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Ⅰ.ギラン・バレー症候群

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Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
治 療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 13-1
13.治療総論
ギラン・バレー症候群の治療にはどのようなものがある
か
❶ギラン・バレー症候群に対する免疫調整療法として,①血漿浄化療法[単純血漿交換
法(PE)
,二重膜濾過法(DFPP)
,免疫吸着法(IAPP)
]
,②経静脈的免疫グロブリ
推
奨
ン療法(IVIg)がある(グレード A)
.
❷副腎皮質ステロイド治療は単独では行わない(グレード D)
.
❸ギラン・バレー症候群に対する補助・対症療法として,嚥下障害,呼吸不全,不整
脈,感染症,疼痛などに対する対症療法,さらに,肺炎,塞栓症(静脈血栓,肺塞栓)
などの予防療法,リハビリテーション療法などがある(グレード C1)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の治療は,疾患自体に対する積極的
な治療法,神経症候に対する補助・対症療法に分けられる.ここでは,主に積極的な治療法と
しての免疫調整療法について述べ,現在までの GBS 治療のエビデンスレベルの高い治療法,最
新の治療について紹介する.GBS に対する補助・対症療法については別項に譲る(17.支持療
法)
.
■ 解説・エビデンス
GBS に対する積極的な治療法として,歴史的には副腎皮質ステロイド薬(経口,点滴)
,血漿浄
化療法[単純血漿交換法(plasma exchange:PE)
,二重膜濾過法(double filtration plasmaphresis:DFPP)
,免疫吸着法(immunoadsorption plasmapheresis:IAPP)
]
,経静脈的免疫グロブ
リン療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)がある.現在,副腎皮質ステロイド薬の単独治
療は無効とされ,血漿浄化療法と IVIg が行われている.
免疫調整療法としての血液浄化療法(アフェレシス)には血漿浄化療法と血球除去療法があり,
GBS の治療では血漿浄化療法が用いられ,血漿浄化療法には血漿交換法いわゆる PE と IAPP が
ある.
1)GBS に対する PE の有効性
1980 年代に PE に関する 2 つの大規模な多施設ランダム対照試験 RCT が行われ,プラセボ対
照試験の結果からその有効性が確立している.北米の RCT 1)
(1985 年)
(エビデンスレベル Ⅱ)
,
フランスの RCT 2)
(1987 年)
(エビデンスレベル Ⅱ)の試験結果,さらに GBS 649 例の治療成績
を検討した Cochrane レビュー 3)の結果がまとめられ,PE は対照療法群に比較し有意に優れて
いると結論した(エビデンスレベル Ⅰ)
.
82
13.治療総論
2)GBS に対する IVIg の有効性
IVIg に関して PE を対照とした 5 つの RCT が行われ 4〜8)
,GBS 536 例の結果から IVIg は PE に
比較し勝るとも劣らない治療法であると結論されている 9)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
3)GBS に対する副腎皮質ステロイド薬の有効性
副腎皮質ステロイド薬の有効性の検討は,対照治療群と比較した 587 例の 6 つの RCT が行わ
れ,明らかな治療効果はないと結論している 10)(エビデンスレベル Ⅰ)
.少なくとも経口・点滴
静注副腎皮質ステロイド薬の単独療法は RCT の結果から無効と判断した.
4)その他,最近の治療法
GBS に対する最近の比較対照試験を紹介する.インターフェロン β -1a 11),BDNF(brainderived neurotrophic factor)12)
,脳脊髄液濾過療法(CSF filtration)13)の治療報告があるが,いず
れも明らかな治療効果を認めていない.有効性を認めたものとして中国の薬草 tripterygium
polyglycoside による治療報告 14)があるが(エビデンスレベル Ⅱ)
,今後,多数例での検討が必
要である.
さらに,症例報告ではミコフェノール酸モフェチル 5)
,アザチオプリン 16)
,シクロホスファミ
ド 17)
,OKT3 モノクローナル抗体 18)などの治療報告があるが,いずれも明らかな効果を認めて
いない.
■ 文献
1) The Guillain-Barré syndrome Study Group. Plasmapheresis and acute Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1985; 35: 1096–1104.
2) French Cooperative Group on Plasma Exchange in Guillain-Barré syndrome. Efficiency of plasma
exchange in Guillain-Barré syndrome: role of replacement fluids. Ann Neurol. 1987; 22: 753–761.
3) Raphaël JC, Chevret S, Hughes RAC, et al. Plasma exchange for Guillain-Barré syndrome. (Review),
Cochrane Database Syst Rev. 2002; (2): CD001798.
4) van der Meché FGA, Schmitz PIM and the Dutch Guillain–Barré Study Group. A randomized trial comparing intravenous immune globulin and plasma exchange in Guillain-Barré Syndrome. N Engl J Med.
1992; 326: 1123–1129.
5) Bril V, Ilse WK, Pearce R, et al. Pilot trial of immunoglobulin versus plasma exchange in patients with
Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1996; 46: 100–103.
6) Plasma Exchange/Sandoglobulin Guillain-Barré Syndrome Trial Group. Randomized trial of plasma
exchange, intravenous immunoglobulin, and combined treatments in Guillain-Barré syndrome. Lancet.
1997; 349: 225–230.
7) 野村恭一,濱口勝彦,細川 武ほか.Guillain-Barré 症候群に対する免疫グロブリン療法と血漿交換療法
とのランダム割付け比較試験.神経治療学. 2001; 18: 69–81.
8) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al. Study Group. A preliminary, randomized, multicenter study comparing intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol. 2001; 46: 107–109.
9) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Intavenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2010, 16; (6): CD002063.
10) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Corticosteroids for Guillain-Barré syndrome. Cochrane Database
Syst Rev. 2010: CD001446.
11) Pritchard J, Gray IA, Idrissova ZR, et al. A randomized controlled trial of recombinant interferon-beta 1a
in Gullain-Barré syndrome. Neurology. 2003; 61: 1282–1284.
12) Bensa S, Hadden RD, Hahn A, et al. Randomized controlled trial of brain-derived neurotrophic factor in
Guillain-Barré syndrome: a pilot study. Eur J Neurol. 2000; 7: 423–426.
83
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
13) Wollinsky KH, Hülser PJ, Brinkmeier H, et al. CSF filtration is an effective treatment of Guillain-Barré syndrome: a randomized clinical trial. Neurology. 2001; 57: 774–780.
14) Zhang X, Xia J, Ye H. Effect of Tripterygium polyglycoside on interleukin-6 in patients with Guillain-Barré
syndrome. Zhongguo Zhong Xi Yi Jie He Za Zhi. 2000; 20: 332–334. (Chinese.)
15) Garssen MP, van Koningsveld R, van Doorn PA, et al. Treatment of Guillain-Barré syndrome with
mycophenolate mofetil: a pilot study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007; 78: 1012–1013.
16) Yuill GM, Swinburn WR, Liversedge LA. Treatment of polyneuropathy with azathioprine. Lancet. 1970; 2
(7678): 854–856.
17) Ahuja GK, Mohandas S, Virmani V. Cyclophosphamide in Landry-Guillain-Barré syndrome. Acta Neurologica. 1980; 2: 186–190.
18) Feasby TE. Treatment of Guillain-Barré syndrome with anti-T cell monoclonal antibodies. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1991; 54: 51–54.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[MAJR] AND ("Meta-Analysis"[PT] OR "Randomized Controlled Trial"[PT]
OR "Controlled Clinical Trial"[PT] OR "Review"[PT])
検索結果 106 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/MTH and 治療
検索結果 338 件
84
Clinical Question 13-2
13.治療総論
どのようなギラン・バレー症候群に免疫調整療法を考慮
するか
❶ギラン・バレー症候群発症早期であれば,免疫調整療法[血漿浄化療法,経静脈的免
疫グロブリン療法(IVIg)
]は有効な治療法である(グレード A)
.
①ギラン・バレー症候群早期(発症 1〜2 週以内)
重症度が FG 4(中等症)以上の症例では積極的に免疫調整療法を施行する(グ
レード A)
.
重症度が FG 3(軽症)であるが,症状が進行性の症例では免疫調整療法を施行す
る(グレード B)
.
重症度が FG 2 以下(軽症)の症例では免疫調整療法を考慮する(グレード C1)
.
②ギラン・バレー症候群活動期(発症 2〜4 週以内)
推
奨
重症度が FG 4 以上の症例では積極的な免疫調整療法を施行する(グレード B)
.
重症度が FG 3 以下の症例では免疫調整療法を考慮する(グレード C1)
.
③ギラン・バレー症候群回復期(発症 4 週以降)
無治療の症例で,FG 3 以上では免疫調整療法を考慮してよい(グレード C1)
.
一般に,発症 8 週以降,あるいは後遺症に対する免疫調整療法の適応はない(グ
レードなし)
.
④免疫調整療法の治療後
症状が悪化,あるいは症状の改善を認めない症例では再度の免疫調整療法を考
慮する(グレード C1)
.免疫調整療法を施行し,症状の改善を認めたが,再び
Ⅰ
回復期に症状が悪化した場合では免疫調整療法を再度施行する(グレード B)
.
治
療
保険適用:血漿浄化療法は,Hughes の機能グレード尺度で FG 4*以上の場合に限り,当該療
法の実施回数は,一連の病態につき月 7 回を限度として,3 ヵ月間に限って算定する.
経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)は,急性増悪期で歩行困難な重症例に適応される.
■ 背景・目的
一般にギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)は,予後良好な疾患といわれ
るが,人工呼吸管理を必要とする例,重篤な後遺症を残す例もあるため,早期からの治療開始
が望まれる.免疫調整療法の適応は,GBS 症例の重症度,発症からの治療開始までの経過,個々
の症例の臨床的状況などを考慮して判断する.
発症 2 週以内の重症度 FG 4(中等症)以上の GBS に対して,血漿浄化療法,経静脈的免疫グロ
FG 4:ベッド上あるいは車椅子に限定(支持があっても 5 m の歩行は不可能)
*
85
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
ブリン療法(IVIg)などの免疫調整療法の有効性は,多くの RCT の結果から確立している.しか
し,GBS に対する副腎皮質ステロイド薬単独治療の有効性は否定されている.発症 2 週以内の
軽症 GBS,発症 4 週以降の GBS,治療抵抗性 GBS に対する免疫調整療法の明らかなエビデンス
はない.ここでは,GBS 重症度と治療開始時期,免疫調整療法後の治療,治療抵抗性因子など
について紹介する.
■ 解説・エビデンス
GBS の免疫調整療法とは,血漿浄化療法と IVIg のことを意味する.GBS に対する免疫調整療
法として, 血漿浄化療法,IVIg は多くの RCT の結果からその有効性を認めている 1, 2)(エビデ
ンスレベル Ⅰ)
.一方,経口・大量副腎皮質ステロイド薬は RCT の結果から少なくとも単独療
法ではその有効性は否定されている 3)
.近年,IVIg は,簡便性,利便性から GBS の第一治療法
として選択されている.
■ 保険適用について
GBS に対する血漿浄化療法の保険適用は,Hughes の機能グレード尺度(FG)で 4 度以上の場
合に限りとされるが,日常臨床では FG 4*以下であっても,症状が進行性の GBS では血漿浄化
療法が施行されている.血漿浄化療法として,単純血漿交換法(PE)
,二重膜濾過法(DFPP)
,
免疫吸着法(IAPP)のいずれも適応される.一般に,血漿浄化療法は GBS 発症 7 日以内に施行
された場合では治療効果の高いことが知られ,さらに発症 1 ヵ月以内に施行すれば十分な有効
性が認められる 1)
.
GBS に対する IVIg は,急性増悪期で歩行困難な重症例に保険適用となる.一般臨床では IVIg
は急性増悪期(発症 2 週間以内)の機能グレード尺度 FG 4 以上,あるいは FG 3**以下であるが
進行性の GBS 症例に対して施行されている.
GBS の臨床経過を図 1 に示す.治療開始時期は早期,活動期,回復期に分けられる.免疫調
整療法を行い,いったんは症状の改善を認めたにもかかわらず,回復期において症状の悪化,
治療関連性変動(再燃)を認めることがある.
1)GBS 発症時期,重症度と免疫調整療法の適応
①GBS 早期(発症 1〜2 週以内)
機能グレード尺度 FG 4 以上(中等症)の症例では,IVIg,PE いずれも大規模 RCT の結果から
明らかな有効性を認めている 1, 2)(エビデンスレベル Ⅰ)
.重症度 FG 2 以下(軽症)の症例では,
免疫調整療法の明らかなエビデンスはない.しかし,わが国における IVIg の使用成績調査の結果 4)
では,治療開始 4 週間後の FG が 1 段階以上改善したものを有効と判断すると,治療前の重症
度 FG 3 群(歩行器,または支持があれば 5 m の歩行が可能)
,FG 4 群(ベッド上あるいは車椅子
に限定,支持があっても 5 m の歩行が不可能)では 82.5%,70.7%であり,治療前の重症度 FG 2
群(軽症:歩行器,またはそれに相当する支持なしで 5 m の歩行が可能)では 66.9%で,軽症群
においても IVIg が有効である可能性が示されている(エビデンスレベル Ⅳb)
.FG 3 以下(軽症)
FG 4:ベッド上あるいは車椅子に限定,支持があっても 5m の歩行が不可能
FG 3:歩行器,または支持があれば 5m の歩行が可能
*
**
86
13.治療総論
Functional Grade(FG)
早期
活動期
回復期
6
5
4
3
再燃
2
1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
経過(週)
図 1 GBS の臨床経過と重症度
の症例でも進行性の GBS 症例では免疫調整療法を考慮する.
②GBS 活動期(発症 2〜4 週間以内)
重症度 FG 4 以上の症例では,積極的な免疫調整療法を考慮する.GBS 発症 2 週以降に免疫調
整療法を開始しても有効性は認められる.PE は神経症状の出現後 30 日までに施行すれば,対
症療法に比較して有効である 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.同様に,IVIg においてもわが国の市
販後調査の結果 4)から,発症 2 週〜3 週後の治療開始した症例では約 71%,発症 3 週以降に治
療開始した症例でも 67%に改善を認めている 4)(エビデンスレベル Ⅳb)
.機能グレード尺度が
FG 3 以下の症例でも免疫調整療法を考慮する.
③GBS 回復期(発症 4 週以降)
無治療の GBS 症例で機能グレード尺度 FG 3 以上では積極的な免疫調整療法の施行が考慮され
る.しかし,このような症例では GBS の診断に誤りはないか,CIDP をはじめとする慢性多発
ニューロパチーなどを鑑別することが必要である 5)
.発症 4 週以降の GBS に対する免疫調整療
法に関するエビデンスはないが,この時期でも免疫調整療法を考慮する.発症 8 週以降あるい
は後遺症に対する免疫調整療法に関する報告はないが,この時期における免疫調整療法の適応
はないと思われる.
④免疫調整療法の治療後
すでに免疫調整療法を施行したにもかかわらず,症状が進行する症例,明らかな症状の改善
を認めない症例では,再度の免疫調整療法を考慮する 5)
.免疫調整療法後の再治療に関する RCT
はない.IVIg を施行したにもかかわらず,治療に反応しない症例では,病勢が進行性である時
期に治療を行ったために十分な治療効果が得られなかったものと理解でき,このような場合で
は再度の IVIg を施行する 6)
.また,血漿浄化療法においても同様な状況が考えられる.
免疫調整療法を施行し,いったんは症状の改善を認め,回復期に症状が悪化した場合,治療
関連性変動(再燃)では免疫調整療法を再度施行する 7)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.PE では 0.6%,
IVIg では 0.53%に再燃を認めている(IVIg 再投与の CQ 15–4 を参照)
.
87
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
2)GBS の重症化予測因子
GBS の重症化予測因子として,高齢発症,下痢の先行,電気生理学的に軸索障害,発症早期
から球麻痺を伴う症例などがあり 8)
(エビデンスレベル Ⅳa)
,早期から積極的な免疫調整療法を
考慮する.
※参考
GBS の重症度の指標として,Hughes の functional grade scale(機能グレード尺度)が使用さ
れる(
「序」表 4 参照)
.
■ 文献
1) Raphaël JC, Chevret S, Hughes RAC, et al. Plasma exchange for Guillain-Barré syndrome (Review),
Cochrane Database Syst Rev. 2002; (2): CD001798.
2) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Intavenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2010, 16; (6): CD002063.
3) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Corticosteroids for Guillain-Barré syndrome. Cochrane Database
Syst Rev. 2010: CD001446.
4) 濱口勝彦,野村恭一.ギラン・バレー症候群における献血ベニロン-I の使用成績調査—中間報告—.診療
と新薬. 2006; 43: 1175–1190.
5) Winer JB. When the Guillain-Barré patient fails to respond to treatment. Pract Neurol. 2009; 9: 227–230.
6) Fareas P, Avnun I, Fisher S, et al. Efficacy of repeated intravenous immunoglobulin in severe unresponsive Guillain-Barré syndrome. Lancet. 1997; 350: 1747.
7) Kleyweg RP. van der Meche FG. Treatment related fluctuations in Guillain-Barré syndrome after highdose immunoglobulins or plasma-exchange. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1991; 54: 957–960.
8) The Italian Guillain-Barré Study group. The prognosis and main prognostic indicators of Guillain-Barré
syndrome: a multicentre prospective study of 297 patinets. Brain. 1996; 119: 2053–2061.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Adrenal Cortex Hormones"[Mesh] OR "Immunoglobulins,
Intravenous"[Mesh] OR "Immunotherapy"[Mesh] OR "Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh])
検索結果 410 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and (副腎皮質ホルモン/TH or Immunoglobulins/TH or 免疫療法/TH or 血
漿交換/TH or プラスマフェレーシス/TH)
検索結果 385 件
88
Clinical Question 13-3
13.治療総論
血漿浄化療法と経静脈的免疫グロブリン療法のどちらを
選択すべきか
❶ギラン・バレー症候群では,発症早期から治療を開始すれば,血漿浄化療法(主に単
純血漿交換法:PE)
,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)のいずれも有効な治療法
推
奨
である(グレード A)
.
❷ギラン・バレー症候群の治療法の選択は,患者の全身状態,医療施設の状況,治療
法の実施手技の熟達度,副作用などにより選択する.わが国では,治療法の簡便性,
利便性から経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)が第一治療法として選択されること
が多い.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)では,発症早期に治療を開始すれば,
血漿浄化療法,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)のいずれも有効な治療法である.血漿浄化
療法あるいは IVIg のいずれの治療法を選択するかは,GBS 患者の全身状態,医療施設における
設備状況,治療法の実施手技の熟達度,治療法による副作用などにより選択する.ここでは IVIg
と血漿浄化療法(主に単純血漿交換法:PE)の相違を紹介し,個々の GBS の治療の選択に参考
にしてほしい.
Ⅰ
■ 解説・エビデンス
治
療
1)血漿浄化療法と IVIg の治療適応
現在までに GBS の治療に関する多くの多施設ランダム化比較対照試験(RCT)が行われ,GBS
の治療として血漿浄化療法,IVIg のいずれの治療法も有効性が確かめられ,これらの治療法は
ほぼ同等の治療効果を認めている 1, 2)
.しかし,近年では治療の簡便性,利便性から IVIg が第一
治療法として選択されている 3)
.
IVIg は,主に小児,高齢者,低体重,自律神経障害,循環不全,全身感染症を合併する症例
で選択され,一方,PE は,IgA 欠損症,腎不全,脳心血管障害の合併例で優先される 4)
.
2)血漿浄化療法と IVIg の適応禁忌(表 1)
GBS 自体に対する血漿浄化療法・IVIg の適応禁忌はないが,体外循環・血液製剤を使用する
ために GBS 症例の身体的な状態・合併症により適応禁忌が生ずる.
①血漿浄化療法の適応禁忌 5, 6)
ⅰ)絶対禁忌:①循環不全状態,②活動性の感染症,③出血傾向.
ⅱ)相対禁忌:①ACE 阻害薬を服用中(免疫吸着法)
,②妊娠の合併,③小児・高齢者(体重
89
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
表 1 血漿浄化療法と IVIg の適応と禁忌
血漿浄化療法
IVIg
循環不全状態にある患者
対象
×
○
活動性の感染症を合併する患者
×
○
出血傾向にある患者
×
○
△(IAPP)
○
小児・高齢者(40kg 以下の低体重)の患者
△
○
妊娠を合併する患者
△
○
ヒト免疫グロブリン過敏症
○
×
ACE 阻害薬を服用中の患者
IgA 欠損症
○
×
重篤な肝・腎不全を合併する患者
○
×
血漿浸透圧の上昇している患者
○
×
最近の深部静脈血栓症の既往のある患者
○
×
○:適応,△:慎重投与,×:禁忌,ACE:アンジオテンシン変換酵素
表 2 血漿浄化療法と IVIg のメリット・デメリット
メリット
デメリット
血漿浄化療法
明らかな改善例がある
早期から効果がある
特別な装置・専門技師が必要
費用が高価
治療時間が長い
太い静脈の血管確保が必要
精神的負担が多い
副作用の発現
IVIg
明らかな改善例がある
直ちに治療開始ができる
特別な装置・置換液は不要
太い血管確保は不要
精神的ストレスが少ない
費用が高価
副作用の発現
(文献 9 より引用改変)
40 kg 以下の低体重)など.さらに,自律神経障害の強い GBS 症例,特に不整脈,発作性の高血
圧,低血圧などを認める症例では血漿浄化療法の適応は限られる.
②IVIg の適応禁忌 7, 8)
ⅰ)絶対禁忌:ヒト免疫グロブリンに対してショックあるいは過敏性反応既往のある症例
ⅱ)相対禁忌:①IgA 欠損症,②重篤な肝・腎不全,脳・心血管障害などの循環不全の既往,③
高血清粘度の症例(脂質異常症,クリオグロブリン血症,高 γ –グロブリン血症,糖尿病など)
,④
最近の深部静脈血栓症の既往など.
3)血漿浄化療法と IVIg のメリット・デメリット(表 2)
血漿浄化療法,IVIg のメリット・デメリットを表 2 に示した.GBS 発症初期では,血漿浄化
療法と IVIg はいずれも有効な治療法である 1, 2)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.近年,IVIg は特別な設
備を必要とせず,直ちに治療が開始でき,患者の負担が比較的少なく,明らかな治療効果を認
めることから,中等症以上の GBS 症例では第一治療法として選択されている.
