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新規高熱伝導樹脂材料 (PDF形式、749kバイト)
All Rights Reserved. CopyRight(C)2013
Shin-Kobe Electric Machinery Co., Ltd.
新神戸テクニカルレポート№ 23 (2013-3)
新規高熱伝導樹脂材料
New High Thermally Conductive Resin Materials
伊藤 玄* Makoto Itou 高瀬有司* Yuji Takase
米倉 稔* Minoru Yonekura 川平哲也** Tetsuya Kawahira
高熱伝導樹脂材料を製品に応用していく上で必要とされる絶縁特性と成
形性の向上を目的として, 充填材を含めた樹脂組成物の流動性の向上を
検討した。 吸油量測定による充填材配合比率最適化の手法により, 7W/
m・K の熱伝導率を維持しつつ流動性良好な充填材の配合比率を決定し
た。 その配合比率のワニスを作製, 試作した結果, 樹脂組成物の流動性
の向上により成形圧力を 5MPa まで低減することができた。 また, 樹脂組
成物のボイド量を低減することができたため, 耐電圧や恒温恒湿耐久試験
などの絶縁特性は向上し, 目的とする高熱伝導樹脂材料が開発できた。
We examined the resin flow improvement of a filler that contained resins.
The purpose was to improve the insulation and formability that are required
for high thermally conductive resins to apply them as commercial products.
We used the oil absorption measurement method to optimize the filler
content for good flow while keeping thermal conductivity at 7 W/mk and
produced optimized content resin experimentally to validate improvements.
Fortunately, it performed satisfactorily at a molding pressure of 5 Mpa
down from 15 Mpa for the same filler content resin. In addition, we
succeeded in reducing void nucleation of the resin, which helps to improve
insulation properties such as breakdown voltage, and it passed a high
thermal humidity test at 85˚C 85%. As a result, we succeeded in developing
a desirable high thermally conductive resin material.
〔1〕 緒 言
回は, 高熱伝導性は維持しながら絶縁特性と成形性を向上
させることを目的に, 吸油量測定による充填材配合比率最
当社は, これまで高熱伝導樹脂材料の開発に注力して
適化の手法を用いることで樹脂組成物の流動性を向上させ,
きたが1) ~4), 主な内容は, 樹脂または樹脂組成物の熱伝導
絶縁特性や成形性に優れる高熱伝導樹脂材料を開発した。
率の向上であり, その他の特性については, 従来の積層板
〔2〕 高熱伝導樹脂材料の開発の歴史
と同等レベルとしていた。 しかしながら, 顧客での高熱伝導
樹脂材料の検討が進むにつれ, 適用製品の要求水準も厳
しくなり, 熱伝導率だけでなく絶縁特性や成形性なども重要
当社の高熱伝導樹脂材料への取り組みは 2001 年に遡る。
な要素となってきた。
㈱日立製作所日立研究所と共同で液晶エポキシ樹脂を用い
例えば, これまでの高熱伝導樹脂材料は, 無機充填材を
