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(研究 2) 高齢者世帯の経済分析

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(研究 2) 高齢者世帯の経済分析
(研究 2)
高齢者世帯の経済分析
はじめに
人口の高齢化の急速な進展とともに、経済・社会環境が変化するなかで、将来の高齢者の安定した生
活を維持することが大きな課題となっている。人口に占める 65 歳以上の高齢者の比率は、1995 年の
14.8%から 2050 年には 33.4%にまで急速に高まって行くことが見込まれている。こうした人口高齢化の
国民生活に及ぼす影響は、以下のような三つの形で現れる。
第 1 は、投資、貯蓄、経済成長等のマクロ経済活動の低下を通じたものであり、労働力供給の長期的
な減少は、国民一人当たりの所得の伸びを低下させる大きな要因となる。第 2 に、公的年金や医療保険を
通じた財政規模の拡大であり、勤労者世代から高齢者世代への所得移転の増加が、高齢者の生活の大き
な支えとなる一方で、そのための勤労者世代の負担は、経済成長の減速と相俟って大きく増加する。第
3 に、家族行動の変化であり、高齢者世帯内部での所得・資産格差拡大や親子の同居率の低下にともない、
高齢者の生活形態はいっそう多様なものとなる。これらの内、我々の論文は、主として最後の点につい
て検討するが、高齢者の生活水準の実態を分析することは、公的年金制度を通じた、所得再分配の最適
な水準をめぐる議論とも密接に関連している。
これまで日本の社会においては、高齢者の家族が、その生活を支えるために大きな役割を果たして来
た。しかし、公的部門と同様に、過去の経済発展のなかで、家族の役割にも大きな変化が生じている。
こうしたなかで、高齢者の生活の安定を、社会保障制度の枠内でどこまで確保するかは、高齢者の経済
的な地位と、公的部門と代替的な組織としての家族の役割にも大きく依存する。高齢者家族の経済行動
を考える場合には、以下のような点が大きなポイントとなる。
第 1 は、高齢者の経済的地位の評価である。戦後の高度成長の過程で、高齢者の経済的な地位は大幅
に改善し、最近時点では、無職の高齢者夫婦世帯の消費水準は、全世帯平均の 7 割に達している。これ
は、高齢者世帯では平均的な世帯と比べて世帯人員が少ないことを考慮して世帯員一人当たりの消費水
準で見ると、逆に全世帯平均を 3 割も上回る状況となっている。しかし、高齢者世帯の大きな特徴はそ
の多様性にある。所得・消費・資産の水準の不平等度は全世帯平均と比べて極めて大きく、また高齢者
の健康状態によっても、その生活の状況は大きく変化する。
第 2 に、高齢者の就業行動の分析である。日本の高齢者の就業率は、先進国のなかでは群を抜いて高
い。また、欧米諸国で、高齢者の早期退職が強まる傾向にあるなかで、日本では逆に 1980 年代後半期よ
り高齢者の就業率が高まるという現象が見られている。こうした高齢者の高い就業率の要因は何か、ま
た、それが長期的に持続するか否かが注目を浴びている。また、高齢者自身が就業しなくとも、同居世
帯員の家事・育児を手助けすることで、その就業を促進するという面もある。こうした高齢者や既婚女
性の就業の動向は、高齢化社会における勤労者世代の負担を考える上で大きなカギとなる。
第 3 に、高齢者の貯蓄行動についての検討である。これまで日本の家計貯蓄率が高いことの大きな要
因としては、老後の生活に備えた勤労者世帯の貯蓄意欲の高さが指摘されていた。しかし、同時に、高
齢者の就業率が高く、本来であれば貯蓄を取り崩して生活する無職世帯の比率が、相対的に低かったこ
とも大きな要因としてあげられる。また、子供世帯と同居する高齢者の比率が高いことも、家計規模の
利益を通じて世帯員当たりの生活費を節約し、結果的に家計貯蓄率を高める要因となるという仮説を検
討する。
−79−
第 4 に、高齢者の生活にとって大きな影響を及ぼす親子同居率の決定要因について考える。高齢者同
居世帯の全体に占める比率は、歴史的には低下傾向にある。これは、高齢者や子供世帯の所得水準の向
上により、家計規模の利益を犠牲にしても、なお親子別居を選択する行動が、より普遍的なものとなっ
ているためと見られる。なお親子同居の決定要因は、自営業と雇用者 (サラリーマン) 世帯では大きく
異なるため、両者を区別して考える必要がある。
最後に、高齢者やその家族の行動について検討することを通じて、社会保障制度の在り方を含む、高
齢者についての公共政策全般についての政策的な意味を検討する。なお、以下で用いる主要な基礎資料
は、厚生省「国民生活基礎調査 (1992 年度)」の個票データを再集計したものである。データの出所が特
に明記されていない場合はこれによっている。
1.高齢者の経済的地位
勤労者世代と比較した高齢者の平均的な所得・消費水準を把握することは、公的年金や医療・介護保
険などの社会保障制度を通じた所得再分配の規模について検討する上でも、重要な役割を果たす。また、
高齢者の生活水準は、勤労者世帯と比べてきわめて多様であり、高齢者層内部での生活水準の格差とそ
の要因についても検討する必要がある。
(世帯数の動向)
高齢者の生活水準について考える場合に、まず、高齢者を世帯単位で捉えるか、それとも個人単位で
考えるかの区別が重要である。高齢者の年齢別に見た世帯主比率を見ると、60∼69 歳層ではその内の 8
割が世帯主であるが、70∼79 歳層では 5 割強、80 歳以上では 3 割弱にまで低下する。子供等の家族に扶
養される高齢者の比率はこれに反比例して高まり、単独で生活する高齢者の比率は、80 歳以上でも 1
割強に過ぎない (図 1)。これは高齢者の過半数が単独で生活する米国と比べた大きな違いである。この
ように、高齢者の年齢が高まるほど、世帯主である比率が急速に低下することから、総務庁「家計調査」
等の、世帯主を基準として年齢別の世帯所得水準や貯蓄率を比較する場合に生じる、
「標本選択上のバ
イアス (Sample selection bias)」に注意する必要がある。これは同一の年齢層でも、所得水準の低い高
齢者ほど被扶養者となる確率が高いことから、結果的に年齢層が高まるほど豊かな高齢者が世帯主とし
て残ることから生じるものである。
もっとも、家族内において、誰が世帯主として意識されているかという場合、個人の所得の大小だけ
が唯一の要件ではない。年齢別に見た世帯主比率と最多所得者比率との間には、特に高齢者層でギャッ
プが存在しており、高齢者の場合には、最多所得者でなくとも世帯主としてとどまる可能性が大きい。
家族のなかで世帯主となる確率に影響する要因について検討すると、最多所得者であることがもっとも
重要であるが、それ以外にも年齢が高いこと、男性であること、要介護者でないこと、等の条件も影響
している。
親子が同居する三世代家族で、どの時点で「世帯主」の交代が生じるかは興味深い点である。これを
地域別に見ると、大都市と比べて郡部では、最多所得者 1*と世帯主とのギャップが大きく、年齢や性別
などの社会的な要因が、個人所得という経済的要因と比べて、より重要なことが伺われる (表 1)。
1*
総 務 庁 「 家 計 調 査 」 等 で は 、 家 族 の な か で 最 多 所 得 者 を 世 帯 主 と し て 定 義 し て い る が 、「国民生活基
礎調査」では、世帯主と最多所得者とは別記されている。
−80−
図1
表1
年齢別高齢者の類型
世帯主の決定要因 (プロビット・モデル)
(1) 世帯構造区分別
変数
最多所得者
年齢
性別 1)
要介護 2)
標本数
対数尤度
総世帯
確率
T値
0.628897
0.005994
-0.253859
-0.043874
150.5
87.0
-84.9
-6.8
109,579
-16634.9
夫婦のみ世帯
確率
T値
0.565148
0.006592
-0.957097
-0.227880
17.9
5.3
-44.5
-2.5
夫婦と未婚の子
確率
T値
0.280527
0.000897
-0.200403
0.002800
70.9
49.4
-46.0
0.9
片親と未婚の子
確率
T値
0.600129
0.015719
0.115653
-0.230020
31.5
27.1
5.9
-4.4
三世代世帯
確率
T値
0.339812
0.002668
-0.135710
-0.021630
60.8
48.2
-46.2
-6.4
その他世帯
確率
T値
0.697020
0.006424
-0.218138
-0.059864
49.1
20.4
-17.9
-2.2
13,467
-468.5
53,493
-2445.2
4,282
-1490.5
30,296
-5935.6
8,041
-2258.0
大都市
確率
T値
15 万人以上の市
確率
T値
15-5 万人の市
確率
T値
5 万人未満の市
確率
T値
郡部
確率
T値
(2) 居住地域区分別
変数
最多所得者
年齢
性別 1)
要介護 2)
標本数
対数尤度
総世帯
確率
T値
0.628897
0.005994
-0.253859
-0.043874
150.5
87.0
-84.9
-6.8
0.729257
0.006934
-0.294822
-0.051828
65.4
32.2
-32.7
-2.5
0.685411
0.006373
-0.257803
-0.050176
83.5
44.6
-42.8
-3.4
0.624783
0.006006
-0.238535
-0.041236
68.4
40.9
-37.9
-3.1
0.506745
0.005636
-0.269075
-0.054896
37.8
26.2
-27.6
-3.8
0.533099
0.005231
-0.238046
-0.031584
109,579
18,565
32,041
23,557
8,144
