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参考図書:関西医科大学同窓会80年史

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参考図書:関西医科大学同窓会80年史
医化学講座最終版
医化学講座
医化学講座の教室概要は「関西医科大学四十年の歩み」「関西醫科大學六十年の歩
み」に詳細に記載されている。斎藤國彦教授が平成 5 年 3 月に定年退職され、平成 6
年 4 月に後任教授として伊藤誠二が着任し、現在に至っている。昭和 63 年 4 月から
平成 20 年 3 月までの前半を斎藤前教授、後半を伊藤が分担執筆する。
1.昭和(S)63 年 4 月から平成(H)20 年 3 月まで研究教育に関与した教室員(最終職位)
教授:斎藤國彦(-H5.3)、伊藤誠二(H5.8-)。客員教授:松田久(S62.4-H3.3、大阪
大学名誉教授)、村地孝(H2.4-2.5、京都大学名誉教授)、南敏明(H18.6-、大阪医科
大学教授)。臨床教授:好井覚(H19.4-、関電病院部長)。助/准教授:奥村忠芳
(S52.4-H20.3)。講師:菅谷純子(S48.4-H8.8、現静岡県立大学教授)、里内清
(S50.4-H2.9、現福山大学教授)、西澤幹雄(H7.5-19.3、現立命館大学教授)、芦高
恵美子(H8.10-)、松村伸治(H10.9-)。助手/助教:中山玲子(S59.4-H2.3、現京都
女子大教授)、増田直子(S63.4-H2.1)、畝崎佐和子(H3.4-)、益康夫(H6.4-9.9)、
大西隆之(H17.7-)。研究員:尾辻智美(H13.4-17.3)、馬渕圭生(H15.4-)、工藤久
智(H16.4-19.3)、徐麗(H15.10-19.5、現大連理工大学)、片野泰代(H19.4-)。専攻
生:馬越誠子(H16.5-、丸石製薬)、九里俊二(H18.9-、協和発酵)。大学院生:陸景
珊、松浦節、大中誠之(眼科)、地崎竜介(泌尿器科)。技術員:熊田志保。秘書:並
川敦子、山下桂、新田由紀子、三嶋朝子、加藤光子、堺谷由希、椿原恵美。共同研究
員:丸山励治、渡部紀久子(東亜大学教授)、田中(幸田)紀子、森内寛。
学位取得者(年度)は医化学:馬渕圭生(H15.11)、片野泰代(H19.3)、高木邦夫(H20.1)。
内科:藤村和代(H2.3)、安田恇秀(H2.12)、山本真理子(H4.5)、崎谷和重(H10.2)、北
野貴弘(H15.10)。心療内科:阿部哲也(H18.3)。小児科:堀井嗣夫(H4.12)。外科:印
牧俊樹(H5.10)、北出浩章(H8.10)、海堀昌樹(H9.7)、加藤泰規(H10.11)、小田道夫
(H12.12)、井上知久(H13.12)、中西秀樹(H16.12)、豊島茂(H16.12)、中井宏治(H17.3)、
北川克彦(H17.9)、松井康輔(H19.5)、尾崎岳(H19.5)、山田正法(H19.11)、羽原弘造
(H20.1)、田中宏典(H20.1)、徳原克治(H20.3)、吉田秀行(H20.3)。整形外科:森本忠
信(H5.3)。泌尿器科:六車光英(H5.3)。眼科:伊東良江(H5.3)、山田(植田)真未(H10.4)、
安藤彰(H14.3)、中内正志(H17.3)、石川(山崎)有加里(H19.3)、金子志帆(H19.9)。耳
鼻科:古川昌幸(H3.10)。産婦人科:中嶋達也(H15.6)。麻酔科:池田栄浩(H12.10)で
ある。志半ばで医化学講座を去った大学院生も少なからずあり残念に思う。
2.斎藤國彦教授在任期(昭和 63 年 4 月−平成 5 年 3 月)
伊藤誠二教授から前回の教室史に続いて、私の定年退職までのことを書くよう依頼
をうけた。教育研究に対する基本姿勢は従来と変わらなかったが、辞めてより 15 年
余り記憶も薄らいでいる。関西医大誌(43, 46, 47)や私の「退任記念誌」を参考にし
ながら責を果たしたいと思う。
Penicillium notatum には lyso 活性と B 活性双方をもつ単一の酵素があり
phospholipase B(PLB)として発表し、また内在性 protease によって限定分解を受
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医化学講座最終版
けると B 活性は消失し、lyso 活性のみになることなど FASEB 会議(1988、 Vermont)
で発表した。Lyso 活性とは lysolecithin の sn-1 のエスチル結合に、B 活性とは
lecithin の sn-1、sn-2 双方に作用する酵素活性である。この酵素は分子量約 95kDa
の糖蛋白であり、その蛋白部分の一次構造を決め、603 アミノ酸残基、上記限定分解
は Leu 175 と Asp 176 の間であった。糖部分は高マンノース型の M9 であった。従来
