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健康サービス産業創造研究会 報告書

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健康サービス産業創造研究会 報告書
プレス発表
健康サービス産業創造研究会
報告書
平成15年6月
健康サービス産業創造研究会
目 次
委員名簿 ------------------------------------------------------------------------------ 1
はじめに ------------------------------------------------------------------------------ 2
第Ⅰ章 健康サービスの現状 -------------------------------------------------- 3
1.健康を支える社会基盤 ----------------------------------------------------- 3
2.我が国の医療制度と国民意識 -------------------------------------------- 3
3.個人の健康管理 -------------------------------------------------------------- 4
【コラム】健康増進へのさまざまな取組み ---------------------------- 5
第Ⅱ章 個人の健康づくりを促進するための課題 ---------------------- 7
1.個人の健康づくり基盤の形成 -------------------------------------------- 7
2.根拠に基づく健康増進サービスの確立 ------------------------------- 8
【コラム】健康を巡る国内外の新たな取り組み ---------------------- 9
3.人材育成の推進 --------------------------------------------------------------- 10
4.個人のエージェント(代理人)としての保険者の機能強化 --- 10
5.制度改革の推進
------------------------------------------------------------- 11
【コラム】医療の情報化を巡る政府の動き ------------------------------- 12
第Ⅲ章 健康サービス産業創造に向けて ---------------------------------- 13
1.健康サービス産業モデル都市構想(ウェルネス・コミュニティ)の推進 ------- 13
2.根拠に基づく健康増進の推進 -------------------------------------------- 19
(1)「健康づくり支援システム」の開発促進 --------------------------- 19
(2)「健康増進サービス認証機構(仮称)
」の創設 -------------------- 20
(3) 健康技術(ヘルスケアテクノロジー)の開発促進 -------------- 21
3.健康サービス産業協議会(仮称)の設立 ---------------------------- 22
(参考)健康サービス産業における雇用・市場規模・
医療費抑制効果 ----------------------------------------------------------- 23
健康サービス産業創造研究会委員名簿
(座長を除く五十音順 敬称省略)
[座長]島田 晴雄
石原 悟
伊東 弘泰
大山 永昭
垣田 行雄
亀田 俊忠
菊地 眞
久野 譜也
近藤 真司
今野 由梨
手塚 圭子
樋口 一郎
星 旦二
三ッ谷 洋子
森 貞述
[特別招聘者]
渥美 和彦
大貫 稔
開原 成允
郭 振強
村上 和雄
慶應義塾大学 経済学部 教授
社団法人日本フィットネス産業協会 会長
特定非営利活動法人日本アビリティーズ協会 会長
東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授
財団法人日本システム開発研究所 専務理事
医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 理事長
防衛医科大学校 防衛医学研究センター長
株式会社つくばウェルネスリサーチ 社長
財団法人全日本社会教育連合会 雑誌「社会教育」
編集長
ダイヤル・サービス株式会社 社長
TBC総合研究所 室長
株式会社日経BP社 日経ヘルス編集長
東京都立大学 都市科学研究所 教授
株式会社スポーツ21エンタープライズ 代表取締役
社長
愛知県高浜市長
日本代替・相補・伝統医療連合会議理事長、東京大学名
誉教授
浦和大学学長、筑波大学名誉教授
財団法人医療情報システム開発センター理事長、国際
医療福祉大学副学長・大学院長、東京大学名誉教授
天津鍼灸専業学会理事、天津中医学院第二附属医院鍼
灸科
国際科学振興財団「心と遺伝子研究会」代表、筑波大学
名誉教授
1
はじめに
戦後、豊かになることを目標に国民が一体となって努力し、その結果、
日本人は、経済的には世界で最も恵まれた国民の一員になった。生きて
いくことに精一杯であった時代から、個人が自分の価値観に応じて、そ
のライフステージなりの人生を楽しむ時代へと社会は大きく変わった。
健康は、人々が生きがいを持ち、楽しく日々の生活を送るための礎で
あり、人々の価値観が多様化する中で、様々な健康に関する欲求・ニー
