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コンクリート工学年次論文集 Vol.33

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コンクリート工学年次論文集 Vol.33
コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,2011
論文 再振動締固めの強度増進効果および実施方法に関する実験的研究
実*1・加藤
水田
淳司*2・寺澤
正人*3
要旨:本研究は,再振動締固めの強度増進効果の検証と効果を得るための実施方法に関して検討を行ったも
のである。先ず室内実験において,再振動締固めには強度増進効果があること,再振動実施時期はプロクタ
ー貫入抵抗値が 0.1N/mm2 以前の時期が望ましく,その実施時期の判断は N 式貫入試験法および積算温度を
用いて可否判定できることを明らかにした。次に実大部材寸法に近い壁状模擬供試体を用いて実験し,再振
動締固め時にコンクリートに発生する最大加速度振幅累計値と圧縮強度増進効果には関係があり,この関係
からバイブレータの最適挿入間隔を決定できる可能性があることを確認した。
キーワード:再振動締固め,強度増進,凝結,ブリーディング,N式貫入試験
1. はじめに
2. 既往研究の概要
施工欠陥のない高品質なコンクリート構造物を構築す
再振動に関する既往の研究事例は多くはないが,
「まだ
るためには,適切な締固めを行うことが重要である。型
固まらないコンクリートに対して適切な時期に再振動を
枠内に打ち込まれたコンクリートを空隙の少ない,緻密
実施した場合には,圧縮強度を改善する効果がある」と
なものとするためには,振動や突固めなどにより十分に
いう報告
締固めなければならない。一般に,コンクリートの締固
振動を行う時期は,ブリーディング終了時間を目安にす
めは,打設直後において振動を加えるものと,コンクリ
ることができる」とされ,一方,岩瀬の報告 6)では,
「コ
ートをいったん締固めた後に,適切な時期に再び振動を
ンクリートに指を差し込んでできた穴が壊れない程度に
加える再振動締固め(以後,再振動という)の 2 種類に
固まり,水が溜まってきた頃が再振動を行う効率の良い
大別することができる。
時期」としている。ただし,これら既往の研究における,
4),5)
がなされている。竹村らの報告 5)では,
「再
1)
「2007 年制定コンクリート標準示方書[施工編]」 には, 再振動の実施手段の多くは表面振動機
4)
や振動台
5)
を用
「再振動を適切な時期に行うと,コンクリートは再び流
いた外部振動によるものであり,実施工で一般に使用さ
動性を帯びてコンクリート中にできた空隙や余剰水が少
れる内部振動機(以後,バイブレータという)を用いて
なくなり,コンクリート強度および鉄筋との付着強度の
再振動の強度増進効果などを定量的に評価した研究事例
増加,沈下ひび割れの防止などに効果がある」ことが示
は見当たらない。
されている。しかし,再振動が実際の施工現場で適用さ
れた事例報告は少ない。その理由として,凝結し始めた
3. 室内実験
セメント硬化体の組織を破壊することに対する不安や再
3.1 再振動時の加振時間に関する実験(実験Ⅰ)
振動時の加振時間,再振動実施時期判断手法などの実施
(1) 実験目的・概要
法に関するデータが不足していることなどが,再振動が
実験Ⅰでは,再振動時の加振時間が圧縮強度に及ぼす
一般的に施工されない要因のひとつであると推察される。 影響の確認を目的として圧縮強度試験を実施した。
本研究では,再振動の強度増進効果の検証と最適な実
(2) 実験の要因と水準