た高熱伝導樹脂の理論に基づく基礎検討を開始し, 積層板
多量に添加しているため樹脂組成物の流動性が低く, 熱盤
用途に適用可能な樹脂仕様を検討した。 また, 2008 年から
プレスで加熱加圧成形するとカスレやボイドが発生すること
始まった日立化成㈱との共同研究では, 高熱伝導材を中心
があった。 このため耐電圧などの絶縁特性は, 自動車用途
に製品開発を行い, 上市を目指した。
などの厳しい要求に耐えられる仕様ではなかった。 そこで今
*
技術本部 樹脂研究開発センタ **彦根事業所
35
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新神戸テクニカルレポート№ 23 (2013-3)
図1に樹脂の高熱伝導化の概念を示す。 メソゲンと呼ばれ
確立することができた4)。
る骨格を持つ液晶エポキシ樹脂を用い, 温度プロファイルの
高熱伝導樹脂材料は, 従来の積層板材料の開発とは異な
調整によって樹脂の液晶性を発現させることで, 熱伝導率を
り, 高度な配合 ・ 混練技術や, 液晶性を発現させるための
最大 1.7 倍にすることができた
5) 6)
。
塗工やプレス条件などをそれぞれに確立する必要があった。
図2に液晶エポキシ樹脂の規則性と熱伝導率の関係を示
それに伴い工程 ・ 設備も新規に立ち上げたため, 特性, 量
す。 当初は樹脂が 1 軸に配向するネマチック相を示すもの
産性の課題解決のために多くの検討を必要とし, 製品化が
を使用していたが, 熱伝導率をさらに向上させるために, 樹
遅れた。 実機による検討を積み重ねた結果, 2010 年 3 月
脂が 2 軸に配向し, より規則性の高いスメクチック相を示
にはアルミベース基板である 「HTMB-6WK」 を上市すること
す樹脂を選定した。 これにより, 樹脂の熱伝導率は 0.4W/
ができた。 「HTMB-6WK」 は,現在使用されているアルミベー
m・K と, 汎用エポキシ樹脂の 2 倍以上となった。
ス基板の絶縁層の熱伝導率としては, トップレベルの 3 ~
しかし, 樹脂の規則性が上がると, 樹脂が溶解しにくい,
3.5W/m・K であり, パワー LED 照明やフォークリフト等のイ
反応開始温度が高くなる, 液晶相を発現する温度領域が狭
ンバータ用金属基板に採用されている。
くなるなどの問題が出てきた。 これらを解決するために, 塗
このように, 約 10 年の年月をかけて蓄積した高熱伝導樹
工時の加熱温度, 塗工速度の調整とプレス時の昇温速度お
脂材料の要素技術を基に, さらなる用途展開を目的とした製
よびプレス温度を最適化することで, スメクチック相を示す樹
品開発を開始した。
脂でも, 温度条件のみで高熱伝導を発現する樹脂の仕様を
図1 樹脂の高熱伝導化
の概念
Fig.1 Principle of high
thermally conductive resin
並びやすい骨格 (メソゲン)
結晶的部分
非晶部分
熱伝導率高い
熱伝導率低い
自己配列
熱硬化
汎用エポキシ樹脂に比べ
最大 1.7 倍の熱伝導率
図2 液晶エポキシ樹脂の
規則性と熱伝導率との関
係
Fig.2 Relations between
regularity and thermal
conductivity of liquid
crystalline epoxy resin
等方的に高熱伝導
低
高
規則性 (≒熱伝導率)
液体
液晶相
固体
エポキシ分子
等方相
ネマチック相
結晶相
スメクチック相
汎用樹脂
各相の
偏光顕微鏡像
100μm
0.18 W/m・K
100μm
0.31 W/m・K
36
100μm
0.40 W/m・K
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〔3〕 新規高熱伝導樹脂材料の開発目標
さを測定した。 目標値は, 「HTMB-6WK」 と同等である銅箔
35μm で 1.6 ~ 1.8kN/m とした。
高熱伝導樹脂材料の新たな用途として自動車分野がある。
HEV や EV 用のインバータは大電流が流れるため, 電流を
〔4〕 樹脂の選定
制御するパワー半導体の発熱も大きく, 特に放熱性が要求
される部品である。 そのためインバータは冷却器へ取り付け
これまで樹脂組成物の高熱伝導化には, 液晶エポキシ樹
