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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関する

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心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関する
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004年度合同研究班報告)
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women
with Heart Disease (JCS 2005)
合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会,
日本産婦人科学会
班 長 中 澤 誠
東京女子医科大学循環器小児科
班 員 青 見 茂 之
東京女子医科大学心臓血管外科
協力員 上 塚 芳 郎
東京女子医科大学医療・病院管理学
赤 木 禎 治 岡山大学医学部歯学部附属病院循環器疾患治療部
川 副 泰 隆 千葉県循環器病センター小児科
笠 貫 宏 東京女子医科大学循環器内科
河 野 了 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科
千 葉 喜 英 国立循環器病センター周産期科
篠 原 徳 子 東京女子医科大学循環器小児科
丹 羽 公一郎 千葉県循環器病センター小児科
武 安 法 之 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科
松 岡 瑠美子 東京女子医科大学循環器小児科
照 井 克 生 埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター周産期麻酔部門
松 田 義 雄 東京女子医科大学産婦人科
中 谷 敏 国立循環器病センター心臓血管内科
宮 武 邦 夫 国立循環器病センター心臓血管内科
野 村 実 東京女子医科大学麻酔科
山 口 巖 筑波大学大学院人間総合科学研究科
萩 原 誠 久 東京女子医科大学循環器内科
協力員 石 井 徹 子
姫 野 和家子 久留米大学小児科
東京女子医科大学循環器小児科
外部評価委員
池ノ上 克 宮崎医科大学産婦人科
越 後 茂 之 国立循環器病センター小児科
今 泉 勉 久留米大学第三内科
高 本 眞 一 東京大学大学院医学系研究科心臓外科
目
1,緒 言
2,総 論
1)妊娠・分娩の循環生理:妊娠・出産における母体の変化
2)妊娠年齢女性に妊娠前に行っておくと参考になる検査項目
3)妊娠に関するカウンセリング
4)妊娠中の母体経過観察基準
5)胎児評価法
6)感染性心内膜炎とその予防
7)望ましい施設基準
3,各 論
1)基礎心疾患別の病態
(1)先天性心疾患
①非手術例
心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,心内膜床欠損症
(房室中隔欠損症),動脈管開存症,先天性大動脈弁
次
狭窄症,肺動脈弁狭窄症,Ebstein 奇形,修正大血
管転位(修正大血管転換)
②非チアノーゼ性心疾患術後
概要,心房中隔欠損術後,心室中隔欠損術後,動脈
管開存閉鎖後,心内膜床欠損(房室中隔欠損)術後,
肺動脈弁狭窄術後,大動脈弁狭窄術後,Ebstein 奇
形術後,修正大血管転位術後
③チアノーゼ性心疾患術後
概要,ファロー四徴術後,フォンタン(Fontan)手
術後,完全大血管転位修復術後
④チアノーゼ性心疾患およびチアノーゼ残存例
(2)肺高血圧
概要,原発性肺高血圧,術後残存肺高血圧,
Eisenmenger 症候群,多発性末梢性肺動脈狭窄,全身
疾患の合併症としての肺高血圧
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1267
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
(3)弁膜症および人工弁使用患者
弁膜症患者,抗凝固・抗血小板療法
(4)大動脈疾患
マルファン症候群,高安病,先天性大動脈縮窄
(5)心筋症
(6)不整脈
(7)虚血性心疾患
(8)心不全(共通の病態として)
(9)高血圧
2)産科の側から
(1)避妊治療の実際と注意点
(2)母体の循環病態が胎児に与える影響
(3)母体投与薬剤の胎児への影響
(4)妊娠継続可否の判断
(5)子宮収縮のコントロール
(6)分娩法の選択の判断
(7)出産時の麻酔
(8)母体投与薬剤の母乳への移行と乳児への影響
3)母体の治療と注意点
(1)抗不整脈治療
(2)抗心不全治療
(3)その他
バルーン弁拡大術,妊娠中の心臓血管外科手術
(無断転載を禁ずる)
論は,心疾患病態別各論と産科からの各論に分けた.前
者は,先天性心疾患(術前,術後),肺高血圧,弁膜症
1
緒 言
および弁置換後,Marfan 症候群など大動脈疾患,心筋
疾患,不整脈,虚血性心疾患,共通の問題としての心不
全,そして高血圧を取り上げた.産科的な問題として,
心疾患全般の予後の改善に伴い,また妊娠出産の高年
避妊治療,母体循環器病態および母体投与薬剤の胎児へ
齢へのシフトから,妊娠可能ないし希望の心疾患女性は
の影響,妊娠継続可否判定,分娩法の選択,出産時の麻
増えている.また,高度に進歩した新生児医療は,早期
酔,などを示した.最後に,母体循環器病態の治療につ
産児の intact survival の確率を飛躍的に改善し,妊娠後
いて述べた.
期の循環負荷を避けて出産し児をもつことも可能となっ
しかし,この分野では項目によってはエビデンスが十
ている.更に,少子高齢化が進む時代にあって,いかな
分ではないか,あるいは個々の経験だけでエビデンスと
る女性の挙児希望も可能な限り積極的に支援していくこ
しての纏まったデータが無いか極めて少ない.そこで,
とが求められている.一方では,挙児による循環負荷が
本ガイドラインの内容の多くは,この班で討論して得た
心疾患母体に及ぼす影響が危惧される.
専門家の「コンセンサス」に基づいたものとして,現時
診療現場では心疾患女性の妊娠・出産に対して,これ
点での方向性をまとめたものである.文献などにとって
までの症例研究,教科書的記述,そして医師の個人的経
何らかの形でエビデンスレベルを表すことができるもの
験に基づいた対処がなされており,一定の基準がない手
は,レベル B(かなりの証拠:ケースコントロール試験,
探りの状況であった.近年いかなる医療分野においても,
対照の少ない試験,一致しないデータではあるが,治療
エビデンスに基づいた(evidence based medicine)一定レ
指針の作成には有用),または,クラス C(内外の専門
ベル以上の標準化(standardized medicine)された医療を,
家の一致した意見)として書いた部分もある.この分野
国民が等しく甘受できるべきである,との社会的要請が
は,当然のことながら randomized prospective study は不
強まっている.そこで今回,過去の内外の情報・データ
可能なので,今後の個々の経験の積み重ねによってエビ
を収集し,また必要に応じて本研究班による調査を実施
デンスレベルを固めていくしかない.
し,それらを踏まえて班員間で討議し,わが国での現状
を踏まえた,心疾患女性の妊娠・出産に関する一定の基
準を示すこととなった.
本ガイドラインの構成は,総論と各論からなる.総論
では,妊娠の循環生理,カウンセリング,禁忌病態,心
疾患の遺伝性などの妊娠前に十分に inform されるべき
項目を先ず述べた.そして,心疾患母体が妊娠した場合
の経過観察ポイント,児の評価,心内膜炎の予防,そし
て,それら患者の診療に望ましい施設基準を示した.各
1268
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
より交感神経が亢進し,心筋収縮力,全身血管抵抗,静
脈還流量が増大する.さらに陣痛に伴う子宮収縮によっ
Ⅱ
総 論
て循環血液量が 300∼500 ml 増大する.これらによって
心拍出量は 15∼25 % 増加し,一過性に心拍数や血圧は
上昇する 1,2).仰臥位では増大した子宮が腹部大動脈,
下大静脈を圧迫するため,多少ともリスクのある心疾患
1
1 妊娠・分娩の循環生理:
妊娠・出産における母体の変化
合併妊婦の陣痛管理には左側臥位が好ましい.分娩進行
時の努責は,血行動態の急激な変化の原因となるため,
少なくとも NYHA classⅡ以上の妊婦は,硬膜外麻酔な
どの麻酔分娩の適応とされている3−6).
(1) 循環動態の変化
分娩時の母体出血量は経腟分娩で 500 ml 程度(帝王
心疾患を有する婦人の妊娠・出産を考える上で,通常
切開では約 2 倍)であり,妊娠中にもたらされた循環血
の妊娠・出産における循環動態の変動を理解することが
漿量の増大で補われる範囲である.分娩直後は子宮によ
重要である
る下大静脈の圧迫が解除され,急激な静脈還流の増大が
.妊娠・出産における循環動態の変化は,
1,2)
単に体液循環の変化のみによって引き起こされるもので
おこる.分娩直後一過性に増加した心拍数や血圧は,児
はなく,血液学的変化,呼吸機能の変化,内分泌学的,
の娩出後 10 分程度で元のレベルに戻る.増大していた
自律神経学的な変化の影響もうける.通常の妊娠・出産
心拍出量は分娩後1時間以内に 10∼20 % 低下する.妊
では,これらの変化は巧妙なバランスをとりながら維持
娠中に増加した循環血漿量のため,分娩後は一過性に容
されている.すなわち,変化の起こる時期,変化の程度,
量負荷の状態をきたす.分娩後血行動態が正常化するま
変化が最大となる時期,最大変化をきたした時の母体側
でには約 4∼6 週間かかるといわれている1,2).これらの
の反応性などによって,さまざまな適応過程をとってい
急性変化は分娩直後の心機能にも影響を及ぼす可能性が
る
ある15,16).
.
3−8)
妊娠ではコルチゾール,エストロゲン,アルドステロ
ンなどの増加に伴い Na 貯留がおこるため,循環血漿量
(2) 血液学的変化
は妊娠 10 週頃から増加し始める.32 週頃には最大とな
妊娠前期から中期にかけて赤血球容量の増加以上に循
り,その後正期にいたるまで,ほぼ一定もしくは緩やか
環血漿量が増加するため,ヘモグロビン値やヘマトクリ
に増加する.単胎の場合,通常,循環血漿量は妊娠前の
ット値が低下する.腎臓でのエリスロポエチン産生亢進
40∼50 % 増加する
.この循環血漿量の増加は,腎尿
によって増加した赤血球は,より厚く球状に変化し,胎
細管でのナトリウム再吸収亢進を伴う体内の総ナトリウ
盤の通過に適した形態へと変化する1).白血球数は好中
ム量の増大によって引き起こされる.心拍数は妊娠経過
球を主体に増加し平均 9,000∼11,000/mm3 で,妊娠末期
と共に増加し,32 週前後でピークに達し妊娠前の約 20
には 18,000/mm3 程度まで上昇することがある.分娩時
% 程度の増加を示す.一回拍出量は妊娠前期から上昇
には平均 13,000/mm3 である.血小板数は軽度減少する
し,妊娠 20∼24 週でピークとなる.これらの変化に伴
ことがあるが,正常値以下まで低下することはない.妊
って心拍出量も妊娠 20∼24 週にかけて妊娠前の 30∼50
娠後期には,血漿フィブリノーゲン,von Willebrand 因
% に増加し,その後は一定の値を保つ
.一方,妊娠
子,第Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹ,ⅩⅡ因子が増加し活性化さ
の経過に伴って大動脈圧,および全身血管抵抗は低下す
れる.このため,妊娠中は血栓,塞栓症のリスクが高く
る.特に子宮,乳房,腎臓などへの血流が増加するため,
なる 1,2,17,18).このことは血栓症のリスクのある患者,
拡張期血圧が低下する.妊娠後期には増大した子宮によ
血栓形成により重大な合併症(脳塞栓など)を起こすリ
る下大静脈の圧迫により,仰臥位で低血圧を引き起こす
スクのある患者では特に要注意である.
9−12)
11−14)
ことがある.肺動脈圧は,肺血流量の増大にもかかわら
ず肺血管抵抗の低下により一定を保つ.妊娠中の心機能
は,これら前負荷,後負荷の影響を大きく受けているが,
通常その変化に的確に適応している
.
11−16)
分娩中の血行動態は,体位,分娩様式,陣痛,麻酔の
程度などに大きく影響を受ける.陣痛に伴う痛み刺激に
(3) 呼吸機能の変化
妊娠中の呼吸生理機能は母体の呼吸状態および胎盤に
おける母体と胎児間のガス交換を反映する.妊娠の進行
に伴い胸式呼吸から腹式呼吸へと変化する.予備吸気量,
一回換気量,肺活量は増加するが,予備呼気量,残気量
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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
図1
妊娠に伴う循環動態の変化(文献 9 より)
100
120
115
90
110
105
80
100
70
95
90
60
85
50
80
pre 4
8
12 16 20 24 28 32 36 post
(W)
図 1a 心拍数(beats/min)
8
pre 4
8
12 16 20 24 28 32 36 post
(W)
図 1b 血 圧(mmHg)
1500
8
1400
7
1300
1200
6
1100
5
1000
900
4
800
3
700
600
2
pre 4
8
12 16 20 24 28 32 36 post
(W)
図 1c 心拍出量(L/min)
12 16 20 24 28 32 36 post
(W)
図 1d 体血管抵抗(dynes・sec・cm−5)
は減少する.安静呼気時の肺容量(機能的残気量)は,
進させ,代償性呼吸性アルカローシスとして血中 pH は
子宮による横隔膜の上昇により低下する.一方,吸気容
正常域に維持される.妊娠後期には労作時の分時換気量
量は増加するため全肺気量はほとんど変化しない.妊娠
と酸素消費量は最大となるが,予備呼吸量は維持される
中の内分泌学的変化により末梢気管支は拡張するが,主
ため,労作が制限されることはない.動脈血酸素分圧は
気管支の拡張性が変化することはない.妊娠前期よりプ
肺胞レベルの換気量増加によって上昇する.一方,動脈
ロゲステロンの呼吸中枢に対する直接作用として分時換
血二酸化炭素分圧は低下し,胎盤レベルでの胎児から母
気量を増加させ,妊娠末期にかけて増加していく酸素消
体への二酸化炭素の移動を促進させる1,2,3).
費量に対応する.呼吸数の増加,および酸素消費量の増
加を上回る心拍出量の増加による動静脈酸素分圧較差の
1270
pre 4
(4) 血管壁の変化
低下によって,動脈血酸素分圧は上昇する.呼吸数の増
妊娠中にはエストロゲンやエラスターゼの影響で血管
加と二酸化炭素分圧の低下は腎臓での重炭酸の排出を促
壁の構造にも明らかな変化が生じ,その脆弱性が増す.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
大動脈壁の中膜には,細網線維の断裂,酸性ムコ多糖類
に若い27).心疾患患者は,結婚妊娠後,比較的早期に病
の減少,弾性線維配列の変化,平滑筋細胞の増殖と過形
気が悪化する可能性を考慮した結果とされる.男性は,
成が認められる.これらの変化により,妊娠中の大動脈
妊娠出産時のリスクは無いが,それ以外の問題点は女性
径は軽度増加し,動脈壁のコンプライアンスも上昇する.
と共通することが多い.
一方,これらの変化は大動脈壁の脆弱性を増すため,大
動脈拡大を伴う Marfan 症候群などでは大動脈解離を引
き起こす危険性がある19−21).
①性行為,妊娠のしやすさ
重症心疾患であっても,一般と変わらず,男女ともに,
性行為は可能である26).心疾患をもつ女性の避妊は,性
2
2 妊娠年齢女性が妊娠前に行って
行為自体が危険だからではなく,妊娠,出産そのものの
リスクが高いからである.心疾患患者は,性行為に積極
おくと参考になる検査項目
的でない場合が多い.この原因の一つは,性行為,妊娠,
妊娠年齢の女性が,妊娠出産時の変化に十分に適応で
出産に関する適切なカウンセリングを受けていないため
きるかどうか,妊娠前に予測する必要がある.肺動脈圧,
である28).先天性心疾患女性は一般と比べ,月経の周期,
心室機能,大動脈径,チアノーゼ,心機能分類などを把
持続期間,出血量,安定性などに差がみられない.チア
握することは,母体,胎児の合併症を予測する上で重要
ノーゼを伴う女性は月経の出血量は多いが,それ以外は
である.従って,これらの評価を妊娠前に行っておく必
一般と同様である.このため妊孕能は一般と同様とされ
要がある.このためには,妊娠前に心臓の精査,心機能
る28,29).
評価を注意深く行うことが必要である.妊娠前検査には,
病歴,診察,胸部 X 線,心電図,心エコー検査が含ま
②遺 伝
れる.必要であれば,心臓カテーテル検査も行う.心機
心疾患の親子間の繰り返し頻度は,一般頻度と比べる
能予備能が低下していると考えられる場合(NYHAⅡ以
と高い.母親が心疾患である場合は,父親が心疾患であ
上の場合,NYHAⅠでも左室駆出率が低下している場合,
る場合より高い(遺伝の項参照).
NYHAⅠの大動脈狭窄の場合など)は,運動負荷テスト
を行う.運動負荷テストは,妊娠後期と同様の血行動態
に対応できるかを判定できるため,心機能の予備能の客
②子育て/育児/社会生活/保険
女性は,出産後に心不全,不整脈などを併発したり,
観的評価法として有用である22,23).不整脈を認める場合
心臓の状態が悪化したりすることがある.このため,出
は,ホルター心電図を行う.また,大動脈拡張を生じや
産後しばらくの間,育児を行うことが難しい場合がある.
すい疾患(Marfan 症候群など)で,大動脈の評価が十
中等度以上の心疾患を持つ女性の場合,出産年齢は 30
分でない場合は,MRI,CT 検査を行う24).これらの検
歳代よりも 20 歳代の方が,また,出産回数が少ない方
査所見を組み合わせて,妊娠リスクを予測し,患者と妊
が,より妊娠出産に耐えられる26).男性も,中等度以上の
娠について十分に話し合うことが必要である.
心疾患では,育児の手伝いが十分にできない場合がある.
さらに,再手術,心不全,不整脈などでの加療,入院も
3
3 妊娠に関するカウンセリング
加齢により増加する30,31).一般家庭では男性が家庭の経済
的な負担を担うことが多いため,育児など社会,経済的
側面を考慮すると中等度以上の心疾患男性も高齢で子ど
(1) 心疾患をもつ男女共通の問題点
もを持つことは望ましくない.また,心疾患がある場合,
心疾患患者の妊娠,出産時の問題点,安全性などにつ
いて,妊娠前にカウンセリングを行うことが必要であ
る25,26).カウンセリングは,妊娠可能年齢である思春期
以降,結婚前,妊娠前に行なう必要がある.妊娠出産の
母体リスク,胎児リスク,遺伝,将来的展望(患者の寿
命,家族環境,経済的自立,保険など社会心理的展望も
含む),性行為,育児などの問題を含む.先天性心疾患
の調査では,既婚率は女性のほうが男性よりも高い .
27)
さらに,女性の結婚年齢は,一般女性と比較すると有意
生命保険,疾病保険に入れない場合も多い27,30,32−34).
(2) 妊娠出産への一般的情報の提供の原則
心疾患をもつ女性の妊娠に関するカウンセリングのポ
イント25)として以下の 4 項目があげられる.
¡)母体のリスク(母体の安全は最重要かつ最優先と
されるべきであることを見失ってはいけない)
™)胎児に対する影響(母体の心疾患に起因する種々
の要因)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1271
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
£)遺伝性
器専門医へと紹介されることが多く,ここからカウンセ
¢)実生活と照らし合わせた総合的展望(将来におけ
リングが開始されることになる.この時点で可及的速や
る母親の予後,寿命ならびに家族全体としての妊
かに正確な診断をする必要がある.本人,夫・パートナ
娠環境と将来設計)
ー,家族にとって驚きとショックは大きいため,わかり
これらを常に念頭において,まず患者本人に,次に本
人が最も話をきいてもらいたいと判断する人(配偶者,
カウンセリングは心疾患の担当医と産婦人科医が中心
フィアンセ,家族など)とともに,何度も繰り返し説明
となって進められるが,出産に関係し必要に応じて麻酔
をし,確認し,情報の共有をする.その他,分娩はいか
科医,集中治療室担当医,新生児科医らの参加協力がな
なる方法か,妊娠中はどれくらいの頻度で診察が予定さ
され,チームとして各専門領域からの情報提供や説明,
れるか,入院時期はいつごろか,等の細部にわたる疑問
相互理解が確認されていく.患者も含め,特に専門領域
についても特に初回妊娠の場合は時間をかけてわかりや
間で情報を懇切丁寧に交換することは非常に大切であ
すく繰り返して説明する必要がある.2 回目以降は前回
る.循環器担当医からの情報提供は,基礎心疾患診断名
妊娠中の経過を体験しているために自己管理の点におい
と心血行動態の現状報告だけでは不十分である.既往手
て患者の理解を得やすい.しかし,第 1 子の世話に加え,
術の術式と説明,内服薬,予測できる心負荷のパターン
2 人目は楽であるという一般通念に家族ともども捉われ
ならびに不整脈とその対処法,長年の経過観察によれば
た結果,日常生活で無理をしてしまうことが多く,前回
こそ把握できる患者の性格や心理状態,今回の妊娠が今
に比べて疲労感,動悸等を強く自覚する傾向がある.中
後の心臓予後に与える影響と出産時同時避妊手術に関す
等度以上のリスクでは,世間一般の考えとは逆に妊娠回
る考案等にわたり,細やかな連携を展開するうえでの主
数が増えるほど心機能維持に対するより注意深い配慮が
たる情報発信源となる.
必要となることを家族にも理解してもらう.
心疾患合併の妊娠には,小児期からの先天性心疾患で
本ガイドライン以外に心疾患合併妊娠に関するリスク
の評価,管理等の参考としては次のようなものがある.
経過観察中の患児が妊娠年齢に達する場合と,先天性あ
心疾患全体を対象としたものとしては Expert consensus
るいは後天性心疾患が妊娠時にはじめて気づかれる場合
document on management of cardiovascular disease during
にわけられる.前者では,通常,妊娠に関するカウンセ
pregnancy( European Society of Cardiology 2003)25),
リングとしては,結婚の前後で初めての相談となること
35)
Spanish Society of Cardiology によるガイドライン
(2000)
,
が多い.しかしながら,小児期から思春期−成人期へと
トロントグループによる母体 NYHA クラス,チアノー
継続して経過観察がなされている場合には,学生であっ
ゼ,不整脈等を考慮したリスク・スコアを用いた評価法36),
ても妊娠可能年齢に達していれば,生活環境や性格など
一方成人先天性心疾患の管理ガイドラインに妊娠を組み
を十分考慮した上で,もしも妊娠した場合,避妊する場
込んだもの(Canadian cardiovascular society, European
合,さらには中絶が必要となった場合について教育を始
37)
society of cardiology)
,あるいは米国弁膜症管理ガイドラ
めることが重要である.定期受診の際に,母親(あるい
イン38)の中に妊娠項目が記載されているものなどである.
は父親)が同伴である時には,家族皆で考え情報を共有
しておくことができる.すなわち妊娠の前,できれば結
婚前にカウンセリングは開始されるべきといえる.ただ
(3) 禁忌疾患/病態
妊娠の禁忌を考える際に,New York Heart Association
し,重要なことは,実生活において妊娠は『許可する,
(NYHA)の心機能分類が用いられることが多い(表 1).
しない』という次元の問題ではなく,本人を中心とした
比較的安全と考えられている NYHAⅡ度以下では,妊
世界で決定されることである.この原則を自然に受け入
娠が許容されることが多いが,それでも死亡例がみられ
れたうえで,生命の危険を伴うほどのハイリスク妊娠,
るので,NYHA 分類のみで予後を推定し絶対的な判断
あるいはリスクを無視して妊娠を希望する場合等,理想
をくだすことは危険である.Perloff & Koos は,母体死
的とはいえない状況でのカウンセリングにも対応しなく
亡率は ClassⅠandⅡで 0.4 %,classⅢandⅣで 6.8 %,胎
てはならない.このためにも基本路線をガイドラインに
児死亡率は classⅣで 30 % と報告している1).
よって知っておくべきである.さらに,個々の状況で調
整,変則法が生じることは必然であろう.
妊娠後に初めて心疾患が指摘された場合には,心雑音,
心電図異常,不整脈などをきっかけに産婦人科から循環
1272
やすい説明を何度も繰り返し行うなどのケアを要する.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
疾患・病態としては,表 2 に示すものが挙げられる37).
これらでは,母体,胎児ともに死亡率や罹病率が高く,
妊娠を勧めることはできない.妊娠が判明した場合,話
し合いによって中絶することが好ましいが,継続する場
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
合には,高いリスクを十分に伝えたうえで,厳重な注意
を要する.
表1
NYHA の心機能分類
classⅠ 通常の身体活動で自覚症状なし,日常生活が制限
なし
classⅡ 通常の労作で症状あり,日常生活が軽度ないし中
等度に制限あり
classⅢ 通常の労作以下で症状あり,日常生活が中等度な
いし高度に制限されるもの
classⅣ 安静時にも症状あり, 日常生活は全く不可能なもの
表2
妊娠の際厳重な注意を要する或いは妊娠を避けるべき心疾患
1.肺高血圧 (Eisenmenger 症候群)
2.流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄,>40∼50 mmHg)
3.心不全(NYHA 3 度以上,LVEF<35∼40 % )
4.マルファン症候群(大動脈拡張期径>40mm)
5.人工弁
6.チアノーゼ性疾患(酸素飽和度:<85 % )
(文献37からの改変)
③疾患側から考慮しなければならない事項
1.妊娠が危険とされている疾患若しくは状態か否か.
2.疾患が進行性か慢性的か.
3.現在の状況と将来の予測される状況とどちらが状
態が良いか.
4.投薬や手術により疾患の状態が改善する可能性が
あるか否か.
5.人工弁置換などでワーファリンを使用しているか
否か(各論人工弁患者の項参照)
④社会的な面から考慮しなければならない事項
1.年齢
2.既婚か未婚か,未婚の場合は定まったパートナー
の存在,結婚の予定.
3.生活の安定性
4.本人の職業
5.生活地域,管理する医療機関との距離.
6.子供の数,将来の希望.
(4) 避妊法について
①原 則
(5) 遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングは臨床遺伝専門医によって行われ
るべき,とされている.しかし,実際には実施できない
成熟女性は誰でも妊娠する可能性がある.成熟してい
施設が多いものと思われる.ただ,基本的な知識無くし
れば未婚・既婚は問わない.年齢,社会的条件にも左右
てカウンセリングを行うことは,患者に無用な不安や混
されない.妊娠は許可されて行うものではない.まして,
乱を起こす可能性が大きい.そこで,現在ある遺伝カウ
禁止できるものではない.
ンセリングの原則をここに示し,諸氏の理解を得たい.
現在のような個人の価値観の多様性が認知されている
社会において,避妊に関するカウンセリングで最も注意
①総 論
しなければならないことは,母体のリスクによる根拠の
2003 年,遺伝医学関連 10 学会および研究会は,我が
みから判断するべきであり,カウンセリングを行う人あ
国の将来の健全な遺伝医療の確立を目指し,改めて診療
るいは受ける人の個人的観念にとらわれてはならないと
行為として位置づけられる遺伝学的検査に関するガイド
いうことである.
ライン「遺伝学的検査に関するガイドライン」を提案し
避妊を行うか否か,妊娠・出産を希望するならば,い
た.今回,妊娠・出産の遺伝カウンセリング関連の部分
つ妊娠をするか,時間的に疾患の治療を先行させるか,
を以下に抜き出した.「遺伝学的検査に関するガイドラ
妊娠出産を先行させるかなど,以下の項を参照に具体的
イン」を含め遺伝医学・遺伝医療に関するガイドライン
方法を決定する.
は,京都大学遺伝子診療部が管理運営している“いでん
②避妊方法の選択
永久不妊法として卵管結紮による永久不妊術がある.
妊娠の可能性を残すものとしては,子宮内避妊器具,低
ネット”のホームページにまとまっているのでここを参
照されたい.
(http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/idennet/idensoudan/
guideline/guideline.html)
容量避妊薬,古典的バリア法がある.また,パートナー
また,平成 18 年には,日本循環器学会学術委員会ガ
の避妊法として,避妊手術やコンドーム法がある.夫々
イドライン作成班による「心臓血管疾患における遺伝学
に利点欠点があり,詳細は各論 2,2)(1)に譲る.
的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」が
刊行されるので,それもあわせて参照されたい.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1273
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
②「遺伝学的検査に関するガイドライン」
②−1)遺伝学的検査と遺伝カウンセリングの大原則
②−1)−1
遺伝学的検査は,十分な遺伝カウンセリ
ングを行った後に実施する.
②−2)目的に応じた遺伝学的検査における留意点
②−2)−1
発症者を対象とする遺伝学的検査
②−2)−1(1)遺伝学的検査は,発症者の確定診断を
目的として行われることがある.
②−2)−1(2)発症者の確定診断の目的で行われる遺
遺伝カウンセリングは,十分な遺伝医学
伝学的検査の場合も,結果的にその情報が血縁者に
的知識・経験をもち,遺伝カウンセリングに習熟し
影響を与える可能性があることについて,検査前に
た臨床遺伝専門医などにより被検者の心理状態をつ
十分説明し理解を得ておかなければならない.
②−1)−2
ねに把握しながら行われるべきである.遺伝カウン
②−2)−1( 3)血縁者の発症前診断,易罹患性診断,
セリング担当者は,必要に応じて精神科医,臨床心
保因者診断などを行うための情報を得ることを第一
理専門職,遺伝専門看護師,ソーシャルワーカーな
の目的として,既に臨床診断が確定している患者に
どの協力を求めチームで行うことが望ましい.
