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第18回市民公開がん講座
第18回市民公開がん講座 胃 癌 市立函館病院 消化器病センター・外科 原 豊 胃の位置 胃の位置 がん死亡割合の国際比較 性別・主要部位別・年齢階級別がん罹患率 (昭和50年 ・平成11年 の比較) 胃癌 肺癌 結腸癌 肝臓癌 部位別がん死亡率の推移 胃の構造と機能 貯留:一度にたくさん食べたもの を貯めておく 撹拌:粥状に混ぜ合わせる 排出:少しずつ小腸に流す 胃癌とは… 胃の上皮性悪性腫瘍 上皮性:粘膜層(最も内側)から発生する 良性腫瘍(腺腫) :勝手に増殖する病変 悪性腫瘍(腺癌) :勝手に増殖するほかに… 浸潤・破壊する性質 転移する性質 リンパ行性転移(リンパ節) 血行性転移 (肝・肺など) 播種性転移 (腹腔内) 胃癌の危険因子 A.遺伝要因 胃癌患者は,血縁者に胃癌が多く,遺伝性があるといわれて いたが,癌遺伝子の指摘はなく,環境要因の影響と思われる B.環境要因 1)食物・化学物質 証拠の程度 高危険因子 抑制因子 おそらく 食塩 野菜類・果実類 冷凍・冷蔵保存 ビタミンC 可能性あり デンプン類 焼き肉・魚 不十分 燻製・乾燥などの保存肉 ニトロソアミン類 確実 カロテン類 アリュウム化合物 全粒穀類 緑茶 繊維 セレン ニンニク 2)生活習慣 喫煙など 3)微生物 EBウィルス,ヘリコバクター・ピロリ菌など 無関係 アルコール コーヒー・紅茶 砂糖 ビタミンE レチオール 胃癌の検査 1)画像検査 胃X線検査:バリウムで造影し,胃の写真を撮る 内視鏡検査:胃カメラをのみ,胃の粘膜を直接観察する 色素内視鏡検査:微細な所見を拾い上げる 超音波内視鏡検査:がんの深さを判断する 拡大内視鏡検査:がんの性質を推測する 腹部CT検査・腹部超音波検査: 遠隔転移,リンパ節転移,浸潤の有無を診断する 2)病理検査 生検された組織を顕微鏡で観察し,確定診断を得る 3)血液検査 腫瘍マーカー:癌細胞が特異的に産生する,あるいは癌 の存在により生体内から産生される物質 胃癌の肉眼型分類 腫瘤型 表在型 潰瘍浸潤型 潰瘍限局型 びまん浸潤型 画像検査:1型(腫瘤型)胃癌 胃X線検査 胃内視鏡検査 画像検査:3型(潰瘍浸潤型)胃癌 胃X線検査 胃内視鏡検査 画像検査:4型(びまん浸潤型)胃癌 スキルス型 胃X線検査 胃内視鏡検査 胃癌の広がり方(浸潤) 癌細胞が,胃壁のどこまで達し ているか(=深達度)はTで表す 早期癌 T1:粘膜または粘膜下層にとどま るもの 進行癌 T2:固有筋層または漿膜下組織 にとどまるもの T3:漿膜に接しているか,または これを破って腹腔に露出して いるもの T4:他臓器に浸潤しているもの 胃癌の広がり方(転移) 胃癌の転移は大きく3つに分けられる ①リンパ行性転移: 癌がリンパ管に入り,リンパ節に転移する ②血行性転移: 癌が血管に入り,肝臓や肺に転移する ③腹膜播種性転移: 癌が胃の漿膜を破り,お腹の中に広がる ①リンパ行性転移 〈リンパ節転移の仕組み〉 次の リンパ節 次の リンパ節 ①リンパ行性転移 癌細胞がどのリンパ節 まで転移しているかは Nで表す 転移なし(N0) 1群リンパ節転移(N1) ↓ 2群リンパ節転移(N2) ↓ 3群リンパ節転移(N3) の順に転移が広がる ②血行性転移 〈血行性転移の仕組み〉 血行性転移は,局所か ら離れた場所に転移巣 を形成するため,遠隔 転移(M)と考える ③腹膜播種性転移 〈腹膜転移の仕組み〉 腹膜播種性転移も,局 所から離れた場所に転 移巣を形成するため, 遠隔転移(M)と考える 胃癌深達度別転移頻度 転移 深達度 リンパ節 肝臓 腹膜 粘膜 T1 3.3% 0.0% 0.0% 粘膜下層 T1 17.6% 0.1% 0.0% 固有筋層 T2 46.7% 1.1% 0.5% 漿膜下層 T2 63.6% 3.4% 2.2% 漿膜 T3 79.9% 6.3% 17.8% 周囲臓器浸潤 T4 89.7% 15.5% 41.6% 国立がんセンター中央病院外科 (1972~1986) 胃癌の進行度(病期:ステージ) N0 N1 N2 N3 