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太鼓台でアジア を結ぶ

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太鼓台でアジア を結ぶ
[太鼓台 アジア 結ぶ]
で
を
神戸芸術工科大学
アジアン・デザイン研究所
09/0730(ドラフト)
1────華麗な山車、
「見せる祭り」の中心をなす…
÷山車(だし)は、日本の祭礼で街中を巡行する、大型の屋台、曵き車。さまざ
まな飾り物で飾られている。中心に伸びたつ鉾先につけられた、竹籠(かご)を
「出し」と呼んだのが、その名の由来だといわれている。
÷神・霊の来臨を迎える神輿と並んで曵きまわされ、人びとが住む街中を活気づ
ける。大きな形と華やかな装飾で、「見せる祭り」の中心的な存在となる。
2────
「造り山」、神霊を招く依り代となる…
÷代表的な山車は、京都祇園祭の「山鉾」である。
「標山(しめのやま)」を模す飾り山として、平安中期の祭礼に登場した…といわれ
ている。祇園祭、および飾り山車は、その後、小京都と呼ばれる地方の都市へと
波及する。年に一度、(多くの場合)夏の盛り、旧盆の時期(京都では、御霊会と
呼ばれている)に多くの町衆の力で担ぎあげられ、あるいは車をつけて街中を曵
きまわされる。
「造り山」
「曳山」
「山笠」
「だんじり(檀尻・楽車)」
「太鼓台」
÷山車は、各地で「屋台」
…など、多彩な名で呼ばれている。
多くの場合、その名に「山」を戴き、その姿で、
天に向かってそびえたつ「山」の姿を模している。
「山」は、神・霊が宿るところ。
祭礼の場に「造り山」を造り、
神・霊を招く依り代とする。
「山車」という名には、
その意味がこめられている。
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[太鼓台でアジアを結ぶ]
……杉浦康平 08/0730
3────瀬戸内に林立する
「太鼓台」。鳴り響く「山」…
÷瀬戸内の海沿いの街、活気ある港町のあちこちに、「太鼓台」と呼ばれる飾り
山車が数多く現存する。華やぐ姿で担がれ・曵きまわされて、自然の恵みに感謝
し豊穣を祝う、秋祭りの主役となる。
÷太鼓台は、飾り山車であるばかりでなく、その駆体の中に一基の太鼓を隠し
こむ。一人、あるいは二人(数人)の叩き手を乗せて、ドン・ドン/ドロ・ドロ…と
いう轟音を絶え間なく叩きだし、響かせる。
太鼓台は「山」、鳴り響く「山」である。
4────フトンを乗せ、神・霊が降りたつ聖山を模す…
÷太鼓台の全体は、奇妙な形に造形される。ヤグラの上部には五〜七枚、ある
いは九枚の布団が乗せられ、上方に逆三角形にひろがる形。ときに天に向かって
反りかえる形となる。下方にも、四方にひろがる四枚の掛け布団が取りつけられ
る。そのために、山すそがせりあがり、なお、上方が天に向かってひろがる山頂
をもつ、巨大な山の姿が出現する。
÷布団の四隅には、トンボと呼ばれる飾り結びが結ばれる。雲を表わす飾り物
だという。ヤグラの胴には雲板が巡り、神・霊の所在を示す注連縄が飾られて、
太鼓台が雲上にそびえ立つ山であり、神・仏が降りたつ聖山を模すものであるこ
とを物語る。
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[太鼓台でアジアを結ぶ]
……杉浦康平 08/0730
5────太鼓台=
「須弥山」
「須弥壇」とのかかわりをもつ…
÷担ぎ棒に乗せられた太鼓台の姿は、仏教の仏の台座として造形された「須弥
壇」の形に酷似している。倶舎論が説く、仏教宇宙観の中心にそびえたつ宇宙山
「須弥山」。その構造を調べると、須弥山の全体が太鼓台の形によく似ていること
に驚かされる。太鼓台の研究は、アジアの宇宙観、とりわけ仏教宇宙の須弥山観
の研究と深く重なりあう。
6────山鉾=宇宙山の山頂に宇宙樹がそびえたつ…
÷京都の祇園祭で曵きだされる「山鉾」は、高々とそびえる屋台の中心を、一本
の心柱が貫いている。さらに、山形に伸び上がる屋台の上に常緑の松の真木を飾
りつける。つまり、「山」である山車が、その中心に、天にとどく一本の樹木を生
い茂らせていることになる。樹木は宇宙樹、生命樹である。
÷山鉾は、「宇宙山の上に宇宙樹がそびえたつ」形をしている。
7────山車は
「神籬」に似る…
÷「山」と「木」。「宇宙山」と「宇宙樹」が結びつく、神迎えの装置。この形は、神
道のご神体とされる「神籬(ひもろぎ)」に酷似している。
÷「案」と呼ばれる白木造りの台は、「山=岩磐(いわくら)」を造形化したもの。
その上に安置される榊は、「樹=神籬」である。山は、天に向かってせりあがる不
動の大地、生命を育み、死せるものを迎えいれる母なる大地をあらわしている。
天に向かって伸びたつ樹木は、燃えさかる大地の生命力の象徴。さらに宇宙の中
心を示し、天と地を一直線に結ぶ神迎えの装置である。
÷水平にひろがる大地と垂直軸を生みだす樹木。
山と木は、神・靈を招き、
神・靈の寄り代となる装置となる。
3
[太鼓台でアジアを結ぶ]
……杉浦康平 08/0730
8────神籬=グヌンガン─ストゥーパ。
アジア造形語法との結びつき…
「木」の結びつき、「神籬」に似た造形は、アジア各地で
÷山車が暗示する「山」と
