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アラビア語チュニス方言のアスペクトを表示する前置詞

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アラビア語チュニス方言のアスペクトを表示する前置詞
「東 京 大 学 言 語 学 論 集 」32(2012.9)37-65
アラ ビア語チ ュニス方言のアスペク トを表 示す る前置詞
その統語的特徴 と意味
熊切拓
キー ワー ド:ア ラビア語 方言 統語論 前置詞 アスペ ク ト
継続相 習慣相 反復相 文法化
要旨
本稿 で はア ラ ビ ア語 チ ュニ ス方 言 の 前 置詞fi:-《
∼ の 中》 を取 り上 げ, この 前 置 詞が 動 詞 の アス
ペ ク トに関 わ る特 殊 な用 法 に つ いて,そ の統 語 的特 徴 と意 味 的特 徴 に関 して 記述 を 行 っ た。 統
語 的特 徴 と して は,こ の アス ペ ク トを表 示 す るfi:-が
基 本 的 には動 詞 未 完 了形 と直 接 目的語 との
間 に現 れ る こ と,動 詞文 で は な く名 詞 文的 な 否定 形 式 を とる こ と,自 動 詞 の補 語 とな る前 置詞
句 の 前置 詞 と交 代 す る場 合 が あ る こ とな どを指 摘 した。 また その 意味 的 特 徴 に は,動 詞 が瞬 間
的 な動 作 を 表 す場合 に は反 復相 と習慣 相 を,そ れ 以 外の 動 詞で は継 続 相 と習慣 相 を表 しう る こ
と,延 長 され た り,誇 張 されて い る行 為 を表 現 す る場 合が あ るこ と,ア スペ ク ト的fi:-に
続 く名
詞 の性 質 や 数 に よって も文 意 が 変 わ る こ とが あ り,こ れ らを踏 まえて,ア ス ペ ク トfi:-の も っ
と も基 本 的 な意 味 は継 続 相 と反復 相 で あ る と分 析 した。 さ らに,こ の アス ペ ク ト的fi:-の
文法的
範疇 につ い て考 察 を行 い,前 置詞 と しての働 き も保 持 しなが ら も,ア スペ ク ト標 識 と して 文 法
化 しつ つ あ る要 素 で あ る と結 論 づ け た。
1.導
入
1-1.対 象 とな る言 語
本 稿 が 対 象 とす る言 語 は チ ュ ニ ジ ア共 和 国 の首 都,チ
ュニ ス に お いて 話 され るア ラ ビ ア語 方
言 で あ り,ア ラ ビ ア語 西 方言 マ グ レブ 方言 に分 類 され る(中 野19四:477・479)。
た だ しチ ュ ニ
ス方 言 とい って も,本 稿 で 取 り上 げ る の は,生 粋 の チ ュニ ス住 民 が 用 い る伝 統 的 な 言 語
(Singer1984)で
も,チ ュニ ス のユ ダヤ 人 社 会 で 用 い られ る言 語(COhcm,D.1975)で
も な く,
移 住 者 を含 む チ ュニ ス の 住 民 全 体 が 共 通 に用 い る言 語(コ イ ネ ー)(G㎞2009:563)で
(2004年 の セ ンサ ス1に よ れ ば,チ
辺 の3県,Ariana,BenArous,Manouhaを
1-2.音
ある
ュニ ス の 人 口 は983,861,大 チ ュニ ス と呼 ば れ るチ ュニ ス 周
含 め る と2247,792)。
韻
母 音 は長 短 あ わせ て鴫
mC,£ ち",dd9,n,r,F,O,6,δ
馬a:,i:,ur,oの7種(た
だ し,o:が
借 用 語 に 現 れ る)。
∼s,或 ろ ∫3,LFlk,gx,y,q,h,9,?,Uw,yの33種
:チ ュ ニ ジ ア 国 立 統 計 院(http:〃www
.ins.mattn)に
よ る2004年
一37一
子 音 は,b,帆
。
セ ン サ ス よ り。2012年7月27日
閲覧。
叫
熊切 拓
1・3.文法 の あ ら ま し と略 号
語 順 はSVOも
し くはVSO。 動 詞 に は完 了形,未 完 了形,命 令 形 が あ り2,人 称 ・性 ・数(1
人 称 単 数/複 数,2人
称 単 数/複 数,3人
称 単 数 男性/単 数 女 性/複 数 通 性)に
よって 活 用 す
る3。名 詞 には 男 性 名 詞 と女 性 名 詞 が あ り,単 複 の 区別 が あ る。
な お,例 文 の 語 釈 な どで 用 い る略 号 は次 の通 り。
1,Z3:1人
称,2人
称,3人
称SG:単
数PL:複
AP:能
動 分 詞DEF:定
冠 詞FA:ア
FL:場
所 的fi:-FUT:未
来接 辞PERF:完
IMPR:命
令 形NEG:否
定 辞(も
数M:男
ス ペ ク ト的fi:-FI:イ
了形IMPF:未
性F:女
性
ディ オム 的 丘・
完 了形
し くは 否定 構 成 要 素)
1・4.資料
本 稿 で 用 い る資 料 は,1998年
か ら2011年 ま で の 断 続 的 な 現 地 調 査 に お い て 集 め られ た も の で
あ る 。 調 査 に 協 力 して くだ さ っ たWacelKrirさ
ん(男
性,40代,チ
LinguisticServices(hmPY/kNww,.曲cammノ)のFaroUkHcrziさ
出 身,チ
ュ ニ ス 在 住 歴17年)に
な お,本
ュ ニ ス 生 ま れ)とTakalanea
ん(男
性,30代,チ
ュニ ジ ア 西 部
感 謝 を 申 し上 げ る。
稿 で 扱 う例 文 の う ち,末
尾 に ロー マ 数 字 とア ラ ビア数 字 が組 み 合 わ され て 記 され た
も の が あ る 。 こ れ ら は チ ュ ニ ス 方 言 に よ る 物 語 集 ゐ肱 脚 躍誕 鶉
㎞ 広・ 『ア ル ウ ィ ー の 物 語 集 』
(al-cArwi:,9Abdal-cazirz1989al-Daral-Tumisi:yali-NaJzTUnis)全4巻
れ た も の で あ り,ロ
ー マ 数 字 は 巻 数,ア
の う ち は じ め の2巻 か ら採 ら
ラ ビ ア数 字 は ペ ー ジ 数 を示 す。
2ア ラ ビ ア語 お よ び諸 方 言 に お け る完 了形 と未 完 了形 とい う2種 の 動 詞 形 式 の 区 別 が アス ペ ク ト的 な もの
なの か ど うか に つ い て は議 諭 が あ り(Homsh2009:455),Eisele(2006:196)は,両
者 の 区 別 が ア スペ ク トと
い う よ りも,過 去 と非過 去(現 在 と未 来)と い う時 制 的 な も ので あ る とい う説 も あ る こ とを紹 介 して い
る。 その た め,こ の2つ の 形 式 の 呼 称 に つ い て は,純 粋 に形 態 的 な観 点 か らの み 名 付 け,名 称 にそ の 意 味
を反 映 させ な い とい う立 場 もあ る(Holes1995)。
とは い え,本 稿 で は ア ラ ビア 語 学 の 慣 用 に従 う。 な
お,動 詞 を語 彙 と して 提 示 す る場 合 は,や は りア ラ ビ ア語 学 の 慣 用 に従 い,完 了形3人
称単数男性形 を
も って す る。
3未 完 了 形 は動 詞 の未 完 了形 語 幹 に接 頭辞 と接 尾 辞 が 付 され る こ とで 形 成 さ れ る。 以 下,未 完 了形 語 幹 を
Xと し,一 般 的 な活 用 お よび例 と して 動 詞xras《 出 る》 の 活 用 を認 す ⑫ はゼ ロ形 式 を 表 す)。 母 音Vの 音
価 は未 完 了形 語 幹 に よって 決 ま り,ま たXの 最 初 の 音 節 が 単 子 音 で 始 ま る場 合 に は落 ち る。 さら に,未 完
了形 語 幹 が 母 音 で終 わ る場 合 に も複 数 に お い て例 外 的 な活 用 形 式 を とる。 な お,動 詞xra3の 未 完 了形 語 幹
xru5・
は,複 数 形 の すべ て にお いて接 尾 され る長 母音uの 存在 に よ り短 母 音 が落 ち,・n3・とな る。
単 数
複 数
1人 称
nV・X一 ②ln㎜3
nV・X・u:hriuxr3u:
2人 称
tV-X・ のttUxru3
tV・X・u脚
3人 称男性
yV。X一 のノyuxru3
yV・X・uYYuxr3u:(通
3人 称女性
tV-X・ のノtuxru3
一38一
性)
ア ラ ビ ア語 チ ュニ ス方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る前 置 詞― そ の統 語 的 特 徴 と意 味―
2.本 稿 で 取 り扱 う言 語 現 象
本 稿 で 取 り上 げ るの は,前 置 詞fi:・4《
∼ の 中 に 》 が他 動 詞 の 直 接 目的 語 に 前 置 され ア スペ ク
ト表 示 と して用 い られ る以 下 の よ うな現 象 で あ る。
(1)yakDlkuSksi:.
食 べ るIMF3SG.Mク
「
彼 は ク ス ク ス(料
ス クス
理 の 名 前)を
食 べ る。 」
(2)ya血1f侮1-kusksi:.
