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プラスチックの実用強さと耐久性(14)割れトラブル対策

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プラスチックの実用強さと耐久性(14)割れトラブル対策
第B章 割れトラブルの原因究明と対策
(その2)一トラブル原因の解析方法一
目一7.基礎特性の測定方法
(1)分子量
成形段階や使用段階で成形品が劣化すると,ポリ
マー分子の切断が起こり,分子量が低下する。した
がって,割れトラブルサンプルの分子量を測定する
ことによって使用した原料または使用前のサンプル
の分子量と比較すれば,劣化の程度を知ることがで
きる。成形品の分子量を測定する方法としては,い
ろいろな方法があるが,粘度法やGPC法(ゲル・パ
ーミエーション・クロマトグラフィ)が一般的に行
われている。ただ,これらの方法は成形品を溶媒に
溶解して測定するので,それぞれのプラスチックに
適当な溶媒がある場合に限られる。
ポリマーは分子量分布を有しているので,粘度法
による分子量は正確には粘度平均分子量である。分
子量分布を測定するには,GPC法によらなければな
らない。また,プラスチックには着色剤,充填材な
どの配合剤が混ぜられているので,分子量の測定に
当たっては溶媒に溶解した後,遠心分離法または濾
過法により,これらの配合剤を分離した後に分子量
を測定しなければならない。
①粘度法
粘度計としては,オストワルド,ウベローデ,キ
ヤノンフェンスケなどのタイプがあるが,基本的に
は図1のようなガラス製の粘度計(ポリアミド用の
例)を用いて,同図の毛細管の中で溶媒および溶液
を流下させ,上下の標線間を通過する時間を計測す
る。測定の原理は分子量の大きいポリマーほど,溶
液粘度が大きいため標線問を通過する時問は長くな
る。時間を計測することによって分子量の大きさを
測定する方法である。測定の精度を上げるため,粘
素Seiich圭HONMA,本間技術士事務所所長
度計を放置する恒温槽の温度や毛細管の径の精度管
〒254−0811神奈川県平塚市八重咲町19−23−202
理が重要である。
L N M
図1 ウベローデ粘度計の形状
相対粘度初は,つぎの式で表され
容積
(ポリアミド用の例)
る。
4m2±O.2mゑ
EF
の標線
毛細管ぎ酸用 F
佐0.58㎜土2% 。
ひ
硫酸と砕 舅7
ηr=ηノη。
=∫/あ (8−1)
ここで,
バー定量の樹脂を溶かした溶
液が標線間を通過する時間
あ:溶媒が標線間を通過する時
クレゾール用 ∼8
ま曾斜
φ=エmmm±2% ∼一
聞
η=溶液粘度
脇
ηo:溶媒粘度
試料採取標線
比粘度η。ρは以下の式で表される。
η3,=ηr−1=(η一η。)/η。(8−2)
二
(単位二mm)
90
図2
濃度σ(g/m珍)
極限粘度[η]は比粘度η。pと液濃
溶液濃度と極限粘度の関係
度‘の比(η。p/o)の関係において,
プラスチックス
表1溶液粘度の測定法と粘度または分子量の表し方
樹 脂
ポリアミド
溶 剤
・硫 酸
ギ 酸
窺 クレゾール
調節
K6933
粘度数罎(m〃g)
(∫/ち一1)(1/ρP)
断熱材
ρp=溶媒中のポリマー
下部標線
ピス
シリンダ
K7367
シクロヘキサノン ・還元粘度∫
∫=(∫一ち)/(ちo)
ビニル
上部標線
1999
濃度(9/m’)
ポリ塩化
断熱材
JIS規格
粘度または分子量の表し方
試料
−2−1999
ダイ
・K値(指定の計算式による値)
ポリエチ
レン
・デカヒドロ
ナフタレン
K7367
・粘度数剛
卿=(トち〉/(ち・c)
ポリプロピ
c=窺/(7・什(Llo7m/ρ2。)
レン
・極限粘度η
−3
1999
ダイ保持板 断熱板
η=VN/(1+血・o・卿)
熱可塑性
フェノール/1,2一
ポリエス
ジクロロベンゼン
テル
フェノールー1,1,
・粘度数(m〃g)
(f一ち)/(ちσ)
