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3.形態と生理・生態

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3.形態と生理・生態
3.形態と生理・生態
1)形態と生理
安政柑
①樹の特性
樹 勢 は 中 ~ 強 、樹 姿 は 開 張 性 で 枝 梢 は 下 垂 す る 。ブ ン タ ン は 一 般 に
大木になるが、本種は生長が緩慢で、小さい方といえる。枝梢は太い。
春 枝 の 長 さ は 、 ば ら つ き が 大 き い が 、 樹 勢 の よ い も の で は 15cm 程 度 で
ある。毛じがあり、稜角が発達している。
葉 は 大 き く て 厚 く 、色 も 濃 い 。葉 身 は 長 さ 10cm、幅 6cm 程 度 で 、葉 脈
は は っ き り し て い る 。 翼 葉 は 逆 三 角 形 で 大 き い 。 幅 は 約 20mm で あ る 。
葉 身 と 翼 葉 の 間 の く び れ が は っ き り し な い 葉 が 多 く 、中 に は 翼 葉 と 葉 身
が 連 絡 し て い る も の も あ る 。枝 の 基 部 及 び 先 端 部 の 葉 は 翼 葉 の な い 葉 が
多い。
花 は 大 き く 、総 状 花 序 で 群 生 す る 。若 木 の 時 か ら よ く 結 実 し 、豊 産 性
で あ る 。開 花 期 間 は 長 く 、因 島 で は 5 月 20 日 頃 が 満 開 で 、6 月 中 頃 ま で
開 花 が 認 め ら れ る こ と が あ る 。樹 体 の 耐 寒 性 は 中 程 度 で 、ナ ツ ミ カ ン と
同程度である。
か い よ う 病 に 対 し て は 弱 い が 、枝 に は ト ゲ が な く 、果 実 は 内 成 り す る
の で 、圃 場 で の 被 害 は 比 較 的 少 な い 。そ う か 病 に 対 し て は か な り 強 い よ
う で あ る 。カ ン キ ツ ト リ ス テ ザ ウ イ ル ス( CTV)に 対 し て も 比 較 的 強 い 。
②果実の特性
果 実 重 600~ 700g、果 形 は 扁 球 形 ~ 球 形 で 、玉 揃 い は よ い 方 で あ る 。
果 頂 部 は 花 柱 痕 部 が 少 し 凹 む 。果 梗 部 も 幾 分 凹 む 。成 熟 期 の 離 層 形 成 は
余り認められず、冬期の落果は少ない。
果 面 は 比 較 的 平 滑 で あ る が 、少 し 油 胞 が 出 て 粗 い も の も あ る 。油 胞 は
や や 大 で 密 で あ る 。着 色 は 11 月 よ り 始 ま り 、3 月 に 完 全 着 色 す る 。果 皮
は濃い黄色で、果梗部の着色の進みが果頂部に比べて早く、色もよい。
果 皮 は 厚 く 、硬 く て 丈 夫 で あ る が 、果 肉 と の 離 れ は 比 較 的 よ い 。厚 さ は
約 15mm で あ る 。 果 皮 、 じ ょ う の う 膜 と も に 苦 い 。 ま た 、 果 肉 も 少 し 苦
味を感じる。じょうのう膜は厚くて硬い。
果 肉 は 淡 黄 色 で 、肉 質 は 硬 く 、果 汁 は 比 較 的 少 な い 。ナ ツ ミ カ ン に 似
た 肉 質 で あ る が 、よ り 砂 じ ょ う が 硬 く 、幾 分 粗 い 。じ ょ う の う と 果 肉( 砂
じ ょ う ) と の 離 れ は よ い 。 酸 含 量 は 3 月 下 旬 で 1.5% 程 度 で あ る 。 こ れ
は 、現 果 樹 研 究 所 興 津 で の 調 査 結 果 で あ る の で 、西 南 暖 地 で は 、こ れ よ
り幾分、酸の濃度が低く推移するものと思われる。
4 月下旬以降はす上がりが認められる。因島では 3 月下旬~4 月上旬
が美味しいといわれている。糖度は余り高くなく、屈折糖度計示度で
10% 程 度 で あ る 。 2~ 3 月 頃 が 最 も 高 く な る 。
種 子 数 は 多 く 、無 核 の も の も 認 め ら れ る と い う が 、自 家 不 和 合 性 、単
