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学位論文題名 Spectr。sc。pic and Ph。t。physicaー Studies

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学位論文題名 Spectr。sc。pic and Ph。t。physicaー Studies
博 士 ( 理 学 ) 作 田 絵 里
学位論文題名
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(トリアリールホウ素化合物誘導体のスベクトル特性及ぴ
光物理化学特性に関する研究)
学位論文内容の要旨
ホ ウ 素 原 子 は 空 の p軌 道 を 有 す る こ と か ら 、 三 置 換 構 造 を と る 場 合 、
極 め て 特 異 な 電 子 状 態 を 取 る こ と が 古 く か ら 知 ら れ て い る (Figure1) 。
R
―
R
、``丶
近年 、こ の性 質を 利用 した 有機ホ ウ素 化合 物の 冗共 役系 の拡 張に 基づ い
R−
L 丶丶
た 有 機 ・ 無 機 工 レ ク 卜 口 ル ミ ネ セ ン ス (EL) 素 子 や 電 子 材 料 の 開 発 に 関 す
R
る研究が盛んに行われている。しかしながら、三置換体構造を有する有F
i
g,1
:ホウ素原子
機 ホ ウ素化 合物 は、 その 空軌道 のた めに 空気 中で極 めて 不安 定であ り、
その利用には巧みな分子設計を行なわなければならなしゝ。
一例として、ホウ素原子に嵩高い芳香環を有する化合物(トリアリールホウ素化合物1
は、
空気中、溶液中で安定であると共に、ホウ素上の空のp
軌道を反映した特異な吸収・螢光特
性を示すことが報告されている。しかしながら、一連のトリアリールホウ素化合物に関す
る吸収スベクトルおよび立体構造の研究はいくつか報告されているが、電子状態や機能性
に関する系統的な詳細な研究はほとんど行われていない。また、この様なホウ素原子の電
子状態の特徴を種々の分子系に応用することにより、新規な機能性材料の創出が期待され
るが、この様な研究は殆どされていないのが現状である。
そこで、本研究では、一連の卜リアリールホウ素化合物の光機能性に対するホウ素上の
空のp
軌道の役 割を明らかにすると共に、その特性を利用したアリールホウ素化合物を組
み込んだ、種々の有機・無機金属錯体の創出及び新規機能性を明らかにすることを目的と
した。
卜リアリールホウ素化合物の電子状態の基礎的な知見を得るため、置
換基としてアントラセン を組み込んだ、t
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ne
(
以下
′r
A
B
:C
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1)を合成し、各種溶媒中における吸収・螢光スペクトル測
定とともに螢光量子収率、螢光極大波長、螢光寿命に対する溶媒効果や
電場吸収・螢光スペク卜ル測定を行い、その励起状態における光化学特性
Chart l
TAB
を詳細に検討した。その 結果、T
A
B
の電子遷移に起因する双極子モーヌ
ント変化(△めは約8D
であることを示し、アリールホウ素化合物に見られる新規の吸収帯お
― 1475ー
よ び 螢 光は 、 ホ ウ 素の p軌 道とア ントラセ ンの兀 軌道間 の分子 内電荷 移動兀 (aryl)ーp(B)で
あ る こ とを 示 し た (Chapter2and3) 。
一 方 、 ベン ゼ ン か ら′ rABの 再 結晶を 行うと 、赤包 のトリ ゴ
ナ ル型 及 び オ レン ジ 色 の へキ サ ゴ ナ ル型 の 二 種 類の 結 晶 が同
一溶液 中で生 成し、 多形を 示すこ とを見出 した(Figu
re2)。結
晶 の X線 構 造 解 析 の 結 果 、 異な る 結 晶 格子 を と る 事を 明 ら か
に した 。 また、 結晶の 顕微吸 収・螢 光スベク トルの 測定か ら、
結 晶中 に おける ホウ素 ,アン トラセ ン平面の 角度の 違いを 反映
Fig.2′ rABの 結 晶 多 形
し 、溶 液 中およ び二種 類の結 晶のス ペクトル 挙動が 大きく 異な
下: UVラ イト 照射 下
ること を示し た(Chapter4)。
芳 香 環 と し て ア ント ラ セ ン だけ で は な く、 他 の 芳 香環 を 持 っ トリ ア リ ー ルホ ウ 素 化 合物
や 複数 の 架 橋 ホウ 素 を 有 する 化 合 物 につ い て も 吸収・ 螢光ス ベクト ル測定 や螢光 量子収 率、
螢 光 極 大 波長 、 螢 光 寿命 に 対 す る溶 媒 効 果 の測 定 を 行 った 。 そ の 結果 、 芳 香 環の 種 類 に 依