K7367
図3 MFR(メルト・マス・フロー
レイト)の測定装置例
−3−2000
2,2一テトラクロロ
②GPC法
エタン
GPC法は,ポリスチレンゲルな
どを充填したカラムにポリマー溶
液を流すと,分子サイズの大きい
・σクロロフェノール
窺一クレゾール
ポリカーボ
全重り
メチレンクロライド
ネート
次式により,粘度平均分子量を
一
順に分離されることを利用して,
求める。
分子量を測定する方法である。こ
の方法は相対法であるので,浸透
(Schnel}の式)
圧法や粘度法などの絶対法で測定
* 伽=o・7/γ
した値との関係から分子量を求め
σ:135℃での溶液の濃度(g/m’〉
[η]=L23×10
4MOB3
る方法がとられる。GPC法では分
7:20℃での使用する溶液の体積(通常は,溶媒50m’で溶液を調合する)
子量分布,数平均分子量(』4。),重
γ:20℃と135℃の聞の膨張係数・これはそれぞれの温度での密度の比に等しい
伽:20℃での密度
濃度をゼロに外挿した極限値であり,つぎの式で表
される。濃度oが十分小さい場合は直線関係にある
ので,直線を外挿して極限粘度を求めることができ
る(図2)。
[η1=1imη3,/6=ηrメσ (8−3)
極限粘度[η]と分子量について,っぎの関係
(Mark−Houwink−Sakurada)があるので,極限粘度
を測定すれば,分子量(粘度平均分子量)を求める
ことができる。
[η]=K班直
(K,αはポリマー一溶媒に固有な定数) (8−4)
量平均分子量(班却)などを測定で
きる。
また,孤。と』砺が分かれば,その比(躍躍/払)の
値によって分子量分布の広がりも分かる。躍〆肱の
値が大きいほうが分子量分布は広いことを示す。
(2)メルト・マス・フロー・レイト(MFR)
MFRは,材料の流動性を表す指標として用いら
れているが,成形段階や使用段階における材料の劣
化の程度を知るためにも利用できる。先に述べた分
子量とMFRは比例関係にはないが,相対的には分
子量が小さいとMFRの値は大きくなるので,劣化
の程度をある程度は推定できる。この場合も,使用
した原料または使用前のサンプルのMFRとの比較
(8−4)式の定数κ,σが一般的に決まっていない
によって,劣化の程度を推定する必要がある。
場合は,分子量の代用値として比粘度の値を用いた
粘度数,κ値などで表すこともある。表1に,JIS規
格で規定された分子量または分子量の代用値である
MFRの測定装置の主要部は,図3に示すとおり
粘度の表し方を示す。
VoL55,No.11
である。測定の原理は加熱溶融させた樹脂を,一定
のノズル(ダイ)から押出す方法である。当然,分
子量の小さいものほど,ノズルから押出される樹脂
量は多いので,MFRの数値は大きくなる。成形晶か
91
らペレット程度の大きさに切り出し,
表2DFR(メルトマスフローレイト)の測定条件
これを測定試料とする。試験方法は,
(JIS k7210−1999の付属書B表1より)
重量で示す。したがって,班F児の単位
はg/10minである。
班朋(θ,脇。皿)=孟ガ纏(8−5)
ここで,
θ:試験温度(。C)
仏σ卿:公称荷重(kg)
彫:カット片の平均重量(g)
JISK6923−1
JISK6922
ISK6922−1
JISK6922−1
JISK69224
JISK6921−1
JISK6934−1
JISK6926−1
条件
(コード名)
PE
PE
PE
PE
M
PP
u
H
ABS
PS−1
JISK6924 1
JISK6927−1
SAN
u
ISO7391−1
ASA,ACS,AES
PC
W
ISO6402
ISO8257
1
1
バ試料の切り取り時間(s)
試験温度と公称荷重の関係は,それ
ぞれの樹脂のJIS規格で決められて
ISO9988−1
いる。
ISO10366−1
JISK6925−1
JISK6925 1
θ(℃〉
H
PS
EIVAC
EIVAC
EIVAC
JISK6924−1
