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量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴 - 家研究室

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量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴 - 家研究室
修士論文
量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻修士課程 年
学生番号 田辺 正樹
指導教員
家 泰弘 教授
年 月
概要
本研究は、量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴(
ある。
)について実験的に調べたもので
については、一般的には 効果を用いた単純なモデルによって説明されて
いる。しかし、その単純なモデルでは説明できない特異な共鳴線形が複数の研究グループから報告さ
れている。この特異な共鳴線形のうち代表的なものが分散型共鳴線形であり、その起源については現
在も解明されていない。本研究では、さまざまな の共鳴線形、特に
共鳴線形に注目し、
で観測される分散型
、特に分散型共鳴線形の起源について調べることを目的とした。
さまざまなプラトー間遷移領域において
を測定し、プラトー間遷移領域における
は、一般的な 効果を用いた単純なモデルに電子温度の効果が加わって、複雑な様相を呈
していると考察した。
また、さまざまな で 本に分裂した共鳴線形を観測し、核四重極相互作用を反映していると
考察した。
² においては、分散型共鳴線形の を低くしたような、 字型の特異な共鳴線形を観測し、
依存性、 依存性、緩和時間などの性質を調べた。この 字型共鳴線形の起源として
効果を用いた単純なモデルと電子温度によるモデルの重ね合わせを考え、実験を定性的
に説明することに成功した。
º においては、分散型共鳴線形を観測し、 依存性、 依存性、緩和時間、全磁場
依存性などの性質を調べた。この結果から、分散型共鳴線形の起源について考察した。
目次
第
章 研究の背景
#
磁場中の 次元系の輸送現象 磁場中電子の半古典モデル ランダウ量子化 分数量子ホール効果 スカーミオンとスカーミオン結晶 抵抗検出核磁気共鳴 核磁気共鳴 の原理 半導体中の核スピンと電子スピンの相互作用
量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴 分散型共鳴線形 " 分散型共鳴線形 " とは における分散型共鳴線形の先行研究 分散型共鳴線形の起源 研究の目的 整数量子ホール効果
第 章 試料作製と実験手法
第章
第
章
次元電子系 リソグラフィー技術を用いたホールバーの作製
実験系 実験装置 電気伝導の測定系 抵抗検出核磁気共鳴の測定系 測定の方法 次元電子系の電気伝導の測定方法 抵抗検出核磁気共鳴の測定方法 緩和時間の測定 ² における 字型共鳴線形
字型共鳴線形の 依存性 字型共鳴線形の 依存性
$
$
%
核四重極相互作用を反映した
本章のまとめ プラトー間遷移領域における
!
試料の作製
以外での #
%
!
字型共鳴線形の緩和時間
考察 # 本章のまとめ 第章
º における分散型共鳴線形
# 分散型共鳴線形の 依存性 # 分散型共鳴線形の 依存性
# 分散型共鳴線形の緩和時間 # 重の共鳴線形 ## 試料の傾斜による全磁場の制御 # 分散型共鳴線形に関する考察 #$ 本章のまとめ #
第 章 結論
#!
#!
第 章 研究の背景
整数量子ホール効果の発見 %! 年&' と分数量子ホール効果 % 年&' の発見は、! 世紀後半
に発見された物理現象の発見の中で、最も重要なものの一つである &( ( #'。量子ホール効果は今日
まで実験的、理論的研究が精力的に行われ、磁性、超伝導と並ぶ物性物理学の一大分野にまで成長し
た。この間、より不純物の少ない高移動度の試料をもたらすことになった試料作成技術の向上、ナノ
スケールサイズの加工が可能になった微細加工技術の向上、新しい実験手法の導入などの支えもあ
り、強磁場下の半導体 次元電子系を舞台とする新しい現象が次々に発見され続けている。量子ホー
ル系の核スピンに関する研究もその
つである。
半導体試料の高品質化や微細加工技術の進歩に伴い、量子ホール系において核スピンが電子物性に
! 年代中頃から報告され始め、現在に至るまで活発に研究され続けている。
最近では、核スピンの状態を通して、これまでの測定法では観測できなかった 次元電子系の現象を
探る、という研究が進められている。その例が抵抗検出核磁気共鳴( )であり、核スピンの
エネルギースケール()*)が電子スピンのエネルギースケール(+)*)に比べて !!! 分の 程度
影響を及ぼす現象が
であることを用いて、電子の低エネルギーモードなどを観測することが可能になっている。
本研究では、この量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴(
における )に注目した。さまざまな
で観測される特異な共鳴線形について実験的研究
の共鳴線形、特に
を行った。抵抗検出核磁気共鳴の起源については、現在においても完全には解明されていないので、
本研究がその解明の一助となることを期待する。
本論文は以下のような構成となっている。第 章(本章)では、本研究の背景となる先行研究につ
いて紹介し、本研究の目的を述べる。第 章では、試料作製と実験手法について述べる。第 章では、
以外の領域で観測された抵抗検出核磁気共鳴の実験について述べる。第 章では ² の領域
で観測された 字型の共鳴線形に関する実験結果について述べる。第 # 章では º の領域で観測さ
れた、分散型共鳴線形に関する実験結果について述べる。第 章で本研究の結論を述べる。
磁場中の 次元系の輸送現象
磁場中電子の半古典モデル
磁場中の 次元系の伝導測定では、図 のような試料 ホールバー を用いるのが一般的である。
試料の幅を 、電圧端子間距離を とすると、対角抵抗率 , およびホール抵抗 は、
, により求められる。ドゥルーデモデルによれば、磁場中の伝導度は を電子の有効質量、
を電子
密度、 を散乱時間、
, , ,
をサイクロトロン角振動数として、
- , ,
- と表される。ここで、伝導率テンソルと抵抗率テンソルは互いに逆行列で結びつくので、抵抗率を伝
導度で表記すると、
, - となる。よって、
, -
, , , , , #
は移動度である。これより、電子密度 と移動度 を実験的に求めることができる。
となる。 , B
V
I
W
図 . ホールバーを用いた磁気抵抗測定の概
念図。水色の部分が 次元系を、橙色の部分
がコンタクトの部分を表す。
VH
L
ランダウ量子化
次に量子力学的に考える。磁場中の 次元電子の軌道運動は
, というハミルトニアンで表される。ここでベクトルポテンシャル が磁場と , という
関係にあることに注意して、* 方向の一様磁場を表すベクトルポテンシャルとして、ランダウゲージ
, ! 、あるいは対称ゲージ , をとり、シュレディンガー方程式を解くと、
エネルギースペクトルは
,
, ! という離散準位 ランダウ準位 に量子化される。ここで、
, $
はサイクロトロン角振動数、
をランダウ指数と呼ぶ。図 / に示したように、零磁場のときの連続状態密度だったものが磁
場中では離散的なランダウ準位に束ねられるのである。また、ゼーマンエネルギーを考慮すると、式
$ は
, - - %
となり、図 0 のようにさらに分裂する。 は 因子、 はボーア磁子である。ここで、ゼーマ
ンエネルギーを として、 番目のランダウ準位間から ギーギャップ 1 を確認しておくと、
- 番目のランダウ準位までのエネル
2 , "" 1 , 2 , となる。
ランダウ量子化の特徴としては
各ランダウ準位には単位面積あたり , の縮重度がある。また、
, と書ける
ことから、
は「系の単位面積を貫く磁束を磁束量子を単位として数えた本数」とみなせる。
- のサイクロトロン円運動に対応する。ここで
, は磁気長と呼ばれる長さである。 ,! 3 で ,% 4
ランダウ準位占有率 は を電子密度とすると , と表される。このことから「
は電子 個あたりの磁束量子の本数」とみなすことができる。
ランダウ指数
の軌道運動は、半径
(a)
E
(b)
B=0
E
(c)
B=0
EF
E
EF
B=0
EF
}g*μBB
Kωc
D(E)
D(E)
D(E)
. 零磁場の状態密度。エネルギーによらず一定値をとる。/ 有限磁場下でのランダウ準位。
0 ゼーマンエネルギーも考慮に入れると、更に つの準位に分かれる。
図
整数量子ホール効果
磁場中の 次元系のランダウ準位の形成は、系の輸送特性に大きな影響を及ぼす。その最たるもの
が整数量子ホール効果である。この副節では簡単に量子ホール効果の解説を行う & '。
, の周りで、対角抵抗 が零になり、 が に量子
化されている。古典モデルでのホール抵抗は , で与えられる。 個のランダウ準位まで
がちょうど電子で詰まるという条件は , であるが、この を代入するとホール抵抗は
, となり、形式的にホール抵抗の量子化値が出てくる。しかしながら、これは電子密
度と磁場が , という特定の関係になる 点において、ホール抵抗が特別の値をとるという
図 を見ると、整数の占有率
ことにすぎない。量子ホール効果の驚くべき点は、この特別な条件から少しずれたところでもホール
抵抗が量子化値に厳密に留まる、という点にある。
なぜそのようなことが起こるかを理解するには、強磁場中の電子局在の様子を議論しなければなら
ない。現実の系ではポテンシャルの乱れがあるため、各ランダウ準位の状態密度が有限の幅を持つこ
とになる 図 。量子ホール効果が起こるような強磁場では、電子は小さなサイクロトロン運動を
しながらポテンシャルの等高線に沿って動くことになる。有限幅のランダウ準位のうち裾の部分は極
大点や極小点を囲む閉曲線になるから、局在状態である。ランダウ準位の中央にのみ試料の端から端
までつながるような非局在状態ができる。
量子ホール効果が起こるような強磁場領域で磁場を変化させると、フェルミ準位が局在状態にある
ときに限り、絶対零度における系の伝導度は , ! に留まり、ホール伝導度 は一定値をとりつ
づける。よって、式 より対角抵抗 , ! となり、 は量子化する。これが、非常に簡略化し
た整数量子ホール効果の説明である。
E
㠀ᒁᅾ≧ែ
ᒁᅾ≧ែ
D(E)
図
.
整数量子ホール効果 &!'
図 . 系の乱れによりランダウ準位が幅を持つ
様子を模式的に表した図。裾は局在状態で、中央
に広がった状態ができる。
この説明において注目すべきなのは、電子相関の効果は全く無視されていることである。基本的
に、整数量子ホール効果は「 体問題」として理解することができる。しかしながら、強磁場下の量
子ホール領域では電子相関が本質的な役割を果たす現象も多く見られる。代表的なものが次で述べる
分数量子ホール効果である。
分数量子ホール効果
図 # にみられるように、整数以外に奇数を分母とする分数の占有率のところでも量子ホール効果
が起こっている。これを分数量子ホール効果と呼ぶ。 粒子描像では、 にはエネルギーギャッ
プがないので、分数量子ホール効果の存在は系が特別な多体状態になっていることを示唆するもので
ある。
ラフリンの試行関数 &' は、非常によく
, は奇数 の状態を記述している。
5 , 6 !
ここで は電子の位置座標 をまとめて表す複素座標 , である。図 に
, の場合を示す。これは各電子が 本ずつの磁束量子を背負っている状態に対応する。この場
という関数になり、
合、ある電子 の周りの他の電子の密度が つの電子間の距離に対して 電子間のクーロン反発を有効に避けるような波動関数になっているのである。
複合フェルミオン描像
分数量子ホール効果は
, 以外にも、 , 、 , # などの多くの分数占有率で観測され
る。整数量子ホール効果と分数量子ホール効果との類似性に着目して、 7
は複合フェルミオン描
像を提唱した &'。図 をみると、
, 状態は , 状態の各電子にもう 本ずつ磁束量子を
図
#.