27,272
-16634.9
-2308.5
-4229.6
-3498.3
-1514.3
-4838.4
70.4
45.9
-46.1
-3.1
(注) 単身世帯は除く。
1) 女性=1,男性=0
2) 本人が要介護状態=1,介護不要=0。
(高齢者の所得水準)
世帯主の年齢別に家計の生活水準を比較すると、
50∼54 歳層をピークとしたライフサイクルのパター
ンが描かれる。年齢間の格差は、家計所得でもっとも大きいが、家計支出では小さい (図 2)。
−81−
図2
世帯主のライフサイクルにおける家計所得と支出
このように、世帯所得の指標だけを用いて、年齢間の生活水準の格差と見なすことは、必ずしも妥当
ではない。高齢者世帯の所得水準を評価する場合には、以下のようないくつかの留意点が必要である。
第一に、高齢者層ほど自営業比率が高いことである。自営業世帯の全世帯に占める比率は、世帯平均
では 27.5%であるが、世帯主年齢の高まりに比例して大きくなり、65 歳以上では 34.6%にまで高まる。
一般に、自営業世帯の所得を正確に補足することは困難であり、過小評価される可能性が大きいことが、
年齢間の家計所得や家計支出の比較の場合に留意する必要がある。
第二に、世帯の平均人員の差についての考慮である。子供を扶養する勤労者世帯と、すでに子供が独
立した後の高齢者世帯とでは、同じ家計所得でも生活水準は異なる。総務庁「全国消費実態調査 (1994
年度)」によれば、世帯主が65 歳以上である世帯の平均人員は2.6 人と、全世帯平均 (3.8 人) を大きく下回
っている 2*。
第三に、後に見るように、高齢者の所得と資産とのアンバランスである。就業所得を欠く引退者で
あっても、多額の価値のある住宅等の資産を保有している高齢者は多い。従って、現金収入だけではな
く、住宅資産からの帰属家賃を考慮に入れれば、高齢者の所得・支出水準はさらに向上する (八代・前
田 1994)。
次に、高齢者世帯の世帯全体と比べた年間収入の格差を、自営業も含めた全世帯ベースで歴史的に比
較すると、一見すると過去 20 年間に一貫して拡大しているようにみられる(表 2)。しかし、これは親子同
居率の低下や子供の大学進学率の高まりから、世帯の有業人員の減少が影響しているためである。これ
を世帯人員 1 人当たりの家計消費や金融資産の水準でみれば、高齢者世帯の生活水準は確実に高まって
いることが分かる (表 2)。また、この度合いは、とくに勤労者世帯で著しく、世帯人員 1 人当たりの消
費水準では、世帯平均を 3 割弱、上回っている 3* 。
2*
も っ と も 他 方 で は 、 単 に 世 帯 人 員 当 た り の 所 得・ 消 費 水 準 を 比 較 す る こ と は 、 家 計 規 模 の 利 益 を 無
視することになり、別のバイアスが生じることに注意する必要がある。
−82−
表2
高齢者の経済的地位
( 世帯平均 = 1 0 0 )
1974
1984
1994
(全世帯)
1. 世帯主が 65 歳以上の世帯
年間収入(世帯)
消費支出(世帯)
世帯人員(人)
消費(世帯人員当たり)
貯蓄残高(世帯人員当たり)
95.00
81.15
3.53
89.89
178.70
84.30
80.86
3.14
99.27
177.02
76.84
80.12
2.64
108.81
217.11
2. 世帯主が 60-64 歳の世帯
年間収入(世帯)
消費支出(世帯)
世帯人員(人)
消費(世帯人員当たり)
貯蓄残高(世帯人員当たり)
105.97
95.02
3.60
103.20
176.82
102.10
96.67
3.30
112.79
188.56
96.11
97.12
2.97
117.39
187.64
(勤労者世帯)
1. 世帯主が 65 歳以上の世帯
年間収入(世帯)
消費支出(世帯)
世帯人員(人)
消費(世帯人員当たり)
貯蓄残高(世帯人員当たり)
89.28
82.78
3.12
102.41
246.71
96.95
84.98
2.73
120.47
255.92
89.02
91.19
2.62
129.47
293.69
2. 世帯主が 60-64 歳の世帯
年間収入(世帯)
消費支出(世帯)
世帯人員(人)
消費(世帯人員当たり)
貯蓄残高(世帯人員当たり)
105.85
100.51
3.40
114.11
186.82
103.59
89.44
3.02
114.61
246.46
96.74
99.93
2.87
129.53
233.95
(注) 世帯人員が二人以上の一般世帯に限る。3*
(出所) 全国消費実態調査報告
(高齢者世帯間の所得源泉)
高齢者の所得の増加をもたらした主要な源泉としては、公的年金給付の充実がある。これは公的年金
の 1974 年改正にともなう年金給付額の賃金スライド導入や、制度の成熟化によって、平均賃金水準と比
べた給付水準が大幅に改善されたことを反映している。世帯主の年齢別に見た所得源泉を比較すると、
60∼64 歳以降の年齢層で、公的年金所得の比率が高まっていることが分かる。もっとも、この比率は
65 歳以上でも 3 割強に過ぎず、
それが 7 割弱と高い英国と比べても、かなり低い水準にある 4* (図 3A)。
このひとつの要因としては、高齢者が世帯主となっている世帯では、高齢者自身や他の世帯員の賃金所
3*
もっとも、勤労世帯については、とくにすでに見たような世帯主ベースで見ることの「統計上のバ
イアス」に注意する必要がある。
4* 総 務 庁 老 人 対 策 室 編 「 老 人 の 生 活 と 意 識 : 第 3 回 国 際 比 較 調 査 結 果 報 告 書 」 1 9 9 2 年 に よ る 。
−83−
得が半分弱を占めていることがあげられる。この半面、子供世帯に扶養されており、世帯主ベースの統
計に現われない高齢者も含めた個人ベースの所得源泉では、公的年金所得は約 6 割を占めており、他の
先進国と同様に高齢者の重要な所得源となっていることが分かる (図 3B)。
図 3A
図 3B
世帯所得の構成割合 (世帯主年齢別)
個人所得の構成割合 (年齢階級別)
−84−
(高齢者世帯内部での所得・資産分布のばらつき)
すでに見たように、高齢者世帯の平均的な所得・消費は、勤労者世帯と比べて遜色のない水準にある。
しかし、高齢者の所得分布は、全世帯平均と比べ、中位値が平均値を大きく下回るなど、低所得者層に
大きく偏っているという特徴がある (図 4A)。また、これをジニ係数で示した高齢者世帯の所得不平等
度は、世帯平均と比べてより大きい 5*。このためとくに高齢者の経済的地位を評価する場合、その平均
値だけで評価することは適当ではない。また、高齢者世帯の所得分布をその就業形態の違いに注目して
みると、雇用者世帯に比べて自営業世帯が、またそれらに比べて引退した無職の高齢者世帯の方が、平
均値と中位値との大きなギャップで見るように、より貧しい階層に偏った分布となっている (図 4B)。
それでは高齢者層の内部で、勤労世代と比べた所得格差がとくに拡大する要因は何であろうか。高齢
者の個人ベースの所得を十分位階級別に分けて検討して見よう。まず、第 1 に、もっとも大きな要因と
して雇用者所得の格差がある (図 5)。これは年功的賃金制度が一般的な日本の労働市場では、同一年齢
層内部の賃金格差は年齢とともに高まる関係にある。また、特に 60 歳代で雇用されている者について
は、引き続き企業の内部市場にとどまっている者と、
定年退職等で外部労働市場に出た労働者との間で、
賃金の大幅な二極分化が生じるためである。第 2 に、高齢者層内部では、財産所得の格差も大きいが、
これも勤労世代中の賃金を反映した貯蓄格差が累積したこと等の要因によるものといえる。第 3 に、個
人所得階層別の年金給付額を比較すると、高所得層ほど多額の年金給付を受けており、また高齢者世帯
の所得に占める公的年金への依存度は、所得水準に比例して低下している。これは、報酬比例年金が、従
図 4A
世帯所得の分布
世帯所得
(1)平均
(2)メディアン
(2)/(1)
ジニ係数
全世帯
624.7
520
0.83
0.392
高齢者世帯
538.4
370
0.69
0.472
(注) 高齢者世帯とは、世帯主の年齢が 60 歳以上の世帯をいう。
5*
もっとも、高齢者世帯においては、とくに寡婦等の単身世帯比率が高いことから、世帯人員の違い
を無視して、世帯間の所得格差を単純に比較することはできない。しかし、他方で、高齢者世帯で
はなく個人間での所得格差に注目すれば、無業の妻の所得は、夫の所得水準のいかんを問わず、ゼ
ロになるという問題点が生じる。
−85−
図 4B
世帯種別高齢者世帯の世帯所得分布
世帯所得
(1)平均
(2)メディアン
(2)/(1)
ジニ係数
雇用者世帯
731.7
597
0.82
0.391
自営業世帯
無業世帯
648.6
245.8
489.5
200
0.75
0.81
0.437
0.409
(注 1) 高齢者世帯とは、世帯主が 60 歳以上の世帯をいう。
(注 2) 自営業には農業も含む。
図5
65 歳以上高齢者の所得分布
前生活の保障という目的で、過去の賃金に基づく保険料に比例した年金給付を行っていることの当然の
結果である。
−86−
ここで公的年金の高齢者層の所得再分配に及ぼす影響が重要となる。基礎年金の受給者と報酬比例年
金の内では最大の規模の厚生年金の受給者の分布を比較すると、厚生年金の受給者の所得階層別の分布
は、その平均受給額は低いものの、雇用者とほぼ同様な正規分布パターンを示していることに対し、基
礎年金のみの受給者の所得分布は、低所得層に大きく偏った分布を示している (図 6)。
このように、現行の公的年金制度は、高齢者世帯全体の勤労者世帯との世代間の所得格差を縮小する
ことに役立っている半面、高齢者層内部の所得格差をむしろ拡大させる効果をもっていることに注目す
る必要がある。
図6
年金制度別所得分布 (60 歳以上男性)
(注) 所得がない者は、除いた。
