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報告書2 - NMIJ

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報告書2 - NMIJ
計量
業界
動向
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(一社)日本計量振興協会発行の「計量ジャーナル」
Vol. 33, No. 2, pp. 17-19 (2013年7月)より転載
垣間見た欧州の法定計量制度(前編)
イギリスの印象
独立行政法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 国際計量室
松本 毅
写真1 ロンドンのタワーブリッジにて
1 はじ め に
「計測標準と計量管理」(Vol.63, No.1)で既にご紹
介しましたように、2013年2月に国際法定計量調査
研究委員会の調査のためにイギリスとフランスを訪
問する機会がありました。ここでは公式な報告記事
ではお伝えできなかった二つの大国の個人的な印象
を、二回にわたって紹介させて頂きます。
オーストラリア、インドなど)と連携関係を保って
います。また島国であるが故に大陸と異なる文化を
持っており、この点では我が国とも似ています。王
室と伝統を大切にする文化があり、そのため日本の
皇室とも長い友好関係があると聞いています。
実は初めて訪れたロンドンでしたが、その風景は
伝統的な建造物、二階建バス、背の高いレトロ調タ
クシーなど以前から見聞きしていた通りでした(写
真1と2)。一見すると市街地の印象は古いのですが
2 イギ リス と ロ ンド ン の 印 象
イギリスという名称は、我が国で用いられている
通称に過ぎません。この国は実際にはイングランド、
スコットランド、ウェールズ、北アイルランドとい
う4つの小国で構成された複合国家で、それぞれが
固有の制度と文化をもっています。この国のルーツ
は紀元前まで遡り、英国王室の直接の起源となるウ
ィリアム1世の即位からでも1000年近い長い歴史が
あります。19世紀には大英帝国として植民地を拡大
し、衰えたとはいえ今でも多くの英連邦(カナダ、
写真2 ロンドンの二階建てバスとタクシー
計量ジャーナル Vol.33-2
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統一された美しさがあり、古いものを大切に使って
いるという印象があります。地下鉄や電車のネット
4 イギ リス の 計 量 制 度
ワークが発達しており、慣れれば市内の移動に違和
感はありません。ただ我々が到着した際には昼間に
この国の計量制度の特徴を一言でいえば、それを
も関わらず空港と市内を連絡する電車がメンテナン
構成する小国家や地域における制度や習慣の多様性
スのため止まっており、東京の常識は先進国であっ
と、それに適応するための緩やかで柔軟性のある計
ても通用しないと思いました。タクシーは乗用車と
量管理体制です。最も特徴的であるのは、後続検定
は違う専用設計となっており、内部は対面シートを
などの使用中の定期的な計量管理が計量器の種類を
用いた小さな乗り合いバスという感じで、4人の乗
問わず義務づけられていない点です。
客と荷物を余裕で収容できる優れものでした。
その代わりにこの国では計量器の用途、生産台数、
不適合が国民に与える不利益の程度を考慮した危険
3 欧 州 の 新 し い 計 量 規 制( M I D ) の 概 要
度に基づくケース・バイ・ケースの管理を行ってい
ます。例えば水道メーターでは、水道の供給事業者
本題である欧州の計量制度に入る前に、必須のキ
がサンプリング検査を行いながら、交換費用と計量
ーワードであるMID(欧州計量器指令)に簡単に触
値の低下による損失のバランスを考慮しながら交換
れておきます。ヨーロッパは戦後、EU(欧州連合)
時期を決定しています。一般に水道メーターが劣化
を中心に国家間の連携を強め、一つの欧州の実現を
すれば見かけの計量値は少なくなる場合が多いの
目指してきました。その過程の一つとして、計量器
で、消費者の不利益には繋がらないそうです。つま
の自由貿易の実現を目的として2006年に発効したの
り市場原理で自主的に管理される領域まで法規制を
がMIDです。これは計量器に関するEU指令で、法
かけるべきではなく、その効果を勘案して最低限の
律のような拘束力はありませんが、各国が法規制を
規制を実施すべきだという理念があります。もちろ
行う際にまず参照すべき基本的な考え方を示してい
ん政府には正しい計量制度の実施を監視する義務が
ます。
あるので、不定期の立ち入り検査や市場調査、そし
MIDの主な目的は自由貿易の実現であるため、そ
て修理された計量器に対する検定は地方計量機関や
の内容は生産された計量器が販売されて使用される
通知機関が実施しているそうです。一方で初期検定