られており,その形状も単純な放熱板である平板形状からフィ
脂を使用してきた。 エポキシ樹脂の高熱伝導化には, 加熱
ン付き, 中空構造といったように複雑な構造に変化している。
により溶融した液晶エポキシ樹脂が自己配向して形成したド
それらの構造の変化に伴い, プレス条件 (特に圧力) には
メインが寄与している。 液晶エポキシ樹脂のドメイン形成に
制約が発生する。
よって分子鎖が一定方向に振動するため, 分子骨格の振動
図3に冷却構造と貼付け圧力の関係を示す。 中空冷却器
であるフォノン (音子) の散乱が抑えられ, 汎用のエポキシ
を使用した場合に, 冷却器のひずみの限界から, 5MPa 以
樹脂に比べ熱が伝わりやすくなる 8)。
下の圧力で成形しなければならない課題が発生した。 しかし
表2に高熱伝導化の検討に選定した液晶エポキシ樹脂を
ながら, 熱伝導率を上げるには, 樹脂に充填材を高充填す
示す。 今回選定したのは, 「HTMB-6WK」 に使用している
7)
る必要があり , その結果樹脂組成物の流動性が損なわれ
樹脂 A と, 文献 4) で開発した樹脂 B, 今回新たに検討し
るので, 強制的に樹脂組成物を流動させるために貼付け圧
た樹脂 C である。 熱伝導率は, 樹脂 A が 0.18W/m・K, 樹
力は大きくなる。 そこで, 充填材を高充填しても 5MPa で成
脂 B が 0.40W/m・K で あ り, 樹 脂 C は 0.35W/m・K と 樹 脂
形可能な樹脂仕様を検討した。
B よりやや低い値を示した。 樹脂の熱伝導率は, 樹脂組成
一方で自動車用途は, 積層板用途よりはるかに高い電圧
物の熱伝導率に大きく寄与するため, 熱伝導率だけで考え
での耐久性が求められており, 絶縁特性に対する要求レベ
ると樹脂 B を選択することになる。 しかしながら, 樹脂 C の
ルが非常に高い。 このように, 顧客要求を満足するために
原価は樹脂 B の約 4 分の 1 であり, 製品化した場合のコス
は, 樹脂組成物の絶縁特性や成形性の向上が必要な要素
トメリットが非常に大きいことから樹脂 C を選択した。
となっている。
開発に当たっては, 表1に示す内容を目標値とした。 ベン
放熱要求レベルの向上に伴って,冷却器の構造は複雑化
チマークとしては, インバータ用途での実績のある高熱伝導
アルミベース基板 「HTMB-6WK」 とした。
熱伝導率に関しては,車載用インバータに使用することから,
「HTMB-6WK」 の熱伝導率の 2 倍以上の 7.0W/m・K とした。
放冷 : 平板
また, 絶縁特性に関しては, 次の 2 項目で評価した。 耐
強制空冷 : フィン付
水冷 : 中空冷却器
電圧は, 現状のインバータの駆動電圧が最大 650V である
ことから, 安全率や恒温恒湿耐久試験後の劣化も考慮して,
5 MPa 以下
貼付け圧力の低減が必須
2kV 以上とした。 恒温恒湿耐久試験としては 85℃ -85%で
充填材の高充填に伴い,貼付け圧力は増加 (15MPa)
電圧と破壊時間の関係を測定した V-t 試験を行った。 目標
値としては, 「HTMB-6WK」 と同等の 85℃ -85%, 1.5kV,
1000 時間とした。
図3 冷却構造と貼付け圧力の関係
Fig.3 Relations between cooling structure and molding pressure
成形性に関する項目として, 前述の理由により成形圧力の
上限は 5MPa とした。 また, 5MPa で成形できる樹脂組成物
表2 選定したエポキシ樹脂の内容
Table 2 Specifications of epoxy resin
の流動性の目標値として, 熱盤プレス前後の樹脂組成物の
面積比を 1.5 倍とした。
項目
樹脂A
ネマチック
液晶相
0.18 W/m・K
熱伝導率
1
コスト
※: 樹脂Aを 1 とした相対値
接着性に関しては, 自動車用途には必須の気相冷熱試験
で 3000 サイクル剥離なしを設定したが, 簡易的な評価とし
て一般的な積層板の接着性の指標である銅箔引き剥がし強
項目
熱伝導率
耐電圧
恒温恒湿耐久試験
成形圧力
フロー値
気相冷熱試験※
接着性
銅箔引き剥がし強さ
※: -40 ℃ ⇔ 150 ℃
流動性
新規開発品 (目標値)