ズに応えていくことが健康サービス産業に求められている。健康は本来
個人的問題であるが、我が国のように歴史上例を見ないスピードで高齢
化社会を迎える国においては、国民の健康を支える基盤をどのような形
で構築できるかが国家として問われている。
本研究会では、健康に係わる様々な分野の専門家が集まり、今後の国
民の健康ニーズの方向、健康サービス産業の在り方等について多角的視
野から議論を重ねた。そこで改めて確認したことは、今後、国民の多様
な健康ニーズに応えていくためには、
① 個人の選択
② 根拠に基づく健康づくり
③ 健康・予防重視
という3つの視点に立った制度改革や政策展開が必要であり、その実現
に向けた国民の意識改革が何より重要であるということである。
そして、こうした取組みは、現下の大きな課題となっている高齢者医
療費の増大の抑制に資するとともに、新たな健康サービス産業の創造を
通じて「世界の先を行く健康安心日本」の基盤の形成に寄与する。
また、健康サービス産業は地域密着型・生活密着型産業であるため、
健康サービス産業の発展は、地域経済の活性化・雇用創出にもつながる。
健康は、生き生きとした日常生活や豊かな生活環境によって育まれる
面が大きく、健康の維持・増進を実現していくためには、人々が生きが
いを持ち、楽しく日々の生活を送れる環境を作っていくことが何より重
要である。
こうした社会の実現に向け、本研究会では、今回の提言の進捗状況を
引き続きフォローアップし、必要に応じて更なる提言を行っていきたい。
2
第Ⅰ章 健康サービスの現状
1.健康を支える社会基盤
戦後、我が国は高い経済成長に支えられ、国民1人1人の生活水準が
向上し、公衆衛生、医療技術などが進歩したことにより、長寿化が進み、
現在では男女とも世界最高レベルの平均寿命に達した。長寿は万人の強
い願望であるが、生きがいがあり健康であってこその人生であり、単に
寿命の長短ではなく、個人個人の人生観・価値観に応じた人生を送るこ
とを国民は希求している。
若年の 10 代・20 代から老年の 70 代・80 代に至るまで、それぞれの
ライフステージに応じて人生を楽しむためには、自分の価値観に応じて
生き生きと活動できる環境・社会基盤が必要であるが、現在の地域コ
ミュニティ、公共施設、社会保障制度等は、こうした国民の多様な願
望・ニーズに必ずしも十分に応える体制にはなっていない。
多くの国民は日頃健康や体力の維持促進のための何らかの取組みを
行っているものの、通常は、テレビ、雑誌等のマスメディアからの情報
に依存しており、科学的根拠に基づく有効性の高い取組みは稀である。
一部ではその有効性等に対し消費者から疑問が投げかけられ、民間事業
者とのトラブルも増加している。
今後、多様化する国民の健康ニーズに適切に対応していくためには、
疾病予防・健康増進についての正しい知識の啓発・普及が必要であるが、
我が国では、欧米に比べて予防分野における取組みが遅れている。
2.我が国の医療制度と国民意識
我が国の医療制度は、国民皆保険と医療機関へのフリーアクセスの達
成など、他の先進国と比べても優れた成果を挙げてきた。しかながら、
急速な少子高齢化の進展を背景に、国民医療費は 1999 年以降、30 兆円
を超え、急速に拡大している。こうした傾向は今後とも続くものと考え
られ、2025 年には国民医療費は 70 兆円に達するものと見込まれている。
財政規律を維持し、個人消費や民間設備投資に悪影響を与えないために
も、医療保険制度の立て直しは待ったなしの状況である。
一方、医療の供給体制を見ると、伸び続ける医療費にも関わらず、全
病院の 7 割が赤字経営に陥っており、医療経営の合理性・効率性が根本
的に問われている。
他方、医療等の健康サービスを受ける国民側には、提供されるサービ
スに対する意識の向上が見られ、医師等の専門家から治療法や予防・健
康増進についての情報を得、これに基づき本人が受けるサービスを選択
3
する「インフォームド・チョイス」の視点が重要となってきている。ま
た、健康サービスに対するニーズが多様化する中で、個人の特性に応じ
た「テーラーメードサービス」、個人が選択できる「ロイヤルサービ
ス」の提供が求められている。
このように、社会構造の変化や国民意識の高まりにより、これまでの
ような「規制による質と量の確保」に重点を置いた医療体制はもはや限
界にきていると考えられる。
3. 個人の健康管理
我が国では学校、地方自治体、職場等において定期的に集団検診や人
間ドックを行い、全国レベルで早期発見・早期治療等を進めてきた。こ
うした集団検診等に対する医療経済上の有効性については、様々な研究
が行われているが、我が国の平均寿命が世界最高レベルに達した現在、
健康寿命を一層伸ばしていくためには、個人の体質に応じた健康管理が
不可欠である。これまでの集団で行う健康診断を見直し、自己責任、自
己管理を前提とした疾病予防・健康増進を重視した取組みが重要になっ
てきている。
我が国では、一般的に健康に対する関心は高いものの、国民皆保険及
び医療機関へのフリーアクセスの下で、個人の健康管理を医療機関に依
存する傾向が強まり、自己責任で行うという国民意識は未だ低いのが現
状である。さらに、我が国では、個人の健康を支援する政策よりも、診
断・治療重視の政策が続けられてきたために、個人の健康管理を指導す
る人材が十分育成されていない。
欧米諸国では早い段階から健康重視の政策を積極的に展開しており、
例えば、米国では、1979 年に「Healthy People」が策定され、当時の
カーター大統領自らが「全合衆国民が健康で生きるためには、治療だけ
でなく予防が大切であり、政府、民間団体、企業、学校それに保健医療