対して,疾患の原因となっている遺伝子変異などを
②−1)−3
遺伝カウンセリング担当者はできる限り,
解析することがある.この場合は,得られた情報が
正確で最新の関連情報を被検者に提供するように努
適切に血縁者に開示されるか,あるいは利用される
めなければならない.これには疾患の頻度,自然歴,
ことによってはじめて意味のある遺伝学的検査とな
再発率(遺伝的予後),さらに保因者検査,出生前
ること,疾患の原因となる遺伝子変異が見出されな
検査,発症前検査,易罹患性検査などの遺伝学的検
くても,本人の臨床診断に影響しないことを検査の
査の意味についての(新しい)情報が含まれる.遺
前に被検者に十分説明し理解を得ておかなければな
伝カウンセリング担当者は,遺伝性疾患が,同一疾
らない.
患であっても,その遺伝子変異,臨床像,予後,治
②−2)−2
療効果などにおいて異質性に富むことが多いことに
②−2)−2(1)遺伝学的検査は,家系内に常染色体劣
ついて十分留意しなければならない.
保因者の判定を目的とする遺伝学的検査
性遺伝病や X 連鎖劣性遺伝病,染色体不均衡型構
遺伝カウンセリング担当者は被検者が理
造異常の患者がいる場合,当事者が保因者であるか
解できる平易な言葉を用い,被検者が十分理解して
どうかを明らかにし,将来,子孫が同じ遺伝病に罹
いることをつねに確認しながら遺伝カウンセリング
患する可能性を予測するための保因者検査として行
を進めるべきである.被検者の依頼がある場合,又
われることがある.
②−1)−4
はその必要があると判断される場合は,被検者以外
の人物の同席を考慮する.
②−2)−2(2)保因者検査を行うにあたっては,被検
者に対してその検査が直接本人の健康管理に役立つ
遺伝カウンセリングの内容は,一般診療
情報を得る目的のものではなく,将来の生殖行動に
録とは別の遺伝カウンセリング記録簿に記載し一定
役立つ可能性のある情報を得るために行われるもの
期間保存する.(セッキュリティに問題のある電子
であることを十分に説明し理解を得なければならな
カルテ上には記録しない)
い.
②−1)−5
②−1)−6
被検者が望んだ場合,被検者が自由意思
②−2)−2(3)将来の自由意思の保護という観点から,
で決定できるように遺伝カウンセリングは継続して
小児に対する保因者診断は基本的に行われるべきで
行われなければならない.また必要に応じて,臨床
はない.
心理的,社会的支援を含めた,医療・福祉面での対
応について情報が与えられるべきである.
②−2)−2(4)保因者検査を行う場合には,担当医師
及び関係者は,診断の結果明らかになる遺伝的特徴
遺伝学的診断結果が担当医師によって被
に基づいて,被検者及びその血縁者並びに家族が差
検者の血縁者にも開示されるような場合には,臨床
別を受ける可能性について十分に配慮しなければな
遺伝専門医の紹介など,その血縁者が遺伝カウンセ
らない.
②−1)−7
リングを受けられるように配慮する.
②−1)−8
遺伝カウンセリングは,遺伝学的検査の
実施後も必要に応じて行われるべきである.
②−2)−3
出生前検査と出生前診断
②−2)−3(1)妊娠前半期に行なわれる出生前検査及
び診断には,羊水,絨毛,その他の胎児試料などを
用いた細胞遺伝学的,遺伝生化学的,分子遺伝学的,
細胞・病理学的方法,及び超音波検査などを用いた
1274
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
物理学的方法などがある.
②−2)−3(7)着床前検査及び診断は,極めて高度な
②−2)−3(2)出生前検査及び診断として遺伝学的検
知識・技術を要する未だ研究段階にある遺伝学的検
査及び診断を行うにあたっては,倫理的及び社会的
査を用いた医療技術であり,倫理的側面からもより
問題を包含していることに留意しなければならず,
慎重に取り扱わなければならない.実施に際しては
とくに以下の点に注意して実施しなければならな
日本産科婦人科学会会告「着床前診断に関する見
い.
解」42,43)に準拠する.
(a)胎児が罹患児である可能性(リスク),検査法
の診断限界,母体・胎児に対する危険性,副
作用などについて検査前によく説明し,十分
な遺伝カウンセリングを行うこと.
(b)検査の実施は,十分な基礎的研修を行い,安
全かつ確実な検査技術を習得した産婦人科医
により,またはその指導のもとに行われるこ
と.
③先天性遺伝性心血管疾患
③−1)成 因
先天性心血管疾患を伴い,染色体異常および疾患遺伝
子異常が既に確定している主な疾患を以下に示す.
Down 症候群,22q11.2 欠失症候群,Williams 症候群,
Holt-Oram 症候群,Alagille 症候群,Marfan 症候群,原
発性肺高血圧症,QT 延長症候群,Brugada 症候群,
②−2)−3(3)絨毛採取,羊水穿刺など,侵襲的な出
生前検査・診断は下記のような場合の妊娠につい
て,夫婦からの希望があり,検査の意義について十
分な理解が得られた場合に行う.
Noonan 症候群,LEOPARD 症候群,肥大型心筋症,拡
張型心筋症,弧発性心筋緻密化障害等.
その他の疾患リストは,参考文献 44)を参考にされた
い.
(a)夫婦のいずれかが染色体異常の保因者である
③−2)発症頻度
場合
(b)染色体異常症に罹患した児を妊娠分娩した既
日本の一般人口での生産児に先天性心血管疾患が占め
往を有する場合
る頻度は,1986 年の厚生省研究班により報告45)された
(c)高齢妊娠の場合
データでは,1.06 % である.日本小児循環器学会疫学
(d)妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重
委員会からの報告46)によると,1990 年から 1999 年まで
篤な X 連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
の調査で,全先天性心血管疾患の成因区分別内訳は,遺
(e)夫婦のいずれもが新生児期もしくは小児期に
伝子病 4.7 %,染色体異常 8.2 %,催奇形因子 0.5 %,多
発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ
因子遺伝 86.7 % であった.原因不明な多因子遺伝の疾
接合体の場合
患で症候群を伴わない疾患の中では,心室中隔欠損が最
(f) 夫婦のいずれかが新生児期もしくは小児期に
も多く(32.1 %),ファロー四徴(11.3 %),心房中隔欠
発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ
損(10.7 %)と続き 3 疾患をあわせると全先天性心血管
接合体の場合
疾患の 54.1 % であった.近年,症候群でない心房中隔
(g)その他,胎児が重篤な疾患に罹患する可能性
のある場合
欠損,ファロー四徴,心室中隔欠損の疾患遺伝子として
NKX2.5 遺伝子,GATA4 遺伝子が報告されており,研
②−2)−3(4)重篤な X 連鎖遺伝病のために検査が行
われる場合を除き,胎児の性別を告げてはならない.
究段階ではあるが,原因不明の多因子遺伝に分類されて
いた疾患の成因が解明され始めてきている.
②−2)
−3(5)出生前診断技術の精度管理については,
常にその向上に務めなければならない.
②−2)−3(6)母体血清マーカー検査の取り扱いに関
しては,厚生科学審議会先端医療技術評価部会出生
③−3)親子間の繰り返し頻度
③−3)−1
先天性心疾患(形態異常疾患いわゆる心
奇形)
前診断に関する専門委員会による「母体血清マーカ
一般に,親子での繰り返しは一般頻度より高い
ー検査に関する見解」 ,日本人類遺伝学会倫理審
(表 3).母親が先天性心疾患の場合,父親に先天性
議委員会による「母体血清マーカー検査に関する見
心疾患があるより,こどもの先天性心疾患の頻度が
解」 ,及び日本産科婦人科学会周産期委員会によ
高い(表 4)47).
39)
40)
る報告「母体血清マーカー検査に関する見解につい
て」41)を十分に尊重して施行する.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1275
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表3
表4
先天性心疾患の親子繰り返し頻度
報 告 者
頻 度
Whittemore R et al
14.1 %
発 表 雑 誌
J Am Coll Card 1994; 23: 1459
Burn J et al
4.1 %
Lancet 1998; 351: 311
Nora JJ(meta-analysis)
3.6 %
J Am Coll Card 1994; 23: 1468
Romano-Zelekha O et al
3.1 %
Clinical Genet 2001; 59: 325
Zuber M et al
2.5 %
Heart 1999; 81: 271
石井,中澤
2.4 %
自験 2003
Lie RT et al
1.1 %
N Engl J Med 1994; 331: 1(期待値の 6 倍とされている)
先天性心疾患の親子繰り返し頻度:父親母親の違い
(11.7 %),心筋ミオシン結合蛋白 C(11.1 %)で,
心疾患
合計
母
父
母/父比
散発性では,心筋ミオシン結合蛋白 C(5 %),心筋
大動脈弁狭窄
4.0
11.9
2.5
4.8
トロポニン T(3 %),心筋トロポニン I(3 %),心
心房中隔欠損
4.6
5.8
2.0
2.9
大動脈縮窄
3.1
4.3
2.2
2.0
動脈管開存
3.6
4.1
2.2
1.9
肺動脈弁狭窄
2.6
3.4
1.7
2.0
ファロー四徴症
1.7
2.0
1.4
1.4
心室中隔欠損
3.4
4.1
2.6
1.6
合 計
3.6
4.7
2.1
2.2
(文献 47 より改変:Whittemore らのデータを除いた)
筋βミオシン重鎖(2 %)である.
③−3)−2−(2)拡張型心筋症(DCM)
多くが散発例であるが,患者の 20∼35 % に家族
歴を認めている.25 種類の疾患遺伝子が今までに
報告されており,家族性の約 19 %,散発性の約 5
% に何らかの遺伝子異常が認められている.家族
性の DCM で頻度が高いのは,タイチン(9.6 %),
デスミン(3.1 %),サイファー(3.1 %)で,散発
性では,ディストロフィン(3 %),タイチン(1 %)
③−3)−2
特発性心筋症
特発性心筋症は,圧負荷や容量負荷などの原因が
である.
③−3)−2−(3)その他の心筋症
な い に も かか わ ら ず , 心 肥 大 ( 肥 大 型 心 筋症:
多くが家族歴を認める ARVC では,リアノジン
HCM),心拡張(拡張型心筋症:DCM),心室壁の
レセプターなど 5 種類の原因遺伝子が報告され,
硬化(拘束型心筋症:RCM),右室筋の脂肪変性と
LVNCでもタファジンなど 3 種類の原因遺伝子が報
不整脈(不整脈源性右室心筋症:ARVC)をきたし,
告されている.RCM でも心筋トロポニン T,心筋
濃厚な家族性遺伝を示すものが少なくない.また,
トロポニン I,デスミンの遺伝子変異が報告されて
左室緻密化障害(LVNC)も心筋症の一つに数えら
いる.
れている.原因不明の心筋疾患と定義されていた特
詳しくは別に刊行される日本循環器学会学術委員
発性心筋症が遺伝子変異に起因することが明らかに
会ガイドライン作成班「心臓血管疾患における遺伝
されてきた.
学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライ
肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症,不
ン」各論,心筋症を参照されたい.
整脈源性右室心筋症,左室緻密化障害のいずれにつ
いても,それぞれの症例の原因遺伝子変異は単一で
はあるが,心筋症全体としてみると,同一遺伝子の
不整脈
不整脈のうち,QT 延長症候群,Brugada 症候群,
変異でも同一疾患になるとは限らず,多様な臨床病
カテコラミン感受性多形性心室頻拍,進行性心臓伝
態を呈することが明らかになってきた.
導障害,家族性心房細動,QT 短縮症候群などでは,
③−3)−2−(1)肥大型心筋症(HCM)
1276
③−3)−3
遺伝子変異の報告があった.
患者の 50∼70 % に家族歴を認めている.15 種類
QT 延長症候群は,明らかな基礎疾患を欠く症例
の疾患遺伝子が今までに報告されており,家族性の
において,心電図上 QT 間隔が延長し,多形性心室
約 50 %,散発性の約 15 % に何らかの遺伝子異常が
頻拍や心室細動から失神および突然死にいたる疾患
認められている.家族性の HCM で頻度が高いのは,
である.6 つのカリウムおよびナトリウムチャネル
心筋βミオシン重鎖(19.1 %),心筋トロポニン T
遺伝子および細胞骨格蛋白の遺伝子変異が報告され
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
ており,LQT1∼LQT6 まで分類されている.これ
LQT1 の原因遺伝子である KCNQ1(KVLQT1)に
までに 300 以上の変異が報告されており,患者の約
変異が報告され,その機能解析からチャネル機能亢
60 % に変異が認められている.その内訳は,LQT1
進を示すことが報告されたが,その他の原因遺伝子
(43 %),LQT2(45 %),LQT3(7 %)であり,
についての報告はまだない.
LQT1∼LQT3 までで全体の 95 % を占めている.ま
QT 短縮症候群は,失神,動悸および心肺蘇生例
た,LQT1∼LQT3 については,心電図所見,臨床
を認めた 2 家系において,LQT2 の原因遺伝子
像などにそれぞれ特徴が確認され始めてきている.
KCNH2(HERG)の変異が認められ,その機能解
Brugada 症候群は,V1∼V3 での ST 上昇と右脚ブ
析からチャネル機能亢進を示すことが報告された.
ロック様心電図を呈する特発性心室細動の一群であ
その他,別に刊行される日本循環器学会学術委員
り,LQT3 と同一遺伝子であるナトリウムチャネル
会ガイドライン作成班「心臓血管疾患における遺伝
遺伝子(SCN5A)が原因遺伝子として報告された.
学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライ
また,SCN5A は,LQT3 の他に,乳幼児突然死症
ン」各論,不整脈を参照されたい.
候群,進行性心臓伝導障害,の原因遺伝子であるこ
とも報告されてきており,1 つの遺伝子変異により
③−4)先天性心疾患(形態異常疾患いわゆる心奇形)
における妊娠中の母体環境要因
これらの病態が合併する症例など多様な臨床所見が
同一民族内あるいは,同一家系内,一卵性双胎児間に
確認されはじめてきている.
カテコラミン感受性多形性心室頻拍は,器質的心
おいてさえ,あるいは同一の染色体および遺伝子異常を
疾患は認めず,身体的および感情的ストレスにより
伴っていても,多様な表現型がしばしば認められる.こ
誘発される二方向性心室頻拍または多形性心室頻拍
の現象は,母体環境などの環境因子が表現型に強い影響
を呈し,小児や青年期の突然死の原因となる.原因
を与えている可能性を示しており,多因子遺伝説として
遺伝子として心臓リアノジン受容体遺伝子(RYR2)
知られている47).
環境要因としては教科書的に知られているものを表 5
の異常が報告された.
進行性心臓伝導障害は,進行性の刺激伝導障害を
に示した.更に最近いくつかの疫学調査から明らかにな
特徴とし,心電図上 PR 間隔および P/QRS 幅の延
ったものがある.Kallen48)は,母親の喫煙によって,円
長がみられ,完全房室ブロックから失神や突然死を
錐動脈幹奇形(ファロー四徴,大血管転位など),心房
きたす.原因遺伝子として SCN5A 遺伝子の変異が
中隔欠損,動脈管開存の発生の Odd ratio が,それぞれ
報告されており,Brugada 症候群,LQT の合併例の
1.23,1.60,1.30 で有意に増加していると報告した.ま
報告もある.
た,Loffredo らは49),妊娠第1期の除草剤,殺鼠剤への
家族性心房細動は,今のところ 1 家系について,
暴露が,児の完全大血管転換の発生を,それぞれ 2.8,
表 5 先天性心疾患発生における環境因子:主な古典的要因
催奇形因子
クラス
発生頻度(%)
アルコール
1
25∼30
アンフェタミン
2
10
心奇形の主な病型
薬剤/化学物質
ヒダントイン
2
2∼3
トリメタジオン
1
15∼30
リチウム
1
10
1
20∼50
(感染時期による)
心室中隔欠損,動脈管開存,心房中隔欠損
心室中隔欠損,動脈管開存,心房中隔欠損,完全大血管転換
肺動脈弁狭窄,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,動脈管開存
完全大血管転換,ファロー四徴,左心低形成
Ebstein 病
感染
風疹
末梢性肺動脈狭窄,動脈管開存,心室中隔欠損,心房中隔欠損
母体疾患
糖尿病
1
5∼50
無脾症,多脾症,修正大血管転換,心内膜床欠損,肥大型心筋症(IDM),完全大血管転換
ループス
1
25∼50
先天性完全房室ブロック
フェニルケトン尿症
1
25∼50
ファロー四徴,心室中隔欠損,心房中隔欠損
クラス:1=関連が強い,2=おそらく関連している(Wilson の疫学的分類)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1277
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表6
先天性心疾患発生におけるビタミン(葉酸)摂取の重要性
発表年
オッズ比(中間値)
報告者
研究方法
(全体)
心奇形
円錐動脈幹奇形
心室中隔欠損
Czeizel
Randomized Trial
1998
0.42
0.48
0.24
Botto
Case Control
2000
0.76
0.46
0.61
Shaw
Case Control
1995
no data
0.53
no data
Scanlon
Case Control
1998
no data
0.97
no data
Werler
Case Control
1999
no data
1.00
1.20
(文献 50 より)
4.7 の Odd ratio で増加させたと報告している.同じ
一般に重症度が高まるほど,健診時には両科を同日受診
Balimore-Washington study から,Botto らは ,ビタミン
する形が多くなり,情報の交換を密に行うことになる.
A 誘導体のレチノールおよびカロテノイドの摂取量と心
たとえば,ラステリ術後で,中等度の肺動脈狭窄兼高度
奇形の発生の関連を調べた.その結果,これらを毎日 1
の肺動脈弁逆流があり,右室拡大・三尖弁逆流著明,心
万単位以上摂取していた群で,それ以下の群に比べ,完
室性期外収縮頻発といった容量負荷の影響が通常よりも
全大血管転換の発生が 9 倍(Odd ratio=9.2)多かった
早期に出現する条件の場合には,妊娠 22 週頃から 2 週
50)
ことを報告している.また,彼らは ,ビタミン(特に
おきの観察がのぞましい.妊娠 30∼31 週頃からの早期
葉酸)不足が先天性心疾患の発生に深く関与している可
の分娩待機管理入院となると毎週の循環器担当医による
能性を,いくつかの調査研究を引用しながら強調してい
診察が必要となる.不整脈の増加は個人差があるが,心
51)
る(表 6).また,母親の貧血と先天性心血管疾患との
不全の悪化に伴い顕著になるほか,妊娠 27∼28 週頃か
可能性も示されている 46,51).多因子遺伝説から見ると,
ら増加する場合や,妊娠 35 週前後で増加する場合など
先天性心疾患患児出産歴,あるいは自身が先天性心疾患
があり,いずれも分娩時の警戒に貴重な情報となるため,
の母親では,感染の予防を行い,それら催奇形の可能性
ホルター心電図は何度か施行するべきである.心エコー
のある薬剤や化学物質を避けることが重要である.
検査はこの場合,妊娠前あるいは妊娠が判明してすぐに
4
4 妊娠中の母体経過観察基準
で早期の分娩待機入院予定時期をおおむね計画し,第 3
第 1 回目を施行し,第 2 回目は妊娠 26∼28 週頃,ここ
回目は入院後で,安全で適切な分娩日(帝王切開術の場
心疾患合併妊婦では,妊娠に伴う母体の循環動態の変
合も)を予測あるいは決定するための情報とする.ハイ
化が,心機能(母児の罹病率,場合により死亡すること
リスクでは,入院安静を続けても母体体重コントロール
もありうる)に影響を及ぼす可能性が高い.したがって,
の限界となり,息切れなどの明らかな心不全症状が出現
産婦人科医,循環器専門医,麻酔科医,看護師を中心と
する直前で,なおかつ胎児の発育停止となるポイントが
するチームによる継続的な観察が必要である .観察す
妊娠終了・出産の時とすると,これを逃さぬよう,しか
るポイントとしては,不整脈,心不全,血栓などが主な
も事前に予測するために,より頻回に行う.胸部レント
ものである53).
ゲン写真での心拡大が最終的に一段階進行する頃に相当
52)
1278
合併症を持たない妊婦の定期健診スケジュールは,お
するが,心エコー・胸部レントゲン写真の両者を診察所
およそ妊娠 16 週までは 2∼3 週おき,26 週までは 3∼4
見と総合して決める.脳性利尿ペプチド(BNP)値は増
週おき,35 週までは 2 週おき,それ以後は 1 週おきが
加し,特に中等度以上のリスクにおける経過観察に役立
標準的なものとされている.これを基本として循環器担
つが,分娩時期を決定する具体的な値というものはない.
当医は,個々の心疾患の重症度すなわち妊娠のリスクレ
一般的循環器検査に関して循環器担当医は,心疾患の
ベルに準じた経過観察のスケジュールを組み立ててい
重症度にかかわらず,妊娠がわかった時点で,心エコー
く.たとえば手術未施行の心室中隔欠損(小欠損孔)の
などによる心形態および心機能の評価をすみやかに行
ように,妊娠継続に伴い心不全徴候を生じるとは考えに
い,産科担当医にその説明と分娩前後も含めた妊娠経過
くい軽症の心疾患の場合,必ずしも産婦人科的健診毎に
観察時の注意点について情報提供する必要がある.不整
循環器外来も受診する必要はない.個々の条件,状況に
脈に関しては,初期に問題なくとも妊娠経過中に出現の
あわせて適宜診察日の調整をするのが原則ではあるが,
可能性が予測される場合には,早めにホルター心電図検
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
査を施行しておくと,後の不整脈増加時との比較が明瞭
て,胎児心拍数モニタリングによる Non Stress Test
となる.胸部レントゲン写真は妊娠 12 週以降であれば
(NST),超音波断層法を用いた Biophysical profile(BPP),
可能であるが,一般的には必要と判断される場合に限り
妊娠 16 週以降に行われている.特にハイリスクで帝王
切開術を施行する場合には,前日に背臥位の胸部レント
さらに超音波ドプラ法による血流計測などがある.
(1) 胎児心拍モニタリング54−56)
ゲン写真を撮影しておくと,術後撮影分との比較がしや
現在,胎児心拍モニタリングによる胎児評価法として
すい.CT スキャン,MRI などは,生命に危険が及ぶ場
広く用いられているものは,Non Stress Test(NST)と,
合には十分な説明をしたうえで施行される.
Contraction Stress Test(CST)である.
原則として,病態の変化が捉えられたら,程度により
Non Stress Test(NST)は子宮収縮がない状態で,胎
週に一度から 2 週に一度の検診とするが,心機能低下や
児の一過性頻脈(acceleration, ACC)の有無をみるもの
心不全徴候がみられた場合には,ただちに入院安静とし,
である.心拍数基線(baseline fetal heart rate, BFHR)は
必要に応じて治療する.
迷走神経支配の発達に伴い,妊娠の経過とともに減少す
管理上の注意点としては,体重の増加量を理想的なも
る が , 正 常 は 110∼ 160 bpm で あ る . 心 拍 数 基 線
のにして,肥満による心負荷の増大を防ぐこと,軽度で
(BFHR)が 15 bpm 以上上昇し,15 秒間以上持続するこ
も心不全状態にある場合には塩分制限が推奨されてい
とを一過性頻脈(ACC)という.この一過性頻脈
る.更に,感染や妊娠中毒症が心不全の誘因となるので
(ACC)が,20 分間に 2 回以上みられる場合は正常で,
注意が必要である.産婦人科的,循環器的評価だけでな
「reactive NST」と呼び,胎児の well-being は良好である
く,コントロールに注意を要する膠原病などを合併して
と判断する.逆に,2 回以上みられない場合を「non-
いる場合,外来通院では総合的な評価が困難であれば,
reactive NST」と呼び,異常とする(図 2 A・B).
入院して経過を観察しながら慎重な管理方針の決定をす
Contraction Stress Test(CST)は分娩中と同程度の子
宮収縮を負荷して,胎児の遅発一過性徐脈(late
ることがのぞましい.
deceleration)出現の有無をみるものである.つまり,子
5
5 胎児評価法
宮収縮というストレスを胎児に与えることにより,胎児
予備能を評価しようとする検査法である.検査の適応は
子宮内胎児が well-being であるか否かの評価法とし
図 2A
reactive NST
子宮胎盤循環不全が予想されるハイリスク妊娠,すなわ
図 2B non-reactive NST(異常)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1279
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
図 3 positive CST(異常):遅発一過性徐脈
図4
negative CST
(well-beingは良好,すなわちnon-reactive,negative,acceleration
のあるFHR)
察する.これは呼吸様運動,胎動,筋緊張,Non Stress
ち糖尿病,妊娠中毒症,過期妊娠,子宮内発育遅延など
である.Contraction Stress Test(CST)の判定は,陽性
Test(NST;前項),羊水量の 5 項目からなるスコアリ
(positive),陰性(negative),陽性でも陰性でもない
ングシステムである.正常を 2,異常を 0 として,その
[ equivocal; 過 強 陣 痛 ( hyperstimulation), 疑 い
合計点により胎児の状態を評価するが,4 点以下が異常
(suspicious)],不成功(unsatisfactory)の 4 つに分けら
と定義されている(表 7).
れる.10 分以内に子宮収縮が 3 回あり,遅発一過性徐
Biophysical Profile(BPP)には,急性期と慢性期のマ
脈(late deceleration)が全子宮収縮の半数以上にみられ
ーカーが混在している.例えば,Non Stress Test(NST)
る場合が陽性で,「positive CST」と呼び,異常とする
における一過性頻脈(acceleration, ACC)の消失,呼吸
(図 3).一方,10 分以内に子宮収縮が 3 回あり,遅発
様運動と胎動の減少,筋緊張低下などの変化は,急性期
の変化と考えられる.これに対して羊水量の減少は,慢
一過性徐脈(late deceleration)がない場合を陰性とし,
「negative CST」と呼び,99 % の確率で胎児が 1 週間生
性的な低酸素状態時の血流再分配機構により,腎臓への
存できるといわれている(図 4).この場合には 1 週間
血流が減少した結果,尿量の低下を来たし羊水量の減少
おきに分娩まで繰り返し施行すれば児の安全を保証でき
につながったものと解されている.
羊水量の簡単な評価法に Amniotic Fluid Index(AFI)
ることになる.陽性でも陰性でもない(equivocal)なと
き,あるいは不成功(unsatisfactory)のときは翌日再検
がある.これは,超音波プローブを患者の長軸に沿って
査とする.
垂直に置き,子宮が四分割された場所でのそれぞれの羊
水深度の和を cm で表したものである.Amniotic Fluid
(2) 超音波断層法57,58)
Index(AFI)が 5 cm 以下の時には,胎児の状態が悪く
帝王切開となる症例や,Apgar Score や臍帯動脈血 pH の
超音波断層法を用いて Biophysical profile(BPP)を観
表7
Biophysical variable
BPP の判定基準
正常(スコア= 2)
胎児呼吸様運動(FBM) 30 秒以上の FBM が 30 分間に 1 回以上
異常(スコア= 0)
FBM が 30 分間でないか 30 秒未満
胎動(FM)
明瞭な身体か四肢の動きが 30 分間に 3 回以上(連続運動は 1
回と数える)
胎動が 30 分間に 2 回以下
胎児筋緊張(FT)
四肢か体幹の進展とそれに引き続く屈曲が 30 分間に 1 回以上
手の開閉も正常と考える
弱い伸展と部分屈曲か伸展運動のみ
運動の消失
NST
胎動に伴う FHR acceleration(15 秒以上,15 bpm 以上)が 20
分間で 2 回以上
FHR acceleration 20 分間で 1 回以下
羊水量(AFV)
2 つの垂直断面像で 2 cm 以上の羊水ポケットが 1 つ以上
羊水ポケットが 2 cm 未満
(Manning FA, et al: Am J Obstet Gynecol 1980; 136: 787-795 より)
1280
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
低値を示す症例が増加することが知られている.この
Amniotic Fluid Index(AFI)と Non Stress Test(NST)を
1)検査施行者
組み合わせた胎児評価法は modified biophysical profile
胎児心エコースクリーニングに十分精通した検査者
(modified BPP)と呼ばれ,どちらもよければそのまま
(産科医,小児科医,または技師)が,スクリーニング
経過観察,一方が悪ければ一段階上の検査法
を施行するのが望ましい.現在わが国で施行されている
(Contraction Stress Test, CST あるいは Biophysical profile,
一般産科エコーでは,レベルが不均一でスクリーニング
BPP),そしてどちらも悪ければ分娩を考慮するという
体制が確立されておらず,先天性心疾患の胎児診断率は
アルゴリズムで,近年広く用いられるようになってきた.
欧米と比較し明らかに低い.したがって,両親,とくに
(3) 超音波ドプラ血流計測59)
ドプラ血流計測による胎児血流動態の評価法は,周産
期領域では超音波入射角による補正を必要としないイン
デックスを用いた波形分析が行われている.代表的なイ
ン デ ッ ク ス と し て , S/D ratio, Resistance index,
母親が先天性心疾患を有する場合,先天性心疾患のハイ
リスク群としての専門医による胎児心スクリーニング実
施が望ましい.
2)観察の時期
一般的な超音波診断装置において,妊娠 18 週以降は
Pulsatility index が知られているが,どのインデックスに
胎児心スクリーニングが可能とされている.それ以前は
も優劣はなく,いずれも末梢血管床の血管抵抗を代表す
スクリーニングが困難な場合がある60−62).妊娠 20 週台
るとされる.すなわち,血管抵抗が増大すれば拡張末期
前半は胎児心臓の観察がもっとも容易な時期である.一
の血流が流れにくくなり,これらの値が増大する.拡張
方,半月弁の狭窄性疾患や房室弁の逆流性疾患では,妊
期血流の途絶や逆流が観察される場合には,予後不良な
娠後期に心臓の形態異常が明らかになってくることがあ
周産期事象が多くみられる.波形分析において考慮すべ
るため,妊娠 30 週以降に再検する事が望ましい.妊娠
き因子に,胎児心拍数,呼吸様運動をはじめとする
35 週を過ぎると胎児心臓の詳細な観察は難しくなる.
biophysical activity や測定部位などがあげられる.
