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生体膜間の代謝産物輸送

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生体膜間の代謝産物輸送
第11回 生体膜間の代謝産物輸送
●講義の目的
生体膜間の物質の輸送機構について理解する.
●講義の要約
1.葉緑体外包膜は低分子物質を比較的無差別に透過させるが,内包膜では特異的輸送体やチ
ャネルを介した物質輸送が行われる.
2.生体膜は脂質二重膜であり,小型の非極性物質ほど透過しやすい.
3.生体膜間の物質輸送形式は様々に分類される.受動輸送と能動輸送.単純拡散と促進拡散.
4.輸送体タンパク質には,チャネル,トランスポーター,ポンプがある.
●Q&A
Q: 水は極性をもつのになぜ二重膜を通りやすいのですか?(計2名)
A: 輸送タンパク質を介さず,物質が脂質二重膜間を透過する速度は,小型の非極性物質ほ
ど早いです.これらの例として水と膜脂質のどちらにも可溶な低級アルコール,エステル,芳香
族化合部および気体があります.水分子は極性をもちますが,分子が小さく他の低分子に比べ
て濃度も高いため,脂質二重膜をある程度素早く拡散することができると考えられます.
Q: アミノ酸に翻訳されると自動的に二次構造や三次構造ができてしまうのですか?
A: 翻訳されたポリペプチド鎖が高次構造を形成していく過程をフォールディングと言います.
フォールディングはポリペプチド鎖中のアミノ酸側鎖の水素結合や局所的に起こる小ドメイン間
の疎水的凝集により引き起こされます.ポリペプチド鎖が間違って折りたたまれたり,凝集して沈
殿するのを防ぐためにフォールディングの途中でポリペプチド鎖に結合する分子シャペロンとい
うタンパク質も存在します.
Q: 輸送体を介した拡散のメリットは何ですか?(速度が遅くなってしまうのですが)
Q: チャネルとトランスポーターの2種の輸送体をもつことの生体におけるメリットは何ですか?
Q: 輸送方法はなぜチャネル,トランスポーター,ポンプに分かれているのでしょうか? 一つじゃ
だめなのですか?
A: 水やイオンなどの小型の物質を膜透過させるためには,フィルター作用のみをもつチャネ
ルを介する方がトランスポーターを介するよりもはるかに迅速に行うことができます.その際の物
質の流れは一方向です.一方,膜間で異なる物質を交換輸送する場合などにはたとえ透過速
度が遅くてもタンパク質の構造変化を伴い厳密な選択性をもって輸送を行うトランスポーターの
方が都合がよいわけです.
Q: 3つの輸送体ではどれが一番種類が多いのでしょうか?
A: ゲノム配列が明らかとなったシロイヌナズナにおいては 855 個の輸送体タンパク質が存在し,
そのうちの6割以上がトランスポーターであり,次いでポンプ,チャネルの順になると推定されて
います.
Q: 輸送機構で動物と植物に違いはありますか?
A: 動物・植物ともに3種類の輸送タンパク質をもちます.動物と植物とで構造や機能の良く似
た輸送タンパク質もありますが,動物あるいは植物に固有の輸送タンパク質もたくさんあります.
Q: ゲートをもつチャネルのゲートの開閉は構造変化に入らないのですか?
A: ゲートの開閉ももちろんタンパク質の立体構造変化です.授業では,輸送される基質が結
合して構造変化が起こる輸送タンパク質がトランスポーターやポンプであることを強調しました.
Q: α-ヘリックスの図で,どこが疎水性でどこが親水性かわかりませんでした.
A: プリント 4-2 ①や②のリボン構造を見ていても,どこが疎水性かなどはわかりません.②C
にアミノ酸配列が書かれてありますが,α-ヘリックスを形成する領域では疎水性アミノ酸が相対
的に多く,ヘリックスとヘリックスをつなぐループ領域では親水性アミノ酸が多くなっています.
Q: GlpT で基質と結合するアルギニン残基をもつα-ヘリックスは第1と第7なのではないですか?
(計3名)
A: そうですね.間違えました.第1,第7ヘリックスです.
Q: GlpT で,452 個のアミノ酸中にアルギニンは複数個あるのに,なぜ R45 と R269 のみが働くこと
ができるのですか?
Q: グリセロール 3-リン酸トランスポーターが基質を判別する仕組みが良くわからなかった.
A: アルギニン残基は他にも幾つかありますが,基質が通過する孔の中央付近に位置している
のは,第1,第7ヘリックス中のアルギニン残基です.この2つのアルギニンの側鎖
(-CH2-CH2-CH2-NH-C(NH2)-NH2+)がグリセロール 3-リン酸や無機リン酸をつかまえるわけで
す.
Q: 「エネルギーを使って」という言葉が出てきますが,ATP のリン酸がどのように働きかけるのです
か?
Q: 二次能動輸送の意義はどのようなものですか?
Q: 二次能動輸送は,同時に起こるプロトンの受動輸送によるエネルギーを利用するということです
か?
Q: プロトン勾配が良くわからなかった.
A: 一次能動輸送ではATPの加水分解エネルギーや光エネルギーを使って,電気化学ポテン
シャル勾配に逆らって基質を能動輸送します.前者の例として細胞膜中のH+-ATPaseや液胞膜
中のCa2+-ATPase,後者の例としてバクテリオロドプシンがあります.ATPaseにおいては,ATPの
分解に伴いATPaseタンパク質がリン酸化されて基質透過のための構造変化が起こります.二次
能動輸送では,一次能動輸送で膜間に形成されたH+の濃度勾配に従ってH+が輸送されるのと
共役して基質が輸送されます.この時には,基質の濃度勾配に逆らった移動が起こります.
Q: 輸送体で,トランスポーターとポンプの違いは能動か受動かの違いだけですか? ポンプも構
造変化するのですか?
A: 基本的に,トランスポーターとポンプの違いは受動輸送を行うか,能動輸送を行うかにより
区別されます.どちらもタンパク質の構造変化を伴います.
Q: プリント 4-2 図④のリン酸は(A)〜(C)ではPと表され,(D)では Pi と表されていますが,どう違うの
ですか?
A: パネル(A)〜(C)ではポンプタンパク質がリン酸化されているため,そのリン酸基がPと表さ
れています.パネル(D)ではタンパク質が脱リン酸化され,リン酸は無機リン酸(inorganic
phosphate)としてサイトソル中に遊離するため,Pi と表されています
Q: H+濃度勾配によりショ糖が輸送されるところで,H+とショ糖の関連が良くわかりませんでした.
Q: ショ糖を一次能動輸送することはできますか?
A: 一部の植物では,葉肉細胞で合成されたショ糖はいったん細胞外に出されアポプラスト経
路を通って伴細胞まで移動します.伴細胞の細胞膜に存在するショ糖トランスポーターにより伴
細胞内に取り込まれ師管を通って他の器官へと転流されます.ここで,ショ糖トランスポーターは
あらかじめH+-ATPase(H+輸送性ATP加水分解酵素)の働きにより生じたH+濃度勾配(細胞外の
H+濃度が高い)を利用します.すなわち,プリント 4-2 図⑤にあるように,ショ糖トランスポーター
に濃度の高いH+が結合するとショ糖も結合しやすくなり,両者が結合するとタンパク質の構造変
化が起こり,サイトソル側に孔が開くようになり,H+とショ糖が放出されます.なお,直接ATPの分
解エネルギーを使ってショ糖を一次能動輸送するようなタンパク質は未だ見つけられていませ
ん.
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