90
13.治療総論
4)血漿浄化療法と IVIg の副作用
単純血漿交換法(PE)の主な副作用は,低血圧,低蛋白血症,発熱・悪寒,異常凝固,血管確
保に伴う合併症,低 Ca 血症などである 1)
(詳細は単純血漿交換法の副作用[CQ 14–5]を参照)
.
IVIg の主な副作用は,頭痛,悪寒,無菌性髄膜炎,皮疹,悪心,腎不全(急性尿細管壊死な
ど)
,心筋・脳梗塞,悪心・嘔吐,髄膜症などがある 2)
(詳細は IVIg の副作用[CQ 15–3]を参照)
.
5)PE と IVIg の治療合併症の比較
PE と IVIg による治療合併症を比較すると,PE 治療群では肺炎,無気肺,血栓症などが IVIg
療法群よりも多く出現することが報告されている 10)
.また,IVIg の副作用の頻度は,PE よりも
.
少ないことが報告されている 10〜12)
6)PE と IVIg の再燃の比較
GBS に対して PE あるいは IVIg を行い,いったんは症状の改善を認めながら,約 10%の症例
では,回復期に再度,症状の悪化,治療関連性変動(再燃)を認めることがある 13)
.PE 治療群で
は 13/321 例(4%)に対し,対症療法群では 4/328 例(1.2%)であり PE 群で再燃が増加した 1)
.
IVIg 治療と PE 治療を比較した 3 つの RCT の検討では,PE 群 0.60%,IVIg 群 0.53%で 2 群間
に有意差は認めなかった(RR=0.89,0.42〜1.89)2)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
■ 文献
1) Raphaël JC, Chevret S, Hughes RAC, et al. Plasma exchange for Guillain-Barré syndrome (Review),
Cochrane Database Syst Rev. 2002; (2): CD001798.
2) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Intavenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2010, 16; (6): CD002063.
3) 西本幸弘,結城伸泰.Guillain-Barré 症候群に対する免疫グロブリン大量静注療法—健康保険適応後の治
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4) 神経免疫疾患治療ガイドライン委員会(編)
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91
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
13) Burns TM. Guillain-Barré Syndrome. Semin Neurol. 2008; 28: 152–167.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous"[Mesh] OR "Immunotherapy"[Mesh] OR "Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh])
検索結果 423 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and ((IgG/TH and 静脈内注入/TH) or 免疫療法/TH or 血漿交換/TH or プ
ラスマフェレーシス/TH)
検索結果 167 件
92
Clinical Question 14-1
14.血漿浄化療法
血漿浄化療法の種類とその特徴,治療メカニズムはどの
ようなものか
回
答
ギラン・バレー症候群に対する血漿浄化療法(アフェレシス療法)として,わが国で
は,①単純血漿交換法(PE)
,②免疫吸着法(IAPP)が主に用いられ,時に③二重膜
濾過法(DFPP)も選択される.血漿浄化療法の方法別の特徴を表 1 にまとめた.
■ 解説・エビデンス
1)血漿浄化療法の種類
血漿浄化療法(アフェレシス療法)は,血漿交換法と血漿吸着法(plasma adsorption:PA)に分
けられる.血漿交換法は,単純血漿交換法(plasma exchange:PE,single filtration plasmapheresis:SFPP)と二重膜濾過法(double filtration plasmapheresis:DFPP)とに分けられる.血
漿吸着法(PA)は,主に免疫吸着法(immunoadsorption plasmapheresis:IAPP)が用いられてい
る.
2)血漿浄化療法の特徴
表 1 にギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の治療に用いる血漿浄化療法
の治療法別の特徴を示した.
①単純血漿交換法(PE)1)
Ⅰ
単純血漿交換法(PE)は,患者から全血を採取し,血漿分離器を用いて血球成分と血漿成分に
治
療
分け,血球成分は生体に戻し,病因物質が含まれる血漿成分を取り除き,代わりにヒトアルブ
ミン製剤,新鮮凍結血漿(FFP)を置換する治療法である.血漿分離には遠心分離法と膜分離法
表 1 GBS に対する血漿浄化療法の特徴
単純血漿交換法
二重膜濾過法
血漿吸着法(TR350)
長所
確実な血漿処理能
操作が比較的簡潔
除去性能が高い
広範囲に除去が可能
高分子グロブリン除去
置換液の必要が少ない
広範囲に除去が可能
操作が比較的簡潔
選択的な抗体除去
置換液を必要としない
アルブミン喪失が少ない
短所
置換液を必要とする
置換液による副作用
血液製剤の感染リスク
グロブリン・アルブミン・フィ
ブリノゲンの喪失
操作が煩雑
目詰まりによる膜性能低下
置換液を必要とする
グロブリン・アルブミン・フィ
ブリノゲンの喪失
IgG2,4 の吸着能不良
処理量に上限がある
ブラジキニンショック
フィブリノゲンの喪失
治療効果 大規模 RCT で有効性
少数の比較対照試験による有 少数の RCT による有効性
効性
置換液
アルブミン
アルブミン,FFP
93
必要なし(自己血完結)
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
があり,最近では主に膜分離法が用いられている.
②二重膜濾過法(DFPP)2)
二重膜濾過法(DFPP)は,免疫グロブリンなどの高分子の病因物質を選択的に除去する目的に
開発された治療法で,アルブミンなどの低分子成分を体内に戻すことを可能とし,大量の置換
液を必要としないのが特徴である.患者から全血を採取し,血漿分離膜(一次膜)を用いて血球
成分と血漿成分に分け,さらに,孔径の小さな血漿分離膜(二次膜)に通して高分子の病因物質
を選択的に除去し,アルブミンなどの低分子成分を体内に戻すことを可能とした治療法である.
③血漿吸着法(PA)3)
血漿吸着法(PA)は,患者から全血を採取し,血漿分離器で分離した血漿に血漿アフィニティ
吸着剤を用いて自己抗体などの病因物質を吸着させて除去する治療法である.血漿吸着後に抗
体を含まない血漿を体内に戻すため,献血由来の血漿アルブミン製剤の補充の必要性がなく,
未知の病原体に感染する可能性はない.吸着法として生物学的吸着法と物理学的吸着法があり,
主に物理学的吸着が用いられる.トリプトファン(TR)
,フェニールアラニン(PH)などの疎水
性アミノ酸の疎水基を活性基として結合させるもので,活性基の持つ疎水結合や静電結合によっ
て自己抗体などの免疫グロブリンを選択的に吸着する治療法である.自己抗体の除去能にも優
れ,アルブミンの損失が少なく,置換液を必要としない.わが国では免疫吸着器として,イム
ソーバ TR350® ,イムソーバ PH350®(旭化成クラレメディカル)
,セレソープ®(カネカ)がある
が,神経疾患では主にイムソーバ TR350®が用いられている.血漿吸着法(PA)は,また免疫吸
着法(IAPP)とも呼ばれる.
3)血漿浄化療法の治療メカニズム
近年,免疫性神経疾患の治療として血漿浄化療法(アフェレシス療法)が用いられるが,その
治療メカニズムに関しては十分に解明されていない.従来,血漿浄化療法は血中の自己抗体を
除去する目的で施行され,主に抗体介在性神経疾患の治療法として重要な役割を演じてきた.
しかし,近年は抗体介在性疾患のみならず T 細胞介在性神経疾患においてもその適応が広がっ
ている.血漿浄化療法の主な作用機序として,病因物質の除去ならびに体外免疫調節機構が知
られている 4)
.
①血漿中の病因物質の除去
血漿浄化療法は血漿中の主に大分子量の病因物質,病態関連物質である自己抗体,各種のサ
イトカイン,ケモカイン,補体,免疫複合体などの免疫関連物質を除去する 5)
.
②体外免疫調節機構
血清サイトカインを除去することにより,生体内でのサイトカイン産生を調節し,活性化 T
細胞の抑制・NK 細胞の増加 6)
,Th1/Th2 バランスの改善 7)
,抑制性 T 細胞の活性化 8)による抗
体産生の抑制などによる体外免疫調節作用を有することが知られている.
■ 文献
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,秀潤社,東
京,Clinical Engineering 別冊,2010: 69–73.
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,秀潤社,東京,
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3) 中園和子,岩本ひとみ,古賀伸彦.吸着療法の基礎(種類と適応)
.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日
94
14.血漿浄化療法
本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,Clinical Engineering 別冊,2010: 119–124.
4) 野村恭一.神経疾患.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,
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■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh])
検索結果 189 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and (血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or プラスマフェレーシス/TH)
検索結果 146 件
Ⅰ
治
療
95
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 14-2
14.血漿浄化療法
血漿浄化療法はギラン・バレー症候群の治療に有用か
❶ギラン・バレー症候群発症早期であれば,血漿浄化療法は有効な治療法である(グ
レード A)
.
推
奨
❷単純血漿交換法(PE)は,プラセボ群と比較した RCT の結果から有効性が確立して
いる(グレード A)
.
❸免疫吸着法(IAPP)は,PE 治療群あるいは IVIg 治療群を対照とする少数の比較試
.
験の結果から単純血漿交換法(PE)とほぼ同等の治療効果を認める(グレード B)
❹二重膜濾過法(DFPP)は,少数例の有効な治療報告がある(グレード C1)
.
■ 背景・目的
1970 年代には,ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に対して,主に副腎皮
質ステロイド薬が使用され,症例によっては,症状の改善を認めたが,その治療効果については
疑問視されていた.1978 年,Brettle ら 1)が GBS に対する単純血漿交換法(PE)の有効性を最初に
報告して以来,PE が相次いで施行されるようになり,その有効性を示した症例報告が続いた.
その後,1980 年代には,GBS に対する PE の 2 つの大規模な多施設ランダム化比較対照試験
(RCT)が行われ,その有効性が確立した.ここでは GBS に対する血漿浄化療法のエビデンスレ
ベルの高い RCT を主に紹介する.
■ 解説・エビデンス
GBS に対する PE の有効性は,2 つの大規模な多施設ランダム化比較対照試験(RCT)によっ
て,その有効性が確立している.北米の RCT(1985 年)では,重症 GBS の 245 例(PE 群 122 例,
対照療法群 123 例)を対象とし比較検討,PE 群で人工呼吸器の離脱・歩行可能までの期間が有
意に短縮され,最終的な重症度も PE 群で有意に低く,結論として発症 7 日以内に PE を施行す
ることが重要であると報告した 2)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.フランスの RCT
(1987 年)では,GBS
の 220 例(PE 群 109 例,対照療法群 111 例)を対象とし,機能障害改善までの期間,人工呼吸器
使用期間,介助歩行・自力歩行までの期間,入院期間において,PE 群で有意に優れていると結
論した 3)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.
以下に GBS に対する血漿浄化療法の RCT 治療成績を詳細に検討したうえで,エビデンスレ
ベルについても検証し,紹介する.
96
14.血漿浄化療法
1)GBS における単純血漿交換法(PE)の治療成績
近年,GBS の PE の 6 つの RCT 2〜7)
,GBS 649 例の治療成績を検討した Cochrane レビュー 8)
が,まとめられ,PE の有効性が確認された(表 1)
.
表 2 にその解析結果をまとめた.対照群と PE 群との比較では,介助歩行可能になるまでの
期間は,対照群 44 日に対し PE 群 30 日と短縮(p<0.01)
,介助なしで歩行が可能となるまでの
期間は,対照群 85,111 日に対し,PE 群 53,70 日と有意に短縮(p<0.001,p<0.001)
,運動障
害が回復し始める時期は,対照群 10 日(n=111)
,PE 群 6 日(n=109)と短縮(p<0.00001)
,PE
治療 4 週後の回復率(p<0.00001)
,改善度(p<0.001)
,人工呼吸器の使用率(p=0.00001)の検討
でも,対照群に比較し有意な改善を示した.さらに,1 年後の完全運動回復率(p=0.005)
,重篤
な後遺症の頻度(p=0.03)では PE 群でより良好な結果を得ている.PE 群では治療後 2〜3 週に
4%で再発を認め,死亡率に関して 2 群間に有意差はなかったと結論している(エビデンスレベ
ル Ⅰ)
.
表 1 GBS に対する単純血漿交換法(PE)の RCTs
発表者 年代
PE
症例数
1984
対照療法
症例数
PE 治療
有効性
臨床試験方法
エビデンス
レベル
Greenwood
4)
14
15
RCT,多施設,open,2 群間
有効
Ⅱ
Osterman
5)
1984
18
20
RCT,多施設,open,2 群間
有効
Ⅱ
McKhann
2)
1985
Ⅱ
122
123
RCT,多施設,open,2 群間
有効
1987
13
13
RCT,単施設,open,2 群間
有効
Ⅱ
3)
1987
109
111
RCT,多施設,open,2 群間
有効
Ⅱ
7)
1997
45
46
RCT,多施設,open,2 群間
有効
Ⅱ
321
328
RCT,多施設,open,2 群間
有効
Ⅰ
Farkkila
6)
Raphael
Raphael
CochraneRev
8)
2002
表 2 GBS に対する単純血漿交換法(PE)の RCTs による Cochrane レビュー
介入効果
RCT 数
PE 群
対照群
介助歩行までの回復時間
軽症 GBS
2
30 日
12 日
44 日
14 日
運動回復までの時間
軽症 GBS
1
介助なし歩行までの回復時間
2
53 日
70 日
障害度の改善割合(症例数)
無作為化 4 週間後
5
176/308
平均的障害度の改善(FG)
無作為化 4 週間後
5
1.1
0.4
人工呼吸器例の割合(症例数)
無作為化 4 週間後
6
44/308
85/315
筋力完全回復の割合(症例数)
1 年後
5
135/199
死亡症例の割合(症例数)
1 年後
6
15/321
18/328
RR:0.86,95% CI:0.45 ∼ 1.65
0.65
重篤な後遺症例の割合(症例数)
1 年後
6
35/321
55/328
RR:0.65,95% CI:0.44 ∼ 0.96
0.03
再発の割合(症例数)
1 年後
6
13/321
4/328
RR:2.89,95% CI:1.05 ∼ 7.93
0.04
(
6日
10 日
109)(
111)
(文献 8 より)
97
85 日
111 日
0.01
0.80
0.00001
0.001
0.001
110/315 RR:1.64,95% CI:1.37 ∼ 1.96
0.00001
0.001
RR:0.53,95% CI:0.39 ∼ 0.74
0.00001
112/205 RR:1.24,95% CI:1.07 ∼ 1.45
0.005
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
さらに,米国アフェレシス学会(American Society for Apheresis:ASFA)の Apheresis Applications Committee によるエビデンスレベルに基づくアフェレシス療法のガイドライン 9)
(2010 年)
では,GBS に対する PE はカテゴリー Ⅰに属し,PE が第一治療として選択され,その推奨グ
レードは A(強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる)としている.
2)GBS に対する免疫吸着法(IAPP)の有効性
GBS に対する血漿浄化療法の大規模 RCT での有効性の検討は,そのほとんどが PE に関する
ものである.一方,免疫吸着法(IAPP)の有効性検討は,対照療法群と比較した大規模 RCT は
なく,少数の RCT と多数の PE 群あるいは IVIg 群を対照とした比較試験である.それらの検討
では有効性を認めている.表 3 に GBS に対する IAPP の主な治療報告を示した.
Haupt ら(1996 年)は,GBS 45 例を IAPP 群 13 例,PE 群 11 例,IAPP+IVIg 群 21 例に分け
て比較検討し,PE 群と IAPP 群とに治療効果に有意差がなかったと報告している 13)
(エビデン
.Diener ら(2001 年)は,多施設 RCT を施行,IAPP 群 18 例,PE 群 26 例,IVIg
スレベル Ⅲ)
群 23 例の有効性を比較検討,4 週後の 1 段階 FG 改善率は IAPP 群 7/14 例(50%),PE 群
15/21 例(71%)
,IVIg 群 16/20 例(80%)で 3 群間に有意差なく,さらに,6・12 ヵ月後の FG,
1FG 改善までの期間,気管内挿管の期間,入院期間,副作用の出現頻度においても,3 群間に
有意差を認めなかったと報告している 14)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.その他,Okamiya ら 16)
(2004
年)
,Seta ら 17)
(2005 年)
,Andreja ら 18)
(2009 年)の治療報告を含め,IAPP は PE と同様な治療
効果を示したと報告している(エビデンスレベル Ⅳb)
.また,IAPP は PE に比較し副作用が少
なく,血液製剤を使用しないことから GBS の治療として推奨している.
表 3 GBS に対する免疫吸着法(IAPP)の主な治療報告
報告者 年
IAPP
PE
症例数 症例数
他治療
症例数
IAPP の評価
エビデンス
レベル
高 10)1994
11 例
8例
自然経過 11 例
PE と同様に有効.7 日以内で
あればより有効
Ⅳb
桑原 11)1996
10 例
23 例
非施行 37 例
IAPP/PE(DFPP)は非施行群
に比べ有意な改善
Ⅳb
荒木 12)2000
14 例
対照群なし,PE の RCT と比
較し有効
Ⅳb
Haupt
13 例
11 例 IAPP + IVIg 21 例 IAPP と PE に有意差なし,有
効 IAPP + IVIg はより有効
18 例
26 例
13)
Diener
Takei
14)
15)
Okamiya
Seta
Marn
1996
17)
2001
2002
Ⅱ
対照群なし,RCT と比較し有
効
Ⅳb
3 群間に有意差なく,有効
IAPP では副作用が少ない
Ⅳb
3例
2005
39 例
14 例
IVIg 10 例
3 群間に有意差なく,有効
Ⅳb
2009
9例
5例
IAPP + PE 5 例
PE と同様に有効,重症 GBS
Ⅳb
IVIg 27 例
IVIg は IAPP に比較し予後良
好であった
Ⅳb
IAPP + IVIg 20 例 重症 GBS では IVIg と同等に
有効
Ⅳb
18)
橋詰 19)2009
23 例
Galldiks
10 例
20)
2009
DFPP 11 例
3 群間に有意差なく,有効
20 例
16)
2004
IVIg 23 例
21 例
Ⅲ
98
14.血漿浄化療法
3)GBS に対する二重膜濾過法(DFPP)の有効性
二重濾過法(DFPP)の有効性を対症療法群と比較した RCT はない.GBS に対する DFPP の有
効性を検討した症例報告 16, 22, 23)は少数に認められ,表 4 に DFPP の有効性を PE あるいは IAPP
を対照とした 2 つの比較試験と症例報告の結果を示した.いずれの報告も DFPP 群は PE 群に比
べほぼ同等の治療効果を認めている.しかし,DFPP は PE,IAPP に比較して操作が煩雑であ
り,置換液を必要とすることから,GBS の治療法としてわが国ではあまり用いられていないの
が現状である.
Tagawa ら 23)は GBS の DFPP と PE における免疫グロブリン,ガングリオシド抗体の除去能
を検討,DEPP は PE に比較し,IgG,抗体除去能は明らかに劣っているが,抗体の除去能と臨
床改善度とは相関しないことを報告している.
表 4 GBS に対する二重膜濾過法(DFPP)の主な治療報告
報告者・年
DFPP
症例数
1999
16 例
Chen
Lyu
21)
22)
2002
Okamiya
16)
2004
PE
症例数
63 例
39 例
11 例
3例
IAPP
症例数
20 例
DFPP の評価
エビデンス
レベル
対照群なし.PE の RCT と比較し,
同等の効果
Ⅳb
PE > DFPP:効果発現,改善度,
長期的な改善度に有意差なし
Ⅳb
3 群間に有意差なく,DFPP も有効
Ⅳb
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13) Haupt WF, Rosenow F, van der Ven C, et al. Sequential treatment of Guillain-Barré syndrome with extra-
99
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
corporeal elimination and intravenous immunoglobulin. J Neurol Sci. 1996; 137: 145–149.
14) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al; Study Group. A preliminary, randomized, multicenter study comparing intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol. 2001; 46: 107–109.
15) Takei H, Komaba Y, Araki T, et al. Plasma immunoadsorption therapy for Guillain-Barré syndrome: critical day for initiation. J Nihon Med Sch. 2002; 69: 557–563.
16) Okamiya S, Ogino M, Ogino Y, et al. Tryptophan-immobilized colum-based immunoadsorption as the
choice method for plasamapheresis in Guillain-Barré syndrome. Ther Apher Dial. 2004; 8: 248–253.
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18) Marn Pernat A, Buturovi -Ponikvar J, Svigelj V, et al. Guillain-Barré syndrome treated by membrane plasma exchange and/or immunoadsorption. Ther Apher Dial. 2009; 13: 310–313.
19) 橋詰 淳,藤岡祐介,辻本昌史ほか.Guillain-Barré 症候群に対するヒト免疫グロブリン大量静注療法と
血液浄化療法の有効性比較—ヒト免疫グロブリン大量静注療法の早期治療開始の利点—.神経治療. 2009;
26: 61–67.
20) Galldiks N, Dohmen, Neveling M, et al. Selective immune adsorption treatment of severe Guillain-Barré
syndrome in the intensive care unit. Neurocrit Care. 2009; 11: 317–321.
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22) Lyu RK, Chen WH, Hsieh ST. Plasma exchange versus double fitration plasamapheresis in the treatment
of Guillain-Barré syndrome. Ther Apher. 2002; 6: 163–166.
23) Tagawa Y, Yuki N, Hirata K. Ability to remove immunoglobulin and antiganglioside antibodies by double
filtration plasamapheresis in Guillain-Barré syndrome: is it equivalent to plasma exchange? Ther Apher.
1997; 1: 336–339.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Plasmapheresis"[Mesh] OR"Plasma Exchange"[Mesh] OR
"Immuno
検索結果 209 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
(Guillain-Barré 症候群/TH or ギラン・バレー症候群) and 治療 and (血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or プラス
マフェレーシス/TH or 免疫吸着法/TH)
検索結果 185 件
100
Clinical Question 14-3
14.血漿浄化療法
血漿浄化療法のいずれの治療法を選択すべきか
❶ギラン・バレー症候群の血漿浄化療法の治療法として,血漿交換法[①単純血漿交換
推
奨
法(PE)
,②二重膜濾過法(DFPP)
]および血漿吸着法[③免疫吸着法(IAPP)
]があ
るが,いずれも治療効果に明らかな有意差を認めない(グレード B)
.