分数量子ホール効果 &'
背負わせたものとなっている。そこで、磁束量子を 本ずつ背負った電子を複合フェルミオンとみな
す。
, の状態は複合フェルミオンにとっての零磁場状態とみなせる 図 $ /。 , から
ずれると、複合フェルミオンは有効磁場
, を感じる。そして、複合フェルミオンが有効磁場によって複合フェルミオンのサイクロトロンエネル
ギー で隔てられたランダウ準位を作る。結果的に複合フェルミオンの占有率
占有率
例えば、
と次の関係で結ばれる。
, は複合フェルミオンの
,
は元の電子の
, とみなせる。
分数量子ホール効果以外にも、量子ホール領域では電子相関が重要となる現象が多彩に現れる。ま
た、スピン自由度を考えると、分数、整数にかかわらず、キャリア間相互作用は重要となる。
B
ν 図
.
ラフリン状態 &'
#
(a)
(b)
E
E
(c)
Beff = 0
E
EF
ν = 1/2
ν = 2/3
νCF = 2
Beff = 0
CF Fermi Liquid
EF
IQHE of CF
図 $. 複合フェルミオンモデル。 , では強く相関している電子系 は 個の磁束を付着し
た複合フェルミオン 8 のフェルミ液体 / とみなすことができる。 , からずれると、複合
フェルミオンは複合フェルミオンのランダウ準位に分離する。
スカーミオンとスカーミオン結晶
, では、図 %
のようなスピン偏極状態が実現する。 , からの励起状態を考える。ゼー
マン分離が大きい場合、ゼーマンエネルギーで得をするため、図 % / のように つの電子がスピ
ン反転した状態が基底状態の次に安定である。しかしながらゼーマン分離が小さくなると、交換相互
作用で得をするために、図 %
0 のようにスピン反転した部分を中心とし、十分遠方のスピンが磁
場方向に揃った部分までスピンの向きをゆっくり変化させた構造をとる。この素励起をスカーミオン
と呼ぶ。スカーミオン つに関係するスピン反転の数は、交換相互作用とゼーマンエネルギーとの競
合によって決まる。
9
:: らの の実験によって確かめられた &!'。彼らは +
の のナイトシフトによって 次元電子系のスピン偏極率を測定した。図 の実線は、ゼーマン分離が
スカーミオンの存在は
大きく単に反対向きスピンが付け加わったと考えたときの結果であるが、丸で印された実験結果とは
大きくずれている。点線はスピンフリップが の有限な大きさのスカーミオンだと仮定したときの計
算結果で、実験結果とよく一致している。
(a)
(b)
(c)
図 %. スカーミオンの模式図。 , に
おけるスピン偏極状態。/ つだけスピン反
図 . 次元電子系による +
のナイトシフ
転した状態。0 スカーミオン励起。
ト &!'。
, 付近の領域では、有限密度のスカーミオンが存在し、正方格子を組んで結晶化することが理
論的に予想されている &'。図 ! はスカーミオン結晶のスピンの向きを示した図である。正方格子
上に磁化の面内成分の向きが互いに異なるスカーミオンが交互に配置された状態に結晶化している。
8;:< らによって、スカーミオンの正方格子の低エネルギー励起が理論的に調べられている &'。図
に集団モードのスペクトルを示す。 つのエネルギーギャップのない +": 4" が存在す
る。丸がフォノンモードで、十字がスピン波モードである。量子ホール系では電子スピンと核スピン
のゼーマンエネルギーに差があるため、エネルギーギャップのない励起モードが存在することは、核
スピンの緩和にとって非常に重要である。彼らは、スカーミオン結晶の低エネルギー励起によって核
スピン緩和率が , ! 3 のフェルミガスよりも 桁以上早くなると主張している。
が大きくなると、スカーミオンの密度が増えるため、量子揺らぎが大きくなりスカーミオン
結晶が壊れることが予想されている。図 は絶対零度におけるスカーミオン結晶の理論的相図で
ある。影のついた部分がスカーミオン結晶が安定な部分である。ここで、図中の = はゼーマンエネル
ギー である。また、温度を上げることによっても、スカーミオン結晶の融解転移が起こると
予想されている。
図
!.
スカーミオン結晶のスピン配置 &'。
図 . , 、 , !! ! における
集団モードの励起エネルギー &'。
スカーミオン結晶の形成を示唆する実験結果も幾つか報告されている。9
>: らは多重量子井戸を
, 付近の熱容量の測定を行った &#'。そして、 , !% 付近で、温度に対
して熱容量が鋭い を示すことを発見し、スカーミオン結晶の液体?固体転移を反映しているので
用いて、低温における
はないかと述べている。
抵抗検出核磁気共鳴を用いた、核スピン緩和の観測実験では、図 のように、
, 付近におい
て核スピン緩和率 " が増大する現象が見られており、スカーミオン結晶の低エネルギー励起によ
ると考えられている &(
また、
: らは
( $' 。
, 付近で、抵抗検出核磁気共鳴の共鳴線形に " と が同時に現れる分
散型共鳴線形を観測しており、スカーミオン結晶との関連を主張している。しかし、その起源は未だ
によく分かっていない。これらの
、特に分散型共鳴線形との関係に関しては で詳しく議
論することにする。
$
図 . 絶対零度におけるスカーミオン
結晶の理論的相図。影のついた部分がス
カーミオン結晶が安定な部分である &'。
図
.
核スピン緩和率が
, 付近で増大している &$'。
%
抵抗検出核磁気共鳴 核磁気共鳴 の原理
核スピンの磁気モーメント は、次式で表される。
ここで、
, #
, $ はプランク定数で、 は核スピン演算子、 # は核磁気回転比で核固有の定数であ
る。* 軸方向に定常磁場 をかけた場合、核スピンは磁場と相互作用する。エネルギー固有値は
, #
となる。ここで、 は核スピンの固有値で、 , の値をとり、核スピン系は - 個のエネルギー準位に分かれる。そのエネルギー差は
1 , ,
となる。式 # において , #
#
, # は、ラーマー共鳴周波数と呼ばれ、核磁気モーメントを古典
的に見たときの、歳差運動の周波数と等価である。
(a)
(b)
-1/2
-1/2
RF
ΔN
( hωL = ΔN )
+1/2
+1/2
. 磁場 の下での核スピンのエネルギー分裂の模式図。/ ラーマー周波数 に相当する
磁場を照射したときの準位間遷移の様子。上の準位と下の準位の核スピンの数が同じになる。
図
図 は、
, の場合の核のゼーマンエネルギー分裂の模式図である。核スピンが上向き
の状態が、下向きの状態よりエネルギー的に有利である。準位 - と を占める核スピン
の数をそれぞれ 、 とすると、比はボルツマン因子によって決められる。
1
# , 6 % " , 6 % "
1% では、 はほぼ であり、準位は均等に埋まっているとみてよい。
また、核スピンのゼーマンエネルギーは , ! 3 で、1 % # 4@ 位であるため、!! 4@ 以
高温領域 "
上の温度は高温領域とみなすことができる。したがって、!!
4@ 以上の温度においては、核スピン
は熱的には偏極していないと考えられる。
一方、低温領域 "
,!
1% になると、核スピンの熱的な偏極を考慮に入れなければならない。
3、" , ! 4@ で、核スピンの偏極率は約 ! %となる。
はラーマー周波数に一致したラジオ波 を試料に照射することで起こる 図 /。
高周波磁場 & が静磁場に対し、垂直にかかるとき、遷移は隣接するエネルギー準位間で起こる。
- から への遷移と、 から - への遷移は同じ確率で起こり、両方の準位
が等しく占められるようになるので、 照射により全体の核スピンの磁化 ' が減少する。
高周波磁場 & の周波数が共鳴周波数から外れると、核スピンの磁化 ' は熱平衡値に戻る。そ
れは次式で表される。
'
, ' 6
"&
$
" は一般的に、縦緩和時間またはスピン? 格子緩和時間と呼ばれ、核スピンが熱平衡値に戻るまでの
典型的な時間である。本論文では、" を核スピン緩和時間とよび、その逆数である " を核スピン
緩和率と呼ぶことにする。
核スピンの緩和は、核スピンのラーマー周波数に相当する電子スピン揺らぎの周波数成分を拾い状
態間の遷移が起こることによる。核スピンのゼーマンエネルギーは電子スピンに比べて非常に小さい
ので、核スピンのラーマー周波数も電子スピンの A!!! 程度と非常に小さい。よって、核スピン緩
和率を測定することにより、通常の方法では観測できない電子スピンの低エネルギー励起を探ること
ができる。
半導体中の核スピンと電子スピンの相互作用
核スピンと電子スピンとの間の相互作用は、超微細相互作用 >
:
0: と呼ばれてお
り、ハミルトニアンは次の形をとる。
%
$
%
,
Æ( ( (
ここで、 ( はそれぞれ自由電子の 因子と核の 因子で、 は核磁子、 はボーア磁子、 は核スピンで は電子スピンである。
式 % の第 項はフェルミの接触相互作用と呼ばれており、第 項は双極子相互作用と呼ばれて
いる。+
B 次元電子系において伝導に寄与するのは、 +
B の伝導帯の 電子で、核スピンの位置
に零でない存在確率を持っている。そのため、フェルミの接触相互作用が主要な相互作用となる。
以下では、フェルミの接触相互作用に注目する。式 % の第 項は次の形で書ける。
, ) %$ *!
!
ここで、
),
は超微細定数で、 * ! は核スピンの位置に電子を見つける確率である。式 用いて書き直すと、
,)
を昇降演算子を
このハミルトニアンは静的な効果と動的な効果の両方を生じさせる。
静的な効果
. 2:
) の項は電子のゼーマンエネルギーに変更をもたらす。核スピンが偏極すると核スピンは
局所的に実効磁場 を作り出す。
, ) この実効磁場を電子スピンが感じることにより、電子のゼーマンエネルギーは
1 , と変更を受ける。これを - 2: と呼ぶ。
!
動的な効果
.