(高齢者の住宅資産の状況)
一般に家計の保有する資産額と所得水準との間には、正の相関関係がある。しかし、高齢者世帯の場
合には、年間所得水準が 300 万未満と低い層でも、多大の住宅・土地資産を保有している場合が多い (図
7)。仮に、この土地・住宅資産を低いコストで流動化させることができれば、高齢者の所得水準を大き
く向上させることができる。日本では、例えば米国のように高齢者が小規模な住宅へと住み替えること
により、その資産差額をフロー化することに、所得税法、大きな制約がある。また、引退後も住み慣れ
た住宅に居住し続けることを希望する高齢者も多い。ここで、自らの住宅に居住しながら、その資産価
値を金融機関等からの借り入れで徐々に取り崩して行く「逆住宅ローン 6*」を活用する手段がある。な
お、この場合、借入金は、残された高齢者の死亡時に清算する方法だけでなく、予め逆住宅ローンによ
る借入資金の一部で生存保険 (終身年金) を購入し、住宅資産の価値を使い切ってなお存命する「長生
きのリスク」をカバーすることもできる。高齢者にとって資産のフロー化のメリットは、年齢が高まる
6*
持ち家を担保にして購入資金を借り入れる住宅ローンとは逆に、ローン返済済みの持ち家を担保に
生活資金を借り入れ、死亡時に清算する仕組み。
−87−
図7
高齢者世帯の資産保有状況 (世帯所得別)
(注 1) 高齢者世帯とは、世帯主が 60 歳以上の世帯をいう。
(注 2) 世帯資産がない世帯は、除く。
(注 3) 保有資産は固定資産税から推定した金額である。
ほど平均所得水準が低下する一方で、所与の資産を平均余命年数で割り引いた年間「資産流動化額」は、
逆に増加することである。 (伊藤 1995)
「国民生活基礎調査」では、住宅資産自体についてのデータは得られないが、家計の納付する固定資
産税額からその保有する土地・住宅の資産価値を推計することができる。しかし、ここで統計上、いく
つかの問題点が生じる。第一は、世帯内部での資産保有者が特定できないことである。この点について、
親子が同居している場合には、親が世帯主であるか否かを問わず、不動産の所有者は親であると仮定し
た。
第二に、土地と住宅とに課せられる固定資産税が分離できないことである。固定資産税率自体は土地・
住宅とも 1.4%であるが、土地税制における小規模宅地の特例措置により、200 平米以下の宅地には、
評価額を 4 分の 1 にする軽減税率が適用されている。このため、固定資産税を土地と住宅に分けること
が必要となるが、その比率次第では評価額が大きく異なる 7*。第三に、固定資産税の評価額と土地の実
勢価格との乖離が問題となる。ここでは、固定資産税評価額は公示価格の 3 割とした。
以上のようなさまざまな前提の制約の下で、推計された高齢者の土地・住宅資産を高齢者のタイプ毎
に分けて見ると、以下のような特徴がある (図 8)。第一に、高齢者の年齢別に見ると、年齢が高まるほ
ど高齢者個人の所得水準は低下するものの、流動化された土地・住宅資産額は、特に 70 歳以上の層で大
幅に増加することである。これは高齢者のなかでも年齢が高い層ほど平均資産額が大きいことと、平均
余命が短くなることの両方の要因に基づくためである。第二に、単身と家族世帯とに分けてみると、資
産流動化の所得増加効果は家族世帯についての方が大きい。第三に、収入階級別に見ると、高所得層で
流動化の効果が大きいことはいうまでもないが、個人所得の少ない層でも相対的に資産流動化額は大き
いという二極分化のパターンが見られる。
7*
こ こ で は 、 野 口 ( 1 9 8 9 ) に 基 づ き 、 土 地 ( 3 7 % )、 家 屋 (63%) の 比 率 で 按 分 し た 。
−88−
図 8A
図 8B
高齢者の収入 (年齢階層別・個人ベース)
高齢者の収入 (世帯種別・個人ベース)
−89−
図 8C
高齢者の収入 (所得階級別・個人ベース)
(高齢者層内部での所得再分配政策)
高齢者世帯の所得再分配政策の手段としては、公的年金所得に対する課税と、65 歳以上の公的年金給
付に対する支給制限がある。厚生年金制度では、60∼64 歳層の高齢者については、その賃金所得の水準
が高まると年金給付が一定の比率で削減され、月収 34 万円以上の雇用者については全く支給されない。
しかし、現実には十分位階級別で見て、少数ではあるが、賃金水準の高い雇用者層でもある程度の額の
年金を受給していることが分かる (図 9)。これは、現行の年金給付の支給制限は月収ベースであり、
ボーナスがその対象外となっていることや、労働時間の短い雇用者が除外されるなどの抜け穴が存在す
るためである。さらに、65 歳以上では、賃金やその他の所得水準の高さにかかわらず、公的年金が全額
支払われる。また、賃金からの保険料の支払いも免除されるという、きわめて優遇された制度となって
いる。さらに、公的年金所得には、賃金所得と比べて所得課税が軽課されており (表 3)、その恩恵は高
所得層ほど大きい。
このように、現行の厚生年金等の報酬比例部分は、高齢者層内部の所得分布の観点からは、きわめて
逆進的な効果を有している。今後、所得格差の大きな高齢者層の人口全体に占める比率が、人口高齢化
とともに傾向的に高まって行くことは、経済全体の所得分布がいっそう不平等なものとなることを意味
している (大竹 1994)。ここで、仮に、公的年金所得からの所得税の控除額を基礎控除のみとした場合
を考えると、もっとも高い年金所得十分位層の税引き後所得が 1 割程度低下する効果がある。また、65 歳
以上の年金給付額の支給を 60∼64 歳層と同様な基準で制限した場合には、もっとも高い年金所得層の支
給額が 25%削減される (図 10)。こうした政策は、公的年金給付額の大幅な減少には結びつかないもの
の、現行の報酬比例年金の有している逆進的な影響を相殺する上で必要な処置である。
−90−
図9
賃金所得分位別公的年金受給額
(60−64 歳男性
図 10
自営業者を除く)
65 歳以上の年金課税の比較
−91−
表3
高齢者 (65 歳以上) の所得税課税最低限の比較
(1) 所得税
(万円)
基礎控除
配偶者控除(注 1)
老年者控除
公的年金等控除
給与所得控除
合計
年金受給者
(被扶養配偶者あり)
38
76
50
154
−
318
38
76
50
−
96
260
38
−
50
140
−
228
38
−
50
−
65
153
給与所得者
(被扶養配偶者あり)
年金受給者
(被扶養者なし)
給与所得者
(被扶養者なし)
(2) 地方税
(万円)
基礎控除
配偶者控除(注 1)
老年者控除
公的年金等控除
給与所得控除
合計
年金受給者
(被扶養配偶者あり)
33
66
48
154
−
296
33
66
48
−
89
236
33
−
48
140
−
221
33
−
48
−
65
146
給与所得者
(被扶養配偶者あり)
年金受給者
(被扶養者なし)
給与所得者
(被扶養者なし)
(注 1) 配偶者特別控除を含む。
(注 2) 万円未満は切り捨て。
2.高齢者の就業と貯蓄の決定要因
高齢者世帯の平均的な所得水準と高齢者層内部での格差に大きな影響を及ぼす要因として、高齢者や
その世帯員の就業の有無がある。日本の高齢者の行動について、もっとも大きな特徴のひとつは、その
就業率の高さである。
男性高齢者の就業率は 60 歳の定年退職時に大きく低下するものの、
70 歳で 5 割が、
また 80 歳でも 3 割が労働市場にとどまっている。これは主として高齢就業者に占める農業等の自営業比
率の高さに基づくものであるが、これを雇用者だけに限定しても、いぜんとして高い水準にあることに
は変わりはない (図 11A)。また、男性雇用者に限って、その就業率の年齢毎の低下率をポイント差で見る
と、定年退職時で在職老齢年金の支給開始年齢でもある 60 歳で著しいが、その後は 70 歳までほぼ安定
した下落幅となっている (図 11B)。以下では、高齢者のいる世帯の就業行動を決定する要因について検討す
る。
−92−
図 11−A
高齢者の就業率 (55−80 歳)
(注) 雇用者には、家族従業者・パート等も含む。
図 11−B
男性雇用者率の下落幅
(高齢者就業率の分析)
男性高齢者の就業行動については、すでに多くの研究が行われている (最近の代表的なものとして表
4)。高齢者の就業の決定要因として、自営業と雇用者とでは大きな違いがある。このため、高齢者の就
労の選択肢として、自営業としての就業、雇用者としての就業、および非就業という三つの選択肢の内
から決定するものと考える。データは「国民生活基礎調査」の 60 歳以上の個人について、就業の有無と
−93−
表4
男性高齢者就業に関する過去の研究例
データ
清家
(1993)
分析の目的や特徴
分析目的:男子高齢者の就業行動に与える公的年金の影響。
1978、1981 年、
1984 年
「国民生活基礎調査」
(個表)
毎年ほぼ同じ調査項目を同じ定義で系統的に調査している。個人の就業
状態は、世帯主に限り識別できる。年金の種別(厚生、国民、共済など)
や年金の給付対象者の特定化はできないので、世帯の年金受給額を用いる。
学歴、労働時間などの個人属性に関する情報はない。都市部と郡部に
分けられるので、労働需要の影響をコントロールできる。
説明変数:賃金率、公的年金、他の非常勤所得、健康ダミー、年齢。(probit
分析) 公的年金給付額が多いほど、就業確率が低下する。1978 年には、公
的年金が 1%増えると、就業確率は約 0.1%減少。1981 年には、弾性値は
1978 年の 2 倍から 3 倍になっている。
1980 年、1983 年
「高齢者就業等実態調査」
(個表)
厚生年金受給額と他の公的年金受給額を識別できる。1983 年調査は厚生年
金受給資格の有無が識別できる。就業状況や個人属性に関する情報が豊富。
説明変数:賃金率、公的年金、企業年金、健康ダミー、年齢。(probit 分析)