❷血漿浄化療法の治療法の選択は,施設ごとの設備,治療法の熟練度により異なり,
施行側の成熟度の最も高い治療法を選択する.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に対する血漿浄化療法の大規模な多
施設ランダム化比較対照試験(RCT)での有効性の検討は,そのほとんどが血漿交換法(PE)に関
するものである.血漿浄化療法には,①単純血漿交換法(PE)
,②二重膜濾過法(DFPP)
,③免疫
吸着法(IAPP)があり,PE は大規模な RCT,IAPP は少数の RCT,DPFF は少数例の比較試験
によりその有効性が認められている.しかし,これら 3 つの治療法による有効性を比較した報
告はない.ここでは現在までの治療法の選択に関する現状を紹介する.
■ 解説・エビデンス
PE による GBS 治療の 6 つの RCT
Ⅰ
,GBS 649 例の治療成績を検討した Cochrane レビュー
1〜6)
(Cochrane Neuromuscular Disease Group Review)の結果
から,PE の有効性が確認された
7)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
IAPP の有効性の検討は,対症治療と比較した大規模 RCT はない.少数の RCT,PE あるい
は IVIg を対照とした多数の比較試験 8, 9)が行われ,PE 群と IAPP 群とに明らかな有意差はな
かったと報告している(エビデンスレベル Ⅱ)
.わが国では,その簡便性から PE と同様に多く
用いられている.
DFPP の有効性の検討は,対症治療と比較した大規模 RCT はない.DFPP の有効性を示した少
数の比較試験 10, 11)が行われ,DFPP は PE に比べほぼ同等の治療効果を認めている(エビデンス
レベル Ⅳb)
.
なお,本項の補足として CQ 14–1 の表 1 を参照してほしい.
1)血漿浄化療法の治療法による治療効果の比較
GBS に対する PE 有効性の検討は,6 つの RCT 1〜6)
,ならびに GBS 649 例の治療成績を検討し
た Cochrane レビュー 7)の結果から,その有効性が確認されている(エビデンスレベル Ⅰ)
.
101
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
①IAPP と PE の比較
GBS に対する IAPP の有効性の検討は,対症治療群と比較した RCT はない.少数の RCT,多
数の PE 群あるいは IVIg 療法を対照とした比較試験である.Haupt らは GBS 54 例を PE 群,
IAPP 群,IAPP+IVIg 治療群に分け,前向き比較試験を行い,IAPP 群と PE 群とに明らかな有
意差はなかったと報告している 8)
(エビデンスレベル Ⅲ)
.Diener らは GBS 67 例を PE 群 26 例,
IAPP 群 18 例,IVIg 群 23 例に分け RCT を施行,4 週後の運動障害改善率を比較した.その結
果,PE 群 71%,IAPP 群 50%,IVIg 群 80%で有効性を認め,統計学的にはこれら 3 群間に有
意差はなかったと報告している 9)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.
②DFPP と PE の比較
GBS に対する DFPP の有効性の検討は,対症治療群と比較した RCT はない.DFPP の有効性
を示した症例報告は少数に認められ,また PE あるいは IAPP を対照とした 2 つの比較試験 10, 11)
がある.いずれの報告も DFPP は PE に比べほぼ同等の治療効果を認めている(エビデンスレベ
.
ル Ⅳb)
2)血液浄化療法の治療法別の特徴と選択
GBS の治療に用いる血液浄化療法の方法別の特徴 12)は,CQ 14–1 の表 1 を参照.
GBS に対して,欧米では主に PE が行われ,IAPP,DFPP の施行は少ない.わが国では PE,
IAPP が行われ,DFPP の施行は少ない.しかし,近年では,わが国に限らずドイツ,台湾など
で,置換液を必要とせず比較的操作が簡単である IAPP が行われる頻度が高くなっている.
GBS に対する血漿浄化療法の治療法の選択は,施設の設備,治療法の熟練度により異なり,
施行側の成熟度の最も高い治療法を選択する.
3)保険適用
GBS に対する血漿浄化療法として,PE,IAPP,DFPP のいずれかを施行し,治療回数は 7 回/
月まで,一連の病態に対して 3 ヵ月間に限り適応となる.
日常臨床では,隔日 2〜3 回/週,2 週間まで施行する.
■ 文献
1) Greenwood RJ, Newsom-Davis J, Hughes RA, et al. Controlled trial of plasma exchange in acute inflammatory polyradiculoneuropathy. Lancet. 1984; 1 (8382): 877–879.
2) Osterman PO, Fagius J, Lundemo G, et al. Beneficial effects of plasma exchange in acute inflammatory
polyradiculoneuropathy. Lancet. 1984; 2 (8415): 1296–1299.
3) The Guillain-Barré syndrome study group. Plasmapheresis and acute Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1985; 35: 1096–1104.
4) Färkkilä M, Kinnunen E, Haapanen E, et al. Guillain-Barré syndrome: quantitative measurement of plasma exchange therapy. Neurology. 1987; 37: 837–840.
5) French cooperative group on plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Efficiency of plasma exchange
in Guillain-Barré syndrome: role of replacement fluids. Ann Neurol. 1987; 22: 753–761.
6) French cooperative group on plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Appropriate number of plasma exchanges in Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol. 1997; 41: 298–306.
7) Raphaël JC, Chevret S, Hughes RAC, et al. Plasma exchange for Guillain-Barré syndrome (Review),
Cochrane Database Syst Rev. 2002; (2): CD001798.
8) Haupt WF, Rosenow F, van der Ven C, et al. Sequential treatment of Guillain-Barré syndrome with extracorporeal elimination and intravenous immunoglobulin. J Neurol Sci. 1996; 137: 145–149.
9) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al; Study Group. A preliminary, randomized, multicenter study com-
102
14.血漿浄化療法
paring intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol.2001; 46: 107–109.
10) Lyu RK, Chen WH, Hsieh ST. Plasma exchange versus double fitration plasamapheresis in the treatment
of Guillain-Barré syndrome. Ther Apher. 2002; 6: 163–166.
11) Okamiya S, Ogino M, Ogino Y, et al. Tryptophan-immobilized colum-based immunoadsorption as the
choice method for plasamapheresis in Guillain-Barré syndrome. Ther Apher Dial. 2004; 8: 248–253.
12) 野村恭一.神経疾患.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,
Clinical Engineering 別冊,2010: 336–362.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh] OR
"Immunosorbent Techniques"[Mesh])
検索結果 209 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and (血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or プラスマフェレーシス/TH or 免疫
吸着法/TH)
検索結果 164 件
Ⅰ
治
療
103
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 14-4
14.血漿浄化療法
血漿浄化療法はどのように施行するのか
❶血漿浄化療法は,ギラン・バレー症候群急性期の治療として明らかな有効性を認め,
血漿交換法,免疫吸着法(IAPP)のいずれも保険適用となっている.
❷PE は,1 回の血漿処理量は 40〜50mL/kg,2 週間に 4〜5 回,置換液は 5%ア
ルブミン液を使用する.PE 至適回数は,発症 2 週間以内において,軽症例(5m 歩
推
奨
行可能)では PE 2 回,中等度症例(介助なしでは立位不能)および重症例(人工呼吸
器装着)では PE 4 回,重症例でも,6 回以上の必要はない(グレード B)
.
❸免疫吸着法(IAPP)は,1 回の血漿処理量(PV)は 1,500〜2,000mL(40〜50
mL/kg)
,2 週間以内に隔日 4〜5 回,症状によりさらに翌週に追加する(グレード
B)
.
保険適用:ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に対する血漿浄化療法は,
Hughes の機能グレード尺度で,FG 4*以上の場合に限り,単純血漿交換法(PE)
,二重膜濾過法
(DFPP)
,血漿吸着法(PA)のいずれも適応となる.当該療法の実施回数は,一連につき月 7 回
を限度として,3 ヵ月間に限って算定する.
■ 背景・目的
GBS 急性期において血漿浄化療法を具体的にどのように施行するかについて十分な検討は行
われていない.ここでは現在までの血漿浄化療法の治療開始時期,治療法別の血漿処理量,施
行回数,置換液,治療効果などについてまとめる.
■ 解説・エビデンス
GBS に対する PE は,システマティック・レビュー/メタアナリシスの結果から推奨レベルは
グレード A である.PE に関してはいくつかの多施設ランダム対照試験 RCT 1〜6)があり,治療開
始時期,血漿交換の回数,置換液の相違など示されている.PE の治療効果は,GBS の発症 30
日以内であれば有効とされるが,発症早期(7 日以内)に PE を開始すると,より高い治療効果が
得られる 7)
.GBS に対する IAPP の至適回数はほとんど検討されていないが,理論的には 1 回の
血漿処理量(PV)は 1,500〜2,000 mL(40 mL/kg)
,2 週間以内に隔日 4〜5 回が望ましい.この場
合,置換液は必要としない 8)
.IAPP は非ランダム化比較対照試験の結果 9, 10)から推奨レベルはグ
レード B である.
FG 4:ベッド上あるいは車椅子に限定(支持があっても 5 m の歩行は不可能)
*
104
14.血漿浄化療法
1)治療法別の装置・血漿処理量・血液流量・置換液
GBS に対する血漿浄化療法(主に PE)の治療効果は認められているが 7)
(エビデンスレベル Ⅰ)
,
血漿処理量,血液流量,置換液などに関する具体的な治療法について十分な検討は行われてい
ない.
以下に,日本アフェレシス学会の推奨を紹介する.
①単純血漿交換法(PE)11)
わが国では主に膜型血漿分離器を使用することが多い.
1 回の血漿処理量(PV)は,2,000〜4,000 mL(40〜50 mL/kg)で,多くは 3,000 mL 前後を目標
に行われる.血液ポンプ流量は,50〜150 mL/分,血漿分離ポンプ流量は血液ポンプ流量の 30%
以下に設定する.分離血漿を廃棄し,等量の置換液を補充する.
補塡液として抗凝固薬加生理食塩水,置換液は 5%ヒトアルブミン製剤あるいは新鮮凍結血
漿(FFP)を用いる.置換液である 5%ヒトアルブミン製剤と FFP の比較では,その有効性に有
意差を認めないが,FFP 使用では副作用の発現が多いため,5%ヒトアルブミン製剤の使用を勧
める(エビデンスレベル Ⅲ)
.
②二重膜濾過法(DFPP)12)
一次膜に血漿分離器,二次膜に血漿分画器を設置する.
1 回の血漿処理量(PV)は,血清 IgG の約 70%除去を目標とする.たとえば,体重 40 kg では
1,500〜2,000 mL,体重 50 kg では 2,000〜3,000 mL,体重 60 kg では 2,500〜3,000 mL が目標とな
る.
血液ポンプ流量は,50〜150 mL/分,血漿分離ポンプ流量は血液ポンプ流量の 30%以下に設
定する.
置換液はヒトアルブミン製剤を用いる.血漿分離器により廃棄される濃縮血漿量に応じた血
漿成分を補充する.
③免疫吸着法(IAPP)13)
血漿分離器,吸着カラム(神経疾患ではイムソーバ TR350®,イムソーバ PH350®,旭化成クラ
レメディカル)を使用する.
1 回の血漿処理量(PV)は,1,500〜2,000 mL(40 mL/kg)とする.血液ポンプ流量は,50〜100
mL/分,血漿処理量は,20 mL/分で行う.
病原性自己抗体の IgG サブクラスによって PV は変化し,IgG3 であれば 2,000 mL,IgG1 で
あれば 1,500 mL を目標とする.ガングリオシド抗体は主に IgG1,3 サブクラスに属するため,
TR350 カラム使用では血漿処理量 1,500〜2,000 mL までは抗体の脱着は生じない.置換液は必要
としない.
2)血漿浄化療法の処理回数
血漿浄化療法の処理回数は,通常,1 週間に 2〜3 回,隔日に施行し,患者の状況により,翌
週にさらに 2〜3 回施行する 8)
.
①PE の至適回数
フランス GBS グループは,556 例の GBS を軽症例(5 m 歩行可能)
,中等度例(介助なしでは
立位不能)
,重症例(人工呼吸器装着)の 3 群に分けて検討し,軽症例では PE 2 回施行により運
動障害改善までの期間が短縮,中等症例では PE 4 回施行により独歩までの期間が短縮,重症例
では PE 4 回と 6 回とに治療効果に有意差を認めなかった.以上の結果から,軽症例では PE 2
105
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
回,中等度症例および重症例では PE 4 回,重症例においても,6 回以上の PE の必要はないと報
告している 6)
(エビデンスレベル Ⅲ)
.
②IAPP の至適回数
IAPP の GBS に対する至適回数に関する検討は行われていない.従来,1 回の血漿処理量(PV)
は 1,500〜2,000 mL(40 mL/kg)として,2 週間以内に隔日 4〜5 回,症状によりさらに翌週に追
加する.
3)抗凝固薬 14)
血液浄化療法の施行にあたり,血液凝固を阻止する抗凝固薬の使用が不可欠である.凝固は
血漿分離前の血液凝固,血漿分離後の血漿凝固に分けられる.体外循環は凝固系を活性化し,
血小板活性化が重要な役割を演じる.膜分離用抗凝固薬として,ヘパリン(HP)
,低分子ヘパリ
ン(LMWH)
,メシル酸ナファモスタット(NM)などが用いられる.遠心分離用抗凝固薬として
はクエン酸ナトリウムを主とする ACD 液が用いられるが,現在,遠心分離法はあまり用いられ
ていない.
4)血漿浄化療法の禁忌 15)
血漿浄化療法の絶対的禁忌はない.体外循環を使用するため,以下の場合は相対的禁忌となる.
①出血症状:脳出血,肺出血,消化管出血,止血困難な部位の出血など
②循環不全状態:心不全,致死的な不整脈の合併など
③感染症:重篤な感染症など
④低体重:小児,高齢者などで体重が 40 kg 以下など.
しかし,最近では高性能の血漿分離器が開発され,低体重児でも対応可能となっている.
5)保険適用について
GBS に対する血液浄化療法は,Hughes の機能グレード尺度 FG 4 以上の場合に限り保険適用
となり,当該療法の実施回数は 7 回/月まで(一連の病態に対して 3 ヵ月間に限り)
.
血液浄化療法として,PE,IAPP,DFPP のいずれかを施行する.
保険適用では,FG 4 以上とされるが,発症から急速に進行する症例では,FG 3(歩行器,また
は支持があれば 5 m の歩行が可能)の状態でも施行が認められている.
■ 文献
1) Greenwood RJ, Newsom-Davis J, Hughes RA, et al. Controlled trial of plasma exchange in acute inflammatory polyradiculoneuropathy. Lancet. 1984; 1 (8382): 877–879.
2) Osterman PO, Fagius J, Lundemo G, et al. Beneficial effects of plasma exchange in acute inflammatory
polyradiculoneuropathy. Lancet. 1984; 2 (8415): 1296–1299.
3) The Guillain-Barré syndrome study group. Plasmapheresis and acute Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1985; 35: 1096–1104.
4) Färkkilä M, Kinnunen E, Haapanen E, et al. Guillain-Barré syndrome: quantitative measurement of plasma exchange therapy. Neurology. 1987; 37: 837–840.
5) French cooperative group on plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Efficiency of plasma exchange
in Guillain-Barré syndrome: role of replacement fluids. Ann Neurol. 1987; 22: 753–761.
6) French cooperative group on plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Appropriate number of plasma exchanges in Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol. 1997; 41: 298–306.
106
14.血漿浄化療法
7) Raphaël JC, Chevret S, Hughes RAC, et al. Plasma exchange for Guillain-Barré syndrome (Review),
Cochrane Database Syst Rev. 2002; (2): CD001798.
8) 野村恭一.神経疾患.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,
Clinical Engineering 別冊,2010: 336–362.
9) Haupt WF, Rosenow F, van der Ven C, et al. Sequential treatment of Guillain-Barré syndrome with extracorporeal elimination and intravenous immunoglobulin. J Neurol Sci. 1996; 137: 145–149.
10) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al; Study Group. A preliminary, randomized, multicenter study comparing intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol. 2001; 46: 107–109.
11) 松金隆夫.単純血漿交換法.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東
京,Clinical Engineering 別冊,2010: 69–73.
12) 山路 健.二重膜濾過法.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,
Clinical Engineering 別冊,2010: 74–77.
13) 中園和子,岩本ひとみ,古賀伸彦.吸着療法の基礎(種類と適応)
.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日
本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,Clinical Engineering 別冊,2010: 119–124.
14) 横地章生,秋澤忠男.抗凝固薬.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,
東京,Clinical Engineering 別冊,2010: 165–171.
15) 多発性硬化症治療ガイドライン作成委員会(編)
,日本神経学会・日本神経免疫学会・日本神経治療学会.
CQ2–4 血液浄化療法はどのように実施するか.多発性硬化症治療ガイドライン 2010,医学書院,東京
2010: 37–39.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh] OR
"Immunosorbent Techniques"[Mesh])
検索結果 209 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and (血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or プラスマフェレーシス/TH or 免疫
吸着法/TH)
検索結果 164 件
Ⅰ
治
療
107
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 14-5
14.血漿浄化療法
血漿浄化療法にはどのような副作用があるか
血漿浄化療法に伴う副作用は,①体外循環に起因する副作用(血漿分離器装置,ある
回
答
いは操作する手技的な問題)
,②補充液・置換液に起因する副作用,③その他に起因
する副作用に分けられる.
頻度の高い副作用は,①低血圧・hypovolemia(低循環血漿量)
,②蕁麻疹・アレ
ルギー,③悪心・嘔吐,④低 Ca 血症,⑤その他;発熱・悪寒・戦慄,ショック,
アナフィラキシー様反応,溶血などがある.
■ 解説・エビデンス
以下に,血漿浄化療法に伴う副作用を示す 1)
(表 1)
.
1)体外循環に起因する副作用
①ブラッドアクセス
血液流量は 50〜100 mL/分程度を目標とするため,血管確保は正中静脈,大腿静脈への穿刺
法が用いられるが,長期治療の必要性のある場合では鎖骨下静脈,内頸静脈にカテーテルを留
置する方法が選択される.副作用としては,穿刺部位の血腫,カテーテル血栓,気胸,凝固,
接続部位の漏れ・外れなどがある.
②抗凝固薬
抗凝固薬の過剰使用で出血傾向,過少使用で回路や膜の凝固による血漿分離効果の低下,ク
表 1 血漿浄化療法に伴う副作用
体外循環に起因する副作用
ブラッドアクセス
穿刺部位の血腫,カテーテル血栓,気胸,接続部の外れ
抗凝固薬
出血傾向,回路の凝固など
血漿分離膜,回路
IL‒1 産生(発熱,血管拡張),ブラジキニン(血圧低下)
有効循環血漿量の低下
浸透圧低下,アルブミン低下など
その他
空気塞栓,低体温,溶血など
補充液・置換液に起因する副作用
感染症
血液製剤による感染症(HBV,HCV,HIV,HTLV‒1 など)
クエン酸反応
Ca 血症,代謝性アルカローシスなど
アナフィラキシー反応 低ショック,蕁麻疹,発熱,悪心,嘔吐など
その他に起因する副作用
その他
ホルモン,ビタミンの喪失など
(文献 1 より引用改変)
108
14.血漿浄化療法
エン酸ブドウ糖(ACD)液の使用で低 Ca 血症,代謝性アルカローシス,ヘパリン起因性血小板
減少症(HIT)などの問題が生じることがある.
③血漿分離膜・回路などの機材
血漿分離膜の素材によって補体は活性化し,インターロイキンを産生して発熱,血管拡張,
血圧低下をきたすことがある.
④有効循環血漿量の低下
体外循環回路に血液が引き込まれ,回路内の生理食塩液が血管内に入り,血中アルブミン濃
度が低下する.そのため,浸透圧が低下して血管内の水分が血管外に移動,血管内濃縮が起こ
り有効循環血漿量が低下する.
⑤その他
空気塞栓,低体温,溶血などがある.
2)置換液・補充液に起因する副作用
①感染症
臨床に供給される血液製剤はスクリーニング検査を通過したものであるが,まれに HBV,
HCV,HIV に感染する場合もあり,HTLV–I,EB ウイルス,ヒトパルボウイルス B19 などに感
染する危険性は完全に否定できない.
②クエン酸反応
新鮮凍結血漿(FFP)中には抗凝固薬である CPD 液あるいは ACD 液が含まれるため,多量に
投与すると血中 Ca イオンがキレートされ,低 Ca 血症に陥ることがある.また,クエン酸は代
謝されて重炭酸となり代謝性アルカローシスを生ずることがある.クエン酸中毒では,初期に
口・四肢末梢のしびれ,こわばり,悪心,嘔吐,さらに重症化すると痙攣,意識障害をも生じ
ることがある.
③ショック・過敏症
まれにショック症状や呼吸困難,胸内苦悶,皮膚紅潮,血管浮腫,喘鳴などのアナフィラキ
シー反応を生じる.
Ⅰ
治
療
④濃度的不均衡
循環血漿量の増加・低下などのバランス破綻が生じた場合,置換液蛋白濃度と患者血漿蛋白
濃度との差異が生じた場合,膠質浸透圧の変動が顕著となり,循環血漿量の急激な増加・減少
により血圧上昇,低下,肺水腫,心不全を生じることがある.
⑤その他
FFP の蛋白変性,輸血に関連した急性肺障害,輸血後紫斑病などがある.
3)その他に起因する副作用
頻回の血漿交換療法を施行すると,ホルモン,ビタミン B12,B6,A,C,E,服薬中の薬剤な
どが喪失する.
4)血液浄化療法による頻度の高い副作用
①低血圧・hypovolemia(低循環量)
,②蕁麻疹・アレルギー,③悪心・嘔吐,④低 Ca 血症,
⑤その他:発熱・悪寒・戦慄,ショック,アナフィラキシー様反応,溶血などがある 2, 3)
.
その他の副作用として,頭痛,貧血,気分不快,顔色不良,ほてり,胸痛,腹痛,下痢,血
109
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
圧上昇,咳,呼吸困難,眼瞼浮腫,心悸亢進,頻脈,徐脈,不整脈,めまい,異常発汗,感覚
異常,振戦,耳鳴り,発疹,痒みなどを認めるが,これらはいずれも一時的で軽微なものが多
い 2, 3)
.
