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学びのネットワークを築く子ども

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学びのネットワークを築く子ども
− 学びのネットワークを築く子ども −
研究のあゆみ4
愛知教育大学附属岡崎中学校
会 場 案 内 図
・¡と™はそれぞれ公開授業の時間を表します。
・昼食会場は育朋館です。昼食券を販売します。
・育朋館,各階ホールに湯茶を用意しています。
・下足の預かりはありませんので、下足箱をご利用ください。
・育朋館入口にて図書販売を行っています。
わたしたちは、
21世紀をつくる光栄な立場にあります
(洋子の卒業メッセージより)
子どもたちは学びの
ネットワークを築いていく
互いに思いを共有しながら
はじめに
学校教育の一つの役割として、子どもたちの将来の生活への準備ということが挙
げられます。従来の安定した変化の少ない社会では、学校で学んだことは、ほぼ人
の一生を通して有効でありました。そのような社会では、学校の役割は比較的見通
しの立つものでした。しかし、情報化の進展とともに、学ぶべき知識量の増大とそ
れに伴う社会各分野における変化の速さは、このような従来の学校の観念を根本的
に変えざるをえない事態を招来しました。生涯学習社会が展望され、そこにおいて
学校はどのような役割を果たし、子どもたちにどのような準備をしてやればよいか
が新しい課題となってきました。1980年代に入って、世界の各国で、個性の重視、
基礎・基本の精選と総合的な視野の育成、そして問題解決的な能力が強調されるよ
うになってきました。急速な社会の変化の中では、変化に耐えられうるような基
礎・基本をしっかり身につけ、予測不可能な新たな時代の課題に柔軟に対処し、個
性的で有能に生きていく力を重視していこうとする考え方です。今回の学習指導要
領の改訂もこのような流れの一環にあるといえましょう。選択学習の拡大や総合的
な学習の時間の新設は、このような学習の場を提供するものととらえられましょう。
その背景には、子どもたちの関心や学びの意欲を重視しつつ、学習の仕方や問題解
決的な能力を育てようとする学力観を見ることが出来ます。
これまで、問題解決的な能力の育成を目指した学習過程の設計のあり方について
は、多くの提案がなされ、実践と研究が行われてきました。「問題解決能力」とい
われるような能力を子どもたちが身につけていくことは、多くの教育者にとって疑
いのないことと受け止められてきましたが、このような問題解決能力がどのように
して育つのか、またそれを明示的に教えられうるかについては、さまざまな議論が
なされてきました。研究上の知見は、問題解決的な能力の育成は不可能ではないと
しても簡単ではないことをたえず示してきました。
本校が、研究テーマ「文化創造−学びのネットワークを築く子ども−」を掲げて
研究と実践に取り組んで今年が4年目の最終年次にあたります。この教育研究にお
いて、子どもたちが主体的に学びのネットワークを築いていくには、問題解決的な
学習過程が重要なキーワードとなっております。時としては、表面的な形式やイメ
ージに流されやすい、問題解決的な学習の研究と実践に、私たちは、行きつ戻りつ
しながらも真正面から向き合って、一つの教育実践としてのあり方を模索し、提案
するべく全力を挙げて取り組んでまいりました。本書は、4年間の教育研究の最終
年次にあたって、そのあゆみをまとめたものです。どうか皆様の忌憚ないご意見や
ご指導をお願い申し上げる次第です。
本研究の推進にあたり、指導助言者、研究協力者、今は附中を離れた研究同人を
はじめ、多くの方々のご指導、ご支援、ご協力をいただきましたことを、ここに深
く感謝申し上げます。
平成14年10月
校 長 平 田 賢 一
日 程
全体発表
研 究 主 任 夏 目 貴 司
研究副主任 山 本 浩 司
8:30 9:00
9:35 9:55
全
体
発
表
受付
− 学びのネットワー 11:10 11:30
公
開
授
業
Ⅰ
移動
12:45
公
開
授
業
Ⅱ
移動
11:00
10:45
公開授業Ⅰ
教科等
学級
N P
1A
英 語
1B
単 元 名 等
(時 間)
iプロジェクトⅠ
(9:55∼11:10)
授業者
場 所
平井 克明
1A教室
Hello, My Friends !
(9:55∼11:10)
市川 徹
1B教室
1C
わたしと自然
(9:55∼11:00)
伊豫田 守
技・家
2B
広げよう ふれあいの輪
(9:55∼10:45)
原田 悦子
美 術
保 体
3A
3B
3D
1C教室
被服室
まわり続ける星
(9:55∼11:00)
大林 伸吉
心の窓
(9:55∼10:45)
丹羽 圭介
ワールドスポーツⅡ
(9:55∼11:00)
相羽 孝彦
第1理科室
理 科
1A
音 楽
1C
単 元 名 等
(時 間)
聞こえない音
(11:30∼12:45)
コリアン・ビートを
からだで感じて
授業者
場 所
中村 賢司
第2理科室
田中佳代子
武道場
保 体
1D
Enjoy Ballgame Ⅰ
(11:30∼12:35)
中野渡善樹
技・家
2A
ハートフル回路を創ろう
(11:30∼12:20)
k田 康司
社 会
2C
21世紀 日本の「食」は
大丈夫?
(11:30∼12:45)
美術室
育朋館
学級
11:30∼12:45
(11:30∼12:35)
国 語
理 科
教科等
12:35
12:20
公開授業Ⅱ
9:55∼11:10
昼食・
移動
数 学
2D
マジックハンド
キャッチャー
(11:30∼12:45)
育朋館
電気室
中西 勉
2C教室
鈴木 勝久
2D教室
国 語
3C
古典を味わおう
(11:30∼12:45)
野間 寛
英 語
3D
Japan in Asia
(11:30∼12:45)
都築 孝明
− 2 −
3C教室
3D教室
クを築く子ども −
13:35
ビ
デ
オ
上
映
15:15
教
育
講
演
会
閉
会
行
事
ビデオ上映
(12:55∼13:25)
◇ t プロジェクトⅠ
◇ t プロジェクトⅡ
教育講演会 演題
「守る伝統、捨てる伝統」
講 師
西川流三世家元 西 川 右 近 氏
プロフィール
昭和14年、二世家元・西川鯉三郎の長男として名古屋に誕生。
19歳で初の舞踊劇を発表。精力的に作品づくりをするのみならず、
新歌舞伎、演劇、テレビ、ラジオと多方面で活躍。
「名古屋をどり」のすべてを演出、プロデュース。
二度の NAGOYA ODORI アメリカ公演など海外活動もさかんに行う。
昭和57年愛知県文化選奨文化賞を受賞。昭和58年、西川流家元を継承。
平成13年文部科学大臣賞表彰。
音楽の追究から…
「オーストラリア人の英語の先生に日本の音楽を伝えたい」
という気持ちを抱いた子どもたちが、西川流の門をたた
きました。西川流の先生は、子どもたちを受け入れ、時
にはやさしく、時には厳しく指導してくださいました。
音楽の追究がネットワークプロジェクトにつながり、西
川流舞踊家が繰り広げるステージに立つことができまし
た。日本の伝統芸術の追究にのめりこんだ子どもたちが、
とうとう西川右近先生にたどりついたのです。
− 3 −
HHHHHHHHHHHHHHHHHHH
目 次 HHHHHHHHHHHHHHHHHHH
はじめに
日 程
第 Ⅰ 部 総 論
将来「文化創造」の担い手となる子どもを育てる‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
学びのネットワークを築く子ども‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
学びのネットワークを築く子どもの育成に向けて‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
研究のまとめに向けて‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
研究のあゆみ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2
4
8
14
16
第 Ⅱ 部 9教科の学習
国 語‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
社 会‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
数 学‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
理 科‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
音 楽‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
美 術‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
保健体育‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
技術・家庭‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
英 語‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
20
34
48
62
76
86
96
110
124
第 Ⅲ 部 ネットワークプロジェクト
ネットワークプロジェクト ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ネットワークプロジェクト3年間の学び ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
i プロジェクトⅠの実践 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
i プロジェクトⅣの実践 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
t プロジェクトⅠの実践 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
t プロジェクトⅡの実践 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
NP・子どものまとめ より( i プロジェクトⅡ)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
NP・子どものまとめ より( i プロジェクトⅢ)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ネットワークプロジェクトに寄せられた声 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
140
142
144
150
154
160
166
168
170
第 Ⅳ 部 公開授業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
174
主な参考図書‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
助言者・司会者・共同研究者‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
206
207
おわりに
研究同人
− 4 −
第 Ⅰ 部
− 1 −
文 化 − 学びのネットワー 将来、「文化創造」の担い手となる子どもを育てる
今世紀を担う子どもたちに
より速く、大量に、しかも広範囲で情報が駆け巡り、自分と世界中が
結びつけられるブロードバンド時代。10年前には夢であったあらゆる機
能をいとも簡単に操作できる環境があり、だれもがその恩恵を享受でき
るようになりつつある。さまざまな情報が、あらゆる予想の域を超えて
飛び交う社会が到来したのである。人の価値観も多様化し、わたしたち
には、よりいっそう確かなものの見方・考え方をもつことが求められて
いる。
子どもたちには、現代社会の物質的豊かさと利便性を受け入れるだけ
でなく、これまで以上に人とのかかわりを大切にし、多くの豊かな体験
をすることを通し、より確かなものの見方・考え方を身につけることを
望む。そして、さらなる成長をめざし、子どもたちがものの見方・考え
方の広がりや深まりを求めて活動することにより、自らの価値観を確立
することや、他とともに動き出そうとすることを期待している。
「文化創造」をめざして
人は、よりよく生きていくために、自分の中に価値観を形成していく。
それは、これまで培ってきたものの見方・考え方をもとにして、自分の
まわりの人・こと・ものに主体的にかかわり合いながら自分を見つめ直
し、自分の内にできる新たなものの見方・考え方を身につけていくこと
によって確かなものになっていく。
そして、一人の人間として相手を尊重し、互いに認め合いながら相手
の思いや考えを受け入れ、やがては、思いや考えを共有し合い、ともに
手を取り合って行動する意欲や態度、
能力を身につけていくことになる。
こうして、人間は、さまざまな人とのかかわりの中から自らの個性に気
づき、同時に、よりよい社会を創るための望ましい価値観を身につけ、
そのあるべき姿をめざしてともに動き始める。
− 2 −
創 造
クを築く子ども −
総
論
わたしたちは、「文化」を「人間としての営みの充実・向上を求めて
いこうとする精神活動、およびそれによって生み出されるもの」とし、
さらに「文化創造」を「一人の人間が、他とかかわりながら、自分の思
いを伝え、よりよい社会を求めてともに活動すること」ととらえた。
「文化創造」に向け、わたしたちが4年間大切に考えてきたことは、
次の3点である。
「文化創造」の起点は個から
「文化創造」は、人間が自分自身の体を動かし、今ある知識や経験を十分に
活用しながら、主体的に問題の解決に取り組むことによって実現される。
すなわち、「文化創造」の起点は個にあるのである。
「文化創造」は人・こと・ものとのかかわりから
「文化創造」は、他とのかかわりを通して実現される。他とは、自分のまわ
りにいる身近な人々だけでなく、他の国の人々やこれまで歴史をつくってき
た人々をも含む。さらには、自分を取り巻く自然や社会事象などがある。
「文化創造」には、人的・空間的・時間的な広がりの中で、そうした多様な
人・こと・ものとのかかわりが不可欠である。
「文化創造」は自分のありようの問い直しから
「文化創造」は、他とかかわりながら、自分のありようを常に問い直し続け
ることによって実現される。
「自分にとって望ましいものは何か」
「人間らし
さとはどういうことか」という自分自身への内なる問いかけと、それに対す
る行動の繰り返しが「文化創造」の原動力となる。
− 3 −
学びのネットワークを築く子ども
学びのネットワークを築く
子どもたちが将来、文化創造の担い手に育っていくためには、自分や
自分のまわりの人・こと・ものとのかかわりを通して、新たなものの見
方・考え方を身につけていく教育課程を構想することが必要となる。
「学びのネットワークを築く」とは、まず第一に、子どもたちがこれま
でに培ってきたものの見方・考え方をもとにして、新たな学びと出会っ
たり、学びの対象である人・こと・ものに対して主体的にかかわったり
することにより、その価値や意義を自分の中に見出すことである。そし
て第二に、得られた自分の学びを整理・統合して、それまでの自分の学
びとあわせて新たなものの見方・考え方を再構成していく。こうした一
連の営みを、わたしたちは、「学びのネットワークを築く」こととおさ
えた。
右の〈図1〉から〈図4〉に示すのが、本研究の全体構造である。子
どもたちが、本校の教育課程で学ぶことにより、確かな価値観を確立し、
将来、文化創造の担い手となっていくことを表現している。
〈図1〉
子どもたちは、日常生活の中で培ってきたものの見方・考え方を基盤
に、わたしたちが構想した学びのネットワークをめざす教育課程の中で
育っていく。
〈図2〉
子どもたちに学びのネットワークが築かれ、それぞれの子どもは、新
たなものの見方・考え方を身につけていく。
〈図3〉
互いにかかわり合い、さらに多くの人・こと・ものとかかわりをもつ
中で、子どもたちの思いは高まり、やがてそれぞれの価値観を確立する。
〈図4〉
それまでに身につけたより確かな価値観をもとに、他とかかわりなが
ら自分のありようを常に問い続けることで、将来の文化創造へとつなが
っていく。
− 4 −
研究の全体構造
学びのネットワークを築く
子どもをめざす教育課程
〈図1〉日常生活
新たな ものの見方・考え方
〈図2〉
総
論
学びのネットワークを
学びのネットワーク
築く子どもの姿
を築く子どもの姿
〈図3〉
価値観
の確立
人・こと・もの
とのかかわり
〈図4〉
文化創造
価値観
の確立
ものの見方・考え方
学びのネットワークを築く
子どもの姿
学びのネットワークを築く
子どもをめざす教育課程
人・こと・もの
とのかかわり
日常生活
− 5 −
学びのネットワークを築く子どもの姿
わたしたちは、「文化創造」をもとに、子どもたちに望みたい姿をとら
えた。それらを、わたしたちは「学びのネットワークを築く子どもの姿」
とよび、次のように考え、研究の中心に位置づけた。
姿① 自分のこれまでの知識や経験をつなげていこうとする姿
自分がそれまでの学びで培ってきたものの見方・考え方を
もとに、夢の実現や直面する問題の解決に向けて、自分の知
識や経験を総動員して取り組んでいこうとするものである。
これは、
自分の内で知識や経験をつなげようとする姿である。
姿② 自分のまわりの人・こと・ものと
自分自身をつなげていこうとする姿
自分のまわりのさまざまな人・こと・ものに学びの対象を
求め、意図的に自分と他とのかかわりを深めていこうとする
ものである。つまり、新たな学びの対象や場所を広げていこ
うとするものである。これは、自分の外に自分をつなげよう
とする姿である。
− 6 −
これらの姿は、各教科等で、さらに具体的な内容が設定されることに
よって、わたしたちが子どもたちをとらえるよりどころとなっていくの
である。
総
論
姿③ 常に今の自分を見つめ直し、
よりよい自分を求めようとする姿
学びの過程で常に自分自身の取り組みや思いを振り返り、
自分の姿を探りながら、新たな学びへの意欲を高めていく
ものである。この姿が学びのネットワークを築く基盤とな
り、姿①と姿②を繰り返すことによって、自分のものの見
方・考え方がより確かなものになっていく。これは、今ま
での自分、今の自分、これからの自分をつなげようとする
姿である。
姿④ 互いに思いを共有し、
夢の実現に向けて協働しようとする姿
姿①、姿②、姿③によって身につけたものの見方・考え
方をもとに、自分たちの夢の実現に向けて、互いの心と心
を通わせながら自分のまわりのさまざまな人とともに活動
しようとするものである。これは、自分の思いをもとに、
人の輪をつなげようとする姿である。
− 7 −
学びのネットワークを築く子どもの育成に向けて
教育課程の考え方
わたしたちは、次のような教育課程を経ることによって、学びのネッ
トワークを築く子どもの姿が実現されると考えた。
まず、9教科の学習において、姿①、姿②、姿③の3つの姿の実現を
めざし、さらに教科で育てたいものの見方・考え方に迫っていく。
そして、姿④を加えた学びのネットワークを築く子どもの姿を実現す
るために、総合学習「ネットワークプロジェクト」を位置づけた。この
ネットワークプロジェクトは、「総合的な学習の時間」を中心に構想し
たものである。
また、道徳の時間においては、子どもたちがさまざまな道徳性に気づ
くとともに、9教科の学習やネットワークプロジェクトの中で身につけ
てきた道徳性をあらためて振り返り、社会の中での人間のあるべき姿や
人間としての生き方について自覚を深められるようにしたいと考えた。
わたしたちは、9教科の学習、ネットワークプロジェクト、道徳、特
別活動を、下図のように教育課程に位置づけた。この教育活動を通して、
子どもたちは、豊かな人間性を身につけ、さらに自分自身を見つめなが
ら自分のまわりと積極的にかかわることで、ものの見方・考え方を広め
たり深めたりすることができると考えたのである。
マイプラン
i
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
t
道
徳
・
特
別
活
動
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
姿④
学
習
9
教
科
の
姿① ② ③
− 8 −
学
び
の
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
を
築
く
子
ど
も
の
姿
9教科の学習
わたしたちは、9教科の学習で、めざす子どもの姿①から姿③までを
培うことをねらい、学びのネットワークを築いていくための問題解決的
学習過程を構想した。それは、学びのネットワークを築いていく中で、
自分の内と外に思いをはせながら自身のありようを見つめ直していくこ
とによって、9教科の学習で身につけさせたいものの見方・考え方がよ
り確かなものになっていくと考えたからである。
そこで、文化創造や学びのネットワークを築くことを視野に入れた教
科テーマを設定し、
各教科でめざす姿を具体的に想定できるようにした。
さらに、教科における学びのネットワークを築く子どもの姿をもとに、
各単元や1時間の授業のレベルにおいては、より具体的な子どもの姿を
構想してきた。
ネットワークプロジェクト
ネットワークプロジェクトは、学びのネットワークを築く子どもの姿
①から姿④までの、すべての実現をめざして構想した。そして、子ども
たちが自分の思い描く夢の実現に向け、よりダイナミックに自らの学び
を広め、学びのネットワークを築いていくことをねらった。
わたしたちは、この時間の運用にあたって、「総合的な学習の時間」
と「選択教科の時間」を活用することにした。それは、ネットワークプ
ロジェクトを、9教科の学習の深化や発展、さらには学校行事とつなが
るなど、さまざまな内容を含んだものを想定した幅の広い学びととらえ
ているからである。
わたしたちは、このネットワークプロジェクトに、子どもたちが思考
力や判断力、表現力などを総動員して問題解決にあたる学びを見出そう
としてきた。
− 9 −
総
論
75分授業の取り組み
わたしたちは、研究をはじめる段階から完全学校週5日制を想定し、
子どもたちが自由でのびのびとした追究を展開しながら、学びのネット
ワークを築くことが可能な授業時間数の配当や週日課を構想してきた。
まず、今年度完全実施の学習指導要領について、各教科等の授業時間
数を考慮し、1週間の時間割を設定した。そして、昨年度までは、隔週
土曜日の時間をプラスαと考え、学校裁量の時間として有効に活用して
きたのである。
1週間の時間割編成では、基本的には午前中に9教科の学習を、午後
にネットワークプロジェクトを位置づけている。こうして午前と午後の
学習内容にめりはりをつけることにより、子どもたちが午後からの時間
を有効に使ってのびのびと個性的な活動に取り組むことができるのであ
る。さらには、子どもたちが問題を解決していくのに夢中になって取り
組むことができるように、9教科の学習やネットワークプロジェクトの
時間は、1単位時間を、75分を中心とした授業時間としている。これに
より、じっくりと追究に取り組むことができるようになるとともに、よ
り深まりのある授業展開が実現している。
以下に示す図は、2年生の日課を例にとったものである。
【2年生の日課】
月
1
2
火
水
木
金
午前中はすべて9教科の授業を3時間
行う(原則として75分授業)
3
給 食・清 掃・L T
4
午後は、ネットワークプロジェクト、
道徳、特別活動を行う
ほっとタイム
わたしたちは、75分の授業の中に、子どもの学びに対応し、授業への
集中力の向上をめざすために「ほっとタイム」を設定した。これは、学
習を振り返ったり、思考をリフレッシュしたりすることをねらった時間
であり、単なる休憩ではない。子どもたちが友達の考えを聞こうとして
動き出すことも期待される。この時間は、定時にではなく、授業の流れ
の中で教師の判断により設けられるものである。
− 10 −
学びのネットワークを築くための問題解決的学習過程
子どもたちが学びのネットワークを築いていくためには、出会った事
象に興味・関心をもち、夢の実現や問題の解決に向けて、主体的に追究
していこうとすることが求められる。
追究では、子どもたち自身が、「自分の生活に生かすことができる」
「自分にとって価値がある」という、学びの必然性を感じなければなら
ない。子どもたちは、
「ぜひやってみたい」「なんとか解決したい」とい
う意欲を原動力として、より主体的に追究していく。そして、自分のま
わりの人・こと・ものと主体的にかかわることで、
新たな知識を獲得し、
経験を積んでいく。こうして子どもたちは、知識や経験を自分なりに再
構成しながら新たなものの見方・考え方を形成していくのである。
わたしたちは、このような学びを生み出す学習過程を構想し、9教科
の学習をはじめ、ネットワークプロジェクトにおいて実現してきた。と
くに、ネットワークプロジェクトでは、新たなものの見方・考え方にも
とづき、具体的な活動を考え、実際に行動することが可能な学習過程を
創り出そうと考えてきた。
4つの観点と学びのネットワークを築く学習活動
わたしたちは、子どもたちが、学びのネットワークを築くための学習
活動を生み出せるようにしたいと考えた。
そして、この学習活動の成立には、とくに次の4つの観点にもとづい
たはたらきかけが有効であると考え、実践を重ねてきた。
「魅力の発見」
「夢の構築」
問題解決や追究活動に対して、自
夢を抱いたり、自分の追究につい
分なりの魅力を見出し、人・こと・
て具体的なイメージを抱いたりし
ものを主体的につなげていこうとす
て、自分の追究に見通しをもとうと
ることをねらう。
することをねらう。
「学びの吟味」
「志向の共感」
自分の問題解決に向けての取り組
自分の思いを表現したり、互いの
みを客観的にとらえ、追究をよりよ
思いを認め合ったりすることによ
いものに深めたり広めたりしていこ
り、ともに活動する喜びを感じよう
うとすることをねらう。
とすることをねらう。
− 11 −
総
論
学びのネットワークを築く学習活動を生み出す「手だて」と、「個への支援」
子どもたちは、自分の夢の実現や問題の解決に向けた問題解決的学習
過程の中で、自分のまわりの人・こと・ものとかかわりをもち、新しい
ものの見方・考え方を獲得しながら学びのネットワークを築いていく。
そして、学びの中で得た新たな発見や知的好奇心、バランス感覚、視野
の広がりなどをもとにして、自分のものの見方・考え方を再構成し、よ
り確かなものにしていこうとする。
わたしたちは、子どもたちがより積極的に自らの学びのネットワーク
を築いていくためには、教師の意図的なはたらきかけによって生み出さ
れる学びのネットワークを築く学習活動が必要であると考えた。
教師は、
一人一人の子どものこれまでの学びのようすを確かにつかんだうえで、
学びのネットワークを築くための学習活動はどのようなものかを構想し
ていくのである。
そして、先に述べた4つの観点にもとづいた「手だて」を講じること
により、学習活動を生み出す。さらに、教師の手だてによって生まれた
学習活動の中で、より効果的に学習が促進されるように、一人一人の子
どもの学びのようすに合わせて「個への支援」を行う。
手だて
学びのネットワークを築くための学習活動を生み出すことをねらった、教師
の学級全体に向けてのはたらきかけを、わたしたちは「手だて」と呼ぶ。
教師は、4つの観点にもとづく手だてを講じることにより学習活動を生み出
し、子どもたちが、個の中に点在する知識や経験をつないだり、人的・空間的
なつながりを求めて動き出せるようにしていく。この手だては、決して活動そ
のものの指示ではなく、子どもたちが思わずその活動がしたくなるような絶妙
なはたらきかけとなる。
個への支援
手だてによって生み出された学習活動の中で、一人一人の子どもの学びの状
況に応じて行う教師の個へのはたらきかけを「個への支援」とした。これは、
学びのネットワークを築く学習活動をより促進するために、手だて同様、4つ
の観点にもとづいて想定される。ただし、必ずしも手だてと同じ観点によるも
のとは限らない。学習活動における、その時どきの一人一人の子どもの学びの
ようすをつぶさに追うことにより講じられる。
− 12 −
わたしたちは、学習活動と、それを生み出す手だて、そして個への支
援の関係を下図のようにとらえている。
学級の子どもたち全体に講じる手だては、子どもたちが意欲的に学び
のネットワークを築くことを願っておこなう教師の意図的なはたらきか
けである。それは、教師が先の4つの観点から判断し、子どもたちの学
習活動のきっかけとなるように設定する。これは、あるときは、学習へ
の意欲づけをねらうものであったり、学習の見通しをもつことを意図し
たものであったりする。
わたしたちは、この手だてを講じたのちの子どもの学びのようすを予
想し、さらに学びが効果的に促進されるように個への支援を想定する。
図に示したように、ある観点にもとづいた手だてののちに学習活動は
始まる。そのあとに想定する個への支援についても、その都度必要な観
点にもとづいて行われる。それは、それぞれの学習活動における子ども
の学びの状況は、個々の子どもによって異なるからである。
わたしたちは、学習活動を経ることによって子どもの姿が変容すること
を想定し、本時授業案には、この図とともに「育てたい子どもの姿」を
示して授業に臨んでいる。
4つの観点にもとづく
子どもの思い
学習活動を表す
手 だ て
「子どもの考え」
活動を方向づける考え
個の思い
4つの観点にもとづく
個への支援
変容した
個の思い
変容した子どもの思い
− 13 −
総
論
研究のまとめに向けて
4年間の研究をまとめるにあたって、わたしたちは、研究の確かさを
明らかにしたいと考えた。そこで、子どもの学びのようすをつぶさに追
い、学びのネットワークを築く子どもの姿を通して、わたしたちの研究
についての検証を進めてきた。
学びのネットワークを築く子どもの姿による検証
わたしたちは、教師の手だてによって生み出された「学びのネットワ
ークを築く学習活動」により、子どもの姿がどう変容したかを検証して
きた。つまり、その学習活動における子どもの学びのようすをつぶさに
追うことにより、
学びのネットワークを築く子どもの姿の実現に対して、
その学習活動が有効であったか明らかにすることを、第一に考えてきた
のである。
わたしたちの考える「子どもの姿による検証」は、前述の学習活動を
もって論じていくものである。それは、同時に、その学習活動を生み出
したきっかけとなる手だての有効性や、学習活動がさらに促進されるこ
とをねらっておこなう個への支援が効果的であったかどうかを論じるこ
とにもつながっていく。
わたしたちはこうしたことを、1時間の授業、一つの単元、そして年
間の学びからとらえ続けてきた。
検証のためには、学習活動の中で子どもがどのように考え、どのよう
に行動したかをつぶさに追うことが求められる。教師は、子どもの学び
のようすを、発言はもとより、つぶやき、記述のようす、周囲の友達と
のかかわり、その子の表情を追う教師観察など、あらゆる角度から追跡
する。そして、授業前につかんでいた子どもの姿から、学習活動を経た
子どもがどのように変容していったかを明らかにするのである。また、
次に述べる子ども自身のポートフォリオ評価のようすをつかみ、個々の
子どものものの見方・考え方がいかに深まり広がったかを検証していく
のである。
− 14 −
ポートフォリオ評価によって
わたしたちは、子どもたちが新たな自分を自覚することができるように、9
教科の学習やネットワークプロジェクトでポートフォリオ評価を行っている。
子どもたちは、学びの過程を示す作品や資料をファイルや記録に残し、必要に
応じて整理したり、再構成したりすることを繰り返しながら学びを振り返る。
ポートフォリオ評価は、子ども自身が自分の学びの深まりや広がりを多面的
かつ長期的、継続的に評価し、新たな学びに生かすことをめざしている。この
評価は、学びの結果ではなく学びの過程を大切にすることに重きを置き、子ど
もたちの問題解決的学習過程を促進していくうえで重要な活動となっている。
子どもたちは、ポートフォリオのファイルを作成するにあたり、自分なりの
視点をもつことができるようにすることで、自分の学びがどのように深まった
り広がったりしていったかを自覚しながら、新たなものの見方・考え方を獲得
していく。そして、さらに、このファイルを用いて、自分の学びの成果や学び
の中で得られた思い・考えを発信しながら、その学びを見つめ直していくので
ある。
子どもたちは、当初、さまざまな情報を時系列にファイリングしていたが、
内容を整理したり差し替えたりすることを繰り返すことにより、情報を再確認
したり再構築することができるようになった。さらに、このファイルをつかっ
て自分の学びを周囲の人々に伝えたり、プレゼンテーションに用いたりするよ
うになってきたことが、各実践からうかがえる。子どもたちは、自分の学びを
振り返るとともに、これまでの学びを整理し、子どもたち自身でその意味を問
い始めている。
さらに、教師も、子どもが学びを書きとめたり整理したものを記録したり朱
書きをしたりすることで、個への支援の具体的な内容を考え、実践に生かすよ
うになってきた。わたしたちは、ポートフォリオ評価によって、子どもたちの
学びがどのように行われているかを探り、目の前の子どもたちにとって、次は
どのようなはたらきかけが有効であるか、見通しをもったかかわりをもとうと
してきたのである。
− 15 −
総
論
研 究 の
1 年次(平成11年度) ネットワークプロジェクトを構想し、新たな日課に挑む
◇子ども、親、社会などの声を聞き、時代の要請をとらえながら、時代の先を読む議論を重ねる。
自分の「ものさし」をもつ「一人前」の子どもを育むことで、将来の「文化創造」の担い手につ
ながる価値観の確立をめざす、教育課程研究の方向が立論された。
◇「手だて」「個への支援」を、「4つの要素」に向けて講じていくことを検討し始めた。
◇個人プロジェクト、チームプロジェクト、マイプランの3つからなる「ネットワークプロジェクト」
の3年間の学びのあり方を立ち上げ、理念を実践に移す準備を進めた。
◇3学期には75分授業の試行を実施し、1単位時間の中に子どもたちの問題解決の流れを構想するこ
とで、学びのネットワークを築く問題解決的学習過程のあり方を明らかにしようとした。
次年度への課題
学びのネットワークを
築く問題解決的学習過
9教科の学習とNP
との関係の明確化と、
ポートフォリオを含む
評価法から個への支援
程と4つの要素の関係
年間計画・日課の確立
への展開を模索
2 年次(平成12年度) 学びのネットワークを築く、確かなはたらきかけを探る
◇ネットワークプロジェクトの学年実践が進められ、時間運用のあり方について明らかにしてきた。
論にもとづいた実践と、実践にもとづく論の修正を進めた。
◇手だてのあり方を明らかにし、場の設定だけではない、子どもの必然的な学びを促すものへと発
展させていった。また、個々の子どもの学びの状況をきめ細かく把握し、どのように75分授業を
構想すれば学びのネットワークを築いていけるかを検討した。
◇授業過程、ポートフォリオ、NPの各部会を立ち上げ、75分授業の弾力的な運用や、子どもの評
価、学びの段階など、多方面から本研究の方向を見つめる機会をもった。
○iプロジェクトの指導において、学年のティームティーチングの体制が整い、子どもの学びをつ
ぶさにとらえながら見守ることにより、多方面から人に学ぶ子どもたちが増えてきた。
次年度への課題
「子どもの姿」を
とらえた検証方法
75 分 授 業 に よ る
教育課程の有効性
− 16 −
ポートフォリオ評価と
個への支援の連係
あ ゆ み
(◇足跡,○成果)
3 年次(平成13年度) 学びのネットワークを築く子どもの姿の検証に取り組む
◇これまでの「4つの要素」から、「4つの観点」にもとづくはたらきかけへと転換をはかり、「手だ
て」により学びのネットワークを築く学習活動が生み出されることを理論づけた。
◇75分授業の特色を生かした本校独自の教育課程について、それらを3年間くぐってきた子どもた
ちがどのように育ってきたかを、iプロジェクトⅣのまとめから明らかにすることに挑んだ。
○9教科の学習およびネットワークプロジェクトの実践から、学びのネットワークを築く子どもの姿
を育てるための、単元だけでない本時レベルの「姿」について明らかにすることができた。
○ポートフォリオファイルの活用により、学年ごとの区切りや単元の途中においても、客観的に自
分たちの学びを振り返り、新たな学びを求める子どもが育ってきた。
○学習活動の有効性を、子どもの姿の変容により検証していく方法を確立し、実践の分析を進める
ことができた。
次年度への課題
3年間を通した「姿」
による検証方法
学習活動を中心と
した学びのあり方
多面的評価と、次の
学びを生み出す支援
4 年次(平成14年度) 学びのネットワークを築く子どもたちが、自分のありように迫る
◇理論と実践の積み重ねをもとに、
「子どもの姿」で研究の有効性を検証し、研究のまとめを試みた。
実践の分析を続け、研究の確かさを明らかにすることに取り組んだ。
◇学びのネットワークを築く問題解決的学習過程を確立し、学習活動を中心に、より有効な目に見
えるはたらきかけに取り組んだ。
○単元の1時間1時間を大切にし、姿の変容とともに教科の学びが「見える授業」に取り組んできた。
その積み重ねにより、1時間、単元、年間、そして3年間におよぶ子どもの変容を明らかにし、
「学びのネットワークを築く子ども」たちを見出すことができた。
○めざす姿を設定した1時間の授業のほか、ポートフォリオ評価をはじめとするさまざまな場面にお
いて、教師が子どもを見取ろうとし続けたことにより、子どもたちの「思い」とともに、「学び」
の内容についても深まりや広がりのある実践が展開できた。
○自己を振り返り、広く社会にはたらきかけていく子どもが育ち、学びのネットワークを築いてき
た互いの学びをもとに、さらに新たな学びへ、そして新たな自分への見通しをもつことができる
ようになった。
− 17 −
総
論
この子の輝き
強引さが魅力
「先生、ぼくのいすをどうぞ」
立ったまま朝のSTをしていると、必ずこう言ってくる。
「僕のいすは先生に座ってもらうためにあるのですから。さあ、
どうぞ。
」
とにかく調子がいい。
5月。 t プロジェクトで青少年公園へ出かけたときのこと。
……「原発反対!」
「んだ。んだ!」………
エネルギー問題を追究したブース発表の劇で、仲間とともに
原発の建設反対派の農民の姿をして派手なアクション。参加者
の大歓声を浴びた。
先日は、ネットワークフェアに参加するための資料づくりで
中部電力の岡崎支社に出かけた。ところが、門の前で「原発反
対!」と叫び、支社長に止めれれる始末。なり振りかまわず、
自分の追究に突き進む。そして、まわりの友達を引き込んでい
く。いささか強引さを感じるが……。
そんな彼は、学級のみんなが帰った5時過ぎの教室に、いつ
もほうきとちりとりをもって現れる。そして、一人で掃除を始
める。さっさと掃いてゴミを集め、机をきれいに整頓していく。
「おうい、手伝おうか。
」
「大丈夫です。僕一人でやりますので、お任せください。」
最近、そんな彼のボランティア活動が、また友達を引き込み
始めた。クラスの仲間たちが彼を手伝うようになってきた。他
のクラスでも、帰りに教室掃除をしている様子がみられる。
「すごいね。最近うちのクラスは3人でやっているね。それに他
のクラスもやっているよ。
」
と語りかけると、
「僕が最初に始めたんです。みんながまねをしたのです。」
自分の思ったことだけを一生懸命やるのではなく、まわりの
様子を見ながら、みんなのために動く。そして,その魅力が、
みんなを引っ張っていく。彼が強引なのではなく、まわりのも
のが彼の魅力に、自分から引っぱられにいってしまうようだ。
− 18 −
第 Ⅱ 部
国語科
ことばを生かし
こころかよわせる
1 文化創造に向けて
現代の子どもたちを取り巻く言語環境はど
値観を形成するのである。
のようであろうか。マスメディアの発達や携
そこで国語科では、ことばを通して対象に
帯電話、E-mailといったツールの普及は、瞬
ついての認識を明らかにし、思考力を高めて
時にして大量の情報を手に入れたり、気軽に
いくような、よりよいことばのつかい手を育
コミュニケーションをはかったりすることを
てることが、やがて「文化創造」につながっ
可能にした。しかし一方で、流行語や俗語、
ていくと考え、教科テーマを「ことばを生か
カタカナ語、若者にのみ通じることばなどを
し こころかよわせる」と設定している。
氾濫させ、活字離れも進行させた。面と向か
「ことばを生かす」とは、ことばの意味を的
って語り合う場面が減って人間関係が希薄化
確にとらえ、正確かつ論理的に表現するとと
し、豊かな言語感覚を磨く場面も減少した。
もに、ことばのもつ美しさや味わいにもふれ
この言語環境の変化は、人がことばを通して
ながら常にことばを通して思考し、豊かな言
明らかにしていくところの思考そのものを、
語生活を主体的に営むことである。また、
根底から揺るがすものとも言えるのである。
「こころかよわせる」とは、ことばを用いて
こうした状況をふまえたとき、国語科の果
対象をとらえ、ことばを磨きながら対象への
たすべき役割は大きい。わたしたちは、こと
認識を新たにした子どもたちが、互いの思い
ばに関する知識や技能を身につけるにとどま
を伝え合い共有し合って、ともに明るい未来
らず、ことばを通して伝えられる対象(人・
を志向しより価値のあるものを探し求めよう
こと・もの)についての認識を明らかにし、
とすることを意味する。
思考力を高めていきたいと考える。国語科の
これまでの実践の中で、子どもたちは、授
学びは、ことばで対象と出会い、ことばを考
業で取り上げた教材文や、自ら調べ学習で取
え、ことばを磨きながら、ことばを通して対
材してきた情報から、自然の厳しさや優しさ
象の認識を新たにすることにある。人は、言
を理解し、社会の問題やありようを考え、あ
語活動を通して自己の思いや考えを明らかに
るべき未来に思いを寄せてきた。またその思
し、またそれを他者に伝え、こころをかよわ
いを、話し合いの場でぶつけ合ったり、文章
せ合う中で、人としての生き方やあり方を考
や詩に表現したりしてきた。新しく読んだ文
える。すなわち、ことばを介して自分の思考
章や他との対話を通し、新たな自分の生き方
を認識しつつ、他者とのやりとりの中で、価
を見つめる子どもの姿が育ってきている。
− 20 −
2 国語科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
人は、表現されたことばによって身のまわ
りの人・こと・ものを理解し、また、ことば
で表現することを通して自己の思いを育み、
伝え、生活を豊かにしていく。
国語科では、このようなよりよいことばの
つかい手を育てていきたいと考え、教科にお
ける
「学びのネットワークを築く子どもの姿」
を以下のようにとらえている。
a 問題の解決に向け、これまでの言語体験や作品からの学びと、新たな情報とを
結びつけて考えようとする姿
この姿は、これまでの言語体験や学びと、新たな情報
との接点を探す中で、問題解決に向かう子どもの姿であ
る。情報とは、国語科の学習の中で出会う作品や文章と
いった、いわゆる言語情報全般を意味する。これまでに
味わったことばや作品が、新たに接していることばや作
品とどのようなかかわりがあるのかなどを結びつけて考
え直すことで、問題を認識し解決を求めていく姿である。
b さまざまな言語活動を通し、思いや問題意識を他とかかわらせようとする姿
この姿は、自己の学びを言語活動を通して表現し、広
く自分のまわりに対話を求めて動き出す子どもの姿であ
る。作品の鑑賞や解釈、自己の学びの振り返りを通して
生まれた思いや問題意識を、自分なりのことばで他者に
伝えたり、さらに多くの友達の意見を求めたり、他の作
品とかかわらせたりしようとする姿である。
c 自己をありのままに見つめ、思いを自分のことばで表現し、生き方やあり方を
探ろうとする姿
この姿は、自分の学びを見つめ直し、そこから生まれた
思いを表現する中で、よりよい自分の生き方・あり方を探
っていく子どもの姿である。これまでの言語体験や作品を
通して感じとってきた思いが、どのような新しい発見によ
ってどう再構成されるのか、また新しく意味づけることが
できるのかといったことを、読み返したり発言したり書き
留めたりして、自分のことばで表現していく姿である。
− 21 −
国
語
科
3 教科カリキュラムの構想と編成
国語科では、「話すこと・聞くこと」「書く
こと」「読むこと」そして言語事項の各内容
を総合的に習得する、総合単元を基盤にした
3 年間の国語科カリキュラムを設定してい
る。またそれを次のような視点で構想するこ
とにより「学びのネットワークを築く子ども」
が育てられると考えた。
総合単元をもと
に、思考力と表現力
を育成する視点
国語科のめざす、
追究主題を、「自然を推し量る」「社会を考える」
「文化を想う」
「生き方を見つめる」という 4 つに定め、
自分はこう生きたい、こうありたいという、人として
の「生き方」を問い続ける姿勢を育てることをめざす。
各単元において、さまざまな文種や表現形態で思い
生き方やあり方にか
を表すことを通し、相手意識・目的意識・場面意識を
かわる視点
育て、論理的な思考力や豊かな表現力の育成をめざす。
単元における発展的な学習として、豊かにコミュニ
豊かなコミュニケ
ケーションのできる活動を設定する。ここでは、文字
ーション能力を育む
言語や音声言語をもとに、動作や画像などの非言語を
視点
含めたさまざまな方法も利用しながら、学習から得た
思いを発信していくことをめざす。
学びのまとめとして、子ども自身に、主題をはじめ
学びを問い直し、
学習計画から自己の追究をより的確に表現する文種や
新たな問題の発見へ
伝達方法の選択に至るまでを計画させる、自己追究単
つなげる視点
元を設定する。これは 1 年間の学びを見つめ直すこと
で、自分なりの新たな問題発見をめざすものである。
− 22 −
(35分授業)
1 年(105時間)
国語への誘い
1
学
期
2
学
期
3
学
期
(6)
2 年(70時間)
学習の展望
3 年(70時間)
(2)
学習の展望
わたしを語る (18)
生活文
◇自分の性格を知り、 ・文章の構成を
学ぶ。
生き方を考える。
・情報の収集方
◆情報を収集し、文章
法を学ぶ。
の構成を考えて書く。
(14)
ことばを考える
意見文、解説文
◇日本語の諸相から、ことば
をとらえ直す。
◆収集した情報をもとに意見
文を書く。
現代社会を考える (16)
意見文、論説文
◇現代社会を探り、問題を
明らかにする。
◆収集した情報をもとに論
説文を書く。
わたしと自然 (22)
報告文、俳句、コラム
◇人間と自然のかかわ
りから、共生を考え
る。
◆収集した情報を再構
築し、報告文に書く。
■資料を活用して、コ
ラム集を発行する。
(16)
平和を考える
詩、小説、新聞
◇人間と平和について考え、
自己の生き方を見つめる。
◆資料を収集し、自己の考え
と結びつけて文章を書く。
◆作品から、自己の考えを深
める。
■「平和」を発信するための
朗読劇を行う。
(16)
未来に想う
詩、解説文
◇現代を見つめ、来るべき
未来に希望や願いを寄せ
る。
◆収集した情報と自己の考
えを論理的に結びつけ、
「未来」に向けての詩や文
章を書く。
■「未来」を指向する詩を
書き、解説文を添える。
・コラムの書き
方を学ぶ。
・報告文の書き
方を学ぶ。
・コラム集を作
成する。
生き方を考える (22)
感想文、新聞
・感想文の書き
◇人の生き方に学び、
方を学ぶ。
自己の生活に生かす。
・取材の仕方を
◆取材内容と自己の主
学ぶ。
張を区別して書く。
・事実と意見を
■人の生き方を紹介す
区別して書く。
るための新聞を書く。
(16)
文化に想う
小説、随筆
◇日本や世界の文化にふれ、
自分がいかに生きるべき
か、考えを深める。
◆文章の構成や展開を的確に
とらえ、効果的に表現する。
(12)
古典を味わう
短歌、古文、漢文−鑑賞文
◇古典を読み味わい、自分
とのかかわりを探る。
◆古典作品の価値を探り、
鑑賞文を書く。
■和歌、古文、漢文の調子
を味わい、朗読の工夫を
する。
(22)
古典に想う
古文−解説文
◇古典から古人の思い
を探る。
◆古文を朗読する。
■古典作品を音声言語
や動作に表現し、発
表する。
(12)
古人を語る
古文、漢文−報告文
◇古典から古人の生き方や考
え方を探り、現代人との共
通点を探る。
◆古典と現代との結びつきを、
報告文に書く。
■古典作品を、音声言語に表
現し、発表する。
(14)
夢を語る
内容にあった表現形式
◇ 3 年間の学びを振り返り、
今後の生き方やあり方を
考える。
◆情報を総合的にとらえ、
自分の考えを伝えるのに
ふさわしい形式を用いて
表現する。
■ 3 年間の学びの集大成と
して自己の生き方やあり
方にかかわるテーマを設
定し、語る。
・古文の読み方
を学ぶ。
・繰り返し音読
し、古文の調
子に慣れる。
・歴史的仮名遣
いを学ぶ。
自己追究単元 (15)
自己追究単元 (10)
自己追究単元 (10)
○ 1 年間の学びをもとにテーマを設定し、計画を立てて追究する。
○まとめの文種を自己選択する。
追究主題:
自然を推し量る
社会を考える
文化を想う
生き方を見つめる
◇単元のねらい ◆表現の目標 ■発展的な学習
※(
(2)
)内の数字は、75分を 1 単位とした授業時数を表す。ただし、 1 年生は、65分とする。
− 23 −
国
語
科
4 実践の分析
「わたしを語る」 1 年総合単元
(1)香織の単元まとめより
今のわたしはどういう人なのだろう。「わたしを語る」を学習しながらいつも考えていま
した。単元の初めに「わたしを語る」というタイトルで書いた文章は、自己紹介でした。自
分の好きなこと、自分の趣味、自分の家族のこと、自分の中学校での目標など、 4 月に学級
で自己紹介したことを詳しくしたものでした。この文章を書くための題材を探しなら自分は
多くの人やものと関係しているなあと感じました。しかし、まわりのことはたくさん見つか
るのですが、その中心にいるはずの「わたし」が、よく分かりません。自分を取り巻く事柄
をいくら詳しく見ても「わたし」とはどういう人なのかという問いの答えにはなりませんで
した。「森香織」という人がどういう人であるのか、今まで考えたことのなかったことに気
づきました。
わたしを語るためには、「わたし」の何を言えばいいのか、見当もつかないわたしに、
『名
づけられた葉』と『表札』は「自分らしさ」というキーワードを与えてくれました。
『名づけられた葉』は、わたしたちの個性をポプラの葉の刻みの入れ方や葉脈の走らせ方に
たとえ、「森香織」という名で呼ばれる自分の大切さを考えさせてくれました。ところが、
大切だとはわかっていても、「森香織らしさとは何ですか」と問いかけられたとき、答えら
れませんでした。そこで、友達に聞いたり、家族に聞いたりしながら自分はどんな人なのか
を調べました。自分では思ってみなかったことを教えてもらったり、納得することを言われ
たりしました。まわりの人に映る自分を知ることは、とてもおもしろいものでした。特に、
「明るいこと」と「負けず嫌いなこと」は自分でも納得することで、自分でも大切にしてい
ることなのかもしれないと思いました。
『麦わら帽子』を学習しながら、
「成長」ということを考えました。そして、今のわたしらし
さにつながる成長の場面を思い出したのです。小学校のときのソフトボール部のことです。
4 年生で入部したときから 6 年生になって選手として大会に出場するまで、とにかく一生懸
命でした。わたしはソフトボール部で最後まで頑張ったことが、今の自分を支えていると思
っています。毎日練習して選手として活躍できたことで、できるところまでやってみようと
いう気持ちをもつことができるようになったと思います。それが、今のわたしの「明るいこ
と」
「負けず嫌いなこと」のもとにあると思っています。
「わたし」がどういう人であるのか、まだわかってい
ないところがたくさんあります。『表札』で学習した
自分の居場所や自分の生き方は、正直いうと見えてい
ません。「わたしを語る」は、自分自身をみつめると
いう大切なことを教えてくれました。しかし、「わた
し」がどういう人であるのかは、これから考えていく
ことだと思います。自分がどういう人になりたいかを
はっきりさせながら、今の自分らしさをもとに、自分
自身でつくっていくものなのだと思います。
− 24 −
(2)単元の構想表(18時間)
過程
こ
こ
手 だ て
「魅力の発見」
自分を取り巻くさまざ
まなことに気づかせ、自
分自身に興味をもたせる
ために、自分とまわりの
事柄を線で結び図に示す
ようにする。
抽出生への支援と育てたい姿
子 ど も の 考 え ・ 思 い
中学生になって新しい自分をさがしたい
今の自分はどんなふうなんだろう
自分のまわりにいる人
から自分を考えよう
自分の性格から自分を
考えよう
1
自分の趣味から自分を
考えよう
ろ
日ごろ自分が気づかない自分がいろいろありそうだ
よ
せ
る
「学びの吟味」
自分をみつめる視点を
ひろげさせるために、学
校文集「つくし」を読み、
作品の魅力を考えるよう
にする。
自分のことをもっとよく知りたい
わたしを語るために自分自身をくわしく考えてみよう
好きなこと
「夢の構築」
自分らしさの大切さに
目を向け、自分を見つめ
ようとする思いをもたせ
るために、詩『名づけら
れた葉』『表札』を提示
する。
分析① {
友達のこと
性格のこと
家族のこと
自分のどういうところを見ればいいのだろう
葉脈の走らせ方、刻みの入れ方、美し
く散る方法とはどういうことだろう
2
3・4
自分で表札をかけるとはどういうこと
だろう
こ
ろ
ひ
ろ
げ
自分にとって大切なも
のは何だろう
友達に自分のことを聞
いてみよう
5・6
「学びの吟味」
これまでの自分に関す
る情報を整理し、作品と
して具体的にしていくた
めに「わたしを語る」の
構想表を配付する。
家族に自分のこと聞い
てみよう
今の自分はどんなふうにできたのだろう
7 ∼10
自分の成長の様子を調べてみよう
家族に聞いて
みよう
小学校の先生に
聞いてみよう
構想を考えて作品を書いていこう
「夢の構築」
自分自身を語るという
イメージをもたせるため
に『少年の日の思い出』
を表現方法に着目しなが
ら読ませる。
11・12
どう書いていくといいのだろう
「語る」作品にするための工夫をしよう
出来事を中心にしてま
とめていこう
思い出をもとにして
まとめよう
13∼16
「わたしを語る」を作品として完成させよう
「学びの吟味」
自分の作品を検討し、
よりよい作品に仕上げよ
うという意識をもたせる
ために、構成や表現に工
夫がある作品を取り上
げ、提示する。
17・18
どこを修正すればわかりやすくなるのだろう
出来事の取り上げ方
の工夫をしよう
書き出しを
工夫しよう
言いたいことと具体的な事実
を対応させて書いていこう
これからも自分自身を見つめていこう
− 25 −
育てたい姿¦
自分が調べた、自分
にかかわるさまざまな
事柄を整理しようとす
る。
人に話すようにまとめる
と語っている感じがする
自分のことをわかってもらえる作品になっているだろうか
こ
こ
ろ
か
よ
わ
せ
る
「学びの吟味」
自分の集めてきた内
容が整理できない場合
は、キーワードを考え、
関連マップを書くよう
に助言する。
自分についていろいろなことがわかったぞ
る
分析② {
育てたい姿§
自分のことをよく知
るために、自分のまわ
りの人に問いかけてい
こうとする。
自分の知らない自分もあるんだな
今の自分につながるような出来事を考
えてみよう
「学びの吟味」
『名づけられた葉』や
『表札』の主題がはっ
きりしない場合は比喩
に着目し、たとえられ
ているものを考えるよ
う助言する。
自分らしさ、自分の居場所を大切にしなくはいけない
こ
「夢の構築」
成長ということに目を
向け、これまでの成長を
振り返ろうという思いを
起こさせるために『麦わ
ら帽子』のマキの姿の絵
を提示する。
育てたい姿¦
友達の視点を参考
に、自分自身を振り返
ろうとする。
趣味のこと
自分らしさや今の自分を考えてみよう
「夢の構築」
記述内容が広がらな
い場合は、友だちと交
換し、参考にするよう
に助言する。
「志向の共感」
自分の作品をどう修
正していけばよいかが
はっきりしない場合に
は、友達に読んでもら
いアドバイスを得るよ
う助言する。
育てたい姿¨
アドバイスを参考に
自分自身の作品を仕上
げていこうとする。
国
語
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦
出会った作品から「わたしを語る」ために必要なことを考え、視点をもって自分自身を見つ
めようとする。
§「わたしを語る」のに必要な自分自身の見方やそれを効果的に表現する方法を身につけるため
に、友達と考え合ったり作品を読んだりしようとする。
¨
自分について得た情報を整理し、「わたし」についての考えを表現し、伝えようとする。
(4)子どもの学び
友達の考えを取り入れながら「自分らしさ」
自分のどんなところをみれば
いいのだろう
というキーワードを得た香織は「わたしを語る」
(分析①)
ための一つの視点として「自分らしさ」を考え
「わたしを語る」をテーマに文章を書いた香織
ていこうとした。そして、ノートに向かい自分
らしさを思いつくままに書き留めていこうとし
は、書きながら疑問を感じていた。
ていた。しかし、いっこうに進まない。自分ら
「わたしを語る」はこれでいいのかなあと思う。自
己紹介になってしまったけれど、それが「語る」
しさが大切だということはわかってはいるが、
ことになっているのか。家族のことを紹介しても、
大切にしなくてはならないはずの「自分らしさ」
それが「わたし」を語ることになるのか。何か違
が何かわからない。香織は、近くの友達に「自
うような気がする。
(香織の授業日記)
分らしさ」を問い始めた。
「わたしを語る」とは、自己紹介ではなく、自
香織はいつもいっしょにいる友達、掃除をい
分のまわりのことでもなく、自分自身を語ると
っしょにやっている友達、部活動の仲間と教室
いうことだと考えていた。しかし、自分自身を
を動き回りながらいろいろな友達から自分に関
語るとはどうすることなのかは見えない。そこ
する情報を集めていた。
で、自分を見る視点を考えるために「夢の構築」
の手だてとして詩『名づけられた葉』『表札』
を読み、主題を考えさせることで「自分らしさ」
「今の自分」に着目させるようにした。
香織は、「わたしは呼ばれる・わたしだけの
名で」から、自分の考えを大切にすべきだと考
えた。意見交流では、擬人法に着目し、ポプラ
自分のことだから自分がいちばんよく知ってい
の葉と人を比較した智樹の考えや「葉脈の走ら
ると思っていたけれど、ノートに書いてみようと
せ方を・刻みのいれ方を・うつくしく散る方法
したときに書けなかった。友達からたくさんのこ
を」にこだわった萌子の考えに関心をもつ。
とを聞いたけれど、自分の納得できるものと意外
萌子さんの「自分らしい生き方を見つけること
なものとがあった。自分のことなのによく分から
ないものだと思う。
が大切」という意見は、なるほどと思いました。
そして、智樹君が言ったように、わたしにも他の
(香織の授業日記)
香織は友達だけでなく家族からも情報を集
人とは違う自分らしさがあると思います。自分を
知るためには、自分らしさということを考えてい
め、自分に関するさまざまな情報を得た。そし
く必要があると思いました。
て、得られた情報を自分で検討しながら、自分
(香織の授業日記)
− 26 −
自身への関心を高めていった。こうした、まわ
取り入れることにした。
りの人に問いかけ、自分らしさを考えていこう
「わたしを語る」ということが見えてきた。今の自
とする香織の活動の様子は、姿§ととらえるこ
分を語るために、今の自分に大きな影響を与えた
出来事を入れながら書きたい。
(香織の授業日記)
とができる。
香織は、「わたしを語る」を書くための素材
香織は、「わたし」を語り始めた。これまで
を蓄えていった。『名づけられた葉』から得ら
集めた自分に関する情報の中から、「明るくて
れた「自分らしさ」というキーワードは「わた
負けず嫌いな自分」を主題とした。そういう自
しを語る」ための視点となった。この視点をも
分を分かりやすく伝えるために、小学校で頑張
とに自分自身を客観的にとらえることで「今の
ったソフトボール部のことを題材にした。
わたし」が見えはじめる。
「語る」作品にするための
工夫をしよう
︵
作
品
﹁
わ
た
し
を
語
る
﹂
抜
粋
︶
(分析②)
香織は、家族から「自分らしさ」を聞く中で
成長する様子についても聞いていた。物語『麦
わら帽子』の主人公の成長と自分の成長を重ね、
今の自分ができてきた様子についても関心をも
っていた。そして、香織は、
「成長」を軸に「今
の自分」をとらえ、
「自分らしさ」を見つめた。
いけとに
るなを対
。い得し
心らて
をれも
大るあ
切とる
に知。
しっや
てたれ
いかば
きらや
た自っ
い分た
と自だ
思身け
っにの
て負こ
他
の
人
に
対
し
て
も
あ
る
け
れ
ど
、
自
分
自
身
の
と
き
だ
っ
た
。
わ
た
し
の
負
け
ず
嫌
い
は
、
ば
何
と
か
な
る
と
い
う
こ
と
を
感
じ
た
の
は
こ
に
な
れ
た
こ
と
と
し
て
現
れ
た
。
や
っ
て
み
れ
な
っ
た
こ
と
を
思
い
出
す
。
そ
の
成
果
が
選
手
と
こ
ろ
ま
で
や
っ
て
み
よ
う
と
い
う
気
持
ち
に
た
か
ら
だ
と
思
っ
て
い
る
。
︵
中
略
︶
や
れ
る
し
て
い
た
。
こ
れ
は
、
毎
日
の
練
習
を
頑
張
っ
の
大
会
に
選
手
と
し
て
出
場
す
る
ま
で
に
成
長
配
し
て
い
た
。
し
か
し
、
そ
の
二
年
後
に
は
夏
れ
ず
、
先
輩
の
よ
う
に
上
手
に
な
れ
る
か
と
心
入
部
し
た
て
の
こ
ろ
は
ボ
ー
ル
も
ろ
く
に
捕
「わたしを語る」材料はそろってきた。しかし、
「自分らしさ」をわかりやすく伝えるために、
「語る」とはどういうことか。単元の初めに香
自分で読み返すだけでなく、友達と読み合いな
がら「わたしを語る」を仕上げていった。自分
織が問題にしたことである。
「語る」ということも難しい。紹介するとはどう違
の作品を友達に問いかけたり友達の作品を批評
うのだろう。誰かにじっくり話すという感じがす
したりしながら、相手を意識して自分を伝える
るけれど、どうすればいいのか。「語る」というこ
ための作品にしていこうとする様子は、姿¨と
とも考えなくてはいけない。 (香織の授業日記)
とらえることができる。
香織は、感覚的にとらえてはいたが、具体的
にどうすることが「語る」ことになるのかはわ
からなかった。そこで、「夢の構築」の手だて
として物語『少年の日の思い出』を読み、表現
の特長や構成を考えることにした。主人公であ
る僕が、自分の経験を友達に語るという書き方
は、参考になった。裕美から「語る」というこ
とは相手に伝えることだから、相手に伝わりや
「わたしを語る」の学習を終えた香織は、「自分
すくする工夫が必要だという意見が出た。この
らしさ」という視点から自分を見つめながら、
意見をもとに香織は「語る」ための条件として、
これからの自分自身をつくっていこうとしてい
自分らしさを示す具体的な事実や経験を交えて
る。
− 27 −
国
語
科
「現代社会を考える」 3 年総合単元
(1)
理恵子の単元のまとめより
最初に出会った『日本が100人の村だったら』という絵本。職業、食事、旅行、進学、少子化、離婚、
寿命、自殺……数十年間での社会の変化がわたしの想像以上にあって驚いたことを覚えています。変化
の全てが悪いこととはいえなくても、何か今の社会の影や闇を思わせることばかりでした。この文の最
後に「あなたは希望に向かって歩いていきますか。それともあなたは絶望に向かって歩いていきますか」
と書かれています。わたしは希望に向かって歩いていきたいと思います。しかし、その後、わたしたち
がまさしく絶望に向かって歩いていると思うことがたくさん出てきたのです。
次に読んだ『遠く、でっかい世界』、わたしはこの話を読んで失望してしまいました。「近ごろの日本
人は、かつてほど海、山、川の向こうを見ていない」、確かにそうかもしれない。でも、どちらかという
とわたしは作者のそのまとめ方に反感を覚えました。「遠く、でっかい世界を、気持ちの宝物を、日本人
はだれも見なくなってしまったのだろうか」……そうじゃないだろう、そうじゃない。筆者が見たのは、
たまたまそういう人たちだったのかも。もう少し具体的な例や証拠をあげてくれたらいいのに、と思い
ました。
もっと納得できる文章を、そんな思いで読んだ、『障子の破
れに学ぶもの』は、最も共感できた作品でした。最近のものは
すぐ壊れないし、とても丈夫です。でもそれらを使うことで、
ものを粗野に扱い、ものに対してありがたみを忘れてしまって
はいけません。短い文章だけれど、例や根拠がわかりやすく書
いてあり、ものの大切さについて学ばせてくれました。
これらの作品を読んで、わたしの心に残ったキーワードは
「身近」、「比較」、「確かな資料」でした。読み手を納得させられる文章になるよう、わたしはこれらのこ
とを頭において、自分の作品づくりに入りました。わたしが一番書きたかったことは、自分が医者志望
ということもあって、医療関係のこと。最初に思いついたのは、最近ニュースでよく問題になっている
医療ミスや最先端医療についてでした。しかし、わたしの求めている話題の資料がなくて、そこで止ま
ってしまいました。わたしの行き詰まり状態を打開してくれたのが、家にあった栄養補助食品でした。
以前この問題を特集したテレビをやっていたし、たまたま家に興味深い資料があったのです。その後、
ホームページで他の資料探しをしたり、構成を考え直したりしてできた一作目でしたが、いざ人に読ん
でもらうとなるとまだまだ問題が多くありました。資料がごちゃごちゃで、しかも文章が同じことの繰
り返しで今一つ何をいいたいのかわからない。そこでみんなで考えた論説文のポイントをたくさん取り
入れて書き直してみた第二作目。前よりは読みやすくなっているはずですが、まだまだ改善の余地はあ
りそうです。また、他の人からの意見を聞いて、もう少し手直ししてみたいと思います。でもこういう
とき本当に参考になるのが他の人の作文です。第一作目の交換のときは、淑子さんや愛さんの作文を読
ませてもらいましたが、本当に身近なことから書かれていて、読んで思わず納得してしまいました。し
かも資料が十分で、それも確かなものばかり。みんなの工夫を取り入れて、わたしはこれからも、人を
納得させる、つまり説得力のある文章づくりに挑戦していきたいです。
わたしは最初、現代社会について考えるなんて難しいと思ったけれど、食生活など身近なことから見
えてくるものがたくさんあるとわかりました。そしてそれらについて調べ、自分の考えを書いてみるこ
とで、現代社会に生きるわたしたちがやるべきこともたくさん見つけることができたと思います。わた
したちは、これからも絶望ではなく希望に向かって歩いていきたいです。
− 28 −
(2)単元の構想表(16時間)
過程
手 だ て
「魅力の発見」
現代社会について問題
意識をもたせるため、今
と昔の日本を比較した絵
本を提示する。
こ
こ
・共通教材
『日本が100人の村だっ
たら』
ろ
よ
せ
る
「夢の構築」
問題を自分たちのもの
としてとらえさせるため、
筆者が指摘する、今の日
本人や社会に対する危機
感とは何か問いかける。
・共通教材
『遠く、でっかい世界』
「夢の構築」
自分の考えを論理的に
伝えられる文章表現に気
づくために、文種とその
特徴の一覧表を配る。
こ
こ
ろ
ひ
ろ
げ
る
「学びの吟味」
身近な話題から問題に
迫るよさに気づかせるた
め、テーマが大きく何か
ら書いてよいか悩んでい
る子どもの授業日記を紹
介し、教材文の中にヒン
トがあることを知らせる。
子 ど も の 考 え ・ 思 い
今の自分たちの暮らしに疑問を抱く機会はあまりないな
わたしたちの社会について書かれた作品には考えさせられるな 1 ・ 2
生活水準があがってい
るし、技術の発達によ
り、便利になったこと
が多いから幸せだ
自然破壊が進み、公害
問題に悩まされている
現代より、昔の方がよ
かったのではないか
昔の方がよかったこと
もあるけれど、今の便
利な生活も捨てきれな
いよ
社会の変化もそうだけ
れど、日本人の心も変
わってしまったのでは
大人が気づかなければ、
子どもも見ないという
表現が心に響いた
今わたしたちが真剣に
考えないと、大人にな
ったとき大変だよ
自分たちの力で、自信をもって「よい」と言える社会にしていきたい
自然破壊や環境問題に
ついて改善する必要が
あると思うよ
資料を集めて論説文に
まとめれば、自分の考
えが伝えられそうだぞ
医療ミスの問題に興味
があるから、いろいろ
と材料を集めてみよう
こ
こ
ろ
か
よ
わ
せ
る
国
「夢の構築」
広くテーマを集めら
れるよう、あまり早く
テーマをしぼらず、で
きるだけ多くの材料を
集めさせるようにする。
テーマを見つけて調べてみたのだけれど、どう書けばいいのだろう
身近なところから話題を見つけていくとわかりやすい文章になるね
筆者の考えがすごくわ
かりやすかったけれど、
こつがあるのかな
医療ミスも確かに問題
だけれど、資料が難し
くて取りあげにくいよ
自分の住んでいる町の
いろいろなデータを集
めて比較して述べよう
身近な話題から社会の
問題につなげていくと
いう構成が効果的だな
健康食品ブームや生活
習慣病など、身近なと
ころから考えてみよう
「夢の構築」
自分の身近な問題を
うまく見つけられない
ときは、同じテーマの
子との交流をうながし
たり、考えるヒントと
なる事例を与える。
自分ならではの視点から現代社会やこれからについて文章に書き表せたぞ
いろんな立場や考えの人にも納得してもらえる文章にしたい 8 ∼12
確かに、別の考えもあ
げながら論じると、よ
り説得力がでるな
この教材文の構成にも
ずいぶん学ぶべきとこ
ろがありそうだ
たくさんのアドバイス
をもらったけれど、ど
うすればよいのだろう
子育ての負担について
よく説明してから、虐
待問題を論じてみよう
結論に自然につながる
展開を、自分の論説文
に取り入れてみよう
この作品や、友達の構
成の工夫が自分の作品
にも生かせそうだな
分析② {
「志向の共感」
他の視点や意見から自
分の考えを広げるため
「10年後の未来のために」
という白紙の冊子を配付
し、内容は友達の論説文
から自由に集めることを
知らせる。
育てたい姿¦
現代社会について今
まで考えてきたことと、
作品を結びつけて、新
たな問題点を見つけた
り、改善策を見出そう
とする。
現代社会の特徴や問題点、その解決策を文章に表現してみよう 3 ∼ 7
分析① {
・選択教材
『玄関扉』
『かけがえのない地球』
『マスメディアを通した
現実世界』
「夢の構築」
漠然とした比較しか
できていないときは、
今と昔の利点を整理し
て考えるよう助言する。
よくなったところもあれば、悪くなってしまったところもあるな
ありきたりの意見にな
・共通教材
『障子の破れに学ぶもの』 ってしまったから自分
なりの視点を加えよう
「学びの吟味」
自分の文章の改善点を
意識させるため、色分け
された友達からのアドバ
イスカードと自分の作品
が入った封筒を配る。
抽出生への支援と育てたい姿
これならみんなに納得してもらえる論説文になりそうだ
これからの社会のために、みんなでアイデアを紹介し合おう 13∼16
同じようなテーマで書
いている人の意見を集
めてまとめてみよう
要点を書き出して分類
してみると、たくさん
の問題点がみつかった
自分が解決できなかっ
た問題について、答え
がでた人はいないかな
同じ問題でも、あの子
の考えや論の進め方が
わかりやすかったな
内容をまとめて見出し
をつけたらみんなの考
えがうまく整理できた
なるほど、そういう考
え方もあるんだな、思
いつかなかったよ
これからも身近なところから社会のことを考え、表現していきたい
− 29 −
「学びの吟味」
アドバイスカードをう
まく生かせない場合は、
カードの内容を分類させ、
それぞれ解決の方向性を
示す。
育てたい姿§
自分の考えや表現方法に
対するアドバイスを求めた
り、教材から自分の文章に
生かせる構成や展開の工夫
などを読み取ろうとする。
「志向の共感」
読む作品を決めかねてい
る時は、同じような問題点
を取り上げた論説文にどの
ようなことが書かれている
か、などの視点を与える。
育てたい姿¨
現代社会を見つめた論理
的な文章を書いたり、読ん
だりすることを通して、今
後の社会や自分について考
え、表現していこうとする。
語
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦
現代社会の特徴をとらえるために、これまで自分がいろいろな人やメディアから得てきた情
報と、筆者の考えを結びつけて、その問題点や改善点を見出そうとする。
§
自分の考えに対する反論や別視点での意見を生かしたり、説得力のある論説文を書くために、
作品や友達の意見などから構成の工夫や文章展開などを読み取ろうとする。
¨
現代社会を自分なりの視点から冷静に分析し、論理的な文章を書くことを通して、これから
の社会のあり方や自分の生き方について考えていこうとする。
(4)
子どもの学び
また、友達の資料を見せてもらうことで、
自分に必要な資料を補おうとするなど、目的
現代社会の特徴や問題点、その解決策を
文章に表現してみよう
をもって資料を収集できている。
(分析①)
理恵子は、自分が医者を目ざしているとい
うこともあり、自分が現代社会について考え
ていくためのテーマを「医学の発達と医療ミ
ス」に決め、論説文を書くための資料を集め
しかし、理恵子の論の構想をみると「今の
始めた。
医療のあり方と生死の考え方について」「医
「医学の発達と医療ミス」というテーマで調べていきた
いと思います。特に医療ミスは、最近結構話題になっ
ていることなので、これに決めました。たぶん結果的
にはプラスマイナスゼロ(医学は発達したが、医療ミ
スが目立つようになったので)みたいな感じにして、
医療ミスが起きないためにわたしたちがすべきことを
まとめたいと考えています。
(理恵子の授業日記)
療の発達が医者や患者の考え方や行動をどう
変えたか」など非常に大きく、難しい内容が
並んでおり、じきに資料収集に行き詰まって
しまった。この傾向は多くの子どもたちにも
テーマを決めた段階で、大まかな論の展開
共通していた。環境問題、少年犯罪など現代
を考えさせてから臨んだのだが、理恵子もこ
社会をいきなり地球や国のレベルから論じよ
のときすでに論説文をどういう形でまとめよ
うとしているため、資料はあってもそれをど
うか、ある程度の見通しをたてていることが
う利用すればよいのかわからないのだ。
授業日記から読み取れる。ただやみくもに資
そこで「学びの吟味」の手だてとして、同
料を集めさせるのではなく、自分の文章展開
様の悩みをもっている一夫の授業日記を紹介
をあらかじめ想定させたことが、この後のス
した後、共通教材として、身近にある「障子」
ムーズな資料収集につながっている。
の特徴から現代の使い捨て社会に問題を投げ
理恵子は「現代用語の基礎知識」や「イミ
かけている『障子の破れに学ぶもの』を提示
ダス」、またインターネットを用い、医療事
すると、その内容や述べ方の特徴について多
故の例や、その数についてのデータを順調に
くの意見が出された。
集めた。
今日の授業で読んだ『障子の破れに学ぶもの』
、本当
にいいことを学ぶことができました。
(中略)今回の話
は、二つのものを比較して、より確かに、納得できる
ようにしているから、この作品のように二つのものを
比べて、それについて語るというのもいいと思いまし
た。また、身近なものを題材にするのもいい手だと思
います。人を引き込みやすいからです。
(理恵子の授業日記)
今日は幸子さんのように数字のデータが欲しくて、
探していたらでてきました。これは厚生労働省の調査
によるもので、大病院での医療事故の件数が過去2年間
で15,000件、一病院あたり年間91件…びっくりです。
(理恵子の授業日記)
− 30 −
理恵子は、内容に共感するだけでなく、自
分の文章に生かせそうなポイントを作品から
多彩すぎて、文章自体のボリュームはあるが、
まとまりに欠けるものであった。
読み取っている。学級での話し合いでも、理
みんなのアドバイスを見て、わたしの文章はまだよ
くする必要があるな、と思いました。わたしは自分の
入れたい資料を好きなだけ入れてしまったので、今一
つ主題がはっきりしません。言いたいことがはっきり
見えていませんでした。
「健康食品や健康法」にしぼっ
て、もっとデータを集めたいと思います。
(理恵子の授業日記)
恵子の考えと同様の意見が出され、論説文に
ついての三つのポイントとして、この後論説
文を書く側、読む側の共通の視点となった。
〈三つのポイント〉
・二つのものを比較して論じる
→よい面、悪い面がよくわかる。
・自分の身近なことから取りあげる
→読み手が思い浮かべやすいし、自分も書きやすい。
・構成をしっかり整える
→読み手によく伝わるし、書き手の考えもよくまと
まる。
(理恵子のノート)
アドバイスカードにも「話題が豊富すぎる
から、もう少し書きたいことをしぼった方が
よい」「初めの問題提起から話がずれていっ
ている」などの指摘を受け、改善の方向を見
つけることができた。
子どもたちの問題意識
今や日本は健康ブーム。あらゆるところに、あらゆ
る健康グッズがあふれています。その中で一番身近な
のが「栄養補助食品」。そのよさは何といってもその手
軽さ。これをダイエットに使う人もいれば、お菓子代
わりに摂っている人もいます。しかし、それは本当に
正しい使い方なのでしょうか。(中略)
いろいろな危険がつきものの栄養補助食品ですが、
今のわたしたちにはなくてはならないものとなってい
ます。それには、今のわたしたちの食生活の問題との
かかわりがあります。
まず一つに、わたしたちの食生活が、この十年で大
きく変化したということが挙げられます。「食生活の欧
米化」とよく言われますが、確かにわたしたちの食事
にパンや肉が並ぶことは決して珍しいことではなくな
りました。(中略)
二つ目に、普通に食物から栄養を摂っていたとして
も、それらの栄養価が低下していることが挙げられま
す。大量に農薬を使用し、短期間で農作物を育てるよ
うになったことで、ある研究結果では、現代の野菜は
50年前の野菜の四分の一から五分の一の栄養素しか含
まないとされています。
(後略)
(理恵子の論説文より抜粋)
に即した作品を提示する
ことで、それぞれが自分
の文章に生かそうと、目
的意識をもって読み進め
ることができ、姿§の表
出につながったといえる。
いろんな立場や考えの人にも納得して
もらえる文章にしたい
(分析②)
子どもたちは一次作文を書き上げたところ
で、自分の伝えたいことがうまく書けている
かどうか知りたいという思いから、互いの文
章を読み合い、三つのポイントを意識して書
いているかどうか、ということを中心に、ア
ドバイスカードを書いた。書いたカードはそ
理恵子の二次作文には、「読者に疑問や問
れぞれ相手の名前を書いた封筒に入れてお
題を投げかける」
、「例や根拠を順序立てて述
き、「学びの吟味」の手だてとして、作文と
べる」など、皆で考えたポイントが生かされ
ともにそれを配付した。これにより、アドバ
ている。理恵子は友達の書いた論説文や、新
イスをもとに自分の作文を改善しようという
たな教材文を読むことで、論理的に自分の考
学習活動が生まれた。
えを伝えるためのポイントをさらに発見する
理恵子の書いた論説文は、日本の健康ブー
ことができ、自分の文章を改善していくため
ムをテーマに書かれてはいるものの、当初書
にそれをどんどん取り入れていこうとする、
こうとしていた医療関係の話題やストレスな
姿§を作品にも具現化することができたとい
どの生活習慣病、食と健康など資料や内容が
える。
− 31 −
国
語
科
〈この一手〉
1 年総合単元「わたしを語る」より
「わたしは自分を語れていないな」これが自己紹介のビデオを振り返った愛子の感想だっ
た。早くみんなと仲良くなりたいという思いで行った自己紹介だったが、それは趣味や特
技を形式的に述べたものが多く、自分の性格や内面を語るようなものではなかった。むし
ろ人から悪く思われたくないという警戒の気持ちさえ読み取れた。
そこで、語るとはどういうことかと問いかけ、先輩の生活文をつづった文集を紹介した。
すると子どもたちは、わたしとはどういう存在かを考え、データを並べただけでは「語る」
にならないことに気づいていった。そして愛子も、両親やいとこ、学級の友達、小学校の
時の担任の先生などに「わたしとはどういう存在か」についてを積極的に取材し始めた。
初めのうちは、自分がどんなふうに見られているの
か恥ずかしがっていた愛子だが、
取材していくうちに、
「そうかなぁ、と思うものもあった。瑠奈さんから、
『人に頼まれると断れないタイプ』というのがあった
けど、けっこう当たっているな、と思った」といった
感想をもちはじめ、客観的にも主観的にも自分をあら
ためて見つめるようになっていった。
2 年総合単元「ことばを考える」より
若者ことばから日本語の乱れについて考えた子どもたち。その是非を話し合ったとき、
子どもたちの意見は「ことばは意味さえ伝わればよい」というものがほとんどであった。
そこで、銀行のキャッシュディスペンサーの「アリガトウゴザイマシタ」という合成音
声と、人間の声の「ありがとう」、京都方言での「おおきに」という声を録音したものを
用意して聞かせ、言われてうれしいのはどれかを話し合った。教師の予想通り「やっぱり
人間の声の方がいい」「方言は温かみがある」などの意見から、「機械の声は味気ない」
「感情がこもっていない」
「ありがたいという気持ちが伝わらない」など、機械音声に対し
て批判的な意見が続いたところで、前回の話し合いでことばの乱れに危惧を抱いていた勝
男が「みんなこの前は意見が通じればいいっていって
たのにおかしいじゃないか」と発言した。
矛盾をつかれた子どもたちは、意味伝達だけに終わ
らない「ことば」のはたらきについて関心を深め、日
本語の変遷や方言の価値など、幅広い話題からテーマ
を見つけ、追究活動に主体的に取り組んでいった。
− 32 −
2 年総合単元「古人を想う」より
『枕草子』の第一段「春はあけぼの」を読んだ子どもたちは、短い文章の中に凝縮された
季節の美しさにふれ、清少納言の季節を見る目の鋭さに感心していた。「平安時代の人た
ちも季節の移り変わりに関心をもち、それぞれの季節の美しさを楽しんでいた。『春はあ
けぼの』を読むと、美しい情景が思い浮かんでくる。きっと昔は、今よりも自然が豊富で
あったから、わたしたち以上に美しさに感動したのだと思う」この思いをもとに、文章に
表現された情景を絵に描いたりしながら、情景を表現することばの巧みさを味わった。
そこで、こうした子どもたちに『徒然草』を示し、「花は盛りに」を紹介した。すると
子どもたちは、「花は盛りに」を読み終え「春はあけぼの」と比べながら、清少納言とは
違う視点に気づいた。「わたしの思っていた自然の美
しさは、清少納言のような見方のものだったが、吉田
兼好の見方には驚いた。内面にある美しさのような、
国
目に見えない美しさだと思う」
兼好のものの見方に関心をもった子どもたちは、自
語
分の手元にある『徒然草』の他の段を読み始めた。そ
科
して、気に入った段について自分自身や自分の生活と
結びつけながら、友達と語り合うようになった。
3 年総合単元「未来に想う」より
前単元「現代社会を考える」で、新聞、雑誌、インターネット、共通教材の読解や自由
読書を通し、さまざまな情報を収集して今日の社会の諸問題について追究を進めてきた子
どもたちは、そのレポートを読み合うなかで、視野を広げたり、資料の活用の工夫を学習
したりしてきた。そして、よりよい社会にしていくための考えを論説文にまとめ、少しず
つ自らの生き方を模索し始めていた。
そこで、共通教材として『20世紀の予言』と『「豊かさ」再考』を紹介すると、自分た
ちの未来(21世紀)を予想しつつ、あるべき姿(本当の豊かさ)について思いをめぐらせ
た子どもたちは、自らの思いを詩に作品化した。差別問題に関心をもっていた美子も、
「PROLOGUE」という創作詩に、「新しい朝(時代)の始まり」を表現しようとし、併せ
て記述したその解説文を読み合うなかで、作品の解釈
や鑑賞を通して、友達との意見交流を広げていった。
また障害児を子にもつシンガーソングライターの書
いた詩『君がいてよかった』を読み、文学的表現を学
んだ子どもたちは、短いことばで思いを表す詩形式や
情意的な表現に工夫を凝らすことで、自分の考えをさ
らに深め、表現の目的を明らかにしていった。
− 33 −
社会科
未来を拓き
社会を創る
1 文化創造に向けて
「テーハミングッ チャチャチャチャチャッ」
れるものであり、未来を拓く力となる。 2 つ
日本人が韓国人といっしょになって韓国チー
目は、これまでの常識の尺度にとらわれない、
ムを応援している。この光景こそ、日韓両国
より多面的で柔軟な判断力である。これから
民が期待していたものである。ワールドカッ
の時代は、まわりの情報を適切に読み取った
プの日韓共同開催にあたっては、二国間にお
うえで、自分の考えにもとづいて判断し、主
ける歴史的問題などを背景に、多くの紆余曲
体的に行動することが求められている。こう
折があった。それを乗り越えて、今回の成功
した力こそ、新しい社会を創る力となる。
があったといえる。今大会の成果は、両国の
社会科では、子どもたちが社会事象や社会
明るい未来を予感させるものとなった。しか
的事実に主体的にかかわり、その状況を正し
し、その最中、韓国と北朝鮮における武力衝
く把握するとともに、自分の考えにもとづい
突が起きた。多くの人々がお祭り気分でいる
て判断し行動していくことが、やがて「文化
中で、厳しい現実が突きつけられた瞬間であ
創造」へとつながっていくものと考え、教科
る。
テーマを設定した。
わたしたちの目の前には、このような民族
わたしたちは、教科における「学びのネッ
紛争をはじめとして、簡単には解決のできな
トワークを築く子どもの姿」を設定し、カリ
いさまざまな社会問題が横たわっている。こ
キュラムを構想して実践に取り組んできた。
れらを解決していくためには、ものごとを一
実践では、日常生活におけるものの値段の安
面的にとらえるのではなく、バランス感覚を
さに目を向け、その秘密を探ろうとする様子
もって多面的にとらえていかなければならな
がみられた。また、渥美や名古屋に出かけ、
い。今までのひたすらに豊かさを求めてきた
農業についてわからない点を実際に携わって
社会を見直し、新たな社会を創り上げていく
いる人に聞いたり、インターネットを利用し
必要がある。
たりして、自分なりの考えを築くことができ
そのためには、子どもたちに次のような力
た。さらに、友達との意見交流をすることに
をつけてほしいと願っている。 1 つ目は、単
よって、戦争と平和についての新たな見方や
なる情報収集力だけではなく、さまざまな情
考え方を見出し、自分の生き方について見つ
報から適切なものを見極め、読み取る力であ
め直していこうとする様子もみられた。この
る。このような力こそ、刻々と移り変わる社
ように、子どもたちの確かな動きが見られる
会の変化に主体的に対応できる人間に求めら
ようになってきたのである。
− 34 −
2 社会科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
「未来を拓き 社会を創る」子どもには、さ
まざまな情報から適切な情報を読み取り、も
のごとを多面的にとらえることを通して、主
体的に判断し行動する力が必要である。この
ような力を身につけるために、社会科では、
子どもたちが主体的に社会事象や社会的事実
とかかわっていく姿を、社会科における「学
びのネットワークを築く子どもの姿」として
おさえ、具体的に次のような 3 つの姿である
ととらえた。
a 社会事象や社会的事実にかかわる自分の考えを確かめようとする姿
子どもたちは、社会事象や社会的事実を、常にそれ
までの学習や自分の生活経験・知識にあてはめて理解
しようとする。そして、うまく理解できなかったり、
自分の予想と違っていたりすると、その社会事象や社
会的事実に対して新たな問題意識をもって、追究活動
を始めていく。
b さまざまな情報から社会事象や社会的事実に対する自分の考えを構築しようとする姿
追究にのぞむ子どもたちは、問題解決に向けてど
のような情報が必要なのかを検討し、自分のまわり
の人・こと・ものからそれを得ようと動き出す。そ
して、それらのものがどのような意味をもっている
のかを考えるとともに、それぞれの情報が自分の追
究問題とどのようにかかわっているのかを吟味し、
自分の考えを構築していく。
c 新たな社会認識をもとに自分のあり方を探っていこうとする姿
自分のまわりの人・こと・ものから情報を得た子
どもたちは、それらをもとに自分の考えを構築する
とともに、新たな社会認識をもつ。さらに、この新
たな社会認識をもとに、今までに得た情報をもう一
度見直したり、自分たちの考えにもとづいてそれら
のかかわりを判断したりすることで、考えを深めて
いく。
− 35 −
社
会
科
3 教科カリキュラムの構想と編成
社会科における「学びのネットワークを築
く子どもの姿」に迫っていくには、社会事象
や社会的事実に主体的にかかわり、その背後
にある問題に目を向け、多面的に追究して、
自分なりの考えを構築していくことが大切で
ある。教科の系統性をおさえながらも、単元
の重みづけを考えていくことが必要である。
わたしたちは、社会科における「学びのネッ
トワークを築く子どもの姿」を具現化するた
めに、次の 2 つの視点から教科カリキュラム
を編成することにした。
◆教科の系統性から
子どもたちが主体的に社会事象や社会的事実にかかわっていく際には、子どもたちの興味・
関心だけでなく、教科の系統性についても考慮する必要がある。そこで、社会科の教科内容を
洗い出し、次のような点に留意して教科カリキュラムを編成した。
○ 世界地理分野では、生活の様子から大きく世界をとらえようとする単元と、日本と関係の
深い国々や世界の視点が集まる国々(地域)に焦点化した単元を設定する。
○ 日本地理分野では、行政的な地域区分にとらわれずに、さまざまな産業活動や人々のくら
しぶりの特徴をもとにした単元を設定する。
○ 歴史分野では、時代区分にこだわらずに、より大きな歴史の流れの中で、世界の歴史の流
れと比較しながら日本の政治の動きや文化について見つめていく単元を設定する。
○ 公民分野では、 1 ・ 2 年生の学習をふまえ、これからの国際社会における民主的公民とし
ての資質の育成を図る単元を設定する。
◆社会科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」を具現化することから
社会科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」の実現に迫るためには、地理・歴
史・公民という領域ばかりにこだわらず、この 3 つの領域の内容を含んだ総合単元を構想する
ことも効果的ではないかと考えた。問題解決に向けて子どもたちは、さまざまな情報を得よう
と動き出す。その際に子どもたちがどのような情報を得ようとするかは、それぞれの子どもの
問題意識に大きく左右される。この問題意識には、地理・歴史・公民の区別はない。つまり、
3 つの領域を含んだ大きな単元を設定することによって、子どもたちがより多面的で創造的な
追究活動をすることが可能になると考えたのである。
そこで、子どもの発達段階も考慮したうえで、各学年に一単元ずつ総合単元を配置すること
にした。 1 年生については、教科の追究方法をある程度理解したうえで総合単元を導入する必
要があるという判断から、 3 学期に位置づけ、 2 ・ 3 年生については、学習内容の関連から、
それぞれ 2 学期と 1 学期に配置することにした。
− 36 −
1
年(70時間)
2
年(70時間)
3 年(70時間)
【歴史単元】
古代文明に学ぶ
【地理単元】
(8) くらべよう!日本の各地
【総合単元】
・四大文明を中心に古代文明の特色
(12) わたしたちが主役
1
をつかむ
・ 1 つの地域の特色を調べるととも
に、各地の様子を比べながら日本
【地理単元】
各地の大まかな様子をつかむ
世界の国めぐり
(8)
学 ・世界のおもな国の生活の様子をつ
【歴史単元】
かむ
日本の近代化がもたらした
もの
(13)
期 【歴史単元】
・富国強兵政策によって、欧米諸国
検証!天皇中心の国 (9)
・日本の古代国家の成立過程を追う
・身近な生活の場から政治にかかわ
る問題を見つけ出し、その解決の
あり方を考える
(啓蒙思想・人権共生社会・政治)
社
に追いつこうとする日本の姿をつ
かむ
【地理単元】
【地理単元】
わたしの行きたい国 (10) 世界の国から学ぶ
・世界の国々の中から、行きたい国
を選び、その国の調査結果から、
自分や日本とのつながりについて
考える
日本の政治 (25)
会
科
【公民単元】
提言!今後の日本経済
・日本と特に関係の深い国の産業、
(20)
社会、生活などの様子から、自分
(11)
や日本とのかかわりについて考え
・家庭生活の買い物調査を通して、
2
る
ものの値段の変化から経済のしく
みを考える
【歴史単元】
・生活における税金・財政・金融の
武士が変えた日本
(12)
はたらきついて考える
学
【総合単元】
・武士の活躍を中心に、中世日本の
平和への願い
(19)
動きをつかむ
・15年戦争を中心に戦争の実態を具
体的に調べ、平和の尊さを知り、
期 【地理単元】
自分たちがすべきことを考える
【公民単元】
発見!愛知のパワー (9)
(歴史・東アジア・東南アジア・ 挑戦!共生社会づくり(10)
・自分たちが住んでいる愛知県の産
業や生活の具体的な様子を調べる
とともに、これからの愛知の姿を
考える
3
学
期
世界平和)
・わが国の福祉制度の問題を取り上
げ、これからの自分の生き方を考
える
【総合単元】
ふるさと再発見
【地理単元】
【公民単元】
(15) 日本の観光マップを
地球社会に生きる
(15)
(15) ・環境問題や国際紛争などの問題解
・身近な自分の住んでいる地域の特 つくろう
色をつかむ
(政治・産業・歴史)
・外国の人に日本のことを伝える観
光マップをつくり、日本の将来の
決のあり方を探り、国際的な視野
を広める
姿を考える
※( )内の数字は、75分を 1 単位とした授業時間数を表す。ただし、 3 年生は 1 単位65分。
− 37 −
4 実践の分析
「愛知からの脱出作戦 ∼プロジェクトF ∼」2 年単元「くらべよう!日本の各地」
(1)彩花の単元のまとめより
「これ、何だか知ってますか?」と先生が見せたもの、それは非常食の乾パンでした。でも、それ
を食べながら考えたことは、背筋が寒くなるようなことでした。「東海大地震」、この自分の身に直
接降りかかる恐ろしい未来のできごととわたしは衝撃的に出会いました。
テレビに映し出された阪神淡路大震災の写真。破壊しつくされた状況が次々と目に飛び込んでき
て、「岡崎もこうなってしまうのかな」と心配になりました。「附中にいる間に東海大地震が起きる
かもしれない」と思うと焦りを感じました。「何とか生きのびるにはどうすればいいのか」と思い、
愛知から脱出する作戦を考えることにしました。名づけて「プロジェクトF」。この「F」には、
「FUZOKU(附属)
」と「FUTURE(未来)
」という意味が込められているのです。
脱出作戦では、愛知のわたしたちが移住しても困らない都道府県を探すことにしました。そこで、
わたしは友達と相談しながら、自然や文化などの視点から各都道府県についてインターネットや資
料集などで調べました。追究が深まるにつれて、愛知との共通点や相違点がいくつも発見できまし
た。都市化が進んでいる県もあれば、自然が豊かな県もあります。また、太平洋側と日本海側では
雨や雪の降り方が大きく異なること、東北や九州ではその地方特有の方言があることなど、今まで
知らなかったことをたくさん知りました。
追究の成果を 1 枚のポスターにまとめました。わたしの選んだ脱出先は大阪。意見交流では、多
くの友達の考え方を知り、次の話し合いに生かすことができました。しかし、話し合いではわたし
の意見にたくさん反論があり、「本当に大阪で大丈夫なのかな」と心が揺らぎました。いちばん気
がかりだったのは、「大阪は東海大地震とかかわって発生する東南海地震の被害が大きい」と反論
されたことです。わたしは脱出先を決めるのに「何を最も重視すべきか」で悩み、大阪に自信を失
いかけました。でも、先生が授業日記に「追究の姿勢がとてもいいから自信をもって」と一言書い
てくれたおかげで、もう一度がんばって家で調べることができました。そして、新たに交通網の発
達や情報の豊富さなどの利点を見つけることができました。
次の時間、もう一度脱出先について討論しました。大阪は都市化が進み交通網が発達しているう
え、さまざまな情報が得やすく生活が便利であること、愛知に近くて移動距離が少なくて済むこと、
また、阪神淡路大震災を経験していて地震対策が進んでおり、住民の防災意識も高いことなど、自
分の考えを精一杯訴えたら、今は大阪と言い切れるようになりました。今まで追究してきたことが
自信となり、最終的にわたしは自分の意志で大阪という結論を出すことができました。
この単元を通して、わたしの視野はずいぶん広がりま
した。他の都道府県についての追究の際に、愛知と比べ
ながら調べたことで、今まで意識していなかった愛知の
よさや欠点に気づくことができました。愛知は海と山の
両方の自然に恵まれているうえ、都市の機能も発達して
いて、自然と都市がバランスよく調和していることを知
ってうれしくなりました。しかし、交通事故による死傷
者数が多いことや老人ホームの数が少ないという点はと
ても問題であると感じました。そしてまた、みんながさ
まざまな角度からいろんな考え方で追究していることは、
わたしにとって新鮮な驚きでした。
今回は未来について考えましたが、そこに正解はありません。だからこそ、みんなが自分の考え
を思う存分主張し、とことん話し合えてとてもよかったと思いました。今回学んだことを今後のわ
たしの生活の中で生かしていけるようにしていきたいです。
− 38 −
(2)単元の構想表
過程
見
出
す
手 だ て
「魅力の発見」
東海大地震の被害状
況を実感し、地震から
逃れたいという心情を
培うために、非常食で
ある乾パンの試食や阪
神淡路大震災の映像の
視聴、東海大地震に関
する予測の提示を行
う。
分析① {
「夢の構築」
脱出先を選ぶ際の基
準が明確になるように
するため、気候・文
化・経済など、基準と
なりうる具体的な視点
について例を挙げて示
す。
と
ら
え
る
「学びの吟味」
脱出先についての
個々の考えを把握する
ために、少人数のグル
ープによる意見交流会
ではだれがどこにどん
な理由で脱出しようと
考えているかを記録す
るよう助言する。
子 ど も の 考 え ・ 思 い
近く東海大地震
が起きるらしい
よ
岡崎市が地震防災対
策強化地域に指定さ
れたよ
は
ぐ
く
む
「学びの吟味」
愛知を見直そうとす
る意識を培うために、
「愛知の復興のことは
考えなくていいのだろ
うか」と揺さぶりをか
ける。
阪神淡路大震災を
上回る被害が出そ
うだな
東海大地震を避け、快適な生活をするにはどうすればいいだろう 1
遠いとこ
ろへ逃げ
る
気候がいい
と暮らしや
すい
交通網が発
達している
と便利
愛知に近い
方が情報が
得やすい
脱出先を選ぶときはどんな条件を一番重視するといいのかな
脱出先として最もふさわしい都道府県はどこだろう
2∼4
自然環境はいいの
かな
土地や物価が安い
地域かな
地震がなく、生活
もしやすいのかな
自分の選んだ都道府県の有利な点がいくつも見えてきたよ
脱出先はここで決まり!
