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地域金融機関の地域金融機関性

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地域金融機関の地域金融機関性
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
275
地域金融機関の地域金融機関性
宮 村 健一郎
1 はじめに
本稿は、地域金融機関における「地域金融機関性」とは何かということについて検
討し、それに基づいて、一定の仮定のもとで、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、
信用組合、郵便局の「地域金融機関性」の程度はどのようなものであるか調べ、さら
に地域金融機関に対する税制面の優遇措置の存在意義との関連を検討する。
宮村(1998)は、協同組織金融機関である信用金庫に対し、税制上の優遇措置を行
う必要があるか否かについて、信用金庫の取引先が個人、中小企業、中堅企業に限ら
れているという「中小企業金融専門性」と、営業地域が限定されているという「地域
金融機関性」という観点から検討した。このときの結果は、「中小企業金融専門」で
あることがそうでない金融機関と比較してコストアップとなる証拠はなかったこと、
しかし小さな狭い地域で活動している一部の信用金庫の「地域金融機関性」は、信用
金庫の業績が地域経済の変動の影響を受ける可能性があるということであった。この
ことから、狭い地域で活動する小さい信用金庫に限っては、公共性の高い金融機関と
いう業種の経営を安定化させるために税制面での優遇措置を正当化しうるが、それ以
外の信用金庫については、税制面での優遇措置が果たして必要なのか疑問がある、と
いう結論になった。
今回は、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、郵便局の「地域金融機関
性」について、首都圏での各地域金融機関の実際の店舗展開の姿から、その程度を調
べる。そして、「地域が限定されている」という信用金庫や信用組合にとっての制約
や国営である郵便局の店舗展開が銀行と異なっているかどうかについて実証分析する。
もし店舗展開の姿が銀行とは異なり、これら金融機関の「地域金融機関性」の程度が
高いことが明らかとなった場合、次の問題は、そのことがこれら金融機関の費用を高
くするような傾向をもつかどうかということである。もし、費用が高くなりそうであ
るという証拠があれば、そのような協同組織金融機関に対する税制面での優遇措置ま
たは補助金などの現行の支援、そして国営による郵便局金融事業の運営を是認する根
拠となりうる。
構成は以下のとおりである。次節では、「地域金融機関」をどのように定義すべき
276
地域金融機関の地域金融機関性
かについて検討する。第3節では、首都圏における地域金融機関各業態についての店
舗展開について概観する。第4節では、首都圏における地域金融機関各業態の店舗展
開に影響をする要因について分析する。第5節は協同組織制地域金融機関に課されて
いる地域規制が地域金融機関の費用を上昇させるか否かについて検討する。第6節は
結論である。
2 地域金融機関の定義と地域金融機関性
本節では、地域金融機関とは何かということについて検討する。
この点について、参考のために、地域金融機関の定義や、法律上の地域に関する部分
をみると、以下のようなものがある。
「地域(国内のある限られた圏域)の住民、地元企業及び地方公共団体等に対して
金融サービスを提供する金融機関」(金融制度審議会答申「地域金融のあり方につい
て」(1990年))
「本協会の会員は、銀行法により免許を受けた銀行であって、主たる営業基盤が地
方的なものとする」(社団法人全国地方銀行協会定款第4条)
「この協会の会員たる資格を有する者は、平成元年2月1日以降、金融機関の合併お
よび転換に関する法律(昭和43年法律第86号)第6条第5項の規定に基づいて銀行法
により免許を受けたとみなされた銀行であって、主たる営業基盤が地方的なものとす
る」(社団法人第二地方銀行協会定款第5条)
「信用協同組合の組合員たる資格を有する者は、組合の地区内において商業、工業、
鉱業、運送業、サービス業その他省令で定める事業を行うすべての小規模の事業者、
組合の地区内に住所もしくは居所を有するもの又は組合の地区内において勤労に従事
する者で定款で定めるものとする」(中小企業等協同組合法第8条④)
「職業や会を共通にする単一のグループ(single common-bond credit union)、または
職業や会を共通にする3000人以内で構成されるグループの複数から構成されるもの
(multiple common-bond credit union) 、 一 定 地 域 内 ( well-defined local community,