公的年金の 1%の変化は、就業確率を 0.25%減少させる。
橘 木 ・下 野 1980 年
(1994)
「高齢者就業等実態調査」
(個表)
男子雇用者の引退行動を分析。
55 歳時に雇用者であり、
現在主に自分の所得によって生活している 55 歳から
69 歳までの男子高齢者の就業形態の選好分析をmultinomial logit model
(普通勤務、パートタイム勤務、自営業者、引退の 4 つの選択)を用いて行った。
説明変数:公的年金、私的年金、本人の仕事・年金以外の収入、他の世帯員収
入、貯蓄額、年齢、健康ダミー。
年金の引退促進効果の最も大きいのは、普通勤務。普通勤務と自営業の選択
では、貯蓄額が多いほど自営業を選択。他の世帯員収入(主に同居している
子供の収入) が多いと引退を選択する傾向がある。日本の同居率は高いので、
他の世帯員収入が高齢者の引退決意に及ぼす影響は大きい。
同時に、自営業と雇用者との就業形態の選択を multi-nominal logit model で行った。これは、すでに橘
木・下野 (1994) が「高年齢者就業実態調査」で用いた手法でもある。
説明変数は、まず、社会的要因として都市部か否かの居住地を用いた。これは就業機会の豊富さや期
待賃金水準の高さという労働需要側の要因を代表させたものである (清家 1993)。次に、個人的な要因と
して、年齢、性別、健康 (自覚症状の有無) を用いた。これらは、個人の留保賃金の決定に大きな影響
を及ぼす要因である。最後に、経済的な要因として、本人以外の家族の所得と公的年金受給額を考慮し
た (表 5)。
まず、自営業としての就労を促進する要因としては、男性で年齢が相対的に若いこと、健康であるこ
と、公的年金受給額が少ないこと、等の常識的な結果が得られた。しかし、高齢者の就業率と本人以外
の家族の所得水準とはとくに有意な関係は認められず、家族が貧しいから働くという関係は見られない。
これは自営業における高齢者の就業行動がより家族の所得から独立的であることを反映している。
次に、雇用者としての就業を促進する要因は、自営業の場合と比べて、都市地域で高いことは就業機
会の多さを反映している。また、年齢や健康水準のマイナス効果はより大きく、家族の所得水準とは負
の関係にある。こうした自営業と雇用者との働き方の違いは、雇用者の方が通勤の必要性や勤務時間形
態などの点で、自営業と比べてより厳しく、経済的な要因からの就業の必要性が高いことを示唆してい
る。
−94−
表5
男性高齢者の就業行動分析 1)
変数
∂
係数
就業確率/ ∂ 変数
1. 自営業者
大都市に居住 2)
年齢 3)
疾病の状況 1)
世帯所得 5)
公的年金受給額 6)
貯蓄率 7)
定数
-0.925154
-0.085056
-0.268634
-0.000051
-0.006716
0.559582
5.994983
*
***
***
***
***
***
-0.04246
-0.00674
-0.03076
0.00004
-0.00119
0.01848
0.52607
2. 雇用者
大都市に居住 2)
年齢 3)
疾病の状況 4)
世帯所得 5)
公的年金受給額 6)
貯蓄率 7)
定数
サンプル数
対数尤度
0.438301
-0.172419
-0.375657
-0.000839
-0.001981
1.594472
11.238710
8,341
-7403.77
***
***
***
***
***
***
***
0.07914
-0.02431
-0.04830
-0.00014
0.00004
0.23759
1.55956
***:1%水準で有意 **:5%水準で有意 *:10%水準で有意
(注)
1 ) 男子高齢者の就業行動
=1 自営業者、2 雇用者、0
無業者
2 ) 大都市に居住しているか。=1 yes,0 no
3 ) 高齢者本人の年齢。
4 ) 本人に、疾病の自覚症状がある。=1 yes,0 no
5 ) 世帯の総所得、ただし本人の稼動所得は除く。
6 ) 本人の公的年金・恩給所得。
7 ) 世帯の貯蓄率。
(高齢者と同居する既婚女性の就業率の決定要因)
高齢者は、自らが働くだけでなく、家族のなかで家事・育児の手助けを行うことにより、他の世帯員
の就業を促進させる効果をもっている。高齢者の同居が女性就業へ及ぼす効果については、例えば都道
府県別のデータを用いて、保育所の普及や親との同居が、ともに子供を持つ女性の就業を促進する効果
を持つという実証結果がある。しかし他方では、同居高齢者が、寝たきりなど要介護の状況になると、
逆にその就業を抑制する要因となるというプラス・マイナスがある (八代・伊藤 1993)。この他、既婚女
性の就業行動に関する主要な研究は、表 6 に示されている。
こうした高齢者の同居の女性就業に及ぼす効果を計測するため、高齢者就業の場合と同様に、自営業者、
雇用者、無業の選択を、Multi-nominal logit model を用いて推計した。ここで対象としたサンプルは、
高齢者が子供夫婦と同居する世帯に限定した。また、説明変数には、同居既婚女性の就業に影響を及ぼ
すと見られる世帯所得 (自らの勤労所得を除く)、6 歳以下の子供数、
本人の年齢 (60 歳未満の場合に限定)、
要介護者や、健康な高齢者 (60∼70 歳の女性) の有無を示すダミー、等である。
まず、自営業世帯の場合、高齢者と同居している妻の就業率は、子供の数以外の要因には大きく影響
されず、世帯所得や要介護者要因の有意性も大きくない。また、本人の年齢の制約も見られない。これ
−95−
表6
樋口
(1991)
既婚女性の就業に関する過去の研究例
データ
分析の目的や特徴
1974 年、1977 年
「就業構造基本調査」
(個票)
男子世帯主が雇用者として就業している世帯の、30 歳から 44 歳の既婚女性の就業
の就業行動を分析。大都市に住む世帯、両親の同居しない核世帯、子供を持つ世帯に
おける学歴の低い妻の雇用就業率は低くなっている。大都市以外に居住する親子同居
世帯で、子供をもたない高学歴の妻の有業率は高い。(probit 分析)
米国と比較して、日本では学歴のような個人特性よりも世帯特性のほうが強く影響してお
り、親と同居する世帯では、そうでない核世帯にくらべ妻の雇用就業率は圧倒的に高い。
八代・伊藤 「就業構造基本調査」
(1994)
など複数の調査の都道
府県別のデータ
保育所の普及率や親との同居が女性の就業行動に与える影響を分析。(probit 分析)
保育所や親との同居は、ともに子供を持つ女性の就業を促進する効果を持つ。特に、親
との同居の方が重要な役割を果たしている。親が健康なうちは、子育ての面等で女性
の就業にプラスの効果をもつが、寝たきりなどの要介護の状況になると、逆に就業を
抑制する要因になることを指摘。ただし、この点については実証分析は行っていない。
高山・有田 1984 年
(1996)
「全国消費実態調査」
勤労者世帯で、世帯主が男性で、60 歳未満の妻の雇用就業行動を分析。
自営業を営む妻は対象からはずしている。共稼ぎ世帯の妻の就業選択を multinomial
logit model(フルタイム、パート、専業主婦)で分析した。
説明変数:夫の年間収入、賃金率、母親同居ダミー、幼児ダミー、遊学者・高校生・
大学生ダミー、借金ダミー、公務員ダミー、持ち家ダミー、2 大都市ダミー、妻の年齢
ダミー。これら全ての説明変数が、妻が労働力市場へ参加するさいの重要な決定要因に
なっている。
は、元来から、自営業世帯では、仕事と育児・介護等の家庭内サービス生産との両立は相対的に容易な
ことを反映している。これに対して、雇用者を選択する場合には、既婚女性の就業を抑制する子供や要
介護者および本人の年齢等の要因は、いずれも有意に働いている。また、その就業を促進する世帯所得
や健康な高齢者の説明力も大きい。このように、高齢者と同居する既婚女性は、少なくとも、その雇用
者としての就業率を有意に高める要因となっている (表 7)。
−96−
表7
変数
1. 自営業者
世帯所得 2)
子供の数 3)
年齢 4)
要介護者の有無
女性高齢者の有無 5)
定数
2. 雇用者
世帯所得 2)
子供の数 3)
年齢 4)
要介護者の有無
女性高齢者の有無 5)
定数
サンプル数
対数尤度
既婚女性の就業行動分析 1)
∂
係数
就業確率/ ∂ 変数
***
0.00001
-0.00560
0.00567
0.00209
-0.01251
-0.36612
-0.000325 ***
-0.402790 ***
-0.013532 ***
-0.487615 ***
0.166209 **
1.065789 ***
-0.00007
-0.07950
-0.00567
-0.10078
0.04040
0.40557
-0.000087
-0.244101
0.031226
-0.235802
0.001022
-1.917775
***
***
*
6,093
-6210.81
***:1%水準で有意 **:5%水準で有意 *:10%水準で有意
(注)
1 ) 既婚女性 (60 歳未満) の就業行動。 =1 自営業者、2 雇用者、
0 無業者
2 ) 世帯の総所得、ただし本人の雇用者所得を除く。
3 ) 6 歳以下の子供の数。
4 ) 本人の年齢。
5 ) 60 歳以上 70 歳未満の女性高齢者の有無。
ただし、日常生活に影響がある程、身体の状態が悪い者を除く。
(親子同居の家計貯蓄率への効果)
高齢者と子供夫婦と同居する世帯は、少なくとも高齢者が健康である内は、高齢者自身が働くか、そ
れとも他の世帯員の就業を促進することを通じて世帯の有業人員比率が高くなる場合が多い。
これは、他の条件を一定とした場合、核家族や単身世帯と比べて、家族規模の利益から一人当たりの
消費を節約することができ、それだけ家計貯蓄率を高める要因となる。これまで、日本の家計貯蓄率の
高さの要因については、多くの実証研究が行われてきた。それらはもっぱら、老後の生活のための備え