存 し て 励 起状 態 の 失 活モ ー ド が 変化 し 、 溶 媒極 性 に 対 する 螢 光 量 子収 率 、 螢 光寿 命 の 挙 動
が 変 化 す る事 を 示 し た。 ま た 、 ホウ 素 架 橋 を介 し て 分 子系 を 拡 張 する こ と に より 、 分 子 双
極子モ ーヌン 卜を制 御可能 である ことを明 らかに した(Chapter5)。
トリア リール ホウ素 化合物 の励起 状態は 兀(aryl)― p(B)分子 内CT状態であり、励起状態にお
い ては 、 電 子 はホ ウ 素 上 のp軌道 に ほ ぼ 局在 化 し ている と考え られる 。実際 に、TAB及 びその
誘 導体 の 時 間 分解 電 子 ス ピン 共 鳴 ス ペク ト ル 測 定を 極 低 温 下で 行 っ た とこ ろ、 TABは特異 な
ESR信号 を 示 し た。 こ の こと は、ト リアリ ールホ ウ素化合 物にお ける新 規な電 子スピ ンの挙 動
を示唆 するも のであ る。また、′I
ヽABの励起三重項状態を明らかにするため、低温りん光測定を
行った ところ 、′Iヽ ABの励起一重項状態と三重項状態のギャップは一般的な化合物に比ベ、極め
て小さ いこと を明ら かにし た(Chapter6)。
以 上 の 基 礎 的 な 知 見 を 基 に 、 遷 移 金 属 錯 体 の MLCT状 態 と 兀 ( aryl= 配
丶丶 〔てニO
位 子 ) − p( B) CT状 態 と の 相 互 作 用 に よ る 新 機 能 性 物 質 の 創 出 に 向 け 、 遷
移 金 属 錯 体 の 分 子 設 計 、 及 び 合 成 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 右 に 示 す 白 金 ( H)
錯 体 ( Chart2) に お い て 、 一 般 的 な 白 金 ( II) terpyridine錯 体 の 特 徴 に 反 し
` fr‘
Cl
て 、 室 温 に お い て 強 く 発 光 す る 錯 体 の 創 製 に 成 功 し た ( Chapter7) 。 更 に 、
合成し た化合 物群を 電界発 光素子 に応用し たとこ ろ、Chart2に示し たchart2:白 金(II)錯体
錯体は 良好な EL発光特 性を示 す事を 明らか にした (Chapter8)。
以 上 、 本 研 究 で はア リ ー ル ホウ 素 化 合 物誘 導 体 に 関し て 、 有 機化 合 物 か ら無 機 化 合 物に
渡 る 様 々 な化 合 物 を 対象 と し て 、分 光 学 的 及び 光 物 理 化学 特 性 の 基礎 的 検 討 を行 い 、 様 々
な 新 規 な 知見 を 得 た 。本 実 験 結 果は 、 ホ ウ 素化 合 物 に 基づ く 材 料 開発 に 基 礎 的に 大 き な 指
針 を 与 え る も の で あ り 、 今 後 、 こ の 分 野 の 一 層 の 発 展 が 期待 さ れる 。
- 1476ー
学位論 文審査の要旨
主査
教授
喜 多村
副査
教授
魚 崎浩平
副査
教授
加 藤昌子
副査
教授
太 田 信 廣 (大 学 院 環 境 科 学 院 )
副査
准教 授
伊藤
昇
肇
学位論文題名
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(トリアリールホウ素化合物誘導体のスベクトル特性及び
光物理化学特性に関する研究)
ホ ウ 素原 子 は 空 のp軌 道を 有 す る こと か ら 、 三置 換 構 造 をと る 場 合 、極 めて 特異な 電子状態 を
取る こ と が 知ら れ て い る。 近 年 、 この 性 質 を 利用 した有 機ホウ 素化合 物の冗共 役系の 拡張に 基づ
いた 有 機 ・ 無機 発 光 素 子や 電 子 材 料の 開 発 に 関す る研究 が盛ん に行わ れている 。しか しなが ら、
三置 換 体 構 造を 有 す る 有機 ホ ウ 素 化合 物 は 空 気中 で極め て不安 定であ り、その 利用に は巧み な分
子設 計 を 行 う必 要 が あ る。一 例とし て、ホ ウ素原 子に嵩 高い芳 香環を有 するト リア1」 ールホ ウ素
化合 物 は 、 空気 中 、 溶 液中 で 安 定 であ る と 共 に、 ホ ウ 素 上の 空 の p軌 道 を反映 した特 異な吸 収・
螢光 特 性 を 示す こ と が 報告 さ れ て いる 。 し か しな がら、 トリア リール ホウ素化 合物の 電子状 態に
関 す る系 統 的 な 詳細 な 研 究 はほ と ん ど 行わ れ て い ない 。 ま た 、ホ ウ 素 原 子の 電 子 状 態の 特 徴 を
種々 の 分 子 系に 応 用 す るこ と に よ り新 規 な 機 能性 材料の 創出が 期待さ れるが、 この様 な研究 は殆