(4) 胎児医療における評価法の限界と注意点
前述およびその他各種胎児評価法の普及は,周産期死
亡や脳性まひの減少に大きく貢献してきたが,適切な運
用にあたっては,negative predictive value は高いが,
3)観察のポイント
以下の手順により,系統的にスクリーニングを行う.
①腹部断面:胃泡の位置,下行大動脈および下大静
脈の観察
②四腔断面:心尖部の向き,心臓の大きさ(TCD=
positive predictive value は低く,偽陽性が多いという限
total cardiac dimension,CTAR=cardio thoracic area
界と問題点を理解しておく必要がある.Non Stress Test
ratio:図 5),心内形態(心房心室の左右のバラ
(NST),Contraction Stress Test(CST),Biophysical
ンス,中隔の形態,房室弁の形態,心室壁の厚さ),
profile(BPP)にて児の状態良好と判定したにもかかわ
らず,児死亡にいたるのは,各々 1.9∼6.45,0.3,0.65
% と報告されている .
57)
(5) 胎児心臓病のスクリーニング
房室弁逆流,肺静脈の形態と流速
③流出路断面:2 本の大血管の血管関係や大きさ
などの観察が必要である.四腔断面のみの観察では,診
断率が 50 % 以下にとどまるため,ハイリスク群のスク
リーニングとしては不十分である.また親の心疾患内容
両親が心疾患を有する場合,胎児が心疾患を持つ危険
に関わらず,心臓全体のスクリーニングが必要である.
性は明らかに増加するため(遺伝の項),先天性心疾患
胎児心奇形を有する場合心外奇形を合併する率が高く,
のハイリスク群として胎児心エコーによるスクリーニン
合併する心外奇形によって児の予後が大きく左右される
グ検査の適応と考えられている.ただし,わが国におい
事もあり,心臓以外の精査も必要である61−63).
て母体の保護を目的とした中期中絶が認められる胎児の
週齢は妊娠 22 週未満である.これ以前では,胎児心奇
形の診断の結果,妊娠を継続するか否かが重要な問題と
なることがあり,検査前に十分なインフォームド・コン
セントを行うことが極めて重要となる.
(6) 感染性心内膜炎とその予防
1)概 要
感染性心内膜炎の発症には 2 つの要因が関与する.心
臓もしくは血管に感染し易い部分があることと,菌血症
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1281
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
図5
正常の胎児心エコー図のシェーマ
上行大動脈
主肺動脈
上大静脈
左
左
右室
左室
右房
左房
下行大動脈
下行大動脈
四腔断面像
流出路断面像
図説 四腔断面像:心臓が胸廓やや左に存在し心尖部は左側を向く.
心臓は胸郭面積の約 1/3 を占める.左右の心房心室は同等の大きさである.
三血管断面像(流出路断面像)
:左前から右後ろにかけて 3 つの血管の断面が描出され,血管径は大,中,小の順番で 1 直線
に並ぶ.
を生ずる感染源の存在である.感染し易い病変は,高速
患である.僧帽弁閉鎖不全を合併した僧帽弁逸脱は,女
血流のもとで血流のジェットの衝撃の加わる部分,乱流,
性に頻度が高く重要である66,69)(レベル B).
ずり速度の速い部分で,無菌性心内膜炎ないしいわゆる
jet lesion の部位である.
留置カテーテルあるいは外科手術である 66−68)(レベル
感染リスクのある心疾患は,日本循環器学会,AHA
(American Heart Association)などのガイドラインで広く
報告されている(表 8)
一方,菌血症の感染源は,泌尿生殖器,出産,血管内
.それらは,心内膜炎の既
B).また,菌血症は,流産,経腟分娩,帝王切開いず
れでも起こる.
66−69)
往,チアノーゼ性先天性心疾患,大動脈肺動脈吻合術後,
人工弁などは合併症発生率,死亡率が高いハイリスク疾
表8
出産時心内膜炎感染予防を必要とする心疾患
1.特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い心
疾患で,予防が必要である患者
生体弁,同種弁を含む人工弁置換後
感染性心内膜炎の既往
チアノーゼ性先天性心疾患(未手術,姑息術,修復術
後)
体肺短絡術後
2.感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防が必要で
ある患者
多くの未修復先天性心疾患,術後遺残病変のある先天性
心疾患
後天性弁膜症
閉塞性肥大型心筋症
弁逆流をともなう僧帽弁逸脱
3.以下の病態では感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高
いとの証明はないが,予防を行う方がよいとの説もある
人工ペースメーカあるいは除細動器植込み後
長期にわたる中心静脈カテーテル留置 レベル B,文献 68
(文献 68 を改変)
1282
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
2)頻 度
心内膜炎が妊娠中あるいは出産後に発生することは少
ないが,時に経験される70).早期診断が重要であるにも
かかわらず,妊娠中の循環血液量増加のため,心内膜炎
による心不全,頻拍,動悸などの症状がマスクされるこ
とと発生頻度が低いため診断が遅れることが多い25).先
天性心疾患を対象とした我が国の全国調査71,72)では,妊
娠出産に合併した心内膜炎は認めていない.しかし,心
疾患全体を対象としたわが国での全国調査では,産科的
処置後の心内膜炎は 0.6 % に認められた73).
3)予後と治療
妊娠中あるいは出産後早期の心内膜炎発症は,母体,
胎児ともにリスクは高いと考えられるが,母体死亡率は
非妊娠時と同様である25,69,74).先天性心疾患での母体死
亡の主要原因は,肺高血圧と心内膜炎である75).
治療は,非妊娠時と同様で,起因菌の抗生物質感受性
に応じて使用する76).妊娠中は,薬剤の胎児移行,催奇
形性を考慮すべきである(表 9)25,35).溶連菌感染が多
いため,起因菌不明の場合は,アンピシリン(8∼10 g/
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
表9
妊娠中の抗生物質
1.妊婦への使用に関しては,適応症・禁忌事項を確認すること 2.適応外の場合,メリットとデメリットを十分に説明してインフォームド・コンセントを得ること.
抗生物質
禁忌の有無
副効果その他注意点
Penicillins
無
アレルギーが無ければ安全
Ampicillin
無
アレルギーが無ければ安全
Monolactamics
無
報告無し(Aztreonam など monocyclic βlactamic antibiotics)
Cephalosporins
無
報告無し(Cefsulodin は妊娠初期は禁忌)
Aminoglycosides
禁忌
安全性は証明されていない
聾と腎障害の症例がある
Lincomycin
無
母体への偽膜性腸炎のリスク
Macrolides
無
Erythromycin(Estolate)は妊婦への肝障害のリスク
Tetracyclines
禁忌
歯:無色素,エナメル質低形成,児の骨発達遅延,四肢低形成,母体の肝障害
Quinolones
禁忌
安全性は証明されていない;児の関節障害のリスク
Amoxicillin/Clavulanate
Potassium(合剤)
無
AMPC と Clavulanate potassium(β-lactamase inhibitor)合剤
副作用の報告は無い
Chloramphenicol
禁忌
12 週以前,28 週以後禁忌
Gray baby 症候群(妊娠後期使用の場合)
Trimethoprim/
Sulfamethoxazole
(合剤)
禁忌
12 週以前,28 週以後禁忌 Glucose-6PD 欠乏では溶血;葉酸代謝障害;
Kernicterus(妊娠後期使用の場合)
Sulfamids では動脈管開存,副腎低形成,口唇裂のリスク
Metronidazole
禁忌
口唇口蓋裂;四肢短縮
Vancomycin
禁忌
聴覚障害,腎障害のリスク
Fosfomycin
無
副作用の報告は無い
Nalidixic Acid
禁忌
Glucose-6PD 欠乏では溶血;動物で関節障害の報告;新生児頭蓋内高血圧
Nitrofurantoin
禁忌
安全性は証明されていない;Glucose-6PD欠乏では溶血
Antifungals
禁忌
臨床データは無い;AmphotericinB は腎毒性あり;5flucytosine及び Ketokonazole は動物で
腎障害,催奇形性の報告あり
Antivirals
禁忌
安全性は未証明;Ganciclovir は動物で発癌性
Isoniazid
禁忌
安全性は未証明;動物で催奇形性
Rifampicin
禁忌
安全性は未証明;動物で催奇形性;新生児で出血のリスク
(文献 35 から改変)
使用禁忌の有無については,利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合や,妊婦の生命が危険にさらされている場合など,個々
の状況,国の条件で変則的である.また,授乳中の使用についても統一性のないものがある.担当医の責任において十分に比較検討
したうえで使用・不使用を決定することが望ましい.
日を 4∼6 回に分割投与)とゲンタマイシン(60 mg 或
いは 1 mg/kg/日を 2∼3 回に分割投与)の併用が推奨さ
れる(抗生物質の使用方法については,文献 69 を参照).
4)予防(表 10)
AHA ガイドライン66)は,合併症のない経腟分娩には,
ペニシリンは安全だが,ゲンタマイシンは,胎児に聴覚
抗生物質での予防を必要としないが,感染が疑われる経
障害を生じる可能性があるため,2 週間以内の投与とし,
腟分娩は抗生物質の投与を推奨している.経腟分娩後の
血中濃度を測定することが推奨される68,69)(レベル B).
菌血症は 0∼5 % と低いが6)ハイリスク心疾患では,感
また,前期破水,感染徴候を認める場合は,敗血症に準
染を起こした時の重大性と抗生物質の費用を比較した場
じた抗生物質投与を行う.妊娠中の心内膜炎に対する心
合,抗生物質投与を否定する根拠はない25,67−69)(レベル
臓外科手術は,流産を生じやすく,慎重に考慮されるべ
C).妊娠時にもっとも頻度が高い起因菌は溶連菌で,
きである .
アモキシシリンの予防投与が推奨される66,68).しかし,
25)
ハイリスク疾患や感染合併のリスクの高い妊婦*での予
防には,アンピシリンとゲンタマイシンの併用を行う.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1283
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表 10
出産時の感染性心内膜炎予防法
特に重篤な心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患を対象とした予防法
対 象
抗 菌 薬
通常
アンピシリン+
ゲンタマイシン
アンピシリン/アモキ
シシリンにアレルギー
バンコマイシン+
ゲンタマイシン
投 与 方 法
アンピシリン 2.0 g とゲンタマイシン 1.5 mg/kg(120 mg を越えない)の筋
注または静注を処置前 30 分以内に併用.6 時間後にアンピシリン 1 g 筋注/
静注またはアモキシシリン1g経口投与
バンコマイシン 1.0 g 静注(1∼2 時間かけて)とゲンタマイシン 1.5 mg/kg
(120 mg を越えない)の筋注/静注を併用.処置前 30 分以内に投与を終了さ
せる
それ以外の場合の予防法
対 象
抗 菌 薬
投 与 方 法
2.0 g を処置I時間前に経口投与(体格に応じ減量可能)
経口投与可能
アモキシシリン
経口投与不能
アンピシリン
2.0 g を処置前 30 分以内に筋注/静注
アンピシリン/アモキ
シシリンにアレルギー
バンコマイシン
バンコマイシン 1.0 g 静注(1∼2 時間かけて).処置前 30 分以内に投与を終
了させる.
*早期破水,分娩が遷延した場合は,静注の反復投与も可能.(文献 68 を改変)
また,ペニシリンアレルギーの場合,バンコマイシンと
態が修飾される 1).この妊娠出産時変化に対する母体,
ゲンタマイシンの併用が推奨される68).
胎児の適応の程度は,母体の心疾患の重症度に応じて異
妊娠中の抗生剤の使用についての留意事項を表 10 に
なる.従って,心疾患母体の妊娠出産管理体制は,母体
の心疾患の重症度に大きく依存する.
まとめた.
クラスⅠの母体でも,心内膜炎発症の危険があるため,そ
の多くは,抗生物質の予防投与が必要である.
レベル B,文献 25
心疾患の多数を占める軽度心疾患の場合(心機能分類
クラスⅠ,表 1:総論,禁忌病態の項)は,一般の妊娠
と同様で妊娠出産リスクは低い(レベル B),妊娠出産
時の循環動態の変化に十分に対応が可能であり,循環器
科主治医のコンサルテーションを受けつつ,産科医が中
(7) 望ましい施設基準
心となり妊娠出産をすすめられる(心疾患を扱う専門病
心疾患婦人の妊娠出産では,背景となる心疾患の血行
動態に,妊娠による変化(総論 1)項参照)が加わり病
表 11
25,26,77)
院でなくとも管理可能である)
(レベル B).
中等症以上の心疾患(表 1:心機能分類クラスⅡ以上,
専門施設の施設基準35,75,77−81)(レベル B).
1.循環器科医(先天性心疾患の場合は循環器小児科医の場合もある)によるコンサルテーションが妊娠出産時を通じて容易に
得られる.
2.カテーテルインターベンション,心臓外科医による手術が行え,24 時間体制で心血管造影室,手術室が使用可能である.
(まれではあるが,妊娠中の病態悪化に対し,心臓血管手術,カテーテルインターベンションを緊急に行わざるを得ない場合
がある.)
3.麻酔科医が常駐(24 時間対応)し,中心静脈圧,動脈圧,肺動脈圧などの連続モニターが可能で,麻酔装置が常備されてい
る.さらに,緊急帝王切開,無痛分娩に対応できる.
4.臨床工学士の協力が常に得られ,人工呼吸器,人工心肺,IABP,経皮的心肺補助器を含む機器が常に使用可能である.
5.集中治療施設があり,各科医師,助産婦,産科病棟看護師の協力が得られる.
6.新生児科医が常駐し,出産に立ち会える.妊娠 22 週以降の病的新生児,未熟児管理が可能な NICU の存在.
7.人工妊娠中絶を安全に行える.
8.分娩待機室が完備されている.
9.重症の母体,胎児の状態を観察でき,必要に応じて入院管理が行える.
10.分娩室,分娩手術室を備えている.
11.心エコー(循環動態の変化を即時に的確に把握できる)が常時稼働できる.
12.ハイリスクの心疾患婦人の妊娠出産には,産科,循環器科,循環器小児科,麻酔科,新生児未熟児科,心臓血管外科,内科
関連各科,遺伝科,さらに,循環器疾患分野での経験のある看護師,コーメデイカルを含む総合したチーム医療を必要とす
ることが多い.
1284
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
チアノーゼ性疾患の修復術後など)では,妊娠出産時に
きくなって初めて発見されることがある.心房中隔欠損
心血管系合併症を生じる場合がある25,77,78).また胎児リ
症はシャント率が大きい例でも多くの場合,特に大きな
スクも高い
(レベル B).従って,中等症以上の心
合併症なく妊娠出産を終えることができるが,妊娠後期
疾患婦人で,妊娠出産時のリスクが高いことが予想され
に上室性不整脈が頻発したり,奇異性塞栓症を起こすこ
る場合は,計画的に妊娠する必要があり,妊娠後は心疾
とがある70).また急激な出血が起こった際には,末梢血
患を扱うことのできる専門施設で診療を受けることが推
管収縮のためにシャント血流が増加し,心拍出量が著し
奨される.
く低下,ショック状態や心室細動を惹き起こす可能性が
37,77,79)
以上から,望ましい施設基準として表 11 のようにま
とめられる
.
37,75,77−81)
リスクの高い妊娠の場合,妊娠出産を慎重に計画すべきで
ある.ハイリスク心疾患妊娠に精通している産科医,循環
器専門医,循環器小児科医,麻酔科医,新生児科医の協力
が得られる心臓専門施設での管理が必要である.リスクの
低い場合は,一般と同様に妊娠出産が可能であるが,感染
性心内膜炎予防が必要な場合が少なくない.
レベル B 文献 75,81
ある.心房中隔欠損症を有する妊婦が肺高血圧を合併す
る率は低いとされている83).時に僧帽弁前尖逸脱のため
に僧帽弁逆流を呈する例があるが,この場合にも妊娠出
産については大きな問題はないが,感染性心内膜炎の予
防は必要である.
①−2
心室中隔欠損症
小児期に心不全症状を示さず,左右短絡で,成人にま
で成長した例では妊娠出産によく耐える.基本的に左室
心疾患婦人の妊娠に関するガイドライン作成委員会の
容量負荷疾患であることから,妊娠末期になっても体血
全国調査では,26 % の施設で,チーム診療が行われて
管抵抗が下がるので不全を起こすことが少ない.短絡量
いた .今後,心疾患婦人の妊娠出産を扱う主要施設は,
の少ない例では妊娠中に循環血液量の増大とともに雑音
この様なチームを確立することが望まれるが,同一施設
が大きくなるが,血行動態的には大きな影響はない.漏
内でチームを確立できない場合でも,心疾患に精通した
斗部欠損例では大動脈弁直下に短絡血流が存在するた
専門各科に容易にコンサルト出来る体制を構築すること
め,隣接している大動脈弁右冠尖が次第に欠損孔に向か
が望ましい(レベル B).
って引き込まれ,その結果,右冠尖に変形が生じて大動
82)
脈弁逆流を呈する例がある[大動脈弁右冠尖逸脱=right
coronary cusp(RCC)prolapse].有意な大動脈弁閉鎖不
3
各 論
全の場合,心室中隔欠損症の病態を修飾することがある.
有意な大動脈弁閉鎖不全以外は,通常,負荷は軽度で妊
娠時の問題は少ないが,大動脈弁変形,大動脈弁閉鎖不
全は出産後も進行し手術適応と考えられるので,妊娠前
1
1 基礎心疾患別の病態
に手術を勧める事が望ましい.なお心室中隔欠損症でも,
出産時に大量出血を起こすと,心房中隔欠損症と同様,
(1) 先天性心疾患
①非手術例
ここでは非チアノーゼ性心疾患で手術が行われていな
末梢血管収縮のため短絡量が増えるので注意が必要であ
る.
高度の肺高血圧例では妊娠は禁忌である(Eisenmenger
症候群の項参照).
感染性心内膜炎の予防は必要である.
い例で,明らかな合併症のない単純疾患についてのべる.
肺高血圧合併(Eisenmenger 症候群),有意の不整脈合併,
その他の有意な心臓血管疾患合併の場合には,夫々の項
に述べる.
①−3
心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)
心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)は通常小児期に手
術される.しかし,1 次孔心房中隔欠損に僧帽弁裂隙を
合併する不完全型で肺高血圧もない例では,小児期を通
①−1
心房中隔欠損症
じて無症状で,妊娠を契機に発見されることがある.こ
心房中隔欠損症は成人先天性心疾患の中で最もよくみ
の場合の病態は心房中隔欠損症に僧帽弁閉鎖不全が合併
られるものである.成人になるまで診断されていなかっ
しているに過ぎず,多くの場合,妊娠,出産を通じて大
た例でも,妊娠のために心拍出量が増大し,心雑音が大
きな問題なく経過する.ただ,心房性不整脈の管理が必
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1285
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
要となることがある.肺高血圧合併例では,心室中隔欠
存しているので,出産時の出血による前負荷の低下でシ
損症におけると同様の管理が必要である.
ョックに陥ることがある.
僧帽弁閉鎖不全が心エコー検査上,明らかに認められ
二尖弁性の大動脈弁狭窄症では,大動脈縮窄や動脈管
開存症など他の奇形を合併している可能性もあり,注意
る例では,感染性心内膜炎の予防は必要である.
深く評価しなければならない.また二尖弁は大動脈嚢胞
①−4
性中膜壊死と関連があるとされており,妊娠 7 ヶ月目以
動脈管開存症
短絡が少量で肺動脈圧も正常の例では,何ら問題なく
降に大動脈解離が発生することがある89).妊娠中に大動
妊娠,出産を経過する.短絡量が多い例では妊娠経過と
脈弁置換術を試行した症例報告も散見されるが,母体,
ともにうっ血性心不全を呈する可能性があるため ,妊
胎児への影響は大きい90).
84)
娠前に経カテーテル的閉鎖術や手術治療を施行しておく
のが望ましい.
圧較差がない二尖弁症を含め,感染性心内膜炎の予防
は必要である.
肺高血圧例では妊娠そのものは禁忌である.さらに本
症では,肺動脈瘤が見られることがあり,まれに妊娠中,
(*註)Ross 手術:大動脈弁位に弁を含んだ自己の肺動脈基部
を移植し,肺動脈弁は通常生体組織弁を移植する.
産褥期に大動脈や肺動脈の解離,破裂をきたす例があ
①−6
る85).
肺動脈弁狭窄症
右室肥大を呈する.狭窄部圧較差が 50 mmHg 以上あ
感染性心内膜炎の予防は必要である.
れば治療の対象となる.本症では多くの場合心拍出量は
①−5
先天性大動脈弁狭窄症(ニ尖弁症を含む,弁膜
正常範囲に保たれており,無症状であったものが妊娠を
症の項も参照)
契機に心雑音や呼吸促迫で発見されることも多い.右室
妊婦の大動脈弁狭窄はほとんどが先天性二尖弁に伴う
機能不全症状を示すことはまれである.中等度までの肺
ものである86).予後は弁狭窄の重症度によって異なる.
動脈弁狭窄症は妊娠中も大きな問題になることはない.
軽度から中等度の狭窄では妊娠期間を通じてなんら合併
高度狭窄で症状の強い例では経皮的バルーン肺動脈弁形
症を起こすことなく経過する.
成術が考慮される.この際,放射線被曝に伴う器官形成
高度大動脈弁狭窄は,圧較差>40∼50 mmHg,弁口
面積<0.6∼0.7 cm /m ,著しい心肥大,左室機能低下のあ
2
2
異常を避けるため妊娠中期以降まで処置を遅らせるのが
望ましい.
る例である.これらでは妊娠の経過とともに循環血液量
と一回拍出量の増大のために弁間圧較差が増加する.こ
Ebstein 奇形
のことは左室の仕事量を増やし,肥大した左室心筋に相
Ebstein 奇形は三尖弁中隔尖または後尖(または両尖)
対的虚血を惹き起こし,狭心痛,左心不全,肺うっ血を
の心尖部側偏位による三尖弁逆流が主たる病態である.
きたすのみならず,時に突然死をきたすことすらある87).
この三尖弁閉鎖不全の程度と,右室機能,さらに心房中
高度大動脈弁狭窄症例では母体リスクが極めて高い.
隔欠損を合併している場合には右房から左房方向へのシ
従って,大動脈弁置換術(生体弁置換手術または Ross
ャントがもたらすチアノーゼが妊娠経過に影響する.ま
手術
や 経皮的バルーン大動脈弁形成術で狭窄を解
た,しばしば WPW 症候群を合併するため,発作性上室性
除してから妊娠するように勧めるべきである40).ただし
頻拍をみとめることが多く,頻拍性心房粗動からの失神
バルーンによる形成術は石灰化,変形の著しい弁には不
や心室細動を生じるリスクもある.これら条件において
適であり,また高度大動脈弁逆流を生じる可能性がある
軽症例ではほとんど合併症はみられないが,重症例では
ため,弁置換術の方が望ましい.万が一,弁狭窄未解除
右心不全,奇異性血栓塞栓症,心内膜炎,胎児側の低酸
例が妊娠した場合には,極めて注意深く経過を観察し,
素血症などがみられる.チアノーゼは妊娠して初めて気
症状の出現に注意を払い,心電図検査,心エコー検査を
づかれることがあるが,高度になると胎児リスクならび
繰り返して変化を把握しなければならない .妊娠前期
に母体リスクが増加する
(チアノーゼ性心疾患の項参照)
.
*註)
88)
に心症状が強く出た場合には人工妊娠中絶を考慮する.
1286
①−7
44 例の Ebstein 奇形の妊婦における 111 妊娠という多
心電図での新たな再分極(ST・T)変化の出現や,ドプ
数例報告91)によると生産児は 76 % で,そのうち 27 %
ラ法の一回拍出量の経時的増大が認められないと要注意
が早期産児であった.流死産は 19 例が自然,7 例が人
である.安静,β遮断薬などの加療が必要となる.なお
工で,2 例が新生児死亡した.出産は 11 % が帝王切開
高度大動脈弁狭窄症においては,心拍出量は前負荷に依
によるものであった.チアノーゼ母体からの児の出生時
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
体重は小さく,新生児の 4 % に先天性心疾患をみとめ
例は「肺高血圧」の項に従う.
た.しかし,母体死亡は無く,罹病率も低かった.
感染性心内膜炎の予防は必要である.
②−3
心室中隔欠損術後
遺残症や肺高血圧が無く心機能分類が良好であれば,
①−8
修正大血管転位(修正大血管転換)
妊娠によく耐容し,母体と胎児の予後は良好である84,94)
形態的右房が僧帽弁を介して形態的左室に結合,形態
(レベル B).妊娠前心機能分類Ⅱないしそれ以下の症例
的左房が三尖弁を介して形態的右室に結合し,大動脈は
では,心不全を合併することがある94).肺高血圧残存例
形態的右室から起始,肺動脈は形態的左室から起始する
は「肺高血圧」の項に従う.
疾患である.心室中隔欠損,肺動脈弁狭窄,肺動脈弁下
大動脈弁逆流が合併する場合,妊娠中の容量負荷増大
狭窄,Ebstein 奇形様の三尖弁異常を合併していること
により心不全が発症することもあるが,通常,妊娠中の
が多く,循環動態はこれら心内奇形及び体心室である右
末梢血管抵抗低下が有利に働くため,妊娠出産には比較
室機能に依存する.房室ブロック,発作性上室性頻拍な
的良く耐えられる96)(レベル B).大動脈弁逆流の悪化に
どの不整脈が多い.
対しては血管拡張剤が有効である96)が,ACE 阻害薬は
妊娠分娩は,心内奇形・異常が軽度,とくに三尖弁閉
胎児腎毒性の可能性があるため,妊娠中は禁忌である.
鎖不全が軽度以下であれば,母体と児双方へのリスクは
遺残短絡や大動脈弁逆流に対しては,分娩時の心内膜
少ない.しかし,体循環右室の機能不全,特に三尖(体
炎予防が必要である.
循環側房室)弁閉鎖不全の進行が問題となる例がある.
単冠動脈例での心筋虚血の報告もある.児の流死産は
20 % 前後で,これは心内奇形によるチアノーゼのある
例で多い
.
92,93)
妊娠分娩の管理は,弁疾患,心室中隔欠損,房室ブロ
ック,それぞれの管理に準ずる.心内奇形・異常が全く
②−4
動脈管開存閉鎖後
遺残症や肺高血圧が無く,心機能分類が良好であれば,
妊娠は一般と同様である94)(レベル B).コイル塞栓術後
も基本的に同じである.遺残短絡に対しては,分娩時の
心内膜炎予防が必要である.
無い場合には,感染性心内膜炎の予防は不要であるが,
そのような例は少ない.
② 非チアノーゼ性心疾患術後
②−1
概 要
非チアノーゼ性先天性心疾患術後は,良好に修復され,
②−5
心内膜床欠損(房室中隔欠損)術後
遺残症や肺高血圧症が無く,心機能分類が良好であれ
ば,妊娠によく耐容する84)(レベル B).遺残症(房室弁
逆流及び狭窄,左室流出路狭窄),不整脈(上室性頻脈,
完全房室ブロック),肺高血圧症等が問題となるため,
遺残症(特に肺高血圧)や続発症の程度が軽い場合は,
妊娠前の充分な心機能評価が必要である.内臓心房錯位
遺伝の問題を除けば一般と同様に妊娠出産,経腟分娩が
(Heterotaxia)*註)に合併した房室弁逆流は進行する可能
可能である36,84,94)(レベル B).
性が非合併例より高く,また,洞性徐脈,完全房室ブロ
軽度でも遺残短絡,弁逆流などの遺残症続発症を伴う
ック,上室性頻脈の発生率も高い97,98,99).従って,妊娠
場合は,分娩時の感染性心内膜炎予防が必要である(レ
中の心不全や不整脈の出現には注意を要する36).肺高血
ベル B).また,術後,中等度以上の遺残病変,続発病
圧残存例は「肺高血圧」の項に従う.
変があり,妊娠中に悪化することが予想される場合は,
悪化した房室弁逆流に対して抗心不全治療を行う場合
再手術,カテーテルインターベンションなどで,妊娠前
があるが,ACE 阻害薬の使用は胎児腎毒性の可能性か
に治療しておくことが推奨される.
ら禁忌となる.房室弁逆流に対しては,分娩時の心内膜
炎予防が必要である.
②−2
心房中隔欠損術後
妊娠によく耐容し,母体と胎児の予後は良好である84,94)
(レベル B).手術後でも妊娠時に不整脈を合併すること
がある94).成人期での手術例は小児期手術例に比べて心
(*註)無脾症(asplenia)あるいは右側相同(right isomerism)
,
多脾症(polysplenia)または左側相同(left isomerism)と
呼ばれる,内臓位置異常と心臓血管異常合併の症候群で
ある.胸腹部内臓および心臓大血管の通常の左右関係が
崩れる(錯綜する)ためにこの用語となっている.
不全や不整脈の頻度が高い95)ため,妊娠時には注意が必
要である.房室弁逆流を伴う僧帽弁逸脱に対しては,分
娩時の心内膜炎予防が必要である.なお,肺高血圧残存
②−6
肺動脈弁狭窄術後
重度の弁狭窄残存や再狭窄の頻度は低く,心機能分類
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1287
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
が良好であれば妊娠出産にはよく耐容する 94)(レベル
B).