というライフサイクル仮説に基づくもの (安藤他、ホリオカ) や、耐久消費財の保有率や住宅の減価償
却等の貯蓄の概念調整に重点が置かれていた。もっとも、高山・有田 (1996) では、総務庁の「全国消
費実態調査」の個票を用いて、同居高齢者の経済状況を家計分析し、親子同居世帯の持ち家率は極めて
高く、同居することにより消費支出の節約が可能になり、貯蓄取り崩しの必要性を小さくしているとの
結論を得ている (表 8)。
ここでは、高山・有田 (1996) の持ち家効果も考慮に入れた上で、高齢者との同居を含めた家族規模
の利益が、家計貯蓄率に及ぼす影響を分析する。まず、貯蓄率の水準を決める大きな要因は、家計の可
処分所得の水準であり、高所得家計ほど貯蓄率が高くなっている。また、世帯主の年齢が高まることは、
貯蓄率の引き下げ要因となるライフサイクル効果が現れている。大都市に居住する家庭は、それ以外の
地域の家庭と比較して貯蓄率は低いが、これは生計費の高さやデモンストレーション効果が大きいと思
われる。雇用者世帯は自営業世帯や農業世帯と比べて退職後に備えるために貯蓄率が高くなっていると
−97−
みられる。次に、住居要因が貯蓄率に及ぼす影響としては、次の 2 点がある。第 1 は、持ち家から生じ
る帰属家賃所得であり、それだけ同じ現金所得であっても、貯蓄に向ける比率を高めることができる。
第 2 に、持ち家購入のための住宅ローンを保有している場合には、それだけ同一の所得比率を高める水
準でも消費を抑制する必要がある (表 9)。
表8
親子同居の家計貯蓄率への効果を分析した研究例
データ
分析の目的や特徴
安藤・山下・村上
1974 年と 1979 年
(1986) 「全国消費実態調査」(個票)
日本の貯蓄行動の分析
老人の貯蓄率は独立世帯の方が高い。(単身女性世帯を除く)
若年世帯の貯蓄は老人との同居により低下する。
同居老人の経済的地位を表す直接的な情報がないので,同居世帯の純資産
と同居していない若年世帯の純資産との差額を求め,その残差を同居高齢者
によるものとしている。
大竹・ホリオカ
1986 年
(1994) 「国民生活基礎調査」
子供のいない高齢者夫婦は,子供がいるものより年率 3%から 4%ポイン
ト速いスピードで資産(住宅資産と金融資産を合計したもの)を取り崩している
(マイナスの貯蓄)。
1989 年
(1996) 「全国消費実態調査」
(個票)
同居高齢者の経済状況の分析。
世帯を,子供が世帯主の同居世帯,高齢者本人が世帯主の同居世帯,核家族
世帯,高齢者夫婦世帯,高齢者単身世帯に分類し,同居の経済機能を分析。
同居世帯の貯蓄率が高い。同居世帯の持家率は高く,同居することにより
消費支出の節約が可能になり,貯蓄のとりくずしの必要性を小さくしたと結論
している。
高山・有田
表9
変数
ケース 1
可処分所得
世帯主の年齢
世帯主の年齢の二乗
有業者数
有業者数の二乗
有業者率 1)
有業者率の二乗
雇用者世帯 2)
持家の有無 3)
大都市に居住 4)
寝たきり等の者の有無 5)
借入金 6)
高齢者世帯 7)
世帯内高齢者数 8)
定数
サンプル数
R2
***:1%水準で有意
0.0003529
-0.0053425
0.0000459
0.0707910
-0.0085956
0.1058150
0.0238707
-0.0368612
-0.3040830
0.0116488
0.1240596
27,686
0.2788
**:5%水準で有意
世帯貯蓄率の分析
ケース 2
***
***
***
***
***
***
***
***
**
**
***
0.0003661
-0.0044819
0.0000363
0.2334184
-0.1072698
0.0974764
0.0373881
-0.0425859
-0.0190767
0.0145648
0.0965246
27,686
0.2795
ケース 3
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
0.0003522
-0.0053743
0.0000479
0.0667885
-0.0080310
0.1051741
0.0238713
-0.0368417
-0.0314538
0.0114869
-0.0155588
0.1274395
27,686
0.2789
ケース 4
***
***
***
***
***
***
***
***
**
**
**
***
0.0003688
-0.0022951
0.0000217
0.1108006
0.0331219
-0.0435477
-0.0340152
0.0116432
-0.0678134
0.1107310
27,686
0.2720
ケース 5
***
***
***
***
***
***
***
**
***
***
0.0003520
-0.0047923
0.0000362
0.0703439
-0.0085406
0.1093713
0.0200235
-0.0362153
-0.0394721
0.0140033
0.0154260
0.1146465
27,686
0.2794
ケース 6
***
***
***
***
***
***
***
***
**
**
**
***
0.0003759 ***
-0.0006681
0.0000007
0.120265 ***
0.031417 ***
-0.447438 ***
-0.0390904 **
0.0151614 **
0.168897 ***
0.0789146 ***
27,686
0.2703
*:10%水準で有意
(注)
1) 有業者率=有業者数÷世帯人員
2) 雇用者世帯か。=1 yes,0 no
3) 持家の有無。=1 有、0 無
4) 大都市に居住しているか。=1 yes,0 no
5) 寝たきり等の者の有無。=1 有、0 無
6) 借入金残高が 500 万円以上あるか。=1 yes,0 no
7) 60 歳以上の高齢者のみの世帯か。=1 yes,0 no
8) 世帯内にいる高齢者 (60 歳以上) の数。
上記のような家計貯蓄に影響を及ぼす諸要因を考慮した後、家計規模の利益の貯蓄率に与える効果を
分析した。ここで、同居による規模の利益を示す要因として、世帯内の有業者数や世帯員に対する有業
者比率を用いた。ともに家計貯蓄率を引き上げる要因となっているが、その効果の大きさは次第に減少
−98−
するという関係にある。このように、日本の家族の同居率の高さは、家計規模の利益を通じて、貯蓄率
を引き上げる要因となるが、それは、他面では、家族のプライバシーを犠牲にしているという面も考慮
する必要がある。以下で見るような親子同居率の低下傾向は、将来の家計貯蓄率を次第に引き下げるひ
とつの要因となろう。
3.親子同居率の決定要因
日本ではこれまで家族が高齢者の生活を保障する役割を主として担ってきた。このため高齢者の経済
的な地位は、子供世帯との同居の有無によって大きく影響される。すでに見たように、多くの家族が共
同で生活すれば「家計規模の利益」を享受することができるが、これは世帯の所得水準が低い場合にと
くに重要な要因となる。とくに、家族が生産活動の単位として重要な意味をもっている自営業世帯では、
高齢者は補助的な労働力としてだけでなく土地や資本の所有者として生産活動に携わっていることから
も、子供との同居率は平均して高い。
高齢者の子供との同居率の水準は大別して、家族の業種、地域等の社会的要因、高齢者の年齢や性別
等の個人的要因、高齢者個人の所得要因、等によって影響を受ける。なお、ここでの親子同居率は、高
齢者 (60 歳以上と定義) 個人を基準として、子供と同居している者の高齢者全体に占める比率で定義す
る。もっとも、高齢者同居世帯の場合、子供の年齢によっては子供が親を扶養しているのではなく、逆
に親が子供を扶養している場合もあるため、両者の区別が必要である。こうした異なる形態の高齢者同
居パターンを比較すると、高齢者の個人としての所得水準は高齢者夫婦のみ世帯がもっとも高く、高齢
者単独世帯、子供夫婦と同居する高齢者の順となっている。なお、配偶者のいない子供と同居する高齢
者の所得水準は、高齢者夫婦世帯と大差なく、所得水準のもっとも高い層に属する。また、子供以外の
親族と同居する高齢者は、子供夫婦に扶養される場合と類似している。以下では、家族による高齢者の
扶養機能を検討するため、八代 (1993) にならい、子供夫婦世帯と同居している高齢者を中心に分析す
る。
同居率の要因の展望
(社会的要因)
世帯別の同居率を比較すれば、農業世帯 (82%) でもっとも高く、その他自営業世帯や雇用者世帯で
低くなっている。また、同じ雇用者世帯でも郡部や小都市では同居率が高く、大都市では低いという関
係が見られ、これは家族の経済的・社会的機能が業種や地域によって異なることを反映している (図
12)。このため、個々のタイプの世帯の同居率が不変でも、それらの構成変化によって平均的な同居率は
変化する。これまでの同居率の低下は、主として農業世帯比率の低下や都市化の進展に基づく面が大き
かった。しかし、今後の同居率の変化は、こうした世帯構成の変化よりも、もっとも大きな比重を占め
る雇用者世帯の動向に依存し、高齢者の個人的な属性や経済的な要因がより重要となるとみられる。
−99−
図 12
高齢者 (65 歳以上) と子供夫婦との同居率
(注) 同居率の分母は全高齢者であり、その同居は世帯の業態で分類した。
(個人的要因)
高齢者の同居率は、一般にその年齢の高まりとともに上昇する傾向にある (図 13)。これは高齢者の平
均年齢の上昇によって、独立した世帯を形成することのコストが高まるためと考えられる。
これは具体的には、配偶者の死亡による単身者比率の高まり、健康水準の悪化による介護者の必要性、
所得水準の低下等の要因である。また、高齢者の性別も同居率を決める大きな要因のひとつとなる。一
般に、高齢者女性の同居率 (65%) は高齢者男性 (60%) に比べて高い。これは高齢者の内では女性の