為 結 果 性 の 程 度 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。種 子 の 大 き さ は や や 大 で あ
る。胚は単胚である。
江上文旦
①樹の特性
樹 勢 は 中 位 で 、樹 姿 は 開 張 性 で あ る 。枝 は 安 政 柑 よ り 下 垂 性 は 弱 い 。
枝 は や や 粗 生 す る 。枝 に ト ゲ は 殆 ん ど な い 。翼 葉 は 葉 に よ り ば ら つ き が
あるが、大きい方である。
花 は 総 状 花 序 を 形 成 す る 。花 弁 は 4 枚 で 白 色 、花 粉 は 多 い 。自 家 不 和
合 性 で あ る が 、単 為 結 果 性 が あ り 、自 家 受 粉 で も 結 実 す る 。自 家 受 粉 で
は 大 半 が 無 核 果 に な る 。有 核 果 も 種 子 数 が 極 め て 少 な い 。無 核 果 の 果 実
の 大 き さ は 、受 粉 し た 果 実 に 比 べ て か な り 小 さ く な る が 、佐 世 保 市 の 産
地では無核果生産を行っている。豊産性である。
か い よ う 病 に は か な り 弱 い 。 し か し 、 そ う か 病 に は 強 い 。 CTV に は 感
受性である。樹体の耐寒性は比較的弱い。
②果実の特性
果 実 は 扁 球 形 で 800g 前 後 で あ る 。 有 核 果 は 一 般 に 大 果 で あ る 。 果
形 に は ば ら つ き が あ り 、同 一 樹 で も か な り 腰 高 の も の も あ る 。果 頂 部 は
少 し 凹 む が 、ほ ぼ 平 面 で あ る 。果 梗 部 も 少 し 凹 む も の も あ る が 、ほ ぼ 平
面である。
果 皮 は 淡 黄 色 で 、‘ 平 戸 文 旦 ’ よ り や や 淡 い 。 佐 世 保 市 で は 、 12 月 上
旬 に ほ ぼ 完 全 着 色 期 に 達 し て い る 。 果 面 は 平 滑 で あ る が 、‘ 平 戸 文 旦 ’
に 比 べ る と 少 し 粗 い 。生 育 期 の 少 日 照 、成 熟 期 の 低 温 等 の 条 件 が 重 な る
と 、果 皮 障 害 が 発 生 す る こ と が あ る 。果 皮 は 厚 い が 、ブ ン タ ン の 中 で は
比較的薄い方である。苦味はあるが、余り強くない。
果 肉 は 淡 紅 色 で 、そ の 色 が 本 品 種 の 特 色 と い え る 。果 肉 と じ ょ う の う
の分離はよい。肉質はやや硬く、砂じょうが破れにくくて食べやすい。
酸 は‘ 平 戸 文 旦 ’や‘ 晩 白 柚 ’に 比 べ 低 い 。糖 度 は‘ 平 戸 文 旦 ’に 比 べ
て 低 い が 、酸 が 少 な い た め 甘 味 比 が 高 く 、食 味 は よ い 。産 地 で は 、12 月
上 旬 で 適 度 な 酸 味 に な っ て い る 。佐 世 保 市 で は 12 月 10 日 頃 採 収 し 、予
措 、 貯 蔵 を 行 い 、 12 月 下 旬 ~ 2 月 中 ・ 下 旬 ま で 出 荷 し て い る 。
種 子 数 は 受 粉 の 程 度 に よ っ て 異 な る 。自 家 受 粉 の 場 合 は か な り 少 な い 。
種子は白色で単胚である。
水晶文旦
①樹の特性
樹 勢 は 、ブ ン タ ン の 中 で は 中 位 と 思 わ れ る 。耐 寒 性 は か な り 弱 い 方
で 、露 地 栽 培 の 適 地 は 限 ら れ て く る 。幼 木 時 代 は 直 立 性 が 強 い が 、結 実
が 始 ま り 成 木 に な る と 開 張 性 を 示 す よ う に な る 。緑 枝 は 比 較 的 太 い 。稜
角 が 発 達 す る 。枝 は 余 り 密 生 し な い 。葉 身 は 大 き い 。翼 葉 は ブ ン タ ン の
中では余り大きくない。新梢の毛じはない。
花 は 総 状 花 序 を 形 成 す る 。花 弁 は 白 色 で 4 枚 で あ る 。花 粉 は 稔 性 で 多
い。
そ う か 病 に は 抵 抗 性 が あ り 、か い よ う 病 に は 比 較 的 強 い 。黒 点 病 の 発