食 べ るIMPF3SGMFA-DEF一
クス クス
「
彼 は クス クス を食 べ て い る。 」
本 稿 で は,(2)に 見 られ る よ うに動 詞 ア ス ペ ク トに影 響 を与 え る この 前 置 詞 を アス ペ ク ト的fi=。
(語釈 で はFAと す る),こ
の 用 法 をfi:一
の アス ペ ク ト的用 法,そ
して こ の ア ス ペ ク ト的fi:一
が現
れて い る構 文 を ア スペ ク ト的∬:一
構 文 と呼 ぴ,こ の現 象 の統 語 的 ・意 味 的 な 記 述 お よ び分 析 を 行
う5。
3.先 行 研 究
前 置 詞 丘一
の ア ス ペ ク ト的 用 法 は,北
て お り,マ
ア フ リカ の さ まざ まな ア ラ ビ ア語 方 言 に お いて 報 告 され
グ レ ブ 方 言 全 体 に 見 ら れ る現 象 と考 え る こ と が で き る(M麟Ph19η:217)。
ず チ ュ ニ ジ ア 国 内 を 見 る と,チ
ュ ニ ス 方 言(Singer1988:624,(五
ダ ヤ 人 方 言(Cdhen,D.1975:136,248づ249),チ
1959:3080.30sa),チ
れ る(と
は,そ
は い え,チ
ュ ニ ジ ア 第3の
㎞2009:569),チ
ま
ュニ ス の ユ
ュ ニ ジ ア 中 部 の タ ク ル ー ナ 方 言(M禦sct(述ga
都 市 で あ る ス ー一サ 方 言(Talmoudi1981:39,nlo)が
挙げ ら
ュ ニ ジ ア 南 部 の 遊 牧 民 の ア ラ ビ ア 語 方 言 の 記 述 し たBods1958:475476に
の 報 告 が 見 え な い)。
ま た,チ
ュ ニ ジ ア 以 外 で は リ ビ ア の 方 言(東
言 はPa11曲1943:253-254),ア
部 方 言 はOwens1984:133・135,200,ペ
ンガシ方
ル ジ ェ リ ア の 方 言(功i4i㎏ 班方 言 はMatpeis,]nh1956:511-51Z
Chenthell方 言 は(imKMenry1972:14第
ア ル ジ ェ の ユ ダ ヤ 人 方 言 は(bhen,M1912:253),モ
ロッ
4前 置 詞五:・
は文 語 の 正 書 法 な ら び に方 言 で 一 般 的 に 流 布 して い る書 記 法 に お いて は,人 称 辞 が 接 辞 され る
場 合 以 外 は 分 か ち書 き さ れ る。 しか しな が ら,こ の 前 置 詞 は,他 の い くつ か の 前 置 詞 と同様,単
独で使用
さ れ る こ とが な い た め,接 辞 と して 扱 う。
s本 稿 は ,2㎜
年6月 のAFLANG研
究 会(ア
ジ ア ・ア フ リ カ言 語 文 化 研 究所)で
の 口頭 発 表 お よ び 第142回
日本 言 語 学 会 大 会 で の 口頭 発 表 「ア ラ ビ ア 語 チ ュニ ス 方 言 の アス ペ ク トを表 示 す る前 置 詞 」(熊 切
2011a)を
発 展 させ た もの で あ る。 口 頭 発 表 にお い て 有 益 な コメ ン トを くだ さ っ た 方 々 お よ び 本 稿 を査 読
して くだ さっ た 方 々 に感 謝 を 申 し上 げ る。
6fi:につ い て述 べ た 箇所 に は記 載 されて い な いが ,巻 末 の テ キ ス トに は ア スペ ク ト的fi:が見 られ る くibid=
188)。on・na:si]㎞:nuyi"orbufelqa:hwa...(1esgenssontentraindebOire!ecafe...)(強
一39一
調 は 筆 者 に よ る)。
熊切
拓
コの 方 言(Hatrell2004:209),モ
1963:216)で
ー リタニ アのハ ッサ ー ニー ヤ ・ア ラ ビア 語 方 言(Cd隅n
報 告 され て い る。
一 方 ,マ グ レ ブ方 言 に近 隣 す るマ ル タ語7,ま た エ ジ プ ト以東 の諸 方 言 で は,こ
う した ア ス
ペ ク ト的fi:・
は報 告 さ れて い な い よ うで あ る。 古 典 ア ラ ビ ア語,現 代 標 準 ア ラ ビ ア語 に も同様 に
存 在 しな い8。
この よ う にマ グ レ ブ方 言 の ひ とつ の特 徴 と もい え る アス ペ ク ト的 五:一
で は あ る帆
言 の 中 で も その 用 法 に は 違 い が あ る。 特 に,チ ュニ ス 方言 で は,Mion(20α
マ グ レ ブ方
りの 指 摘 す る よ う に
この用 法 が 他 の 方 言 よ りも発 達 して お り,独 自 に取 り上 げ る に値 す る もの で あ る。
アス ペ ク ト的 丘:・
に関 す る これ らの先 行 研 究 に お いて,統 語 的 ・意 味 的 に十 分 記 述 した もの は
な い よ うで あ る。 もっ と も,チ ュニ ジ アの タ クル ー ナ方 言(M躍sctG甫ga1959:30803082)
の 記 述 の 精 密 さ,そ
して リビ ア東 部 方 言(Owαls1984:133。135,200)で
の統 語 的 観 点 か らの 記
述 は特 筆 す べ き もの で あ る。 本 稿 で は これ らの先 行 研 究 を踏 ま えて,ア ス ペ ク ト的 五:一
の用 法 の
全 体 を 検 討 す る。
4.ア スペ ク ト的 用 法 以 外 の前 置 詞fi:・
の用法
本 論 に 入 る前 に,前 置 詞 丘:・
帆
ア スペ ク ト的 用 法 以 外 に どの よ うに使 わ れ て い るか を概 観 す
る。
前 置 詞fi:一
は,古 典 ア ラ ビ ア 語,現 代 標 準 ア ラ ビア語 お よび 多 くの 方 言 で 用 い られて い る。 そ
の基 本 的 な 意 味 は 空 間 に関 わ る もの(locadw)で
あ り,通 常 《∼ の 中 》 と訳 す こ とが で き る。
以 下 に挙 げ るの はチ ュニ ス方 言 の例 で あ る。
(3)maemm=「6arwlafglbiz
NEGe存
在 の 副 詞 ・NEG9机
∼ の 中 に 一DEF一部 屋
「そ の 部 屋 の 中 に は 机 は な い
。 」
さらに,こ の よ うな空間 的な意味が拡張 されて,時 間や抽 象物 の内部 を比喩 的 に表凱
(4)ma:-na=kgl・
NEG一
」「ha:3af…}-sg-s恥a:h・
食 べ るIMPElSG・NEGも
の
「わ た し は 朝 は も の を 食 べ な い
∼ の 中 に 一DEF一 朝
。 」
7た だ し,後 段 の 注25を 参 照 の こ と。
8た だ し,『 千夜 一夜 物 語」 と中世 の チ ュニ ジ ア人 作家 に よる資 料 中 に,こ の アス ペ ク ト的fi:・
が 数例 現 れ る こ
とをM姻scK殖g3(1959:3081)は
指摘 して い る。
9厳 密 に い え ば,無 標 の 否 定 形 式 の 後 部 要 素 と して現 れ る」1ま,否定 辞 で はな い 。
一40一
ア ラ ビア 語 チ ュ ニ ス 方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る前 置 詞― そ の 統 語 的特 徴 と意 味―
(5)humafi:-9eq1-x.
彼
∼ の 中 に一
理 性 ・3SGM
「
彼 は理 性 的 だ
。」
(Ofma:-fi:-h「faYdap41ziO
NEG-∼
「そ れ(そ
の 中 に あ る 一3SGM-NEG利
また,常
の 事 柄)に
益 はない
益
。」
に こ の前 置 詞 を伴 って用 い られ る 自動 詞 が あ る。 た だ し,本 来 的 な 場 所 的 な 意 味 と
の 繋 が りは必 ず しも明 らかで は な い。
(7)ttinr:;3tfi:-taliha
見 るPEREISG∼
の 中 に 一テ レ ビ
「私 は テ レ ビ を 見 た 。 」
(8)ma:-raUtassobffi:-h
NEG一 感 嘆 す る ㎜.1SG-NEG∼
「わ た し は 彼 に 驚 か な い
の 中 に ・3SG」M
。J
本 稿 で は,(3)∼ ⑤ の よ うに位 置 に 関 す る用 法 の丘・
を 場所 的 丘:一(語釈 で はFL),⑦,(8)の
う に 自動 詞 と と もに慣 用 句 を形 成 す るfi:一
を イ ディ オム 的 丘:。(語釈 で はH)と
よ
呼 んで,ア ス ペ ク
ト的 丘一と区 別 す る こ とに す る。
5.ア スペ ク ト的fi=・
の意味
チ ュニ ス のユ ダ ヤ 人 方 言 を記 述 したC6hen,D。(1975:248)に よれ ば
行 為 の 継 続 性(進 行性),②
に詳 細 に検 討 す るが,ひ
復 性 に関 して は⑨,③
行 為 の反 復 性,③
この アス ペ ク ト的fi:一
は①
行為 の習 慣 性 を表 す とい う。 意 味 に関 して は 後
とまず こ れ に従 う。 ① 行 為 の継 続 性 に関 して は前 掲 の(2),② 行 為 の 反
行 為 の 習 慣 性 に 関 して は(10)(未 完 了 形曲1の
の 動 詞kamの 完 了 形1人 称 単 数 形 で,こ
前 に置 か れ た㎞tは 存 在
こで は 未 完 了形 を後 続 させ て過 去 の 未 完 了 を 表 して い
る)を ご覧 い た だ きた い 。
(9)humaqa:gedi豊yaδ
彼
座 るAP.SG.M殴
亀
国b五:口y駕.
るIMPE3SGMFA-ISG
「彼 は わ た し を 殴 り続 け て い る
。J(反
復)
10こ の よ う に,人 称辞 を 接 尾 され た 前 置 詞 が 文 の 主 要 部 とな って 作 られ る前 置 詞 句 文 につ い て は,熊 切
(2009),熊
切(2010a)を 参 照 さ れ た い 。
11こ の 例 に現 れ る能 動 分 詞qatcadに 関 して は7-1で 詳 し く述 べ る。
一41一
熊切 拓
(10)㎞t曲1fi:一
㎞:胆q髄n㎝
あ るPERE.1SG食
べ るIMPEISGFA・
もの
「わ た し は 寝 る前 に 何 か 食 べ た もの だ
一方
。 」(習
前 に
四己
寝 るIMPF.1SG
慣)
,こ れ に対 し,ア スペ ク ト的fi:・
の な い未 完 了形 が 表 示 す るの は,(1)に み られ る よ う な
「彼 は クス クス を食 ぺ る(人 な の で
提 供 して も大 丈夫)」
とい う属 性 叙 述
,も
し くは④ に み
られ る よ うな習 慣 性 で あ る。
6.ア スペ ク ト的fi=・
の音形
アス ペ ク ト的fi:・
は,場 所 的 ・イ ディ オム 的丘一と音 韻 形 態 論 的 に ま った く変 わ る点 は な い。 母
音 の 前 で は 長 母 音i:が落 ち,f一 とな る。 人称 辞 が 接 尾 され た ときの形 式 を次 に挙 げ る(併 せ て,
動 詞 に接 尾 され る形 式 で あ る対 格 人 称接 尾 辞 も括 弧 内 に記 す。 な お,2人
称 単 数 と3人 称 男 性
単 数 には それ ぞ れ2種 の形 式 が あ るが,後 の もの は母 音 に接 尾 され る場 合 の形 式 で あ る)。
単 数
複 数
1人 称
fi:-ya:(一m:)
丘一na:(-ma:)
2人 称
fi:-k(oo」k)
fi:・
㎞(㎞)
3人 称男性
fi:-h(-u:1」h)
fi:一
㎞(」hh)(通
3人 称女性
fi:・ha:(-ha:)
性)
7.ア スペ ク ト伽:・の統 語 的 特 徴
こ こで は お もに統 語 的 な 観 点か らア スペ ク ト的 五:・
の 現 れ る環 境 につ いて 記 述 す る。
7-1.未 完 了形 との共 起
ア ス ペ ク ト的丘・と共 起 で き る動 詞 形 は未 完 了形 のみ で あ る。 完 了形12(11),命 令 形(12)と は共
起 で きな い13。
(11)yh麗zfo1・ka:s.ha1・ka:s.
持 ち 上 げ るIMP!F.3SGMFA・DEF・
コ ッ プ 詩 ち 上 げ るPERF3SGMDEF・
12伝 統 的 な チ ュ ニ ス 方 言(Singer1988:624)
方 言(Harrell2004:209)な
GuSga1959:3082)に
13未 完 了 形 は ま た
,タ
ク ル ー ナ 方 言(Ma劇setGu窟ga1959:3080),モ
ど で は 完 了 形 と 共 起 す る 例 が 見 ら れ る 。 ま た,タ
ロ ッコ
ク ル ー ナ 方 言(Marpaiset
は 能 動 分 詞 と の 共 起 例 も あ る。
,願
望 や 能 力 を 表 す 動 詞 の 後 に 置 か れ て 動 詞 連 統 を 作 る 。 こ の 場 合 に も ア ス ペ ク ト的fi:一
は現
れ る こ とは ない 。
m⑳m副
∼ で き るIMPEISG殴
コップ
鴨
」'nnqssrmna6hebfi:・k
るIMPF.1SG・2SG
「私 は 君 を 殴 る こ とが で き る 」
一42一
ア ラ ビ ア語 チ ュ ニ ス方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る前 置 詞― そ の統 語 的特 徴 と意 味―
芦hazzfo1-ka:s.
「
彼 は コ ッ プ を 持 ち 上 げ て い る。/彼
は コ ッ プ を 持 ち 上 げ た 。/(非
(12)hukkygddgok!ノ*hUltkfi:鱒ygddg⇔
掻 く㎜2SG手
文4)」
廻
・2SGFA一
手 ・2SG
「自分 の 手 を 掻 き な さ い!/(非
文)」
能 動 分 詞 は性 と数 で 活 用 し,行 為 の進 行 も し くは結 果 を表 しIS,ア ス ペ ク ト的fi:一
の表す継続
性(進
行性)と
も重 な りあ う。 しか しなが ら,こ の能 動 分 詞(13)も また アス ペ ク ト的 五:一
と共 起
す る こ とは な い16。
nhobbnuSrubqahwa'nhabbnuSrubfi:一(lahwa
∼ した い ㎜1SG飲
む ㎜1SGコ
ー ヒー
「私 は コ ー ヒ ー が 飲 み た い 」
nhobbOktUSrubqahwa.1血abb噸ktutrubfi:《1ahwa
∼ した い ㎜1SG・2SG飲
むIMFF2SGコ
ー ヒー
「私 は 君 に コ ー ヒ ー を 飲 ん で ほ しい 」
こ の 現 象 に は,動
詞 の ア ス ペ ク トの み な らず
議 論 の 範 囲 を 超 え る た め,本
こ の 言 語 に お け る 動 詞 の 法 体 系 も 関 わ っ て お り,本
14す で に 述 べ た よ う に 存 在 の 動 詞 ㎞nの 完 了 形 を 未 完 了形 の 前 に 置 く こ と で
る 。 同 様 の 手 立 て に よ っ て,継
た 」)。
稿の
稿 で は扱 わ な い もの とす る。
過 去 の 未 完 了 を 表 す こ とが で き
続 性 を 表 す ア ス ペ ク ト的 仕構 文 も過 去 に す る こ と が で き る(つ
ま り 「∼ して い
後 の 例(17)を 参 照 さ れ た い 。
15進 行 を 表 す 例:a;na:m姉:1・ftansa
私
行 くAP.SG.M-・
一に 一フ ラ ン ス
「私 は フ ラ ン ス に 行 く と こ ろ だ 」
結 果 を 表 す 例:a:na:ma:kol.
