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吉田
食 べ直 した とい う話 も聞 きましたが、こうなると食事 は楽 しみ とい うよ り、む
そのお店は勉強 しているなあ―。ノ
lヽ
林 さんのご指示に したが って、 こ ん
どや らしていただきますか( 笑) 。
しろ権威 の象徴 を守 るために、 自滅 の途 を急 いでいるような気が します。
吉 田 私 の友人に胡蘭成 とい う人 がいます。江精衛政府の要人で今は台湾 にい
ます。 この人 の話 によると、上等 の料理屋にい くとメニ ューがないそ うです。
フ分\腕3分
まずチーフが出てきてお客に挨拶 をし、その場でその客席 に合 ったメニューを
トンカツの場合 も、やは り材料 の吟味は大へんで しょうね。
頭 の中でつ くるそ うです。お客の年齢や職業な どか ら、その趣好 を判断 して、
注文 も しないのに独断で `か しこま りました、 とい う具合だそ うです。
吉 田 何 の料理 もそ うで しょうが、種 7分 、腕 3分 です。 トンカツ の 種 は 豚
副総裁 食 べ物 の味 は個人差がある し、また受け入れ側 の状況 によって も違 う
肉、パ ン粉 、油、それ と 1斗 近 く入 る砲 金の大鍋 、 これ らをまず吟味 し、準備
ので しょうね。た とえば働 く人 は塩分 を多 く必要 とす るとか……。 でも残念な
しなければな りません。
が ら、今 の 日本では、高 い金 をとるのだか ら、何か技巧 をこらさねばいけない
副総裁
とい うだけの料理 がはび こってぃる ように思われ ます。
火が通 るように、厚 い肉を浮か しなが ら油で煮 ます。油の温度 は 140度 ぐら
私は店の構 えが古 くて気取 らない処 を選んでい きます。店が新 しくて立派 で
い、肉がい くつか入 った時、浮 き沈みの ぐあいで、 どれか らひき上 げた らよい
か、調理人 はその塩梅 を `
感 、で見分 けます。
す と、その原価償却が割 りかけられているように思 えてな りません。それに店
が大 きくな ります と、主人 の 目が行 きとどきませんか ら、結局 い ちばん安 くて
最近 は、なかなかよい肉があ りません。薩摩の黒豚 を専門に使 っ て い ま す
うまい縄 のれん風の店に落 ち着 くことにな ります。
が、この頃 、豚が九州 の博多、広島、大阪 、名古屋 あた りで途中下車 して しま
い ます。
副総裁
黒豚 は飼料効 率が低 いので、生産が少ない よ うです。 ところで、 トン
<ろ の味
おる、
・
…・
カツに塩 をつ けて食 べ る人 がいるようですが・
。
吉 田 三 島由紀夫 さんがよく塩 をつ けて食 べてお られ ました。私は 店 の 者 に
`
塩 をつ けて食 べ る人 には気 をつ けろ、 とよく言 います。何故な ら、油 とか 肉
吉田 NHKの
の風味、それか ら揚 げ加減が直 ぐに見すか されて しまいます。 でも食 べ物 に う
の味、 `
故郷 の味、 とは一体何か と考えます と、例えば前 日に鰈 (かれ い)な
るさいお客 さんが来ない と、調理人 も腕が上達 しないで しよう。
り、鯖 (さヤ
め の煮つ けを食 べた とします と、必ず煮汁 が残 りますね。その汁
番組 に `おふ くろの味、 とい うのがあ りましたね。 `
おふ くろ
で翌 日、おふ くろさんが豆腐 のおか らな どを煮 ます。 このよ うに、いろんな特
別な煮汁で煮 こんだ味 のよ うな もの、 これがおふ くろの味、故郷 の味 とい うも
・
満漢全席 、を団体で食 べに行 く記事 を読み ましたが、 2∼ 3
副総裁 香港へ `
のではないで しょうか。そ うい うものが現代はな くな ってい ます。昔は毎週毎
ぜ
味と個人差
週、おか らなどを煮 て食 べ させ られた として も、子供たちには違 った味が して
いたのです。
日の間に 1回 30皿か ら50皿の ご馳走が 4回 も続 けて出るとい うことです。 あれ
副総裁
は清時代 の皇帝 の正餐 で しようか。
ね。今おふ くろの味 と称するもの を食 べて、果 して うまいか どうかは疑間です
ローマ皇帝の宴会 では、客 はご馳走で腹一 ぱいになると、ゲ ロを吐 いて また
-8-
それ と、子供の時 は、腹 をすか してい るか ら、おい しいの で し ょ う
ね。