有意な狭窄が残存している例では,妊娠前にカテーテ
ル治療を考慮する.また,これらでは分娩時の心内膜炎
予防が必要である.
分娩時の心内膜炎予防が必要である.
③チアノーゼ性心疾患術後
③−1
概 要
内科外科治療の発達とともに,チアノーゼ性先天性心
疾患修復術後患者も妊娠年齢に到達し,ファロー四徴修
②−7
大動脈弁狭窄術後
復術後だけではなく,完全大血管転位術後,フォンタン
Konno 手術後は人工弁置換術後に準じる.
手術後など複合型先天性心疾患に対する術後患者の妊娠
Ross 手術
出産も行われるようになった.感染性心内膜炎予防が必
(註)
後は,大動脈二尖弁や大動脈縮窄と同様
に,妊娠による大動脈壁組織の変化が元来の壁異常を助
長するため,大動脈拡張の進行に注意を要する
要である.
.ま
21,100)
た,Ross 手術は自己組織の置換であるが,右室流出路
は人工物を使用するため,分娩時の心内膜炎予防が必要
③−2
ファロー四徴術後
修復されている場合の多くは,妊娠出産が可能であ
る103,104)(レベル B).妊娠出産のリスクは,心機能,遺
である(レベル B).
(註)Ross 手術:大動脈弁位に弁を含んだ自己の肺動脈基部を
移植し,肺動脈弁は通常生体組織弁を移植する.
残症,続発症の程度と循環動態の良否に左右される.
軽度から中等度の肺動脈狭窄,閉鎖不全の合併は,そ
れ以外に循環動態に大きな異常がない場合,妊娠出産リ
②−8
Ebstein 奇形術後
スクは一般の妊娠に近い.しかし,高度右室流出路狭窄
右心機能が悪く,右室拍出量が少ないため,妊娠中の
遺残,高度肺動脈弁閉鎖不全(三尖弁閉鎖不全を伴うこ
容量負荷時に右房拡張を生じ,上室性不整脈を伴うリス
とが多い),右室機能不全を伴う場合は,妊娠による容
クがある.生体弁による三尖弁置換術後では(人工弁に
量負荷が加わると,右心不全の増強,上室性頻拍,心室
ついては別項を参照),容量負荷増大により弁機能の低
性頻拍を生じることがある 99,105,106).心内膜炎の予防が
下や右心不全悪化が起こることがある.WPW 症候群に
重要である(レベル B).
よる上室性頻脈も心不全を増悪させる.妊娠前の心機能
妊娠危険因子は,遺残心室中隔欠損,中等度以上の肺
分類が良好であれば,妊娠に耐容する (レベル B).母
動脈弁狭窄・閉鎖不全, 中等度以上の大動脈弁閉鎖不全,
体の心合併症は少ないが,流早産率が高いとされる91).
大動脈拡張(直径 40 mm 以上),右心機能不全(心胸郭
危険率は低いが,分娩時の心内膜炎予防が必要である.
比:60 % 以上),左室機能不全(駆出率:40 % 以下),
91)
頻拍型不整脈の既往である25,106)(レベル B).また,肺
②−9
修正大血管転位術後
高血圧合併ではリスクは非常に高い.妊娠前に心機能と
修正大血管転位は体心室が形態学的右室であり,その
心室の房室弁である三尖弁は Ebstein 様形態異常を伴う
ある.
ことが多い.右室機能低下が年齢とともに現れ,三尖弁
胎児リスクはやや高く,一般と比べると,流産率が少
逆流の出現増悪が心機能低下を増悪させる .完全房室
なくとも 2 倍である106)(レベル C)
.また,22 q11 deletion
ブロックの合併も頻度が高い101).
syndrome は 50 % の再発危険率のため,合併の有無を検
92)
手術は心内合併奇形による.単なる心室中隔欠損閉鎖,
右側心室(形態的左室)肺動脈間に心外導管を使うラス
テリ手術,三尖弁置換術などである.房室ブロックには
ペースメーカ植込みもある.
原則的に,妊娠前の心機能分類が良好であれば,妊娠
によく耐容する 92,93).三尖弁置換術後は「弁置換術後の
項」,ペースメーカ植込みは「不整脈の項」に従う.最
近は,一部の症例に,従来の修復方法と異なり,左室を
体心室とする double switch 手術が行われている102).こ
の術式は,妊娠時の容量負荷に充分耐えうると考えられ
るが,現時点で出産経験は報告がない.
1288
右室流出路狭窄,肺動脈弁閉鎖不全の評価を行うべきで
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
索する必要がある25).この点に関しては,総論の遺伝カ
ウンセリングの項を参照されたい.
多くの場合は良好に修復されているため,妊娠出産リスク
は一般妊娠に近い.妊娠出産危険因子は高度肺動脈弁閉鎖
不全による右室機能不全,左室機能不全,肺高血圧で,心
不全の増悪,頻拍型不整脈を伴うことがある.高度の右室
流出路狭窄を伴う場合は,妊娠前に手術治療を行うべきで
ある.
レベル B,文献.25,103,104
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
③−3
フォンタン(Fontan)手術後
フォンタン手術は機能的修復術であり,全身への血流
③−4
完全大血管転位修復術後
心房位転換手術後(マスタード術あるいはセニング術
を駆出する体心室はあるが肺血流を駆出する肺動脈心室
後)で,体心室機能が良好で,遺残病変が軽度の場合は,
は無く,右房あるいは体静脈が肺動脈への通路となる.
妊娠リスクは高くはない108―112)(レベル B).心房位転換
チアノーゼは,無いか軽度残存する.中心静脈圧は高く,
手術は,右房血流と左房血流を転換し右室が体心室をに
容量負荷に対応する予備能が低い.上室性頻拍が起こり
なうため,右室が後負荷(体血圧)に加え妊娠時の容量
やすく,また頻拍に対する耐容能が低い.さらに,凝固
負荷に耐えうるかが妊娠リスクを決める.右室(体心室)
能が亢進している .この病態は極めて特殊なので,経
機能,遺残肺高血圧,洞調律維持の有無,不整脈が妊娠
過中を通して Fontan 循環に知識のある専門医との密な
出産危険因子である25)(レベル C).妊娠中,出産後に右
連携が特に望まれる.
室機能不全(約 10∼25 %),三尖弁逆流増大,心房細動
25)
まず,妊娠前に,妊娠可能かどうかの評価を十分に行
を含む上室性頻拍(数 %), 洞機能不全が起こることが
い,妊娠継続による合併症が少なくないこと,生産児を
ある 108−110)(レベル B).胎児生命予後は良好であるが,
得られる可能性が有意に低いこと,出産後も育児を十分
早産,低出生体重児がやや多い108−112)(レベル B).ACE
に行えない可能性があることを患者とその夫および家族
阻害薬は,重篤な胎児腎障害を生じるため(抗心不全治
と十分に話し合う必要がある25).
療:慢性,および表 35 を参照),妊娠前に中止してお
妊娠中,特に妊娠後期は心室,心房の容量負荷が増大
くべきである25).
し,凝固能も亢進するため,上室性頻拍,体心室房室弁
動脈位変換手術後(ジャテン手術)は,心機能はよく,
逆流の増悪,心不全,血栓を生じやすく母児ともにリス
不整脈も比較的少ないが,肺動脈狭窄,肺動脈閉鎖不全,
クが高い(表 12)107)(レベル C).NYHA 分類Ⅰ∼Ⅱ度
大動脈弁閉鎖不全,冠動脈狭窄,閉塞による虚血性病変
(表 1)で,心機能が良好で洞調律が保たれている場合
は,妊娠出産は可能である25).しかし,この条件を満た
が危険因子となる可能性がある.しかし,歴史が浅く,
未だ妊娠出産の報告を見ない.
す例は多くはない.妊娠中は,静脈および心内血栓,心
ラステリ手術後の妊娠出産は少ないが増加傾向にあ
機能悪化,不整脈,酸素飽和度低下,血圧変動に十分に
る.心機能がよく,右室流出路狭窄が高度でない場合は,
注意する必要がある25)(レベル C).ワーファリン,アミ
妊娠出産のリスクは高くない.右室流出路狭窄が高度の
オダロンを使用している場合は,催奇形性があるため,
場合は,右室機能不全,心室頻拍,心房細動を含む上室
妊娠初期 3 ヶ月は,中止或いは他剤に変更する.妊娠出
性頻拍を生じる可能性が高く,妊娠前に再手術による修
産可能な条件を満たしている母体でも,妊娠出産で重大
復が推奨される.高度の肺動脈弁(導管)逆流,心室性
な合併症を生じる可能性があり,流産を高頻度に認める
不整脈の出現,左室流出路狭窄の有無にも注意を要する.
(抗凝固・血小板療法の項参照).
妊娠前に右室流出路導管機能(狭窄・逆流),肺高血圧,
分娩時には十分な補液,および出血に対しては必要量
右室機能,左室流出路形態ならびに不整脈の評価を十分
の輸血を迅速に行い,必要に応じて出口鉗子を用い分娩
に行う必要がある25).心内膜炎予防が非常に重要である
第Ⅱ期を短縮する必要がある.児娩出直後の急激な血行
動態の変化に注意し,疼痛管理も十分に行う.また,血
栓症予防のための弾性ソックスを着用し,分娩後の出血
を観察しながら,抗凝固・抗血小板療法を考慮する.低
アルブミン血症にも注意する.
表 12
Fontan 術後の妊娠中に発生或いは悪化の可能性がある心血管合併症
体静脈うっ血
体心室機能悪化
房室弁逆流増加
上室性頻拍
血栓塞栓
奇異性血栓(心房中隔欠損を作成してある fenestrated
Fontan の場合)
レベル B,文献 25,107
(レベル C).
④チアノーゼ性心疾患およびチアノーゼ残存例
④−1
二つの病態
妊娠出産の適応,管理の違いから,肺動脈閉鎖,肺動
脈狭窄を伴うチアノーゼ性先天性心疾患(ファロー四徴,
完全大血管転位,総動脈幹,単心室,三尖弁閉鎖など)
と Eisenmenger 症候群(心室中隔欠損,心房中隔欠損,
動脈管開存或いはチアノーゼ性先天性心疾患に合併する
非可逆的肺血管閉塞性病変)に分けられる.チアノーゼ
の程度に依存するが,妊娠出産に伴う胎児リスクが高い.
肺高血圧群は非肺高血圧群と比べると母体リスクが非常
に高い25).
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1289
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
④−2
肺高血圧のないチアノーゼ性先天性心疾患の妊
に加え,妊娠後期 3 ヶ月から出産後 1 ヶ月は抗凝固療法
娠出産
を行うことがある79)(レベル C).循環動態が不安定な場
妊娠出産に伴う母体の心血管系合併症を約 30 % に認
合は帝王切開を行う79).妊娠後期から出産時は,経皮酸
める 113−115).チアノーゼの程度に依存するが,生産児を
素飽和度モニターを行う.経腟分娩の際は,無痛分娩が
得られる確率は低い(表 13).
推奨される25).
表 13
チアノーゼ性先天性心疾患母体及び胎児に起こりうる状態
感染性心内膜炎のハイリスク患者であるため,周産期
には抗生物質療法を行う79)(レベル B).
母体
心機能低下,心不全
出血,脱水
血栓塞栓形成,奇異性血栓
チアノーゼ増強
胎児
流産,死産,低出生体重,早期産
レベル B 文献 113−115
④−3
肺高血圧を伴うチアノーゼ性先天性心疾患
チアノーゼおよび肺血管閉塞性病変の程度によるが,
妊娠出産のリスクは高い.肺動脈圧/体血圧比が 2/3 以
上の肺高血圧は,母体死亡の可能性が高い79).
Eisenmenger 症候群については次項に記述する.
(2) 肺高血圧
④−2−1
母体リスク
妊娠中は,体血管抵抗が低下し,右左短絡が増加する
①概 要
ため.チアノーゼは増強し,その程度が強ければ全身症
肺高血圧は種々の原因で起こり(表 14),肺血管抵抗
状が悪化する .心予備能が低いため,妊娠中の容量負
が高い値で固定されている.このため妊娠に際しては,
荷,出産時の急激な循環動態変動に対応できず,心機能
右室が肺循環へ十分な量の血液を駆出できないこと,短
低下,既存の房室弁閉鎖不全の悪化,心不全の悪化をみ
絡孔があれば右左短絡を生じて低酸素血症となることが
ることがしばしばある.しかし,妊娠,出産による母体
問題となる.ことに循環血液量が増大する妊娠中期以降
死亡は少ない113−115)(レベル B).凝固因子異常,血小板
に問題が発生することが多く,いずれの原因でも妊娠,
減少,血小板機能異常などの出血凝固系異常,さらに末
出産のリスクは高くなる116,117).
79)
梢血管拡張,増生を伴うため,分娩時に大量出血を生じ
尚,日本循環器学会学術委員会ガイドライン作成「肺
やすい79)(レベル B).一方,妊娠後期の凝固機能亢進に
高血圧症治療ガイドライン」(改訂版 2006 年)の妊娠の
より肺梗塞,脳血栓を生じることがある.深部静脈血栓
項も参考にすること.
は,これらの原因となる .しかし,妊娠後期の抗凝固
79)
薬使用の適否に関しては定説がない.
④−2−2
胎児リスク
胎児リスクは非常に高く,自然流産,死産,早産,低
出生体重が多い113−115)(レベル B).高度チアノーゼでは,
胎児の発育は阻害され(生産児を得られる確率は酸素飽
和度85 % 以下では12 % とされる),妊娠初期 3 ヶ月で
の流産が多い113−115)(レベル B).しかし,胎児リスクは
チアノーゼの程度だけではなく,本来母体が持っている
表 14
肺高血圧をきたす疾患
特発性動脈性肺高血圧
多発性末梢性肺動脈狭窄 自己免疫疾患
SLE,混合性結合組織病,全身性強皮症,シェーグレン症
候群,関節リウマチ
心室中隔欠損症,心房中隔欠損症修復後の残存肺高血圧
Eisenmenger 症候群
動脈炎
慢性肺動脈血栓塞栓症(遺伝性凝固異常を伴う)
心疾患の重症度,心機能(心拍出量)にも依存する.
④−2−3
母体の妊娠出産時の管理
左室,右室機能,肺動脈圧,心機能分類を妊娠前に十
分評価する.心機能が悪く(駆出率=40 % 以下),チア
原発性肺高血圧症では右室からの血液駆出が制限され
ノーゼが高度(経皮的動脈血酸素飽和度=85 % 以下)
ており,心拍出量が心拍数に依存し,体血圧は体血管抵
の場合は,母児ともにリスクが高いため,当初から避妊
抗に依存する.妊娠時には循環血液量が増加し,また体
するか,或いは早期の人工流産が勧められる
血管抵抗が低下するが,原発性肺高血圧症ではこれらの
(レベ
25,114)
ル B).
周産期の血栓塞栓発生予防として,脱水の予防,補正
1290
②原発性肺高血圧
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
変化に適応できず,新しく症状が出現したり,全身状態
が悪化したりする.母体死亡率が 50 % を越える35)が,
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
死亡の多くは,出産時の急激な循環動態の変化に適応で
ため,出産時の多量出血により,血圧低下,酸素飽和度
きず,急速な右心不全或いは全身状態の悪化により出産
低下を生じ,失神を招くことがある120).また,肺血栓と
後数時間から数日以内に認められる.その後も死亡の報
同時に,肺出血を伴うこともある120).母体死亡は,主に
告があるので,出産後最低 2 週間は入院管理し,全身状
出産後数日以内から 1 ヶ月以内に起こる118,119).死亡原
態,血行動態の厳重な監視を行う .
因は,肺動脈血栓,出産時多量出血による循環血液量減
79)
低心拍出,低酸素血症は胎児に対する危険要因ともな
る.従って原発性肺高血圧症例の妊娠は禁忌である.万
一,妊娠しても中絶を勧めるべきである
少,チアノーゼの急激な増悪などである118).帝王切開は,
経腟分娩と比べ死亡率が高いが119),優劣は明らかでない
.(レベル B)
(レベル B).流産,未熟児産,死産の頻度が高く,これ
諸般の事情により妊娠を継続せざるを得ない例では,
はチアノーゼの重症度とも関連する(チアノーゼ性心疾
118)
入院の上,酸素吸入のもと高度の安静を保たせ,右室不
患の項参照)119,120).
全,体動時の血圧低下,失神,低酸素症の進展等に十分
注意を払う.また胎児に対する危険性を了解した上で,
④―3
ることを考えるが,出産時の出血により容易に血圧低下
さらには心停止になる可能性を認識しておく.
Eisenmenger 症候群で妊娠継続をする場合の対
応(表 15)
抗凝固療法が必要となる.早期に帝王切開で児を娩出す
妊娠継続を希望する場合は,妊娠 20 週以降は入院し
安静を保ち,脱水の予防,補正,呼吸困難時は酸素投与
を行う.周産期には,ヘパリン,継続酸素投与を行う.
③術後残存肺高血圧
出産時は,経皮酸素,心拍をモニターし,無痛分娩,集
小児期に心室中隔欠損症などの短絡疾患に対して心内
中治療室管理とする79)(レベル C).帝王切開を行う場合
修復術を行った例で,妊娠を契機に肺高血圧と診断され
は,麻酔時の体血管抵抗低下を避け,できる限り循環動
る例がある.従って小児期心内修復術後例でも,安心せ
態を一定に保つ122,123).多量出血,血圧低下は致死的とな
ず,妊娠を考慮する年齢になれば一度は心エコー法によ
るので早急に補正する.死亡例は広範な肺動脈血栓を認
る精査を受けておく方がよい.
めることが多い.抗凝固療法の適否について一定の見解
心内修復術後の残存肺高血圧例の妊娠中の経過はさま
が無いが,施行する場合は,妊娠 20 週からヘパリンを
ざまである.中等度の肺高血圧で状態が安定しており,
投与し,出産直前に中止,さらに,出産後再開する119,120).
また症状もない例では特に問題なく妊娠を経過すること
しかし,元来,出血傾向の強い Eisenmenger 症候群での
が多い.高度の肺高血圧例で,症状がある例では原発性
ヘパリン投与は厳重な管理を要する120).出産後最低 2 週
肺高血圧例と同じく母児に対する危険性が高くなる.
間は入院管理し,全身状態,血行動態の厳重な監視を行
う79).周産期の一酸化窒素使用は有効性が認められてい
④Eisenmenger 症候群
④−1
ない.
概 要
母児ともに極めてリスクが高く,妊娠を続行した場合
の母体死亡率は 30∼70 %118,119)で,出産後数日∼1 ヶ月
以内に死の転帰をとることが多い.胎児死亡率も 50 %
前後と高い118,120)(レベル B).このため,Eisenmenger 症
候群での妊娠は避けるべきである.妊娠した場合も,早
期に人工妊娠中絶がすすめられる121).妊娠年齢に達した
婦人は,早い時期から避妊を指導することが強く推奨さ
れる79)(レベル B).
④−2
妊娠出産時の病態
Eisenmenger 症候群は,チアノーゼ性先天性心疾患と
表 15
Eisenmenger 症候群で妊娠継続する場合の注意点
1.妊娠 20 週以降は入院管理,出産後も 2 週間は入院管理
2.酸素投与
3.強心剤,利尿剤投与(心不全合併時)
4.出産時の心拍,動脈圧,酸素飽和度,ヘマトクリットの
監視
5.出血,血圧低下による循環動態変化に対する的確な対応
抗凝固薬の使用(使用の可否につき定説は無い),脱水
の予防,早期補正.
レベル C,文献 79,122,123
⑤多発性末梢性肺動脈狭窄
同様に妊娠中にチアノーゼ増強を認める.出血傾向とと
単独例は先天性心疾患の 5 % 以下である.全身性疾
もに,広範な肺血栓を生じることがある .肺血管閉塞
患,症候群(高安病,大動脈炎症候群,先天性風疹症候
性病変を伴い肺血管抵抗が固定しているため,出産時の
群,大動脈弁上狭窄症候群(Williams 症候群),Alagille
急激な循環動態変化に対し適応が困難である79,118).この
症候群,Noonan 症候群など)の部分症,先天性心疾患
78)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1291
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
と合併して認められることが多い.主肺動脈から末梢に
かけて生じるが,多くは多発性である124).血管性狭窄で
あり,内膜の線維増生,中膜低形成,弾性線維の消失が
認められる124).狭窄近位側で収縮期圧が上昇し,脈圧が
広がる.肺動脈圧は狭窄程度による.狭窄遠位側血圧は
(3) 弁膜症および人工弁使用患者
①弁膜症患者
①−1
はじめに
正常である.単独例の臨床所見は息切れ,易疲労感など
弁膜症患者の妊娠に関しては,エビデンスレベルの高
であるが,長期にわたる労作時呼吸困難,呼吸促迫を主
いランダム化比較研究はなく,症例報告または観察研究
症状とすることも多い.肺血流シンチでの肺血流分布の
の報告があるのみで,ACC/AHA task force の弁膜症の
mismatch を特徴とする
ガイドライン38)およびスペイン心臓病学会の心疾患の妊
.進行性の呼吸困難を訴え,
125)
肺動脈圧が高く,血流の mismatch がある場合,慢性肺
娠ガイドライン35)の中に記載がある.
血栓閉塞とされ,治療されている場合がある.肺血栓と
妊娠中は生理的に循環血漿量が 40∼50 % 増加し,心
の鑑別が必要である.肺血管造影,MRI,ヘリカル CT
拍出量も増加し,心拍数も 10∼20/分増加する.また,
などにて肺動脈狭窄病変の確定診断を得る124,126).
これらの変化は妊娠第 1 期から徐々に始まる.また,総
.末梢肺動脈狭窄は肺
論に述べたように,妊娠中にはエストロゲンやエラスタ
高血圧を伴うが,肺血管閉塞性病変ではなく,狭窄遠位
妊娠出産の報告は少ない
ーゼの影響で血管壁の構造にも明らかな変化が生じ,そ
部の肺動脈圧は正常で,原発性肺高血圧とは異なる.妊
の脆弱性が増す.一方,娩出中は子宮が収縮し,血圧も
娠リスクは,肺動脈弁,弁上狭窄に類似する.今までの
上昇するなど循環器系へ与える影響も大きい(第 1 章総
報告例は,妊娠出産に大きな問題なく,出生児も正常で
論参照).これらの影響は,逆流症か狭窄症か,またど
あった.しかし,中等度以上の右室圧(主肺動脈圧>50
の弁であるかにより異なってくる.
127,128)
mmHg)を伴う場合は,右心不全が悪化する可能性があ
り,注意深い観察を要する.症状を伴ない高度の右室圧
上昇を認める場合は,バルーンカテーテルにより妊娠前
に狭窄を軽減できる場合もある124,129).
⑥全身疾患の合併症としての肺高血圧
SLE や混合性結合組織病,全身性強皮症,シェーグ
レン症候群,関節リウマチ等の膠原病は妊娠可能年齢の
女性を侵し,肺高血圧を生じうる.ことに SLE ではその
①−2
概 要
可能な限り,妊娠前に心エコーなどで十分に患者の弁
膜症の状態を評価しておくべきである.血行動態,肺高
血圧症の程度,弁の状態などの評価は必須である.さら
に現病歴の聴取で患者の運動能力,心不全の病歴の有無,
随伴する不整脈の状態について詳しく聞くことが必要で
ある.
一般に,重症大動脈弁狭窄,大動脈弁または僧帽弁逆
14 % に肺高血圧を合併しているという報告もある 130).
流で NYHAⅢまたはⅣ度,僧帽弁狭窄症で明らかな症
肺高血圧妊婦をみたときには膠原病の可能性も考えて検
状のあるもの,肺高血圧(体血圧の 75 % 以上),左室
索しなければならない.
駆出率<40 %,人工弁患者,マルファン症候群に伴う
大動脈炎症候群やその他の炎症性の動脈炎でも肺動脈
大動脈弁逆流は,妊娠出産における母体と胎児双方にリ
の分枝に狭窄を生じることにより肺高血圧を来すが,原
スクが高いとされる35,38).上に述べた以外では,比較的
発性のものほどその程度は高度ではない.一般に原発性
安全とされている(表 16).
肺高血圧よりも太い肺動脈が侵され,しばしば喀血が問
基本的な治療としては,安静,仰臥位(supine
題になる.妊娠継続の可否については,肺高血圧の程度,
position)の回避を忘れてはならない.通常の経腟分娩
心機能,他の血管病変の程度に応じて個々の症例によっ
や帝王切開の場合,細菌性(感染性)心内膜炎に対する
て考えなければならない.
抗生物質の予防投与は AHA ガイドライン上必須ではな
妊婦が慢性肺動脈血栓塞栓症を合併している場合には
いが,いまだエビデンスは不十分であり不確実な場合は
何らかの凝固異常のある可能性を考えた方がよい.従っ
抗生物質の予防投与が薦められる(感染性心内膜炎の項
て,血栓塞栓症の既往を調べるとともに,アンチトロン
参照).
ビン III,プロテイン S,プロテイン C 欠損症や抗カルジ
①−2−1
オリピン抗体症候群,悪性腫瘍の可能性も考慮する.ま
た遺伝的要因を知るために,家族歴の聴取が必要である.
リウマチ性僧帽弁狭窄症
弁口面積<1.5 cm2,または,NYHA の心機能分類の
悪い例は高リスクであり,NYHA classⅣでは母体の死
亡率 30 % との報告がある131).
1292
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
表 16
母児のリスクから分類した妊娠と弁膜症ガイドライン
母児ともに低リスク
母児ともに高リスク
大動脈狭窄
無症候性
左室機能正常
収縮期圧較差<40∼50 mmHg
高度狭窄:収縮期圧較差>40∼50 mmHg
左室機能低下
大動脈弁閉鎖不全
NYHAⅠ度またはⅡ度
左室機能正常
NYHAⅢ度以上
左室機能低下
僧帽弁閉鎖不全
NYHAⅠ度またはⅡ度
左室機能正常
NYHAⅢ度以上
左室機能低下
僧帽弁狭窄
NYHAⅠ度またはⅡ度
軽度∼中等度
弁口面積>1.5 cm2
圧較差<5 mmHg
肺高血症の無いもの
NYHAⅢ度以上
高度狭窄
弁口面積<1.5 cm2
圧較差>5 mmHg
肺高血圧(75 % 以上)
母体への高リスク
左室機能低下(LVEF<40 %)
心不全の既往
妊娠中の抗凝固療法
脳塞栓症の既往
一過性脳虚血性発作(TIA)の既往
児への高リスク
母親の年齢<20 歳,または>35 歳
妊娠中の抗凝固療法
妊娠中の喫煙,飲酒,その他環境因子への暴露(遺伝カウンセリングの項,表 5,6)
(米国 ACC/AHA ガイドラインを改変)
軽症で症状が比較的軽い場合は利尿剤を中心とした内
は硬膜外麻酔による分娩が薦められる.さらに分娩前よ
科的治療を行う.また,塩分制限や安静も必要である.
りスワンガンツカテーテルを挿入し,血行動態をモニタ
心拍数を減少させるためにβ遮断薬の使用も考慮され
リングすることが推奨される134).
る
.ただし,β遮断薬は,胎児の胎内発育遅延,徐脈,
132)
低血糖,子宮収縮を起こす可能性が危惧されるため,そ
の適応は慎重に判断し,もし使用する場合には可能な限
感染性心内膜炎の予防が推奨される.
①−2−2
僧帽弁閉鎖不全症
現在,妊娠可能年齢の女性の僧帽弁逆流症の多くは僧
帽弁逸脱症が原因である.逆流症の場合,体血管抵抗の
りそれらをモニターする.
妊娠前から心房細動がある患者の場合は,全身性血栓
減少により,多くの場合に妊娠に適応可能である.症候
塞栓症のリスクが高いため,抗凝固療法を妊娠前から妊
性の僧帽弁逆流症患者で逆流の原因が僧帽弁逸脱症の場
娠全期間を通して行う必要がある(妊娠中の抗凝固療法
合,僧帽弁形成術によって改善することも多いので,妊
に関しては人工弁と妊娠の章を参照のこと).妊娠して
娠前に手術を受けることを奨める.
はじめて心房細動に移行した場合は,頻拍にならないよ
肺うっ血などの症状があれば,利尿剤を投与し,高血
うにレートコントロールの目的でβ遮断薬またはジゴキ
圧があればヒドララジンで対処する.ACE 阻害薬は催
シンが用いられる.洞調律への復帰が期待されるときに
奇形性があり,用いない135).腱索断裂による急性増悪の
は,プロカインアミドが用いられる133).効果が無い場合
場合には緊急手術による腱索修復が必要である.
には,電気的除細動を行う.
感染性心内膜炎の予防が推奨される.
中等度以上の狭窄の場合(弁口面積<1.0 cm ),弁病
2
変の形態が適しているならば,妊娠前に僧帽弁のバルー
①−2−3
(1)先天性心疾患①―5
ン形成術(もしくは手術による交連切開術)を考慮する.
参照
妊娠中に僧帽弁狭窄が進行した例でのバルーン形成術の
①−2−4
報告もある.