私
ま た,能
食 べ るAP.SG.M「
私 は も う 食 べ た(満
腹 だ)/寧
食 べ て い る」
動 分 詞 が 分 詞 と して よ り も 名 詞 と して 用 い ら れ る 場 合 も 多 い 。 】ka:tab《作 家(書
SG.M)》,qa:ta1《
殺 人 者(殺
16し か し な が ら,筆
すAP.SG.M)》,ma:kla{食
ぺ 物(食
ぺ るAP.SG.F)》
くAP.
な ど。
者 の 資 料 で は 直 接 目 的 語 を 取 る」'dd《 掴 む 》 が 完 了 形 と能 動 分 詞 でfi:を 伴 う 例 が あ
る。
帰 るIMPEISG掴
xdgmt-i:皿 ・goコnar3aCnJ3dd
事 一1SG「 帰 っ て 仕 事 に 就 こ う(文
むIMPF.1SG仕
ya:xi:Jaddfi=。ya:ma:-sayy3b.
結 局 掴 む.P駅F.3SG,MF-1SGNEG。
「結 局
,彼
「そ して(2日
分 の 仕 事 を 掴 も う)。
」
放 すPERF.3SG.M
は 私 を 掴 ま え て,放
饗 難彼描獣PSGM鶏
字 通 り に は,自
さ なか った 。 」
謂趨
鰹 で鍛qなるPE甑3SGM襲 聯 峨 驚 も
隈3思GF
の間 海 に浸 か りな が ら)彼 は そ の 板 を 掴 み続 け
,つ い に は 青 ざ め,骨 ま で 凍 って し まっ
た。 」
も し も この丘 が ア ス ペ ク ト的用 法 な らば,非 常 に 例 外 的 とい え るが,し か し これ は 《掴 む》 な どの 手 を
用 い る行 為 を 表 す 動 詞 が イ ディ オ ム的fi:を伴 う こ とが 多 い とい う事 実(例
え ば㎞bb…∫丘 《掴 む 》,SankoJ
fi:《掴 む 》,sallamfi:《 手 放 す 》)と 関 連 づ け て解 釈 す る こ とが で き るか も しれ な い 。 つ ま り,saddが 具
体 的 に手 で掴 む 場 合 に はイ ディ オ ム的fi:を伴 い,最 初 の 例 の よ う に比 喩 的 に チ ャ ン ス な どを 掴 む場 合 に は
直 接 目 的語 を取 る,と い う可 能 性 も考 え られ るの で あ る。
一43-一
熊切
拓
(13)h㎜mClallOCl-ni:.!顯rh㎜mq昂
彼
皿gq5:「yr.
い らつ か せ るAP.SGM-ISGFA-ISG
「
彼 は わ た し を い らつ か せ て い る
。/(非
文)J
また,未 来 を表 す接 頭 辞 肱 ∫を伴 う未 完 了形(14)で も アスペ ク ト的fi:・
は用 い る こ とが で きず
さ らに未 来 接 頭 辞 が な くて も未 来 を表 す 副詞 が あ るだ け で も不 適 格 とな る。
(14)yudWatz「ykadcSb笛
明 日Fur巻
くIMPF3sGMDEF一
圏bi脚!梱wab可
絨 毯FA-DEF一
伽dway㎞
幼bf働 油 胆
「
彼 は明 日絨 毯 を巻 くだ ろ う。/(非
文)/(非
軸b勉z画
胆
絨毯
文)」
とは い え,ア ス ペ ク ト的fi:構文 が 未 来 時制 で 用 い る こ とがで き な い とい うわ け で は な い。 存
在 動 詞kanの 未 完 了形 を未 完 了形 の 前 に置 け ば1未 来 にお け る継 続 を表 す こ とが 可 能 で あ る。
(15)i:ξ
蹴dmfi:1-il,(Ptrwamgat■1-9afzhu㎜ykun
も し も 行 くIMPF2SG∼
∼DEF一 喫 茶 店
∼ に 一DEF-10彼
あ る ㎜3SGM
yrsmbfi:・qahwaYa:di:.
飲 むrm3SG.MFA一
コー ヒー
「10時 に 喫 茶 店 に 行 け ば1彼
あ そ こで
は そ こ で コ ー ヒー を飲 ん で い る こ と で し ょ う 」
一 方 ,こ の アス ペ ク ト的fi:一
が な けれ ば常 に非文 とな る構 文 が あ る。 それ は動 詞qcad《 座 る,
留 ま る》 の能 動 分 詞qa:90d,qa:9da,qecgdim(順 に 男性 単 数,女 性 単 数,通 性 複 数)に 動 詞 未 完 了
形 が 続 き,「 ∼ し続 けて い る,∼
して い るJと い う意 味 を 表 す構 文 で あ る(熊 切2009で これ を
名 詞 文 の一 種 で あ る能 動 分 詞 文 と分類 した)。
(16.ti)hurvvaqa:cedykurkab」[≒
彼
泌za1もi那L
∼ して い るSG」M巻
「
彼 は絨 毯 を巻 いて い る
くIMPF3SGMFA.DEF一
絨毯
。」
(16・b)零huuaqa:gedykadc)bz,zarbi:ya.
リ ビ ア 東 部 方 言 を 扱 うOwens(1984:134)は,こ
去 の 継 続 を 表 す 構 文 に お い て も,ア
の 構 文 と と も に,動
詞㎞
《あ る 》 を 用 い た 過
ス ペ ク ト的fi:一
が 不 可 欠 で あ る こ と を 記 して い る 。 だ が,
チ ュ ニ ス方 言 で は必 ず しもそ うで は な い よ うだ。
(1η ・
噂i皿:」:ち
時
㎞t曲1(fi:・)sun(lwiSfat
関 係 詞 来 るPERF2SGあ
「
君 が きた と き
,私
るPERF.1SG食
べ る㎜1SG.(FA-)サ
ン ドイ ッ チPL
は サ ン ドイ ッチ を た く さん 食 べ て い た と こ ろ だ っ た 。 」
一44一
ア ラ ビ ア語 チ ュ ニ ス方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る 前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と意 味―
また,以 下 の よ うに過 去 の 習慣 を表 す 場 合 で も,ア スペ ク ト的 五:・
は な くて も よい 。
(18)噂
時
皿:」:ち
㎞t伽
関 係 詞 来 るPERE2SGあ
「
君が きた とき
,私
曲1(fl-)sundwi:tSat
るPEREISGい
っ も 食 べ るIMPE.1SG(FA-)サ
ン ドイ ッ チPL
は い つ も サ ン ドイ ッ チ を 食 べ て い た も の だ っ た 。 」
7-2.否 定 に お け る特 徴
この言 語 にお い て は,動 詞 文(主 要 部 に動 詞 が あ る文)の 一 般 的 な否 定 が 動 詞 を㎜:一と{で
挟 む こ とに よって 形 成 され るい っ ぽ う(8),名 詞 文(主 要 部 に動 詞 を含 まな い 文)はma:一 と一Jが
人 称 辞 を挟 ん だ形 式(例:3人
称 単 数 男性 は皿:一
㎞:-S,1人
数 男 性 形 に由来 す るmuJが,た
い て い の場 合,す べ ての 人 称 の形 式 に取 って 代 わ る こ とが で き
る)を 否 定 され る対 象 の前 に置 くこ とで形 成 さ れ る(詳
丘構 文 は,動 詞 文 と見 な す こ とが で きる に もか か わ らず
の例 。G㎞2009で
し くは熊 切2009参 照)。
称単
ア ス ペ ク ト的
名 詞 文 と同 じ否 定 形 式 を取 る((19)
も指 摘 あ り)。
(19)皿SYalStNNf'づ1・kU凪!㍉
NEG遊
称 単 数 はma:"㎡:-f。な お,3人
凹:・)UICbur・tfo1-kur`L
ぶIMPF3SGMFA・DEF・
ボ ール
「
彼 ら は サ ッ カ ー して い ま せ ん 。 」
い っ ぽ う,一 般 的 な 否 定 を形 成 す る皿 ・と抑
(あ るい は,だ れ も∼ な い)」(20),あ
うち後 者 が現 れ な い 否 定 形 式 「な に も∼ な い
るいは 「
∼ しか な い」(21)で は,ア ス ペ ク ト的 五:構文
は(22)と(23)のよ う に動 詞 文 と同 じ形 式 とな る。
(20)ma:一姐:th曲:負y.
NEG一 食 べ るPERF.1SG∼
す ら な にも
「わ た しは な ん に も 食 べ な か っ た
。 」
(21)fb-sg,」9Cba:hma:-kh:t㎞n】o肱
FLiDEF一 朝NEG一
食 べ るPERF.1SG∼
「私 は パ ン しか 食 べ な か っ た
だ け パ ン
。 」
(22)ma・magmolfi:-hatta=fay,
NEG一 す るIMPF.1SGFA-∼
す ら なに も
「わ た し は な ん に も して い な い 。 」
(23)ma:-yaka1㎞
NEG一 食 べ るIMEF3SGM∼
皿
飾1弼
㎞:.
だ けFA.DEF.ク
「
彼 は ク ス クス だ け を 食 べ 続 け て い る
ス クス
。」
一45一
熊切
拓
否 定 を作 る後 部 要 素 一fOな い(22)を,(M)の よ うに普 通 の ア スペ ク ト的 丘一を用 い た文 の否 定 の
よ うにma:一と一Jが
人 称辞 を挟 ん だ形 式 で 否 定 す る こ と も可 能 で あ るが,ど
ち らか とい え ば(22)
の ほ うが 普 通 の よ うで あ る。
(24)ma:-ni:「 ∫magmglfi:●hatta:Say,
NEG-1SG-NEG
こ こで,能 動 分 詞qatCOdが未 完 了 形 の 前 に置 かれ る場 合 をみ てみ る と,す で に述 ぺ た よ う に
この 構 文 は名 詞 文 の 一 種 と見 なせ るた め,ア ス ペ ク ト的 五:一
が あ ろ う となか ろ う と名 詞 文 と同 じ
否 定 形 式 が 適 用 され る((25)は アス ペ ク ト的fi:一
が な い例)。
(25)㎞mx6ixo暉a罪aコaha:6itka,魚:-kma:唖kず
も し も 取 るPERE2SGDEF一
qa:gedtahld:mga:-ya:.
∼ して い るAPSGM語
飛行機
るIMPF2SG∼
「あ の 飛 行 機 に 乗 っ て い た ら
,あ
あの
モ ダ リ テ ィ 辞17-2SGNEG-2S(}・NEG
と一1SG
な た は 私 と話 して は い な い だ ろ う。 」
(26)㎞ ㎜1m1ずqatgedya㎞51丘:・hmillFa's・u:M-2gs]
彼NEG3SG.M∼
して い るAP.SG.Mす
るIMPF3SGMFA.3SGM∼
「彼 は 自 分 の 考 えで そ れ を して い る の で は な い
つが現 れ な い否 定 形 式(こ
か ら 頭 一3SG.M
。」
こで は 「だ れ に も∼ な い」)で
は,ア ス ペ ク ト的 丘:一
を含 む 文 は次
の3つ の構 文 が 可 能 だ とい う。
(27)mu∫qa:gad'ykallamfi:-hatta:had.
NEG3SGM∼
「彼 は 誰 に も(電
して い るAP.SG.M∼
話 で)話
に 話 す ㎜3SGMFA・
して は い な い
(28)maga∫ady㎞
㎞
∼す ら 誰 にも
。」
五:。h血had.
NEG・ ∼ して い るAP.SGM
(29)qat9翻己matrykalhmfi:櫨.趾
NEG。 ∼ に 話 すIMPF3SG.M
な お否 定 に関 連 して付 け加 えれ ば,《 も う∼ しな い》 とい う表 現 はmα4a:dr『(た だ し9atdは
活 用 す る)を 動 詞 の 前 に置 くこ とで作 られ るが
これ は アスペ ク ト的 丘。とは共 起 しな い18。
17条 件 文 の 主 節 に 現 れ る こ の モ ダ リ テ ィ 辞 に つ い て は 熊 切(2010b
18た だ し 《∼ し か な い 》 と い う 表 現 で,ma:-Cecd-fO否
w・i:da・bi:hmec-9a:dySu:fillatfi尋
そ して ・急 に も う∼ し な い3SG.M見
,2011b)を
参 照 され た い 。
定 後 部 要 素 」が 現 れ な い 場 合 は そ の 限 りで は な い 。
」6qa=m【H・106]
しかFA・1)EF一 暗 闇
るIMPE3S(}M∼
「す る と急 に 暗 闇 し か 見 え な く な っ た 」
一46一
ア ラ ビ ア語 チ ュ ニ ス方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る 前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と 意 味―
(30)',ma:・・cadt-fna㎞lf韮
も う∼ し な い1SG食
磁
ぺ るIMPElSGFA・DEF・
パ ン
7」3.動 詞 と の 結 び つ き
ア ス ペ ク ト的 価:一
は 動 詞 の ア ス ペ ク トに 関 わ る が,統
で は な く,通
語 的 に 動 詞 に 格 別 強 く結 合 して い る わ け
常 の 前 置 詞 と同 じ よ う に 疑 問 詞 と結 合 して 文 頭 に 現 れ た り(31,32),動
れ て 現 れ た り(32),動
詞 との 間 に疑 問標 識
る 。 な お,(31)と(34)で
詞を省略 さ
前 置 詞 句 を 介 入 さ せ た り(33,34)す る こ とが で き
は ア ス ペ ク ト的fi:一
が 場 所 的fi:・
と共 存 して い る 。
(31)faJkumtkalk皿tewvvaf/et-ta:li:fom?