生み出された「生命樹」や「宇宙樹」のイメージに酷似している。
たとえば、ペルシア→インドのカラムカリや、ペーズリー文様の主要モチーフと
なる「生命樹」。ジャワ島の影絵芝居の中心に据えられる「グヌンガン(山)」、ある
いは「クカヨン(樹木)」の造形。さらにインドで造形された、仏陀の遺骨を納める
「ストゥーパ(仏塔)」など。いずれもが「山」と「木」を主要モチーフとし、周囲に生
命あるもの(動物・植物)を配した、日本の山車と共通する造形である。
「樹(生命樹・宇宙樹)」
「渦」
÷「山車┼太鼓台の造形語法の研究」は、「山(宇宙山)」
などをはじめとする、「アジアの造形語法の研究」へとひろがってゆく。
9────山車の祭礼は、アジア各地にひろがる…
÷山車を曵きだす祭礼は、アジア各地に分布している。
皇帝・貴人を乗せる「輿」から発展したと思われる山車は、祭礼に降臨する神・靈を
迎える飾り車となり、死者を来世に送る葬儀車ともなった。
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[太鼓台でアジアを結ぶ]
……杉浦康平 08/0730
÷ネパールには、雨期の雨乞い行事、インドラジャトラ祭やラタ・マチェンドラ
祭の山車があり、バリ島には、華麗をきわめた葬儀車としてのバデ山車がある。
タイの釈迦の巡行を運ぶ水上山車も美しい造形で知られている。中国の祭礼で
も、数々の山車が造られていた記録がある。ジャワ、チベットの山車の図像も残
されている。
これらの山車の比較研究も興味深いテーマである。
10────山車の源流=インド、イラン…
÷しかし、なんといっても、山車の原形、発祥の地は、インドである。インド
では今なお、巨大な山車を曵きまわす祭礼が数多く伝えられ、各地に山車の造形
が残されている。プーリーのジャガンナート祭、○○○などは著名なもの。
山車は、神々が住むヒマラヤ山を模すという。
÷イランにも、葬儀のために巨大な山車があるという。アラムと呼ばれ、たと
えばペルセポリスの近くのハメダン市に現存している。生命樹を模すという、そ
の造形が意味するものも興味深い。火焔太鼓との比較など、今後の研究が楽しみ
である。
山車の造形研究は、アジアの各地の山車研究、とりわけインドやイランの山車研
究にも結びつく。
11────太鼓の造形とのかかわり…
÷太鼓台は、音を発する山車。太鼓の打音が主役となる。
日本の祭礼では山車の上で、あるいは、山車の周囲で囃子を奏でる…という形が
一般的だが、瀬戸内の太鼓台の場合には、多くのものが太鼓の叩き手を内に隠
す。山車┼太鼓、
「太鼓を胎生する山車」という形。山車全体が、音を発する装
置、地鳴りを響かせる山を象るものになっている。
÷アジアでは、太鼓は雨乞いの主要な呪具。天・地に轟く宇宙的な振動を産みだ
し、その打音で龍(黒雲・稲光)を招き、雨を降らせる。
靈力こもる太鼓は、アジアでは、さまざまな形で造形された。中国古来の銅鼓、
虎座鳥架鼓
(楚)
、中国・韓国の建鼓、日本の火焔太鼓…などは、多重な意味をこ
めた造形である。
÷山車─太鼓台─太鼓の造形。その比較研究も、重要なテーマとなる。
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[太鼓台でアジアを結ぶ]
……杉浦康平 08/0730
12────発生地と伝搬の経路…
÷太鼓台は、瀬戸内沿岸、九州北部に広く分布している。だが、発生地や伝搬
の経路については、不明の点が多い。
祇園祭の影響をうけ、瀬戸内交易の中心地であった大阪・堺市あたりで始められ、
西へ、西へと伝わったという説。大陸、あるいは南方文化の影響を受けやすい九
州に端を発するという説…などが唱えられているが、いまだ確定していない。
÷現在は、本州側では堺市の周辺をはじめとし、西に向かって姫路周辺(高砂)、
淡路島、さらに四国に渡って観音寺、豊浜、新居浜、西條など、数多く見いださ
れる。本州側では、明石、倉敷、広島、さらに小豆島などに分布している。
13────太鼓台、チョウサ。さまざまな呼び名…
÷太鼓台は、多彩な名で呼ばれている。
「太鼓台みこし」
(丹波)、「太鼓山」
(丹波、九州)、「屋台」
(播州)、「千歳楽」
(岡
山)、「かき檀尻」
(淡路)、「四つ太鼓」
(和歌山、愛媛南部)…など。「チョウサ」は
観音寺(香川)での呼び名だが、「丁歳」の二文字をあてて、「神役につきうる成人」
を指すのではないか、という説もある。
÷四国側の太鼓台は、堂々たる構えをみせて、そびえたつ。
長さ○○メートルにおよぶ、三本、あるいは四本の担ぎ棒に乗せられて、大きな
ものは、高さ○メートル。重さ○トン。四本柱のヤグラを組み、上方にフトンを
重ねたり、巻きつけたりして、逆三角形にふくらむ形をつくりだす。すそ廻りは
逆に、四方へとひろがっている。
[参考文献]
尾崎明彦/太鼓台のメッセージ──「ちょうさ」観音寺市の太鼓台一覧所収
成願寺 整/「太鼓台のふるさと」──
「新居浜太鼓台」所収 ほか
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[太鼓台でアジアを結ぶ]
……杉浦康平 08/0730
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