5∼8
福島なら土地も
あるし物価も安
い
近いし、既に大地
震のあった大阪が
最適
脱出先を選ぶためにはいろんな条件を考え合わせることが大切だとわ
かったよ
よりよい愛知を築くために、脱出先から何を学ぶべきか
育てたい姿¦
東海大地震を自分
の問題と感じ、安全
とくらしやすさにつ
いて自分の考えをも
とうとする。
自動車工業をより発展させ
ることが愛知の活性化には
必要だ
交通事故死者が多いから、
道路の整備やドライバーの
マナー向上を図りたい
学びを振り返り、これから自分にできることを考えよう
地震に対する関心
をもち震災に備え
るとともに身近な
人にも広めたい
「人」を大切にす
るため、人の役に
立てることがした
い
− 39 −
「夢の構築」
脱出先を決めかね
ている場合は、友達
がどういう基準で脱
出のための候補地を
探したかを聞いてみ
るよう助言する。
育てたい姿§
脱出先を選ぶ際の
基準を、友達と意見
交換をしながら追究
を深め、複数の視点
(基準)から考えよ
うとする。
「学びの吟味」
大阪の有利性を多
数見出せないで苦労
しているときは、他
の都道府県の有利性
が大阪にも当てはま
らないかを考えるよ
う助言する。
9 ∼11
愛知を今までとは違う角度から見直して、ふだんは意識していなかっ
た愛知のよさや欠点に気づけてよかったな
「学びの吟味」
愛知でよりよい生活
を送り、また愛知をよ
りよい町にしていくた
めに、今後自分にでき
ることを考え、未来の
自分宛てに手紙を書く
ことを提案する。
「魅力の発見
脱出先を選択する
に際しては、自分の
最も重視したい基準
を中心に自由に考え
てよいことをアドバ
イスする。
統計資料やインターネットを活用して調べてみたい
石川は愛知と平均
気温が 1 度しか違
わない
分析② {
抽出生への支援と育てたい姿
「魅力の発見」
自分の考えに自信
がもてないでいると
きは、その考え方や
追究姿勢のよさを認
めて称賛する。
12
愛知が自然と都会の
調和した町であり続
けるよう人と環境を
大切にしたい
育てたい姿¨
自分の住む愛知に
自ら目をむけ、学ん
だことを生かしなが
らよりよい生活を送
ろうとする。
社
会
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 東海大地震は自分の生活にかかわる重要な問題であることに気づき、震災を避け快適に暮らすため
にはどうすればよいかを考えようとする。
§ 愛知から脱出する先としてはどこに逃げるのが最適かという問題意識をもち、統計資料やインター
ネットを活用して調べたり、また、友達と意見を交換したりしながら、自分が考える理想の脱出先の
有利性について複数の視点から迫っていこうとする。
¨ 脱出先を探す中で得られた日本の各地の特色やそれぞれの地域に暮らす人々の生活の様子を、より
よい愛知を築いていくための参考とし、これからの自分の生活に役立てていこうとする。
(4)子どもの学び
脱出先として最もふさわしい都道府県は
どこだろう
(分析①)
この前、夜に地震が起きたとき「まさか東海大地震?」
なんて思ってしまいました。地震っていうのはすごく怖い
ので、すごくびくびくしています。でも、びくびくしてい
るだけではだめなので、非常袋とかの用意が必要なのかな
と思いました。今日の授業で東海大地震は阪神大震災の16
倍のエネルギーで揺れが 1 分間も続くと知ってすごく怖い
です。もし、寝ている間に起こったら怖いです。だから、
「起こるなら学校で起こってほしいな」とひそかに思ってい
本単元では、各都道府県の様子を愛知との
比較を通して多面的な視点からとらえること
を主なねらいとしている。その達成に向けて、
最初に子どもが「どうしても都道府県につい
ます。でも、本当に起こったときはどうすればいいんだろ
う。
(彩花の授業日記)
て調べてみたい」という心情を培う必要があ
った。そこで、心を大きく揺さぶり、問題が
彩花は自分の過去の体験と東海大地震とを
自分にかかわるものと感じられるようにする
結びつけて考え、この問題を自分にかかわる
ために、近い将来に発生が予測されている東
大きな問題であるととらえている。そして、
海大地震を取り上げた。そして、震災を避け、
「どうすればいいんだろう」という率直な心
さらに愛知が復興するまでの間そこで暮らす
情を抱くに至った。東海大地震という生活と
という条件を設定することで、外から愛知を
密接にかかわる課題を取り上げたことや「魅
見つめ直すことができると考えた。
力の発見」の手だてにより、彩花は問題を自
この構想通りに授業を展開するには、子ど
もたちが東海大地震に恐れを感じ、愛知から
分のものとすることができた。ここに姿¦を
見ることができる。
震災を避けるために子どもたちは愛知から
脱出して震災から逃れたいと考える必要があ
る。そこで、「魅力の発見」の手だてとして、
脱出しようと考え始めた。彩花も追究を開始
非常食である乾パンの試食や阪神淡路大震災
したが、すぐに壁にぶつかった。脱出しよう
の映像の視聴、そして、文部科学省や東京大
と考えてはみるものの、各都道府県に関する
学の研究者による次の 2 つの予測の提示を行
情報が不足しており、どこに逃げていいか決
った。
〈東海大地震に関する予測〉
①東海大地震のエネルギーは、阪神淡路大震災の約16倍に達し、
激しい揺れがおよそ 1 分間(阪神淡路大震災はおよそ20秒間)
継続する。
②東海大地震の発生は、早ければ2002年の暮れから遅くても
2004年のうちである。
この予測を提示するや否や、教室中が騒然
となった。彩花はこの衝撃的な予測に対し、
授業日記に次のような思いを記している。
(彩花の追究ノートより)
− 40 −
められなかったのである。そこで、
「夢の構築」
善雄君が言った「東南海地震」について、わたしは考え
ていなかったので「どうしよう」って思っています。……
(中略)……何か「大阪はダメかな」って思ってきてしまい
ました。でも、やっぱり日本全国どこも完全には安心でき
ないわけだし。……(中略)……明子さんの言った原発の
「死の灰」は東日本を襲うから、善雄君の考える福島にも行
くはずです。そして、それ以外にも欠点があるはずなので
探してみたいです。
(彩花の授業日記)
の個への支援として、彩花に友達のところへ
行ってどんな視点で脱出先を選ぼうとしてい
るのか聞いてみるようにアドバイスをした。
今日は友達からいろんな話がたくさん聞けました。その
中で、明子さんから原発の放射線の情報を手に入れました。
もし地震が起こったら浜岡原子力発電所が爆発して放射線
が最低でも東京まで飛ぶかもしれないそうです。そうなる
と、その中の区域は全部だめになると思いました。交通機
関や気候だけでなく、そういう施設のこともちゃんと考え
ないといけないと思いました。
(彩花の授業日記)
このように、話し合いで彩花は自分の考え
ていた大阪が善雄をはじめとする多くの反論
にあい、自信をなくしかけた。そこで、
「学び
の吟味」の個への支援として、この授業日記
この手だてにより、彩花は友達と意見交流
への朱書きなどで、自分の考えの根拠をもう
を行い、自分だけの思考から他人の考えを取
一度はっきりさせ、さらに多くの大阪の有利
り入れた思考へと発展させることができた。
な点を探ってみることをアドバイスし、これ
特に、明子から得た原子力発電所の危険性に
までの彩花の追究の姿勢の確かさを称賛し
社
関する情報は、新たに具体的な視点をもち、
た。彩花はこれにより自信を取り戻し、大阪
自分の考えを広げることにつながっているこ
の有利性や善雄の考える福島の欠点につい
会
とが顕著に読み取れる。この時点で、姿§が
て、家に帰ってからも自分で追究を深めてい
表出してきていると判断できる。
った。この追究姿勢には、以前より明確な形
脱出先はここで決まり!
(分析②)
で姿§が表れている。
各自が考えた脱出先について 1 枚のポスタ
そして、同じ
ーにまとめ、少人数のグループで意見交流を
課題でもう一度
行った。この際に、
「学びの吟味」の手だてと
話し合ったとき
して、だれがどこにどんな理由で脱出しよう
は、新たに見つ
としているのか記録しておくように助言した。
けてきた大阪の
この手だてにより、子どもたちは自分と同じ
有利な点につい
脱出先を選んでいる子との連携を図ったり、
て「阪神大震災の経験から地震対策が進んで
逆に、自分の考えとは異なる脱出先を選んで
おり、住民の防災意識も高い」と積極的に発
いる子に反論するための資料を探したりして、
言し、善雄らの反論をかわしていった。授業
話し合いに向けての動きを活性化することが
日記には自信にあふれた文章が見られる。
できた。
地盤の問題とか東南海、南海地震の問題もあるかもしれ
ないけど、それ以上に大阪の利点はたくさんあると思いま
す。都市化、距離、地震対策など……。きのうのうちに資
料をたくさん集めておいてよかったです。それでなければ
善雄君にも反論できなかったし。……(中略)……わたし
はやっぱり最終的には大阪に脱出したいです。
(彩花の授業日記)
こうして学級
全体での話し合
いを迎えた。討
論では福島を脱
彩花は最終的に自分の意思で脱出先を決定
出先に選んだ善
雄から大阪を選んだ彩花に対して安全性に関
することができた。自分の考えを他との交流
する鋭い反論が浴びせかけられた。彩花はそ
によって確かなものにしていったところに、
の日の授業日記に次のように記している。
彩花の成長が感じられる。
− 41 −
科
「安売り店から日本の経済が見える」 3 年単元「提言!今後の日本経済」
(1)麻美の単元のまとめより
窓際にずらりと並んだたくさんの商品。どれも見たことあるものばかりです。3,000円く
らいに見える高そうな急須から、100円前後で売られているようなレトルトカレーまであり
ます。値段がついていないのでほんとうの値段はわかりません。わたしなりに予想して値段
をつけてみましたが、見事に外れてしまいました。なんとほとんどのものが100円だったの
です。自分では結構ものの値段を知っているつもりでしたが、実はわかっていなかったこと
に気づきました。それにしても何でそんなに安く売ることができるんだろうということがと
ても不思議に思えました。
そんな思いを抱いて身の回りの店を見つめ直してみると、安売りの店がたくさんあること
を知りました。例えば、100円均一の店、牛丼のY店、ファーストフードのM店、衣料品の
U店などです。他にも、チラシなどの広告に安さを強調しているスーパーや電器店もありま
す。どうしても安売りの秘密を追究してみたくなりました。
わたしは、衣料品のS店に行って取材することにしました。
そこでは、安く売るための工夫についてだけでなく、安く売
ることのメリットについても知ることができました。まず、
安く売るためにしている工夫は、とにかく経費を削減するこ
とだそうです。店のつくりを簡単にしたり、照明を減らして
電気代を少なくしたり、パートの人を雇って人件費を少なく
したりすることが安売りにつながっていくのです。また、安売りのメリットは、安くてお客
さんがたくさん来てくれることです。多くのお客さんが来てくれれば、 1 つの商品の利益が
少なくても、もうかるわけです。もちろん、お客さん第一に考えることで、店への信頼も高
くなります。取材を通した追究をしてみて、多くの工夫がなされていることを知りました。
追究後の意見交流では、友達の考えも聞くことができ、新たな疑問もでてきました。それ
は、これからの安売りはどうなっていくのかということです。どうしてそのことが気になっ
たかというと、今の安売りは店の努力もあるわけですが、それ以外にデフレスパイラルとい
う要因もあることを知ったからです。安売りはいいことだと思っていましたが、そのことを
考えると単純によいとはいえません。みんなで、「これからも安売りは広がっていくだろう
か」について話し合いました。今の状況を考えると、少なくともここ 2 ∼ 3 年はまだ続いて
いくのではないかという意見が大勢をしめました。自分もそう思うのですが、本当にこのま
までいっていいものなのかはとても不安に思います。
このように考えると、日本の経済状態はよいとはいえません。この状態から一刻でも早く
抜け出していくことが大切なことだと思います。しかし、企業だけの努力では、簡単に解決
できる問題ではありません。やはり、国が新たな減税とか、金融機関の不良債権処理とか、
公共投資とかいったことに目を向け、今まで以上に大きな改革を進める必要があるように思
えます。自分だけの力ではどうすることもできませんが、これを契機に自分なりに経済問題
に目を向け、関心をもち続けていきたいです。
− 42 −
(2)単元の構想表
過程
手 だ て
子 ど も の 考 え ・ 思 い
Y店の牛丼の値段
が下がった
見
出
す
「魅力の発見」
価格を安くした商品
を売っている事実に目
を向けるために、安売
り店で売られている物
を紹介する。
M店のハンバーガー
の値段も下がった
抽出生への支援と育てたい姿
百円均一の店が増
えている
自分の家の近くには、どんな安売り店があるのだろう
酒はS店
だ
服ならU
店だ
雑貨は百円
均一の店だ
1
食料品は
F店だ
どうしてそれらの店は普通より安く品物を売れるのだろう
「夢の構築」
安く売れる秘密を探
ろうとする意欲を高め
るために、その秘密を
予想した中から、でき
るだけ多くの違った考
えを引き出す。
と
ら
え
る
分析① {
「学びの吟味」
安く売るための秘密
を深くとらえるため
に、子どもが調べたこ
とをまとめた冊子を配
付し、友達と自分との
相違に目を向けるよう
にする。
安売り店の秘密はどこにあるのだろう
2∼5
自分の知っているところに行って調べてみたい
仕入れに秘密があ
るのではないか
働いている人に秘密
があるのではないか
店のつくりに秘密が
あるのではないか
安く売れる秘密がわかってきたぞ
安売りの秘密はこれだ!
大量仕入れをして
いる
6∼8
人件費の安い国で
作っている
は
ぐ
く
む
安売りは広がっていくのだろうか
もう安売りは限界だ。これ以
上は広がらないだろう
しばらくはまだ競争が続いて
いって広がるだろう
安売りが広がるかどうかは、消費者のニーズや企業の経営努力が大き
な影響を与えるんだな
これからの日本経済はどうあるべきだろう
消費者のニーズ
と企業の経営努
力がいっそう必
要だ
日本だけでなく、
外国との関係で景
気回復を考えてい
くべきだ
− 43 −
育てたい姿§
安売りの秘密を本
や取材などによっ
て、調べたり友達と
意見交流したりする
ことによって、明ら
かにしていこうとす
る。
「夢の構築」
取材にどこに行っ
たらよいか迷ってい
るときには、決まっ
ている友達と相談し
てみるように助言す
る。
「学びの吟味」
人件費のことな
ど、他の友達の考え
で納得できないこと
があるときには、進
んでその友達と話す
ように助言する。
9 ・10
分析② {
「学びの吟味」
これからの日本の経
済を考えていくため
に、現状を分析した雑
誌の経済紙面を配布す
る。
「魅力の発見
安売りの店を思い
浮かべている麻美
に、実際に行って、
商品をよく見てくる
といいことを伝え
る。
施設面でコストを
おさえている
商品の安さには、いろいろと工夫してあることがわかった。でも、安
売りはこれからどうなっていくのだろう
「学びの吟味」
安売りの広がりにつ
いての認識を深めるた
めに、安売りは広がっ
ていかないとする少数
意見を取り上げる。
育てたい姿¦
安売り店に目を向
けどうして安く売る
ことができるかを調
べようとする。
11
国が景気回復のた
めの政策を考え、
実施していくべき
だ
「魅力の発見」
自分の考えに自信
がもてないでいると
きには、その考えの
よさを認め称賛する
ことによって自分の
考えを主張できるよ
うにする。
育てたい姿¨
消費者の動向や企
業の経営努力、国の
経済政策などから、
総合的に日本の経済
の未来を考えていこ
うとする。
社
会
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 商品の流通や値段の決め方はどうなっているかに関心をもち、日常生活における買い物体験
や日ごろの経済に関する広告やニュースに目を向けていこうとする。
§ 安売り店では商品をどうして安く売れるのかという問題意識をもち、本やインターネットで
流通のしくみを調べたり、実際に安売り店で取材したりして、その秘密に迫っていこうとする。
¨ 安売り店の追究を通して見えてきた流通のしくみや消費者の動向・企業の経営努力・さらに
国の政策などをもとに、これからの日本の経済はどうあるべきかを考えていこうとする。
(4)子どもの学び
安売り店の秘密はどこにあるのだろう
(分析①)
通について調べたり、図書室や図書館で本を
子どもたちは前時において、「安売り店で
は、衣料品を扱うS店に取材の依頼をして出
は、どうして安く売ることができるのだろう
かけようとしたが、あいにく忙しいというこ
か」という疑問を抱いた。この疑問をさらに
とで断られてしまった。困って相談にやって
強くし、追究したいという意欲を高めるため
きたので、「同じ系列のS店が蒲郡にもある
に、「夢の構築」の手だてとして、子どもた
から、どうしてもS店に行きたいのならもう
ちなりに考えた予想を出し合うようにした。
一度そこに取材の依頼をしてみたら」と助言
話し合いでは「仕入れが安いのではないか」
した。依頼の結果、よい返事をもらうことが
「人件費の安い国で作っているのではないか」
でき、麻美は蒲郡S店へ出かけた。子どもた
「施設を簡単にしているのではないか」とい
ちが取材に行ったところは、岡崎をはじめと
うような意見が出た。これらの意見は、あく
して、安城、豊田、豊川、豊橋など27店舗で
までも予想であるので、確証があるわけでは
ある。取材に出かけた子どもたちは、いずれ
ない。しかし、友達の予想を聞くことによっ
も満足げな表情で学校に戻り、追究のまとめ
て自分が気づいていなかった視点をとらえる
をした。
借りたり、実際に店に出向いたりした。麻美
ことができた子もおり、そういう意味では有
蒲郡のS店は安くするために本当にたくさんの工夫
をしているのだなと思いました。工夫のおかげで他の
店よりも安く売れるので、お客さんも買いやすいし、
もし不良品があった場合には、 1 週間以内なら、無料
で引き取ってくれます。このようにお客さんのニーズ
をよく考えてやっているんだなということがわかりま
した。
(麻美の授業日記)
意義なものとなった。麻美もものを作るため
の原料を安くしているのではないかと考えて
いたが、友達の話を聞いてから、原料だけで
なく、もっとほかにかかるいろいろな費用を
さげているのではないかと考えるようになっ
た。
麻美の授業日記から、安売りのための工夫
子どもたちは自分なりの追究の視点を明ら
をたくさんしていることをつかんだだけでな
かにし、それがほんとうに正しいかどうか、
く、客の立場で考えることの大切さにも目を
そしてさらにくわしいことを調べるために追
向けることができたことがわかる。麻美にと
究することにした。追究にあたっては、子ど
ってこの取材は、自分の考えの足場をはっき
もたちの望む追究方法で行うことを最大限保
りさせたり、新しい視点を獲得したりするう
障していくことにした。インターネットで流
えでも、大きな意味をもつものであった。
− 44 −
この後、子どもたちは追究のまとめを冊子
上は広がっていかない派」に分かれた。話し
にし、それをもとに安さの秘密について話し
合いが活性化されていくことを期待し、「学
合いをした。どの子も根拠があり、積極的に
びの吟味」の手だてとして「倒産している企
意見交流することができた。
業が多いから、広がっていかない」という考
みんなで安売りの秘密について話し合いました。み
えをもつ少数派の子を指名した。これに対し
んなとてもよく調べてあってびっくりしました。大量
生産については、わたしもあやふやだったので、よく
て反対の考えをもつ子どもたちは、実際の流
わかりました。いろいろ安売りのための工夫があるけ
通システムや現在の日本経済の状況から、安
れど、このまま安くなっていいのかなと思いました。
でも、安いのはいいし、一度安くなるとどんどんはま
売りはまだ広がっていくのではないかといっ
っていってしまいます。なんだか難しいと思いました。
(麻美の授業日記)
た意見を出した。この話し合いでは、意見が
対立し問題の解決までは至らなかったもの
麻美の授業日記から、安売りの秘密がわか
の、一人一人の子どもが現在の経済状況をお
ってきたと同時に、安売りに対する不安を感
互いの意見を聞きながら、多面的にとらえる
じていることがわかる。
ことができた。
この学習を通して、「安売りの秘密を取材
亜紀:今は不景気でもうかっている企業が少ないから、
これ以上値段を下げると、倒産する企業も出て
きてしまいます。だから、安売りは広がらない
と思います。
勝 :ぼくも亜紀さんといっしょで、広がらないと思
います。なぜかというと、近所のガソリンスタ
ンドで安売りをしていたところが、つぶれてし
まったからです。
弘樹:ぼくは反対で、安売りは広がっていくと思いま
す。テレビで、大企業同士では質を落とさずに
安くする価格競争があるといっていたからです。
麻美:わたしも広がっていくと思います。今はデフレ
なんだけど、アメリカでもテロがあったりして、
なかなか思うように景気がよくならないし、値
段が高くなると売れなくなってしまうからです。
(授業記録)
や本などさまざまな方法で調べたり、友達と
の意見交流をしたりすることによって明らか
にしていこうとする」姿§が見られるように
なった。
安売りは広がっていくのだろうか
(分析②)
安売りの秘密が話し合いによって見えてく
ると同時に、「安売りはこれからも広がって
いくのだろうか」といった新たな問題が生ま
れてきた。というのは、安売りの背景には、
安売りの広がりから日本経済の状態が悪い
単なる店の経営の工夫があるだけではなく、
不景気で商品が売れないために仕方なく値段
ことを認識した麻美は、日本の経済が早く回
を下げて他店との競争をしているといった実
復することが大事であるという思いを強くし
態があったからである。このまま安さが続き、
た。今までの学びをふり返ると同時に、景気
広がっていけば困る店も出てきて、景気はな
がよくなるための方法を、新聞の経済面やニ
かなか回復しないのではないかと考える子ど
ュース、そしてインターネットなどから探っ
ももでてきた。そこで、この問題について話
た。どちらかというと企業努力に視点を置い
し合うことにな
ていた麻美であるが、新たに減税・不良債権
った。
処理・金利操作・公共投資など、国の政策的
子どもたち
は、「これから
なことにも目を向けて、日本経済をよくすべ
きだと考えるようになった。
このようなことから、めざす姿¨に迫って
も広がっていく
派」と「これ以
いくことができた。
− 45 −
社
会
科
〈この一手〉
いったいいくらなの ………………………………… 手だて「魅力の発見」
子どもたちは日常生活をしていくうえで、いろいろなものの
世話になっている。それらのほとんどは、店から購入して使っ
ている。このように、われわれの生活と消費活動は、密接な関
係にあるといえる。特に最近では、いろいろな生活物資が大変
安く手に入るようになっているが、なぜこのように安く入手で
きるのかということに問題意識を抱いている子どもは少ない。
自分が売られているものの値段を意外に知らないのだという
ことが自覚できれば、なぜそんなに安くできるのかという疑問をもつに違いないと考え、実際に
売られているものの値段あてをすることにした。子どもたちのものへの関心を引くために、中の
見えない段ボール箱から、 1 つ 1 つの品物を取り出して提示した。子どもたちは何が出てくるか
楽しみにしながら、品物が出てくるたびに、「これ、A店で売っていたのといっしょだ」とか
「高そうだ」
、「ぜんぜんわからん」などと反応しながら、値段を予想し、最後に値段の高い順に
順番をつけた。用意した品物のほとんどは、100円ショップで売られているものであり、子ども
たちの予想は外れてしまった。「何でこの折りたたみ傘が100円なの」といったように、ものの値
段の安さへの問題意識は高まり、安さの追究への契機となった。
教室で農家の人の声が聞けるんだ …………
手だて「学びの吟味」
愛知の農業がさかんなわけを追究してきた子どもたちは、これからの愛知の農業はどうなって
いくのだろうかということに問題意識が向かった。そこで、愛知の農業の先進地域である渥美に
住んでいる人に来てもらい、話を聞くことにした。話の内容からハウス栽培では、人手をできる
だけかけないようにするために、コンピュータを導入して農業を行っていることなどがわかった。
しかし、時間が十分とれなかったため、その他のくわしい実態や今後の見通しについては、十分
聞くことができなかった。
子どもたちは話を聞いたことによって、さらに一歩つっこんだ話を聞いてみたいという気持ち
が強くなった。そこで、その人の知り合いで先進的な農業に取り組んでいる方を紹介してもらい、
事前に質問などに答えてくれるように依頼しておいた。そ
れをふまえたうえで、教室から携帯電話で農家の方に話を
聞くことができることを伝えた。子どもたちは、そのこと
を知って喜んだ。時間的な制約もあって、すべての子ども
たちが直接話を聞けたわけではないが、代表の子どもが尋
ねた内容とその答えを確認することによって、自分なりの
考えを見つめ直し、深めていくことができた。
− 46 −
浩人、すごいね! …………………………………
個への支援「学びの吟味」
ワールドカップの「日本×チュニジア」の歴史的な一戦を、授
業後、子どもたちと共に観戦した。日本代表の勝利の瞬間に巻き
起こった大歓声。この日、子どもたちの心は、完全にワールドカ
ップ一色に染まっていた。その日の午前中、わたしはある歴史単
元の導入にあたり 1 つの問いを子どもたちに投げかけた。「日本で
サッカーが行われるようになったのはいつからかな」と……。
予想を立てて、インターネットなどで答えを探す子どもたち。そして、追究すること約 5 分、
浩人が叫んだ。
「先生、明治だよ!1873年に日本に伝えられているよ!」
こうして、サッカーと明治の意外なつながりを発見した浩人は、「当時の日本はどんな様子だ
ったのか」
「サッカー以外にどんなことが伝えられたのか」など、
「明治維新」へ高い関心を示し、
社
次々と新たな気づきをしていった。浩人の思いが綴られた授業日記は、大変貴重なものである。
会
そこで、浩人の授業日記を印刷し、優れた授業日記の見本として学年全員に配布することにした。
クラスでそれを配ったとき、教室のあちこちで「浩人、すごいね!」というつぶやきが聞こえて
きた。浩人の顔にはうれしさと満足感があふれていた。この「みんなに認められた!」という浩
人の思いは、次時の話し合いで、浩人が発言する大きな心の糧となった。
家康にまつわる人物はだれ …………………
個への支援「魅力の発見」
裕也は、自分の住む安城市が「日本のデンマーク」とよばれるわけを友達に問われてうまく説
明できなかったことから、安城市の農業の歴史を調べたミニレポートを作成してきた。このレポ
ートの紹介がきっかけで、「わたしたちの地域を調べていこう」という学習活動がスタートした。
裕也は、安城市のことをみんなに伝えられたことに満足感を得ながらも、愛知県を調べていく手
がかりをつかみかねていた。歴史的な背景も考えて、三河各地や愛知県について調べようとした
のだが、「家康のことは、岡崎の子の方がよく知っているから」というためらいをもっていたの
である。
そこで教師は、右のような対話をおこなう
ことで、側面から家康に迫るような視点を与
えてみた。この「魅力の発見」の観点にもと
づく個への支援により「家康にまつわる人物」
という視点で地域を見つめはじめた祐也。や
がて、刈谷市にいた家康の母「於大」の願い
に魅力を見出した裕也は、歴史事象を主体的
教師:戦国時代の学習で、気になった人物や場所はある
かな。
裕也:やっぱり岡崎の家康。愛知県出身のこの人がいな
ければ、江戸時代も、その後の東京中心の現代も
ないと思う。
教師:おもしろい視点だね。でも、
さらに言えば、愛知県の中
には、この人の活躍がなけ
れば、後の信長も家康もな
いって人がいるんだよ。そ
れが、鳥居強右衛門って人
でね……。
(授業記録)
につなげていこうと追究を開始した。
− 47 −
科
数学科
Do math!!
−ものづくりを通して−
1 文化創造に向けて
世の中には情報があふれ、さまざまな価値
数理を明らかにしようと行動していくことを
観が交錯している。そのような社会において
「Do math!!」と呼び、数学科のテーマとし
は、まわりからの情報を適切に受け入れなが
た。子どもたちは、追究を深める中で、新た
らも、自分らしい考え方をもつことのできる
な定理や規則性を見出しながら、それらを関
人が求められている。
その一つの方向として、
連づけてよりよい問題解決への道を探ってい
自分なりの考えを明らかにするために論理的
く。そして、一人一人の子どもが活動を通し
に考える力や、多面的にものを見る力を育て
てものの見方・考え方を培うことこそ「文化
ていく数学を学ぶことは、ますます価値ある
創造」に結びつくものだと考えた。
わたしたちは、教科における「学びのネッ
ことになってくる。
そこで、わたしたちは、日常生活の中にお
トワークを築く子どもの姿」を設定し、後述
ける、何気ない事象に潜む数理を解き明かし
するカリキュラムを構想してきた。 4 年間に
ていく経験を積み重ねさせたいと考えてい
わたる実践の中で、子どもたちは、表を作っ
る。こうすることによって、子どもたちは問
たりモデル図をえがいたり、作図や文字を使
題に出会ったときに、これまでの体験や経験
って表したりすることを通して、負の数や無
をもとにして自分なりの考えをつくりだして
理数、図形の性質などを探っていく経験を重
いけるようになる。そして、問題のしくみを
ねてきた。そして、さまざまな操作活動を行
探るために具体的な場面を想定し、手に取っ
う中で、しくみや理論をことばや文字に表す
てものを操作したり、具体物をつくったりす
よさやおもしろさを体感し、自分なりの方法
る「ものづくり」をすることによって、思考
で問題に潜む数理の本質を見極めようとする
をより高次なものにしていくのである。この
子どもが育ってきている。
過程を通して、ものを媒体とした自分の考え
以上のことから、子どもたちの数学的な見
と、自分のまわりから得たさまざまな考えを
方や考え方は深まり、日常生活の中に潜む数
つなげ、事象に潜む数理を解き明かしていく
学的な要素を見出し解決していこうとする思
のである。
いは高まり、文化創造へ向けて確かな動きが
わたしたちは、「ものづくり」を通して、
見られるようになってきたといえる。
− 48 −
2 数学科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
子どもたちは具体的な場面を想定しながら
思考を繰り返していく中で、抽象的な考え方
を身につけていく。そのためには、既成の知
識を得るだけでなく、手に取ってものを操作
したり、しくみを明らかにするような具体物
をつくったりする「ものづくり」を通して、
思考をより高次なものにしていく過程が大切
である。
このように「ものづくり」を通して具体的
な思考から抽象的な思考を身につけていく子
どもの姿を、数学科における「学びのネット
ワークを築く子どもの姿」ととらえ、次の 3
数
つをめざすこととした。
学
科
a 事象に潜む数理をとらえようとする姿
子どもたちは、目の前で起こる事象に魅力を見つけ、思わず、
「調べてみたい」と問題のしくみを明らかにしようとする。そし
て、これまで身につけてきた知識や具体物による操作活動を通し
て、試行錯誤しながら自分自身の中で関係を結びつけていく。さ
らに、事象に潜む数理に着目し、それらを表や式、グラフなどに
表し、数学における学習の場面にもち込もうとする。これらを通
して、現在もっている数学的な見方や考え方を基盤に問題解決の糸口を見つけようとする。
b いくつかの数理の関係を把握し、
数学を構成しようとする姿
自分の考えを、「ものづくり」を通して図式化したり、記号化
したりするなどの方法で表現していく。その中で、自らの考えを
自分のまわりの人・こと・ものと結びつけ、それぞれの関係の把
握をし、価値あるものにしていこうとする。
c 数理の関係を振り返り、よりよい表現を
求めていこうとする姿
自分の考えをさまざまなものとかかわらせて見つめ直し、深め
ていくことで、よりよい問題の解決のあり方は何か、さらに、簡
潔明瞭な表現ができないかなど、自分自身やまわりの人との考え
をかかわらせ、数学的な見方や考え方を深めていく。
− 49 −
3 教科カリキュラムの構想と編成
子どもたちは「ものづくり」を通して問題
基本的に各学年ごとに 3 つの視点をア→イ
解決を行うことによって、事象に潜む数理に
→ウの順に繰り返し、 3 年間を通して子ども
着目し、いくつかの数理の関係を把握しなが
の意識が広がりを見せることを期待した。そ
ら問題の解決を図っていく。そのときに、教
れによって数学科における「学びのネットワ
科の系統性を考慮して次のア、イ、ウの 3 つ
ークを築く子どもの姿」の実現をめざしてい
の視点からカリキュラムを構想した。
きたいと考えた。
ア 簡潔に数理を表現する
よさを発見するために
事象に潜む数理を見つけだした
り、問題解決をしたりしていくと
き、より簡潔明瞭に表現し、能率
的に処理することが大切である。
そこで、問題を形式的に処理する
ために、数量関係を文字による簡
潔な表現で処理し、問題をより能
率よく解決できるように単元を構
想した。
1 年∼ 3 年で 3 つの視
点をア→イ→ウ、→ア
→イ→ウ、→ア→イ→
ウの順に学んでいくカ
リキュラムを構想した。
イ 変化するものの関係を
明らかにするために
ウ 推論し、理論的な
考えを生み出すために
事象に潜む数理の関係をとら
え、考察し、表現したり処理し
たりできるようにすることが大
切である。
そこで、事象の中のともなっ
て変わる数量に着目して、それ
らの変化や対応のしかたを考察
したり、事象を予測しながら数
学を構成したりしていくことが
できるように単元を構想した。
事象の構造を明らかにし、性
質や法則の本質を見抜こうとす
ることは、理論的な思考を生み
出すことになる。つまり、直感
や洞察で考えたことを演繹的な
推論によって確かめていくこと
が必要である。そうすることに
よっていろいろな性質をつなげ
ることができるように単元を構
成した。
− 50 −
1 年 (70時間)
2 年 (70時間)
形式的に表現しよう
数の拡張
−文字の式Ⅱ− (8)
3年
(70時間)
無限を見つめよう
−平方根−
−正の数・負の数−
1
学
期
(13)
(15)
偶然を科学しよう
−確率−
(8)
二次の未知数を求めよう
−因数分解・二次方程式−
形式的に表現しよう
−文字の式Ⅰ−(10)
異なる未知数を求めよう
−方程式Ⅱ−
(12)
(9)
数
2
学
期
未知数を求めよう
関係を表現しよう
−方程式Ⅰ−
−関数Ⅱ(一次関数)−
(15)
関係を見つめよう
−関数Ⅰ(比例Ë)−(10)
−作図−
図形の性質を調べよう
(15)
(5)
図形の性質を調べよう
−多角形−
−図形相互の関係の
−円−
−ピタゴラスの定理−
(10)
−図形相互の関係の
把握・論証Ⅰ−
図形を描こう
把握・計量Ⅰ−
−立体−
図形に数理を見出そう
−論証Ⅱ− (10)
図形に数理を見出そう
−計量Ⅱ−
(15)
(15)
(15)
視点アを重視した単元
※(
−関数Ⅲ(比例Ì・
反比例)− (10)
図形に数理を見出そう
図形を描こう
3
学
期
(15)
生活の中から関係を
見出そう
視点イを重視した単元
)の数字は、75分授業を 1 単位時間とした授業時数
− 51 −
視点ウを重視した単元
学
科
4 実践の分析
「サイコロゲームを極めよう」 2 年単元「偶然を科学しよう」
(1)康太の単元のまとめより
最初の丁半ゲーム( 2 つのサイコロの和が偶数か?
奇数か?)では、圭介君の「偶数+偶数=偶数、奇
数+奇数=偶数、奇数+偶数=奇数だから丁(偶数)
になる時が多い」という意見に賛成でした。これに対
して雅弘君の「偶数+奇数=奇数という場合を数え落
としているからおかしい。だから丁も半も同じ回数出
る」という意見や、健人君の表を使った説明で、「全部
で36通りあるうち、丁は18通り、半も18通り」という
ことが示され、判断に迷いました。でも実際に「本当に同じ数だけ出るか」という実験をやっ
てみた時、僕が100回ふって丁が60回、半が40回とうまくいかなかったのに、クラス38人全員
で3800回の集計をしてみたら丁が1910回、半が1890回というデータが出ました。このことから、
回数を多くやれば一定の値に近づくという「大数の法則」の存在を実感することができました。
雅弘君が「江戸時代に『ちんちろりん』という 3 つのサイコロを使った博打がある」という
ことを発表したことをきっかけにして、この「ちんちろりん」のルールをもとに 3 つのサイコ
ロを使ったゲームをみんなで考えることになりました。考えた役に目の出やすさに応じて倍率
を設けました。役の種類としては、 3 つの目がそろう「ゾロ目」(111など)や 1 組の数がそろ
っている「イマイ」
(252など:自分の名前の「今井」にイが 2 つあることから名付けた)
、「一
つトビ」(135や246)、「連続」(123や456)などユニークなものもありました。「一つトビ」の
役のパターンにおいて、雄太君が樹形図を全部書いて説明していました。僕も樹形図の一部を
書いて調べていましたが、サイコロA、サイコロB、サイコロCとサイコロを区別したときに、
サイコロを振る順番も考えに入れていくと納得できませんでした。しかし、春花さんが「場所
が決まって順番も決まったときは、216パターンよりも多くなる」というを発言したときに
「ああ、なるほど。その通りだ」と共感できました。結局このゲームの場合は、同時にサイコ
ロを振るので、出てくるサイコロの順番は気にしなくてもいいことがわかりました。パターン
の数(場合の数)は、雄太君の考えた樹形図で納得できましたが、目の出やすさを比べるため
には、それぞれのパターンの数を慎重に数えていかなければならないなと思いました。
このみんなで考えた役についてもサイコロを 3 つ使って実験をしました。やはり、試行する
回数が多くなるにつれて理論上の確率に近づくことがわかりました。確率というのはあまり役
に立たないと思っていたけれど、これだけ実験をしてみて正確に結果が出てくると、天気予報
が当たる確率やファーストフード店のスクラッチくじが当たる確率、さらには宝くじの当たる
確率について詳しく調べてみたくなってきました。確率を学ぶことで、いろいろなことが予想
できる気がしてきました。
− 52 −
(2)単元の構想表
過程
手 だ て
「魅力の発見」
サイコロに潜む確率を
見つける方法を探るため
に、サイコロゲームの
「丁か半か?」の試行を
する。
子 ど も の 考 え ・ 思 い
偶数+偶数=偶数、
奇数+奇数=偶数、
偶数+奇数=奇数だ
から、偶数の目の方
が出やすい
表で考えると36通
りあり、数えてみ
ると偶数の目の回
数と奇数の目の回
数は同じだ
抽出生への支援と育てたい姿
樹形図で数え
てみたら、奇
数の目の回数
の方が多いよ
2 つのサイコロを転がしたときのひみつを探ろう
育てたい姿¦
場合の数に着目し、
すべての場合を数えよ
うとする。
1・2
分析① {
3-5と5-3を同じものだとして数えていたよ
探
る
「魅力の発見」
3 つのサイコロの目の
場合の数を究明する見通
しをもつために、江戸時
代から伝わる 3 つのサイ
コロのゲームが存在する
ことを知らせる。
偶数+偶数=偶数、
奇数+奇数=偶数、
偶数+奇数=奇数、
奇数+偶数=奇数だ
から、同じだ
表で考えると36通
りあり、数えてみ
ると偶数の目の回
数と奇数の目の回
数は同じだ
樹形図で数え
てみたら、や
はり同じだっ
たよ
「学びの吟味」
樹形図で究明しよう
としている康太に、重
なって数えている部分
がないか確認を促す。
数
3 つのサイコロを転がしたときのひみつを探ろう
3・4
どんな目の場合があるだろう
2・2・5のように 1
つそろう場合がある
よ (イマイ)
1・2・3と連続
した目の場合が
あるよ
3 つとも目が
そろう場合が
あるよ
「魅力の発見」
新しい役を開発しよ
うとしている康太に、
3 つのサイコロで、ゲ
ームを開発しようとし
ている子の考えを示
す。
なかなか出ない出方に高い点数をつけてルールを作ろう
どの目の場合も同じように起こりうるだろうか
深
め
る
「学びの吟味」
目の出やすさを確かめ
る話し合いにするため
に、康太の考えた表を紹
介する。
分析② {
一つトビとゾロ目では、どちらの目が出やすいだろう
同じじゃ
ないのか
な
偶然に左右さ
れるところが
大きいよ
1・3・5,1・5・3,3・1・5,
3・5・1,5・1・3,5・3・1
は、違うものだよ
出る目の場合は、樹形図で調べられるよ
実験からも 一つトビ の方が、はるかに多く出るよ
他の目についても出る確率
を正確に求めてみたいな
広
げ
る
5・6
「志向の共感」
サイコロゲームで学ん
だ確率をみんなで振り返
るために、個人追究レポ
ートで追究したい内容を
知らせる。
実験から偶然は科学できる
ことがわかったよ
身のまわりの事象の中に確率はないか調べてみよう
同じクラスで、誕生日が同
じになる確率は、どれだけ
だろう
7・8
席替えをしたときに、好き
な子が隣に来る確率は、ど
れだけだろう
こんな身近な生活の中にも確率が潜んでいるのだな。もっと他にも調
べてみたい
− 53 −
育てたい姿§
一つトビとゾロ目の
確率を樹形図をかくと
いう方法で求めたり、
実験によりその確率が
存在することを確か
め、発表しようとする。
「学びの吟味」
出る目の場合を羅列
しただけの康太に、以
前クラスみんなで 2 つ
のサイコロについて
3800回試行した結果を
確認する。
「志向の共感」
出生率のように複雑な
データがないと出せない
確率に挑戦している子ど
もには、教室内のデータ
で取り組んでいる子の意
見を紹介する。
育てたい姿¨
生活の中の身近な事
象について、確率を通
した目で調べていこう
とする。
学
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 身のまわりの場合の数に着目し、確率との関連を調べていこうとする。
§ 身のまわりの事象の中に確率が存在することや、その事象の起こりやすさはどうなっているかと
いうことを追究し、その過程で明らかになった自分の考えを樹形図や表などで、友だちにわかりや
すく伝えようとする。
¨ 身のまわりの偶然起こると思われる事象について、確率という簡潔明瞭な表現方法で調べていこ
うとする。
(4)子どもの学び
するなど、子どもたちはさまざまな根拠をも
2 つのサイコロを転がしたときの
ひみつを探ろう
とに自分の意見を主張する様子が見られた。
(分析①)
健人:圭介君の意見は、奇数+偶数=奇数の場合
を落としているから丁(偶数の和)が多く
なるんだよ。
雅弘:春花さんの意見についても 6 − 6 、 1 − 1
のように同じ数の場合がないことと、 1 −
2 の逆の 2 − 1 の場合も数えなければいけ
ないと思う。
春花:逆を考えるんだったら、 1 − 1 の逆は 1 −
1 で 2 回数えなければいけないのかな。
圭介:何となくわかったけど、実験でも確かめて
みたい!