FA一誰
話 すIMPF2SG今FレDEF一
電話
「今 電 話 で 誰 に 話 を して い る の?」
(32)A:f,eL.「(qatged)ta虫kbl?B:(nakbDfi:-kuSksi:.
FA・何(∼
A:「
して い るSGM)食
ぺ るIMPF2SG(食
な に 食 べ て る の?」B:「
ク ス ク ス(食
べ るIMPElSG)FA一
べ て る)。
ク ス クス
」
(33)yalgab-fi:fも1.ku:ra?
遊 ぶIMI1F3SGMiEdi問
標 識FA-DEF一
ボ ール
「彼 は サ ッ カ ー して い る?J
(34)皿ifmbf塾lqahrwafi:-Swayyatay.
飲 む ㎜.1SGFレDEF喫
茶 店FA一
少量一
お茶
「わ た し は 喫 茶 店 で お 茶 を 少 し飲 ん で い ま 魂
ま た,直
接 目 的 語 を 並 べ る場 合 に は,ア
れ る 場 合((35)の
は じ め の2つ
」
ス ペ ク ト的 丘:一
を伴 う目的 語 が 接 続 詞 に よって 並 列 さ
の ア ス ペ ク ト的fi:。)も あ れ ば1そ
う で は な い 場 合 も あ る((3019
と(38))。
(35)w・ymffi:丘
血k4く 騨 痂1w-fi:」haJc-S-fClurfat
そ して 行 か せ るIMPF3SG.MFA一
そ の ・DEF。キ ャ ラバ ンPLそ
して ・FA・
そ の 。DEF一船PL
w-yrsoqfi:sl:yrw・y3ibfi:es【n-162】
そ して ・
輸 出 す るIMPF3SGMEA・
「そ して
,彼
商品
そ して 持 って く るIMPF3SG」MFA・
は キ ャ ラバ ン と輸 送 船 を 絶 え ず 送 り 出 し,商
商 品
品 を 輸 出 し た り,輸
入 し た り して い
る。 」
(36)kU皿barrhaASiffi:-bmalokyahkumb-isrn-u:
すぺて 土地
置 くAP.SGMFL,3SGM王SG治
め るIMPF3SGM∼
で.名 前 」3SGM
19た だ し,こ の 場 合 は 慣 用 的 に 「ジ ズ ヤ とハ ラー ジ ュ」 と常 に並 ぺ られ て 用 い られて い る た め か も しれ な
い 。(38)に つ い て も同様 の 事 情 が 考 え られ る。
一47一
熊切
拓
wう 胤 螂 ・1u五
「ヨ
・5呵aw≒b巴
そ して 一払 う1MPE3SGM》
「す べ て の 土 地 に 彼(ス
ラ ー ジ ュ(と
また,2重
俄3匹203]
彼 にFA'D】 匡F一
ジ ズ ヤ そ して 一DEF』ハ ラ ー ジ ュ
ル タ ン)は
も に 税 の 名 前)を
王 を置 き
,そ
の 王 は 彼 の 名 前 で 支 配 し,彼
に ジ ズ ヤ とハ
払 って い る。 」
に 目的 語 を取 る こ とので き る動 諏 蝕 《与 え る》 で は こ の アス ペ ク ト的丘・が 両 方
に現 れ る こ とも あ る(た だ し,こ の動 詞 に お いて は,与 え られ るモ ノが 直 接 目的 語,受 け 手 は
前 置 詞 レで 示 され る こ と もあ り,そ の場 合に は この レが ア スペ ク ト的 五:一
に 交代 した と も考 え られ
る。 次 節 を参 照 の こ と)。
(3乃h伽
血Jb【
。圃m㎞
∼ ま で も 長DEF一
メ ディー ナ
蜘
あ るPERF3SGM与
丘:抽
え るIMPF3SGMFA-3PL
f-is・smi'd【
皿一1S9]
FA。DEF・ セ モ リ ナ
「(あ ま りに も景 気 が 悪 い の で)メ
デ ィ ー ナ の 長 ま で も が 彼 ら(職
人 た ち)に
セ モ リナ を与 え
て い た。 」
7」4.他の前 置 詞 と交 替 す る ア スペ ク ト的fi:・
動 詞 と組 に な って用 い られ る前 置 詞ト 《∼ に》 や肱 一《∼ の 上 で 》 が ア ス ペ ク ト的五:一
と交 替
す るこ とが あ る。
《∼ に(前 置 詞1-)∼ を(直 接 目的語)教 え る》 とい う構 造 を持 っgallamで は、2重 の アス ペ
ク ト的fi:一
が 見 られ る。
(38)wJfxxqxged陪m血gsygallan㎞
そ して 一
長
座 るAP.SGMFLiDEF」
鈎 トwδ敵w・
曲
司
眠s
ハ ン マ ー ム の 休 憩 所 教 え るIMPF3SGM】FA-DEF一
人 々
誰[耳294】
FA・DEF。 沐 浴 そ して 一DEF」礼 拝
「
長 はハ ン マー ムの 休 憩 所 に座 って
,人
々 に 沐 浴 と礼 拝 を 教 え て い る 。 」
また,動 詞farkDSはつ ね に 前 置詞 倣 ・
を伴 って 《∼ を探 す 》 とい う意 味 で用 い られ る(39)魁
このqu・が アス ペ ク ト的fi:一
と交 代 す る場 合 が あ る(M姻S{嘘G噂1959:3081で
げ られて い る)。
(39)嵐ClatSl:10:。ya:fedUISaro歯
探 すPERF.1SG∼
血
の 上 で一
ペ ン ー1SGFA-DEF」
「私 は 自分 の ペ ン を 家 中 探 し ま わ っ た
家
。」
一48一
全部
も同 様 の 例 が 挙
ア ラ ビ ア語 チ ュ ニ ス 方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る前 置 詞― そ の 統 語 的特 徴 と意 味―
(40)qa:勉ed曲fi:纐:ro:・
∼ して い るSG」M探
す1MPF
.ISGFA一 ペ ン
「わ た し は ペ ン を 探 して い ま す 。 」
し か し,上
記 の 例 を 除 い て 前 置 詞 が ア ス ペ ク ト的fi:一
に 変 わ る 例 は,あ
ま りな い よ うだ20。
7」5.イデ ィオム 的fi=・
動 詞 と組 に な って用 い られ るイ デ ィオム 的丘:一
とアス ペ ク ト的 五:一
との 違 い は,① 後者 が 完 了形
と ともに は用 い られ な い の に対 して,イ デ ィオ ム的 丘一は完 了形 で も変 わ らず に現 れ る こ と,②
否 定形 式 が 異 な る こ とで あ る。 例 え ば
動 詞Sag3abは,完
前 置 詞丘一とペ アで 《∼ に感 嘆 す る》 とい う意 味 を表 す
了 形 で も丘・
が 現 れ(41),ま た未 完 了 形 で も通 常 通 り動 詞 文 の 否 定 が 適用 され
る(42)。
(41)SKssljbi五:■1L
感 嘆 す るPERE.ISGM-3SG.M
「私 は 彼 に 感 嘆 し た
(42)嘘
。 」
一n謡a36db∫fi:4L
NE(}感
嘆 す るIMPEISG-NEC}FT-3SGM
「わ た しは 彼 に 驚 か な い
。」
さて,動 詞qa1《 言 う》 は 「qa1+丘。
人+k㎞(kalma《
言 葉 》 の複 数形)」
で 《∼ に つ い て
否 定 的 な こ とを 言 う,陰 ロ を た た く》 とい う意 味 に な るが(43),こ れ に アス ペ ク ト的fi:・
が用 い
られ る と,イ デ ィオ ム的 丘:一
との 共存 が 生 じ る。(堺)では これ に さ らに場 所 的五:一
も加 わ って お
り,す な わ ち3種 のfi:一
が 同時 に 出現 して い る こ とに な る。
(43)Stq血fi:-yrk㎞
あ な た 言 うPERF.2SGH-1SG言
葉
「あ な た は わ た しの 陰 ロ を た た い た
(44)tUmayCIU:1fi:一
彼
。J
翼fi』klamfdrqahwa.
言 うIMPF3SGMH.1SGFA.言
葉FレD】
「
彼 は 喫 茶 店 で わ た しの 陰 ロ を 叩 い て い る
三F」
喫茶店
。」
な お,(翼)は また 動 詞 とア スペ ク ト的 丘:。
との 間 に別 要 素 が 介 入 して い る例 の ひ とつ で も あ る
((33),(34)を 参 照)。
動 詞 趾 ㎞ は直 接 目的語 を取 る と 《思 い 出 させ る》,イ デ ィオ ム的 価:。
を伴 う と 《∼ の こ とを
考 え る》 とい う意 味 に な る。 したが って,未 完 了形 でfi:・
が 用 い られて い る場 合,ア ス ペ ク ト的
20調 べ た 限 りで は 他 にlawura3Slec《
∼ を 探 す 》 が あ る が ,ア
一49一
ス ペ ク ト鰯:・ の 容 認 度 は 低 い よ う だ 。
熊切
拓
fi:・
とイ デ ィ オ ム 的fi:一
の ど ち ら に も 解 釈 で き る こ とに な る(45)。 も っ と も,通
常 は 文 脈 か ら推 測
で き る。
(45)nfakkxfi:-k
nMPF.1SG]剛
但A●2SG
「(イ デ ィ オ ム 的 丘一
で 解 釈)わ
た し は あ な た の こ と を 考 え る 。/(ア
ス ペ ク ト的 五:・
で 解 釈)わ
た し は あ な た に 思 い 出 させ て い る。 」
最 後 に,あ る構 文 で はイ デ ィオ ム的五:一
と とも に現 れ る要 素 魁
て現礼
別 の 構 文 で は直 接 目的 語 と し
アス ペ ク ト的丘一を とる とい う若 干 複 雑 な例 を挙 げ る。
動詞蝋
《盗 む 》 は 「
隅+所
有 者+丘 一
モ ノ」 で 《(所 有 者)か
ら(モ ノ)を 盗 む 》 とな る
が,こ れ に アス ペ ク ト的 丘・を適用 す る と(殉 の よ うに所 有 者 に付 く。 た だ し,こ の 場 合,「 今
盗 ん で い る」 とい う解 釈 は不 自然 な もの とな り,習 慣 と して理 解 され る。
(妬)㎞wa(dima)yosraqfi:-yafdl-flu's.
彼(い
「彼 は(い
つ も)盗
つ も)わ
むIMPF.3SGMFA.ISGFI.DEF一
た し か ら金 を 盗 ん で い る
しか しい っぽ う 「sraq+1一
所 有 者+モ
構 文 も あ り,そ の場 合,ア
(47》㎞=隅
彼
。」
ノー
所 有 者 」 《(所 有者)か
ら(モ ノ)を 盗 む》 とい う
スペ ク ト的丘。
が 付 くの は モ ノ の ほ う とな る(47)。
■1-i:fi:口f量1】:s日i:.