高リスク症例の場合,抗凝固療法を行っていない場合
大動脈弁狭窄症
先天性大動脈弁狭窄症の項
大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症の原因には,マルファン症候群に
よる弁輪拡大,先天性二尖弁,感染性心内膜炎による弁
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1293
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
破壊などがある.妊娠にともない全身血管抵抗が減少す
対する催奇形性の問題より奨められない.ワーファリン
るため,無症状の大動脈弁閉鎖不全は多くの場合対応で
は分子量が小さく胎盤通過性があり137−139),FDA の妊娠
きる.薬物治療としては,利尿剤やヒドララジンなどの
時における薬剤使用のカテゴリー(表 17)では「D」
血管拡張剤が用いられる.ACE 阻害薬は妊娠中には用
いるべきでない135).
(妊娠時のリスクありのエビデンスあり)に分類されて
いる.(レベル C)
左室機能の低下している大動脈弁閉鎖不全症の場合は,
②−2−1(1)ワーファリンの催奇形性
妊娠のリスクは高まる.マルファン症候群の場合,妊娠
妊娠初期(6∼9 週間)の期間に母体にワーファリン
中に急な大動脈解離を生じることもあるので妊娠継続に
が投与されると,胎児に対する催奇形性があることが知
は慎重な判断が必要である(Marfan 症候群の項参照)
.
られている.最も多い奇形は,骨形成,軟骨形成の異常
である.次に多いのは,脳神経の発達の異常で,小脳症
感染性心内膜炎の予防が推奨される.
①−2−5
などがある.催奇形性は用量依存性と言われ,一日量 5
肺動脈弁狭窄症
無症状の肺動脈弁狭窄症の場合,妊娠・出産は通常可
mg 以下ではそれを含め全体のリスクが少ないとされて
能である.狭窄程度の増悪のため妊娠中にバルーン弁形
いる140,141).催奇形の危険率の高さについては一定して
成術が施行された報告がある.
いない.
感染性心内膜炎の予防が推奨される.
②−2−1(2)胎児の出血性合併症
胎児は酵素系とビタミン K 依存性凝固因子が未発達
②抗凝固・抗血小板療法
②−1
のため,母親よりもワーファリンの影響が容易に出現す
概要
る.このため,34∼36 週目までにはワーファリンの投
妊娠時の抗血栓療法は,母体のみならず児への影響も
与は中止し,ヘパリンの点滴静注で抗血栓療法を行いな
考慮する必要があり,その実施に当たっては十分なイン
がら,娩出中の胎児出血死を予防するため帝王切開で分
フォームド・コンセントを得る必要がある.機械弁によ
娩するべきである142).
る弁置換術を受けた患者の場合には生涯にわたる抗血栓
②−2−1(3)母乳栄養児への影響
療法が必要であるが,妊娠中も例外ではない.むしろ妊
乳汁中へはワーファリンの不活性な代謝物のみが移行
娠時には凝固能が亢進するため,十分な抗血栓療法が行
され,授乳中の乳児へ悪影響はないと言われている143,144)
われていても,1∼4 % の母体死亡が報告されている38,136).
深部静脈血栓症および心房細動の場合も問題となる.
(レベル C).
②−2−2
ヘパリン
未分画ヘパリンは分子量が大きく胎盤移行性がないた
②−2
各薬剤での注意点
②−2−1
め,胎児に害を及ぼすことはない145).FDA の妊娠時に
ワーファリン
おける薬剤使用のカテゴリーでは「C」(リスクがない
非妊娠時における長期経口抗凝固療法薬として確立し
ているが,妊娠時におけるワーファリンの使用は胎児に
表 17
とは言えないが使用のメリットが明らかであれば用い
る)に分類される.
薬剤胎児危険度分類(米食品医薬品局)
カテゴリー
米 食 品 医 薬 品 局 基 準
A
ヒトの妊娠初期3ヶ月間の対照試験で,胎児への危険性は証明されず,また,その後の妊娠期間でも危険であると
いう証拠もないもの.
B
ヒトで危険であるという証拠はないもの.動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されているが,ヒト妊婦での対
照試験は実施されていないもの,あるいは,動物生殖実験で有害な作用が証明されているが,ヒトでの妊娠期 3 ヶ
月の対照試験では証明されていないもの.胎児に対する有害作用は非常に少ないが,その可能性はある.
C
危険性が否定できないもの.動物生殖試験では,胎仔に催奇形性,胎仔毒性,その他の有害作用があることが証明
されており,ヒトでの対照実験が実施されていないもの.あるいは,ヒト,動物ともに試験は実施されていないも
の.潜在的な利益が胎児への潜在的危険性より大きい場合にのみ使用すること.
D
危険性に関する証拠があるもの.ヒトの胎児に明らかに危険であるという証拠があるが,危険であっても,潜在的
な利益が胎児への危険性より大きい場合にのみ使用することが容認される.
X
妊婦または妊娠する可能性がある婦人には禁忌なもの. 動物またはヒトでの試験で胎児の危険性が証明されており,
使用による利益よりも危険性の方が明らかに大きい.
文献 155 を改変
1294
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
変更し,妊娠 40 週ごろに分娩誘発が計画される.
②−2−2(1)問題点
ヘパリン療法の問題点は,有効な治療域をどう維持す
(分娩 2 週間前を意味する).
るかという点である.妊娠時においては,ヘパリンの用
3)妊娠初期はヘパリンあるいは LMWH(低分子ヘパ
量が非妊娠時に比べて多く必要である.これは,妊娠時
リン)を使用し,妊娠中期にワーファリンに変更
におけるヘパリン結合タンパクの増加,循環血漿量の増
し妊娠 38 週まで続けられ,妊娠 38 週でヘパリン
加,凝固因子の増加,腎臓のクリアランスの問題などに
あるいは LMWH(低分子ヘパリン)に変更され,
よる.
妊娠 40 週で分娩誘発が計画される.
但し,最近のデータによれば,LMWH(低分子ヘパ
②−2−2(2)副作用
長期間にわたる投与は,脱灰化を示し母体の骨折のリ
スクを大きくする 146,147).その他,注射部位の膿瘍,血
小板減少,出血が問題となる.
ヘパリンによる抗凝固療法を行った場合と,妊娠中を
通してワーファリンによる経口抗凝固療法を行った場合
を比較すると,ヘパリン群で有意に血栓症の発生が多く
12∼24 % に達するとされ,特に血栓弁などの重症な合
併症が起こり得る148).
②−2−2(3)投与量の調節
リン)では血栓弁のリスクが高いことが一般的となって
いる151).
(注1)わが国においては,
インスリンのようにヘパリンの皮下注
射を患者自身が行うことは保険診療上認められていない.
(注2)わが国においては,低分子ヘパリンの使用は,限られた
保険適応しかなく,弁膜症や深部静脈血栓症の血栓塞栓
症予防に用いることは認められていない.
(注3)未分画ヘパリン使用時の合併症として,最近,ヘパリン
惹起性血小板減少が報告されている.著しい血小板減少
が認められた場合については,ヘパリンの点滴静注は困
難である.
AHA/ACC のガイドラインによると 1 日 2 回,1 日量
35,000 IU で開始されるべきとされているが,個体差が
大きいため慎重に投与量を選択する.ヘパリン効果のモ
②−4−1
わが国の実態にそった人工弁置換術後の妊娠
時の抗凝固療法(図 6)
ニタ−は,APTT あるいはヘパリン活性を用いて少なく
人工弁置換術後婦人の妊娠・出産に当たって最も重要
とも週 2 回は行われるべきであるが,日内変動が大きい
なことは,たとえ現時点での心機能や人工弁機能が良好
ためデータの解釈には注意を要する.また,ヘパリン結
であっても適切な抗凝固療法を行っていても,母体の血
合蛋白の増加のため,妊娠後期においては,ヘパリンの
栓塞栓症のリスク,ワーファリン内服による胎児の催奇
必要量がより高くなることを考慮する必要がある
形性,頭蓋内出血などのリスクが存在する事実があるこ
.
149,150)
②−2−2(4)分娩法
経腟分娩では,抗凝固薬非投与の場合に比べて出血量
は変わらないとされている.
帝王切開の場合は,ヘパリン点滴静注により多量出血
と,また適切な管理方法が確立していないことを,(で
きれば妊娠・出産に先だって)時間をかけて説明するこ
とである.その上であえて妊娠・出産を希望する場合は
次のような方法が奨められる.
を合併することが報告されているので,帝王切開の開始
ワーファリンおよびヘパリンの項で記したように,妊
4 時間前までにはヘパリンの点滴靜注を中止すべきであ
娠前期には,ワーファリンによる胎児奇形発生のおそれ
る.ヘパリン投与中の妊婦が急に帝王切開の必要に迫ら
があるため,ワーファリンからヘパリンまたは低分子ヘ
れたときは,硫酸プロタミンを用いてヘパリンの作用の
パリンへの変更が必要となってくる.この場合,ヘパリ
中和を行う.ヘパリンあるいは LMWH(低分子ヘパリ
ンの自己注射の練習および,ヘパリンの用量決定のため
ン)は,分娩後に開始されるべきであり,4∼5 日間は
の,短期間の入院することが望ましい.
ワーファリンと併用されるべきである.
妊娠第 14 週以降は,患者にヘパリンの皮下注射をそ
のまま使用し続けるか,ワーファリンの経口投与に変更
②−3
妊娠時の抗凝固療法についての米国ガイドライン
弁膜症と深部静脈血栓症など妊娠中にもかかわらず,
抗凝固療法が必要な場合について,以下のような三つの
方法が推奨されている149).
1)妊娠中を通して,ヘパリンあるいは LMWH(低分
子ヘパリン)を投与する.
2)妊娠中を通してワーファリンを投与し,妊娠 38 週
でヘパリンあるいは LMWH(低分子ヘパリン)に
するかの選択がある.ヘパリンは血栓症予防効果が不確
実であり,ワーファリンの経口投与への変更が母体にと
って望ましいと思われる152).
妊娠 36 週には,ワーファリンの経口投与は中止し,
凝固能をモニタリングしながら用量を調節した未分画ヘ
パリンの点滴静注に切り替えなければならない.
分娩の方法は,人や施設の準備が事前に整いやすい予
定帝王切開が望ましい.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1295
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
図6
人工弁置換後の妊娠中の抗凝固治療
胎児母体へのリスクの説明(本人と家族に)
妊娠中絶
抗凝固療法の評価
ワーファリンのみ
(<5mgは安全か?)
はじめの 6∼12(14)週:ヘパリン
次の 13(15)∼33(35) 週:ワーファリン
ヘパリンのみ
ヘパリン継続
34∼36週:ワーファリン中止,ヘパリン開始
分娩:ヘパリン中止
産褥:ワーファリン,ヘパリン開始
②−4−2
深部静脈血栓症の予防としての抗凝固療法お
2,ジピリダモール:「B」
よび治療
3,チクロピジン:「B」
妊娠中は凝固能の亢進が見られる.特に,深部静脈血
栓は妊娠中に生じやすくなる153).プロテイン C や S の
異常やプロトロンビンの異常を持った症例では少なくと
も 8 倍リスクが高いと言われる154).妊娠中に深部静脈血
栓症を発症するリスクの高いものは,体内に抗凝固能を
①マルファン症候群35,156−161)
①−1
病 態
持つ因子の先天性の異常,深部静脈血栓症の既往,抗リ
手の指や上下肢が長いなどの特徴のある体型と眼病変
ン脂質抗体症候群(APS)で死産・流産の経験のあるも
および心臓,大血管病変を示す症候群である.常染色体
の,などである.
優性遺伝の遺伝性疾患であるが,30 % ぐらいは突発性
抗凝固療法としては,分娩まで未分画ヘパリンの皮下
に発症する.心臓大血管病変として重篤な大動脈瘤や心
注投与とそれに引き続く産褥 4∼6 週間のワーファリン
臓弁膜症を合併することから,その自然経過は予後に重
による経口抗凝固療法を行う
大な影響を及ぼす事が知られている.多くは 20 歳∼40
.
153)
治療は非妊娠時のそれと同じに行われる.すなわち
歳に発病するが,特に大動脈解離の発症を予測すること
APTT がコントロールの 1.5∼2 倍になるように調節した
は困難で,突然死や緊急手術を回避することは現状では
ヘパリンの点滴静注を行う.症状が安定したら,ヘパリ
難しいと考えられる.Stanford A 型解離は,大動脈弁輪
ンの皮下注を分娩まで続け,産褥 4∼6 週間の間ワーフ
拡張症(Annuloaortic ectasia=AAE)に合併することが
ァリンによる経口抗凝固療法を行う.
ほとんどであるが,その最大径が 50 mm 以上で解離す
付記:
ることが多いと言われている.しかし,その中で 5 %
抗血小板薬の妊婦に対する安全性
以下の少数例は 40 mm 前後で解離する報告がある.ま
1,アスピリン:妊娠中,通常量では「C」.妊娠第 1 期
た,Stanford B 型解離は,大動脈径と解離の関係が不明
および 3 期の高用量投与の場合「D」.
で,発症の予測は非常に困難である.従って,Marfan
わが国では「出産予定日の 12 週以内の妊婦には(用
症候群において,予測できない解離の発症により緊急手
量にかかわらず)禁忌」とされている.
術や突然死の心血管事故が起こる可能性があることは説
従って,投与する際には,十分な informed consent が
明しなければならない重要なことと思われる.
必要である.
1296
(4) 大動脈疾患
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
①−2
妊娠出産(表 18)
妊娠前の AAE の最大径が 40 mm 未満の例では,解離
妊娠による変化として,大動脈壁中膜には細網線維の
の発生は少なく,通常分娩が可能である.しかし,解離
断裂,酸性ムコ多糖体の減少,弾性線維配列の変化,平
や大動脈瘤破裂が経過中に発症する可能性について説明
滑筋細胞の増殖と過形成がみられ,その結果動脈壁のコ
する.AAE のモニターは,上段に述べたと同様に行い,
ンプライアンスが上昇するとマルファン症候群の大動脈
瘤径の拡大のないことを確認する.瘤の拡大傾向が認め
壁は極めて脆弱となる.これに加えて,妊娠出産は心臓
られた場合は,妊娠中絶を勧める.出産を希望する場合
大血管に対する容量負荷や圧負荷(疼痛刺激や努責も)
は,前述の 40 mm 以上と同様に行う.
が加わることが解離や大動脈破裂の原因になり,妊娠中
弁膜症(大動脈弁および僧帽弁閉鎖不全症)発症の可
期から末期,出産時,出産後に大動脈解離,大動脈瘤破
能性について説明する.また,経過中に心不全を発症し,
裂の報告がある.また,弁膜症は心不全の原因になる.
妊娠を継続できなくなったり,母子共に危険な状態にな
しかし,大動脈瘤の初期病変や心疾患のない場合は,正
る可能性について説明する.
常分娩が比較的安全に行われている.胎児への遺伝は,
50 % の確率で起こり,乳児期に発症する例もある.
妊娠,出産をより安全に行うためには,妊娠前に心臓
ならびに全身の血管の検査を行い,外科治療の適応のあ
る心疾患,大動脈疾患は妊娠前に手術を受けるよう指導
し,術後回復してから再検討を行う.
僧帽弁閉鎖不全症併発例については,弁膜症のガイド
ラインに準じて治療を進める.
②高安病(表 19)162−164)
主に若い女性に発症する膠原病で,動脈の炎症を主体
とし,動脈の狭窄や閉塞により症状が出現する.大動脈
妊娠前に AAE によるバルサルバ洞の最大径が 44 mm
に炎症が波及すれば大動脈弁閉鎖不全症や大動脈瘤,大
以上は,妊娠をしないよう指導する.妊娠を継続する場
動脈縮窄を合併することがある.鎖骨下動脈,冠動脈に
合は,破裂や解離した場合の手術が出来ない可能性や手
狭窄がみられることもある.また,肺動脈に炎症が波及
術を行っても母子共に救命できない可能性が高いことを
すれば肺高血圧症を合併し心肺機能の低下を起す.
説明する.それでも妊娠を希望し,妊娠した場合には
妊娠出産の報告はあるが,多数例の報告は認められな
AAE のサイズの変化のモニターが必須である.そのた
いため,指針を記載するのは困難と考え,少数例の報告
めに心エコー検査を繰り返すが,中期から後期にかけて
をまとめ情報を記載する.
は,週 1 回以上行い,瘤径の拡大のないことを確認する.
妊娠出産は,基本的に可能であるが,高血圧を認める
急速な瘤径の拡大を認めた場合は,母体の安全のため妊
場合には計画的に高血圧をコントロールしながら,妊娠
娠中絶の適応である.出産は,全身麻酔,帝王切開で行
高血圧腎症,腎不全および心不全に注意しながら出産へ
うが,心臓血管外科のある病院で行うことが強く望まれ,
と導くことが重要である.出産しても,子宮内発育不全
麻酔科との緊密な連携が重要で,血圧,疼痛管理を厳重
や低出生体重児も多く,流産,死産も少なくない.
に行う.AAE の最大径が 40 mm から 44 mm 未満の場合
も同様の経過観察を行う.
表 18
マルファン症候群の妊娠出産におけるポイント
1.遺伝する可能性が 50 % あることを説明する.(遺伝カ
ウンセリングの項参照)
2.外科治療の適応がある場合,妊娠前に手術を受けるよう
指導する.
3.大動脈径>44 mm,解離がある場合は,妊娠をしないよ
う指導する.
それ以下は,妊娠可能と告げるが解離による急変の可能
性を説明する.
4.大動脈径<40 mm 以下は,通常分娩が可能である(レ
ベルB).
5.僧帽弁閉鎖不全は,弁膜症のガイドラインに準じて治療
を進める.
6.βブロッカーを投与する.
7.疼痛管理,麻酔
外科治療の適応のある心疾患,大動脈疾患は妊娠前に
手術を受けるよう指導する.腹部の未治療の異型大動脈
表 19
高安病の妊娠出産におけるポイント
1.未治療の腹部異型大動脈縮窄では,腎性高血圧から心不
全,腎不全が報告されている.
敗血症,妊娠高血圧腎症となることもあり予後不良であ
る(レベル B).
2.異型大動脈縮窄−大動脈縮窄のガイドラインに準じる.
3.大動脈閉鎖不全−心臓弁膜症のガイドラインに準じる.
4.大動脈瘤(AAE を含む)−Marfan 症候群に準じる.
5.虚血性心疾患(入口部狭窄)−外科治療後の適応を検討
する.
6.高血圧症に対しては,β-ブロッカーを投与し,ACE
(ARB)は用いない.
7.ステロイド治療の継続をするが,投与量増量にいたるこ
とはまれである.
8.自己免疫性疾患,膠原病としての病態に注意する.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1297
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
縮窄を有する場合,腎性高血圧から心不全,腎不全とな
脈瘤形成,破裂,解離を生じることがある89,168).この合
ることが報告されている.また,敗血症,妊娠高血圧腎
併症の頻度は低いが,大動脈拡張を伴う例で,妊娠中に
症となることもあり予後不良である.
高血圧を合併する場合は,安静,βブロッカー投与での
ステロイド治療は継続する.妊娠出産例は,妊娠前か
管理を必要とする165)(レベル B).
らプレドニン内服量 5∼15 mg/日でコントロールがつい
ている場合が多く,妊娠中は軽度炎症反応が増加したか,
未修復大動脈縮窄
未修復大動脈縮窄例は,3∼9 % の母体死亡率が認め
服を中止とし,水溶性プレドニンの静脈内投与によるカ
られたが165,169),的確な高血圧治療により,死亡例は稀
バーを行う.出産後も,プレドニン内服を続けるが,維
となった166).妊娠中に大動脈瘤,解離,瘤の破裂168,169),
持量程度であれば母乳栄養に問題はないとされている.
圧負荷に妊娠中の容量負荷が加わるための左心不全169),
動脈の狭窄部位があるなどの理由で低用量アスピリン
Willis 動脈輪の動脈瘤破裂を生じることがある170).収縮
(80 mg/100 mg)を内服している場合,児への影響から,
期圧を 140 mmHg 以下に保つことを目標とし,βブロ
母乳栄養は避けるようにと現時点ではされているが,エ
ッカーを使用する(レベル C).しかし,血圧が下がり
ビデンスが十分ではなく,研究がまたれる.妊娠中の低
すぎると胎盤血流が減少するため,定期的な血圧測定が
用量アスピリン内服もわが国では一応避けるべきとされ
必要である166,171).
てはいるが,諸外国では場合によりむしろ内服を勧めら
胎児死亡は,10∼25 % である165,166,169)(レベル B).胎
れており,これによる問題はおきていないようである.
盤血流量は,一般と比べ減少している場合が少なくない
なお,抗血小板薬の安全性については各論 1)(3)弁膜
が,生産児の出生時体重は一般と同様である166,172)(レベ
症および人工弁使用患者 ②項参照のこと.その他,膠
ル C).
原病として,感染,貧血(鉄欠乏性),凝固因子異常な
どにも留意して管理する.
未治療の大動脈縮窄症患者は,妊娠前に手術ないしは
カテーテルインターベンションによる治療を受けるべき
異型大動脈縮窄については,大動脈縮窄(次項)に準
である.縮窄より遠位部の過度の低血圧は,流産や胎児
じる.大動脈閉鎖不全併発例では「心臓弁膜症のガイド
死亡をおこすことがあり,未治療の妊婦症例の高血圧治
ライン」に準じる.大動脈瘤(AAE を含む)では,マ
療は注意を要する165)(レベル B).
ルファン症候群(前項)に準じる.虚血性心疾患(入口
妊娠中でも大動脈縮窄修復は可能だが,内科的治療が
部狭窄)では,まず,外科治療を行い,その後の妊娠出
困難な心不全,大動脈解離がみられる場合を除き勧めら
産の適応を検討する.その際は,虚血性心疾患(後述)
れない.妊娠中は,大動脈壁が脆弱化し大動脈解離の危
に準ずる.
険が増加するので,バルーン形成術は推奨されない173).
③先天性大動脈縮窄
③−1
しかし,ステント併用は比較的安全な可能性がある(レ
ベル B).
概 要
妊娠患者は,修復術後である事が多い.未修復例は,
妊娠中に高血圧,左心不全,さらに,大動脈瘤形成,大
③−3
大動脈縮窄術後
大部分の患者は,母児ともに,安全な妊娠出産が可能
動脈解離などの重大な合併症が認められることがある.
である.上行大動脈拡張,大動脈弁狭窄遺残,大動脈弁
しかし,修復術後は,母児とも良好な妊娠出産経過をと
閉鎖不全,特にパッチ修復術後,バルーン形成術後では
ることが多い
修復部大動脈瘤に注意すべきである.MRI は,妊娠中
.
165,166)
大動脈縮窄例は縮窄部前後の大動脈壁にいわゆる
も施行可能で,合併症の診断に有用である165).有意な狭
cystic medial necrosis を伴う21).特に,高頻度にみられる
窄がなくとも,妊娠中に高血圧が持続することがあり,
大動脈二尖弁合併例では上行大動脈にも同様の変化を認
定期的な血圧測定が必要である171).高血圧合併の場合は,
める.また,一般の妊娠の場合でも,妊娠中のエストロ
βブロッカー投与が有効である 165)(レベル B).未修復
ゲンの上昇による大動脈中膜弾性線維の断裂により大動
例と同様,大動脈拡張,瘤形成を起こすことがあり,大
脈壁の脆弱化を生じる167).大動脈縮窄例は,大動脈壁の
動脈径の観察は重要である.Willis 動脈輪部の動脈瘤の
組織学的変化が妊娠中に進行し,そこに容量負荷と圧負
妊娠中の変化については明らかでない170).
荷が加わるため,著明な大動脈拡張が起こりやすい.さ
らに,一旦拡張が始まればそれは相乗的に進行し,大動
1298
③−2
あるいは不変であった.帝王切開術前後にプレドニン内
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
妊娠中の内科治療は安静と高血圧治療が中心となる.
大動脈拡張の進行を予防するため,βブロッカーを使用
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
することもある165).出産時,帝王切開を推奨する報告も
(FDA リスククラス D:表 17;母体の治療と注意点:
あるが,硬膜外麻酔による無痛経腟分娩で危険なく出産
抗不整脈の項:表 33).妊娠後期にアブレーション,
が可能である
DDD ペースメーカ植込み179),ICD 植込み180)の後に出産
.しかし,バルーンカテーテルインター
166)
ベンション治療を行った例は大動脈解離の危険が高いと
推測されるため,βブロッカーを持続投与し,帝王切開
が推奨される
.大動脈二尖弁の合併も多く,出産時の
165)
した報告もある.
一般には経腟分娩が可能であるが,分娩時には静脈還
流を低下させる体位(総論の項参照)や努責はなるべく
避けるべきであり181),呼吸循環の悪化が見られるか強く
感染性心内膜炎予防は,必須である165).
大動脈縮窄修復術後の妊娠は,母児ともにリスクは低
予想される時には帝王切開も選択し得る176)(レベル C).
い.しかし,高血圧,大動脈拡張を伴う場合はβブロッ
多量の出血や子宮収縮薬の使用などの際には母体と胎児
カーで内科管理を行う165)(レベル B).
の血行動態のモニターを行う(胎児評価法の項参照).
降圧が必要な場合は一般にはヒドララジンが第一選択で
(5) 心筋症
あるが,降圧薬については高血圧の項参照 180)(レベル
C).
①肥大型心筋症
①−1
分娩時の硬膜外麻酔によって,静脈還流の減少,左室
概 要
充満圧の低下,左室流出路圧較差の増強などを介して血
肥大型心筋症の有病率は 10 万人あたり 17.3∼374 人
圧低下が生じるため 180)厳重な血行動態の管理を要する
と報告されており 174,175),稀な心疾患ではない.また,
(レベル C).ドプラ法は,出産時の左室流出路圧較差の
女性患者のうち 40 歳以下の若年症例が約 15 % を占め
評価として有用である 182)(レベル C).分娩には心内膜
ること
炎予防のために抗生物質投与を考慮する(レベル C).
174)
などから,妊婦に肥大型心筋症が潜在的に合
併している可能性は少なくない.
肥大型心筋症合併妊娠では循環血漿量の増加と体血管
抵抗の低下により,左室流出路収縮期圧較差が増大する
ため,僧帽弁逆流も増強しうっ血性心不全を発症するこ
②拡張型心筋症・産褥心筋症
②−1
拡張型心筋症
拡張型心筋症は比較的まれな疾患であることの他に,
とが危惧される.しかし,実際には妊娠前に胸痛,労作
男性に多いこと,小児期を含む若年者では予後が不良で
時呼吸困難,失神などの症状を有する例でも,これらの
あり既に ACE 阻害薬を含む抗心不全治療を導入されて
症状が悪化することは少なく,逆に妊娠により胸部症状
いる症例が多いことなどの理由から,本症を有する女性
が軽快する例もあり,大部分の例は妊娠に耐え得る
が妊娠・出産を経験することは少ない183).心不全が代償
.
176,177)
一方,うっ血性心不全,狭心痛,心房細動などの臨床症
期にあり NYHAⅠ度が継続し,薬物投与を中断するこ
状を発症した症例は各種の治療に対して反応し難い 178)
とができる症例ならば妊娠により致死的な心不全にまで
至ることは少ない184).しかし,妊娠後期に重症心不全を
(レベル B).
発症する例もあり185),また後述の産褥心筋症の原因が未
①−2
リスク要因
だ不明で潜在する拡張型心筋症からの移行も否定できな
35 歳以下の若年者において突然死発症があることが
知られているが,実際にはその頻度は低い176,177)(レベル
い現状では,軽症心不全例でも妊娠・出産については慎
重な検討を要する.(レベル C)(心不全の項を参照)
B).ただ,最大壁厚が 30 mm 以上,心停止および持続
性心室頻拍の既往,反復性の失神,突然死の家族歴など
はハイリスクグループとされ,これらでは妊娠・出産の
適否について慎重に検討するべきである177)(レベル C).
②−2
産褥心筋症
心疾患を指摘されていない妊婦が,妊娠後期から産褥
期に拡張型心筋症類似の病態を呈しうっ血性心不全を発
症する原因不明の心筋症を産褥心筋症と称する.米国に
①−3
おける発症は 1000∼15000 分娩に 1 例であり,心筋症に
対応
胸部症状が出現した場合には入院安静として,それで
よる妊婦死亡の約 70 % を占める183).妊娠高血圧症候群
も症状が持続する場合にはβ遮断薬(プロプラノロール)
(妊娠中毒症),高齢出産,多産婦,アフリカ系民族,遷
.心房細動に対しては電気的除
延分娩,多胎妊娠などが危険因子となる.約 50 % は分
細動を行う.心室頻拍に対しては母体の救命を第一にア
娩後 6 カ月までに正常心機能に回復するが,左室機能低
ミオダロンを投与するが 176),胎児への影響が大きい
下が遷延進行することもあり,このような症例の予後は
の投与を開始する
176―178)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1299
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
胎児への影響があり,適切な対応が必要で,治療に際し
不良である.
発病は出産後 1 カ月以内が最も多い.初発症状は胸痛,
労作時呼吸困難,動悸の他,発作性夜間呼吸困難,喀血
などの肺うっ血症状,血栓塞栓症が高頻度に見られる.
胸部 X 線では心陰影の拡大,肺うっ血,胸水貯留,
心電図では左室肥大,ST-T 変化,種々の伝導障害と不
ては,母体および胎児の双方への影響を勘案する必要が
ある.治療については,抗不整脈治療の項に記載した.