(「 2 つのサイコロを転がしたときのひみつ」
授業記録)
「次は丁(和が偶数)か半(和が奇数)か」
と時代劇の博打打ちのように声をかけると子
どもたちは教室中に響き渡る声で「丁!」
「半!」と予想を立てる。この「魅力の発見」
の手だてとして試行したゲームで、子どもた
ちはサイコロを振るたびに身を乗り出して結
果の行方を必死に追い始める。板書に結果を
記録していったところ、一見不規則に見えて
話し合いの結果、健人の丁の数と半の数が
いた結果が10回試行したところで、
丁が 5 回、
半が 5 回の同数になった。偶然にも同数にな
同じになるということで一応の決着はついた
ったところで「このままサイコロを振り続け
が、圭介が「実験で確かめてみたい」という
ると丁と半の数は、やはり同じ数になるのだ
希望を出してきたので、一人100回試行し、
ろうか」と問いかけた。すかさず圭介が「偶
全体では3800回の試行のデータを採ろうとい
数+偶数=偶数、奇数+奇数=偶数、偶数+
うことになった。
奇数=奇数と明らかに偶数が出る場合が多い
から丁(和が偶数)の方が出やすい」と答え
た。続いて春花も樹形図(同じ数、逆の数を
場合の数に入れていないもの)を示して、
「半が多い」と主張した。どちらの意見にも
理由があり、それぞれに賛同する意見も出た。
〈3800回の試行のデータ〉
さらに、健
全体の合計では、丁が1910回で、半が1890
人が 6 × 6
回となり子どもたちの主張に近いデータが得
マスの表で
られた。この結果に驚くとともに、納得がい
「丁と半の
く様子の子どもたちであった。康太は、この
出る場合の
ことから実験による確かめに興味をもち、家
数は同じ
に帰ってからも自分一人で追究しまとめてき
だ」と発表
た。このように追究してきた「大数の法則」
− 54 −
の理論をもとにそれを確かめていこうとする
様子は、姿¦のあらわれだと考えられる。
1000回を自分一人でやってみた。100回目の時、
丁と半が63回と37回であった。このままでは、とて
も同じ数にはならないなと思ったけれど、500回の
時に282回と218回、そして1000回の時に534回と466
回とだんだん同じ数に近づいてきた。数が多くなれ
ばなるほど、一定の値に近づく「大数の法則」は確
実に存在するんだと感じた。
(康太の授業日記)
〈康太の216通りの場合を一つにまとめた表〉
この実験以来、サイコロの確率に対するク
康太は、 2 つのサイコロの時の表で数える
ラスの関心は高まってきた。そして、 3 つの
方法にこだわり、216通りの場合の数を一つ
サイコロでもきっとひみつがあるだろうとい
の表にまとめることに成功した。そして、
うことで、江戸時代に流行した博打の一種で
「学びの吟味」の手だてとして、この表を授
ある『ちんちろりん』というゲームをもとに
業で扱うことによって、「一つトビ」の役の
して、 3 つのサイコロゲームのルールを作ろ
場合の数の問題を解決することができた。多
数
うということになった。
くの子どもたちがこの表のよさを指摘した。
学
例えば216通りの樹形図を実際に試みた雄太
一つトビとゾロ目では、どちらの目が
出やすいのだろう
は「こんなに少ないスペースでかけるなんて
(分析②)
すばらしい」とか、 6 × 6 の表を 6 個書いて
3 つのサイコロを使ったゲームのルールづ
表現した健人は「横にある36通りを縦にも作
くりは、インターネットを通じて調べた『ち
れば、サイコロが 4 つの時の役も考えられる」
んちろりん』のルールをもとに、ユニークな
と拡張性も指摘している。
役が考えられた。
(康太の単元のまとめ参照)
雄太君と健人君と話してわかったのだが、ゾロ目
の1/36と456の1/36と123の1/36とイマイの15/36と一
つトビの2/36は、全部たすと20/36で5/9になる。そ
して役なしは1−5/9=4/9ということがわかった。こ
こで思ったことは、役が出る確率が5/9ということ
は、だいたい 2 回に 1 回より多く役が出ることにな
る。もしも 2 回連続して役がなかったとしても、 3
回目はおそらく役が付くことを考えて、 3 回サイコ
ロを振るルールを考えた昔の人(江戸時代の人)は
すごいなと思う。
(康太の授業日記)
昔のルールにしたがって、一人が 3 回以内で
3 つのサイコロを同時に振り、気に入った役
が出たところで勝負に出ることにした。
3 つのサイコロともなると、樹形図を書く
にしても216通り書かなければならず、やり
方を思いついてもなかなか実行して具体的に
役の場合の数を正確に求めることができない
この授業日記より、子どもたちはそれぞれ
でいた。その中でも、特に子どもたちの意見
の目の出やすさをそれぞれの場合の数を数え
が分かれたのは、「一つトビ」の目の出やす
ることで表現していたところから、目の出や
さを求める場面であった。
すさを比べるために確率という数字で表す方
圭介:「一つトビ」には135と246の 2 つがあって。
このパターンというのは、135と246の 2 種
類あるから2/216で、1/108の確率になりま
した。
慎一:圭介君の意見ですけど、135だけで 6 パタ
ーンあると思いました。135だけでなくて、
315とか531でもいいと思いました。
(「一つトビとゾロ目では、どちらの目が出やすい」授業記録)
法に自然に切り替えていることがわかる。さ
らに確率という表現方法で比べる中で、昔の
人が『ちんちろりん』のルールで考えた 3 回
サイコロを振る中で勝負を決めるところに意
味を見出す様子は、まさに姿¨に迫っていく
ことができたといえる。
− 55 −
科
「O r i g a m i に挑戦」 3 年単元「図形に数理を見出そう」
(1)友香の単元のまとめより
すべては、体育大会の応援で作った大きな絵「はりぼて」から始まった。この思い出のつまっ
た「はりぼて」を42等分してみんなで分けることはできないだろうか。そんな思いでわたしたち
の追究は始まった。42は 6 と 7 で割れるので 6 等分や 7 等分ができれば、この「はりぼて」をみ
んなで等分することができると考えた。そこで思い浮かんだのが「折り紙」だ。小さいころ、よ
く遊んだ折り紙。わたしたちは、この単元を通して、折り紙に隠された「数学」を明らかにした。
3 等分ができれば 6 等分もできる。そこで、身近な 3 等分を探してみた。そういえば便箋や布
団を 3 等分しているのだ。しかし、これは何気なく折っているものであり、正確なものではない。
もっと正確に 3 等分できないだろうか。一人一人が折り紙を持ち、さまざまな 3 等分する方法を
考え出し、それぞれに名前をつけていった。これらの折り方には、「鶴折り」「飛行機折り」のよ
うに、折り紙の作品の中から検討されていったものや、「高橋折り」「佐伯折り」のように試行錯
誤する中から各自がオリジナルに作り出したものなど、いろいろと個性的な折り方ができあがっ
た。その中でも基本となる折り方は、「木田折り」だった。「木田折り」は、簡単に、しかも正確
に折ることのできる方法である。だが、なぜそれでいいのか、理由が
はっきりとわからない。そこで登場してきたのが、瑞穂さんの夏休み
木田折り
に追究していた「三平方の定理」である。直角三角形に関係したこの
定理が、この「木田折り」に使うことができたのだ。
ここからわたしたちの追究は深まっていった。
偶然発見した 3 等分の折り方は、すべて相似や三平方の定理を使う
ことで証明することができるのだ。そして、 3 等分どころか、 5 等分
や 7 等分の折り方までも発見していくことができた。みんなで競うようにいろいろな折り方を発
見していくことは、とてもおもしろいことであった。
これらの折り方は、文化祭の学習発表会で、全校に紹介することができた。きっと、後輩たち
も、折り紙の魅力を感じてくれたものと思う。
単元のまとめとして、今まで学習した折り方を生か
して、コピー紙でも可能かどうか考えてみた。一人一
人がいろいろ考えたことは、 3 年間の図形の学習を振
り返ることにもなった。
この単元では、
一人一人の活躍の場があったと思う。
学級では、毎日のように折り紙をつくる風景が見られ
た。小さいころ遊んでいた折り紙にこんな数学が隠さ
れていたことを知り、あらためて数学が身近な生活の
中にあることを実感できたことは、 3 年間の最後の追
究単元としてとても意義あることだと思う。
− 56 −
(2)単元の構想表
過程
探
る
手 だ て
「魅力の発見」
紙を折ったときの分
割点に着目するため
に、畳んだはりぼての
折り方を再現する。
子 ど も の 考 え ・ 思 い
任意母線
に重ねて
折ると、
交点はす
べて一次
折線上だ
体育大会の
はりぼて
(巨大な絵)
を42人でみ
んなで分け
たいな
抽出生への支援と育てたい姿
2 年生で
正三角形
を折る方
法をやっ
たよ
正方形の紙を 3 等分に折ることができるだろうか
「夢の構築」
いろいろな折り方の
中から、数学として追
究していく視点を与え
るために、少ない回数
で簡単に折る方法を称
賛し紹介していく。
「布団折り」の
ようにすればで
きるよ
三角形の相似や重
心の 2 : 1 のこと
が使えそうだ
1
辺を正確に 3 等分す
るような折り方がで
きそうだけどな
3 等分する点は、きちんと正確に求めることができるのでは
正方形の折り紙をよりシンプルに 3 つ折りにする方法を探ろう 2∼5
分析① {
深
め
る
三角形の相似を使
うと 3 等分する点
が見つけられるよ
三平方の定理を使うと
長さを求めて 3 等分に
なることがわかるよ
鶴折りから 5 等分にな
る点も見つかりそう
つる折りの基本線利用
「学びの吟味」
三平方の定理を活用
して折り線の長さを調
べられるように、偶然
に見つかった 5 等分 2
回折りを紹介し、その
正しい理由を求める。
分析② {
直角三角形に注目して、三平方の定理を使うことで長さを求め、 3 等
分になることも確かめられる。折り方の工夫で 5 等分や 7 等分だって
できそうだよ
n等分の折り方も見つけられるかな
木田折りの中にもい
ろいろな分割点が見
つけられるよ
頂点を重ねる位置に
よって、いろいろな
分割点ができそうだ
6・7
折ったときにで
きる線の長さを
図にかいて、三
角形の相似やピ
タゴラスの定理
を使いながら計
算によって長さ
が求められるね
ピタゴラスの定理などを使うと 5 等分や 7 等分だって説明できるね
広
げ
る
「志向の共感」
より深く各自の追究
を深めていくために、
各自の発見した定理を
クラスで冊子にまと
め、学習発表会で、全
校に紹介することを伝
える。
「夢の構築」
どのような線や辺
に着目すべきか困っ
ているときは、 2 年
生までに学習図形の
性質が使えないか考
えるよう助言する。
いろいろな折り線の長さを調べてみたいな
正多角形を折り紙
で作ることができ
るよ
はりぼてを42等分
する分割点をみつ
けられそうだ
8 ∼10
コピー用紙で折り
線を作ったらどう
なるだろう
折り線の中に図形の性質がいっぱいあったよ
− 57 −
育てたい姿¦
折り線や折り線の
交点によってできる
図形に着目しようと
する。
数
学
科
「夢の構築」
折り方について試
行錯誤しているとき
に、なぜそのような
折り方をするのか、
言葉で説明を求め
る。
「学びの吟味」
追究の視点に困っ
ているときには、3 等
分の場合を図にかい
て考えてみるよう助
言する。
育てたい姿§
正方形を 3 等分す
る折り方をもとに、
モデル図をかいて、
n等分になる理由を
説明しようとする。
「魅力の発見」
折り線のつくり方
に困っているとき
は、正方形に限らず、
身近な用紙で考える
こともできると助言
する。
育てたい姿¨
友達の考えを生か
しながら新しい折り
方の数理を発見しよ
うとする。
(3) 本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 折り紙の中にできる折り線の性質を、
折り紙の操作活動によって明らかにしようとする。
§ ピタゴラスの定理と相似な三角形の性質を関係づけながら折り線の性質をまとめていこ
うとする。
¨ 発見した折り線の性質を利用しながら、新しい折り線を作りだそうとする。
(4)
子どもの学び
そうなものがだんだんと見つかり始めた。だ
正方形をシンプルに 3 等分折りにしよう
が、なぜそれが正しいのか、理由がはっきり
(分析①)
しない。ただの偶然なのだろうか。
友香の追究は、その理由を考えるところに
日常生活の中で、紙を 2 つ折りや 3 つ折り
にすることはだれもが行っている。それは、
進んでいった。
紙の辺などを合わせ、目測によって折ってい
るのである。友香は、 2 等分については簡単
に折り、そして、 3 等分についても、目測に
よって折っていた。しかし、どうもすっきり
しないのである。
佐々木折り
憲明:ふとんのように折れば 3 等分ができるよ。
俊悟:その折り方は納得できない。それは目分量
で正確ではないと思う。
友香:これ( 3 等分になるようにおよそ目分量で
印をつける「ふとん折り」)は、およそでつ
けるから、正確にはできない。
瑞穂:ふつうの生活の中では、このような折り方
もするけれど、定規で測ると、いつも正確
であると限らない。
(授業記録)
川井折り
3 等分する折り方で、理由まで明らかにな
ったものは、上記の図にあるような相似の考
え方を使った折り方である。いずれも 3 回折
ることによって 3 等分を作り出している。
一方、隆司は「 3 回で折る」ということに
こだわった。もっと少ない回数でも折ること
日常生活の中では正確さを厳密に求めるこ
ができるはずだ。目指す回数は 2 回。いろい
とはない。しかし、日常生活の中から数学を
ろな試行錯誤から、木田折りのような折り方
見つけだす経験を積んできた子どもたちは、
から 3 等分することができるらしいことがわ
この紙折りを、意識せずとも数学の学習で解
かってきた。しかし、理由はよくわからない。
き明かそうとしているのである。
このシンプルな折り方に感動した子どもたち
目分量での折り方ではなく、正確な折り方、
は、その理由を求め、追究を深めていった。
すなわち、辺や点を重ねることによって、だ
折り線の 1 つ 1 つにこだわり始めた子ども
れもが絶対に正しく 3 等分できる折り方が知
たちである。これは、今までの学習した数学
りたい。そう考えた友香たちは、いろいろな
の定理などを使って、折り紙の線の性質を考
折り方を試行錯誤し始めた。教師は、「夢の
えようとしている姿としてとらえることがで
構築」の手だてとして、友香たちの活動の意
きる。しかし、単なる理論だけで考えるので
義を称賛しながら紹介した。
はなく、操作活動を行いながら考えている。
いろいろ考えていくうちに、 3 等分になり
これらは、姿¦が表れていると考える。
− 58 −
なぜn等分になるんだ
結果として、正確に折る方法は見つからな
(分析②)
くても、折り紙などの身近な折り方が、数学
隆司の考えた折り方に、特に関心を寄せた
として説明できたことに大きな満足を感じる
のが瑞穂である。瑞穂は夏休みのレポートで
子どもたちである。「学びの吟味」の手だて
「三平方の定理」について追究をしていた。
によって、偶然に見つかった分割点を吟味し、
「この折り線の中にも、直角三角形があるか
その正しさを追究していったのであった。こ
ら……」三平方の定理を瑞穂から紹介された
れは、自分の作り出した折り線を、三平方の
隆司は、今までにない新しい方法で理由を考
定理や相似な三角形の性質を使って説明しよ
えた。そして、ついに、ピタゴラスの定理を
うとするものである。数学の対象としての折
使って理由を
り線に対して、自分の獲得した知識を使って、
説明すること
ができた。こ
隆司の説明
関係をまとめていこうとする姿§ととらえる
x
y
れによって、
になる点があ
数
学
1
―
2
折るときにで
中に、 5 等分
ことができよう。
x
鶴や飛行機を
きる折り線の
1− x
科
1 2
x 2=(1− x )2 +( ―
2)
5
x= ―
8
色のついている三角形の相似から
y=
1
1
2
―
)= ―
2 ×( ―
2 ÷(1− x )
3
るらしいと考
えていた子どもたちにも、相似以外にも考え
今までの経験や、適当に折って生み出され
る方法が見つかり、追究の見通しをもつこと
た折り線を考えていた子どもたちが、いろい
ができるようになった。
ろな折り方についての追究を進めていくうち
に、「こうなるとここに 3 等分ができそうだ」
と予想をたて始めた。今までの折り線の性質
を使って新しい折り方から、数理を使いなが
ら予想して折っていくのである。その結果、
鶴折りの基本線利用
5 等分
図のように、新しい 5 等分
飛行機折り
5 等分
の折り方やコピー用紙を使
追究の結果、正確に 3 等分や 5 等分になる
っての折り方などを追究
ものもあれば、ほんのわずかだが、そうなら
し、その理由まで説明して
なかったものがあることがわかってきた。
いくことができた。
5 等分
A
悔しい。今まで 5 等分になっていると固く信じ
⇒
て考えていたものが、実はほんの数ミリだけずれ
⇒
B
図10
①対角線で
折る
ていることがわかったからだ。でも、ずれている
図11
②・同士
合わせる
D
E
⇒
A
C
図13
図12
③このような折り線がつき
★の点が短い辺を 3 等分する。
D
E
⇒
★
B
C
図14
1
④このように ―
3
となる
ことがはっきり数字として表されてみると、なん
身近な折り紙の中に数学を体験した子ども
だかうれしい気もする。もっと工夫して、新しい
折り方を見つけてやるぞ。
たち。 3 年間の学びの中で、生活の中から数
(友香の授業日記)
学を見つける力は確実に育ってきている。
− 59 −
〈この一手〉
「ソーラークッカーに挑戦」
3 年「生活の中から関係を見出そう」
目の前で「ジュッ」と音を立てて、一瞬のうちに焼けてしまう卵。
「わあ。すごい」
子どもたちの歓声が上がる。どうして火もないのに卵が焼けるのだろう。もしかして、
この曲面に秘密があるのでは…。この曲面の正体は何だろう。中華鍋の曲面でもない。球
の曲面でもない。子どもたちはソーラークッカーを切って断面を測りだした。
「あっ。これは…」今までみたこともない
曲線に子どもたちは思わず動き出し、追究
活動が始まる。インターネット、中華鍋の
発売元、図書館、大学の先生…。
「円の一部でもない」「反比例の曲線とも
ちがう」「楕円の一部かな」
「先生。放物線
だよ」「どうしてそんなことが言えるの」
「実はね…」おいしく焼けた目玉焼きを食
べながら授業は進んでいった。
「こまをまわして」
1 年「図形を描こう」
厚紙に円を描いてこまを作り、 1 本の弦を引いてまわしてみる。すると、こまの内側に
もう一つの円が見えたのだ。
「とても不思議だ。周りの線はどこへ行ってしまったのだろう」
何度も何度もこまをまわしたり、こまをつくってしくみを探ろうとしたりする子どもたち。
秀夫は、試しに赤い点をこまの中にかいてまわしてみる。すると、なんと弦を引いたとき
と同じように円が描けているではないか。「そうだ、弦の中の一点が円を描いているんだ」
と解決の糸口が見つかったようなつぶやきをした。秀夫は円を描く点が弦の中のどこなの
かを探すために弦の残像を描き始めた。
「新しく内側にできた円を作っているのは弦の中点
の集まりではないか」
「それだけじゃないぞ。 2 本の線がぶつかって円周上にできた角度は
みんな同じ角度だぞ」
子どもたちはこれまで
の知識をもとに、ものづ
くりを通して、円周角の
定理を見出していった。
− 60 −
「斜めがけと十字がけではどっちがお得」
1 年「図形を描こう」
バレンタインデーが近づくと、洋菓子店の店先には色とりどりのリボンで飾られたチョ
コレートの箱が並ぶ。その中から選んだ、同じ形で同じ大きさの箱に斜めがけと十字がけ
の二つの方法でリボンがかけられた商品を示し、
「どちらのリボンの長さが短くて、お得な
のだろうか」と子どもたちに問いかけた。沙耶はノートに展開図をかいて調べ始めたが、
十字がけのリボンの長さはすぐにわかっても、斜めがけのリボンが展開図のどこを通るの
かさっぱりわからない様子であった。し
ばらくして、春男が教師の提示した斜め
がけのリボンの箱を操作する中で、「あ
れ、このリボンをずらしてもリボンがた
数
るまないよ!」と声をあげた。このこと
をきっかけに、子どもたちは各自で箱を
学
製作し、実際にリボンをかけながら追究
科
を始め、斜めがけのリボンの通り道に関
する規則性を見つけだしていった。
「コップの水を傾けると……」
3 年「図形に数理を見出そう」
机の上にあるコップを見続ける。コップの中にある水に視線が集まる。
「やっぱり上がらないよ」「いや、ほんの少しだけど上がったよ」「傾ければ下がるんだよ」
子どもたちが話し合いに盛り上がっているのは、コップの水面だ。ふだんの生活の中で、
コップを傾けることはあっても、水面の高さの変化なんて意識したことがない。見ている
ものが実は見えていない。話し合いの決着をつけるには、実験をやるしかない。
「丸いコッ
プより、四角の容器のが変化がわかりやすいぞ」
「容器に方眼の目盛りを貼り付けて調べる
といいぞ」いろいろな容器を工夫しながら実験を進める。しかし、相手は水だ。じっと静
止させることが難しい。実験の誤差も出てくる。どうしよう
か。
「模型を作ってみたんだ」と説明を始める。
「この模型で
見ると、ここの部分に直角三角形ができ……」「その長さを
どうにかして計算できるはずなんだけど……」
計算が三平方の定理を活用して可能になることを見つけだ
し、自分の実験の結果を予想しながら水面上昇の高さを説明
していく子どもたちであった。
− 61 −
理 科
自然をいつくしみ
地球の明日を考える
1 文化創造に向けて
葉に吹き付けるだけで植物の中にある植物
のホルモン生産システムに影響を与え、花を
咲かせたり、イモをつけさせたりする天然物
質が発見された。食料の増産が大いに期待さ
れる。二足歩行のできる人間型ロボットは、
これまでのエンターテイメント的なものから
「仕事をする」ロボットへと進化を遂げ、介
護支援をしたり、危険地域で人間の代わりに
作業に従事したりすることのできるものが、
人間に近い作業動作を披露した。
このように、
科学技術の進歩には目を見張るものがあり、
夢のようであった話が次々に現実のものとな
ってきている。人間が描く空想というものは、
どこまで現実のものとなるのだろう。
こうした科学技術の発展とともに、その目
的にも変化が見られるようになってきた。お
いしい肉がとれ、よく乳のでる家畜などの量
産がねらいで発展したクローン技術は、趣味
の領域であるペットづくりにまでおよび、さ
らに、クローン人間が年内にも産声を上げる
見通しがもてるまでになってきている。わた
したちの生活は、科学技術の発達により便利
になったが、それとともに、人間の生活その
ものが自然に対して大きな影響を及ぼすよう
になってきたのである。
これからの時代を生きる子どもたちには、
物事を科学的にとらえ考える力はもちろんで
あるが、この地球上で生きているさまざまな
ものへの優しさも身につけていってほしい。
次代を担う子どもたちにこそ、自然をいつく
しみ、これからの地球のありようを見つめ、
人間としてどのようにかかわっていったらよ
いかを考えていってほしいのである。そこで、
理科における教科テーマを「自然をいつくし
み 地球の明日を考える」とした。
21世紀の地球には、高度に発達した科学技
術の恩恵を受けながら、豊かな自然の中で生
活するわたしたちの姿があってほしい。その
ような地球は、自然と人間のかかわりの中で、
自分たちのあり方を考える子どもたちの手に
よって創り出されていくものであると考え
る。
わたしたちは、教科における「学びのネッ
トワークを築く子どもの姿」を設定するとと
もに、単元、本時における、より具体的な育
てたい姿を明らかにして実践を積み上げてき
た。また、自然に対するものの見方・考え方
が空間的にも概念的にも広がり、深まってい
くようなカリキュラムを構想して実践に取り
組んできた。その中で、身近なところに潜む
自然の不思議さをとらえ、自分なりの考えを
もって、まわりの人やものとかかわりながら
そのしくみを解明していくとともに、自分と
のかかわりの中から自然の真のあり方を見つ
め、自然としての人間のあり方を考えようと
する様子が見られるようになってきている。
− 62 −
2 理科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
わたしたちは、教科テーマに迫るためには、
子どもたちが、学びのネットワークを築きな
がら、自然に対するものの見方・考え方を広
めたり深めたりすることが大切であると考え
た。さまざまな自然事象にふれ、自然を温か
く見つめ、他とかかわりながら科学的に追究
を深めていくことは、今の地球にとって何が
大切であるのか、また、そのためには自分は
まわりの人々とともに何をなすべきなのかを
判断できる人間に育っていくために必要なこ
となのである。
a それまでの学びをもとに自然事象をとらえ、自分なりの考えを組み立てようとする姿
理
日常の中の自然事象をとらえて、感動を覚えたり疑問を抱
いたりすることや、観察や実験を通してつかんだ事実を経験
や知識に照らし合わせ、理論的に自分の考えを組み立てたり
することである。
b 自然事象に対する自分の考えをもとにして、まわりの人やものとかかわろうとする姿
自然事象に対する自分の考えを確かめたり整理したりする
ために、図書資料やインターネットから情報を求めるだけで
なく、観察や実験を通して自分で実際に確かめたり、自分の
疑問や問題点をまわりの人に問いかけ、まわりの人の考えを
聞いたりすることである。
c 自然の真の姿やあり方をとらえ直し、自分とのかかわりの中から考えようとする姿
自然に対するさまざまな学びは、自分を振り返ることにつ
ながる。それは、自然事象についての学びや、他の人のもの
の見方・考え方にふれることを通して、自分の中で、新しい
ものの見方・考え方を培っていくことである。
− 63 −
科
3 教科カリキュラムの構想と編成
わたしたちは、子どもたちが理科の学習の
中で学びのネットワークを築きながら自然事
象の追究を進めていくことで、自然に対する
ものの見方・考え方を広げたり深めたりして
いくことができると考えた。そこで、自然事
象を追究する中で、自然そのものや自分のま
わりの人・こと・ものから学び、教科テーマ
に迫ることができるよう、自然を生命観・地
球観・エネルギー観・物質観の4つの側面か
ら分類した。そして、それぞれの自然に対す
るものの見方・考え方について、3年間の学
びを通して身につけることができるように、
次の視点でカリキュラムを編成した。
・子どもの思考の発達を考慮し、1年間の学習の中では、主に、生命観・地球観・エネル
ギー観・物質観を培う単元をこの順で配置する。
・3年間の学習で、4つの側面を繰り返して培うことができるように配列する。
【生命観】
【地球観】
生物の多様性と同一性、生命
の尊厳などにかかわる見方
地球環境における自然事象の
調和や宇宙の中の存在として
の地球についての見方
個々の動植物や生物同士のつな
がりについて追究する中で深め
ていく。
身のまわりに起こる気象や天体
現象などの自然事象について追
究する中で深めていく。
自然に対する
ものの見方
・考え方
【物質観】
【エネルギー観】
原子や分子などの粒子概念、
物質の変化と質量保存などに
ついての見方
エネルギーの多様性・法則性、
エネルギーの変換と保存など
についての見方
さまざまな物質の性質や、化学
変化のしくみなどについて追究
する中で深めていく。
光・音などの身近にあるさまざま
な物理現象や物体の運動などにつ
いて追究する中で深めていく。
− 64 −
1年(70時間)
3年(70時間)
2年(70時間)
空間的・概念的な広がりや深まり
生物の世界Ⅰ
生物の世界Ⅱ
−植物−
−動物−
生命のつながり
(20)
(20)
−細胞・生物のつながり−
(20)
1 ○ 植 物 に つ い て さ ま ざ ま な 見 ○ 動 物 に つ い て さ ま ざ ま な 見 ○ 個体の営みを越えた種や生命
方・考え方を学びながら、自然
方・考え方を学びながら、自然
の連続性の中での人間のあり方
学
の一部分としての人間について
の一部分としての人間について
について考える。
考えを深める。
考えを深める。
期
理
わたしたちの生活と自然現象Ⅰ
わたしたちの生活と自然現象Ⅱ
かけがえのない地球
−大地の変化−
−気象−
−地球と宇宙−
(15)
(15)
(15)
○ さまざまに変化する大地の姿 ○ 身のまわりに起こる気象現象 ○ 太陽・月・星の追究をするこ
にふれ、人間はどう生きるかに
にふれ、人間はどう自然と接す
とで地球はこの宇宙でどうある
ついて考える。
るかについて考える。
べきかについて考える。
2
学
期
身近な物理現象Ⅰ
身近な物理現象Ⅱ
−光・音・力・圧力−
(20)
物体の運動
−電流・磁界−
(20)
−運動・エネルギー−
(20)
○ 光や音など、身のまわりの現 ○ 電流などの学習を進める中で、 ○ 物体の運動の追究から、エネ
象を追究することでさまざまな
エネルギーとしての電気、熱、 ルギーの変換と運動の様子との
エネルギーの姿にふれる。
磁界について考える。
関係などについて考える。
身の回りの物質
物質の世界
−物質の性質・水溶液−
(15)
自然と人間
−化学変化・分子・原子−
(15)
(15)
3
学
○ 科学の発達で自然や人間はど
○ 物質や水溶液の性質などを学 ○ 化学変化の学習で、物質の変
うなっていくのか、追究をすす
期
習する中で、物質の成り立ちな
化の様子や実験の結果などから
める中で明日の地球のあり方を
どについて追究を深める。
微視的な見方・考え方を深める。
考える。
主に【生命観】を培う単元
主に【地球観】を培う単元
主に【エネルギー観】を培う単元
主に【物質観】を培う単元
すべてを培う単元
※( )内の数字は、75分を1単位とした授業時数を表す。ただし、3年生は1単位65分と50分。
− 65 −
科
4 実践の分析
「植物の戦略」
1年単元(生物の世界Ⅰ)
(1)梨花の単元のまとめより
この植物の学習をはじめたころ、校内にはたくさんの花が咲いていた。タンポポやツツジ、
名前は知らないけど片隅の小さな雑草もかわいらしい花を咲かせていた。最初の授業で校内
の植物を見て回ったとき、わたしは赤と白、そしてピンクの花をつけているツツジを見て、
どうして同じところに咲いているのに花びらの色が違うのだろうと不思議に思った。しばら
くして、先生が一つの花を紹介された。雪解けごろに花を咲かせるフクジュソウは、子孫を
残すために、太陽の動きに合わせてパラボラアンテナのように光を集めて花の中の温度を上
げ、昆虫などを誘う工夫があるそうである。これを聞いたときにどうして植物がそんなこと
ができるのだろうかと思ったが、もしかしたらツツジの花も同じような工夫ではないかと考
えるようになった。そして、他にはどんな植物がどんな生きるための工夫をしているかをと
ても調べたくなった。
いろいろな植物がある中で、他の植物とは形の違うサボテンに興味をもったわたしは、ど
うして暑くて水も少ない砂漠で生きていけるのか、どんな工夫があるのかを調べていくこと
にした。とりあえずみんなと同じように、コンピュータ室に行きインターネットで検索して
みた。サボテンは、多くの水を吸収できるように根を長くしたり、水分を逃がさないように
葉を小さくしたりしているとあった。植物にとって、水はとても大切なものである。水の少
ない環境で生きていくためのすばらしい工夫であると感心した。
インターネットでしか調べていなかったわたしは、サ
ボテンの根がどうなっているかをみんなで話し合ったと
きにとても考えさせられた。すごく太くて長い根だと思
っていた私は、実物を見たときにその小ささに驚いた。
そういえば「自分の目で確かめることができていなかっ
た」と反省した。どうしてサボテンにはトゲがあるのか、
光合成はどのように行っているのか、他の植物とどのよ
うに違うのかなど今まで調べてきたことも疑問に思うよ
うになった。実際にサボテンを使って調べていこうとい
う思いを強くした。
実際にサボテンを目の前にして調べていると、サボテンのからだが水をはじき、からだを
伝わった水が根元へと流れていった。これは、根が水を吸い上げやすくするためのサボテン
の戦略だと考えたわたしは、同じサボテンのことを調べている俊彦君、英也君に相談してみ
た。一緒に他のいろいろな植物でも水をたらして調べてみたが、結局は、他の植物も水をは
じいてしまってサボテンだけの工夫ではなかった。しかし、三人で話し合って、これは水を
必要とする植物の工夫だと考えた。追究してきた中でこのときが一番楽しかった。
みんなが追究してきたことを聞いたときには、わたしたちにはまねできないようないろい
ろな植物がいろいろな戦略をしていてすごいと思った。植物は、自分で動くことも話すこと
もできないから、生きていくために、自分のまわりにあるものや生き物などの力をうまく利
用していると思った。風で種を運ぶタンポポ。栄養を虫でおぎなうハエトリソウ。毒をもつ
ことで身を守るトリカブト。植物みんなが、その場に合わせた戦略をもっていて、おもしろ
いと思った。
植物は、自分一人では生きていくことができない。だから、まわりの協力してくれるもの、
風であったり、鳥であったり、人であったりが必要である。わたしたち人間も同じである。
しかし、絶滅の危機にある植物があるように、人間は自分の都合のよいように自然を壊して
いくから、精一杯生きている植物を守っていくために、人は自然を大切にしなければいけな
いと思った。
− 66 −
(2)単元の構想表
過程
手 だ て
子 ど も の 考 え ・ 思 い
春には、学校にもいろいな花
がたくさん咲いているね
抽出生への支援と育てたい姿
同じ花でも花びらの色がちが
うのはなぜかな
自
然
を
見
つ
「魅力の発見」
受粉するのに昆虫
を誘うような花のつ
くりを工夫している
植物があることに気
づかせるために、フ
クジュソウの花のつ
くりについて紹介す
る。
め
る
自
然
「夢の構築」
植物が花だけでな
く、他のつくりにも
いろいろと工夫があ
ることに目が向くよ
うに、葉、におい、
根などに特徴のある
植物を見せる。
「学びの吟味」
自分の追究が単な
る資料集めになって
いないかを気づかせ
るために、鉢植えの
サボテンを用意する。
る
「志向の共感」
身近な植物に目を
向けて、植物の戦略
についてみんなで考
えていくために、葉
の形のちがうタンポ
ポを提示する。
分析② {
自
然
に
学
ぶ
咲く時期や場所によって花の
つくりはちがうんじゃないの
かな
花のつくりに違いがあるのはなぜだろう
昆虫を誘うために、太陽の光
を集めて温度を上げるなん
て、すごいね
1
「志向の共感」
人間がもたらした
自然破壊を植物を通
して考えていくため
に、絶滅に追いやら
れている植物を紹介
する。
育てたい姿¦
いろいろな植物のからだ
のつくりやはたらきの違い
に目を向ける。
2
花ではないけど、サボテンの
とげは身を守るためだと聞い
たことがあるよ
「魅力の発見」
他の植物にも目がいくよ
うに、植物は動物と違って
動き回れないことを強調す
る。
理
植物が生きていくためには、ほかにどんな工夫をしてい
るのだろう
3∼5
昆虫を通して受粉
させるために、花
びらの色や模様を
工夫したり、蜜を
つけたりしている
ものもあるよ
光合成をする時に
葉に光がたくさん
あたるように重な
らない工夫をして
いるよ
砂漠に生きるサボ
テンは、根を長く
したり、葉を小さ
くしたりしている
よ
「夢の構築」
どういう工夫があるのか
気づかせるために、実物を
見せながらどうしてこのよ
うなつくりになったのかを
質問する。
調べたことをみんなに伝えていくにはどうしたらよいのかな
6∼9
分析① {
花によって花粉やおしべ、め
しべの形がちがうよ
調べてきた戦略が本当かどうかを確かめてみたい
を
探
いろいろな花のつくりをじっくりと見てみたいな
顕微鏡で、サボテ
ンのとげに気孔が
あるかどうかを見
てみたい
ハエトリソウは、
どうやって虫を食
べるのか、実際に
見てみたい
水の吸収について
サボテンと他の植
物のちがいを調べ
てみたい
「学びの吟味」
実験をして確かめること
の大切さに気づかせるため
に、自分の調べていること
が本当かどうかを問いかけ
る。
みんなが調べてきた植物には、どんな戦略があるのかな 10・11
セイロンベンケイ
ソウは、葉の縁か
ら新しい葉や根が
どんどん出てくる
よ
ハエトリソウは感
覚毛に2回ふれる
と、すばやく葉を
閉じるよ
サボテンの水分を
蒸発させようと思
ったけど、なかな
か蒸発しなかった
本当に植物には、生きていくためや子孫を残していくために、
いろいろな戦略があるんだ
育てたい姿§
自分が追究したことの発
表を工夫しながら、友達の
追究のよいところを積極的
に取り入れようとする。
植物はこんなに生きるための戦略をしているのに、生き
ていけないものもあるのはどうしてだろう
12∼14
酸性雨で枯れてし
まうものもあるよ
人間によって切ら
れてしまうものも
多い
バイオ技術によっ
て、植物に変化が
あるのではないか
植物本来の姿を大切にしつつも、わたしたち人間のしている
自然への影響を考えなければいけないな
− 67 −
育てたい姿¨
植物の自然の中でのある
べき姿から、自然環境につ
いて考えていこうとする。
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 植物が子孫を残したり、生きていくために工夫したりしているところを、植物のいろい
ろなからだのつくりやはたらきと関連づけながら考えていこうとする。
§ 植物が生きていくための戦略を明らかにしようと調べたり確かめたりして、発表の仕方
を工夫しながら、自分の考えを伝えようとする。
¨ 植物のさまざまなつくりやはたらきから植物の神秘的なしくみに気づき、人間を含めた
動物との共存のあり方や自然環境の保全について考えていこうとする。
(4)子どもの学び
インターネットで調べた多くの子どもたち
調べてきたことが本当かどうか確かめたい
(分析①)
は、たくさん水を吸収するために太くて長い
植物は生きていくためや子孫を残すために
ンを班で実際に土から抜いてみたところ、予
いろいろな工夫をしている。それを「植物の
想との違いに困惑気味であった。「調べたこ
戦略」として調べ始めた子どもたちは、ほと
とと違うぞ」という声も聞こえてきた。水の
んどがコンピュータ室でインターネットを使
少ない砂漠で生きているサボテンに興味をも
ったり、図書館で図鑑を読み始めたりした。
ち、サボテンの戦略を探し出そうとインター
情報としてはいろいろと入ってくるが、理科
ネットを中心に調べ学習を進めてきた梨花
として自然のしくみに迫るためには、こうし
は、授業日記に次のように書いている。
根を予想していたが、実際に観賞用のサボテ
た情報が本当であるのか、実際に実物を目の
自分は、サボテンの戦略について、これまでイ
ンターネットでしか調べていなくて、わかったよ
うな気になっていた。今日、実際にサボテンの根
を見て、もっと太くて長いと思っていた。「自分の
目で確かめる」ということができなかった。みん
なに自分が調べたことをわかりやすく伝えるため
に、これからは、不思議に思ったことを実際のサ
ボテンを使って調べていきたいと思う。
(梨花の授業日記)
前にして確かめてみたいという気持ちを高め
ることが大切である。そのためには、調べた
ことや予想していることとは違う事実を提示
することが必要であると考えた。そこで、
「学
びの吟味」の手だてとして自分たちの追究を
振り返るために、多くの子どもたちが調べて
いるサボテンの根がどのようになっているの
この授業日記から、植物の戦略調べをイン
かを予想しながら確かめさせることにした。
ターネットからの情報に頼っていた梨花が、
「太くて大きい根だ」、「たくさんの水を吸
「実物を使って調べたい」と動き出そうとし
うために大きく広がっている」
、「土の表面を
ている様子がわかる。また、次の授業では、
はうように広がっている」などいくつかの意
サボテンが水の少ない場所でどのように生き
見に分かれた。
ていくかについて、実際のサボテンを目の前
に調べ始めた。そして、同じ班で同じサボテ
ンについて調べている俊彦と英也と共に、水
槽に乾いた砂を入れ、砂漠に近い状態をつく
り、サボテンが水を吸い上げるしくみに迫ろ
うと他の植物と比べたりする様子も見られ
た。これは、姿§の表出した場面であると考
えられる。
− 68 −
また、その他の子どもたちもハエトリソウ
ポポの戦略を光合成や蒸散など植物のはたら
が蟻を捕らえる様子を調べたり、オジギソウ
きに結びつけながら考え出そうとしていた様
はどんなときに葉を閉じるのかを考えたりす
子がうかがえる。これまでに何度となく見て
るなど、実物を用意して、植物の戦略を確か
きたタンポポの葉であるのに、あらためて聞
める様子が多く見られるようになった。
かれると、「あれっ」と考えてしまう。身近
身近な植物にも戦略はあるのだろうか
(分析②)
な植物にもいろいろな環境に合わせた生きて
いくための工夫があることに目を向けさせる
ことができ、この手だては大変有効であった。
植物の戦略について、それぞれが追究して
サボテンについて追究してきた梨花は、こ
きたことをみんなに知らせるために、全員分
の日の授業日記でタンポポの葉のことについ
のまとめを冊子にして配付した。そこには追
てこのように書いている。
究してきたことを図や写真などを使ってうま
先生が見せてくれたタンポポの葉は、はじめは
違う種類のものだと思ったけど、みんなの意見を
聞いていると戦略のように思えてきた。サボテン
が水分を保つために葉をとげにしたように、タン
ポポの葉も同じように生える場所によって形が違
ってくるのだと思う。実際に生えているタンポポ
を見たいと思った。
(梨花の授業日記)
くまとめられていたが、食虫植物やサボテン、
オジギソウ、セイロンベンケイソウなど、こ
の辺りには生息しないいわゆる特殊な植物が
多かった。興味を引くのは確かだが、植物の
戦略はこうした特殊な植物だけがしているも
のではなく、身近な植物の中にこそ生きるた
めの戦略がある。教師は、その身近な植物の
まわりの意見を参考にし、自分が追究して
戦略を考えていくことによって、植物のしく
きたサボテンにつなげながらタンポポの葉に
みやはたらきについて迫らせたいと考えた。
ついて考えている。また、生えている場所の
そこで、子どもたちがこれまでに追究して
環境によって形やはたらきを変化させていく
きたことをそれぞれ発表した後に、「志向の
植物のしくみにまで追究に広がりを見せてお
共感」の手だてとして、タンポポの葉がぎざ
り、姿§に迫るものであると考えることがで
ぎざのものとそうでないものの2種類を提示
きる。
した。
教師:これはタンポポの戦略かな。
裕太:ぎざぎざになっているのは、多少折れ曲が
っても大丈夫なように、からだを安定させ
るためだと思う。
直樹:ロゼット型だから葉に重なる部分に関係が
あるのではないか。
幸代:ギザギザがないのは、光合成するために少
しでも日光を多く受けるためだと思う。
俊彦:ギザギザだと葉の面積が減ってしまう。気
孔の数も減るので水分の蒸発に関係してい
るのではないか。
梨花:この2種類のタンポポはどこに生えていた
のですか。
(授業記録)
この後、子どもの問題意識は、こんな戦略
をしている植物が中には絶滅の危機に追いや
られているものがあることへと追究はつなが
っていくのであるが、こうして身近な植物の
戦略を考えることによって、「植物を大切に
はっきりとした答えは、見出せなかったが
植物は一つ一つのつくりに意味があり、タン
して、自然を守りたい」という言葉をたくさ
ん聞くことができた。
− 69 −
理
科
「使い捨てカイロの秘密を探る」
3年単元「運動とエネルギーⅠ」
(1)裕子の単元のまとめより
使い捨てカイロはなぜ発熱するのかという疑問が出たとき、わたしはすぐに酸化だと思っ
た。過去の情報からも間違いないと思った。しかし、実際に初めてカイロの袋を開けて黒い
粉がみるみるうちに熱くなっていく様子を見て、とても不思議に思った。熱しているわけで
もないのに急激に温度が上がった。湯気も出てきた。そこで、袋に書いてある原材料名を見
たところ、食塩や活性炭、バーミキュライトが入っていた。「どうしてだろう」と思い、わ
たしは、この使い捨てカイロが熱を出す秘密を調べていきたいと思った。
最初に、使い捨てカイロの成分についてインターネットで調べた。すると、どのカイロに
も鉄粉と活性炭、食塩、水が入っていることがわかった。活性炭や食塩は絶対に必要なのか。
このことを確かめるために、この成分を1つずつ変えて発熱するかを調べる実験を行うこと
にした。酸素と鉄粉が反応するためになぜ食塩が必要な
のかと思ったが、実際食塩がないと温度は上がらなかっ
た。活性炭については、なくても十分発熱した。酸素の
濃度を十分にするために必要だと知っていたので、かき
混ぜることで、無くても発熱したのだろうと思った。
「使い捨てカイロは、50円で買えると言っても、安易な
商品ではないな」としみじみ思った。
この基礎追究をもとに、袋のなかで何が起こっている
のかについて話し合った。ビニール袋の中へ入れたら、
発熱反応が止まったという洋君の発表は、酸素の必要性をはっきりさせる点で、アイデアも
良かったし、水がからんで酸化すると水酸化鉄になるという雄介君の発表も参考になった。
さらに、鉄に水を入れただけでも、40度近くまで温度が上がるのは意外だった。やはり、熱
は鉄のさびる現象から出てくるとしか考えられない。
そこで、追究する時間をもらって、わたしはできた酸化鉄を還元してみることにした。実
験では、炭の粉と今回できた酸化鉄を試験管に入れて加熱した。二酸化炭素が発生したこと
を石灰水で確認して、残った物質を調べるため、水に入れて炭の粉をのぞき、水から出して
乾かしてから磁石を近づけてみた。予想通り、磁石によくついた。ならば、二酸化炭素から
も酸素をとれば、炭素の粉が出てくるのかな。そんな方法はないのかなとも思った。その発
表のなかで、健太君が発表した鉄がもともとエネルギーをもっていて、酸化するとその一部
が出てくるという考えには納得ができた。体内の栄養分となる有機物はエネルギーをもって
いるというのは納得できる考えだし、同じように燃えて熱が出るんだから、鉄自身もエネル
ギーが入っていると考えるのも納得できる。でも、鉄の中にあるエネルギーって一体何だろ
うか。
鉄の酸化が原因だとわかっていたつもりのカイロのしくみだったけど、学習を進めていく
うちに酸化が原因になることが分かったが、また疑問が出てしまった。なぜ食塩はカイロの
中で鉄の酸化を速めるのか、酸化鉄にはFeOとFe2O3がなぜあるのか、鉄の酸化でなぜ熱が
取り出せるのかなど、まだまだわからないことがたくさんある。もっと時間がほしいし、い
ろいろな人にも聞いてみたいと思った。でも、身の回りに様々な化学変化があって、それを
利用していろいろと生活に役立っているんだなと思った。このくらい化学は奥深いし、今ま
で習ったすべての単元の中でも、一番興味深いものだった。
− 70 −
(2)単元の構想表
過程
自
然
を
手 だ て
「魅力の発見」
使い捨てカイロの
不思議さに気づかせ
るため、袋を開き、
熱くなっていく様子
を見せる。
見
熱もエネルギーの一つなんだ
そうだよ
使い捨てカイロは鉄が酸化し
て熱くなるんだよ
使い捨てカイロの袋のなかで何が起こっているのかな
本当に鉄が含まれているかを
磁石で確かめたよ
つ
め
子 ど も の 考 え ・ 思 い
真黒い粉が茶色に変化してし
まったよ
70℃くらいまで熱くなった
よ。湯気も出てきたよ
使い捨てカイロの秘密を探ってみたいな
然
を
「学びの吟味」
食塩がなくても反
応が起こることに気
づかせるため、鉄粉
に水を加えただけで
も温度上昇が起こる
実験を見せる。
探
分析② {
2・3
鉄粉と活性炭と食塩水を混ぜ
ると熱が出るそうだ
鉄が酸化するから熱が出るん
だ
鉄が酸素とくっつくために食
塩が必要なんだそうだ
食塩がないと、鉄と活性炭と
水では熱が出ないはずだよ
鉄粉は細かくなっているだけ
で、酸素と結びつきやすいん
だな
食塩のような塩類は反応を速
くするはたらきをもっている
そうだよ
鉄のなかに熱のもとになるエ
ネルギーがあるんじゃないか
な
食塩は反応を速くさせている
だけで、鉄が酸化することが
熱を作り出すんだな
使い捨てカイロには、化学変化によって熱のエネルギーをう
まく取り出す工夫がしてあるんだ
自
然
に
「学びの吟味」
インターネットで調べた
だけの生徒に本当にそうか
と投げかけ、カイロ中に含
まれる成分のものを用意
し、実験で確認できるよう
にする。
木や紙を燃やすと
熱が出るのも同じ
だね
蛍が光っているの
も化学変化だそう
だよ
「夢の構築」
食塩が反応に直接使われ
ているわけではないことを
確認するため、反応後も物
質の中に食塩が含まれてい
ることを硝酸銀水溶液を使
って確認できるようにする。
育てたい姿 §
使い捨てカイロのはたら
きをはっきりさせるため、
カイロの成分やそのはたら
きを探ろうとする。
人も食べ物を栄養
としてからだのエ
ネルギーを作って
いるんだ
化学変化をうまく生活に使えないかな
冷却パックが、急
激に冷えるのも化
学変化によるんだ
よ
夜づりに使うケミ
ホタルというのも
化学変化を利用し
ているそうだよ
ものを温めること
に使える変化はい
くつもあるかな
化学変化をうまく使えば、生活の役に立ちそうだな
− 71 −
理
科
他にも物質からエネルギーが出る化学変化はないだろうか
6・7
学
ぶ
育てたい姿 ¦
カイロが温まる現象に関
心をもち、そのしくみを考
えていこうとする。
食塩がなくても、鉄と水だけでも温度が上がるんだ。も
っと深く鉄の酸化の秘密を探りたい
4・5
る
「志向の共感」
物質に含まれたエ
ネルギーに気づくよ
うに、石油や石炭が
昔の生物の死骸から
できることを知らせ
る。
「夢の構築」
温度上昇を不思議に感じ
ていない場合は、温度変化
が視覚的にとらえられるよ
うに温度計を用意する。
見た目には特別に変化してい
る様子はないよ
分析① {
る
自
1
抽出生への支援と育てたい姿
「志向の共感」
お酒の燗付けに化学変化
が使われていることを紹介
し、特許としても申請でき
ることを知らせる。
育てたい姿 ¨
日常生活の中に多くの化
学変化を見いだし、有効に
利用しようとする。
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 日常使うものに物質の酸化や還元が利用されていることに目を向け、エネルギーと関連
づけて考えてみようとする。
§ 化学変化とエネルギーの関係を明らかにするために、化学変化のしくみやエネルギーの
出入りを確かめようとする。
¨ 化学変化をともなう現象を追究することを通して、化学変化の有用性に気づき、自らの
生活に生かしていこうとする。
(4)子どもの学び
使い捨てカイロの中で何が起こっているん
だろう (分析①)
熱エネルギーを意識させるため、使い捨て
カイロの袋を子どもたちの教材として利用し
活性炭についての疑問をもつ考えも生まれた。
さらに、「温度が72℃までいったよ」とか
「使う前の粉のなかに鉄粉があったよ」
「塩酸
に入れたら水素がでるかな」とカイロの中身
を調べようとする様子が見られた。
た。
「何だ。カイロじゃない」
「そのカイロを
今までカイロを使ったことはあるが、しっかり
使って何やるの」という発言は聞こえたが、
と観察したことはなかった。袋を破ってはいけな
カイロそのものを不思議と思うような発言は
いものだと思っていたから。普段気づかないこと
なかった。そこで、「魅力の発見」の手だて
がたくさんあった。なぜ、水、食塩が入っている
として、ビニール袋を破るとともに、さらに
のかわからないので、次の時間に調べてみたい。
(裕子の授業日記)
なかの粉を包む布のような袋もはさみで切っ
次の時間から、子どもたちは一斉に追究を
てなかの様子が見えるようにした。
しばらく観察をしていた裕子は「湯気が出
し始めた。裕子はインターネットを使って、
ているよ」「本当に熱いのかな。さわってみ
使い捨てカイロについての情報を集め、食塩
るよ。本当だ。すごい熱い」とつぶやき、
「先
がカイロの内の鉄の酸化に重要なはたらきを
生、温度計ありますか」と温度計を取りに来
していること、そのほかに水、活性炭、バー
た。内袋を破ったことで急激な温度上昇が始
ミキュライトという園芸用の土に使われるも
まり、子どもたちの驚きにつながっていった。
のがそれぞれ酸化に役立つたらきをしている
目の前でどんどん熱くなっていくカイロを見
ことを知った。そして、その情報が確かなも
て、その後の話し合いでは、「袋を破ると熱
のであることを
くなるから、空気と触れて温度が上がるんだ
実験で確かめる
よ」
「鉄が酸化して熱くなるんだよ」
「酸化はわ
ことにした。
まず、鉄粉、
かるけど、最初によく振らないといけないか
ら、摩擦の熱が必要じゃない」
「でも、貼るだ
食塩、水、活性
けで熱くなるカイロもあったよ」など、様々
炭をビーカーに
な予想があがった。身近にあり、よく使って
入れたものが実
いるものであったが、予想以上に子どもたち
際に発熱するか
の追究意欲が高まったようだ。さらに、カイ
を調べたとこ
ロを包んであったビニールの包装紙に書かれ
ろ、68℃まで温
ていた原材料の表示に目を向け、食塩や水、
度が上がった。
− 72 −
次に、食塩を入れないものと活性炭を入れ
鉄が酸素とより多く反応する理由が分かりません。
どこから熱が出てくるのかをはっきりさせていき
ないものを反応させて比較する実験を行っ
たいです。
た。その結果、食塩が温度を上昇させるのに
(裕子の授業日記)
このように、裕子は調べていく過程で新た
特に重要であることがわかった。裕子はこの
な疑問を感じていた。そして、もう一度最初
日次のような授業日記を書いた。
の疑問にもどり、カイロでできたものが酸化
50円で買えるカイロだが決して安易なものでは
鉄であるかを確かめたいと考えていた。
ないと思った。環境にも悪くないし、「すばらしい
次の時間の追究では、カイロに残った酸化
商品だなあ」と思った。食塩も不思議だ。どうし
て食塩があると熱が出てくるんだろう。
鉄が炭素の粉を使うことでもとに戻るはずだ
(裕子の授業日記)
と考え、実験をすることにした。実験によっ
カイロの秘密に迫っていき、
その結果から、
てできる物が鉄であるかは、よく乾かしたあ
化学変化を利用した商品の有効性を述べてい
とで磁石を用いて調べた。磁石によくつく粉
る。ものに対してはたらきかけていった姿§
末を見て、やはりカイロ内で鉄が酸化してい
が見える。
たことの確信をもった。その後の意見発表で、
鉄の酸化するしくみをもっと深く探りたい
な (分析②)
それぞれが追究した結果をもとに考えを発
裕子は還元によって鉄が得られたことを自信
をもって発表した。
さらに、裕子は意見交流を通して、健太の
「物質はすべてエネルギーをもっている。化
学変化で得られる熱は、結びつく2つの物質
表し合った。
鉄が変化をしたかどうかを磁石を用いて調
のもっているエネルギーが酸化鉄にすべてい
べた裕樹の発表、鉄が粒子であることの価値
かないで、その一部が出てきた。」という考
を、鉄粉と鉄くぎとの反応熱の違いで調べた
えにふれ、関心をもった。そして、健太の説
真理子の発表、さらには自分と同じように食
明を懸命に聞いて、次の授業日記を書いた。
塩を入れた場合と入れなかった場合の違いを
今日は、健太君の考えが参考になって、少し疑
発表した由香里の発表があった。だが、いず
問が解決したような気がする。自分では、酸化し
れも裕子にとって特別目新しいものではなか
て変化したものが鉄であることははっきりした。
った。使い捨てカイロ内の鉄粉にとって、酸
健太君は、その鉄自身にもともとエネルギーがあ
って、酸化するとエネルギーが出てくると考えて
化して熱を作り出すために食塩や活性炭は不
いた。この考えなら、木や紙が燃えて熱がでるの
可欠なものであると考えていた。
も説明できると思う。しかし、石油や食べ物の有
そこで、鉄粉に水を加えただけでも熱が発
機物のようなものならわかるけど、本当に鉄のよ
うな金属にエネルギーがあるかは、まだ疑問です。
生するという実験を見せた。最初はほとんど
(裕子の授業日記)
温度変化が見られなかったが、次第に温度が
上がり、40℃以上にもなった。裕子は、この
カイロのなかに食塩が必要であるという考
実験によって、なぜ鉄と水から熱が発生する
えに対して、食塩を入れなくても熱を出すと
のかという疑問をもち始めた。酸化という現
いう「学びの吟味」の手だてを講ずることに
象だけでは解決できない不思議さを感じ始め
よって、新たな疑問をもち、酸化について深
ていた。
く調べようとしたり、他の子どもに積極的に
今日の授業で、鉄が酸化していることや食塩は
それを助けていることを実感しました。でも、鉄
かかわって考えを吸収しようとしたりする姿
§が見られたと考える。
は水を加えただけでも熱が出て、食塩を混ぜると
− 73 −
理
科
〈この一手〉
−学びのネットワークを築く子どもを育てるために−
○イメージマップテストの活用
わたしたちが活用しているイメージマップテストとは、あることばから連想されること
ばをまず内側の円にかく。そして、そのことばから連想されるものを外側の円に書き、線
で結んでいくというものである。
線の結び方から、子どもがどこでつまづいているのかがわかる。また、子どもの意識を
探ることで、単元を構想する際の資料としても活用することができる。さらに、単元に入
る前と単元の終了時の2回書き、学習前後のイメージマップを比較することにより、子ど
もたちは、自らのイメージが変容してきたことに気づくとともに、学んできたことの価値
を自覚することができる。子どもたちが学んできたことの価値を自覚し、そこに満足感を
見出すことが、さらなる「学びのネットワーク」を築く原動力になっていく。
学習前後のイメージマップテストを比較すると、明らかに学習によってイメージ
する内容が変容していることがわかる。そして、書かれたことばから、子ども自身
がそれを自覚し、学んできたことの価値を自覚するとともに、満足感を味わってい
る様子がうかがわれる。
− 74 −
○ネットワークシート(かかわり構造図)の活用
わたしたちは、子どもたち自身に
学びのネットワークを築くことの価
値を意識させることが大切であると
いう考えのもとに、「ネットワーク
シート(かかわり構造図)」を活用
してきた。授業の終わりに、その時
間、自分がかかわったり、自分の考
えに影響を与えたりした人・こと・
ものを矢印で結んでいく。時間をお
うごとに書き加えられ、広がってい
った様子が一目でわかるシートは、
教師が子どもの学びの状況をとらえ
るためだけでなく、子どもにいろい
ろな人やものとかかわりながら学び
を深めていったことを自覚させるこ
とにも効果的である。さらに、こう
した活動を繰り返していくことによ
って、子どもたちは、1時間の授業
が終わったとき、次時への方向性が
見えてくるようになる。
理
科
○授業協力者を評価者として招く
授業に専門家を招き、直に話をしていただくことは、子どもたちの理解や追究を
深めさせるうえで、とても効果的である。さらに、専門家に評価者として授業に参
加していただき、追究することの価値や意義を話していただいたり、ときには追究
の甘さを指摘していただいたりすることによって、子どもたちは、それまでの追究
に価値を見出し、満足感を味わうことができるとともに、次の活動への原動力を得
ることもできるのである。
「2年単元 わたしたちの生活と自然現象Ⅱ −気象−」
この単元では、子どもたちの中から、「自分たちの力ではどうしよう
もない」「専門家の意見を聞きたい」という気運が高まったところで、
気象情報官を授業に招いた。授業当日、子どもたちは、ただ話を聞く
だけでなく、自分たちの考えが正しいかどうかを聞いてもらいたいと
いう願いをもって授業に臨んだ。情報官から、「みなさんの疑問は、ど
れもなるほどと思わされるものばかりでした。そして、これほど追究
が進んでいるとは思いませんでした」と、評価をしていただいた。
「3年単元 かけがえのない地球 −地球と宇宙−」
ここでは、月から見た宇宙空間がどのようになっているのかを追究によって明らかにし、自分たち
で考えられるもっとも確からしい宇宙空間を描き上げたところで、プラネタリウムを訪れ、技師の方
に、自分たちの考えにもとづいてシミュレートしていただくようお願いした。そして、技師の方から、
子どもたちの追究に対する感想を評価者としての立場から話していただいた。
− 75 −
音楽科
楽しさの
扉を開こう
1 文化創造に向けて
現代のわたしたちは、朝の目覚めから眠り
ていくことができる。このような音楽活動や
につくまで、音楽を耳にしない日はない。
「胎
感動体験を通して、人を愛し、郷土を愛し、
教のための音楽」
「リラクゼーションのための
他国をも尊重するようになっていく子どもた
ヒーリングミュージック」
「音楽療法」といわ
ちが育つだろうと考えた。そして、その子ど
れるように、社会全体が音楽を積極的に生活
もたちが、やがては「文化創造」の一翼を担
へ取り入れようとする風潮が一層強くなって
うであろうと期待している。
本校では、子どもたちに身近なJ-ポップ
いる。子どもたちも、
「インターネット音楽配
信」で自由に好きな曲をダウンロードしたり、
やゲームの「Dance Dance Revolution」を教
好きなアーティストのCDを集めたり、カラ
材にしたり、日常ではほとんどふれることの
オケで歌ったり、友達とバンドを組んだりす
ない他国の音楽にかかわる単元を構想したり
ることが、ごく当たり前のようになってきた。
することによって、多種多様な音楽にふれる
このような時代だからこそ、音楽の本質的
機会を多くもてるようにしてきた。日本の伝
な魅力を見極める価値観をもつことが大切で
統的な音楽を追究する単元では、子どもたち
はないだろうか。音楽が手軽に入手できると
自身が積極的に師匠や楽器を探し求めたこと
いうことは、商業主義に踊らされる危険もは
で、伝統芸能の美しさやおもしろさだけでな
らんでおり、また、その音楽のよさを味わう
く、伝統を守りながら新しい音楽にも目を向
ことなく、ふれるだけになってしまうことに
けている師匠の意気をも魅力として受けとめ
もなりかねない。
ることができた。また、世界の民族楽器を取
そこで、わたしたちは、21世紀を生きる子
り入れた実践では、音楽が日常生活の中から
どもたちに広い視野と柔軟な感受性で古今東
発生していることを肌で感じ、自国の音楽を
西のあらゆる音楽をとらえ、自分らしく音楽
見直すきっかけとなった。このように、子ど
を楽しむ力を育んでほしいと願い、「楽しさ
もたちは、音楽の楽しみ方や、音楽に対する
の扉を開こう」を音楽科のテーマとした。
視野を広げ、音楽をつくりあげてきたのがま
子どもたちが音楽の楽しさを求めようとす
さしく人であることを実感した。そして、今、
るとき、身近な人や、これまでの伝統を築い
子どもたちもまた、その一人になろうと歩み
てきた人々の思いや生活、文化ともかかわっ
だしている。
− 76 −
2 音楽科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
子どもたちは、古今東西の多様な音楽に耳
を傾け、その音楽と自分の思いや知識・技能
とを結びつけることにより、「音楽の楽しさ」
に気づき始める。そして、この気づきを原動
力として音楽にアプローチしていき、美しい
音色や、豊かな表現に感銘を受けることがで
きるようになる。また、音楽活動を通して音
楽性や人間性にふれることもできる。このよ
うな体験こそが、子どもたちが楽しさの扉を
開く鍵となると考え、音楽科における「学び
のネットワークを築く子どもの姿」を次のよ
音
うにとらえた。
楽
a さまざまな音楽に耳を傾け、自分なりのかかわり方を見出そうとする姿
さまざまな音楽に接して、新たに出会っ
た音楽とこれまでの経験や知識、技能とを
結びつけて、音楽に対する思いを広げたり
深めたりしようとする。
b
さまざまな人と音楽活動を楽しむことにより、表現の豊かさや美しさを感じとったり、
創造的に表現したりしようとする姿
専門家に知識や技能を求めたり、友達や学校以外の
人々とともに音楽活動をしたり、また、自分の思いを
声、音、身体表現で人に伝えたりというように、他と
かかわりながら自分の音楽を高めていこうとする。
c 感じとった音楽への思いや習得した技能・知識を生かして、より豊かな表現を求めよう
とする姿
音楽活動をふり返り、さらに広く音楽に
かかわろうとしたり、学びの中で得たもの
を生かそうとしたりすることで、より豊か
な日常生活を築いていこうとする。
− 77 −
科
3 カリキュラムの構想と編成
音楽科における「学びのネットワークを
築く子どもの姿」を実現するため、次の3つ
の要素を考慮して教科カリキュラムを編成し
た。どの学年も、1学期は仲間づくりと雰囲
気づくりを大切にしている。それにより、心
が開かれた学習集団の中で2学期の学習が展
開され、ともに学び合う喜びを味わい、「音
楽の楽しさ」を体感する。3学期は、1、2
学期で培った音楽への思いをあたため、さら
に表現力を高めることができるようにした。
¨身近な音楽から出発し、さまざまな音楽とかかわる¨
日本を含めた世界中のさまざまな音楽に出会うことで、再度、身近な音楽を見つめ直し
たり、音楽の魅力を探ったりすることができるようにする。また、このような活動がより
主体的になるよう、日常生活から問題意識を掘り起こして興味・関心を引き出し、少しず
つ追究対象を広げていくようにする。
¨音楽を体で感じとる¨
体全体で音楽を受けとめ、つくりあげていく音楽こそが感動を生み出すと考え、体全体
を使って表現する醍醐味を味わえるような単元を位置づける。このような活動には表現と
鑑賞が表裏一体となって織り込まれるので、子どもたちに、自分の表現も他人の表現も集
中して耳を傾け、体全体で受けとめられるような感性の高まりを求めることができる。
¨個が基盤となる集団表現を体験する¨
個の思いや表現を大切にし、音、声、身体表現で交流していく活動を単元に織り込む。
さらに、子どもたちが一人一人の思いや表現方法を主張することによって、よりダイナミ
ックで感動的な集団表現が生まれることを実感できるようにする。このような体験を通し
て、子どもたちがさらに豊かな表現を求めて積極的に追究していこうとする気持ちが高まる。
− 78 −
1年 (35時間)
【新しい仲間】
新しく出会った仲間とう
2年 (35時間)
【音楽にのってⅠ】
3年 (35時間)
【音楽にのってⅡ】
音楽にのってダンスで表
音楽にのってドラマで表
現する。
1 ちとけ、ともに表現し合う 現する。
ことの楽しさを味わう。
(12)
(12)
(12)
学
声や音を合わせるこ
体を動かすことによって、活気のある学び
期
とで仲間意識が育つ。
が展開できる。学年の最初に前向きな学習の
みんなで歌える愛唱歌
雰囲気をつくり上げる。
をもつ。
音
【耳を澄まして】
身近にある音やリズムに
【世界の音楽Ⅰ】
西洋音楽とは異なるリズ
【世界の音楽Ⅱ】
世界中の音楽からその特
2
耳を傾け、それを再構築し ムや響きにふれ、新たに音 徴をつかみ、自分なりの楽
しみ方を見出す。
楽の楽しみを発見する。
て音楽をつくり上げる。
学
(15)
(15)
(15)
耳を研ぎ澄まして聴
日本の伝統音楽や世界各地の音楽に幅広く
期
く活動から自分たちな
ふれることで、新しい音楽の楽しさを発見す
りの音楽をつくる。
る。
【アンサンブルの味わいⅠ】【アンサンブルの味わいⅡ】【心の歌】
独唱で自分なりの表現を
クラス合唱でハーモニー
重唱でハーモニーをつく
3
を味わう。
り、グループで表現のしか 追究する。
たを工夫する。
学
(8)
(8)
(8)
期
音楽表現の基盤となる歌唱表現を深める。学年が進むにし
たがって少人数の表現形態にし、
自分なりの表現を追究する。
※( )内の数字は、50分を1単位とした授業時数を表す。ただし1年生は1単位65分とする。
− 79 −
楽
科
4 実践の分析
「からだde音楽!」
1年単元「新しい仲間」
(1)沙紀の単元のまとめより
先生から『キッズウェーブ』というボディ・パーカッションの楽譜をもらい、膝やおなか
やお尻をたたいて音を出すと聞いたとき、わたしは「おもしろそうだな」という気持ちと
「恥ずかしい」という気持ちが入り混じっていました。それに、今まで体で音を使うなんて
いうことは拍手ぐらいしかなかったので、「体で音楽なんてできるのかな」と少し不安でし
た。でも、やってみると意外に簡単で、クラス全員で4つのパートが合わさったときには、
体をたたいているだけなのに、何かのメロディのように聞こえたり、アカペラのようなハモ
リが聞こえたりして、
「体ってこんな音が出るものだったの」と、驚きました。
「もっとやり
たい」「今度は自分たちで」というように、どんどんやりたいと思うようになりました。そ
うしたら、千秋さんが「もっとリズムを合わせていくと、おもしろいリズムになるのかな」
と言い、裕太君や里子さんが「ほかにもリズムを考えて曲作りをしたい」と言ったので、み
んなも賛成し、A、B、Cの3つのグループに分かれてオリジナルのリズムをつくることに
しました。
ところが、そこからがたいへんでした。第一の問題は、簡単だろうと思っていたリズムの
作曲が予想以上に難しかったことです。なかなかリズムが思いつかなかったので、テレビの
コマーシャルで聞いた、『キリンラガー』のリズムでやってみました。しかし、音が途切れ
てしまって『キッズウェーブ』のようなハモリを感じることができませんでした。それで、
先生からもらったリズムパターンのプリントを使ったり、知っている曲のリズムをまねした
りしてつくっていきました。こうして、わたしたちのグループが「みんなの先頭をきってい
ける」と思ったのですが、先生に撮ってもらったビデオを観たら、さまざまな問題点が見つ
かりました。そこで、話し合い、特にユニゾンをそろえて、ぴしっときめるために、オリジ
ナルの前の『キッズウェーブ』に戻ろうと決めました。一変して、わたしたちは一番進みの
悪いグループになってしまいました。第二の問題は、テンポやリズムがばらばらになってし
まうことでした。でも、何回も練習していくうちにみんなで合わせるこつがだんだんと分か
ってきました。そして、毎時間、完成に向けて練習していくなかで、できるだけこつを早く
たくさん見つけたいと思うようになりました。なぜかというと、グループでの練習や他のグ
ループとの意見交流の時間に友達から教えてもらったこつがヒントになって、リズムがそろ
うようになったということが多くあったからです。
この「からだde音楽!」では、グループの協力、グループの和が大切だということを知
りました。一人ではできない音楽でした。友達と音を重ねていき、それぞれが違う音を出す
のがとても楽しくて、パートに分かれると、何か責任感
みたいなものが湧いてきて「自分がやらなくちゃ」と、
いつのまにか膝が真っ赤になるほどたたいていました。
発表のときには「わたしのグループはすごいのよ」と、
自慢したいような気持ちになれてうれしかったです。前
よりもリズム感がよくなったような気がするし、これか
ら友達やクラスのみんなと歌ったり、楽器を演奏したり
するのが楽しみです。
− 80 −
(2)単元の構想表
過程
と
き
め
き
手 だ て
「魅力の発見」
体全体で音楽を表現す
ることに興味がもてるよ
うにするために、ボディ
パーカッションの楽譜を
紹介する。
分析① {
アンサンブルを
やってみたい
演奏は好きだけれど、楽
譜を読むのは苦手だな
楽器や歌より簡単にできそうでおもしろい音楽だから、
からだを鳴らして演奏してみたいな
音がだんだん重なり合
っていくのが楽しくて
気持ちいい
「学びの吟味」
もっと多くの工夫が必
要であることに気づくよ
うにするために、アドリ
ブの入ったボディパーカ
ッション・チームの演奏
をビデオで提示する。
並び方を考え、互いに
見ながら合わせよう
抽出生への支援と育てたい姿
音楽にのって演奏したいけ
れど、人前は恥ずかしい
テンポが合わなく
て、どんどん速く
なってしまう
1
簡単そうなのに、やっ
てみるとリズムがばら
ばらだ
うまく合わせるにはどうしたらいいのかな
「夢の構築」
簡単なリズムの組み合
わせでアンサンブルがで
きることに気づき、自分
でつくる見通しをもつた
めに、図形楽譜と、それ
を見事に演奏している3
年生のビデオを提示する。
か
が
や
き
子 ど も の 考 え ・ 思 い
指揮者のようなリー
ダーに合わせよう
2
手拍子をしてテンポ
をそろえよう
音
もっと格好よく演奏したい
速いテンポでそろって
いて格好いい。僕たち
の完成はまだまだだ
リズムやポーズ
を自分たちで考
えてみたい
パートごとに考えたリズム
がうまく合うようにしたい
4∼6
リズムが思いつかな
くて、作曲は難しい
パートごとで考えたリズ
ムを合わせたらばらばら
で、いい音楽に聞こえな
い。どうしたらいいかな
知っている曲のリズ
ムを少し変えて組み
合わせた。練習して
きれいにそろえたい
満足できる演奏にするためのこつを見つけたい
音色や強弱の変化
を使えば、曲の感
じに変化がつくん
だね
動きやポーズを工
夫すれば、表現が
ダイナミックにな
るんだなあ
7・8
テンポやリズムをぴしっと
きめるためには、拍をはっ
きりさせる動きやかけ声を
入れるといいんだね
他の班の子に自分たちの工夫がわかってもらえるように表現したい
う
る
お
い
「志向の共感」
クラスのみんなで表現
することの楽しさを味わ
うために、一定のテンポ
を保ちながらリズムにの
って演奏できるグループ
のボディパーカッション
に合わせて、歌を歌う。
見たい、見せたい、聞かせたい
「からだde音楽!」の発表会をしよう
リズムにのれると
気分がいいね
ボイスパーカッショ
ンも入れてみたいな
「夢の構築」
リズム創作にとまどっ
ているときには、いろん
な種類のリズムパターン
を紹介したり、練習風景
の録画を見せて、感想を
尋ねたりする。
「学びの吟味」
友達から得た情報が言
葉上の知識のみで実技に
つながらないときは、一
緒に演奏し、表現に表れ
るように補助する。
育てたい姿§
他の楽曲の構成や表現
方法に類似させたり、比
較したりしながら曲や動
作を作り、友達とともに
表現方法や練習方法を工
夫しようとする。
9・10
歌うときにも体全体で表現
できるようになりたい
ゴスペルやミュージカルのように音楽にのって、みんなで演奏したいな
− 81 −
科
ビデオはすごく格好よく
て恥ずかしそうじゃない。
たたき方で変わるんだな
「からだde音楽!」自分たちでつくってみたいな
打つ部分や打ち方
によって音が変わ
るから、曲に変化
をつけられるぞ
楽
3
発表したあとに拍手と歓声がもらえるような演奏をしたい
分析② {
育てたい姿¦
テンポ感やリズム感が
人によって違うことに気
づき、小学校で合唱や合
奏をしたときの経験を生
かそうとする。
少しずつできるようになってきたよ
体のどこをたたい
たらいいのかな
「学びの吟味」
練習の仕方や表現の工
夫の視野を広げるため
に、発見したことや工夫
したことを具体的な言葉
でノートに書いている子
を紹介する。
「魅力の発見」
動作化を恥ずかしがっ
ているときには、練習す
るなかでの気づきを称賛
し、ノートにできるだけ
詳しく書いておくように
勧める。
育てたい姿¨
音楽の構成や表現要素
を考えながら、より豊か
な表現方法を工夫し、積
極的に新しい楽曲に取り
組んでいこうとする。
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ ボディパーカッションの曲をつくっていくために、これまでの音楽経験で得たアンサン
ブルの技能や知識を生かそうとする。
§ 聴衆にも伝わるような、豊かな表現を求めるために、友達と話し合ったり、自分の表現
方法を発表し合ったりする。
¨ 友達と一緒に味わった創作や表現の楽しさを生かして、他の楽曲も体全体でのびのびと
表現していこうとする。
(4)子どもの学び
からだを鳴らして演奏してみたいな
(分析①)
日ごろから笑顔の多い沙紀のような子でも、
のメンバーを決め、練習を始めて間もなく、
「簡単だと思っていたけれど、意外に難しい
ね」と口々に言った。教師はあえて口を出さ
ないようにした。子どもたちがアンサンブル
入学当初は話す友達が限られている。この時
の難しさに気づき、自分たちの問題点をでき
期、音楽好きな子でも思いきり表現できない
るだけ多く発見できるように見守るためであ
ことが多い。だから、音楽の得手不得手に関
る。身体表現を恥ずかしがっていた沙紀が問
係なく、みんなで楽しめるボディパーカッシ
題点や改善点を口にしたときに、教師は「魅
ョンを教材にした。第1時の導入に、教師は
力の発見」の支援として、取り組みに対する
「魅力の発見」の手だてとして『キッズウェー
前向きな姿勢を誉めて励まし、「練習後のま
ブ』
(山田俊之作曲)の楽譜を手渡し、楽譜の
とめの時間に、ノートに気づいたことをでき
見方と演奏のし方を説明した。沙紀は「おな
るだけ詳しく書いておこうね」と助言した。
かやお尻をたたくの、恥ずかしいね」と、隣
千恵:一番に打ち始めるパートの人たちが、ちゃ
んとリズムをとってくれれば、後から出る
GGGGGGGGGGGGGGG
パートの人たちがそれに合わせられるよ。
沙紀:そうそう。先に打つ人たちも、あとの人た
ちも、頭の中でリズムを考えながらやれば
GGGGGGGGGGGGGGGGGGGG
いいよ。
博文:みんなでリズムをとろう。
英明:横一列に並んで練習するより、円になった
ほうがみんながよく見えて合わせやすいん
じゃないかな。音がよく聞こえるし、みん
なの動きを見て合わせることができるよ。
(授業記録)
の子と顔を見合わせていた。まず、曲の感じ
をつかむため、クラス全員が、膝打ちの第1
パート、手拍子の第2パート、足踏みの第3
パート、尻打ちの第4パートの4つに分かれ
た。沙紀は照れながら下を向いて膝打ちをし
ていた。しかし時折、
「これでいいんだよね」
と、同じパートの子とリズムを確かめ合って
いたので、教師は積極的に練習していること
を称賛し、
「顔を前に向けると格好よく見える
「リズムを考えながらやればいいよ」のよう
よ」と助言した。この後、教師が手拍子とか
に、子どもたちはこれまでの経験をもとにし
け声で指揮をとり、全員で合奏した。沙紀は
て発言している。しかし、具体的にどうする
「何かのメロディのような音や、アカペラのよ
のかという発言が少ない。それで教師は、千
うなハモリが聞こえた」と言った。
『キッズウ
恵と博文の「リズムをとる」や、沙紀の「リ
ェーブ』をこれまでに聴いた曲と比較し、共
ズムを考えながら」よりも、英明の「円にな
通点を見出そうとしているようだった。
ったほうが」や「みんなの動きを見て」のよ
第1時の後半から、3グループに分かれて
うな発言の方が具体的で、友達に伝わりやす
練習をした。沙紀たちも自分たちで4パート
いのではないかと子どもたちになげかけた。
− 82 −
わからないようにしてあるものである。例え
『キッズウェーブ』は、楽器も何も使わないか
ら変わった音楽だなあと思っていましたが、グル
ープ練習をしているうちに小学校でやった器楽合
奏のことを思い出しました。笛のパート練習のと
きに円になって、視線や体の動きで出だしを合わ
せました。英明君が言っていたように、目と耳と
体を使って、友達と合わせていきたいと思います。
(沙紀の授業日記)
ば、英明の文は下のように印刷されている。
リズムがばらばらだ。**と思ってやるか、そ
れを**で表してやるか、どっちかじゃないとば
らばらのままだ。もしかしたら、**をやってみ
たら、リズムが合うかもしれない。
(英明の「発見しました こんなコツ!」より)
沙紀は小学校のときの練習を思い出し、こ
子どもたちはプリントを読み終えると、
「*
れからのグループ練習に生かそうとしてい
*」の部分を知ろうとして、他のグループと
る。この様子は姿¦の表れである。
の意見交流に動き出した。沙紀は7人の子と
満足できる演奏にするための
コツを見つけたい (分析②)
交流してから、自分のグループに戻って練習
を始めた。教師は、得た知識が実技につなが
らないことのある沙紀へ「学びの吟味」の支
次第に「もっとかっこよく」
「もっと個性を
援として、沙紀の言葉が実技に生きるよう、
発揮して」という気持ちが強くなり、第4時
一緒に演奏しながら補助しようと考えていた。
音
教師:ウェーブのあと手拍子をそろえるこつは何。
沙紀:1拍前の合図だとCグループの京子さんが教
えてくれました。ねえ、やってみよう。みん
なで「ダカダカ」って言いながら。ソーレ、
ダカダカ…(16分音符で数えているため、1
拍前の合図ができず手拍子がそろわない)
教師:こつはほかにもありますか。
沙紀:1、2、3、4、と(4分音符で)数えること。
教師:じゃあ、それでやってみよう。(小声で子ど
もたちとともに数え、1拍前だけを強く言う)
沙紀:できた。できた。
(授業記録)
楽
からはグループが別々の部屋に分かれ、リー
ダーを中心に工夫を重ねて練習をした。ただ、
黒板には進度表を提示し、各グループの練習
の進み具合が互いに確認できるようにした。
第7時の終わりごろ、沙紀が「前に戻っ
て練習し直そう」と言った。「ウェーブ(16
分音符の連打)のあとの『♪♪♪
』をど
うしてもそろえてキメたい」というのである。
「そこをクリアすれば、他の部分も、もっと
そろうようになるはず」と、沙紀たちのグル
ープは考えていた。この部分については、他
のグループにも解決したい問題点の一つとし
て残っていた。
それで第8時は、各グループのリーダーが
「自分たちのグループの問題点」を発表するこ
沙紀は「京子さんの言っていた『一拍前』
とで、共通した問題点が未解決のままになっ
ていることに全員が気づくようにした。その
はこういうことだったのね。次は一拍前を足
とき、リーダーの発表によって解決策がマン
で合図してみよう」と言った。この日、
「今日
ネリ化していることに気づいた子がいた。そ
の気分は最高!」
「みんな、リズムとポーズを
こで、練習方法や表現の工夫の視野を広げる
考えてこようね」と、声をかけ合って音楽室
ために、
「学びの吟味」の手だてとして「発見
を出ていった。次時、沙紀は家で考えてきた
しました、こんなコツ!」というプリントを
エンディングのリズムを発表したり、
「太もも
配付した。これは、教師が子どもたちの授業
の音をパチパチとはっきりさせるためにジー
日記から、具体的な解決方法を見出した子の
ンズを履いてみよう」
「足踏みの音を大きくし
文章を取り上げ、解決方法の部分をあえて
てベースにしよう」と提案したりした。この
「**」で示し、他のグループの子どもたちに
ように、沙紀は姿§に迫っていった。
− 83 −
科
単元の後に続く
学習の広がり
〈この一手〉
子どもたちが英語の時間に抱
いた「マーシャ先生に日本の伝
統的な音楽を教えてあげたい」
という思いを、音楽科の単元の
導入にとりあげた。子どもたち
は夢を実現させるために、教え
てくださる方や楽器を貸してく
ださる方を自分たちで探して、
練習に取り組んだ。
単元を貫いた思いは強く、本
単元終了後も追究を続けた子が
いた。日本舞踊ではiプロ、t
プロ、マイプランなどにつなが
り、大きな舞台を踏んだ。雅楽
を体験した子は、「もっと吹き
たい。自分の楽器が欲しい」と、
竜笛作りに励んだ。
単元「マーシャ先生へ日本の音楽をプレゼントしよう」より
遊びの中で
学ぶ子どもたち
単元「日本の響きに戯れる ∼僕らの岡崎盆唄∼」より
子どもたちは遊んでいるときに、自
分なりの楽しみ方や疑問を見つけるこ
とが多い。だから、音楽科では、音の
出るものに触れて遊ぶ時間を大切にし
ている。遊びのなかに創作活動へとつ
ながる動きが見られる。子どもたちは
これまでに聞いたことのあるリズム、
旋律、曲の構成などをたよりに自分な
りの音楽を構築しようとする。
もしも、
創作にいきづまっている子がいたら、
教師は簡単なリズムパターンやモチー
フを紹介する。また、衣装、掲示物、
BGMなどでつくる学習環境も、学び
を活性化させるための一助となる「遊
び」であると考えている。
単元「Earth Music」より
− 84 −
わたしは変わった。
こだわりをもった友達がいた。
自分の意見をもっていて、それを人に伝える友達がいた。
そんな友達の中に自分が飛び込み、
意見を言わなくても何とかなると思っていたわたしは、
木っ端微塵になってしまった。
考えを言うようになったわたし。
そこから何かが変わっていった。
今まで聞き流していた友達の考えを
自分でも考えてみるようになった。
今まで見えていなかったものが見えてきた。
漠然としているけれど、
自分の中で何かが変わった。
附属中学校で学んでわたしは変わった。
(卒業生 由里)
− 85 −
美術科
美をひろげる
1 文化創造に向けて
最近では、多くの人が公共の文化施設やカ
発信されたものを受け取るだけになりがちで
ルチャーセンターで開催されている造形教室
あり、子どもたちの表現は、均質化・画一化
を利用している。これらは、芸術性を究めよ
する方向性が見られるような問題もある。人
うとするものではなく、純粋に造形活動を楽
は自らの体験や観察を繰り返すことで美しさ
しみたいという人々の集いの場になってい
を見つけようとする。そのため、こういった
る。また、家庭の中で生活用品の装飾やガー
新しい表現方法自体も本物として実際につく
デニング、日曜大工での美を楽しんでいる人
る体験をする必要がでてきているのである。
も多い。家族で休日に美術館へ行き、美術作
美術科では、造形体験を通してより美しい
品にふれるという機会も多くなっている。職
ものに憧れ、それを求め続ける心を育てるこ
場でも、相手にわかりやすく伝えるために、
とをめざしてきた。そして、美を敏感にとら
コンピュータによるプレゼンテーションや
える心や、過去の経験から培った美しさの記
POPの 美しさの工夫に力を入れている。商
憶を呼び起こしたり、新しい表現技能を自ら
品の展示会や発表会でも、いかに強いインパ
求めて積極的に身につけていこうとしたりす
クトを与えるかという点で、広告代理店やイ
る姿が見られるようになってきた。身のまわ
ベントプランナ一が美しさについてしのぎを
りから社会ヘ、広く美を求める造形活動は、
けずっている。このように、私たちの生活の
社会の動きや人々の意識などと深く関連しな
中で、美術にかかわる機会や美術的な表現を
がら生み出され、身近な人・こと・ものから
おこなう場面は、どんどん多くなってきてい
美術に対する考え方を広げることとなった。
るといえよう。
このような造形活動を行っていく心豊かな子
一方、子どもたちの生活に目を向けるとパ
どもの姿を期待し、教科テーマを「美をひろ
ソコンやゲーム機の普及にともない、インタ
げる」としてきた。そして、このような身の
ーネットやゲームを日常的に使用している子
まわりから社会ヘ、生涯にわたって美しいも
どもが急増している。CGの画質はどんどん
のに憧れ、美しいものを求めていこうとする
美しくなり、より現実味を帯びた映像が見ら
動きこそ、本研究がめざす「文化創造」の実
れ、精巧なキャラクターデザインや華やかな
現につながるものであると考える。
色彩にふれる機会が多くなった。これらは、
− 86 −
2 美術科における「学びのネットワークを築くこどもの姿」
そこで、美術科における「学びのネットワ
より美しいものに憧れ、それを求め続ける
ことを美術科でめざしたいものの中核と考え
ークを築く子どもの姿」を次のようにとらえ、
る。そのために身につけさせたい美的感覚や
姿abcをめざした造形活動を行うことで、
表現するために必要な知識や技能を、過去の
美術科でめざしたいものが培われていくと考
経験から呼び起こしたり、積極的に自分のま
えた。
わりの人・こと・ものから学びとろうとした
りする態度を育てたい。
a 造形の知識、技能を自ら求めて体験的に理解し、獲得しようとする姿
思いを色や形で表現するには、単に活動の楽しさだけ
でなく造形能力が必要である。
そのための知識や技能は、
主題を表現する子どもの学びと深く結びつくものと考え
る。身につけた基礎的な知識や基本的な技能を必要に応
じて引き出し、つなげたり統合したりして満足感の得ら
れる造形活動ができる。
b 本物と出会ったり、さまざまな人との交流をしたりすることで思いを表現しようとす
る姿
実際に本物の作品を五感を通して観察することで、新
しい発見をしたり、興味・関心が高まったりする。この
ようにして本物から知識や表現技法を学んだり、美しさ
やよさを感じて思いの広がりを実感したりする。作品を
通して自らの思いが伝わり共感を呼ぶことができたと
き、自分の思いは確かなものとなる。
c 美を感じとることの心地よさやすばらしさに気づき、表現をより美しく価値あるもの
にしようとする姿
美への新しい見方・考え方が育ってくると今まで感じ
なかった美しい表現に魅せられたり、表現してみようと
いう思いを抱いたりする。美しさを感じ、美しさを求め
ることができたか、常に自分自身を見つめ問い直すこと
が大切である。取り組みを修正したり新たな知識や技能
を習得しようとしたりする中で新たな課題が生まれるこ
とになり、よりよい表現をめざすことができる。
− 87 −
美
術
科
3 教科カリキュラムの構想と編成
【3年間の系統性をもたせた単元配列】
美術科における「学びのネットワークを築
く子どもの姿」は、表現する時間的なゆとり
をもたせて設定した単元を3年間を通して行
うことで実現できるものである。これらの単
元は、子どもの追究を息の長いものにするた
めに、関連性をもたせながら発展的に配列す
ることを考えている。そして、子どもの発達
段階を考慮し、各学年の特性を右のように考
えた。
また、3年間の各単元では、鑑賞の時間を
大切にする。五感を通した本物との出会いを
多くし、知識や技能を学び、より美しいもの
に憧れながら、思いを広げることができるよ
うにする。
どの単元においても、美術科における「学
1年生では、自然や身のまわりのこと
に関心をもたせて、素材の特性や表現上
の留意点などを意識させる。日常的な造
形物に興味・関心を抱かせ、生活の中に
取り込まれている美術作品を身近な存在
として感じとる。また、短時間完了のミ
ニ題材(美への誘い)で4つの表現分野
をバランスよく学び、表現分野の基礎的
な知識や技能の習得をする。
びのネットワークを築く子どもの姿」abc
を求めていく。その中でも3年間の単元が進
むにつれ、姿abcのそれぞれがより確かも
のになることをめざしている。カリキュラム
については、各学年の特性を考慮して系統的
に単元を配列しているが、学年内においては
子どもの興味・関心に応じて2つの単元を入
れ替えることも考えている。また、子どもの
既習経験を生かしながら、より高いレベルの
2年生では、身のまわりから広く環境
や未来に目を向けさせ、作品を通して自
己主張することを重視する。作品を見る
だけで自分の思いが主張できるビジユア
ル・コミユニケーションとしての美術の