5)疾患・治療法別の副作用
免疫性神経疾患(主に重症筋無力症,多発性硬化症,視神経脊髄炎,CIDP,GBS など)に対
する単純血漿交換法(PE)の副作用は,ブラッドアクセスに伴うもの,悪心,低血圧,貧血,し
.一方,免疫吸着法(IAPP)では置換・補充液を使用しないため PE に比較し
びれなどがある 4〜7)
て副作用の出現は少ない.
GBS に対する IAPP の副作用は,主に体外循環に起因するもので血圧低下,ブラッドアクセ
ス関連などがある.GBS の IAPP による血圧低下(収縮期血圧 90 mmHg 以下あるいは収縮期血
圧が 20 mmHg 以上の低下)は,約 30〜50%に認められ,その大半が IAPP 開始後 60 分以内に
認められることが特徴である 8)
.これは GBS による自律神経障害がその発症に関与しているも
のと推察される.
■ 文献
1) 平山浩一,小山哲夫.血漿交換療法に伴う副作用.血液浄化療法 上—基礎論理と最新臨床応用—.日本臨
床. 2004 (増刊号 5); 62: 319–322.
2) 佐藤元美:体外循環における生体反応とアフェレシスの副作用.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本
アフェレシス学会(編)
,秀潤社,東京,Clinical Engineering 別冊,2010: 192–197.
3) 塩川優一:日本におけるプラスマフェレシス(この 10 年の歩み)
.プラスマフェレシスマニュアル‘93,日
本アフェレシス学会(編)
,中外医学社,東京,1993: 1–12.
4) 関口定美,池淵研二:副作用.アフェレシスマニュアル,第 3 版,日本アフェレシス学会(編)
,秀潤社,
東京,Clinical Engineering 別冊,2010: 139–142.
5) Henze TH, Prange HW, Talartschik J, et al. Complications of plasma exchange in patients with neurological diseases. Klin Wochenschr. 1990; 68: 1183–1188.
6) Canadian Cooperative MS Study Group. The Canadian cooperative trial of cyclophosphamide and plasma
exchange in progressive multiple sclerosis. Lancet. 1991; 337 (8739): 441–446.
7) Weinshenker BG, O’Brien PC, Petterson TM, et al. A randomized trial of plasma exchange in acute central
nervous system inflammatory demyelinating disease. Ann Neurol. 1999; 46: 878–886.
8) 王子 聡,伊崎祥子,野村恭一ほか.免疫性神経疾患に対する血液浄化療法による血圧の低下.日本ア
フェレシス学会雑誌. 2007; 26 (Suppl 3): 109.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Plasmapheresis/adverse effects"[Mesh] OR "Plasma Exchange/adverse effects"[Mesh]
検索結果 618 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barre 症候群/TH and 治療 and (血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or プラスマフェレーシス/TH or 免疫
吸着法/TH) and (副作用 or 有害作用)
検索結果 18 件
110
Clinical Question 15-1
15.経静脈的免疫グロブリン療法
経静脈的免疫グロブリン療法はギラン・バレー症候群の
治療に有用か
❶ギラン・バレー症候群に対して経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)は有効な治療法
推
奨
である(グレード A)
.
❷すでに,単純血漿交換法(PE)はプラセボ対照群との比較試験の結果から有用性が確
立され(グレード A)
,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)は PE 治療群を対照とし
た RCT を施行しその有用性を認めている(グレード A)
.
保険適用:ギラン・バレー症候群の経静脈的免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)は,急性増悪期で歩行困難な重症例に適用される.
■ 背景・目的
1980 年代の後半,すでに,成人ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に対
する治療法として,血漿交換法(PE)はプラセボ群に比較して有用な治療法であることが確認さ
れていた.GBS に対する IVIg の臨床試験は 1990 年代に行われたので,プラセボ群を対照とし
た比較試験は行われず,PE 治療を対照とした比較試験が行われ,その有効性が確かめられた.
ここでは IVIg のエビデンスレベルの高い多施設ランダム化比較対照試験(RCT)の結果を紹介
する.
Ⅰ
治
療
■ 解説・エビデンス
GBS に対してはじめて IVIg を施行したのは 1988 年 Kleyweg ら 1)で,症例によっては有効な
治療法であることを報告した.すでに,1980 年代において PE が GBS の治療法として確立して
いたことから,PE を対照とした比較試験によってその有用性が論じられ,プラセボ対照とする
比較試験は行われていない.しかし,小児 GBS に対する IVIg に関しては,対症治療群を対照
とした比較試験 2〜4)が施行されている.
Van der Meché ら 5)
(1992 年)は発症 2 週以内の急性期 GBS 150 例を対象として,IVIg と PE
との RCT を施行,IVIg 群では 53%,PE 群では 34%に有効性を認め,IVIg は PE に比較し同等以
上の治療法であると結論した.Bril ら 6)
(1996 年)は GBS 50 例において,IVIg と PE との RCT を
施行,4 週後の改善度に両群間に差異を認めなかったと報告した.さらに,Plasma exchange/Sandoglobulin GBS trial group 7)
(1997 年)は,発症 2 週以内の成人 GBS 383 例を対象とした多施設
RCT を施行した.この臨床試験では,IVIg 群,PE 群,IVIg+PE 併用群の 3 群に分け比較検討,
4 週後の神経症状の改善度を比較し,いずれの群もほぼ同等の有効性を示した.また,IVIg 群と
PE 群は同等であるが,IVIg と PE を併用しても効果に差異がないと結論した.わが国において
111
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
も急性期 GBS 53 例を対象とした多施設 RCT が施行 8)されており,IVIg 群と PE 群(PE/DFPP/
IAPP の混在)の有効性を比較した.4 週後の神経症状の改善度は欧米における比較試験の結果
とほぼ同様であり,IVIg と PE は,同程度の有効性を認めたと報告した.
1)IVIg の PE を対照とした比較試験成績
近年,GBS の IVIg の 5 つの RCT
,重症 GBS 536 例の治療成績を検討した Cochrane レ
5〜 9)
ビュー(Cochrane Neuromuscular Disease Group Review)の結果 10)が,まとめられ,IVIg の有
.
効性が確認された(エビデンスレベル Ⅰ)
Van der Meché ら(1992 年)は,重症 GBS 150 例を対象とし,IVIg 群と PE 群の RCT を施行,
FG の 1 段階以上の改善度は IVIg では 53%,PE では 34%であり,IVIg 群では有意な改善を認
めたが,6 ヵ月間での FG 1 段階以上の改善度を検討した Kaplan–Merier 曲線では IVIg の明らか
な有意性は認めていない.以上より IVIg は PE に比較し同等以上の治療法であると結論した 5)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.
Bril ら(1996 年)は,重症 GBS 50 例を対象とし,IVIg 群と PE 群の RCT を施行,4 週後の改善
度は IVIg 群 69%,PE 群 61%,FG 1 段階改善に要した平均日数は,IVIg 群 14 日,PE 群 16.5
日と,両群間に差異を認めなかったと報告した 6)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.
Plasma exchange/Sandoglobulin GBS trial group(1997 年)は,発症 14 日以内の重症 GBS
383 例を対象とし,IVIg 群と PE 群の RCT を施行した.IVIg 群 130 例,PE 群 121 例,IVIg+
PE 併用群 128 例の解析の結果,4 週後の FG 改善度は IVIg 群で 0.8,PE 群で 0.9,IVIg+PE 併
用群は 1.1 であり,IVIg 群と PE 群の両群間に有意差を認めなかったと結論した 7)
(エビデンス
レベル Ⅱ)
.
野村ら(2001 年)は ,発症 14 日以内の重症 GBS 53 例を対象とし,IVIg 群と PE 群(PE/
DFPP/IAPP の混在)の RCT を施行した.4 週間後の FG 改善度は IVIg 群 23 例で 1.0,PE 群 24
例で 1.4,4 週間後の FG 1 段階改善率は IVIg 群で 61%,PE 群で 65%であった.また FG 1 段
階改善までの平均日数は IVIg 群で 14 日,PE 群で 20 日であり,両群間に明らかな有意差を認
めなかったと報告した 8)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.
Diener ら(2001 年)は,GBS 74 例を対象とし,IVIg 群,PE 群,IAPP 群の 3 群の RCT を施行
した.IVIg 群 25 例,PE 群 26 例,IAPP 群 23 例で,4 週後の FG 1 段階改善率は IVIg 群で 20
例中 12 例の 80%,PE 群で 21 例中 15 例の 71%,IAPP 群 14 例中 7 例の 50%であり,FG 1 段
階改善に要した平均日数,人工呼吸器の使用期間,入院期間のいずれにおいても 3 群間に有意
差を認めないと結論した 9)(エビデンスレベル Ⅱ)
.以上の結果 10)から,重症 GBS に発症 2 週
以内に IVIg を開始すれば,PE とほぼ同等の治療効果があることが確認された.評価項目別の
比較では,4 週後の FG 改善度は,PE 群に比較し IVIg 群でより良好であったが(0.02,95%CI:
−0.25〜−0.20)
,他の評価項目ではいずれも有意差を認めなかった.近年,IVIg は PE に比較し
てより安全,簡便であることから,IVIg が選択されることが多い.
2)IVIg と PE の比較(表 1)10)
4 週後の FG スコア改善度の比較では,IVIg 群 273 例は PE 群 263 例に比較し,−0.02 FG だけ
改善した(95%CI:−0.25〜−0.20)
.12 ヵ月後の死亡または重症障害残存:FG+4〜−5 の割合(平
均観察期間 48 週)の比較では,PE 群 1.67%に比し IVIg 群 1.64%で有意差を認めなかった(RR:
0.98,0.55〜1.72)
.再発・治療関連再燃の比較では,PE 群 0.60%に比し IVIg 群 0.53%で 2 群間
112
15.経静脈的免疫グロブリン療法
表 1 GBS に対する IVIg と PE の比較
評価項目
4 週間後の障害改善度(FG)
(平均観察 4 週)
症例数
RCT
PE 群
(対照)
IVIg 群
相対効果 エビデンス
(95% CI)
レベル
536 例 平均 FG は対照群 平均 FG は対照治療群
5 RCTs に比較し− 0.86 (PE)に比較し− 0.02
(− 0.25 ∼ 0.2)
中等度
12 ヵ月後の死亡 / 重症障害:FG 243 例
+ 4 ∼− 5 の割合
(平均観察 48 週) 1 RCT
167/1,000
1.67%
164/1,000
1.64%
RR 0.98
0.55∼1.72
低い
再発・治療関連再燃(観察 48 週) 445 例
3 RCTs
60/1,000
0.6%
53/1,000
0.53%
RR 0.89
0.42∼1.89
低い
治療関連有害事象
347 例
3 RCTs
170/1,000
1.7%
143/1,000
1.43%
RR 0.84
0.54 ∼1.3
中等度
治療中断した症例
495 例
4 RCTs
128/1,000
1.28%
18/1,000
0.18%
RR 0.14
0.05∼0.36
中等度
4 週間後に FG1 段階以上の改善症 526 例
例
5 RCTs
530/1,000
53.0%
578/1,000
57.8%
RR 1.09
0.94∼1.27
中等度
(文献 10 より)
に有意差を認めなかった(RR:0.89,0.42〜1.89)
.治療関連有害事象の比較では,PE 群 1.70%
に比し IVIg 群 1.43%で 2 群間に有意差を認めなかった(RR:0.84,0.54〜1.30)
.治療を中断し
た症例の比較では,PE 群 1.28%に比して,IVIg 群 0.18%であり,IVIg 群で明らかに治療中断
症例が少なかった(RR:0.14,0.05〜0.36)
.4 週後に FG 1 段階以上の改善を示した症例の比較で
は,PE 群 53.0%に比し IVIg 群 57.8%で 2 群間に有意差を認めなかった 10)
(RR:1.09,0.94〜
1.27)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
現在までに多くの RCT が行われ,GBS の治療として,いずれの治療法も同等の有効性が確か
められている.しかし,近年では治療の簡便性,利便性から IVIg が第一治療法として選択されて
いる.IVIg は,主に小児,高齢者,低体重,自律神経障害,循環不全,全身感染症を合併する
Ⅰ
症例で優先され,一方,PE は,IgA 欠損症,腎不全,脳心血管障害の合併例では選択される .
治
療
11)
GBS 治療の問題点として,①軽症 GBS の治療はどうあるべきか,②発症 2 週以降において
IVIg,PE のいずれの治療を選択するべきか,③GBS 患者に対する IVIg の投与量 400 mg/kg/日,
5 日間は適切かなどがある.これらの点について明らかなエビデンスはなく,今後さらに検討す
べき問題である.
■ 文献
1) Kleyweg RP, van der Meché FGA, Meulstee J. Treatment of Guillain-Barré syndrome with high dose gammaglobulin. Neurology. 1983; 38: 1639–1641.
2) Gürses N, Uysal S, Cetinkaya F, et al. Intravenous immunoglobulin treatment in children with GuillainBarré syndrome. Scand. J Infect Dis. 1995; 27: 241–243.
3) Wang R, Feng A, Sun W, et al. Intravenous immunogloblin in children with Guillain-Barré syndrome. J of
Appl clin pediatr 2001; 16: 223–224.
4) Korinthenberg R, Schessl J, Kirschner J, et al. Intravenously administered immunoglobulin in the treatment of childhood Guillain-Barré syndrome: a randomized trial. Pediatrics. 2005; 116: 8–14.
5) van der Meché FGA, Schmitz PIM; Dutch Guillian-Barré study group. A randomized trial comparing
intravenous immune globulin and plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Dutch Guillain-Barré
Study Group. N Engl J Med. 1992; 326: 1123–1129.
113
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
6) Bril V, Ilse WK, Pearce R, et al. Pilot trial of immunogolobulin versus plasma exchange in patients with
Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1996; 46: 100–103.
7) Randomised trial of plasma exchange, intravenous immunoglobulin, and combined treatments in Guillain-Barré syndrome. Plasma Exchange/Sandoglobulin Guillain-Barré Syndrome Trial Group. Lancet.
1997; 349: 225–230.
8) 野村恭一,濱口勝彦,細川 武ほか.Guillain-Barré 症候群に対する免疫グロブリン療法と血漿交換療法
とのランダム割付け比較試験.神経治療学. 2001; 18: 69–81.
9) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al. Study Group. A preliminary, randomized, multicenter study comparing intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol. 2001; 46: 107–109.
10) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Intravenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome.
Cochrane Database Syst Rev. 2010; 16; (6): CD002063.
11) 神経免疫疾患治療ガイドライン委員会(編)
.日本神経治療学会・日本神経免疫学会合同.神経免疫疾患治
療ガイドライン:ギラン・バレー症候群,第 1 版,興和企画,東京,2004: 84–88.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous"[Mesh] OR ("Immunoglobulins/therapeutic use"[Mesh] AND "Injections, Intravenous"[Mesh]))
検索結果 271 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and ((IgG/TH and 静脈内注入/TH) or (Immunoglobulins/TH and 静脈内
投与/TH))
検索結果 221 件
114
Clinical Question 15-2
15.経静脈的免疫グロブリン療法
経静脈的免疫グロブリン療法はどのように施行するのか
ギラン・バレー症候群に対する経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)は,静注用人免
疫グロブリン製剤(献血ベニロン–I®)を使用する.
回
答
標準的な治療方法:400mg(8mL)/kg を 1 日量として 5 日間,連日点滴静注を
行う.添付された注射溶液に溶解し,5%濃度として点滴静注する.
投与方法:投与開始のはじめの 1 時間は 0.01mL/kg/分(体重 50kg では,最初
の 1 時間で 30mL 点滴),その後,徐々に速度を上げて 0.03mL/kg/分(体重
50kg では,1 時間で 90mL 点滴)とする.
■ 解説・エビデンス
経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)は特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
,川崎病などの小児
科領域の免疫疾患の治療法として用いられ 1)
,神経疾患としては,ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)以外にも慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy :CIDP)2)
,重症筋無力症,多発筋炎などに使用
されている.GBS に対してはじめて IVIg を試みたのは 1988 年の Kleyweg ら 3)で,症例によっ
ては有効な治療法であると報告した.その後,Van der Meché ら 4)
(1992 年)
,Bril ら 5)
(1996 年)
,
Plasma exchange/Sandoglobulin GBS trial group 6)
(1997 年)
,またわが国においても急性期 GBS
Ⅰ
を対象とした多施設 RCT
治
療
が施行され,IVIg と PE を比較し,IVIg は PE に同等以上の有効性
7)
を認めたと結論している.
IVIg は,ITP における治療経験から 2,000 mg/kg が適切とされ,これを 1 回 400 mg/kg で 5
日間連日,点滴静注する方法が多く用いられている.総投与量の決定に関して科学的な根拠は
明らかではない.
IVIg 総投与量の検討では,400 mg/kg/日,3 日間と 6 日間の多施設ランダム化比較対照試験
が行われ,6 日間 2.4g/kg 群は 3 日間 1.2 g/kg 群に比較し,より早期に改善したと報告してい
る 8)
.
投与方法に関して,投与開始のはじめの 1 時間は 0.01 mL/kg/分,その後,徐々に速度を上
げて 0.03 mL/kg/分とする.治療開始時期では点滴速度をゆっくりとする.これは治療開始時
(30 分以内)において,頭痛,悪寒,筋肉痛,胸部苦悶感,全身倦怠感,発熱,悪心などを認め,
点滴速度を遅くすることにより回避できるためである.詳細は,CQ 15–3 を参照.
115
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
■ 文献
1) Imbach P, Barundun S, d’ApuzzoV, et al. High dose intravous gammmaglobulin for idiopathic thrombocytopaenic purpura. Lancet. 1981; 1 (8232): 1228–1231.
2) Vermeulin M, van der Meché FGA, Speelman JD, et al. Plasma and gammmaglobulin infusion in chronic
inflammatory polyneuropathy. J Neurol Sci. 1985; 70: 317–326.
3) Kleyweg RP, van der Meché FGA, Meulstee J. Treatment of Guillain-Barré syndrome with high dose gammaglobulin. Neurology. 1983; 38: 1639–1641.
4) Van der Meché FGA, Schmitz PIM; Dutch Guillian-Barré study group. A randomized trial comparing
intravenous immune globulin and plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Dutch Guillain-Barré
Study Group. N Engl J Med. 1992; 326: 1123–1129.
5) Bril V, Ilse WK, Pearce R, et al. Pilot trial of immunogolobulin versus plasma exchange in patients with
Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1996; 46: 100–103.
6) Plasma Exchange/Sandoglobulin Guillain-Barré Syndrome Trial Group. Randomised trial of plasma
exchange, intravenous immunoglobulin, and combined treatments in Guillain-Barré syndrome. Lancet.
1997; 349: 225–230.
7) 野村恭一,濱口勝彦,細川 武ほか.Guillain-Barré 症候群に対する免疫グロブリン療法と血漿交換療法
とのランダム割付け比較試験.神経治療学. 2001; 18: 69–81.
8) Raphael JC, Chevret S, Harboun M, et al. for the French Guillain-Barré syndrome study group. Intravenous immune globulins in patients with Guillain-Barré syndrome and contraindications to plasma
exchange: 3 days versus 6 days. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001; 71: 235–238.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous"[Mesh] OR ("Immunoglobulins/therapeutic use"[Mesh] AND "Injections, Intravenous"[Mesh]))
検索結果 271 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and ((IgG/TH and 静脈内注入/TH) or (Immunoglobulins/TH and 静脈内
投与/TH))
検索結果 221 件
116
Clinical Question 15-3
15.経静脈的免疫グロブリン療法
経静脈的免疫グロブリン療法にはどのような副作用があ
るか
経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)の主な副作用には,頭痛,肝機能障害,紅斑・
回
答
紫斑,倦怠感がある.
IVIg 開始時(30 分以内)に認められる副作用として,頭痛,悪寒,筋肉痛,胸部苦
悶感,全身倦怠感,発熱,悪心などがある.
IVIg 治療中,治療後に認められる副作用として,無菌性髄膜炎,皮疹(汗疱)
,尿細
管壊死,血栓塞栓症(脳,肺)
,低 Na 血症,顆粒球減少症などがある.
■ 解説・エビデンス
経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)の主な副作用は,頭痛,発熱,筋痛,血圧低下,髄膜症,
蕁麻疹,皮疹などであり,まれに急性腎不全,血栓塞栓症,汎血球減少症,ショック,アナフィ
ラキシーなどが出現する 1, 2)
.IVIg の副作用頻度は,Dalakas ら 2)は約 10%と報告したが,その
後の多くの検討ではさらに頻度は高くなり,30〜60%に及ぶと報告される.
わが国のギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)620 例の IVIg の安全性検討 3)
では,副作用は 203 例(32.7%)に認められ,重篤な副作用は 26 例(4.2%)32 件,重篤ではない
副作用は 184 例(29.7%)351 件にみられた.
発現頻度の高い副作用は,肝機能異常,頭痛,悪心,発疹,発熱の順であり,臨床検査値異
Ⅰ
常変動では ALT,AST,好中球減少,白血球減少,血小板減少,好酸球増加であった.重篤な
治
療
副作用(32 件)としては,無菌性髄膜炎(5 例)
,肝機能異常(5 例)
,好中球減少(5 例)
,白血球
減少(3 例)
,代謝性アシドーシス(2 例)などがあり,その他,脳梗塞,痙攣,低酸素症,くも
膜下出血,可逆性白質脳症症候群,深部静脈血栓症,肺梗塞などもみられた.
年齢と副作用の検討 3)では,小児(15 歳以下)および高齢者(65 歳以上)は成人に比べ副作用
の頻度は低かった.小児が成人に比べ副作用発現率が低かった(オッズ比:0.379,95%CI:0.164
〜0.876)
.また,高齢者においても成人に比べ副作用発現症例率が低かった(オッズ比:0.628,
95%CI:0.402〜0.981)
.これは小児,高齢者では慎重投与されたことなどによるものと考えら
れた.
IVIg の副作用の頻度は,PE よりも少ない 4〜7)
,また,肺炎,無気肺,血栓症などの合併症は
PE もより少ないことが報告されている 4)
.
1)IVIg の副作用とその重症度
軽症:頭痛,悪寒,悪心,発熱,疲労感,筋痛,関節痛,血圧上昇,血圧低下,皮疹(汗疱)
など.