専門家が共同し、国民の健康実現に向けて努力すべきである」と宣言し
た。これにより、各州政府、地方自治体、学会、企業等350以上の団
体が結集し、すべての人が健康で長生きするための情報の整備並びに提
供 が 行 わ れ て き た 。 さ ら に 、 こ れ を 発 展 さ せ た 「Healthy People
2000」
「Healthy People 2010」が約10年ごとに策定され、
「Healthy
People 2010」では、各地域ごとの健康サービス情報を整備し、消費者
がその地域にあるサービスを自由に選べる仕組みを作るとともに、民間
機関への市場参入への呼びかけも促進していく計画にしている。
我が国でも、本年(2003 年)5月から健康増進法が施行され、公的
機関における禁煙の徹底や地域における健康維持・増進運動の展開など
が始まったところである。
4
【コラム】健康増進へのさまざまな取組み
《高齢者の体力アップ》
愛知県高浜市では高齢者を対象に「マシンスタジオ」「高齢者筋力ト
レーニング」「宅老所」
「いきいき健やか教室」「元気はつらつ教室」を
設け、多数の参加者を得ている。自立歩行ができなかった高齢者が自分
で歩けるようになる等、これらへの参加者は明らかに体力が向上してお
り、さらに1人当たり医療費が全体平均に比べて2割前後抑制されてい
る。
茨城県大洋村では筑波大学の指導を受けて健康増進のための「生き生
き教室」を開設して筋力トレーニング等を行った結果、教室参加2年後
には、参加者は教室非参加者グループに比べ、1人当たり医療費増加額
が半額以下に抑制された。一方、筑波大学は大学発ベンチャー「つくば
ウェルネスリサーチ」を立ち上げ、全国自治体に対して健康増進のため
の指導等を展開している。
《フランスでのエステティック活用策》
フランスでは、エステティックによって病気の回復や社会復帰が早
くなるなどの効果が報告されている。同国にはソシオエステティシャン
という国家資格があり、病院、老人ホーム、リハビリテーションセン
ター、刑務所などでエステティックを行い、社会復帰を支援している。
《健康の出前講座》
全国で 600 以上の自治体が「出前講座」を開催し、専門家がPTA
や老人会等に出向いてさまざまな分野の話をしている。宮城県古川市等
では、保健課の専門員が「成人病予防」
「介護予防」等の話をして好評
を博している。
《アメリカの健康雑誌》
アメリカでは 300 万部の発行部数を誇る「Prevention」をはじめ、
100 万部以上の発行部数がある健康雑誌が5誌ある。雑誌全体は前年度
割れの中で、健康・フィットネス関連は部数・広告とも伸びている。取
り扱い記事は日本の雑誌と大差なく、日本でも健康への関心が高まるに
つれ、健康関連の雑誌への需要も高まる可能性がある。
5
《地域で取組むスポーツへの動機づけ》
青少年の体力・運動能力は引き続き低下傾向にあり、地域における
運動・スポーツ活動の一層の充実に取組むことが重要である。
毎年5月の最終水曜日に開催されている「チャレンジデー」は、こ
れに参加する自治体の住民による、アスパラ積みリレー、ウォーキング
等への参加率を競うイベントである。日常生活での運動、スポーツの習
慣化を図るためにあえて平日の水曜日に開催しているが、この活動はス
ポーツの楽しみを認識し、スポーツ参加人口を増やす動機づけをねらい
としている。
6
第Ⅱ章 個人の健康づくりを促進するための課題
今後、更に国民の健康寿命を延ばし、豊かな経済社会の実現を目指し
ていくためには、何より「自分の健康は自分で管理し自分で護る」とい
う国民の意識改革が重要である。
また、我が国において健康づくりに向けた個人の取組みを促進してい
くためには、利用者が商品・サービスを主体的に選択・実践する上で必
要となる情報・社会基盤を整備していくことが重要であり、以下のよう
な課題を着実に解決していくことが必要である。
1.個人の健康づくり基盤の形成
健康は、生き生きとした日常生活や豊かな生活環境によって育まれる
面が大きい。高齢になっても健康を維持していくためには、コミュニ
ティ活動や NPO などを通じて、働く場や友人関係がなくならないよう、
個人が生きがいを持ち、楽しく日々の生活を送れることが何より重要で
ある。また、個人の置かれている環境や健康状態は区々であるため、健
康に向けた取組みも、その個人の状態や趣味・嗜好などに合わせて行わ
れることが必要である。
しかしながら、健康サービスの中核を担っている保健 ・医療・福祉の
間ですら、制度の違いや組織的理由により十分な連携が図られていない
ことが多く、個人が QOL(生活の質)を向上させるために自分に合っ
た健康サービスや食事・運動プログラムなどを得ようと思っても、なか
なか満足のゆくものが得られないという状況にある。
一方、情報技術の飛躍的進歩に伴い、個人の健康情報の管理や必要な
データの分析・提供、健康サービス提供者間の情報共有・連携等が容易
になってきており、情報技術を活用することによって、個人の希望する
新しい健康サービスや食事・運動プログラムを利用することが可能にな
りつつある。
健康の維持・増進に係る国民のニーズがますます多様化する中で、ひ
とりひとりが自分に合った健康サービスを自ら主体的に選択し、組み合
わせ、楽しみながら継続的・効果的に取組むことを可能とするためには、
保健・医療・福祉のトータルヘルスケアシステムの形成に加えて、ス
ポーツ、ビューティーケア、生涯学習などを含めた、幅広い健康サービ
ス産業が連携した新しい健康づくりプラットフォームを地域において構
築していくことが重要である。
さらに、健康維持・増進には国民1人1人の健康に対する意識向上が
不可欠であり、このためには国・地方自治体・産業界、さらには、NP