もつ意味あいを理解させ、多くの人との
かかわりをもたせる。また、作品のテー
マに選択の幅をもたせたり、心象表現も
扱ったりすることで表現の視野を広げる。
知識や技能を求められるように配慮する。
このようにして、一つ一つの単元を通して
子どもたちの美的感覚は培われていく。そし
て、3年間のカリキュラムを行うことで、生
涯にわたり、美に憧れ、美を求め続けること
のできる子どもの育成をめざしている。
− 88 −
3年生では、既習の知識や技能を生か
して、自分の得意分野で表現させる。そ
して、つくることにこだわりをもって最
後までねばり強く取り組ませる。テーマ
については生き方にかかわることを考え
させ、自分の将来に明るい未来像をもた
せるようにする。
つくる活動については、
独創的な表現をつくり出すことを目的に
し、生活を彩るための身近な造形への興
味・関心を高める。
1年(35時間)
1
学
期
2年(35時間)
3年(35時間)
美を切り取ろう(10)
環境を見つめよう(12)
(絵や彫塑などに
(工芸やデザインなどに
美への誘いⅠ(5)
表現する活動)
(2つの表現分野の基礎)
表現する活動)
映像作品にて美しさを表
ビジュアル・コミュニケ
ーションとしての美術の役 現し、表現への新しい視点
生活を潤そう(12)
割を平面作品で理解する。 を学ぶ。
(工芸やデザインなどに
表現する活動)
生活に潤いをもたせる造
形活動への関心を高める。
2
学
美への誘いⅡ(5)
(2つの表現分野の基礎)
期
自己を見つめよう(20)
(すべての表現活動)
デジタルアートを楽しもう(10)
自分を見つめ直し、自分
(工芸やデザインなどに
表現する活動) 自身の内面をも表現する。
新しい表現方法で学ぶ。 そして、自己を見つめ直し
造形活動へのかかわり方を
改めて考える。
自然を見つめよう(13)
幻想世界に遊ぼう(13)
(絵や彫塑などに
表現する活動)
自然の中の美を見つめる
(絵や彫塑などに
表現する活動)
立体作品にて幻想世界を
表現し、造形活動への新し
い視点をもつ。
3 ことで、美的感覚を育む。
学
期
生き方を考えよう(5)
(鑑 賞)
生き方にかかわる作品を
鑑賞し、美とかかわりのあ
る明るい未来像をもつ。
※( )内の数字は、1年生は65分、2・3年生は50分を1単位とした授業時数を表す。
− 89 −
美
術
科
4 実践の分析
「ピンホールカメラで切り取ろう」
3年単元「美を切り取ろう」
(1)智子の単元まとめより
初めてピンホールカメラの写真を見たとき「なんてレトロな感じの写真なのだろう」と思
いました。白黒でピントが合っているようで合っていないような不思議な感じが、なんだか
妙に引きつけられるように感じられました。その後それの写真を撮影したカメラを見ると、
またびっくり。「こんな紙で作ったカメラで本当に撮影できるの」と疑問符だらけでした。
わたしは、一からカメラをつくって撮影するピンホールカメラに興味をもちました。
でも、ピンホールカメラ作りは、かなり辛いものがあり
ました。本当に工作系は不器用で苦手で、案の定、黒い紙
と方眼紙を切り取るまでにさえ時間がかかりました。設計
図がないので、先生のカメラを見て参考にしても、どんな
パーツを作ればいいのか考えることが容易ではなかったの
です。何度か切り取る大きさを間違えて、貼ったり剥がし
たりを繰り返しました。
撮影は、最初のうちは花を撮ろうとねらい続けました。
しかし、毎回写真が真っ黒でなかなか写すことができずとても悲しかったです。原因がわか
らなかったので(最終的にはカメラの作りだったのが)みんなが次々と撮影に成功していく
のがうらやましかったです。クラスでも最後の方になってしまったけど、原因を解明できた
ことがとてもうれしく思いました。カメラを改良してからは、藤棚シリーズを撮り始めたの
で、結局花の作品は撮れずじまいでした。藤棚を撮影して最初のうちは、高さだけを考えて
変化させていたけれど、それでは表現に限りがあるので、カメラの前方にものを敷いて角度
を変えるようにしました。これによって、主役の部分を狙いやすくなりそればかりやってい
ました。
単元の途中で鑑賞会を行いましたが、わたしはただ単純に木の葉がはっきり写っていると
いう理由でベストショットを選びました。ところが、他の人の作品を見たり話を聞いたりし
て、自分の作品には「思い」がないことにショックを受けました。「作品」であるからには
「思い」や「訴えること」が必要だと感じました。それからのわたしは、時季はずれの「藤」
で何か伝えられないかと考え、まるで自我が芽生えたかのように「思い」について考え始め
ました。このことを考えて撮影するようになってからは、1枚を撮るまでに時間がかかるよ
うになりました。「こっちの方がよいかな」「ここをこうした方が……」「このくらい角度を
付けてみたら」などなど、表現と効果を考えながら撮影す
るようになったからです。
ピンホールカメラは、フラッシュで撮りたいものに光を
当てることも、ピントを合わせることも、ズームすること
もできないので、表現することに苦労しなくてはいけませ
ん。そのかいがあって、本当に考えて撮影したいろいろな
「藤」の作品ができました。それらは、自分の「思い」が
しっかり込められた作品となりました。これで単元は終わ
ってしまうけれど、これからの別の作品を作るときでも、どんな角度から見ればとか、どれ
を主とするかとかしっかり考えて、「自分の表現」であるといえる視点をどんな場合でも考
えて見つけられるようにしたいと思います。
− 90 −
(2)単元の構想表
過程
美
手 だ て
「魅力の発見」
表現していく題材を知り
制作をイメージしていくた
めに、ピンホールカメラで
撮影した写真とピンホール
カメラ本体を見せる。
と
れ
あ
い
写真って、誰でもできておもし
ろいよね
「ピンホールカメラ」
「夢の構築」
ピンホールカメラで写真
作品の撮影を追究していく
ために、カメラ本体の材料
を配り見本となるカメラを
置いておく。
美
の
ふ
か
ま
り
分析① {
「魅力の発見」
最終的な作品のテーマと
方向性を決めさせるため
に、クラス全員の現時点で
のベストショットと、その
写真に対するテーマを書い
た作品カードを展示する。
段ボールの箱で作
ってあるけど、こ
れで大丈夫なの
1
レンズが無いけど、何かと
ても小さな穴が開いている
ぞ。これで撮れるの
ピンホールカメラを作って、撮影をしたい
2・3
どんなカメラの作り方や撮影技法だとうまく撮影ができるのだろう
手ぶれをしないため
に、うまく固定して
撮影しよう
光が入らないように、し
っかり工作をしたけど本
当に使えるかな
撮影に成功した子は、どんな工夫に気づいているのかな
自分の撮影データ
と撮影時間が違う
シャッターのつくり
がとてもいいなあ
4・5
光が漏れないように隙間
が工夫してあるよ
こんなカメラの工夫や撮影の技法があったんだ。取り入れてみよう
自分が表現したいテーマはこれなんだ
みんなに指摘されたところを修
正して、テーマが伝わるような
写真にしたい
6∼9
わたしがこのピンホールカメラ
で表現したい思いは何だろう
自分の思いを表現するための撮影を極めていきたい。技術的なこと
を追究して、自分のテーマがわかってもらえるようにしたい
の
ひ
「志向の共感」
友達の作品を鑑賞しあう
ために説明用「見どころカ
ード」と作品を美術室に展
示し、鑑定カードを配る。
「魅力の発見」
基本的な技法について考
えさせるために、本やイン
ターネットで調べることを
アドバイスする。
育てたい姿¦
画材を追究し、新しい技
術を獲得しようとする
撮影してみたけれど、どうもうまく写っていないぞ
分析② {
美
「魅力の発見」
ピンホールカメラのいろ
いろな部分に目を向けさせ、
制作ができることに気づか
せるようアドバイスする。
仕組みは簡単そうだ、つくってみたいな
シャッターを開け
ている時間は、こ
れくらいかな
「学びの吟味」
友達のカメラづくりや撮
影技法のアイデアを自分の
作品に取り入れるために、
カメラと撮影した写真、撮
影データシートを展示する。
抽出生への支援と育てたい姿
自分の思い・考えを写真で表現
してみたいな
こんな単純なピンホールカメラで、こんな写真が写せるんだ
こんなにちゃんと
写るんだ。撮って
みたい
の
ふ
子 ど も の 考 え ・ 思 い
露光をインターネッ
トで調べてみよう
試してみて明暗を
見つけた
思いが伝わるかをアドバ
イスをもらった
完成したみんなの写真への思いを鑑定したいな
「志向の共感」
自分の作品の問題点を見
つめ直すためのプラスにな
る作品を見つけられないで
いる場合には、それを持っ
ている友達の作品を見るよ
うアドバイスする。
育てたい姿§
自分の今までの知識、各
種の情報、人との交流の中
で、自分の表現方法を確立
しようとする
「夢の構築」
自分の技術が深まること
から、テーマを深く追究さ
せるためのアドバイスする。
育てたい姿¨
これまで行ってきた自分
の表現方法を見つめ直すと
ともに、他者の表現も自分
の中に取り入れ、さらにテ
ーマを追究しようとする
10
ろ
が
勝洋君の作品は、う
まく構図を生かして
いるな。ほしいな
自分の作品のセー
ルスポイントは組
写真にしたことだ
百合さんは、そういう思
いで、こういう表現をし
たんだ
り
他人から見ると自分の作品には、こんなよい点があったのだなあ
− 91 −
育てたい姿§
自分のテーマを伝えるだ
けでなく、友達のテーマを
受け止めて、自分の中に取
り入れようとする
美
術
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 新しい画材(ピンホールカメラ)を体験し、技法を獲得しようとする。
§ クラスメートとの情報交換を行い、人との交流の中で表現するための技法を獲得しよう
とする。
¨ その単元の中で培ってきた技法を元にオリジナルの表現を求め、より美的な作品をつく
ろうと追究していく。
(4)子どもの学び
撮影に成功した子は、どんな工夫に気づい
ているのかな (分析①)
くるであろうと考えて授業を組み立てた。失
敗体験をバネとして、新たな造形活動への意
欲にかえてほしいと考えたのである。
子どもたちは、ピンホールカメラで撮影し
自分の撮影した写真は2枚とも真っ黒でびっく
りした。2回目の方は(表の光を遮断する)紙が
はがれていたから、光が入ったんだろうなあと納
得したけど、不安的中。もう一つは驚くしかない。
最初は、撮影ミスだと考えていたけど、再度撮影
してみるとカメラのつくりが悪くて遮光が十分で
はなかったようだ。これはカメラを改造して光漏
れを完全に防がないといけない。
(智子の授業日記)
たレトロな感じの不思議な雰囲気をもった写
真を見て、ピンホールカメラを使って写真作
品をつくることに興味をもった。そして、見
本のカメラを元に、ダンボール箱や厚紙、ア
ルミ板を使い、自分専用のピンホールカメラ
をつくっていった。早速できあがったカメラ
を使って写真を数枚撮影してみた。基本的な
友達の作品とカメラを見ることで、カメラ
撮影のやり方を知り、撮影をしてみたが、ま
の問題点に気づいた智子は、徹底的に遮光の
だ、自分の撮影した作品を見ておらず、まだ
甘い部分を洗い出していった。そして、写真
見ぬ写真のできあがりをとても楽しみにして
はだんだんと鮮明に写
いた。しかし、できたカメラで撮影をしてみ
るようになっていった
たが、半数以上の生徒のカメラには構造上の
のであった。
実際に撮影した作品
欠陥があり、多くは光
漏れを起こして作品が
「智子の作品①」
「智子の作品②」
を見ることで、撮影に
撮影できなかったので
成功したいという思いがなおさら強くなり、
ある。
友達のデータや作品を見たり、カメラを分析
そこで
「学びの吟味」
したり、さらに友達に質問するといった主体
の手だてとして、カメラと撮影した写真と撮
的に意見交流する様子を見ることができた。
影データシートを展示し、成功した友達のカ
これは、姿§が表出したものととらえること
メラの工夫や撮影の技法を聞くことによる意
ができる。
見交流が自然に起きると考えた。作品の成功
点、問題点からカメラの完成度を再認識させ
自分が表現したいテーマはこれなんだ
(分析②)
ることで、
カメラの改良の工作を行う子ども、
さらに撮影を進める子どもと活動が変わって
− 92 −
ピンホールカメラを使って撮影し作品を作
ってきたが、きちんと写すことばかりに意識
出し、再度ピンホール
がいっていた。撮影の技法については、いろ
カメラで撮影して、よ
いろな考えをもって撮影を行っているが、美
り思いの入った作品を
術作品として自分の思いを表現するといった
つくろうと考える姿が
活動までには高まっていないと感じていた。
「忘れられた場所」
そこで「魅力の発見」の手だてとして、撮
見られたのであった。
陽平のベストショット
影した写真の中でベストショットを決め、テ
ーマと一緒に展示した。現時点でのベストシ
ョットを見合うことで交流を行うことにし
た。自分の作品の表現がうまくいった点と問
題点とを再認識させることで、これからの作
品作りの方向性を考えさせ、さらに作品づく
りを深めるため、思いを表現するためのテー
美
マと、テーマを表すために必要な表現技法に
術
ついて考えさせることとした。
「若そう…」
美術室いっぱいを使って、展示されたA3
判の大きさに拡大され
智子の単元ベストショット
たそれぞれのベストシ
これのテーマは「若そう…」とした。棚の上に
落ち着いている枝から、外へ新しく伸びているつ
るが、自分の行く先を模索しているようだ。まと
まってどっしりしている落ち着きのある大人の部
分に対し、若さを感じ、それを自分に重ねている。
陽平君の作品は、伝えたいテーマがしみじみと伝
わってくるけど、わたしのはわかりにくい被写体
なのかもしれない。でも、作品には満足している。
(智子の作品の説明文)
ョットを子どもたち
は、食い入るように見
智子のベストショット
続けていた。
前回は、撮りたかった藤棚が真っ黒になり、ど
うでもよかったコンクリートの壁がハッキリ撮れ
ていた。そこで今回の撮影では、メインは藤だ、
ということを示せるように決めた。みんなのベス
トショットを見て、木の葉が遠くでもわかるよう
な、光と影がしっかりしていて「よく撮れている
なあ」とうらやましく思うものがたくさんあった
ので、がぜん闘志が燃えた。さらに構図の話を聞
いて、「そうか、そうだったんだ」と目を開かされ
た思いだった。なぜなら、自分の作品は何も訴え
てこないからだ。悔しい、悔しい。わたしは何も
考えずに撮っていた。わたしはやる気に燃え、藤
の撮影時に角度を考え続け、悩みに悩んで1枚撮
った。
(智子の授業日記)
智子は、美術館のように展示された友達の
ベストショットとその作品への思いが書かれ
たカードを見たり、友達と意見交流すること
で、自分の思いを写真に込めたいという考え
を、いっそう強くした。このような主体的な
意見交流から、もう一度撮影して思いを伝え
ようとする智子
の成長を見るこ
智子は、友達のベストショットを見て、も
とがでがきた。
う一度自分のテーマ・撮影技術について振り
これは姿¨が表
返った。特に「忘れられた場所」というタイ
出したものとと
トルがつけられた陽平の作品に大きな感銘を
らえることがで
受け、そして、自分の作品に対する思いを見
きる。
− 93 −
科
〈この一手〉
「私の宝箱」
2年単元【幻想世界に遊ぼう】
手だて「魅力の発見」
友だちの作品を鑑定することで感受の能力を高めてい
くために、作品の「見どころカード」と作品を美術室に
展示し、色分けした鑑定用付箋紙を配布して、鑑定のた
めの3つのポイント(独自性・技術・頑張り)を伝える。
鑑定活動はたいへん盛り上がり、一人に対して20枚以上の付箋がつ
いた上、鑑定終了時間になっても「まだ見切れていないので延長して
ほしい」という声が出るほどであった。席に戻った後、付箋を整理し
て自分への評価を確認した。健二は「みんなジオラマもちゃんと見て
くれたけれど、僕がうまくできたと思った側面の新幹線の絵も見てく
れたのでうれしかった。自分ではきれいではないと思っていたけれど、
きれいとコメントしてくれた人がいる。裏側の貼り付けをやっておけ
ばよかった」と書いたように、作品への再評価をおこなっていた。
「ドット絵を描こう」
2年単元【デジタルアートを楽しもう】
「ドット絵の作品を立体的に見せるための秘訣を、友
達どうしで話し合いたい」という思いをもたせるために、
練習作品である「円を球にしよう」の全員の作品が載っ
た紙を配布するとともに、さらに、全員の作品のデー
タが入ったフロッピーディスクも配る。
ただ単に友達の作品の鑑賞をするだけでなく、友達が作った本物の
球のデータを操作することで、立体表現の新しい秘訣を得ることがで
きた。また、直接その技術をもった友達のところに行き、どのように
彩色したのかを直接聞きにいく場面も数多く見られた。智子は、絵美
が表現していたアンチ・エイリアスの効果について興味をもち、その
秘訣を本人に聞いた。そして、「ただ、色を変えていくだけでは、立
体的に表現することが難しかった。絵美さんの球のように、色が切り
替わるところの境目の色をてんてんとまばらにして、色がくっきり分
かれないようにするとよいことがわかった。秘訣を自分のものにでき
た」と書いたように、立体表現の秘訣をつかむことができた。
− 94 −
俺の言っていることがどうしてわからないんだ。
国語の授業で自分の考えにみんなが反対した。
自分でも自信がなくなって、何度も考え直してみた。
でも、自分はまちがっていない。
昌夫の考えはやっぱり違う。
明菜は、俺と昌夫は同じ考えだと言った。
同じところもあるかもしれないけど、でも違う。
その違うところが大切なのに。
このまま終わるわけにはいかない。
次の授業でもう一度。
(卒業生 昭博)
− 95 −
保健体育科
こころをたがやし
生涯スポーツへの
自立をめざす
1 文化創造に向けて
高度情報化、国際化、環境問題などの多様
の中に位置づけ、主体的な態度で、健康の保
で厳しい変化を続ける現代社会の中で、子ど
持・増進と体力向上のための実践力を身につ
もたちの生活には、さまざまな問題が見られ
けてほしいと願っている。
る。体育やスポーツにおいても、従来の運動
保健体育科では、子どもたちが、さまざま
観、スポーツ観を踏襲していくだけでは、現
な運動経験を通して、まわりの人とのかかわ
在の社会や子どもたちのニーズに合わない現
りを求め、よりよい社会をめざして活動する
実が生まれている。さらに、子どもたちの生
ことが、やがては「文化創造」につながって
活に目を向けてみると、慢性的な体力低下が
いくと考え、教科テーマを設定した。「ここ
危惧されている。生活環境の変化にともなう
ろをたがやし」とは、子どもたちが運動やス
日常の運動・スポーツ活動量や身体活動量の
ポーツとの自分なりのかかわり方を心の面に
減少がひとつの原因であると考えられる。ま
おいて気づくことを意味する。また、「生涯
た、子どもたちのライフスタイルの急激な変
スポーツへの自立をめざす」とは、さまざま
化は、体力だけでなく、人と人との心のつな
な運動経験を通して獲得した運動やスポーツ
がりにまで影響を及ぼしている。心が不安定
への思いや技能・知識を自分の健康な生活に
で、人とうまくかかわることができない子ど
生かしていこうとするものである。
もたちが増えていることは悲しむべき現状で
ある。
わたしたちは、教科における「学びのネッ
トワークを築く子どもの姿」を設定し、後述
「たくましく生きるための健康の保持・増
するカリキュラムを構想して実践に取り組ん
進と体力の向上」は、保健体育科が担う特性
できた。友達だけでなく、社会体育でスポー
であり、重要な使命である。適切な運動やス
ツに取り組むさまざまな人と出会い、ともに
ポーツは、健康の保持・増進だけでなく、仲
体を動かすすばらしさやその人たちの思いを
間とのかかわりを通して社会性や創造力を培
感じ取る子どもの姿を見ることができた。ま
う絶好の機会である。心身ともに発達期の子
た、それらのかかわりを通して、技能を高め
どもたちには、すすんで運動やスポーツに親
ていく姿もあった。文化創造の担い手となる
しむ習慣を身につけ、生涯にわたり健康で心
子どもたちの内面にある、自分自身と運動や
豊かな生活を送ることをめざしてほしい。そ
スポーツとのかかわりへの思いは、確実に高
のために、運動やスポーツをそれぞれの生活
まっている。
− 96 −
2 保健体育科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
わたしたちは、生涯スポーツへの自立をめ
ざすために、さまざまな運動経験を積み、運
動やスポーツと子どもたちのかかわりがより
よいものになっていくことが大切であると考
えている。子どもたちが、運動やスポーツ、
健康に対する自分なりのものの見方・考え方
を身につけることが、生涯スポーツへの自立
につながるのである。その実現のために、保
健体育科では、「学びのネットワークを築く
子どもの姿」
を次の3つの姿としてとらえた。
a これまでの自分の運動経験をもとに、運動やスポーツとのかかわり方を見つけようと
する姿
運動やスポーツを通して、自分の学びを振り返り、追
究の深まりを自覚したり、新たなめあてを発見したりし
て次の問題解決への意欲をもつものである。それによっ
て、自分の生活と運動やスポーツ、そして、自分と健康
とのかかわりへと思いを高めることができるのである。
b さまざまな人と交流し、運動やスポーツへの思いや習得した技能を高めようとする姿
運動やスポーツを通して、人・こと・ものとかかわり
をもつことにより、楽しさを実感するものである。子ど
もたちは、自分のまわりから学び、自分の追究の方向を
自己決定しながら、運動やスポーツへの思いや習得した
技能をさらに高めていこうとすることができるのである。
c 運動やスポーツへの思い、習得した技能や知識を、自分の健康な生活に生かしていこ
うとする姿
運動やスポーツにおける経験や知識を、自分の興味や
関心につなげ、意欲的にかかわろうとするものである。
どんな運動やスポーツに対しても、子どもたちは、これ
までの経験や知識をもとに取り組んでいく。そして、運
動やスポーツに対する思いが経験とともに変容し、それ
を自覚することで、さらに意欲を高め、積極的に取り組
んでいくことができるのである。
− 97 −
保
健
体
育
科
3 教科カリキュラムの構想と編成
わたしたちは、「学びのネットワークを築
く子どもの姿」を実現するために、子どもた
ちが、多くの運動やスポーツと出会い、さま
ざまな人・こと・ものと主体的にかかわりを
もつことが大切であると考えた。そこで、
「体つくり運動」「ダンス」「個人スポーツ」
「集団スポーツ」
「武道」の5つの運動領域を
取り上げ、さらに、運動領域、運動内容を自
分で選ぶことが可能なカリキュラムを、以下
の3つの視点から編成した。
◆人との交流を求めて
生涯スポーツ社会においては、男女差、年齢差に関係なく、さまざまな時間や空間を共有して
運動やスポーツに親しむことが求められる。授業では、すべての単元において学級単位による男
女共習を基本とする。第2学年と第3学年では、クラブ制を取り入れる。さらに、各単元におい
て、子どもたちの多くの人と交流したいという願いを受けて、それぞれの運動分野の専門家や社
会体育でスポーツに取り組んでいる方を招く。
◆主体的な運動を求めて
子どもたちが主体的に運動やスポーツとかかわることができるように、選択制を学年ごとに取
り入れていく。第1学年は、「チャレンジ」という単元で、水泳、陸上競技を扱い、子どもが種
目を選択できるようにする。第2学年と第3学年では、「My Sports」という単元を設定し、運動
の領域選択ができるようにする。また、「クリエイト」は、複数の領域を融合させた創造的な単
元として位置づける。学年が進むにつれて、選択の幅を拡大し、子どもたちが自分で運動の特性
にふれる楽しさを見つけながら、運動内容を決定できるようにしていく。
◆多くの運動経験の可能性を求めて
世界の国々には、その国独自のスポーツが存在している。国内においても既存のスポーツに飽
きたらず、さまざまなスポーツに目が向けられている。そこで、「ワールドスポーツ」 という単
元を位置づけて、世界のスポーツに取り組むことができるようにする。
また、
「Enjoy Ballgame」では、既習の球技だけでなく、ニュースポーツも、随時扱っていく。
− 98 −
1年(70時間)
レッツトライⅠ(8)
・体つくり運動
・体育の学び方
1
学
期
Enjoy BallgameⅠ(10)
2年(70時間)
Enjoy BallgameⅡ
(12)
(ゴール型球技)
3年(70時間)
Enjoy BallgameⅢ
(12)
(ニュースポーツ)
・バスケットボール
・ユニホッケー
・ハンドボール
・フライングディスク
・サッカー
・タスポニー
(ネット型球技)
・インディアカ
・ソフトミニバレーボール
保健分野 健康な生活Ⅱ
(3) 保健分野 健康な生活Ⅲ
(3)
健康と環境
けがの防止 病気の予防
My SportsⅠ(水泳または陸上競技)(10)
チャレンジⅠ(7)
・水泳種目内選択
チャレンジⅡ(11)
2
学
期
異学年2学級共習によるクラブ制
領域選択 種目選択
クリエイトⅡ(11)
クリエイトⅢ(11)
・陸上競技種目内選択
・器械運動
・ダンス
・リレー
・マスゲーム
・マスゲーム
クリエイトⅠ(12)
・ダンス
ワールドスポーツⅠ
(12)
・主に球技
ワールドスポーツⅡ
(12)
・集団スポーツ
創作ダンス
現代的なリズムのダンス
保健分野 健康な生活Ⅰ
(7) 保健分野 健康な生活Ⅱ
(7) 保健分野 健康な生活Ⅲ
(7)
心身の発達と心の健康
レッツトライⅡ(5)
3
学
期
・体力を高める運動
BUDO(10)
・武道(柔道、剣道)
けがの防止
健康と生活
My SportsⅡ(武道または球技)(15)
異学年2学級共習によるクラブ制
武道:柔道・剣道
球技:ソフトテニス・卓球・バドミントン
バスケットボール・サッカー
バレーボール
ソフトボール
※( )の数字は、65分を1単位とした授業時数を表す。
※レッツトライⅠ(1年生)、My SportsⅠ・Ⅱ(2・3年生)以外の単元については、
子どもたちの状況に応じて、順序を変えて配列することも考える。
− 99 −
保
健
体
育
科
4 実践の分析
「バスケットボール・プロフェッショナル」
1年単元「Enjoy BallgameⅠ」
(1)夏美の単元のまとめより
バスケットボールを始めるときわたしは、きっと楽しめないなと思っていました。ルール
がよくわからなかったし、シュートは入らないし、ドリブルも苦手だったからです。でも、
今は違います。みんなでやるバスケットボールの楽しさがよくわかりました。一つのパスも、
マークすることもすべてチームプレイです。バスケットボール部の先輩が教えてくれた楽し
さがわたしにもわかった気がします。
バスケットボールを始めたときに、tプロジェクトⅡの「広げる活動」でバスケットボー
ルの追究をしている先輩たちが来てくれました。その時に、「バスケットボールには、どん
なに小さなプレイでもチームプレイにつながる楽しさがある」と教えてくれました。それを
聞いて、自分にもできそうなパスをがんばってみようと思いました。個人の練習では、パス
エリアを選んで練習をしました。でも、練習では上達してきたと思っても、ゲームではなか
なか思うようには使えません。ボールがきてもあせってしまい、あわてて味方に渡してしま
うからです。チーム練習のミニゲームなどで練習を重ねる中で、少しずつまわりを見てパス
できるようになってきました。先輩に教えてもらったフェイントを使ってからのパスも使う
ことができました。わたしのパスがシュートに結びついたとき、「あっ、これがチームプレ
イの楽しさなんだ」と感じました。
そして、チームの作戦が少しずつ完成してくると自分のやることがはっきりしてきました。
オフェンスは、シュートにつながるパス。ディフェンスは、マークです。パスに自信がつい
てからは、マークの練習に力を入れました。マークは、決めた相手を追うのでなかなかうま
くいきません。すぐにぬかれてしまったり、はなれてしまったり…ゲームになると思い通り
にはできませんでした。そこで、相手に合わせて誰が誰をマークするといいかという作戦を
チームのみんなで真剣に考えました。また、チームとしてゴールと相手の間にポジションを
とることも練習しました。こうしてみんなで考えて練習した作戦がうまくいったときは、本
当にうれしかったです。
自分が失敗してチームに迷惑をかけたこともあったけれど、今は、チームのみんなとバス
ケットボールができてよかったと思っています。作戦が決まって、自分の役割がはっきりし
てくるとすごくやりがいがありました。チームのためにがん
ばろうという気持ちも出てきて、一つ一つの技能もすごく上
達したと思います。
思い通りにいかないこともありましたが、
チームのみんなと作戦を考えるのも楽しかったです。楽しさ
のきっかけをつくってくれた先輩や、楽しさを一緒に味わっ
た友達に感謝の気持ちでいっぱいです。また、バスケットボ
ールに挑戦したいと思います。
− 100 −
(2)単元の構想表
過程
手 だ て
「魅力の発見」
バスケットボールの魅
力を伝えるためにNBA
のバスケットボールビデ
オを提示する。
出
会
い
「夢の構築」
tプロジェクトⅡでバ
スケットボールを追究し
ている3年生を7人招
き、バスケットボールの
魅力を語ってもらう。
分析① {
「学びの吟味」
ゲームを自己評価し、
自分たちのチームプレイ
や一人一人を生かす作戦
を振り返らせるために、
前時のゲームを録画した
ビデオをチームごとに提
示する。
分析② {
味
わ
い
42kmウォークは、グループの
みんなで励まし合ったから達
成できたんだ
友達と協力して楽しめるスポ
ーツが思いきりやってみたい
な
みんなで楽しめるバスケットボールがやってみたいな 1
「学びの吟味」
チームの作戦に合わせ
て一人一人の動きが明確
になるような話し合いが
できるようにホワイトボ
ードを提示する。
高
ま
り
子 ど も の 考 え ・ 思 い
「志向の共感」
単元を通して、自分の
技能やチームプレイが伸
びたことを振り返り、ま
とめのゲームで高めてき
た力を出しきってゲーム
に取り組めるように、工
夫されているポートフォ
リオを紹介する。
小学校の時よりゴールが高い
ぞ。シュートが思うように入
るかな
バスケットボール部の子も
いるぞ。みんなどんなプレ
イができるんだろう
他のチームと早くゲームがやりたいな 2∼3
リバウンドボールをもっとうま
く処理できるといいな
友達に思うようにパスがまわ
せるといいな
ロングパスを使うと、シュート
ができそうだぞ
チェストパスがしっかりでき
るようになりたいな
抽出生への支援と育てたい姿
「魅力の発見」
バスケットボールに対
する興味や関心を深め、
問題意識が芽生えるよう
に、身につけたい技能は
何か問いかける。
「夢の構築」
今後のめあてが明確に
なるように、うまくいっ
たプレイ、いかなかった
プレイは何か問いかける。
育 て た い 姿¦
自分の能力・個性を知
り、自分なりにバスケッ
トボールに取り組もうと
する。
いろいろなプレイを上達させたいな 4∼7
ゲームの中で使える技能を高めたり、増やしたいな
ボールを見ないで、低いドリブ
ルができると、ディフェンスを
かわせるぞ
ボールがまわってきても、あ
わててすぐに渡してしまう
ドリブルシュートは、ゴールの
枠をねらうと入りやすいぞ
まわりを見て、チェストパス
で正確にボールをまわすこと
ができるぞ
一人一人を生かし勝つための作戦を考えたいな 8∼10
ポジションを決めて、ゾーンデ
ィフェンスで相手の攻撃が防げ
そうだぞ
どうしたら相手に抜かれない
ように、しっかりマークでき
るんだろう
マークする相手を決めて、マン
ツーマンディフェンスで守ると
いいぞ
マークする相手とゴールの位
置を考えてマークするとシュ
ートが防げるぞ
自分たちの能力や相手に合わせた作戦ができてきたぞ
自分たちが考えた作戦で思いきり楽しみたいな 11∼12
自分たちで考えた作戦がうまく
いったぞ
自分の役割を果たすと、チー
ムプレイが完成するぞ
みんなで協力して楽しめるスポーツがもっとやりたいな
− 101 −
「学びの吟味」
情報交換の視点が明確
になるように、めあては
何か、どんなチームプレ
イになるのかを問いかけ
て意識させ、友達や上級
生と積極的に交流するよ
う促す。
育 て た い 姿§
友達や先輩との交流で
フェイントを使ったパス
を身につけ、ゲームの中
で積極的に使おうとする。
「学びの吟味」
ゲームの中での役割を
意識させるために、チー
ムの作戦とポジションは
何か問いかける。
育 て た い 姿§
チームの友達と作戦を
工夫して自分の役割を明
確にし、ゲームの中で意
識してプレイしようとす
る。
育 て た い 姿¨
特性にふれる楽しさを
自覚し、自分なりに運動
とかかわろうとする。
保
健
体
育
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 自分の能力・スポーツに対する思いに合わせて、自分に適しためあてや運動内容を工夫
し、意欲的にバスケットボールに取り組んでいこうとする。
§ 友達と協力し、いろいろな人とのかかわりを通して、運動の仕方を工夫し、バスケット
ボールに取り組んでいこうとする。
¨ バスケットボールでの自分なりの技能の高まりを自覚し、楽しさを見つけ、積極的に運
動やスポーツにかかわっていこうとする。
(4)子どもの学び
個人練習では、それぞれのエリアでプレイ
いろいろなプレイを上達させたいな
を見てもらい、上級生からアドバイスを受け
(分析①)
る様子が見られた。また、新たな練習方法も
第4時からは、ゲームの反省をもとにめあ
教わり、より成果を上げることもできた。チ
てをつくり、学習をすすめた。「プレイを上
ーム練習では、作戦に合わせたチームプレイ
達させたい」という子どもたちの問題意識を
についてのアドバイスをもらって、チームと
連続発展させるために、ゲームの反省とめあ
してのプレイに自信をもつことができた。
てづくりが結びつくプロセスを理解できるよ
さらにほっとタイムでは、自然に上級生と
うなはたらきかけを大切にしたいと考えた。
の交流が始まった。「ここはどうすればいい
そこで、1時間の中に、個人練習、チーム練
んですか」シュートやリバウンドのプレイの
習、ゲームを設定し、めあての達成をめざし
ポイントを聞くなど積極的にかかわっていく
ての活動を行うことにした。
様子も見られた。
その中で、まわりの人とかかわって技能を
こうして夏美は、フェイントを使ったパス
伸ばしていくきっかけをつかむために、第6
のポイントをつかむことができた。パスをゲ
時では「学びの吟味」の手だてとして、バス
ームの中で思うように使うことができなかっ
ケットボール部の練習ビデオを提示した。
「あ
た夏美が、ゲームでも生かしていけるフェイ
んなプレイができる上級生に教えてほしい」
ントというアドバイスをもらうことができ
という思いを抱かせたうえで、7人の上級生
た。パスにこだわりをもち続けてきた夏美に
を招くと学習活動としての交流が始まった。
とって、上級生との交流という学習活動で、
また一つ自信をもつことができた。姿§にせ
まることができたと考える。
今日のゲームでは、前回以上にマークがしっか
りできたし、まわりが見られた。でも、やっぱり
難点は、パスがつながらないこと。パスがしっか
りつながるように今日以上にまわりを見ていきた
いと思う。先輩に教わったフェイントも使えるよ
うになりたい。
− 102 −
(夏美の授業日記)
こうした取り組みで、自分の得意なプレイ
「どうしてだろう」とチームプレイを見直す
に自信をもち始めてきた子どもたち。単元の
声があがった。自分たちの特長を生かすこと
後半に、教師は集団技能であるチームプレイ
はできても、相手も同じように考えてきてい
に目を向けさせるようなはたらきかけを行っ
る。「相手の特長も考えなければ成功するチ
た。チームの一員として自分の得意なプレイ
ームプレイにはならない」ということに気づ
を生かし、チームとしての達成感を味わわせ
いた賢一の授業日記を紹介すると、ビデオで
たいと考えたからである。
見たプレイをもとにして、チームプレイを考
え直す話し合いが始まった。夏美の役割は、
一人一人を生かし、勝つための作戦を
考えたいな
オフェンスではシュートにつながるパス、デ
(分析②)
ィフェンスでは、マークである。夏美は、こ
作戦カードをもとに、自分たちの特長が生
の話し合いで、マークする相手にこだわった。
かせる作戦をどのチームも考え始めた。
「足が
ビデオの中で相手チームの晃平がすぐにノー
速くてシュートの得意な浩司がいる。早くパ
マークになってしまい、シュートを決める場
スをつないで速攻を決めたい」
「背の高い孝彦
面を指摘しながら、確実にマークしきれるよ
がいる。ゴール下にポジショニングして、リ
うに「相手のこともよく考えて決めないと、
バウンドボールをとって味方にパスしてほし
思うようにマークできない」と主張した。夏
い」など、自分たちの得意なチームプレイを
美の所属するマリナーズチームは、この夏美
模索した。ホワイトボードを使った話し合い
の意見を取り入れて、チームごとにマークす
では、実際の動きを確認することができ、一
る相手を慎重に決めた。この夏美が話し合い
人一人の役割、プレイが明確になった。また、
に積極的にかかわる様子は姿§にせまるもの
対戦相手との意見交流では、互いのプレイに
である。こうして、チームプレイを高め、ま
ついてアドバイスし合った。気づかなかった
とめのゲームを迎えた。
視点から指摘を受けて、自分たちのプレイを
今日は、自分の納得のいくプレイができて本当
見直すよいきっかけとなった。こうした中で、
によかったです。前の時間には悪戦苦闘したディ
一度自分たちのプレイを見てみたいという声
フェンスも今日のゲームではしっかり整ったし、
があがった。そこで、第9時では「学びの吟
オフェンスの方もしっかりできました。初めてゲ
味」の手だてとして、ゲームを振り返り、作
ームをしたときは、チームワークが悪くてなかな
戦を練り直すために、各チームに前時のゲー
かパスがつながらないのが難点だったけど、だん
ムを撮影したビデオテープを配布した。
だん作戦を立ててやっていくうちに、みんながみ
んなのことを考えて、周りが見えるようになった
からそういう問題もいつのまにかなくなっていて、
チーム全体で成長できたのだと思います。今日の
ゲームは今までの中で、一番燃えました。
(夏美の第12時の授業日記)
夏美の授業日記から、チームとしての達成
感がうかがえる。一人一人の特長を生かし、
チームプレイの中での役割を明確にすること
どのチームからも、作戦通りのチームプレ
で、チームプレイを楽しむことができた。
イが見られたときには歓声が上がった。しか
「チーム全体で成長できたのだと思います」
し、
思い通りにプレイできていない場面では、
という夏美の言葉が光る。
− 103 −
保
健
体
育
科
「めざせぼくらのワールドカップ」
3年単元「Enjoy BallgameⅢ」
(1)淳子の単元まとめより
わたしは、最初、サッカーは男子しか楽しめないと思っていました。でも、女子だけのゲー
ムの時にボールを蹴ることができたりすると、わたしたちでも楽しめるんだと思いました。ビ
デオで自分たちのゲームを見てみると、ボールに集まりすぎていることや、あまりボールにさ
われていない子がいることがよくわかりました。そして、それがきっかけで、どうしたらパス
がつながって、シュートが決まるのか考えるようになりました。
男子のゲームを見ていると、悟君や洋平君はキックのコントロールやパスの受け取り方がと
ても上手でした。ある日の授業で、雅子さんが「男子と混成チームでゲームがしたい」と発言
しました。わたしは「ちょっと怖そうだけれど、いろいろ教えてもらえそうでいいかもしれな
い」と思い、賛成しました。結果的にはこれがとてもよかったと思います。まず、チームの友
達からゲーム中にたくさん声をかけてもらうことができました。特に、ポジションのことやパ
スの受け渡しについてのアドバイスがあったからこそ、
「次はこうするといい」と自分で考え
ることができたのだと思います。また、実際にプレイをしてみんなで作戦を立てたことも、自
分の役割がはっきりして、動き方もよくわかりました。
まとめのゲームでは、相手チームの特長もわかってきたの
で、作戦板を使ってポジションや動き方について話し合いま
した。実際に、作戦通りに自分から動いてシュートが入った
瞬間は、チームのために貢献することができて、充実した気
持ちになりました。自分が入れたシュートじゃなくても、チ
ームの仲間が得点を入れるととてもうれしかったです。それは、相手からボールをカットした
人、パスをつないだ人、シュートを決めた人……。チームのみんなが自分の役割を果たした成
果だからです。チームのみんなで協力してチームワークを高め、攻め方や守り方を工夫できた
ことが一番よかったです。
また、ワールドカップと同時にできたこともよい刺激になりました。それまであまりサッカ
ーに興味がなかったのに、ワールドカップの試合を注意して真剣に見るようになりました。ボ
ールを持っている人の動きはもちろんですが、まわりの選手の動きやディフェンスのしかたや
立つ位置などはとても参考になりました。先生もワールドカップのビデオを使ってスルーパス
と壁パスについて見せてくれました。わたしもまねして取り入れてみましたが、実際にスルー
パスが通ってシュートが決まったときは、ワールドカップの選手になったような気分でした。
わたしたちのチームはまとめのリーグ戦で3位だったけれど、パスのしかたやシュート力、
ディフェンスのしかたなどは上達したと思います。チームの
みんなで協力してボールをつなぎ、一人一人がそれぞれの役
割を果たすことの大切さを感じました。これからも、クラス
のみんなでいろいろなスポーツを楽しんでいきたいです。
− 104 −
(2)単元の構想表
過程
出
会
い
手 だ て
「魅力の発見」
サッカーをしてみた
いという気持ちを高め
るために、ワールドカ
ップサッカーの名場面
集をビデオで紹介し、
それを伝える新聞記事
を提示する。
「夢の構築」
ゲームを通して一人
一人の問題や課題を見
つけさせるために、子
どもたちにどんなチー
ムをつくりたいか問い
かけ、役割分担ができ
るようにノートを配付
する。
分析① {
「魅力の発見」
一人一人の個性を認
めながら、だれとでも
協力してゲームを楽し
んでいこうとする気持
ちを高めるために、男
女混成チームでゲーム
をしたいと考えている
雅子の意見を紹介す
る。
分析② {
味
わ
い
世間はワールドカップの話題で
一色だけれど、一流のプレイは
すごい迫力だね
「志向の共感」
試しのゲームでの技
能の高まりと課題や、
チームの特長を明確に
してまとめのゲームに
取り組むことができる
ように、作戦が工夫さ
れているチームのアイ
デアを紹介する。
抽出生への支援と育てたい姿
ぼくたちも世界の一流選手のよ
うなプレイをまねしてやってみ
たいな
友達と協力してサッカーがやってみたいな 1
中田選手みたいに
華麗なパスを通し
てみたいな
「夢の構築」
伸ばしたい技能や役
割を明確にして練習に
取り組んでいくことが
できるように、技能チ
ェックカードを配付す
る。
高
ま
り
子 ど も の 考 え ・ 思 い
ロナウド選手みたい
に強烈なシュートを
決めてみたいな
足で自由にボールを
扱うのは思ったより
難しそうだな
自分や友達の力を知るためにゲームがやりたいな
2・3
体力差があるから
男女別でのゲーム
がしたいな
シュートが決まった
よ。もっと得点を決
めたいな
ボールに人が集まり
すぎて思ったように
蹴れないな
思うようにボール
をコントロールで
きないな
いろいろな位置から
積極的にシュートを
打ってみたいな
一人一人のポジショ
ンを考えてみようか
な
「魅力の発見」
興味をもって取り組み、
個人の課題を設定しやすく
するように、ワールドカッ
プのどんな場面が印象に残
ったか問いかける。
「学びの吟味」
ゲームの様子について気
づいた点を発表させ、思う
ようにプレイできない原因
を考えるように助言する。
育 て た い 姿¦
自分たちの能力や思いに
ついて知り、今もっている
力でサッカーを楽しもうと
する。
自分のやりたいプレイができるようになりたいな 4∼6
相手を抜くような
ドリブルはどうす
ればできるように
なるのだろう
正確なパスやボール
コントロールができ
るように練習したい
な
インステップキック
が思うようにできな
い。上手な人に教え
てほしいな
ビデオや本を参考にして、ドリ
ブルやパスの仕方といった基本
的なプレイを身につけたいな
サッカーの上手な友達のプレイ
を見たり、アドバイスをもらっ
たら、強いシュートが打てたよ
練習ではできるようになった。
ゲームの中でも試してみたいな
友達と協力したチームプレイも
身につけていく必要があるね
いろいろな人と協力してゲームができるように、男女混成チームでも
やってみたいな
「学びの吟味」
友達と協力しながら意欲
的に追究が進められるよう
に、同じ目標を設定してい
る子や技能の上手な子を紹
介する。
「夢の構築」
男子と一緒にゲームをし
たいという思いを高めるた
めに、そのように考えてい
る友達の声を紹介したり、
技能の伸びを認めたりして
自信をもたせる。
育 て た い 姿§
友達とサッカーをするこ
とを通して、自分の思いを
実現させ、協力して取り組
もうとする。
互いのよさを生かしながらゲームを楽しみたいな 7∼10
一人一人の特長に
あったポジション
を工夫する必要が
あるぞ
練習したことがゲー
ムの中でもできるよ
うにパスやシュート
を試してみたいな
チームの特長を生か
した作戦を生かして
ゲームでは勝ちたい
な
守備と攻撃の役割
分担をはっきりさ
せるといいね
できなかったプレイ
は原因をはっきりさ
せて、次のゲームに
生かしたいね
パスのもらい方を工
夫してみたら、シュ
ートをたくさん打つ
ことができたよ
これまでの学びを生かし、3Dのワールドカップをしよう 11・12
パスやシュートがねらえるようになったし、作戦も工夫することがで
きて楽しかった。これからも、みんなで協力できるスポーツをもっと
やってみたいな
− 105 −
「学びの吟味」
空いたスペースに走り込
んでボールをもらうことを
意識させるために、ワール
ドカップのビデオを見て気
づいたことを参考にするよ
う助言する。
育 て た い 姿¨
技能の向上や友達とのか
かわりを通して、サッカー
の特性にふれる楽しさを自
覚し、自分なりの思いをも
っていろいろな運動に取り
組もうとする。
保
健
体
育
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 今までの球技の経験や授業の中で身につけた能力を生かして、自分に適しためあてや運
動内容を工夫し、意欲的にサッカーに取り組んでいこうとする。
§ 学級やチームの友達とのかかわりを通して、練習のしかたやチームのめあて、作戦を工
夫して互いに高め合おうとする。
¨ サッカーを通して技能の向上や自分なりの楽しさを感じ取り、進んで運動やスポーツに
かかわっていこうとする。
(4)子どもの学び
すると、子どもたちは、自分がやってみたい
自分のやりたいプレイができるように
なりたいな
技能ごとにドリブルやパス、シュートの練習
(分析①)
に取り組み始めた。そして、練習したことを
ボールに集まりすぎている子どもたちに、自
ゲームの中でもやってみたいという様子が見
分たちのゲームの様子をビデオ視聴させた結
られるようになってきた。また、自分にでき
果、「一人一人のポジションをしっかり決め
ない項目があると、すでにできた子に対して
た方がいい」という考えが見られるようにな
「どうしたらできるようになるの」と技のポ
ってきた。子どもたちはさっそくポジション
イントを教えてもらうような様子も見られる
や動き方について話し合いを始めた。ポジシ
ようになってきたのであった。
ョンが決まると、一人一人のゲーム中の役割
チームに関係なく取り組んだ個人練習で
も決まってくる。ドリブルや正確なパスやデ
は、子どもたちは自分のチーム以外のさまざ
ィフェンスのしかたなど、伸ばしていきたい
まな子とかかわりながら技能を高めていくよ
個人的技能もさまざまになった。FWのポジ
うになっていった。そして、上手な子がパス
ションになった淳子は、「シュートを打ちた
を出し、友達が打ったシュートに対してアド
い」という思いをもつようになった。
バイスしたり、シュートやドリブルの手本を
そこで、第4時では、「夢の構築」の手だ
示したりする様子も見られるようになってき
てとして、伸ばしたい技能について明確な課
たのである。シュートの練習に取り組む淳子
題をもって練習やゲームに取り組むことがで
は、洋平からパスを出してもらっては、意欲
きるように、技能チェックカードを配付した。
的に練習に取り組んでいた。そして、その日
の授業日記に次のように記述した。
今日はインステップキックを使ってシュート練
習をしました。洋平君のパスは、シュートが打ち
やすいように転がったボールで、しかも、わたし
が走ってくる位置に正確に出てくるので、とても
やりやすかったです。ゲームでもこんなパスがも
らえたらいいな。
(淳子の授業日記)
サッカーの経験が少ない女子のゲームで
(淳子の技能チェックカードより)
は、友達を生かすようなプレイを期待するこ
− 106 −
とはなかなか難しい。淳子の授業日記からは、
込み、そこにボールを出している」という意
洋平とのかかわりを通して、自分が満足する
見が出された。そして、これが契機となり、
シュートが打てた喜びをうかがうことができ
チーム練習では壁パスの練習や、空いている
る。このように、さまざまな子とかかわりな
スペースやフリーの仲間を意識しての練習が
がら練習に取り組ませたことは、最初は怖い
見られるようになってきた。また、作戦板を
からゲームは男女別がいいと思っていた子に
使って攻めと守りの配置を考えて、一人一人
対しても、徐々に男女混成チームでもゲーム
の役割を明確にしたチーム独自の作戦の工夫
をしてみたいと思わせるような結果につなが
も見られるようになってきたのである。
った。また、練習やゲームの中で、友達から
称賛される子の数も増えてくると、サッカー
の経験が少ない子でも自信をもってゲームに
参加するようになっていった。これは、友達
とのかかわりを通して満足感を味わい、互い
に技能を高めていこうとしているものであ
り、姿§に迫ることができたと考えられる。
互いのよさを生かしながらゲームを楽
しみたいな
チームのFWとしてゲームに参加していた
(分析②)
淳子も、「スペースに走り込んでシュートを
まとめのゲームでは、一人一人の個性を認
打つ」というめあてを設定し、相手ディフェ
めながら、だれとでも協力してゲームを楽し
ンスのいない場所に走り込んでは、仲間の伸
むことができるように、「魅力の発見」の手
明からパスをもらってシュートをねらう場面
だてとして、「男女混成のチームでゲームが
が何度も見られた。また、他のチームの亜希
したい」という雅子の意見を紹介した。する
穂からも、「ボールを持っていないときの淳
と、「ぜひやりたい」という声が多く聞かれ
子さんは、よく動いているし、声も出ていて
た。そこで、子どもたちは6つの男女混成チ
すごい。わたしもあんな動きができるように
ームを作り、取り組むことにした。しかし、
したい」と淳子の動きを認める授業日記が書
みんなで協力してパスを中心としたゲームを
かれるまでになったのであった。
しようとする様子は見られるものの、相手が
今日はボールを持っていないときの動きに注意
してみました。わたしが走ったところに伸明君が
パスを出してくれたので、シュートを何本か打つ
ことができました。でも、決まらなかったので、
次は絶対にシュートを決めたいです。
(淳子の授業日記)
取りにくい強いボールや、はずんだパスが多
く見られ、ボールをつないでシュートまで結
びつける場面がなかなか見られなかった。
そこで、
「学びの吟味」の手だてとして、パ
スのしかた次第でボールがつながることに気
づかせるために、スルーパスや壁パスが得点
淳子は仲間の協力もあり、シュートを打つ
につながったワールドカップの試合をビデオ
喜びを味わうことができた。そして、「絶対
で紹介した。自分たちのゲームの様子と比較
にシュートを決める」という意欲にあふれて
して提示したこともあり、子どもたちからは
いる。これは、技能の向上や友達とのかかわ
「ラストパスは仲間がシュートしやすいよう
りを通してサッカーの楽しさにふれ、もっと
にグラウンダーのパスになっている」「空い
やってみたいという気持ちの現れであり、姿
たスペースにボールを持っていない人が走り
¨が表出したものととらえることができる。
− 107 −
保
健
体
育
科
〈この一手〉
「学級のオリジナルダンスをつくろう」 1年単元 【クリエイトⅠ】
ヒップホップダンサーみたいに踊りたいな
「現代的なリズムのダンス」を取り上げた単元。「踊
る」「つくる」「鑑賞する」それぞれの場面での多彩な
かかわりを通して、学級全体でひとつのダンスづくり
を目ざした。ダンスの未経験者が多いことや思春期の
中学生という実態を乗り越え、「やってみたいな」とい
う思いをもつことができるように、導入段階でプロの
ヒップホップダンサーを招いた。ダンスの技能を教え
てもらうだけでなく、ダンスにかける思いも語っても
らった。なかなか体を動かせなかった子どもたちも、
プロのダンサーの動きはしなやかだけど、
知らず知らずのうちに汗をかくまで踊ることができた。
ぼくのダンスはまだ、固かった。最初は、
「ダンスは動ききれないから嫌い」と言っていた和雄も
リズムが崩れてうまくできなかった。でも、
熱心に踊り、満足感を得るとともに、ダンスに対する
嫌いだったダンスもいっぱいやれて楽しか
意欲を高めることができた。自分たちの「学級のオリ
った。また、教えてもらいたいな。
(和雄の授業日記)
ジナルダンス」が完成したら、このダンサーに見ても
らいたいなという子どもたちの声が聞こえてきた。
「ダンス・トラディション」 3年単元 【クリエイトⅢ】
高校生のビデオレターに歓声
「創作ダンス」を取り上げた単元。本校の体育大会に
おける和太鼓を使用した応援合戦にヒントを得、和太
鼓の響きのよさを創作ダンスに盛り込むことを目ざし
た。和太鼓の音づくり、動きづくりのアイデアは出る
ものの、実際の動きには結びつかず行き詰まった時、
美雪の提案で、高校生のダンス部の先輩5人を招くこ
とになった。この交流を通して、子どもたちは動きづ
くりに自信がもてるようになった。先輩たちのアドバ
イスを生かし、中間発表会に臨み、そのビデオを先輩
に送った。先輩たちには、ビデオレターとして、各グ
貴重なアドバイスをありがとうございま
ループごとにメッセージを送ってもらうことをお願い
した。まだまだ、踊り足りない気がします。
した。そのビデオが届いた。子どもたちは、歓声をあ
わたしたちのグループは和太鼓を生かした
げビデオに見入った。ビデオレターにより、課題を明
ダンスはおもしろいから、もう1回やりた
確にした子どもたちは、本発表に向け、動きづくりの
仕上げに入った。単元を終え、先輩たちにお礼の手紙
を書く美雪がいた。
− 108 −
いと言っています。先輩たちが、ダンスの
楽しさを何倍にもしてくれました。
(美雪の先輩たちへの手紙)
[出会い・交流 アラカルト]
「多くの人たちと交流したい」このような子どもたちの願いを受けて、わたしたちは、この4年
間の実践の中で、さまざまな運動分野の専門家や社会体育でスポーツに取り組んでいる人と積極
的に交流をしてきた。多くの人と出会い、子どもたちは、その人たちの思いにふれたり、技能を
身につけることによって、自分と運動やスポーツのかかわりについて考えることができた。ここ
では、さまざまな出会いを紹介する。
「ホップ・ステップ・バスケットボール」
1年単元 【Enjoy BallgameⅠ】
車いすバスケットボール選手との出会い
「みんなが楽しいバスケットボール」「勝つことだけが
目標?」をキーワードに、ゴールを大きくしたり、ル
ールを変更したりしてバスケットボールの追究を進め
た。単元のまとめでは、車いすバスケットボールの選
手と試合をした。選手たちのすばらしいプレイの連続
に驚きを隠せなかった。「自分なりに全力で取り組むこ
とが大切」という選手のことばに感動した。
「いつでもどこでもインディアカ」
1年単元 【Enjoy BallgameⅠ】
インディアカチームとの出会い
初めは簡単そうに見えたインディアカ。しかし、実
際にやってみると、サーブが入らない、パスが続かな
いという状態。何とかパスをつなぎたいという子ども
たちの願いを受けて、地域のインディアカチームに来
てもらい、ともにプレイする機会をもった。仲間意識
や技能面でのアドバイスをもらった。単元の最後には、
このインディアカチームに試合を申し込んだ。
「タスポニー・タクティクス」
3年単元 【Enjoy BallgameⅢ】
タスポニー協会の人たちとの出会い
名古屋生まれのニュースポーツで、扱いやすいスポ
ンジボールを使用するタスポニー。協会の人たちの本
格的なゲームを見ることで、子どもたちの戦術を工夫
しようとする気持ちが高まった。協会の人たちとのゲ
ームでは、2点しか取れなかったが、その得点は自分
たちの戦術が生きたものであり、満足できた。協会の
中学生の大会に参加してみたいと思うようになった。
− 109 −
保
健
体
育
科
技術・家庭科
しなやかな知恵で
生活を創る
1 文化創造に向けて
現代の社会生活・家庭生活にとって一番必
は、実際の生活場面で起こる問題に対して、
要なことは何か。それは、生活そのものを成
柔軟に対処する判断力や実践力がともなうの
立させるために、また一人一人が、物心共に
である。そして、
「生活を創る」とは、変化の
豊かな生活を送るために、その基礎となり将
激しい社会の中で、人が人としてのあり方を
来に渡って受け継がれるべき、ものの見方・
見失なうことなく、
「しなやかな知恵」を発揮
考え方であるといえるのではないか。
し、理想の生活を築こうとすることである。
現実の社会に目を向けると、日ごとに変化
3年間の技術・家庭科のカリキュラムを学
するコンピュータ技術に代表されるように、
んできた美沙は、次のような思いを語った。
ますます時代の変化は加速化されていく。完
「動く場面が完成したとき、何とも言えない
成された組織や自動化されたシステム、コン
達成感や感動がこみ上げてきました。互いに
ピュータでの管理の中で、何ら疑問をもたず
工夫を教え合ったり、しくみを追究して、何
にいることで、知らず知らずのうちに人知の
とか完成させようと、必死におもちゃ屋さん
及ばないことになっていたり、人と人との間
まで足を運んだ経験は、わたしの支えになっ
に溝が生じていたりする。科学技術の進歩は
ています。今の世の中は機械やコンピュータ
ありがたいことであるが、技術に振り回され
があふれています。3年間の技術・家庭科の
ることなく情報を正しくつかみ、必要に応じ
授業を通して、人の手によって作られるもの
て選択・加工する能力は、今まで以上に求め
の素晴らしさや先人から受け継がれてきた技
られている。
術と、ものに込めた意志の偉大さを感じまし
そのためには、どの時代にも通用するもの
た。今後、科学技術がどんなに発展しても、
の見方・考え方そのものを科学し、不易な教
人の手によって作られる温かさを感じていけ
育として確立する必要がある。そうした意味
る人になりたいと思います。わたしたちが、
において、技術・家庭科のこれからめざす方
これからの社会を築く上で大切なことだと思
向は、生活の中から生まれた問題意識をもと
います」
に、問題解決をすすめ、学びを生活に生かす
態度を育てることにある。
美沙は、将来の文化創造に向けて、技術・
家庭科の学習を通して、学びのネットワークを
そこで、技術・家庭科の教科テーマを「し
築く子どもの姿を、着実に具現化しつつある。
なやかな知恵で生活を創る」とした。
「知恵」
上述のように、教科テーマをもとに取り組
とは、具体的な生活場面で直接的に役に立つ
むことで、子どもたちが将来「文化創造」を
知識や技術を意味する。
「しなやかな知恵」に
担ってくれるという手応えを感じた。
− 110 −
2 技術・家庭科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
子どもたちは、問題解決的学習過程を進め
る上で、さまざまな壁にぶつかる。そして、
その壁を乗り越えるために必要な知識や技術
を求めようとする。そこで子どもたちは、自
分の内と外に学びを広げ、単なる知識や技術
を「しなやかな知恵」にまで高めていく上で
重要なものの見方・考え方を学ぶのである。
その実現のために、技術・家庭科では、
「学びのネットワークを築く子どもの姿」を、
次の3つとした。
a これまでのさまざまな知識と技術を結びつけようとする姿
情報化社会の中で、変化の激しい社会生活・家庭生活を送る子どもたちにとって、
そのつど身につけてきた知識や技術は、自分の中で体系的に結びついていることばか
りではない。子どもたちが、追究の段階でそれまでに自分の中で別々に身につけてき
た知識や技術を結びつけていこうとする姿である。
b 生活に役立つ知識や技術をまわりとかかわりながら求めようとする姿
子どもたちは、問題解決の途中で必ず壁にぶつかる。自分一人の力で解決の糸口を
見つけられないときや自分の思いを確かめたり、修正したりする場面で、まわりの
人・こと・ものにかかわりを求めようとする姿である。
c 学んだ知識や技術をもとに生活のあり方を考えようとする姿
これまでに学んだ知識や技術をもとに、これまでの自分を振り返り、今の自分とこ
れからの自分をつなげ、真に豊かな生活を築くために大切なことを確認したり、生活
の中での新たな課題を見つけたりすることで、よりよい生活のあり方を考えようとす
る姿である。
− 111 −
技
術
・
家
庭
科
2
教科カリキュラムの構想と編成
3年間の教科カリキュラムを編成するにあ
せる。また、学びのネットワークを築く姿を
たって、技術分野と家庭分野のそれぞれにつ
具現化する上で、基盤となる3つの姿につい
いて、子どもたちの発達段階を考慮するとと
て子どもたちの認識を深めさせる。3年生で
もに
「学びのネットワークを築く子どもの姿」
は、追究の総まとめとなるものづくりを展開
の具現化を図ろうと考えた。
する。そして、3年間を通して「人・こと・
1・2年生においては、基礎単元と発展単
元に分け、「しなやかな知恵」を身につけさ
もの」のかかわりを高めていく教科カリキュ
ラムを構想した。
技 術 分 野
家 庭 分 野
① 1 ・ 2 年 生 に お い て は 基 礎 単 元 と 発 展 単 元 を 構 想 す る。
1・2年生の段階は、徐々に知的概念が形成
1年生では、「健康に暮らす」をテーマに自
され創造することに興味・関心が高まる時期で
分自身の生活を見つめさせ、住まい方やよりよ
ある。しかし、確かな知識と技術がなければ、
い食生活に必要な知識や技能を身につけさせ
それを実現できない。そのために1年生は工具
る。2年生では、自分とまわりの人とのかかわ
や工作機械など加工技術の基礎学習に重点を置
りを見つめさせる。家族と自分の関係を見つめ、
き、2年生は電気や機械の学習内容の習得に重
家族や家族以外の人との交流活動を行う。そし
点をおく。そして、それぞれに基礎と発展の単
て、それぞれに基礎単元として必修内容を、発
元を構想し、学習のステップアップを図る。
展単元として選択内容を位置づける。
② 3 年 生 に お い て 、 3 年 間 の 総 ま と め と し て 総 合 単 元 を 構 想 す る。
1・2年生での学習をもとに総合的なものづくりを展開する。技術分野・家庭分野のそれぞれの学習にお
いて、学びのネットワークを築く子どもの姿を具現化するために、総まとめのものづくり単元を構想する。
− 112 −
技術分野 家庭分野
1 年
(70時間)
「技術をつかもうⅠ」
1
学
期
「生活の自立に向けて
力をつけようⅠ(住)」
礎
単
元
「ともに生きる
心を育もうⅠ」
・住まいの機能と役割
・健康に住まう工夫(10)
・自分と家族の関係
・子どもの成長と家族(10)
「ものづくりを深めようⅡ」
・キャビネット図
・ソフトウエアの利用
・製作品の機能と構造
・製作工程
・各種の切削工具と工作機械
の技術習得
・各種素材を使った作品の製
作
(25)
「生活の自立に向けて
力をつけようⅡ(食)
」
3
学
期
「ものづくりを深めようⅠ」
・切削工具(のこぎり挽き・釘 ・電気回路・安全な電気利用
打ち)の技術習得
・電気器具の製作
基
・木製品の製作 (10)
・事故防止 (10)
「技術をつかもうⅡ」
2
学
期
2 年
(70時間)
・栄養と健康
・生鮮食品と加工食品
・調理方法と調理実習
・食生活の見直し
・地域の食材と郷土料理
・エネルギー変換を利用した
作品の製作
・各種工具の技術習得
(はんだごて等)
・機器の保守・点検
・インターネットの利用
・エネルギーと環境
・コンピュータによる制御
発
展
単
元
(25)
3 年
(35時間)
「ものづくりをまとめようⅠ」
・各種の機構のしくみ
・回転運動を伝える仕組みを
利用した作品の製作
・ものづくりの知識や技術の
総合的な活用
・仲間との協力
・ソフトウエアの利用
総
合
単
元
「布を生かして
ものづくりをしよう」
・布の組成表示
・取り扱い絵表示と洗濯
・布の成り立ちと布の性質
・アイロンがけ
・手縫いとミシン縫い
・布を材料とした製作
・誰かのための製作活動
「ともに生きる
心を育もうⅡ」
・幼児の遊び
・幼児の成長
・幼児との交流
・幼児の喜ぶものをつくる
・仲間との協力
・地域の人との交流
(13)
(13)
「ものづくりをまとめようⅡ」
・コンピュータによる制御
・プログラミング
・情報モラル (4. 5)
「ともに食べ、語り合おう」
(25)
(25)
・会食の計画
・会食の場づくり
・献立づくりと調理実習(4. 5)
※ ・各学年ともA・CクラスとB・Dクラスで、技術分野と家庭分野を交代して履修する。
・
「情報とコンピュータ」については、
「技術とものづくり」の中で活用する。
・
(
)内の数字は、50分を1単位とした時間数を表す。
− 113 −
技
術
・
家
庭
科
4 実践の分析
「わたしたち附中家電シュウリーズ」
2年基礎単元【ものづくりを深めようⅠ】
(1)由紀の単元のまとめより
生活の中であたりまえの存在になっている電化製品。今までに電化製品が壊れても、修理
するなんてことは考えてもみなかった。初めの授業で、先生が壊れたトースターをいくつか
の道具を使って直すのを見た。わたしは、すごい、わたしも直してみたいと思った。早速わ
たしたちは、家で壊れたものなどを持ち寄り、自分たちの手で直すことになった。
しかし、わたしたちには何も知識がなかったので、分解するくらいが精一杯。どんなこと
を学ぶ必要があるか、話しあった。そして、先生が使っていた道具類に目をつけ、回路計の
使い方、道具の使い方、回路がどういうしくみになっているのかの3点に注目し、追究する
ことにした。テーブルタップ付き延長コードづくりではビニルコードでテーブルタップと電
源プラグをつないで、一般家庭にあるような延長コードを作ることに成功した。回路計では、
どのように電化製品の中を回路がめぐっているのか
導通検査の方法を学んだ。回路については「電源・
負荷・スイッチ」の回路の成り立ちなどについても
学習した。導通検査をし、電流が流れるかどうかは
わかったけれど、回路についてはまだまだよくわか
らないところがあったので、さまざまな条件にあっ
た回路を組み立ててみることにした。
回路の条件として「2つのスイッチで一つのラン
プをどちらからでも点灯・消灯できる回路(階段
灯)
」など、各班で考えたり、全体で話しあったりするうちに、回路について理解ができた。
このように必要な知識と技術を手に入れたわたしたちは、早速みんなで持ち寄ったり、全
校にはたらきかけて回収した壊れた電化製品を直し始めた。わたしたちの班はトースターと
電気ウォーマーを直すことになり、わたしは電気ウォーマーを直すことにした。電気ウォー
マーは中を開けてみたら導線が2、3本あるだけで結構簡単な回路かなと思っていた。しか
し、この電気ウォーマーの回路は、電源とスイッチが一つになっており、電源プラグをコン
セントに差し込むことが、スイッチ代わりで、発熱体が温かくなるという回路だった。その
ことがなかなかわからなかった。気づくのに時間がかかった。そして故障の原因は、発熱体
と電源コードの断線だということに気づいたときはうれしかった。
わたしたちは発熱体とプラグをつなげようと工夫をしてみたけれど、線の太さが違い、結
線に苦労した。どうしても自分たちの手で直すことができなかったので、先生につなげるも
のはないのか質問してみると、「圧着端子」という部品をくれた。2種類の導線をつなぐの
に便利な部品で中に金属板のようなものが入っており、ラジオペンチでつぶして固定するも
のだった。それを手に入れたわたしたちは、早速その部品を使って2種類の導線をつないで
みた。すると、修理をする前までは温かくならなかった電気ウォーマーが温かくなった。わ
たしたちはとても嬉しくなり、
わたしたちが直したという自信が湧いてきたような気がした。
この単元は、いつも身近で使っている物のことをあまり知らないわたしたちにとっては、
とても新鮮なものだった。みんなで力をあわせてわからないことを追究し、そして電化製品
を修理できるようになってとても楽しかった。また、電気についての危険な点や電気を取り
扱う上で大切なことも学べた。まだまだ電気のことは未熟だけど、これからどんどん力をつ
けてさまざまな電気を使ったものをつくり、もっと電気について詳しく知りたいと思う。
− 114 −
(2)単元の構想表
過程
見
つ
け
る
手 だ て
「魅力の発見」
修理してみたいと
いう意欲をもたせる
ために、実際に、壊
れたトースターを安
全に直して使えるよ
うにするまでの実演
をする。
子 ど も の 考 え ・ 思 い
壊れた電気製品を直すのは面倒だか
ら、新しく買っている。
できれば自分の力で直せたら、粗大ゴミも減らせるし、楽しいだろうな
自分の家には、使えなくなった扇風
機があるけど、直してみたい
「夢の構築」
短絡事故の実際を
通して、修理に必要
な知識と技術を身に
付ける必要性を体感
させるためにテーブ
ルタップを製作し、
点検をする。
回路計の使い方
回路計のしくみ
修理のために知識と技術を身につけよう 2∼6
回路は、電源と負
荷とスイッチによ
り構成されている
ことがわかった
はんだづけやコ
ードの被服をは
がしたり、結線
を練習したい
電流・電圧・抵
抗の関係が、オ
ームの法則によ
って理解できた
回路計で導通
検査をする方
法を身につけ
たい
早く電化製品の修理に挑戦したい
深
め
る
「夢の構築」
電化製品の原因究
明と適切な修理をす
るために、回路見本
を使い、導通検査方
法を確認する。
修理の手順が身に付いて、スムーズ
にやれるようになった。
電源・負荷・スイッチ・導線の各部
の点検から、原因を絞ることだ
自分で直せるものと専門家でないと
直せないものがあることがわかった
安全な範囲で、部品の交換や改良を
してみたい
簡単な回路をもつ電気製品なら、安全を考えて修理できる自信がついた
広
げ
る
育てたい姿¦
それまでの電気製
品に関する知識や技
術を新たな知識と技
術とともに確かなも
のにしようとする。
「学びの吟味」
短絡の現象が実際
にとらえにくい場合
は、わかりやすくす
るための教具をいく
つか提示する。
育てたい姿§
自分の中の電気に
関する知識や技術を、
友達とかかわらせ、
新たな知識や技術を
求めようとする。
修理の仕方について学んだことを試したい 7∼8
分析② {
「学びの吟味」
修理からで学んだ
ことをふだんの生活
といっそうかかわり
を深めるために、屋
内配線の回路をいく
つか用意する。
「魅力の発見」
修理に使う回路計
のはたらきがわから
ない場合、知ってい
る子の考えを聞くよ
うに指示する。
廃品から直せそうなものを探してこ
よう
修理に必要な知識や技術を身につけなければ直す自信がない
道具の使い方
つ
か
む
電気のことはよくわからないので、
電気製品が故障しても触らない
自分も電気製品の修理ができるようになりたい 1
分析① {
抽出生への支援と期待する姿
修理から学んだ保守点検の仕方についてまとめよう 9∼10
回路の見方がわかってき
た、回路を工夫してみたい
これまでの電気に対す
る見方が変わった
屋内配線には安全
ブレーカーがある
今までとくに安全を考えたり、電気製品の中身を知って直そうとしたりしな
かったが、これまでに学んだことは、生活の中で役に立つことが多いことが
わかった
− 115 −
「夢の構築」
修理手順が分から
ない場合は、電源・
負荷・スイッチの順
に点検してから細部
の点検をするように
指示する。
育てたい姿¨
電気の学習で得た
ことを振り返り、自
分自身の知識や技術
の広がりを自覚する。
「学びの吟味」
電流の量を実感で
きるように、実際に
いくつかの電気製品
をブレーカーにつな
ぐ。
育てたい姿¨
電気に関する学習
を振り返り、生活の
中の電気とのかかわ
りを大切にしていこ
うとする
技
術
・
家
庭
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ それまでの自分の得た電化製品に関する知識や技術を、新たな知識や技術とともに確か
なものにしようとする。
§ 電気の安全や電化製品に関する新たな知識や技術を求めるために、友達や専門家にかか
わろうとする。
¨ 電気に関する学習を振り返り、これからの生活の中の電気とのかかわりを大切にしてい
こうとする。
(4)子どもの学び
教師の実演
自分も電化製品の修理ができるように
なりたい
後、子どもた
(分析①)
ちに「自分も
子どもたちは、日常使用している電化製品
電化製品を修
について、意外に関心が低い。スイッチ一つ
理したいか」
で動くのがあたりまえになっており、構造や
と問いかけた
しくみを含め、どのような回路なのか考える
ところ、子どもたちも自分で「直してみたい」
ことも少ない。由紀も同様で、今まで電化製
という反応が多かった。しかし、どのように
品について考えたことはなかった。身近な存
直したらよいか、その知識も技術もないこと
在の電気が、実は遠い存在として、生活の中
に、子どもたちは自信がもてないようであっ
で扱われている状況を改善したいと考えた。
た。そこで、何が修理に必要なことなのか、
そこで、単元の初めに、どの家庭でも使わ
教師の実演をヒントに話し合った。その結果、
れていると思われるオーブントースターの修
回路計による導通検査の仕方やニッパ等の工
理を「魅力の発見」の手だてとして、教師が
具の使い方、回路構成について知る必要があ
修理の実演をしてみせた。
ることに子どもたちは気づいた。由紀は、こ
T :これは何かな。
充男:オーブントースター
T :コンセントにつなぐよ。
(スイッチを入れる。
トースターは動かない。)
T :みんな何か気がついたかな。
美沙:壊れている。
T :そうだね。どこが壊れていると思う。
芳男:発熱体が壊れている。
明美:線が切れている。
T :なるほど、じゃあよく見ていてよ。今から先
生が修理するから。
(子どもたちじっと見ている。約10分後、修
理を終えて)
T :スイッチを入れるよ。
(ブーンという音とともに作動する。子ども
たちの拍手と歓声が起きる。)
(授業記録)
のときの思いを、次のようにまとめている。
知らない道具や言葉をたくさん知りました。コ
ードの中が、たくさんの線でいっぱいになってい
ることに驚きました。今まで時々叩いて直すこと
があるけれど、先生があんなに簡単に直している
のを見て、わたしも専門的に直したいと思いまし
た。そのためにはたくさん勉強しなければならな
いけど、しっかり勉強して直せるようにしたいと
思います。
(由紀の授業日記)
今までの電気製品に対する知識や技術を修
理をすることで、新たな知識や技術を確かな
ものにしようとする由紀の姿¦が見られる。
− 116 −
の様子について、授業の終わりに発表するこ
修理の仕方について学んだことを試し
たい
とになった。修理できたうれしさが由紀を熱
(分析②)
心に説明させた。授業後の日記に次のように
子どもたちは、これまでに回路計による導
書かれている。
通検査、工具の使い方、回路の構成などを学
今日は電気ウォーマーの
修理に挑戦しました。中を
あけたら結構簡単な回路で
あることが見抜けてよかっ
たです。発熱体と電源コー
ドをつなぐ途中が断線して
いたので、どうやって直せ
ばよいか考えました。2本
の線は、太さや材質が違うので結線がしにくかっ
たので、困りました。そんなときに先生から圧着
端子という結線用の部品があることを教えてもら
いました。こんな便利な部品があるんだと感心し
ました。また、電気製品の内部は、コードの長さ
や部品の配置に無駄が無く、コストを下げる工夫
がされていることにも気づきました。充実した時
間でした。
(由紀の授業日記)
んできた。なんとか、修理に必要と思われる
最低限の基礎的知識や技術を習得してきた。
由紀は、これまでの学習を振り返り、次の
ような思いを抱いた。
初めに先生が修理するところを見せてもらった
ときは、自分もやりたいとはいうものの、心の中
ではこんなことできないという気持ちが強かった
です。でも、電気の勉強してきて、回路が少しず
つ理解できるようになったので、難しいことはま
だ無理だけれど、少しでも直すことができればい
いと思います。
(由紀の授業日記)
由紀にとっては、まだ一度も経験したこと
初めての修理への挑戦。由紀は、それまで
のない電化製品の修理である。電化製品内部
の様子すら見たことがない状態であるから、
の知識と技術を自分の中で整理し、活用する
不安があって当然のことである。そこで、基
ことで、電気ウォーマーを作動させることが
礎的な知識や技術を身につけたところで、修
できた。これは、学びのネットワークを築く
理の見通しがもてるように、「夢の構築」の
子どもの姿¦を具現化したものといえる。
手だてによって、電化製品の原因究明と適切
また、回路を簡単に見抜けるようになった
な修理をするために、回路見本を使い、導通
点は、これまでの学習と本時の手だてが効果
検査の確認を
的であった結果であると考えている。
しかし、
する。子ども
「附中シュウリーズ」
たちは、回路
は、これで終わった
見本を使い、
わけではない。マイ
どうやって原
コン制御などが組み
因箇所を発見
込まれた複雑な回路
すればよいか
や、はんだづけを必要とする作業もある。こ
を考え、方法
の授業で、子どもたちは、自分たちの今後の
を整理しながら作業の見通しがもてた。作業
課題を整理した。
その後、はんだづけの仕方を学び、複雑な
の見通しがもて、子どもたちの修理への意欲
回路への対応や、自分の技術を越えた回路に
は高まった。
そこで、あらかじめ配った壊れた電気製品
ついては安全を考え、専門家に委ねる判断力
を修理しようということで、由紀は、電気ウ
を培うことができた。電気が身近に感じられ、
ォーマーの修理を始めた。修理ができるまで
次の発展単元の学習への期待感も高まった。
− 117 −
技
術
・
家
庭
科
「My Memory ∼見つめよう 人とのかかわり」
2年基礎単元「ともに生きる心を育もうⅠ」
(1)愛子の単元のまとめより
「人は、一人では生きていけない」とよく聞く。今までわたしは、人とかかわって生きて
いるなんて考えたこともなかった。この単元で、人とのかかわりを見つめて、いつも自分の
まわりには「人」という大きな存在があることに気づき、本当にその通りだなと実感した。
人間マップを書いて自分にはたくさんの人がかかわっていることに気づいた。いつもは意
識していなかったけど、いろいろな人が自分とかかわり、自分を支えてくれていると思った。
サイレントベビーや野生児の記録のビデオから、育てられ方によっては人間らしい成長が
できないということを知り、自分の成長に影響を与えたものを追究することになった。わた
しが産まれてから今までの成長の様子や、人とのかかわり方などを調べた。親がつけていた
日記を見たり、いろいろな人に話を聞いたりするとこんなこともあったなと思い出すことが
多かった。わたしがいちばん影響を受けたのは、親と一つ違いの従姉。従姉と一緒に行動す
ることで、積極的に行動できるようになったと思い出した。笑ったり、泣いたり、怒られた
り、けんかしたりすることも人とかかわることによって学ぶことだと思う。人とかかわる中
で、まねをすることが自分への影響となり成長するのだと思った。
みんなで自分に影響を与えたものを話し合ったとき、人間形成に一番大事な時期はいつだ
ろうということになった。わたしは中学校の今の時期か幼児期か迷った。「幼稚園の先生の
影響が大きい」「小さいころに人間の土台ができる」という意見を聞いて、母から聞いた
「三つ子の魂百まで」という言葉を思い出し、わたしは幼児期が大切だと考えた。そこで、
実際に近くの聖園マリア幼稚園に行って、幼児を観察することにした。
幼稚園に行って驚いた。今までは、先生の話も聞かずにわ
いわい楽しく自分勝手に遊ぶのが幼児だと思っていた。しか
し、
先生の言うことはしっかり聞き友達を助けてあげていた。
自分もこんなふうだったのかなと思えてきた。また、幼児は、
「大人のまね」をして成長していくのかなと思われる場面が
いろいろあった。先生が違うだけで、クラスの雰囲気や動き
が違っていた。幼児は、大人に大きく影響を受けていると感
じた。親や兄弟としか接していなかったのが、幼稚園に入って先生や友達とかかわっていく
ことにより、社会生活を知っていく。幼稚園はとても大事だと感じた。
幼児期は、社会生活を覚える時期であると同時に人間の土台ができる時期だと思う。表向
きの性格はいつでも変えられる。でも、本当の性格はなかなか変えられない。本当の性格を
決める大切な時期がこの幼児期だと幼児を見つめて確信した。そして、今のわたしはまわり
の人たちがいなければ存在していなかったということや自分も人に必要とされる人間になれ
るということなどを学んだ。
生まれたばかりの赤ちゃんから年をとったお年寄りまで、人間が生きている中で人と人と
のかかわりが不必要な時期はないと思う。支え、支え返すということが、人間社会の中でと
ても大切なことであると思う。小さい従弟のトイレの世話をしたときに「あんたもみんなに
いろいろしてもらったんだから、今度は世話ができるようになってよかったね」と言われた
という良夫君のことばが、心に残っている。
− 118 −
(2)単元の構想表
過程
見
つ
け
る
つ
か
む
手 だ て
子 ど も の 考 え ・ 思 い
「魅力の発見」
自分とまわりの人
とのかかわりを意識
するために、自分を
中心とした人間マッ
プを書く。
tプロⅠでいろいろな人とか
かわりお世話になったね
「夢の構築」
現在までの自分と
家族とのかかわりを
意識するために、親
の態度が子どもの成
長に深くかかわって
いる様子を紹介する
ビデオを見せる。
自分は、家族やまわりの人とどうかかわってきたのだろうか
聖園マリア幼稚園の子にお花の
プレゼントをもらったよ
自分のまわりには、どんな人がいるのかな 1
かかわる人との間には、思い
出が浮かんでくる
いちばんよくかかわっているの
は、家族だ
今の自分はどんなふうにできたのだろう 2
まわりの人の影響で自分が変
化してきたんだと思う
家族の存在が大きいと思う
現在までの人とのかかわりを My Memory にまとめて、誰が自分
づくりに影響を与えたのか見つけよう
自分の成長に影響を与えたものは何だろう 3∼5
深
め
る
「志向の共感」
友達の発表から幼
児期の人とのかかわ
りの重要性をより深
く理解するために、
My Memoryをまと
めた感想をのせた座
席表を配る。
小さいころは、親の影響が大
きいと思った
いつも家族が成長を見守ってい
てくれた
友達や幼稚園や学校先生の影
響も大きいと思った
1歳年上の従姉の存在が私に大
きな影響を与えてくれた
自分にいちばん影響を与えたものはこれだ 6
成長するにつれて、家族より
友達からの影響が多くなった
自分の成長過程には、家族の愛
情や友達や従姉の影響が大きい
小さいころの環境が、今の私
友達の影響の大きい今が、人間
形成に大切な時期ではないか
人間形成にいちばん大事な時期はいつだろう
幼児期が人間の土台をつくる大切な時期だと思う
家族と同じように先生も幼児を
見守っている
分析② { 幼稚園では、家族以外の人と
幼稚園で先生や友達とかかわる
からできるようになったことが
たくさんあるなと思った
のかかわり方を身につけてい
くんだ
広
げ
る
「夢の構築」
家族以外に目が向
いていないときは、
隣の家の子どもとい
つも一緒にいたから
影響が大きかったと
いう隆志の意見をと
りあげる。
「魅力の発見」
実際に幼児の生活
を観察して学びを深
めようとする思いを
もつように、幼稚園
の先生の影響が大き
いという麻子のMy
Memoryを紹介する。
育てたい姿§
幼児期の成長には、
家族だけでなく、い
ろいろな人のかかわ
りが必要であること
を探ろうとする。
幼稚園に行って先生や友達とのかかわり方を見つめてみよう 7∼9
友達とかかわりながら、いろ
いろなことを学んでいる
「学びの吟味」
現在の自分も人に
影響を与える存在に
なっていることに気
づくことができるよ
うに、幼稚園で観察
してきたことをまと
める。
育てたい姿¦
自分とまわりの人
がどうかかわってき
たかを振り返りなが
ら、家族やまわりの
人が自分の成長に深
くかかわっているこ
とを考えようとする。
自分の成長には、家族をはじめいろいろな人とのかかわりが影響
していることを実感した。他の子はどうだろう
分析① { にいちばん影響を与えている
「志向の共感」
幼児の人とのかか
わり方を友だちと協
力して観察できるよ
うに、一人の幼児を
グループのメンバー
全員で観察するよう
にする。
抽出生への支援と育てたい姿
小さい子ほど、まわりの人に大きく影響されるんだ
これからどんなふうに人とかかわっていこうかな 10
自分も人によい影響を与えるようなかかわりをしていきたい
− 119 −
育てたい姿¨
自分の存在が家族
やまわりの人に与え
る影響を考えながら
人とかかわろうとす
る。
技
術
・
家
庭
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 生まれてから現在までの自分と家族やまわりの人とのかかわりを振り返ることで、親や
まわりの人が自分の成長に深くかかわっていることを実感する。
§ 幼児の健全な成長のためには、家族だけでなくいろいろな人とのかかわりも必要である
ことを家族や友だちとかかわりながら探ろうとする。
¨ 自分にとっての家族やまわりの人の存在を見つめ直し、自分も人に影響を与える存在で
あることに気づき、まわりの人とのかかわり方を前向きに考えようとする。
(4)子どもの学び
小さいころ親に厳しくしつけられ、自分の土台
ができた。でも、幼稚園に入って友だちとかかわ
るようになるにつれて、今まで親によいと教えら
れたことが通用しないことが増えてきて、自分が
少しずつ変わっていった。小学校に入ったら、自
己主張しないとやっていけない環境になって、自
分を守るために攻撃的な人間になった。附中に入
ってそんなことをしなくても生きていける安心感
から、以前の本当の自分にもどれたように思う。
だから、人というか自分のおかれた環境の影響は
大きいと思う。
(授業記録)
自分の成長に影響を与えたものはこれ
だ
(分析①)
サイレントベビーや野生児の記録のビデオ
を見せた。親の養育態度が子どもの成長に深
くかかわっていることを知った子どもたち
は、「人からの影響で自分が変化し、成長し
ていくのではないか」という昇司の発言をき
っかけに自分の成長に影響を与えたものを追
究し始めた。愛子は、両親、従姉、小学校の
ころの先生などに自分の小さいころのことを
聞きに行ったり、親が書いていた育児日記を
参考にしながら、自分の成長の様子や人との
かかわりを調べ、自分の成長に影響を与えた
ものを追究し、My Memoryにまとめていった。
友だちの発表から幼児期の人とのかかわり
の重要性に気づかせるために、
「志向の共感」
の手だてとして、My Memoryにまとめた感
想を一覧にして配付した。子どもたちは「誰
にも影響をうけていない」という浩二の感想
教師は、この良亮の発言は、子どもたちが
幼児期に目を向けるきっかけになると考え、
「人間形成にいちばん大切な時期はいつだろ
う」と問いかけた。
「中学生の現在」
「幼稚園
のころ」「幼稚園以前」と意見が出た。
「僕は
幼稚園で友達と遊ぶようになってから今のよ
うな活発な子になった」といつも活発な芳喜
の意外な発言と、「幼稚園の先生のおかげで
今の自分がある」という麻子の発言から、愛
子は、幼児期に目が向き、実際に幼稚園に行
って幼児が人とどんなふうにかかわっている
か観察したいと考えた。
に目を向け、そんなことはありえないと、
中学生の今か、幼児期か迷った。小学校や中学
校で、友だちや先生から影響されたこともあるけ
ど、良亮君みたいに中学生になって小さいころの
元の性格にもどるのだから、芳喜君や麻子さんが
言うように幼児期が自分のもとを作る大切な時期
だと思う。幼児は友だちや先生からどんな影響を
受けているのかな。幼稚園訪問が楽しみだ。
(愛子の授業日記)
次々に自分が影響を受けたものを語り始め
た。良亮は、もの
ごころついてから
今に至るまでに自
分がどんな影響を
受け、どう変わっ
友達との意見交流から、愛子は幼児期にお
ていったのかを次
ける家族以外の人とのかかわりを探ろうとし
のように語った。
始めた。ここには、姿§が見られる。
− 120 −
影響を受け、できるようになったことがある
幼稚園で先生と友達とのかかわりを見
つめてみよう
と自分自身を振り返った。しかし、現在の自
(分析②)
分が人に影響を与える存在になっていること
幼児と人とのかかわり方を友達と協力して
に気づいていない。そこで、「学びの吟味」
客観的に観察できるように、「志向の共感」
の手だてとして、幼稚園で観察してきたこと
の手だてによって、4人1グループになり、
をグループごとに
一人の幼児を観察することにした。観察の視
B紙にまとめさせ
点は、幼児と幼児とのかかわり、幼児と先生
た。そして、発達
とのかかわり、幼児と中学生とのかかわりの
段階ごとに観察し
様子とした。状況によっては、幼児が中学生
てきたことや考え
と遊ぼうとしてくることも考えられるため、
たことを発表し合
必ずグループの一人は、幼児の観察を続ける
うことにした。
ことにした。最初は、教室の中で先生の話を
・体操の時、先生のまねをしていた。
・先生の言うことは絶対!先生の影響力は強い。
・先生に手伝ってもらいながら、自分一人でやろう
としていた。
・おもちゃの取り合いや友達から拒否されること
も、人とのかかわり方を学ぶ経験
・たくさん友達と遊んでいる子は、すでに人との接
し方が身についているのでは?