JISK6924−1
試験温度
u
PMMA
N
DF
孟曜:基準時間(600s)
材料
D E G T BDZ
を測定する。MFRの場合は,次式のよ
うに10分間当たりに換算した押出し
関連規格
[本体2.〔引用繍惨照]
1J
サンプルを予備乾燥した後,同図のよ
うにシリンダの中に試料を入れる。溶
融させた後,一定の荷重を加えてダイ
から押出し,押出時間と押出した重量
PB
PB
POM
MABS
D
公称荷重(組合せ)
属。m(kg〉
200
5.00
190
190
190
190
2.16
0,325
21.60
5.00
230
2.16
220
10.00
200
5.00
150
190
125
2.16
2.16
0,325
220
10.OO
220
10.00
300
1.20
230
3.80
190
190
2.16
10.00
190
u
2.16
220
10.00
表2に,樹脂の種類と試験温度,公
称荷重の例を示す。
③熱分解性
トラブルサンプルが,成形段階で熱
分解しやすい原料であったかどうか判
定するには,サンプルから試料を切り
出して,熱重量法(TG),示差熱分析
法(DTA),示差走査熱量法(DSC)な
どの方法で測定すればよい。これらの
方法にっいては,第5章,5−1(4)で詳
しく述べたので参照されたい。
④密 度
非晶性樹脂では,成形条件や使用条
件で密度はあまり変化しないので,物
性変化を知る手がかりにはならない
が,密度を測ることによって樹脂の種
類を推定することはできる。結晶性樹
脂では,結晶化度によって密度は変化
する。結晶化度が原因で割れトラブル
に至ったか推定するためには,割れサ
ンプルの密度を測定することで原因推
表3密度の測定方法(J工SK7112一1999より)
名称
求める。
92
ρ8−t一
㎎,A:空気中で測定した試験片の質
量(9)
輪,1L:浸せき液中で測定した試験片
の未補正質量(g)
翫 :浸せき液の密度〔g/cm3)
ピクノメータを用い,
(ピクノメータ法での密度の計算)
試験片の質量と試験片 ρs誰}
をピクノメータに入れ 挽工一%
たときに,ピクノメー ここに,
鱗:試験片の質量(g)
タを満たすのに必要な
ピクノ
禍:ピクノメータを満たすのに必要
液の質量から求める。
メータ法
な浸せき液の質量(g)
物=試験片を入れた状態で,ピクノ
メータを満たすのに必要な浸せ
」監
き液の質量(9)
ρIL:浸せき液の密度(g/cm3)
2液の混合比を変え
浮沈法
定できることがある。
と密度の計算方法を表3に示す。測定
__幽_
蜘s,A一甥s,lL
ここに,
水中
置換法
て,試験片を浸し、試
験片が浮きも沈みもし
ないで静止したときの
一
液の密度から求める。
密度勾配のある液に,
密度の測定法としては,水中置換法,
ピクノメータ法,浮沈法,密度勾配管
法などがある。それぞれの方法の概要
方法の概略
密度の計算
試験片の空気中での質 (水中置換法での密度の計算)
量と水中での質量から
密度
勾配
管法
試験片を浸漬し,試験
片が静止した勾配管の
位置から密度を求め
一
るq
プラスチックス
試料の形状・性状によって使い分けがなされている。
密度勾配管法は液管理は大変であるが,微小試料の
測定,および密度の比較には適している。
うに加熱収縮状態を観察することによって成形条件
の履歴を推定できる。
B一日.強化材料に関する測定方法
⑤結晶化度,結晶状態
結晶化度の解析については,X線回折法,密度法,
熱分析法,赤外吸収およびラマン法などの方法があ
るが上},密度法がもっとも広く用いられている。
結晶化度Xは,表3で示した方法で密度を測定す
れば,っぎの式で計算できる。
X=43一碗
る。
(8−6)
4c−4σ
ここで,
ゐ=非結晶部の密度
凶:試料の密度
(1)充填材の含有率
強化材料では,充填材の含有量によって強さは左
右される。強さに関するトラブルが発生した場合,
原因究明のため充填材の含有量を測定することもあ