生 は 多 い 。 外 観 を か な り 重 視 す る た め 黒 点 病 の 防 除 は 大 切 で あ る 。 CTV
に は 感 受 性 で あ る 。ま た 、タ タ ー リ ー フ ウ イ ル ス( CTLV)を 保 毒 し て い
るものもあり、カラタチ台での生育不良、不親和が認められている。
自 家 不 和 合 性 で あ る が 、単 為 結 果 性 が あ る た め 、無 核 果 が 生 産 で き る 。
受 粉 し な い 栽 培 家 も い る が 、ハ ウ ス 栽 培 家 の 多 く は 、生 産 の 安 定 の た め
に 、 日 向 夏 、‘ 土 佐 文 旦 ’ 等 を 利 用 し 、 受 粉 を 行 っ て い る 。
②果実の特性
果 実 は 扁 球 形 で 、果 実 重 400~ 500g で あ る 。果 頂 部 に 不 鮮 明 な 凹 環
が み ら れ る 。果 頂 部 、果 梗 部 と も ほ ぼ 平 面 で あ る 。果 皮 は 黄 ~ 黄 白 色 で 、
果 面 は 平 滑 で 美 し い 。 果 皮 の 厚 さ は 10mm 程 度 で 余 り 厚 く な い 。 上 手 に
ハ ウ ス 栽 培 し た も の で は 7mm 程 度 に な る 。 果 肉 歩 合 は 70% 前 後 で あ る 。
香 り は ナ ツ ミ カ ン に 似 る 。ア ル ベ ド は 白 色 で 、苦 味 は 中 程 度 で あ る 。果
肉 は 淡 黄 色 で 、肉 質 は 軟 ら か く 多 汁 で あ る 。果 肉 と じ ょ う の う の 離 れ は
よ い が 、予 措 、貯 蔵 に よ っ て 果 肉 が 軟 ら か く な り 、幾 分 食 べ に く く な る 。
出 荷 さ れ る 果 実 の 酸 含 量 は 1% 以 下 で 、0.8% 程 度 の も の が 多 い 。糖 度
は 特 に 高 い と は い え ず 、10~ 12% の も の が 多 い 。近 年 、ハ ウ ス 内 の 水 分
調 節 で 12% 以 上 の 果 実 生 産 が 可 能 に な っ て き て い る 。 胚 は 単 胚 で あ る 。
2)生育と結果習性
露 地 栽 培 と ハ ウ ス 栽 培 で は 異 な る が 、露 地 栽 培 で は 、温 州 ミ カ ン 等 他
の カ ン キ ツ と 同 じ 生 長 の 型 を 示 す 。高 知 県 の‘ 水 晶 文 旦 ’は 、露 地 栽 培
の場合、特に暖い所に栽培されているため、2 月頃より春芽は伸長が始
まる。生育のステージは温州ミカン等の栽培地帯より 1 カ月以上早い。
ブ ン タ ン の 開 花 は 、普 通 温 州 に 比 べ 約 1 週 間 遅 い 。た だ し 、ブ ン タ ン
の産地は一般に暖かい所が多いため、室戸市の露地の‘水晶文旦’は、
2 月頃より開花が始まり、4 月上・中旬が満開期になる。早い花は晩霜
の 害 を 受 け て 結 実 し な い と の こ と で あ る 。因 島 の 安 政 柑 の 満 開 期 は 、普
通 5 月 20 日 頃 で あ る 。 ブ ン タ ン の 開 花 期 間 は 長 い 。 そ の こ と が 果 形 の
ばらつきの一因になっている可能性がある。花は総状花序を形成する。
花 房 の 中 で は 頂 花 が 最 も 早 く 咲 く が 、落 花 し て し ま う も の が 多 い 。自 家
不和合性の品種が多いので、一般に受粉が必要である。
因 島 の 安 政 柑 は 、周 囲 に 種 々 の カ ン キ ツ が あ る こ と も あ り 、意 識 的 に
受 粉 は 行 わ れ て い な い 。高 知 県 の‘ 水 晶 文 旦 ’は 、露 地 で は‘ 土 佐 文 旦 ’
と 一 緒 に 栽 培 さ れ て い る こ と が 多 く 、人 工 受 粉 は 行 わ れ て い な い 例 が 多
い 。し か し 、ハ ウ ス 栽 培 で は 受 粉 す る こ と が 指 導 さ れ て い る 。単 為 結 果
性 が あ る た め 、受 粉 し て い な い 農 家 も あ る が 、無 核 果 は 有 核 果 に 比 べ 果
実が小さくなる。