・集団生活のルールが身についていた。
・中学生のすることに興味を示し、僕たちのまねを
して観察ノートに字を書いてくれた。
・人の成長には、人とのかかわりが必要だ。
・幼稚園で、家族以外の人とかかわりながら身につ
けていくことは大切だ。
・幼児期は、人間として基本的なことを身につける
大切な時期だ。
(各グループの発表内容)
聞く場面であった。
自分勝手に遊ぶのが幼児であると考えてい
幼児に自分のまねをされたり、困っている
た愛子は、先生の話にじっと耳を傾ける幼児
幼児を助けてあげる場面に遭遇した友達の話
の姿にびっくりしていた。水遊びの場面では、
から、子どもたちは、自分も人に影響を与え
先生の指示通りにきちんとルールを守り、友
る存在になっていることに気づいていった。
達と楽しそうに活動する幼児の姿を一生懸命
小さい従弟と遊んでいるとき、トイレの世話を
することになってしまった。それを祖母に言った
ら、「あんたもみんなにいろいろしてもらったんだ
から、今度は世話ができる立場になって本当によ
かったね」と言われた。世話をされ、世話をする。
これは順番だと思う。僕は、世話をする順番にな
ったのだと思った。
(授業記録)
観察していた。おもちゃを落としてしまった
友達を手伝ったり、協力して後かたづけをす
る様子をとらえ、感心していた。
幼児を見ているとあのころにもどりたいと思っ
た。幼児を見ている間ずっとサイレントベビーの
ことを思っていた。わたしが見ていた子の中には、
そんな子はいなかったので安心した。みんなしっ
かりしていてびっくりした。洋服をたたんだり、
年長になると一人でいろいろできるようになって
いることを知った。先生の言うことは、よく聞い
ていた。幼児にとって先生の影響力は大きいなと
感じた。わたしも、幼稚園で先生や友だちとかか
わるからできるようになったことがたくさんある
なと思い出した。
(愛子の授業日記)
愛子は、幼稚園時代に自分も先生や友達の
愛子は、この良夫の発言から「人とのかか
わりは必ず必要。支え、支え返すことが人間
社会のなかで大切なこと。自分も人に必要と
される人間になれるといいな」
と考え始めた。
自分も人に影響を与える存在であることに気
づき、人とのかかわり方を前向きに考えよう
とする愛子は、姿¨に迫っている。
− 121 −
技
術
・
家
庭
科
〈この一手〉
□ 試行錯誤を保障する環境整備
1年発展単元「めざせ!附中マイスター」【技術をつかもうⅡ】
ドイツの教育制度「マイスター」は、将来の国の人材育成システムである。子どもたちは、職
人的な技術習得をする「マイスター」になることの価値を理解し、自ら徹底的に技術習得に挑戦
しようと意欲を高めてきた。工具や機械を4つの専門班(旋盤・ボール盤・弓のこと鉄工やす
り・かんな)に分けた。自分で選択した一つの道具で「この道具だけは誰にも負けない」と徹底
した技術習得をしてきた。そしてさらに、他の道具について
もマイスターをめざすために、順に技術習得に熱を入れよう
としていた。自分の作品を構想通りに仕上げるためには、確
かな技術が必要であることは、子どもたちにも十分にわかっ
ていた。
そこで、教師が行った手だては、「学びの吟味」として、
豊富な材料を用意し、どんどん練習ができ、試行錯誤を保障
する環境の整備である。こうして子どもたちは、自由に遠慮
なく安心して試行錯誤を繰り返し、自分の技術を高めていた。
麻紀も、「授業後に残ってやってもいいですか」というほど、
自分の技術習得に意欲的な姿を見せた。
真ちゅうの丸棒を7.8ミリメート
ルに施削するのは、難しくて何度
も何度も練習しました。こつがわ
かってきたときは、職人さん気分
でした。ボール盤やかんなもどん
どん練習してマイスターをめざし
たいと思います。
□ 難しいものづくりにへ挑戦するきっかけになった模型づくり
3年総合単元「エアームービング」【ものづくりをまとめようⅠ】
生活の中では、空気圧を利用した技術が意外なところで隠れている。空気圧の力で移動できる
ホバークラフトのような乗り物ができたら、これほど技術が生活実感として捉えられる機会はな
い。しかし、子どもたちは、自分たちの力でできるとは思っていない。そこで、「魅力の発見」
として、子どもたちに模型を使って物が浮上する実感をもた
せようと考えた。カップ麺の入れ物に小型のファンと単三電
池を電源として内部に取り付け、ふた代わりにサランラップ
で覆う。それを下側にしてスイッチを入れると、小さなサラ
ンラップの穴から空気が吹き出し、カップを浮かせることが
できた。子どもたちは、物が空気で浮くという原理を体験し、
ホバークラフトへの理解を深めることができた。このことに
より、徐々に「ホバークラフトをつくってみよう」「挑戦し
よう」という気持ちが高まってきた。その後、陽子はこれま
での自分の生活経験からは理解できない技術に対して、魅力
を感じ、積極的に取り組み、自分の知識や技術を高めようと
する姿が見られた。
− 122 −
ホバークラフトは、直接生活の
中で身近なものではありません。
でも模型をつくってみてよくわか
りました。自分たちでホバークラ
フトができたらすごいなあと思い
ます。今は挑戦してみようという
気持ちが強くなりました。
□ 友だちの追究をヒントに具体的な見通しをもつ
1年基礎単元「わたしの快適空間をつくろう」【生活の自立に向けて力をつけようⅠ(住)
】
カーペット敷きの閉め切った部屋でダニ探しを行い、身近な
場所にダニの存在を実感した子どもたちは、自分の家はどうだ
ろうと自分の住環境を見つめた。実際にダニにさされた経験の
ある隆志は、ダニがいない空間が自分の快適空間と考え、噴霧
式殺虫剤を使い、掃除機をかけるという方法を試みた。いろい
ろなダニ対策を調べていくうちに殺虫剤の安全性に疑問をも
ち、「ダニの嫌う風通しのよいところ」を自分の快適空間と考
えるようになった。だが、具体的な換気の方法を考えていなか
った。そこで、個への支援として換気の必要性や効果的な換気
方法について資料集めをしてきた保子に換気方法を紹介させ
今までダニにしか目が向いてい
なくて快適空間がよくわかってい
なかった。保子さんの実験から換
気は簡単にできることがわかっ
た。僕も身近な自然のものを使っ
て具体的な方法を考えていきた
い。
(隆志の授業日記)
た。身近な自然のものを使って具体的なダニ退治・ダニ予防の
技
術
・
家
庭
科
方法を考えようとした隆志は、インターネットや本で調べたり、
家の人に聞いたりした。その結果、隆志は「酢」の殺菌効果や
ダニが嫌う効果に目を向け、酢水で畳を拭き、ダニのいない快
適空間を作ろうと動き出した。
□ 手作り浴衣にこめられた母親の想いが
きっかけになった弟のための浴衣づくり
3年総合単元「ハートフル ソーイング」
【布を生かしてものづくりをしよう】
2年生で学んだ家族をはじめとした自分のまわりの人とのかかわ
りを振り返り、自分以外の人への思いを大切にし、相手を想定した
ものづくりに取り組ませたいと考えた。つくるものは、衣服にこだ
わらず、1年生で学んだ住生活や食生活の場で役立つものでもよい
とする。
「○○さんのために役立つものを作ってあげたい」という思
いをもつことができるように、単元のはじめに、今まで人に作って
もらったものでいちばんうれしかったものを持ってくるようにし、
その思いを語り合い、
「魅力の発見」の手だてとした。裕子は、母親
に作ってもらった浴衣を取り上げ、自分のために一針一針丁寧に縫
ってくれた母の姿がうれしかったと語った。その思いを生かし、去
年の浴衣が小さくなってしまった弟のために、今度はわたしが作っ
てあげようと考え、弟の浴衣づくりに取り組んだ。裕子は、浴衣の
布を利用しておそろいの団扇や巾着袋まで作った。また、iプロⅢ
では追究していた「有松絞り」を生かし、さんじゃく(帯)も作っ
た。すべて手作りのものをプレゼントされ、弟は大喜びで岡崎の花
火大会に出かけていった。その姿がうれしかったと語る裕子だった。
− 123 −
おねえちゃんへ
ぼくのために、ゆかたと
うちわとふくろとおびを作
ってくれてありがとう。花
火大会にきていくのをたの
しみにしているよ。
(弟からのお礼の手紙)
英語科
グローバルな
相互理解を深める
1 文化創造に向けて
世界には多様な価値観をもつ民族が暮らし
分の身のまわりのものにあらためて興味・関
ている。一方では広く受け入れられている価
心をもち、それを受け継いでいくことの大切
値観が、他方では受け入れられないこともあ
さを感じ取ってほしいと考えている。
る。しかし、自分と違う価値観を否定してし
このようにして、21世紀を創っていく子ど
まうことからは、何も生まれない。むしろ世
もたちが、英語によるコミュニケーション能
界各地における国家間の対立や民族紛争をは
力と、地球規模で相互理解を深めようとする
じめとする痛ましい事件を引き起こすことに
心の両面を育んでいくことが大切であると考
もつながってしまう。民族を超え、互いに認
えた。その能力と心をもった子どもたちが、
め合い、尊敬し合うためには、心と心を通わ
やがて「文化創造」の担い手になっていくで
せるコミュニケーションが必要である。子ど
あろうと考え、英語科のテーマを「グローバ
もたちには、異なる独自の価値観に基づいて
ルな相互理解を深める」と設定した。
このような考えをもとに、わたしたちは、
生活している世界各国の人々と手をたずさえ
教科における「学びのネットワークを築く子
ながら生きていってほしいと願っている。
そのためには、まず子どもたちが英語によ
どもの姿」を設定し、後述するカリキュラム
るコミュニケーション能力を高めていくこと
を構想して実践に取り組んできた。そして実
が重要である。自分の思いや考えを相手にわ
践の中で、外国の学校にビデオレターを送っ
かりやすく伝えたり、相手の思いや考えを正
たり、教室に留学生を迎えて日本文化を紹介
確に理解したりする能力を身につけること
したりするなど、積極的に英語を使って外国
が、相手の立場を尊重しようとすることにつ
の人々とコミュニケーションしていく活動を
ながるからである。それとともに大切にして
重視した。こうした学習活動に意欲的に取り
いきたいことは、生活習慣や伝統文化にもと
組む子どもたちの姿に、将来世界中の人々と
づいた世界中のさまざまな人々のものの見
ともに21世紀の世界を創り上げていく姿を見
方、考え方にふれていこうとする心である。
ている。
そして、自国の生活習慣や伝統文化など、自
− 124 −
2 英語科における「学びのネットワークを築く子どもの姿」
わたしたちは、「グローバルな相互理解」
を深めるために、子どもたちの学習意欲の源
グローバルな相互理解
英語によるコミュニケーション能力
となる
「英語でコミュニケーションする喜び」
を大切にしている。子どもたちが、問題解決
的学習過程において学びを深める中で、英語
でコミュニケーションする喜びを体験し、そ
れを基盤として自らの学びのネットワークを
築くことによって、グローバルな相互理解へ
と踏み出していくことができると考える。そ
b 外国人や友達の異なる思いや考えを寛容に受
けとめながら、自分の思いや考えを積極的に英
語で伝えようとする姿
c よりよい英語の表現内容や方法を
正しく把握するとともに、国際的な
視野の広がりを自覚し、自分の追究
に生かそうとする姿
こで、英語科における「学びのネットワーク
を築く子どもの姿」を、次の 3 つの姿abc
のようにとらえた。
a 英語を使う状況を想定し、それにふさわしい
表現を追究していこうとする姿
英語でコミュニケーションする喜び
英
語
a 英語を使う状況を想定し、それにふさわしい表現を追究し
ていこうとする姿
自己のおかれた状況に応じて、自分の思いや考えを相手に
わかりやすく伝えるために、これまで学習した知識を組み合
わせて、自分の思いを込めた言葉としての英語を使おうとす
る。
b 外国人や友達の異なる思いや考えを寛容に受けとめな
がら、自分の思いや考えを積極的に英語で伝えようとす
る姿
相手の思いや考えを、その背景にあるものの見方・考
え方を合わせて理解に努める。また、自分の思いや考え
をどうしても伝えたい、わかってもらいたいと英語を用
いて発信したり、受信したりする。
c よりよい英語の表現内容や方法を正しく把握するとともに、国際的な視野の広がりを自
覚し、自分の追究に生かそうとする姿
英語によるコミュニケーションの追究を深める中で、現在
の自分のコミュニケーション能力を把握したり、外国の人々
のものの見方・考え方を正しく理解したりする。そして、自
国の文化を見直そうとすることで、学習の成果を感じたり、
今後の問題を見出したりする。
− 125 −
科
3 教科カリキュラムの構想と編成
わたしたちは、姿abcを実現するために、
下記に示す3つの要素を単元に盛り込むよう
にカリキュラムを構想した。それぞれの単元
では、3つの要素を含めたスキット、ロール
プレイ、チャットなどの活動を通して、「英
語でコミュニケーションする喜び」が味わえ
る内容を構成する。また、単元の途中や終末
には、それぞれの単元で用いた文型の理解と
運用を確かめる WORKSHOP の時間を設け、
3年間を通した語彙や文型の定着にも配慮し
た。
単元の主なねらい
Ⅱ 自分とは異なる外国の人々の
Ⅲ 自分自身や自分の身のまわり
ものの見方・考え方にふれさせ
のものに誇りをもちながら、外
ることで、自分のものの見方・
国の生活習慣や伝統文化のよさ
考え方を広げさせたり、深めさ
を受け入れていくことで互いの
せたり
する。
思いや考え
すべての単元に盛り込む要点
◇英語を使う必然性
それぞれの場面や状況に応じた適切な表現を身につけるために、子
どもたちにとって英語を使う必然性や知的好奇心を抱くことができる
ようにする。
◇英語を用いたコミュニケーション
英語を用いたコミュニケーションを通して、必要な語彙や文型を身
につけたり、自分とは異なったものの見方・考え方にふれたりし、自
分の学びを深めることができるようにする。
◇異文化理解
外国の人々の生活習慣にふれ、国際理解や国際交流のあり方を考え
ることを通して、自国の文化や生活習慣に関心を抱いたり、自分とは
異ったものの見方・考え方をする人々との共生を考えたりできるよう
にする。
の共有をは
からせる。
Ⅰ 身のまわりのことを英語で表現する活動を通して、英語でコミュニケーション
する喜びを実感させる。
− 126 −
1年(70時間)
Hello, English !
(25)
1
学
期
・英語に親しむ
・英語を学ぶ意義を感
じる
・基本的な発音や強勢
・文字や符号
・簡単なあいさつと慣
用表現、文の組み立
て
Hello, My Friends !
(15)
・日常生活に必要な英
語表現を身につける
2
学
期
・動 詞 の 用 法 と 疑 問
文、否定文
主
な
ね
ら
い
Ⅰ
・代名詞の用法
・疑問詞を用いた疑問
文
3
学
期
・現在進行形を用いた
文
・助動詞を用いた文
・過去を表す文
・外国での生活に必要
な表現を身につける
W
Ⅰ
In Foreign
Countries(15)
W
Ⅱ
W
・外国の風物や生活へ
の関心を高める
・will, mustを用いた文
・if 節、that 節を用い
た文
My Foreign
Friends(15)
・国際交流や国際理解
への意欲を高める
・There is ∼.の文
・動名詞を用いた文
Ⅰ
Ⅲ
W
・異文化と日本文化の
比較を通して、自国
文化への関心を高め
る
・比較級、最上級を用
いた文
3年(70時間)
Japanese Culture
(25)
・外国の人々を招いた
ときに必要な表現を
身につける
主
な
ね
ら
い
Ⅰ
・受動態を用いた文
・現在完了の3用法
W
W
Japan in Asia(15)
Ⅱ
・自国文化のよさの再
発見と相互理解に向
けた意見交流をする
Ⅱ
・疑問詞+不定詞の文
・It is ... for−to ∼の文
W
Ⅲ
We Are
the World(15)
Ⅲ
W
・21世紀の国際理解や
国際交流を考える
・後置修飾を用いた文
・間接疑問文の用法
・関係代名詞を用いた
文
W
Living Together
(15)
Ⅲ
・国際化が進む中での
自分の生き方を考え
る
Ⅲ
・既習表現の総復習
W
W
※ローマ数字は単元の主なねらいを示し、Wは「WORKSHOP」を表す。
※各単元の下段は WORKSHOP で扱う言語材料を示す。
※( )
内の数字は、75分を1単位とした授業時数を表す。
※1年生については、英語入門期であることを考え、より多くの授業で英語に触れさせるために、週2時
間ある75分授業を2つに分け、35分授業2つ、75分授業1つで構成する。特に35分授業では、問題解決
的学習の促進を図る基礎・基本の定着をねらった授業を展開する。
※2、3年生については75分授業の中で必要に応じて WORKSHOP の時間を確保する。
− 127 −
英
語
W
Foreign Culture
(15)
Daily Life(15)
・自分の生活に関心を
もち、外国の友達と
比較する
To Foreign
Countries(25)
・be 動詞の過去形
・SVOO, SVOCの文
・不定詞を用いた文
My Favorites(15)
・コミュニケーション
に対する適切な態度
と意欲を培う
2年(70時間)
主
な
ね
ら
い
科
4 実践の分析
「Let’
s Chat with Simon !」
1年単元「Hello, English!」
(1)美菜の単元のまとめより
最初の授業で、サイモン先生が来てくれることがわかりました。英語は習い始めたばかり
だし、外国に行ったこともないので、外国人と英語だけで会話するのは初めての機会になる
から、不安もだいぶありました。でも、やっぱり楽しみな気持ちの方が大きかったので、家
でもはりきってサイモン先生に質問したいことを考えました。自分では完璧だと思うくらい
練習もたくさんして、1回目のサイモン先生としゃべる日を迎えました。
でも、いざサイモン先生を前にすると、質問とか忘れて聞き
そびれてしまったり、サイモン先生がせっかく質問に答えてく
れたのに、聞き取れずに、あいづちなどもうてなくて会話にな
りませんでした。だから、とてもくやしくて、ベスト3に選ば
れた人とわたしはどんな違いがあるか考えて2回目の目標にし
てやろうと思いました。
ベスト3に選ばれた人とのちがい
※選ばれた人と比べてわたしは声が小さいと思った。
(はっきりした声)
※英文を忘れた時や質問に早く答えを返せないとき、私は間があいてしまったけれ
ど、選ばれた人たちは間をあけないようにしている。
(あいづち)
※わたしはファイルを見てしまったことがあったけれど、選ばれた人たちはファイ
ルを見ずに、相手の目をちゃんと見ていた。
(アイコンタクト)
2回目のときは、上の3つのことを目標にして、会話のマナーに気をつけて練習しました。
練習も工夫できました。ファイルを見ずに友達と一対一で聞いてもらったり、相手の英語を
聞き取ったりできるようにしました。お互いに評価カードを書いて、アドバイスし合うこと
もできました。英文作りも、WORKSHOPで習った「Do you like ∼ ?」がたくさん使えまし
た。先生と練習したときも、緊張はしたけど「はっきりした声」
「あいづち」「アイコンタク
ト」は、気をつけてできました。
そして、2回目のサイモン先生としゃべるときには、わた
しが目標にしていたことは全部できたと思います。緊張して
つかえたりもしたけれど、サイモン先生の言葉がだいたい聞
き取れたことや、少しは会話みたいになっていて楽しくでき
たことには、自分でもびっくりして「ちゃんと成長したなあ」
と思いました。2回目は楽しむ余裕まであるくらい、1回目
よりうまくできたことを実感しました。
言葉がちがっても、
自分の気持ちが伝わるときはものすごくうれしい気持ちになれました。
外国人と話をすることは楽しいと思ったので、他の外国人とも話したくなりました。色々な
国の人たちからその国のよいところを聞いたり、日本のよいところを教えたりしたいです。
− 128 −
(2)単元の構想表
STAGE
手 だ て
「夢の構築」
サイモン 先 生 と
の出会いの場面で
使えそうな英語表
現に気づかせるた
めに、3年生10名
をサイモン・ジュニ
アとして招待する。
E
X
P
L
O
R
E
分析① {
英語を使って外国人と話し
てみたいな
「魅力の発見」
英語で話しかけ
ようとする意欲を
高めるために、「楽
しみにしていた」
という趣旨の話を
サイモン先生に話
してもらう。
分析② {
「学びの吟味」
自分たちのグルー
プに取り入れられそ
うな英語表現や工夫
に気づかせるため
に、「先生の選んだ
ベスト3はどれか」
と問いかけてから、
各グループの英文を
提示する。
サイモン先生にどんな英語で話しかけよう 1
「夢の構築」
聞きたいことを英
語でどう言うのか知
らない場合には、そ
の表現を知っている
子どもを紹介する。
サイモン先生のことを知りたいな
英語で自己紹介してみたい
英語で質問してみたい
出会ったときに使える英語表現を知りたいな
必要な表現がわかってきたぞ
この表現や方法で伝わるか確認したいな
サイモン先生に失礼なマナーだったんだ 5・5.5
思ったより声が
小さかったよ
ファイルばかり見て、相手
の目を全然見てなかったな
一方的に質問ば
かりしているぞ
相手を意識して
はっきり話そう
アイコンタクトを自然にで
きるようにしたいな
あいづちをたく
さん知りたいな
必要な表現を練習しよう【WS】 1) I like music. Do you like music, too?
2) That’s right. / Oh, I see. / Me, too. / I don’t know. etc.
6∼8
もっと工夫してグループで練習したいな 9∼12
それぞれのグループに工夫があるぞ
順番に会話に参加しているよ
実物があると伝わりやすい
グループとして英文を見直そう
自分も実物を準備しよう
育てたい姿¨
交流を振り返り、
よりよいマナーに気
づき、それを自分の
表現に取り入れよう
とする。
「学びの吟味」
英文以外の工夫点
に気づかせるため
に、実物を使ってい
るグループもあるこ
とを指摘する。
育てたい姿§
友達のよいところ
を積極的に取り入れ
ようとする。
イギリスのことがわかったよ
英語で自己紹介や質問できるとうれしいな 13.5∼15
英国人の考え
方を知ったよ
「学びの吟味」
いくつかのあいづ
ち表現に気づかせる
ために、話しかけた
ときに教師が英語で
あいづちをうつ。
他のグループを参考にしたい
グループで質問を工夫したよ
I see.やMe, too.と言えたぞ
科
最後のメッセージの意味は何かな
やっぱり釣りが好きなんだ
聞きたいことを
聞けなかった
自分の英語が通
じてうれしいな
もっと英語を勉強してたくさんの外国人と話したいな
※【WS】は基礎基本の定着をねらった授業を行う WORKSHOP を表す。
− 129 −
英
語
サイモン先生と英語で話せたよ 4
マナーに気をつけてサイモン先生と楽しく話せたよ 13
「志向の共感」
英語で交流する機
会をさらにもちたい
という思いを高める
ために、国際交流の
視野が広がった子ど
もの授業日記を紹介
する。
育てたい姿¦
自己紹介やインタ
ビューに必要な表現
を選び出そうとす
る。
本当にこの英語で大丈夫かな
上手に言えるようになったぞ
サイモン先生と早くおしゃべりしたいな
E
X
P
E
R
I
E
N
C
E
抽出生への支援と育てたい姿
英語を話せるようになりたいけ
れど、本当にできるか不安だな
必要な表現を練習しよう【WS】 1.5∼3.5
1) Hi. I’m ∼. I’m from ∼. I like tennis very much.
2) Do you like tennis? / Do you play tennis? etc.
「学びの吟味」
よりよい会話の
マナーに気づかせ
るために、サイモ
ン先生の目線で撮
影した、会話の様
子のビデオを視聴
させる。
E
X
C
H
A
N
G
E
子 ど も の 考 え ・ 思 い
育てたい姿¨
交流を振り返り、
よりよい英語表現の
必要性や外国人のも
のの見方を知ること
の重要性をとらえよ
うとする。
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ ALTのサイモン先生との交流に向けて、自己紹介の仕方や、Do you ∼ ?などの自分の
知りたいことを質問するのに必要な表現を追究しようとする。
§ 友達やサイモン先生の話す英語を聴き取ろうとしたり、それに対応した自分の考えを英
語で伝えようとしたりする。
¨ 友達同士や教師との練習からよりよい英語表現に気づき、それを自分の表現に取り入れ
ようとしたり、サイモン先生との交流で気づいた外国人の視点や考え方を理解しようとし
たりする。
(4)子どもの学び
に招き入れ、英語で話しかけてもらった。子ど
サイモン先生に
どんな英語で話しかけよう
もたちは、外国人になりきって登場した3年
(分析①)
生たちにとまどいながらも、必死で英語を聞
美菜は本単元に入る前の授業日記に、英語
や外国の人と話すことについて、次のように
き取り、身振り手振りを交えながら習った英
語で答えようとしていた。
書いた。
S. Jr.
S. Jr.
S. Jr.
美菜
S. Jr.
S. Jr.
美菜
S. Jr.
S. Jr.
美菜
S. Jr.
S. Jr.
美菜
S. Jr.
外国に行ったときに英語がペラペラに話せたら
すごくかっこいい。だからそんなふうになりたい。
それに、外国の人としゃべれたら、友達もたくさ
ん増えるし、日本人とはちょっと違った考え方も
いっぱいあって楽しいと思います。外国の人と話
すことに対しては、ワクワク感が70%で、不安感
が30%くらいです。
(美菜の授業日記)
ここには英語を話せるようになりたいとい
う純粋なあこがれをもつ中学1年生の気持ち
が表れている。そんな気持ちを大切にして、
: Hello! I am Simon Jr.
: Nice to meet you. I like English.
: Do you like English?
: Yes.
: I like Mr. Ichikawa.
: Do you like Mr. Ichikawa?
: (笑いながら)Yes.
: (ヒントカードを見せながら)
: Please introduce yourself.
: My name is Mina.(沈黙)
: I see. (ヒントカードを示し)
: Please ask me many questions.
: (沈黙)
: OK. Thank you.
(授業記録)
その後、もうすぐ来校する趣旨をサイモン
本単元を始めることにした。
先輩たちが楽しそうに外国人と交流してい
先生自身が話しかけているメッセージビデオ
る写真やビデオを視聴し終えた子どもたちか
を視聴した。美菜は、新しい単語をノートに
らは、
「僕もやってみたい」「不安な気持ちも
メモし、初めて手にする英和辞書と格闘しな
あるけれど、わたしもぜひやってみたい」と
がら、その意味を知ろうとした。やがて「5
月27日に来校する」
いう発言が続いた。美菜も「少し不安はある
けれど、とても楽しそうだったので、わたし
「自己紹介や質問を
もやってみたいと思いました」という意欲の
してほしい」という
高まりを示す発言があった。
メッセージの内容を
理解した子どもたち
そこで、「夢の構
築」の手だてとして、
は、「I’m Megu.の前に Hi!と言っ て、自己紹
あらかじめ打ち合わ
介をしよう」「写真から釣りが好きみたいだ
せておいた3年生10
からDo you like ∼?で聞きたいけれど、釣り
名を、サイモン・ジ
は英語で何ていうのかな」「自分の好きな音
ュニアと称して教室
楽をサイモン先生も好きか聞いてみたい」と
− 130 −
いう思いから、教科書や辞書を見ながら、必
そこで、次の授業では、「学びの吟味」の
要な英語表現を調べ始めた。これは本単元で
手だてとして、サイモン先生の目線で撮影し
育てたいと考えた姿¦が具現化されたもので
た会話の様子のビデオを視聴することにし
ある。
た。同時に、本単元で身につけてほしいと考
今日はサイモン・ジュニアの人がいきなり来て
びっくりしました。最初に先輩たちの写真やビデ
オを見て、すごくやってみたいと思ったけれど、
いざとなると難しかったです。だから今度サイモ
ン先生が来てくださるときには、ちゃんと会話が
できるようにしたいです。本当の外国人なので楽
しみです。たくさん聞きたいことがあるので、英
語でちゃんと伝わるようにしたいです。
(美菜の授業日記)
えていた「はっきりした声」「アイコンタク
ト」「あいづち」の3つのコミュニケーショ
ン活動のマナーができている子どもをベスト
3として発表し、その理由を考えさせた。
テレビ画
面に映し出
された自分
美菜の授業日記からも、本時で思うように
の会話の様
話せなかった経験やサイモン先生に質問した
子に恥ずか
い気持ちから、「英語でちゃんと伝わるよう
しそうに、
にしたい」という問題意識が芽生えたことが
でも真剣な
読み取れる。
眼差しで見
語
入っていた子どもたちは、「思ったより声が
科
サイモン先生に
失礼なマナーだったんだ
小さくてとても残念だった」「目がきょろき
(分析②)
ょろしたり、ファイルを見ている時間がすご
く長かったりしたことに気づいた」「笑顔が
とても緊張しました。たまにサイモン先生の言
まったくなくて、すごく怖い顔をしていた」
っていることがわからないときもあったけど、「だ
いたいこれかな」と予想して答えました。だから、
「次から次へと質問をするばかりで、会話が
満足度は60%です。サイモン先生は41歳って言っ
単調だった」などに気づくことができた。さ
ていたけれど、意外と若くてびっくりしました。
らに、ベスト3に選ばれた子どものビデオ視
(美菜の授業日記)
聴からは、会話をつなげる方法やあいづちの
1回目のサイモン先生との会話を終えた美
菜の授業日記からは、初めての交流の緊張感
と、ある程度の達成感が読み取れる。他の子
どもたちも同様であった。しかし、子どもた
ちの多くはファイルに書かれた英文を見なが
らであったり、小声であったり、一方的に質
問をするだけであったりした。
美菜 : My name is Mina Sato.
Simon : Nice to meet you.
美菜 : Nice to meet you, too.
(ファイルを見る・沈黙)
When’s your birthday?
Simon : My birthday is January 6.
How about you?
When’s your birthday?
美菜 : May...(隣に聞く)...May 17.
Simon : May 17? Last week?
美菜 : (会話が終わったつもりでほっとして、サ
イモン先生が次の質問をしていることに
気づかない)
(授業記録)
必要性にも気づくことができた。
選ばれた人たちは、みんな会話のリズムがよか
ったので、サイモン先生も、その子たちも楽しそ
うでした。特に、潤次君は、相手の質問、例えば
「Do you like basketball?」ならば、「Basketball?」
と相手の質問を繰り返したり、自分の質問にサイ
モン先生が答えてくれたときには「Oh, I see.」と
言ったり(あいづち)して、とても会話っぽくな
っていました。わたしもぜひやってみようと思い
ます。そして、もっともっと練習して、サイモン
先生に失礼のないようにしっかり目を見て、大き
くはっきりした声で話したいと思いました。そし
て質問の最後に「前と比べてどうでしたか?」と
聞けるくらい自信をつけたいです。
(美菜の授業日記)
ベスト3に選ばれた子どもたちのよいとこ
ろに気づき、それを積極的に自分の英語表現
に取り入れようとする意欲が述べられてお
り、これは本単元で育てたいと考えた姿¨に
迫っている。
− 131 −
英
「Hello, Miho Junior High School !」
3年単元「Japanese Culture」
(1)綾子の単元のまとめより
わたしは最近韓国という国に興味をもっていたので、韓国の人と交流をしたいなあとずっ
と思っていました。ちょうど、そこへ韓国の美湖中学校の人たちから申し出があり、この附
属中学校と交流することになりました。だから、この活動はわたしの今の気持ちにぴったり
でした。
まず、最初に向こうの学校の様子を知るために、美湖中の紹介ビデオを見ました。学校の
様子だけでなく、授業風景も映っていました。美湖中の英語の授業を見たら、みんな英語を
すらすら話していたので、「自分はこんなにうまく英語が話せない。もしも向こうの子に通
じなかったらどうしよう」と不安な気持ちが出てきました。それと同時に、「わたしも韓国
の子と同じくらいきれいな英語を話せるようになりたいなあ」
という気持ちも生まれました。
次に、海の向こうの美湖中の子と、どんな交流ができ
るか、話し合いました。わたしは同じ中学生なのだから、
こちらの学校の様子を伝えたり、向こうの学校の様子を
聞いたりしたいと思いました。まずは、こちらの様子を
そのまま伝えられるということで、ビデオレターにしま
した。でも、ビデオレター作りの経験がなかったので、
練習としてデモテープを作りました。そして、仮テーマ
を「そうじ」「給食」
「クラブ」と決めて、グループ別に
作り始めました。わたしはクラブ班でディベートの活動を紹介しました。最初はすべて英文
で説明しようとしましたが、相手にわかりにくいということで、英文だけでなく相手に伝わ
りやすい方法を工夫しました。例えば、小道具として画用紙を用いて、それに文字を書いて
「This is ∼.」というように使うことにしました。デモテープを作ったことで、ビデオレター
のこつがつかめたような気がしました。
いよいよ本物のビデオレター作りです。私たちのテーマは、「附属中学校の体育大会」で
す。主な工夫は、写真とビデオを取り入れて様子を伝えること、「How was this video?」と、
なげかけの表現を入れたこと、ジェスチャーを入れたこと、などです。英文を何回も何回も
練り直してやってみました。相手も同じ中学生で、同じように外国語として英語を勉強して
いるので、あまり難しい表現や単語を入れることができません。そこでデモテープのときの
ように、難しい単語を入れることなく説明することを心がけ
ました。体育大会の様子もたくさん伝えられて、いいビデオ
がとれたのではないかなと思います。ビデオ撮りは終わって、
あとはビデオを送るだけです。わたしたちのビデオを見ても
らったら、美湖中の子が作ったビデオレターなども、ぜひ見
てみたいです。
これからもまたこういう英語を通しての活動をやってみ
たいです。他国の人と交流しながら、英語が学べるのは楽しいです。eメールもあるし、親
しみのある手書きの手紙での文通もいいと思います。これからも外国のことを知り、日本の
ことと比べてみたいと思います。
− 132 −
(2)単元の構想表
STAGE
E
X
P
L
O
R
E
手 だ て
「魅力の発見」
日本と韓国の交流の意義
について考えるきっかけを
与えるために、ワールドカ
ップの日韓共同開催のパン
フレットを提示する。
子 ど も の 考 え ・ 思 い
英語を使って外国の人と交流したいな
もっといろいろな外国のことを知りたいな
どうしてワールドカップは共同開催なのかな 1
日本と韓国は昔からつ
ながりが深いよ
同じアジアの国として
協力していきたいな
お互いにもっとよく
知り合いたいな
美湖中の子どもたちとどんな交流ができるかな 2
「夢の構築」
ビデオレター作りのこつ
をつかむために、学校生活
紹介のデモテープを作るこ
とをもちかける。
英語でこちらの様子を伝えたいな
抽出生への支援と育てたい姿
同じ中学生だから交流してみたいな
「魅力の発見」
互いに知り合いたい
という思いを実現させ
る方法もあることをア
ドバイスする。
育てたい姿¦
自分なりに伝えたい内
容を考えて、それを英語
で表現しようとする。
ビデオレターを送ろう
ビデオレターのこつをつかむためにデモテープを作ってみよう 3∼5
「学びの吟味」
それぞれの班の作品のよ
さに目がいくように、意見
交流会を開き、それぞれの
作品のよい点を板書する。
分析① {
給食の場面をどう伝
えようかな
そうじは韓国では
どうなのかな
部活動がさかんなこ
とをぜひ伝えたい
それぞれの班に工夫がみられるね
友達の作品にアドバ
イスしよう
説明だけの文だとつ
まらないな
すべて説明しようとする
と表現がむずかしいな
自分たちがいいなと思
ったことをどんどん言
おう
投げかけの言葉があ
るといいね
できるだけ習った文を入
れるとわかりやすいな
「学びの吟味」
それぞれの班のよさ
がなかなか見つけられ
ない場合には、既習表
現を有効に使った班の
原稿を提示する。
自分たちの表現を増やそう
E
X
C
H
A
N
G
E
「学びの吟味」
ビデオ作りのポイント
を確認するために、デモ
テープの発表会で出され
た意見をカードに書いて
提示する。
「学びの吟味」
英語表現をさらに広げ
るために、1年生のとき
に作った日本の文化紹介
文の原稿や2・3年生で
習ってきた基本文型表を
提示する。
分析② {
新出文型や文の組み立てを学ぼう 【WS】 1)「be+過去分詞」受け身の文
2) make ∼ −「∼を−にする」
3)「have+過去分詞」現在完了形の継続用法
6・7
デモテープの経験をもとにビデオレターを作りたいな 8∼10
一人一人の役割分
担を考えてみんな
の力で作りたいな
文をしっかり覚
えて心をこめて
話したいな
ものの説明では、
受け身の文がたく
さん使えるな
習った表現やあい
づち表現を入れた
いな
まだまだ工夫ができそうだな
友達の工夫を知りたいな 11∼13
英文はだいたいできあ
がったぞ
このままの英文で
もわかってもらえ
るかなあ
ハングル語のあいさつ
で始まっているところ
に気づいてほしいな
英文をしっかり覚えて
発音を練習しないと伝
わらないな
受け身の文や現在完
了形も入れると表現
が広がるなあ
Why don t you∼?など、
相手になげかける表現
を入れると親しみをも
ってくれそうだね
英語表現に磨きをかけるぞ
相手になげかける文を入れよう
ビデオレターを完成させよう 14
心をこめて表現したいな
E
X
P
E
R
I
E
N
C
E
「志向の共感」
これまでの活動に達成
感を味わわせるために国
際交流の視野の広がった
生徒の感想を紹介する。
育てたい姿§
他のグループのよい
点を自分たちのグルー
プの作品に取り入れよ
うとする。
できたら返事もほしいな
これからの交流が楽しみだな
※【WS】は基礎基本の定着をねらった授業を行う WORKSHOP を表す。
− 133 −
育てたい姿§
他のグループのアド
バイスを聞き入れ、自
分たちのグループの作
品を見直そうとする。
気持ちが伝わるといいな
ビデオ鑑賞会を開きたいな ビデオレターを送ったこと
をメールで伝えたいな
「魅力の発見」
自分たちの班の足り
ないところが見つけら
れないでいる場合には、
なげかけ表現を取り入
れている班に注目する
ようアドバイスする。
15
育てたい姿¨
自分たちや他のグルー
プの作品を見て、美湖中
の子どもたちとの交流に
思いを膨らませる。
英
語
科
(3)本単元における学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 韓国・美湖中学校へのビデオレター作りに向けて、既習表現を効果的に使いながら、日
本の文化を紹介するのに必要な表現を追究しようとする。
§ 仲間や他のグループのビデオレターのメッセージを見聞し、メッセージにこめられた思
いや考えを寛容に受けとめたり、自分の思いや考えをメッセージに込めて伝えようとした
りする。
¨ 受け手を意識したビデオレター作りを通して、美湖中学校の生徒との交流を深めるよう
とする。
(4)子どもの学び
づかせるために、そうじA班の発表原稿を提
示した。
ビデオレターのこつをつかむためにデ
モテープを作ってみよう
(分析①)
教師:そうじA班の発表原稿を見てどう思いますか。
健弘:習った単語ばっかりです。
良一:…そうじA班の発表原稿の英文を見れば、もう
みんな気づいたと思うけれど、自分が習ったよ
うな言葉とか、表現だとか、単語ばかり使って
あるので、これを見れば、だれでもわかるかな。
美穂:ビデオを見ているときは、何を言っているのか、
およそのことしかわからなかったけれど、今こ
うやってみると、普通に一文一文訳せるわたし
たちが習ってきた英文の文章です。
昌彦:単語も文法も、今まで習ったものが使ってある
だけで、一部で習っていない文がちょっとある
けれど、見るだけだったら、ぼくたちのレベル
で理解できるものです。
綾子:そうじA,B班のように(既習表現の現在進行
形を使って)、今こんなことをしています、と
いう紹介文を取り入れるといいかなと思いまし
た。
(授業記録)
「わたしは今韓国に興味があります。
だから、
韓国の子と交流ができるのは、すごく楽しみ
です」韓国は、綾子が今たいへん興味をもっ
ている国のひとつである。その韓国の美湖中
学校の子どもたちとの交流が始まると聞い
て、綾子の期待は大きく膨らんだ。しかしな
がら、実際のビデオレター作りとなると「英
文にするのがとても難しく、時間がかかりそ
う……」と不安を感じていた。
綾子も意見交流に加わり、現在進行形を使
うと紹介しやすいことを発言した。既に習っ
た表現をうまく組み合わせると効果的である
ことを意識し始めた様子であった。事後の授
業日記には、次のように記してきた。
ビデオレター作りの経験がなかったので、
まずはそれに慣れるためのデモテープ作りが
始まった。仮のテーマとして学校生活を紹介
する「そうじ」
「クラブ」
「給食」の 3 つのト
ピックから 1 つを選んで、デモテープを作る
活動である。綾子の班は、自分たちが取り組
んでいるディベートを紹介することにした。
各班それぞれが、辞書を引き、班で話し合い、
吟味して英文を作った。
ここで「学びの吟味」の手だてとして、意
見交流会を開き、それぞれの班のよい点を発
表し合い、各班のよい点に目を向けられるよ
う、板書した。さらに、英文表現のよさに気
正樹君の意見のように、相手がいることを想定して、
「Hello.」とか、問いかけの文を作ってみようと思いまし
た。発音も、もう少し自然にうまくできるといいと思
います。そうじA班のようにすべて習った文だけで紹
介できるといいです。なるべく美湖中の子にわかるよ
うに工夫しながら紹介したいです。
(綾子の授業日記)
問いかけの文を使うということから、綾子
は単に英語の「Hello.」ではなく、ハングル
語のあいさつ「アンニョンハセヨ」を入れる
ことにした。このようにしてビデオを受け取
る相手の美湖中の子どもたちのことも考え
て、英文表現を広げていくことができた。こ
うしたことから、他のグループのよい点を自
分たちのグループに取り入れようとする姿§
を見ることができる。
− 134 −
全員 :アンニョンハセヨ!
真理子:In our school, we have“Sports Day”in
Sptember.
綾子 :Now we will introduce it.
有利子:Well, please look at these pictures. This is
our sports day of last year.
真理子:We play against in four teams.
綾子 :On sports day, there are many events.
真理子:P l e a s e l o o k a t n e x t p i c t u r e . T h e y a r e
cheering.
由紀子:They shout very cool!
有利子:Now, last one. This is called“haribote”.
綾子 :Haribote is a very big picture. It is drawn
and painted by the students.
Why don’t you make like this?
真理子:Now, please look at the video.
(ビデオが流れる)
綾子 :How was this video?
有利子:Our team will win again this year.
全員 :Bye-bye!
(紹介文の一部)
友達の工夫を知りたいな
(分析②)
デモテープ作りの経験をもとに、実際に美
湖中へ送るビデオ作りに入った。デモテープ
でディベートを紹介した綾子は「やはり学校
生活を伝えたい」ということで、自らが生徒
会活動で取り組んでいる体育大会をトピック
に選んだ。英文を吟味しALTの英文チェッ
クも受けた。何度も練習を繰り返す中で、美
湖中への思いを膨らめていった。
稔 :いいね、アンニョンハセヨがいいね。ハング
ル語のあいさつがいいよね。
秀文:どの写真か指でさしているのがいい。(発表
で使った小道具の写真を指して)
昌彦:ちょっと言葉が速い。言葉をもう少しゆっく
り言わないと相手がわからないから、もう少
しはっきり言ったほうがいい。 (授業記録)
「学びの吟味」の手だてとして、正しく日本
の文化を伝えたり、相手を意識して英文が発
信したりできているかを互いに確認し合うた
めに、中間発表会を行った。
まず、綾子は発表を見る側になった。自分
たちの発表にないものを求めて、綾子はメモ
を片手にブースを回り始めた。彼女は他の班
の発表を見て、「日本の歌」班からは既習表
現の利用、「空手」班からは、聞き取りやす
くゆっくり言うこと、「日本の美」班からは
ジェスチャー、「アニメ」班からは相手を勧
誘する“Why don’t you∼?”や感想を求める
“How was∼?”という相手へなげかける表
現文のことをメモし、それぞれの班のよさを
自分たちの班に取り入れようとしていた。
次は、綾子たちが発表をする番である。感
情表現が豊かで、
相手になげかける
表現を取り入れて
いる「空手」班か
ら意見をもらっ
た。
綾子の授業中での様子や授業記録から彼女
の変容をとらえると、自分たちのよいところ
(アンニョンハセヨのハングル語のあいさつ)
をアピールしながらブース発表し、積極的に
自分たちの英語表現を人に伝えようとする姿
勢が強くなってきたことがあげられる。
また、
相手の美湖中生のことを意識しながらゆっく
りわかりやすく言うことに注意して、再練習
をしようする様子も見られた。
まだ練習不足だということが、身にしみてわか
りました。しっかり覚えられなくて、誰の後に言
うかもまだまだでした。今からもっと改善して本
番はしっかりやりたいです。今日、いろんなアド
バイスをもらいました。特に、昌彦君からの「も
う少しゆっくり相手がわかるように話す」という
アドバイスは取り入れたいと思ったので、みんな
と相談していきたいです。
(綾子の授業日記)
中間発表を設けたことにより、自分たちの
班の問題点が浮き彫りになり、またそれがビ
デオレター作りの
意欲へと変わって
いった様子をうか
がうことができ
る。これらのこと
から姿§を見るこ
とができる。
− 135 −
英
語
科
〈この一手〉
Kids in the World
1年「Daily Life」
「この子はどこへ行くところだと思いますか」
2∼3メートルもありそうな木の枝をかついで歩いている外国の子どもの写真を見せて問いか
けた。「川を渡る」「動物を捕りに行く」などたいへん想像力豊かな答えが返ってきた。「実はこ
の子ども、学校に通学するところです。木の枝は給食用の薪です」そう説明した後、さらにつけ
加えた。「今日は外国からお客様をお呼びしています。外国の学校の様子を直接お聞きしてみま
しょう」この言葉を聞いて子どもたちは喜んだ。
日本と全く違う生活習慣をもつ外国人の話を聞いて、興味をもった里枝は「世界の中学生はど
んな生活をしているか知りたい。外国人にもっと聞いてみたいな」と意見を言った。そして、
「身近にいる外国人から、その人たちの国の中学生の生活を聞けるのでは」という提案から、子
どもたちは外国人を探すことにした。
両親などの協力も得ながら、近所に住む外国人、自分が英
語を習っている外国人の先生などにコンタクトをとり始め
た。外国にホームステイをした経験のある子は久しぶりに手
紙を書いた。里枝は岡崎市の国際交流協会にコンタクトをと
った。このように子どもたちは、聞きたいことを英語にしな
がら、外国の中学生の1日を英語でまとめ始めた。
Hello,Miho Junior High School !
3年「Japanese Culture」
「うわ、なつかしい」黒板に手だてとして提示された 2 年前の自
分の英文を見て、愛子は思わずそうつぶやいた。友達といっしょ
に作った日本の伝承遊び紹介の英文である。1年生のとき、教室
に外国人ゲストを招いて、日本の伝承遊びを紹介した。愛子は
“花札”を選んだ。当時の学びをふりかえって愛子は言う。「1年
の時は、外国の人に日本の遊びを紹介するといっても、外国の人
と接することなんてほとんどなかったし、どんな文にすればいい
のかすごく悩んだ。ゲームはとても楽しくやれたけれど、わたしとしてはあまり満足できないと
ころもあった。“花札”という奥が深くて、ちょっと難しいものを選んでしまって、本当に相手
が喜んでくれたかどうか……。
3年生になった今年、韓国・美湖中との交流がスタートした。まずは、自分たちの紹介ビデオ
を作って送る。eメールの交流も始まる。「3年目に入ると、わたしでも少しは英語がわかるよ
うになってきたのかなと感じる」と語る愛子。「1年生の時と違って、知っている英文の数も増
えたし、相手が韓国人、しかも同世代の人たちだから、ちょっと安心。相手も自分の国の言葉で
はない英語を使うので、わたしたちと同じだし……。まずは楽しくやりたいな。」自分のことで
精一杯だった愛子が、相手の立場を意識したコミュニケーションをとろうとしている。大いなる
希望を乗せて、愛子の英語がいよいよ海を渡る……。
− 136 −
Asian Pop Culture
3年「Japan in Asia」
「Please listen to our conversation. Mitsuhiro, please come up.」日本の若者文化を通してのアジ
アからの留学生との交流に向けて、コンピュータ・ゲームを自分のトピックに選んだ充宏は、
「Hi! I’m Koji.」というあいさつで、アジア人役の教師との会話を始めた。相手の答えを予想して、
Yesの場合でもNoの場合でも、最後には必ず「Let’s play !」という充宏からの誘いで、彼の紹介
するコンピュータ・ゲームを始めることになってしまう教師。自分の英文作りに不安を感じてい
た恵の、「必ず相手にゲームをさせてしまうとこ
ろがすごい!」という意見発表を受けて、「ここ
にその秘密があります」と言いながら、充宏の英
文のコピーを教卓においた。一斉に席を離れて英
文を手にした子どもたちは「相手の答えをきちん
と予想しながら、矢印で会話の流れを組み立てて
英
ある」「自分のペースに相手を引き込んでいる」
語
と、互いに感想を述べ合った。そして、英文をじ
科
っと見つめていた恵は、やがて自分の英文にも、
矢印を書き込み始めた。
Let’
s Enjoy Japanese New Year’
s Day !