O、ボランティアなどが協力して普及・啓発事業を進めることがより効
7
果的である。こうしたプラットフォームを構築することにより、我が国
においてもインフォームド・チョイスが可能となる環境が整備されてく
るものと考えられる。
2.根拠に基づく健康増進サービスの確立
個人の健康状態は、遺伝子、周辺環境、生活習慣等の様々な要因の影
響を受けているが、現在までのところ、これらの関係は、科学的に十分
に解明されてはいない。このため、健康に関心を有する多くの国民は、
膨大な健康に関する情報の中で、何が自分にとって本当に有効なのかに
ついて科学的な根拠なしに判断せざるを得ないケースが多い。
今後、我が国の医療サービスが早期発見・治療重視から健康増進・疾
病予防重視への質的転換が求められる中で、産学官の連携により健康診
断データやストレスを始めとした精神状態と健康寿命との関係、各種ス
ポーツプログラムや健康増進プログラムなどが健康づくりや介護予防に
及ぼす影響等を科学的に解明することが必要である。これにより、医療
分野で研究が進んでいる 「根拠に基づく医療」(EBM: Evidence
Based Medicine)と同様に、健康サービス分野においても「根拠に基づ
く健康増進」
(EBH:Evidence Based Health-promotion)を確立する
ことが可能になる。この際、近代西洋医学と相補・代替医療等とでは根
拠の検証方法が異なることに留意し、それぞれに適した方法の研究が求
められる。
こうした研究を通じて、現在提供されている健康サービスが個人に
とって有効かどうか科学的に判断できるとともに、現在、根拠が不十分
ということで医療保険制度の対象としてほとんどカバーされていない疾
病予防に係る健康サービス分野についても、医療経済上の評価が判断可
能になるものと考えられる。ドイツや英国では既に予防の分野について
も保険の対象となっており、我が国においてもこの分野の研究を大学等
において積極的に進め、科学的根拠が高く、医療経済上も有効な健康
サービスについては保険対象化も含め、普及促進を図っていくことが重
要である。
8
【コラム】健康を巡る国内外の新たな取組み
《統合医療》
先進国では通常の医学というと近代西洋医学であるが、世界的にはそ
れ以外の医学があり、相補・代替医療と呼ばれている。相補・代替医療
は、生体に本来備わっている自然治癒力を高めて、保健、予防、治療に
利用するものである。
米国においては、代替医療利用率が 2000 年には 50%を超えていると
の報告を受け、ホワイトハウスに「代替医療に関する大統領委員会」を
設置するとともに、NIH(米国立衛生研究所)内に国立相補代替医療
センターが設置された。さらに各大学に相補代替医療センターと相補・
代替医療の学科を設置し、研究と人材育成を並行させている。
ヨーロッパではミュンヘン大学、ハイデンベルグ大学等、アジアにお
いては中国、韓国、台湾、シンガポール等で伝統医学や代替医療の教
育、研究、実用化が進んでいる。これらの研究を通して、将来は近代西
洋医学と代替医療が融合して、患者を中心として診断治療を行う統合医
療が進むと考えられる。
《笑いと遺伝子》
ヒトゲノムは、A(Adenine)、T(Thymine)
、C(Cytosine)
、G
(Guanine)の4つの化学文字が 30 億ペアで1ゲノムを構成してい
る。すべての細胞は同じ遺伝子情報を持っているが、心臓は心臓に必要
な遺伝子しかスイッチがオンになっていない。他の臓器や髪の毛で動く
遺伝子はスイッチがオフになっている。すなわち、環境とコミュニケー
ションによってスイッチをオンにしたりオフにしたりすることができ
る。クローン技術は、すべての遺伝子のスイッチをオンにする技術であ
り、どのような環境にいればどのような遺伝子のスイッチがオンになっ
たりオフになったりするのかが関心事となっている。
遺伝子暗号解読の第一人者である村上筑波大学名誉教授は、「思い」
が遺伝子の動きを変え、生き生きワクワクする、喜ぶ、笑うといったポ
ジティブな刺激によって遺伝子のスイッチが入るとの仮説にたち、笑い
と遺伝子のスイッチの関係を研究している。同氏は、糖尿病患者をモニ
ターに、笑うことでどのくらい血糖値上昇が抑えられるかを実験した。
同じ条件下で、食後に硬い講義とお笑いを聞いた時の血糖値を比べる
と、硬い講義の後では平均 123 だったが、お笑いの後は平均 77 で、そ
の差は 46 となり、笑いは血糖値の上昇を抑える効果があるとの結果を
得た。
9
3.人材育成の推進
保健、医療及び福祉の分野では、保健師、医師、介護福祉士などさま
ざまな職種が法律に基づいて決められており、それぞれの役割に応じた
サービスを高齢者等に提供している。
今後、保健・医療・福祉のトータルヘルスケアシステムを我が国で構
築していくためには、公的資格のある職種だけでなく、エステティック
等の公的資格のないものについても、幅広く大学、専門学校、養成校等
において人材の育成を行っていくことが重要である。また、身体機能が
低下した高齢者に対して、精神面・肉体面の種々なニーズに対応できる
人材についても今後必要性が増してくるものと考えられる。
さらに、健康づくりや疾病予防の分野は、欧米諸国では、西洋医学、
東洋医学を活用して研究が進められているものの、我が国においては研
究者層が極めて薄い。今後、EBHの確立に向けた体制を構築していく
ためには、大学院などにおいて高度な専門知識を持つ専門家を育成する
ことが重要である。
近年、産業界においては、健康食品をはじめこの分野に多くの企業が
注目しているものの、中小企業などは人材不足のため十分な研究ができ
ていない状況にある。政府としては、この分野の産学連携を促進するこ