平均余命が男性よりも 65 歳時点で 5 歳長いことや、それに加えて夫婦の平均年齢差が 3 歳程度あるため
配偶者と死別する可能性が高いことがあげられる。ちなみに配偶者のいない高齢者 (男女計) の同居率
は 75%と、配偶者のいる高齢者の同居率 (57%) よりも高い。
このように、高齢者の内でも年齢が高いことや、女性であることは、一般に同居率を高める要因と
なっているように見られる。しかし、そうした個人としての属性は、以下の所得要因とも密接に結びつ
いている。このため、そうした経済的な要因を考慮したとしても、なお例えば高齢者女性の方がより同
居を好む (或いは子供夫婦によってより同居を好まれる) というような性別に特有な要因が存在するか
どうかが興味深い点となる。
−100−
図 13
高齢者の子供夫婦との同居率
(注) 分母は年齢別・性別の子を有する高齢者。
(経済的要因)
上記の社会的・個人的要因を除いた、もっとも大きな経済的要因が所得である。世帯総所得では、子
供と別居している高齢者別居世帯の年平均所得は 387 万円であるのに対し、高齢者同居世帯は 796 万円と
2 倍になっている。しかし、高齢者同居世帯の世帯総所得では、子供の所得が大きな割合を占めるので、
これをもって高齢者の豊かさを比べることは出来ない。そこで、高齢者の個人所得ベースで比較をして
みると、子供と別居している高齢者の個人所得の平均は 226 万円であることに対し、子供と同居してい
る高齢者の平均は 167 万円となり、個人所得の多い豊かな高齢者ほど別居する傾向が大きい。また、これ
を高齢者の個人所得十分位で見ると、所得水準と同居率との間に、逆相関関係が見られる。 (図 14)
また、これを男女別に比べると、女性の方は必ずしも明瞭な関係は見られない。これは高齢者個人の
所得を基準とする場合、高所得の夫を持つ無業の妻が見かけ上、所得水準がゼロの階層に分類されてし
まうというバイアスが影響しているためである。無業の妻の経済行動は自らの個人的所得よりも夫の所
得水準に依存することから、高齢者夫婦の場合、その所得水準は一体として考えることの方がより合理
性がある。この場合、高年齢女性の所得と同居率との関係は、男性のパターンに近づくことになる。
一般に、家計の所得水準が低いほど、世帯としての経済規模の利益が重要となるため、親子兄弟が同
居することによって生活費を節約する必要性が強まる。ここで考える世帯としての経済活動は、家事だ
けでなく高齢者や子供の扶養なども含んだ広義の概念である。他方、世帯の所得水準が上昇すると、そ
うした経済的な制約条件が小さくなる半面、所得弾性値が高い個人のプライバシーへの需要が高まり、
別居志向が強まるものと考えられる。もっとも、この世帯の所得水準の親子同居率への効果は、必ずし
も一義的ではなく、以下の要因によっても影響される。
第 1 に、親子が同居することによる利益は、世帯の構成員の属性によっても左右される。例えば、子
−101−
図 14
高齢者の所得と同居率の関係
供夫婦の子供が小さい時には、親子同居は家族内での育児負担の分担を通じて、妻の就業を促進する要
因となる。他方、高齢者の健康水準が低下すると、親子同居による介護サービスの生産性が高まり、や
はり同居を促す要因となる。
第 2 に、別居することにより得られるプライバシー需要の所得弾性値の大きさは、親子の間で異なり、
高年齢の親の場合は子供ほどプライバシーへの需要の所得弾性値が大きくはないという考え方がある。
この極端な場合には、高年齢の親は子供と同居することによってプラスの効用を得ることから、子供の
同居からのマイナスの効用を所得移転によって補償するという見方もある (Kotlikoff and Morris
1988、八代 1993)。
第 3 に、プライバシー需要の大きさは、住宅の広さによっても影響される。二世代の家族が相互のプ
ライバシーを侵害することなく、余裕をもって共同生活ができるだけ十分な広い住宅サービスを享受で
きれば、同居による効用水準の低下は小さく、また子供世帯は親の住宅資産の共同利用を通じた実質的
な所得移転を受けられるとの利点がある。とくに大都市では良質な住宅サービスの価格が著しく高く、
これまで所得水準の上昇率を上回る速度で高まってきたことから、住居サービスに関する限り、家族規
模の利益はいぜんとして大きい。なお、住宅は居住サービスだけでなく資産としての価値も重要である。
同居高齢者の 93%は持家を有しているが、別居高齢者の持家率は 84%と相対的に低く、9%が民間賃貸住
宅、5%が公営賃貸住宅に居住している。
また、高齢者の所得水準で見た同居率が、その低い層と高い層との双方で高まるという二極分布を描
くことの主たる要因は、すでに見たように、高齢者の所得水準が高まるほど、広い住居サービスを享受
することが出来るため、同居によるマイナスの効用が小さくなることや、親から子供への様々な形態の
所得移転によって、子供の効用ロスが補償されているものと解釈される。戦略的遺産動機説でも子供へ
の将来の遺産を前提として、その先取りの形での所得移転が期待されていると解釈される。
こうした親子のプライバシーを最小限度にとどめる親子同居の形態が、三世代住宅のように、同一の
敷地内に居住しつつも家計を別とする「準同居」の形態である。この準同居率や近隣居住と狭義の同居
−102−
との間の代替関係は、親子の所得水準や親の健康状況に依存する。
同居率決定の実証分析
親子同居率の決定要因については、これまでにも多くの研究が行われている (表 10)。我々の個票デー
タを用いた高齢者の同居率についてのプロビット分析の主要結果は、
以下の通りである (表 11A)。
第1 に、
高齢者と子供 (単身者含む) との広義の同居率を被説明変数とした場合には、符号条件は一般に期待通
りの結果となっている。すなわち、自営業世帯、とくに農業世帯ほど、高齢者の年齢が高いほど、配偶
者がいないほど、高齢者個人の所得水準が低いほど、健康水準が悪化するほど、住居面積が広いほど、
持ち家であるほど、高齢者の同居率は高い。ここで興味ある結果は、同じ高齢者の所得水準でも、とく
に安定した所得源泉である公的年金の同居率に対するマイナス効果が、それ以外の所得と比べてはるか
に大きいことである。また、これらの変数をコントロールした場合、男性に比べて女性の高齢者の方が
同居率はむしろ低いという結果が得られた。
第 2 に、高齢者が子供夫婦と同居する狭義の同居率を被説明変数とした場合には、年齢の相対的に高
いサラリーマンが未婚の子供を扶養している場合が除かれるため、雇用者世帯と比べた農業等の自営業
世帯の高齢者同居の確率がほぼ倍になる。また、高齢者の年齢の上昇は同居確率を有意に高めるが、そ
の影響力は必ずしも大きくはない。これは高齢者の健康や所得水準、配偶者の有無など、その年齢と密
接に関連している要因がいくつも含まれていることが影響しているものと見込まれる。また、高齢者の
所得、配偶者の有無や住宅要因の重要性は大きくなり、統計的な有意性も高まった。これはいずれも、
高齢者の同居行動を分析する場合に、子供一般ではなく子供夫婦との同居に注目することの重要性を示
唆している (表 11B)。
第 3 に、子供夫婦と同居する高齢者のうち、無業の妻の所得をゼロではなく、夫の所得と等しいとし
た場合である。この場合、ケース 2 とは逆に、男性と比べた女性の同居確率が高まることが大きな特徴
表 10
同居率の決定要因に関する過去の研究例
データ
安藤・山下・村上
1974 年と 1979 年
(1986) 「全国消費実態調査」(個票)
分析の目的や特徴
1.老人の住居に関する選択。
2.老人の同居を受け入れる若年世帯の分析。
資産額と と も に 同居率は低下。 し か し 、 自営業世帯比率が十分にコン
ト ロールされていないので、親子同居率の高い自営業者がより多くの
資産を有していることが反映されている可能性がある。
Ohtake
1986 年
(1991) 「国民生活基礎調査」(個票)
戦略的遺産動機の検証
( 高齢者の資産額を 他の世帯員から区別す る た め ) 同居しているが
生計は別にしている準同居に関する選択。
八代
1986 年と 1989 年
(1994) 「国民生活基礎調査」
(47 都道府県の平均値)
家族の効用最大化モデルの推定
(高齢者の効用と子供の効用との加重平均)
同居率の決定要因として、親と子供の所得水準を考慮する。
駒村
1990 年
(1994) 「老後の資産に関する調査」
(個票)
高齢者の遺産行動の経済分析が目的だが、資産(不動産、金融)、所
得、年齢などが、実数値ではなく 5−6 段階のレベルによってのみ与
えられている。
国民生活白書
1994 年
(1994) 「国民選好度調査」(個票)
高山・有田
1989 年
(1996) 「国民生活基礎調査」(個票)
同居率の要因として、兄弟の数、学歴などを考慮しているが、データ
の制約上、所得などの経済変数が全く用いられていない。
1.高齢者の貯蓄行動を知るための準備作業としての同居の決定要因分析。
2
(1)公的年金を相応に受給する者が増えつつある。
(2)都市に住む高齢者が増えつつある。
よって子供との同居率は今後着実に低下する。
−103−
である。また、全体としての統計的な有意性も高まっている。これはサラリーマンの無業の妻の行動が、
必ずしも低所得者ではなく、夫と同等の生活水準にある者に近い行動をするという前提では、年齢や配
偶者の有無等の要因をコントロールした後で、むしろ女性の高齢者の方が子供夫婦との同居率が高まる
ことを裏付けている (表 11C)。また、高齢者の所得水準ではなく、その就業の有無を説明変数とした場合、
高齢者が就業を続けていることは同居率を引き下げる要因として働く (表 11D)。
表 11A 高齢者と子供の同居行動分析 1)
変数
農業世帯 2)
自営業世帯 3)
高齢者の年齢 4)
高齢者の性別 5)
高齢者の身体状況 6)
住居の広さ 7)
持家の有無 8)
公的年金受給額 9)