3年「Japanese Culture」
日本にホームステイに来ることになった少女の顔写真を、突然
黒板に貼る。「だれ」「外国人なの」「男の子かな、女の子かな」
「中学生かな」など、思い思いの感想が、教室のあちらこちらか
ら漏れ始める。そこで、「彼女から届いたメールです」とだけ説
明して、メールのコピーを配布する。メールを読み始める子ども
たち。教室に置いてある辞書を使い出したり、友達と相談したり
しながら、少しずつ内容を理解し始めた。やがて「外国の人が来
るの」「やった」「いつ」という驚きや喜びの声と同時に、メール
に書かれていた「I would like to know something about your
important event in Japan.」という文から、
「日本の大切な行事って何」「やっぱりお正月だよ」と
いったつぶやきが聞こえ始めた。「ぼくは習字が得意だから、書き初めを紹介したい」「私は年賀
状」「じゃあ、年越しそばを食べさせてあげたい」「グループを作って、紹介するといいかも」子
どもたちは、自分の伝えたいお正月を真剣に考え始めていった。
− 137 −
この子の輝き
「早口の詩人」は、パネルでも語る
オリ合宿実行委員として、パネル(写真「人文字」)づくりに
奮闘したゆみ子。彼女は、いつからかマイトレに詩を書いたカ
ードをはさんでくるようになった。
「先生へ
この詩は、先生が私に言ってくれた『がんばっとるなあ』と
いう一言に心を動かされた詩です。何回も書いちゃってごめん
なさい。また、コメントください。」
実行委員会パネル部会の中心となっているゆみ子は、部会作
業がいよいよ佳境となった連休明け、「色の縁をつけたパネル台
紙」という難問に挑み続け、担当教官の期待と実際の作業状況
の間で押しつぶされそうな気持ちを抱えていた。たたえられる
べき努力を、誇りにつなげてやらねばと感じ、ゆみ子にかけた
言葉への返答であった。
ゆみ子は、自分の思いが学年のみんなに伝わっていかないこ
とにも悩んでいた。
「わたしは、附中に入って40日ぐらいしかたっていませんが、
みんなの前で何回も話しました。でも、わたしは話すのが早く
てよくわかってもらえません。緊張するともっとわけがわから
なくなります。本番が心配です。
」
そんなゆみ子に、彼女の詩が自分にも元気をくれたことを告
げ、研究室の机上に飾らせてもらいたいと頼んだ。心からのこ
とばは、人に伝わるものだという思いを込めながら。
5月19日午後7時、2000枚の写真を載せたパネル文字は見事に
完成した。脚光を浴びる実行委員長。これまで支えてきたゆみ
子たちの指示は、学年全体に確実に伝わっていた。ゆみ子は、
その日、附中生になって初めての涙を見せた。
「み・ら・い・へ」の4文字こそ、「早口の詩人」ゆう子がパネル
に託した、最も短い詩のようだ。
ゆみ子が求めていたコメントは、もちろん、詩の添削指導で
はない。長時間の説話でもない。それは認められていることの
証である。
− 138 −
第 Ⅲ 部
ネットワークプロジェクト
ネットワークプロジェクトの位置づけ
ネットワークプロジェクト(NP)は、わたしたちの取り組んできた
「総合学習」である。そこには、子どもたち一人一人が9教科の学習と
ともに培ってきた思考力や判断力、表現力を総動員し、時間と空間をコ
ーディネートしながら問題解決にあたる学びがある。また、仲間と心を
寄せ合い、力を合わせ、一人では解決できないような問題に立ち向かう
場面もある。
時間運用の面から見れば、NPは、
「総合的な学習の時間」を中心に、
「選択教科の時間」を含めた新しい領域ということができる。本校が、
NPをこのような領域としておさえるのは、この学びが、学校内での活
動にとどまらず広く社会へとはたらきかけ、宿泊をともなうようなダイ
ナミックな活動へとつながる可能性が含まれているからである。
NPに期待される内容は、教師が、ある教科の目標の達成を含めなが
ら総合的に仕組むようなものではない。NPは、より子どもたちの問題
意識に添い、
学びが子どもの中で総体的に形づくられるものなのである。
3年間のNPは、次ページに示すiプロジェクトとtプロジェクトを
交互に繰り返すことにより、個による追究と集団による追究を深めてい
く。そして、NPは最終的にiプロジェクトに戻り、子どもたちは、自
分の学びの生かされ方を確かめることになる。この子どもたちが、将来
の文化創造の担い手となっていくことを、わたしたちは確信している。
3つのネットワークプロジェクト
「学びのネットワークを築く子どもの姿」①∼④のすべての実現が期待
されるNPには、3つの学びが設定されている。
「iプロジェクト」
「tプロジェクト」そして「マイプラン」は、右に示
すような理念にもとづいて構成されるものである。
− 140 −
「i」とは、「個人」を表す英語
iプロジェクト
individual の頭文字である。
一人の人間が独り立ちする姿を
イメージした。
「iプロジェクト」は、個人の追究に重点を置き、子どもたちが学びのネッ
トワークを築いていくうえで不可欠となる追究の主体性を育てることをね
らう。
ここでは、子どもたち一人一人が、それまでの9教科の学習やネットワ
ークプロジェクトでの学びや生活経験や身のまわりのさまざまな情報の中
から、自分なりの追究課題を見つけ、それぞれテーマを設定する。そして、
追究の見通しを自ら設定し、個人追究や友達との意見交流、体験活動や専
門家への取材などを通して、追究に対する基本的なかまえや追究方法を身
につけていく。各学年ともに、1学期から追究を始め、秋の文化祭でその
成果を発表し、学年の枠を越えた交流をおこなう。
「t」とは、「人の集まり」を表
tプロジェクト
す英語 team の頭文字である。
「i」が両腕をのばし、友達と協
力する姿をイメージした。
「tプロジェクト」は、チームを組んで活動することに重点を置き、自分の
まわりのさまざまな人と心を通わせながら活動する喜びを味わわせること
をねらう。そして、iプロジェクトをはじめ、それまでの学習で培ってき
た自分の思いや考え、追究内容をもとにして、互いに思いを共有する仲間
とともに行動をおこすことを願っている。
わたしたちは、tプロジェクトにおいて、子どもたちがよりダイナミッ
クな活動や幅広い追究を求め、自然や社会に対する自己のかかわり方を問
い直していくことをねらっている。tプロジェクトでは、このねらいを十
分に達成するために、追究期間中に宿泊をともなう活動を位置づけている。
マイプラン
「マイプラン」は、子どもたちの知的好奇心や探究心を大切にし、子どもた
ちが自分の時間のつかい方を考えながら、興味・関心を広げたり、深めた
りすることをねらう。
マイプランでは、子どもたちに自分のテーマを設定することは求めず、
自由な活動ができるようにする。これは、子どもたちがゆとりをもってさ
まざまな人・こと・ものと出会っていくことにより、やがてiプロジェク
トやtプロジェクト、9教科の学習の追究活動につながっていくと考えた
からである。また、マイプランは、教科で学習したことをさらに深化・発
展させる機会ともなっていく。
− 141 −
N
P
実
践
ネットワークプロジェクト
3年間で 最後の一人1テーマ
iプロジェクトⅢ
〈3年生1学期∼2学期:30時間〉
3年間の学び
それまでの学びの経験を生かし、活動
教師のアドバイスは少なく、より主体的
これまでのネットワークプロジェクトを通
究」「続けていきたい追究」を実現させる
の中でさらに自分を極め、自分らしい追究
見通しをもった深い追究
iプロジェクトⅡ
〈2年生1学期∼2学期:30時間〉
自身の力で追究の見通しをもち、計画作成の機会も増
していく。
意見交流によって、互いの追究の見通しについて検討し
合い、それぞれがより深い追究へと向かっていく。
人に学び、追究の方法を体得
1学期を起点に、
2学期の半ばにか
けて実践を行う
iプロジェクトⅠ
〈1年生1学期∼2学期:15時間〉
3年間の学びの原動力となる「追究
の楽しさ」を実感するとともに、追究
方法について学ぶ。子どもたちは、人
に学ぶよさを知り、取材訪問や意見交
流を経て追究を深めていく。
2 年
◎文化祭
1学期を起点に、
2学期の半ばにか
けて実践を行う
宿泊をともなう活動
●
2学期を起点に、次年度
初旬にかけて実践を行う
1 年
i
プロジェクト
マイプラン
学年の計画に
より、適宜位
置づけられる
t
プロジェクト
※〈 〉内の数字は、年間の単位
時間を示す(すべて75分授業)
− 142 −
3年間の追究の振り返り
iプロジェクトⅣ
Ⅲ
〈3年生2学期∼3学期:15時間〉
できる最後のiプロジェクト。
に追究の視野を広げていく。
して、「どうしてもやりたい追
ことにより、他とのかかわり
を見つけていくことができる。
3年間の追究を振り返り、今後の自
分の生き方、ありようを考えていく。
1学期を起点に、
2学期の半ばにか
けて実践を行う
◎文化祭
3 年
宿泊をともなう活動
●
◎文化祭
2学期を起点に、
次年度初旬にか
けて実践を行う
よりダイナミックな思いの発信
tプロジェクトⅡ
〈2年生2学期∼3年生1学期:30時間〉
それまでの2年間で経験してきたネットワーク
プロジェクトや9教科の学習における追究の成果
をもち寄り、テーマを決定する。学年や学級の中
で討論することを通して、互いに思いを共有する
多くの仲間とともに追究を深め、よりダイナミッ
クに自分たちの思いを発信していく。
学年テーマを掲げ、仲間と追究
tプロジェクトⅠ
〈1年生2学期∼2年生1学期:30時間〉
iプロジェクトⅠでの個々の追究をもとに学年
の討論会をもち、共通の追究テーマを設定する。
集団への帰属意識が高まり、より広がった人間関
係の中で、ともに活動する喜びを味わっていく。
− 143 −
N
P
実
践
iプロジェクトⅠの実践
1年 iプロジェクトⅠ「ドラッグと闘う」
中学校で初めて出会うネットワークプロジェクト。最初の活
動である i プロジェクトⅠを瑞穂はとても楽しみにしていた。
しかし、調べたいことはたくさんある。いったい何をやってい
くのだろう。
本やインターネットで調べることから始まり、足を運んでの
取材から得られることの大切さを学ぶ瑞穂。iプロジェクトの
楽しさを実感し、取材や追究をどんどん広げていくのである。
1学期のiプロジェクトを振り返って ∼瑞穂の授業日記より∼
1学期のiプロジェクトは充実していたと言える。
しかし、いつも充実していたわけではない。やることがわから
なくて、役に立つかどうかわからないホームページを、ただひた
すらながめて終わってしまった時間もあった。いろいろやりたい
ことはあるのだが、これといったものがなく、資料になりそうな
ものがなんとなく集まっていた。やりたいことが見えるまでにど
れだけ時間がかかったのだろう。やりたいことが見えてくると、
今まで集めた資料の中に、きらきら光るものがたくさん見えてく
る。目的を明らかにすることで見えるとは、こういうことなんだ。
自分のやりたいことを、見つけることは難しい。友達に聞いて
もらったり、友達の話を聞いたりすることによって、互いのやり
たいことがはっきりしてきた。友達がいなかったら、今でもやり
たいことが見えなかったかもしれない。取材訪問も満足のいかな
いものになってしまったかもしれない。
iプロジェクトの一番おもしろいところ、それは、人から直接
話を聞くことだと思う。
第1回目の訪問場所は、警察署に決めた。アポ取りではとても
緊張し、わたしの話がうまく伝わったか心配だった。実際に取材させていただくと、自分でも
驚くほどどんどん話ができてしまう。基礎追究の成果だと思う。そして、そこで得られた情報
は、絶対にインターネットでは得られないものだった。人と会うと、その人の思いの熱さが伝
わってくる。iプロジェクトのおもしろさはここにあるといってもいい。
おもしろさを感じ始めたころに、1学期が終わってしまった。山あり、谷ありの追究だった
が、少しずつ深まっていることを感じる。まだまだ取材したいところはいっぱいある。夏休み
にどんな人の熱さに出会えるかとても楽しみだ。
− 144 −
iプロジェクトⅠの構想のポイント
① iプロジェクトは一人で行う活動ということの認識
② 追究の楽しさの体験
③ 追究のスキルの習得
④ 人とかかわる体験の重視
⑤ 学校外での追究活動の重視
iプロジェクトⅠの主な流れ
流れ
学習したいスキル
オリエンテーション
テーマの決め方
先輩に学ぶ会
資料の収集方法
基 礎 追 求
仮テーマ決定
プレゼンテーションの方法
テーマについての意見交流
意見交流の方法
テーマ決定
取材訪問にかかわる知識や技能
アポイントメント取り
交渉の進め方
追 究
取 材 訪 問
ポートフォリオの活用方法
追究内容についての意見交流
効果的な意見交流のための工夫
発 表 会
効果的なプレゼンテーションの工夫
ま と め
− 145 −
N
P
実
践
それは、「自分の興味関心のあることをや
「iプロジェクトⅠが楽しみだ」
附属中学校に入学して1か月。「この学校
ろう」「取材体験によって得られることはと
でぜひやってみたい活動はネットワークプロ
ても多い」「追究を通してかかわっていく人
ジェクト」と自己紹介する瑞穂のように、入
が大切だよ」の3つであった。瑞穂は、この
学前からネットワークプロジェクトを楽しみ
3つのことを考えながらテーマを考え始めた。
にしている生徒は多い。「先生、ネットワー
クプロジェクトっていつからできるの」は4
月に担任がよく受ける質問である。
瑞穂のネットワークプロジェクトに対する
イメージは「自分のやりたいことを、自由に
追究できる活動」「取材のために遠くまでい
くことのできる時間」などである。断片的な
知識はあるものの、全体のことは見えていな
い。その一方で、やりたいという期待はどん
どんふくらんでいる。
瑞穂の期待するネットワークプロジェクト
「興味あることはたくさんあるけれど」
はオリエンテーションから始まった。
担任から、3年間のネットワークプロジェ
何でもできるのがiプロジェクト。そのか
クトについて説明を聞く。iプロジェクトⅠ
わり、自分一人の責任ですべてを行っていか
へのやる気は十分、興味あることもたくさん
なければならない。人と相談できるが、決め
ある。しかし、いざ、自分のテーマを決めよ
ていくのは自分だ。
自分の本当にやりたいことはいったい何だ
うとすると、何をしていいか迷ってしまう。
自分にどんな追究ができるのかという不安が
ろう。まずは、自分の興味あることを拾い出
心に広がる。
してみた。その結果、「フランス」というキ
ーワードが浮かんできた。フランス国歌はと
そんな中で行われた、「先輩から学ぶ会」
てもかっこいい。そのすばらしさをみんなに
は、瑞穂に次のような思いをもたせた。
も知ってもらいたい。ナポレオンのことも調
瑞穂の思い ※以下網掛け部同じ 】
先輩たちは、自分たちのやってきたiプロ
ジェクトⅠの体験談を語ってくれた。そして、
その先輩たちのまとめた冊子も読ませてもら
った。自信をもって見せてくれた分厚いポー
トフォリオファイルは、先輩の宝物だという。
どれもが、小学校のレベルでは考えられない
とてもすばらしいものであり、感動すら覚え
た。同時に、「自分にこんなことができるの
だろうか」という不安も抱いた。どうしよう
か。しかし、あらためて、先輩たちの言葉を
よく考えてみた。そういえばどの先輩も同じ
ように言っていた言葉があった。
べてみたい。さっそく基礎追究を始めよう。
【
本やインターネットなどで関係する資料を探
し、調べていこう。
意欲満々に追究を始めた瑞穂だった。図書
館の本やインターネットから資料がたくさん
集まっていった。
しかし、やっていくうちに、疑問を感じた。
フランス国歌などを調べていくと、意外と簡単
に調べたかったことが出てきてしまう。その程度
のことなのだろうか。みんなにこの歌のすばらし
− 146 −
さを知ってもらいたい。だが、本やインターネッ
のファイルなしで進めていくことができない。
トだけで知りたいことがわかってしまうなんて、
先輩たちのポートフォリオファイルにはまだ
そして、調べるのに限りがあるものではつまらな
まだ及ばないが、先輩たちの言っていた「宝
いような気がする。
物」という意味がわかるような気がしてきた。
(瑞穂の授業日記)
瑞穂のポートフォリオファイルは、どんど
瑞穂は自分のテーマを検討した。そして、
ん厚く、そして、いろいろなメモが書き込ま
自分のやろうとしてきたことは、自分の興味
れていった。日付を記入し、その時の思いを
関心のあることのみを強く意識したものであ
追加することで、あとからの振り返りに役立
り、先輩たちの話していた「取材」や「人」
っていったのである。
というものを考えていなかったことに気づい
た。そこで、もう一度、自分のテーマについ
「テーマについて何を語ることができる」
て考えてみた。自分の興味があり、調べるこ
個人追究のiプロジェクトであるが、クラ
とがどんどん広がっていくようなテーマとは
スの友達もそれぞれのテーマで追究を進めて
何なのかと。
いる。すでに、取材訪問の約束までできてい
る友だちもいる。その一方で、仮テーマを何
考えるうちに、小学校で体験したことを振
にするかすら迷っている友達もいる。この時
り返っていた。薬物乱用防止教室で、実際に
期、クラスでは、自分のテーマに関しての意
見た薬物中毒患者の写真に恐怖を感じたとき
見交換を行う時間がもたれた。具体的な物や
のことである。今でもそのことが鮮明に記憶
資料などを1つだけ用意して、それを使いな
に残っている。そして、今でも興味あること
がら自分のテーマや追究したいことを友だち
の一つだ。
に伝えていった。
この興味をもとに、基礎追究を再開した。
そうしたら、一つの情報が見つかるたびに、
自分のやりたいことは、薬物乱用防止だ。
次の新しいことが知りたくなってくるのだ。
でも、薬物乱用防止の「何を」追究したいの
そして、実際に会ってみたい人、訪れてみた
だろう。たくさんの情報を調べていたつもり
い所がどんどん出てくるのだ。先輩たちの言
だったし、よい情報も集まってきた。追究が
ったとおりだ。これなら追究できそうだ。
進んでいるつもりだった。しかし、あらため
て振り返ってみると、やりいたことがぼけて
「ドラッグと闘う」これが瑞穂の決めたテー
マである。
「先輩のポートフォリオに近づきたい」
iプロジェクトのファイルに、資料がどん
どんとじられていった。インターネットや本
からの情報の転記やコピー、自分の考えや友
達の発表を授業でまとめたノート、そして、
取材の連絡先や友だちから聞いたちょっとし
た情報のメモにいたるまで、実にさまざまな
情報が詰まっている。iプロジェクトは、こ
− 147 −
いたような気もする。
N
P
実
践
瑞穂は、あらためてテーマについて考えて
報は手に入りそうだ。隆樹君のポートフォリ
みた。そして、テーマについての意見交流で
オファイルには、ただ資料を集めるだけでは
は、友達の発表を聞き、たくさんの情報を交
なく、自分のやりたいことを整理し、考えて
換した。瑞穂は情報交換をするなかで、自分
いてく様子が分かるようにまとめてあった。
のやりたいこと、困っていることなどがはっ
これによって、追究がかなり進んでいること
きりしてくるのを感じていた。
がわかった。私もスパートをかけなければ。
瑞穂もみんなに自分のテーマについて語っ
「みんなのテーマにアドバイスを」
た。「わたしは、薬物乱用防止についてやり
たいと思っている……」
明郎君は、「地球ゴマ」について追究して
いる。30年前に流行したおもちゃのようだ。
瑞穂の資料は、麻薬の写真だ。「それって
実物を見せてもらったが、おもしろいものだ。
危ないことでしょ」「麻薬って『ヤク』って
取材先探しにとても苦労したようだ。しかし、
言うんでしょ。テレビでよくやっているよね」
幸いにも、製作しているところが名古屋に残
みんなの関心をとても集めることができた資
っているらしい。自分の興味のあることをあ
料だった。同時に、いろいろな情報をもらう
きらめずに調べていった結果出会った取材先
ことができた。「名古屋で麻薬を売る悪い人
だ。きっといい取材ができるのではないだろ
がいるんだって」「外国では日本と規制が違
うか。
うらしいよ」
留美子さんは、「ロッククライミング」に
友達の情報には、自分の知らなかったこと
ついてやっている。その様子を写した写真を
もたくさんあった。興味本位ではあるが、麻
資料に発表してくれた。お姉さんは、高校の
登山部で、その関係の情報に詳しいらしい。
留美子さんも昨年から始めているらしいが、
薬に対して、みんなが高い関心をもっている
こともあらためてわかった瑞穂であった。
このiプロジェクトを通して、その楽しさを
みんな、「危ない話」には関心がすごく高いこと
がわかった。教えてくれた情報は、すでにみんな
知っていたことだったけれど、みんなが軽はずみ
に手を出さないようにするためにも、自分のやっ
ているiプロジェクトは意味あることかなと思っ
た。今度の取材でも、このことは話題にしてみた
い。
他の人のテーマや追究していることを知って、
刺激を受けた。わたしもスパートをかけていかな
ければ。
(瑞穂の授業日記)
もっと知りたいし、みんなにも伝えたいそう
だ。取材先もその道のプロに会えるらしい。
順調に進んでいるようだ。
「だまし絵の世界」をやっているのは一信君
だ。基礎追究では、いろいろなだまし絵の資
料を集めていた。その魅力についても熱く語
ってくれた。興味ある内容だ。しかし、絵は
追究できても、そこから「人」ということが
見えてこなかった。自己満足の追究になりは
しないだろうか。取材先を見つけることも難
瑞穂は、本当に自分のやりたいことを考え
た。
しいようだ。だまし絵の何を追究してくのか
はっきりさせることが必要だろう。
今まで、麻薬ということを中心に基礎追究
隆樹君は、「原子力」についてやろうとし
を進めてきた。麻薬の恐ろしさは十分にわか
ている。今度の取材では、浜岡原子力発電所
ったつもりだった。大事なのは、それを食い
までいくそうだ。どのような人と出会うこと
止めようとしている人なんだ。それが「ドラ
ができるか少し不安があるらしいが、いい情
ッグと闘う」という意味であると。だから、
− 148 −
取材も、ドラッグと闘う「人」を中心にでき
んの目的は、インターネットや書籍では得ら
るようにしていきたいと思いはじめた。
れない「生の声」を聞くことだ。
ここぞとばかり、今までためていた質問を
「取材訪問に出かけよう」
大沢さんに次々にしていく瑞穂であった。
テーマについて自信をもった瑞穂は、取材
先に交渉を始めた。インターネットなどで、
自分の求める情報のある所はいくつか見つけ
ることができた。しかし、どこを最初に訪問
しようか迷ってしまったのである。
「今まで、調べていく中から、次に追究した
いところがどんどん出てきたんでしょう。な
らば、最初に取材に出かけるところは、いろ
いろな情報がいちばん集まるところがいいよ
ね。そして、そこから、次に必要な取材先を
考えていけばいいよ」という教師のアドバイ
先日はお忙しい中、時間を作っていただきあり
スで、瑞穂は愛知県警察署を最初の訪問先に
がとうございました。今回のお話は、これからの
選び出した。自分が小学校で体験した広報車
追究活動にたいへん役に立つものでした。やはり、
もそこにあるらしい。
その道の専門家の方の生の声はとても貴重です。
ここでいただいたお話や資料は、次の追究活動に
緊張の中で、初めて取材の申し込みの電話
生かしていくつもりです。
をかける瑞穂。
わたしがこのテーマ「ドラッグと闘う」を選ん
だきっかけは、小学校のころの……(中略)
やった。初めての電話で、アポ取り成功。とて
もついている。担当の方は、連日小中学校での講
演があり、とても忙しいようだが、わたしの希望
日になんとか1時間の時間を作ってもらえた。感
謝したい。
でも、家で、質問したいことをFAXで送る準
備をしていたら、考えてしまったことがある。少
年課の大沢さんってどんな方だろう。警察って、
今までずっと取り締まりをやっていると思ったら、
予防の仕事をしている人もいるようだ。質問した
い内容も、予定したものから変えていかなければ。
でも、会えるのがとても楽しみだ。
(瑞穂の授業日記)
それから数年の月日がたって今に至るわけです。
あのショックの源の正体を暴き、それと闘おうと
している方にお会いし、少しでも乱用を防ごうと
することを目的としてここまで調べてきました。
あの日のことを思い出して、このテーマでやって
いく意義をあらためて感じています。……(後略)
(瑞穂の警察へのお礼の手紙)
警察の取材を終えた瑞穂は、そこから得た
情報をもとに、薬物依存リハビリテーション
センター「名古屋ダルク」の取材を計画して
いる。ここでは、実際に薬物にかかわってし
まった人、立ち直ることを支援する人などに
いよいよ、取材訪問だ。まずは、小学校で
取材する予定である。一人で行くには、少し
体験した広報車との再会である。あのときと
不安もあるが、電話で申し込む瑞穂の声は、
まったく同じだ。しかも、今度は、自分一人
自分の追究への思いと同じように強いもので
のために用意されている。すぐにいろいろな
あった。自分のやりたいことができるiプロ
質問もできる。わき上がる感動と興奮をおさ
えつつ、取材を続ける。この取材でのいちば
ジェクト。今日も自分の追究を深めていく瑞
穂の姿があった。
− 149 −
N
P
実
践
iプロジェクトⅣの実践
3 年間のネットワークプロジェクト
3 つのiプロジェクトと2つのtプロジェクトは、
子どもたちの主体的に追究する姿を生み出してきた。
ネットワークプロジェクトの一つ一つを終えるたびに、
追究の見通しの立て方や追究の方法を身につけた。ま
た、知ることのおもしろさや新しい発見のうれしさ、
人と出会うことの魅力を感じることもできた。こうし
た自分自身の高まりや喜び、魅力が次の追究活動への
意欲につながっていく。
中学 3 年間のネットワークプロジェクトを終えた子
どもたちは、今後、自分自身のテーマに対する問題意
識をもとに、自分の力でさまざまな人とかかわりなが
ら、追究を深めていくことであろう。
自分の中のネットワークプロジェクト
自分を生かすことのできるものである。
俊郎は5つのポートフォリオファイルを見
俊郎は、5つのファイルをひろげ、ネット
返し、これまでの自分を振り返った。この5
ワークプロジェクトという言葉を初めて聞い
つのファイルは、3年間のネットワークプロ
た1年生の自分と今の自分が、どう変わって
ジェクト(3つのiプロジェクトと2つのt
きたかを比べてみた。そして、ネットワーク
プロジェクト)のファイルである。俊郎にと
プロジェクトが今の自分にどう生かされてい
ってのネットワークプロジェクトは「ものづ
るかを探り始める。
くり」へのこだわりであった。
「ものづくり」
自分のネットワークプロジェクトを振り返
は、俊郎自身が最も関心のあることであり、
る中で、「発見」という言葉をキーワードと
俊郎のネットワークプロジェクト
学年
1年
2年
3年
NPで学んだこと
iプロジェクトⅠ〔写真〕
○写真技術の向上
・身近なテーマ
・人から学ぶ。
・追究の方法の基本
tプロジェクトⅠ〔自然環境〕
○自然のすばらしさ
・身近な活動の大切さ
・意見交流
iプロジェクトⅡ〔自動車のデザイン〕
○コンセプトの大切さ
・仮説検証の追究方法
・何事にも挑戦する精神
・深く追究すること
tプロジェクトⅡ〔未来の都市交通〕
○公共交通機関のあり方
・自らの足を使った追究
・広める活動
iプロジェクトⅢ〔とんぼ玉〕
○とんぼ玉の歴史と作り方
・未知の世界の発見
・ものづくりの精神
・人の生き方
して、次の3つの発見を挙げた。
① 追究することのおもしろさの発見
② 人とのつながりの発見
③ 自分自身の発見
(俊郎のノート)
この一つ一つは、俊郎が自分自身の中に得
られたものとして確信できるものであった。
追究することのおもしろさの発見
俊郎が、追究のおもしろさを強く感じたの
はiプロジェクトⅠである。初めてのネット
ワークプロジェクトでどんな活動をしよう
か、とても楽しみにしていた。
iプロジェクトⅠが始まった。どんなことができ
るのかとても楽しみ。自分の追究してみたいことは、
今、はまっている写真についてだ。いろいろな技術
を調べて、いい写真を撮ってみたいと思う。
(iプロジェクトⅠのファイル)
俊郎は、自分の興味がある「写真」をテー
マにした。写真の技術について詳しくなりた
− 150 −
いという思いがあり、テーマ決めに迷いはな
アポイントメントを取るときの緊張感など決
かった。図書館へ通ったり、インターネット
して楽な活動ではない。また、初めてでわか
で調べたりしながら、たくさんの興味深い情
らないこともたくさんあった。しかし、こう
報にふれた。資料をコピーしたり書き写した
した困難を一つずつ乗り越えることで自分の
りしながら次々にファイルし、資料はたくさ
追究の可能性が広がっていくことを実感する
ん集まった。同時に、多くのことを知り、追
ことができた。そして、取材によって初めて
「わかった」という実感を得たことも、ネッ
究のおもしろさを感じ始めた。
トワークプロジェクトの魅力をふくらませる
ファイルが厚くなってきたし、たくさんの資料
が集まったのでいろんなことがわかってきた。そ
ろそろ実際に写真を撮ってみようと思う。
(iプロジェクトⅠのファイル)
ことになった。
「人」から学ぶことで追究がおもしろくなる
ことを学んだ俊郎は、iプロジェクトⅡでは、
ところが、実際に写真を撮ってみようとし
初めから取材先の人を想定して追究を進めて
てもなかなか思うようにいかない。たくさん
いった。また、国立共同研究機構の田原先生
の資料を整理したポートフォリオファイルを
に「仮説・検証」を軸にした追究方法をアド
もとに実行するのであるが、自分のイメージ
バイスしてもらった。そして、これまでの資
するものとは違っていた。悩む俊郎に、まわ
料の中から必要な部分を選ぶという追究方法
りの友達は、「人」に学ぶことのよさをアド
から、必要な資料を目的をもって探すという
バイスした。基礎追究の段階で催された「人
追究方法に変わってきたことに自分自身で高
に学ぶ会」での魅力ある話を思い出し、専門
まりを感じていった。
さらに、iプロジェクトⅢでは、これまで
家に直接話を聞くことで現状を打開できそう
自分が学んできた追究方法をもとに、自分自
な気がしてきた。
身の力で問題を解決し、自信をもって追究を
進めていくことのできる楽しさを感じること
ができた。
俊郎にとっての追究のおもしろさとは、自
分が調べたことと取材先の専門家から聞いた
こと、そして自分自身が体験したことを結び
つけることで見えてくる新しい発見であっ
た。
人とのつながりの発見
そんなとき、父親から知り合いの写真家を
「人」とのつながりという点で、俊郎は2種
紹介してもらった。そして、早速、電話でア
類の「人」を考えてきた。一つは取材先の人
ポイントメントを取り、取材に出かけた。実
とのつながりであり、もう一つは、友達との
際のカメラを使って技術を教えてもらった
つながりである。
り、撮った写真を見せてもらったりしながら
iプロジェクトⅠで出会った写真家は、追
の取材で、自分の追究内容を実際に確かめる
究内容にかかわる情報を提供してくれる人で
ことができた。
あった。しかし、iプロジェクトⅡで出会っ
自分が必要とする資料が思うように見つか
たカーデザイナーは、追究の内容にかかわる
らなかったこと、追究に行き詰まったこと、
事柄だけでなく、デザインにかける思いにつ
− 151 −
N
P
実
践
いて気づかせてくれる人であった。
鳳来町の自然をあらゆる方向から追究したこのt
プロジェクトⅡは、自分だけではできなかったと思
う。一人一人の追究が集まったからこれだけの大き
なことができたと思う。また、鳳来町の人たちの協
力もあったからできたと思う。自分の思いを看板に
して発信したことも自分にとっては満足感につなが
った。
(tプロジェクトⅡのファイル)
取材先の人は「自分の熱意が制作スタッフに伝
わらなければ車はできない」とおっしゃった。こ
れは車づくりだけではない。思いが強ければ人を
動かす原動力にもなる。ぼくも、思いを強くもっ
て取り組む精神は忘れたくない。自分のこれから
のことに役立ちそうな話をしてくれた。
(iプロジェクトⅡのファイル)
こうした共通のテーマをもったtプロジェ
iプロジェクトⅢでは、「とんぼ玉」にか
クトだけでなく、個人テーマのiプロジェク
かわる岩間さんの取材を通して、その人の生
トでも友達は大切な存在であったと俊郎は振
き方にふれることのおもしろさを感じること
り返っている。
取材先が見つからないときに友達から紹介
ができた。そして、自分自身のこれからと重
してもらったり、自分の追究活動が停滞した
ね合わせようとしていた。
ときに追究の方向性をアドバイスしてもらっ
たりするなど、何度となく友達との意見交流
を行ってきた。そして、友達の示唆する新し
い見方・考え方をもとに自分の問題を解決し
てきた。
iプロジェクトⅡでは、主に追究方法につ
いての意見の交流をした。そして、iプロジ
ェクトⅢでは、ポートフォリオを利用して互
iプロジェクトを通して、取材方法の高ま
りとともに、テーマにかかわる内容だけでな
いの活動を理解し合うことにより、内容にま
で踏み込んだ意見交流を行った。
く、取材先の「人」にも興味をもち、人とか
いろいろな人の思いを知ったり、友達の考
かわることのおもしろさを発見していった。
えを知ったりすることで、自分自身の考えが
変わっていくことのおもしろさを感じた。俊
とんぼ玉作家の話だけでなく人生についても熱く
語ってもらえた。岩間さんはとんぼ玉作家の松山さ
んと出会い、自分の好きなことをやれること、仕事
に生き甲斐をもつことのすばらしさを実感したとお
っしゃっていた。周りのいろいろな考えをもつ人た
ちと出会い自分を磨いていくことは人生そのものだ
と思った。
(iプロジェクトⅢのファイル)
郎の、積極的に人にかかわって追究していこ
うとする姿は、こうしたおもしろさから生ま
れているものであった。
自分自身の発見
友達とのつながりを考えるようになったの
tプロジェクトⅠで、俊郎は、追究を通し
はtプロジェクトⅠからである。学年のテー
て得たものを周囲に伝えるための看板を作っ
マ「共生∼わたしたちの未来へ∼」をもとに、
た。看板という間接的な形ではあったが、追
さまざまな方向から進めた追究活動では、
「共
究したことをただの調べで終わらせたくはな
生」を自分と違う視点からとらえた友達の考
いという思いからの発信活動であった。
えに新鮮さを感じた。また、みんなの追究を
そして、iプロジェクトⅡではネットワー
集めることで得た成果は、たいへん大きなも
クフェアで自分が直接多くの友達に向けて発
のであった。この自分一人では成し得ない大
信した。
きな成果に満足し、友達とのつながりの価値
を知ることができた。
これまでの人・こと・ものから学ぶ、受け
身の追究から、自分の考えや思いを人に伝え
− 152 −
ようとする能動的な追究になってきていた。
材では「とんぼ玉」についての追究だけでな
tプロジェクトⅡでは、活動の最初から発信
く、「とんぼ玉」にかかわる人たちの思いや
活動を念頭に置き、関係機関への発信を実現
考え方に共感しながら、人と深くかかわろう
した。
とする姿があった。こうした人とのかかわり
の中から、俊郎はその人の生き方にもふれ、
楽しく生きるということはどういうことか、
仕事のやりがいとはどういうものかを自分に
置き換えながら考えるようになった。
いろいろなところで発信活動をしてきたが、発信
するといってもただ情報として伝えるのでは、相手
も聞くだけで終わってしまう。本当に相手に伝えよ
うとするならば自分の思いや熱意を伝えることを組
み合わせなければならない。
(tプロジェクトⅡのファイル)
こうした発信活動を考えることにより、自
分が何をしようとしているのか、どこへ向か
自分探しの始まり
おうとしているのかが見えるようになってき
ている。
俊郎は3年間のネットワークプロジェクト
を終えた。興味・関心から始まったネットワ
最後の追究活動で俊郎は「とんぼ玉」をテ
ークプロジェクトは、問題を解決するという
ーマにした。「ものづくり」というこだわり
意味をもち、追究を通して自分を見つめ、今
はiプロジェクトⅠのときから心にあった。
後の自分を探るものになっていった。俊郎の
より深い追究をするためには、読むだけ、聞
キーワードである「発見」は、追究によって
くだけでなく、自分ができることが必要だ。
得ることのできた新しい自分であった。
本物を体験し、本物に少しでも近づくことが
いた。自分が実際に作ることで知ることので
3年間のネットワークプロジェクトはとても充実
したものになった。テーマを考え、追究し、人と出
会い、人に伝える。当たり前のことかもしれないけ
れど、本当によかったと思う。ネットワークプロジ
ェクトで、自分探しをしていたのかもしれない。す
べての追究が人生に役立つかどうかは、これからの
自分にかかっている。直面する問題に対し、深く追
究していくことを忘れたくないと思う。
(俊郎のノート)
きる技術の奥深さ、おもしろさ、こうしたも
俊郎は、卒業後の進路に芸術系高校のデザ
のが取材先でうかがった言葉と重なる。そし
イン科を選んだ。「ものづくり」へのこだわ
て、一つ一つが納得できる。同時に言葉の
りから自分の生きる方向を見つけようとして
端々から取材先の人の「とんぼ玉」にかける
いる。「ものづくり」へのこだわりと追究の
思いが強く伝わってくるのを感じていた。取
心は生き続けていくであろう。
本物の追究になると考えるようになってい
た。
俊郎には最初の段階から、基礎追究をもと
に自らの活動で追究を深め、追究で得た思い
や考えを人に問うという活動の道筋が見えて
− 153 −
N
P
実
践
tプロジェクトⅠの実践
2年 tプロジェクトⅠ 「New Town プロジェクト
∼つくろう ぼくらの理想の町∼」
iプロジェクトをはじめ、1 年生の学習を通して一
人1テーマの追究を体験してきた子どもたちは、学年
みんなで一つのテーマを追究できるtプロジェクトに
期待を抱いていた。tプロジェクトの実行委員になっ
た聡美も、個人的に追究したいテーマはもっていたが、
一人一人の興味・関心を主張するだけでなく、今我々
がしなければならないことをtプロジェクトのテーマ
にしたいと考え、多くの学級や学年での話し合いを経
て、
「理想の町づくり」という方向性が決まっていった。
tプロジェクトⅠの活動の流れ
「New Town プ ロ ジ ェ ク ト ∼ つ く ろ う ぼ く ら の 理 想 の 町 ∼ 」
9教科の学習における学び
道徳、特別活動の学び
iプロジェクトの学び
i
i
i
i
i
i
i
i
i
i
アンケートより
〈どんなtプロジェクトにしたいか〉
一人の興味・関心より、今我々がしなければならない
ことをやってこそ、tプロジェクトなのではないか
モデルはないか
学級学年で の話し合い 〈tプロの 方向づけ〉
21世紀の地球を守りたい
足元を見つめるべきだ
iプロジェクトを広
げよう
どうやって守るの
〈具体的活 動の模索〉
人に学ぶ会(足助町長)
足助の人々がまちづくりにかける願いや思いはなにか
足助町のまちづくりに学ぼう
〈基礎 追究〉
人に取材:地元の中学生、役場の方
ことに取材:時事、ニュース・新聞
ものに取材:文献・インターネット
〈部会づくり∼事前訪問〉
【環境部会】…環境改善、公害、ゴミ問題、自然災害、自然改善、自然追究、動物
【都市計画部会】…観光、経済、公共施設、交通、情報、人口活性化、市街地活性化
【福祉部会】…生活、バリアフリー、ボランティア
【文化部会】…音楽、食文化、スポーツ、伝統行事、伝統工芸、歴史
〈宿泊をともなう活動〉
廃校および旭高原少年自然の家での合宿/3泊4日
・部会別の追究・調査活動(1、2日目) ・学年の共通体験活動(3日目)
・地域に還元する活動、学びのまとめ、発信活動としての討論会(4日目)
・人は地球の中で生きているんだ
・地域にはさまざまな課題があるが、それを地域に生活する人々が力を出し合い助け合って生きているんだ
・足助の人の郷土愛はすばらしい
・わたしたちのふるさとの魅力はなんだろう・わたしたちのふるさとの課題はなんだろう・自分の生き方を考えねばならない
郷土に生きる
わたしたちが未来に向けてすべきこと
郷土で暮らしたい
郷土の課題に取り組みたい
郷土の魅力を継承・発展させたい
− 154 −
郷土で働きたい
「テーマが決まらないぞ」
「みんなのテーマ、tプロってなんだ」
さっそく、アンケートが実施され、どんな
自然、文化、経済、スポーツ、科学・・・
iプロジェクトⅠではさまざまなジャンルに
テーマにしたいのかが調べられた。すると、
興味・関心を抱き、多種多様な角度から追究
環境問題や自然保護に関するもの、文化に関
を進めてきた子どもたち。将来の夢を抱き職
するもの、福祉・ボランティアに関するもの
業について調べた子ども、伝統的な文化や遺
の3つが多いことがわ
産への興味をもった子ども、環境問題に関心
かった。しかし、その
を抱いた子どもなど、そのテーマは多岐にわ
うちのどの領域にする
たっていた。しかし、これらはまだ個々の興
のかはもちろん、科学
味・関心による調べ学習、取材活動を中心と
技術に関するものや趣
したものだった。社会的な問題に取り組みた
味的なものを進めたい
いし行動にもうつしたいのに、まだ何をどう
という声も依然として
結びつけ、どんな方法をとっていったらよい
あり、テーマ決めの学
のかがわからなかったのである。
年集会ではなかなか結
iプロジェクトのまとめを終えるころにな
論が出なかった。
ると、学年みんなで力を合わせていきたいと
一回の学年集会では答えが出せなかったた
口にする子どもが出てくるようになった。続
め、各学級での話し合いを経てもう一度学年
いて予定されているtプロジェクトに、それ
で話し合った。そして、達夫の「学年として
ぞれ期待するものがあるようだった。iプロ
大切にしたい方向性から決めよう」という提
ジェクトで児童虐待について追究した聡美
案で、各学級から次のような意見が出された。
も、漠然と「人のためになることをしたい」
聡美も自分の意見を主張した。
と考えるようになっていた。子どもたちの中
A組「人のためになること」
(聡美)
では、学年みんなで取り組むtプロジェクト
「住みよい暮らし」
を、どんなテーマにしたいかについての話題
B組「や り た い こ と と い う よ り は 、 今 や ら ね
があちらこちらであがるようになっていた。
ばならないことをこそすべきだ」
C組「テロや狂牛病などの社会問題」
そこで、プロジェクトとはどんなものかを
「人 々 が 築 い て き た 文 化 と 自 然 災 害 に つ
考える資料として、ビデオ(「プロジェクト
いて」
X『えりも岬に春を呼べ』」NHK放送)を
D組「理想の町づくり」
視聴し、話し合うことにした。
すると、亜里の「森林破壊をくいとめるた
このとき、洋子が「みんなに共通している
めには植樹活動が必要だ」という意見に代表
のは、未来についてだね。みんな、よりよい
されるような環境保護についてやっていきた
未来を求めているよ」と発言した。これらを
いという声があがったり、「プロジェクトと
受け、学年としての方向性が「自分たちの未
は、ある目標に向かって突き進む挑戦的な計
来にとっていいこと、人にとっていいこと」
画のこと。
みんなで協力して行うものなのだ」
に決まった。
という理解が進んだりした。そして、これを
学年として大切にしていく方向性は決まっ
機会にtプロジェクト実行委員が募られ、学
た。自然(環境)も文化も福祉(ボランティア)
年全体に向けて調査を行い、学級や学年での
も、どれも方向性はあっている。しかし、依
話し合いを通してテーマを決定していくこと
然具体的なテーマは決まっていない。続いて
が承認されていった。
行った学年集会でも、議論は振り出しに戻り
− 155 −
N
P
実
践
この会を終えて、子どもたちは、モデルと
テーマがなかなか決まらなかった。
「みんなの方向性は決まったのに、具体的な
なる町を見つければ、「自分たちの未来にと
テーマとなると、どれもよさがあるので一つ
っていいこと、人にとっていいこと」の方向
にまとまらない」という実行委員会の悩みに
で、いくつかの部会に分かれて活動ができ、
対して、「こんな時、市長さんはどうやって
かつ、学年として一つの目標に向かって活動
市民の声をまとめているのかなあ」とつぶや
していけることに気づいた。このあとテーマ
いた聡美の声がきっかけで、「人に学ぶ会」
が「New Town プロジェクト∼つく
をもつことになった。iプロジェクトⅠの経
ろう ぼくらの理想の町∼」に決まっていく
験でも、人に取材し、人から学ぶことは非常
のにさほど時間はかからなかった。
テーマが決定した後は、具体的な候補地探
に意義があったからだ。
しに移った。候補としては、名古屋市、岡崎
市などの都市部もあげられたが、163名の学
年全員が部会に分かれて活動でき、そのうえ、
常に互いを意識していられる小さな規模の町
がよいこと、また次の点で追究がしやすいこ
とを考慮して足助町に決定した。
【足助町をモデルとする理由】
① 過疎という課題を抱えつつも町ぐるみで
高齢化対策や観光に力を入れている。
② 豊かな自然と伝統を育みながらも、近代
的な文化を積極的に取り入れている。
③ 同じ世代の中学生が同じようなテーマで
既に取り組んでおり、意見が交流できる。
「追究のモデルが欲しい」
「人に学ぶ会」では、全国的にも町づくりに
積極的に取り組んでいることで有名な足助町
の町長に講師を依頼することになった。町長
組織としては、これまでの話し合いの経過
の矢澤さんから「わたしたちが取り組むべき
から、各自が発見した問題に寄り添って、環
課題」についての話を聞いた子どもたちは、
境部会、都市計画部会、福祉部会、文化部会
自分たちの追究にも、モデルとなる具体的な
の4つの部会がつくられ、さらに26の小班に
ものが必要であることに気づいていった。宏
分かれて運営されることになった。聡美は、
は、講師へのお礼状の中で次のように述べて
都市計画部会の中心市街地活性化班を希望し
いる。
て入った。
ぼくたちD組は、テーマを「理想の町づくり」
にしようと思っているのです。なぜかというと、
「理想と現実、二つの基礎追究」
ある人は文化、ある人は自然、またある人は別の
長い期間にわたるテーマ決めの中で、子ど
視点で追究がしたい場合でも、ある町をモデルに
もたちは「理想の町」を互いのよりどころと
していけばどの視点からも追究ができると考えた
からです。足助町も伝統的な古いものを復活させ、
自然や文化を大切にし、また一方で新しいものを
しながら追究をしていくことになった。そし
て、具体的にはどんな活動ができるのか、ま
取り入れつつ町をよくしておみえだということを
たそれを行う必要があるのかについて調べる
うかがって、とっても役に立ちました。今日はど
段階に入った。
うもありがとうございました。
(宏の書いたお礼状)
ところで、そもそもなぜこの理想を必要と
するのかと言えば、自分の住む町の現実を見
− 156 −
たときに「もっと住みよい町にしたい」と考
で、中心市街地の活性化に求められる方向性
えたからだった。足助町についての基礎追究
として、「にぎわい性・回遊性・求心性、話
をしていくうちに、
自分の住む地元について、
題性、斬新性、地域性」を考えていた。また、
もう一度基礎追究をしっかりしておく必要が
その実現のためには、地元住民から見た様子
あることにもあらためて気づいていったので
と、その町を訪れた観光客などから見た様子
ある。
との違いに着目し、その課題に住民が協力し
そこで、岡崎市に住む聡美は、自分の町の
ていくことこそが重要であると考えた。そし
問題点を祖父母や両親に取材しながら整理し
て、足助町での問題を明らかにするためには、
直した。そしてこの現実をふまえ、解決する
地元の人々とふれあい、聞き取り調査をした
糸口を見つけるために、足助町をモデルにす
り店員体験をさせてもらったりする必要があ
るという追究の流れを書き出した。
ると感じるようになっていった。
≪宿泊をともなう活動を通して≫
【地元岡崎で発見した現実の問題】
現地での活動を求める声が多くなると、宿
・国道 1 号線の交通渋滞がひどい。
・ゴミの日でないのに、ゴミが出される。
泊をともなう活動が計画された。足助町の大
・地域ラウンドバスの路線が、自分の町内に
きな課題の一つは過疎化の問題である。この
は通っていない。
問題は、聡美と同じ都市計画部会人口活性化
・早川が汚い。
班が中心に調査を行っていたが、過疎化を最
・工場の煙のにおいがする。
も象徴するものが廃校であることから、実行
・日名町には、地域の人が集まるところが少
委員会が学年に提案し、宿泊をともなう活動
ない。
での宿泊場所が、旧大見小学校跡(廃校)に
・康生町は交通の便がよいのに、商店街とし
決定された。聡
てさびれてきている。
J
美をはじめ、子
【モデルとする足助町で明らかにしたいこと】
月も前から廃校
・都市計画部会として、足助町がどのような
掃除に出かけ、
都市計画を行っているのかを調査する。
宿泊の準備をし
:香嵐渓をはじめとする、観光客による交
ながら自らの肌で過疎化の問題を感じるとと
どもたちは何ヶ
通渋滞についてなど。
もに、宿泊をともなう活動の当日には、この
・都市計画部会の中の中心市街地活性化班と
廃校の卒業生を講演講師に招いて、当時の村
して、足助町に必要な取り組みを考える。
の人々の生活の様子や地域一体型の暮らしに
:観光地としての景観のあり方、中馬街道
ついて学んだ。
の商店街と県道沿いのスーパー「パレッ
一方、現地での事前追究・調査活動として、
ト」での工夫点など。
歴史のある平勝寺の和尚さんから聞き取り調
(岡崎市に住む聡美の考えた追究の流れ)
査を行った聡美たちは、生活スタイルの変化
が、過疎化の原因の一部であることを知る。
「足助町で体験をしてきたい」
また町役場企画課の方の話を聞いて、人がに
地元岡崎の康生町に昔ほどの活気がなくな
ぎわってくるような目玉となる企画を行うこ
り始めたことに目を向けていた聡美は、町づ
との大切さと、町がきれいであることが活性
くりについてインターネットで調べたり、同
化へのポイントであることを知った。
そこで、
じ問題意識で集まった班員と討論を重ねる中
現地商店での店員体験に加え、清掃体験も実
− 157 −
N
P
実
践
≪足助町ならではの間伐体験≫
施した。
達夫は「森林破壊をくいとめるためには植
この結果、聡美たちの班が考える理想の町
樹活動が必要だ」という考えをもっていた。
は、次の4つに集約された。
しかし、足助町についての基礎追究をするう
① 楽しい行事がある。
② きれいな町である。
(ゴミなし。花の手入れはしっかり。
)
③ 店には、生活のスタイルに合わせたもの
が商品としてある。
④ 公共交通機関などが整っている。
ちに、現在の足助の林業の問題は、植樹では
なく、むしろ間伐を
いかに行うかという
ことにあると知っ
た。そこで実行委員
≪足助町の人々とのふれあい・交流≫
会を通し、間伐とは
聡美たち以外の班でも、例えば文化部会食
どういうものかを知
文化班は、地域の伝統料理について追究する
るために林業体験を
中で、足助のこんにゃく作りに着目した。理
提案すると、現地の
想の町の条件として「古くてもよいものは生
方の厚意でそれが実
き続ける」と考えた満子たちは、素朴な味わ
現した。
いの手作りこん
雨が降る中、林業体験は行われた。まず初めに、
にゃくの作り方
大山さんから現代の林業の状況についてのお話を
を足助の方から
聞いた。そしてその後ぼくは、芳男君と陽平君、
教わり、自ら伝
承者となること
昭夫君とともに、一緒に一本の間伐された木を運
で伝統をつなげ
んだが、見た目以上に非常に重かった。この重い
ていこうと考えたのである。そして宿泊をと
木を、80歳を過ぎたおじいさん(大山さんのお父
もなう活動の当日には、彼女たちの作ったこ
さん)が運ぶなんて、聞いても信じられなかった。
んにゃくを、おいしくほおばる学年の仲間た
しかもあれだけ苦労しても1本の木から得られる
ちの姿があった。
収入は100円程度だと知って、もっと驚いた。そん
また音楽班の奈美たちは、将来、音楽のあ
なに採算が合わなくては、誰も手をつけなくて当
ふれる町に住みたいと考えていた。基礎追究
然だろう。本当は間伐をしないと森は育たないが、
では、足助にあるライブハウスを取材し、オ
100円では無理もないことを知った。これも理想の
ーナーの音楽に対する考え方に共感して帰っ
町づくりへの課題だ。
てきた。新しい音楽とともに伝統的な音楽の
大切さに気づいた奈美たちは、日本舞踊にも
(達夫の日記)
≪足助町の人々との討論会≫
興味を抱き、地元岡崎の五万石踊りを覚え足
宿泊をともなう活動の最終日には、足助中
助で披露することを計画する。当日は、地元
学校の生徒や地域の人たちを招いての討論会
の方から郷土料理をごちそうになったお返し
を計画した子どもたち。自分たちの考えた理
に、自分たちの
想の町づくりが、本当に役立つものなのかを
練習の成果を見
足助の人たちに判断してもらう意味も含まれ
事に披露し、地
ている。そこで、次のステップを踏んだ。
元の方に楽しん
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
でもらうことが
① 自分たちの考える理想の町とはどんな町
なのかを部会ごとに整理して言葉にする。
できた。
− 158 −
このように討論会では熱心に意見交換がな
② それをB紙にまとめて書き出すとともに
され、「観光地である足助町には、道路の充
4部会からのイメージを絵に描き表す。
実も必要だが、環境保護とのバランスが必要
だ 」「 過 疎
を解消する
ためには道
路開発は欠
かせない」
などの意見
が交わされ
③ これまでの追究を中間まとめ本にとじる。
④
た。
これらを、討論会に先立った一定期間、
足助中学校と足助町役場に展示し、アンケ
「これからも活動を続けていきたい」
ートに感想を書いてもらう。
⑤
足助町に学び、足助町の多くの人々とふれ
アンケート結果などを話題にしながら、
理想の町づくりをテーマに意見交換を行う。
合い、言うに言えない喜びを味わうことがで
きた子どもたち。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 町長:様々な問題を解決するために、誰が何をす
福祉状況を調べ、ま
か。そういうことを考えていけるといいね。
た実際に介護体験を
向けていてはいけない。緑のある町も大切
だけど、交通には困るし、過疎化の問題も
ある。ぼくは、もっとコンビニとかのある
町に住みたいです。
友之:新しい道路建設は、今ある自然を削ること
(足中)
して、地元や足助の
るかが大切です。君たち自身は何をします
謙一:理想の町にするには、環境とかだけに目を
(足中)
福祉部会生活班と
行ってきた幸子は、
tプロジェクトを終
え た 今 も 、「 最 近 、
わたしの家の近くに
介護支援センターができた。わたしはこれか
になる。今、道路を造っているけどやっぱ
ら、月2、3回くらいのペースでここに通い
り自然は残っていてほしい。バランスを考
続けるつもりだ」
と笑顔でセンターに向かう。
えることも大切だと思う。
我が町、岡崎市康生町の活性化を願ってき
聡美:経済的に潤っていかないと町の活性化は進
(附中)
まないと思う。その意味で道路建設は必要。
だけど、町並みとしての景観も重要です。
活性化には、人がその場所に来る目的を編み
わたしたちは、香嵐渓や旧伊勢神トンネル
出していくことが必要。しかもそこはきれい
のゴミ拾いを体験して強くそう思いました。
な町でなければならない」と言う。「目的が
隆行:バランスを保つことには、賛成なんですけ
(附中)
た聡美も、足助町での体験を振り返り「町の
ど、すべての町がきちっとバランスをとっ
てしまうと、どこの町も同じで特徴がなく
あり、また、きれいでもう一度訪れたいと思
われるような町並みにしていかなければ、人
なってしまう。ぼくたちは、文化部会の歴
の足は遠のいてしまう」と結論づける聡美は、
史班として追究してきて、足助の足助らし
広報「おかざき」に気をかけるようになり、
さが大切なことに気づきました。だから、
ボランティア清掃や道直しに積極的に出かけ
町の特徴を活かしながら町づくりをしてい
たりするようになった。
かなくてはいけないと思います。
(討論会の記録)
163名それぞれが、今も各々の形で「理想
の町づくり」を求め続けている。
− 159 −
N
P
実
践
tプロジェクトⅡの実践
3年 tプロジェクトⅡ 「伝えよう 未来に輝く 感動を
−We can move your heart−」
「うわあ。この写真きれい」友達の真由子がiプロジ
ェクトⅡの追究で撮った写真を見て、香苗が思わずも
らしたこの一言。ひまわり畑に親子の姿があり、その、
広大で素晴らしい北海道の大自然の描写に香苗は心を
動かされたのだ。
「わたしも人の心を動かす写真が撮りたい」香苗は、
写真に興味・関心をもっている仲間とチームを組んで、
人の心に迫る写真撮影に向け、追究を始めていった。
− 160 −
「わたしも写真を撮ってみたい」
プロジェクトⅡでは、人の心を動かすことのでき
るものにみんなで迫ってみたいです。
iプロジェクトⅡの追究で、香苗は洋服の
(香苗の授業日記)
リメイクに興味をもち、使わなくなった服の
生かし方について調べていった。一度使えな
「みんなが寄り添う基本的な考えを決めよう」
くなったものから再び使える服を作ることを
tプロジェクトⅡの夢を語る、学級での話
通して「地球環境を何とかして守りたい」と
し合いから、次のようなことがまとめられた。
いう思いをもち続けてきたのだ。そして、i
iプロジェクトⅡを振り返って
プロジェクトⅡの学級発表会では、クラスの
成果:
「∼のため」になる追究ができた
1年生の時より深い追究ができた
課題:体験が不十分であった
仲間に実践を紹介する中で、「すごいね」「地
球環境に役立っているね」と言われ、自分の
活動にある程度の満足感を抱いていた。しか
香苗は、自らの反省から「tプロジェクト
し、一方では、友達からの賞賛だけでは何と
Ⅱではもっと体験を行って、やったことをも
もいえない物足りなさを感じていたのであっ
とに追究を深めていかなければいけない」と
た。
力強く語ったのであった。
そんな学級発表会の中で、写真を追究した
学級での話し合いをもとに、学年で討論会
真由子の写真が香苗の目に止まった。「うわ
をもち、tプロジェクトⅡの活動に対する思
あ。この写真きれい」このひまわりの元気の
いを語り合った。すると、
「活動範囲を広げ、
よさ、そしてひまわりを澄んだ青空が讃えて
tプロジェクトでなければできないダイナミ
いる。この写真には素直に「きれい」といえ
ックな活動にしたい」「自己満足で終わらせ
る何かがある。わたしの求めていたものはこ
ないで、誰かが喜んでくれる活動にしたい」
の「感動」なんだ。そう思い、真由子のとこ
という思いが発表された。そして、それを達
ろへ走り寄っていった。「この鮮やかな黄色
成するためには、「個々の興味・関心が寄り
はどのようにすれば撮れるの。生き生きとし
添う活動」「取材・体験」「交流」「継続」が
たひまわりはどのようにしたら撮れるの」香
大切であるということが、発表を通して明ら
苗はこの写真に心を動かされ、ぜひ、自分も
かになっていった。子どもたちは、この基本
生き生きとした躍動感のある写真を撮ってみ
的な考え方をもとに、追究のためのグループ
たいと思うようになった。
作りをしていった。
基本的な考え方
目 標
・tプロジェクトでしかできないこと
・自己満足で終わらない
・だれかが喜んでくれる
・協 力
(ネットワーク)
・積極的な活動
交流
取材・体験
継続
基礎追究・計画
興味・関心(個々の思いを大切に)
たった1枚の写真がこんなにも人の心を動かすな
んてすごいと思います。写真にはこれまでわたし
が知らなかった魅力があると思います。ぜひ、t
(学年集会での子どもの意見をまとめた図)
− 161 −
N
P
実
践
「内容で寄り添おう」(グループ作り)
アンケートをもとに学年集会でテーマを決定
次の学年集会では、基本理念をふまえて、
をしていった。
「tプロジェクトⅡの活動では、どんな仲間
学年のテーマ
「伝えよう 未来に輝く 感動を」
−We can move your heart−
と追究を行えば、学年全体として大きな満足
感を得ることができるのだろうか」というこ
とについて話し合いを行った。「人の心を感
これが子どもたちのtプロジェクトⅡにか
動させる写真を撮ってみたい」という思いの
ける思いである。こうして、学年全員で「感
香苗は、写真をテーマに追究したいという仲
動を与える」ことのできる追究にしていこう
間が寄り添えば様々な角度から追究を深め合
と、気持ちが高まっていった。
え、より多くの人の心を動かす作品ができる
「グループテーマは『心のきりぬき』」
に違いないと考えていた。話し合いでは、
香苗たちは写真という追究の内容でグルー
「気の合う仲間どうしの方が心を合わせた追
プをつくったが、それぞれ撮りたいものが違
究ができる」といった意見も出たが、「より
っていた。香苗は学校の風景、真由子と美千
よい追究にしていくには興味・関心が合う仲
代は自然の風景、麻美子は人、愛子と由季子
間がグループをつくらなくてはだめだと思い
は花。香苗たちは、話し合いを進める中でグ
ます。気の合う仲間どうしでグループを作っ
ループのテーマを決定していった。
ても追究の方向が途中で違ってくるはずで
香 苗:それぞれ撮りたいものが違うけれど……。
す」と熱く語り、みんなの同意を得ていった。
麻美子:撮るものは違っても、チームで同じもの
をめざせばいいと思うよ。
グループ作り(内容で寄り添う)
美千代:感動できるものがいいよね。
仲間:興味・関心をもとに追究内容で寄り添う
人数:3∼8人(安全面を考えて)
真由子:撮った人の心や思いが、見てくれる人に
伝わるといいな。
香苗は、写真に興味をもっている真由子、
愛 子:わたしの心が切り抜けたらいいな。
美千代、麻美子、愛子、由季子と力を合わせ、
香 苗:そうそう、「心のきりぬき」だよ。この一
枚に自分の心がうつせるような。
自分たちの思いを実現しようとして、動き出
(グループでの話し合い)
したのであった。
「学年として大きな満足感を得たい」
こうして、グループテーマを「心のきりぬ
子どもたちはそれぞれの内容で寄り添って
グループを作ったが、学年全体で寄り添うも
き」に決めた後、香苗たちはインターネット
や本を頼りに基礎追究を始めていった。
のがなく、困っていた。そこで、tプロジェ
クト委員が中心になって「理想の追究に向か
うには、どんなテーマにしたらよいか」とい
うアンケートを取った。そして、160名のt
プロジェクトⅡにかける思いを集約して学年
集会をもったのであった。子どもたちは「自
己満足では終わらせたくない」
、「学んだだけ
で終わらせるのではなく、交流を通して、自
分たちの学びをまわりの人たちに伝える中で
感動を与えられるようにしたい」「この学び
香苗たちは、写真の基本的な撮り方の知識
を次の学びに生かしたい」と発表した。そし
を学ぶために、カメラの構え方や構図、シャ
て、
その思いがかなうような追究にしたいと、
ッターのきり方やアングルポジション、一枚
− 162 −
の写真における色の使い方、光の取り入れ方
法や得た知識をアドバイスし合い、追究の内
などについて、
分担して追究を進めていった。
容を自分たちで高めていく“アドバイス会”
を開きたい」と申し出があり、早速、開くこ
縦と横の構図について本から学びました。
① より安定感があるかを考えることが大切
とになった。
②
“アドバイス会”では、香苗たちは次のこ
バランスのよい構図は主体を画面のどこにお
とを話題にしていこうと考え、会に臨んだ。
くかが大切(7:3の構図、黄金分割の構図など)
③
水平・垂直の線をどうやって出すかなどみん
・どうすれば「感動」する作品に迫れるのか
なの追究が集まると感動できる写真ができると
思います。
・ほかの班では「感動」させることのできる追究
(香苗の授業日記)
にするためにどのような工夫をしているのか
(香苗のアドバイス会に向けた思い)
香苗たちは、それぞれが追究したことを出
香苗たちは「幸せを撮る」ことをテーマに
し合い、
それをもとに写真の撮影を開始した。
している「HAPPY☆PROJECT」グループと
水の滴る瞬間
をとらえた作品
なのに。なぜ平
凡な写真になっ
てしまうのだろ
う。どうすれば
感動する作品に
迫れるのか…。
わたしたちの追
究には何が足り
ないのだろう。
の交流において、ありのままを撮るのもいい
が、背景などに工夫をして主体を引き立たせ
ることや、プロのカメラマンから学ぶことの
大切さを指摘された。また、ほかのグループ
からは、岡崎に住むカワセミ撮影の名人の伏
木さんや、岡崎のタウン誌「りばーしぶる」
に毎月写真やコラムを連載している井土さん
の情報を集めることができた。
〈思うような構図がとれずに自信をなくしている香苗の作品〉
アドバイス会後のグループでの話し合い
頭の中ではある程度わかっているつもりで
で、「やはり、知識だけではだめで、追究を
も、思うような構図がとれない。自信がなく
深めていくにはプロから学ぶ体験が大切であ
てなかなかシャッターがきれない。望遠レン
る」と、香苗は取材・訪問の重要さを主張し
ズの使い方がわからず、手ぶれを起こしてし
た。真由子も「望遠レンズの使い方は風景を
まう。何度撮り直してもだめなのだ。「わた
撮るには絶対必要なので、ぜひ、訪問を計画
したちには、こんな作品しか撮れないのか」
したい」と発言した。そこで、グループで分
と考え込む香苗たちに、「昨日の新聞に、き
担して、岡崎に住む3人の方にアポイントメ
れいな風景の写真が載っていたよ。電話をか
ントを取って取材を行うことにした。
けて相談しててみたら」と教師は助言をした。
「友達のアドバイスを聞きたい」
今日のアドバイス会は本当によかったです。裕
子さんたちの「HAPPY☆PROJECT」のグループ
香苗たちは、毎時間、グループで話し合い
には、プロのカメラマンから学ぶことの大切さを
をしたのだが、構図のとり方や、自分の表現
教えてもらいました。わかっているつもりだった
したい思いをうまく表現できずに、平凡な写
のですが、改めて友達からアドバイスを受けると、
真になってしまい、どうしても思うような写
真が撮れないことに悩んでいた。
取材・訪問の重要性が伝わってきました。
また、隆史君のグループからは、岡崎に住むプ
ロのカメラマンを教えてもらいました。
そのころ、香苗たちだけでなく、どのグル
グループでの話し合いでは、取材の大切さが話
ープも基礎追究が停滞していた。グループの
し合われました。自分たちが悩んでいた問題の解
代表者たちの話し合いでも「お互いのグルー
決に向けて、大きなヒントをいただけました。
プの悩みを相談し、自分の追究で見つけた方
− 163 −
(香苗の授業日記)
N
P
実
践
「取材・訪問活動で追究を深めたい」
見てもらう中間発表会を開いた。中間発表会
香苗と麻美子…「りばーしぶる」連載の井土様を訪問
では、よりよい追究になるように、互いにア
真由子と美千代…「カワセミ」を撮る伏木様を訪問
ドバイスを書きあった。ここでは、「この写
愛子と由季子…「花・鳥」を撮る山本様を訪問
真いいね」とか「すごいじゃない」といった
風景の撮影を追究している真由子と美千代
反応が多かった。しかし、「花や風景や人な
は、カワセミを撮る伏木さんを訪問した。20
ど、いろいろなものを撮っていては、グルー
年間撮り続けている伏木さんからはじっくり
プとして主張したいものが伝わらない」「一
と被写体を観察したり、動きの特徴を追究し
つのもので表現した方が、感動が伝わるので
たりした上で写真を撮ると、より美しい「一
はないか」といった意見ももらうことができ
瞬」が撮れることを教えてもらった。
た。また、ボランティアを追究しているグル
花の撮影を追究している愛子と由季子は趣
ープの発表から、訪問先の方とともに行動す
味で写真を撮っている山本さんを訪問した。
ることが深い学びにつながることもわかった。
ここでは、手ぶれの防ぎ方を実際に教えても
「人のココロを切り抜く写真が撮りたい」
らった。また、実際に山本さんのカメラを使
中間発表を終えた後、香苗たちは、最終的
って光と影のバランスを教えてもらうことも
に風景や花や人など様々なものから感動を与
できた。さらに、よい被写体とよい技術も大
えるものにするのか、それとも一つにしぼっ
切だが、撮る人の気持ちが合わさってはじめ
て追究を続けるのかを話し合った。
てよい写真ができることを教えてもらった。
真由子:どうしよう。みんなに感動を与えること
学校の風景を追究している香苗と、人の撮
ができるには人を写すとか、一つにしぼ
影を追究している麻美子は“目によい写真”
った方が伝わるのかな。
麻美子:人がいいよ。それも自分たちと同世代の。
として視覚を通して心を和ます「目ぐすり写
その人を写すことによって自分の気持ち
真」を撮っている井土さんを訪問した。
や思いが伝えられるのではないのかな。
香 苗:取材した井土さんも、素直が一番って言
ってたよ。素直な心で人を撮ってみよう
よ。
愛 子:わたしたちの気持ち、表現できそうだね。
(グループでの話し合い)
話し合いの結果、「人の心や思いを表現で
きたら、しかも、自分たちと同じ世代の気持
ちを写真で代弁することができたら素晴らし
いのではないか」ということにまとまり、
香苗たちは、被写体をいろいろな面から見
『若者の心を切り抜けるような写真』を撮る
ていくことや、匂いがわかるくらい近づいて
ことで感動を与えられたらという考えにまと
撮ることや、素直になって撮りたいものを撮
まっていった。さらに、宿泊をともなう活動
ることなどを教えてもらった。また、これか
は若者が集まる東京で撮影をしながら、自分
らの追究では、「同世代くらいの人を撮って
たちの学びを深めていこうと考えていった。
「東京の若者を撮りたい」(宿泊をともなう活動)
みるのはどうか」とアドバイスを受けた。
「中間発表会で友達の考え方を聞きたい」
宿泊をともなう活動ではより多くの写真家
それぞれの取材訪問活動での学びをまとめ
たものや資料を体育館に展示し、学年全員に
の方に話を聞き、
撮影に生かしたいと思った。
香苗たちは、これまで撮影した写真をもって
− 164 −
岐阜や東京の3人の方を訪問した。話を聞く
論会では、「相手と心が通じ合って初めて感
のと同時に自分たちの追究の確かさ
動が生まれることがわかった」という香苗の
を振り返りたいと考えたからだ。
意見に続き、「まず、自分が感動しなくては、
香苗と麻美子…フォトジャーナリスト:中村様(岐阜)
感動を与えることができない」「感動のキャ
真由子と美千代…日本写真家協会会長:田沼様(東京)
ッチボールが大切」など、体験にもとづく意
愛子と由季子…プロのカメラマン:榎並様(東京)
見が次々出されていった。追究した内容は違
枯れ葉剤の恐ろしさを写真で表した中村さ
うが、感動というテーマについてはみんな同
んは、写真は言葉以上の「武器」であると教
じ思いをもっていたということや、これから
えてくれた。田沼先生は写真から感動を得る
の継続活動にどのように生かしていくかが大
ことによって学ぶことがたくさんあるから、
切であることなど、討論会を通して今後の活
自分で感動した瞬間にシャッターをきること
動への課題が明確になってきた。
が大切であることを教えてくれた。榎並さん
今回のテレビ会議はとてもすばらしかったです。
は、感動する写真は「心に残る写真」で「撮
160人が2カ所に分かれていましたが、心は離れて
りたいものは考える前に撮る」ことが大切で
いませんでした。大阪のみんなの熱い思いが伝わ
ってきました。宿泊をともなう活動で自分たちの
あることを教えてくれた。
追究してきた感動はどこまで伝わったかどうかわ
訪問をする中で、共通していることは「撮
かりません。しかし、人から感動を受けて、それ
りたいと思ったらすぐに撮ること」「写真は
を相手に投げ返す「感動のキャッチボール」をこ
撮る人の気持ちが大切」「感動する作品にす
れからも続けていけたらと思います。
(香苗の授業日記)
るには、まず、自分が感動しなくてはだめで
「地域に広げる活動をしたい」
あること」であった。
訪問を終えた香苗たちは、原宿、渋谷、お
香苗たちは、自分たちの撮ってきた写真が
台場に行き、自分たちと同世代の仲間に声を
感動を与えられることができるかどうかを試
かけて写真を撮っていった。
すために、ショッピングセンターで展示会を
〈香苗のベストショット〉
開いた。見てくれた人から、「撮った人の心
わたしはこの
写真に、現在の
生活に充実感を
感じ、明日への
希望にあふれて
いる若者の純粋
な笑顔をとらえ
ました。
の優しさを写し出しているようです」「とて
もよい表情をして写っています。そして、あ
なたたちも素敵な表情をしています」といっ
た反応があり、追究の確かさを感じた。
「tプロジェクトⅡを振り返って」
活動を振り返って、香苗は「カメラにこれ
「見ず知らずの人に声をかけるのは勇気が
ほどの力があるとは思いませんでした。被写
いることだが、若者の写真を撮るうちに笑顔
体の人とコミュニケーションをとる中で、相
を見せてくれるようになった」必死にコミュ
手の気持ちがわかってくるのです。レンズを
ニケーションをとる中で、香苗たちは、外見
のぞくと驚くことばかりでした」と言う。ま
ではわからない人の思いや優しさにふれ、心
た、これからは、写真を撮る仲間を広げて、
が通じたことを感じ取った。
作品を老人ホームにも展示したいと考えてい
「学年の仲間に伝えたい」(テレビ会議)
る。「これからの時代を生き抜く若者の姿を
宿泊をともなう活動の最終日には東京・大
見てもらい、より多くの人に感動を与えたい
阪の2カ所の宿泊地をテレビ会議システムで
からです」と力強く語る香苗は、カメラを片
結ぶことによって学年討論会が行われた。討
手に新たな活動を始めようとしていた。
− 165 −
N
P
実
践
NP・子どものまとめ より
iプロジェクトⅡ 那美の追究
「B r a i l l e V o l u n t e e r
F o r 視覚障害者∼」
テーマ設定の理由
考えています。たとえば、『地震』という言
「点字の本はボランティアで作ってもらうも
葉は、辞書で引くと『じしん』となりますが、
のもあります。そういうサークルがあるんで
これでは『地震』なのか『自信』なのかわか
すよ」iプロジェクトⅠで学んだことは、だ
りません。ひらがなだけの点字だからこそ難
れかのためにできることがすぐそこにあると
しい問題です」とおっしゃった。やはり、相
いうことだった。「知ったからには自分もや
手に気を配りながら作業していることがわか
ってみたい。わたしには何ができるだろうか」
った。
もう一つ、わたしは聞いておきたいことが
そんな気持ちから「Braille Volunteer(点字
あった。わたしたちは視覚障害をもつ人たち
のボランティア)
」の追究を始めた。
とどう接すればいいのかということである。
追究内容
すると、「視覚障害に限らず、障害者を特別
「点字はどれほど大切なものなんだろう」
視しないことが大切です。目が不自由という
点訳ボランティアをするなら点字について
のは、わたしたちの『苦手』と同じです。跳
知るべきだと思い、まずは、読み書きや規則
び箱が苦手な子もいるでしょう。その子を特
などについて調べた。探してみればたくさん
別視しますか。ボランティアというのは、そ
の点字はあるのだけれど、目を閉じて考えて
の苦手を補うものです。だからといって、あ
みると、わたしたちはどれだけ文字に頼って
れもこれもやろうとするのはおせっかいにな
いるかが感じられる。しかし、ここで疑問が
ります」という答えが返ってきた。わたしは、
でた。「目の不自由な人にとって、点字はど
この時初めて相手への気配りの難しさを知っ
れほど大切なものなんだろう」
ということと、
た。そして、それと同時に点訳ボランティア
「点訳ボランティアをしている人たちは、ど
をやってみたいと強く思うようになった。
んな気持ちで点訳しているのだろう」という
ことだ。
「気配りって難しいな……」
わたしは岡崎市で活動している点字サーク
ルを訪問した。そこで見たのは、とても生き
生きと作業する方々の姿だった。想像してい
たタイプライターは使用せず、効率のよいパ
ソコンで点字入力し、専用のプリンターで打
「点訳絵本を盲学校に届けよう」
ち出すといった方法だった。