までの規制に重点を置いています。より具体的には、
は、他の欧州諸国と同様にMIDに基づいて製造事業
計量器の基本設計に関する審査である型式承認制度
者または通知機関が実施しています。
と、新品の個別性能の確認である初期検定制度が中
今回は現地の食品製造工場を訪問し、包装商品の
心となっています。MIDは様々な計量器の種類や生
計量工程を見学する機会もありました(写真3)。欧
産の状態に応じて、型式承認や初期検定で用いるこ
州では販売店やスーパーマーケットの力が強く、包
とのできる様々な適合性評価の手法(モジュール)
装商品の内容量不足については全て製造元が責任を
を用意しており、EU加盟国はその中から適したも
負うそうです。従って食品メーカーは自らの信用を
のを選択します。またMIDのもとで型式承認や初期
維持し販売店に商品を売ってもらうために、自主的
検定のために適合性評価を行う民間を含む試験機関
を、EUでは通知機関(Notified Body)と呼んでい
ます。所定の分野について認定と指定を受けた通知
機関の名前は公開され、欧州の国境を越えて活動す
ることができます。今回訪問したNMO(英国)や
LNE(フランス)も欧州を代表する通知機関です。
一方で使用中の計量器の管理制度については、イギ
リスも含めて依然として各国の制度に委ねられてお
り、その実態は様々のようです。
写真3 ロンドンの食品製造工場(コーラック社)にて
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計量業界動向
計量業界動向
に製造ラインの自動はかりの定期的な計量管理を行
trends
能力を継続的に監視しているそうです。
っています。これも市場原理に基づく自主管理の一
例です。
5 NMOの紹介
6 N M O の人々
メイソンさんとディクソンさんは2012年に来日
し、筆者もその際に行動を共にする機会がありまし
今回訪問したNMO(英国計量局)は、政府機関
た。メイソンさんはOIML代表でもあるため、初め
であるビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS)
は近づきがたい印象もありました。しかし個人的に
の傘下にあり、計量管理や規制を具体的に行う実施
お話しする機会を通して、気さくでユーモアにあふ
機関という役割を担っています。なおNMOは2009
れた側面も垣間見ることができました。ご自分でも
年まではNWMLと呼ばれていました。NMOはロン
「私にはNMOとNPLの総責任者、OIMLに対する英
ドンから西に電車で1時間弱の距離にあるテディン
国代表、そしてOIML全体の代表という3つの対外
トンという町にあります(写真4)
。英国の国家計量
的な顔がある。それを場面により使い分けなくては
標準を維持し、今はNMOの傘下にあるNPL(国立
ならない。」と気苦労の内を語っておられました。
物理学研究所)も同じ敷地にあります。
我々が訪問先のNMOから帰る際には、遅い時間に
も関わらず、途中の駅まで我々に同行して見送って
頂きました。個人的にはバイクがお好きで、奥様も
含めて2台持っておられるそうです。
ディクソンさんは技術にも明るい型式承認の専門
家で、OIMLの技術要求事項への対応について具体
的な情報を提供していただきました。彼の言葉によ
ると、「我々は欧州本土のMIDに基づく一貫した計
量管理体制とは意図的に距離を置いており」、また
「EMC(電磁両立性)試験の厳格化には反対」だそ
うです。グールディングさんは年配の方ですが、昔
写真4 NMO入り口の看板。今も古いNWMLのロゴが残っている。
からイギリスを訪問した我が国の計量関係者らがお
世話になってきたと聞いています。その事前情報の
NMOではOIML(国際法定計量機関)を代表する
通り、面倒見の良い優しい英国紳士でした。最後に
CIML委員長でもあるNMO局長のメイソンさん、型
イギリスとフランスとの関係は、長い歴史にわたっ
式承認業務を担当するディクソンさん、国際部のグ
て微妙な関係にあるらしく、一言で言えば「1000年
ールディングさん、法定計量管理制度を担当するエ
以上も続く良きライバル関係」だそうです。そのフ
ドワードさんとムンテアーヌさんの歓迎を受けまし
ランスについては、次回をお楽しみに。
た。NMOはOIML及びEUの型式証明書を発行する
通知機関として指定を受けており、そのための試験
業務が重要な役割の一つです。中でも自動はかりに
ついては個別の構造や設計が大きく異なるので、試
験方法に関する事前の製造事業者との綿密な相談が
欠かせないそうです。また我が国と異なり、欧州で
は型式承認過程においてMTL(製造事業者の試験
所)が積極的に利用されています。ただMTLの利
用については、その試験結果を無条件に信じるので
はなく、日頃から製造事業者との連携を保ち、その
計量ジャーナル Vol.33-2
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