その他の所得 10)
配偶者の有無 11)
定数
サンプル数
R2
係数
∂
同居確率/ ∂ 変数
0.35805 ***
0.12404
0.10941 ***
0.03924
0.01253 ***
0.00457
-0.24100 ***
-0.08718
0.31465 ***
0.10662
0.00242 ***
0.00088
0.12885 ***
0.47960
-0.00242 ***
-0.00088
-0.00020 ***
-0.00007
0.60552 ***
0.20650
-1.49240 ***
20,168
0.1568
***:1%水準で有意 **:5%水準で有意 *:10%水準で有意
(注)
1) 子供がいる 60 歳以上の高齢者と子供(未婚者を含む)の同居行動。
=1 子供と同居している、0 子供と別居している。
2) 農業世帯か。=1 yes,0 no
3) 自営業世帯か。=1 yes,1 no
4) 高齢者本人の年齢。
5) 高齢者本人の性別。 =1 女性、0 男性
6) 高齢者本人が要介護者か。 =1 yes,0 no
7) 住居の広さ(畳数、ただし一畳=10.0)。
8) 持家の有無。 =1 有,0 無
9) 高齢者本人の公的年金・恩給受給額。
10)高齢者本人の公的年金以外の所得。
11) 配偶者の有無。=1 無,0 有
表 11B 高齢者と子供夫婦の同居行動分析 1)
変数
農業世帯 2)
自営業世帯 3)
高齢者の年齢 4)
高齢者の性別 5)
高齢者の身体状況 6)
住居の広さ 7)
持家の有無 8)
公的年金受給額 9)
その他の所得 10)
配偶者の有無 11)
定数
サンプル数
R2
係数
∂
同居確率/ ∂ 変数
0.5717144 ***
0.2101434 ***
0.0369532 ***
-0.1636400 ***
0.3870963 ***
0.0035851 ***
0.4293855 ***
-0.0030970 ***
-0.0004580 ***
0.7545467 ***
-4.4278000 ***
15,411
0.3199
***:1%水準で有意 **5%水準で有意 *10%水準で有意
(注)
1) 子供がいる 60 歳以上の高齢者と子供(既婚者に限る)の同居行動。
= 1 子供と同居している。 0 子供と別居している。
以下表 11A の(注)と同じ
−104−
0.21810
0.08241
0.01467
-0.06479
0.14771
0.00142
0.16955
-0.00123
-0.00018
0.28600
表 11C 高齢者と子供夫婦の同居行動分析 1)
変数
農業世帯 2)
自営業世帯 3)
高齢者の年齢 4)
高齢者の性別 5)
高齢者の身体状況 6)
住居の広さ 7)
持家の有無 8)
世帯公的年金受給額 9)
世帯その他の所得 10)
配偶者の有無 11)
定数
サンプル数
R2
係数
∂
同居確率/ ∂ 変数
0.518495 ***
0.165846 ***
0.19898
0.06527
0.037390 ***
0.148031 ***
0.400747 ***
0.01484
0.05877
0.15265
0.003769 ***
0.344577 ***
-0.002780 ***
0.00150
0.17581
-0.00110
-0.000445 ***
0.414092 *
-4.449100 ***
-0.00018
0.16152
15,411
0.3332
***:1%水準で有意 **:5%水準で有意 *:10%水準で有意
(注)
1) 子供がいる 60 歳以上の高齢者と子供(既婚者に限る)の同居行動。
=1 子供と同居している、0 子供と別居している。
2) 農業世帯か。1 yes,0 no
4) 高齢者本人の年齢。
5) 高齢者本人の性別。=1 女性、0 男性
6) 高齢者本人が要介護者か。=1 yes,0 no
7) 住居の広さ(畳数、ただし一畳=10.0)。
8) 持家の有無。=1 有,0 無
9) 世帯内の高齢者全員の公的年金・恩給受給額。
10)世帯内の高齢者全員の公的年金以外の所得。
11)配偶者の有無。=1 無,0 有
表 11D 高齢者と子供夫婦の同居行動分析 1)
変数
農業世帯 2)
自営業世帯 3)
高齢者の年齢 4)
高齢者の性別 5)
高齢者の身体状況 6)
住居の広さ 7)
持家の有無 8)
高齢者の就業状況 9)
配偶者の有無 10)
定数
サンプル数
R2
係数
∂
同居確率/ ∂ 変数
0.766347 ***
0.397353 ***
0.034333 ***
0.088723 ***
0.378103 ***
0.003423 ***
0.397536 ***
0.275577 ***
0.690321 ***
-4.831300 ***
0.28555
0.15306
0.01363
0.03523
0.14451
0.00136
0.15727
0.10948
0.26335
15,411
0.3199
***:1%水準で有意 **:5%水準で有意 *:10%水準で有意
(注)
1)∼8)表 11C と同じ。
9) 高齢者本人の就業状況。=1 就業していない,0 就業している
10) 配偶者の有無。=1 無,0 有
4.結論と政策的意味
本稿では、高齢者の経済的地位に大きく影響する高齢者の子供夫婦との同居率の決定要因と、それと
密接に関連する高齢者の就業、および高齢者との同居が既婚女性の就業に及ぼすプラス・マイナス要因
について検討した。本稿の計測結果から、高齢者の同居率の長期的な変化の方向を見ると、高齢者の同
居率の高い自営業世帯、とくに農家世帯の趨勢的な低下は、今後の同居率を引き下げる大きな要因とし
て働く。他方、高齢者の所得水準は、とくに公的年金の成熟化にともなう給付水準の向上と、過去の資
産蓄積とから高まる傾向にある。これらは長期的に高齢者世帯の経済的な独立、すなわち高齢者同居率
の低下を促す方向に働く。他方、今後の高齢者層のなかでの年齢の高まりと、それと関連した女性比率
の高まりは、相互に相殺する効果をもっている。
本稿の分析からは、高齢者同居の大きな要因としてその貧しさがあり、別居によるプライバシーへの
−105−
需要が高齢者の所得水準の向上とともに高まるという仮説が支持される。しかし、本稿で検討した高齢
者同居は、あくまでも高齢者とその子供夫婦とが家計を共にする伝統的なタイプの同居を分析対象とし
ている。他方、Ohtake (1993) が分析対象としたような親子が同一の敷地内に居住しつつも家計は別にす
る、新しいタイプの「準同居」であれば、ある程度のプライバシーは確保されるため、高齢者の所得水
準の向上は必ずしもマイナス要因とはならない可能性もある。
高齢者の子供夫婦との同居は、かつてのような世帯の平均的な所得水準が低かった時期には、家計規
模の利益を享受する上で重要であった。この経済的な要因にもとづく高齢者同居への誘因は、その年金
給付水準の向上にともなって低下するものの、他方で要介護高齢者の増加による家族介護のニーズの高
まりは、画期的な公的介護保険制度の設立といったような状況の変化を考慮しなければ、高齢者同居率
を高める要因として働く可能性がある。これは結果的に、既婚女性の就業率を引き下げる要因としても
働く。
上記のような結果は、高齢者の介護と生活保障に関する家族と公的部門や市場との間の役割分担とも
密接に関連する。今後、長期的に、人口の高齢化が進展するとともに、高齢者の生活安定に果たす家族
の役割は低下せざるを得ず、その機能の外部化は避けられない。すでに公的年金の給付水準の向上自体
が、家族の生活保障機能の一部を公的部門が代替していることになり、さらに今後、公的介護保険制度
が設立されれば、その傾向は一層強まるであろう。しかし、他方では公的部門を通じた世代間の所得移
転の規模には大きな制約がある。したがって、家族でも公的部門でもなく、高齢者世代内部の保険を通
じた所得移転や、民間の福祉サービスの活用など、市場を通じた高齢者の生活保障の方向に、政策的な
努力が向けられる必要がある。
−106−
Appendix 1
変数値詳細
表5
男性高齢者の就業行動分析
変
数
無
平
大都市に居住
年齢
疾病の状況
世帯所得
公的年金受給額
貯蓄率
標
表7
本
業
均
者
自
標準偏差
平
営
業
均
者
標準偏差
雇
平
用
均
者
標準偏差
0.1590
71.7469
0.4598
515.0128
154.1477
0.3658
7.6387
0.4984
432.0377
112.3147
0.1275
67.5041
0.3621
479.0319
80.6021
0.3336
6.0355
0.4807
476.6378
89.9048
0.2020
64.9253
0.3221
429.2209
118.6627
0.4016
4.8360
0.4674
404.0846
122.2889
0.2589
0.3792
0.3280
0.3977
0.4034
0.3528
4,156
数
2,071
2,114
既婚女性の就業行動分析
変
数
無
平
世帯所得
子供の数
年齢
要介護者の有無
女性高齢者の有無
標
本
業
均
者
自
標準偏差
829.3768
0.5805
42.2573
0.1046
0.2444
629.2301
0.8343
9.8459
0.3061
0.4298
2,410
数
数
貯蓄率
可処分所得
世帯主の年齢
世帯主の年齢の二乗
有業者数
有業者数の二乗
有業者率
有業者率の二乗
雇用者世帯
持家の有無
大都市に居住
寝たきり等の者の有無
高齢者世帯
世帯内高齢者数
借入金
標 本 数
均
均
者
標準偏差
801.7201
0.3702
45.2259
0.0930
0.1940
表 11
平
業
697.2429
0.7129
8.3903
0.2906
0.3956
雇
平
標準偏差
0.3322
548.1338
50.7579
2792.2920