PLB と lysophospholipase は同一であるといわれていたが、少なくとも本酵素の場合
はそうでない。一方、動物組織にある cPLA2 は lyso 活性もあり、我々の酵素と近いと
考えており、また小腸に存在するとの報告もある。
血小板活性化因子(PAF)が昭和 47 年に発見され、
その構造が昭和 55 年に決められ、
生物活性をもった最初のリン脂質として注目された。我々はそれ以前よりガスクロ‐
質量分析計(GC-MS)を用いリン脂質分子種の研究をしていたが、PAF もまたその特異な
分子種の 1 つであったので GC-MS による研究を始めた。元来 PAF は正常組織には存在
しなくて免疫や炎症刺激に応じて新しく生成されるメディエーターとして、種々の疾
病に関与すると考えられ、臨床からも多くの方々が参加した。しかし一方、正常なラ
ットの子宮や胃、ある種の酵母など正常組織にも存在することがわかったが、特に子
宮内 PAF はその第一報であった。これらの成績は国際 PAF 学会(ICPAF)などに発表
されたが、第 3 回 ICPAF は平成 3 年野島庄七教授のもと東京で開かれ、そのサテライ
トシンポジウムを私が奈良で行い「PAF & Diseases」(K. Saito, D. J. Hanahan Eds,
1992)を出版した。教室員も増え相互の親睦をはかるため、同年第1回「茫々会」を
催し、32 名の出席者があった。会員の中から教授になった方は矢野郁也(大阪市大)、
川嵜伸子(京大)、蒲生寿美子(大阪府大)、里内清、中山玲子、菅谷純子らである。
第 4 回 ICPAF はユタ州 Snowbird で開かれたが、当教室の他、かつて一緒に研究した
方々、中山玲子、安田勝彦、高島美智子(本学産婦人科)、池田一郎、小田真(済生
会泉尾病院)、古川昌幸(Dallas, Johnston 研究室)君らも参加し、あたかもミニ「茫々
会」の感さえ味ったものでした。GC-MS を用いた本格的研究は LKB-9000 の設置(昭和
47 年)に始まるが、PAF の研究に有効であるだけでなく、初代培養肝細胞系に於いて
プロスタグランジン(PG)D2 や PGF2αが酸化され、それぞれの dinor、
tetranor 体を GC-MS
で同定した。
平成 5 年 3 月、最終講義とパーティが大学と茫々会により開催され、記念誌も配ら
れた。最終講義の題は「どっこい生きていた−関西医大での 30 年」、何はともあれと
もかく懸命に生きた人達の居たことが背景にあったのである。あわせて本学、文部省
や企業特に菌体を提供して下さった東洋醸造、そして国の内外を問わず多くの恩師、
先輩友人達、関西医大の学生諸君に感謝の意を表明した。
3.伊藤誠二在任期間(平成 6 年 4 月−平成 20 年 3 月現在)
PG は種々の刺激で細胞膜から切り出されたアラキドン酸がシクロオキシゲナーゼ
(COX)により PGH2 に変換され、さらに、PG 合成酵素により PGD2、PGE2、PGF2α、PGI2、
トロンボキサン A2 に変換され、全身すべての細胞・組織で多彩な生理活性を示す。ア
スピリンをはじめとする非ステロイド性消炎鎮痛薬の作用が COX の阻害によることは
よく知られている。私が着任した平成 6 年はホルモン受容体、中でも PG 受容体やヒ
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医化学講座最終版
スタミン受容体をはじめとする G タンパク会合型受容体の一次構造とその情報伝達機
構がほぼ解明され、新しい展開の時期であった。医化学講座の脂質研究を継続発展さ
せるため、PG 研究に軸足を置きながら、教授在任期間を 25 年として、最初の 10−15
年は研究の枠にとらわれず、研究の間口を広げること、病態生理に重要なテーマで流
行にとらわれずにオリジナルな研究をすることを目指した(医化学講座のレターヘッ
ドのマーク)。平成 6 年から現在までの主な研究課題を列挙する。1)我々がクロー
ニングした PGF2・受容体 mRNA の発現が発情周期で大きく変動し、黄体退縮、妊娠維持
に重要な役割を持つことから、プロモーター領域を解析してトランスジェニックマウ
スを作製した。また、選択的 PCR を駆使してヒト PGF 合成酵素を含む 4 種類のアルド
ケト還元酵素遺伝子の単離に成功した。2)ショウジョウバエの卵形成に関与する Zn
フィンガー結合モチーフを有する ovo 遺伝子のマウス相同遺伝子を単離し movo
(ovol2)と名づけた。movo のノックアウトマウスは胎生致死で、発生期には血管新生
に関与することを明らかにした。さらに線虫やゼブラフィッシュでもその機能が確認
できたことから、ショウジョウバエから哺乳類にわたって重要な遺伝子である。Movo
タンパクは生後 3 週以降の精巣で特異的に発現しているので、現在精子形成における
