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『全体主義の起原』第3巻、121

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『全体主義の起原』第3巻、121
丸山眞男を読む会
ハナ・アーレント『全体主義の起原 3 全体主義』
第二章「全体主義運動」 2.全体主義組織(後半、121‐140 頁)
2004 年 7 月 17 日
織田健志
・ 全体主義運動=「公然と白日のもとに設立された秘密結社」。全体主義運動は秘密結社
に見られるある種の特徴をもっている。①メンバーの「奥義通暁」
(initiation)の程度
によるヒエラルキーの設定、②外部世界に対する「絶対的な敵意」→「仲間たることが
明確なもの以外はすべて排除される」。
・ 秘密結社との類似性:①運動における儀式の役割、②陰謀フィクション。
・ 秘密結社が秘密保持という組織上の必要から内外の二分法を求めるが、全体主義運動は
逆にイデオロギーから展開。全体主義運動にとって、秘密保持はさしたる重要事ではな
い。ナチズムの世界征服と「異種」民族の放逐、ボルシェヴィズムの世界革命と世界征
服の計画は「秘密」ではなかった。
・ ナチ運動とボルシェヴィズム運動:世界陰謀のフィクション。フィクションへの「回答」
としての全体主義運動。
・ スターリン:国内を一党独裁から全体主義体制へ移行させるとともに、各国共産党の自
主性を奪いコミンテルンの支部とした。政党内における謀略機関の役割増大。政府と軍
の関係のたとえ(シビリアン・コントロールから軍独裁への危険)。党に対するテロル
支配→党の全体主義的な発展。※「政治とはその本質かなして公的生活なのである」
(127
頁 1 行)英文の対応箇所がわからない。後述の全体主義運動の「政治」観と関連。
・ 共産党内における謀略機関の勝利は全体主義運動の第一歩に過ぎない。党内分派の絶
滅・粛正と党内民主主義の抹殺→精鋭組織(elite formation)の手を借りて革命政党を
大衆組織に作り変える。ナチスでは大衆プロパガンダから大衆組織と精鋭組織が同時に
発展(128 頁)。精鋭組織:謀略機関・秘密警察。
・ 全体主義政権の支柱として警察。陰謀的な秘密結社と、それと戦うべく組織された秘密
警察との類似性。権力奪取以前においても、「白日のもとに設立された秘密結社」には
別の利点がある。秘密結社と大衆組織の間に明らかに存在する矛盾など、この際どうで
もよい。秘密結社に独自の構造が、全体主義的な二分法――「仲間に入っていないもの
はすべて排除される」を一つの組織原理に変換できるという事実が重要。その二分法と
は、実際には意見の相違や差異(divergences and differences)があるにもかかわらず、
それを認めようとしない、現実世界に対する大衆の盲目的な憎悪に立脚している。それ
は、大衆にとって混乱と苦痛の源でしかない現実世界の多様性を消し去ってくれる。
・ 成員の生死を賭けた全面的な忠誠も、全体主義運動と秘密結社にのみ見られる特徴であ
る。レーム粛正後の SA、モスクワ裁判(129―130 頁)。成員のすべてに、運動を離れ
1
た自分の人生はあり得ないと考えさせる組織形式。
・ 虚構の世界を維持するための嘘の導入→構造的に、しかも段階的に組織のなかに組み込
まれた嘘。シンパサイザー→党員→精鋭組織→<指導者>側近というヒエラルキーに対
応。軽信とシニシズムとの混合に割合によって各層が判別可能。
・ 未開の「無教養」な軽信と、洗練され優れた精神が陥る悪徳たるシニシズムの混合。大
衆プロパガンダ:どんなにありそうもないものも軽々しく信じてしまう聴衆、たとえ騙
されても、初めから嘘だと知っていたとケロリとする聴衆。
・ 軽信とシニシズムの混合が全体主義運動の全階層を支配し、階層が高くなるほどシニシ