盗 むIMPE3SGM一
「彼 は(い
金
つ も)わ
私 か らFA一 金 一1SG
た し か ら金 を 盗 ん で い る
。」
8.ア スペ ク ト的fi=・
の意 味 的 特 徴
アス ペ ク ト的五:一
の意 味 に関 して は,す で に先 行 研 究 を も とに① 行 為 の 持 続 性(進 行 性),②
行 為 の 反復 性,③
行 為 の 習慣 性 を表 す と概 観 したカ㍉ 本 節 で は も う少 し詳 し く見 て み た い 。
だが その 前 に,前 節 を踏 まえて,ア ス ペ ク ト的 五:一
につ いて 統 語 的 に は 次 の よ うに定 義 す る。
① 常 に未 完 了 形 との み 現 れ る。
② アス ペ ク ト的丘一
が 含 まれ る文 の否 定 は通 常 の動 詞 文 とは異 な り,名 詞 文 の 否 定
形 式 を取 る。
す な わ ち,本 稿 で は上 記 の定 義 に合 致 す る ものの み アスペ ク ト的丘・と見 な し,そ れ 以外 の も
一50一
ア ラ ビア 語 チ ュニ ス 方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る前 置 詞― そ の統 語 的特 徴 と意 味―
の は以 下 の 議 論 で は扱 わ な い21。
&1.動 詞 の 意 味 との 関 係
こ こで は アス ペ ク ト的fi:一
と動 詞 の 意 味 との 関 係 に つ い て検 討 す る。
&1-1.継
続 相 と習 慣 相 を表 す 場 合
xzar《 ∼ を 見 る 》,斡f《 ∼ を 見 る 》,sma9《
怒 る》,㎜
《∼ を 信 頼 す る 》,蜘
hakk《 ∼ を 掻 く》,qa:1fi:+人kla:m《
す 》 と い っ た,類
∼ を 教 え る 》,yaff《
《∼ を 信 頼 す る 》 と い り た 持 雛
∼ の 陰 口 を 叩 く》,び 血bk《
似 した 行 為 の 集 合 か ら な る 集 積 的 な 行 為,倣
を 建 て る 》,gabba:《
∼ を 満 た す 》,qaSisc《
ア ス ペ ク ト的fi:一
と と も に 用 い ら れ る と,そ
行 ・持 続)か,習
∼ を 聞 く》,Calbm《
∼ に
の あ る 行 為,
∼ を 笑 わ せ る 》,qlab《
㎞qκ
騙
《∼ を 探 す 》,bna《
∼
∼ を 横 切 る》 な どの 完 結 性 の あ る 行 為(telic)は,
の 行 為 が ま さ に 行 わ れ て い る とい う継 続 相an(進
慣 相(Comric1976:27・128の
定 義 に 従 うas)の
どち らか を 表 す。
(48)xu:-ys!tU【zurfi:-ys?sa:q-i:tUsagw・antisa:k}t
兄 弟 一1SG見
「お い!俺
るIMPF2SGFA・1SG足
を 見 て る か?俺
(49)㎜
一1SG痛 む ㎜3SGFそ
の 足 が 痛 む の に ,あ
丘k鵬
日
続)
醐:・
通 るIMIF2SG∼
「君 が こ こ を 通 る の を 毎 日見 て い る 。 」(習
か ら一こ こ
慣)
(50)】tUwaqa{edyaqhi丘:一
彼
ん た は 黙 っ て る。 」(継
戯
見 るIMPE.1SGFA-2SG毎
して ・あ な た 黙 るAP.SG.M
翼
∼ して い るAPSGM
,騙 すIMPF3SGMFA・1SG
「彼 は 私 を 騙 し続 け て い る
。 」(継
続)
(51)diコnahumayaCllobfi=・ys・.
いっ も 彼
騙 すIMPF3SGMFA-1SG
「彼 は い っ も私 を 騙 す
。 」(習
2t例 え ば ,Ma劇sctGuiga(1959:3080)は
慣)
完 了 形 と ア ス ペ ク ト的fi:。の 共 起 す る 例 も 含 め て い る が,筆
は チ ュ ニ ス 方 言 に お け る そ う し た 例 の 少 な さ か ら,こ
辺 的 な 例 と して 理 解 す べ き だ と 考 え て い る(な
れ を 別 の 現 象,も
お,注16も
者 は
し く は ア ス ペ ク ト的fi:・の 非 常 に 周
参 照 さ れ た い)。
ま た,使
役 動 詞 に お け る被 使
役 者 に と っ て の 動 作 対 象 標 識 と して 用 い ら れ る 価:・
も,こ
こで の定 義 上 除 外 され る。
ma:・3ayygbt-ni:'ffi・1・kta:b「
あ な た は私 に そ の 本 を 持 って こ させ な か っ た 。 」
NEG・ 持 っ て こ さ せ るPERE.2SG・1SG・NEGF・DEF・
M動
本
作 的 動 詞 に つ い て い わ れ る の が 進 行 相(p負ogressive)
た も の を 継 続 相(continuous)と
と の 関 連 に お い て は,こ
の2つ
,さ
す るBybeeetal.(1994:126・127)の
ら に こ れ に 状 態 動 詞 の 進 行 ・継 続 相 を 含 め
定 義 に 従 う 。 少 な く と も ア ス ペ ク ト的fi=・
を 厳 密 に 区 別 す る必 要 は な い よ うに 思 わ れ る か らで あ る。
23[Habitu毫 』s]deseribeasituationwhichischara(rteriSdcofanextendedperiOdoftime
si㎞ 血onreferredtOisViewednotasanincidental餌}per電yofthemomentb叫p胴
ofawLolepcriod.(Comrie[1976:27・281)
一51一
,soextendedinfactthatthe
診cigely」asacharncteristicfkature
熊切
拓
(52)tUmay(1alloq丘
彼
一
翼.
悩 ま す ㎜3SGME《-1SG
「
彼 は 私 を 悩 ま して い る
。 」(継
続)
(53)tUNvakamyq幽qfi:-ya:.
彼
あ るPERF3SG.M悩
ま すam3SGMEA・ISG
「
彼 は 私 を 悩 ま した も の だ
(SC)qa:sed刺
∼ して い るAP .SG.M怒
。 」(習
慣,文
脈 次 第 で は 継 続)
「fi:・ha
「
彼 は彼 女 に 怒 って い る
る ㎜3SG.MFA,3SGF
。 」(継
続)
(55)tUmadirmYYilfffi:-ha
彼
いつ も
怒 るIMPF3SGMFA-3SGF
「
彼 は彼 女 に い つ も怒 って い る
(56)qa:gadnfarkas五:-stiro:.
∼ して い るAP .SGM探
。 」(習
す 】MPF3SGMEA.ペ
「
私 は ペ ン を 探 して い る
。 」(継
ン
続)
(57)hrwadi:may臨
彼
慣)
五:-stUJ.i:(yiibbb
い つ も 探 す ㎜3SG、MFA一
財 布 一1SG(∼ し た いIMI1F3SGM
ysxq-w!).
盗 むIMPF3SGM-3SGM
「
彼 は い っ も 私 の 財 布 を 探 して い る(盗
(58)hurway6ayyal⊃f=⇔
彼
む つ も りだ!)
慣)
】
』kuSlcsi:.
料 理 す るma3SGMFA-DEF一
ク ス クス
「
彼 は ク ス ク ス を 料 理 して い る と こ ろ だ
。 」(継
(59)di'mahumaytSayygbf⇔
いつ も 彼
。 」(習
続)
振k腿曲i:.
料 理 す る】MPF3SG.MFA-DEF・
「
彼 は い つ も クス クス を作 って い る
。 」(習
そ の 行 為 に 完 結 性 が あ る か ど う か,っ
クス クス
慣)
ま りtelicかatelicかど う か は,ア
ス ペ ク ト的fi:・との 関 連
に お い て は 意 味 の 違 い に あ ま り関 与 して い な い よ うで あ る 。
&1-2.反 復 相 と習慣 相 を 表 す場 合
瞬 間 的 な 行 為 や 短 時 間 で 対 象 に変 化 を与 え る行 為 を表 す 動 詞 が アス ペ ク ト的 五:一
と とも に用 い
られ る と,そ の 行 為 が 現 在 反 復 して い る とい う反 復 相(Bybeeetal.1994:127の
か,習 慣 相 か の ど ち らか を表 す』
24Iterative describes an event that is repeated on a particular occasion . (Bybee et al. 1994: 127)
一52一
定 義 に従 う24)
ア ラ ビ ア語 チ ュ ニ ス方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る 前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と意 味―
(ω)t紡`aya6Ctab五:・yr.
父
叩 く㎜3SG」M】FA-1SG
「父 は 私 を 何 度 も 殴 り続 け て い る
。 」(反
(61)bgatbgadi:mayaδ
父
励fi:口
復)
翼.
い つ も 叩 くIMPE3SG.MFA-1SG
「
父 は いつ も私 を 殴 る
。J(習
慣)
(②1㎜ya亀aC五:囲:da
彼
驚 か すIMIF3SGMFA-(人
名)
「
彼 は フ ァ リ ー ダ を 何 度 も び っ く り させ て い る 。 」(反
復)
(63)hlLmadirmyat3agfi:iiUi:da.
彼
いつ も
驚 か す ㎜3SGMFA・(人
名)
「
彼 は い つ も フ ァ リ ー ダ を び っ く り させ る 。 」(習
(畠)q鱒Ody血qqf…
∼ して い るAP .SGM叩
ト1-bab.
くIMPF3SGMEA-DEF一
「
彼 は ドア を ノ ッ ク して い る 。 」(反
(65)ku皿yu』nyduqqf…
毎 日
慣)
ドア
復)
》1-ba:b.
叩 くIMPF3SG.MFA-DEF一
「
毎 日彼 は ドア を ノ ッ ク す る。 」(習
ドア
慣)
8一り
一3.習慣 相 の み を 表 す 場 合
瞬 間 的 な行 為 を表 す動 詞 で あ って も習 慣 相 以 外 は 表 しに くい 場 合 が あ る。 これ は,そ の行 為
が短 時 間 に何 度 も起 こ る よ うな もの で は な く,反 復 され る た め に は あ る程 度 の 時 間 の 幅 が 必 要
とな るた め,結 果 と して あ る行 為 を その 時 間 の 幅 を特 徴 づ け る もの と して 見 な す 習慣 相
(Cumrie1976:27-28)と
変 わ らな くな って しま うか らで あ る と考 え られ る。 例 え ば 「あ る特 定
の 人 にお 金 を 与 え る」 とい う行 為 は,矢 継 ぎ早 に反 復 され る とい う よ りも,あ る程 度 の 間 隔 を
もって 繰 り返 され る こ との ほ うが 想 定 しや す い 。 そ の た め 「
何 度 も(反 復 して)お 金 を与 えて
い る」 とい う反復 的 事 態 は 一 定 の 時 間 の 幅 の 内 部 に位 置 づ け られ る こ と とな り,「 こ こ の と こ
ろ習慣 的 に お 金 を 与 え て い る」 とい う一 定 の時 間 の 幅 にお け る習 慣 的 事 態 とさ ほ ど変 わ らな く
な って しま うの で あ る。
(66)qatgedya脳:fi:一
∼ して い るAP .SGM与
「
彼 は(こ
こ の と こ ろ)彼
㎞fi:-flu:&
え るIMPF3SGMFA.3SGFEA.お
女 にお 金 を与 えて い る
金
。 」(習
慣)
また,継 続 や反 復 が 想定 し に くい場 合 に も,習 慣 相 以 外 の解 釈 が 取 られ る こ とは な い。 例 え
ば,(殉
の よ うな場 合,「 彼 が 私 の お 金 を 私 か ら(今,目
一53一
の 前 で)盗
みつ っ あ る」 とい う あ
熊切
拓
りそ うに な い継 続 相 的 解 釈 よ りも習慣 相 で解 釈 さ れ る のが 普 通 で あ る。
動 作 主 の 意 志 の 関 与 につ い て は後 に論 じる帆
の過 程(sayyb《
行 為 その もの(1qa《
見 つ け る》)や
行為
手 放 す 》)を 話者 が コ ン トロー ル で きな い場 合 に も,継 続 相 や 反 復 相 で の解
釈 は難 しい よ うだ。
(6のdi皿
囮1qαfel-flushu:ni:.
いつ も
見 つ け るIMPF.ISGFA・DEF一
金
ここ
「私 は い つ も こ こ で お 金 を 見 つ け る
。 」(習
(68)"qatgOdyalqa:fi:6ti:10:.
∼ して い るAP .SGM見
「(非 文)彼
慣)
つ け るIMPF3SGMFA一
ペン
は今 ペ ン を見 っ け つ つ あ る
。」
(69)y騨bfb・ddabtUza
手 放 すIMPF3SGMFA-DEF.瓶
「彼 は い つ も 瓶 を 手 か ら落 と す』 」(習
慣
。 彼 は 瓶 を 手 か ら落 と して い る,と
い う継 続 相 の 解
釈 は 困 難)
&14.遅
延 ・誇 張
8-1-2.と&1-3.で,瞬 間 的 な行 為 に 関 して は アス ペ ク ト的fi:一
が用 い られ た 場 合 に継 続 相 で解 釈
され る こ とは な い と したが
あ えて そ の よ うに解 釈 す る場 合 に は,そ の 行 為 が 通 常 よ り長 い 時
間 を掛 けて 行 わ れ て い る とい う遅 延 の 印象,手 間 取 っ た り,も た もた した り,ぐ ず ぐず して い
る印 象 を伴 う乃。
(ro)tUmaywaqqaffi:-k曲2重u乙
彼
停 め るIMM3SG.MFAPt3SGM
「彼 は 車 を 停 め て い る(も
た も た して 停 車 す る 印 象) 。 」(継
(71)q葡6dy電bgd丘:'sttS-i:mm-makurbur.