役割を解析している。3)網膜色素変性症の 1 つ脳回転状網膜脈絡膜萎縮症はオルニ
チントランスアミナーゼの先天性代謝異常でヒト網膜色素上皮細胞株を用いて in
vitro モデルを確立し、その細胞死にアミノ酸トランスポーターCAT-1、オルニチンデ
カルボキシラーゼ、c-myc の遺伝子発現誘導とポリアミンが関与することを明らかに
した。4)肝部分切除や急性肝炎などの病態時に TNFαが一酸化窒素合成酵素(iNOS)
の誘導に関与することが知られている。肝機能調節因子としてのサイトカインの役割
を明らかにする過程で、TNFαでなく IL-1βが初代培養肝細胞の誘導型一酸化窒素合成
酵素(iNOS)の誘導に関与することを見出した。IL-1βが NF-κB の活性化と PI3K/Akt を
介した IL-1 受容体の増幅を介して iNOS 遺伝子を発現誘導するだけでなく、iNOS 遺伝
子のアンチセンスが安定化に関与することを明らかにした。
医化学講座のメインテーマは慢性疼痛、なかでも神経因性疼痛、の発症維持機構の
分子から疼痛行動まで体系的研究で、疼痛行動の神経可塑的変化は記憶・学習などの
高次脳機能でみられる神経活動の長期増強の解明につながる。特筆すべき点は、1)
第4オピオイド受容体リガンド・ノシセプチンの単離(解剖学第 2 との共同研究)と
我々が命名した神経ペプチド・ノシスタシンの単離と BRET によるその産生調節機構
の解明、2)神経因性疼痛における NMDA 受容体 NR2B の 1472 番目の Tyr 残基のリン
酸化と神経型 NOS (nNOS)の活性化の関与、3)細胞膜へのトランスロケーションによ
る nNOS の活性化と PACAP の役割、4)神経因性疼痛における PGE2 受容体 EP サブタイ
プの作用機構の解明である。ノックアウトマウスを用いた国内外の多くの研究室との
共同研究により神経因性疼痛の発症維持機構が体系的に理解することが可能になっ
てきた。ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)を用いる分子イメージングやプ
ロテオミクスを駆使して慢性疼痛の診断・治療に向けた取り組みを始めている。また、
平成 18 年度に文部科学省の学術フロンティア推進事業として採択された 5 年プロジ
ェクト「ブレインメディカルリサーチセンター」で基礎臨床 15 講座の一員として治
療に向けたトランスレーショナル研究を推進している。
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医化学講座最終版
教育面では、医学の目覚しい進歩に対応するために、分子遺伝学部門の喜多村教授
に提案をして講義・実習に加えて医化学演習をとりいれた。100 名の学生を 8 つのグ
ループにわけ、
「ヒトゲノム計画」
「アルツハイマー病」
「肝再生」
「癌と細胞接着」な
ど講義で教えないテーマを夏休みの間に学生に調べさせて、医化学・分子遺伝学(平
成 8∼14 年は黒崎教授)のスタッフが個別指導した。スタッフが手作りした発表原稿
の小冊子を学生に配布して、秋学期に学生が主体となって各グループ1時間ずつ第 1
講堂で発表、質疑応答、相互評価をさせた。「グリコーゲン貯蔵病」の発表では、他
の学生に理解してもらうために商店街の飾り付けに使うもち花をグリコーゲンに見
立てて工夫して説明していたのが印象に残っている。平成 15 年チュートリアル教育
の導入により、全ての学生が同じテーマから課題を抽出して各自がそれぞれの課題に
ついて教科書やインターネットで調べまとめる形態に変更した。平成 15 年度はクロ
ーン動物「ドリー」をテーマとして選び、重松宗育教授に詩「クローン」を寄稿して
いただいた。平成 6 年に着任したときから平成 19 年度で小冊子が 14 冊となる。学生
が作成したこれら小冊子は、ポートフォリオ的な意味だけでなく医学の進歩の記録と
して貴重なものである。
着任以来、毎週月曜日の朝 9 時からジャーナルクラブ、1、3 土曜日朝 9 時からプロ
グレスレポートを行い、大阪医科大学麻酔科学教室(南敏明教授)とは毎年 1 月に合
同プログレスレポートを開催している。同じ職場で働いた仲間は「同じ釜の飯を食っ
た」と人口に膾炙されるが、医化学講座では、毎週土曜日の午後約 1 時間、全員総当
りの当番がネズミの床敷換えを行ってきたので、さしずめ「マウスの床敷換えをした」
仲間といえる。斎藤教授の後任として医化学講座を担当させていただく際、同窓会
..
..
「茫々会」を「亡々会」としないように、医化学講座の伝統を引き継ぎ懸命に生きた
結果、幸い研究費にも恵まれ、現在 100 名近くなり、喜ばしいことである。
(平成 20 年 3 月 斎藤國彦・伊藤誠二記)
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