neighborhood, or rural district)の人や組織」(アメリカ合衆国Federal Credit Union Act)
以上の例から考えると、地域金融機関とは、「取引先の業種や大きさを基準に営業
基盤を形成しているものではなく、地域の個人や企業全体を基本的な取引基盤とする
金融機関である」といえよう。このような観点から分類すると、地域金融機関である
といえる金融機関は、都市銀行の一部、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、地域信
用組合、さらには個人対象で融資を行わないが郵便局とするのが適当であろう。これ
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
277
に対し、長期信用銀行、信託銀行、旧財閥系都市銀行は取引先に全国的な大企業が多
いことや全国的な展開という点で地域性が薄いので、地域金融機関とはいえないであ
ろう。また、労働金庫、業域信用組合、職域信用組合、外国系信用組合、農業協同組
合は、地区が定められてはいるが、取引相手について、規模以外について何らかの制
限があるので地域金融機関とはいえないであろう。
地域金融機関性に関する定義が与えられたので、次に、地域金融機関性の「程度」
を計測する方法について考えよう。
まず、「地域金融機関」が「取引先の業種や大きさを基準に営業基盤を形成してい
るものではなく、地域の個人や企業全体を基本的な取引基盤とする金融機関」である
とすれば、この定義に則して地域金融機関性の程度を調べるという方法があろう。さ
らに、地域金融機関性が高い金融機関であれば、「地域経済と業績との連動が高い」
という性質があるだろうから、この性質に着目して地域金融機関性を計測するという
方法もあろう。
先に述べたように、宮村(1998)で考えた地域性は、信用金庫の業績の変動と地域
経済の変動との関連という視点から捕らえたので、後者の考え方、すなわち「地域性」
がもたらす性質の程度の強弱について測定したということができる。
それに対し、今回は、「地域金融機関性」という定義を満たす程度を調べる。具体
的には以下のとおりである。
まず、本稿において、「地域金融機関としての性格が強い」とは、具体的には、①地
域全体に満遍なく出店されていること、人口密度が低い地域や市街化の程度が低い地
域をおろそかにしないこと、②単位面積あたりの店舗数が多いこと、であると考える。
この考え方に基づき、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、地域信用組合、郵便局に
ついて「地域金融機関性」の程度を調べ、比較する。
もし株式会社組織である地方銀行や第二地方銀行と信用金庫、信用組合、郵便局の
店舗展開が異なっていることが明らかになったとしたら、その違いは、信用金庫、信
用組合、郵便局が株式会社組織金融機関にはない規制下に置かれているか、または独
特の店舗展開規範があるためと考えられる。
この場合、まず信用金庫、信用組合については、これらに対する地域規制が出店計
画に影響しているためであると考えることができよう。すなわち、信用金庫や信用組
合に対しては、地域に関する規制が存在するために、それがなかったとしたら可能で
あった店舗配置が不可能となっているのであり、よって、これら金融機関は収益性は
低くても、地区内に店舗を展開せざるを得ない。
278
地域金融機関の地域金融機関性
また、郵便局については、公的機関であるために、「全国津々浦々に」展開し、収
益性をある程度犠牲にしていると自ら常々主張しているが、もし信用金庫や信用組合
よりも地域性の程度が高いことがいえれば、まさに郵便貯金制度は民業の補完として
機能しているということができる。
反対に、地域展開の姿が、株式会社組織の銀行と協同組織金融機関または郵便局に
違いが見出せなかった場合には、地域規制は協同組織金融機関に対して高コストをも
たらすような規制としては効いておらず、また郵便局については、官業として金融業
務を行う意味がないと推論できる。
次に、地域性が協同組織金融機関のコストを高くするか否かについて検討する必要
もあろう。具体的には、信用金庫について、単位面積あたりの店舗数がコストに影響
するかどうかを調べる。もし、店舗密度が高いことが高コストを生じさせるのにもか
かわらず地域金融には信用金庫の高密度性が社会的に必要であるというのであれば、
信用金庫に対する地域金融機関という観点からの税制上優遇措置や補助金支出は強く
是認されるであろうし、反対に店舗密度がコストに影響しないのであれば、優遇措置
等の根拠は失われるであろう。
これらの点については、次節以降で検討する。
3 店舗展開から見た地域金融機関各業態の地域性の概観
本節では、地域金融機関各業態、すなわち地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、地