∼ して い るAP .SGM引
き 出 すIMPF3SGMFA一
続)
財 布 一3SGM∼
「彼 は ポ ケ ッ トか ら財 布 を 取 り 出 して い る(取
か ら・ポ ケ ッ ト・3SGM
り出 す の に 手 間 取 っ て い る 印 象)
。 」(継
続)
(72)幽:五:-sttrS-ubO∬mpbO"wayya
隠 すIMPF3SGMFA・
財 布 一3SGMゆ
っ くり ゆ っ くり
「ゆ っ く り ゆ っ く り彼 は 財 布 を 仕 舞 っ て い る
。 」(継
aSCOhen
,D.(1963:216)は,モ
ー リ タ ニ ア の ハ ッ サ ー ニ ー ヤ 方 言 で は,v・(<ア
復 に 加 え て 行 為 の 延 長(prolongationde1'aedon)を
ト的fi:一は 存 在 し な い が,AqlUi1ina(1987:333)は
WiUluscdaf㎞
26語 根KHRBか
続)
表 す と述 べ て い る 。 ま た,マ
ス ペ ク ト的fi:・)が 習 慣,反
ル タ語 に は この ア ス ペ ク
前 置 詞 刷 こつ い て 次 の よ う な 用 法 も あ る と述 ぺ る 。
℃血v曲stooonvcy伽ideaofme曲9伽utor㎞P㎞gw汕&th.
ら。
一54一
ア ラ ビ ア語 チ ュニ ス方 言 の ア スペ ク トを 表示 す る 前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と意 味―
この よ うな 遅 延 とい う表 現 性 か ら,さ ら に その 行 為 を大 げ さ な もの と して 印 象 づ け る誇 張 的
な表 現 性 が 生 まれ る27。
(73)tUwaqa{edYumYU6cfi:一
彼
㎞
∼ して い るAPSG.M噛
「彼 は 肉 を 噛 ん で い る(肉
モ グ モ グ して い る 印 象)。
むIMFF.3SGMFA一
肉
が とて も 固 く て 噛 み 切 れ な い,あ
」(継
る い は 肉 を ロ い っ ぱ い に 頬 張 って
続)
(74)ana:qatsedribbll五:●ri:q-i:蜘
私
・
∼ して い るAP.SGM湿
らす ㎜.1SGFA一
「(自 分 の 酒 豪 ぶ り を 誇 示 して)俺
唾1SGそ
は 口 を 湿 らせ て い る,そ
(75)harrtヨbga95:-y駕nuxtFじb(fi:一
ほれ
ほれ
婚 す るIMPEISGFI・
続)
肉
大 き い ∼ よ り ロ ー2SG
鉱t紺:9af「imtiank[II。115】
思 うPERF3SGF-ISG物
「ほ れ(お
れ だ け さ 。 」(継
㎞akbarminfUmm-Ok),
送 るIMPF2SGFA-1SG求
購1臥whoSbit,ni:佃baw舘
結局
れだけ
乞 い そ して 与 え るPERF3SGF-ISG20フ
前 の た め に 母 親 で あ る)私
に])求
婚 す る よ う に,お
親),私
を 物 乞 い だ と 思 っ て,20フ
が(お
前 の 口 よ り大 き な 肉 に[=身
前 は 私 を しつ こ く送 り 出 して る が,結
ラ ン ク くれ お っ た 。 」(継
局 はほ礼
ラ ンク
分 違 い の 家柄 の 娘
彼 女(娘
の母
続)
&1-5.痛 み や痒 み を 表 す 動 詞
ア ス ペ ク ト的 五:一
は,痛 みや 痒 み を 表 す 動 詞 と とも に継 続 相 で よ く用 い られ る。
(76)】【
『ayi:yaica1五:・
頭 一1SG食
翼.
「頭 が 痒 い
べ るIMPF3SG.M】FA-1SG
。 」(継
続)
(77)9im-i:t血aq丘
目 一1SG焼
一ya:.
け るIMP!F3SG.FFA-1SG
「目 が ヒ リ ヒ リ 痛 い 。 」(継
続)
(78)FatS・i:yu3agfi:-ya.
頭.1SG痛
むIMPF3SGMFA・1SG
「頭 が 痛 い 。 」(継
続)
こ の痛 み を 表 す 動 詞w3aCに つ いて,ア ス ペ ク ト的fi:一
の つ くもの とな い もの とで は 次 の よ うな
違 いが あ る とい う。
27モ ロ ッ コ 方 言 を 扱 うHarrelletSobelman(1966:32)に
る(todenoteexceseqpersistence)」
は
と あ る 。 ま た,英
,fi:・の 用 法 の ひ と つ と して
語 の 進 行 形 のernotiveな
1976:37)
一55一
「過 剰 と 持 続 を 意 味 す
用 法 も 参 照 の こ と(Cornrie
熊切
拓
(79)"atS.i:dimayuミ3agfi:匿
頭 ・1SGい
っ も
「い つ も 頭 が 痛 い(毎
(80)π『as6i:⊂Iiコロ
ロ
匪
塾
頭.1SGい
つ も
翼.
痛 む ㎜3SGMEA.1SG
回 あ る 程 度 の 長 さ を 持 っ た 痛 み が 習 慣 的 に 起 き る)
。 」(習
慣)
】
ソ
覧1ミpa9-ni:,
痛 むIMPF3SGM・1SG'
「い つ も頭 が 痛 い(瞬
間 的 な 痛 み が 習 慣 的 に 起 き る)
。 」(習
慣)
vv3aSはそ もそ も瞬 間 的 な痛 み を表 す 動 詞 で あ る と考 え られ るが,こ れ に ア スペ ク ト的fr一
が使
わ れ る場 合 に は,他 の瞬 間 的 な行 為 の 動 詞 の よ うに単 な る習 慣 相 で は な く,痛 み が 起 き る時 間
の延 長 と と もに習 慣 相 が 表 され る点 で 特徴 的 で あ る。
&16.ア
スペ ク ト的fi:・
と共起 で きな い動 詞
㎞bb《 愛 す る》 とい った 状 態 動 詞,あ る い は9taf《知 る》,SUt《
um1《
止 め る》 な ニ
知 り合 い にな る》,
ー 度 あ る状態 に達 した らその 状態 を取 り消 す こ とが で きな い よ うな 意
味 を持 つ 動 詞 は アス ペ ク ト的fi:一
と共 起 で きな い よ うで あ る。
た だ し,同 じ 《止 め る》 で も,《 一 時 的 に止 め る》 が 含意 さ れ るwaClqafiまアス ペ ク ト的fi:・
を
伴 う こ とが で き る。
(81)yvvaClqaffi:蜘
止 め る ㎜3SGMEへ
一タバ コ
「タ バ コ を 一 時 的 に 止 め て い る
。 」(継
続)
(肌)bumaJibatftSalfrduxxam
ま た,動
詞xalla:に は 《∼ に ∼ さ せ る,∼
《∼ 残 す 》 と い う通 常 の 動 詞 的 意 味 の2種
に ∼ す る こ と を 許 す 》 と い う使 役 ・許 可 の 意 味 と
が あ る が,こ
の う ち 使 役 ・許 可 的 意 味 で は ア ス ペ ク
ト的ff・
。は 使 え な い 。
(83)91a∫b縣
ど う して
曲:fi:・yrhu面:?
残 すIMPF2SGFA-1SGこ
こ
「ど う して 私 を こ こ に 置 き 去 りに し た ま ま す る の?
(84)触 血:五:-ya:bOSm姻
∼ さ せ るIMPF2SGFA.ISG∼
「(非 文)あ
。 」(継
続)
す る た め に 寝 るIMPEISG
な た は 私 を 寝 か そ う と して い る 」
&1-7.動 作 主 の 意 志 の 関 与
8-1・3.で,行為 そ の もの や,行 為 の過 程 に話 者 の 意 志 が反 映 で き な い場 合 に,継 続 相 や反 復
一56一
ア ラ ビア 語 チ ュニ ス方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と意 味―
相 で は解 釈 しに く くな る こ とを 指摘 した が
これ 以 外 に も,動 作 主 の 意 志 が アス ペ ク ト的fr一
の
意 味 に関 与 して い る と見 られ る例 が あ る28。
(85)?k疑1hbaセ
釦びヒ哀bfi:-y藍.
車
殴 るam.3SG.FEへ
。1SG
交通 事 故 の表 現 と して(85)が話 者 に とって お か し く感 じ られ るの は,こ れ が 「
車 が 私 を礫 い
て い る」 で は な く,あ た か も 「
車 が繰 り返 し私 にぶ つ か って い る」 よ うな 事 態 を 意 味 して い る
か らで あ る。 す な わ ち,意 図 して害 を与 え よ う と して ぶ っ か って い る とい う意 志 性 が
「
車が
私 を礫 く」 とい う事 態 の偶 発性 に そ ぐわ な い とい え る。
また,(16-a)の 例 に は 「
本 来 な らば す る必 要 も な いの にわ ざわ ざ 時 間 を か けて 絨 毯 を巻 いて
い る,ど う して だ ろ う」 とい う話 者 の い ぶ か しむ気 持 ち も加 味 され て い る とい う。 これ も,ア
ス ペ ク ト的丘一が 動作 主 の 意 志 を よ り強 く表 出 す るか らで あ ろ う。
さ ら にflirm《理 解 す る》 は アスペ ク ト的fi:一
と と もに用 い る こ とが で き るが,1人
称以外で は
容 認 度 が 落 ち る よ うで あ る。 これ は,話 者 が 自分 の意 志 で は制 御 で き な い他 者 の認 識 活動 を表
現 す る こ とに無 理 を感 じて い るか らか も しれ な い29。
(8(Damatng㎞fi:七
私
理 解 す る㎜.1SGFA-2SG
「わ た し は あ な た を 理 解 しつ っ あ る。 」
(8'7)?㎞Umaygfirm五:。k
彼
理 解 す るIMPF3SGMFA-2SG
S2.名 詞 との 関 係
前 節 で は ア スペ ク ト的fi:一
と動 詞 の 意 味 との 関 係 を見 て き たが,こ
の前 置 詞 に よって動 詞 と結
びつ け られ る名 詞 の 性 質 や 数 が アス ペ ク ト的 丘:構文 の 意 味 に影 響 を与 え る こ とも あ る。 例 え
ば
動詞㎞
《∼ を壊 す 》 の場 合,自 動 車 な どの よ うに時 間 をか け て壊 す こ とが で き る もの
は継 続 相 に す る こ とが で き るが,コ
(88)qatgedy㎞rfi:・kathha
∼ して い るAP .SGM壊
すIMPF3SG.MFA・
「
彼 は 車 を 壊 して い る。 」(継
28Bybeeeta1
29な お ,進
.(1994:136)で
ップ の よ う に一 瞬 で壊 れ る もの の場 合 に は そ うで き な い。
車
続)
は 進 行 相 に お け るactiveinvolvementofanagentが
指 摘 さ れて い る。
行 中 の 出 来 事 を 話 者 が 目 の 前 で 見 て い る か ど う か と い う 事 態 の 事 実 性(factuality)が
い るか ど う か に つ い て は,は
[1995:180-181】)を
っ き り と し た 例 を 得 る こ とが で き な か っ た 。 た だ し,他
見 る 限 り,可
能 性 が な い とは い え な い 。
一57一
関 与 して
方 言 の 報 告(Holes
熊切
拓
(89)「ykasser五:・ka:s.
壊 すIMIIF3SG、MEA・
「(非 文)コ
・
コツプ
ップ を割 って い る
次 の(9ので も,3人
。 」(継
続)
称 単 数 女 性接 辞 が,言 語 な どを指 す の で は な く,人(こ
の場合 は 「
彼
女 」)を 意 味 す る場 合 は継 続 相 で は表 せ な い。 これ は も ち ろん,言 語 な どは そ の 部 分 を忘 れ る
とい うこ とも あ り うる が,人 に 関 して は そ の よ うな事 態 は成 り立 た な いか らで あ る。
(go)qat9謡d1wwfi=-ha
∼ して い るAP .SGM忘
「わ た し は そ れ(フ
れ るIMPF3SGMFA・3SGF
ラ ン ス 語)を
少 しず っ 忘 れ て い る
。 」(継
続)
また,ア ス ペ ク ト的fi:一
の 後 の 名 詞 が 単 数 か複 数 かで 文 の 意 味 が 異 な る場 合 が あ る。
(91)1!urvvayhammblfi:-fUli:3a
彼
運 ぶam.3SG,MFA・
荷 物SG
「
彼 は ひ とつ の 荷 物 を(苦
労 して)運
(92)tUmaytmlfi:一
彼
ぼ う と して い る
続)
蝕h:3at
運GStlMPE3SGMFA.荷
物PL
「
彼 は た く さ ん の 荷 物 を 次 々 と運 ん で い る
。 」(継
名 詞 の修 飾 語 魁
。 」(継
続)
アス ペ ク ト的五:一
との 共起 に影 響 を与 え る こ とも あ る。(94)が 非 文 とな る の
は,修 飾 語 のlkUl1/kamla《全 部,丸
ご と》 が,ア スペ ク ト的fi:・
の 未 完 了性 と矛盾 す るか らで あ
ろ う。
(93)1awwa曲1丘
今
一Sqatlaku唖 面:vvahd-i:.