重症:ショック,アナフィラキシー,脳梗塞,心筋梗塞,深部静脈血栓,急性腎不全,心不
117
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
表 1 IVIg 治療の経過とその副作用,対処法
治療経過と副作用
対処法・予後
治療開始時(30 分以内)に認められるもの
頭痛,悪寒,筋肉痛,胸部苦悶感
全身倦怠感,発熱,悪心
治療中,治療後に認められるもの
無菌性髄膜炎
皮疹(汗疱)
尿細管壊死
血栓塞栓症(脳,肺)
低 Na 血症
顆粒球減少症
点滴速度を遅くすることで対応
1∼ 2 日で消失する
数日で回復
1 ヵ月ほど持続し,その後に消失
高齢者,糖尿病,腎機能障害患者では注意
糖尿病,脂質代謝異常症で注意
偽性好中球低下
全,肺水腫,肝機能障害,溶血性貧血,白血球減少,血小板減少など.
2)IVIg の治療経過と副作用の出現
表 1 に IVIg 治療の経過と副作用,その対処法と予後をまとめた.
IVIg 治療の開始時(30 分以内)に認められる副作用として,頭痛,悪寒,筋肉痛,胸部苦悶
感,全身倦怠感,発熱,悪心,などがある.
IVIg 治療中,治療後に認められる副作用として,無菌性髄膜炎,皮疹(汗疱)
,尿細管壊死,
血栓塞栓症(脳,肺)
,低 Na 血症,顆粒球減少症,などがある.
3)IVIg の適応禁忌 8)
①ヒト免疫グロブリン過敏症,②IgA 欠損症*,③重篤な肝・腎不全,④血漿浸透圧が上昇す
る疾患,⑤最近の深部静脈血栓症の既往など.
■ 文献
1) Koch C. Blood, blood components, plasma and plasma products. Meyler’s Side Effects of Drugs, Dukes
MNG, Aronson JR (eds), Elsevier, Amsterdam, 2000.
2) Dalakas MC. The use of intravenous immunoglobulin in the treatment of autoimmune neuromuscular disease: evidence-based indications and safety profile. Phamacol Ther. 2004; 102: 177–193.
3) 濱口勝彦,野村恭一.ギラン・バレー症候群における献血ベニロン-I の使用成績調査—中間報告—.診療
と新薬. 2006; 43: 1175–1190.
4) van der Meché FGA, Schmitz PIM; Dutch Guillian-Barré study group. A randomized trial comparing
intravenous immune globulin and plasma exchange in Guillain-Barré syndrome. Dutch Guillain-Barré
Study Group. N Engl J Med. 1992; 326: 1123–1129.
5) Plasma Exchange / Sandoglobulin Guillain-Barré Syndrome Trial Group. Randomised trial of plasma
exchange, intravenous immunoglobulin, and combined treatments in Guillain-Barré syndrome. Lancet.
1997; 349: 225–230.
6)野村恭一,濱口勝彦,細川 武ほか.Guillain-Barré 症候群に対する免疫グロブリン療法と血漿交換療法と
注)
:選択的 IgA 欠損症の頻度は 1:1,000 であり,この症例に免疫グロブリンが投与されると,免疫グロブリン製剤に
含まれる IgA 対してアナフィラキシー反応を呈することがある.しかし,この合併症は非常にまれであり,多くは分類不
能型の低ガンマグロブリン血症の症例において認めるものである.したがって,GBS の治療開始を遅らせてまで治療開始
前に必ず IgA 欠損症をスクリーニングしなければならないということはない 9, 10)
.
*
118
15.経静脈的免疫グロブリン療法
のランダム割付け比較試験.神経治療学. 2001; 18: 69–81.
7) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al; Study Group. A preliminary, randomized, multicenter study comparing intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol. 2001; 46: 107–109.
8) 野村恭一.AIDP をめぐる最近の話題,免疫グロブリンによる Guillain-Barré 症候群の治療.神経免疫学.
1999; 7: 203–209.
9) Dalakas MC. Intravenous immunoglobulin in autoimmune neuromuscular disease. JAMA. 2004; 291:
2367–2375.
10) Thormton CA, Ballow M. Safety of intravenous immuneglobulin. Arch Neurol. 1993; 50: 135–136.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Immunoglobulins, Intravenous/adverse effects"[Mesh]
検索結果 877 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and Immunoglobulins/TH and (副作用 or 有害作用)
検索結果 52 件
Ⅰ
治
療
119
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 15-4
15.経静脈的免疫グロブリン療法
どのような場合に再度の経静脈的免疫グロブリン療法を
考慮するか
❶初回の経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)を施行したにもかかわらず,症状がさら
推
奨
に進行する場合,明らかな神経症状の改善が得られない症例では,早期から再度の
IVIg を考慮する(グレード C1)
.
❷初回 IVIg を施行し,いったんは症状の改善を認めたもの,回復期に症状が悪化した
場合(治療関連性変動:再燃)では再度の IVIg を考慮する(グレード C1)
.
保険適用:ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)においては,筋力低下の
改善が認められたあと,再燃することがあるので,その場合には本剤(献血ベニロン–I®)の再投
与を含め,適切な処置を考慮すること.
■ 背景・目的
GBS に対して経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)を施行しても,神経症状がさらに進行,あ
るいは明らかな改善を認めない症例,神経症状の改善後の回復期において症状の悪化,治療関
連性変動(再燃)を認める症例などでは,再度の IVIg を考慮する.
■ 解説・エビデンス
GBS に対して IVIg を施行したにもかかわらず,神経症候がさらに進行,あるいは症状の改善
を認めない症例を経験する.このような場合は,再度の IVIg を考慮する.この現象を説明する
最近の報告がある.Kuitwaard らは通常量の IVIg 施行後,治療前に比して,治療 2 週後の血清
IgG 上昇(ΔIgG)が少ない症例では臨床症状の改善が十分ではなく,このような症例では 2 回
目の IVIg を推奨している 1)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.また,IVIg に十分に反応しない重症 GBS
に対して,2 回目の IVIg を行った治療報告がある.非対照試験,少数例ではあるが,IVIg の有
効性を確認している 2)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.
GBS に対して PE あるいは IVIg を行い,いったんは症状の改善を認め,回復期において約
10%に症状の悪化,治療関連性変動(再燃)を認めることがある 3, 4)
.発症と治療開始,症状増悪
までの期間が長いほど再燃する確率が高くなり,この現象は免疫療法の開始時期に関連するよ
り,むしろ患者個々の免疫状態に関係するものと考えられる.このような場合では,CIDP では
ないか,を中心に診断を再確認し,GBS と考えられる症例では再度の免疫調整療法を行うこと
が勧められる(エビデンスレベル Ⅵ)
.
わが国の IVIg の市販後調査 5)でも再度の IVIg についての検討が行われている.治療 4 週後
での FG 1 段階以上の改善を有効とすると,初回投与群 570 例での有効率は 71.2%に対し,再投
120
15.経静脈的免疫グロブリン療法
与群 82 例では 54.9%と明らかに再投与群で有効性が低下していた.しかし,再投与群の治療開
始時期による有効性を検討した結果では,初回投与から 4 週以内,5 週以降に分けて検討した
ところ,5 週以降 32 例では 34.4%であったが,4 週以内 47 例では 72.3%と明らかな改善を認め,
早期に再投与した症例では初回投与とほぼ同等の有効性を認めたと報告している(エビデンスレ
ベル Ⅳb)
.
GBS に対して IVIg を施行しても,治療抵抗性を示す症例がある.IVIg 治療抵抗性因子とし
て,①高齢者(60 歳以上)
,②Campylobacter jejuni の先行感染,③電気生理学的検査における軸
索障害所見,④発症から 2 週以上経過したあとの治療開始,⑤球麻痺の存在,人工呼吸器を必
要とする症例,などがあげられている 6)
.
■ 文献
1) Kuitwaard K, Gelder J, Tio-Gillen AP, et al. Pharmocokinetics of intravenous immunoglobulin and outcome in Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol. 2009; 66: 597–603.
2) Farcas P, Avnun L, Frisher S, et al. Efficacy of a repeated intravenous immunoglobulin in severe unresponsive Guillain-Barré syndrome. Lancet. 1997: 350; 1747.
3) Kleyweg RP, van der Meché FGA. Treatment related fluctuations in Guillain-Barré syndrome after highdose immunoglobulins or plasma-exchange. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1991; 54: 957–960.
4) Romano JG,Rotta FT, Poter P, et al. Relapses in the Guillain-Barré syndrome after treatment with intravenous immune globulin or plasma exchange. Muscle Nerve. 1998; 1: 1327–1330.
5) 濱口勝彦,野村恭一.ギラン・バレー症候群における献血ベニロン-I の使用成績調査—中間報告—.診療
と新薬. 2006; 43: 1175–1190.
6) van Doorn PA, Kuitwaard K, Walgard C, et al. IVIg treatment and prognosis in Guillain-Barré syndrome. J
Clin Immunol. 2010; 30 (Suppl 1): S74–S78.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous"[Mesh] OR ("Immunoglobulins/therapeutic use"[Mesh] AND "Injections, Intravenous"[Mesh])) AND ("Recurrence"[Mesh] OR repeat* OR
second)
検索結果 21 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and Immunoglobulins/TH and (再発 or 再投与)
検索結果 14 件
121
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-1
16.その他免疫療法
副腎皮質ステロイド薬の単独療法はギラン・バレー症候
群に有効か
推
奨
❶副腎皮質ステロイド薬単独でのギラン・バレー症候群の改善効果は否定されており,
副作用が増加することも含めて施行すべきではない(グレード D)
.
■ 背景・目的
血漿浄化療法と経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)が,ギラン・バレー症候群(Guillain–
Barré syndrome:GBS)の標準治療として一般化する以前は,副腎皮質ステロイド薬の投与が広
く行われていたという背景がある.現時点での副腎皮質ステロイド薬の位置づけをあらためて
評価し,同薬を用いた GBS 治療の可否について,単独療法の面から明らかにする.
■ 解説・エビデンス
Hughes らによる 6 つの RCT,またはそれに準じた研究(経口副腎皮質ステロイド薬 4 研究と
静注 2 研究)を対象としたシステマティック・レビュー 1)
(エビデンスレベル Ⅰ)では,プラセ
ボと比較して 4 週後の disability scale に有意な差はなく,副作用として糖尿病がステロイド投与
群で有意に多かったという結論が得られている.このレビューで取り上げられた最初の RCT で
ある Hughes らの研究 2)
(エビデンスレベル Ⅱ)では,無作為割り付けにより 21 症例にプレドニ
ゾロン(経口プレドニゾロン 60 mg を 1 週間,続いて 40 mg 4 日間,30 mg 3 日間,その後中止)
を投与し,プラセボ群 19 例との間で 1 ヵ月,3 ヵ月,12 ヵ月の disability scale の改善度を比較
検討している.その結果,1 ヵ月後,3 ヵ月後,12 ヵ月後の disability scale の改善度はいずれも
プラセボ群が優っており(有意差なし)
,発症 1 週間以内の患者(ステロイド群 10 例,プラセボ
群 6 例)でも,1 ヵ月後,3 ヵ月後では,プラセボ群において有意に改善度が良好であった.プレ
ドニゾロン群で再発が 3 例(プラセボ群 0 例)みられた.これらの結果から副腎皮質ステロイド
薬は GBS に対して無効でかつ有害であるという結論が得られた.この研究以降に行われた経口
副腎皮質ステロイド薬に関する比較的大規模な RCT としては,Singh らによる 46 例の患者を
経口プレドニゾロン群(40 mg 隔日投与 2 週間,以後漸減)とプラセボにランダム割り付けした
研究 3)
(エビデンスレベル Ⅱ)があり,対照群との有意差はみられないとの結論が得られている.
6 ヵ月後に完全回復する患者はプラセボ群に多い(54.5% vs 41.7%)ことも記載されており,副腎
皮質ステロイド薬は GBS に対して無効であるだけでなく,回復を遅延させるのではないかとコ
メントしている.
静注による副腎皮質ステロイド薬単独療法に関する RCT は,Guillain–Barré Syndrome
Steroid Trial Group によるメチルプレドニゾロン静注群(500 mg × 5 日間)124 例とプラセボ群
118 例を比較した研究 4)
(エビデンスレベル Ⅱ)が唯一のものである.disabilty grade の改善度,
122
16.その他免疫療法
その他いかなるパラメータにおいても,メチルプレドニゾロン静注群とプラセボとの間に有意
差はなく,GBS 発症早期におけるメチルプレドニゾロン・パルス静注療法は効果がないと結論
づけられた.
■ 文献
1) Hughes RA, Swan AV, van Doorn PA. Corticosteroids for Guillain-Barré syndrome. Cochrane Database
Syst Rev. 2010: CD001446.
2) Hughes RA, Newsom-Davis JM, Perkin GD, et al. Controlled trial of prednisolone in acute polyneuropathy. Lancet. 1978; 312: 750–753.
3) Singh NK, Gupta A. Do corticosteroids influence the disease course or mortality in Guillain-Barré’ syndrome? J Assoc Physicians India. 1996; 44: 22–24.
4) Guillain-Barré Syndrome Steroid Trial Group. Double-blind trial of intravenous methylprednisolone in
Guillain-Barré syndrome. Lancet. 1993; 341: 586–590.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/drug therapy"[Mesh] AND "Adrenal Cortex Hormones/therapeutic use"[Mesh]
検索結果 20 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and 副腎皮質ホルモン/TH
検索結果 90 件
Ⅰ
治
療
123
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-2
16.その他免疫療法
経静脈的免疫グロブリン療法や血漿浄化療法に副腎皮質
ステロイド薬の併用は有効か
❶経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)と副腎皮質ステロイド薬の併用は有効である根
推
奨
拠に乏しい(グレード C2)が,重症例に対する選択肢のひとつとして考慮しうる(グ
.
レードなし)
❷血漿浄化療法に副腎皮質ステロイド薬を併用することは血漿浄化療法の効果を減弱
させる可能性があり,推奨できない(グレード C2)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に対する副腎皮質ステロイド薬の単
独療法の効果はほぼ否定されているが,最近,標準治療[経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)
,
血液浄化療法]に上乗せした形での副腎皮質ステロイド薬併用療法が議論されている.現時点で
の同薬併用の可否について検討する.
■ 解説・エビデンス
1)経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)と副腎皮質ステロイド薬の併用
IVIg(400 mg/kg × 5 日間)とメチルプレドニゾロン静注(500 mg/日× 5 日間)の併用療法と
IVIg 単独療法を比較した多施設オープンスタディ 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)で,投与後 4 週の
functional scale が併用群で有意に改善し,独歩可能になるまでの期間が短い傾向(有意差なし)
にあった.これを受けて行われた RCT(併用群 113 例,IVIg+プラセボ群 112 例)2)
(エビデンス
レベル Ⅱ)では,いずれの項目においても 2 群間に有意差は得られなかった.自立歩行が可能
になる期間は併用群で短縮できる傾向はみられたが有意差はない.Jacob ら 3)
(エビデンスレベ
ル Ⅳb)は,最近の C. jejuni 感染による GBS と GM1 抗体陽性 GBS について,PE 群,IVIg 群,
メチルプレドニゾロン+IVIg 群に分けて検討し,改善するまでの平均期間は PE よりも IVIg 群,
メチルプレドニゾロン+IVIg 群で有意に短かったとしている.IVIg 群とメチルプレドニゾロ
ン+IVIg 群間の差については言及していない.
上記のように,IVIg でのメチルプレドニゾロンの併用効果については,RCT では有意な結果
がみられていない.メチルプレドニゾロン併用によって惹起される可能性のある副作用も考慮
すると,積極的には推奨はできないが,重症例に対する選択肢のひとつとしては考慮されても
よいかもしれない.メチルプレドニゾロン併用の効果がみられたとする個々の症例報告やケー
スシリーズが散見されるが,GBS は基本的に自然寛解する疾患であること,プラセボのない検
討による結果であることに留意する必要がある.
124
16.その他免疫療法
2)血液浄化療法と副腎皮質ステロイド薬の併用
血漿交換法(PE)
(1 回 2〜3 L 置換 × 9 回,1 ヵ月で施行)に経口プレドニゾロン(100 mg/日 10
日間,以降漸減)を併用した群 12 例と対症療法のみの群 13 例を比較した RCT 4)
(エビデンスレ
ベル Ⅱ)では,併用治療群と対症療法群との間にすべての評価項目(4,8,12,24 週後に評価)で有
意な改善はみられなかった.GBS に対する血漿浄化療法の効果はすでに確立していることから,
プレドニゾロンの併用が GBS を悪化させる方向に働いた可能性が指摘されている.直接的に PE
での副腎皮質ステロイド薬併用を検討した研究ではないが,McKhann らによる GBS 245 例(事
前に副腎皮質ステロイド薬を使用していた 29 例を含む)を PE 群 122 例と支持療法群 123 例に割
り付けた RCT 5)
(エビデンスレベル Ⅱ)では,副腎皮質ステロイド薬の事前使用はアウトカムに
影響しなかったと結論づけている.Guillain–Barré Syndrome Steroid Trial Group によるメチル
プレドニゾロン静注療法に関する RCT 6)
(エビデンスレベル Ⅱ)では,追加療法としてメチルプ
レドニゾロン静注群 124 例中 66 例,プラセボ群 118 例中 77 例に PE が施行されている.メチル
プレドニゾロン静注に PE を追加した例での併用による効果は明らかではなく,高用量メチルプ
レドニゾロン静注パルス療法は PE への追加療法または代替療法として推奨できるものではない
と結論づけられている.
■ 文献
1) The Dutch Guillain-Barré Study Group. Treatment of Guillain-Barré syndrome with high-dose immune
globulins combined with methylprednisolone: a pilot study. Ann Neurol. 1994; 35: 749–752.
2) van Koningsveld R, Schmitz PI, Meche FG, et al. Effect of methylprednisolone when added to standard
treatment with intravenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome: randomised trial. Lancet. 2004;
363: 192–196.
3) Jacobs BC, van Doorn PA, Schmitz PI, et al. Campylobacter jejuni infections and anti-GM1 antibodies in
Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol. 1996; 40: 181–187.
4) Mendell JR, Kissel JT, Kennedy MS, et al. Plasma exchange and prednisone in Guillain-Barré syndrome: a
controlled randomized trial. Neurology. 1985; 35: 1551–1555.
5) McKhann GM, Griffin JW, Cornblath DR, et al. Plasmapheresis and Guillain-Barré syndrome: analysis of
prognostic factors and the effect of plasmapheresis. Ann Neurol. 1988; 23: 347–353.
6) Guillain-Barré Syndrome Steroid Trial Group. Double-blind trial of intravenous methylprednisolone in
Guillain-Barré syndrome. Lancet. 1993; 341: 586–590.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous/therapeutic use"[Mesh] OR
"Plasma Exchange"[Mesh] OR "Plasmapheresis"[Mesh]) AND "Adrenal Cortex Hormones/therapeutic use"[Mesh]
検索結果 28 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and ((IgG/TH and 静脈内注入/TH) or 血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or
プラスマフェレーシス/TH) and 副腎皮質ホルモン/TH
検索結果 34 件
125
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-3
16.その他免疫療法
経静脈的免疫グロブリン療法と血漿浄化療法の併用は有
効か
❶血漿交換法(PE)後に経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)を行うことによってギラ
推
奨
ン・バレー症候群の症状・予後が改善される根拠は乏しく,PE 後の IVIg は推奨さ
れない(グレード C2)
.
❷IVIg 後の PE は IVIg の効果を減弱させる可能性があり,施行しないほうがよい(グ
レード D)
.
❸IVIg 無効例に対する PE の追加の可否についてはエビデンスがない(グレードなし)
.
■ 背景・目的
2 つの確立した免疫調整療法の併用によって,ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に対する有効性がさらに増すか否かを検証する.
■ 解説・エビデンス
血漿交換法(PE)群(121 人,50 mL/kg/回× 5 回施行)
,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)
群(130 例,400 mg/kg/日× 5 日間)
,PE+IVIg 併用群(128 例,PE 最終日に IVIg 開始)の 3 群
間で比較した唯一の RCT 1)
(エビデンスレベル Ⅱ)では,重症度変化を含めた major outcome,
secondary outcome のいずれの項目でも 3 群間で有意差はみられなかった.PE 後に IVIg を追加
する意義は乏しいとの結論が得られている.ICU に入室した Hughes の機能グレード尺度(FG)
3 以上の 30 例を 2 群(トリプトファンカラムによる IAPP のみ 10 例と IAPP 後 IVIg 施行 20 例)
に分けて後方視的に解析した症例対照研究では,2 群間で治療前後の機能グレード尺度の変化
に差はなく,FG 4 以上の症例についての解析でも 2 群間で差はなかった.併用療法が臨床の場
で考慮されるのは難治・重症例であると考えられることからも重要な論文である 2)
(エビデンス
レベル Ⅳb).一方,Haupt らによる血漿浄化療法群[PE 11 例,免疫吸着法(IAPP)13 例]と
IAPP+IVIg 併用群(21 例,IAPP 施行後に IVIg 400 mg/kg/日× 5 日間)を対象とした非ランダ
ム化比較試験 3)
(エビデンスレベル Ⅲ)では,入院時と第 28 病日の機能グレード尺度の変化(改
善度)は併用群で有意に高く,入院日数は併用群で短い傾向がみられているが有意差はない.併
用が有用であるとした唯一の比較試験(非ランダム化)である.
IVIg のあとに PE を行った唯一の症例対照研究 4)
(エビデンスレベル Ⅳb)では,退院時の機能
グレード尺度は IVIg 後 PE 群よりも IVIg 群でより低く,IVIg 後に PE を追加すると回復が悪い
とする結果がみられている.この後ろ向き研究での IVIg 終了から PE 開始までの期間は,平均
3.88〜5.56 日と記載されており,ここでの PE 追加群での症状悪化は投与した IVIg が短期間の
うちに除去されたためとも解釈できる.IVIg 無効と判断された症例に,より長い期間をおいて
126
16.その他免疫療法
PE を追加した際の効果という観点からの研究はない.
■ 文献
1) Plasma Exchange/Sandoglobulin Guillain-Barré Syndrome Trial Group. Randomised trial of plasma
exchange, intravenous immunoglobulin, and combined treatments in Guillain-Barré syndrome. Lancet.
1997; 349: 225–230.
2) Galldiks N, Dohmen C, Neveling M, et al. Selective immune adsorption treatment of severe Guillain Barré
syndrome in the intensive care unit. Neurocrit Care. 2009; 11: 317–321.