電子スピンと核スピンの反転
) - の項は電子スピンと核スピンの反転を表す。電子と核のスピン反転はエネル
ギー保存則を満たさなければならない。そのためには、電子スピンと核スピンのゼーマンエネ
ルギーの大きな違いを埋め合わさなければならない。量子ホール領域においては、電子系にエ
ネルギーギャップが存在するため、埋め合わせるのは難しい。したがって、低エネルギー励起
が存在するときにのみ電子と核のスピン反転が起こりうる。
量子ホール系における抵抗検出核磁気共鳴 この副節では、特に +
B 次元電子系における
について述べる。 次元電子系に一定の
面直磁場がかかっており、 次元電子系近傍に存在する原子核( B、 +
など)の核スピンが偏
磁場を 次元面に平行に
印加すると、 次元電子系の抵抗が変化するという現象が起こる。これを抵抗検出核磁気共鳴 以下、
と呼ぶ。この現象は、基本的には以下のように 2: をもとに説明されている。
+
B では式 において ! ) + ! であるから、 ! である。したがって、核スピン
の偏極状態は、電子のゼーマンエネルギーを減少させている。ここで、共鳴周波数に相当する 磁
場を照射し、核スピンの偏極を減少させると、ゼーマンエネルギーが増加する。このときの 次元系
の対角抵抗の変化は、電子の によって異なる。
極した状態を考える。ここで偏極した核スピンの共鳴周波数に対応する
奇数 の場合
エネルギーギャップは、交換エネルギーを とすると
1,
- - 磁場の照射により、エネルギーギャ
ップは増加する。 次元系の対角抵抗
6 に仮定すると、エネルギーギャップの増加は対角抵抗の減少を
と表されるので、
を熱活性型 もたらす。
偶数 の場合
エネルギーギャップは、ゼーマンエネルギーを とすると
1,
#
磁場の照射によっ
てゼーマンエネルギーが増加すると、エネルギーギャップは減少する。奇数 と同様に熱
となる。ここで はサイクロトロンエネルギーである。この場合は、
活性型の対角抵抗を仮定すると、エネルギーギャップの減少は対角抵抗の増加をもたらす。
以上より、
の信号は、奇数 なら "、偶数 なら になることが予想される。
本研究では、以下、このモデルを モデルと呼ぶことにする。
しかし、このような単純なモデルでは説明することが出来ない現象が、いくつか報告されている。
そのうちの一つが、" と が連続して観測される「分散型共鳴線形」であり、これについては、
以下の節で議論する。
分散型共鳴線形 分散型共鳴線形 とは
で述べたような単純なモデルでは説明のできない特異な 線形が、多くの研究グルー
では、図 # に示すような " と が連続して現れる構造の波形
(分散型共鳴線形)が、
: らをはじめとする複数の研究グループによって報告されている &$'& '
&'&$'。これに対し、分散型共鳴線形を 以外の で観測したという報告もある。: ら
、 で &'、+
らは 、# で電子固体が形成されている の近くで &'、
は
プから報告されている。
それぞれ分散型共鳴線形を観測したと報告している。
図 #. , !% で観測された 。白
丸は 周波数を固定したときの抵抗の飽和値
を、実線と破線はそれぞれ と "
を示す。&$'
における分散型共鳴線形の先行研究
これまで、
における分散型共鳴線形の性質を調べたさまざまな研究が報告されている。この
副節では、それら先行研究のうち代表的ないくつかの手法に着目し、それらの結果をまとめること
で、分散型共鳴線形の起源について議論していきたい。なお、表 は各先行研究における試料特性
である。
. 先行研究における試料特性
電子密度 ヘテロ接合
量子井戸 (幅 )
量子井戸 (幅 )
!" #
ヘテロ接合
$%& ヘテロ接合
量子井戸 (幅 )
'
ヘテロ接合
表
移動度
分散型共鳴線形の 依存性
依存性については、相異なる結果が報告されている。 +
らは、
強い 磁場を印加した場合に分散型共鳴線形が観測され、 磁場を弱くしていくと分散型共鳴線
形が " のみに変化していくことを観測した &'。これに対し、3
0> らは、 磁場を弱くしてい
分散型共鳴線形の
くと分散型の構造を保ちながらシグナルが弱くなり、やがて消失するという結果を報告している(図
)。これと同様の結果は @"
らも観測している。また、
らは、 磁場が弱くなるにつ
れて、共鳴線形が、
構造が支配的→分散型→ " 構造が支配的、と変化していく様子を観測し
た(図 $)。
図
の
. 3
0> らが観測した分散型共鳴線形
依存性。& '
図
の
$. らが観測した分散型共鳴線形
依存性。&$'
分散型共鳴線形の 依存性
3
0> らは、 の領域において磁場で を制御して を行い、分散型共鳴線形の
" と の順番が入れ替わるという結果を報告している(図 %)。彼らは、この結果を , ,"
の符号反転点(図 %
参照)の前後の磁場で観測している。このことから、分散型共鳴線形が、
以下に議論するような、電子温度の変化による抵抗変化に起因するものではないかと考察している。
磁場の周波数を 、核スピンの共鳴周波数を とする。ここで、 から少し
だけずれた周波数の 磁場を印加した場合を考える。 º の場合、核スピンの共鳴に必要な
系に印加する
エネルギーの不足分を電子系が供給し、その結果として電子温度の低下が生じる。逆に ² の
場合は、過剰なエネルギーを電子系が吸収し、結果として電子温度が上昇する。したがって、電子温
度の上昇(低下)により抵抗が増加(減少)する領域なら、
において共鳴周波数の低周波側
に "、高周波側に といった、分散型共鳴線形のような線形が観測されると考えられる。一方、
電子温度の上昇(低下)により抵抗が減少(増加)する領域なら、低周波側に 、高周波側に "
といった、分散型共鳴線形の逆のような線形が予想される。本研究では以下、この電子温度による抵
抗変化の説明を「電子温度モデル」と呼ぶことにする。この電子温度モデルは図 % の結果を良く
説明しており、分散型共鳴線形の起源の候補の一つである。しかし、このモデルは、
モ
デル( 参照)との整合が取れていないなど問題が残っている。
一方、@"
らは、ゲートによって を変化させることで、
!% 付近で が分散
型共鳴線形から " へと変化する様子を観測した。また、
らも、磁場によって を変化さ
せることで同様の結果を得ている &$'。@"
らと らは、分散型共鳴線形が " へと変化する
結果を、試料の温度を上昇させた場合にも観測している。 &'&$'
核スピン緩和率の増大
で述べたように、 , 近傍では低温でスカーミオン結晶が形成され、電子の低エネルギー励起
が生じると考えられている。このため、核スピンが電子スピンとの C?C 散乱を介して緩和するこ
とが可能になり、核スピンの緩和時間が短くなる。このことは、核スピンの緩和時間の 依存性
%. は 4@波線、# 4@実線、
$! 4@点線 における での 。$# 3
付近で , ," の符号が変化している。 /
は $ 3、0 は $$ 3 における 。"
と の順番が入れ替わっている。" は□:
0 のような波形が観測された磁場、○:/ の
図
ような波形が観測された磁場、●:, ,"
の符号が反転する磁場、を示す。& '
. の 依存性(" , ! 4@)。/ 分散型共鳴線形( , !%
0" 構造( , !% " , ! 4@)。"
!% " , !! 4@。 ( , !%)。&'
図
" , ! 4@)。
の温度依存性
を調べた実験により報告されている。 )
4: らは
, の )D を用いて " の 依存
性を求め、報告している。(図 !
)
: らは、 を用いた方法( に詳述)で "
の 依存性を求めている。どちらの実験も、
で " が増大しているという結果を得てお
り、スカーミオン結晶の低エネルギー励起によるものと考えられている。 を用いた方法で
は、他に +
らや 3
0> ら、@"
らなどが同様に
で " が増大しているという結果を
得ている &%'& '&'。また、@"
らは º の領域で " の 依存性をより細かく観測し、
分散型共鳴線形の " の部分のみ " が増大しているという結果を報告している(図 )。この
" の増大が分散型共鳴線形が観測される領域でのみ観測されていることから、彼らは分散型共鳴
線形とスカーミオン結晶とが関係している可能性を指摘している。
図 !. , の )D を用いて求めた "
の 依存性 &'。/ を用いて求め
た " の 依存性。
(&$' より一部省略して
で " が増大し
引用。)どちらの実験も、
ているという結果を得ている。
º
図 .
の領域での、" の 依存
性の詳細な観測結果。" における " が増大
している , !% 付近は、分散型共鳴線形が "
へと移り変わる領域に相当している。 &'
面内磁場の印加
スカーミオンの状態は電子のゼーマンエネルギーとクーロンエネルギーとの競合によって決まる
ため、その比である -
,
はスカーミオンの状態に関する重要なパラメータである。ここで
は +
B での電子の有効 因子、 はボーア磁子、 ,
は磁気長である。上式より、
- であるから、試料に対する面直磁場を一定にしたまま面内磁場を印加すると、- を変化させ
#
ることができる。この操作は、外部磁場に対して試料を傾け、面直磁場が一定になるように磁場の大
きさを変化させることでも実現できる。
: らは、彼らは
, になるように保ちつつ全磁場と
試料の傾きを変化させ、 - , !!(スカーミオン結晶あり)と - , !!#(スカーミオン結晶なし)
の分散型共鳴線形を比較している 図 。前者に比べて後者の抵抗変化が小さくなっていることか
ら、彼らは分散型共鳴線形とスカーミオンが関係しているのではないかと主張している。
図 . , における B の 。
. , !Æ の場合に比べると、. , $Æ では分散
型共鳴線形の抵抗の変化量が小さくなってい
ることがわかる。 &$'
分散型共鳴線形の起源
で述べたように、分散型共鳴線形については、さまざまな実験結果が報告されており、その
起源が議論されている。起源としては、スカーミオンやその結晶の関与(&$'&')、電子温度の変化
による抵抗変化(& '&$')、電子の結晶化(&%'&')などが考えられているが、いずれも分散型共鳴
線形を完全に説明するには至っていない。
研究の目的
以上を踏まえて、本研究では、 次元電子系においてさまざまな で
その性質を調べることで、
の観測を行い、
の起源を探ることを目的とする。具体的なテーマは以下の通り
である。
での分散型共鳴線形の観測とその起源の解明
で述べたとおり、分散型共鳴線形の起源は未だ完全には解明されていない。そこで本研究で
は特に
での分散型共鳴線形の性質を調べ、その起源を探る。
さまざまな での
以外でも の観測
の観測を行い、
自体の理解を深める。
第 章 試料作製と実験手法
試料の作製
次元電子系
本研究で使用した半導体 次元電子系 E について簡単に説明する。本研究では、勝本研究室で
作製された +
BAB+
B 次元電子系基板を用いた。分子線エピタキシー法 9E により、+
B
と B+
B という異種半導体のヘテロ接合を単原子層の精度で作製することができる 図 。この構
造の界面では、+
B と B+
B のバンドギャップの違いから、エネルギーバンドが不連続になってい
る。この状態で、B+
B にドープされた がドナーとなって生じた自由電子は、よりエネルギーの
低い +
B 層に移動する。この電荷の移動によって生じた電場によって図 のように +
BAB+
B
界面に三角ポテンシャルが生じ、電子はそこに閉じ込められ * 方向の自由度を失う。このようにして、
+
BAB+
B 界面に 次元電子系が実現される。
本研究では、図 のような設計の半導体 次元電子系の基板を使用した。下から順に、基板から
薄膜への影響を避けるための超格子構造、 次元系が形成される +
B 層、スペーサーの B+
B 層、
キャリアドープ層、表面から距離を稼ぎ影響を減らすための B+
B 層、そして B の酸化を防ぐた
GaAs cap
n-AlGaAs
࢟ࣕࢵࣉᒙ
spacer AlGaAs
GaAs 3 nm
AlGaAs 2 nm
2 DEG
GaAs
࢟ࣕࣜ࢔
ࢻ࣮ࣉᒙ
GaAs Substrate
AlGaAs 5 nm
AlGaAs 5 nm
AlGaAs 500 nm
図
. +
BAB+
B ヘテロ構造
AlGaAs 5 nm
ࢫ࣮࣌ࢧ࣮ᒙ
E
n-AlGaAs
Si-doped
HT-AlGaAs 45nm
2 DEG
AlGaAs
Spacer
㸰㹂㹃㹅ᒙ
GaAs
㉸᱁Ꮚᵓ㐀ᒙ
2DEG
EF
GaAs 700 nm
GaAs/AlGaAs
superlattice
buffer
GaAs Substrate
Z
図
図 . ヘテロ構造のエネルギーバンドの模
式図
$
. 次元電子系試料の設計図
Si δ-dope
めの +
B キャップ層となっている。
リソグラフィー技術を用いたホールバーの作製
本研究では、フォトリソグラフィー技術または電子線リソグラフィー技術を用い、以下のような手
順でホールバー型の試料を作製した。なお のつく項目はそれぞれの技術で工程の条件等が異なり、
その詳細は表 に示されている。
微細加工前の準備
板状の基板を約 %
44∼! 44 角の正方形にカットした後、トリクロロエチレン・アセトン・
メタノールの順で各 # 分間ずつ超音波洗浄をし、試料の汚れを落とした。
エッチングによる 次元電子系の加工
スピナーを用いて試料にレジスト を塗布し、プリベーク を行った。その後、ホールバーの部
分のレジストが残るように、露光 を行った。現像液 で現像した後、エッチング液 ) F
.