施方法を確立することを目的として,以下に示す項目に
表-1 に実験の要因と水準を示す。
ついて実験・検討を行った。
(3) 使用材料およびコンクリートの調合
(1) 再振動時の加振時間と圧縮強度の関係の確認
ここでは,レディーミクストコンクリート呼び強度 30
(2) 再振動実施時期と圧縮強度の関係の確認および最
適な再振動実施時期の判断手法の検討
の調合を想定した。表-2 に使用材料を示す。表-3 にコ
ンクリートの調合を示す。
(3) 実大部材寸法に近い模擬体を利用した再振動の効
(4) 実験方法
果の確認とバイブレータの最適挿入間隔の検討
本論文は,既に報告している研究成果
2),3)
に新たな知
見と考察を追記・加筆し取りまとめたものである。
*1 飛島建設(株)技術研究所
*2 飛島建設(株)建築事業本部
*3 飛島建設(株)技術研究所
第三研究室
気温 20℃の環境下にて,φ150×300mm の型枠に十分
な量のコンクリートを 1 層で打設した後に締固めを実施
し,これを供試体とした。打設直後の締固めおよび再振
修士(工学)(正会員)
建築部
(正会員)
第三研究室
室長
(正会員)
-1373-
動には,直径 40mm,長さ 400mm の高周波バイブレータ
(200V
表-1 実験の要因と水準(実験Ⅰ)
振動周波数 200Hz)を使用し,まず打設直後の
よび実施時期で再振動を行った。供試体の養生はコンク
Ⅰ
リート上端面のみをポリエチレンフィルムで密封した上
再振動実施時期(分:加水から)
加振時間
(秒)
実験
締固めを 10 秒間行い,その後,表-1 に示す加振時間お
120
150
180
20
●
●
●
40
●
●
●
で,型枠を装着したまま供試体をポリエチレン袋に入れ,
これを材齢 7 日まで温度 20℃,R.H.80%に設定した恒温
表-2 コンクリート作製に使用した材料(実験Ⅰ)
恒湿室に静置する封かん養生によって行った。フレッシ
材料
記号
種類・仕様
ュコンクリートに対してはスランプ,空気量,コンクリ
セメント
C
普通ポルトランドセメント 密度3.15g/cm
ート温度の測定試験(以後,フレッシュ試験という)を
水
W
上水道水
実施し,硬化コンクリートに対しては材齢 7 日で圧縮強
細骨材
S
砕砂(鹿島産)表乾密度2.58g/cm3
度試験を実施した(試験体数:n=3)。なお,スランプ試
G-① 砕石5号(八王子産)表乾密度2.67g/cm3
粗骨材
G-② 砕石6号(八王子産)表乾密度2.68g/cm3
験は JIS A 1101,空気量試験は JIS A 1118,圧縮強度試験
Ad
混和剤
は JIS A 1108 に準拠して実施した。
3
AE減水剤 標準形
(5) 実験結果および考察
表-3 コンクリートの調合(実験Ⅰ)
ズと比べやや高めとなったが,コンクリートの材料分離
50
120
体の圧縮強度を実施しなかった供試体の圧縮強度(以後,
100
863
100 100
99
104
Ad
(C×%)
536
102
357
111
0.8
103
80
60
40
20
強度増進効果が確認された。これは,再振動の強度増進
28.1N/mm2
加振時間を 40 秒とする場合には基準強度に対し 11%の
350
30.4N/mm2
場合よりも圧縮強度が高く,実施時期を加水から 150 分,
175
混和剤
G-① G-②
27.8N/mm2
違いによらず,加振時間を 40 秒とする方が 20 秒とする
S
28.4N/mm2
基準強度という)で除した値である。再振動実施時期の
圧縮強度比(%)
に示す。ここに圧縮強度比とは,再振動を実施した供試
50
C
26.9N/mm2
Ⅰ
1 に再振動実施時期と圧縮強度比の関係を加振時間ごと
W