食 べ るIM朋.ISGFA一
大皿
クス ク ス ひ と りで 一1SG
「わ た し は 今 ひ と りで 大 皿 の ク ス ク ス を食 べ て い ま す 」
(舛)mblfi:Sqecltal-kllSksi:lkullZkamla.
同 様 の 理 由 か ら(95)も 非 文 と な る が,kta:b《
本 》 を複 数 形 に す る と適 格 と な る。
(95)㌔ 禦'f-il・ka:bha:6a:lkull
(96)na{pa:f・il4ktUbba:dWnallcUl1
読 むIM?F.1SGFA・DEF・
「わ た し
,こ
に 対 して,片
本PLこ
れ ら
全部
れ ら の 本 を 今 全 部 読 ん で い る と こ ろ(乱
雑 に置 いて あ る本 を片 付 け よ う とす る人
付 け な い で ほ し い と い う こ とを 伝 え よ う とす る,と
一58一
い う状 況 で)。
」
ア ラ ビア語 チ ュ ニ ス方 言 の アス ペ ク トを 表示 す る前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と意 味―
こ れ は,複 数 形 の㎞ 山を修 飾 す る1㎞皿が 一 冊 の 本 の 全 体性 よ りも本 の 複 数 性 を強 調 す る よ う
に な っ た た め,ア スペ ク ト的fi:一
の未 完 了 性 に抵 触 しな くな っ た た めで あ る と考 え られ る。
な お,主 語 が 単 数 で あ るか 複 数 で あ るか に よって,文 意 に影 響 が 出 る例 は今 の と ころ筆 者 の
資 料 に は な い。
&3.ア スペ ク ト的fi:・
の意味再考
上 述 の よ う に,ア ス ペ ク ト的 五:・
の意 味 は,① 継 続 相,② 習 慣 相,③ 反 復 相,④
延 長 と誇 張 の
4つ に分 け る こ とが で き る。
この う ち④ 延 長 と誇 張 は,① 継 続 相 と③ 反 復 相 を前 提 と した 二 次 的 な用 法 で あ り,ア ス ペ ク
ト的 丘:一
の 基 本 的 な意 味 とみ なす こ とはで き な い。
また,継 続 相 と反 復 相 の 関係 に っ いて 考 えて み る と,こ の 違 い は アス ペ ク ト的丘・固有 の違 い
とい うよ りも,動 詞 の性 質(瞬 間 的 行為 か ど うか)に 基 づ くも の と考 え られ る。 す な わ ち,継
続 相 と反 復 相 の違 い は単 に現 れ 方 だ け の もの で あ り,ア ス ペ ク ト的 丘一と して は 本 質 的 に は 同 じ
意 味 か ら生 まれ た もの とみ なせ る(た だ し この 「同 じ意 味 」 が いか な る もの な の か につ いて は
本 稿 で は論 じな い)。 そ こで,両 者 を合 わせ た もの を継 続 反復 相 と呼 ぶ こ とに しよ う。
す る と,ア スペ ク ト的 丘・
の 基 本 的 な意 味 は纏 続 反 復 相 と習 慣 相 の2っ
の ア スペ ク トに ま とめ
る こ とがで き る こ とに な る。
そ こで,次 に問 題 に すべ き は,こ の 両 者 の う ち どち らが よ り根 本 的 な 意 味 か,と
い う こ とで
あ る。
す で に本 稿 で挙 げ た 多 くの 例 で 示 され て い る よ うに,ア ス ペ ク ト的 五:一
が 習 慣 相 で 用 い られ る
とき,そ の ほ とん どがdira《 い つ も》,㎞ 助wm《 毎 日》 な どの 習 慣 を表 す 副詞(句)と
して い る。 あ る い は,(10)の よ うに存 在 の 動 詞 の 完 了形 と副 詞 節(qbalma:nurqud「
共起
寝 る前
に 」)と で 過 去 の 習 慣 を表 して い るかで あ る(た だ し,文 脈 次 第 で 継 続 相 も習慣 相 も意 味 しう
る(53)は除 く)。 そ して,副 詞 的要 素 な しに習 慣 相 が 表 され る場 合 は,そ
もそ も動 詞 の 意 味 か
ら して 習 慣 相 以 外 の解 釈 が で き な い場 合 に 限 られて い る(46,47,69)。
一方
,継 続 反 復 相 の 場 合 は これ とは異 な る。 能 動 分 詞 で あ るqa:gedが前 に置 か れ る例 は 多 い
もの の,そ れ を上 回 る数 がqa:gedも 副 詞 的 要 素 もな しで そ の ま ま継 続 反 復 相 を表 し うる ので あ
る。
ア ス ペ ク ト的fi:構文 に お け るqatgadの役 割 に っ い て は別 に考 え る必 要 が あ る に して も,少 な
く とも,継 続 反 復 相 と習 慣 相 を比 べ た 場 合,ア ス ペ ク ト的丘:・
構 文 に お い て も っ とも基 本 的 な 意
味 が継 続 反復 相 で あ る こ とは確 か で あ ろ う。
す な わ ち,ア スペ ク ト的丘構 文 とは,そ
もそ も纏 続 反 復 相 を表 す 形 式 で あ り,こ の 継 続 反 復
相 に必 要 に応 じて 副 詞 句 や 副 詞 節 が 与 え られ る こ とで 習慣 相 とい う アス ペ ク トが 生 じて い る と
一59一
熊切
拓
考 え られ るの で あ る30。
9.ア スペ ク ト蜘:・の 位 置 づ け
アス ペ ク ト的 五:・
の 統 語 的 ・意 味 的 な特 徴 を これ まで概 観 して きた が,こ
こで は これ らの諸 特
徴 を踏 ま えて,こ の 前 置 詞 が い か な る要 素 な の か につ いて 考 察 す る。
まず
が
意 味 的 に は この アス ペ ク ト的fi:・
が動 詞 未 完 了形 に密 接 に関 わ る こ とは 明 らかで あ る
それ で もな お,こ の 要 素 は 動 詞 の 付属 要 素 で あ る とい う よ りも,名 詞(句)に
接 辞 され る
前 置 詞 で あ る と考 え ね ば な らな い。 とい うの も,「7・3.動 詞 との 結 びつ き」 で 示 した とお り,
アス ペ ク ト的五:一
と動 詞 の結 び つ きは,そ れ と名 詞(句)と
の結 びつ き よ りも弱 い か らで あ る
(また,ア ス ペ ク ト的丘・
は 単独 で,つ ま り名 詞 句 を伴 わず に用 い られ る こ とは な い)。
とは い え,普 通 の 前 置 詞 に は な い特 徴 も あ る。 そ れ は ま ず動 詞 の 直接 目的 語 に付 く とい う こ
とそ の もの で あ り,さ ら に他 の 前 置 詞 と も限定 的で は あ る に して も交 替 しう る とい う点 で あ
る。 これ は ア ス ペ ク ト的五:・
が 通 常 の前 置 詞 とい う範 疇 を 抜 け 出 て,ア スペ ク ト標 識 と して 独 自
の特 徴 を 有 して い る こ とを示 して い る。
この よ うな脱 範疇 化 は 文 法 化 の ひ とつ の特 徴 を な して い る(HqppcretTraugptt20Q3:107,Heine
etKllteva2un:2)。
文 法 化 とは,語 彙 的 な要 素 な り構 成 が 文 法 的 な機 能 を表 示 す る もの へ と変
化 す る現 象 を指 し(Hq胆etT㎎
枕2003:】
【V),そ
の 変 化 にお いて,文 法 化 を被 りつ つ あ る
要 素 は,そ れ が 属 して い た 文 法 的 範 疇 の 統 語 的 ・形 態 的 特 徴 を失 う脱 範 疇 化 を 経 る こ とが 知 ら
れ て い る31。この 文 法 化 とい う観 点 が,普 通 の 前 置 詞 と しての 意 味 や 働 き とは 異 な る働 き を も
つ アス ペ ク ト的 五:一
を理 解 す る上 で 不 可 欠 だ と考 え られ る。
とこ ろ'e,dme(1976:8)は,ド
イ ツ語 の前 置 詞 血とフ ィン ラ ン ド語 の 部 分 格 が 進 行 相 を表 す
現 象 につ いて 触 れて い る32。 これ らの現 象 を踏 ま えて,ア ス ペ ク ト的fi:・
と文 法 化 を関 連 づ け る
上 記 の 説 に対 して,以 下 の よ うな2つ の反 論 を提 示 す る こ と も可 能 で あ る。
(a)fi:一
の アス ペ ク ト的用 法 も また,ド イ ッ語 と同 じ よ うに前 置 詞 の機 能 の ひ とつ と して 見 な す
こ とが で き る な ら ば
文 法 化 さ れ た アス ペ ク ト的 丘。とい う普 通 の前 置 詞 と違 う特 別 な 範 疇
をた て る必 要 は な くな る の で は な い か。
30(㎞e(1976:10S)に
お い て は 継 続 相 か ら の 習 慣 相 の 拡 張 が,Bybeeetal(1994:158・159)に
お い て は,継
続相 と
反 復 相 の そ れ ぞ れ か らの 習 慣 相 へ の 拡 張 が 諭 じ ら れ て い る。
3iWhenafermundergoesgramrnaticaliZationffOmalexicaltOagrammaticalfo叫
_ittendstolos紬e
morphologicalandsyntacxicprqpertiesthatwouldit!entifyitasafullmemberofarnajorgrammaticalcategorystch
asnounorverb.(Hq隈retT㎎
蹴2003:1(r7)
32こ の 点 に 関 し て,日
本 言 語 学 会 第142回
口 頭 発 表(熊
感 謝 を 申 し上 げ る 。
一60一
切2011a)に
お い て,同
様 の 指摘 が あ っ た。 こ こに
ア ラ ビア 語 チ ュ ニ ス 方 言 の ア スペ ク トを表 示 す る 前 置 詞― そ の 統 語 的 特 徴 と意 味―
(b)fi:一
の ア スペ ク ト的 用 法 は,フ ィ ン ラ ン ド語 の部 分 格 が そ うで あ る よ うに,そ れ が 導 く名 詞
(句)の 部 分 の み が 他 動 詞 の 影 響 を受 け る とい う五:・
の部 分 格 的用 法 か ら生 じた と考 え ら
礼
まず
厳 密 に い う とアス ペ ク ト表 示形 式 とは認 め られ な い の で は な いか 。
③ につ い て考 えて み る と,ア ス ペ ク ト的 丘:・
は,進 行相 を表 せ る動 詞 が 限 られて い る と
い う ドイ ツ語 の 前 置 詞血(C㎝
ゴc1976:8)と は 異 な り,多 くの他 動 詞 で 使 わ れ,ま
た 限定 的 に
だが 他 の 前 置 詞 とも交 替 しう る。 この 点 を考 え る と,こ の アス ペ ク ト的 丘:一
につ いて はや は り,
他 の場 所 的 五:一
や イ デ ィオ ム 的丘一とは 異 な るス テ ー タ ス の要 素 で あ る とみ な す べ きで あ ろ う。
また,⑤
に つ い て は,確 か に アス ペ ク ト的丘一
が その 後 に続 く名 詞(句)の
部分 性 を表 示 して
い る と見 られ る例 が 存 在 す る(8-2.の 諸 例 を 参照 され た い)33。 しか し,そ れ 以 上 に 多 く存 在
す るの が,そ の よ う な部 分 性 が 関 与 して い な い と考 え られ る例 で あ る。 例 え ば(50)《
や(60)《殴 る》,(62)《 び っ く りさせ る》 の 対 象 で あ る人,あ
騙 す》
るい は(5(り《探 す 》 の 対 象 で あ る
ぺ 若(70)《 停 め る》 の 対 象 で あ る車 な どにお い て は,部 分 性 を想 定 す る こ とは難 しいM。
そ も そ も,「4.ア ス ペ ク ト的 用 法 以 外 の 前 置 詞 丘:・
の用 法 」 に見 た よ う に通 常 の前 置 詞 と して
のfi:・
に は 部 分 格 的 用 法 と呼 べ る ものが な く,そ れ ゆ え,場 所 格 的 用 法 か ら部 分 格 的 用 法 が 派 生
し,そ こか ら アス ペ ク ト的且:。
が 生 じた と考 え る よ りも,前 置 詞 五:一
の 場 所 的 な 意 味 か ら直 接 アス
ペ ク ト的 用 法 が 生 じた と考 え る ほ うが 自然 で あ る(ま た,た
と え前 者 の 考 え方 が 正 しい と して
も,部 分 格 的 用 法 か ら は習 慣 相 や 反 復 相 の 発 生 を説 明 で きな い)。
さ ら に,文 法 化 研 究 に お いて も,行 為 の 継続 相 を表 す アス ペ ク ト標 識 が
しば しば場 所 を表
す 要 素 の 文 法 化 した形 式 で あ る こ とが 指 摘 され て お り(B)dWctal1994:131,HeineetKincva
20α2:202-203,ま た 日本 語 の 「
∼ して い る最 中ノさな か」 や 「
∼ 中 」[「 仕 事 中J,「
な ど]も 参 考 にな る),こ
建 設 中J
れ は,ア スペ ク ト的fi:一
を,場 所 を表 す前 置 詞fi:一