必:結晶部分の密度
(8−6)式において,碗,必の値は一般につぎの値が
用いられる。
ガラス繊維,無機充填材などの含有量を焼成法に
よって測定する方法は,JIS K7052一・999に規定され
ている。原理的には,成形品を電気炉の中で焼成し
て,灰分量から含有率を測定する方法であり,同規
格ではA法とB法がある。A法はガラス長繊維の
含有率を測定する場合,B法はガラス長繊維と無機
充填材の両成分を含む場合に,それぞれ適用される。
(i)POMでは,
4c=1.506,ゐ一1.25
(董)PA6では,
4。=1.212,ゐ=1.113
(iii)PA66では, 4σ=1.24,4α=1.09
(iv)PETでは,
dσ一L455,4‘=L331
球晶などの結晶化状態は,成形品からミクロトー
ムなどで切り出した試料を用いて,偏光顕微鏡で観
察できる。偏光顕微鏡は試料の前後に偏光板を用い,
入射光のうち特定方向に振動する成分だけを通過さ
せ,その方向に振動する光によって構造を観察する
顕微鏡である。2枚の偏光板の偏光方向を直行させ
た状態(クロスニコルの状態)で試料を観察すると,
A法では,試料を磁器るつぼに入れて,625℃に設
定したマッフル炉に入れて,一定の質量になるまで
焼成する。ガラス繊維含有率は次式で計算する。
脇繍=(』丞3一』4、)/(孤2一』4、)×100 (8−7)
ここに,
輪,鰯:元の質量に対するガラス長繊維の質量
の百分率
孤:磁器るつぼの質量(g)
躍2:磁器るつぼと試料の合計質量(g)
孤3:焼成後の磁器るつぽと残分の合計質量(g)
B法では,焼成後の残分を塩酸で無機充填材を溶
分子鎖がランダムな状態では光は透過せず,分子鎖
は規則的に配列した状態(結晶状態)では,光学的
に異方性をもつ状態であるので光が透過する。この
ような原理を利用して球晶の形状や分布,非晶層の
ぬ虚εε=(必5一躍4)/(施一班1)×loo (8−8)
厚さなどを観察できる。
晦‘僻=[(孤3一班、)/(磁一班、)
⑥分子配向
分子配向については,赤外吸収分光法,レーザラ
マン法,蛍光偏光法などにより測定できるが2〕,実用
的には,偏光板による光弾性縞の観察,エリプソメ
ータによる複屈折測定,加熱収縮率の測定などの方
法が一般的に行われている。
分子配向の測定方法については,第7章,7−1(4)
で述べたので参照されたい。光弾性法やエリプソメ
ータ法は透明成形品の測定に限られるが,加熱収縮
法は不透明な成形品にも適用できる。加熱収縮によ
る方法は,その材料のガラス転移温度または結晶化
温度よりも若干高い温度で熱処理することによっ
て,分子配向ひずみが回復することを利用して分子
配向の大きさを定悔的に調べる方法である。このよ
一(孤5一掘4)ノ(磁一班、)]×100 (8−9)
Vo1.55,No.11
解した後,磁器フィルタでガラス長繊維を分離する。
ガラス長繊維および無機充填材の含有率は次式で計
算する。
ここに,
脇臨:元の質量に対するガラス長繊維の質量
の百分率
扱餌併:元の質量に対する無機充填材の質量の
百分率
班、:磁器るつぽの質量(g)
拓2:磁器るつぼと試料の合計質量(g)
躍3:焼成後の磁器るつぼと残分の合計質量(g)
孤4:乾燥したフィルタの質量(g)
必5:フィルタと酸処理残分との合計質量,また
は水もしくは溶剤で洗い落とし乾燥した
後の質量(このとき磁=Oとなる)(g)
93
(2)繊維長さ,アスペクト比
成形品の中に存在する繊維は,長いものから短い
ものまで分布しているので,繊維長は平均繊維長と
して求める。当然平均繊維長が長い方が補強効果は
大きい。成形工程では,可塑化時にスクリュのせん
断力によって繊維は破砕して短くなる傾向がある。
繊維長の影響を調べる場合には,平均繊維長を測定
する。また,強化材料の強さに関しては,複合則の
考え方から,アスペクト比(繊維長/繊維径)も大き
い方が強度・剛性は大きくなる傾向がある。
繊維長やアスペクト比を測定するには,成形品か