域信用組合、郵便局が、首都圏、すなわち東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県の市区
町村(島嶼部も含む)において、どのような店舗展開を行っているかを概観する。
表1は、首都圏に本店を持つ地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、地域信用組合1 、
そして郵便局の首都圏市区町村における出店に関する一覧である2 。まず、「店舗のあ
る市区町村数」の欄をみると、郵便局が首都圏300市区町村のうち、299市区町村に設
置されていることは当然であるとしても、信用金庫も239市区町村に少なくとも1つ
の店舗を持つという点で、信用金庫がかなりの市区町村をカバーしていることがわか
る。また、1店舗が担当するテリトリー面積も第二地銀や地銀に比較して小さい。
次に、「(店舗数/面積)の平均」をみてみよう。これは、各市区町村ひとつひとつに
同業態の金融機関が出店している店舗の数を、その市区町村の面積で除すことによっ
て、市区町村における1km2 あたり店舗数を求め、それを300市区町村について単純平
均したものである3 。この値についても、郵便局がトップであり、次に信用金庫、大
きく離れて地方銀行となっている。
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
279
表1 地域金融機関各業態の店舗展開の概要
地方銀行
第二地銀
信用金庫
信用組合
郵便局
店舗数
612
389
2013
366
3617
店舗のある市区町村数
194
129
239
108
299
(店舗数/面積)の平均
0.064
0.047
0.255
0.046
0.444
(店舗数/面積)の標準偏差
0.095
0.103
0.462
0.149
0.674
首都圏での預金総額(兆円)
21.14
7.38
30.64
2.99
63.59
首都圏の市町村数総計
300
2
1 (店舗数/面積)の平均(面積の単位はkm )とは、各市区町村ごとにに各業態が何店舗出店してい
るかを計算し、それを単純平均したものである。
2 地方銀行、第二地方銀行、信用金庫の店舗数には、首都圏に本拠地を持つもののみが含まれる。
たとえば、首都圏以外を地盤とする地銀の東京支店は含まれていない。
3 地方銀行、第二地方銀行の預金総額については、首都圏に本拠地を持つ銀行の総預金残高の合計
である。
これらの点から、前節①、②の定義に基づけば、首都圏における地域金融機関性が
もっとも高い業態は郵便局であり、また民間金融機関の中では、信用金庫が地域金融
機関としての性格がもっとも高いといえそうである。
しかしながら、
(店舗数/面積)の標準偏差からは、すべての業態について、1店
舗あたり面積のばらつきがかなり大きいようにもみえる。
面積以外で金融機関や郵便局の出店に影響を及ぼすものは、人口密度や市街化の程
度などであろう。図1は、この点について考えるために、首都圏の各信用金庫の1店
舗あたり面積と1店舗あたり商店数を、預金平残の大きい順に並べたものである。こ
の図から、1店舗が担当するテリトリーの面積は各信用金庫で異なり、特に田舎の信
用金庫(青梅、銚子、朝日)におけるテリトリーは大きいが、1店舗が担当する商店
数については各信用金庫間の違いは小さいことが見て取れる4 。すなわち、信用金庫
については、出店が地域の商店数と密接に関係することがわかる。
以上をまとめると、地域に満遍なく出店されているか、さらに単位面積あたりの店
舗数が多いか、という観点から地域金融機関の地域性を検討すると、郵便局がもっと
も高く、民間金融機関の中では信用金庫がもっとも高いということができる。しかし
ながら、「(店舗数/面積)の標準偏差」から考えると、必ずしも「満遍なく」地域に
展開しているということはできない。よって、次節では回帰分析を用いて、別な角度
からこの問題を再度検討しよう。
16,000
70
14,000
60
12,000
50
10,000
40
8,000
30
6,000
20
4,000
10
2,000
0
日本橋
文京
大東
西相
小松川
東京三協
目黒
松戸
神田
帝都
中南
昭和
世田谷
興産
船橋
足立
東調布
銚子
平塚
日興
木更津
東京ベイ
さがみ
荒川
西京
同栄
東武
中央
青梅
瀧野川
西武
湘南
横浜
巣鴨
朝日
0
注 左から預金平残順に並べられている
1店舗あたり面積
1店舗あたり商店数
商店数
80
城南
面積
図1 信用金庫の店舗と地域との関係
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
281
4 首都圏市区町村への地域金融機関・郵便局の店舗展開に与える要因の
相互比較
前節の分析では、単純な比率計算で地域金融機関の地域性の高低の測定を行うのに
限界があることがわかった。よって、本節では、出店パターンに影響を与える面積以
外の他の要因を含めて回帰分析を用いて相関関係を計測し、他の要因が一定のときに、