① 心奇形を伴わない不整脈
①−1
一般の妊娠時不整脈の頻度
整脈が認められる.心エコーでは左室および右室の拡大
一般人の妊娠時不整脈には上室性期外収縮,心室性期
と収縮性低下が特徴的であるが,心膜液貯留,僧帽弁・
外収縮,発作性或いは慢性上室性頻拍(心房粗細動, 心
三尖弁・肺動脈弁逆流も認められる.心筋生検では心筋
房頻拍など),心室頻拍,伝導障害,WPW 症候群によ
細胞変性,間質浮腫,線維化などが高率に見られるが,
る上室頻拍の合併の報告があるが,単源性あるいは多源
いずれも非特異的であり,これらの所見の有無が予後と
性上室性期外収縮,多源性心室性期外収縮,上室性期外
相関しないとの報告もあり
収縮連発以外の,より複雑な不整脈の合併は非常に稀で
,心筋生検は診断に必須で
186)
ある99,192,193−197).
はない.
心不全発症例ではまず入院安静と塩分制限を基本と
し,ヒドララジン, 硝酸薬による血圧の管理と後負荷軽
①−2
頻脈性不整脈
減療法およびループ利尿薬の投与を行う(レベル C).
①−2−1
期外収縮
両心室内に血栓を生じることが多いため,心エコーによ
多くは心室性および心房性期外収縮であり,特に心室
る定期的な観察とヘパリンによる抗凝固療法を行う 187)
性期外収縮は妊婦の不整脈の中で約 60 % と頻度が最も
(レベル C).NYHAⅢ∼Ⅳの重症心不全を発症した症例
高い192).
に対して,免疫グロブリン188),アザチオプリン189)など
①−2−2
を用いた報告があるが,その有用性は未だ定まってはい
発作性上室性頻拍(PSVT)
発作性上室性頻拍の既往を有する場合(WPW 症候群,
ない.最重症例では拡張型心筋症例と同様にカテコール
房室結節性回帰性頻拍)は,妊娠中に再発し,非妊娠時
アミンの投与,IABP,体外循環も考慮する.出産後の
と比べて発症頻度が増加することが多い
(30 % 前後)36,197).
慢性心不全に対して拡張型心筋症の治療に準じて ACE
また,頻度は低いが,発作性上室性頻拍が新たに発生す
阻害薬やβ遮断薬の投与を行い,状況に応じては心移植
ることもある197).
の適応も考慮する190)(レベル C).
①−2−3
心房粗動,心房細動
産褥心筋症患者のうち,分娩後に心収縮力が正常化し
妊娠期間中の心房粗細動は比較的稀と報告されている
た例では再び妊娠出産は可能であるが,左室駆出率 50 %
が,先天性心疾患や弁膜症の合併例,甲状腺機能亢進お
以下までの改善に留まる症例では心機能が悪化し死亡率
よび電解質異常に伴う場合が多い.
も高いため,このような症例では避妊を強く勧める
191)
(レベル B).
③ 胎児・乳児への影響
妊娠末期,出産後の発症が大部分であるが,低出生体
重児,死産の頻度がやや高い.薬剤使用時には,胎児お
よび母乳栄養児への影響も十分考慮する必要がある(抗
不整脈薬,抗心不全薬の表を参照).
(6) 不整脈
妊娠,出産時は急激な血行動態の変動による心負荷増
大,心拍数増加,内分泌機能変動,自律神経系機能変動
洞調律に復帰できない場合には,抗凝固・抗血小板療
法を考慮する(抗凝固・抗血小板療法の項を参照).
①−2−4
心室頻拍(VT)
VT は基礎心疾患を伴わない正常妊婦での報告は少ない
が,特発性 VT としては右室流出路起源が認められる198).
①−2−5
QT延長症候群
遺伝性 QT 延長症候群の妊娠期間中におけるリスク評
価に関しては,Rashba 等199)が詳しく検討している.QT
延長症候群では心停止や失神発作などの不整脈イベント
は妊娠期間中と比較して,分娩後に多く認められると報
告されている.この対策として除細動器を使用可能とし
ておくことが望ましい.
により,様々な不整脈が認められる192).ここでは,先天
性心疾患を伴わない場合の不整脈(不整脈単独)の場合
と,先天性心疾患およびその手術後に不整脈を伴った場
合に分けて述べる.ともに有意の血行動態変化は,母体,
1300
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
①−3
徐脈性不整脈
頻脈性不整脈と比較して,妊娠期間中における徐脈性
不整脈の新たな発生は少なく,無症候性の場合は妊娠分
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
娩中を通して治療の必要性も無い場合が多い198).
先天性完全房室ブロックが妊娠期間中に初めて診断さ
拍を伴うと緊急治療を要する場合が多い.
抗不整脈治療を必要とする不整脈は,上室頻拍が多い.
れる場合もあるが,基礎心疾患を伴わず無症候性の場合
特に,心房細動は心房内血栓形成傾向が強く,妊娠時の
は一時的ペースメーカも不要な場合が多い.
凝固能亢進状態と重なるため,早期治療を要する.一方,
心室頻拍は,妊娠中の発生自体が少なく,非持続型では
②先天性心疾患の不整脈
②−1
治療を要する例も少ない99).治療を要する不整脈は妊娠
前から認められる場合もあるが,妊娠 7 ヶ月以降に増加
病態的意義
先天性心疾患患者とくに術後では,妊娠出産時に不整
することが多い99).
脈を新たに合併あるいは既存の不整脈が増悪する事があ
る.特に,上室性頻拍,心室頻拍,高度房室ブロックな
どは有意な血行動態の変化を生じ易く,この血行動態変
②−4
不整脈危険因子
妊娠の生理的変化(総論参照)に加え,上に述べた基
化は,母体,胎児へ与える影響が大きく,的確な診断,
礎疾患や術式特有のものの他に,修復術後心房或いは心
緊急治療を要することが多い.また,抗不整脈薬は心機
室創部は頻拍性不整脈の重要な基質と考えられる205,206).
能低下,催奇形性など母体,胎児ともに悪影響を及ぼす
さらに,心房負荷を伴う病態では上室性頻拍,心室負荷
可能性がある.
を伴う病態では心室性不整脈を生じやすい205).同一疾患
心疾患術後患者は妊娠中有意な不整脈を認める場合で
も,厳重な観察或いは的確な抗不整脈治療を行えば,罹
でも,NYHA 機能分類の悪い場合,心不全の強い場合
は不整脈治療を要する傾向が強い99,206).
病率は高いものの母体死亡は少ない36,94,193,200,201).しか
し,頻拍型不整脈は,基礎疾患に基づく血行動態,心機
②−5
妊娠前の検査とカウンセリング
能の異常を認める場合,母体,胎児ともに罹病率が高く,
②−5−1
妊娠前の検査
母体死亡もあり得る.一方,胎児の流死産,低出生体重
(1)抗不整脈薬投与を行っていない場合は,妊娠中の
児の頻度は高い36,94,193,200,201).慢性心房細動が器質的心
不整脈増悪因子の有無(不整脈の既往,原疾患の
疾患を伴う母体で生じると心不全を伴いやすく胎児流産
血行動態的特徴,心不全の有無,向心臓薬投与の
が多い
有無)を確認する.不整脈増悪因子を持つ場合は,
.
193)
慎重な経過観察を要する.
②−2
妊娠時不整脈の頻度
(2)妊娠前に運動負荷検査を行うことにより,心筋予
先天性心疾患患者は妊娠中に,厳重な観察或いは治療
備能だけでなく,妊娠時の不整脈出現の有無判定
を要する不整脈(有意な不整脈)を 6.6 % 程度に認め,
の参考になる場合がある(運動負荷検査は妊娠中
そのうち 3.5 % は不整脈治療を要する99).
と同様に,心拍数増加,心拍出量増加,末梢血管
先天性心疾患術後は,一般と比べ妊娠中の心拍数の増
加が見られないという特徴がある99).さらに妊娠中の不
整脈発生或いは悪化の頻度が高い.また,妊娠後と比べ,
拡張,カテコラミン分泌増加などが認められる).
②−5−2
妊娠前のカウンセリング
先天性心疾患術後妊娠患者の不整脈に関する以下に述
べる背景的知識を,妊娠出産を望む患者に十分に説明し,
妊娠中は不整脈の増加が認められる .
99)
理解を得る必要がある.
②−3
不整脈を伴いやすい基礎疾患・病態および治療
を要する不整脈
(1)原疾患自体が重症あるいは妊娠継続が不適当な場
合(心不全が強い場合など)を除き,不整脈とい
ファロー四徴, 心室中隔欠損,心内膜床欠損(特に
う理由だけで,避妊の必要はない205,206).
僧房弁閉鎖不全遺残),多脾症などで,手術続発症,遺
(2)妊娠中は不整脈よりも抗不整脈薬(不整脈治療の
残症を伴う場合や経年的に心室或いは心房負荷の増大す
項)投与自体が母体,胎児に及ぼす弊害が多い可
る場合に,有意な不整脈の合併頻度が高い .また,手
能性があるため,上室性期外収縮,心室性期外収
術合併症としての完全房室ブロック,洞機能不全症候群
縮単独では治療の対象にならない205,206).
99)
によるペースメーカ装着例も比較的多い202).修正大血管
(3)妊娠中動悸を強く訴える場合があるが,多くは不
では体循環側心室が
整脈ではなく,妊娠時生理的洞性頻拍である192).
右室で,また Fontan 手術後107)は肺循環側心室がないこ
(4)頻拍型不整脈(特に上室性)は妊娠中に緊急治療
転位修復術後
,Mustard 手術後
203)
204)
とから前負荷予備能が低く,これらでは妊娠中に上室頻
を要する場合がある.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1301
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
(5)抗不整脈薬投与継続中の場合は,薬剤の安全性を
不全,心室拡張末期圧が高い場合など)では,入院によ
考慮し,安全性が確立出来ていない時は(不整脈
り緊急の治療を要する.また,心不全を併発或いは心不
治療の項),薬剤変更あるいはカテーテルアブレ
全の悪化時は,入院を必要とする.
ーションも考慮する(治療の項).
②−9
②−6
妊娠中の経過観察
分娩時の管理
分娩時は,子宮収縮による循環血液量増加(500 ml/
先天性心疾患術後患者は,妊娠が明らかになった時期
回),カテコラミン分泌増加,出産時出血(300∼800 ml
(妊娠 6 週前後),妊娠 5∼6 ヶ月および容量負荷が最大
の出血),出産直後の静脈還流量の増加などの急激な血
となる妊娠 7 ヶ月以降の少なくとも 3 回の診察を行うこ
行動態的変化を伴う207).このため,妊娠中にみられる不
とが奨められる.不整脈発生危険因子を認める場合(心
整脈の悪化,新しい不整脈の出現を見ることが多い.分
不全を認める場合,妊娠前から不整脈を認める場合,頻
娩時に有意な不整脈の出現,悪化の可能性がある場合は,
拍型不整脈の既往のある場合など)は,その程度に応じ
心拍数,血圧,心電図などのモニターが必須である.
外来経過観察回数を増加することが奨められる.また,
帝王切開の適応については一般的産婦人科・周産期学
抗不整脈薬(不整脈治療の項)を投与中の場合も,状況
的適応に準じ,緊急の胎児因子による帝王切開の他には,
に応じ,より頻回の経過観察を必要とする.先天性心疾
基本的に母体の心血行動態の重症度により帝王切開の適
患術後患者の妊娠中の不整脈は,母体,胎児に対する危
応を決定する. 不整脈を伴う先天性心疾患術後患者の妊
険因子の一つであり,成人先天性心疾患担当医,麻酔科
娠全体を総合すると帝王切開を行うことは比較的少な
医,産科医,不整脈専門医,新生児科医の密接なチーム
く,多くは経腟分娩が可能である99).
医療により経過観察を行うことが必要である.
外来経過観察には,以下の診察,検査項目が含まれる.
(1)不整脈に関する問診;特に動悸,頻拍,徐脈の既
往の有無.
②−10
出産後の外来管理
出産後に,心不全増強,不整脈合併,既存の不整脈の
悪化を認める場合がある.妊娠中有意な不整脈合併を認
(2)心電図検査;長めの記録(3 分間)による不整脈
めた場合,病棟内歩行や入浴など運動負荷が加わり始め
る頃から,その後血行動態が妊娠前に戻るまでの約 4 週
チェック.
(3)ホルター心電図(動悸の訴えが強い場合,上記検
査で更なる情報を必要とする場合など)
間は,不整脈発生,悪化に注意が必要である.出産後早
期は(特に授乳を行っている場合),モニター用パッチ
(4)体表面遅延電位検査(心室頻拍が危惧される病態)
装着が難しく,ホルター心電図は十分に行えないことが
ある.また,授乳により抗不整脈薬が児へ移行する場合
②−7
不整脈増悪因子の評価
には(不整脈治療の項)208),薬剤変更あるいは人工栄養
心不全の程度の評価を行う.心不全が妊娠中経時的に
悪化する場合があるため,診察,脳性利尿ペプチド
(BNP),心房性利尿ペプチド(ANP)測定,心エコー検
査での経時的心機能評価などが有用である.不整脈増悪
因子を認める場合は,不整脈専門医のいる総合病院での
出産が望ましい.抗不整脈薬投与を行っている場合,妊
娠中は薬剤吸収,活性,排泄などが非妊娠時と異なる
25)
への変更なども考慮される205,206).
(7) 虚血性心疾患
① 概 要
妊娠可能年齢の女性における虚血性心疾患の頻度は少
なく,周産期の急性心筋梗塞発症は極めて稀(1/1 万分
ため,経時的な薬剤血中濃度の測定が必要である.また,
娩)である35,209,210).50 歳未満の女性における虚血性心疾
抗不整脈薬は催不整脈作用を認める場合もあり,治療効
患の危険因子は,喫煙,高血圧,高コレステロール血症,
果判定を慎重に行う.
低 HDL 血症,糖尿病,高血圧,家族歴,妊娠高血圧症
候群(妊娠中毒症),経口避妊薬内服の既往である211,212).
②−8
入院加療を要する病態
血行動態変化をもたらす頻拍性不整脈の場合は,急激
に心不全の悪化を見ることがあり,入院による加療が望
ましい.特に,基礎疾患に心不全を認めている場合,心
房圧の高い病態(房室弁狭窄,中等度以上の房室弁閉鎖
1302
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
特に,喫煙あるいは高血圧と経口避妊薬内服既往の重複は
周産期急性心筋梗塞発症の最も重大な危険因子である213).
② 急性心筋梗塞の基礎病態
周産期における急性心筋梗塞は,16 歳から 45 歳妊婦
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
のいずれの妊娠時期においても発症の報告があるが,年
離では緊急手術が必要である.胎児への影響を考慮する
齢が 33 歳以上の妊娠後期において最も頻度が多い210).
と,妊娠初期にはこれらの手技はできる限り避けるべき
また経産婦に多く,梗塞部位は前壁が多い.母体死亡は
であり,冠動脈造影も妊娠中にこれらの手技が必要と判
発症時あるいは発症 2 週間以内に最も多く,死亡率は
断された場合に限るべきである.
21∼50 % である.急性心筋梗塞発症の病因は,冠動脈硬
化が第 1 ではあるが 50 % 未満である.冠動脈造影では
狭窄が認められず,冠攣縮あるいは冠動脈内血栓が原因
と考えられる場合も少なくない
.妊娠に伴う高血
210,212)
⑤ 虚血イベント予防への対処(図 7)
妊娠中および産褥期の心血管系へのストレスをできる
限り減じることに焦点を当てなければならない.妊娠初
圧あるいは周産期に投与される麦角アルカロイド,ブロ
期にコントロール不良な心筋虚血が認められる場合は,
モクリプチン,オキシトシン,プロスタグランディンな
中絶を考慮する.分娩時には適度な除痛と酸素投与が必
どが誘因となることもある
212)
.また病因としての冠動脈
要である.仰臥位での分娩は下大静脈を圧迫し,静脈還
解離は出産直後に認められることが多く,80 % の例で
流を減ずることによって,左室右室の充満圧を減少させ
左前下行枝にみられるが,多枝におよぶこともある212,214).
る.虚血性心疾患合併時の分娩に帝王切開は必須ではな
その他に膠原病,冠動脈瘤の残存した川崎病,鎌状赤血
いが,適切な薬物治療にもかかわらず心筋虚血が明らか
球症,血液凝固異常,冠動脈血栓塞栓症も周産期急性心
で,循環動態が不安定な時には選択する.いずれの出産
筋梗塞の原因となりうる .
後にも数時間は,血行動態の持続モニターが推奨される.
③ 診 断
⑥川崎病冠動脈病変
210)
周産期の心筋虚血や心筋梗塞は,典型的な胸痛,心電
川崎病既往の女性が出産年齢に達しつつある.冠動脈
図検査,心臓超音波検査などにより診断されるが,虚血
狭窄が無く,心機能が正常である場合は,妊娠,出産に
性心疾患が念頭にない場合は診断が遅れることになる.
問題は無いと考えられている.しかし,冠動脈病変(特
また診断に際して妊娠による母体変化も考慮に入れなけ
に冠動脈狭窄病変)を残した場合,心筋梗塞後,冠動脈
ればならない.心電図でⅢ誘導の Q 波,T 波陰転や V1
インターベンション後(冠動脈バイパス術後)の妊娠出産
誘導での R/S 比の増大などは正常妊婦でも認められる
は,虚血病変の進行,心不全悪化の可能性がある.妊娠
ことがある.血液生化学検査においては正常分娩でもミ
中の血行動態変化,凝固能亢進状態の冠動脈病変に与え
オグロビン,CK,CK-MB は出産 30 分後に正常値の 2
る影響については明らかではない.また,冠動脈病変を
倍に上昇するため,心筋梗塞の生化学的診断にはトロポ
残した川崎病の報告は,未だ少ない.少なくとも 13 人の
ニンが用いられるべきである
冠動脈病変を持つ川崎病の妊娠出産の報告がある219−224).
.心臓核医学検査,心臓
215)
カテーテル検査は母体胎児へのリスクより有用性が勝る
その内の 3 人は,冠動脈バイパス術後である222,223).1 人
と判断されたときにのみ施行する.
は,無治療で,妊娠中に急性心筋梗塞を起こしている219).
半数は硬膜外麻酔下の経腟分娩で,残りは帝王切開であ
④ 治 療
る.麻酔に関しては,麻酔の項目に示してある.出生児
妊娠によって増大する心負荷を軽減し,心筋虚血を防
はすべて正常である.約 2/3 の患者は低用量アスピリン,
ぐためβ遮断薬が第 1 選択となる.また,低用量アスピ
ジピリダモール,ニトログリセリン,ヘパリンなどが投
リンは妊娠中の虚血イベント予防に有効である.ただし,
与されている.これらの患者は,妊娠中に心筋梗塞をお
わが国では「出産予定日の 12 週以内の妊婦には(用量
こしていない.妊娠中の低用量アスピリンの安全性に関
にかかわらず)禁忌」とされている.従って,投与する
する世界的流れは,胎児への悪影響も少なく安全と考え
際には,十分な informed consent が必要である.
られているが,わが国では薬剤危険度に関する研究・整
急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法は胎児への催奇性
備が不十分であるため,投与の際には十分な informed
がなく,母胎・胎児とも予後が良好であるとの報告が多
consent が必要である.抗血小板・抗凝固薬の影響につ
い
いては各論 1)(3)弁膜症および人工弁使用患者 ②項
.しかし,母体の出血については十分な注意が必要
216)
であり,特に出産時の出血リスクは高い.報告は限られ
ているが,妊娠中の経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパ
参照のこと.
冠動脈狭窄を認める場合は,妊娠前に冠動脈病変を評
.冠動脈解離に対してはステン
価し,適応があれば,妊娠前に冠動脈インターベンショ
ト留置術が第 1 選択であるが,広範囲にわたる冠動脈解
ン,冠動脈バイパスが推奨される.心筋梗塞後で,心機
ス術も有効である
217,218)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1303
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
図7
妊娠に伴う虚血性心疾患への対処
虚血性心疾患合併の疑い
症状・基礎疾患の有無,
高血圧・喫煙などのリスク評価
心電図検査・心臓超音波検査
採血検査(心筋逸脱酵素はトロポニンを測定)
狭 心 症
急性心筋梗塞
β遮断薬+アスピリン
血栓溶解療法
経皮的冠動脈形成術
コントロール不良
経皮的冠動脈形成術
冠動脈バイパス術を考慮
*妊娠に虚血性心疾患を合併することがあると念頭に置く.
*常に胎児への侵襲度を考慮する.
*冠動脈造影は PCI,CABG まで考慮した上で施行する.
*分娩時に十分な除痛,酸素投与,モニターを施行する.
能の悪い場合は,心不全,心筋症に準じる.適切な出産
には循環血液量の増大,心拍数の増加以外にも体血管抵
方法と麻酔法は明らかでないが,冠動脈狭窄病変では,
抗,肺血管抵抗の低下が認められ(総論の項),後二者
無痛分娩,帝王切開が安全と考えられる.冠動脈病変を
は心不全コントロールに際して有利に働くが,不全心で
伴う場合は注意深い妊娠の経過観察を必要とする.
は前二者の不利な影響の方が強く表れ,妊娠中に状態が
(8) 心不全(共通の病態として)
悪化することが少なくない.すなわち本来なら妊娠の経
過とともに増大すべき一回拍出量を不全心ではまかなう
ことができず,全身の低灌流状態を惹き起こす.また容
① 病 態
量負荷のため心室拡張末期圧は上昇し,このため肺動脈
心不全は左心不全,右心不全,収縮障害性,拡張障害
圧が上昇し肺うっ血を来たす.静脈圧も増加して末梢浮
性と分けられるが,いずれの病態でも妊娠の経過中に認
腫を来たす.心エコー法で観察すると健常例でも妊娠中
められる容量負荷や頻脈はその増悪因子となる.妊娠時
期以降は左室径が大きくなるが,不全心では心拡大がよ
表 20
妊婦,胎児の予後に影響を与える心疾患
規定因子
母体
p
6(2∼21)
0.0044
症候性持続性不整脈
17(6∼47)
0.0001
NYHA>Ⅱまたはチアノーゼ
15(3∼70)
0.0009
7(3∼18)
0.0001
心機能障害**
9(3∼32)
0.0011
NYHA>Ⅱまたはチアノーゼ
8(2∼30)
0.0035
心血管イベントの既往
左心狭窄疾患*
(左室流出路または流入路狭窄)
児
オッズ比(95 % 信頼区間)
(文献 36 より改変)
母体では,心不全,症候性持続性不整脈,脳梗塞の発生をもって予後不良とした.また児では死亡,
未熟児,呼吸促迫症候群,血管内出血,子宮内発育不良を予後不良とした.
注: *,大動脈弁弁口面積< 1.5 cm2 僧帽弁弁口面積< 2.0 cm2,左室流出路収縮期圧較差>40∼50 mmHg
**,駆出率<35∼40 % または拘束型心筋症,肥大型心筋症,チアノーゼ性心疾患
1304
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
り顕著に認められ,これにより心室壁張力が増大してま
明らかに使用禁忌とされている薬は少ない.同様
すます心機能を障害する.
に臨床試験が十分に蓄積されていないので使用が
安全とされている薬も少ない(レベル C).多く
② リスク要因と対処
の文献からその使用が安全とされているのは
心不全を有する妊婦は,その程度が強いほど死亡率が
metyldopa と hydralazine である228).アンギオテン
高い.児については,早期産および胎児発育遅延が多く,
シン変換酵素阻害薬やアンギオテンシン受容体阻
死亡率が高いことが知られている.従って,NYHAⅢ度
害薬は胎児・新生児の腎臓に直接作用して腎不
以上の患者は妊娠しないように勧め,またたとえ妊娠し
全,流産・死産などを引き起こすため禁忌とされ
ても早期に中絶を行うべきとされている
る228,229)(レベル B).
.
35,209,225)
NYHAⅢ度以上の例,心筋機能低下例(駆出率<40 %,
™)子宮血流との関連:降圧効果を重視するあまり血
または拘束型心筋症,肥大型心筋症等)では,チアノー
圧を下げすぎるとそれまでかろうじて維持されて
ゼ例,症候性持続性不整脈例と同様に経過中に心不全,
いた子宮血流のバランスの破綻が起こり,児心音
不整脈等の心血管系イベントを起こしやすいという 36)
に変化をもたらす場合がある.Williams 産科学に
(表 20).
は hydralazine の頻回投与により血圧が急激に低
胎児においてもやはり NYHAⅢ度以上,チアノーゼ
下した結果 fetal bradycardia が認められた症例が
例で,死亡,未熟児,呼吸促迫症候群等のリスクが高く
報告されている 226).同様の変化は metyldopa,
なる.
nifedipine でもみられる.降圧薬投与開始あるい
しかしたとえば駆出率で何パーセント以上なら妊娠継
続が可能か,といった明確なガイドラインが呈示されて
は増量をする際には血圧の詳細な観察を必要とす
る.
いるわけでもなく,また妊娠時の心機能血行動態の変化
£)降圧薬投与の可否とその選択:軽症から中等度の
も予測しがたい点が多い.従って個々の症例において注
高血圧合併妊娠に対する降圧薬の有用性につき
意深く臨床経過,心エコー検査をはじめとした諸検査結
40 論文 3797 例で検討した Cochrane review230)で
果を観察し,病態の変化が認められれば入院の上,適切
は,どの降圧薬が有用であるかは結論付けられな
な加療を行うことが重要である.過労は避けるべきであ
いと報告されている(レベル A).
るが,逆に極度の安静による静脈うっ滞には注意する.
塩分制限はもちろんのことである.
わが国および外国で妊娠中に使用されている主な降圧
薬の特徴,副作用,ならびに授乳に関する注意点を表
22 に示す228,231).
③ 産褥性心筋症
この病態に関しては,心筋症の項目の中の産褥性心筋
2
2 産科の側から
症の項に記載されている.
(9) 高血圧
(1) 避妊治療の実際と注意点
妊娠に見られる高血圧の分類 226)は,妊娠高血圧症候
群の新しい定義・分類として平成 17 年 4 月より変更さ
①避妊を指導する時期
れた.表 21 に示す.高血圧合併妊娠では,正常血圧の
妊娠経過観察中に,その妊娠終了後のさらなる妊娠が
妊 婦 に 比 べ て , 早 産 , Intrauterin growth restriction
望ましくないことが明らかである場合,分娩直後や帝王
(IUGR),周産期死亡,妊娠高血圧症候群などの周産期
切開時は,卵管結紮を行いやすい環境なので,産科医,
異常を伴いやすいことが知られている.中でも,妊娠高
循環器担当医から本人およびその家族に十分な術前説明
血圧症候群を合併すると,常位胎盤早期剥離や周産期死
と同意を得ておくことが望ましい.妊娠継続不可により
亡は増加するといわれている
人工妊娠中絶術を施行する場合も,同様に卵管結紮を施
.また,原疾患も妊娠に
227)
より影響を受けて,悪性高血圧,脳出血,心不全,腎機
行することが可能である.
能障害などが起こりやすくなるので,適切な管理が要求
妊娠出産後の経過観察中に心機能の悪化がみられ,次
される.これには降圧薬の使用が中心となるが,妊娠中
回の妊娠をすすめられなくなった場合は,初回妊娠前の
の薬剤使用にあたっては次のような問題に注意を要する.
評価と同様に,主として循環器担当医の判断で避妊の指
¡)催奇形性:Placebo との比較試験が少ないために
導が開始される.このとき,個々の状況に即した最適な
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1305
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表 21
妊娠高血圧症候群の定義・分類(日本産科婦人科学会 2004)
1.名称:
妊娠中毒症を妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension; PIH)との名称に改める.
2. 定義:
妊娠 20 週以降,分娩後 12 週までに高血圧が見られる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,且つこれら
の症候が偶発合併症によらないものをいう.
3−1.病型分類:
1 妊娠高血圧腎症(preeclampsia)
妊娠 20 週以降初めて高血圧が発症し,且つ蛋白尿を伴うもので分娩後 12 週までに正常に復するもの.
2 妊娠高血圧(gestational hypertension)
妊娠 20 週以降に初めて高血圧が発症し,分娩後 12 週までに正常に復するもの.
3 加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia)
1)高血圧症が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に蛋白尿を伴うもの.
2)高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に,何れか,または両症候が増悪する
もの.
3)蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に高血圧が発症するもの.
4 子癇(eclampsia)
妊娠 20 週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや二次性痙攣が否定されるもの.発症時期により妊娠子癇・分
娩子癇・産褥子癇とする.
3−2.症候による亜分類
1)症候による病型分類
高血圧
蛋白尿
軽症
血圧がいずれかに該当する場合
①収縮期血圧が 140 mmHg 以上で 160 mmHg 未満
②拡張期血圧が 90 mmHg 以上で 110 mmHg 未満
原則として 24 時間尿を用いた定量法で判定し,
300 mg/日以上で 2 g/日未満の場合
重症
血圧がいずれかに該当する場合
①収縮期血圧が160mmHg以上の場合
②拡張期血圧が110mmHg以上の場合
2 g/日以上の場合.随時尿を用いる場合は複数回の
新鮮尿検査で,連続して 3+(300 mg/dl)以上の場合
2)発症時期による病型分類
妊娠 32 週未満に発症するものを早発型(early onset type),妊娠 32 週以降に発症するものを遅発型(late onset type)
とする.
付記
1)妊娠蛋白尿(gestational proteinuria):妊娠 20 週以降に初めて蛋白尿が指摘され,分娩後 12 週までに消失するも
の.病型分類には含めない.
2)高血圧症(chronic hypertension):加重型妊娠高血圧腎症を併発しやすく妊娠高血圧症候群と同様の厳重な管理が
求められる.妊娠中に増悪しても病型分類には含めない.