ズムに傾く。シンパサイザーから<指導者>に至るまで共通して抱く確信:政治とは詐
術である。「<指導者>はつねに正しい」という運動の「第一戒律」は、戦争遂行のた
めの軍事的規律のように、世界政治、すなわち世界大での詐欺にとって必要不可欠であ
る(132 頁)
。
・ <指導者>:全体主義運動において嘘をつきとおす装置。<指導者>はつねに正しいと
いう主張。科学的に予見可能か否か、個々の発言の当否は問題ではない。
・ <指導者>の言葉を文字どおり信じることは、シンパサイザーだけにしか期待されてい
ない。シンパサイザーの確信が運動を誠実で純真な雰囲気で覆うことになる=外部世界
の信用を得るという<指導者>の機能の半分。
・ シンパサイザー・党員・精鋭組織の分離を前提として、はじめて<指導者>の嘘が完全
に効果を上げる。「階層に応じて異なった程度に侮蔑を表現する一連のシニシズムの階
梯」
(133 頁)
:<指導者>が自らの嘘に縛られる危険を避けられる。非全体主義世界に
とって、このシステムを見抜けなかったことが最大の失敗(134 頁)
。
・ シンパサイザー:外部世界に対して嘘をある程度信じられそうなものに見せかける。
・ 党員:党外向けの公式発表は信じないが、イデオロギー的な説明からなる陳腐な決まり
文句(clichés)はすべて信じる。人々が漠然と抱いていたイデオロギー的要素を組織の
手段として利用。人種理論→ユダヤ人の世界支配、階級理論→ウォール街の支配。
・ 精鋭組織:イデオロギー的な陳腐な決まり文句の字義どおりの正しさを信じる必要はな
い。エリートのファナティズムは、党員のそれとは異なりイデオロギー的なものではな
い(135 頁)。エリートの優位:事実認定を意志表明に解消してしまう能力。このメン
タリティーは周到な教育の成果。世界をあるがままに受け入れず、嘘と現実を比較する
ことさえ決してしない→<指導者>に対する全面的な忠誠。<指導者>=現実に対する
嘘と虚構イデオロギーの最終的勝利を保証する護符。
・ 構造の中心部:<指導者>を取り巻く側近。彼らにとって、イデオロギー的な決まり文
句や世界観の問題は直ちに組織上の道具となる。
「実行による解決」
:科学もしくは似非
科学がこしらえた証明よりも確かな保証(ex.ヒムラーによる SS 再組織)。
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・ 自己のイデオロギー内容からの自由=全体主義ヒエラルキーの最中心層に見られる特
徴。一切を組織の観点から捉える:<指導者>も運動に不可欠な機能の一つに過ぎない。
しかし、全体主義運動の<指導者>は、派閥の操り人形と違って自分の思いのままにで
き、自分が殺そうとした当の本人からでも絶対的な献身を獲得し得る。
・ 自殺的忠誠を可能にする技術的な理由:後継者問題の法的規定が欠如→政権内部のクー
デター(palace revolt)で全体主義運動が瓦解する危険性。<指導者>の言葉の正しさ
ではなく、行為の無謬性に担保。
・ もっと深い技術的ではない理由:「人間は全能であるという確信」。「すべては可能であ
り、所与の現実は一時的な障碍に過ぎ」ない(139 頁)→意見の相違は決定的な意味を
もち得ない。いかに狂気の沙汰と見える政策なり政治的行為の選択原則でも、成功のチ
、、、、、、
ャンスは十分ある。<指導者>への無条件の服従:個人としての<指導者>の無謬性で
はなく、「蓄積された暴力を所有し全体主義組織の卓越した方法を使いこなす術を心得
ている者」であれば誰でもよい。
・ 重要なのは以下のことである。「人間を組織し一定の行動に駆り立て」、「人間を区別す
る決定的な相違点を確立し、それに疑いをはさんだことがあったかどうかなど誰ももは
や思い出せず、このような区別に意味があるかどうかなどと考える機会を誰にも与えな
いこと」(140 頁)。
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