と等により、中小企業の新商品、新サービスの開発を支援していくこと
も重要である。
4.個人のエージェントとしての保険者の機能強化
健康の維持・増進を図るためには、疾病の早期発見や治療にとどまら
ず、個人が日頃から生活習慣の見直しなどに努めることが重要である。
健康づくりに向けて個人が自分にあった健康サービスや食事・運動プロ
グラムなどを主体的に選択し実践していくことが基本であるが、専門的
な知識を有する保険者が個人のエージェントとしてサポートしていくこ
とでさらにその効果が高まることが期待できる。
また、保険者は、被保険者の健康診断の結果やレセプトなどにより、
個人の健康状態、疾病歴などを経年的に把握することが可能である。こ
れらの情報を基に、生活習慣、食生活、運動量等のデータを加えて、医
療機関などとも連携しながらひとりひとりに適した健康増進プログラム
を提供するなど、被保険者に対する効果的な健康指導事業を行うことが
できる。
被保険者の継続的な取組みを支援するためには、楽しみながら健康増
進プログラムが消化できるよう、レジャープランと併せて実施する等、
プログラムの内容を工夫することも重要であろう。
10
我が国の医療制度は、国民皆保険と医療機関へのフリーアクセスを達
成しているため、日頃から健康管理に努めている者とそうでない者との
間で給付と負担に関して差異がないことなどのために、体調の不調が顕
在化していない段階で健康の維持・増進に努めようとするインセンティ
ブが働かない。こうした被保険者に対する健康指導事業を積極的に行う
ことは、生活習慣の改善などに無関心であるような被保険者の意識喚起
と具体的な行動を促す上でも重要である。
さらに、被保険者が健康を維持することができれば、保険者にとって
は医療保険給付費を抑制することができ、保険組合財政を安定させるこ
とができる。
個人のエージェントとしての保険者がその機能を十分に発揮すること
が可能となるような環境を整備していくことが必要である。
5.制度改革の推進
健康サービス分野は国民の関心が高く、その多様化するニーズに応え
るサービスを提供していくためには、政府としても「官から民へ」の考
え方に沿って、本分野における一層の規制緩和を行うことが求められる。
また、今後の高齢者人口の増大を考えれば、社会保障関係費の大幅な
拡大が避けられない状況となっており、こうした中では、給付と負担の
在り方について、年金、医療、介護等を併せた社会保障全体で考えてい
くことが必要である。
(個人の選択を促進する医療システムの実現)
個人が自らのニーズに沿って医者や医療機関などを適切に選択するこ
とを可能とするためには、必要な情報が十分に提供されることが不可欠
である。このため、診療情報の開示に関するガイドラインの策定・普及
などにより情報開示の徹底を図るとともに、定められた事項以外の広告
が禁止されている広告規制を原則撤廃・ネガティブリスト化していくこ
とが必要である。また、個人が提供された情報を有効に活用するために
は、第三者機関による医療機関評価を促進することが重要であり、治療
実績を含む第三者による評価の促進、評価結果の情報提供を推進するこ
とが必要である。
さらに、多様化するニーズへのきめ細かな対応、予防から治療、介護
までのトータルヘルスケアサービスの提供など、個人本位のサービスの
提供を可能とするためには、医療機関の経営形態の見直しや、公的保険
の周辺分野について、公的保険との併用を認める範囲を拡大することが
必要である。
11
(個人本位の医療サービス提供の基盤となる情報化の推進)
個人を中心としたシステムへと制度改革を進める上での基盤となるの
が、情報化の推進である。例えば、カルテの電子化により、医療機関内
外での診療情報の共有化が可能となり、チーム医療や遠隔医療などが進
むのみならず、診療情報の蓄積・分析が容易となり、診療行為の標準
化・高度化(EBM の実現)
、診療報酬体系の合理化、医療機関の評価、
医療機関経営の合理化などが進むことが期待される。また、個人の健康
診断情報とカルテを一体的に管理するデータベースやシステムを構築す
ることにより、個人の健康や疾病に関する情報全体を把握・分析するこ
とが可能となり、テーラーメイドの健康サービスの提供が促進されるこ
とが期待される。これを実現していくためには、セキュリティー基盤を
確立しつつ、電子化された診療情報のネットワークでの転送や外部保存
を可能としていくことが必要である。
また、レセプトの電子化は、審査手続に係るコストを低減するのみな
らず、レセプト情報が電子データで蓄積されるためレセプトの分析が容
易となり、被保険者1人1人の状態に即した有効な健康指導事業を実施
することができるなど、保険者の機能強化が図られる。このため、レセ
プトのオンライン化を可能としていくことが必要である。
【コラム】医療の情報化を巡る政府の動き
《保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン》
厚生労働省が公表した「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデ
ザイン(平成 13 年 12 月)
」においては、医療の情報化について以下の
ような数値目標を掲げている。
・電子カルテを平成 18 年度までに全国の 400 床以上の病院、全診療所
の6割以上に普及
・レセプト電算処理システムを平成 18 年度までに全国の病院の7割以
上に普及
・平成 15 年度までに、認証に関する社会基盤整備の方向性と計画を明
らかにする
《新IT基本戦略》
本年5月に公表された「IT基本戦略Ⅱ(案)
」では、医療分野にお
いて以下の項目の実現を掲げている。
・2005 年までに、保健医療分野における認証基盤を整備するととも
