデザイン カテゴリー:神経科学 山田 昌久 教授 木村 草太 准教授 野口 昌良 教授 佐藤 英行 教授 鈴木 敏彦 准教授 網本 和 教授 9 研究にロマンを求めて ∼研究者から学生へのメッセージ∼ vol.8 登録番号 20(7)