3) Haupt WF, Rosenow F, van der Ven C, et al. Sequential treatment of Guillain-Barré syndrome with extracorporeal elimination and intravenous immunoglobulin. J Neurol Sci. 1996; 137: 145–149.
4) Oczko-Walker M, Manousakis G, Wang S, et al. Plasma exchange after initial intravenous immunoglobulin treatment in Guillain-Barré syndrome: critical reassessment of effectiveness and cost-efficiency. J Clin
Neuromuscul Dis. 2010; 12: 55–61.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND "Immunoglobulins, Intravenous/therapeutic use"[Mesh] AND
("Plasma Exchange"[Mesh] OR "Plasmapheresis"[Mesh])
検索結果 92 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and IgG/TH and 静脈内注入/TH and (血液浄化法/TH or 血漿交換/TH or
プラスマフェレーシス/TH)
検索結果 13 件
Ⅰ
治
療
127
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-4
16.その他免疫療法
経静脈的免疫グロブリン療法,血漿浄化療法,副腎皮質
ステロイド薬以外の免疫調整療法(治療法)は有効か
推
奨
❶経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)
,血漿浄化療法の他にギラン・バレー症候群に
対する有効性が確立し,推奨できる治療法はない(グレード C2)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)は必ずしも予後良好な疾患ではなく,
第 1 選択治療法である血漿浄化療法,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)に勝る治療手段の開
発は常に試みられなければならない.現時点での新規治療法とその可能性について検討する.
■ 解説・エビデンス
Hughes らによる Cochrane レビュー 1)
(エビデンスレベル Ⅰ)では IVIg,血液浄化療法,副
腎皮質ステロイド薬以外の RCT を検索し,IFNβ -1a,BDNF,CSF filtration,tripterygium
polyglycoside に関する計 4 つの RCT が見い出された.Pritchard ら 2)
(エビデンスレベル Ⅱ)
は,19 例の GBS 患者を対象として IFNβ -1a の週 3 回投与を行うプラセボ対照 RCT を施行し,
4 週間,24 週間後の臨床スケールを評価したが,IFNβ -1a 投与群とプラセボ群の間に有意な差
は得られなかったとした.10 例の GBS 患者を対象とした BDNF 皮下注(25 µg/kg/日を最大 24
週間投与)のプラセボ対照 RCT 3)
(エビデンスレベル Ⅱ)でも,BDNF 投与群とプラセボ群の間
に有意な差はなかった.次の 2 つの報告は著者らが有効と判断を下している RCT である.
Wollinsky ら 4)
(エビデンスレベル Ⅱ)は GBS 患者 37 例を対象として 17 例を CSF filtration(髄
腔内にカテーテルを留置し,1 回 30〜50 mL の脳脊髄液をフィルターで濾過して髄腔内へと戻
す.1 日平均 5〜6 回の濾過を 5〜15 日間継続)に,20 例を血漿交換法(PE)にランダム割り付け
した RCT を行い,4 週目の機能グレード尺度は両群間に有意差はなかった.CSF filtration は PE
と同等の効果があると結論づけているが,この論文のあと,GBS に対して CSF filtration を行っ
た分析疫学的研究,症例報告やケースシリーズはない.Cochrane レビューでは,この点に加え
て CSF filtration の有用性を示すには症例数が少なすぎること,CSF filtration は脊髄根の炎症を
抑制することで GBS を改善するという理論に基づいているが,GBS では神経幹や神経末端にも
炎症があり,この理論にも疑問があるとのコメントが記載されている.漢方薬である tripterygium polyglycoside を副腎皮質ステロイド薬内服群と比較した RCT 5)(エビデンスレベル Ⅱ)
では,8 週後の disability score が tripterygium polyglycoside 内服群で有意に改善したと結論づ
けているが,Cochrane レビューはこの研究について,サンプル数が少なく,ブラインドがか
かっていないなどエビデンスとしてのグレードは非常に低いとコメントしている.上記の他,
IVIg 療法+メチルプレドニゾロン・パルス療法にミコフェノール酸モフェチルを加える症例対
128
16.その他免疫療法
照研究 6)(エビデンスレベル Ⅳb)が行われているが,ミコフェノール酸モフェチルの効果につ
いては否定的な結果となっている.
■ 文献
1) Hughes RA, Pritchard J, Hadden RD. Pharmacological treatment other than corticosteroids, intravenous
immunoglobulin and plasma exchange for Guillain Barré syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2011:
CD008630.
2) Pritchard J, Gray IA, Idrissova ZR, et al. A randomized controlled trial of recombinant interferon-beta 1a
in Guillain-Barré syndrome. Neurology. 2003; 61: 1282–1284.
3) Bensa S, Hadden RD, Hahn A, et al. Randomized controlled trial of brain-derived neurotrophic factor in
Guillain-Barré syndrome: a pilot study. Eur J Neurol. 2000; 7: 423–426.
4) Wollinsky KH, Hulser PJ, Brinkmeier H, et al. CSF filtration is an effective treatment of Guillain-Barré syndrome: a randomized clinical trial. Neurology. 2001; 57: 774–780.
5) Zhang X, Xia J, Ye H. [Effect of Tripterygium polyglycoside on interleukin-6 in patients with GuillainBarré syndrome]. Zhongguo Zhong Xi Yi Jie He Za Zhi. 2000; 20: 332–334.
6) Garssen MP, van Koningsveld R, van Doorn PA, et al. Treatment of Guillain-Barré syndrome with
mycophenolate mofetil: a pilot study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007; 78: 1012–1013.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Interferon-beta/therapeutic use"[Mesh] OR "Brain-Derived
Neurotrophic Factor/therapeutic use"[Mesh] OR ("Cerebrospinal Fluid"[Mesh] AND "Filtration"[Mesh]) OR
"Tripterygium"[Mesh] OR "Immunosuppressive Agents"[Mesh])
検索結果 36 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and ("Interferon Beta"/TH or 脳由来神経栄養因子/TH or (髄液/TH and 濾
過/TH) or クロヅル属/TH or 免疫抑制剤/TH)
検索結果 22 件
129
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-5
16.その他免疫療法
妊娠を伴うギラン・バレー症候群の治療はどのように行
うか
推
奨
❶妊娠を伴うギラン・バレー症候群,特に重症例には経静脈的免疫グロブリン療法
(IVIg)または血漿浄化療法の施行が望ましい(グレード C1)
.
■ 背景・目的
妊婦にギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)が発症することはまれではな
い.妊娠を伴う GBS の治療は通常の成人 GBS の標準的治療をそのまま導入してよいか,妊婦
の GBS 治療の際に,胎児への影響を含めて考慮すべき点は何かを明らかにする.
■ 解説・エビデンス
妊娠を伴った GBS の治療に関する RCT や分析疫学的研究はなく,文献的エビデンスはケー
スシリーズと症例報告が主体である.Chan らによる 1990 年から 2002 年にかけて発表された英
文論文(計 30 例)をもとに記載された妊娠を伴った GBS のレビュー 1)
(エビデンスレベル Ⅵ)で
は,30 例中 14 例に血漿交換法(PE)
(うち妊娠後期に発症した 5 例では帝王切開後に PE 施行)
が行われており,2 例で経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)後に PE,1 例に副腎皮質ステロイ
ド薬+IVIg,5 例に IVIg,8 例は特異的治療なしで経過観察された.胎児の予後については 3 例
で記載がなく,妊娠 4,6,14 週の比較的妊娠早期の 3 例で人工妊娠中絶が行われている.1 例
は母子ともに死亡し,1 例はサイトメガロウイルス(CMV)感染による胎盤炎により死産してい
る 2)
(エビデンスレベル Ⅴ)
.分娩後に神経学的問題がみられた例としては,CMV 感染後重症
GBS の 33 歳の患者(IVIg に追加して PE を施行)から生まれた新生児が GBS を発症したが,人
工呼吸管理下に IVIg を施行されて軽快 3)
(エビデンスレベル Ⅴ)した例,重症 GBS 26 歳患者(PE
施行)から floppy infant として生まれた(母親のベンゾジアゼピン系薬物使用のためと考えられ
ている)が,生後 9 ヵ月の発達は正常であった例 4)
(エビデンスレベル Ⅴ)がそれぞれ記載され
ている.その他の 20 例は正常の新生児を出産している.これらいずれの症例も,治療に関連し
た副作用は記載されていない.このレビューの著者らは,妊娠中に GBS を発症しても人工妊娠
中絶の適応にならないこと,妊娠中の IVIg,PE はともに母子に対して安全に行いうる治療法で
1)
あることを述べている (エビデンスレベル
Ⅵ)
.わが国からの 2 症例 5)
(エビデンスレベル Ⅴ)
では,1 例(CMV 感染後の 25 歳例)に帝王切開のあとに免疫吸着法(IAPP)が行われ,軽快して
いる.妊娠を伴った GBS に対して IVIg,血漿浄化療法のいずれが優れているかを比較した研究
はない.免疫グロブリン製剤の妊婦および胎児に対する安全性は確立していないが,循環血液
量の低下などの胎児への影響が避けられる点で IVIg を推奨する意見が多い 6, 7)
(エビデンスレベ
ル Ⅵ)
.
130
16.その他免疫療法
■ 文献
1) Chan LY, Tsui MH, Leung TN. Guillain-Barré syndrome in pregnancy. Acta Obstet Gynecol Scand. 2004;
83: 319–325.
2) Mendizabal JE, Bassam BA. Guillain-Barré syndrome and cytomegalovirus infection during pregnancy.
South Med J. 1997; 90: 63–64.
3) Luijckx GJ, Vles J, de Baets M, et al. Guillain-Barré syndrome in mother and newborn child. Lancet. 1997;
349: 27.
4) Gautier PE, Hantson P, Vekemans MC, et al. Intensive care management of Guillain-Barré syndrome during pregnancy. Intensive Care Med. 1990; 16: 460–462.
5) 荒木俊彦,中田悠皓,楠 進.妊娠後期に発症した Guillain-Barré 症候群の 2 例.臨床神経学. 2010; 50:
24–26.
6) 森 恵子,祖父江 元.妊娠・分娩と末梢神経障害.神経内科. 2004; 61: 49–55.
7) 野村恭一.神経疾患に対する免疫グロブリン療法.日本内科学会雑誌. 2007; 96: 2046–2053.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND ("Pregnancy"[Mesh] OR "Pregnancy Complications"[Mesh])
検索結果 20 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and (妊娠/TH or 妊娠合併症/TH)
検索結果 13 件
Ⅰ
治
療
131
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-6
16.その他免疫療法
小児ギラン・バレー症候群の治療はどのように行うか
推
奨
❶小児ギラン・バレー症候群に対しては,血漿浄化療法,経静脈的免疫グロブリン療
法(IVIg)ともに同等の有効性があり,重症例には推奨される治療法である(グレー
.
ド B)
■ 背景・目的
小児ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の治療は成人 GBS の標準的治療
をそのまま導入してよいか,小児での GBS 治療法の選択の際に考慮すべき点は何かを明らかに
する.
■ 解説・エビデンス
小児に限定した論文はいずれも例数が少ないという問題点がある.しかし,成人 GBS の標準
的治療法である血漿浄化療法,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)はいずれも小児で有効性が
確認されており,IVIg の有効性は複数の RCT で確認されている.小児であっても基本的には成
人と同じ治療選択であると考えてよいが,低体重の小児では血漿交換法(PE)が安全に施行で
きる施設は限定される.小児 GBS 18 例(7〜14 歳,平均 10.4 歳)を IVIg 9 例,無治療 9 例に割
り付けた RCT 1)
(エビデンスレベル Ⅱ)では,IVIg 群では最大の筋力低下からの回復にかかる期
間が有意に短く(IVIg 群平均 7.5 日,対照 11.8 日)
,病院滞在期間も有意に短縮され(IVIg 群平
均 16.5 日,対照 23.8 日)
,副作用はなかった.18 歳以下の GBS 21 例(12 ヵ月〜16.5 歳,5〜6
歳がピーク)を IVIg 群 14 例,無治療群 7 例に割り付けた RCT 2)(エビデンスレベル Ⅱ)では,
回復出現までの平均期間が IVIg 群 4.5 日,無治療群 30 日で有意差があり,4 週後の重症度の中
央値も有意に IVIg 群で軽症であった.この論文では IVIg 1.0 g/kg/日,2 日間の投与群と
400 mg/kg/日,5 日間の投与群を比較する研究も併せて行っている.有効性についてはこの 2
群に差はないが,2 日間の投与群では 25 例中 5 例(20%)に GBS の再燃がみられた.5 日間の投
与群では再燃例はなく,有意差を認めた 2)
(エビデンスレベル Ⅱ)
.一方,PE は 2 つの非ランダ
ム化比較試験(いずれも sham pheresis は使っておらず,対照には historical control を使用)3, 4)
(エビデンスレベル Ⅲ)で有効性が認められているのみである.
小児 GBS での PE と IVIg の比較では,41 例(49 ヵ月〜143 ヵ月)の人工呼吸器使用中の患者
を PE 21 例と IVIg 20 例に割り付けた RCT 5)
(エビデンスレベル Ⅱ)がある.この研究では,PE
で人工呼吸器使用期間を有意に短縮できるが,神経症状や ICU 滞在期間は両群で差がないとい
う結論になっている.一方,先行する 2 つの症例対照研究では,ICU 在室期間の有意な短縮 6)
(エビデンスレベル Ⅳb)
,機能グレード尺度が 2 段階改善するまでの期間短縮と人工呼吸器使
132
16.その他免疫療法
用期間の短縮 7)の点で IVIg 群の優位性が示されている.他の重症小児 GBS 26 例を扱った症例対
照研究では両者の間に差がない 8)とされた.
■ 文献
1) Gurses N, Uysal S, Cetinkaya F, et al. Intravenous immunoglobulin treatment in children with GuillainBarré syndrome. Scand. J Infect Dis. 1995; 27: 241–243.
2) Korinthenberg R, Schessl J, Kirschner J, et al. Intravenously administered immunoglobulin in the treatment of childhood Guillain-Barré syndrome: a randomized trial. Pediatrics. 2005; 116: 8–14.
3) Epstein MA, Sladky JT. The role of plasmapheresis in childhood Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol.
1990; 28: 65–69.
4) Jansen PW, Perkin RM, Ashwal S. Guillain-Barré syndrome in childhood: natural course and efficacy of
plasmapheresis. Pediatr Neurol. 1993; 9: 16–20.
5) El-Bayoumi MA, El-Refaey AM, Abdelkader AM, et al. Comparison of intravenous immunoglobulin and
plasma exchange in treatment of mechanically ventilated children with Guillain Barré syndrome: a randomized study. Crit Care. 2011; 15: R164.
6) Abd-Allah SA, Jansen PW, Ashwal S, et al. Intravenous immunoglobulin as therapy for pediatric GuillainBarré syndrome. J Child Neurol. 1997; 12: 376–380.
7) Vajsar J, Sloane A, Wood E, et al. Plasmapheresis vs intravenous immunoglobulin treatment in childhood
Guillain-Barré syndrome. Arch Pediatr Adolesc Med. 1994; 148: 1210–1212.
8) Graf WD, Katz JS, Eder DN, et al. Outcome in severe pediatric Guillain-Barré syndrome after immunotherapy or supportive care. Neurology. 1999; 52: 1494–1497.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND "Child"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous"[Mesh]
OR "Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh])
検索結果 59 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and 小児 and ((IgG/TH and 静脈内注入/TH) or 血漿交換/TH or プラスマ
フェレーシス/TH)
133
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 16-7
16.その他免疫療法
高齢者ギラン・バレー症候群の治療はどのように行うか
推
奨
❶高齢者には血漿浄化療法と比べてより副作用の少ない経静脈的免疫グロブリン療法
(IVIg)が推奨される(グレード C1)
.
■ 背景・目的
高齢者ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の治療は成人 GBS の標準的治
療と同様でよいか,高齢者での GBS 治療法選択の際に考慮すべき点は何かを明らかにする.
■ 解説・エビデンス
一般に高齢は GBS の予後不良因子として知られている.しかし,高齢者の GBS 治療に関す
る RCT や分析疫学的研究はなく,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)と血漿浄化療法のどちら
がより高齢者に有効であるかというデータもない.また,血漿浄化療法のなかでも,血漿交換
法(PE)と高齢者により負担が少ないと考えられる免疫吸着法(IAPP)を比べた研究もない.し
たがって,高齢者に推奨される治療法の選定は主に副作用の面からなされることになる.65 歳
以上の PE を施行された患者 50 例(うち GBS 8 例)と 65 歳以下の 584 例(GBS に関する記述な
し)を比較した PE 関連合併症に関する症例対照研究 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)では,PE に伴う
合併症は 65 歳以上で 11%,65 歳以下で 3.9%と高齢者で多くみられ,低血圧が 0.6%,アレル
ギー反応が 1.5%であったが,致死的な副作用の出現はなかったとしている.65 歳以上の GBS
患者での副作用についてはここでは言及されていない.60 歳以上の GBS 9 例(3 例が IVIg と PE,
2 例が PE,1 例が IVIg で加療され,3 例は無治療)に関するケースシリーズ 2)
(エビデンスレベ
ル Ⅴ)では,PE を施行された 4 例で合併症(2 例で重篤な低血圧,2 例で PE に関連した凝固異
常)が出現し,IVIg 群では副作用の出現はない.同じく 60 歳以上の GBS 18 例(PE 12 例,IVIg
2 例,PE+IVIg 1 例)に関するケースシリーズ(エビデンスレベル Ⅴ)では,PE を施行された 3
例で合併症(低血圧 2 例,電解質異常 1 例)が出現し,IVIg 群では副作用の出現はなかった.後
者 3)では IVIg の実施数が少ないという問題点があるが,高齢者のシリーズでは PE 群の副作用
(特に低血圧)が IVIg 群に比べて多い傾向があるようである.濱口らによるわが国での IVIg 使
用成績調査票解析(588 例が対象)4)
(エビデンスレベル Ⅴ)では,65 歳以上の高齢者では成人(15
〜64 歳)と比べ副作用発現症例率が低いという結果が得られている.
134
16.その他免疫療法
■ 文献
1) Basic-Jukic N, Brunetta B, Kes P. Plasma exchange in elderly patients. Ther Apher Dial. 2010; 14: 161–165.
2) Rana SS, Rana S. Intravenous immunoglobulins versus plasmapheresis in older patients with GuillainBarré syndrome. J Am Geriatr Soc. 1999; 47: 1387–1388.
3) Franca MC Jr, Deus-Silva L, de Castro R, et al. Guillain-Barré syndrome in the elderly: clinical, electrophysiological, therapeutic and outcome features. Arq Neuropsiquiatr. 2005; 63: 772–775.
4) 濱口勝彦.ギラン・バレー症候群における献血ベニロン-I の使用成績調査—中間報告—.診療と新薬. 2006;
43: 1175–1190.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/therapy"[Mesh] AND "Aged"[Mesh] AND ("Immunoglobulins, Intravenous"[Mesh]
OR "Plasmapheresis"[Mesh] OR "Plasma Exchange"[Mesh])
検索結果 78 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and 高齢者 and (Immunoglobulins/TH or 血漿交換/TH or プラスマフェ
レーシス/TH)
検索結果 52 件
Ⅰ
治
療
135
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-1
17.支持療法
ギラン・バレー症候群で補助・対症療法が必要となる病
態にはどのようなものがあるか
急性期には,球麻痺,呼吸器合併症,自律神経障害,内分泌・代謝障害,深部静脈
回
答
血栓症,疼痛,精神症状などが問題となる.
慢性期には,疼痛,疲労などが問題となる症例がある.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の予後を改善するためには急性期に
生じる合併症への対応が重要である.また,リハビリテーションや疼痛対策は,患者の QOL 改
善に不可欠である.支持療法に関しては,エビデンスレベルの高い報告は少ないが,現状で得
られている知見のなかで対応方法を検討する.
■ 解説・エビデンス
GBS の中核症状は急性に進行する全身の筋力低下であるが,生命予後,QOL 改善に関しては
合併症の管理が重要な位置を占める.補助・対症療法が必要となる病態として,球麻痺(CQ 17–
2 参照)
,呼吸器合併症(CQ 17–3,CQ 17–4 参照)
,自律神経障害(CQ 17–5 参照)
,内分泌・代
謝障害(CQ 17–6 参照)
,深部静脈血栓症(CQ 17–7 参照)
,疼痛(CQ 17–9 参照)
,精神症状(CQ
17–10 参照)
,疲労(CQ 17–11 参照)などがあげられる.これらに対する支持療法については十分
なエビデンスのある研究が少ない 1)
(エビデンスレベル Ⅵ)
.
■ 文献
1) Hughes RA, Wijdicks EFM, Benson E, et al. Supportive Care for Patients With Guillain-Barré Syndrome.
Arch Neurol. 2005; 62: 1194–1198
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND ("Respiratory Insufficiency"[Mesh] OR "Respiration, Artificial"[Mesh]
OR "Intubation, Intratracheal"[Mesh])
検索結果 121 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and (支持療法 or 補助療法 or 対症療法)
検索結果 8 件
136
Clinical Question 17-2
17.支持療法
ギラン・バレー症候群に伴う球麻痺にどのように対応す
るか
回
答
個々の症例の状況に応じて,経鼻胃管チューブなどで対応する.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の球麻痺への対応を理解する.
■ 解説・エビデンス
球麻痺による問題点としては,構音・嚥下障害があげられるが,その管理に関して,エビデ
ンスレベルの高い報告はなかった.実際には経鼻胃管チューブなどで対応されていると思われ
る.なお,球麻痺は誤嚥性肺炎の原因となるため,呼吸管理との関連が深い.球麻痺の強い例
では,早期の気管内挿管が嚥下性肺炎発症を減少させるとの報告があり 1)
,呼吸管理の項目でも
取りあげる.
■ 文献
1) Orlikowski D, Sharshar T, Porcher R, et al. Prognosis and risk factors of early onset pneumonia in ventilated patients with Guillain-Barré syndrome. Intensive Care Med. 2006; 32: 1962–1969
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND "Bulbar Palsy, Progressive"[Mesh]
検索結果 10 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 球麻痺/TH
検索結果 10 件
137
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-3
17.支持療法
ギラン・バレー症候群で気管内挿管・人工呼吸管理の適
応となるのはどのような場合か
❶気管内挿管・人工呼吸管理の適応決定には,個々の症例の詳細な臨床観察が最も重
要であり,画一的な基準設定は困難である(グレード C1)
.