リンパ節転移 なし 1群リンパ節 転移 2群リンパ節 転移 3群リンパ節 転移 IA IB II IV IB II IIIA II IIIA IIIB IIIA IIIB IV T1 粘膜層 T1 粘膜下層 T2 胃壁内 T3 胃壁外 T4 隣接臓器浸潤 M 遠隔転移 IV 胃癌の組織型分類 胃癌を顕微鏡で見たときに… 分化型癌 :癌細胞の形や並び方が,胃や腸の なごりを残したがん 未分化型癌 :胃や腸のなごりの少ないがん 正常粘膜 分化型胃癌 未分化型胃癌 組織型の特徴 分化型癌 腺管形成良好 膨張性発育 境界明瞭な限局型 血行性転移が多い 比較的高齢者に多い 未分化型癌 腺管形成乏しい びまん性浸潤 境界不明瞭 リンパ行性転移 腹膜播種 比較的若年者に多い 癌治療の基本的考え方 癌は局所から発生→浸潤・転移→全身へ広がる 癌の治療目的は「完全治癒」である。 癌が局所にとどまっているうちに完全除去 (根治的治療) 根治的治療困難な場合、次善の治療を行う。 癌の進行を遅らせる治療、症状を軽減する治療 (延命的治療) 胃癌の場合 胃癌が局所(胃内・2群までのリンパ節)にとど まっている場合、外科的完全切除が可能 根治的治療(根治手術) 遠隔転移(3群以上のリンパ節、腹腔内・血行性 転移)が生じた場合、根治的治療困難 延命的治療(化学療法、姑息的手術など) 問題点 胃癌がどこまで進行しているのかを正確に診断する 技術が確立されていない。 (肉眼的進行度≠本当の進行度) 胃癌の治療 •内視鏡治療 内視鏡的粘膜切除術(EMR,ESD) •手術 根治手術 開腹手術(定型手術,縮小手術,拡大手術) 腹腔鏡補助下手術 姑息手術(バイパス手術など) •化学療法(薬物療法) •放射線療法(レントゲンを用いた治療) •緩和医療(がんに伴う症状の緩和) ガイドラインの目的 胃癌の進行度に見合った、 現時点における最適治療法 の適応の目安を示し、あらゆ る病院、医師がこのガイドラ インに従って、統一的に適正 治療を選択することができる ようにすること 胃癌の進みぐあい(病期)に応じた治療法 ■日常診療 現在,日常の中で行うことが妥当と 考えられる治療法 ■臨床研究 胃がんの治療成績を上げるために, 少しずつ工夫した治療法の試み 病期に応じた治療法(日常診療) 普通の胃切除術 :定型手術 縮小した胃切除術 :リンパ節郭清範囲の縮小,胃切除範囲の縮小 病期に応じた治療法(臨床試験) 胃癌の治療 •内視鏡治療(根治的治療) 内視鏡的粘膜切除術(EMR,ESD) •手術 根治手術 開腹手術(定型手術,縮小手術,拡大手術) 腹腔鏡補助下手術 姑息手術(バイパス手術など) •化学療法(薬物療法) •放射線療法(レントゲンを用いた治療) •緩和医療(がんに伴う症状の緩和) 内視鏡的粘膜切除の適応 粘膜に限局している癌 分化型胃癌 大きさは2cm以下 隆起型癌:潰瘍の有無は問わない 陥凹型癌:潰瘍のないもの リンパ節転移を伴わない早期胃癌に対し, 臨床研究として適応が拡大 内視鏡的粘膜切除 切除標本 内視鏡的粘膜切除の成績 市立函館病院 消化器科 (2002~2005年) •症例数:早期胃癌 21例 •胃癌深達度:粘膜層 19例,粘膜下層 2例 •一括切除率: 13例 / 21例 (61.9%) •断端陽性の可能性: 6例 / 21例 (28.6%),追加手術 2例 •大きさと平均所要時間: 0~10 (mm) 11~20 21~30 31~ 6例 72.0分 13例 133.3分 2例 135.0分 0例 •合併症:穿孔疑い 2例(9.5%),敗血症 1例(4.8%) 内視鏡的粘膜切除による治療 •在院日数:平均 19.5日 •入院中内視鏡回数:平均 7.3回 •医療費:保険点数 平均 59,646点 596,640円 ※保険の種類により,自己負担額は1割から3割と異なります ※このほかに,食事代,個室料金などは自己負担となります 胃癌の治療 •内視鏡治療(根治的治療) 内視鏡的粘膜切除術(EMR,ESD) •手術 根治手術(根治的治療) 開腹手術(定型手術,縮小手術,拡大手術) 腹腔鏡補助下手術 姑息手術(延命的治療) バイパス手術など •化学療法(薬物療法) •放射線療法(レントゲンを用いた治療) •緩和医療(がんに伴う症状の緩和) 胃癌の手術 大半の胃癌では,手術療法が最も有効な治療手段と なっている •手術療法 (開腹手術・腹腔鏡補助下手術) 病巣を含めた胃の切除 (胃切除) 周辺のリンパ節の切除 (リンパ節郭清:かくせい) 食べ物の通り道を作り直す (再建) •根治手術 癌が完全に切除できる場合に,胃切除,リンパ節郭清,再建 のすべてが行われるもの •姑息的手術 根治手術が不可能な場合に,胃切除と再建のみを行ったり, バイパスをつくったりする手術 胃癌の手術(定型手術) 定型手術:胃の2/3以上の切除と,第2群までの リンパ節郭清を行う手術 胃切除の範囲:胃癌の部位と進行度(病期)によって決定 ○胃の出口に近い部位(幽門部)に癌がある場合 胃の出口2/3を切除(幽門側胃切除術) ○胃の入り口に近い進行癌,または広範囲に癌がある場合 胃をすべて切除(胃全摘術) 幽門側 胃切除術 胃全摘術 胃癌の手術(縮小手術) 縮小手術:定型手術に対して,侵襲の軽減,機能温存など を目的とした手術範囲を縮小した手術 リンパ節郭清範囲の縮小:侵襲の軽減 胃切除範囲の縮小:胃の機能(貯留,撹拌,排出)の温存 ○噴門側胃切除: ○幽門輪温存胃切除: ○局所切除・分節切除: 噴門側胃切除術 幽門輪温存胃切除術 貯留機能の温存 排出調整機能の温存 全機能温存 胃局所切除術 胃癌の手術(再建) ビルロートI法 幽門側胃切除術 胃全摘術 ルーワイ法 ビルロートII法 ルーワイ法 胃癌の手術(腹腔鏡補助下手術) 病期IA, IBの胃癌に対して,臨床研究として試みて いる侵襲が少なく術後の回復が早い手術方法 市立函館病院 外科での腹腔鏡下胃切除術の適応 病期IAで内視鏡的粘膜切除から除外された症例 胃癌の治療成績 市立函館病院 消化器病センター・外科 (2005~2008年) 胃癌切除総数: 229例 開腹手術 腹腔鏡下手術 110例 23例 胃全摘 57例 0例 噴門側胃切除 10例 6例 分節切除 4例 4例 局所切除 12例 2例 1例 0例 194例 35例 幽門側胃切除 膵頭・十二指腸切除 総手術数 胃癌の治療成績 市立函館病院 消化器病センター・外科 (2005~2008年) 術後在院日数 中央値 平均値 幽門側胃切除(腹腔鏡) 11日 12日 幽門側胃切除(開腹) 14日 18日 胃全摘(開腹) 19日 24日 胃癌の治療成績 市立函館病院 消化器病センター・外科 (2005~2008年) 合併症:発生数 (%)/229例 腹腔内膿瘍 13例 (5.7%) 縫合不全 10例 (4.4%) カテーテル感染症 9例 (3.9%) 麻痺性イレウス 8例 (3.5%) 肺炎 8例 感染性腸炎 8例 創感染 7例 (3.1%) 吻合部狭窄 5例 (3.1%) 膵液漏 5例 (2.2%) 術後出血 3例 (1.3%) 静脈血栓症 3例 乳糜腹水 3例 術後膵炎 2例 (0.9%) 急性腎不全 2例 胆汁漏 2例 心筋梗塞 1例 (0.4%) うっ血性心不全1例 術後在院死亡例 3例 (1.3%) 胃癌の治療成績 胃癌切除例の生存率 1993年1月1日~2003年9月1日 1年生存率 2年生存率 3年生存率 4年生存率 5年生存率 IA期 99.5% 98.3% 98.5% 98.2% 98.2% IB期 100.0% 100.0% 100.0% 97.1% 96.4% II期 91.7% 84.2% 73.3% 78.3% 75.0% IIIA期 79.2% 52.2% 44.4% 33.3% 30.8% IIIB期 85.3% 57.9% 50.0% 54.5% 50.0% IV期 56.4% 25.6% 16.3% 11.7% 5.6% 全体 86.7% 76.0% 70.1% 70.8% 69.0% 胃癌の手術費用 •腹腔鏡下胃切除術の場合 •入院日数:平均 14日 •医療費 :保険点数 平均 97,129点 971,290円 •幽門側胃切除術の場合 •入院日数:平均 20日 •医療費 :保険点数 平均 117,285点 1,172,850円 •胃全摘術の場合 •入院日数:平均 21日 •医療費 :保険点数 平均 144,063点 1,440,630円 ※保険の種類により,自己負担額は1割から3割と異なります ※このほかに,食事代,個室料金などは自己負担となります 早期胃癌に対するセンチネルリンパ節生検 背 景 近年早期胃癌が増加しており,胃癌全体の60%以上 早期胃癌のリンパ節転移頻度は低く,20%程度 定型手術は,広範囲胃切除とリンパ節郭清を伴い,約 6割の患者は胃切除後障害(下痢,ダンピング症候群, 小胃症状など)に悩まされ続ける。 