に、すみやかに電子カルテネットワーク転送、外部保存を容認する
・診療報酬請求業務のオンライン化について、2004 年度から開始し、
2010 年までに希望する医療機関等について 100%対応可能とする
12
第Ⅲ章 健康サービス産業創造に向けて
国民の多様な健康ニーズに応え、その健康づくりを促していくために
は、地域の幅広い分野の健康サービス産業が連携してその個人が求める
サービスを提供しうる体制を整備することが必要である。また、個人が
自分に適したサービスを選択出来るよう、根拠に基づいた健康増進シス
テムを構築するとともに、サービス提供に必要な技術の開発、規制の改
革についても併せて行う必要がある。
こうした国民の総合的な健康づくりシステムは、未だ我が国では整備
されていないため、これを具体化していくためには、先進的な地域にお
ける取組みに対して、国がハード・ソフト両面の支援を行い、全国のモ
デルとして新しい健康サービス提供の姿を世の中に示していくことが必
要である。その際、特区制度は、これを試行するための有効な枠組みと
考えられ、今後、特区を活用した先進的な取組みも期待される。
こうした政策は、内需の拡大、雇用の創出、地域経済の活性化に資す
るとともに、急速な拡大が懸念されている国民医療費の抑制にも大きく
寄与するものと考えられる。
1.健康サービス産業モデル都市構想(ウェルネス・コミュニティ)の推進
先進的な健康サービスの提供体制を構築するため、以下のような支援
措置に基づく健康づくりプラットフォームの創設を検討すべきである。
本事業は国民の健康ニーズに対応した新たな健康サービス産業の創造
を目的とすることから、対象事業の選定に当たっては、①事業の先進
性・モデル性 ②健康増進効果の客観性 ③雇用創出効果 ④事業の継
続性 等を考慮することが必要と考えられる。
なお、事業の推進にあたっては、ボランティアやNPOを始めとした
地域住民や地方自治体職員の積極的な参加が不可欠であり、こうした体
制が構築できるよう関係機関の協力が期待される。
(1) 基本調査の実施
全国の先例となるような先進的な健康サービス提供体制の構築に取
り組む地域について調査を行い、これを具体化するための実施計画を
策定する。
(2) コンソーシアムの整備
上記実施計画に係る健康サービス提供の中核となる健康増進活動推
進組織(「ウェルネス・コンソーシアム」
:地方公共団体、医療機関、
福祉施設、大学、教育機関、スポーツ団体、企業、保険者等により組
13
織)が実施する人材育成事業、指導事業、普及啓発事業等について所
要の支援を行い、ウェルネス・コンソーシアムの体制整備を促進する。
(3) 情報システム開発
上記実施計画に係る情報システム(健診連携電子カルテ、健康I
C
カード等)のうち、先端的な情報基盤システムについては、国が開発
を行い、その成果の普及を図る。
(4) 施設整備
上記実施計画に係る施設(中核施設、インキュベーター、データセ
ンター等)について、これを整備するための所要の支援を行う。
(5) 特定健康増進事業の認証
健康増進プログラムの内容、指導体制等が健康増進事業として一定
の水準を満たすものについては、「健康増進サービス認証機構( 仮
称)
」が、その旨の認証を行う。
14
≪モデル事業イメージ①≫
高齢者に対する地域コミュニティ総合健康支援システムの構築
高齢者は日常生活において精神面・肉体面で様々な支援を必要として
いる。地域コミュニティにおいて情報技術等を活用した高齢者の支援を
総合的に行い、高齢者が生きがいをもって楽しい日々を送れる環境を整
備していくことは、高齢者の健康寿命を延ばしていく上でも大きく寄与
するものと考えられる。例えば、地域において高齢者に対する様々なケ
アサービスを提供する「高齢者支援センター」を整備し、本人又はその
家族が、これを容易に利用できれば、高齢者にとって安全・安心な地域
コミュニティの形成が進むものと考えられる。
【高齢者総合ケアシステム】
保健所
住宅
住宅
サービス
サービス
病院
高 齢 者 支 援 セ ン タ ー
介護施設_
モビリティ
モビリティ
サービス
サービス
(高齢者ケアコーディネーター)
配食・
買物
配食・
買物
サービス
サービス
行政
行政
サービス
サービス
生涯学習施設_
スポーツ施設
15
商店街
≪モデル事業イメージ②≫
健保組合による健康サービスの提供
健保組合は拠出金の急増により、現在約9割が赤字財政となっている。
今後、保健事業の内容を保養所運営等から、健康指導等、医療費削減に
直接、間接に結びつく事業へとシフトすることが重要である。例えば、
カルテ・レセプト情報等を収集分析し、被保険者ひとりひとりの状態に
即した健康指導を健康サービス会社等と連携して実施することにより、
効果的な健康サービスが提供できるものと考えられる。
【健保組合による健康サービスの提供】
健康サービス会社
フィットネス
産業
連携
健保組合
協力
医療機関
個人健康DB
給食産業
福祉施設_
大学・
その他
住宅産業
サービス提供
対象者
16
医療機器
メーカー
≪モデル事業イメージ③≫
情報技術を活用した広域ネットワークの構築
健康診断結果は自治体や職場で管理されており、自己負担で受診する
人間ドック等の情報を含めて個人健康診断情報が散在している。さらに
ポータビリティがないために、転出、転職すると過去情報の一貫性が保
てないとの問題もある。
個人健康診断データベース(
「私の健康履歴」
)を作り、健康診断情報
を個人単位で一貫して管理する仕組みを地方自治体レベルで構築するこ
とにより、健康診断結果を分析し、個人の健康状態を経年的に把握する
ことが可能となる。
カルテ開示に積極的な医療機関は、診断結果、検査結果、画像写真等