生 理 的 落 果 の 波 相 に つ い て の 成 績 は な く 、不 明 で あ る 。し か し 、他 の
カ ン キ ツ と 同 様 に 、生 理 的 落 果 は 7 月 下 旬 頃 に 終 了 す る も の と 考 え ら れ
る。
3)気象と土壌
安政柑
ブ ン タ ン 全 体 に い え る こ と で あ る が 、冬 の 寒 さ と 風 が 最 も 重 大 な 栽 培
の 制 限 要 因 と な る 。ナ ツ ミ カ ン で 寒 風 害 が 発 生 し た り 、レ モ ン が 頻 繁 に
被害を受けるような所は適地とはいえない。
カ ン キ ツ 果 実 の 凍 結 温 度 は 安 政 柑 の よ う に 大 き な 果 実 で は 、 - 5~ -
6℃ の 気 温 で 、 果 実 が 凍 結 温 度 に 達 す る ま で に 3 時 間 程 度 か か る 。 し か
し 、 - 3~ - 4℃ の 温 度 で も 長 時 間 続 く よ う な 場 所 は 適 地 と は い え な い 。
安 政 柑 の 果 実 は 、凍 結 に よ り 苦 味 が 増 大 す る と と も に 、す 上 が り も 発 生
す る 。安 政 柑 は 、冬 期 の 落 果 が 比 較 的 少 な い が 、寒 風 の 強 い と こ ろ で は
防風垣を設置し、対策に努める必要がある。
か い よ う 病 に 対 し て は 余 り 強 い 方 で は な い の で 、発 芽 期 か ら 生 育 期 に
強 い 風 が 吹 く と こ ろ は 適 地 と は い え な い 。そ う か 病 に 対 し て は 、ブ ン タ
ン は 一 般 に 強 い 。病 害 は 個 々 に 分 け て 対 処 す る こ と は 不 可 能 で あ る か ら 、
最も危険度の高いかいよう病を基準に自然的立地条件を判断する必要
がある。
潮 風 害 に 対 し て 、ブ ン タ ン は 弱 い 方 で あ る が 、特 別 に 弱 い と は 思 わ れ
ず、ハッサク並みと考えられた。
安政柑はカラタチ台で育成した場合、若木時代は下垂せずに育つが、
結 実 す る よ う に な る と 、か な り 開 張 し て 下 垂 す る の で 、整 枝 上 は 立 枝 の
確 保 が 重 要 で あ る 。従 っ て 、耕 土 は 排 水 が 良 好 で 、深 く 、肥 沃 で あ る 方
がよい。
江上文旦
全 般 的 に は 安 政 柑 と 同 じ よ う な こ と が い え る 。‘ 江 上 文 旦 ’ が 安 政 柑
と 異 な る と こ ろ は 、 採 収 時 期 が 12 月 中 ・ 下 旬 で 、 果 実 の 寒 害 対 策 が 不
要 と い う こ と で あ る 。し か し 、樹 体 の 耐 寒 性 は 余 り 強 く な い の で 、凍 害
のでない所が望ましい。
か い よ う 病 に 対 し て は 、か な り 弱 い と 考 え ら れ る の で 、発 芽 期 か ら 生
育 期 の 風 害 対 策 は 重 要 で あ り 、風 当 た り の 少 な い 所 を 選 ん で 植 栽 す る こ
とが望ましい。
水晶文旦
‘ 水 晶 文 旦 ’は ブ ン タ ン の 中 で も 、寒 さ に 弱 い 方 と い え る 。高 知 県 で
は 、古 く か ら ポ ン カ ン が 栽 培 さ れ て い る 地 帯 が よ い と さ れ て い る 。生 育
期 の 雨 量 は 、黒 点 病 の 防 除 上 か ら 、少 な い 方 が よ い と さ れ る 。ま た 、 か
いよう病にも弱いため、風の強い所では栽培は難しい。潮風にも弱い。
寒 害 防 止 の た め 、高 知 県 の 産 地 で は ハ ウ ス 栽 培 が 行 わ れ て い る 。コ ス ト
高 に は な る が 、品 質 が 向 上 し 、生 産 も 安 定 す る 。ま た 、早 熟 化 し て 年 内
出荷が可能になる。
土 壌 条 件 は 、根 張 り を よ く し 、樹 勢 を 強 く 保 っ た め に 排 水 良 好 で 耕 土
の深い所がよい。
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