術前,あるいは術中にリンパ節転移のない患者を選別 できれば郭清範囲,切除範囲を縮小できるが,現状で は術前にリンパ節転移の有無を100%診断することが できない。 早期胃癌に対するセンチネルリンパ節生検 センチネルリンパ節とは,癌から直接リンパ流を受けるリンパ節で あり,癌の転移は最初にセンチネルリンパ節に起こると考えられる。 ここに転移がなければ,他のリンパ節にも転移はない。 手術時にリンパの流れの確認とセンチネルリンパ節の 転移診断を行う方法 胃周囲のリンパの流れ 当院でのセンチネルリンパ節生検 色素法:17例, 色素+RI併用法:9例 リンパ節転移例:4例, 偽陰性例:1例 センチネルリンパ節同定率 100% (26/26) cN0正診率 84.6% (22/26) 感度 75% (3/4) 特異度 100% (22/22) 正診率 96.2% (25/26) 縮小手術期待率 88.5% (23/26) 今後は腹腔鏡下手術を予定,縮小手術にも期待 胃癌の治療 •内視鏡治療 内視鏡的粘膜切除術(EMR,ESD) •手術 根治手術 開腹手術(定型手術,縮小手術,拡大手術) 腹腔鏡補助下手術 姑息手術(バイパス手術など) •化学療法(薬物療法) •放射線療法(レントゲンを用いた治療) •緩和医療(がんに伴う症状の緩和) 胃癌の化学療法 •手術不能進行再発胃癌に対する化学療法(延命的治療) •術前・術後補助化学療法(根治的治療の効果を高める) 現在胃癌治療に用いられる代表的な抗癌剤 TS-1: 経口フッ化ピリミジン,単剤で最も奏効率が高い CDDP: シスプラチン(白金製剤),胃癌治療の歴史が長い PTX, DTX: タキサン系抗癌剤,比較的新しい抗癌剤 CPT-11: イリノテカン,比較的新しい抗癌剤 進行胃癌に対する単独薬剤の奏効率 (PTX) (DTX) 進行胃癌に対する併用療法の奏効率 化学療法の費用 胃癌術後補助化学療法として,TS-1を使用した場合… 用法・用量:1回40mg/ 50mg/ 60mgのTS-1を1日2回 4週間服用する。その後,2週間の休薬をする。 例えば,1回50mgのTS-1を内服すると ティーエスワンカプセル25 (薬価847.8円) X 2 = 1,695.6円 1日2回 内服で 1,695.6円 X 2 = 3,391.2円 4週間(28日間) 継続で 3,391.2円 X 28日間 = 94,953.6円 保険適応の薬剤なので,このうち保険の種類により1割から3割の 自己負担となる 胃癌の治療 •内視鏡治療 内視鏡的粘膜切除術(EMR,ESD) •手術 根治手術 開腹手術(定型手術,縮小手術,拡大手術) 腹腔鏡補助下手術 姑息手術(バイパス手術など) •化学療法(薬物療法) •放射線療法(レントゲンを用いた治療) •緩和医療(がんに伴う症状の緩和) •放射線療法(延命的治療) 胃癌は放射線感受性が低いため,放射線療法のみで 根 治性を求めることはできない。 骨転移,癌浸潤による疼痛の緩和などに用いられる。 •緩和医療(症状緩和) 治癒の期待できない患者や家族に対して積極的に行わ れる全人的な医療ケア 疼痛などの身体的症状,心理的,社会的諸問題の解決 薬物療法,放射線療法,精神療法などが含まれる。 当院では,緩和ケアチームをつくり対応している。 胃癌検診のすすめ •胃癌治療は,近年めざましい進歩を遂げている • 内視鏡治療,腹腔鏡手術,新規抗癌剤など治療 手段の選択肢も増えた •早期胃癌は,今や完全治癒が十分望める疾患で ある •それでもなお,我が国の胃癌による死亡者数は毎 年4万人以上で,がんの中で第2位である •胃癌に絶対にならない方法はないが,検診により 早期発見すればより治りやすい病気となる