) . ) , ..% を用いて、ウエットエッチングにより深さ約 ! 4 ほど削った。リムー
バーとしての有機溶剤 に浸してレジストを除去した。
次元電子系とのオーミックコンタクト
工程 と同様に露光、現像して電極部分のレジストを除去した。真空蒸着により B+ を約 $!
4( を約 $ 4 蒸着した後、有機溶剤につけて残りのレジストを除去し、電極部分のみに
B+ が残るようにした。次にフォーミングガス 中で ! ℃で ! 分間加熱(アローイング)
することによって、B+ 電極と 次元電子系間のオーミックコンタクトをとった。
ゲート電極およびパッドの作製
工程 と同様にして露光、現像した後、真空蒸着により 3 を約 !
4( B を約 ! 4 蒸着す
ることで、ゲート電極およびパッドを作製した。ゲート電極に電圧をかけることで、ゲート直
下の電子密度を制御することができる。
表
.
各工程の詳細
フォトリソグラフィー
レジスト
プリベーク
露光
現像液
有機溶剤
()
*
℃ 分
マスクと紫外線ランプ
(-*#
アセトン
電子線リソグラフィー
+)
℃ 分
電子線描画 ,
*
./0* 現像液
トリクロロエチレン
図 および図 # は上記の工程で作製した試料の形状を示す。水色部が 次元電子系を、赤色部
が表面とのオーミックコンタクト部分を、緑色部がフロントゲートの部分を示しており、紫色の表示
はホールバーのスケールを表している。また、表 は試料の 次元電子系の特性を示したものであ
る。電子密度と移動度は温度 !
4@ での低磁場領域での /?")
振動と零磁場の対角抵抗
から算出した値である。なお試料 の値が変域を持っているのは、その試料を複数回測定したため、
各測定ごとでヒートサイクルが異なるからだと考えられる。
、 の混合気体。
%
図 . 試料 の概略図。コンタクトの と が電流端子、それ以外が電圧端子で
ある。
図 #. 試料 の概略図。コンタクトの と が電
流端子、それ以外は電圧端子である。ゲート B∼
は本研究では使用していない。
実験系
実験装置
実験は全て図 に示したような 3D
" 型の希釈冷凍機を用いて行った。試料は混合器内に
直接挿入される試料ホルダーに取り付けられ、 )
最低到達温度は約 !
てある
) 混合液に直接接触するようになっている。
4@ であり、ヒーターによって温度調節が可能である。温度は試料と共に入れ
温度計によって測定した。磁場の印加には # 3 超伝導マグネットを使用した。試料ホル
ダーを回転させることで、試料に面内磁場を印加した測定ができるようになっている。
電気伝導の測定系
測定は全てシールドルームを用いて行った。測定系は図 $ に示す通りで、デジタル計測器が発生
するノイズを軽減するため、シールド内にはアナログ機器のみを設置し、ローパスフィルターを通し
て外のデジタル計測器に入力し、そこから得られた出力を計算機に取り込んだ。
測定は、交流周波数 )* の ∼#! B ロックイン定電流測定により行った。ホールバーでの 端
子測定を行うことで、試料の対角抵抗 およびホール抵抗 を測定した。また、ソースメジャー
ユニットを用いてフロントゲートに電圧を印加し、試料の電子密度を制御した。ゲート電圧にヒステ
リシスがないこと、およびいずれのゲート電圧でも試料からのリーク電流は !!
B 以下であること
を確認してある。 測定に用いるラジオ波は : で発生させた。 測定
に関しては次の で詳述する。
4 名
試料 試料 試料 表 . 次元電子系の 4 特性
ゲート条件 電子密度 ! 4 移動度 4 AG
!G
!G
無
#$∼%$
%
%
#∼%
Signal
Recovery
1K pot pump
Injection
1K pot
Still
RuO1
Mixing
chamber
Sample
RuO2
図
Superconducting
solenoid
. 3D
" 型希釈冷凍機の概略図
Computer
Digital Multimeter
Ri
Source Measure
Unit
I-
I+
JDWH
Signal Generator
5)ಙྕ
ཧ↷ಙྕ
Sample
V-
V+
Lock in Amp
Differential
pre-Amp
ࢩ࣮ࣝࢻ࣮࣒ࣝ
図 $. 交流定電流測定の模式図。 は ! H∼!!
戦はアナログ信号、点線はデジタル信号を表す。
!
H と 4 に対して十分高抵抗である。実
抵抗検出核磁気共鳴の測定系
図 % は抵抗検出核磁気共鳴のセットアップである。 次元面に垂直な静磁場をかけた状態で、 次
磁場は、図 % のような
巻きコイルに : B: %!9 から 信号を入力することで発生させた。 巻
きコイルは試料の近くに巻き、同軸ケーブルに直接取り付けた。
: の出力は %! "94
から ! "94 とした。
インピーダンスマッチングの影響により、 周波数によって、 磁場の強さが変わってくる。図
は、温度 ! 4@、 ,! 3 における、試料 の対角抵抗の 周波数依存性を示したものであ
る。導入される 磁場が強いところほど、電子温度の上昇が大きく、抵抗値も高くなっている。た
だし、 測定の際は !! )* 程の狭い範囲で周波数を掃引しているため、電子温度の周波数
依存性は 測定の測定結果にはほとんど影響しないと考えられる。
元面に平行にラジオ波の高周波磁場を照射して抵抗の変化を測定した。
0 dBm
-10 dBm
-20 dBm
Rxx ( k Ω )
9.0
8.5
8.0
7.5
40
80
120
RF (MHz)
. 試料の ,!3 における対角抵抗の
周波数依存性
図
図
%.
抵抗検出核磁気共鳴の測定系
で定義される。
を としたもので 測定の方法
次元電子系の電気伝導の測定方法
本研究に用いた試料は、前述の試料 (図 )および試料 (図 #)の つである。試料 につ
いては、端子 ? 間に電流を流し、端子 ? 間および端子 ?# 間の電位差を測ることで試料のホール
抵抗を測定し、端子 ? 間および端子 #? 間の電位差を測ることで試料の対角抵抗を測定した。また
ゲート端子 B に電圧をかけることで、ゲート直下の 次元電子系のキャリアを変化させた。試料 に
ついては、端子 ? 間に電流を流し、端子 ?! 間および端子 #?$ 間の電位差を測ることで試料のホー
?! 間および端子 $?% 間の電位差を測ることで試料の対角抵抗を測定した。ま
たゲート端子 E に電圧をかけることで、ゲート直下の 次元電子系のキャリアを変化させた。コン
タクト と およびゲート B∼ は、試料自体には存在するものの、本研究の測定では使用していな
い。図 ! にそれぞれの試料の対角抵抗の磁場依存性を示す。
本研究では、一部を除き主に試料 を用いて測定を行った。したがって今後示す測定データは、試
料 と明記されているものは試料 、それ以外はすべて試料 において測定したものである。
ル抵抗を測定し、端子
n
2
1
3
n
2
1
W yxR
W xxR
W xxR
B
W yxR
4 3
B
図 !. 試料 の , ! G における対角抵抗とホール抵抗の面直磁場依存性。/ 試料 のゲー
トなし部分における対角抵抗とホール抵抗の面直磁場依存性。
抵抗検出核磁気共鳴の測定方法
抵抗検出核磁気共鳴 の測定は以下の手順によって行った。
試料に一定の外部磁場をかける。
試料近傍に巻いてあるコイルを用い、一定の出力で高周波を印加する。
一定の待機時間("
>)だけ待つ。
試料の対角抵抗を測定する。
# の周波数に対してステップ分だけずれた高周波を印加する。
# を繰り返して、周波数に対する対角抵抗の変化を得る。
ここで周波数を掃引する方向は、低周波から高周波と、高周波から低周波の 通り存在する。本研
、" と呼ぶことにする。また、(ステップ &)*' )A(待機時間 &'
)が周波数の : であり、主に !# ! )*A で測定を行った。図 は の共鳴
線形の例である。本研究では、同一の周波数変域において と " を一組として測定
究ではそれぞれ
を行った場合が多い。したがって、この図のように、 つのグラフに緑と赤の 種類のグラフが 本
ずつ存在する場合は、特に断らない限り、緑が 、赤が " をあらわすものとする。
. 試料 の 9,%%# 3 における
。ステップは !#)*、"
>
は であり、緑色が 、赤色が "
である。# )* 付近が共鳴周波数と
図
W xxR
n +
の
考えられる。
実験では、、
、電流などのうち つのパラメータを変えながら連続して 測定を行い、そのパラメータへの依存性を調べる場合が多い。ここで磁場を固定しながら行った測定
に関して、補足をしておく。磁場を固定する方法としては、超伝導磁石に電流を流しっぱなしにする
方法(:?::
4")と、超伝導磁石に電流を流した状態で電源との接点を切り、永久電流の
みで磁場を維持する方法(F:: "。以下IFIと表記)の 通りを用いた。前者の場合は
一定の磁場が維持されるので問題はないが、後者の場合は、永久電流とはいえ電流の損失がわずかに
におい
ては少しずつ共鳴周波数が小さくなっていくことが予想され、実際そのようになる。図 は時間
経過による共鳴周波数の減少を反映している結果の例である。この共鳴周波数の減少は F で測定
した場合に常に起こり、:?F では起こっていないので、本研究においては磁場の減衰によるもの
と結論づける。以下、磁場を固定して行った実験結果にIFI と記載した場合は、上記のような
存在するため、時間が経つにつれて少しずつだが磁場は減衰していく。このため、
ことが起こっていると考え、共鳴周波数の減少に関しては考察を省略する。
R / R
n n 図 . +
および / +
の
字型共鳴線形の 依存性。磁
場を :: 4" で #! 3 に固
定して、ゲート電圧を変えることに
より を $ から まで順
に操作した。測定が後になるにつれ
て、共鳴周波数が小さくなっている
ことがわかる。
R / R
緩和時間の測定
の緩和時間 " の測定方法について述べる。まず、共鳴周波数から少し外れた
周波数の 磁場を #! 秒間照射する(J 0)。そして、共鳴周波数の 磁場を #! #! 秒
間照射する( 0)。その後、再び共鳴周波数から外れた周波数を照射する(J 0)
と、抵抗は平衡値へと指数関数的に緩和していく。この抵抗緩和を 6:
&
, - 6 "
この節では、
で :: することで、" を求めた。ここで は共鳴が起こっていない場合の抵抗の平衡値であり、
は共鳴による抵抗の変化量を表す。図 は、試料 、9,$ 3 における B の " の測定の例
である。 0 は ##$ )*#! 秒間、J 0 は ## )* で #! 秒間と #! 秒間
であり、!! #! を :: に用いる。
W xxR
図 . 試料 の 9,$
" の測定
3 における B の
第章
½ 以外での 以外の領域で観測された この章では、
の実験結果について述べる。
プラトー間遷移領域における 遷移領域における +
の の 依存性である。 は磁場を
変化させることによって制御した。 の方向によらず、% $! 付近を境に , 側が
"、 , 側が と変化している。これは、
効果に基づく の単純なモデル
( 参照)と一致している。一方、図 は +
の線形が変化した領域での B の 依存性
である。横軸は、共鳴周波数を磁場の一次関数として :: することで磁場のゼロ点のずれを補正
した後、周波数A外部磁場 の値で揃えたものである(以下、磁気回転比補正と呼ぶ)。こちらは
+