❷肺活量が 12〜15mL/kg 以下,予測値よりも 30〜40%低下している場合,室内
空気で PO2 70mmHg 以下,4〜6 時間にわたって肺活量が低下傾向のある場合,
高度の球麻痺があり誤嚥が認められる場合,などに挿管,人工呼吸管理を考慮する
推
奨
(グレード C1)
.
❸人工呼吸管理が必要となる症例を臨床症状から簡便に予測する方法として,Erasmus GBS Respiratory Insufficiency Score(EGRIS)が勧められる(表 1)
.
ただし,あくまでも予測因子であることに留意する(グレード C1)
.
❹上述の EGRIS 以外の予測因子として,自律神経障害の合併,血清肝逸脱酵素の上
昇,血清コルチゾール高値,フィッシャー症候群様の外眼筋麻痺や運動失調をきた
したあとに四肢筋力低下が生じた例,GQ1b 抗体,GD1a/GD1b 複合体抗体.
GD1b/GT1b 複合体抗体陽性例などがあげられる(グレード C1)
.
■ 背景・目的
呼吸筋麻痺とそれに伴う合併症は,ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)
の予後を左右する因子として重要である.人工呼吸管理適応の判断については,臨床症状,検
査所見など様々な指標が検討されている.
■ 解説・エビデンス
呼吸筋麻痺は GBS の予後を左右する重要な因子である.気管内挿管,人工呼吸適応の判断基
準として,Ropper らは,肺活量が 12〜15 mL/kg 以下の場合,室内空気における動脈血液ガス
分析が PO2 70 mmHg 以下の場合,4〜6 時間にわたって肺活量低下傾向を示す場合(呼吸筋疲労
現象が認められる場合)
,喀痰排泄困難や誤嚥を伴う高度の球麻痺を示す場合などを,気管内挿
管,人工呼吸管理の指標としてあげた 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.1985 年の報告ではあるが,
現在でも参考になる基準である.近年,酸素飽和度が簡便に測定できるようになったが,GBS
の呼吸不全は呼吸筋の筋力低下による換気障害であることを考えると,過度に酸素飽和度のデー
タに依存すべきでない.Winer は,酸素飽和度や動脈血液ガス分析よりも肺活量のほうがよい
指標となることを指摘している 2)
(エビデンスレベル Ⅵ)
.実際,人工呼吸管理適応判断の指標
として多く取り上げられているのは肺活量である.その具体的な数値基準は,おおむね予測値
よりも 30〜40%低下 3)
,定量的には,12〜15 mL/kg 以下,もしくは 20 mL/kg 以下である 1, 3)
138
17.支持療法
.ただし,実地臨床上,肺活量はすべての症例で常に測定できるわけ
(エビデンスレベル Ⅳb)
ではなく,肺活量のデータが得られない場合でも,個々の症例の状態を詳細に観察して判断す
る必要がある.
一方,人工呼吸管理が必要となる症例を早期に予測し,厳密に監視すべき症例を絞り込むこ
とは,限られた医療資源のなかでは極めて重要である.人工呼吸管理が必要な症例を予測する
様々な因子が取り上げられているが,いずれも単独で判断できるものではない.総合的判断の
ためのスコアリングシステムのなかで,簡便かつ有用性の検証が十分に行われているものとし
て,Erasmus GBS Respiratory Insufficiency Score(EGRIS)があり,表 1 に示す 4)
.EGRIS の最
大の特徴は,検査所見は使用せず,臨床的指標のみで応用できる点にある.このスケールを用
いると,0〜2 の low score では 4%に,5〜7 の high score では 65%に人工呼吸管理が必要とな
り,area under receiver operating curve(AUC)は 0.82 であった(エビデンスレベル Ⅳa)
.同様
の指標として,Sharshar ら 5)は,GBS 722 連続症例のうち,人工呼吸器が必要となった 313 例
について解析し,①入院までの日数が 7 日以内(オッズ比:2.51)
,②咳ができない(オッズ比:
9.09)
,③立ち上がれない(オッズ比:2.53)
,④肘が上げられない(オッズ比:2.99)もしくは⑤
頭が上げられない(オッズ比:4.34)
,⑥肝逸脱酵素の上昇(オッズ比:2.09)の 6 つの予測因子
を抽出し,このうち 1 つでも該当すれば,ICU 管理とすることを提案している.また,上記指
標が 4 つ以上あれば,85%以上に人工呼吸管理が必要となることを示した.さらに肺活量が測
定できた 196 例について検討し,①発症から入院までが 7 日以内(オッズ比:5.00)
,②頭を持
ち上げられない(オッズ比:5.00)
,③肺活量が予測値の 60%以下(オッズ比:2.86)の 3 項目が
予測因子となり,すべて揃った場合は 85%以上に人工呼吸管理が必要となることを示した.こ
れは検査データも含んだ予測因子であるが,上述の EGRIS と重なる部分もあり,参考になる指
標と考えられる(エビデンスレベル Ⅳb)
.
臨床病型と人工呼吸管理の必要性との関連を調べた研究では,フィッシャー症候群(Fisher
syndrome:FS)のように外眼筋麻痺と運動失調を主徴として発症したあとに,四肢筋力低下を
きたした症例は,人工呼吸器装着率が高いことが示されている 6)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.特
Ⅰ
治
療
表 1 EGRIS スコア
1)発症から入院までの日数
7 日を超える
0
4∼7 日
1
3 日以内
2
2)入院時の顔面神経麻痺,球麻痺の存在
(単独でも併存していてもどちらでもよい)
なし
0
あり
1
3)入院時の MRC sum score
60∼51
0
50∼41
1
40∼31
2
30∼21
3
20 以下
4
7 点満点
139
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
に,ふらつきを初発症状とした症例,上肢から下肢へと下行性に麻痺が進行した症例に人工呼
吸器装着例が多い.このほか,自律神経障害合併例も呼吸器装着率が高い 7)
(エビデンスレベル
Ⅳb)
.肺活量以外の呼吸機能検査を応用したものでは,最大吸気圧,最大呼気圧も予測因子と
なる 3)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.血清検査では,肝逸脱酵素上昇 5)
,コルチゾール高値 9)があげ
られる(エビデンスレベル Ⅳb).糖脂質抗体では,GQ1b 抗体,GD1a/GD1b 複合体抗体,
(エビデンスレベル Ⅳb)
.なお,電気生理学
GD1b/GT1b 複合体抗体陽性などが指標となる 9, 10)
的検査では,脱髄型で人工呼吸器装着率が高いとする研究 11)
(エビデンスレベル Ⅳa)
,軸索障
(エビデンスレベル Ⅳb)がある.横隔神経の電気生理学的検討は人工
害型で高いとする研究 7)
呼吸器装着予測因子としての有用性は否定的である 12)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.なお,肺炎合
併の観点からは,Orlikowski ら 13)による検討が示唆に富む.気管内挿管された患者の 78%に
肺炎が合併し,そのうちの 76%が,気管内挿管後 5 日以内に発症した早期発症肺炎であった.
早期発症肺炎は,起炎菌からの推定では誤嚥性肺炎が多く,入院から気管内挿管までの日数が
長いことが発症のリスクとなり,誤嚥性肺炎防止の観点からは早期の気管内挿管を勧めている
(エビデンスレベル Ⅳa)
.
GBS における人工呼吸器装着の設定については,1990 年以前と 1990 年以降(1990 年以降は,
人工呼吸管理一般の傾向として,PEEP を使用し,1 回換気量を低めに設定する傾向がある)の
呼吸器装着患者では予後に差はないとする報告があり,現時点では,特に推奨される人工呼吸
器設定はない 14)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.
非侵襲的陽圧呼吸(non-invasive positive ventilation:NPPV)に関しては症例報告レベルであ
り 15, 16)
,今後,検討してもよいと思われるが,少なくとも球麻痺のある症例では避けるべきであ
る(エビデンスレベル Ⅴ)
.
■ 文献
1) Ropper AH, Kehne SM. Guillain-Barré syndrome: management of respiratory failure. Neurology. 1985; 35:
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2) Winer JB. Guillain-Barré syndrome. BMJ. 2008: 337; 227–231.
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140
17.支持療法
ed patients with Guillain-Barré syndrome. Intensive Care Med. 2006; 32: 1962–1969.
14) Ali MI, Fernandez-Perez ER, Pendem S, et al. Mechanical ventilation in patients with Guillain-Barré syndrome. Respir Care. 2006; 51: 1403–1407.
15) Wijdicks EFM, Roy TK. BiPAP in early Guillain-Barré syndrome may fail can. J Neurol Sci. 2006; 33: 105–
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patient with Guillain-Barré syndrome. Br J Anaesth. 2003; 91: 913–916.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND ("Respiratory Insufficiency"[Mesh] OR "Respiration, Artificial"[Mesh]
OR "Intubation, Intratracheal"[Mesh])
検索結果 121 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and (呼吸障害/TH or 人工呼吸/TH or 気管内挿管法/TH)
検索結果 42 件
Ⅰ
治
療
141
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-4
17.支持療法
人工呼吸管理中のギラン・バレー症候群の患者におい
て,抜管可能かどうかの判断はどのようにすればよいか
推
奨
❶基本的には個々の事例で判断する.抜管を試みるか気管切開を行うかの判断の時期
としては,気管内挿管後 2 週以内が望ましい(グレードなし)
.
❷気管内挿管前の肺活量のデータがある場合は,抜管予定当日の肺活量が挿管直前と
比べて,4mL/kg 以上の上昇があれば抜管を試みてもよい(グレード C1)
■ 背景・目的
気管内挿管・人工呼吸管理下のギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の患
者では,抜管が可能かどうかの判断が重要である.抜管困難な場合は気管切開のうえ,長期人
工呼吸管理が必要となる.本項では,抜管可能症例の判定基準とその予測因子について現状の
知見を述べる.
■ 解説・エビデンス
人工呼吸管理下の GBS 患者で,抜管可能かどうかの指標として,Nguyen らは,肺活量が挿
管直前に比べて 4 mL/kg 以上改善していれば,抜管成功率が高いとしている(感度 82%,特異
度 90%)
.一方,抜管失敗例では抜管を試みずに気管切開を施行した例よりも ICU の滞在期間
が延長することも指摘している 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.Lawn らは,肺活量と吸気圧および
呼気圧の測定値を単純加算したものを pulmonary function(PF)scoce として,連日測定したう
えで,挿管当日と 12 日目の PF スコアの比が,1 以上であれば 3 週間以内の人工呼吸離脱が可
能,1 以下なら有意に長期化することを示した.気管内挿管 12 日目は,気管切開適応の判断が
迫られる時期であり,PF が 1 以上ならば,気管切開を回避して抜管を考慮し,1 以下ならば直
ちに気管切開を行うことを勧めている 2)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.抜管の判断に有用な内容を示
しているが,挿管当日も含めて,連日,肺活量,吸気圧,呼気圧を測定することが必要である.
抜管可能かどうかの直接の指標ではないが,気管切開が必要となり,長期人工呼吸が必要と
なる症例を予測する因子を検討した研究があり,臨床的には高齢者,肺疾患の合併例に多いこ
とが示されている 3)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.このほか,ICU 入室患者で,免疫調整療法終了
時に足関節屈曲ができない症例では長期人工呼吸が必要となる症例が多く,坐骨神経の運動神
経伝導検査で伝導ブロックが存在すると,さらに確率が高くなることを示した研究もある 4)
.坐
骨神経の伝導ブロックを判定する技術的問題もあり,臨床的に応用できるかは,さらに検討が
必要である(エビデンスレベル Ⅳa)
.抜管可能かどうかの判断には,上述したような指標は一
定の目安となるが,明確な基準ではなく,個々の事例で判断していく必要がある.
142
17.支持療法
■ 文献
1) Nguyen TN, Badjatia N, Malhotra A, et al. Factors predicting extubation success in patients with GuillainBarré syndrome. Neurocrit Care. 2006; 5: 230–234
2) Lawn ND, Wijdicks EFM. Post-intubation pulmonary function test in Guillain-Barré syndrome. Muscle
Nerve. 2000; 23: 613–616.
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■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND ("Respiratory Insufficiency"[Mesh] OR "Respiration, Artificial"[Mesh]
OR "Intubation, Intratracheal"[Mesh])
検索結果 121 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and (呼吸障害/TH or 人工呼吸/TH or 気管内挿管法/TH or 抜管)
検索結果 44 件
Ⅰ
治
療
143
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-5
17.支持療法
ギラン・バレー症候群の自律神経障害合併例への治療は
どうするか
❶重症例では心停止のような致死的不整脈などを呈する重篤な自律神経障害をきたす
症例があり,可能であれば ICU 管理を考慮する(グレード C1)
.
推
奨
❷血圧変動の大きい例では,ヘッドアップなどの介護上の操作,喀痰吸引時の血圧変
動などに十分に注意を払う(グレードなし)
.
❸排尿障害に関しては,急性期にカテーテル管理を考慮する(グレードなし)
.
❹イレウスは障害度に応じて個別の対応を行うが,イレウス管などが必要となる重症
例もある(グレードなし)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)の自律神経合併症は難治で致死的と
なる場合がある.それらに対する治療法について,現時点での知見を述べる.
■ 解説・エビデンス
GBS における自律神経障害も,免疫学的機序による基本的病態のひとつと考えられ,経静脈
的免疫グロブリン療法(IVIg)
,血漿浄化療法などの免疫調整療法による改善が期待される.し
かし,一方で,自律神経障害による心血管系,消化器系などの障害は重症 GBS 患者に生命危機
をもたらす重要な因子であり,免疫調整療法の効果が得られるのを待つだけでなく,積極的か
つ適切な支持療法で救命を図ることは極めて重要である.GBS における自律神経障害の合併頻
度について,Zochodne は,過去の自律神経障害に関する複数の報告を検討し,成人では 60〜
80%,小児で 50%前後の合併率であるとしている 1)(エビデンスレベル Ⅳb)
.自律神経障害の
検出に重点を置いた研究では,より合併頻度は高くなると思われる.病型との関連では Asahina らは,AMAN よりも AIDP のほうが自律神経障害の合併する頻度が高いことを報告してい
る 2)(エビデンスレベル Ⅳb)
.ICU 管理例のように生体ストレスが強い環境下では,GBS の病
態によらない自律神経障害をきたす可能性もあるので,真に GBS の病態に基づいて生じる自律
神経障害が,どの程度の頻度で存在するかの判断は難しい.自律神経障害は,自覚症状がなく,
何らかの検査で確認できる程度の軽微なものが多いが,一方,生命予後を左右する重篤な例が
存在することも認識すべきである.
自律神経障害は,①心血管系に関するもの,②尿路系に関するもの,③消化器系に関するも
の,④発汗に関するもの,などに大別されるが,治療上,問題となるのは人工呼吸管理を要す
るような重症例であり,特に予後を左右する合併症は心血管系に関するものが多い 3)
.自律神経
合併症の治療法については,RCT などのエビデンスレベルの高い報告はなく,症例報告やケー
144
17.支持療法
スシリーズに限られる.したがって,本項であげる推奨は,症例報告や専門家の意見にとどま
る内容ではあるが,重症 GBS の救命率向上のためには重要な意味を持つものと考える.
ICU 管理,もしくは,それに準じるような症例では,循環動態,特に,血圧変動,脈拍数に
注意を払う.血圧変動に関しては,GBS 本来の病態以外に人工呼吸管理による胸腔内圧上昇,
血漿交換療法中の体外循環による影響などの因子も加わるため,その病態は複雑となる.Pfifer
らは,徐脈(48/分以下)をきたすような症例では,収縮期圧の日内変動が 85 mmHg 以上に達す
ることが多く,このような場合は,GBS の病態に基づく自律神経障害を示唆することを指摘し
ている 4)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.血圧の変動が大きいことを考慮すると,単回のバイタル測定
で高血圧を示した場合でも,安易に降圧薬は使用すべきではない.ベッド上の体位変換や吸引
時の気道刺激によって急激な血圧低下を示す例がある 5)ので,医療処置だけではなく,介護処
置にも十分な配慮が必要となる.脈拍数に関しては,一般に頻脈のみであれば特別の治療は不
要で,β 遮断薬などを投与すると急激な血圧低下をきたすこともある(エビデンスレベル Ⅴ)
.
一方,徐脈性不整脈に陥る例では心停止のリスクもあり,頻脈以上に心拍数,不整脈のモニター
が重要である 5)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.リスクの高い不整脈をきたす例を検出するには,sympathetic skin response(SSR)や心拍変動のモニターが有用とする報告 6, 7)がある(エビデンスレベ
ル Ⅳb)
.徐脈性不整脈から心停止となり,一時ペーシングだけはなく,ペースメーカー植込み
術を施行した例 8, 9)の報告もある(エビデンスレベル Ⅴ)
.通常,人工呼吸器装着に至るような重
症例では,心電図,酸素飽和度モニターが装着されていることが多いが,非装着例でも重度の
四肢麻痺をきたすような重症例においては自律神経障害のリスクを考慮して,急性期には,血
圧,心電図,酸素飽和度のモニターを行う.
たこつぼ心筋症に関しては,ACE 阻害薬,β 遮断薬などの治療で軽快した例の報告 10)もある
が,自然軽快することも多いので,真に治療が必要かどうかは検討の余地がある(エビデンスレ
.
ベル Ⅴ)
排尿障害に関しては,重症例では全身管理上の問題から,尿道カテーテルが挿入されている
ことが多い.軽症例では,必要に応じて自己導尿も含めて尿道カテーテルによる管理を行うが,
自然経過で改善する例が多い
(エビデンスレベル Ⅴ)
.イレウスに関しては,非経口栄養が
11, 12)
必要になった症例,直腸チューブが必要になった症例の報告がある (エビデンスレベル Ⅴ)
.
13)
■ 文献
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145
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
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■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND ("Autonomic Nervous System Diseases"[Mesh] OR "Autonomic Nervous System"[Mesh] OR "Cardiovascular Diseases"[Mesh] OR "Urination Disorders"[Mesh])
検索結果 182 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 治療 and (自律神経系疾患/TH or 自律神経系/TH or 心臓血管疾患/TH or 排尿障
害/TH)
検索結果 74 件
146
Clinical Question 17-6
17.支持療法
ギラン・バレー症候群に合併する内分泌・代謝異常への
対応はどうするか
❶ギラン・バレー症候群重症例では,低ナトリウム(Na)血症,抗利尿ホルモン分泌不
推
奨
適合症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)を合併しやすいが,水制限,経過観察で対応する(グレード C1)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に合併する内分泌・代謝異常の意義
とその対策について解説する.
■ 解説・エビデンス
内分泌・代謝障害については,SIADH の合併が多いことが報告されている.SIADH や低 Na
血症は,自律神経障害と関連づけられることもある.
50 例の GBS 患者を対象とした研究 1)では,24 例に SIADH の合併があり,SIADH を合併し
ているほうが,GBS の重症度が高い傾向にあった.ただし,SIADH そのものに関する治療は,
無治療もしくは水分制限で改善している(エビデンスレベル Ⅲ)
.低 Na 血症に関して 84 例の
GBS 患者を検討した報告 2)では,26 例に低 Na 血症を認めたが,うち 12 例は IVIg による見か
Ⅰ
け上の低 Na 血症であった.また,低 Na 血症を認める GBS 患者のほうが,重症の傾向を示し
治
療
た(エビデンスレベル Ⅳb)
.合併症として,SIADH もしくは低 Na 血症のある患者は重症の傾
向にあり,重症化の指標として重要であると思われる.SIADH や低 Na 血症に関する対策とし
ては水制限や経過観察でよいと考える.
■ 文献
1) Saifudheen K, Jose J, Gafoor VA, et al. Guillain-Barré syndrome and SIADH. Neurology. 2011; 76: 701–704.
2) Colls BM. Guillain-Barré syndrome and hyponatraemia. Intern Med J. 2003; 33 (1-2): 5–9.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/complications"[Mesh] AND ("Endocrine System Diseases"[Mesh] OR "Metabolic Diseases"[Mesh])
検索結果 44 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and (内分泌系疾患/TH or 代謝性疾患/TH)
検索結果 109 件
147
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-7
17.支持療法
ギラン・バレー症候群では,どのような症例に血栓予防
が必要か,また,血栓予防にはどのような方法が推奨さ
れるか
❶ギラン・バレー症候群に限定した深部静脈血栓症の予防に関する明確なエビデンス
はないが,わが国では肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関
推
奨
するガイドラインが存在する.下肢麻痺の強い症例では,血栓症の高リスク群と判
定されるため,それに準じて以下の治療を行う.
①出血の危険が高い場合は,間欠的圧迫法を行うか,弾性ストッキング着用を行う.
弾性ストッキングの予防効果はやや弱い(グレード C1)
.
②出血素因のない例では,低分子量ヘパリン,Ⅹa 阻害薬,用量調節未分画ヘパリ
ンなどによる予防も考慮する(グレード C1)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)に限らず,下肢運動障害のある患者
では深部静脈血栓症と続発する肺塞栓症が予後を左右する重要な因子となる.GBS に限定した
RCT はないが,わが国,海外とも一般的な深部静脈血栓症の診療ガイドラインがあり,海外で
は,類似の病態として,急性脊髄障害の深部静脈血栓症予防のガイドラインも存在する.
■ 解説・エビデンス
GBS に限定して深部静脈血栓症を検討した報告は少ない.Gaber らの観察研究では,GBS 患
者 73 例を検討し,50 例(68%)が 5〜490 日間,平均 72 日間にわたり,抗凝固療法施行を受け
ていた.73 例中 5 例(7%,3 例は抗凝固治療中,2 例が未治療)が,深部静脈血栓症を発症し,
3 例が肺塞栓を発症,1 例は死亡したと報告している 1)
(エビデンスレベル Ⅴ)
.Raman らの研究
では,30 例の GBS 患者において,肺塞栓症は 10 例(33%)に発症した(3 例は,剖検によって,
7 例は臨床的に診断)2)
(エビデンスレベル Ⅴ)
.Gaber らの検討では,深部静脈血栓症,肺塞栓
症の発症率は少ないが,これは,抗凝固療法施行中の例も含むためと考えられる.Raman らの
報告は,33%と高い発症率を示しているが,1971 年との古い時代の検討であり,深部静脈血栓
症に対する抗凝固療法が十分に行われていなかったことが推測される.下肢麻痺が強く,ベッ
ド上生活を余儀なくされる例では,抗凝固療法を考慮すべきである.