27.3N/mm2
気量は 4.7%,コンクリート温度は 22.0℃であった。図-
単位量(kg/m3)
W/C
s/a
(%) (%)
実験
27.3N/mm2
等がなく,良好な状態であったため,試験に供した。空
加振時間20秒
109
29.7N/mm2
コンクリートのスランプは 23.0cm であり,他のシリー
加振時間40秒
0
効果を得るためには,再振動の実施時期を適切な時期に
0
120
設定する必要があることを示唆している。
150
180
実験Ⅰ
再振動実施時期(分)
3.2 最適再振動実施時期に関する実験(実験Ⅱ)
図-1 再振動実施時期と圧縮強度比の関係
(1) 実験目的・概要
実験Ⅱでは,再振動実施時期の判断手法を詳細に検討
することを目的として,種々の試験を実施して再振動実
表-4 実験Ⅱの要因,水準,試験項目
実験
施時期と圧縮強度の関係について調べた。再振動実施時
期の判断は,竹村らの既往の研究
再振動実施時期(分:加水から)
60
90
・フレッシュ試験
・ブリーディング試験
・プロクター貫入抵抗試験
・圧縮強度試験
5)
を参考にブリーディ
Ⅱ-1
●
●
●
●
●
ング試験およびプロクター貫入抵抗試験により検討した。
また,現位置でコンクリートの凝結状況を簡易判定でき
7)
る N 式貫入試験法 および積算温度を用いた評価方法に
Ⅱ-2 ●
●
試験項目
120 150 180 210 240
●
・フレッシュ試験
● ・N式貫入試験
・圧縮強度試験
より,再振動実施時期を判断することが可能かどうかに
ついても検討を行った。
表-5 コンクリートの製造に使用した材料(実験Ⅱ)
(2) 実験の要因,水準,試験項目
材料
実験Ⅱでは,試験項目によって 2 つのシリーズに分け
て,表-4 に示す要因,水準および試験項目で実験を実
施した。なお,実験Ⅰで得られた結果より,再振動時の
実験Ⅱ-1 では,呼び強度 21,実験Ⅱ-2 では,呼び
種類・仕様
C
普通ポルトランドセメント 密度3.16g/cm
水
W
地下水・上澄水
S-①
砕砂(佐野産)表乾密度2.63g/cm3
S-②
陸砂(成田産)表乾密度2.62g/cm3
粗骨材
G
砕石(佐野産)表乾密度2.70g/cm
混和剤
Ad
細骨材
加振時間は 40 秒に固定することにした。
(3) 使用材料およびコンクリートの調合
記号
セメント
-1374-
AE減水剤 標準形
3
3
強度 27 のいずれも目標スランプ 18±2.5cm,目標空気量
表-6 コンクリートの調合(実験Ⅱ)
4.5±1.5%のレディーミクストコンクリートを実験に供
Ⅱ-1
63.5
47.6
173
272
522
347
Ⅱ-2
53.5
46.8
181
338
492
327
959
実験環境気温,供試体の作製方法,締固め方法および
にブリーディング試験は JIS A 1123,プロクター貫入抵
1
106
106
102
80
60
40
抗試験は JIS A 1147 に準拠して実施した。
20
実験Ⅱ-2 の試験項目は,フレッシュ試験,N 式貫入
0
試験および材齢 28 日での圧縮強度試験(試験体数:n=3)
0
120
150
再振動実施時期(分)
とした。N 式貫入試験はφ450mm,深さ 350mm のポリ
図-2 再振動実施時期と圧縮強度比の関係
き棒(φ15mm,長さ 50cm)を鉛直方向に 75cm 自由落
下させ,コンクリートへの突き棒貫入量を測定した。
(5) 実験結果および考察
実験Ⅱ-1 のコンクリートのスランプは 19.0cm,空気
量は 3.8%,コンクリート温度は 15.0℃であった。実験Ⅱ
0.3
0.30
ブリーディング量
0.25
0.2
0.20
気温20℃環境下
0.15
0.15
0.1