-9-
吉田
・
…・
。鯉
日本料理 の中で、水 が味を絶対 に左 右す るものがあると思 い ますが・
の千利体 の屋敷 に呼ばれた時、主 人利休 が客人太閣の腹 をすか させるため、秀
の洗 いな どは、水によ り大分変 るように思 い ますね。
い ちばん左右 され易いのは、生の洗 い、それに煮 もの,お つ ゆもので し
よう。
吉 にいろい ろ と長話 をしていた ら、秀吉 が空 きっ腹 にな って、だんだんムカム
ユ警
吉田
それは大 いにあ りますね。物 の本に書 いてあ りま したが、豊臣秀吉が堺
副総裁 料理 とはいえないが 、お茶 もそのよ うですね。
カしてきた。その顔 を利休が見て とって、庭草履 をつ っかけて、庭隅に植 えて
あ った冬菜 の葉 っぱをとってきて、それ を刻んで味噌汁 に入れて食 べ さ せ た
ら、 `こんな うまい ものは、ついぞ食 べたことがない、 と感心 した とい う話が
あ りました。
日本のテ レビや映画 では、食事 の場面が頻繁 に出てきますね。会話 の
副総裁
間 をとるのに都合がよいか らで しょうか。それ とも小道具が安直に済むか らで
副総裁
しようか。
小説な どにも、よく食 べ物 のことが出てい ます が、味その ものを表現
吉 田 私はその小道具ばか り見 てい ます よ (笑)。
右門捕物帖な ど、下々の十手
した名文章はないですね。色、形 、その時 の周囲の状況な どは書 けても、味 ま
取 り縄連中のでて くる出 し物 に、酒 を飲む場面がよくあ ります。そ の シ ー ン
ではなかなかいい尽せない ようですね。
吉 田 それは非常 に難 しい問題 ですね。
で、高台のついた茶碗 で飲みあ う場面があ りますが、あれは明治に入 ってか ら
` へ ば鐘がなるな り法隆寺、 とい
柿食
の茶碗 で、江戸時代 は安 い伊万里 のいわゆる蕎麦猪 口 (そばち ょこ)で な くて
う句 があ りますが、句か ら受 ける感 じは、何か寒々 とした秋の夕方で、腹が減
はいけないのです よ。
っているとい う感 じが します。柿 が甘 い とか渋 い とかは書 かれてい ませ んが、
吉田
レ`
で しよりか。
副総裁
お銚子がでて くるの も、相当あとにな ってか らで しょう。
副総裁
文章 の行間 のにじみで、大和柿 の甘 さを人 に知 らせる以外 に手 がないのではな
あの当時 の下様 (し もざま)に は、冷や酒 を飲 ませなければいけないん
です よ。
私 が読 んだ文章 で、 これ はお い しそ うだ と思 った ものがあ ります。上
司小鯛 で したか 、真夏 の昼 下 が り、山 の寺 で炊 きた ての ご飯 に、冷 た い岩清水
で いれ た玉露 をかけ、茄子 の漬物 をおかず に して食 べ る ところがあ りま した。
好 き嫌 い
これ は一 度試 してみた い と今 で も記憶 に 残 ってい ます。
副総裁
人参 が嫌 いで したが、無理 に食 べ させ られ ました。お蔭 で嫌 いなものは殆ん ど
食 べ物 と体 の生 理
一
摯
副総裁
人間 は、その時 に体が要求す るものが、舌 に合 うのではないで しよう
か。戦争中、南洋 にいた時 、パパ イヤ、マ ンゴステイ ン、パ イナ ップルな ど果
物 が豊富 で したが、それ を食 べて も、あま りぴん とこな くて、ある時、物資補
給船 がきて、酢 っばい りん ごをもらって食 べ た時 は感激 しま した。食 べ物 は体
の生理 といい ますか、そ うい うもの と関係があるように思えます。
私は今 でも、 とても有難か った と思 ってい ますが、子供 の頃 ごぼ うや
あ りません。何 を食 べてもおい しいですね。食通 とい う言葉はきらいですね。
あれは自分で味の世界 を非常に狭 くしているのではないで しょうか。
吉田
うまい、まず いは相手 の受 け入れ体制の状態にも関係があ りますが、そ
れ以前の問題があ ります。 これはTBSの
方 のお話 ですが、 日本人の奥 さん方
のテ レビ視聴率 は、大体 1日 4時 間15分だそ うです。それ だけ見 ていると、物
を良いか悪 いかで うまいか まずいか判 断 しないで、好 き嫌 いで判 断 して しま う
―- 11 -―
-10-
そ うです。例 えば、私は ごぼ うが嫌 いだ とか、ね ぎは食 べない とか、そ うい う
副総裁
判断 の仕方 にな って しまつてい るとい うことです。