とは異なり、共鳴線形は " のままという結果を得ている。また、 +
でも同様の結果が観測
された。
図 は !" # $##"
% & (
&% &
% &
% &
% & '% &
% &
% &
W xxR D
W xxR D
D & ' #" #
" #
" #
" #$ $%" #$
$$" #$
$" #
D 図 . 遷移領域における +
の 。
が "
共鳴線形が " から へと変化している。
n 、/ が である。
W xxR D
. 遷移領域における B の
。+
の線形が変化した を超
えても、共鳴線形は " のままであった。 +
図
でも同様の結果を得ている。
! " # $
図 、 および # は 遷移領域における各核種の の 依存性である。
は磁場を変化させることによって制御した。図 /、 および # の横軸は、磁気回転比補
#
正に換算してある。 +
では
, 側が 、 , 側が " と変化しているのに対し、 B では
逆に , 側が "、 , 側が と変化している。また、どちらも と " の共鳴周波数の
間に !)*A3 程度のずれが生じている。一方、 +
では によらず、常に " であるという結
果を得た。
!"# $
W xxR D
W xx R
&'n
( (
(
(
%
)
. 遷移領域における +
の の共鳴線形。 が生データ、 / が横軸を
)*A3 に換算し、縦軸を差分にしてオフセットをかけたものである。共鳴線形が " から へ
と変化している。図中の点線の内、赤い部分が " または が存在する部分である。
図
! "
n
W xxRD
xxRD
. 遷移領域における B の
。共鳴線形が " から へと変化
している。図中の点線の内、赤い部分が "
または が存在する部分である。
図
n #. 遷移領域における +
の
。共鳴線形は によらず " で
図
ある。
における +
の の例である。 では , 側ではこのよう
な " が観測されたが、 , 側では 自体、うまく観測できなかった。 B、 +
でも同
様の結果であった。
図 は 考察
の起源について考察する。
は奇数 近傍では " に、偶数 近
以上の測定結果をもとに、プラトー間遷移領域における
で述べた モデルによると、
傍では になると予想される。これをそのままプラトー間遷移領域に拡張できると仮定すると、
ある を境として、それより奇数 側は " に、偶数 側は になると考えられる。
あくまで仮定であるのは、量子ホール領域近傍で有効である熱活性型の抵抗の描像を、プラトー間遷
移領域にも同じように適用しているからである。それでも、 での +
の結果はこのモデ
W xxR
図 . , $ における +
の 。
共鳴線形は " である。この より , 側は " が観測されたが、 , 側は 自体観測できなかった。
n での B や +
、
あるいは の結果は、 モデルにおいて何らかの影響(核種の違いや、共鳴周波
数の違い、偏極率の違いなど)から、奇数 側の効果が相対的に大きく、偶数 の効果があ
らわに観測にかからなかったと考えると、一応の説明はつく。
しかし、 の結果、特に +
の結果は モデルでは説明がつかない。 +
と
B の における " は低周波数側、
は高周波数側という実験結果からは、 で議
論した電子温度モデルの関与が疑われる。電子温度モデルでは、 によらず " と 両方が
現れる可能性がある。そのうち、 などの条件によって強く現れる波形が変わると仮定すると、
における +
と B のような結果になる可能性も考えられる。ただし、" や の片
方ずつしか観測されていないなど問題は残る。
以上のことから、プラトー間遷移領域においては、少なくとも モデルと電子温度モデ
ルの両方が関与していると考えられる。
ルでうまく説明することができる。また、" しか観測されなかった $
核四重極相互作用を反映した における B の である。共鳴線が 本に分かれる様子が観
測された。共鳴周波数の差はおよそ ! )* である。試料 においては、 ! B、 , # の条件で
B の共鳴線形として同様の波形が観測された。しかし同じ条件下でも、 +
や +
の場合や、違
う試料(試料 か試料 か)では、 本の " しか観測されなかったり、 自体が観測されな
かったりした。また、 º では図 % のような 本に分裂した が観測された。こちらも +
、
+
の場合は 本の しか観測されなかった。
図 $ は試料 の
(n = 0.787)
n W xxR
W xx R
図 $.
における B の 。
緑が 、赤が " である。試
料 図 %. , における B の 。
本に分裂した が観測された。
これら 本に分裂した共鳴線形は、以下に述べるように核四重極相互作用を反映していると考えら
れる。 B、 +
、 +
、などスピン A を持つ核種は、電荷分布が球対称とならないため、核四
重極モーメントを持つ。核の周りの電荷分布が立方対称でない場合は、核四重極モーメントと電場勾
配がカップルして、図 のようにエネルギー分裂が起こる。この状況下で
を観測すると、
図 の つのエネルギーギャップに対応して、共鳴線も つに分裂すると考えられる。
º では、分散型共鳴線形が 本に分裂したような共鳴線形を観測した(図 ! 参照)。これも、
核四重極相互作用を反映していると考えられる。この共鳴線形に関しては、 # で詳しく議論する。
本研究では B でのみ 本に分裂した共鳴線形を観測した。この共鳴線形自体は核四重極相互作
用により説明がつく。しかし、他の核種や、同じ B でも試料、 の違いによっては、 本に分
裂した共鳴線形は観測されなかったため、どのような条件下で核四重極相互作用の効果が反映される
かは不明のままである。
%
hωL + 2Δ
hωL
W xxR
hωL
hωL
n hωL - 2Δ
hωL
ᅄ㔜ᴟ┦஫స⏝
࡞ࡋ
ᅄ㔜ᴟ┦஫స⏝
࠶ࡾ
º
図 !.
で観測された、 本に分裂した
分散型共鳴線形。核四重極相互作用を反映し
ていると考えられる。(試料 )
図 . 核四重極相互作用によるエネルギー準
位の分裂。核四重極相互作用によって、大き
さの異なる つのエネルギーギャップが形成
される。
本章のまとめ
本章では、
以外の における の実験結果を示した。ここでの結論を以下にあ
げる。
さまざまなプラトー間遷移領域で
の測定を行い、 モデルと電子温度モデ
ルのそれぞれの特徴をもった別々の結果を得た。このことから、プラトー間遷移領域における
は、少なくとも モデルと電子温度モデルの両方が競合した、複雑な状況
を反映しているのではないかと考察した。
さまざまな で、 本に分裂した共鳴線形を観測した。これは核四重極相互作用を反映し
ていると考えられる。
² ½ における 字型共鳴線形
第章
この章では、
² の領域で観測された、図 のような共鳴線形について述べる。この共鳴線形
は低周波数側から " と が連続して現れるという点で、後述する「分散型共鳴線形」に類似し
² の領域で観測されるという点、" に比べて が小さいという点などの相違点が
ているが、
見られるので、本研究では、「分散型共鳴線形」と区別し、「 字型共鳴線形」と呼ぶことにする。
W xxR
²
図 .
で観測される 字型共鳴線形。緑
が 、赤が " である。"
のみで観測される、" より の方
が抵抗変化が小さいなどの特徴がある。
n = 1.251)
字型共鳴線形の 依存性
R/R
n n =1.30
W xxR
W xxR
n =1.23
図 . B の 字型共鳴線形の 依存性。"
が、低 側では 字型へと遷移している。
!
。高 側では " だけだったもの
R / R
R / R
n n 図 . +
および / +
の 字型共鳴線形の 依存性。"
。ゲート電圧を変えることに
より を操作した。 B と同
様の結果が得られている。 F
字型共鳴線形が観測される条件を探るため、 字型共鳴線形の 依存性を測定した。図 は !! B、## 3 における 字型共鳴線形の 依存性である。 はゲート電圧によって制御
した。図では で見ているためわかりづらいが、高 側は図に示した範囲では + ! で
も " が観測された。また、図に示した領域より低 側は , の量子ホール状態になり、 自体が消失してしまうため、 は観測できなかった。この結果を見ると、高 側では "
だけだったものが、
! 付近を境に低 側では 字型へと遷移していることがわかる。ま
た、" に対して のシグナルが弱いことがわかる。なお、 +
および +
においても同様の
結果が観測された(図 )。
分散型共鳴線形との比較のため、磁場を固定した状態でゲートによって を変え、共鳴線形の
比較を行ったのが図 である。 , ! # における分散型共鳴線形は 、" とも
に観測されたが、 , における 字型共鳴線形は " のみで観測された。 , ! # と
, (磁場の値は同一)における共鳴周波数を比較すると、
の周波数はほぼ重なっている
が、" については ! ! )* 程度異なっている。
W xxR
W xxR
n = 0.95
n = 1.23
n = 1.23
n = 0.95
W xxR
W xxR
. ## 3( !! B における 字型 , と分散型 , ! # の共鳴線形の比較。磁場を
## 3 に固定し、ゲート電圧を !! 4G から 4G まで変えることで、 を , から
, ! # まで変えた。赤と緑が , の共鳴線形、紫と青が , ! # の共鳴線形である。
図
字型共鳴線形の 依存性
図 # は #% 3( , ! 4G における 字型共鳴線形の 依存性である。/ においては、
字型共鳴線形において " と の抵抗変化の大きさが異なることから、それぞれ "94 にお
ける 1 の値で規格化している。この結果を見る限りは、 " と は の減少と
ともに同じように減衰しており、振る舞いに差があるとはいえない。
W xxR D
xx R / xx R D
n ~ 75
(n = 1.251)
DR
DR
図 #. #% 3( , ! 4G における 字型共鳴線形の 依存性。
それぞれの で
の共鳴線形をオフセットをつけて表示したもの。 / " および における抵抗の変化割合を に対してプロットしたもの。 "、
とも "94 における 1 の値で規格化して
いる。
字型共鳴線形の緩和時間
字型共鳴線形の起源をより深く探るため、 に示した手法を用いて、 " および におけ
る緩和時間の測定を行った。 0 の周波数は " が !% )*、
が ! )* であ
り、J 0 の周波数として !#! )* を用いた。図 。
図 / は " と における抵抗の時間変化の例である。
に関しては、 6:
の式
& !!
, - 6 "
を求めた。一方 " に関しては、!! 以降の抵抗緩和を
で :: することでスピン緩和時間 "
"/ 6:
の式
, 6 & !!
!"
"
6 & !!
!#$%"
"
で :: した。ここで は共鳴が起こっていない場合の抵抗の平衡値であり、 と は共鳴に
0 に示すように、 6:
より "/
6:
の方が抵抗変化を正確に :: できているからである。ここでの 種類の緩和時間の存
よって生じる抵抗の変化量を表す。これは図
在については後ほど議論する。
上記の方法で求めた緩和時間を、その逆数の緩和率に変換してグラフ化したものが図
" であ
る。縦軸は対数である。各 において同一条件で複数回測定を行い、その平均をとってデータ点
&' !#$%"
つきがあるもののおおむね
!! 、"&' !"