0.10
0.05
0
60 120 180 240 300 360 420 480
加水からの経過時間 (分)
350
度の強度増進効果が確認できた。これより,再振動の実
の研究がないため,限界点がコールドジョイントの発生
125
N式貫入量
300
N式貫入量(mm)
しかし,その時期の限界点を定量的かつ明確に示す既往
実験Ⅱ-1
図-3 ブリーディングとプロクター貫入抵抗値試験結果
期 120 分,150 分(加水から)で基準強度に比較して 6%程
トに振動を与えることが可能な時期であると考えられた。
0.00
340
温度 16.0℃であった。図-2 に実験Ⅱ-1 で得られた再振
施時期は,バイブレーターの挿入が容易で,コンクリー
0.05
y = 0.0005e0.0155x
R² = 0.9317
0
-2 では,スランプ 16.5cm,空気量 3.0%,コンクリート
動実施時期と圧縮強度比の関係を示すが,再振動実施時
0.25
プロクター貫入抵抗値
250
105
100
50
0
100
再振動なし
(基準強度)
y = 333.72e-0.005x
R² = 0.7933
95
90
0
60
2
プロクター貫入抵抗値 0.1N/mm が再振動可能限界点を
定量的に判断する目安値になると本研究では考えた。図
110
8%増加
150
をも振動させ上下層を一体にできる限界点)とすれば,
に示されるコールドジョイントの発生限界である
115
200
限界(=コンクリートを打ち重ねて,下層コンクリート
7)
120
圧縮強度
圧縮強度比(%)
に立て,これをサヤ管としてスランプ試験に使用する突
ブリーディング量 (cm3/cm2)
7)
文献 に準拠して,内径 25mm,長さ 1m の塩ビ管を鉛直
180
実験Ⅱ-1
プロクター貫入抵抗値(N/mm2)
バケツ内に打設したコンクリート打ち上がり面に対し,
文献
G
19.7N/mm2
28 日での圧縮強度試験(試験体数:n=3)とした。ここ
100
100
圧縮強度比(%)
リーディング試験,プロクター貫入抵抗試験および材齢
S-① S-②
120
養生方法は, 3.1 節(4)項に既述した実験Ⅰの内容と同じ
とした。実験Ⅱ-1 の試験項目は,フレッシュ試験,ブ
C
20.5N/mm2
(4) 実験方法
混和剤
Ad
(C×%)
986
1
W
20.5N/mm2
示す。
単位量(kg/m3)
19.3N/mm2
した。表-5 に使用材料,表-6 にコンクリートの調合を
W/C
s/a
(%) (%)
実験
図-4
120 180 240 300
加水からの経過時間(分)
360
実験Ⅱ-2
N 式貫入量と圧縮強度比の関係
-3 にプロクター貫入抵抗値試験結果を示すが,圧縮強
度試験で再振動の強度増進効果が確認された再振動実施
図-4 に実験Ⅱ-2 で得られた N 式貫入試験の試験値
時期 120 分,150 分(加水から)はプロクター貫入抵抗値が
である突き棒貫入量(以後,N 式貫入量という)と圧縮
0.1N/mm2 に達する以前にあることがわかる。また,図-
強度比の関係について示す。N 式貫入量が 100mm の時
3 にはブリーディング試験結果を併記しているが,プロ
点(加水から 210 分)で再振動を実施した場合において,
2
クター貫入抵抗値が 0.1N/mm に到達する時点でもブリ
基準強度と比べて最も高い 8%の強度増進効果があるこ
ーディングは未完了であった。これより,再振動実施時
とが確認できた。図-5 には,これまでに著者らが別途
期を定量的に判断するには,竹村
5)
や岩瀬
6)
らが判断指
試験した種々の事例のプロクター貫入抵抗値と N 式貫入
標としているブリーディングとは別の指標によって評価