ら繊維を取り出して,光学顕微鏡で写真撮影して計
測する方法がある。成形品から繊維を取り出すには,
上述の焼成した後のサンプルを用いるか,溶剤に溶
解してフィルタで濾過後のサンプルを用いる方法が
ある。いずれにしても,このようにして分離したガ
ラス繊維を用いて,光学顕微鏡で拡大撮影して繊維
長やアスペクト比を測定する。最近では,画像を画
像解析装置に取り込み,自動的に平均繊維長,繊維
長分布,平均アスペクト比などを計測できるように
なっている。測定の信頼性を上げるため,画像解析
装置には専用ソフトが開発されている。
(3)繊維配向,繊維とマトリックスとの接着状態
成形時に,キャビティ中ではせん断力によって繊
維は流れ方向に配向する。繊維の配向によって,流
れ方向と直角方向では強さの異方性が生じる。この
ため・成形品中での繊維の配向状態を知る必要が生
じる。繊維配向状態を測定する方法としては,軟X
線撮影法,超音波顕微鏡撮影法などがある。
軟X線観察法は,つぎのように測定する。成形品
から観察する部分をミクロトームで厚さ50μm程
度の薄片を切り出す。これを軟X線照射装置にセッ
トし,超微粒子フィルムに像影する。この像を透過
光により光学顕微鏡で鶴察,または写真に撮影する。
このようにして観察した繊維配向については,第2
超音波顕微鏡による成形品の構造解析について
は,詳しい報告がある鋤。
超音波顕微鏡は,図4に示す構造のものである。
同図で試料に入射した超音波のうち,表面から反射
した量を差し引いた残りは試料の内部に伝播する。
この伝播過程において何らかの反射体があると,こ
の界面において超音波は散乱や反射して受信信号は
変化する。この変化量を画像として表示すると,表
面から試料内部までに存在する相構造,欠陥,ボイ
ド,層状組織などが観察できる。繊維強化材料にお
いても,ポリマーは超音波を透過させ,ガラス繊維
は超音波を反射させるので,試料の厚さ方向に焦点
を変化させることによって,表面から内部に向かっ
て繊維配向を測定できる。PPのガラス繊維入り材
料(体積率0.19%)について,繊維配向状態の観察
結果が報告されている(写真1)3)。ただ,ガラス繊維
の含有率が高くなると内部への超音波の透過量は少
なくなり観察は困難になるので,観察する試料面を
切り出し,超音波顕微鏡により試料表面を観察する
方がよいと思われる。
複合則によれば,強化材とマトリックス樹脂接着
界面の接着強さも強度・剛性に影響する。強化材と
マトリックスの接着状態を観察するには,成形品の
破断面を走査型電子顕微鏡で観察する方法がある。
接着力が弱い場合は繊維と樹脂は完全に剥離してい
るが,接着力が強い場合は,繊維表面に樹脂が付着
している状態になっている。
日毛.ボ1コマーアロイ材料に闘する測定方法
ポリマーアロイ材料を用いた成形品における強さ
が変化または低下する場合としては,つぎのような
ケースが考えられる。
①成形工程でアロイ成分の樹脂が熱分解して,各
成分の粘度比が変わることによって分散相の粒子径
が変化する場合
章,2−4−3で述べたので参照されたい。
RF発振器
O.1∼1GHz
受信器/ 画像
標本化回路 メモリ
圧電薄膜\
音響レンズ 藝 走査
水 …粥,…… 制御部
翻
ジ 拳ステージー
Z 駆動系 TVモニタ
図4 超音波顕微鏡の構成3)
94
プラスチックス
高分子材料
トラブル品の
目視観察
トラブル発生状況,
分 析
製品のトレーサ
ビリティ情報
割断 面出し ブロック染色
分析結果の
判定
異物部品の取り出し
(切り出し,削り出
し,溶解’分離)
染色
異物物質の同定
超薄切凍結超薄切
エッチング
レプリカ
光学顕微鏡による
形態観察
(形状,外観)
走査型電子顕微鏡 透過型電子顕微鏡
図5 電子顕微鏡用試料の
分析方法の
絞り込み
図6 異物の分析手順
前処理の基本手順5,
たとえば,分散相のゴム粒子径が変化すると,衝
撃強さは変化する。
②キャビティを充填する過程で,せん断力によっ
て相分離構造に変化が生じる場合