! であり、" はばら
&'
!"
が同程度であるこ
! となっていることがわかる。"
と "
とした。これをみると、 によらず "
とに、注意しておきたい。なお、 # の " と 、および
抗変化自体が小さい( #
+ ! の については、抵
H)くノイズの影響が大きいので、 " の測定値は誤差が大きい。
)
n !
"# !
W xx R
W xxR
$
$
%
&' ( & n = 1.305)
W xxR
T
T
T
W xxR
T
n
図 . 字型の共鳴線形。 &' 、 、 $ がそれぞれ "、
、J 0 の周波
数である。 / " および に対応する周波数を印加したときの抵抗の時間変化の例。 #! !!
が &' または を印加し、共鳴を起こしている時間である。 ! #! と !! !! では
$ の周波数の を印加している。 0 " の緩和時間測定の :: の例。 6:
よ
り "/ 6:
の方が抵抗変化を正確に :: できていることがわかる。 " " と そ
れぞれにおける緩和率 " の 依存性。" については "/ 6:
で :: したため、
緩和時間が短いほうを 2
:、長いほうを としている。白抜きのマーカーはノイズの影響が大
きく、誤差が大きいデータを意味している。
考察
以上の結果をもとに、 字型共鳴線形の起源について議論していきたい。 で説明した モデルによると、この 領域 ² では " のみが観測されると予想される。このモデルでは、
高周波側に が生じる理由が説明できない。一方で、" と が両方現れている点では、電子
温度モデルが働いていることが考えられる。しかし、このモデルにおいては " に比べ のシグ
ナルが小さいことや、 では 字型共鳴線形が観測されないことの説明がつかない。また、
" の緩和時間が 種類存在することは、 " における抵抗変化の機構が複数存在することを示唆し
ている。
以上のことから、 字型共鳴線形が モデルと電子温度モデルの重ね合わせによって生
じると考えた。図 $ に示すように、
モデルによって生じる大きな " に、電子温度モデ
"A
を重ねると、 字型共鳴線形のような抵抗変化が得られると考え
られる。この複合モデルについて、 字型共鳴線形の実験結果を検討してみると以下のようになる。
依存性
依存性では、高 側 + ! では "、それより低 側では 字型が観測さ
れた。これは測定した全領域で モデルが働いており、 字型共鳴線形が観測された
ルによって生じる小さな
領域ではそれに加え電子温度モデルも働いていたと考えることで説明することができる。
分散型共鳴線形との周波数比較
分散型共鳴線形の起源がいまだに良く分かっていないため、深く議論することはできないが、
" のみ周波数がずれていた理由として、 字型共鳴線形の " に 種類の機構が存在すること
が考えられる。
方向依存性
字型共鳴線形が " のみで観測され、 では が存在しない理由につい
ては次のように考えられる。 の場合は の周波数に到達する前に、
モ
デルの働きによる核スピンの共鳴が起こる。この核スピンの共鳴が十分緩和しないうちに の周波数に到達すると、電子温度モデルの働きが弱まって、抵抗変化が小さくなる可能性があ
る。このため、
では 字型共鳴線形が観測されなかったと考えられる。
依存性
を弱めていったとき、
モデルと電子温度モデルのどちらの効果が消失し
やすいかについては、それを分離して測定した結果が無いため議論できない。今回の実験結果
によると、どちらのモデルも同程度に弱まっていくと考えられる。
緩和時間
スピン緩和時間について調べた先行研究によると、今回 字型共鳴線形を測定した領域 ! での緩和時間は ! !! 程度であると考えられる 図 %。それは、 !
近傍が、スカーミオンの低エネルギー励起によって緩和時間が減少する領域の裾付近であるた
めである。ただ、この領域では、スカーミオンの状態の違いによってスピン緩和時間が影響を
受けるので、必ずしもこの値が正しいとは限らないことに注意したい。このスピン緩和時間は、
モデルの緩和時間に対応する。一方、電子温度モデルについてはその緩和時間を見
積もることは非常に難しいが、 " と で緩和時間に差は無いものと考えられる。
&' !#$%" 以上を踏まえると、 字型共鳴線形の緩和時間について、"
&' !" と " デルによる緩和時間、 "
!! が モ
! が電子温度モデルによる緩和時間に対応する
と考えられる。
ここまで述べてきたとおり、 字型共鳴線形が
モデルと電子温度モデルの重ね合わせ
によって生じるというモデルは実験結果をうまく説明できている。この結果は、分散型共鳴線形の起
源を考える上で、重要な情報になると考えられる。
(b)
(a)
xxR
xxR
RF
RF
(c)
xxR
RF
図 $. モデルによる抵抗変化の
イメージ図。/ 電子温度モデルによる抵抗変化
のイメージ図。0 字型共鳴線形の典型例。
と / の重ね合わせによって生じると考えられる。
%. , の )D を用いて求めた " の
依存性 &'。 付近は " が
増大する裾であり、 " は !! 程度である。
図
本章のまとめ
本章では、
² の で観測された 字型共鳴線形の実験結果を示した。ここでの結論を以下
にあげる。
! 付近において、" でのみ 字型の特異な共鳴線形を観測した。
字型共鳴線形は、 B、+
、+
の核種で観測された。
字型共鳴線形と分散型共鳴線形の間で " と の周波数をそれぞれ比較し、
は一致
するが " は 字型のほうが低いという結果を得た。
字型共鳴線形の 依存性を観測し、 を弱めていくと共鳴線形が 字型を保っ
たまま減衰していくという結果を得た。
字型共鳴線形の " と における抵抗変化の緩和時間を測定し、
の抵抗変化の緩和
時間が ! 程度であることと、 " の抵抗変化の緩和時間が ! 程度と !!
程度の 種類あ
ることを見いだした。
上記の実験結果をもとに、 字型共鳴線形が モデルと電子温度モデルの重ね合わせ
であると考察し、実験結果を定性的に説明することに成功した。
#
第
章
本章では、
º ½ における分散型共鳴線形
º の領域で観測された、図 # のような分散型共鳴線形について詳述する。分散型
共鳴線形は B、 +
、 +
の 種類の核種で観測されたが、本研究では主に B について測定
を行った。なお、本章における
の共鳴線形は、原則として "
である。
実験結果を述べる前に、スカーミオンの結晶状態を表すパラメータ - について確認しておく。
で
は、一定の条件下でスカーミオン結晶が存在することが知られており、分散型共鳴線形との関係が議論
されている。スカーミオン結晶の相図は、ゼーマンエネルギーとクーロンエネルギーの比 を用いて図 # のように表される。この章では、 - および
の値に対応する点が図
, # の影のついた
部分にあるときを「エリア内」、そうでない場合を「エリア外」、その境界を「エリア境界」と呼ぶ
ことにする。つまり、「エリア内」とはスカーミオン結晶が存在することを、「エリア外」とはスカー
ミオン結晶が存在しないことを意味する。ただし、図 # は絶対零度における理論的相図であり、ス
カーミオンの結晶状態は温度にも影響されるので、この「エリア」の位置に関しては、あくまで参考
程度である点に注意が必要である。このことを踏まえて実験結果について述べていく。
W xxR
n = 0.886)
図
#.
図 #. 絶対零度におけるスカーミオン
結晶の理論的相図。縦軸の = は のことである。影のついた部分がスカー
ミオン結晶が安定な部分である &'。
典型的な分散型共鳴線形。
分散型共鳴線形の 依存性
この節では、分散型共鳴線形の 依存性について述べる。 を変える方法としては、試料
にかけるゲート電圧を変える方法と外部磁場を変更する方法の 通り考えられるが、この章では主に
ゲート電圧を変える方法を用いた。これはゲート電圧を変える方法ならば - を変えずに を変更
することができるが、外部磁場を変える方法だと - と の両方が変わってしまうからである。
n W xxR D
図 #. ゲート電圧をパラメータとした、 +
の
分散型共鳴線形の 依存性。$ 3、!! B。
図 #. ゲート電圧をパラメータとした、 B の
分散型共鳴線形の 依存性。ゲート電圧は
# 4G 刻みで変えてある。F
DRW
F
n
W xxR
DRxx
n W xxR
W xxR
W xxR
n DRxx
n n 図 ##. $# 3、! B における B の分散型共鳴線形の 依存性。磁場を固定し、ゲート電圧
によって を変化させている。カラープロットについては、共鳴線形をわかりやすくするため、
, ! 付近を境にスケールを変更している。グラフより , 側は の値が小さすぎて は観測できなかった。 F
$
B、$## 3 における B の分散型共鳴線形の 依存性、図 # は !! B、$!
3 における分散型共鳴線形の 依存性である。いずれも , !%# 付近で分散型共鳴線形がノイ
図 # は !!
ズにうもれてそのまま消失するという結果を得た。
3 - , !!、! B における B の分散型共鳴線形の 依存性である。
+ ! $ の領域では の値が小さすぎて は観測できなかった。!% ! $ の領域で
は " と の大きさがほぼ等しい分散型共鳴線形が観測されたが、 !%% !% 辺りでは "
に比べて が小さくなっていき、 !%% で幅の広い " が観測された。 !%% で観測された
" の幅が分散型共鳴線形の " の幅に比べて広く、分散型共鳴線形では だった周波数にまで広
がっている点に注意しておく。この結果は @"
らの研究 &' と一致している。
図 ## は、$#
D Rxx
D Rxx
D Rxx
D Rxx
n Rxx W n = 0.854
Rxx W n = 0.865
Rxx W n = 0.865 R W xx
n = 0.863
図 #. 異なる磁場位置における B の分散型共鳴線形の 依存性。磁場を固定し、ゲート電圧
によって を変化させている。電流値は ! B。$#、#、## 3 では分散型共鳴線形が幅の広い
" になる様子が観測された。# 3 では分散型共鳴線形がそのまま減衰して消滅していく様子が観測
された。カラープロットの下のグラフは、各磁場のカラープロット上の点線部分における、 の共鳴線形である。 F
%
W xxR
#$. 図 # のそれぞれの磁場下での の
依存性。電流は ! B。矢印は各磁場
図
位置において、分散型共鳴線形が観測された
最小の 位置を示す。
n
図 # は異なる磁場下での分散型共鳴線形の 依存性である。$#
3 のデータは図 ## と同一
のものである。$#、#、## 3 では分散型共鳴線形が幅の広い " になる様子が観測された。 # 3
では分散型共鳴線形がそのまま減衰して消滅していく様子が観測された。図 #$ は、図 # で測定を
行った各磁場位置での の 依存性である。矢印は各磁場位置において、分散型共鳴線形が観
測された最小の 位置を示す。
DRxx
Rxx W n n n Rxx W n 図 #%. $! 3 における B の分散型共鳴線形の 依存性。ゲート電圧によって を変化さ
せている。カラープロットの左のグラフは、各 にいて非共鳴状態の を表している。
から離れるにつれて、分散型共鳴線形が " へと変化している。 " のみの場合の共鳴周波数は、分
散型共鳴線形における の共鳴周波数と対応している。 F
図 #% は図 # とは異なるヒートサイクルにおける分散型共鳴線形の
依存性である。カラー
プロットの左のグラフは、各 にいて非共鳴状態の を表している。 , 近傍で観測された
分散型だった共鳴線形が
! で一旦消失し、 , ! 付近で幅の狭い " となって観測されると
いう結果を得た。この幅の狭い " は、分散型共鳴線形における
位置に相当する周波数で観測
された点に注意したい。つまり分散型共鳴線形の に対応する周波数に注目した場合、
! を境に と " が入れ替わっているということができる。また、分散型共鳴線形においても の方が " より抵抗変化が大きいことに注意しておく。
DRxx
Rxx W n
Rxx W 図 # . !! B、## 3 における B の分散型共鳴線形の 依存性。カラープロットの左のグラ
フは、各 にいて非共鳴状態の を表している。ゲート電圧によって を変化させてい
る。分散型共鳴線形が一旦消失した後、" と が入れ替わった「逆分散型共鳴線形」が観測さ
れた。
B、## 3 における B の分散型共鳴線形の 依存性である。 , 近傍で観
測された分散型だった共鳴線形が
! で一旦消失し、 , !% 付近で " と が入れ替わっ
た「逆分散型共鳴線形」へと変化する様子が観測された。この結果は 3
0> らの研究 図 % と対
図 # は !!