どな さ れ て いな い 。 そ こで 、 本 研 究で は 、 一 連の トリア リール ホウ素 化合物の 光機能 性に対 する
ホ ウ 素 上 の 空 の p軌 道 の 役 割 を 明 ら か にす る と 共 に、 そ の 特 性を 利 用 し たア リ ー ル ホウ 素 型 の
種 々 の 有 機 ・ 無 機 金 属 錯 体 の 創 出 及 び 新 規 機能 性 を 明ら か に する こ と を 目的 と し た。
ま ず 、 誘導 体 の 電 子状 態 の 基 礎的 な 知 見 を得 る た め 、ア ン ト ラ セン を 組 み
込んだ tri-(9anthr
yl)bo
rane(
以下TAB
: Cha
rtl)を合成し、螢光量子収率、螢光
極大波 長、螢光 寿命に 対する 溶媒効 果や電 場吸収 ・螢光 スペク卜ル測定を行い、
そ の 励 起 状 態 に お け る 光 化 学特 性 を 詳 細に 検 討 し た。 そ の 結 果、 TABの 電 子
ChartlTAB
遷 移 に 起 因 す る 双 極 子 モ ー メ ン 卜 変 化 は 約 8Dで あ る こと を 示 し 、ア リ ー ル
ホ ウ 素化 合 物 に 見ら れ る 新 規の 吸 収 帯 およ び 螢 光 は、 ホ ウ 素 のp軌 道とアン トラセ ンの兀 軌道間
の 分 子 内 電 荷 移 動 兀 ( aryl)― p(B)で あ る こ と を 示 し た (Chapters2 and3) ゜
― 1477 -
一方、ベン ゼンからT
AB
の再結晶を行う と、赤色のトリゴ
ナル型及びオ レンジ色のへキサゴナル型の二種類の結晶が生
成し、多形を示すことを見出した(
F
i
gu
r
e1
)。結晶のX
線構造
解析の結果、異なる結晶格子をとる事を明らかにした。また、
結晶の顕微吸収・螢光スベクトルの測定から、結晶中における
ホウ素―アントラセン平面の角度の違いを反映し、溶液中およ
び二種類の結 晶のスペク卜ル挙動が大きく異なることを示し
Fig. lTABの 結 晶 多 形
下:UV
ライト照射下
た(
C
ha
p
te
r
4
)。
アントラセン以外の芳香環を持っトリアリールホ ウ素化合物や複数の架橋ホウ素を有する化
合物についても吸収・螢光スペクトル測定や螢光量子収率、螢光極大波長、螢光寿命に対する溶
媒効果の測定を行った。その結果、芳香環の種類に依存して励起状態の失活モードが変化し、溶
媒極性に対する螢光量子収率、螢光寿命の挙動が変化する事を示した。また、ホウ素架橋を介し
て分子系を拡張することにより、分子双極子モーヌ ン卜を制御可能であることを明らかにした
(
C
h
ap
t
er
5
)。
トリアリールホウ素化合物の励起状態は71
:
(
ar
y
l
)―p(
B
)
分子内C
T状態であり、励起状態におい
ては、電子はホウ素上のp軌道にほぼ局在化している。実際に、T
AB
及びその誘導体の時間分解
電子 スピ ン共 鳴ス ペク トル測定を極低温下で行ったところ、TA
Bは特異なE
SR信号を示した。
このことは、トリアリールホウ素化合物における新規な電子スピンの挙動を示唆するものである。
また、低温りん光測定を行ったところ、T
A
Bの励起一重項状態と三重項状態のギャップは一般的
な 化 合 物 に 比 べ 、 極 め て 小 さ い こ と を 明 ら か に し た (Chapter6) 。
以上の基礎的な知見を基に、遷移金属錯体のM
LC
T
状態と7t
(
a
r
y
l
=
配位子)
一p(
B)C
T状態との相互作用による新機能性物質の創出に向け、遷移金属錯
体の分子設計・合成を行った。その結果、右に示す白金(
I
I
)錯体(
C
h
a
r
t
2
)は
室温において強く発光することを明らかにした(
C
h
a
p
t
e
r
7
)。更に、固体状態
での発光挙動の特徴も明らかにした(C
h
a
pt
e
r8
)。
Chart2: 白金 cn)錯体
以上、本研究では種々の有機・無機アリールホウ素化合物を対象として、
分光学的及び光物理化学特性の基礎的検討を行い、様々な新規な知見を得ている。本実験結果は、
ホ ウ素 化合物 に基 づく 材料 開発に 基礎 的に 大きな 指針 を与 える ものである。
これ を要するに、著者は、トリアリールホウ 素誘導体やホウ素架橋型新規金属錯体の光物
性 の詳 細を解明した。その結果はホウ素関連化 合物に基づく新規な機能性材料創出へ向けた
有益な指針を示しており、その学問的価値は極めて大きい。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学博 士( 理学 )の 学位 を授 与さ れる 資格 ある もの と認 め る。
− 1478―
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