量の関係を示すが,本図によればプロクター貫入抵抗値
することが良いと思われた。
0.1N/mm2 に対応する N 式貫入量の上限値は概ね 100mm
-1375-
であることが分かる。この事と実験Ⅱ-2 において N 式
最も圧縮強度が増進していることからも,
「プロクター貫
入抵抗値 0.1N/mm2 が再振動実施限界点を定量的に判断
する目安値である」とする前述の考え方は適切であると
いえる。凝結状態を示す N 式貫入量を指標とする再振動
N式貫入量(mm)
貫入量が 100mm となる時点で再振動を実施した場合に
実施時期の判断手法は,定量値を指標として可否判定で
きることから,有効なものといえるが,図-5 が示すよ
W/C=36.5%(中庸熱セメント)
W/C=43.0%(普通セメント)
W/C=47.0%(普通セメント)
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
うに同一のプロクター貫入抵抗値に対する N 式貫入量値
0.001
0.01
0.1
1
10
プロクター貫入抵抗値(N/mm2)
には幅がある点を考慮すると,N 式貫入量値は一定の誤
差を持っていると考えられる。よって,再振動の最適実
参考値
図-5 プロクター貫入抵抗値と N 式貫入量の関係
300
験をするのが望ましいと考えられる。
250
N式貫入量(mm)
施時期の判定指標を決定するには,本施工の前に確認実
一方,再振動を実施工で確実に行うためには,最適再
振動実施時期や再振動可能限界点の予測が必要となる。
前述のとおり再振動の効果には,コンクリートの凝結状
態が影響するものであるが,凝結は打設環境条件などに
よって異なる。ここでは打設環境条件のうち気温に着目
200
150
100
y = -2.1428x + 285.83
R² = 0.7397
50
0
して,(1)式によって積算温度を算定し,積算温度 M と
10.0
100.0
積算温度(℃・hr)
N式貫入量の関係について整理した。
積算温度 M=Σ[(T+10)・Δt]
W/C=41.0%(普通セメント)
W/C=45.4%(普通セメント)
W/C=50.0%(高炉セメントB種)
1000.0
実験Ⅱ-2
図-6 積算温度とN式貫入量の関係
(1)
ここに,T:気温 (℃),Δt:気温 T である時間
図-6 に積算温度と N 式貫入量の関係を示す。材齢が
表-7 コンクリートの調合(実験Ⅲ)
若くコンクリートの凝結が進行していない領域において
は,N 式貫入量が大きくなり測定貫入量が大きくばらつ
実験
く傾向が見られるが,材齢が経過し N 式貫入量が小さく
W/C
s/a
(%) (%)
49.1
Ⅲ
なるほど貫入量が安定する傾向が認められた。また,両
45.6
単位量(kg/m3)
W
C
184
375
者の相関性は比較的高いことから,積算温度を用いて,
469
311
G
Ad
(C×%)
959
1
[単位:mm]
1495
162.5
220
175
167.5
130
230
190
220
40
加速度計
70
ができると考えられる。例えば,最適再振動実施時期が
360
は,本実験の場合では 86.7(℃・hr)と推定することが
260
100 130
N 式貫入量 100mm の時点であるとする場合の積算温度
130
できる。
1000
再振動の効果の確認,バイブレータ最適挿入間隔
175
225
150
150
225
225
コンクリートコア採取位置
650
の決定手法(実験Ⅲ)
バ
イ
ブ
レ
ー
タ
挿
入
深
さ
コンクリートコア
アルミ平棒
640
壁状模擬供試体実験
4.1
S-① S-②
加速度計設置位置
最適再振動実施時期や再振動可能限界点を予測すること
4.