応しており、分散型共鳴線形に電子温度モデルが関係していることを示唆している。
図 #! は、磁場をパラメータとした +
の分散型共鳴線形の 依存性である。
, 側では
, !% 付近から
, から離れるにつれて が低くなっていき、
" のみになるという様子が観測された。また、 に関しては、" よりも低い磁場
で が低くなり始めるという結果を得た。
分散型であった共鳴線形が、
!
! "
n W xx R D
D n = 0.811)
W xxR
W xxR
!
n = 0.806)
図 #!. 磁場をパラメータとした +
の分散型共鳴線形の 依存性。同様の結果は他の核種で
も観測された。
磁場を !!# 3 ずつ変更して 測定をおこなったものであり、縦軸と横軸
は見やすいように適宜オフセットをかけて平行移動してある。 , !% 付近を境に分散型共鳴線形が
" へと移り変わっている。 / %# 3 - , !! における共鳴線形。 では の抵抗
変化が小さくなっている。0 %! 3 - , !!$! における共鳴線形。 は " のみになって
おり、" については分散型共鳴線形の の抵抗変化が小さくなっている。
依存性に関する考察
以上の実験結果をふまえ、分散型共鳴線形の 依存性に関して考察する。表 # は実験結果を
まとめたものである。表中において、"、幅広 "、逆 " は観測された周波数位置で区別している。
" は分散型共鳴線形の " 位置に対応する周波数、逆 " は分散型共鳴線形の 位置に対応する
周波数で観測された " を示しており、幅広 " は分散型共鳴線形の " と の両方の位置を含
む幅の広い周波数帯で観測された " を示す。
表
1%
#
図番号
図
図
図
図
図
図
図
図
図
#.
電流
分散型共鳴線形の 依存性のまとめ
磁場
!
!
!
!
!
!
!
# !
!
分散型共鳴線形消失条件
エリア
外
外
境界
境界
境界
外
内
内
外
#
#
はじめに、電子温度モデルとの関係が強く示唆される
分散型共鳴線形
からの変化
消失
消失
幅広
幅広
幅広
消失
消失 → 逆
消失 → 逆分散型
&2
&2
&2
&2
&2
$ と % について述べる。
% については、 , ! 付近を境に " と が入れ替わった「逆分散型共鳴線形」が観測さ
れた。この結果は、, ," の符号反転点前後で " と が入れ替わったという 3
0> らの結果
(図 %)と対応している。このことから、この「逆分散型共鳴線形」は電子温度モデルによるものと
考えられる。 + ! で観測された分散型共鳴線形に関しては、電子温度モデルだけの結果としても
説明はつくが、電子温度モデル以外に、分散型共鳴線形を生じさせる機構が存在する可能性がある。
一方、$ については
! で逆 " のみが観測された。この $ にでは + ! で観測さ
れた分散型共鳴線形について、
のほうが " より高いという結果を得ている。これらの結果か
ら、$ においては、電子温度モデルのうち高周波数側(電子がエネルギーを吸収する側)の影響
が強く表れており、 + ! では高周波数側に 、 ! では高周波数側に " を生じさせて
いると考えられる。このことは、 + ! では、電子温度モデルとは別に、分散型あるいは " のみ
を生じさせる機構が存在することを示唆している。
上記の $ と % に関する考察をまとめると、「逆分散型」および「逆 "」の共鳴線形は電子温度
モデルによって説明されるが、「分散型共鳴線形」に関しては電子温度モデル以外の機構によって生
じている可能性が高いと考えられる。
以上をふまえた上で、ゲートによって を変えた実験の結果(
%)について考察する。こ
のうち、分散型共鳴線形が形を保ったまま消失している (( については、 自体が消失
する原因としてさまざまなものが考えられるため、深く議論することはできない。幅広 " が観測さ
れた # に関しては、エリア境界において分散型共鳴線形から変化しているため、この変化にス
カーミオン結晶の融解が関係している可能性がある。$ と % でこの変化が観測されなかった理由と
しては、スカーミオン結晶がまだ存在する領域で別の要因(電子温度の効果の可能性を含む)によっ
て、電子温度モデルが支配的な状態へと変化したことが考えられる。しかし、スカーミオン結晶の融
解によって分散型共鳴線形が変化したという考えでは、(( のようにエリア外でも分散型共鳴線
形が観測された理由が説明できない。結局、スカーミオン結晶と分散型共鳴線形の関係については不
明のままである。
次に、磁場によって を変えた実験結果( )について述べる。この実験では、磁場を大き
くして を小さくしていくと、分散型共鳴線形の の抵抗変化が小さくなっていき、 !%!
で " のみになるという結果を得た。また、
の方が " よりも低い磁場で が
消失した。" のみが観測されるというのは、
モデルによるものである可能性が高いと考
えられる。この実験結果については、磁場に対して試料を傾けた状態で磁場によって を変えた
実験結果(図 #)の節でまとめて考察する。
分散型共鳴線形の 依存性
図 # は分散型共鳴線形の
依存性を調べたものである。 を落としていくと、
" と が同じように減衰していく様子が観測された。この結果を見る限り、" と は の減少とともに同じように減衰しており、振る舞いに差があるとはいえない。
これは 3
0> らの結果(図 % と一致しており、 らの結果(図 $)とは異なる。この理
由として、我々の結果(- , !!、 , !%%)と 3
0> らの結果(- , !!#$、 , !%%)がいず
れもエリア内であるのに対し、 らの結果(- !!、 , !%#)がエリア外であり、観測して
いる分散型共鳴線形が違うものであった可能性が考えられる。
(n=0.886)
W ( xxR D
)
xxRxxR D
W xxRD
DR
DR
RF (MHz)
図 #. $## 3 , !%%( !! B における B の 依存性。左図は各 での をオフセットをつけて示したもので、右図は " と の 1Ê を に対してプロットした
ものである。" と が同じように減衰していく様子が観測された。 F
分散型共鳴線形の緩和時間
n
n
図 #. !! B における、分散型共鳴線形の
緩和時間の 依存性。。 は磁場を変
えることによって変化させている。同一条件
で複数回測定を行い、その平均をとってデー
タ点とした。
図 #. !! B( ## 3 における、分散型共鳴
線形の緩和時間の 依存性。核種は B。
はゲート電圧を変えることによって変
化させている。同一条件で複数回測定を行い、
その平均をとってデータ点とした。
に示した手法を用いて、分散型共鳴線形の " と の緩和時間の測定を行った。図 # は
磁場によって、図 # はゲート電圧によって を変化させたときの緩和時間の 依存性であ
る。どちらの測定においても、緩和時間を観測した全ての で分散型共鳴線形を観測している。
これを見ると、いずれの においても " の方が より緩和時間が短いという結果が得られ
ている。これは、@"
らの結果 &' と同様であり、またどちらの測定もエリア内であることから、
スカーミオン結晶の低エネルギー励起の影響で、 " の緩和時間が短くなっていると考えられる。
重の共鳴線形
試料 で分散型共鳴線形が観測された領域で、試料 では図 # に示す通りの、分散型共鳴線形
が 重に連なったような共鳴線形を観測した。図 ## および図 # は $% 3 , ! # における
重共鳴線形の電流依存性および 依存性である。
n =0.952
n W xxR
W xxR
W xxR D
W xxR
n
=0.990
n =0.919
D 図 #. B の 重共鳴線形の 依存性。電流は !
(試料 )
B、 は磁場によって制御している。
において核四重極相互作用を反映していると考えられる共鳴線形を観測し
ている(図 #$)ことも考慮に入れると、 重の共鳴線形は分散型共鳴線形が核四重極相互作用を反
この試料では、
映して分裂したものではないかと考えられる。このことから、分裂する前の通常の分散型共鳴線形の
起源と、核四重極相互作用は無関係であると考えられる。
75
7.28 T
As (n = 0.952)
250 nA
200 nA
40
) W ( xxR D
160 nA
100 nA
50 nA
10 nA
20
0
53.20
図
5 nA
1 nA
53.25
53.30
RF (MHz)
53.35
53.40
(n
= 0.952) 図
xxRD
xxR / xxR D
W xxR D
##. 重共鳴線形の電流依存性(試料 )。
#. 重共鳴線形の 依存性(試料 )。
(n = 0.787)
W xxR
図 #$. 核四重極相互作用を反映していると
考えられる
における B の (再掲)。緑が 、赤が " で
ある。試料 #
試料の傾斜による全磁場の制御
分散型共鳴線形の起源を探るため、磁場に対して試料を傾斜させて
測定を行った。図 #%
はそれぞれの傾斜状態における試料の対角抵抗およびホール抵抗である。各測定における磁場の傾斜
角は、これらの抵抗の値をもとに較正した値である。
W xxR
W yxR
B
B
#%. 試料を磁場に対して傾けたときの ホール抵抗および / 対角抵抗。対角抵抗については
H ずつオフセットをかけてある。
図
図 # は
, !%% 付近の分散型共鳴線形の角度依存性である。" における分散型共鳴線
形自体は角度によらず観測されているが、 では $Æ の場合を除いて観測されていない。ま
た、図 #! はそれぞれの角度における、ベースの抵抗値 、抵抗の変化量 1 および の変化割合 1 をプロットしたものである。同じ , !%% では、全磁場が増加する
ほどベースの抵抗値 および抵抗の変化量 1 は減少し、 の変化割合 1 は増
加している。これらの傾向については、 " と で違いは見られなかった。
分散型共鳴線形の - 依存性については、 , での実験結果が : らの研究 &$' で報告され
ている 図 。彼らの実験では - を変えてもベースの抵抗はほとんど変化せず、共鳴による抵抗変
化だけが小さくなっていた。このことから、彼らは分散型共鳴線形とスカーミオン結晶が関係してい
ると主張している。これに対し、我々の実験では - を変えることでベースの抵抗自体が大きく変わっ
ているので、1
と 1 の - 依存性が逆になってしまう。よって、分散型共鳴線形のシグナ
ルの強さの - 依存性を議論することができないので、この結果からは分散型共鳴線形とスカーミオン
結晶の関係性は議論できない。分散型共鳴線形が "
は、図 # の実験結果とまとめて考察する。
のみで観測されるという結果について
図 # は異なる傾斜角における分散型共鳴線形の
依存性である。 は磁場を変えるこ
とで変化させている。 # については、 " は分散型共鳴線形を保ったまま、 は
が低い分散型共鳴線形を保ったまま , !%# 付近で共鳴線形が消失している。Æ と Æ
は測定した範囲内では共鳴線形が消失していないが、 " は分散型共鳴線形、 は
" のままであった。
Æ
ここで、磁場を変えて分散型共鳴線形を観測した実験結果(図 #!、# 、図 #)について考察
する。これらの実験で共通するのは、磁場(あるいは - )を大きくした場合に、分散型共鳴線形のう
ち "
は変わらず、 のみ が小さくなってやがて " になる、という現象が観
測されたことである。この結果だけでは深く議論することはできないが、- の増大によるスカーミオ
ン結晶の融解が関係している可能性がある。
一方、図 #! の実験では " も " に変化したが、図 # および図 # の実験では、"
では変わらずに分散型共鳴線形が観測されたという点で違いが見られる。この点については、
例えば の違い(前者は !%! 付近、後者は !%#
!%% 付近)などの影響で、前者のみ モデルの効果が強くなった可能性などが考えられるが、その理由は不明である。
n~ h 1.455
3.21
1.450
3.20
1.445
95.0
95.1
95.2
h 3.19
81.9
82.0
82.1
h 11.65
11.59
53.8
h 14.14
11.63
53.7
14.15
11.64
11.58
53.6
h h 42.5
42.6
42.7
41.5
41.6
41.7
# . , !%% 付近の分散型共鳴線形の角度依存性。横軸は 周波数 )*、縦軸は対角抵抗
H である。緑が 、赤が " である。
図
W xxR
Rxx
W xxR D
図 #!.