が継続反復相 のア
スペ ク ト標 識 と して 文 法 化 した もの とみ なす 説 を通 言 語 的 観 点 か ら補 強 す る もの で あ る。
そ こで,次 の 問題 とな るの が,ど の よ うな文 法 化 の 過 程 に よ り,ア ス ペ ク ト的 五:一
が,あ
は アス ペ ク ト的丘・
構 文 が生 じた の か,と い う こ とで あ るが,こ
るい
れ に 関 して は稿 を 改 め て議 論 す
る こ とと した ㌧㌔
33な お、 起 点 を表 す前 置 詞min・(定 冠 詞 と関 係 詞 の前 で はm。)《 ∼ か ら》 が 直接 目的 語 に付 いて 部 分 を 表
す用 法 が あ る。
ka:nt可 をUbm●ot.ta:yha:6a=,atfi:r」
も し 飲 むIMPE2SG∼
か ら一DEF一お茶 この 飛 ぶ1MPE2SG
「も し この お 茶 をい くらか 飲 め ば
、 君 は 空 を 飛 ぶ だ ろ う」
同様 の用 法 は 、 現 代 標 準 ア ラ ビ ア 語 等 の 文 語 に も見 ら れ る(以 下 の 引用 に お け る 語釈 は 筆 者 の もの)。
価
加1血
飲 むPERF.1SG∼
舎1pahrnt「
私 は コ ー ヒー を い くらか 飲 み ま した 。 」(新 妻2009:323)
か ら挿 入 母 音一DEF・
コー ヒー(属 格)
scた だ し,モ ロ ッ コ方 言 で は他 動 詞 の 目的 語 の 前 に現 れ るfi:一
が 継 続 性 の 他 にpartialnessをも表 す とい う
(Ha鯨e112004:209)。
一61一
熊切
拓
とは い え,ひ
とつ だ け触 れ るべ きは,こ の アス ペ ク ト的 五:一
の被 って い る文 法 化 が,す で に完
了 した もの で は な く,い ま ま さに進 行 中 の もの で あ る,と い うこ とで あ る3S。文 法 化 に お け る
この よ うな過 渡 的様 態 こそ が,こ の アス ペ ク ト的 ∬:。
の現 在 の 特徴
つ ま り原 則 的 に は 自動 詞 に
は適 用 で きな い とい う制 限36や,他 の 前置 詞 との 限定 的 な 交代 に関 わ って い る と考 え られ る。
10.結 論 と課 題
本 稿 で は,ア ラ ビ ア語 チ ュニ ス方 言 の アスペ ク トを表 示 す る前 置 詞 ∬:一
を取 り上 げ
そ の統 語
的 特徴 と意 味 的特 徴 を記 述 し論 じた上 で,こ の ア スペ ク ト的 丘一
が アスペ ク ト標 識 と して 文 法 化
しつ つ あ る要 素 で あ る と結 論 づ けた。
この ア スペ ク ト的 飯:一
の統 語 的 特 徴 の うちあ る もの は,そ れ が単 な る前 置 詞 で は な く,ア スペ
3S先 行研 究 に おい ては文 法化 の 一般 的 な過 程 として
,具 体 的 な語彙 か ら接 辞 を経 て屈 折 辞 にい た る とい う変化
が指 摘 され てい る(1b曲beeetal.1994:CO)。 とはい え,前 置 詞丘:・
は,名 詞 轍
れ(BI◎c㎞1908:333),す
《口(主 格形)》 に 由来 す る とさ
で に具 体的 な語 黎が 接 辞 にな る とい う文 法 化 を古 典 ア ラ ビア語 の成 立 以前 の
段 階 で経 て い る。 ゆ え に,あ くまで も憶 測 に過 ぎな い潮
も しか りにア スペ ク ト的fi:一
力吟 後 が この まま文 法化
し続 け るな らば,そ の変化 は接 辞か ら動 詞屈 折辞 へ と至 る もの にな るか も しれ な い(も っ とも,古 典 ア ラビ ァ
語,現 代 標 準 ア ラ ビア藷,近 隣 の方 言が チ ュニ ス方 言に対 して持 つ影 響 力 を考 慮 すれ ば1そ う した 変化 が 起 こ
る可 能性 は非常 に低 い)。
36直 接 目的 語 を もた な い 自動 詞 文 にお い て継 続 反復 相 を表 示 す る場 合 に は2つ の 手 立 て が あ り う る。 ひ と
つ は す で に述 べ た よ う に,自 動 詞 が イ ディ オム と して前 置 詞 句補 部 を取 る場 合 に は,こ の前 置詞 が ア スペ
ク ト的fi:・
と交代 す る(「74.他
の 前置 詞 と交替 す るア スペ ク ト的fi:一
」)。 しか しな が ら,こ の 交代 は非 常 に限
定 的 な もの で,通 常 は自動 詞文 の継 続 反復 相 は能動 分 詞qa:ged(お よびそ の活 用形)を 動 詞 の 前 に置 くこ とで
表示 され る。継 続 相 の例 と して は(45)があ り,ま た次 の例 は反 復相 の場合 で あ る。
1a:,ha:・ni:qa:C:dn3i:
NEGほ
ら一1SG∼ して い るAP.SG.M来
るMPRISG
「(「 こ こ しば ら く君 を この 喫 茶 店 で見 なか っ た ぞ!」 とい う雷 葉 に対 して)い や
,ご 覧 の 通 り,私 は来
っ づ け て い る よ」
また,他 動 詞文 で も直 接 目的 語 が 明示 され ない 場 合,継 続 反 復 相 はや は り表 示 され な い が,そ の場 合 に
も能動 分 詞q婿5d(お
よび そ の活用 形)が 用 い られ る。
qa:cadnab㎡:u・ngalli:.
∼ して い るAP .SG.M建
て るnPF.1SGそ
「私 は 建築 し高 く して い る(=胸
して・
高 くす るmPEISG
算 用 して い る)」
い っ ぽ う,習 慣 相 に つ いて い え ば,自 動 詞 文 と直接 目的 語 の な い他 動 詞 文 で これ を表 示 す る場 合,未 完
了 形 自体 に 習慣 を表 す用 法 が あ るた め,qatCOd(お
よび その活 用形)な
しで も習慣 相 を表 しう る((4M鋤
の
例 も参 照 され た い)。
額:㎜3SGF鶉
響 嶺
㎜3SGF聯
う㎜3SGF謙
で梛
スーク鵠
をする㎜3SG調
艦 め一DEF一
夕食
蝿 】
「
彼女 は市場 に売 りに行 って は タ食 の買 い物 を し,羊 毛 を仕入 れ る」
す なわ ち,こ の 言 語 にお いて は未完 了形 そ の ま まで 表 され る習慣 相 と,ア スペ ク ト的行:・
に よって 表 され る
習 慣 相 とい う2租 の 習慣 相 が あ る とい う こ とに な る。 しか し,こ の 両 者 の 違 い に 付 い て は今 の とこ ろ は っ
き り と した こ とは分 か らな い。
一62一
ア ラ ビア 語 チ ュ ニ ス方 言の ア スペ ク トを表 示 す る 前 置 詞― そ の 統 語 的特 徴 と意 味―
ク ト標 識 と して 文 法 化 して い る と理 解 す る こ とで説 明 で き る よ うに 思 わ れ る。 例 え ば,完 了 形
との 共起 不 可 は ア スペ ク ト標 識 と して五:一
が 完 了 とい う アスペ ク トと相 容 れ な い た め で あ り,ま
た 他 の 前 置 詞 との交 替 は,こ の ア ス ペ ク ト的fi:。
の 使 用領 域 が 拡 大 しつ つ あ るた め と考 え られ
る。
しか しなが ら,動 詞 ア ス ペ ク ト標 識 が動 詞 で な く直 接 目的 語 に付 く前 置 詞 に よ って表 示 さ れ
る に至 っ た経 緯 や,こ の ア スペ ク ト的 五:・
構 文 の 否定 形 式 が 一般 的 な 動 詞 文 否 定 と異 な る とい う
例 外 的事 象 に 関 して は,ア ス ペ ク ト標 識 と して のfi:一
の 意 味 機 能 か らだ け で は 説 明 で き る もの で
は な く,い か な る文 法 化 の 過 程 に よ って アス ペ ク ト的∬:構文 が 発 生 した の か とい う通 時 的 観 点
を踏 ま え た さ らな る考 察 が 必 要 で あ る。
ま た,丘 ・の ア スペ ク ト的用 法 が,こ の言 語 の他 の動 詞 形(ア
完 了形,能
動 分 詞)と
に あ るか,あ
スペ ク ト的丘一の な い 未 完 了 形,
どの よ うな 関 係 に あ り,ア スペ ク ト体 系 全 体 と して どの よ うな位 置 づ け
るい は この 言 語 に お け る動 詞 の法 と どの よ うな 関 係 に あ るの か につ いて も本 稿 で
は 触 れ られ ぬ ま まで あ った 。
そ して,も
うひ とつ,古 典 ア ラ ビ ア語,現 代 標 準 ア ラ ビア語,そ
して 各 方 言 に お け る アス ペ
ク ト体 系 との 比 較 も ま た考 察 すべ き重 要 な問 題 で あ る。
特 に,多
くの ア ラ ビ ア語 方 言 で発 達 して い る,未 完 了形 に ア ス ペ ク ト標 識 を接 頭 させ て,継
続 相 や 習慣 相 を表 示 す る文 法 形 式 は,チ ュ ニ ス方 言 のfi:一
の ア スペ ク ト的用 法 と重 な りあ う点 が
大 き く興 味 深 い37。い わ ば,意 味 的 には 同 じ方 向 を 向 きつ っ も,統 語 的 に は未 完 了形 の 前(接
頭 辞)か 後(ア
スペ ク ト的 ∬:一)かとい う点 で 反 対 方 向 に発 達 した わ け で あ り,そ れ ぞれ の 発 展
の 成 り行 き を究 明 す る こ とは,チ
ュニ ス 方 言 ば か りで な くア ラ ビ ア語 方 言 全 体 を理 解 す る上 で
も本 質 的 な事 柄 を含 んで い る と考 え られ る。
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ト標 識 接 頭 辞 の つ い た 未 完 了形 との違 いが 諭 じ られて い る。 な お,マ
グ リブ方 言 に お いて も,ア スペ ク ト
標 識 接 頭 辞 を持 つ 方 言 が あ り,中 に は ア スペ ク ト的 行:一
と共 存 して い る場 合 もあ る。
一63一
熊切
拓
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『ア ジ ア ・ア フ リ カ 言 語 文 化 研
京:ア ジ ア ・ア フ リ カ 言 語 文 化 研 究 所
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Glassra,pt.G6teborg:ActaUnivcrsitatisGothob㎎
Syntactic
of the aspectual
㎝sis.
features
preposition
and meaning
of an Arabic
Kumakiri
Keywords:
dialect
of Tunis.
Taku
Arabic, Dialect, Syntax, Aspect, Continuous,
Habitual,
Iterative,
Grammaticalization
Abstract
It is a well-spread phenomenon in Arabic dialects of North Africa that the locative prepositionfi:"in" introduces a direct object of transitive verbs
, expressing aspectual values such as continuous,
iterative, and habitual. The author first describes syntactic features of this aspectual usage of the
preposition in TunisianArabic, which is the one of the dialects that have developed this usage most.
Further description of its meaning reveals that the iterativity of the aspectualfi:- correlates with the
punctuality of verbs on the one hand, the continuity correlateswith non-punctuality of verbs on the
other, and that the most basic meaning of this usage is continuous-iterativerather than habitual. The
author, examiningthe whole range of its usage, concludesthat the aspectual prepositionfi:- is in the
process of grarnmaticalizationtoward an aspectualmarker.
(く ま き り ・た く)
一65一
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