相容性のあまりよくない樹脂成分によるアロイの
場合,成形過程で高いせん断力が作用すると相分離
を起こして,層状剥離を示すことがある。
③ウェルド部の相構造が不適である場合
適切にアロイ設計された材料でも,ウェルド部分
については,特有の相構造を示し,ウェルド部での
衝撃強さや破断伸びが著しく低下することがある。
以上のように,ポリマーアロイ材料を用いた成形
品については,相構造によっては強さの変化や低下
を示すことがある。ポリマーアロイ材料による成形
品の割れトラブルについては,相構造,つまりモル
ホロジーを観察する方法がとられる。モルホロジー
は,透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡
(SEM)を用いて観察するが,専門的な分析技術と熟
練を要する。電子顕微鏡による微細構造観察技法に
ついては,専門的立場からの詳しい報告がある5〕。同
報告によれば,電子顕微鏡を用いたモルホロジー解
析では,つぎの3点が重要であると言われる。
①試料前処理技術
②観察技術
③像の解釈
る情報を的確に提供することが重要である。たとえ
ば,つぎのようなことがある。
①分析するサンプルの成形,使用に関する履歴
②サンプルの観察位置や観察する方向
日一1□.異物の分析
プラスチック成形品に混入する可能性のある異物
としては,いろいろな種類があるが,ここではプラ
スチック製品の割れトラブルの原因になる可能性の
ある異物を対象にした分析法について述べる。割れ
トラブルの原因になる可能性のある主な異物として
は,つぎの種類がある。ただし,異物が存在するか
ら割れトラブルに至るとはかぎらない。異物の大き
さや形状,応力と異物の位置関係,ひずみ速度など
に左右される。異物と割れの因果関係については,
割れの状況や他の検討結果も踏まえて総合的に判定
しなければならない。
・炭化物
材料の製造工程や成形工程で,加熱筒内で長時間
滞留している間に熱分解して炭化した。
・金属異物
材料の製造工程や成形工程での設備の摩耗や何ら
かの原因による金属破片の混入により発生した。ま
たは,ポルトやビスが誤って材料に混入し,スクリ
ュで破砕した。
試料の前処理の手順は図5に示すように,染色や
・ゲル状異物(ブツ)
エッチングが重要な要素技術である。
以上のように,モルホロジーの観察,解析に関し
ては,専門的技術者に委託して分析することになる
が,分析を依頼する側からは,分析サンプルに関す
加熱筒中で,酸素の存在しない状態で長時間高温
で滞留すると,高分子化,架橋化,結晶化などが起
こり,ゲル状の異物ができることがある(溶剤に溶
Vol.55,No.11
けないもの)
95
濃鱗
時 麟 卑
一轟 ,
盤毯遜購羅灘質瀦環φ編質線証響議講灘1…
品質というと,品物の性能・機能に関する特性を意
味するように受け取られがちであるが,品質は英語で
はクオリティ(Quality)であり,その意味するところ
は・∬S用語では「品物またはサービスが,使用目的を
みたしているかどうかを決定するための評価の対象と
なる固有の性質・性能の全体」となっている。要は,
品物または販売や接客などのサービスを含め,顧客の
満足に関するあらゆる性質や性能を意味している。つ
まり,品物の性能,機能だけではなく,接客対応,納
期,価格などを含めた,あらゆる顧客満足度の指標が
ぞかし減ると思っていたが,いっこうに苦情は減らな
いのはどうしてかね」と。この上司の指摘を聞いて,
筆者は同品質保証システムの盲点をつかれたように思
品質である。
しかし,よく考えてみると,取得する目的は,品質
をよくすることであり,そのため同品質保証システム
はツールである。性能・機能,納期,価格などに関す
る要求は日々厳しくなっている状況では,品質システ
ムを維持・管理するだけでは対応できない。顧客の要
求が日々変化することに対応するには,柔軟な品質シ
ステムの構築が大切であることを痛感した。
さて,このような品質について,最近では,品質保