7.0 W/m・K 以上 (レーザーフラッシュ法)
2 kV 以上 (初期)
85 ℃-85 %, 1.5 kV/1000 時間以上
5 MPa 以下
面積比 1.5 倍 (150%) 以上
3000 サイクル以上剥離なし
1.6 ~ 1.8 kN/m (銅箔 35μm)
37
樹脂B
スメクチック
0.40 W/m・K
20 ※
樹脂C
スメクチック
0.35 W/m・K
5※
表1 開発目標
Table 1 Development
target
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〔5〕 樹脂組成物の流動性向上検討
き, 従来仕様と同程度の吸油量である 16.0g/100g の配合
比率を決定した。
3章で述べたように, 自動車用途での適用を考えると, 熱
決定した配合比率でワニスを作製し, フィルムに塗布, 乾
伝導性を損ねることなく樹脂組成物の絶縁特性と成形性を向
燥して B ステージの樹脂シートを作製した。 得られた樹脂
上させる必要がある。 ここでは成形性向上の指標として, 樹
シートを熱盤プレスにて加熱加圧し, フロー測定にて樹脂
脂組成物の流動性向上を検討した。
組成物の流動性を確認した。 表3に熱盤プレス前後の面積
5.1 樹脂組成物の流動性向上検討の要点
比を示す。 従来仕様はプレス前の面積に対してプレス後は
図4に樹脂組成物の流動性向上検討の要点を示す。 従来
110%の面積比だったが, 流動性向上仕様は同じプレス圧
仕様は充填材を高充填化する目的で, 粒子径の異なる充填
力で 220%の面積比が得られた。 この樹脂シートを目標値
材を理論的に最大充填量になるように, 所定の比率で混合
である 5MPa で冷却器に貼り付けた時の断面写真を図6に示
して使用していた。 この比率を見直し, 樹脂組成物の流動
す。 従来仕様や最小吸油量では樹脂シート中にボイドがあ
性を向上させた。 また微粒子の添加により, 充填材同士の
るのに対して, 流動性向上仕様ではボイドがないことを確認
スベリが発生し, 樹脂組成物の流動性が向上した。 カップリ
した。 また,この樹脂シートの熱伝導率は 7.1W/m・K であり,
ング剤の添加により充填材と樹脂の密着力を向上させ, ボイ
従来仕様と同等の熱伝導率であることがわかった。
ドの発生を抑えることで樹脂組成物の流動性を向上させた。
以上の結果より, 吸油量測定による充填材配合比率最適
5.2 吸油量測定による充填材配合比率最適化
化の手法によって、 樹脂組成物の流動性が向上する充填材
ここでは, 吸油量測定による充填材配合比率最適化の手
の配合比率を決定することができた。
法について説明する。 図5に粒径の異なる充填材の吸油量
を 3 相図に示した。 吸油量とは, 100g の充填材を練るのに
従来仕様
必要な油の重量を表したものである。
吸油量 =
充填モデル
油の量 (g)
充填材量 (100g)
・・・(1)
吸油量の数字が小さいほど充填材の表面積が小さく, 濡
れやすいことになる。
現状の理論的な最大充填量比率での吸油量 (従来仕様)
粒径配合比率見直し
は 16.6g/100 gであり, この比率での樹脂組成物の熱伝導
大粒径
微粒子添加
微粒子
カップリング剤添加
充填材
率は 7.0W/ m ・K であった。 最小吸油量の探索は, まず大
粒径と中粒径で配合比率を変えて吸油量を測定し, 2 粒子
小粒径
中粒径
最適配合比率の見直し
系での最小吸油量を算出した (14.0g/100g)。 そこから, 小
粒径の頂点方向に配合比率を変えて吸油量を測定し, 最小
微粒子の添加
↓
流動性向上
吸油量を決定した (13.7g/100g)。 この最小吸油量は, 実
質的な最密充填状態にあり, 流動性が悪くなるので, 最小
図4 樹脂組成物の流動性向上検討の要点
Fig.4 Summary of resin flow improvement
吸油量を起点に小粒径の頂点方向に吸油量を測定してい
大粒径
最小吸油量
(13.7g/100g)
大粒径
従来仕様
(16.6g/100g)
従来仕様
理論的細密充填比率
最小吸油量
(13.7g/100g)
2 粒子系での 従来仕様
最小吸油量理論的細密充填比率
2 粒子系での
(14.0g/100g)
中粒子径増にシフト