面積が出店パターンに与える効果を調べる。このために、各市区町村における地方銀
行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、郵便局の店舗数と、それに影響すると考え
られる要因との間の関係を見る。ここで、単純化のための重要な仮定として、各業態
はそれぞれ独自のマーケットを持っており、他業態の展開との相互作用、すなわち他
業態の支店の存在が当該業態の新規出店を抑制する可能性は、とりあえずないものと
して分析を進める。もちろん、この仮定が問題となるような結果が見られた場合には
そこで再度この問題について言及する。
具体的には、業態別に、各市区町村における各業態ごとのすべての店舗数と、首都
圏における各市区町村の面積、さらに人口密度、商店密度について対数回帰分析を行っ
た5 。
log(店舗数 ) = β 0 + β 1 log( 市区町村面積 ) + β 2 log( 人口密度) + β 3 log( 商店密度)
(1)
ここで、オブザーベーション数は、たとえば信用組合については、信用組合がある
市区町村の数である。つまり、信用組合が存在していない市区町村のデータは、信用
組合に関する(1)の推定からは除外した。これは、表1からわかるように、その業態
の金融機関がある市区町村は、信用組合や第二地銀についてはそれぞれ300中108, 129
のように少ないので、支店が全くない市区町村のオブザーベーションの影響が強く出
すぎるのを回避したためである。
また、各市区町村を、1km2 あたりの商店数が50未満(典型的には田舎、以下エリ
アA)、50以上100未満(典型的には郊外住宅地、以下エリアB)、100以上(典型的に
は都区部、以下エリアC)に分けて分析することにした6 。
結果は、表2でまとめられている。まず各市区町村の「面積」についての係数をみ
てみよう。面積についての係数、すなわち店舗数の面積に対する偏弾力性は、エリア
Bの信用組合以外は、全業態で係数=0の仮説のP値は大変低い。よって、面積につ
いての係数が正であると考えることができる。さらに、エリアBの地方銀行、エリア
B、Cの第二地方銀行、エリアBの信用金庫、エリアCの信用組合、そしてエリアC
の郵便局については、係数が1であるという仮説は有意水準5%で棄却できない。エ
282
地域金融機関の地域金融機関性
表2 各業態が首都圏市区町村に出店する要因(1)
地 方 銀 行
決定係数
同自由度修正済
オブザーベーション数
市区町村数
切片
標準誤差
P(切片=0)
面積
標準誤差
95%信頼区間
P(面積=0)
P(面積=1)
人口密度
標準誤差
95%信頼区間
P(人口密度=0)
P(人口密度=1)
商店密度
標準誤差
95%信頼区間
P(商店密度=0)
P(商店密度=1)
エリアA
50店/km 2 未満
0.44993
0.43558
119
エリアB
50-100店/km2
0.54362
0.50759
42
-4.70070
0.79130
0.00000
0.64226
0.07688
0.490∼0.795
0.00000
0.00001
0.36683
0.15294
0.064∼0.670
0.01807
0.00007
0.07488
0.19119
-0.304∼0.454
0.69606
0.00000
-1.53840
4.32862
0.72425
0.93310
0.17611
0.577∼1.290
0.00001
0.70616
0.20983
0.47303
-0.748∼1.167
0.65986
0.10305
-0.51919
0.55660
-1.65∼0.608
0.35681
0.00956
第二地方銀行
エリアC
100店/km2 超
0.50763
0.45669
33
エリアA
50店/km 2 未満
0.34454
0.31004
61
エリアB
エリアC
50-100店/km2
100店/km2 超
0.28179
0.60290
0.21446
0.56035
36
32
300
8.94949
-4.15783
-4.35847
-6.72408
2.48674
1.00686
5.35004
2.24873
0.00117
0.00012
0.42129
0.00576
0.45402
0.42645
0.62584
0.82576
0.14108
0.10243
0.20498
0.13836
0.165∼0.743 0.221∼0.632 0.208∼1.043 0.542∼1.109
0.00317
0.00011
0.00453
0.00000
0.00057
0.00000
0.07729
0.21829
-0.99171
0.47196
0.25612
0.19271
0.22890
0.17046
0.54550
0.20644
-1.460∼-0.524 0.131∼0.813 -0.855∼1.367 -0.230∼0.616
0.00016
0.00758