1.5788
3.5492
0.5171
0.3709
0.6181
0.6807
0.1908
0.0215
0.1360
0.6140
0.2133
0.3618
442.6423
14.6948
1530.7070
1.0280
4.2299
0.3218
0.3624
0.4859
0.4662
0.3929
0.1450
0.3430
0.8160
0.4096
27,689
−107−
用
均
者
標準偏差
730.4315
0.3810
41.7651
0.0666
0.2866
1,129
表 9 世帯貯蓄率の分析
変
平
営
438.6916
0.7159
8.2026
0.2493
0.4523
2,554
高齢者の同居行動分析
変
数
同居
農業世帯
自営業世帯
雇用者世帯
高齢者の年齢
高齢者の性別
高齢者の身体状況
住居の広さ
持家の有無
公的年金受給額
その他の所得
配偶者の有無
標 本 数
平
均
標準偏差
0.5137
0.2326
0.1489
0.3212
70.7171
0.5795
0.0430
416.9957
0.9057
80.1966
95.9250
0.3144
(子供夫婦との同居に限る。)
15,656
0.4998
0.4225
0.3560
0.4669
7.7316
0.4937
0.2028
205.3680
0.2922
94.0164
332.2344
0.4643
Appendix 2
ジニ係数の比較
1.世帯ベース
(1)世帯主年齢別
総世帯
世帯主が 60 歳以上世帯
世帯主が 65 歳以上世帯
世帯総所得
*1
0.392
10.472
*2
0.489
世帯雇用者所得
0.496
0.694
0.757
世帯公的年金
0.782
0.483
0.419
自営業世帯
0.447
0.467
0.472
農業世帯
0.351
0.383
0.391
雇用者所得
公的年金
(2)世帯主年齢別・世帯種別
総世帯
世帯主が 60 歳以上の世
世帯主が 65 歳以上の世
総世帯
0.392
0.472
0.489
2.個人ベース
(1)総個人・年齢別
個人総所得
0.698
0.632
0.624
総個人
60 歳以上個人
65 歳以上個人
0.771
0.902
0.944
*3
0.915
0.609
0.559
(2)60 歳以上総個人・年金制度別
個人総所得
0.673
0.489
0.552
0.728
国民年金受給者
厚生・共済年金受給者
その他年金受給者
年金受給なしの者
雇用者所得
0.949
0.880
0.926
0.789
公的年金
0.445
0.412
0.452
−
(3)65 歳以上総個人・年金制度別
個人総所得
0.664
0.490
0.542
0.542
国民年金受給者
厚生・共済年金受給者
その他年金受給者
年金受給なしの者
雇用者所得
0.961
0.924
0.930
0.929
公的年金
0.426
0.381
0.443
−
3.個人 (男性に限る) ベース
(1)総男性・年齢別
個人総所得
総男性
60 歳以上の男性
65 歳以上の男性
(2)60 歳以上総男性・年金制度別
0.586
0.514
0.524
個人総所得
国民年金受給者
厚生・共済年金受給者
その他年金受給者
年金受給なしの者
(3)65 歳以上総男性・年金制度別
0.651
0.415
0.504
0.518
個人総所得
0.662
0.425
0.495
0.641
国民年金受給者
厚生・共済年金受給者
その他年金受給者
年金受給なしの者
雇用者所得
0.673
0.840
0.908
雇用者所得
0.914
0.841
0.886
0.619
雇用者所得
0.939
0.898
0.890
0.828
公的年金
0.907
0.517
0.454
公的年金
0.407
0.324
0.395
−
公的年金
0.385
0.293
0.385
−
(4)60−64 歳総男性・年金制度別
個人総所得
国民年金受給者
厚生・共済年金受給者
その他年金受給者
年金受給なしの者
0.564
0.390
0.599
0.499
雇用者所得
0.787
0.733
0.821
0.594
−108−
公的年金
0.511
0.380
0.490
−
雇用者世帯
0.329
0.391
0.401
無業世帯
0.426
0.410
0.407
ローレンツ曲線
*1.総世帯 世帯総所得
*2.世帯主が 65 歳以上世帯 世帯総所得
*3.65 歳以上個人 公的年金
−109−
Appendix 3
(1)Multinomial Logit Model (多項ロジット・モデル) (縄田(1996),Amemiya(1985)を参照)
職業選択において、
「働かない」
、
「自営業者となる」
、
「雇用者となる」の 3 つの選択が可能とする。
個人 i が「働かない」ことを選択した場合 Y i = 0 、
「自営業者となる」を選択した場合 Y i = 1 、
「雇用
者となる」を選択した場合 Y i = 2 とし、それぞれの選択肢から得る効用を U i 0 , U i1 , U i 2 とすると、
i)
Yi = 0 となるのは、 U i 0 ≥ U i1 , U i 0 ≥ U i2 の場合,
ii)
Yi = 1 となるのは、 U i1 > U i0 , U i1 ≥ U i2 の場合,
iii)
Yi = 2 となるのは、 U i2 > U i0 , U i2 > U i1 の場合,
である。いま、個人の i の j 番目の選択肢から得る効用が
Uij = µij + ε ij
で与えられ、 µij は説明変数の関数として体系的に表すことができる部分、εij はそれ以外の誤差項
とする。Multinomial Logit Model は、εij が互いに独立で、タイプ I の極値分布 (別名対数ワイブル
分布) に従うという仮定のもとで選択が行われるとしたモデルである。
いま、雇用者となることを選択したときは、
U i 2 > U i1 , U i 2 > U i0
である。タイプ I の極値分布の累積分布関数が exp( −(exp( −z)) であるということから、
P(Y i = 2) = P(U i2 > U i1 , U i2 > U i0 )
= P (ε i 2 + µ i 2 − µ i 1 > ε i 1 , ε i 2 + µ i 2 − µ i 0 > ε i 0 )
∫
= ∫
=
∞
f (ε i 2 ){ ∫
-∞
ε i 2 + µ i 21 − µ i 1
−∞
∞
f ( ε i 1 ) d ε i 1 }{ ∫
εi 2 + µ i 2 − µ i 1
−∞
exp ( − ε i 2 ) exp [ − exp ( − ε i 2 )] × exp [ − exp ( − ε i 2 − µ i 2 + µ i 1 )]
-∞
× exp [ − exp ( − ε i 2 − µ i 2 + µ i 0 )] d ε i 2
=
=
f ( ε i 0 )d ε i 0 }d ε i 2
exp ( µ
∑
∑
2
j =0
1j
)
exp ( µ ij )
exp ( µ 1 j − µ i 0 )
2
j =0
exp ( µ ij − µ i 0 )
となる。
ここで
−110−
µi 2 − µi 0 = x ′i 2 β j , µi1 − µi 0 = x 'i1 β j
とすると、
P( Yi = 2) =
exp( x 'i1 β1 )
1 + exp( x 'i1 β1 )+ exp( x'i 2 β2 )
(1)
P( Yi = 0) =
1
1 + exp( x β1 ) + exp( x 'i 2 β2 )
(2)
'
i1
を得られる。 x ij は、個人 i が、(j=0 を選ぶ時と比較して)j(≠0)という選択肢を選ぶのに影響を与える
と考えられる説明変数のベクトル、 β j は対応する未知のパラメータからなるベクトルである。
Multinomial Logit Model は、二つの選択肢の確率の比が、新しい選択肢が加えられても変わ
らず一定であるという特徴がある。
このモデルの尤度関数は、
L ( β1 , β2 ) = ∏ Yi = 0 Pi 0 ⋅ ∏Yi =1 Pi 0 ⋅ ∏ Yi = 2 Pi 2
となる。対数尤度を最大にすることにより、 β1 と β2 の最尤推定量を求めることができる。この推定量
は相対的な値で解釈が難しいので、(1)を微分して、以下のような弾性値を求めることが望まし
い。
∂P1
2
= P1[ β1 − ∑ j=0 Pij βj ]
∂X i1
∂P1
2
= P2[β2 − ∑ j =0 Pij βj ]
∂X i 2
ここで注意すべき点は、推定量 β1 , β2 の符号と、弾性値 ∂P1 , ∂P1 の符号は必ずしも一致しな
∂ X i 1 ∂X i 2
いという点である。
(2)Bivariate Probit Model (Greene(1997)を参照)
出産行動と就業行動が同時決定であるか否かを以下のように推定する。まず、出産行動にお
いて出産の有無を
y1* = x1 β1′ + ε1 , y1 = 1 if y1* > 0,
その他の場合は 0 ,
就業の有無を
y 2* = x 2 β2′ + ε2 , y 2 = 1 if y 2* > 0 ,
その他の場合は 0 ,
とする。この時、誤差項に関して以下のような仮定をおく。
−111−
E[ε1 ] = E[ε2 ] = 0 ,
Var[ε1 ] = Var[ε2 ] = 1 ,
Cov[ε1 ,ε2 ] = ρ ,
推定の結果、ρの推定値が有意な場合は出産行動と就業行動の選択に同時性があることが
分かる。ρの推定値が正で有意な場合は、二つの選択の間にプラスの相関関係があることが、ま
た、推定値が負で有意な場合はマイナスの相関関係があることがわかる。
−112−
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