最小吸油量
(14.0g/100g)
中粒子径増にシフト
従来仕様
(16.6g/100g)
流動性向上仕様
14.0g/100g
流動性向上仕様
(16.0g/100g)
(16.0g/100g)
14.0g/100g
15.0g/100g
15.0g/100g
最小吸油量
最小吸油量
100 gの充填材を練るのに
100 gの充填材を練るのに
必要な油の最小重量
必要な油の最小重量
16.0g/100g16.0g/100g
最小吸油量では
流動性低下
20.0g/100g
20.0g/100g
最小吸油量では
流動性低下
最小吸油量から
小粒径への延長上に 最小吸油量から
最適充填量がある小粒径への延長上に
30.0g/100g
30.0g/100g
最適充填量がある
小粒径
中粒径
小粒径
図5 充填材の吸油量による
3 相図
Fig.5 Ternary phase diagram by measuring oil absorption of filler
中粒径
38
密着力の向上
↓
ボイド発生の防止
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表3 流動性向上前後の樹脂材料の面積比
Table 3 Area ratio of filler content resin before and after resin flow improvement
項目
成形前
従来仕様
流動性向上仕様
100
110
220
プレス後の状態
面積比 (%)
従来仕様 吸油量 : 16.6g/100g
最小吸油量 吸油量 : 13.7g/100g
流動性向上仕様 吸油量 : 16.0g/100g
図6 各吸油量での断面観察結果
Fig.6 Cross-section observation result of each oil absorption measurement
〔6〕 特性評価
6.3 恒温恒湿耐久試験
恒温恒湿耐久試験として, 図7に 85℃ -85%で電圧と破
以上の結果より得られた樹脂 C および最適な充填材の配
壊時間の関係を測定した V-t 試験の結果を示す。 「HTMB-
合比率を用いた流動性向上仕様において, サンプルを作製
6WK」 の V-t グラフでは, 1.5kV では 1000 時間で破壊する
し特性を評価した。 その結果を表4に示す。
のに対し, 流動性向上仕様は開発目標の 2 倍の 2000 時間
6.1 熱伝導率
に到達した。 6.2 節, 6.3 節の結果から, 絶縁特性は目標
5章で記したように, 流動性向上仕様の熱伝導率は 7.1W/
値を充分満足していることが分かった。
m・K であり, 当初の目標値である 7.0 W/m・K を満足するこ
6.4 接着性
とができた。 本来, 大粒径の充填材割合が減ると熱伝導率
図8に接着性の評価結果を示す。 流動性向上仕様の銅
は低下する傾向にあるが, 樹脂組成物の流動性を向上させ
箔引き剥がし強さは 35m 銅箔で 1.2kN/m であり, 「HTMB-
ることで樹脂中のボイドが低減でき, 熱伝導率を維持できた
6WK」 にはやや及ばない結果となった。 しかし,熱応力的に
と考えられる。
はより厳しい -40℃と 150℃の気相冷熱試験の結果では, 流
6.2 耐電圧
動性向上仕様は 3000 サイクルでも銅と樹脂界面の剥離はな
流動性向上仕様の耐電圧は 5kV であり, 開発目標を大き
いため, 現時点では接着性に問題はないとした。
く上回る結果となった。 図6に示すように, 樹脂組成物の流
以上の結果より, 熱伝導率を向上しつつ, 絶縁特性や成
動性向上によりボイドが低減したため, 充分な耐電圧特性が
形性に優れる高熱伝導樹脂材料の仕様を確立した。
得られたと考えられる。
表4 特性評価結果
Table 4 Evaluation results of characteristics
項目
熱伝導率
耐電圧
恒温恒湿耐久試験
成形圧力
流動性
フロー値
気相冷熱試験※
接着性
銅箔引き剥がし強さ
※: -40 ℃ ⇔ 150 ℃
新規開発品 (目標値)
7.0 W/m・K 以上 (レーザーフラッシュ法)
2 kV 以上 (初期)
85 ℃-85 %, 1.5 kV/1000 時間以上
5 MPa 以下
面積比 1.5 倍 (150 %) 以上