作業中、対応してくださった山田さんに特
わたしはさっそく山田さんにもお願いし
に気をつけていることを聞いてみると、「誤
て、点訳をするにはまずどうすればいいのか
字脱字はもちろん、相手が読みやすいように
を聞いてみた。すると、最初は本決めをする
− 166 −
ことからはじめることと、点訳する本は絵本
iプロジェクトⅡを振り返って
がいいことを勧められた。さらに、考えてい
わたしは、盲学校に点訳絵本を届けること
るうちにまた疑問が出てきた。「作り上げる
を目標に、追究に取り組んできた。盲学校の
だけで何かのためになるのだろうか」自己満
水谷先生や生徒のみなさんが、どういう反応
足で終わらせないためにも、何かいいアドバ
をするかによって、この追究の成果が問われ
イスをもらうために、岡崎盲学校の先生に相
る。結果は予想以上のものだった。「生徒た
談してみることにした。
ちに感想を書いてもらって送りますよ。立派
盲学校で「もし、点訳本を作ることができ
な絵本をよく完成させましたね」それまでの
たら、こちらに置いていただけますか」と聞
苦労がこの言葉でふっとんだようだった。積
くと、担当の水谷先生は快く「いいですよ」
極的に追究を進め、形を残すことは、絶対に
とおっしゃってくれた。わたしはこれで大き
自己満足にならないと思う。点訳ボランティ
な目標ができた。盲学校ではもう一つ、「本
アにかかわる多くの人々の思いにふれたり、
はみんなが読む楽しい本でいいのです。人気
実際に点訳絵本を作ったりすることは、追究
があるもの、紹介したいものがいいですよ」
を充実させることにつながった。
とアドバイスを受けた。わたしは、ずっと視
わたしは、点訳ボランティアを通してだれ
覚障害者に対して隔たりがあったことにこの
かの役に立ちたいと思い、この追究を始めた。
時気づいた。ようやく点字サークルで言われ
途中で行き詰まったりしたけれど、そんなと
た気配りの意味についてわかったのである。
きに友達と意見交流をしたことや、取材先の
こうしてようやく点訳作業に入った。本は
人たちからアドバイスをもらったことは、そ
わたしの好きな「おさるがおよぐ」というも
の後の追究を進めるうえでとても参考になっ
のにし、作業は毎週サークルを訪ねながらの
た。そして、自分で計画を立てて興味のある
ものになった。点筆と点訳板でタグペーパー
追究を進め、結果としてそれが盲学校の人た
に規則正しく文を打ち、できたものを点検し
ちの役に立てたことで、大きな満足感を得る
ていただく。そして、合格をもらったタグペ
ことができた。今回の追究で学んだことを生
ーパーを切って、絵本に貼って完成である。
かし、これからも自分なりにできるボランテ
完成までの2ヶ月間、快く指導してくださっ
ィア活動を続けていき、だれかのためになれ
た点字サークルの方々には感謝している。
たらいいなと思う。
− 167 −
N
P
実
践
NP・子どものまとめ より
iプロジェクトⅢ 明菜の追究
「線 香 華 火 」 ∼日本にこだわる∼
テーマ設定の理由
なっていることに黙っていられなかった人が
iプロジェクトⅢがはじまったころ、初夏
いた。消えかけた「国産」という火を再び燃
の暑さを感じるころだった。「花火にしよう」
え上がらせようとした人が、ここ岡崎にいた。
とひらめいた。そして、岡崎市に線香花火職
わたしは、その方を訪ねた。伊藤さんである。
人がいることを知り、花火の中でも国産の線
伊藤さんは定年退職してから、こよりがよれ
香花火にこだわることにした。さらに、国産
ることを活かし、線香花火職人となった。
のものは普段遊ぶ中国産のものよりずっとき
「お手製線香花火に出会う」
伊藤さんのところへ取材に行き、いろいろ
れいだと聞いて、国産の線香花火にますます
な話を伺った。話だけでなく実際に線香花火
興味がわき、これを追究することにした。
を作るところを見せていただいた。色の着い
魅惑の線香花火
た和紙に秘密の調合法で作った火薬をのせ、
「国産の線香花火は、いまどこに」
器用によっていく。このより方が難しい。わ
国産の線香花火と聞いてぴんとくるだろう
たしもいっしょに作らせてもらった。和紙の
か。いつも遊んでいるものでさえ、どこの国
角に火薬を少しのせ。左右の指先の力の入れ
で作られたかわからない。わたしたちが遊ん
具合を微妙に調整しながら、一本の線香花火
でいる花火セットは中国で作られたものであ
を作っていく。はじめは、火薬がこぼれない
る。では、国産の線香花火は、本当にあるの
ようにこよりに入れることさえも困難で、形
だろうか。昔は基本的に日本でしか作ってい
にならない。二本、三本と作るうちにそれら
なかった。線香花火は、日本にしか存在しな
しい形にはなっていった。しかし、和紙の白
い花火である。40年から50年くらい前は、日
(本来出てはならない部分)が出てしまった
本でも盛んに作られていたが、段々と機械化
り、ふにゃふにゃしてしまったり、とても売
が進み、非生産的な線香花火の生産は衰退し
り物になるような線香花火はできなかった。
ていった。だんだん作られなくなり、線香花
火のこよりをよることができる人もいなくな
ってしまった。今では国産の線香花火は、ほ
とんど見られないという状況にある。
「線香花火のなぞを紐解く」
(a)線香花火を極めた人々
「線香花火を作る人を求めて」
線香花火はどうして火花が出るのかはっき
日本の線香花火が姿を消してしまいそうに
り解明されていないらしい。30年程前に東京
− 168 −
都立新宿高校の方が何度も何度も実験を重ね
「線香花火を守る人の思いにふれる」
一度は途絶えかけてしまった線香花火を火
た結果、ある程度のことはわかったそうだ。
花火屋である三州火工へ取材に行った際、
薬の調合法や割合からこよりの和紙の種類ま
新宿高校の人がまとめた冊子をコピーさせて
で、再び研究し直し、復活させるのは気の遠
もらった。その本によると、火球の中の炭素
くなりそうな作業だったに違いない。なにし
である松灰が火花の原因なのだそうだ。
ろ火薬の調合法は書き記して伝えるものでは
(b)火花が出るメカニズム
なく口伝で伝えていたため、資料も残ってい
花火に火をつけると第一次不完全燃焼がお
なかった。それを再びよみがえらせたのだ。
こり、燃え残りやカスが溶け合って新しい物
しかも、それによってもうかるというもので
質を作り出す。
(図1)この時、温度は800度
はないらしい。仕事と考えたらとてもやって
から900度にも達する。この新しい物質が表
いられないと三州火工の稲垣さんは言う。で
面張力で球状になる。これが火球。(図2)
は、なぜ、線香花火の復活に力を注ぐのか。
火花は火球の中のガス
稲垣さんは、道楽くらいのつもりでやったか
が飛び出すためだと考
らできているのだと語ってくれた。メカニズ
えられている。
(図3)
ムも何もわからず、勘にたよるしかない。だ
これには、たくさんの
(図1)
から、作るたびに変わってしまう。わずかな
条件が必要になつてく
誤差が正否を決定することは痛いほどよくわ
る。くわしく見てみる
かっている。難しいことだからこそ試行錯誤
しながら作るところに魅力があるのだそう
と…火球が900度から
950度に達すると、火花
(図2)
だ。そして、自分が花火にかかわる人間とし
(=炭素の粒)が飛び
て、外国にない日本古来の花火を復活させた
出す。すると、その固
い、この技を後世に伝えたいと思って頑張っ
まりは空気(酸素)に
ているのだそうだ。
触れてぱっと火花を散
らす。つまり、炭素を
(図3)
iプロジェクトⅢを振り返って
核にしてはじけるとい
わたしは、今回今までで最高の、本物のi
うことになる。
(図4)
プロジェクトができたと思っている。世界に
こうして松葉が出る。
たった一つのわたしのプロジェクトであり、
華やかなのはさらに第
世界一の花火を追究してきたのだ。他の誰の
2次、第3次火花もあ
どんな研究を真似たわけでもない、どんな本
るからなのだ。
(図5)
(図4)
にも教科書にも載っていない、本物のiプロ
ジェクトになったと思う。さらに、今回は、
取材で出会った人たちから、熱さを感じるこ
とができた。
お金もうけにならなくても、自分が伝えた
い思いがあるから、
残したい伝統があるから、
とひたむきに生きる姿はすばらしいと思う。
なにかに情熱を注ぎながら生きる人の姿を学
ぶことができたと思う。わたしにも、情熱を
(図5)
かけて頑張れるものがみつかるといい。
− 169 −
N
P
実
践
ネットワークプロジェクトに
子どもたちの学びは、地域、社会に広がっていきます。NPにかかわった方々、
また、その活動ぶりを傍らで見守られたご家庭よりお便りをいただきました。
素敵な学び「iプロジェクト」を応援しています
暑い日が続きますが、木村幸さんにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
先日は、本センターの夏祭りにスタッフとしてご参加いただき、ありがとうございました。幸
さんの作ったかき氷は大変好評で、利用者の方々はもちろんのこと、地域の方々からも、「元気
で明るい子だね」とお褒めの言葉をいただくことができました。
これも、日ごろからボランティアとして、デイサービス利用者のお一人お一人にやさしく言葉
をかけ、入浴のお手伝い、食事の配膳をされる幸さんの姿がそのまま表れていたからだと思いま
す。「どうしたらみんなに喜ばれる介護ができるか」という、幸さんの学んできたことが、この
夏祭りを通してかたちになったのではないでしょうか。
素敵な学習が今後も深まっていくことを、
本センター職員一同応援しております。
まずは、書面にてお礼まで。
(iプロジェクトⅡに寄せて 福祉施設担当者様より)
自分を大きくする学びに挑戦してほしい
「ねえ、聞いて! わたしの身長、伸びるどころか1㎜も縮んじゃったんだよ。もう、信じられ
ない」と騒ぎたてる娘。思えばこの1年は、身長の伸びを忘れてしまうほど速かったように思い
ます。理想の町づくりという壮大なテーマに、戸惑いながらも、娘にとっては新しい発見と感動
の毎日。友達や先生、そしてtプロジェクトⅠで出会えた方々から、多くのことを学び、感じ取
り、随分成長したのではないでしょうか。
もし「心長計」なるものがあれば、この1年の伸びは、めざましいはずです。これからのい
ろいろな活動でも、きっとすばらしい出会いや発見が待っていることでしょう。自分を大きくす
る学びに挑戦していってほしいと思います。
(tプロジェクトⅠに寄せて 2年優子の母親より)
この子の親でいられたことに心から感謝したい
「人に感動を与える」「人のためになることを行う」「活動を継続させる」…そんな素晴らしい目
標を掲げた「tプロジェクト」のことを耳にしたのは去年の暮れのことだった。チームのメンバ
ーや役割を決め、活動の目標や中身を吟味し、訪問先を探し当てて交渉し…その都度相談にはの
りながらも、自分の力で一生懸命考え、自分の意思で行動し、チームの仲間と真剣に話し合う…
そんな子どもの姿や目の輝きに、何度となく頼もしさと成長のエネルギーを肌で感じたものだっ
た。先生方のサポートで、宿泊をともなう活動中、わたしたち家庭にも公開されつづけた「デジ
タル旅日記」。そこに入力された一言一言からは、粘り強い努力が結実した達成感(生きるとい
うことの実感)と、真心でぶつかった相手から真心を返してもらった悦び(人や社会とは何かと
いうことの実感)がひしひしと感じられて心を打たれたものだ。この子の親でいられたことに心
から感謝している。
(tプロジェクトⅡに寄せて 3年秀雄の父親より)
− 170 −
寄せられた声
夢の実現に向けて
いきいきと活動する子どもたち
期待と不安を胸に、取材先の
アポイントメント取り
追究を見直し、
まとめに向けて
追究の成果をたずさえて
アドバイスし合った中間発表
地域へ出向いた発信活動
よりよい活動を求めた
チームでの意見交流
訪問先の人と心を通わせた
宿泊をともなう活動
追究の成果を
世に問う発信活動
より確かな追究のための
追究を深めるための
体験活動
専門家への取材訪問
− 171 −
N
P
実
践
この子の輝き
約 束
「先生、実行委員会をうまくまとめられません。学年のみんなと
の間に溝があるけどどうしたらいいの。」
悩みをかかえ、昨年度、何度かわたしを訪ねてきたのは、新2
年生、t プロジェクトⅠの実行委員長、さち子である。入学時か
ら学年のリーダーとして育ってほしいと願っていた一人である。
t プロジェクトⅠの実行委員長に決まったとき、やっと出てきて
くれたか、うまく育てていかないと、と思ったことを覚えている。
t プロジェクトⅠが立ち上がり、活動が進むにつれて、暗く険
しい表情になることもしばしばあった。責任感もあるし、少し
ずつ先を見通せるようにもなってきている。一生懸命な姿勢は
よく伝わってくるのだが、まだまだ足りないところもある。
「ふうん、そうか。さち子は、たいへんだなあ。」
と、彼女の悩みを精一杯聞きながら、次に身につけてほしいと
ころを何気なく切り返す。
話が終わるころには、少し元気になって帰っていく。そんな繰
り返しの中で、成長してくれたのだろうか。
2年生になってからは、担任もはずれ、さち子の様子が気に
かかっていた。つい先日、
「先生、今度、わたしは足助中の全校集会で足助中のみんなに話
すんだよ。」
と、活動報告に来た。
「責任重大だな。」と言うと、
「足助中との交流がうまくいくかにもかかわってくるから、しっ
かり準備していくね。」
と答が返ってきた。その表情を見て、成長ぶりを確信できた。
「また、落ち込んできたら、先生、話を聞いてくれる?」
「いいよ。」
1年生の時に、さち子は、「委員長をやめたい」と言ってきたこ
とがあった。そのときに約束したことは、「その言葉は二度と言
わない。どんなことがあってもやり通す。」だった。見ていて、
苦しそうだなと思うこともたびたびあった。しかし、さち子は
約束を守った。t プロジェクトⅠのゴールも迫ってきている。き
っとやりきってくれるに違いない。t プロジェクトⅠを終えたと
き、さち子はどんな話をしてくれるのだろう。
− 172 −
第 Ⅳ 部
第1学年C組 国 語 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 1C教室
授 業 者 伊 豫 田 守
1 単 元 わたしと自然
2 単元の構想
以前、愛知万博にあたり、海上の森では自然環境保
草花など意識していなかった自然を見るようにしてい
護か万博開催かで議論になった。開発の話題とともに
く。そして、自分の身近な自然から自然環境へ視野を
自然環境保護に関する報道は必ず伝えられ、わたした
広げ、自分と自然との関係を意識しつつ、今日的な環
ちは自然環境保護の大切さを意識する。子どもたちも
境問題を考えるようにしていく。この単元を通して、
同様で、自然といえば大切なものであり破壊から守っ
子どもたちが、文学に表現された自然の姿を心で感じ、
ていかなくてはならないものだという意識をもってい
同時に、自然を慈しむ心を持ってほしいと期待する。
る。しかし、子どもたちが大切だという自然とは何だ
そして、なにげなく聞き流していた虫の音に耳を傾け、
ろうか。なぜ、子どもたちは自然が大切だというのだ
見過ごしていた木々の変化に目を向け、わたる風の変
ろう。大規模な森林伐採や沿岸開発による海洋生物の
化を感じ、草花の香りに立ち止まるようになったとき、
死滅地など大きな自然破壊がどういうものであるのか
初めて自然と自分のかかわりが意識できる。その上で
ということは知っているが、自分の近くにある自然に
語られる自然環境こそ自分の問題として意識できるも
対してはどれほど意識をしているのだろうか。山の中
のであると考える。
でカブトムシをつかんだり、川に入って魚をつかまえ
単元の初めに、自然環境に関する新聞記事と自分と
たりするのではなく、店頭に並ぶ中から選んで買って
の関係を考えることで、自分にとっての自然とは何か
くる子どもたちにとって、自然とのかかわりとは何を
というという問いをもたせる。その上で、自然の中で
意味するのであろう。子どもたちの自然を大切にしよ
活動する子どもの姿を描いた物語文を読み、自分の身
うという意識は、情報によって作られたものであり、
近な自然へ目を向けさせ、自然を見つめてみようとい
自然に対する慈しみをともなわない観念的なものなの
う思いを喚起する。その後、俳句を教材として自然を
かもしれない。
じっくりと見つめたり、自然を舞台にした文学作品を
そこで本単元「わたしと自然」では、まず、自分の
取り上げ、自分自身の経験と照らし合わせたりしなが
身近な自然に目を向け、自分の自然をみつめる目を意
ら、自分の身近な自然をみつめ、自然への思いを高め
識させたい。子どもたちは前単元「わたしを語る」で
る。そして、高まった思いをもとに現代の自然環境を
自分自身を見つめてきた。「わたしとは何ですか」と
テーマにした説明文を読み、自分のとらえ方で自然環
いう問いに、自分自身というものを日ごろあまり意識
境を考えようという思いをもたせる。最後に、自分で
していなかったことに気づいた。そして、自分を探る
テーマを決め、自分の自然への思いをコラムにまとめ
中で、自分を中心とした他とのかかわりを意識するよ
るようにする。そして、学級のコラムをまとめ、俳句
うになってきている。本単元でも、前単元での学習を
とともに冊子にすることで、自分たちの生活環境とし
生かし、自分を中心として自然とのかかわりを意識さ
ての自然だけでなく、古来より文学に表現され、われ
せるようにする。これまで自分が自然をどうとらえて
われの心を揺さぶる自然の価値を確かなものにしてい
いたかを振り返らせ、自分のまわりの川や山、雲、虫、
きたい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 出会った作品を読み、登場人物の思いや筆者の主張を考えながら自分自身の生活や経験を振り返り、自然
にかかわる問題を自分の身近なこととしてとらえようとする。
§ 自然に対する見方をひろげたり、深めたりするために、自分の思いや考えをもとに作品を読んだり、テー
マをもって調べたり、友達と語り合ったりしようとする。
¨ 自分自身の生活とかかわらせながら自然に対する思いや考えをまとめ、適切なことばを選んで表現し、ま
わりの人に伝えようとする。
− 174 −
4 単元「わたしと自然」の構想表(22時間)
過程
こ
こ
ろ
よ
せ
る
手 だ て
「魅力の発見」
自分のまわりの自
然を見つめ、自然を
とらえ直すきっかけ
にするために、自然
環境に関する新聞記
事を提示する。
子どもの考え・思い
自然は大切だ
抽出生への支援と育てたい姿
自然環境破壊が進んでいる
わたしにとって自然とは何だろう
きれいな風景
1
大きな力をもった強いもの
心が落ち着くもの
イメージはあるけれどはっきりしない
「魅力の発見」
自分の自然体験を
振り返り、身近な自
然への視点をもたせ
るために、『かいぼ
り』を提示する。
わたしは身近な自然に気づいていないのかもしれない
自分の近くの自然をみつめてみよう
自分も小さいころは
よく川であそんだ
近くの川は今どうな
っているのかなあ
2∼5
「学びの吟味」
自分の身近な自然
に考えが向かない場
合は自分と自然との
かかわりを図で示し
て考えさせる。
育てたい姿¦
これまでの自分が
考える自然を振り返
りながら、自分の自
然に対する認識を考
え直そうとする。
主人公のようなこと
をやってみたい
自分のまわりにはもっといろいろな自然がある
「夢の構築」
自然をみつめる視
点を与えるために、
入道雲の写真と写真
に関する俳句を提示
する。
身近な自然を表現してみよう
6∼9
どんな自然を俳句にしようか
草花をテーマに俳
句を作ろう
木をテーマに俳句
を作ろう
川をテーマに俳句
を作ろう
わかりやすい俳句を作るにはどうしたらいいのだろう
こ
こ
ろ
ひ
ろ
「学びの吟味」
互いの作品に関心
をもたせ、自分の作
品をよりよくしよう
という思いをもたせ
るために、自分の俳
句と俳句に関する写
真ををパネルにして
展示する。
る
「夢の構築」
自分の身近な自然
から環境問題を考え
るようにするために
『魚を育てる森』を
読んで自然環境の現
状を問いかける。
「志向の共感」
環境についての自
分の考えをまわりに
伝えようという思い
をもたせるために、
先輩の書いた自然に
関するコラムを提示
する。
俳句に込めた思いを解説文で添
える
自分の思いは俳句に表れているだろうか
表現した自然を互いに批評し合おう
言葉の選び方がう
まいな
げ
こ
こ
ろ
か
よ
わ
せ
る
自分の気に入った自然の様子を
写真で切り取る
自分の気づかない
自然もあるな
10・11(本時10)
同じ川でも違う見
方があるな
身近な自然が見えてきたぞ
これから自然とどうかかわっていこうか
12∼17
「夢の構築」
自分のテーマがはっ
きりしないときは、
日ごろの生活の場面
で自然を意識してみ
るように助言する。
育てたい姿§
俳句の題材をさが
しながら自分の生活
の中の自然に目を向
け、意識してかかわ
っていこうとする。
「学びの吟味」
自分のとらえた川
から見方がひろがら
ないときは、川をテ
ーマにしたものとの
交流を促す。
育てたい姿§
川に対する見方の
違いに関心をもち、
友だちのとらえ方を
知ろうとする。
自分たちは今、自然とどうかかわっているのだろう
森林伐採について調
べて考えてみたい
きれいな空について
調べて考えてみたい
美しい川について調
べて考えてみたい
自然について自分たちの考えていかなくて
はいけないことがわかってきた
自然について自分の考えをまとめよう
自然を知ることが大切だ
18∼22
自然を好きになることが大切だ
身近な自然に対して自分がもっと関心をもたなくてはいけない
− 175 −
「学びの吟味」
自分のテーマをも
って自然環境を考え
ていくようにするた
めに、俳句で表現し
た自分の思いを振り
返るようにさせる。
育てたい姿¨
自分の俳句でのテ
ーマをもとに情報を
集め、自然環境につ
いての考えを相手に
伝わりやすく表現し
ようとする。
公
開
授
業
第3学年C組 国 語 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 3C教室
授 業 者 野 間 寛
1 単 元 古典を味わう
2 単元の構想
科学技術の発達により、わたしたちの生活は劇的な
る機会が多く、古文を暗唱、音読するなどしてその独
変化をとげた。コンピュータや携帯電話など高機能な
特のリズムに親しむ、という点では不十分なところが
情報機器が身近にあり、しかも数か月単位で新機能、
あった。また、古人の知恵や戒めの普遍性に注目する
新機種が登場するなど、新しいものへのあこがれはと
あまり、古文を、どことなく堅苦しい、教訓的なもの
どまるところを知らない。しかしその一方で、冠婚葬
としてとらえている子どもも多い。
祭の儀礼など日本古来の伝統や風習なども形を少しず
そこで本単元では、庶民的な文学としての古典に焦
つ変えこそすれ、根強く残っているものも多い。いく
点をあてる。まず、近世の庶民文学に興味をもつこと
ら技術が進歩しようと、いくら外国の文化が入ってこ
ができるよう、現代のわたしたちも耳にする機会の多
ようと、我々日本人に合った伝統や風習はこれからも
い古典落語を足がかりにする。子どもたちはその原話
残る。文学やそこに込められた作者の思いも同じであ
となった小咄本にふれることで、機知あふれる落ちや、
る。「温故知新」の言葉どおり、これからさらに進歩
軽妙な語り口調に魅力を感じるだろう。短い文章では
していく世の中を生きていく子どもたちに、古典文学
あるが、そこから登場人物たちの生き生きとした様子
をとおして、何百年も前から脈々と受け継がれている
を思い浮かべることの楽しさを感じ取らせたい。次に
古人の思いや知恵にふれさせていくことは大変意義深
井原西鶴の『西鶴諸国ばなし』に収められている「大
いことだと考える。
晦日はあはぬ算用」と、それを太宰治がリライトした
子どもたちは、2年生の単元「古人を語る」におい
「貧の意地」を読みくらべることで、自分の中で作品
て、兼好法師の『徒然草』から古人のものの見方・考
のイメージを広げることの楽しさにさらに魅力を感
え方にふれた。700年も前に書かれた作品ではあるが、
じ、自分たちもリライトに挑戦していこうという気持
自分たちの生活や考えに通じる内容や教えが意外に多
ちをもたせたい。そして根拠を示しながら、効果的な
いことに気づいた子どもたちは、興味をもって作品を
表現のあり方を探ろうとする姿に期待したい。単元終
読み進めることができた。そして、各章段に書かれた
盤では、これまでの興味や知識を生かして、さらに短
内容や主張を、現代の事例に置き換えて一つ一つ吟味
い言葉で書き表された川柳を深く読み解き、そこにこ
し、現代でも色あせることのない古人の知恵や観察力
められた人々の思いやユーモアあふれる表現を味わ
に心を動かされたり、その時代ならではのものの見
う。広がったイメージを鑑賞文として書くことで、庶
方・考え方や、一見同じように思える古人と現代人と
民によって育てられた文学の価値について考えを深め
の微妙な意識のずれなどを感じ取ったりすることで
たり、自らも自分たちの暮らしぶりを風刺した句を読
『徒然草』の内容を自分たちに身近なところで理解す
んだりするなど、各々が課題を進めながら、日本人の
ることができた。しかし、多くの章段の内容を理解し、
心に息づく普遍的な価値観や表現のすばらしさに気づ
比較するために、古文だけでなく現代語訳を頼りにす
き、自らの言葉で思いを表現していけるようにしたい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 近世の文学から、江戸時代に生きた人々の生活の様子や思想を読み取ったり、より詳しく内容を補ったり
しながら、これまでの古典作品や現代のわたしたちとの共通点・相違点を探ろうとする。
§ 朗読の仕方を互いに工夫し合ったり、作品の内容や魅力について友達と考えを語り合ったりしようとする。
¨ 古典作品を鑑賞し、そこから得たものの見方・考え方について、自分の経験と照らし合わせながら考えを
深め、その思いを表現しようとする。
− 176 −
4 単元「古典を味わう」の構想表(12時間)
過程
手 だ て
子どもの考え・思い
普段、古典の作品を
読む機会はあまりな
いな
こ
こ
ろ
よ
「魅力の発見」
庶民文学として
の古典に興味をも
たせるため、古典
落語のビデオを見
せ、話の元になっ
た絵入りの小咄本
を見せる。
江戸時代を舞台にし
た時代劇は人気があ
るね
抽出生への支援と育てたい姿
もっと親しみやすい
古典作品はないのか
な
昔の人々の思いや工夫が読みとれるかな
1∼3
後から思わずに
やりとしてしま
う話だね
読み方を工夫す
ると、よりおも
しろくなるよ
落語は小咄より
人々の様子が詳
しくて面白い
庶民に育てられ
た文学もあるん
だね
落語のように声
や顔に表情をつ
けて読むといい
自分で話を想像
してみるのも楽
しいね
せ
る
こ
こ
ろ
「魅力の発見」
古典作品の内容
から自分のイメー
ジをふくらませる
ことができるよ
う、井原西鶴の
『西鶴諸国ばなし』
とそれをもとに書
かれた太宰治の
『新釈諸国噺』を
提示し、その違い
について問いかけ
る。
作品の世界をどれだけ広げられるだろう
人物の様子が浮
かんでくるね
物語にそってア
レンジしている
4∼8(本時6)
こんなにイメー
ジが広がるんだ
自分の頭の中で物語を広げていくのもおもしろい
主人公の人柄を
詳しく書こう
げ
普段の生活の様
子を説明した文
を加えてみたよ
る
「夢の構築」
魅力的な登場人
物の描写について
考えることができ
るよう、省略され
ている内容を想像
して小咄の世界を
自分なりに広げて
みるよう促す。
もっと江戸時代の庶民を描いた作品が読んでみたい
ひ
ろ
育てたい姿§
近世の小咄本の
おもしろさについ
て話し合ったり、
朗読を工夫して互
いに発表し合った
りしようとする。
原文では人物の
行動が唐突なと
ころがあるね
おもしろくなる
ように、思いき
り話を広げよう
もう少し詳しく
説明してみよう
きちんと根拠が
ないとだめだね
育てたい姿¦
作品から当時の
人々の生き方や考
え方を読み取り、
その内容と、自分
の中に描いたイメ
ージをかかわらせ
てその姿や物語を
考えようとする。
「学びの吟味」
単なる創作にな
らないよう、物語
での行動や会話な
どに注目して考え
た友達の作品に注
目するよう助言す
る。
登場人物の姿や、物語を生き生きと描くことができたよ
こ
こ
ろ
か
「魅力の発見」
江戸時代の庶民
文学をさらに身近
なものに感じられ
るよう、当時の
人々の暮らしぶり
や思いをの様子を
ユーモアたっぷり
に表現した川柳と
その鑑賞文を紹介
する。
作品から人々の思いを味わうことができそうだ
9∼12
短 い 句 の 中 に 、 川柳だけでなく
庶民の気持ちが 狂歌や俳句も読
つまっているよ
んでみたい
今の自分たちに
も共感できる句
がたくさんある
イメージをふく
らませて鑑賞文
を書いてみよう
今も昔も人々の
思いには共通点
があるんだ
よ
わ
せ
自分でも川柳を
作ってみたから
紹介するよ
る
これからも昔の人の生き方や考え方のよいところを受け
継いで、自分のことばで表現していきたい
− 177 −
「夢の構築」
自分の思いだけ
でなく、友達が語
る魅力との共通点
を見つけるよう助
言する。
育てたい姿¨
作品を鑑賞して
得たものの見方・
考え方について、
自分と照らし合わ
せながら考えを深
め、思いを表現し
ようとする。
公
開
授
業
第2学年C組 社 会 科 授 業 案
公開授業Ⅱ 2C教室
授 業 者 中 西 勉
1 単 元 21世紀 日本の「食」は大丈夫? ∼食料輸入大国日本の現在と未来∼(世界の国から学ぶ)
2 単元の構想
今や世界一の食料輸入大国となった日本。1970年代
は当たり前のことになってしまっており、「飽食日本」
ごろから急速に食生活の欧米化が進み、日本人の「食」
に生きる日本人の悪い面を露呈している感がある。こ
は大きく変化した。そして、経済力にものを言わせ、
のような子どもたちの実態がある以上、それを見過ご
食料を海外から輸入する傾向が加速し、現在では先進
しておいてはならない。21世紀の日本を築く立場にあ
国の中でも特に食料自給率の低い国となっている。ア
る彼らが、生活の根本である「食」に問題が潜んでい
フリカ諸国や北朝鮮で飢餓に直面している人々が多数
ることに気づき、それを自分たちの力で少しでも改善
存在する中で、日本は飽食の時代を謳歌しているので
していこうとすることは意義のあることであると考え
ある。こうしたことは日本の産業構造にも大きく影響
る。特に、「食」に関する問題は、経済、産業、国際
を及ぼし、農業や水産業に従事する人は極めて少なく
関係など、さまざまな要素が絡み合って生じているだ
なった。その背景には、安価な外国産の農水産物に押
けに、それに取り組むことは、日本の社会や世界の情
され、また、貿易の自由化のあおりを受けて、日本の
勢をつかむという意味でたいへん有効である。
「見出す」過程では、特に「和食」に焦点をあて、
農水産業がたちうちできなくなってきているという現
状がある。セーフガードの発動による緊急避難的な措
そこに潜む実態を探りたい。子どもたちが、日ごろよ
置では、もはやこのひっ迫した状況を回避することは
く口にする和食の大部分が輸入食材で作られていると
極めて困難である。このような状況の中、食料供給に
いう矛盾に気づくことができれば、「食」について問
ついて不安を抱く国民は多い。平成12年7月に旧総理
題意識をもつことができるだろう。そして、食料自給
府が行った「農産物貿易に関する世論調査」では、わ
率の低さに直面して驚きを感じ、食料に関するより多
が国の将来の食料供給について「非常に不安がある」
くの問題を見つけようと動き出すことに期待したい。
と答えた人が26.6%、「ある程度不安がある」と答え
そのうえで、自分がいちばん問題であると考えること
た人が51.8%であった。これらを併せると実に78.4%
について、意見交流を通して互いの問題意識を確認し
にものぼり、国民の4人に3人が将来の食料供給につ
合いたい。「とらえる」過程では、人から学ぶことを
いて何らかの不安を感じていることが浮き彫りとなっ
重視して、自分の考えをより確かなものにできるよう
た。
にしていきたい。こうして自分の足で稼いだ財産が蓄
ところが、本校の2年生の子どもたちに目を転じて
えられてくると、子どもたちは話し合いの場で自分し
みるとどうであろうか。校内における「食」である給
か知らない事実を披露し、それにもとづいた考えを述
食を例にとってみても、食べ物が食べられることに感
べたくなるだろう。その討論を通して、21世紀の日本
謝するという意識がほとんど感じられない。また、給
の「食」のあり方についての方向性を探りたい。そし
食の食べ残しの量も決して少なくはない。しかし、そ
て、「はぐくむ」過程では、話し合いで得られた新た
れを見ても子どもたちは特に気にとめる様子もなく、
な情報や考え方を自分の考えに取り入れ、最終的には、
問題であると考えようとはしていない。彼らにとって
自分の考えを報道機関をはじめ、さまざまな方面へ発
は、「給食が食べられること」や「給食を残すこと」
信できるようにしていきたい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦
日ごろの食事では、自分はどんなものをどのようにして食べているかなど、「食料」について見直してみ
ようとする。
§ おもな農水産物について、生産量および輸出入の状況や食品の安全性を統計資料やインターネットなどを
活用して調べたり、農業関係者をはじめとする人から将来の展望について学ぼうとしたりする。
¨ 21世紀の日本の食料事情について、食料自給率や食品の安全性の問題を日本の産業構造や外国との結びつ
きなどから多面的に考え、よりよい方向を探していこうとする。
− 178 −
4 単元 「21世紀 日本の『食』は大丈夫?」 ∼食料輸入大国日本の現在と未来∼」 の構想表(12時間)
過程
見
出
す
手 だ て
「魅力の発見」
「食」についての問題
意識を生み出すことが
できるようにするため
に、寿司、うどん、み
そ汁などの「和食」を
作るのに用いられる食
材を提示する。
子どもの考え・思い
和食と言えばやっ
ぱり寿司だよ
うどんやそばも忘
れちゃいけないよ
抽出生への支援と育てたい姿
朝はごはんとみそ
汁がいいね
「和食」は日本食と言えるのだろうか
エビは東南アジアの
国からの輸入だ
1∼2
うどんの原料の小麦はアメリ
カやカナダから来てるね
みその原料の大豆は
ほぼアメリカ産だ
育てたい姿¦
自分の食生活を振り返
り「食料」について見つ
め直そうとする。
「魅力の発見」
食料自給率の求め方に
苦労しているときには、
「食料自給率早見ソフト」
を紹介する。
「和食」と言ってもその材料の多くは外国で生産されたものなんだね
「夢の構築」
「食」に関する問題に
ついて追究の見通しが
もてるように、主要国
の食料自給率のグラフ
や食の安全性に関係す
る新聞記事などを見せ
る。
外国と日本の食料事情の違いは何だろう
外国産は国産よりも
安いから、日本経済
の安定のためにも輸
入を続けた方がいい
中国産の野菜のように高濃度
の農薬が使われていないかな
ど、輸入による食料には安全
性に問題があるね
3∼4
日本で生産されてい
る食料が少ないから
いつ食料不足が起き
るかが心配
育てたい姿§
調べ学習を進める中で、
食料自給率の低さや輸入
食材の安全性などを問題
視し、自ら多くの情報を
得ようとする。
ふだんはほとんど意識していなかったけど、食料に関してはさまざまな問題があるんだな
と
ら
え
る
「夢の構築」
「食」の問題点につ
いて追究の方向性が見
通せるようにするため
に、「食料自給率」「安
全性」「食べ残し」に
関係する資料や写真を
見せる。
「学びの吟味」
食料の問題はさまざ
まな事象とリンクして
いることを実感できる
ようにするために、子
どもたちの追究にもと
づいて作成したコンセ
プトマップを提示す
る。
日本の食料事情の問題点を探ろう
5∼8
食料不足が起きると食
品の値段が急激に上が
って大混乱になるよ
安全性に問題がある食
料は安くても絶対輸入
してはいけないよ
日本でもっと農産物を
生産していくことを考
えるべきだよ
農家は農業をもっと発
展させたいと考えては
いるけれど、後継者不
足に悩んでいるね
農協は日本の農家を守
るために、外国の農産
物の輸入をできるだけ
制限したい考えだね
政府は2010年には、食
料自給率を現在の40%
から45%にまで高めた
いと考えているね
21世紀 日本の「食」は大丈夫だろうか
9∼10(本時9)
日本は一国だけで食料
を消費しすぎている
輸入を抑え、日本の農業を
発展させることが重要だ
自給率と安全性を共に考
えることが大切だ
日本人の食生活を見直す
必要がある
国産の農産物のよさを見
つけていくべきだ
飢餓に苦しむ国のことを
考えないといけない
問題の解決は簡単ではなさそうだけど、少しずつでも改善していきたいな
は
ぐ
く
む
「夢の構築」
自分の追究が社会や
未来に生かされるとい
う期待がもてるように
するために、自分の考
えを新聞社へ投稿した
学生の例を紹介する。
食料問題解決法を未来に向かって発信していこう
給食を食べ残さ
ないように全校
に呼びかけよう
「肉より魚を食べる食
生活のすすめ」と題し
て新聞社に投稿しよう
育てたい姿§
食料自給率を向上させ
たり、安全性を確保した
りするためにはどんな問
題を解決していかなけれ
ばならないかなどについ
て人から学ぼうとする。
「夢の構築」
悲観的な意見が多く出
されたときは、「問題が
あることに気づいていな
がら、何もしないでいて
いいのだろうか」と揺さ
ぶりをかける。
11∼12
自給率の向上と食品の安全
性に重点を置いた政策の推
進を政府に訴えたいな
自分にできることは実行し、さまざまな人に自分の考えを伝えていきたいな
− 179 −
「学びの吟味」
「人」に学ぶことがうま
くいかなくて困っている
ときは、連絡を取る方法
や尋ねてみたい内容につ
いて適宜アドバイスする。
育てたい姿¨
未来の食料事情を少し
でもよくするために、自
分の考えを多くの人にむ
けて発信しようとする。
公
開
授
業
第2学年D組 数 学 科 授 業 案
公開授業Ⅱ 2D教室
授 業 者 鈴 木 勝 久
1 単 元 マジックハンドキャッチャー(図形の性質を調べよう)
2 単元の構想
私たちの身のまわりは、様々な図形で構成されてい
見している。(p61数学科〈この一手〉参照)このよ
る。家の屋根の三角形、ビルの窓の四角形、車のタイ
うに「ものづくり」を通して、子どもたちの思考はよ
ヤの円など様々な図形がある。そして私たちは、毎日
り深まり、日常生活の中に潜む数理を自ら発見し、発
の生活の中でその図形を特に意識しているわけではな
表する喜びを体験してきた。このことは、「学びのネ
く、その図形が存在する必然性を感じないまま暮らし
ットワークを築く子どもの姿」が育ちつつあるといえ
ている。しかし、その生活を常によりよいものにして
る。しかし、図形に対して直感的な見方は育ってきた
いこうとする私たちにとって、日常生活に深くかかわ
ものの、帰納的な推論から演繹的な推論へと導き、証
っている図形を学ぶことはたいへん意義のあることで
明の意義や必要性を理解するには至っていなかった。
ある。図形への感覚は、図形をよく知ることによって
そこで本単元では、マジックハンドキャッチャーの
育てられる。そのためには、図形の性質を明らかにし
しくみをとらるために、自分なりのうまくつかめるマ
ようとする姿勢が欠かせない。そして、いろいろな方
ジックハンドキャッチャーを作る「ものづくり」を行
面から、さまざまな観点で観察することもそのために
う。そして、図形の証明の意義や必要性を感得し、子
有効である。また、折ったり、重ねたり、切ったり、
どもたち自らが、帰納的な推論から演繹的な推論へと
並べたりする具体的操作によって、図形のいろいろな
導くことができるようにしたい。そのために単元の最
側面が見えてくる。さらに論証の中で図形を扱うこと
初の「探る」過程として、マジックハンドキャッチャ
により、図形に対する直感的な見方から、図形の性質
ーの構造の中に、今まで学んできた「直線と図形」及
における論証的方法の理解を深めることができる。こ
び「対称な図形」についての性質を見出していく。次
の図形における論証を扱うことで、図形に対する理解
の「深める」過程として、三角形を意識して、角度お
が深まるだけでなく、さまざまな場面で、筋道を立て
よび辺の長さに関する追究を深めることで、マジック
て考えていく力が培われていく。このことは、私たち
ハンドキャッチャーの中に潜む三角形の合同を友だち
の生活をよりよくするために大変重要であると考える。
に正確に伝えていく。そして、最後の「広げる」過程
子どもたちは、一年生の「図形を描こう」の単元に
として、身近な生活の中に、動かしても、その機構の
おいて、ベルト車のモデルを製作することで円と接線
なかに合同が保たれる2つの三角形が存在したり、等
の性質を発見してきた。作図だけではどうしても見つ
しい角度の組が存在したりする『マジックハンドキャ
けることができなかった円と接線の接点の求め方を、
ッチャーの原理』が応用されていることを見つけ、そ
製作したベルト車のモデルを操作することで発見した
の性質に関して、確かな根拠にもとづいて、論理的に
ときの喜びはとても大きかった。またプレゼントの箱
推論する。こうした一連の活動を経た子どもたちは、
に斜めにかけてあるリボンの長さを求めるときにも、
図形に対する新たな見方・考え方を身につけ、自分で
実際に各自が製作した箱にリボンをかけて操作するこ
考えをみんなに説明し、お互いの追究にかかわってい
とによって、展開図から求めることができることを発
く学習の楽しさを味わうことができると考えた。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦
マジックハンドキャッチャーの中にある性質と、今まで学んできた「直線と図形」「対称な図形」の性質
について、自分の中で結びつけようとする。
§ マジックハンドキャッチャーを実際につくったり、友だちと意見交流したりする中で、三角形を意識して、
角に関する追究を深め、マジックハンドキャッチャーの中に潜む三角形の合同を正確に伝えようとする。
¨ 生活の中の身近な事象について、『マジックハンドキャッチャーの原理』が応用されていることを見つけ、
その性質に関して、確かな根拠にもとづいて、論理的に推論しようとする。
− 180 −
4 単元 「マジックハンドキャッチャー」の構想表(10時間)
過程
探
る
手 だ て
「魅力の発見」
マジックハンドキャ
ッチャーに対して興
味をもって追究をは
じめるために、マジ
ックハンドキャッチ
ャーを吊し、60cm下
にある目標物をつか
もうとするところを
見せる。
子どもの考え・思い
遠くのものをつ
かむのに便利な
道具だね
家にある高枝切りば
さみのしくみとにて
いるな
抽出生への支援と育てたい姿
複雑な動きを
するけどふし
ぎだな
マジックハンドキャッチャーで目標物をつかもう
目標物までの高さ
はちょうど60cm
だ。でも思ったよ
うにうまくつまめ
ないぞ
ちょうどつかむと
きの長さが60cm
を越してしまうか
らうまくできない
ぞ
1・2
ぴったり距離のマ
ジックハンドキャ
ッチャーがつくり
たいな。作り方が
よくわからないな
みんなよりうまくつかめるマジックハンドキャッチャーを作ろう
「夢の構築」
三角形を意識し、
角に関する追究を見
通しをもって行うた
めに、うまくつかめ
るマジックハンドキ
ャッチャーとうまく
つかめないマジック
ハンドキャッチャー
を提示する。
深
め
る
「学びの吟味」
合同な三角形であ
ることを証明する意
義と必然性を追究す
るために、ビッグマ
ジックハンドキャッ
チャーのハンドのユ
ニットに色を付けて
強調する。
うまくつかめるマジックハンドキャッチャーの形の秘密は
何かな
3∼5(本時3)
たこ型ユニットは
うまくつながらな
いよ
ひし形ユニットは
うまくつながって
いったよ
平行四辺形ユニッ
トはうまくいった
よ
逆にくっつけたら
うまくいったよ。
対頂角を合わせる
ことが大切なんだ
ユニットの対角線を引く
と同じさ大きさ、形の三
角形がある。他のユニッ
トでもいえるかな
平行なアームからできて
いる角は、等しいところ
がたくさんあるよ(同位
角、錯角)
マジックハンドキャッチャーの形の秘密は、動かしても、
同じ形・大きさの図形や角が存在することなんだ
育てたい姿¦
マジックハンドキャッ
チャーの中に、今まで学
んできた「直線と図形」
「対称な図形」について
の性質を見いだそうとす
る。
「夢の構築」
作り方がうまくいかな
いISに、段ボールと割り
箸だけでつくることがで
きるマジックハンドキャ
ッチャーの作り方を紹介
する。
「学びの吟味」
アームが平行であるこ
とを見つけたISに、平行
な直線がつくり出す角に
ついて関係がどうなって
いるか問いかける。
育てたい姿§
三角形を意識して、角
に関する追究を深めるこ
とで、マジックハンドキ
ャッチャーの中に潜む三
角形の合同を友だちに正
確に伝えることができ
る。
マジックハンドキャッチャーの先端のキャッチする部分をうまく
つかめるようにするには、どうすればよいのだろう
6∼8
ユニット全部の辺の長
さと対角線の長さを決
めればいい
ユニット全部の
辺の長さと角度
を決めればいい
うまくいきそうだけ
ど他には方法はない
のかな
最小限度の
条件はない
だろうか
四角形(ユニット)
の枠だけだと形が決
まらないよ
三角形に区切って
分割して伝えてい
けばいい
「学びの吟味」
アームが平行であるこ
とを見つけたISに、平行
な直線がつくり出す角に
ついて関係がどうなって
いるか問いかける。
三角形の合同条件を使えば、うまくつかめるようにできるよ
広
げ
る
「志向の共感」
身のまわりの生活
の中にマジックハン
ドキャッチャーの原
理が存在することを
示し、みんなでその
原理を見つけようと
する意識を高めるた
めに、キャンプ用の
折りたたみいすを提
示する。
マジックハンドキャッチャーの原理は生活の中のどの部分
で役に立っているのだろう
9・10
我が家の門扉にもマジック
ハンドキャッチャーと同じ
構造があったよ
自動車を持ち上げるジャッ
キにもマジックハンドキャ
ッチャーの原理があったよ
身近な生活の中にもマジックハンドキャッチャーの原理が
潜んでいるのだな。もっと他にも調べてみたい
− 181 −
育てたい姿¨
生活の中の身近な事象
について、マジックハン
ドキャッチャーの原理が
応用されていることを見
つけ、その性質に関して、
確かな根拠にもとづい
て、論理的に推論するこ
とができる。
公
開
授
業
第1学年A組 理 科 授 業 案
公開授業Ⅱ 第1理科室
授 業 者 中 村 賢 司
1 単 元 聞こえない音(身近な物理現象Ⅰ)
2 単元の構想
音はわたしたちのまわりに常にあるものである。机
をたたいたり、手を打ったりすると音が出る。風がふ
いても、水が流れても、火が燃えても音がする。また、
どんなに静かだと感じられるときでも、耳を澄ませば
必ず音は聞こえてくる。音の本質は、空気の動き(ふ
るえ)というわかりやすい現象で、決して難しいもの
ではない。実際に、音とは何か、どのように振る舞う
のか、といったことの基礎は19世紀までにあらかたわ
かってしまっている。一方、音はこの100年ほどで、
エレクトロニクス技術と手を組んで、ますます人間の
生活と深くかかわるようになってきた。最近では、C
DやMDのようなデジタルオーディオ、音声入力ワー
プロや音声合成などの技術が急激に進歩している。そ
して、それとともに音を積極的に利用する技術も進歩
してきている。中でも、超音波という人間に聞こえな
い音は、さまざまな形で応用されており、わたしたち
の知らないところで今日の生活を支えている。このよ
うに音は物理だけではなく、電気、建築、音楽、医学、
言語、心理など広い分野とかかわりをもっている。こ
うした状況の中、音の性質をとらえていくために、聞
こえない超音波に目を向け、追究の対象としていくこ
とは、その魅力や楽しさを味わうためにも大変意義深
いことであると考える。
子どもたちにとって音とは、大変身近なものであり、
日常的に使用しているものの、その存在は、「聞こえ
た音」としかとらえることはできない。「音は振動し
ている」ということは知っていても、音がどのように
伝わるかといったようなことを特に意識しているわけ
ではなく、音というものが飛んでいくといったイメー
ジとしてとらえていることが多いと考える。また、子
どもたちは、1学期の実践「植物の戦略」において、
少しずつではあるが自分なりの考えを構築し、相手に
わかりやすく伝えたいという思いをもって、発表しよ
うとする意識が高まってきている。しかし、まだまだ、
その内容は、インターネットや図書資料から得た情報
をそのまま伝えるにとどまっていたり、自分なりの考
えを構築しつつあっても、その考えに自信がもてずに
いたりする子どもも多い。そこで、子どもたちには、
この「聞こえない音」の存在を追究していく中で、外
から得た情報をただ伝えたり、まとめたりするだけで
はなく、自分なりの考えをもって練り合っていく学習
の楽しさをこの時期に味わわせたい。
本単元では、音とはどういうものか、聞こえるとい
うことはどういうことかを探っていくために、まず
「自然にふれる」過程において、物に貼り付けると、
その物全体がスピーカーの振動板として音を出す機器
を紹介することで、音への興味関心を高めていきたい。
そして、いろいろな音を発生させる中で「音は振動で
ある」ということをとらえさせていきたい。また、聞
こえる音が出ない犬笛を吹くと犬が反応することと出
会わせることで、聞こえない音がどのようなものであ
るか見つけ出そうと動き出すことに期待したい。「自
然を探る」過程では、この聞こえない音の存在を確か
めることは子どもたちにとって難しいところではある
が、超音波も人間に聞こえる音と同じ振動が伝わって
いくということをとらえていくことで、いろいろな見
方や考え方ができると考える。また、この聞こえない
音を追究していく中で、子どもたちが自分なりの考え
を出し合い、互いに考えを練り上げていけるように支
援していきたい。さらに、聞こえるということはどう
いうことかを考えていくことで、音に対する新たな見
方や考え方を身につけさせていきたい。「自然に学ぶ」
過程では、超音波を利用したさまざまな機器を紹介し、
超音波など音の性質をうまく利用することは、自分た
ちの生活にとってとても有用なことであることを実感
させていきたい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 人間には聞こえない超音波がどのようなものであるか、人間に聞こえる音の性質と関連づけて考えていこ
うとする。
§ 人間には聞こえない音とはどういうものかを可聴音の性質と比べながら調べたり、自分の考えを図やモデ
ルを使ってわかりやすく伝えたりしようとする。
¨ 音について多面的にとらえ、超音波の利用と自分自身の生活とを関連づけて考えていこうとする。
− 182 −
4 単元「聞こえない音」の構想表(9時間)
過程
自
然
を
見
つ
め
る
手 だ て
「魅力の発見」
音を出してみたい
という思いを高める
ために、物に貼り付
けるとその物全体が
スピーカーの振動板
として音をつくり出
す機器を紹介する。
「志向の共感」
聞こえなくても音
と同じようなものが
出ているのではない
かという思いをもた
せるために、人間に
聞こえない音のでる
犬笛を実際に犬の前
で吹いて見せる。
「夢の構築」
聞こえない音をど
のように探っていっ
たらよいのかという
見通しをもてるよう
にするために、超音
波を利用した医療機
器や洗浄機を紹介す
る。
自
然
を
探
る
「学びの吟味」
超音波を含めた音
というものはどうい
うものかについての
考えを深めていくた
めに、イルカやコウ
モリが暗い中でも餌
をとったり、ぶつか
らないでいられたり
することを紹介する。
子どもの考え・思い
音楽や虫の声などわたしたち
のまわりにはたくさんの音が
あるね
抽出生への支援と育てたい姿
夏休みに花火を見に行ったと
きに、とても大きな音で身体
がゆれる感じがした
どういうときに音は出るのだろう
たたいたり、こす
ったりすると音が
出るよ
棒を振り回しても
音が聞こえるよ
1・2
強くたたいたり、速く
振り回したりすると、
音の大きさが変わるよ
音の出ない犬笛でも犬が反応したのはどうしてだろう
音は出てないけど
犬笛は振動してい
るよ
犬笛から犬までに
何かが伝わってい
るのではないか
3
人間には聞こえない
けど犬には聞こえて
いるのではないか
人間には聞こえないだけで、犬には何か音のようなものが伝
わっているのではないか
自
然
に
学
ぶ
育てたい姿¦
犬が反応した理由を、犬
笛からも音と同じようなも
のが出ているに違いないと
いう考えでとらえていこう
とする。
聞こえない音の存在を確かめることはできないだろうか 4∼6(本時6)
聞こえない音を聞
いたり見たりする
ことはできないだ
ろうか
空気中や水中をど
のように伝わって
いるのだろうか
音を出したときと
同じように、振動
しているのだろう
か
聞こえる音と比べ
ると、とても高い
音とよく似ている
聞こえない音も空
気や水など伝える
ものがないと伝わ
らない
人間に聞こえる音
よりも、とても速
く細かく振動して
いる
人間には聞こえないけど、音のようなものが確かに出ている。
これを超音波というんだ
聞こえるということはどういうことなのだろう
音が出るというこ
とは、何かが振動
しているんだ
その振動が、空気
や水の中を伝わっ
ていくんだ
伝わってきた振動を
受信することで、い
ろいろな音を聞くこ
とができるんだ
超音波は他にどんなことに利用されているのだろう
超音波カッターや
超音波溶着器など
は、超音波の振動
のエネルギーを利
用している
魚群探知機や超音
波距離測定器など
は、超音波の反射
を利用している
育てたい姿§
人間には聞こえない音と
はどういうものか、自分の
考えをわかりやすく伝えよ
うとする。
「魅力の発見」
音をどのように受信して
いるのかをとらえていくこ
とができるようにするため
に、イルカが超音波を受信
するのと同じようなしくみ
である骨伝導音声増幅器を
紹介する。
9
超音波洗浄機や超
音波霧化器などは
水を細かく振動さ
せている
聞こえない超音波も自分たちに聞こえる音と同じで、振動が
伝わっているんだ。それをうまく利用することでわたしたち
の生活は、いっそう便利になっているんだ
− 183 −
「学びの吟味」
超音波の振動がどのよう
になっているのかを実感で
きるように、箱に砂を入れ
たものに超音波の振動を与
えてみる。
7・8
音は振動であり、それが伝わって聞こえているんだ。超音波
も聞こえないだけで音の性質と同じなんだ
「魅力の発見」
音の性質の利用に
ついて、今後の可能
性を考えていけるよ
うに、超音波の性質
をうまく利用したい
ろいろな機器を紹介
する。
「魅力の発見」
音の大きさや高さの違い
をとらえていけるようにす
るために、オシロスコープ
を紹介する。
育てたい姿¨
音の利用について多面的
にとらえ、自分自身の生活
と関連づけて考えていこう
とする。
公
開
授
業
第3学年A組 理 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 第1理科室
授 業 者 大 林 伸 吉
1 単 元 まわり続ける星(かけがえのない地球)
2 単元の構想
ここ数年、天体現象への関心が高まっている。マス
できなかった。
コミによる報道もあって、しし座流星群の時には、多
本単元では、実際には解明しきれていない天体の現
くの人々が夜空を見上げた。また、書店へ行っても、
象を扱うことで、さまざまな可能性を探り、子どもた
星や宇宙に関する多くの書物が並び、惑星の姿やブラ
ちで一つの考えをつくりあげていくように学習させた
ックホール、宇宙の始まりに関するものなど事細かな
い。具体的には、彗星が、太陽をまわる惑星と違い、
情報が簡単に得られるようになった。確かに、宇宙開
極端な楕円軌道を描くことに注目させ、太陽の引力と
発はわれわれに多くの情報をもたらしている。宇宙の
その引力に対抗する遠心力とのバランスで軌道がつく
しくみも解明されつつあるかのようにも思えるのだ
られていることに気づかせていく。まず、「自然にふ
が、それは理論上のことで、身近な天体のことでもわ
れる」過程では、彗星が地球に衝突する可能性がある
からないことはまだ多く残っている。例えば、今年の
ことを映画のシーンや新聞記事を用いて気づかせ、彗
7月、小惑星が地球に衝突するかもしれないという報
星について詳しく調べてみたいという学習活動を生み
道が新聞に掲載された。衝突の可能性についてはすぐ
出したい。次に「自然を探る」過程では、彗星の楕円
に否定されたものの、地球のまわりにある太陽系の天
軌道に注目させる。その際、他の惑星の公転の周期や
体でさえ、気づいていないことがあることを示した。
軌道を情報として、太陽系の天体のモデル化をしたり、
しかし、わかっていないことが多くあることも宇宙
潮の満ち引きを追究したりするなかで、太陽の引力が
の魅力である。実際の現象を理論から推定し、その理
実在することを子どもたちの手で明らかにさせたい。
論の確かさを望遠鏡などの観測器具を用いて実証して
さらに、こういった太陽の引力に支配されながら、一
いくことで天文学は発展した。天動説から地動説への
定の運動を続けていくことによって、彗星と惑星の衝
転換を図ったガリレオも、相対性理論を生み出したア
突の可能性があることも、太陽系のモデルを利用する
インシュタインの研究もそうであった。本単元では、
ことで、説明ができるようにしたいと考える。そして、
子どもたちにもそんな推測が自由にできるような学習
「自然に学ぶ」過程では、星が他の星の引力に応じて、
をさせたいと考える。
さまざまな運動をすることから、未知の現象を解明し
子どもたちは、3年の1学期の生命のつながりの単
元で、クローンによってつくられる生物の有用性を追
てみたいという思いをもたせ、天体の現象を自分なり
に説明してみようとする。
究してきた。この単元で、子どもたちは、ウニの発生
これらの太陽系の学習を通して、宇宙の一端を解明
を観察したり、専門機関を訪ねて疑問を解決しようと
することの楽しさを味わい、さらに他の天体の現象に
したりした。しかし、追究結果に広がりが生まれず、
も興味をもって、追究する子どもの姿を生み出してい
お互いの考えを絡め合いながら練りあげていくことが
きたいと考える。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 彗星の特微に関心をもち、他の惑星と違う理由を太陽系のつくりと関連づけて考えようとする。
§ 彗星の軌道の特異性を明らかにするため、重力と遠心力の関係に注目しながら太陽系のモデルを利用して
調べようとする。
¨ 太陽系の星のかかわりの法則性を学ぶことから、宇宙の規則性を明らかにしていこうとする。
− 184 −
4 単元「まわり続ける星」の構想表(11時間)
過程
手 だ て
自
然
を
見
つ
め
る
「魅力の発見」
彗星の動きに興味
をもてるように、彗
星が地球に衝突する
とどうなるかをシミ
ュレーションした映
画のシーンを紹介す
る。
「志向の共感」
太陽の引力が地球
にも及んでいること
に気づくように、月
の満ち欠けと潮の満
ち引きが関連するこ
とを示す資料を提示
する。
自
然
「夢の構築」
軌道があることを
あたり前に考えてい
ることに疑問がもて
るように、惑星の引
力でその軌道が変化
してしまった彗星の
例を示す。
子どもの考え・思い
小型の天体が地球に衝突する
可能性があるそうだ
抽出生への支援と育てたい姿
地球が彗星が通った軌道に入
ると流れ星がたくさん流れる
のが流星群だよ
彗星とは、どんな星だろうか
1∼3
太陽に近づくと、尾をひくか
ら、ほうき星と呼ばれている
んだよ
惑星と違って、極端な楕円の
軌道で一定の周期で太陽に近
づいているんだよ
氷でできているから、太陽か
ら離れた場所でできた星なん
だろう
太陽系のモデルを作成して、
動きを確認したいな
太陽系の星は、みんな太陽のまわりをまわるんだ
太陽系の他の星にも、太陽の引力が影響を及ぼしているのかな
地球も引力がある
から太陽のまわり
を公転しているん
だ
一番外側にある冥
王星にも太陽の引
力がかかっている
んだ
太陽系の星には、太陽の引力がかかっているんだ。だから、
まわっていないと太陽に引き寄せられてしまうんだ
7・8(本時8)
太陽の近くでガスを吹き出す
そうだよ。それで脱出できる
のかな
太陽の引力で引き寄せられて
いるのにどうやって脱出する
のかな
探
彗星の尾は、太陽と反対側に
できるから、関係ないよ
太陽に近づくほど、彗星の速度
が増しているんじゃないかな
る
彗星が公転するスピードを上げることで、大きな遠心力がで
きて引力と対抗しているんだ
を
「学びの吟味」
衝突することが予
知できるかについて
の疑問が生まれるよ
うに、地球上の生物
を絶滅するような隕
石の衝突が1億年に
1回程度あったこと
を示す。
自
然
に
学
ぶ
「志向の共感」
宇宙の秘密を深く
調べようとするため
に、NASAをはじ
めとする、多くの研
究機関が常に観測を
していることを専門
家に話してもらう。
彗星が地球に衝突するかどうかを予知することは可能なのだろうか 9
宇宙技術が発達しているか
ら、大丈夫じゃないのかな
育てたい姿¦
彗星の動きについて、自
らの考えをもとに説明しよ
うとする。
4∼6
月の引力で潮の満ち
引きが起こるんだけ
ど、太陽の引力も関
係しているんだ
太陽に近づいた彗星がなぜまた太陽から離れるのだろうか
「夢の構築」
太陽系の姿をイメージし
やすいように、惑星の大き
さや距離などのデータを示
す。
彗星や小惑星を発見し詳しく
軌道を観測すると、衝突の可
能性が予測できるそうだよ
彗星や小惑星は小さくてまだ発見できていないものが多くあ
るそうだよ。太陽系の星にも、まだわかっていないことがた
くさんあるんだ
「夢の構築」
星がまわることで引力に
対抗していることを実感で
きるように、水を入れたバ
ケツを回転させて遠心力の
実験を行う。
「夢の構築」
太陽に近い星がなぜ太陽
に引き寄せられないかを知
る手がかりとして、金星と
火星の運動を資料として見
せる。
育てたい姿§
天体に関する情報を検討
することを通して、彗星の
運動について深く追究しよ
うとする。
「学びの吟味」
衝突することは少ないと
いう考えにゆさぶりをかけ
るため、今年の6月に地球
の近くを発見されていなか
った直径100mの小惑星が
通り過ぎていったという事
実を示す。
引力の影響をもとにして考えれば、宇宙のいろいろなと
がわかってくるかな
10・11
人間が住める地球
のような環境の星
が他にもあるかな
ブラックホール
は、強い重力のた
め光も出られない
そうだよ
今膨張している宇
宙がやがて収縮す
るって本当なのか
な
宇宙をつくる星の間には、一定の法則があるんだな
− 185 −
育てたい姿¨
理論と実際の天体現象を
関連づけ、宇宙の不思議さ
を解明していこうとする。
公
開
授
業
第1学年C組 音 楽 科 授 業 案
公開授業Ⅱ 武道場
授 業 者 田 中 佳代子
1 単 元 コリアン・ビートをからだで感じて(耳を澄まして)
2 単元の構想
今年は、日韓共催ワールドカップサッカーで世界中
の多くの人々が興奮の渦に巻き込まれた。歴史的・政
治的な困難を乗り越え、国際親善を果たしたのはサッ
カー選手だけではない。オープニングイベントで公式
ソングを歌ったケミストリーは、戦後、韓国にて初め
て日本語で歌った歌手としてて話題になった。また、
それ以前にSMAPの草Ñ剛が日韓交流のために韓国語
を覚え、チョナン・カンという名で韓国でデビューし
た。同様に韓国からも、キム・ヨンジャのような歌手、
クラシック音楽家、伝統芸能家が日本に来ている。今
日、韓国と日本の扉を開いているのはプロだけではな
い。韓国のアマチュア団体が取り組んでいる音楽の一
つにサムルノリがある。サムルノリとは、四つの楽器
(サムル)による遊び(ノリ)で、伝統的な農楽(ノ
ンアク)のリズムを新しく構成し直したものである。
1978年に金徳洙(キム・ドクス)を代表とするグルー
プが各地で演奏し、世界中から高い評価を得た。今で
は日本でも多くの若者たちが日韓合同でグループを組
んで演奏するようになってきた。サムルノリには、日
本音楽や西洋音楽とは異なったリズムがある。エネル
ギッシュで躍動感があり、子どもたちに体験させたい
音楽の一つである。
子どもたちは、1学期に単元「からだde音楽!」
(新しい仲間)でボディパーカッションによる創作を
行った。これは、手、足、胸、腹など、体の各部をた
たいて、その音色とリズムを組み合わせるリズムアン
サンブルである。「リズムがそろい、友達と息が合っ
たと感じたときはとても心地よい」と、創作やアンサ
ンブルの楽しさを味わうことができた。「テンポやリ
ズムがばらばらになってしまうことが多い」と、合わ
せることの難しさにも気づき、友達とともに練習方法
を工夫しながら取り組めるようになった。しかし、子
どもたちの中には、4分の4拍子の枠の中にきちんと
入れようとするあまり、かえって、体が固くなり、拍
にのれない子がいた。拍にのれないからリズムやテン
ポが崩れる。アンサンブルにすると、それが一層ひど
くなる。子どもたちは「息を合わせよう」とよく言う
が、言葉としての知識で終わっていることが多い。実
際、創作の部分を2,3人で表現したとき、テンポに
のれず、リズムや拍子の感じられない表現の子が多か
った。
そこで2学期は、リズムをまとまりで感じて表現す
る学習としてサムルノリが有意義だと考えた。まず第
1にリズムや楽器の音色をよく聴く学習になること。
第2に「さまざまな音楽に触れる」という点で韓国の
音楽はタイムリーであること。第3に体全体で表現す
る音楽であること。サムルノリの中でも歩きながら体
全体で表現する「パンクッ」に出会うようにする。第
4に、韓国の方や友達とかかわれることである。「と
きめき」の過程では、ワールドカップから韓国の話題
に入り、サムルノリの音から得たイメージをもって本
物の楽器で自由に遊ぶ。次にサムルノリの映像を見て
まねをし、本当はどのように演奏するのだろうかと疑
問をもつ。次の「かがやき」の過程では、韓国伝統芸
能の専門家に実演と基本奏法を教えてもらう。子ども
たちはどうしたら韓国独特のリズムや呼吸法を身につ
けることができるだろうかと、それぞれの方法で問題
解決をしていくであろう。練習は、サムル(4種類の
打楽器)とサンモ(紐付き帽子)とソゴ(杖付き太鼓)
の8∼9人のグループで行う。自分たちの問題が見つ
かったときには、まずグループで話し合い、それで解
決できないときには他のグループとも相談したいと思
うようになるだろう。「うるおい」の過程では、学習
の成果を韓国の方に見てもらい、達成感を味わえるよ
うにしたい。単元を通して、音をよく聴き体全体で表
現できるようになってほしいと願っている。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 韓国の音楽と、これまでの音楽的経験や知識、技能とを結びつけることで、韓国の音楽に対する自分なり
のかかわり方を見出そうとする。
§ サムルノリの演奏をするために、文献、資料、韓国民俗芸能の専門家、友達などから技能や知識を得よう
としたり、そこから得た自分なりの思いをサムルノリで表現したりしようとする。
¨ サムルノリを演奏する活動の中で得た技能や知識に自分なりの工夫を加えることで、より豊かな表現を求
めようとする。
− 186 −
4 単元「コリアン・ビートをからだで感じて」
(耳を澄まして)の構想表(15時間)
過程
と
き
め
き
手 だ て
子どもの考え・思い
日韓共催ワールドカ
ップサッカーの公式
ソングをケミストリ
ーが歌ったね
「魅力の発見」
サムルノリのリズム
いに興味をもてるよう
にするために、サムル
ノリの演奏(CD)を聴
いてた後で、楽器を自
由に鳴らして遊びぶこ
とができるようにする。
韓国人の歌手も
日本に来てるよ
抽出生への支援と育てたい姿
SMAPの草Ñ剛が
チョナン・カンと
いう名前で韓国デ
ビューしたね
音楽でも、日本と韓国の交流が盛んになってきたね
サムルノリの楽器はどのように演奏するのだろう
ケンガリは日本
の当たり鉦に似
ているね
チンは時々ボーン
ボーンと鳴らして
いたよ
育てたい姿¦
サムルノリの音や映像
から描いたイメージとこ
れまでに経験したリズム
とを組み合わせてリズム
遊びをしようとする。
1
どうしたらあんなに
速くチャングを打つ
ことができるのかな
「魅力の発見」
楽器遊びが消極的なと
きには、サムルノリのC
Dからどんなイメージを
もったかと尋ねる。
自分たちもサムルノリをやってみたいな
「夢の構築」
サムルノリの練習を
するための見通しをも
つために、韓国伝統芸
能の専門家に実演を交
えて基本奏法の指導を
してもらう。
か
が
や
き
う
る
お
い
「学びの吟味」
身につけた基本奏法
を生かして自分たちの
演奏をより高めようと
する思いを育むため
に、リズムや動きを自
分なりに工夫して表現
しようとしている子に
演奏してもらう。
「学びの吟味」
友達とともにサムル
ノリを楽しもうという
気持ちをもつことがで
きるようにするため
に、代表グループの発
表を見て、体全体で表
現しているところを見
つけるようにする。
「志向の共感」
自分たちのサムルノ
リに対する思いを聴衆
にも伝わるような表現
にしようとする気持ち
を高めるために、韓国
人に観てもらいたいと
考えている子の授業日
記を紹介する。
サムルノリができるようになりたい
ケンガリ(鉦)
は持ち方で響き
が変わるね
プク(鼓)はベー
スになるから、テ
ンポが狂わないよ
うにしたい
チャング(杖鼓)
はリズムをしっか
り覚えたい
サンモ(紐付帽子)
をサムルのリズム
にのって回せるよ
うになりたい
2∼7
チン(ドラ)はリー
ダーとして拍子をき
ちんととりたい
グループで演奏隊
形や動作も考えた
い
グループで合わせられるようになってきたけれど、歩きなが
らの演奏は難しいね
もっと本物のサムルノリみたいにしたいな
呼吸をしながら演
奏するんだね
他の楽器のリズム
をよく聞こう
8∼10
力が入りすぎると
リズムが崩れるね
「夢の構築」
練習のしかたに自信が
なさそうなときは、同じ
楽器の子に相談するよう
に勧める。
育てたい姿§
自分の音や友達の音を
よく聴き、アドバイスを
し合いながらリズムにの
ったグループ演奏ができ
るように練習方法を工夫
しようとする。
リズムやテンポを合わせるのは難しいけれど、上手くできた
ときは気持ちがいいね
「ノリ」(遊び)を感じられるような演奏にしたい 11∼13(本時11)
エンディングらし
いリズムを考えた
いな
チンとプクのばち
を大きく回してテ
ンポをそろえよう
リズムに合ったス
テップで楽しさを
表したい
ケンガリとチャン
ゴは呼吸を合わせ
よう
リズムにあわせて
ならび方と歩き方
を変えてみよう
サンモをきれいに
回す方法を見つけ
たい
韓国の人にわたしたちの「サムルノリ」を観てもらいたい
教えていただいた
先生に観てもらい
たい
ビデオに撮って韓
国の美湖中学校に
送りたい
14・15
わたしの知ってい
る韓国人にも観て
もらいたいな
わたしたちの演奏を喜んでもらえてよかったな
いろんな国の音楽を観て聴いて、演奏してみたいな
− 187 −
「学びの吟味」
自分のパートの工夫に
いきづまっているときに
は、金徳洙のビデオを観
せて、自分の演奏に取り
入れられそうなことはな
いか尋ねる。
育てたい姿¨
振り返って、韓国のリ
ズムや合奏に対する自分
の思いや技能の変化に気
づき、これからの音楽の
楽しみ方を新たに考えよ
うとする。
公
開
授
業
第3学年B組 美 術 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 美術室
授 業 者 丹 羽 圭 介
1 単 元 心の窓(自己を見つめよう)
2 単元の構想
情報社会に対応した美術科教育とはどのようなもの
であろうか。美術の起源を考えてみると、原始美術で
あるラスコーの洞窟画にしても鹿や馬、牛を狩猟する
場面といった情報を描いている。それは、狩猟呪術で
はないかとも言われているが、原始人の残した掘り跡
や形跡は、自分たちの生きた跡や伝えたいことを情報
として残そうとする行為にほかならないと考える。つ
まり、自分の生きていること、感じていることの情報
を発信し、伝えようとすることが表現の始まりだった
のではないか。まさに、人間はコミュニケーションす
ることで生きていく動物なのである。この伝えるとい
う表現活動を行おうという姿と、それを制作していく
姿、そしてそれを受信しようとする姿が、美術におけ
る「学びのネットワークを築く子どもの姿」であると
考えた。表現の学習とは、必要な情報を主体的に収集
処理し、創造して自分を発信することであり、また、
鑑賞の学習とは、主体的に判断して受信することなの
であるといえる。
子どもたちは、これまで絵画、彫塑、工芸、デザイ
ンといったさまざまな題材を制作してきた。しかし、
これは題材を限定された中での表現であり、本当に自
分が何を表現したいのか自問自答しきったとは言えな
い面もあった。そこで3年生の題材では、一人一人の
個性が生かされるように、子ども自身によって表現分
野の中の得意な表現方法を選択し、自分の最も得意と
する分野で造形活動ができる単元を最後に設定してい
る。2年時での「私の宝箱」という単元ではこの前段
階として、箱という工芸作品をつくるというしばりは
あるものの、それ以外の制約はつけないことで今回の
「心の窓」の練習ともなるものを行ってきている。自
分自身が題材を求め、表現方法を選択していくことで
作品の自由度が増し、高いモチベーションでの制作活
動ができたのであった。美術科教育は、教科の特質と
して「表現」言い換えると「発信(output)」が中心
として行われている学習活動である。しかし、こうい
った表現の学習としての側面だけではなく、かなり以
前から、「感性」「感受性」「鑑賞」といったキーワー
ドで表現の前段階を重視していこうとする取り組みも
行われてきている。そこで、発信されたものを受信す
ること、すなわち「感受」の能力を向上させることに
も着目してみようと考えた。人それぞれの限られた一
生を生きていく上でも、また学校での同じ1年間を過
ごしていく上でも、時間は誰にでも同じく流れていく。
その限られた時間をよりよく生きていくには、いかに
感じ、いかに考えていくかということが大きなポイン
トになってくる。それを言い換えると、ものの見方・
考え方といえ、文化創造にいたるための価値観をもつ
ことを支える、大切なベクトルであると考える。今回
の単元ではその部分を、短いスパンで鑑賞会を行うこ
とで子どもたちが身につけていくことを期待したい。
単元で身につけさせたいこととしては、自分の決め
たテーマを伝達する方法としての役割を把握するこ
と、形や色による象徴性や伝達性を理解し、条件に合
った工夫をして制作すること、自分の作品の内容に適
した技法を使い制作することといった内容を考える。
具体的には、ファインアートとコンセプチャルアート
の違いを知る。情報や資料を集め、観察・分析し、表
現方法を認識する。解決策の提案、既知の解決策を検
討したり、より自由に試行錯誤して創造性を高める。
考えついた解決策の自己および他己の評価をおこな
う。選択した分野の技法について深く追究していくと
いうものであろう。自分や友達の思いを受け止めるだ
けでなく、友達から評価をもらうことや評価を送るこ
とで、自分の作品に対しての新たなものの見方をもつ。
さらに評価を自分自身の中でつくっていこうとするこ
とで、意見の交換と自分の作品のよさの再確認を行う。
積極的に意見を送受信する姿を期待したい。そして、
「心の窓」に対し高いモチベーションをもって取り組
んできたそれぞれの子どもの取り組みが、クラスメー
トに波及していくことも期待したい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 自分で表現の分野とそれに適した画材を選択し、技術を獲得しようとする。