3)肺水腫・脳出血・常位胎盤早期剥離および HELLP 症候群は必ずしも妊娠高血圧症候群に起因するものではないが,
かなり深い因果関係がある重篤な疾患である.病型分類には含めない.
4)高血圧を h・H,蛋白尿を p・P(軽症は小文字,重症は大文字),早発型を EO(early onset type),遅発型を LO
(late onset type),加重型を S(superimposed type)および子癇を C と略記する.
例)妊娠高血圧腎症は(Hp-EO),(hP-LO)など,妊娠高血圧は(H-EO),(h-LO)など,加重型妊娠高血圧腎症は
(Hp-EOS),(hP-LOS)など,子癇は(HP-EOSC),(hP-LOSC)などと表示する.
避妊法について,産婦人科・循環器科両科の担当医から
下のように実施される.
検討・説明がなされ,患者の納得のもとに最良の方法が
②−1−1
選択される.
②避妊法
②−1
卵管結紮
1306
卵管結紮の方針は決定しておく.ただし,今回出生した
児に障害がある場合や,転帰死亡の可能性が出生後にわ
かる場合もあるので,患者には十分な説明と同意が必要
永久不妊術であり,確実だが,再疎通させることはで
である.
きない.手術のため,入院が必要となり,非妊娠時の施
②−1−2
行は,すでに子供のいる主婦には困難なことが多い.以
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
帝王切開時の卵管結紮
もっとも簡単で確実な卵管結紮が可能である.術前に
経腟分娩後の卵管結紮
分娩翌日,若しくは 2 日後の実施が行いやすい.臍直
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
表 22
主な降圧薬の特徴
1.妊婦への使用に関しては,適応症・禁忌事項を確認すること 2.適応外の場合,メリットとデメリットを十分に説明してインフォームド・コンセントを得ること.
分類/薬剤
特 徴
副 作 用
授乳中の服用
中枢性に作用
Metyldopa
証明済み,FDA では B
母体の倦怠/口渇;急性期には不適
避けるべき
Clonidine
FDA では C
主に妊娠後期に使用,副作用の報告なし
おそらく可能
Atenolol,
Propranolol
使用が簡単
新生児低血糖,徐脈,IUGR,呼吸抑制;妊娠後期に
内服した場合には副作用は認められない
避けるべき
βブロッカー
Sotalol
FDA では B あるいは C
同上;日本では使用経験少ない
避けるべき
Oxprenolol,
Metoprolol
日本では禁忌
新生児への副作用は同上
母体への副作用はほとんどなし
避けるべき
Labetalol
日本では禁忌,欧米では
経口/静注いずれも可
同上,(IUGR は妊娠 6∼13 週に内服開始の大規模試 避けるべき
験では認められず);α阻害作用あり
証明済み,静注のみ有効
母体の頭痛,Non-Reassuring Fetal Status
新生児の振戦,血小板減少;動物で催奇形性
避けるべき
日本では禁忌,ただし Nicardipine は
有益性が胎児への危険性よりまさる
場合には使用,経口
母体の頭痛,動悸;舌下錠あるいは急速静注で血圧
低下に注意;MgSO4 静注との併用時の心筋抑制に
注意;動物で催奇形性(Nifedipine)
避けるべき
血管拡張薬
Hydralazine
Ca 拮抗薬
Nifedipine,
Nicardipine
硝酸薬
Isosobide dinitrate
有益性が胎児への危険性にまさる場合
避けるべき
Angiotensin 変換酵素阻害薬
Captoril,Enalapril 禁忌
Cilazapril,Lisinopril
流死産,新生児腎不全,新生児低血糖,羊水過少症, 避けるべき
中期・末期は禁忌;産褥期は副作用なし
Angiotensin 受容体拮抗薬
Candesartan,
Losartan
禁忌
同上
避けるべき
効果良好,ただし妊娠中の高血圧に対
する利尿薬使用については賛否両論
母体の過度な利尿による子宮循環低下
過度な胎児利尿による脱水,電解質異常
避けるべき
利尿薬
Furosemide
Spironolactone
禁忌については両論あり
Anti-androgenic effects の可能性
おそらく可能
Thiazide
日本より欧米で選択される
新生児の血小板減少,溶血性貧血
避けるべき
授乳中の服用については日本での添付文書による.欧米では異なることあり.
(文献 25,228,231 より一部改変)
下に 10 mm 程度の横切開を加える事で可能である.分娩
熟者であることが求められる.感染については,人工妊
直後に行う理由は子宮が大きく臍直下の切開で卵管を直
娠中絶術に対する感染対策はとられているので問題には
視下に見る事ができるからである.開腹による感染のリ
ならない.麻酔は腰椎麻酔,硬膜外麻酔,全身麻酔のい
スクもあるが,分娩に対する感染対策はとられているの
ずれでも良い.
で問題にはならない.麻酔は腰椎麻酔,硬膜外麻酔,全
②−1−4
身麻酔のいずれでも良い.手術時間は 30 分程度である.
②−1−3
腟式卵管結紮術
内視鏡下卵管結紮術
分娩後,非妊娠時のいずれも,小切開で手術が可能であ
る.気腹を行うので全身麻酔による管理が必要とされる.
子宮内掻爬による妊娠初期の人工妊娠中絶術に続いて
腟式に卵管結紮術が可能であるが,術者が経腟手術の習
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1307
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
②−2
子宮内避妊器具(Intrauterine contraceptive
devices;IUD)
手術操作は容易で,比較的安全な処置とされている.
ただし,挿入時には迷走神経反射に注意する.抜去すれ
ば再び妊娠が可能となる.器具が子宮体部に挿入されず,
子宮頸部にとどまっている場合(挿入不全)があり,避
妊娠が継続しても,胎児は子宮内発育遅延を呈する.
子宮内発育遅延は児の生活環境が悪い事を意味し,高度
になると non-reassuring fetal status(いわゆる胎児仮死)
から死亡にいたる.
安静と酸素投与は有効と考えられ,もし妊娠を継続す
る場合は妊娠の全期間入院管理とする.
妊不成功となることがある.また,排卵推定時期は他の
妊娠の末期まで妊娠の継続が可能な事はまずなく,妊
方法との併用が望ましい.IUD 挿入後は必ず超音波断
娠 30 週前後で何らかの症状が発現し,帝王切開・早
層法で位置確認を行う.1 年に一回交換する.あまり長
産・低出生体重児出生の結果になる.心疾患妊婦管理で
期に交換せずに挿入した状態を続けると,抜去が困難に
NICU が必要な理由がここにある.妊娠の継続を中止し
なることがある.骨盤内感染症時には使用禁止である.
なければならない理由は,肺出血,心不全,低酸素症の
感染性心内膜炎を発症した場合には,原因が IUD であ
進行,non-reassuring fetal status などである.
るか否かにかかわらず使用禁止とし,あらかじめ感染性
心内膜炎のリスクのある心疾患患者には勧められない.
② 開心手術
妊娠中の体外循環の使用の胎児に対する安全性は全く
②−3
低用量経口避妊薬
保証されていない.特に妊娠後半期の体外循環の使用は
避妊効果は高い.月経第 5 日目より服用を開始し,20
確実に胎内死亡となる.もし,妊娠中に開心手術が必要
日もしくは 21 日間服用を続ける.服用中止後 2∼3 日で
になり,児の生存を望む場合は帝王切開を先行させる.
消退出血が始まる.その出血の第 5 日目から次のクール
を開始する.血栓症,心不全のハイリスク群には安全性
が確立していない.わが国では,心疾患に対する使用は
未承認で保険適応がない.
③ 心不全
母 体 が 心 不 全 に 陥 っ た 場 合 , 過 強 陣 痛 と nonreassuring fetal status が先に症状を表す事がある.Nonreassuring fetal status に対して産科医は緊急帝王切開を行
②−4
コンドーム
確実に正しく装着していれば,避妊効果は高い.パー
トナー任せになるので確実性がない.
うようにトレーニングされているが,母体の心不全を伴
う場合は麻酔の導入などかなり慎重に行う必要がある.
徐々に進行してくるうっ血性心不全に対しては,利尿
剤とジギタリスの適応がある.急激な利尿の場合には,
②−5
基礎体温
本人の自覚のみに任せる事になるので確実性はない.
普通はコンドームとの併用を指導する.
子宮循環不全で胎児死亡の危険がある.
④ 母体の頻拍症
発作性上室性頻拍では,可及的速やかに治療を行う.
②−6
パートナーの避妊手術
疾患のある女性が死亡する事もある.パートナーの将
来の生活を考えると積極的には勧められない.
(2) 母体の循環病態が胎児に与える影響
発作に伴う末梢血管の収縮はさほど胎児に影響は与えな
い.自宅で発作が起こった場合は必ず来院させ,治療と
母体・胎児管理を行う.治療の方法は日頃もっとも効果
のある方法が良い.
⑤ 母体の徐脈型不整脈
①Eisenmenger 症候群(肺高血圧の項参照)
しも妊娠がペースメーカ植込みの適応にはならない.分
続しない.妊娠初期の胎内死亡となり,流産となる.一
娩中は出血やショックのためにペースメーカが必要にな
般にヒトの流産は 20 % 位あると考えられ,その半数は
る可能性がある.そこで分娩前に経静脈的ペースメーカ
胎芽の染色体異常である.この場合胎芽死亡の時期は胎
を一時的に挿入し対ショック対策とする事ができる.
芽の心拍動が観察される以前であるが,経皮的動脈血酸
素飽和度が 80∼85 % 以下での胎芽・胎児死亡では一度
心拍が認められてから後の死亡であることが多い.
1308
徐脈でペースメーカを植え込んでいない母体は,必ず
経皮的動脈血酸素飽和度が 80∼85 % 以下は妊娠が継
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
(3) 母体投与薬剤の胎児への影響
妊娠中の母体への薬剤投与に際しては,胎児への影響
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
も考慮する必要がある.それらは,心不全治療薬(表
表 23 に,1984 年から 1997 年の 14 年間における東京
35),抗不整脈薬(表 33),降圧薬(表 22),抗凝固・
女子医科大学母子医療センターでの生存児の神経学的後
抗血小板薬(各論 1)(3)弁膜症および人工弁使用患者
遺症(主として脳性まひ)の発生率を週数別で示す.す
②項参照),抗生剤(表 10)などで,詳細は各項目に記
なわち,妊娠 32 週以降では生存率は 97 %,障害発生率
載してある.
は 1 % となり,妊娠 32 週が早期娩出のひとつの目安と
(4) 妊娠継続可否の判断
①母体からみた判断
禁忌疾患・病態(総論参照)の場合には,母児ともに
極めてハイリスクのため,人工妊娠中絶が奨められる.
心不全,不整脈のため母体の病態が継続的に悪化し,
母体の健康ないし生命が著しく脅かされることが予測さ
れる場合には,妊娠中断(中絶ないし早期娩出)を考慮
考えられる.各施設において,このような治療成績を加
味しながら,娩出時期が決定されるべきである.
表 23
東京女子医科大学母子総合医療センターの治療成績
死亡(%)
障害(%)
<24 週
入 院
20
12(60)
1(13)
24∼27 週
158
19(12)
30(22)
28∼31 週
311
18( 6)
37(13)
32 週以上
3478
87( 3)
30( 1)
(1984 - 1997年)
する.また,母体の病態の継続的な悪化のため,胎児頭
囲の発育が停止した場合には,妊娠の中断(早期娩出)
とする.
心不全悪化の診断は,安静療法にもかかわらず呼吸苦
を訴える,継続的に心拍数が増えていく,浮腫が増強,
(5) 子宮収縮のコントロール
子宮収縮のコントロールは,産科治療に特有の治療で
体重が急速に増加する,などの徴候がみられることによ
ある.切迫流産・早産には,子宮収縮抑制薬が適応とな
る.胸部レントゲン写真では心拡大の進行と肺うっ血の
り,一方,陣痛誘発をする場合や微弱陣痛がみられる場
出現が認められた場合には,循環器専門医にコンサルト
合には子宮収縮促進薬が適応となる.これらの治療では,
する.
循環系への重大な副作用も稀でないため,厳重な観察を
不整脈では,それによる心不全の悪化,危険な不整脈
(心室頻拍発作など)の繰り返しは,妊娠の中断(中絶
ないし早期娩出)を考慮する.
チアノーゼの場合は,チアノーゼ性心疾患の項を参照
する.
②早期娩出時の児の予後
要する.
①子宮収縮抑制
妊娠 37 週未満の早産は,陣痛や破水から早産に至る
自然早産,母体や胎児の適応で早産となる人工早産に分
けられる.心疾患合併妊婦では後者が圧倒的に多いが,
前者の場合もみられる.10 年間における東京女子医大
出産の時期を決定するにあたり,分娩時の妊娠週数別
の検討では,心疾患合併妊婦における自然早産の頻度は
に生存率や,神経学的後遺症を含む生存児の障害発生率
3.4 %(13/381)で,一般的な頻度と差がなかった.し
がどの程度なのかが,大きな要因となる.特に,1000 g
たがって,決してまれな合併症ではなく,切迫早産治療
未満(超低出生体重児)もしくは妊娠 28 週未満の出生
(tocolysis)が必要とされる.Tocolysis の禁忌として,
児(超早産児)の予後は,周産期医療の発達した現在で
母体側の合併症(子癇あるいは重症の妊娠高血圧症候群,
も厳しいことが少なくない.アメリカ産婦人科学会
高血圧,心疾患,出血,甲状腺機能亢進症),胎児側の
(ACOG)が示したこの時期における生存率は,妊娠 25
合併症(胎児死亡,致死的奇形,羊膜炎,non-reassuring
週以降で 75 % であるが,生存児の約半数に何らかの障
fetal status,IUGR)に加え,4 cm 以上の子宮口開大,推
害がみられることを報告している232)(レベル A)
.
定体重 2500 g 以上,妊娠週数 37 週以上などが予想され
わが国の主要施設において,2001 年に出生した児の
る場合などがあげられる233).子宮収縮抑制薬(tocolytic
生存率を妊娠 22 週より 1 週毎に検討したところ,27.2
agent)の投与方法を表 24 に,主な副作用を表 25 に示
%,58.2 %,80.9 %,92.1 %,94 % となった.隣接する
す.短期間での tocolysis は有効とされているが,長期
週での生存率の比較では,22 週と 23 週(p=0.0053),
間での有効性については認められていない 234)(レベル
23 週と 24 週(p=0.0017)で有意差がみられたが,24
B).切迫早産治療の目的で子宮収縮抑制薬を心疾患合
週以降では差はみられなかった.
併妊婦に投与する場合には,頻拍性不整脈の既往がある
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1309
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表 24
投与方法
Ritodrine
Terbutaline(未承認)
Mg-SO4(未承認)
Indomethacin(未承認)
投与禁忌
β刺激(ritodrine)
Mg-SO4
Indomethacin
各種子宮収縮抑制薬の投与方法と禁忌
50μg/min から始め,10∼20 分おきに 50μg/min ずつ増量する
10μg/min から始め,10 分おきに 5μg/min ずつ増量する
4 g を 30 分かけて静注した後に,母体の Mg 血中濃度をモニターしながら子宮収縮が止まるまで
2∼4 g/hr で投与する
25∼50 mg 座薬あるいは内服を 6 時間毎に 48 時間まで
コントロール不良の糖尿病,肺高血圧症
低カルシウム血症,重症筋無力症,腎不全
消化性潰瘍,血液疾患,肝腎機能不全,喘息,膵炎,直腸炎,産科出血
表 25
各種子宮収縮抑制薬使用の際に注意すべき副作用
β刺激剤(ritodrine)
(重大)
肺水腫,急性心不全,無顆粒球症,低カリウム血症,横紋筋融解症,(新生児)心室中隔壁の肥大,腸閉塞
(その他)
頻脈,不整脈(母体,胎児いずれも),肝機能障害,血小板減少,振戦,高血糖,高アミラーゼ血症を伴う
唾液腺腫脹,頭痛,紅斑など
Mg-SO4
肺水腫,呼吸不全,心ブロック,心停止,テタニー,筋マヒ,低血糖,顔面紅潮,体熱感,麻痺性イレウス,横紋筋融解症
(新生児)骨の異常所見(上腕骨近位側骨幹端に放射線透過性の横断像や皮質の皮薄化)
Indomethacin
ショック,肝機能障害,腎不全,消化管出血,喘息,再生不良性貧血,溶血性貧血,皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson
症候群),羊水過少
(胎児)動脈管収縮,腎不全,腸穿孔
(新生児)壊死性腸炎
かどうか,心房性・心室性期外収縮がみられる場合には
者の方が安全性は高い.前者を選択する場合は,注入速
その頻度と重症度を考慮して,禁忌とするかあるいは心
度及び陣痛発作の頻回な確認が必要である.分娩促進中
拍数モニターを装着するなどの注意深い管理下で使用す
には,分娩監視装置を使用し,医師や助産婦の母児観察
るか判断する.
が必須である.特にオキシトシンの場合,効果が現れる
②子宮収縮促進
陣痛誘発をする場合や微弱陣痛がみられる場合には,
投与開始直後 3∼5 分から,効果が安定するまで 40 分間
かかる.このため,オキシトシン増量後の 40 分は過強
陣痛に注意する236−239).
子宮収縮促進剤が使用される.現在では安全性と有効性
過強陣痛を予防するため,投与は少量より開始し,ゆ
から,オキシトシンとプロスタグランディンが主に使用
っくり増量して有効陣痛に至るようにする.1∼3 mIU/
されている
235)
min より開始し,安全限界である 20 mIU/min 以内に留
然陣痛と類似している.
める.また,1 日総投与量は,10 IU 以内にする.これ
.両薬剤ともに,子宮収縮のパターンが自
はオキシトシンには抗利尿作用があり,20m IU/min 以
②−1
オキシトシン
ある.オキシトシンの分娩誘発による分娩後に弛緩出血
ら内圧が高く,規則的な周期で子宮収縮が認められる.
を起こすことがあり,分娩後の第 4 期もオキシトシンを
感受性は妊娠週数によって異なり,個人差も大きい.薬
引き続き使用するとよい.オキシトシンの副作用は表
剤感受性は,妊娠 20∼30 週より増し,34 週から 36 週
26 に,オキシトシンの禁忌は表 27 に示す.
には変化なく,37 週より再び増加する.投与時間が 8∼
10 時間を超えると,感受性は低下し,投与量を増やし
ても有効陣痛を得られないことが多い.投与方法として
は,点滴本体に薬剤を入れて行う点滴静注法または注入
ポンプを使用する持続静脈注入法が行われているが,後
1310
上投与すると,腎クリアランスが著しく低下するためで
オキシトシンによる子宮収縮パターンは,投与開始か
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
表 26
オキシトシンの副作用
との同時投与は著明な過強陣痛のリスクのため避けるべ
①過剰投与による過強陣痛
(間欠期 1 分以内,発作 90 秒以上)
②Non-reassuring fetal status および胎児死亡
③子宮破裂
④分娩後出血
⑤不整脈・血圧変動
⑥大量輸液による肺水腫
⑦悪心・嘔吐
きである.PGE2 の投与は,経口で行う.欧米では腟座
表 27
オキシトシンの禁忌
オキシトシンの絶対禁忌
①全前置胎盤
②常位胎盤早期剥離
③児頭骨盤不均衡(CPD)
④切迫子宮破裂
⑤Non-reassuring fetal status
⑥過強陣痛
オキシトシンの慎重投与
①CPD・Non-reassuring fetal status の疑い
②妊娠高血圧症候群
③心・腎・血管障害症例
④軟産道強靭症
⑤多産婦
⑥胎位異常
②−2
プロスタグランディン
プロスタグランディン(以下 PG と略)236)は不飽和脂
肪酸の一種で,大きく 9 種類に分けられる.そのうち,
子宮収縮作用を有するのは E1,E2,F2αである.妊娠中
は羊膜や子宮筋などで生産され,子宮筋に作用する.半
減期は短く,調節性がある.PGF2αは妊娠末期で使用
されると,投与開始直後は不規則で,内圧が低く,持続
が 1∼1.5 分と長い.その後次第に,発作時間が短縮し,
内圧が低いままでも,分娩は進行する.分娩直前には規
則正しい収縮となり,自然陣痛の子宮収縮パターンと似
た陣痛となる.また,PG 使用中に,胎児頻脈が認めら
れることがあるが,中止すれば回復する.PG は個体に
よる感受性の差が少ない.また,頸管未熟例でも有効で,
陣痛誘発の作用以外に頸管熟化作用を有する.PG はま
た,糖尿病や妊娠高血圧症候群に使用可能である.
PGF2αの投与方法は,点滴静注法または持続静脈注
入法が行われている.過強陣痛を予防するため,オキシ
トシンと同様に,投与は少量より開始する.3μg/min
より開始し,安全限界である 25μg/min 以内に留める.
25μg/min 以上では,過強陣痛の頻度が上昇し,副作用
(下痢・嘔吐・咳など)が出現しやすい.投与中の管理
薬やゲルの腟内,頸管内投与が行われているが,わが国
では承認されていない.
PGE2 は子宮収縮作用と頸管未熟例の頸管熟化作用が
期待できる.通常 1 クールは 1 回 1 錠,1 時間おきで,
計 4∼6 錠投与となっている.効果が認められない時は
翌日以降の再投与となる.他の薬剤誘発法と同様に分娩
監視装置を使用の上,医師と助産婦の母児観察が必要で
ある.PGE2 錠は調節性に乏しいため,陣痛誘発効果が
認められれば,投与を中止して,経過観察する
PG の副作用は表 28 に,PG の禁忌は表 29 に示す.
表 28
プロスタグランディン(PG)の副作用
・オキシトシンと共通するもの
①過剰投与による過強陣痛
(間欠期 1 分以内,発作 90 秒以上)
②non-reassuring fetal status および胎児死亡
③子宮破裂
④分娩後出血
⑤不整脈・血圧変動
⑥悪心・嘔吐
・PG の平滑筋刺激作用によるもの
⑦腹痛・下痢(消化管刺激による)
⑧咳・喘鳴・呼吸困難
(気管支平滑筋の刺激による)
・その他
⑨動悸・頻脈
⑩薬剤静脈投与中,注入部の静脈炎
表 29
プロスタグランディン(PG)の禁忌
PG の絶対禁忌
・オキシトシンと共通するもの
①全前置胎盤
②常位胎盤早期剥離
③CPD
④切迫子宮破裂
⑤Non-reassuring fetal status
⑥過強陣痛
・PG の平滑筋刺激作用によるもの
⑦緑内障,眼圧亢進症例(PGE2, PGF2α)
⑧喘息(PGF2α)
PGの慎重投与
・オキシトシンと共通するもの
①CPD・non-reassuring fetal status の疑い
②胎位異常
③軟産道強靭症
④心障害症例
⑤多産婦
・その他
⑥喘息の既往歴を伴う症例
⑦悪心・嘔吐がある症例
についてはオキシトシンに準ずる.また,オキシトシン
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1311
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
(6) 分娩法の選択の判断
拡大を伴うマルファン症候群と,分娩前にワーファリン
からヘパリンへのコントロール不良の人工弁装着の場合
とされている241).その他のハイリスク群に属する場合で
①分娩時の循環病態
も帝王切開を考慮することがある4).また,心臓手術後
心疾患合併妊婦において分娩は,最も血行動態が変化
の運動能力評価において,自覚的には日常生活に不便を
する時であり,生命への危険が及ぶ可能性を念頭に,慎
感じないとされていても,実際に運動をしてみるとごく
重に管理を行わなくてはならない.分娩が開始されると,
軽い運動でも支障が生じるということもあるため,分娩
心拍出量は陣痛開始前と比べて 13 % 増加すると言わ
による負荷に対する心血管耐容能力を正しく判断するこ
れ,子宮収縮時にはさらに 34 % 増加し,総計約 50 %
とが重要である.これは心疾患の種類によらず,全般に
は増加すると言われている240).また,分娩中は心拍出量
わたり注意を要する.
の変化を減少させるために左側臥位をとることが推奨さ
産科処置としては,母体負荷を軽減するために,分娩
241)
れている .これは,仰臥位低血圧症候群を予防するた
第 2 期を短縮する目的で,吸引や鉗子分娩を行うことも
めにも有用である.
ある.中等度∼高度リスク群では,少なくとも分娩後
72 時間はモニター管理を行う必要がある.一般に,分
②分娩方法の選択
娩後にもとの安定した血行動態へ戻るまでに 4∼6 週間
一般的に経腟分娩が推奨されるが,一部の例外的な症
例では帝王切開術が選択される(表 30).心疾患の中で
帝王切開術の適応が明らかとされるものは,大動脈径の
表 30
帝王切開の適応
一般
1)母体適応
①児頭骨盤不均衡(COD)
②軟産道強靭
③狭窄,瘢痕,骨盤内腫瘍により経腟分娩が困難
な時
④子宮破裂の危険がある時(前回帝王切開,子宮
筋腫核出術などの既往)
⑤母体に危険が迫っている時(重症妊娠高血圧症
候群,子癇,前置胎盤,常位胎盤早期剥離,心
疾患,肺疾患,腎疾患,肝疾患などの合併な
ど)
⑥試験分娩,吸引分娩,鉗子分娩によっても経腟
分娩不可能と考えられるとき
2)胎児適応
①Non-reassuring fetal status
②臍帯脱出
③遷延横位,胎位・胎勢・回旋異常
④胎児の未熟性が予測される骨盤位
母体心疾患
①心機能低下
②血圧変動がきっかけで循環動態が破綻しやすい
場合
マルファン症候群,有意な大動脈縮窄,大動
脈弁狭窄,高度肺動脈狭窄
フォンタン術後(経腟分娩が可能のこともあ
るが極めてまれ)
③肺高血圧
④コントロールが困難な不整脈
⑤人工弁
⑥チアノーゼを呈する場合
かかる.
③麻酔(次項参照)
分娩に際し,硬膜外麻酔を行うことは,心拍出量を減
少させるため負荷の軽減に有用であり,また疼痛緩和が
行えるため,患者の不安を取り除くことも可能である.
さらに産科的緊急処置に速やかに対応できるといった利
点もある.
(7) 出産時の麻酔
①必要性
分娩中の血行動態は,体位,分娩様式,陣痛,麻酔の
程度などに大きく影響を受ける(第 1 章総論).したが
って,妊婦が合併する心疾患の種類と程度によっては,
これらの影響を緩和するための鎮痛・全身管理と適切な
モニタリングが,経腟分娩に際しても必要となる.硬膜
外麻酔による鎮痛法は,血行動態変化が少なく,効果的
な鎮痛を提供できる優れた方法である(レベル C).
②適応と禁忌
硬膜外麻酔の良い適応となるのは,頻脈性不整脈,虚
血性心疾患,逆流性弁疾患,僧帽弁狭窄症などである.
相対的禁忌とされる疾患は,大動脈弁狭窄症,閉塞性肥
大型心筋症,有意の右左シャントを伴う先天性心疾患,
Eisenmenger 症候群,人工弁置換術後で抗凝固療法を受
けている患者などである.
③麻酔前評価
心疾患合併妊婦においても,産科的適応により妊娠正
1312
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
期前に緊急帝王切開術を必要とする場合があるため,十
分早い週数に麻酔科医によるコンサルテーションを受け
ることが望ましい.その際には,心疾患の病態と治療経
過,妊娠中の状態変化と現在の心機能,手術・麻酔歴と
その問題点,産科的経過と分娩方針について,循環器科
医師や産婦人科医から十分な情報を得る.
ル C).
なお,抗凝固療法を継続している場合には硬膜外血腫
などのリスクがあり,この方法は避けるべきである.
⑤帝王切開術における麻酔法選択
心疾患合併妊婦の帝王切開においては,個々の心疾患
特に妊娠出産におけるリスクが高いと考えられる先天
の病態を考慮して,最も安定した血行動態を提供できる
性心疾患の場合,現在の血行動態と,周産期における血
方法を選択する.ある麻酔法が他の方法より優れている
行動態管理目標と許容範囲について,小児循環器科医よ
という証拠はない.通常は,麻酔範囲を徐々に広げてい
り助言を得る必要がある.それらに基づき,経腟分娩,
く硬膜外麻酔か,オピオイドを用いた全身麻酔が選択さ
予定帝王切開,緊急帝王切開のそれぞれについて,麻酔
れる(レベル C).
と周術期管理の計画を立て,患者に説明する.
麻酔法選択に際して考慮すべき点を表 31 にまとめて
示す.また個々の心疾患において,経腟分娩の鎮痛法や
④硬膜外無痛分娩の方法
帝王切開術の麻酔法につていの報告を表 32 に示す.
妊婦は麻酔中の誤嚥性肺炎の危険性が高いため,麻酔
新生児がオピオイドなど麻酔薬の影響下に娩出される
開始8時間前には絶飲食とする.下部腰椎間に留置した
ことをあらかじめ新生児科医に伝え,分娩時のスタンバ
硬膜外カテーテルより,低濃度局所麻酔薬(0.25 % ブ
イと適切な対処のできる体制をとる.