・
・
・
売市場に出かけ、いろいろ物色 し、よいもの
。私 は休 日には よ く下北沢 のガヽ
ごぼ うの嫌 いな人、葱やにんに くの嫌 いな人は大勢 い ますが、にんに くの味
…
なぜ料理 をつ くることが下等 にみ られ るか、よ く分 らないのですが・
を見 つ けた時は、日福に恵 まれた ことを心か ら喜 びます。
が分 らな くて、動物性蛋 白質 の美味は分 りっこないです よ。生 のにんに くの う
0
まさが分 らないで、牛 、豚 、羊の肉の本来の味な ど分 りません よ。,鴨 が葱 し
よって来 る、とい う言葉 があ りますが、中国ではさしづめ `
羊が大蒜 (にんに
1
吉田 料理 は物 に付加価値 をつ けるもので、その付 け方 も劃一的 な大量生産で
はな く、いわゆる `
人 (にん)を 見て法 を説 く、式 の ものです。 これ ぐらい難
しい ことはない し、これ ぐらいや り甲斐があるものはあ りません。
く)提 げて来 る、 とい うことで しようか。
副総裁
そ う言えば、にんに くはフランス料理 に もよく使われ てい ますね。私
も好 きですが、何分においが強 いので、人様 に迷惑 がかか らないよ うに心がけ
てい ます。
他人様には迷惑がかかるとは思 い ますが、自分が うまい もの を 食 べ る
副総裁 塩梅 とい う言葉があ りますが、塩が味付 けの基本的なポイ ン トで しよ
か、食 べないかにな って くると、やは り、にんに くは食 べな くてはいけません
うね。地球が誕生 して、酸素 と水 素が化合 して水にな り、それに塩類が溶 けて
ざ。
海水 とな り、生物はそこか ら発生 した。塩 が もとにな ってい ますね。
吉田
吉 田 宇宙 に存在す る万物 の分 け方にはいろいろあ ります。味 に しても5味 と
い うものがあ り、それ は城 っぱい、酢 っぱい、甘 い、辛 い、苦 いの 5つ で しょ
う。色彩 でも普通、青、赤 、黄 が 3原 色 とされてい ます。私は色 の基本は自と
黒だ と思 い ます。
日本でも中国でもそ うなんで しょうが、男子が食 い物 の話 をするのは
下品である、 `
君子は庖厨 を遠 ざ く、とい うことが よ くいわれ ますが、働 くた
副総裁 3原 色 も、絵具で混ぜ ます と黒 っぱ くな ります。 3原 色 の光 を混ぜる
めに食 うのか、食 うために働 くのか、 どう考 えても働 くのは愉快 ではない し、
いで しようか。
食 う方 は楽 しい。 この 2つ を目的 と手段に分 けて考 えることが、そもそも間違
吉 田 塩 、それに酢や砂糖な どを入れて、 5味 を うま く使 い分 けて調理する こ
っているのではないで しょうか。老子は `
大国を治むるは小鮮 を烹るが若 し、
とは大へんなことで しょう。 「
心 ここに在 らざれば、食 らえどもそ
大学」に `
と言 つてい ます。小鮮 とは小魚 の ことで、政治 と料理法 のつなが りを、 こん な
の味 を知 らず、 とい う言葉があ ります。2000年余 も伝 えられてい る書物 に、臆
ふ うに説 いてい ます。
面 もな くこ うい うことが書 かれているとい うことは、中国人は食 べ物 に非常に
心 ここに在 る、 とい う大前提が料理人 と客人
関心 が高か ったので しょうか。 `
副総裁
と自 くな ります。料理 もその材料 の調合 いかんに よって 、微妙に変 るのではな
︱
ます。中国大陸では、料理人がず いぶん首相 にな ってい ます。 日本では、板前
︱
吉 田 食 べ物 の話はい ちばん罪がないが、食 い物 の怨みは怖 ろ しい ともいわれ
の間 に存在 していて、その上で塩梅が いい とか悪 い とかの判定 が下 されると思
風情 とか、 コ ックの野郎 とか言われ、料理 のことが さげす まれ ているよ うに思
われ ます。 `
武士は食 わね ど高楊枝、が男子 の貫禄みたいに思われているよ う
減一一 つ ま りあんばいが甚 だむづか しいのです。昭和 2年 H月 で したが、犬養
です。 そこら辺が、今 の 日本料理 の幅が狭 く、奥行 が浅 くな ってきた原因では
木堂 さんが 日比谷の山水楼 で食事 をした時、その料理の塩梅 を賞 めて、 「
塩梅
ない で しょうか。
宰相之材Jの 書 を主人 (官田武義 さん)に 書 き与 えてい ます。私はそれ を木額
―- 12 -―