0.64189
0.35855
0.00000
0.00303
0.18219
0.00053
0.00378
-0.21812
0.19138
0.71211
0.15731
0.20391
0.71941
0.14548
-0.318∼0.326 -0.626∼0.190 -1.274∼1.657 0.414∼1.10
0.98099
0.28925
0.79193
0.00004
0.00000
0.00000
0.26937
0.05775
信 用 金 庫
エリアA
50店/km 2 未満
0.60856
0.60074
154
エリアB
50-100店/km2
0.62660
0.60330
52
エリアC
100店/km2 超
0.88990
0.87850
33
-3.53779
-6.00632
-9.07430
0.75242
2.89235
1.44030
0.00001
0.04320
0.00010
0.71082
0.93653
1.20156
0.06660
0.11041
0.08171
0.505∼0.990 0.715∼1.116 1.360∼1.034
0.00000
0.00010
0.00010
0.00003
0.56803
0.01979
0.01964
0.09002
0.48885
0.14145
0.33531
0.13258
-0.260∼0.299 -0.584∼0.764 0.218∼0.760
0.88974
0.78950
0.00090
0.00000
0.00921
0.00059
0.68580
1.00425
0.74389
0.16142
0.42677
0.09111
0.576∼2.895 0.146∼1.862 0.558∼0.930
0.00010
0.02280
0.00010
0.05346
0.99210
0.00876
1 「50店/km2 未満」、「50-100店/km2 」、「100店/km2 超」とは、それぞれ商店数について1km2 に50以下、50∼100、100超という基準で市区町村を分け
たグループである。
2 各計算において、その市区町村に当該金融機関がない場合は、計算から除外した。そのため、観測数は市区町村数(300)より少ない。
4 95%信頼区間とは、「係数=その値」という仮説に対するp値が0.05となる上限と下限の値である。
3 P(A=0)、P(B=1)とは、それぞれ仮説:Aの係数=0、仮説:Bの係数=1に関するP値である。
出所 文末脚注1であげたデータから作成。
経営研究所論集 第23号(2000年1月)
表2 各業態が首都圏市区町村に出店する要因(2)
信 用 組 合
決定係数
同自由度修正済
数
市区町村数
切片
標準誤差
P(切片=0)
面積
標準誤差
95%信頼区間
P(面積=0)
P(面積=1)
人口密度
標準誤差
95%信頼区間
P(人口密度=0)
P(人口密度=1)
商店密度
標準誤差
95%信頼区間
P(商店密度=0)
P(商店密度=1)
郵 便 局
エリアA
エリアB
エリアC
エリアA
エリアB
エリアC
50店/km 2 未満 50-100店/km2
100店/km2 超
50店/km 2 未満 50-100店/km2
100店/km2 超
0.30461
0.44239
0.36538
0.84193
0.92959
0.94849
0.27347
0.25652
0.27019
0.83967
0.92519
0.94316
71
13
24
214
52
33
300
-1.02162
3.55527
-5.10821
-3.65735
-6.38978
-2.18901
0.73448
5.12573
4.81766
0.37118
0.95134
0.83041
0.00000
0.50543
0.30164
0.00000
0.00000
0.01333
0.38653
0.29214
1.06766
0.90890
0.88678
1.05441
0.07801
0.17959
0.34006
0.03592
0.03631
0.04711
0.231∼0.542 -0.141∼0.698 0.358∼1.777
0.838∼0.980 0.814∼0.960 0.958∼1.151
0.00001
0.13825
0.00516
0.00000
0.00000
0.00000
0.00000
0.00340
0.84430
0.01193
0.00308
0.25753
-0.12500
-0.70230
-0.01596
0.13235
0.32878
-0.14250
0.14797
0.47787
0.31063
0.06979
0.11029
0.07644
-0.420∼0.170 -1.783∼0.379 -0.664∼0.632 -0.005∼0.270 0.107∼0.551 -0.299∼0.014
0.40124
0.17573
0.95953
0.05928
0.00450
0.07243