ピバカイン)を 3ml ずつ 9∼12 ml まで少量分割注入し,
T10 以下の無痛域を得る.その後 0.1 % ロピバカインな
(8) 母体投与薬剤の母乳への移行と乳児への影響
どとフェンタニル 2μg/ml 混合液を 6∼12 ml/hr で持続
問題となるのは,抗凝固・抗血小板薬,抗心不全薬お
硬膜外注入し,急激な交感神経遮断を避けつつ十分な鎮
よび降圧薬(表 22),抗不整脈薬(表 33)である.授
痛を図る.分娩中は側臥位とし,適切なモニタリングを
乳中のワーファリン内服については問題ない.アスピリ
継続する.子宮収縮に伴う変動を的確に把握するために
ンは妊娠中の低用量内服が認められる方向へと検討され
は,観血的モニタリングや胸壁心エコーの有用性が高い
ている途中であるが,授乳中の内服に関してはまだ“避
けるべき”とされている段階である.その他は,夫々の
(レベル C).
出産時には努責を避け,鉗子・吸引分娩により分娩第
表を参照すること.
Ⅱ期短縮を図る.子宮収縮薬はそれぞれに特有の心血管
系に対する副作用があるため,必要ならばオキシトシン
を持続静注で用いることで,影響を最小限にする(レベ
表31
誤嚥性肺炎リスク
心疾患合併妊婦の帝王切開術の麻酔法選択に際して考慮すべき点
脊髄くも膜下麻酔
硬膜外麻酔
全身麻酔
殆どなし
殆どなし
あり
交感神経遮断
急激
緩徐
軽微
交感神経刺激
なし
なし
挿管・抜管時
体血管抵抗
低下
低下
浅麻酔で上昇
麻酔薬により低下
肺血管抵抗
調節困難
調節困難
人工換気により調節可能
胸腔内圧
不変
不変
調節呼吸で上昇
心収縮力
不変
不変
抑制する可能性
経食道心エコーモニタリング
苦痛
苦痛
容易
症状の訴え
抗凝固療法中
可能
可能
不可能
避ける
避ける
リスクは低い
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1313
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表 32
疾 患
不整脈
頻脈性不整脈
頻拍
上室頻拍
心室頻拍
先天性 QT 延長症候群
不整脈源性右室異形成
細動と粗動
心房細動
心室早期興奮症候群
WPW 症候群
徐脈性不整脈
洞徐脈・洞停止
完全房室ブロック
人工ペースメーカ
虚血性心疾患
狭心症
心筋梗塞 急性
陳旧性心筋梗塞
川崎病冠動脈障害
先天性心疾患
Eisenmenger 症候群
肺動脈狭窄症
先天性右肺動脈欠損症
三尖弁閉鎖症
Fontan 術後
Ebstein 奇形
完全大血管転位症
Mustard 術後
大動脈縮窄症
肺動脈閉鎖症 心室中隔欠損症
肺動脈閉鎖症,IVS
修正大血管転位症
両大血管右室起始症
総動脈幹症
冠動脈奇形
単心室
後天性弁膜症
僧帽弁狭窄症
僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁逸脱症候群
大動脈弁狭窄症
大動脈弁閉鎖不全症
MS+AS
MS+AR
AR+MR
感染性心内膜炎
心筋疾患
心筋症
肥大型心筋症
拡張型心筋症
周産期心筋症
特発性心筋疾患
大動脈疾患
大動脈炎症候群(高安動脈炎)
先天性結合組織疾患に伴う心血管病変
Marfan 症候群
肺性心疾患
原発性肺高血圧症
基礎疾患と麻酔法
経腟分娩
麻酔なし
脊麻
○
◎
帝王切開術
硬膜外鎮痛
◎
◎
●
○
脊麻
硬膜外麻酔
●
○
○
●
脊硬麻
全身麻酔
●
◎
◎
◎
○
○
◎
●
◎
●
◎
◎
他の麻酔法
○
●
●
○
○
○CSE
●
○
◎
●
●
●
●
◎
●持続脊麻
●
○
●
●
●
○
●持続脊麻
●持続脊麻
●
●
●
●
●
●
●
●
◎
◎
○
○
●
●
●
●
●
●
●
●
●
◎
●
○
●
●
◎
●
●
●
○
●
◎
○
●
●
●
●
●
●
○
○
○
○
◎
●
○
○
●
◎
◎
◎
●
●
◎
●
◎
●
◎
◎
●
◎
◎
●
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
●
◎
○
●
○が日本のみの報告,●が外国のみの報告,◎は内外で報告あり
1314
鎮静薬
○
局所浸潤
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
ると考えられるが,それらでの抗不整脈薬使用経験はさ
3
3 母体の治療と注意点
らに限られており,疾患固有の血行動態,心機能などを
考慮して使用すべきである.
非薬物治療として,妊娠前に或いは妊娠中,カテーテ
(1) 抗不整脈治療
ルアブレーションを施行する場合がある 205,244).また,
妊娠中の電気的除細動は安全とされている245).妊娠中に
①基本的事項
心エコー検査ガイドのもとに電気生理学的検査を施行し
妊娠中,不整脈によって有意な血行動態の変化を生じ
た報告がある246).ペースメーカ装着後例は,比較的安全
る場合,母体,胎児へ与える影響が大きく,緊急治療を
に出産できる201).妊娠中にペースメーカを装着すること
要することも多い.
も可能であるが205),妊娠中に悪化が予想される徐脈型不
抗不整脈薬治療の場合には,母体,胎児への影響を考
整脈は,器官形成期での放射線照射を避ける意味から妊
慮する必要がある. 特に,妊娠初期 3 ヶ月は,抗不整脈
娠前にペースメーカ装着を考慮する必要がある.
薬投与は避けるべきとされている242,243).母体,胎児と
②治療の適応と実際
もに安全性の確立している抗不整脈薬はなく,すべての
抗不整脈薬は投与に厳重な注意を要する155,205,206,242,243).
②−1
米国 Food and Drug Administration による Pregnancy
②−1−1
Category と妊娠中の不整脈薬投与に関する勧告(表 17),
頻脈性不整脈
期外収縮
妊婦でない場合と同様に,基礎心疾患がなく,無症状
及び米国小児科学会による薬剤の母乳分泌の有無に関す
または軽度の症状の場合は,原則として治療の対象とな
る勧告208)を併記する(表 33).これらの勧告は,形態
らない.
的,機能的に正常と考えられる心臓に合併した妊娠中の
②−1−2
発作性上室性頻拍(PSVT)(表 34)
不整脈に対する抗不整脈薬の限られた使用経験に基づい
Siu 等36)によれば,PSVT 既往の妊婦では 36 % で妊娠
たものである.先天性心疾患やその術後もこれらに準ず
中に発作が再発したと報告している.従って,妊娠前か
表 33
妊娠時の抗不整脈薬
注意事項
1.妊婦への使用に関しては,適応・禁忌を確認すること
2.適応外または禁忌との記載がある場合,メリットとデメリットを十分に説明してインフォームド・コンセントを得ること.
クラス
FDAクラス
適 応
副 作 用
催奇形性
授乳中の服用
キニジン
IA
C
種々の不整脈
血小板減少
無し
可能
プロカインアミド
IA
C
種々の不整脈
ループス様症候群
無し
可能
ジソピラミド
IA
C
種々の不整脈
子宮収縮
無し
可能
リドカイン
IB
B
VT
徐脈 中枢神経系副作用
無し
可能
メキシレチン
IB
C
VT
徐脈 中枢神経系副作用 低出生体重児
無し
可能
フェニトイン
IB
D
ジギ中毒
胎児ヒダントイン症候群
有り
可能
フレカイナイド
IC
C
VT,SVT
正常な心臓では無し
無し
可能
プロパフェノン
IC
C
VT,SVT
正常な心臓では無し
無し
不明
プロプラノロール
II
C
SVT,VT,Af
発育遅延 徐脈 低血糖
無し
可能
アテノロール
II
C
SVT,VT,Af
低出生体重児
無し
注意を要す
III
D
VT
甲状腺機能低下 低出生体重児 奇形
有り
避けるべき
II,III
B
VT,SVT
徐脈
無し
可能
薬 剤
アミオダロン
ソタロール
IV
C
SVT,VT,Af
低血圧 徐脈
無し
可能
アデノシン
NA
C
SVT
無し
無し
不明
ジゴキシン
NA
C
SVT,Af
低出生体重児
無し
可能
ベラパミール
(文献155,208を改変)
クラスは不整脈薬の Vaughan Williams 分類による.
FDA クラス;薬剤胎児危険度分類(米食品医薬品局)(表 17)
VT;心室頻拍,SVT;上室性頻拍,Af;心房細動,NA;クラス外.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1315
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
表 34
妊娠中の発作性上室性頻拍に対する治療指針
治療戦略
上室性頻拍発作の停止
推奨される治療
推奨クラス
副交感神経刺激
I
C
アデノシン
I
C
DC
予防的治療
エビデンスのレベル
I
C
メトプロロール・プロプラノロール
IIa
C
ベラパミル
IIb
C
ジゴキシン
I
C
I
B
プロプラノロール
IIa
B
ソタロール・フレカイニド
IIa
C
キニジン・プロパフェノン・ベラパミル
IIb
C
プロカインアミド
IIb
B
カテーテル治療
IIb
C
アテノロール
III
B
アミオダロン
III
C
メトプロロール
(文献 193 から引用)
推奨クラス I
常に推奨される
IIa どちらかというと推奨される
IIb どちらかというと推奨されない
III 行われるべきではない
ら PSVT が確認されている症例においては,妊娠前に高
ている245).安定した VT の場合は lidocaine,mexiletine
周波カテーテルアブレーションを行う事が望ましいと考
および procainamide の投与が安全または比較的安全と考
えられる.
えられている 249).また,右室流出路起源の場合はβ-
妊娠中に持続する PSVT が認められる場合は,胎児血
流障害を来たすため,早急な治療が必要となる.血行動
blocker が有効な場合が多い195).
②−1−5
QT 延長症候群
態が安定している場合は迷走神経刺激法を試みる.これ
心停止や失神発作などのイベントは妊娠期間中と比較
らの方法で停止が得られない場合は,ATP の静脈内投
して,分娩後に多く認められると報告がある 199).β-
与(5∼10 mg)が安全かつ有効と考えられている .
blocker による予防的治療の継続が妊娠期間中のイベン
242)
長期間の発作予防が必要な場合は,β-blocker または
digoxin の投与が比較的安全と考えられている247).しか
ト発生を有意に抑制することから,β-blocker の継続が
必須であると報告されている199).
し,抗不整脈薬の項目でも述べられているが,非特異性
β-blocker は妊娠前期の投与は避けて,心臓特異的なβ
徐脈性不整脈
妊娠期間中の有症候性の洞不全症候群や房室ブロック
えられている 247).また,薬剤抵抗性で incessant 型の
の場合は恒久的ペースメーカ植込みの適応となる202,205,206).
PSVT 症例では,妊娠後半で高周波カテーテルアブレー
一時的ペースメーカおよび恒久的ペースメーカに関して
ションを安全に行えたとの報告もある248).
は,胎生 8 週以後の器官形成後であれば,照射線量を最
②−1−3
小限に抑えた状態で,比較的安全に行えると考えられて
心房粗動,心房細動
血行動態が不安定な場合は電気的除細動を施行する
が,頻脈性心房細動では心拍数コントロールのために
β-blocker および digoxin の投与が必要となる 249).尚,
妊娠中の電気的除細動は安全とされている245).
②−1−4
1316
②−2
1-blocker(metoprolol)を使用することが望ましいと考
心室頻拍(VT)
いる198).
③心疾患患者の不整脈
③−1
妊娠時不整脈の母体,胎児に与える影響
不整脈治療の原則は前項の通りであるが,心疾患合併
持続性 VT で血行動態が不安定であれば,直ちに電気
の場合にはその他に心機能異常や血行動態異常を勘案し
的除細動を行うが,妊娠中の電気的除細動は安全とされ
なくてはいけない.心疾患術後患者は妊娠中有意な不整
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
脈を認める場合でも,厳重な観察或いは的確な抗不整脈
治療を行えば,罹病率は高いものの母体死亡は少な
い 94,99,199,250).ただ,妊娠中に頻拍型不整脈を伴うと,
原疾患に基づく血行動態や心機能の異常があれば,母体,
類基準(表 17)を参考にした考え方を表 35 に示す.
①利尿薬
急性の心不全にはフロセミドが一般的である.母親の
胎児ともに罹病率が高く,母体死亡もあり得る.胎児の
循環改善が主であるが,注意事項としては過度な利尿に
流死産,低出生体重児の頻度は高い 94,99,200,249).また,
よる子宮循環低下,胎児利尿による脱水や電解質バラン
慢性心房細動は器質的心疾患を伴う母体で生じると心不
スの異常などであろう.
全を伴いやすく,流産が多い
.なお,抗血小板・抗凝
193)
固薬の影響については各論 1)(3)弁膜症および人工弁
使用患者 ②項参照のこと.
②ジギタリス
主として,頻脈性心房細動時の心拍数コントロール目
的に使うことが多い.胎盤を容易に通過するが,胎児血
③−2
妊娠継続の可否
中のジギタリス濃度は母体よりも低濃度(50∼100 %)
心疾患と不整脈の合併のみで血行動態的な影響が無い
場合には,妊娠中絶の適応にはならない.帝王切開は,
緊急の胎児因子による他,基本的に母体の心血行動態の
重症度により適応を決定する.不整脈を伴う先天性心疾
患術後患者の妊娠全体を総合すると帝王切開を行うこと
に維持され大きな問題となることはない.引き続き使用
する場合の注意点については,後の項を参照する.
③硝酸製剤
血管拡張に伴う減負荷効果を期待して急性心不全治療
は比較的少なく,多くは経腟分娩が可能である99).
に使われる.
(2)a
④PDEⅢ阻害剤
抗心不全治療:急性∼亜急性
妊娠中の薬物投与の可否についてはヒトでの臨床試験
血管拡張薬作用と心収縮力増強作用を併せ持ち体内貯
が困難なことから,動物実験の結果からの類推が大半で
水傾向の心不全には使いやすい.ミルリノンは「妊婦に
ある.しかしこの結果がそのままヒトにあてはまるわけ
対しては,治療上の有益性が危険を上回ると判断される
もなく,現時点では妊娠中の薬剤の使い方に関する明確
ときのみ使用する」に分類されるが,オルプリノンは禁
なガイドラインを示すことはできない.薬剤添付文書お
忌とされている.
よびアメリカ食品医薬品局(FDA)の薬剤胎児危険度分
表 35
妊婦に対する心不全治療薬の薬剤危険性
添付文書
FDA 勧告(表 19)
フロセミド
2
1
トリクロルメチアジド
2
2
スピロノラクトン
2
1
2
1
ニトログリセリン
2
1
硝酸イソソルビド
薬 剤
利尿剤
ジギタリス
硝酸剤
2
1
アンギオテンシン変換酵素阻害薬
1
初期:1,中・末期:2
アンジオテンシン受容体拮抗剤
1
初期:1,中・末期:2
PDE III 阻害剤
ミルリノン
2
オルプリノン
1
ハンプ
2
カテコラミン
2
添付文書
1 禁忌 2
治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1317
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
ヒトの妊娠初期の投与で,関連した催奇形は報告されて
⑤カテコラミン
いないが,妊娠後期の投与により,新生児の血小板減少
概ね安心して使えるが,添付文書では「治療上の有益
や253),溶血性貧血254),新生児の低血糖の報告があり255),
性が危険を上回ると判断されるときのみ使用する」に分
低カリウム血症,低ナトリウム血症により胎児が徐脈を
類されている.
呈した症例256),母乳の移行は少量であるが母乳分泌低下
(2)b
の報告がある257).
抗心不全治療:慢性
④スピロノラクトン
①はじめに
動物では胎仔への抗アンドロゲン作用があると推測さ
本章では,1998∼1999 年度日本循環器学会学術委員
れているが,ヒトでは催奇形や有害作用の報告はみられ
会合同研究班による慢性心不全治療ガイドラインの慢性
ない228).妊婦への投与報告は少ないため安全性は明らか
心不全の薬物療法 249)に記載されている薬剤を中心に,
でない.
動物発生毒性試験(以後生殖試験),ヒトにおける催奇
形や胎児新生児の有害作用,母乳への移行性を述べる.
いずれの薬剤においても抗心不全治療を目的とした妊婦
への使用報告がないため,本稿では抗不整脈薬あるいは
ラットにおける生殖試験では,胎仔の発育遅延,水腎
降圧薬として使用した際の副作用を記述したが,特に慢
症,骨化障害が報告されている.ヒト妊婦の妊娠中期と
性心不全の母体(および胎児)
の状態によって,血行動態
末期の投与により,胎児の腎形成障害,羊水過小症,頭
や薬効などが影響を受ける可能性を考慮する必要がある.
蓋骨低形成,肺低形成,四肢拘縮,新生児の腎不全や無
尿,動脈管開存,IUGR(子宮内発育遅延),新生児死亡
①ジゴキシン
の報告がある 258,259).アンギオテンシン変換酵素阻害薬
ジゴキシンは強心薬,抗不整脈薬として,以前から広
により胎児の低血圧と腎血流低下が生じて腎形成の障害
く心疾患合併妊婦に使用されている.胎盤通過性は 0.5
をきたし,尿量減少により羊水過少,骨格障害が引き起
∼1.0 と良好であり ,胎児の頻拍性不整脈治療にも用
こされると推測されているが,病理学的には尿細管の変
いられることがある.ヒトでは低出生体重児の報告があ
性が主体であり成因はまだ明らかではない228,260,261).
35)
るが35),比較的安全に妊婦に投与できるとみなされてい
本薬剤は一般に慢性心不全患者に対して薬剤の忍容性
る.妊婦では循環血液量の増加などにより血中濃度が上
がある限り投与が推奨されているが,妊婦だけではなく
昇し難い一方で,尿量の減少などにより排泄が低下する
ことがあり,さらには投与過多の母体からの出産児が死
亡した報告もあり256),血中濃度のモニターが勧められて
いる(レベル C).
②ループ利尿薬(フロセミド,エタクリン酸,ブ
メタニド,ピレタニド,アゾセミド)
生殖試験では,母獣死亡,流産,胎仔の重症な水腎症
と骨格異常の報告がある
.フロセミドは,ヒトの胎盤
228)
妊娠を予定する場合でも投与を中止する必要がある.
(レベル C)
⑥アンギオテンシン受容体拮抗薬(ロサルタン,
カンデサルタン)
ロサルタンのラット母獣への投与により,胎仔の体重
減少,腎臓の病理組織変化(腎盂の拡大,腎乳頭浮腫,
皮質内細動脈の内膜肥厚,慢性の炎症性変化,腎実質の
不規則な瘢痕)の報告がある262).
を通過するため,出生直後の新生児に利尿作用と電解質
本薬剤はアンギオテンシン変換酵素阻害薬に比しヒト
異常をきたす .明らかな催奇形や胎児の有害作用の報
妊婦での使用報告は少ないため,安全性については不明
告はないが,一般に利尿薬は胎盤の血流障害を生じる可
である.結節性動脈周囲炎を基礎疾患とした高血圧の妊
能性があるため,慎重に投与する必要がある
婦へのロサルタンの投与により,妊娠経過中に羊水過少
228)
(レベル
228)
C).
③サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド,
トリクロロメチアジド)
生殖試験では催奇形や胎仔の有害作用は認められず,
1318
⑤アンギオテンシン変換酵素阻害薬(カプトプリ
ル,エナラプリル,リシノプリル)
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
症,子宮内胎児死亡が生じ,腎には異常を伴わず顔面と
四肢に奇形が認められた報告と263),妊婦に対するカンデ
サルタンの投与により新生児の運動神経麻痺と一時的な
無尿,血清クレアチニンの上昇がみられた報告がある264).
アンギオテンシン受容体拮抗薬はアンギオテンシン変換
心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン
酵素阻害薬と類似しているため,これと同様な胎児の腎
不全患者に対する長期投与については否定的な報告が多
形成障害,腎不全をきたす可能性が示唆されている 228)
い.妊婦への投与報告がないため,副作用などは不明で
ある.
(レベル C).
⑦β遮断薬(カルベジロール,メトプロロール,
ビソプロロール;本邦ではカルベジロールのみ
慢性心不全に対する保険適応が認可されている)
⑪まとめ
1,妊娠の可能性がある慢性心不全患者への投与が避け
られるべき薬剤
ラットでは生殖能力の減退や交配回数の減少,母獣の
アンギオテンシン変換酵素阻害薬とアンギオテンシン
多量投与で胎仔の体重減少や骨格異常が報告されてい
受容体拮抗薬があげられる.新生児の血小板減少症や溶
る228).
血性貧血をおこす可能性があるため,サイアザイド利尿
現在までにヒトでメトプロロールに関連した催奇形や
薬は妊婦に対する投与は避けられるべきである.他の利
胎児の有害作用の報告はなく,カルベジロールとビソプ
尿薬は胎盤の血流障害をきたすことがあるので慎重に投
ロロールには妊婦への投与報告がない.ただし他のβ遮
与する.投与報告の少ないβ遮断薬,スピロノラクトン
断薬(アテノロール,プロプラノロール)では IUGR
(子宮内発育遅延)や胎盤の重量低下の報告があるので,
などは,妊婦の投与での安全性については明らかでない
(レベル B).
2,比較的安全に使用できる薬剤
同様の作用をきたす可能性がある228).
メトプロロールは母乳での濃縮が報告されているの
で,授乳は避けられるべきである265)(レベル C)
.
ジゴキシン,ループ利尿剤,ヒドララジン,硝酸イソ
ソルビドがあるが,継続使用する場合には血行動態や血
中濃度の測定を行う(レベル B).
⑧末梢血管拡張薬
3,授乳を避けるべき薬剤
慢性心不全で使用される末梢血管拡張薬には,ヒドラ
メトプロロール,アミオダロンは,母乳での濃縮が報
ラジン,硝酸イソソルビドがあげられる.ヒドララジン
告されているため授乳はさける.母乳に移行するあるい
は以前から妊娠高血圧症候群における高血圧の第一選択
は移行するかが不明な薬剤については,原則的に授乳中
薬として用いられているが,ヒトの胎盤を通過し,胎児
の使用を避けるべきではあるが,ごく少量しか移行しな
の血中濃度は母体の濃度と同等あるいは母体よりも高値
になると報告されている266).妊婦への投与により胎児の
頻拍性不整脈や 267),母体に SLE 様症状が生じ,IUGR
(子宮内発育遅延)で出産された新生児が心タンポナー
デで死亡したとの報告がある268).
硝酸イソソルビドは,妊婦の投与で母体の血圧の低下
や心拍数の上昇は認められるが,胎児への悪影響を示す
報告はない
い薬剤は乳児の副作用について注意しながら使用できる
(レベル C).
3
その他
①バルーン弁拡大術
肺動脈弁狭窄症や大動脈弁狭窄症,および僧帽弁狭窄
症を伴う妊娠・出産では妊娠経過中の心拍出量増大に伴
.
228)
い圧較差も増大することが知られている1,4,8).通常,そ
⑨アミオダロン
の変化は許容範囲内であり,心不全症状の出現を認める
母体投与で,胎児の先天性甲状腺機能低下症の報告が
ことは少ない.しかしながら,狭窄の程度が強い場合,
.また,新
妊娠経過中に心不全症状が増悪することが報告されてい
生児の QT 延長例もある228).母乳への移行が高いため授
る.このような状況において,バルーンを用いた妊娠中
乳はさける
のカテーテル治療の有効性が報告されている.いずれも
多いが
,甲状腺機能亢進症の報告もある
269)
270)
(レベル C).
228)
アミオダロンは半減期が長く脂肪蓄積があることか
経験は限られており,緊急避難的意味合いが強い.この
ら,妊娠の可能性がある場合および妊娠中の投与を避け
ため妊娠経過中のバルーン拡大術を主体とするカテーテ
る (FDA カテゴリ D:表 17)(レベル C).
ル治療は,あくまでも急性の心症状の改善を目的に施行
271)
⑩経口強心薬
ピモベンタン,ドカルパミン,デノパミン,べスナリ
ンが経口強心薬として本邦で認可されているが,慢性心
されるものであり,通常のカテーテル治療の治療基準を
そのまま適応するものではない.しかしながら心エコー
所見などから,妊娠継続に伴いきわめて重篤な合併症が
発生する可能性のある場合にはその適応を考慮する.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
1319
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003−2004 年度合同研究班報告)
各狭窄病変に起因する妊娠経過中の心症状(すなわち
動悸,息切れなどの症状)は,心疾患に起因するものか
弁逆流の悪化などが,心臓血管外科手術の適応であ
る1,79,275,276).
通常の妊娠経過に伴う一過性のものか,鑑別が困難な場
妊娠中の人工心肺の運転は,母児ともに悪影響を及ぼ
合が多い.カテーテル治療に際しては,存在する心症状
す.心臓外科手術では,手術中に母体の低心拍出量を生
が狭窄病変によってもたらされているという評価を客観
じるが,この影響から胎児を守ることが非常に大切であ
的に行う必要がある
.また,狭窄病変の評価は妊
る.胎児側からみれば,高流量,高血圧(動脈平均圧を
娠経過を通して複数回行う必要があり,特に妊娠前との
高く保つ),拍動流で,低体温をさけ,さらに人工心肺
比較が重要である.
運転時間が短いことがもっとも望ましい.超低体温はさ
4,272,273)
治療時期は胎児の器官形成時期を経過した後,妊娠
けるべきだが,中等度低体温は比較的安全であるとされ
18 週以降に行われるべきである.さらに胎児への放射
る275)(レベル B).人工心肺運転中の胎児心拍モニター
線被爆を最小限にとどめるように,母体腹部周囲を放射
は,必須である.胎児を安定した状態に保つには,胎児
線遮蔽用具で保護する必要がある
心拍数を一定に保つことが大切である.徐脈発生時,そ
.
273,274)
治療の対象は明らかな心症状を有する肺動脈弁狭窄
の多くは,人工心肺流量を増加することにより回復する.
症,大動脈弁狭窄症,僧帽弁狭窄症,末梢性肺動脈狭窄
妊娠時の開心術による胎児死亡は 12.5∼20 %78,275)(レベル
症が考えられる.大動脈縮窄症においては組織学的に存
B),妊娠中の心臓血管外科手術による母体死亡率は低
在する大動脈壁の cystic medial necrosis が妊娠に伴いさ
い(最近では死亡率 0 %)という海外の報告があるが275),
らに脆弱性を増している可能性があり,バルーン拡大術
わが国での経験を総合すると特に妊娠後半期での開心手
の適応は危険である.また大動脈弁狭窄症のバルーン拡
術は母児両者ともに生命予後は極めて不良といわざるを
大術では,大動脈弁閉鎖不全の発生を最小限に抑える必
得ない.したがって,内科的治療が限界で,母体に明ら
要があり,慎重なバルーン選択が必要である(クラスⅡ,
かな悪影響を及ぼすと考えられる場合以外は,妊娠中の
レベル C).
心臓外科手術はさけるべきである(レベル C).妊娠中
のカテーテルインターベンション治療は,可能な限り手
1,肺動脈弁狭窄症,および末梢性肺動脈狭窄症
適応:圧較差 50 mmHg 以上.バルーン径:肺動
脈弁輪径の 100∼140 %
2,大動脈弁狭窄症
術治療を避けるという意味で有用であり,多くは 25 週
前後に行われている276,277).
人工心肺運転中に子宮収縮抑制化作用を持つプロゲス
テロン濃度が下がるため子宮収縮が始まることがあ
適応:左室−大動脈圧較差 50 mmHg 以上.弁口
る278).人工心肺運転中に陣痛が起こると胎児死亡を起こ
面積 0.6 cm2/m2 以下,バルーン径:大動脈弁輪の
すことが多いため,人工心肺運転中は子宮収縮が起こら
80∼100 %
ないようにあるいは収縮を抑えるように,監視する必要
3,僧帽弁狭窄症
がある275).この影響を防ぐためにプロゲステロン投与が
適応:肺うっ血症状,心房性不整脈合併のある場合.
行われることも多い278)(レベル B).
海外の文献によると,心臓外科手術が避けられない場
有効性と予後:妊娠中に施行されたバルーン弁拡大術の
合,16∼20 週或いは 24∼28 週が胎児に安全と考えら
長期予後に関する報告は極めて限られている.肺動脈弁
れ79,278,279)(レベル C),母体の条件が許せば 30 週以降ま
狭窄症に対するバルーン拡大術においては良好な長期予
で妊娠継続とし,多くは母体の心臓手術終了直後に出産
後が報告されている.一方,大動脈弁狭窄症においては
が行われる.手術中に non-reassuring fetal status がみられ
大動脈弁閉鎖不全の進行により人工弁置換術を含む外科
る時や徐脈が持続する場合,緊急帝王切開を行なうこと
治療を必要とする場合が多く,長期予後は必ずしも良好
がある.わが国では,母体の生命を最優先とし緊急で先
とは限らない(クラスⅡ,レベル C).
に開心手術を施行した場合の胎内死亡が多いという経験
②妊娠中の心臓血管外科手術
妊娠中に心臓血管外科手術が必要となることは稀であ
る
1320
.大動脈狭窄病変の悪化,弁逆流性疾患に伴う心
1,79)
から,母体の安全が確保される範囲で,なおかつ児の生
存を強く望む場合,帝王切開術を先行している.妊娠時
の心臓手術を行う場合は,母児の予後を良好に保つため
に,循環器外科,循環器内科,麻酔科だけでなく,産科,
不全の悪化,大動脈拡張性疾患での大動脈解離,巨大瘤,
新生児科など周産期部門なども含む,チーム医療が大切
或いは感染性心内膜炎罹患による疣腫(vegetation),
である.
Circulation Journal Vol. 69, Suppl. IV, 2005
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