を記録・添付する「私のカルテ」を作成しているが、「私の健康履歴」
と「私のカルテ」を一体的に管理することで個人の健康と疾病に関する
情報全体を把握でき、診断や健康指導に反映できる。
さらに「私の健康履歴」
「私のカルテ」の情報をベースに生活習慣、
運動量、食生活等のデータを加えて、テーラーメイドの健康改善プログ
ラムを作成し、フィットネスクラブ、健康指導、配食等の各種サービス
事業者がそのプログラムの実施をサポートすることが考えられる。
【健康診断データと電子カルテシステムの広域連携】
<地域保健医療福祉情報センタ−>
<地域保健医療福祉情報センタ−>
<検査・健診センタ−>
<検査・健診センタ−>
(地域情報の共有)
共有診療情報
検査・健診情報
健診情報
・診療情報共有
・臨床検査情報共有
・健診情報共有
・医療画像情報共有
等
医療画像DB
<診療所、地域中核病院等>
<診療所、地域中核病院等>
<地域健康管理支援センタ−>
<地域健康管理支援センタ−>
生活習慣病情報DB
個人健康管理DB
診療情報
(EBHの実現、個人管理)
・個人健康管理情報連携
・地域健康情報整備
<介護老人保健施設等>
<介護老人保健施設等>
健康サ−ビス産業
スポーツ施設
フィットネスクラブ
リゾ−ト施設
介護情報
地域給食
センタ−
健康プログラム
地 域 住 民
地 域 住 民
健康ICカ−ド(診療・健診履歴、
電子健康保険証等)
ホ−ムヘルスケア
健 康指導
<健康モニタ機器>
健康機器メ−カ−
17
ウェルネス
マネージャー
≪モデル事業イメージ④≫
地域資源を活用した健康プログラムの提供
温泉、森林、海洋等の地域資源を活用した健康サービスを提供するこ
とで、新たな健康サービス産業の創出と当該地域の振興を図る事業が考
えられる。例えば、温泉地では健康増進のための温泉プログラムに加え、
タラソセラピー、森林浴等を提供することで観光振興を図るとともに、
地域住民の健康増進にも寄与できる。国内リゾートや開発を中断したゴ
ルフ場などを活用して健康プログラムを提供する民間サービス事業の形
態も考えられる。
近年、X線CTやPET(陽電子放出断層像)を用いて部位精密健康
診断を行う医療機関が増えており、中には受診までに数ヶ月待ちという
施設もある。これらの高度健診プログラムを組み合わせ、最先端の健康
診断とリラクゼーション、心身の健康づくりを同時に提供するサービス
や、これに体験農業やエコツーリズム的要素を加えたり、公民一体と
なったコミュニティビジネスの仕組みにより低料金でサービス提供を行
うことも考えられる。
【地域資源活用健康プログラムと高度健診プログラムの融合】
ゴルフ
健康増進プログ
ラムつき温泉
森林浴・
エコツーリズム
高度健診
プログラム
タラソ
セラピー
健康増進プログラム
別荘
18
体験
農業
健康教室
フィットネスクラブ
2.根拠に基づく健康増進の推進
(1)
「健康づくり支援システム」の開発促進
我が国においては、長年多くの人が健康診断を受診しているが、近年
の情報技術を活用すれば、これらのデータを蓄積・分析することにより、
個人の疾病発症リスクを予測し、個人が必要な食事・運動のプログラム
を選択することも可能となる。こうした科学的根拠にもとづく健康予測
システムは、いわば医療分野における EBM に相当する EBH を実現す
る一つの取組みとして評価される。
本システムは、個人が、自分の疾病発症リスクを客観的に把握し、こ
れに則した健康増進活動を選択する手がかりとなるものであり、また、
その経年変化を見ることで、プログラムを実践・継続する際のインセン
ティブにもなる。
このため、様々な健診機関から収集した健康診断データを蓄積・評価
し、健診データから生活習慣病の発症リスクや必要な食事・運動のプロ
グラムを提示する「健康づくり支援システム」の開発を検討すべきであ
る。
こうしたシステムが確立されれば、個人毎に疾病発症リスクが把握さ
れるため、新しい民間保険商品の開発にも活用されるものと期待される。
【健康づくり支援システム】
健診データセンタ
分析センタ
健康状態・
疾病相関分析
WBC
RBC
WBC
RBC
健診情報
ネットワーク
GOP
WBC
RBC
問診結果
GOP
WBC
発症率
RBC
検査値
RBC
時系列解析
GPT
GOP
WBC
GPT
GOP
LDH
GPT
GOP
LDH
GPT
LAP
LDH
GPT
LAP
LDH
LAP
LDH
LAPセキュリティ
LAP
健康状態・
疾病関連
知識データベース
関連性分析
年齢
機能
健診施設
健診結果
RBC
WBC
GOP
GPT
LDH
LAP
健康管理プログラム
保健サービス
事業者
食事プログラム
運動プログラム
禁煙プログラム
○×太郎 40歳
発症リスク
生活改善項目
疾病 発症リスク
自ら適切な 糖尿病 30%
プログラムを選択 高脂血症 20%
要改善項目 食生活
プログラム効果診断
19
国民
(2)
「健康増進サービス認証機構(仮称)
」の創設
健康状態は年齢や体質、環境、生活習慣等、様々な要因によって影響
を受けており、健康増進の方法は個人個人によって異なる。健康増進に
係るサービスについては、既に様々なものが提供されているが、これら
は一般的なスポーツ活動あるいはサプリメント、機能性食品、その他の
鍼、マッサージ、エステティックなどの健康情報として提供されている
ケースが多く、個人個人の身体的特性・能力を科学的に分析・評価した
上で、これに応じた健康増進プログラムを提供している例は少ない。
今後、個人の健康増進活動を促進していくためには、科学的根拠に基
づくテーラーメイドの健康増進プログラムを提供していくことが不可欠
であり、そのための体制づくりが喫緊の課題である。