われ ます。塩 と酢 (梅)は 5味 の代表格 として捉 えたもので しょうが、その加
―- 13 -―
に刻 り、水道橋の店に掲げてい ます。
吉田
うまい、まず い とい うは人間様だけではないで しょうか。犬 も猫 も味覚
はゼ ロに近 く、鋭 いのは臭覚 です。食事 も 1人 でする時 よ りも、相手がいて食
べ るのが楽 しいですね。 日本料理の出 し方 は 1人 1人 出すで しょう。中国料理
は真中に一緒 の皿で出 し、皆んなでつつ くとい う方式 です。 だか ら鍋物は元来
中国の ものなんです。 ああい うや り方 は非常に楽 しいですね。食 べ るとい うこ
副総裁
おた くのお店 には江戸時代 の玉 川上水の木 管がカウンターや食卓 に使
とは、ただ餌 を奪 いあ って、腹 をふ くらませることではな く、世間話 をしなが
ってあ りますね。ある雑誌 で読んだのですが、昭和 10年頃 まではまだ木管が使 `
ら分け合 って食 べ ることが 、人間 らしい食 べ方 ではないで しょうか。
われていたようですね。それは 日本水道木管株式会社が、大正の始 めに米国か
副総裁
ら木管 をつ くる機械 を輸入 して造 った ものですが、ち ょうど第 1次 大戦 で鉄が
したよ。
沢庵漬 も音 を立てず に食 べ ろな どかな りきつい よ うですね。
禅宗 では、
高騰 したので、需要が多か ったか らで しょう。 でも、おた くにあるよ うな くり
ところで料理 は、人 のつ くつた ものを戴 くのは まことに結構 ですが、つ くる
ぬいたものではな く、樋式 に鉄線 をまいて作 ったものであ った よ うです。
で も、 これは継 ぎ手で水が漏れて、その漏れ た水が井戸 に入 り込んでいたよ
で も私 ども子供の頃 は、
食事 の時、お しゃべ りをするな としつ けられ ま
ご本人は不幸だ とい う感 じが します。おた くの店 で働 いている方 々は、四六時
中 トンカツ を揚 げているわ けで、油 の臭 いが鼻 について、それだ けで満腹にな
うです。鉄管 にかえてか ら丼戸水 が減 り、水道局が補償 を要求 され るとい うよ
つて しま うのではないですか。
うな、おか しな問題 も起 った よ うです (笑)。
吉田
水 はまた防腐の役 も果す よ うで、京都、奈良の都の跡か らは、墨色の消 えな
副総裁
そ うい うことは確かにあ ります。
板前 さんは、お客 さんのためには手 のこんだ料理 をつ くるけれ ど、 自
い木簡が発掘 されてい ます し、弥生時代 の遺跡か ら発掘 された舟や生活用具な
分たちは、魚 の中おちにあ ら塩 をかけ、強火で焼 いたような簡単な食事 をして
ども、空気にふれ ると腐 るので、水につ けてあ りますね。
いるようですね。
吉 田 一般 の人 は水 をばかに してい ますが、禅宗のお坊 さんは、水はとても大
吉田
事 な もの と説 いてい ます。 こんな逸話 があ ります。昔、道元禅師が諸国行脚 を
ンカツ、 ビフテキ、シ ャブシャブを食 べ ろよ、 と言 ってい ます。少 し酷な話で
して、京都 のある寺院に泊ろ うとしてわ らじをぬ ぐと、小坊主がた らい をも っ
すかな(笑)。他流試合 で修業 をしない と、料理人 としては片輪 にな って しまい
て きて禅師 はそれで足 を洗 い 、つづいて手洗 いの水 を手桶でも って来 て杓 で禅
ます。他 の店 で勉強ができるのです。
師 の手 にか けた。 3杯 目にな って もうよい と言 うと、小坊主が杓に残 った水 を
捨 てよ うとした。禅師は `
捨 てるのは待 て、縁ある水は縁に返せ。、つ ま り手
副総裁
お っ しゃる通 りです。 だか ら私は店の者 に、 `
休 日は外へ行 っても、 ト
それでは時間 もだいぶ たちましたので、この辺 で終 りたい と 思 い ま
す。大入んお忙 しい ところを、長時間あ りが とうござい ました。
桶 に返せ と言 ったそ うです。
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一
副総裁
話 は変 りますが、味覚がな くな って しま う病気があるようですね。 味
…・
・
覚 は人生 にバ ラエテ ィーを与 えて くれ る大切なものだ と思 い ますが・
。
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