3000 サイクル以上剥離なし
1.6 ~ 1.8 kN/m (銅箔 35μm)
39
結果
7.1 W/m・K
5 kV
1.5 kV/2000 時間クリア
5 MPa での成形可能
220 %
3000 サイクル剥離なし
1.2 kN/m (銅箔 35μm)
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2.0
銅箔引き剥がし強さ (kN/m)
電圧 (kV : AC50Hz)
10.0
流動性向上仕様
HTMB-6WK
1.0
1.8
銅箔 : 35μm,n=3
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.1
0.01
0.1
1
10
100
破壊時間 (hr)
1000
10000
気相冷熱試験
(-40⇔150℃)
100000
HTMB-6WK
流動性向上仕様
3000 サイクル
剥離なし
3000 サイクル
剥離なし
図7 85℃ -85%での電圧と破壊時間の関係
Fig.7 Relations between voltage and destruction time
図8 接着性評価結果
Fig.8 Adhesive evaluation results
〔7〕 結 言
〔執筆者紹介〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
伊 藤 玄
高熱伝導樹脂材料を製品に応用していく上で必要とされる
絶縁特性と成形性の向上を目的として, 充填材を含めた樹
脂組成物の流動性の向上を検討し、 以下の結論を得た。
2000 年 新神戸電機㈱ 入社
新神戸電機㈱ 技術本部 樹脂研究開発センタ 所属
高熱伝導絶縁材料の開発に従事
(1) 吸油量測定による充填材配合比率最適化の手法により
樹脂組成物の流動性が向上し, 5MPa でも成形すること
高瀬有司
ができた。
2006 年 新神戸電機㈱ 入社
新神戸電機㈱ 技術本部 樹脂研究開発センタ 所属
高熱伝導絶縁材料の開発に従事
(2) 樹脂組成物の流動性の向上により成形後のボイドが減
少し, 耐電圧や恒温恒湿耐久試験などの絶縁特性が
向上した。
米 倉 稔
(3) 熱伝導率は樹脂選定と充填材の高充填により,7.1W/m・
1984 年 新神戸電機㈱ 入社
新神戸電機㈱ 技術本部 樹脂研究開発センタ 所属
高熱伝導絶縁材料の開発に従事
K を達成した。 また,樹脂組成物の流動性が向上しても,
熱伝導率は維持できることが分かった。
〔8〕 今後の展開
川平哲也
2003 年 新神戸電機㈱ 入社
新神戸電機㈱ 彦根事業所 技術部 所属
高熱伝導絶縁材料の開発に従事
今回の仕様検討によって, 機能面では自動車用途での目
処付けをすることができた。 今後は確立した仕様において量
産化を検討し,顧客評価を通じて自動車用途での展開を行う。
〔参考文献〕
1) 伊藤玄 他 : 大電流用高熱伝導樹脂積層板の開発, 新神戸テクニカ
ルレポート, No13, p.29 (2003).
2) 伊藤玄 他:大電流用高放熱積層板の開発, 新神戸テクニカルレポー
ト, No15, p.3 (2005).
3)山仲浩之 他:大電流用高放熱積層板の開発,新神戸テクニカルレポー
ト, No17, p.27 (2007).
4) 辻雅仁 他 : 次世代高放熱積層板, 新神戸テクニカルレポート,
No19, p.43 (2009).
5) M.Akatsuka et al : Study of high thermal conductive epoxy resin
containing controlled high-order structures, J.Appl.Polym.Sci, vol.89,
p.2464 (2003).
6) 赤塚正樹 他 : 放熱性に優れた高次構造制御エポキシ樹脂の開発,
電気学会論文誌 A, Vol.123-A(7), p.687 (2003).
7) Charles Kittl : 固体物理学入門 (上), 丸善社, p.108 (1988).
8) 金成克彦 : 複合系の熱伝導率, 高分子, 26, p.557 (1977).
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