証システムであるISO9001を取得することが一般化
している。ISO9001を取得すると品質レベルが高いよ
うな印象を顧客に与え,ビジネスの面ではプラスにな
ることはある。また,一すべての仕事は文章化されてい
るので,誰が担当してもマニュアルに従っていれば,
晶質は維持できる。一見・すばらしいシステムのよう
に見えるが,陥りやすい盲点もある。
筆者は,材料メーカーの品質保証責任者として
ISO gOO2(2000年改定前)を過去に取得した経験があ
る。当時の国内の企業では,まだ同品質保証システム
を取得し始めたころであり,関連する資料も少なく,
教えてくれる人もいない時代であったので,随分苦労
して取得したことを記憶している。さて,同規格を取
得して数年過ぎた頃,ある上司からこんなことを指摘
されたことがある。その上司曰く,「ISO9002を取得し
たら,晶質レベルが向上して,お客様からの苦情もさ
・未溶融樹脂(同種樹脂)
ハイサイクル成形で,可塑化時間が短いためペレ
ットが完全に溶解されないで,そのまま成形された
もの。結晶性樹脂のハイサイクル成形でよくみられ
る現象である。
・異樹脂
材料の供給・乾燥などのハンドリング工程で,他
の樹脂が誤って混入したもの。
その他
着色剤,固形添加剤の粒子径の比較的大きいもの,
再生で混入した塵埃,その他の異物
以上のような異物は,本来成形や検査工程で事前
に除去すべきものではある。しかし,製品中に混入
したことで割れトラブルに至った可能性がある場合
は,分析によって原因を特定しなければならない。
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った。
ISO品質システムを取得するため,あらゆる作業を
文章化する仕事は大変である。また,経営者による見
直し,第三者監査機関による定期監査などのフォロー
アップヘの対応もある。このため,いつしか品質保証
システムを維持・管理していくことが目的になってし
まっていた。
品質システムがどのように立派でも,品質がよくな
らない。同品質保証システムを取得するのであれぱ・
日本以外のアジア企業の方がよっぽど手際よく取得し
ている。品質をよくするためには,管理技術と固有技
術があるが,製造業の「もの作り」についてみれば,
固有技術の方が重要である。品質レベルを上げていく
のは,設計・開発段階から現場のもの作りまでの固有
技術がべ一スになければならない。わが国の強みは,
日々の改善活動を通じて,品質レベルを向上させるこ
とに特長があったが,ISO9001を取得すればこと足れ
りという風潮は反省すべきである。
最近,分析機器も高性能化しているので,微量成
分の分析も容易にはなっているが,分析に当たって
は,前段階での観察・検討が重要である。分析技術
者の経験と技術の蓄積が必要とされる。異物分析の
大まかな手順を図6に示した。
異物分析に当たっては,割れトラブル製品に関す
る製造工程のトレーサビリティや製品を使用してい
た現場でのトラブル発生状況などの情報を基にし
て,混入した可能性のある異物をある程度絞り込む
必要がある。また,割れトラブル品を目視または拡
大鏡で一次観察した結果も参考になる。つぎに,分
析では,異物部分の切り出し,削り出し,溶解分離
などを行い,異物部分を光学顕微鏡などで観察する。
異物としては,破片状,粒子状,未溶融物状,繊維
状,黒点状などなどがあるが,形状や外観(透明体,
プラスチックス
黒色物,金属光沢物,白色物)を観察することによ
って,異物のねらいをつけることができる。異物の
大体のねらいがつけば,適切な機器分析装置を用い
て分析する。もちろん,何種類もの異物が混在する
場合もあるので,これらの異物を分離して分析する
かまたは複数の分析機器を使用することもある。
っぎに,異物分析に比較的よく用いられる分析法
について述べる。ただ,測定に当たっては,試料の
抽出・分離や調整,測定結果の判定などについては,