, !%% 付近の分散型共鳴線形に
ついて、ベースの抵抗値 、抵抗の変化量
1 および の変化割合 1 の全磁場依存性。
% xxR xxR D
h
$
! !""#
W xxR D
%
D ! !""#
W xxR D
&
D D W xxR D
D D D h, n)
$# !""#
h, n)
$# !""#
! !""#
$# !""#
h, n)
図 #. 傾斜角が #Æ 、/Æ 、0Æ における分散型共鳴線形の 依存性。 は
磁場を変えることで変化させている。
%
h
図 #. !! B、
!%% における B の
分散型共鳴線形の緩和時間の角度依存性。同
一条件で複数回測定を行ったため、データ点
が複数存在する。傾斜角が小さいときは "
の方が より緩和時間が短いが、傾斜角が
大きくなると " の緩和時間が と同程度
まで長くなっている。
図 # は分散型共鳴線形の緩和時間の角度依存性である。- !! においては " の緩和率が増
大するという分散型共鳴線形における通常の振る舞いが観測されているが、- + !!% においては "
の緩和率も の値と同程度にまで小さくなっている。ここでスカーミオン結晶の理論的相図 図
によると、 , !%% 付近ではスカーミオン結晶が安定である領域と不安定である領域の境目が
- , !!#
!!! 付近に存在していることが分かる。このことから、- !! にける " の緩和
率の増大は、スカーミオン結晶の低エネルギー励起によるものと考えられ、 - + !!% においてはス
カーミオン結晶自体がなくなったために、" の緩和率が の値と同程度にまで戻ったと考えら
れる。
- の増加に対応して起こった " の緩和時間の増大と、 において が観測されないこ
との関係を探るため、 : を変えた実験を行った。図 # は傾斜角 Æ において、異なる
: で を観測した結果である。 : を !# )*A! 0 !!# )*A まで遅く
しても、 では分散型共鳴線形は観測されず、 " のみが観測された。 " における
分散型共鳴線形の " と の周波数の差およそ ! )* は !!# )*A において !! に相当し、図
# で示した " の緩和時間と比較しても十分長いことから、 : が十分遅いと考えられる。
この結果は、 で分散型共鳴線形が観測されない理由が、単純に " の緩和時間が長いとい
うだけではないことを意味していると考えられる。
W xxR
図 #. 傾斜角 Æ における、異なる : での の共鳴線形。 : を
遅くしても では分散型共鳴線形で
はなく " の共鳴線形が得られた。
分散型共鳴線形に関する考察
この項では、ここまで述べてきた実験結果をふまえ、分散型共鳴線形の起源等に関しての考察を述
べる。まず、分散型共鳴線形について、わかっていることをまとめておく。
B、 +
、 +
と核種によらず観測される。
# の結果から、核四重極相互作用は無関係である可能性が高い。
電子温度モデルが関係する可能性はあるが、電子温度モデルだけで説明されるとは考えづらい。
の方向によらず観測される場合と、 " でのみ観測され、 では " の
みが観測される場合がある。この つの場合において、分散型共鳴線形の起源が同じとは限ら
ない。
スカーミオン結晶が存在しないと思われる領域でも観測されているので、スカーミオン結晶が
なければ分散型共鳴線形が存在しない、ということはない。ただし、スカーミオン結晶の関与
を伺わせる実験結果もある。
モデルの関与は考えられるが、
モデルでは が生じる理由が説明で
きない。
以上のことから、我々は以下のように結論づける。分散型共鳴線形の起源としては、電子温度の効
果、スカーミオンやその結晶、 モデルの効果など、さまざまなものが考えられるが、そ
のいずれも単独では実験結果を説明できない。したがって、分散型共鳴線形の起源は、複数の効果が
重なり合い、複雑な様相を呈している可能性があり、この現象の解明にはさらなる実験と新しい理論
モデルの構築が望まれる。
本章のまとめ
本章では、
º の領域において、分散型共鳴線形に関するさまざまな実験を行い、以下のことを
見いだした。
分散型共鳴線形が観測される周辺の領域で、「逆分散型共鳴線形」や「逆 "」といった特異な
共鳴線形を観測した。この共鳴線形は、電子温度モデルの効果であると考察した。また、これ
らの特異な共鳴線形と分散型共鳴線形との関係から、分散型共鳴線形については、電子温度モ
デルだけでは説明できず、その他の機構が存在すると考えた。
スカーミオン結晶が融解する領域で、分散型共鳴線形が幅広い " に変化するようすを観測し、
分散型共鳴線形とスカーミオン結晶が関係している可能性があると考えた。
磁場によって を変化させることで、分散型共鳴線形のうち が消失し、" のみにな
るようすを観測した。
依存性を観測し、 を弱めていくと分散型共鳴線形の " と
が同じように減衰していくという様子を観測した。これは 3
0> らの結果 & ' と一致して
分散型共鳴線形の
いる。
#!
スカーミオン結晶が存在する領域で分散型共鳴線形の緩和時間を観測し、" の緩和時間が に比べて短くなるという結果を得た。また、分散型共鳴線形の緩和時間の - 依存性を観測し、
- を大きくすると短くなっていた " の緩和時間が と同程度まで長くなるという結果を得
た。この結果は、" の緩和時間の短縮がスカーミオン結晶の低エネルギー励起によるもであ
ると強く示唆している。
分散型共鳴線形が 重に連なったような特異な共鳴線形を初めて観測した。これは分散型共鳴
線形が核四重極相互作用によって分裂したものではないかと考えた。このことから、分裂する
前の通常の分散型共鳴線形の起源と、核四重極相互作用は無関係であると考えられる。
分散型共鳴線形の - 依存性を測定し、分散型共鳴線形のうち " は変化せず、 のみが " へと変化するようすを観測した。また、この状態で : を !!# )*A まで落
として測定を行い、この結果が単に " の緩和時間が長くなっただけでは無いことを確認した。
#
第 章 結論
本研究は、 次元電子系においてさまざまな条件下で抵抗検出核磁気共鳴の実験を行い、その起源
について研究したものである。最後に本研究の結論をまとめる。
プラトー間遷移領域における
充填率が と 、 と 、 と の間のプラトー間遷移領域で
の測定を行い、
モデルと電子温度モデルのそれぞれの特徴を持った別々の結果を得た。このことから、プラトー
間遷移領域における
は、少なくとも モデルと電子温度モデルの つが競
合した、複雑な状況を反映していると考察した。
º の領域で 本に分裂した共鳴線形を観測した。これは核四重極相互作
核四重極相互作用を反映した
、 º 、
用を反映していると考えた。
² における 字型共鳴線形
! において、" でのみ 字型の特異な共鳴線形を観測した。この 字
型共鳴線形は B、 +
、 +
の核種で観測された。 字型共鳴線形の " と における
抵抗変化の緩和時間を測定し、 の抵抗変化の緩和時間が ! 程度であることと、 " の抵
抗変化の緩和時間が ! 程度と !! 程度の 種類の存在することを見いだした。そして、
字型共鳴線形が モデルと電子温度モデルの重ね合わせであると考察し、実験結果
を定性的に説明できることを示した。
º における分散型共鳴線形
º において分散型共鳴線形の 依存性を測定し、条件によって "、幅広 "、逆分散
型、逆 "、分散型のまま消失、といったさまざまな変化を示すことを観測した。このうち、逆
分散型と逆 " については電子温度モデルの効果であると考察した。また、試料を傾けること
で - を増加させた実験では、分散型共鳴線形のうち のみが " へと変化するようすを
観測した。この状態で : を遅くした実験を行い、 のみが " となっているこ
との原因が、単に " の緩和時間が長くなっただけではないという事を確認した。分散型共鳴
線形の緩和時間の - 依存性を観測し、スカーミオン結晶が存在する領域でのみ " の緩和時間
が短縮しているという結果を得た。この結果は、" の緩和時間の短縮がスカーミオン結晶の
低エネルギー励起を反映しているということを強く示唆していると考察した。別の試料では、
つに分裂した分散型共鳴線形を観測した。この結果から、分裂する前の通常の分散型共鳴線形
と核四重極相互作用は無関係であると考えた。
#
謝辞
本研究を遂行し、論文を執筆するにあたり、多くの方のお世話になりました。ここに感謝の意を表
します。
家泰弘教授には、興味深いテーマと恵まれた研究環境を与えて頂き、また指導教員として多岐にわ
たり多大なる御指導を賜りました。深く敬意を表し、心より御礼申し上げます。
勝本信吾教授には、良質な 次元電子系基板を提供していただき、また様々な局面において貴重な
御助言と御協力を頂きました。深く御礼申し上げます。
遠藤彰博士には、多くの有益な議論と懇切丁寧な御指導を賜り、研究生活のあらゆる面でお世話に
なりました。心より感謝いたします。
橋本義昭技術専門職員には、半導体基板の成長と評価、さらには実験装置の取り扱いや実験手法に
関して、多大な御助言と御協力を頂きました。大変感謝しております。
阿部英介博士、
@
博士には、実験に関して御助言をいただきました。川村順子秘書、小
野明子秘書には研究生活のあらゆる面においてお世話になりました。研究生活を共に過ごした、小寺
克昌博士、加藤雅紀氏、佐野浩孝氏、内田隆洋氏、大塚朋廣氏、鈴木一也氏、高堂寿士氏、飯田悠介
氏、木村洋介氏、田宮慎太郎氏、佐々木祐氏、豊田武氏には、研究に関して様々な助言や議論をして
いただき、また研究生活を楽しいものにしていただきました。
最後に、私の研究生活を支え、応援してくれた家族、友人に感謝の意を表して、本論文の終わりと
致します。皆様、本当にありがとうございました。
#
参考文献
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