§ 人との交流を行うことや、他の作品を鑑賞する中から、自分の表現方法を確立しようとする。
¨ これまで行ってきた技法をもとに、さらに独自の表現方法を求め、美しさを追究しようとする。
− 188 −
4 単元「心の窓」の構想表(20時間)
過程
手 だ て
子どもの考え・思い
テーマや画材を自由に決め
てみたい
美
と
の
「魅力の発見」
これから表現してい
く題材を知り、制作し
ていく作品をイメージ
できるために、材料で
あるベニア板・アクリ
ル板・スチレンボード
を配る。
ふ
れ
あ
い
美
の
抽出生への支援と育てたい姿
自分の思い・考えを表現し
てみたいな
この材料で何が表現できるかな
外側を塗ったり彫
ったりできるかな
1
上のところに何か
描いたりしたもの
を挟めるかな
中のところに厚みがあるか
ら、そこの中に立体で表現
できるかな
育てたい姿¦
自分で画材を選択
し、技術を獲得しよう
とする。
空間をつくって何が表現できるかな
「夢の構築」
自分の心の中をこれ
まで学んだ技法や新た
に自分で見つけていく
技法を選択して、作品
を表現できるために、
「心の窓」という共通
テーマを知らせる。
「志向の共感」
友達のアイデアに注
目して自分の作品に取
り入れられるようにす
るため、クラスのアイ
デアスケッチ一覧表を
配布する。
わたしの「心の窓」をデザインしよう
2・3
どんな技法や画材を使えば表現できるのだろう
お母さんにトールペ
イントを教えてもら
おうかな
外を彫刻刀で削って
レリーフ的に表現し
ようかな
BOXアートについて
インターネットで調べ
てみよう
相手に思いをを伝えるためにはどうしたらよいのだろう
アイデアスケッチをみんなに見てもらいたいな
4
ま
り
「学びの吟味」
最終的なテーマと画
材、方向性を決めてい
くために、ワークシー
トを配布する。
「心の窓」を完成させるぞ
5∼19(本時8)
みんなにほめられた色づか
いを、さらにすごく細かい
ものにしていきたい
自分の思いを表現するために技術を極めていきたい。技術的な
ことを追究していけば、よりわかってもらえるだろう
の
ひ
ろ
が
り
「魅力の発見」
友達の作品を鑑賞し
合うために説明用「見
どころカード」と作品
を美術室に展示し、鑑
定カードを配る。
育てたい姿§
自分の今までの知
識、各種の情報、人と
の交流の中で、自分の
表現方法を確立しよう
とする。
「夢の構築」
これまでデザインし
てきた思いを発表さ
せ、追究課題をはっき
りさせる。
他人の目から見るとこういうふうに見えるんだなあ
みんなに指摘されたところ
を修正して、自分の思いが
伝わるようにしたい
美
「魅力の発見」
いろいろな技法につ
いて考えさせるため
に、本やインターネッ
トで調べることをアド
バイスする。
・レリーフ ・トールペイント ・コラージュ
・ジオラマ ・塗装 ・BOXアート
・写真 ・絵画 ・ミニチュアetc
ふ
か
「魅力の発見」
箱のいろいろな部分
に目を向けさせ、制作
ができることに気づか
せるようアドバイスす
る。
お母さんの先生にテ
クニックを聞いた
試しをしてみて方
法を見つけた
先生や友達にアドバイス
をもらってみた
完成したみんなの「心の窓」を鑑定したいな
TY君の作品は、う
まく木目を生かして
いていいな
自分の作品のセー
ルスポイントはこ
のペイントだ
20
ATさんは、自分の楽し
い思いでジオラマの表現
をしたんだ
もっと多くの人に自分の心を表現した作品を見てもらいたいなあ
− 189 −
「夢の構築」
自分の思いが深まる
ことから技術を深く追
究させるためにアドバ
イスをする。
育てたい姿¨
これまで行ってきた
自分の表現方法を見つ
め直すとともに、他者
の表現も自分の中に取
り入れ、さらに美しさ
を追究しようとする。
育てたい姿§
自分の思いを伝える
だけでなく、友達の思
いを受け止めて、自分
の中に取り入れようと
する。
公
開
授
業
第1学年D組 保 健 体 育 科 授 業 案
公開授業Ⅱ 育朋館
授 業 者 中野渡 善 樹
1 単 元 バレーボール・サクセション( Enjoy Ballgame Ⅰ)
2 単元の構想
先日開催されたサッカーのワールドカップには、日
だけではなく、友達とのかかわりがより重要になる。
本中が注目し、大いに盛り上がった。多くのサポータ
まわりの友達とかかわって練習や作戦を工夫し、自分
ーが熱狂し、それぞれの思いを込めて応援するなど、
たちの特長を十分に生かすことのできるチームプレイ
世界最高レベルのサッカーを堪能することができた。
を作り上げる中で、チームとしての達成感を味わって
それまでサッカーには興味を抱かなかった子どもも、
ほしいと考えた。
関心を示し、個人技やチームプレイに魅了された。そ
本単元の「出会い」では、チームで協力し合ってラ
して何といっても、国の代表として、チーム一丸とな
リーを続けるネット型スポーツの攻防の楽しさを味わ
って勝利をめざす姿に、多くの子どもが感動した。改
うことができるように、レクリエーションボールでの
めてチームスポーツの楽しさを味わうことができたの
ゲームを行う。このゲームを出発点として、バレーボ
である。そんな中、自分たちも思いきって運動がやっ
ールを楽しむために「チームプレイを完成させたいな」
てみたいという子どもの願いを受けて、陸上競技の種
という子どもの思いを発展させていく。「高まり」で
目内選択実践を行った。短距離走やボール投げなど、
は、技能の上達のヒントになるように、個々のプレイ
試しの記録会を通してこだわりをもった種目を中心に
やチームプレイのビデオを自由に視聴できるように準
練習をすすめ、記録を伸ばそうと取り組んだ。友達や
備する。また、「お互いのプレイを見合って高めてい
先輩など自分のまわりの人とかかわる中で練習方法を
きたい」という子どもたちのために、チーム内だけで
工夫して力を伸ばし、陸上競技の特性に迫った。その
はなく、お互いの情報を交換しあい、技能を高めてい
結果、チームとしても個人としても力を伸ばすことが
けるようにチームを離れて交流できる場をもつ。また、
でき、単元のまとめとして行った陸上カーニバルでは、
その時点でゲームを楽しむことができるように、ルー
それぞれの力を発揮して楽しむことができた。ポート
ルやコートについても子どもに問いかけ、工夫してい
フォリオファイルの単元のまとめには「チームのみん
く。「高まり」の後半では、「自分たちのプレイをさら
なで力を伸ばすことができて楽しい」「チームとして
に追究して高めたい」という思いをうけて、ビデオで
の喜びが味わえるスポーツをもっとやってみたい」と
撮影し、視聴し合うことでチームプレイを吟味してい
いう言葉が綴られていた。
く。単元のまとめである「味わい」では、高めてきた
そこで、チームとしての達成感、楽しさを味わうこ
チームプレイを出しきってバレーボールを楽しむため
とができるように、集団スポーツであるバレーボール
のリーグ戦をする。リーダーを中心にルールや対戦を
の実践を計画した。バレーボールは、仲間と協力しな
工夫させ、自分たちの手によるまとめにさせたい。ま
がら相手コートへボールを打ち返して得点を競い合う
とめのゲームを通して単元を振り返り、友達とかかわ
ところに楽しさのある運動である。ボールを打ち返す
って楽しむことができたことや姿の変容を感じ取らせ
ためにはチームワークが大切であるため、技能の習得
たい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 自分の能力・スポーツに対する思いに合わせて、自分に適しためあてや運動内容を工夫し、意欲的にバレ
ーボールに取り組んでいこうとする。
§ 友達と協力し、いろいろな人とのかかわりを通して、運動の仕方を工夫し、バレーボールに取り組んでい
こうとする。
¨ バレーボールでの自分なりの技能の高まりを自覚し、楽しさを見つけ、積極的に運動やスポーツにかかわ
っていこうとする。
− 190 −
4 単元「バレーボール・サクセション」の構想表(12時間)
過程
出
会
い
手 だ て
「魅力の発見」
ネット型スポー
ツの特性を味わう
ことができるよう
に、レクリエーシ
ョンボールを提示
する。
「夢の構築」
どんなバレーボ
ールをめざしてい
けばよいのかを理
解できるように、
バレーボールの技
能を説明した技能
カードを紹介する。
高
ま
り
味
わ
い
「学びの吟味」
レシーブ、トス、
アタックの3段攻
撃を使ったラリー
の応酬の楽しさを
より味わうことが
できるように、3
段攻撃を中心に攻
防しているゲーム
のビデオを紹介す
る。
「志向の共感」
単元を通して、
自分の技能やチー
ムプレイが伸びた
ことを振り返り、
まとめのゲームで
高めてきた力を出
しきってゲームに
取り組めるように、
工夫されているポ
ートフォリオを紹
介する。
子どもの考え・思い
チームのみんなで協力して力
を伸ばした陸上競技は楽しか
ったな
抽出生への支援と育てたい姿
友達と協力して楽しめるスポ
ーツをいろいろやってみたい
な
みんなで楽しめるバレーボールがやってみたいな
1∼3
アンダーハンドパスやオーバ
ーハンドパスを使うとうまく
ボールがつながるぞ
チームのみんなでボールをつ
ないでラリーが続くとおもし
ろいな
カバーリングやトスの仕方も
少しずつわかってきたぞ
アタックに結びつくチームプ
レイができるといいな
いろいろなプレイを上達させたいな
育てたい姿¦
自分やチームの能
力・個性を知り、自分
なりにバレーボールに
に取り組もうとする。
「魅力の発見」
バレーボールに対
する興味や関心を深
め、問題意識が芽生
えるように、どんな
チームプレイを完成
させると楽しめそう
か問いかける。
4∼7(本時6)
ゲームの中で使える技能を高めたり、増やしたいな
レシーバーの動きに合わせて
カバーすることが大切だぞ
友達がボールをつなぎやすいよ
うにパスをわたせるといいな
ねらったところにボールを返
せるように、パスアタックを
確実にしたいな
落下点に素早く入り、手首の
スナップをうまく使ってパス
をするといいぞ
3段攻撃を完成させたいな
8∼10
アタックが得意な友達を生か
すために、ボールをうまくつ
なぎたいな
味方がアタックしやすいように
トスワークがもっともっとうま
くなりたいな
自分たちの役割を生かすこと
ができるようにフォーメーシ
ョンを工夫したいな
リベロプレイヤーを生かして
ボールをつなぎ、味方のアタ
ックにつなげたいな
自分たちの特長を生かした3段攻撃が完成したぞ
自分たちが完成させた3段攻撃で楽しみたいな
自分たちで考えた3段攻撃が
うまくいったぞ
「学びの吟味」
確実なパスを行う
ためには、どこに気
をつけて練習をすれ
ばよいのかに気づか
せるために、オーバ
ーハンドパスの得意
な友達と積極的にか
かわるように促す。
育てたい姿§
友達と運動すること
を通して、自分の思い
を実現させ、意欲的に
取り組もうとする。
11・12
アタックにつながるパスがで
きたぞ
チームで楽しめるスポーツがもっともっとやりたいな
− 191 −
「学びの吟味」
3段攻撃を完成させ
るためにどんなプレイ
が必要なのか、どんな
練習が必要なのか問い
かける。
育てたい姿¨
特性にふれる楽しさ
を自覚し、自分なりに
運動とかかわろうとす
る。
公
開
授
業
第3学年D組 保 健 体 育 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 育朋館
授 業 者 相 羽 孝 彦
1 単 元 つないでせめよう!フットサル(ワールドスポーツⅡ)
2 単元の構想
今年、日本と韓国においてワールドカップサッカー
子どもたちは、もっとサッカーがやってみたいと思う
大会が開催された。それは、4年に1度、世界各地区
ようになってきたのである。しかし、互いに協力して
の厳しい予選を勝ち抜いた国々の代表が、国や選手自
ゲームを楽しむことはできるものの、ボールにさわる
身のプライドをかけてサッカーの世界一を決める戦い
機会が少ない子がいたことや、作戦通りに壁パスやス
の舞台であり、世界中の人々が選手たちのプレイに熱
ルーパスを使って敵の防御を崩し、攻撃する楽しさを
狂し、一喜一憂する舞台でもある。今回、日本でワー
十分に味わうまでにはいたっていないという課題が残
ルドカップが開催されたことで、わたしたちは世界一
された。このような子どもたちに対し、一人一人の触
流の選手たちやそのプレイを間近で観戦することがで
球数をさらに増やし、チームの作戦を生かした集団で
きた。さらに、試合の結果だけでなく、プレイの一つ
の攻防の楽しさをぜひ味わわせてやりたい。
一つにいたるまで、サッカーのすばらしさを世界が同
そこで本単元では、南米のストリートサッカーに起
時に共有していることを感得し、改めてサッカーが世
源があるフットサルを行うことにした。フットサルは
界の人々に愛されていることを知る絶好の機会となっ
サッカーよりも少人数でゲームを楽しむことができ、
たのである。このように、日本中でサッカー熱が高ま
ボールも小さいのでパスの多用も期待できる。「出会
った機会にこそ、子どもたちにサッカーの学習を通し
い」の過程では、フットサルボールにふれる時間を多
て、その特性にふれさせることは、体験を通してサッ
くしたり、実際のフットサルのゲームの様子を視聴さ
カーの魅力や楽しさを味わわせることにつながり、大
変意義深いものであると考える。
せたりして、その楽しさを十分に味わわせたい。次の
「高まり」の過程では、パスを多用したゲームが楽し
子どもたちは、一学期の実践「めざせぼくらのワー
めるように、コートの周りを壁で囲むことにする。子
ルドカップ」においてサッカーを学習した。そこでは、
どもたちは、友達へのパスだけでなく、壁の跳ね返り
最初は技能や経験の差から男女別でゲームを行った。
を使ったパスを利用して、友達の動きや作戦を工夫す
しかし、ドリブルやパス、シュートといった個人的技
るであろう。その中で、チームの課題や自分のめあて
能を男女でかかわりながら練習していく中で、上手な
の達成に向けて、作戦を生かした攻防を展開したゲー
子がアドバイスしたり、一人一人が技能を高めて自信
ムができるようにしてやりたい。「味わい」の過程で
をもち始めたりする姿が見られるようになった。そし
はまとめのリーグ戦を行うことにする。ここでは、た
て、それに伴って子どもたちは男女混成でサッカーを
だ勝敗に目を向けるだけでなく、一人一人の技能の高
楽しみたいと思うようになっていった。単元の終盤に
まりと、友達と協力しながらゲームをすることで得ら
なると、ポジションや攻守の作戦についての工夫が見
れる楽しさや満足感を味わわせ、子どもたちの、もっ
られ、チームの課題や自己の役割を自覚して、一人一
といろいろなスポーツを楽しみたいという気持ちを育
人の個性を認めながら、協力してゲームに取り組むこ
ませたい。そして、そうすることが生涯体育・スポー
とができるようになってきた。これらの学びを通して、
ツへの発展につながるのではないかと考える。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 今までの運動やスポーツの経験、また、授業の中で身につけた能力を生かしながら、世界のさまざまな地
域で親しまれているスポーツに意欲的に取り組んでいこうとする。
§ 学級やチームの友達とのかかわりを通して、練習のしかたやチームのめあて、作戦を工夫して互いに高め
合おうとする。
¨ フットサルを通して技能の向上や自分なりの楽しさを感じ取り、世界のさまざまな地域で親しまれている
運動やスポーツに関心を示し、進んでかかわっていこうとする。
− 192 −
4 単元「つないでせめよう!フットサル」の構想表(11時間)
過程
出
会
い
手 だ て
「魅力の発見」
フットサルをして
みたいという気持ち
を高めるために、フ
ットサル用のミニボ
ールを提示して、自
由に扱うことができ
るようにする。
「夢の構築」
ゲームを通して
一人 一人の目標や
課題を見つけるこ
とができるように、
実際にフットサル
を楽しむ人たちの
ゲ ームをビデオで
紹介する。
「魅力の発見」
パスを中心とし
たゲームに着目で
きるように、コー
トの周りを壁で囲
み、そこでゲーム
をしてみるように
投げかける。
高
子どもの考え・思い
抽出生への支援と育てたい姿
みんなで協力したサッカーは、 パスをつないで、みんながも
とても楽しかったよ。もっと っと活躍できるゲームを工夫
やってみたいな
してやってみたいな
フットサルについて詳しく知りたいな
ボールが小さい
から自由に扱う
のが難しいよ
1
人 数 が 少 な い か ら 、 コートがせまいか
いろいろなパスが有 ら 細 か い パ ス を 使
効に使えそうだね
って攻めようよ
パスを上手に使ってフットサルを楽しみたいな
2・3
ポジションを工夫
してパスをつなご
う
ゴールが小さいか
ら得点するのはな
かなか難しいぞ
壁パスをうまく使
って攻めたいな
空いたスペースを
使ってスルーパス
をねらっていこう
ゴール前での正確
なキックを練習す
る必要があるね
パスを出したあと
の動きを工夫して、
攻撃のパターンを
作ろうよ
自分たちのやりたいプレイができるようになりたいな
4∼6
思うようにパスカット
できないぞ。どうすれ
ばいいのか話し合おう
グラウンダーの速いパ
スをつないで、攻撃で
きるようになりたいな
壁パスをもっと意識し
たゲームがしてみたい
な
ポジションだけでな
く、マークする相手
も決めてみたらどう
かな
左右に2つのゴール
があるから、それを
有効に使った作戦を
考えてみようか
コートの周りの壁を
使ってパスを工夫す
ると攻撃の幅が広が
っておもしろそうだ
「魅力の発見」
自由にボールにふ
れさせ、サッカーボ
ールに比べて小さく
て柔らかいことから、
細かいパスに適して
いることを理解でき
るようにする。
「学びの吟味」
どうしたら細かい
パスをつなぎ、スピ
ーディーなゲーム展
開ができるのか考え
るように助言する。
育てたい姿¦
フットサルの特性や
ルールについて理解
し、今もっている力で
フットサルを楽しもう
とする。
「魅力の発見」
壁パスを使うには、
コートの周りの壁を使
うことも有効であるこ
とを伝え、パスのしか
たを工夫している子を
紹介する。
ま
り
味
わ
い
「学びの吟味」
攻守のしかたを
工夫し、チームで
協力してゲームを
楽しむことができ
るように、ビデオ
やサポーターカー
ドから気づいた上
手なチームのよさ
について紹介する。
「志向の共感」
チームの勝利に向
けて、個人やチー
ムの目標をもって
取り組むことがで
きるように、これ
までのゲームの結
果を振り返り、課
題を明確にするよ
う助言する。
攻守のしかたを工夫したゲームができるようになってきたぞ。チ
ームの特長を生かした作戦を工夫してみたいな
集団プレイや作戦を生かしてゲームを楽しみたいな
7∼9(本時7)
一人一人の特長にあっ
たポジションを工夫す
る必要があるぞ
作戦板を活用して、ゲ
ームでの動きを確認し
てみようよ
チームの特長を生かし
た作戦を工夫してゲー
ムでは勝ちたいな
守備と攻撃の役割分担
をはっきりさせるとい
いね
作戦通りの動きができ
たよ。次のゲームでも
協力して勝ちたいな
フォーメーションを決
めて、一人一人の役割
分担をしよう
これまでの学びを生かしてフットサル大会がしたいな
10・11
チームの友達と協力してパスを中心としたフットサルを楽しむこ
とができた。世界の国々で親しまれているスポーツをこれからも
いろいろやってみたいな
− 193 −
「学びの吟味」
思うようなプレイが
できない場合には、同
じ目標を設定している
子や技能の上手な子を
紹介し、参考にするよ
う助言する。
育てたい姿§
友達とフットサルを
することを通して、個
人やチームの思いを実
現させ、協力して取り
組もうとする。
育てたい姿¨
技能の高まりと友達
と協力しながら攻防す
る楽しさを自覚し、世
界で親しまれているス
ポーツに関心を示す。
公
開
授
業
第2学年A組 技 術 ・ 家 庭 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 電気室
授 業 者 k 田 康 司
1 単 元 ハートフル回路を創ろう(ものづくりを深めようⅡ)
2 単元の構想
わたしたちの生活の中で、電気やコンピュータは、
そこで、「自分で回路を創ってみたいか」という問
なくてはならない存在になっている。しかし、意外と
いには、「やってみたい」と意欲を見せた。自ら回路
必要性や重要性が高まるのに反して、その原点的な原
を創ることによって、その目的を考えたり、部品集め
理やそのものの成り立ちを理解し、利用しているとは
やさまざまな工夫をすることによって、電気回路に隠
言い難い。技術は進歩と同時に、ますます人間から遠
された人の心や思いを発見し、生活と電気のかかわり
い存在になりつつある。つまり、技術のブラックボッ
を深め、将来の豊かな生活のあり方を考えようとする
クス化に対して、何ら疑問をもたず、その状況を良し
姿勢を育みたい。
としたり、当たり前として受け止めてしまっている。
本単元では、生活の中にある電気回路についていく
さらに問題なことは、壊れたら直せないという物理的
つかを取り上げ、回路の意味や目的を整理し、その意
な問題だけでなく、技術が進歩してきた背景には、豊
外性や工夫のおもしろさに関心の目を向けさせたい。
かさを願って努力してきた先人の願いや思いがあるこ
そうすることで、自分も独自の生活に役立つ(人のた
とすら軽視しかねない点である。物を大切にしないで
めになる)回路を創りたいという思いをもたせる。奇
も気にならない風潮は、実は人の心も大切にしない人
抜なアイデアを求め、その考えにあった回路を創るに
間を生み出すことにつながっているのである。そこで、
はどうしたらよいか、同じような回路を考えている子
一番身近な電気に関して、心のともなうものづくりに
同士を集めてチームで取り組む。しかし、創りたい理
取り組むことで、技術に対する見方・考え方を変え、
想の回路と実際の設計・製作のギャップは大きく、乗
生活の中で人の心と電気との望ましいあり方を求めて
り越えるべき壁は大きい。
。
いこうとする姿勢を育みたいと考えている。
子どもたちは、回路を設計するために、互いのチー
子どもたちは、1学期に基礎単元として、電気製品
ムの回路コンセプトが「ハートフル(人の生活に役に
の修理をすることで、回路の基礎学習をしてきた。今
立つ)」であるかという点で、吟味をする必要がある。
まで身近な電気製品が壊れても、自分で修理して使用
また、「電源・負荷・スイッチ」について、各チーム
するということを考えてもいなかった子どもたちにと
で必要な部品を集めたり、工夫したりして、問題解決
っては、電気を身近なことととらえ、それまでの電気
を進めていくわけであるが、互いに情報を交換し合い、
に対する見方・考え方を変えることになった。しか
問題解決を促進する必要もあるだろう。最後に製作し
し、まだまだ回路についての理解は浅く、生活の中で
た回路を互いに発表し合い、完成の喜びと同時に学習
果たされている電気の役割や価値を認識するには至っ
のまとめをすることで、電気の学習で得たことを生活
ていない。
に生かそうとする気持ちを高めたい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦
それまでの電気回路に関する知識や技術を、新たな知識や技術とともに確かなものにしようとする。
§
人のためになる回路にするために、新たな知識や技術を求めようと友達などとかかわろうとする。
¨
ハートフル回路の学習を振り返り、生活と電気とのかかわり方を考えて、今後の生活に生かそうとする。
− 194 −
4 単元「ハートフル回路を創ろう」の単元構想表(25時間)
過程
見
つ
け
る
手 だ て
「魅力の発見」
今までよりもいっそう
回路に関心をもたせるた
めに、人のために役立っ
ている回路(オール電化
や自動ドアなど)を紹介
する。
子どもの考え・思い
まだまだ複雑な回路は、見ても
わかりにくいので調べたい
抽出生への支援と育てたい姿
今までの電気製品の見方が変わ
り自信がついた
電気製品の修理から電源・負荷・スイッチの基本回路を理解できた
人のために役に立つ回路を創りたい
回路を工夫すると自分なりのおもし
ろい作品ができそうだ
1・2
生活の中には、気づかないところで
工夫された回路がたくさんあるんだ
回路のはたらきや必要な部品を整理し製作計画をたてよう
つ
「夢の構築」
製作の見通しをもつた
めに、各種のスイッチな
どの部品や回路例を提示
する。
ハートフル回路の設計を工夫したい
育てたい姿¦
それまでの電気製品
に関する知識や技術を
新たな知識と技術とと
もに確かなものにしよ
うとする。
3∼8
一つずつ順番に作業を進めていく必
要があることがわかった
ハートフルの中身を考え、製作のコ
ンセプトを考えよう
必要な部品をどうしたら入手できる
かインターネットなどで調べよう
スイッチの工夫をすることで回路を
考えよう
リレーやセンサー付きの回路を考え
たい
ロータリスイッチを空き缶を利用し
て工夫しよう
か
「魅力の発見」
製作イメージがわか
ないでいるときは、生
活に潤いのあるハ ート
フル回路として、クリ
スマスツリーの点滅回
路を紹介する。
「学びの吟味」
市販のスイッチに頼
ろうとするときには、
空き缶を利用した回転
式ドラムスイッチを紹
介する。
む
回路の設計についてこれでよいのか、まだ検討する余地がありそうだ
深
「志向の共感」
これまでの回路学習を
深め、各チームの工夫を
互いに学ぼうとするため
に、工夫ある回路の例を
紹介する。
ハートフル回路を製作したい
9∼22(本時18)
負荷の組み合わせを参考にしよう
電源の取り方がおかしい
め
コンピュータで制御できるんだ
取り入れたい工夫があった
はんだづけの技術が未熟だ
短絡をしないように配慮しよう
る
おもしろい自信作ができた。発表会をしてぜひみんなに見てほしい
広
げ
る
「学びの吟味」
互いの学習成果を認め
合い、他へ発信するため
に、ホームページにまと
める方法を紹介する
回路学習から学んだことを発信したい
すごくおもしろい工夫がある回路に
なった、ホームページに載せたい
23∼25
互いに発表会をして、追究の成果を
学び合うことができた
生活の中で、多くの電気回路が利用されており、今までとは
違った電気と生活のかかわり方が見えてきた。役に立てたい。
− 195 −
育てたい姿§
人のためになる回路
にするために、新たな
知識や技術を求めよう
と友達などとかかわろ
うとする。
「夢の構築」
電源として交流と直
流の使い分けができて
いないときは、回路全
体も電流・電圧を理解
する教具を提示する。
育てたい姿¦
それまでの電気回路
に関する知識や技術を、
新たな知識と技術とと
もに確かなものにしよ
うとする。
「学びの吟味」
もっと回路に対する
学習を深めたいときに
ポートフォリオから資
料を提示する。
育てたい姿¨
ハートフル回路の学
習を振り返り、生活と
電気とのかかわり方を
考えて、学習を生かそ
うとする。
公
開
授
業
第2学年B組 技 術 ・ 家 庭 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 被服室
授 業 者 原 田 悦 子
1 単 元 広げよう ふれあいの輪 ∼地域の人とともに∼(ともに生きる心を育もうⅡ)
2 単元の構想
「向こう三軒両隣」「遠くの親戚より近くの他人」
という言葉も今は昔。現在は近隣の関係も希薄となり、
まさに「隣は何をする人ぞ」という状況である。長年
住み慣れた自分たちのまちや暮らしを少しでも自分た
ちの手で守りたい。自分らしい生き方、自分らしい時
間の過ごし方をしながら生き甲斐をもって暮らした
い。そんな想いや優しさ、ありがとうの心を形で表現
し、仕組みを作るツールとして、地域通貨の取り組み
が最近各地で起こっている。地域のグループなどで独
自に発行し、サービスやモノの価値を自由に決めて交
換していくのが「地域通貨」である。地域通貨の取り
組みは、大きく「相互扶助に力点を置くもの」と「地
域経済の活性化に主眼をおくもの」とに分けられる。
いずれにしても、地域の人々が互いにもつ知恵、時間、
才能、モノなどをもち寄って交換し、「地域支え合い」
を実現しようとする取り組みである。この地域通貨活
動を共通体験し、そこで学んだことを自分の地域に生
かすことができるようにしたい。地域の人とともにコ
ミュニティーづくりに参加するなかで、人とかかわる
コミュニケーションスキルも育みたいと考える。
子どもたちは、1学期に基礎単元として、自分の成
長を振り返りながら、生まれてから現在までの人との
かかわりを見つめ直した。人とかかわって生きている
ことを、今まで真正面から考えたことのなかった子ど
もたちにとって、自分の成長に影響を与えた人・こ
と・ものを追究することは、「人は、一人では生きて
いけない」という言葉を実感するよい機会となった。
また、幼稚園を訪問し、幼稚園で先生や友達とかかわ
りながら、家庭生活だけでは身につかない社会生活を
覚えていくことを知り、自分の成長には家族以外の人
とのかかわりも重要であったことを実感した。そして、
人間が生きていくうえで、支え合うということが大切
であることを実感し、自分も人に必要とされる人間に
なりたいという思いをもつようになった。また、tプ
ロジェクトⅠでの宿泊をともなう活動では、理想の町
づくりを目指し、地域社会のあり方について足助町の
取り組みを学んだ。
そこで、本単元では、地域のふれあい・助け合い活
動の一つとしていろいろな地域で取り組まれるように
なった「地域通貨」活動への参加を共通体験させ、そ
こで学んだことを自分の近所での活動に生かしなが
ら、地域の人とともに、地域の一員としてできること
に取り組ませたいと考える。そのために、単元の最初
の「見つける」過程では、自分の住んでいる地域で行
われている活動を思い出させ、その目的を考えさせ、
地域社会の活動に参加しようという意欲をもたせた
い。次の「つかむ」過程では、地域での助け合い活動
への参加のきっかけとなるように、「近隣助け合いゲ
ーム」を行う。そして、「地域通貨」を紹介する。初
めて聞くことばに子どもたちは興味を示し、インター
ネットや資料などから情報を得ようとするであろう。
地域通貨についてある程度の情報を入手したところ
で、岡崎市伝馬通が地域ぐるみで取り組もうとしてい
る「エコマネー」活動の推進者に活動内容を紹介して
もらう。自分にもできることがあるという自信をもっ
た子どもたちは、エコマネー活動に参加しようとする。
そして、そこで得た学びを自分の地域に生かすことを
考え始めるであろう。次の「深める」過程では、エコ
マネー活動で学んだことをもとに、自分の地域の実情
を調べ、地域のニーズにあった活動を展開していくで
あろう。 そして、地域社会の一員として支え合いの
輪に参加していこうとする思いを抱き続けてほしいと
考える。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 地域の人たちと交流することで、家庭生活と地域社会との密接なつながりに気づき、支え合って生活して
いることを実感する。
§ 高齢者など地域の人々と具体的なかかわりがもてるようになるために、家族や地域の人、友達などから必
要な情報を得ようとする。
¨ 自分と地域社会とのかかわりを見つめ直し、地域社会に住む一員として、これからも地域社会の支え合い
の輪に参加していこうとする。
− 196 −
4 単元 「広げよう ふれあいの輪 ∼地域の人とともに∼」の構想表(25時間)
過程
見
つ
け
る
手 だ て
「魅力の発見」
家庭生活と地域社
会とのかかわりを意
識するために、「向
こう三軒両隣マッ
プ」を書く。
「魅力の発見」
地域での助け合い
活動参加のきっかけ
になるように、近隣
助け合い体験ゲーム
を行い、地域通貨を
紹介する。
つ
か
む
「夢の構築」
エコマネーを理解
し、具体的な活動が
つかめるように、エ
コマネー推進者に現
在必要とされている
活動内容を紹介して
もらう。
子どもの考え・思い
人とのかかわりを
見つめ直したよ
足助町で地域の活
動を学んだよ
自分の地域ではどんな活動をしているのかな
交流を深める活動
があるね
生活を助け合うため
の活動があるよ
1・2
地域の課題を解決する
ための活動がある
自分にもできそうな活動もあるから一緒にやってみたいな
地域通貨ってなんだろう
人と人を結びつけ
地域を活性化する
手段になるそうだ
地域通貨はありが
とうの心を形で表
現する手段だ
3∼6
近くの伝馬通りで
エコマネーを行っ
ているんだね
中学生はエコマネー活動にどんな形で参加できるのかな
エコマネー活動を体験してみよう
7∼11
・肩たたき ・話し相手 ・散歩の相手 ・犬の散歩
・買い物代行 ・将棋の相手 ・パソコン指導 ・窓ふき
人に喜んでもらえ
てうれしかった
「学びの吟味」
エコマネー活動の
体験を自分の地域に
生かすことのできる
ように、長年ボラン
ティア活動に従事し
てきた方の話を紹介
する。
自分も人を支える
人になれるかな
抽出生への支援と育てたい姿
少しだけど人を支
える活動ができた
得意なことを生か
せばいいんだ
エコマネー活動の体験から得たことを生かすことはできないかな
エコマネー活動の体験から得たものを生かすことを考えよう
仕事もだけど、お
しゃべりを喜んで
くれたよ
自分にもボランテ
ィア活動をする自
信がもてた
12(本時)
自分の時間を少し
人のために使えば
いいんだね
学んだことを自分の近所での活動に生かして仲間を増やしていきたいな
深
「夢の構築」
地域の高齢者と
のふれあいに目が
向くように、台風
接近時に高齢者が
自主避難した新聞
記事を提示し、そ
の理由を考えさせ
る。
め
る
広
げ
る
「学びの吟味」
学習成果を確認
するために、自分
の活動の足跡を振
り返り、感想を語
り合うようにする。
エコマネー活動の体験を生かして自分の地域でふれあいの輪を
広げよう
13∼23
地域の高齢者は地域の人とどんなふうにつながってるのかな
地域の実情を調べ、ニーズにあった活動をしていこう
近所に一人暮らし
のお年寄りがいた
ボランティアグル
ープが見つかった
してもらいたい人
が少ないそうだ
近所の一人暮らし
の高齢者の人とお
しゃべりしよう
ボランティアグル
ープの人と一緒に
活動しよう
エコマネーを使っ
てもらえるように
はたらきかけよう
いろいろな人とかかわって、ふれあいの輪が広がったよ
いろんな人とふれあって学んだことをまとめよう
人は支え合って生活していると改めて思った
− 197 −
24・25
育てたい姿¦
自分の知っている
地域活動を振り返り、
地域社会で行われて
いる活動の意味を考
えようとする。
「魅力の発見」
地域で行われてい
るエコマネー活動に
気づかないときには
エコマネーのちらし
を紹介する。
育てたい姿§
地域の活動に参加する
ために自分にできそうな
情報を得ようとする。
「学びの吟味」
自分の活動内容に
自信をもてないとき
には、自分の特技を
生かそうとした理由
を発表するようにう
ながす。
「志向の共感」
仲間を増やして活
動するよさに気づか
ないときには、エコ
マネー活動を広げる
ために、家族や近所
の人に参加をはたら
きかけてはどうかと
助言する。
育てたい姿§
地域社会の一員とし
て、地域社会の支え合
いの輪に参加していこ
うとする。
「夢の構築」
新たな活動内容に
気づかないときには、
エコマネー活動を促
進するために、支援
を必要としている人
を地域の中で捜す役
割を担うことも大切
なことではないかと
助言する。
育てたい姿¨
活動の中でのいろ
いろな人とのかかわ
りを振り返り、地域
社会は支え合って生
活していることを実
感する。
公
開
授
業
第1学年B組 英 語 科 授 業 案
公開授業Ⅰ 1B教室
授 業 者 市 川 徹
1 単 元 Chatting Strategy ( Hello, My Friends ! )
2 単元の構想
21世紀を迎え、私たちを取り巻く環境は、ますます
「あいづち」が大切であることを学んだ。また、実践
国際化している。毎日、世界中の為替相場の変動が報
的コミュニケーション能力におけるストラテジー能力
道される。アメリカやヨーロッパの路上を日本車が走
の一つである「あいづち」の重要性にも気づくことが
り回り、秋葉原には日本製の電化製品を買い求める外
できた。そして、「もっと自然な会話をしたい」
「サイ
国人がうごめいている。テレビのスイッチを入れれば、
モン先生以外の外国人とも会話をしてみたい」といっ
地球の裏側の出来事を居ながらにして見ることができ、
た希望を膨らませるようになった。
時間と財力さえあれば、自分の足でその現場に立つこ
このような子どもたちの思いを受け、本単元では、
とも可能である。さらに、インターネットを使えば、
より楽しく自然な会話を続ける活動を行う。単元の最
クリック一つで世界中から膨大な情報を即座に入手す
初に、本単元で会話をする予定の外国人ゲストたちか
ることは訳もないこととなった。世界中がグローバル
らのメッセージを紹介し、意欲づけをする。子どもた
な網の目で覆われつつある。世界の共通語になりつつ
ちには、英語で会話を続けるための作戦を工夫させ、
ある英語の重要性はますます高まってゆくであろう。
会話の主導権をどのように獲得するかをゲーム的に競
この網の目をミクロな視点で見ると、すべては人と
い合う。それをもとにして、生徒同士での会話練習を
人とのコミュニケーションによって成り立っている。
繰り返し、子どもたちが互いのよさを取り入れながら、
国と国、集団と集団とがつながるとき、そこには必ず
実践的コミュニケーション能力を高め合うことができ
個人レベルでの一対一の意思疎通が存在する。どんな
るようにする。そのためには、自己評価や相互評価を
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン も 、「 Nice to meet you.」 や
毎時間の練習に取り入れ、自分の英語表現やストラテ
「Thank you.」といった、相手を尊重する言葉の積み
ジー能力を振り返ったりすることができるようにす
重ねによって始まる。今後ますますボーダーレス化し
る。また、WORKSHOP を35分授業だけでなく、75
てゆくであろう世界で生きていく子どもたちには、コ
分授業においても継続的に行い、教科書を中心とした
ミュニケーション手段としての英語の力をつけてほし
新しい英語表現の理解や身近なことを表す単語をでき
い。同時に、相手を認めようとする寛容な心を育んで
るかぎりたくさん練習する活動として位置づける。そ
ほしいと願う。
して、単元の終わりには外国人ゲストを招待し、実際
子どもたちは、前単元でALTのサイモン先生に自
に会話をすることで、コミュニケーション能力の向上
己紹介したり簡単な質問をしたりする中で、自分の英
を自覚させ、さらに英語を学習したいという意欲や、
語が通じる喜びを味わうことができた。また、会話の
もっと多くの外国人と話してみたいという希望をもた
マナーとして「はっきりした声」「アイコンタクト」
せたい。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 外国人との交流に向けて、自分の話題を説明したり、相手の話題について質問したりするのに必要な英語
表現を追究しようとする。
§ 友達や外国人の話す英語を聴き取ろうとしたり、それに対応した自分の考えを英語で伝えようとしたりす
る。
¨ 友達同士や教師との練習からよりよい英語表現に気づき、それを自分の表現に取り入れようとしたり、外
国人との交流から日本人以外の視点や考え方に気づき、それを認めようとしたりする。
− 198 −
4 単元「Chatting Strategy」の構想表(15時間)
STAGE
E
X
P
L
O
R
E
手 だ て
「魅力の発見」
外国人と自然な会
話を続けたいという
意欲を高めるため
に、交流予定の外国
人たちからの、会話
を楽しみにしている
という趣旨の手紙を
提示する。
子どもの考え・思い
英語を使って外国人と自然な会話
をしてみたいな
抽出生への支援と育てたい姿
英語を話せるようになりたいけ
ど、本当にできるか不安だな
外国人からの手紙に何て書いてあるのかな
1
身近な話題でおしゃべりをしてみたいな
どうしたら会話を続けられるのだろう
1.5
あいづちやつなぎ言葉以外の会話を続ける方法は何だろう
単語をたくさん覚え
ることが大切だ
新しい表現をもっと
覚えたい
会話の流れを予想す
ればいいよ
身近なことを英語で
何と言うか覚えよう
WORKSHOP で練習
を繰り返そう
自分の得意な流れを
組み立てよう
ペアやグループで Small Chat を繰り返そう
新しい英語表現を練習しよう【WS】
2∼4
1)How many ∼?
2) Let’
s ∼.
3)命令文
4)Does your friend like ∼?
etc.
E
X
C
H
A
N
G
E
「学びの吟味」
会話が続く話題
を選ぶことが大切
であることに気づ
かせるために、い
くつかの話題をな
げかけてイメージ
する言葉をマップ
にしてみる。
「魅力の発見」
会話する意欲を
高めるために、Best
Chatterer を選ぶ観点
をサイモン先生か
ら発表する。
「学びの吟味」
互いのよい点を取
り入れやすくするた
めに、会話の主導権
を握ることなどを点
数化するゲームのビ
デオを視聴させる。
話題を決めてペアやグループで練習をしよう
話題のイメージマップを作ると会話を始めやすいよ
実物や写真を使う
といいぞ
話題の展開の仕方を練習
する方法を知りたいな
あいづちやつなぎ
言葉を使おう
イメージが広がる
ものがいいよ
会話の主導権をにぎる
ことが大切だ
聞き返しや言い換
えも必要だ
「学びの吟味」
聞き返しが少ない
場合には、上手に聞
き返している子ども
とペアで練習させる。
会話の主導権をにぎる方法を知りたいな
ストラテジーの練習をしよう【WS】
7.5∼8
1)会話を始める 2)身振りやスケッチ 3)つなぎ言葉
サイモン先生と練習したいな
9
もっと工夫して練習したいな
9.5∼12(本時11)
主導権をにぎると自分で会話を組み立てやすいぞ
相手の話題で主導権を取りたい
評価が高い相手と練習したい
イメージマップが大切だ
発想の仕方のこつがつかめた
外国人と英語で楽しく話せたよ
「志向の共感」
英語で交流する
機会をさらにもち
たいという思いを
高めるために、国
際交流の視野が広
がった子どもの授
業日記を紹介する。
育てたい姿¦
自分の話題の説明
や会話に必要な表現
を選び出そうとする。
5∼7
早く外国人ゲストと会話したいな
E
X
P
E
R
I
E
N
C
E
「学びの吟味」
会話の流れを考え
ることに気づかない
場合には、相手の言
葉を予想している子
どものポートフォリ
オを紹介する。
練習の成果を出せたよ
育てたい姿§
友達のよいところ
を積極的に取り入れ
ようとする。
13
外国のことがわかったよ
英語で話せるとうれしいな
自分の話題に興味
をもってくれた
「学びの吟味」
発想のこつがつか
めない場合には、誰
と練習するとこつが
つかめるか考えるよ
うに問いかける。
聞きたいことを聞
けなかったな
13.5∼15
英語で心が通じて
うれしいな
もっと英語を勉強してたくさんの外国人と話したいな
※ WSは基礎基本の定着を狙った活動を行うWORKSHOPを表す。
− 199 −
育てたい姿¨
交流を振り返り、
よりよい英語表現の
必要性や外国人のも
のの見方を知ること
の重要性をとらえよ
うとする。
公
開
授
業
第3学年D組 英 語 科 授 業 案
公開授業Ⅱ 3D教室
授 業 者 都 築 孝 明
1 単 元 「This Is a Foreign Friend of Mine !」( Japan in Asia )
2 単元の構想
今日の日本では、国際化が急速に進み、まさにボー
ダーレスの時代となりつつある。例えば、海外旅行で
異文化を体験することやインターネットで外国の情報
を入手することが、簡単にできるようになってきてい
る。街中で外国人に出会うこともめずらしくはない。
また、学校の現場においても、生徒が海外派遣で外国
を訪れたり、外国人を教室へ招いたりする機会が増え
てきた。しかしながら、国際化が進んだといっても、
実際の交流の場面では、時間的にも物理的にも制約が
あり、活動が一時的、一過的なものになりがちである。
そこで、交流がその場限りのものではなく、互いが固
有名詞で名前を呼び合い、心を通わせ、それぞれの価
値観を認め合えるような個人レベルの交流(Interpersonal Exchange)まで深まってこそ、グローバルな
相互理解につながると考えている。
ところで、現在、愛知教育大学ではアジアを中心と
した国々から30人ほどの留学生が学んでいる。このこ
とから、アジアの中でも日本がリーダー的な位置を占
め、その国が日本との関係を重視している様子がうか
がえる。そして、彼らの多くは教員派遣の留学である
ことから、日本の教育にも注目をしていることがわか
る。子どもたちがこうした留学生と交流をすることに
よって、外国と日本との違いや、互いのよさを認識す
る機会をもつことができると考える。また、彼らが留
学先として日本を選び、日本からさまざまなことを学
ぼうとしている姿勢から、自分たちの身のまわりのこ
とにあらためて興味・関心をもち、自国の文化を見つ
めなおす機会となることも期待できる。
子どもたちは、1学期に韓国の美湖中へ日本の文化
を紹介するビデオ作りに取り組んだ。このことをきっ
かけとして、さらなる交流の糸口を求めて、韓国の子
とeメールでの文通を始めた子もいる。このように、
子どもたちが英語を使って、自分の思いや考えを積極
的に英語で伝えようとしたりする様子は少しずつうか
がえるようになってきた。この意欲を大切にし、相手
のことを意識して、自分とは異なる相手の思いや考え
を受け止めたり、自分の視野を広げようしたりとする
姿勢をさらに育てたいと考える。そのためには、外国
人との交流の機会を増やし、必然的に英語を使う場面
を設定することが大切である。また、ビデオレター作
りによって育ちつつある子どもたちの韓国への意識
を、さらにアジアの国々へ、そして、世界の国々へと
広げていく活動も工夫すべきである。
そこで本単元では、留学生との複数回の交流の機会
をもち、自分の思いや考えを積極的に伝えようとする
意欲を育てることを考えた。そして、留学生との会話
の中から、相手の思いや考えを受け止め、さらにそこ
へ自分の思いや考えを添えて送り返す、いわば英語を
通した心のキャッチボールを試みる。1回目は留学生
との突然の出会いを演出し、コミュニケーションをと
ることの難しさを体験し、問題意識をもつことをねら
う。2回目は、1回目の交流をふまえて、自分のこと
をさらにくわしく相手に伝えたり、相手のことをより
よく知るために相手のことについて積極的に質問した
りする機会をつくる。3回目はさらに内容を発展させ
て、日本の中学生の様子を紹介する中で、日本と外国
の文化を比べ、互いのよさに気づかせる。このような
留学生との複数回の交流によって、「友だち」と呼び
合えるほどのコミュニケーションの深まりがみられる
ことを期待したい。また、このような心通い合う英語
のコミュニケーションを実現することによって、共通
語の一つとしての英語の重要性にも気づくことができ
ればと考える。さらに、外国の人々の考え方や文化を
偏見なく理解しようとしたり、相手とよりよい関係を
築こうとしたりする思いも育むことができればと願っ
ている。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
¦ 留学生との交流に向けて、既習表現を取り入れながら、日本のよさを分かりやすく伝えるために、それに
ふさわしい表現を追究しようとする。
§ 自分のまわりの人たちが話す英語を聴き取ろうとしたり、その意味や思いを推し量りながら、それに対応
した自分の考えを英語で伝えようとしたりする。
¨ 自分のまわりの人たちとの練習からよりよい英語表現に気づき、それを自分の表現に取り入れようとした
り、留学生との交流から外国の人々の視点や考え方に気づき、それを認めようとしたりする。
− 200 −
4 単元「This Is a Foreign Friend of Mine !」
」の構想表(15時間)
STAGE
E
X
P
L
手 だ て
「魅力の発見」
外国人と英語で話
をしたいという気持
ちを高めるために、
愛教大の留学生をク
ラスへ招待する。
O
R
「夢の構築」
会話のイメージ
をつかむために、
うまく交流の進ん
だ生徒のビデオを
紹介する。
X
今までいろいろなことを外国
人に伝えてきたな
抽出生への支援と育てたい姿
外国の人と直接話をして友達
になりたいな
留学生の人と英語で話してみたいな〈1回目の交流〉
尋ねられた質問にうまく答え
られなかったな
1・2
育てたい姿¦
相手との会話に必
要な表現を選び出そ
うとする。
会話の流れを予想すればいいよ
もっとたくさん話をしたいな
E
E
子どもの考え・思い
「学びの吟味」
会話の流れを具
体的に作るために、
つなぎ言葉や聞き
返しの表現をまと
めた一覧表を提示
する。
C
H
使える英語表現を増やそう【WS】
1)I will show you how to use it.
2)It is difficult for me to understand Japanese.
3・4
どうしたら友達になれるかな
5
趣味や好きな食べ物など身近
な話題で話したいな
相手のことをもっと知りたい
な
自分の趣味など身近なことを
紹介してみよう
相手や相手の国の様子を尋ね
る文も作ってみよう
友達からアドバイスをもらおう
6・7
英文だけだとうまく説明でき
ないな
どうしたら会話がとぎれず続
くのだろう
ジェスチャーやフリップも使
って説明したいな
つなぎ言葉や聞き返しの表現
を練習したいな
早く留学生とおしゃべりしたいな
A
もっと親しく会話をしたいな〈2回目の交流〉
N
日本の中学生の生活について
教えてあげたいな
G
E
8
日本の学校のことを知りたが
っているよ
中学生の生活を紹介する英文を作りたいな
「学びの吟味」
自分に取り入れら
れそうな英語表現や
工夫に気づかせるた
めに、会話で注意す
べきポイントを示
す。
英文を作ってグループで練習したいな
9∼12
会話がとぎれないように質問
の文も考えてあるのがいいね
相手の質問にちゃんと答えら
れていていいな
関連した内容で相手に質問し
てみよう
会話予想図を用意して相手の
質問を予想しておこう
早く再会したいな
E
X
P
E
R
I
E
N
C
E
「魅力の発見」
留学生に日本の中
学生の生活を紹介し
たいという思いを高
めるために、留学生
からの質問文を提示
する。
「志向の共感」
英語で交流する
機会をさらにもち
たいという思いを
高めるために、国
際交流の視野が広
がった子どもの授
業日記を紹介する。
日本と外国の中学生の生活や考え方を比べてみたいな〈3回目の交流〉
13・14(本時13)
自分の説明が分かってもらえ
たかな
相手の説明が聞き取れるかな
日本の中学生の様子をわかっ
てもらえたぞ
相手の国の中学生の様子もわ
かったぞ
外国の人との交流って大切なんだ
15
アジアの中で日本には大切な
役割があるんだな
英語でいろいろな国の人と心
がつながりそうだな
もっと互いが理解し合う努力
をしないといけないなあ
会話がつながり心もつながっ
たよ
互いが理解し合うには心が大切なんだ
※ WSは主に基礎基本の定着をねらった授業を行うWORKSHOPを表す。
− 201 −
「学びの吟味」
会話を続けるコツ
を見つけられずにい
る場合には、つなぎ
言葉や聞き返しの表
現を使った発表文を
示す。
「学びの吟味」
相手の質問にスム
ーズに答える方法を
見つけられないでい
る場合には、会話の
流れを紙に書き出す
ことをアドバイスす
る。
育てたい姿§
友達のよいところ
を積極的に取り入れ
ようとする。
「学びの吟味」
単に相手の様子が
わかって満足してい
る場合には、さらに
詳しく内容がわかる
ように、留学生に質
問をするようアドバ
イスする。
育てたい姿¨
交流を振り返り、
よりよい英語表現の
必要性や外国人のも
のの見方を知ること
の重要性をとらえよ
うとする。
公
開
授
業
第1学年A組 ネットワークプロジェクト授業案
公開授業Ⅰ 1A教室
授 業 者 平 井 克 明
1 単 元 iプロジェクトⅠ
2 単元の構想
iプロジェクトⅠは、1年生の初めてのネットワー
クプロジェクトととして、個による追究の楽しさを味
わわせること、追究方法を身につけさせることを大き
な目的としている。ここでの学びをもとに、今後3年
間のネットワークプロジェクトに意欲的に取り組ませ
たいと考える。
1年生の子どもたちは、附属中学校に入学する以前
からネットワークプロジェクトを楽しみにしていた。
自分の好きなことを追究していくことのできる学習に
大きな期待を寄せていたのである。それは、
「とことん
追究することができる」
「やりたいことが何でもできる」
「新しいことがわかっていく喜び」などといった期待
である。その一方で、
「どんなことを追究していけばい
いのだろう」
「自分一人でできるのかな」などの不安を
抱く子どもも少なくない。また、追究という言葉は使
っているが、
「文献資料やインターネットで調べること」
というレベルでとらえている生徒も多い。
そこで、iプロジェクトⅠを構想していくうえで、
以下の点を大切にしていく必要があると考えた。
① 一人で行う活動ということを認識
iプロジェクトは、個人の責任において、一人一
人が自ら考え行動することを要求するものである。
② 追究の楽しさを体験
3年間の最初のネットワークプロジェクトであ
る。まず、追究の楽しさ、おもしろさを味わわせたい。
③ 追究のスキルを習得
iプロジェクトⅠで経験するスキルは、3年間の
追究活動の基盤となるものである。取材訪問での人と
のかかわり方やプレゼンテーション能力および聞きと
る力の育成、ポートフォリオを用いた情報選択や活用
能力などを育成したい。
④ 人とかかわる体験を重視
ここでいう人とは、追究の対象としての人だけでな
く、追究することやものにかかわる人である。また、
よりよい追究のためにかかわる友達や先輩である。そ
れらの人にかかわることによって、文献やインターネ
ットでは得られない追究の深さを体験することが重要
だと考える。さらに、その人たちの生き方にまで視野
を広げさせたいと考える。
⑤ 学校外での追究活動を重視
用意された学校外の体験活動ではなく、計画、アポ
イントメント取りに始まり、追究の報告にいたるまで、
個人の責任において行う活動は、人とのかかわりを深
めていくとともに、さらに集団で追究するtプロジェ
クトにもつながるものだと考える。
以上の5点を大切にした上で、iプロジェクトⅠの
様々な活動を子どもが自主的、創造的に進めていくこ
とができるようにしたい。
また、限られた時間の中で、上記の5点の内容を活
動として体験できるようにするためには、子どもたち
のテーマの決め方が大きなポイントになると考えた。
今回のiプロジェクトⅠでは、「興味・関心があるこ
と」「人が見えること」
「取材訪問ができること」の3
つを成功のための条件として与え、効率的に活動がで
きるようにしていきたい。
このようにして、取材訪問や意見交流などの活動を
行っている子どもたちは、意欲的な追究を進めている。
しかし、追究内容は、どうしても「こと・もの」が中
心となっており、そこにかかわる「人」にまでなかな
か意識できないのが現状である。人とかかわる経験は、
今後のネットワークプロジェクトの基本となるもので
ある。人とどのようにかかわったのかを常に意識でき
るようにし、ここで培った経験を、次のネットワーク
プロジェクトに生かそうとする動きを期待している。
3 本単元でめざす学びのネットワークを築く子どもの姿
a 今まで学習してきた教科や小学校での「総合的な学習の時間」での学び、また、自分の興味・関心のある
内容を、iプロジェクトⅠの追究内容と結びつけて考えていこうとする 。
b 自分自身の課題を解決していくために、文献情報や友達の考え、また、人に学ぶ会や取材などの活動を通
して得られる情報や思いを求めていこうとする。
c
自分で調べた知識や情報を整理し、人にわかりやすく表現したり、まとめていこうとしたりする。
d 追究でかかわった「人」から学ぶことのおもしろさ、すばらしさを感じ、積極的に「人」にかかわってい
こうとする。
− 202 −
4 iプロジェクトⅠの構想表(15時間)
過 程
オリエン
テーショ
ン
手 だ て
「学びの吟味」
iプロⅠの楽しさやおも
しろさを感じるために、先
輩の活動の様子やiプロの
活動の流れを紹介する。
子どもの考え・思い
iプロジェクトⅠで
とことん追究だ
自分に追究ができる
のか不安だな
抽出生への支援と育てたい姿
早くiプロジェクト
Ⅰがやってみたい
え
最初のネットワークプロジェクトを始めよう
1
「夢の構築」
一人でやっていく テーマをどうしよ 先輩は大きな活動
が
自分のiプロの活動に
のがiプロだ
うか
をしているんだね
先輩に学
見通しがもてるように、
ぶ会
先輩の話を聞く会を開く。
く
自分はどんなテーマにしよう
2∼4
基礎追究 ・テーマの決め方
・資料の収集能力
テーマをきちんと決めて追究を進めていきたい
仮テーマ
決定
「学びの吟味」
自分の追究したいこと
をはっきりさせるため
に、テーマに対する魅力
を、具体的な1つの資料
をもとに語らせる。
は
・プレゼンテーション能力
・聞く力
ぐ
「魅力の発見」
取材する内容の視点を
しぼるために、取材訪問
く
計画書を作成し、取材に
取材訪問 おいて自分が特に聞いて
Ⅰ
おきたいことを事前にま
とめるよう促す。
む テーマ決
定追究
・取材訪問方法に関する
知識・技能
意見交流
つ
く
る
先輩から
のアドバ
イス
「志向の共感」
人とかかわることによ
って、追究が深まったこ
とを意識できるように、
かかわった人を軸に、ポ
ートフォリオファイルの
整理を促す。
取材訪問
Ⅱ
・ポートフォリオの活用
・効果的な意見交流の方法
発表会
「学びの吟味」
自分の追究してきたこ
とを「人」とのかかわり
の中で振り返るために、
その「人」に向けて何を
語れるか考えながら成果
を発表するように促す。
・プレゼンテーション能力
ま と め
「志向の共感」
iプロジェクトの成果
をはっきりさせるため
に、追究にかかわった人
へのお礼状に書くべき内
容を問う。
自分の今のテーマは、今後追究していくことができるものかな
私の追究したいこと
はマグリッドという
画家だよ
追究のやり方で参考
になることを知りた
いな
育てたい姿a
iプロⅠのテーマ
を、成功のための条件
を考慮して決めていこ
うとする。
5
取材することで情報
を得られるような追
究内容にしたいな
テーマに関する「人」や「取材」についてはっきりさせていくことが大切だ
取材訪問で、追究を深めていこう
6∼9
取材先の「人」 取 材 し て み る
から学ぶことが と、新しい発見
たくさんあった
がいっぱいだ
追究をやってい
くことに自信が
ついたよ
「学びの吟味」
「人」とのかかわり
が薄い追究をしようと
していることに対し、
人とかかわる魅力を語
れるように助言する。
育てたい姿b
人に会うことで得ら
れる情報を積極的に求
めていこうとする。
取材訪問は、追究を深めていくのにとても有効な方法だね
追究してきたポイントを人にわかりやすく伝えよう
先輩から参考に
なるアドバイス
をもらいたいな
本を調べるより、実際
に人に聞いたことは説
得力がある
10∼13
取材訪問をやって、
わかったと言えるこ
とは何だろう
「学びの吟味」
追究によって得たこ
とを意識できるよう
に、最初に考えたテー
マと今のテーマの比較
を促す。
追究の足りないところをもっと深めていきたい
調べたことに対して、
自分の思いをきちんと
述べなければ
人にわかりやすく伝え
るために必要な資料は
何だろう
追究すべきことをまと
め直して取材訪問へ
もう一度行こう
自分の追究した成果を発表してみたい
自分のiプロⅠの成果は何だろう
自分の追究してきたこ
とには、自分で満足で
きるものだった
やってきたことは伝え
られるけど、「人」につ
いてはよくわからない
14(本時)
真剣な「人」の生き方
にふれることができて
よかった
「人」とかかわってきてよかったな
iプロⅠを振り返り、次のネットワークプロジェクトに
つなげていこう
15
− 203 −
育てたい姿c
自分の発信したい内
容を整理し、自信をも
ってわかりやすく表現
しようとする。
育てたい姿d
ネットワークプロジ
ェクトにおいて、今後
も人とかかわることの
大切さを発信しようと
する。
公
開
授
業
75分授業の設定
《資料1》
1 学校教育法施行規則別表第2(第54条関係)に示されている各教科等の授業時数
(単位:時間)
必 修 教 科 の 授 業 時 数
区 分
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
美
術
保
体
技
・
家
外
国
語
道
徳
1 年
140
105
105
105
45
45
90
70
105
35
2 年
105
105
105
105
35
35
90
70
105
35
3 年
105
85
105
80
35
35
90
35
105
35
特
別
活
動
選
択
教
科
総
な 合
学 的
習
合
計
70
∼
∼
100
30
70
50
∼
35
∼
105
80
105
70
35
∼
∼
165
130
35
0
980
980
980
備考
1 この表の授業時数の1単位時間は,50分とする。
2 特別活動の授業時数は,中学校学習指導要領で定める学級活動(学校給食に係るものを
除く。
)に充てるものとする。
3 選択教科等に充てる授業時数は,選択教科の授業時数に充てるほか,特別活動の授業時
数の増加に充てることができる。
4 選択教科の授業時数については,中学校学習指導要領で定めるところによる。
2 各教科等の週あたりの授業「分」数
○1をもとに、各教科等の年間授業時数を50分授業で換算合計し、35週で割ると、
週あたりの各教科別総時間数が求められる。
(※1週間で行う授業「分」数)
例 保体90→90(時間)×50(分)÷35(週)=128.5…(分)≒130(分)
○さらに、本校でめざす1単位時間を「75分」枠で換算する。
例 英語150→150(分)÷75(分)=2(時間)…週あたり2時間実施
3 本校の各教科等の75分枠を基本とした週あたりの授業「分」数,枠数
(単位:分)
区 分
国
語
必 修 教 科 の 授 業 時 数
社
数
理
音
美
保
技
・
会
学
科
楽
術
体
家
外
国
語
道
徳
特
別
活
動
ネットワーク
プロジェクト
(NP)
65
65
35 35
75
75
75
75
75
75
65
65
65
65
50
50
75
35
35
50
50
75
75
75
75
75
75
75
75
75
50
50
65
65
50
50
75
75
50
50
2 年
75
75
75
75
75
65
65
75
75
65
50
50
50
65
65
50
75
75
50
50
3 年
75
75
75
1 年
− 204 −
日課表と各学年の時間割
《資料2》
〈日課表〉
前 期
〈1年時間割〉
後 期
月
備 考
8:10
8:20
8:30
8:40
開門・開錠
7:30
7:45
自主活動終了
8:05
8:20
職員打ち合せ
8:10∼8:20
8:25∼8:35
S T
8:20∼8:30
8:35∼8:45
移動・準備
8:30∼8:40
8:45∼8:55
第1時限
8:40∼9:55
8:55∼10:05
第2時限
10:05∼11:20
10:15∼11:25
第3時限
11:30∼12:45
11:35∼12:45
開始のチャイム
給 食
12:45∼13:30
移動・準備
13:30∼13:35
清 掃
13:35∼13:50
移 動
13:50∼13:55
放 課
13:55∼14:10
木
金
チャイム
移動
AB
技家(50)
9:30
1限
AB
技家(50)
10:30
10:40
AB
道徳(60)
11:40
11:50
AB
特活(55)
12:45
2限
11:20
11:30
3限
12:45
備 考
水
S T
9:55
10:05
前 期 ・ 後 期 共 通
火
給 食
L T
14:10∼14:30
NP・教科
14:35∼15:50
13:30
13:35
13:50
13:55
14:10
音楽
移動・準備
清 掃
音楽
放 課
チャイム
LT
14:30
4限
開始のチャイム
15:50
※最終下校
16:15
16:15
〈2年時間割〉
月
火
8:10
8:20
8:30
8:40
水
木
金
月
移動
AB
技家(50)
9:30
2限
11:20
11:30
チャイム
S T
4限
3限
12:45
給 食
15:50
16:15
移動・準備
清 掃
音楽
放 課
チャイム
13:30
13:35
13:50
13:55
14:10
LT
NP
(mp)
NP
特活(50)
※最終下校
16:15
学年
裁量
4限
15:50
下校時
∼音楽
− 205 −
16:15
移動・準備
清 掃
音楽
放 課
チャイム
LT
14:30
道徳(50)
NP
移動
11:20
11:30
給 食
14:30
金
2限
12:45
12:45
木
9:55
10:05
11:40
美術(55)
3限
水
1限
9:40
AB
技家(50)
10:30
10:40
音楽(60)
11:30
9:55
10:05
火
8:10
8:20
8:30
8:40
チャイム
1限
下校時
∼音楽
〈3年時間割〉
S T
13:30
13:35
13:50
13:55
14:10
学年
裁量
NP
道徳(50)
NP
NP
(mp)
特活(50)
NP
※最終下校
16:15
学年
裁量
下校時
∼音楽
主な参考図書一覧
・愛知教育大学附属岡崎中学校「科学性・情操性を高める学習指導」1968
・愛知教育大学附属岡崎中学校「自己確立をめざす教育課程の創造」1984
・愛知教育大学附属岡崎中学校「学ぶ力・学ぶ心を培う」1989
・愛知教育大学附属岡崎中学校「生き方を学ぶ教育
21世紀を託すことのできる地球市民の育成」1994
・愛知教育大学附属岡崎中学校「子どもが創る総合学習 2001年の扉を開く」1998
・辰野千寿編「学習指導用語辞典」(教育出版)1987
・木村尚三郎「
『耕す文化』の時代」(ダイヤモンド社)1988
・高岡浩二他「総則の解説と実践」(小学館)1989
・細谷俊夫他「新教育学辞典」全8巻(第一法規)1990
・大田 堯 「教育とは何か」
(岩波書店)1990
・渡部昇一 「ことばコンセプト事典」
(第一法規)1992
・佐藤典司 「
『文化の時代』を生きるために」(PHP研究所)1992
・山極 隆 「環境教育実践事例集」(第一法規)1994
・佐伯 胖 「
『学ぶ』ということの意味」(岩波書店)1995
・佐伯 胖編「シリーズ 学びと文化」全6巻(東京大学出版会)1995
・平野朝久 「子どもの『学ぶ力』が育つ総合学習」(ぎょうせい)1997
・村川雅弘 「総合的学習のすすめ」(日本文教出版)1997
・新井郁男編「新しい学校を創るリーダーシップ」全6巻(教育開発研究所)1998
・高階玲治編「実践 総合的な学習の時間」(図書文化)1998
・高階玲治 「総合的な学習の時間 自ら学ぶ力をどう育てるか」
(ぎょうせい)1999
・高階玲治編「Q&Aこんなときどうする新教育課程No.2」
(教育開発研究所)2000
・北尾倫彦編「自ら学び自ら考える力を育てる授業の実際」(図書文化)1999
・武村重和 「新学習指導要領による子供の問題解決」
(初教出版)1999
・加藤幸次 「総合学習の思想と技術」
(明治図書)1997
・加藤幸次他「総合学習のためのポートフォリオ評価」
(黎明書房)1999
・市川伸一編「認知カウンセリングから見た学習方法の相談と指導」(ブレーン出版)1998
・寺西和子 「総合学習の理論とカリキュラムづくり」
(明治図書)2000
・安藤輝次 「ポートフォリオ評価で総合的な学習を創る」(図書文化)2001
・文部省 「中学校学習指導要領」(文部省)1998
・文部省 「中学校指導書 道徳編・教育課程一般編」
(文部省)1989
・文部省 「中学校 道徳指導上の諸問題」(文部省)1990
・文部省 「特色ある教育活動展開のための実践事例集」(文部省)2000
・教育展望 臨時増刊 29(財団法人 教育調査研究所)1997
・教育展望 臨時増刊 30(財団法人 教育調査研究所)1998
・教育展望 臨時増刊 31(財団法人 教育調査研究所)1999
・教育展望 臨時増刊 32(財団法人 教育調査研究所)2000
・教職研修6月号 「『生きる力』を育む指導と経営」
(教育開発研究所)1996
・教職研修9月増刊号「学習のネットワーク化」
(教育開発研究所)1996
・教職研修総合特集「中学校移行措置読本」(教育開発研究所)2000
・教職研修総合特集「教育評価読本」(教育開発研究所)2001
・教職研修2月増刊号「総合的な学習の展開と技術」(教育開発研究所)1998
・学校運営研究9月臨時増刊「教育課程審議会答申 全文と重点事項の解説」(明治図書)1998
・学校運営研究2月臨時増刊「新中学校学習指導要領 全文と改訂事項の解説」(明治図書)1999
・佐野金吾,小島 宏編 「新しい評価の実際」
(ぎょうせい)2001
・梶田叡一 「教育評価 第2版補訂版」
(有斐閣双書)2002
− 206 −
助言者・司会者
教科
国
語
社
会
数
学
氏 名
助言者
共同研究者
所 属
教科
国
語
佐 藤 洋 一 愛知教育大学
司会者
澤 井 恒 樹 音羽町立音羽中学校
助言者
舩 尾 日出志 愛知教育大学
司会者
羽 田 道 生 豊田市教育委員会
助言者
柴 田 録 治 岐阜聖徳学園大学
司会者
社
会
数
学
中 谷 眞 人 碧南市立中央中学校
助言者
鈴 木 栄 二 岡崎市立奥殿小学校
理
科
司会者 河 合 正 人 田原町立大草小学校
音
楽
音
楽
助言者 滝 澤 達 子 愛知教育大学
司会者 河 合 厚 志 西尾市立西尾中学校
美
術
美
術
助言者 丹 羽 晧 夫 愛知教育大学
司会者 野 田 光 宏 西三河教育事務所
保
健
体
育
技
術
・
家
庭
英
語
永 田 N 章
保
健
体
育
市 野 聖 治 愛知教育大学
浅 井 英 雄 豊橋市教育委員会
橘 田 紘 洋 愛知教育大学
西 村 敬 子 愛知教育大学
司会者
助言者
藪 崎 昭 彦
足助町立足助中学校
加 藤 英 雄
蒲郡市立三谷中学校
赤 木 良 行
豊川市立東部中学校
兼 子 明
吉良町立吉良中学校
荒 河 昌 吾 岡崎市立矢作北中学校
宮 林 秀 和
豊橋市立中部中学校
深 津 伸 夫
岡崎市立葵中学校
羽根田 修
豊田市立豊南中学校
森 下 正 敏
渥美町立福江中学校
牧 野 伸
西尾市立福地中学校
宮 澤 新 吉
豊田市立前林中学校
長 坂 麻奈美
岡崎市立南中学校
小 澤 良 充
蒲郡市立西浦中学校
森 田 恵三子
豊橋市立二川中学校
小 崎 真
一色町立一色中学校
徳 平 浩 之
安城市立桜井中学校
藤 井 司
三好町立三好中学校
岡 本 博 文
刈谷市立朝日中学校
宮 本 伸 一
豊田市立竜神中学校
板 倉 眞 介
岡崎市立北中学校
白 井 博 成
豊川市立南部中学校
田 川 俊 彦
音羽町立音羽中学校
技
助言者
術
・
家
小 林 孝 壽 豊橋市立吉田方小学校
後 田 忠 勝
名古屋明徳短期大学
庭
英
語
多 田 宏 明 刈谷市立刈谷東中学校
岡 田 悦 子
豊川市立代田中学校
杉 山 文 子 岡崎市立六ツ美中学校
古 瀬 久美代
豊田市立美里中学校
藤 井 真 弓
豊橋市立南部中学校
瀬 古 幸 弘 旭町立旭中学校
司会者
N
P
愛知教育大学
助言者
司会者
所 属
福 井 信 也 知立市立知立南中学校
吉 田 淳 愛知教育大学
理
科
氏 名
助言者
司会者
永 坂 昭 彦 碧南市立南中学校
小 松 正 人 豊橋市立高師台中学校
花 井 隆 田原町立衣笠小学校
金 原 宏 刈谷市教育委員会
− 207 −
N
P
神 谷 明 良
岡崎市立矢作中学校
羽 原 秀 樹
豊田市立豊南中学校
おわりに
(前略)みなさんの質問は、NGOである我々の立場と、中学生である彼
女たちの立場を明確に区別した上で、
「中学生として何ができるか?」と、
理路整然とした質問であるのに感心しました。(中略)また、Eメールや
手紙で事前の打ち合わせが十分にできてよかったと思いました。そして、
4月20日には、秋子さんから、無事のご帰宅の報告を兼ねたお礼状をメー
ルで頂きました。このようなメールの交換により、今後の附属中学校の
みなさんとの交流が続けられると期待しております。
3年生のtプロジェクトⅡの宿泊をともなう活動で、秋子らは、東京の地雷
廃絶キャンペーンにかかわっている方を訪問先に選びました。綿密な事前の打
ち合わせをし、訪問を終えた後、上記のようなお手紙が学校に届きました。そ
の後も秋子らは活動を継続し、訪問先と連絡を取り合いました。生徒や保護者
の前で発表の機会を得たことを先方に伝えると、東京からわざわざ地雷の模型
をもってそのようすを見に来てくださり、実物を見せながらお話をしていただ
くことができました。
私たちは、多くの豊かな体験をすることを通して、より確かなものの見方・考え
方を身につけ、自らの価値観を確立することや、一人の人間として相手を尊重し、
互いに認め合いながら、ともに手を取り合って行動する意欲や態度、能力の育成を
願って研究を進めてまいりました。子どもたちの活動の中に、自分の思いをまわり
の人たちに伝えたり、実際に社会に出て活動したり、広く社会にはたらきかけてい
こうとする姿が見られるようになってきました。さらに、子どもたちが足を運び、
出向いていく活動の中から、多くの方を巻き込んで、ともに行動しようとする動き
も見られるようになってきました。子どもたちが心を通わせながら、自分の思いの
もとに、人の輪を広げていこうとする力の影響力の大きさに感嘆せずにはいられま
せん。
4年間の研究の区切りとして研究協議会を開催いたしましたが、まだまだ多くの
課題が残されています。皆様方の忌憚のないご指導やご助言を賜り、今後も研究を
進めてまいりたいと思いますので、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
副校長 石 原 克 己
− 208 −
研
究
同
人
【現教官】
平 田 賢 一(校 長)
石 原 克 己(副 校 長)
酒 井 敬(教 頭)
中 島 敬 康(教務主任)
k
夏 目 貴 司(研究主任)
田 康 司(校務主任)
国 語
三 浦 啓 作 中 島 敬 康 ○伊豫田 守 野 間 寛
社 会
夏 目 真 治 ○夏 目 貴 司 中 西 勉 数 学
久 野 哲 司 平 井 克 明 ○鈴 木 勝 久 理 科
○平 井 敦 大 林 伸 吉 中 村 賢 司 酒 井 敬 音 楽
田 中 佳代子 美 術
○丹 羽 圭 介 保健体育
○山 本 浩 司 相 羽 孝 彦 中野渡 善 樹 正 村 理代子
技術・家庭
k
英 語
鈴 木 和 利 ○市 川 徹 都 築 孝 明 田 康 司 原 田 悦 子 ○研究部員
【前任教官】
平成11年度転出
金 原 宏 河 合 厚 志 山 本 満 夫 高 須 博
後 藤 里惠子 下 山 和 子 平成12年度転出
目 黒 克 彦 吉 田 和 夫 井 上 正 英 中 谷 眞 人
河 原 淳 近 藤 嗣 郎 宮 崎 正 道 吉 野 嘉 郎
竹 内 里 佳
平成13年度転出
加 藤 宏 基 長 坂 洋 人 柵 木 智 幸 豊 田 聡 彦
文 化 創 造
−学びのネットワークを築く子ども−
2002年10月8日 発行
編集兼発行者 愛知教育大学附属岡崎中学校
〒444-0864
愛知県岡崎市明大寺栗林1
TEL
(0564)51-3637
FAX
(0564)54-4518
ホームページ http://www.oj.aichi-edu.ac.jp
E - m a i l [email protected]
印 刷 所 ブラザー印刷株式会社 TEL
(0564)51-0651
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