専門的知識と技術を必要とするが,ここでは,一般
的な事柄にっいて述べる。
(1)赤外吸収スペクトル法(IR法)
分子は,それぞれ固有の振動をしている。そのよ
うな分子に波長を連続的に変化させて赤外線を照射
していくと,分子の固有振動と同じ周波数の赤外線
が吸収され,分子の構造に応じたスペクトルが得ら
れる。このスペクトルから分子の構造を解析する方
法を赤外吸収スペクトル法という。赤外吸収スペク
トル法による成形品中の有機異物の分析について
は,専門的な立場からの詳しい報告がある6)。
実際の分析方法としては,既知の物質のスペクト
ルと検査対象物質の吸収スペクトルと照合すること
によって未知の物質を同定する。一般に市販されて
いるモノマーやポリマーについては,市販のデータ
量数から分子量が分かるとともに,フラグメントイ
オンのでき方から分子の構造に関する情報が得られ
る。ポリマーの場合は,熱分解ガスクロマトグラィ
で分解したガスを分離し,このガス成分を質量分析
法で分析する方法がとられる。
赤外吸収スペクトル法では,分子構造については
判定できるが,さらにその異物の分子量などについ
ては情報は得られない。低分子量物の場合,分子構
造と分子量の測定には質量分析法が用いられる。ま
た,ポリマーが熱履歴を受けて高分子量化,架橋化
したなどのゲル状の異物などの分析では,熱分解ガ
スクロー質量分析法を用いて同定できる。
(3)X線マイクロアナライザ分析法(EDX)
EDX法(EnergydiffusiveX−rayanalyser)の
原理は,細く絞った電子線を固体表面に照射すると,
その表面から各元素特有の特定X線が放出される。
この特定X線をエネルギー分散型の検出器で測定
し,微小部分の元素を分析する方法である。最近で
は,微小な異物の分析で,EDXに走査型電子顕微鏡
(SEM)を取りつけたSEM−EDX法が用いられてい
る。この方法では,SEMで形状観察を行い,EDXで
その部分の元素を分析する方法がとられる。
金属,塵埃(けい素),炭化物(完全な炭化物)な
どの異物分析にSEM−EDX法が有効である。
ベース(たとえば,The INFRARED SPECTRA
ATLAS of MONOMERS and POLYMERS)があ
るので,これらのデータベースを用いて同定できる。
また,トラブルの発生した現場の状況やトレーサ
ビリティ情報から,対象の物質を想定できる場合は,
想定物質のIRスペクトルと比較することによって
異物の内容を判定できる。また,微小な異物を同定
する場合には,IR分析装置に顕微鏡をつけた顕微
IR法が適しており,異物の同定に広く使用されてい
〈参考文献〉
1)鞠谷雄士,浅井繁雄,伊藤浩志,成形加工,12(12),
P.775/780,200D
2)鞠谷雄士,伊藤浩志,成形加工,12(10),p.631/637,
2000
3)石川潔,成形加工,11(2),p.95/100,1999
4)石川潔,小倉幸夫,阿部利彦,栗山卓,新田晃平,成形加
工,8(9),P.611/616,1996
5)佐野博成,成形加工,12(3),p.146/150,2000
る。
6)谷川征男,成形加工,11(2),p.76/81,1999
ポリマーの分子構造の同定にはIR法がもっとも
利用されている。炭化物(完全に炭化する前の黒状
(以下,次号に続く)
物),未溶融物(同種樹脂),異樹脂の混入などの判
定には有効な分析法である。
(2)質量分析法(MS法)
質量分析法は,高真空のもとで加熱気化した試料
分子に電子流などの大きいエネルギーを与えると,
分子中の電子1個がたたき出されて分子のカチオン
ラジカルが生じる。これらはさらに開裂を起こして
フラグメントイオンと呼ぱれるイオンが発生する。
これらのイオンを質量(窺)と電荷(2)の比(窺々)
を大きさの順に分離し,記録する。分子イオンの質
Vol.55,No.11
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