混和剤
300
再振動1回目
450
再振動2回目
再振動3回目
再振動実施位置
(1) 実験目的・概要
実験Ⅲでは,室内実験で得られた知見を基に,実大部
図-7 壁状模擬供試体側面形状,再振動実施位置,加速
材レベルの模擬供試体にて,再振動の強度増進効果の確
度計測位置,コア供試体採取位置
認と再振動実施時の最適バイブレータ挿入間隔決定方法
の検討を目的に,再振動時にコンクリートに生じる振動
加速度計測や強度試験等を実施した。
実大部材を模擬して高さ 1000mm,長さ 1495mm,厚
さ 210mm の壁状に打設したコンクリートに対し,再振
(2) 使用材料およびコンクリートの調合
動を実施して供試体(以後,壁状模擬供試体という)と
使用材料は,表-5 に示す実験Ⅱで使用したものと同
し,再振動時にコンクリートに発生する振動加速度計測
様である。表-7 にコンクリートの調合を示す。
(3) 実験方法
値と硬化後に採取したコア供試体の圧縮強度試験値をも
とに再振動の強度増進効果の検証と再振動実施時の最適
-1376-
バイブレータ挿入間隔の決定方法を検討した。図-7 に
MIN:-2538.2
NUM:NUM:20000
20000 Δ T:0.0001ΔT:0.0001
MAX: 2792.02 ( MAX:2792.02
.7081 sec)
MIN:
-2538.2 ( 1.9451 sec)
壁状模擬供試体形状,再振動実施位置,加速度計測位置
後の締固めは,直径 40mm,長さ 400mm の高周波バイブ
振動周波数 200Hz)を用いて壁軸線上に
て 600mm の挿入間隔で 10 秒間実施した。再振動は,壁
状模擬供試体コンクリートに対する N 式貫入量が
加速度(gal)
加速度(gal)
およびコア供試体採取位置を示す。コンクリート打設直
レータ(200V
実験Ⅲ
30003000.0
00
-3000.0
-3000
0.0
0.0
0.4
0.8
0.4
1.2
0.8
1.6
1.2
2.0
2.0
(sec)
(sec)
1.6
100mm になった時点(加水から 260 分)で,同様の高周
波バイブレータを用いて,壁軸線上の図-7 に示す位置
図-8 再振動時のコンクリート振動加速度時刻歴波形例
で 3 か所,1 箇所当たり 40 秒間の加振時間で連続的に実
(0.0~2.0 秒の区間表示)
施した。なお,ブリーディング等を起因とする脆弱部は
平滑化
一般に構造体の上部で発生するため,再振動の対象は壁
1000.0
上部とし,バイブレータのコンクリートへの挿入深さは
1000.0
振動棒先端で 360mm となるようにした。再振動実施時
100.0
330mm)を壁軸線上の図-7 に示す位置にてコンクリー
トに挿入して,コンクリートに発生する振動加速度(壁
長手軸直角方向)を測定した。加速度の測定はすべての
再振動実施時を対象とし,再振動開始から 10 秒間,サン
10.010.0
三次振動
1.01.0
0.10.1
00.10.01
10.0
10.0
プリング間隔 1/10000 秒で実施した。再振動の強度増進
効果の確認は,材齢 28 日において壁状模擬供試体から採
実施して得られた基準強度とを比較することで実施した。
また,再振動実施時の最適バイブレータ挿入間隔の決定
方法は,振動加速度と圧縮強度の関係から検討した。
コア圧縮強度(N/mm2)
100×200mm,試験体数:n=3)に対して圧縮強度試験を
100.0
1000.0
100.0
1000.0
図-9 加速度スペクトルの例
取したコア供試体に対する圧縮強度と再振動をせずに作
製し,壁状模擬供試体の近傍にて養生した円柱供試体(φ
一次振動:波形に対する影響度が最も高い
二次振動
フ-リエ振幅[gal]
置固定したアルミ平棒(厚さ 2.9mm,幅 30mm,長さ
実験Ⅲ
100.0
フーリエ振幅[gal]
に,頭部に加速度計(許容加速度 10G または 20G)を設
フーリエスペクトル
平滑化 フ-リエスペクトル / 再振動壁 1回目4ch (4.0~6.0sec)
MAX:59.6031
MAX