GBS に限定した深部静脈血栓症の予防に関する研究はない.わが国における肺血栓塞栓症お
よび深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドラインによると,下肢麻痺は高リスクに
分類されており,歩行不能で臥床状態に陥った GBS 患者では,それに準じた対応が望ましい 3)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.わが国のガイドラインでは,静脈血栓塞栓症の予防は理学療法の比重
148
17.支持療法
が高いが,高リスク例では,低分子量ヘパリン(エノキサパリン)2000 単位の 1 日 2 回投与,Ⅹa
阻害薬(フォンダパリヌクス)2.5 mg の 1 日 1 回投与を考慮する.いずれも保険適用は血栓発症
のリスクの高い整形外科領域や腹部手術の術後であることに注意する.
類似の病態では,海外では,急性脊髄障害に関するガイドラインがある 4)
(エビデンスレベル
Ⅰ)
.GBS とは異なる病態であることから,同様に扱うことはできないが,参考になりうる.す
なわち,①低分子ヘパリンによる予防が推奨される.②低用量ヘパリン,弾性ストッキング,
間欠的圧迫法は単独の効果はない.③弾性ストッキング,間欠的圧迫法は,抗凝固療法が禁忌
となるような場合に低分子ヘパリンあるいは低用量ヘパリンとの併用で有用かもしれない,④リ
ハビリテーションを行う時期においては,低用量ヘパリンやワルファリンカリウム内服(PT-INR
2.0〜3.0 を目標)などが推奨されている.
■ 文献
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2) Raman TK, Blake JA, Harris TM. Pulmonary embolism in Landry-Guillain-Barré-Strohl syndrome. Chest.
1971; 60; 555–557.
3) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2009 年度版)
4) Geerts WH, Heit JA, Clagett GP, et al. Prevention of venous thromboembolism. Chest 2001; 119; 132S–
175S.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND ("Pulmonary Embolism/prevention and control"[Mesh] OR "Venous
Thrombosis/prevention and control"[Mesh])
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医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and (肺塞栓症/TH or 静脈血栓症/TH) and 予防
検索結果 4 件
149
Ⅰ
治
療
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-8
17.支持療法
ギラン・バレー症候群のリハビリテーションはどのよう
に進めるか
❶筋力低下の著しい症例では,関節拘縮予防と良肢位を心がけ,回復期においても筋
力負荷の強すぎる訓練は避ける(グレードなし)
.
推
奨
❷リハビリテーションは,個々の症例の実情に応じたプログラムが必要であり画一的
に勧められるメニューはない(グレードなし)
.
❸患者の状況に応じた多面的なリハビリテーションプログラムを遂行することにより
機能予後を改善する(グレード C1)
.
❹個々の患者の状況により異なるが,1〜2 年を超える長期の介入が機能予後を改善す
る(グレード C1)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)では運動機能後遺症を残す例もあり,
リハビリテーションによる機能予後の改善が期待される.リハビリテーションの介入すべき期
間など,長期的なリハビリテーションの必要性を重視する知見が蓄積されつつある.
■ 解説・エビデンス
GBS の 40%は社会復帰に向けて何らかのリハビリテーションが必要と考えられている 1)
.し
かし,障害度には個々の症例で大きなバリエーションがあり,画一的なプログラムを提示する
ことは困難である 2)
(エビデンスレベル Ⅴ)
.さらに,GBS におけるリハビリテーションは,筋
力の改善を目的とした理学療法のみではなく,作業療法,心理的支持療法,言語・嚥下訓練な
ど,個々の患者の状態に応じた multidisciplinary care(多面的なケア)が重要であることが指摘さ
れている 3〜5)(エビデンスレベル Ⅳb)
.Demir ら 3)が,Nottingham Health Profile(NHP)を用
いた QOL 評価で検討しているように,機能的自立度評価表(Functional Independence Measure:FIM)は,退院時,退院後 6 ヵ月と有意に改善しているにもかかわらず,QOL 改善は不十
分であったと報告している.多面的なケアは身体的な機能回復にとどまらず,心理的アプロー
チも含めて検討する必要がある(エビデンスレベル Ⅳa)
.
リハビリテーションの強度について,12 ヵ月以上経過した慢性期 GBS 患者を対象とした検討 6)
では,リハビリ強度の強いほうが FIM スコア,QOL 指標ともに改善傾向を示した.慢性期で
あっても継続的に一定の強度をもったリハビリテーションが重要であることが示唆されている
(エビデンスレベル Ⅲ)
.
リハビリテーション目的で入院した GBS 患者を 1 年間,経過観察した検討では,発症から 1
年を経過した時点でも,modified Barthel Index スコア,modified Rankin スケール,Hughes
150
17.支持療法
(エビデンスレベル Ⅳa)
.Forsの機能グレード尺度などが有意に改善することを示している 7)
berg ら 8)は,44 例の GBS 患者を 2 週目,1 年目,2 年目で評価し,それぞれ 76%,14%,12%
に ADL 障害があることを示した.これらの結果は長期の経過観察とリハビリテーションの必要
性を示唆している(エビデンスレベル Ⅳb)
.
GBS は,予後のよい疾患であると考えられていたが,近年のリハビリテーション関連の研究
からも,症状改善に長期間を要する例も多く,心理的ケアの重要性と長期にわたった介入が重
要であることが示されている.
■ 文献
1) Zelig G, Ohry A, Shemesh Y, et al. The rehabilitation of patients with severe Guillain-Barré syndrome.
Paraplegia. 1988; 26: 250–254.
2) Mullings KR, Alleva JT, Hudgins TH. Rehabilitation of Guillain-Barré syndrome. Dis Mon. 2010; 56:288–
292.
3) Demir SO, Köseo lu F. Factors associated with health-related quality of life in patients with severe Guillain-Barré syndrome. Disabil Rehabil. 2008; 30: 593–599.
4) Meythaler JM, DeVivo MJ, Braswell WC. Rehabilitation outcomes of patients who have developed Guillain-Barré syndrome. Am J Phys Med Rehabil. 1997; 76: 411–419.
5) Nicholas R, Playford ED, Thompson AJ. A retrospective analysis of outcome in severe Guillain-Barré syndrome following combined neurological and rehabilitation management. Disabil Rehabil. 2000; 22: 451–
455.
6) Khan F, Pallant JF, Amatya B, et al. Outocomes of high- and low-intensity rehabilitation programme for
persons in chronic phase after Guillain-Barré syndrome: a randomized controlled trial. J Rehabil Med.
2011; 43: 638–646.
7) Gupta A, Taly AB, Srivastava A, et al. Guillain-Barré Syndrome - rehabilitation outcome, residual deficits
and requirement of lower limb orthosis for locomotion at 1 year follow-up. Disabil Rehabil. 2010; 32: 1897–
1902.
8) Forsberg A, Press R, Einarsson U, et al. Disability and health-related quality of life in Guillain-Barré syndrome during the first two years after onset: a prospective study. Clin Rehabil. 2005; 19: 900–909.
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Ⅰ
治
療
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/rehabilitation"[MAJR]
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医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and リハビリテーション
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151
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-9
17.支持療法
ギラン・バレー症候群の疼痛管理はどのようにすべきか
❶ギラン・バレー症候群の疼痛管理にガバペンチン(保険適用外)
,カルバマゼピンは
有効である(推奨グレード B)
.
❷プレガバリンは,ギラン・バレー症候群に限定した明確なエビデンスはないが,他
推
奨
の神経因性疼痛の研究結果やわが国で保険適用が得られていることから考えると使
用を考慮してよい(グレード C1)
.
❸三環系抗うつ薬(保険適用外)
,デュロキセチン(保険適用外)は使用を考慮してもよ
い(グレード C1)
.
❹難治例では,フェンタニル,塩酸ペチジン,モルヒネ,その他のオピオイドも考慮
する(保険適用外)
(グレード C1)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)における疼痛の合併率は,60〜80%
と高率である.疼痛はリハビリテーションの阻害因子になる.また,運動障害回復後も長期に
持続することもあり,QOL を高めるためにも疼痛管理が重要である.
■ 解説・エビデンス
ガバペンチン 1)
,カルバマゼピン 2)ともに,少数例の検討ではあるが,プラセボとのクロス
オーバー比較試験で,有意に疼痛スコアを改善し,レスキューで用いるフェンタニル,ペチジ
ンの投与量の減量が可能であった.ガバペンチン,カルバマゼピン,プラセボの 3 群で比較し
た検討 3)では,ガバペンチンは,カルバマゼピンよりも疼痛緩和効果が高く,プラセボとの比
較では両者ともに有意にレスキューのフェンタニル投与量を減量できた(エビデンスレベル Ⅱ)
.
近年,使用機会が増えているプレガバリンについては,ギラン・バレー症候群に関する検討は
ない.しかし,ガバペンチンが効果的であることから,プレガバリンにも同様の効果が期待で
きると思われる.わが国で保険適用が得られていることからプレガバリンの使用を考慮すべき
であろう.
また,EFNS の神経因性疼痛のガイドライン 4)では,GBS に限定した疼痛管理を取り上げた
項目はないが,有痛性ニューロパチーに関して,三環系抗うつ薬,ガバペンチン,プレガバリ
ン,SNRI(デュロキセチン,venlafaxine)をファーストラインとして推奨している.主に糖尿病
性ニューロパチーにおける研究をもとにしたもので,わが国では保険適用の問題もあるが,参
考にしてもよいと考える(エビデンスレベル Ⅵ)
.フェンタニル,塩酸ペチジン,モルヒネ,そ
の他のオピオイドに関しては,比較試験は行われていないが,ガバペンチン,カルバマゼピン
152
17.支持療法
などの臨床試験でもレスキューとして用いられており,有用と考えてよい(エビデンスレベル
Ⅴ)
.ただし,いずれも保険適用がないことは注意が必要である.オピオイドについては,内服
以外に経腸投与 5)
,硬膜外チューブからの投与 6)の報告例がある.
この他,メチルプレドニゾロンの筋肉注射,カプサイシン,三環系抗うつ薬,非ステロイド
性消炎鎮痛薬,保温,冷却,良肢位保持などが少数例の検討で効果があったことが報告 7)され
.
ており,上記の方法で効果がない場合,併用も含めて考慮してもよい(エビデンスレベル Ⅵ)
なお,疼痛の強い例では初期からステロイドパルス療法を行うと改善するとの報告があるので,
血漿浄化療法や経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)と併用して試みる価値はある 8)
(エビデンス
レベル Ⅴ)
.
■ 文献
1) Pandey CK, Bose N, Garg G, et al. Gabapentin for the treatment of pain in Guillain-Barré syndrome: a
double-blinded, placebo-controlled, crossover study. Anesth Analg. 2002; 95: 1719–1723.
2) Tripathi M, Soma K. Carbamezapine for pain management in Guillain-Barré syndrome patients in the
intensive care unit. Crit Care Med. 2000; 28: 655–658.
3) Pandey CK, Raza M, Tripathi M, et al. The comparative evaluation of gabapentin and carbamazepine for
pain management in Guillain-Barré syndrome patients in the intensive care unit. Anesth Analg. 2005; 101:
220–225.
4) Attal N, Cruccu G, Baron R, et al. EFNS guidelines on the pharmacological treatment of neuropathic pain:
2010 revision. Eur J Neurol. 2010; 17: 1113–1123.
5) Moulin DE, Hagen N, Feasby TE, et al. Pain in Guillain-Barré syndrome. Neurology. 1997; 48: 328–331.
6) Genis D, Busquets C, Manubens E, et al. Epidural morphine analgesia in Guillain Barré syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1989; 52: 999–1001.
7) Pentland B, Donald SM. Pain in the Guillain-Barré syndrome: a clinical review. Pain. 1994; 59: 159–164.
8) 荻野美恵子,荻野 裕,斉藤豊和ほか:疼痛を伴う Guillain-Barré 症候群におけるステロイドパルス療法
の有用性について.神経治療学. 2003; 20: 318.(会議録)
Ⅰ
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治
療
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"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND ("Pain"[Mesh] OR "Analgesics, Opioid"[Pharmacological Action])
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Guillain-Barré 症候群/TH and (疼痛/TH or 疼痛管理/TH or 緩和ケア/TH or オピオイド系鎮痛剤/TH)
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153
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-10
17.支持療法
急性期ギラン・バレー症候群の精神的支持療法はどのよ
うにすべきか
ギラン・バレー症候群では特に ICU 管理が必要となる患者において,精神症状の発
回
答
現が多いが,推奨に耐えうる精神的支持療法は確立していない.
薬物療法については,抗精神病薬などに一定の効果は期待されるが,明確なエビデ
ンスに基づいた推奨はない.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)は重症化すると人工呼吸器装着,
ICU 管理などが必要となる.そのような重症例では,いわゆる ICU 症候群として幻覚などの精
神症状をきたすことがある.また,ギラン・バレー症候群の病態そのものが精神症状をきたす
可能性も指摘されている.
■ 解説・エビデンス
GBS 患者の精神症状は,ICU 管理が必要となる重症例においては,GBS そのものの病態によ
るものか,環境要因によるものかが問題となる.明らかに GBS の病態が精神症状にかかわって
いると思われる症例も存在する 1)
(エビデンスレベル Ⅵ)
.
この問題に関して,ICU 管理が必要となった GBS 患者の精神症状を検討した研究 2)がある.
Cochen らの検討では,GBS 以外の ICU 入室患者と比較して,精神症状の発現が有意に多く
(GBS 31%,コントロール 16%)
,その内容も生々しい夢,錯覚,幻視などが多かった.REM 睡
眠行動異常も多く,自律神経障害の強い例,人工呼吸器装着例,髄液蛋白上昇の程度が強い例,
髄液中 hypocretin–1 が低い例に精神症状が認められる傾向にあった.これらの結果から,GBS
の精神症状は自律神経障害の関与が強いことを指摘している(エビデンスレベル Ⅳa)
.
精神症状に対する薬物療法は,少数のケースシリーズにおいて,SSRI,抗てんかん薬,ベン
ゾジアゼピンなどの使用で安全に症状の安定が得られたとの報告 3)がある(エビデンスレベル
Ⅴ)
.精神・心理支持的療法については,有用な報告はない.
■ 文献
1) Chan A, Gold R. Neuropsychological/-psychiatric deficits in immune mediated neuropathies. J Neurol.
2007; 254 (Suppl 2): II93–II95.
2) Cochen V, Arnulf I, Demeret S, et al. Vivid dreams, hallucinations, psychosis and REM sleep in GuillainBarré syndrome. Brain. 2005; 128: 2535–2545.
3) Brousseau K, Arciniegas D, Harris S. Pharmacologic management of anxiety and affective lability during
154
17.支持療法
recovery from Guillain-Barré syndrome: some preliminary observations. Neuropsychiatr Dis Treat. 2005;
1: 145–149.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome/psychology"[Mesh] AND ("Patient Care"[Mesh] OR "treatment")
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医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 支持療法/TH and 精神療法/TH
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Ⅰ
治
療
155
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-11
17.支持療法
ギラン・バレー症候群の疲労に対してどのように対応す
るか
❶ギラン・バレー症候群では筋力低下では説明のつかない疲労を訴える場合がある(グ
推
奨
レードなし)
.
❷適度な運動プログラムが疲労を改善する(グレード C1)
.
■ 背景・目的
ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)における疲労の病態とその対処法を
理解する.
■ 解説・エビデンス
疲労について GBS 単独で多数例を検討した報告はない.慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパ
チ ー( chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: CIDP)や monoclonal
gammopathy of undetermined significance(MGUS)に伴うニューロパチーを含む免疫性末梢神
経障害 113 例(GBS 83 例,CIDP 22 例,MGUS 8 例,正常対照 113 例)において,疲労スケール
を用いて検討した研究 1)では,免疫性末梢神経障害では,80%が耐え難い疲労を経験し,その
うち 81〜86%は,筋力低下を伴っていなかった.このことから,GBS を含む免疫性末梢神経障
害では,筋力低下では説明のつかない疲労が存在することが示唆される(エビデンスレベル Ⅳb)
.
疲労の評価には,fatigue severity scale(FSS)やその改訂版が有用であった(エビデンスレベル
なし)2, 3)
.
疲労に関する治療では,適切な運動プログラムを実施することで改善が得られたとの報告が
ある 4, 5)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.薬物療法では塩酸アマンタジンで検討された研究 6)があるが,
効果は認められなかった.
■ 文献
1) Merkies IS, Schmitz PI, Samijn JP, et al. Fatigue in immune-mediated polyneuropathies. European Inflammatory Neuropathy Cause and Treatment (INCAT) Group. Neurology. 1999; 53: 1684–1654.
2) van Nes SI, Vanhoutte EK, Faber CG, et al. Improving fatigue assessment in immune-mediated neuropathies: the modified Rasch-built fatigue severity scale. J Peripher Nerv Syst. 2009; 14: 268–278.
3) Rekand T, Gramstad A, Vedeler CA. Fatigue, pain and muscle weakness are frequent after Guillain-Barré
syndrome and poliomyelitis. J Neurol. 2009; 256: 349–354.
4) Bussmann JBJ, Garssen MPJ, van Doorn PA, et al. Analysing the favourable effects of physical exercise:
relationships between physical fitness, fatigue and functioning in Guillain Barré syndrome and chronic
inflammatory demyelinating polyneuropathy. J Rehabil Med. 2007; 39: 121–125.
5) Garssen MPJ, Bussmann JBJ, Schmitz PIM, et al. Physical training and fatigue, fitness, and quality of life in
156
17.支持療法
Guillain-Barré syndrome and CIDP. Neurology. 2004; 63: 2393–2395.
6) Garssen MPJ,Schmitz PIM, Merkies ISJ, et al. Amantadine for treatment of fatigue in Guillain-Barré syndrome: a randomised, double blind, placebo controlled, crossover trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry.
2006; 77: 61–65.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND "Fatigue"[Mesh]
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医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and 疲労
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Ⅰ
治
療
157
Ⅰ.ギラン・バレー症候群
Clinical Question 17-12
17.支持療法
ギラン・バレー症候群の既往のある人にワクチン接種は
どうすべきか
回
答
先行エピソードのいかんにかかわらず,ギラン・バレー症候群の既往者に,インフ
ルエンザワクチンや,その他のワクチンを接種しても再発のリスクが上昇する証拠
はない.現状ではそれらを踏まえて個々の症例で対応を考える必要がある.
■ 背景・目的
実地臨床で問題となることが多いギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome:GBS)既
往者へのワクチン接種の是非について検討する.
■ 解説・エビデンス
GBS 発症後のワクチン接種による GBS 再発は,インフルエンザワクチンを対象に検討された
研究が多いが前向き研究はない.
Baxter ら 1)は,カリフォルニア州において,1995 年から 2006 年までの退院コードを用いた
調査(総数 3300 万 × 年・人)を行い,GBS 既往患者にワクチン接種をした場合,どの程度,再発
のリスクがあるかを検討した.550 例の GBS 患者が確認され,279 例にのべ 989 回のワクチン
接種の記録があった.18 例が,GBS 発症前 6 週間以内に三価インフルエンザ不活化ワクチン
(trivalent inactivated influenza vaccines:TIV)を受けており,そのうちの 2 例が発症後にも,
再び TIV を受けたが GBS の再発はなかった.550 例中 6 例が GBS を再発していたが,TIV を含
むワクチン接種者はいなかった(エビデンスレベル Ⅳb)
.
Kuitwaard ら 2)によるアンケート調査では,245 例の GBS 既往者のうち,106 例がインフル
エンザワクチンを接種していたが,再発はなかった(エビデンスレベル Ⅳb)
.インフルエンザ
以外のワクチンも含めた検討 3)では,927 例の GBS 患者のうち 311 例が,GBS 罹患後にインフ
ルエンザ以外を含む何らかのワクチンを受けていたが,そのうち 11 例が,疲労感,脱力,しび
れ感などを自覚していた.いずれも軽症で入院の必要はなかった.なお,この研究では複数の
ワクチンを接種された例も含まれており,インフルエンザワクチンのみが原因であるかは明ら
かではない(エビデンスレベル Ⅳb)
.
これらの結果から,GBS の既往者であっても,ワクチン接種による再発のリスクは極めて少
ないと考えられた.ワクチンによる疾病予防のメリットと再発のリスクを勘案して,個々の事
例で判断する必要がある.専門家による推奨としては,インフルエンザワクチン接種後 6 週以
内に GBS を発症した患者では,インフルエンザ感染による合併症のリスクが高くなければ,そ
の後のインフルエンザワクチン接種は避ける 4)
,ギラン・バレー症候群発症 1 年以内は,ワクチ
ン接種を避ける 5)
,などが提唱されている(エビデンスレベル Ⅵ)
.
158
17.支持療法
■ 文献
1) Baxter R, Lewis N, Bakshi N, et al. Recurrent Guillain-Barré syndrome following vaccination. Clin Infect
Dis. 2012; 54: 800–804.
2) Kuitwaard1 K, Bos-Eyssen1 ME, Blomkwist-Markens PH, et al. Recurrences, vaccinations and long-term
symptoms in GBS and CIDP. J Peripher Nerv Syst. 2009; 14: 310–315.
3) Mukherjee JPR, Hughes RA. Risk of relapse of Guillain-Barré syndrome or chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy following immunisation. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002; 73: 343–
350.
4) Fiore AE, Uyeki TM, Broder K, et al. Prevention and control of influenza with vaccines: recommendations
of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2010. MMWR Recomm Rep. 2010; 59: 1–62.
5) Hadden RDM, Hughes RAC. Management of inflammatory neuropathies. J Neurol Neurosurg Psychiatry.
2003; 74 (Suppl II): ii9–ii14
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 2 月 15 日)
"Guillain-Barré Syndrome"[Mesh] AND "Recurrence"[Mesh] AND "Vaccines"[Mesh]
検索結果 5 件
医中誌(検索 2012 年 8 月 2 日)
Guillain-Barré 症候群/TH and ワクチン/TH and (再発 or 既往)
検索結果 2 件
Ⅰ
治
療
159
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