さらに、こうした科学的根拠に基づく健康増進プログラムを提供する
組織を育成・普及していくには、国民がこうした一定水準以上の健康増
進サービスを提供している機関であることを識別し、選択できる仕組み
が必要であり、こうした機関を中立的かつ適正に評価する体制の整備が
重要である。
このため、運動や食品などの健康増進サービスの評価・認証を行う第
三者機関として大学や医療関係機関等の専門家からなる「健康増進サー
ビス認証機構(仮称)
」の創設について早急に検討すべきである。
大学
協力
EBHに基づく健康サービスガイドライン
EBHに基づく健康サービスガイドライン
の作成、DB構築、情報提供
の作成、DB構築、情報提供
協力
医療機関
協力
福祉機関
人材育成及び資格の付与
人材育成及び資格の付与
サービス機関に対する評価・
認証
サービス機関に対する評価・
認証
申請
協力
認証
産業界
ウェルネス・コンソーシアム
健康サービ
(地方公共団体、医療機関、福
祉施設、大学、企業、保険者等) ス事業者
テーラーメイドサービス
健全な健康サービス
産業の振興
参 画
国
民
国
民
20
質の高い健康サービ
スによる健康維持・
増進
(健康管理指導プログラムの利用意向)
地方自治体、企業、健保組合に対し、健康診断結果から個人の発病リ
スクを予測したり、健康管理指導を行う健康管理指導プログラムの利
用意向を尋ねたところ、6割以上が何らかの形で関心を示しており、
こうしたサービスに対するニーズの高さが窺がえる。
0%
20%
全
体
(N=146)
企
業
(N= 28)
健保組合
(N= 67)
自 治 体
(N= 51)
15.8
7.1
40%
60%
10.3
40.4
21.4
20.9
13.7
11.8
4.8
39.3
4.5
100%
28.8
7.1
47.8
31.4
80%
25.0
3.0
5.9
23.9
37.3
効果が高ければ保健事業として採用を検討したい
個人に紹介することはあろうが、組織での採用は難しい
多少は関心がある
利用したくない、興味がない
わからない、どちらとも言えない
(3)健康技術(ヘルスケアテクノロジー)の開発促進
我が国では現在、医療機関に行かなければメディカルサポートを
受けられないため、必ずしも医学的知識が豊富とは言えない個人が
継続的に適切な健康管理等を行うことは困難である。このため、日
常的に身体・生体情報を低侵襲でモニタリングする健康モニター機
器や、そのデータを医療機関等に送信するシステム等を開発するこ
とにより、自宅に居ながらにして適切な健康指導等を受けることが
可能になると考えられる。すでに、光学式血糖値測定器、DNA
チップ等代表的な生活習慣病である糖尿病や高脂血症の兆候データ
をモニターする機器や、機器相互間の円滑なデータ伝送を保証する
インターフェイス機器等の研究開発が進められているが、実用化に
当たっては、安全性、信頼性、有効性等について十分配慮すること
が必要である。このため、産業界、学会等と協力して標準化を進め
るとともに、利用者向けのガイドラインの整備等について検討する
ことが重要である。さらに、地方自治体の健康診断情報データ、電
子カルテ等の医療情報システム、介護事業支援情報システム等の
データの相互利用を促進するため、プロトコルの標準化の検討が必
要である。
21
ナノピラー構造ユニット
超小型マルチセンサー
超小型マルチセンサー
前処理
直径200nm
抽出・
精製
反応
検出
健康モニター機器
目標スペック
○検査項目:10 µL
の血液で 30項目
の検査
○時間:
20 分
○開業医、患者本
人による計測
3.健康サービス産業協議会(仮称)の設立
国民の健康意識を向上させ、地域における健康サービス提供体制を構
築していくためには、健康サービスに関する最新の学問的知見や新たな
技術、地域における先進的事例等の情報交流を円滑化し、様々なビジネ
ス機会を作っていくこと、並びに国民の健康意識の向上に資する事業の
展開を図ることが有益である。このため、産業界、学会、教育機関、行
政が健康サービスに関する情報交換、普及啓発等を行う組織として「健
康サービス産業協議会(仮称)
」の設立を検討すべきである。
本協議会が実施する事業としては、健康分野における学術成果・最新
技術の発表会、シンポジウムの開催、全国的な健康増進イベントの企
画・開催等を行うことが考えられる。また、
「健康を楽しむ日」を創設
し、これらの事業を各地域において行うことも一案ではないか。
22
(参考)
健康サービス産業における雇用・市場規模・医療費抑制効果
(日本総合研究所試算)
推計値
2001年
市場規模
12兆円
雇用者数
200万人
医療費推計
30兆円
健康増進活動等の推進
による医療費抑制効果
2010年
20兆円
(×1.6 倍)
300万人程度
(×1.5 倍)
(厚生労働省推計42兆円)
38兆円
▲4兆円
(約 1 割抑制)
前提条件
・疾病予防・健康増進重視に向けた対策を速やかに実施
・2010年において、健診・健康支援費の国民総医療支出に対する割合が米国と
同水準に上昇(98年度現在:米国6.6%、日本2.8%)
・普及啓発事業により健康意識が高まり、各種スポーツ、栄養管理等の関連サービ
ス市場が拡大
・ 受診率は過去平均で、年率約△2%の伸び率を示しているが、健康増進活動によ
り2010年までの受療率が年率で▲1%抑制でき、1件あたりの医療費が大幅
に伸びないこと
健康サービス産業の範囲(公的保険給付は除く)
健診・健康支援、保健相談、健康関連情報システム、スポーツ、栄養
管理・リフレッシュ、健康商品流通
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