: 59.6031
(4) 実験結果および考察
コンクリートのスランプは 18.5cm,空気量は 3.8%,
48
46
44
42
40
38
36
34
32
30
深さ100mm位置
深さ230mm位置
2回目
再振動
周波数[Hz]
3回目
再振動
基準強度
再振動の影響が
弱い領域
再振動の影響が
強い領域
150 300 450 600 750 900 1050 1200 1350 1500
コア供試体採取位置(mm)
時に計測されたコンクリート振動加速度時刻歴波形の一
例を示し,図-9 には時刻歴波形を高速フーリエ変換し,
5000.0
深さ360mm位置
0
コンクリート温度は 9.7℃であった。図-8 に再振動実施
1回目
再振動
5000.0
周波数[Hz]
図-10
実験Ⅲ
壁状模擬供試体のコア圧縮強度分布図
8)
バンド幅 1Hz として Parzen ウィンドウ にて平滑化した
加速度スペクトルの一例を示す。なお,加速度スペクト
度分布図を示す。再振動を実施した場合,バイブレータ
ルは,振動の初期段階とそれ以降では振動特性が変化す
の中央部(深さ 230mm 位置)から先端部(深さ 360mm
る可能性が考えられたため,便宜的に 2.0 秒区間ごとに
位置)において,基準強度 36 N/ mm2 よりも圧縮強度が
区切って求めた。その結果,いずれの再振動実施箇所,
最大で 20%程度大きくなり,特にバイブレータ挿入箇所
振動加速度計測位置および再振動実施中のいずれの時間
近傍での強度増進効果は顕著であることが確認された。
においても,振動周波数に大きな違いはないことが確認
これに対して,バイブレータの上方部(深さ 100mm 位
され,再振動 1 回目の 1 次振動数(波形に対する影響度
置)では再振動による強度増進効果が認められない箇所
が最も高い振動数)は 176~179Hz,再振動 2 回目の 1
が確認された。再振動を実施した後に,コンクリート上
次振動数は 176~177Hz,再振動 3 回目の 1 次振動数は
面にバイブレータの抜去り跡が残存することがあるが,
176~180Hz となった。これらの 1 次振動数はほぼ同等で
これが起因となって強度増進を阻害している可能性が考
あったことから,いずれにおいても同様の振動特性にて
えられる。これより,再振動の強度増進効果を深さ方向
コンクリートを加振したと判断された。
で一様に得るためには, バイブレータを上下動させる,
図-10 に壁状模擬供試体コンクリートのコア圧縮強
コンクリートの上面にバイブレータの抜去り跡を残存さ
-1377-
せないなどの工夫が必要であると判断された。
4000
図-11 には再振動実施時にコンクリートに発生した
は,コア供試体採取位置において計測された最大加速度
振幅の分布から線形補間して求めた値である)。最大加速
度振幅は,前述したコア強度分布の傾向と同様に,概ね
バイブレータ挿入箇所をピークとして最大となる傾向が
1回目再振動時
3500
最大加速度振幅(gal)
最大加速度振幅分布図を示す(図中に示したプロット点
2回目再振動時
3000
3回目再振動時
1回目
再振動
3回目
再振動
2回目
再振動
2500
2000
1500
1000
500
みられた。このことから,ここでは,再振動によって発
0
生するコア供試体採取位置での最大加速度振幅の累計値
0
150 300 450 600 750 900 1050 1200 1350 1500
コア供試体採取位置(mm)
実験Ⅲ
とコア圧縮強度の関係について整理した。最大加速度振
幅累計値とコア圧縮強度の関係を図-12 に示す。最大加
図-11
速度振幅累計値とコア圧縮強度の関係には相関性がある
コア圧縮強度(N/mm2)
こと,最大加速度振幅累計値が 3000gal を超えた時点か
ら圧縮強度が増大する傾向があること,また最大加速度
振幅累計値が 5000gal 程度以上となると,1000gal 程度に
比較して圧縮強度が約 10%程度高くなることが確認で
きた。今後,さらに最大加速度振幅累計値と圧縮強度増
進量の関係を示すデータを蓄積することにより,所要の
46
45
44
43
42
41
40
39
38
圧縮強度増進量に対する最大加速度振幅累計値の指標を
コンクリートの最大加速度振幅分布図
深さ360mm位置
3回目
再振動
深さ230mm位置
平均値
2回目
再振動
1回目
再振動
10%増加
y = 8E-11x3 - 4E-07x2 + 0.0006x + 39.52
R² = 0.6299
1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 5500
最大加速度振幅累計値(gal)
実験Ⅲ
求めることが可能になれば,再振動実施時の最適バイブ
レータの挿入間隔は,図-13 に示すように,着目する点
図中に示したプロット点は、コア供試体採取位置にお
いて計測された最大加速度振幅の分布から線形補
間して求めた値である
図-12
最大加速度振幅累計値とコア圧縮強度の関係
の強度増進量が所要値を満足する最大加速度振幅累計値
(a+b+c)になるようにバイブレータ位置を設定するこ
バイブレータ挿入間隔×
バイブレーター挿入間隔 ×
バイブレータ挿入間隔○
バイブレーター挿入間隔
○
とで決定できる可能性があると考えられる。
5. 結論
再振動の強度増進効果と実施方法に関して実験を通じ
最
大
加
速
度
振
幅
て検討した。以下に本研究で得られた主な知見を示す。
b
c
(1) 再振動には強度増進効果があり,5~20%程度の圧縮
強度増進が期待できる。
a
図-13
最
大
加
速
度
振
幅
最大加速度振幅累計値
躯体各所での最大加速度振
<基準値
幅累計値(a+b+c)<指標値
a
b
c
躯体各所での最大加速度振
最大加速度振幅累計値
≧基準値以下
幅累計値(a+b+c)≧指標値
バイブレータの最適挿入間隔の決定法イメージ
(2) 加振時間を 40 秒として再振動を実施すると,圧縮強
度の増進効果が高くなる。
(3) 再振動実施時期はプロクター貫入抵抗値が 0.1N/mm2
以前の時期が望ましく,その実施時期の判断は N 式
3)
貫入試験法および積算温度を用いて実施できる。
(4) 再振動実施時にコンクリートに発生する最大加速度
振幅累計値を指標として,バイブレータの最適挿入間
隔を決定できる可能性がある。
4)
今後は,再振動の強度増進メカニズムの解明などを実
施し,より効果的な再振動実施方法の確立をするととも
に,最適な加振時間とコンクリートの材料分離への影響
5)
などについて研究を継続する必要があると考えている。
6)
参考文献
1) 土木学会:2007 年制定コンクリート標準示方書[施工
編], pp.121-122, 2007.
2) 加藤淳司, 水田実:コンクリートの再振動締固めの
7)
8)
-1378-
実施工適用性に関する研究(その 1)適用範囲, 施
工法, 実施時期判断基準, 得られる効果についての
室内実験結果, 日本建築学会学術講演梗概集(北陸),
pp.673-674, 2010.9
水田実, 加藤淳司:コンクリートの再振動締固めの
実施工適用性に関する研究(その 2)壁状模擬試験
体による再振動締固め効果等の確認実験結果, 日本
建築学会学術講演梗概集(北陸), pp.675-676, 2010.9
三島直生, 畑中重光, 小林広実, 犬飼利嗣:透水性型
枠を使用したコンクリートの性能改善, コンクリー
ト工学年次論文集, Vol.26, No.1, pp.363-368, 2004
竹村和夫, 阿部康俱:再振動締固めによる強度の増
進効果について, セメント技術年報, Vol.39,
pp.249-252, 1985
岩瀬文夫:ひび割れのないコンクリートのつくり方
第 6 回「確実な充てんと締め固め」, 日経アーキテ
クチュア, No.735, pp.90-93, 2003.1
土木学会:コンクリートライブラリー103 コンクリ
ート構造物のコールドジョイント問題と対策, 2000
大崎順彦:新・地震動のスペクトル解析入門, 2004.6
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