0.00000
0.00610
0.00383
0.00000
0.00000
0.00000
0.26934
0.49481
0.72530
0.46551
0.80548
0.71918
0.17812
0.66012
0.35500
0.07716
0.14037
0.05253
-0.420∼0.170 -0.998∼1.988 -0.015∼1.466 0.313∼0.618 0.523∼1.088 0.612∼0.827
0.13521
0.47265
0.05444
0.00000
0.00000
0.00000
0.00011
0.46369
0.44810
0.00000
0.17223
0.00001
注・出所は表2(1)と同じ。
283
284
地域金融機関の地域金融機関性
リアCの信用金庫の係数は有意水準5%で1より大きいが1に近い値である。エリア
Bの郵便局についても1に近い値であるといえる。また、95%信頼区間を見ると、エ
リアB、Cの信用金庫と全エリアの郵便局についての面積に関する係数はほぼ1弱で
あろうということができよう。
以上を要約すれば、首都圏の市街地または住宅地における(エリアB、C)信用金
庫および郵便局の店舗展開は、人口密度と商店密度が同一であるような2つの地域を
想定した場合、店舗数は面積に対し弾力性が1前後であること、すなわち正比例する
ことを意味している。しかしながら、信用金庫は、エリアAについては店舗展開と面
積との関係は相対的に低くなっている。
これに対して、第二地銀や信用組合についての面積と店舗数との間の関係は、信用
金庫や郵便局に比較してより小さかったり、または不確定である。
地方銀行はこの中間であり、田舎や郊外住宅地では、面積に対して弾力性が0.5∼1.0
程度で店舗展開がなされる一方、市街地においては、面積との関係は不安定である。
これは、地方銀行の店舗戦略や競合が前者と後者で異なることを示していると思われ
る。すなわち、地方銀行は市街地では都市銀行などと真正面から競合するため、その
地域における都市銀行の数などによって出店が影響され、その結果係数の安定性が低
いものと考えられる。これに対し、田舎や郊外住宅地ではそもそも競争相手の出店が
少ないので、地方銀行の出店の意思決定が安定的に面積に依存するのであろう。
よって、前節表1の結果からは、標準偏差を見ると、信用金庫と郵便局は面積にあ
まり依存せずに店舗を展開しているというように考えることも可能であったが、本節
において、商店密度の違いを分離することにより、首都圏の市街地または住宅地にお
ける信用金庫と郵便局は、地域面積にもっとも忠実に店舗展開を行っていると判定で
きる。よって、地域面積に忠実に展開するという観点から地域金融機関性を考えると、
郵便局が1位、信用金庫が2位であると考えられる。また、地方銀行については、田
舎や住宅地での店舗展開には面積がある程度重視されているようであるという点で、
3位に認定できよう。
さらに、郵便局は国営のため無税であることや、信用金庫や信用組合は準公益法人
であるための優遇税制の特権については、わが国国土に広く展開するということに公
益性があるとするならば、郵便局と信用金庫に対するこのような社会的な優遇は是認
されるかもしれない。
しかしながら、地方銀行についても、田舎および住宅地の店舗展開には、地域面積
をある程度考慮に入れた様子が見られた。このことから、地方銀行のような利益追求
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
285
型と考えられる株式会社組織金融機関であっても、店舗展開が地域面積重視型になる
こともあり得るといえよう。この点の解釈には二通りの仮説が考えられる。1つは、
地域面積重視での店舗展開が利益極大化のための当然の戦略であるという仮説であり、
もう一つは、短期的な利益には結びつかないが、その地方の中心としての地方銀行と
しての使命を果たすために、地方銀行は短期的な採算には目をつぶり、面積を重視し
て店舗を展開しているという仮説である。もし、後者であるならば、地方銀行の市街
地外、特に田舎への出店については、公共的な行動とみなすことができるので、何ら
かの支援を是認する根拠となりうる。反対に、前者の仮説が正しいのであれば、信用
金庫への税制面での優遇措置が不要であるとか、郵便局は民営化すべきである、とい
うような議論となる。どちらの仮説が正しいのかについては今回は検証していないが、
直感的には後者ではないかと思う。
次に、人口密度と商店密度の効果を考えよう。エリアAの地方銀行、エリアAの第
二地方銀行については、人口密度が店舗展開に影響し7 、エリアCの第二地銀、全エ
リアの信用金庫、全エリアの郵便局については、商店密度が店舗展開に影響している。
商店密度は、市街化の程度を示す代理変数と解釈される。信用金庫については、基本
的に中小企業専門金融機関であるし、第二地方銀行もかつては中小企業専門金融機関
であったので、ベッドタウンであるかどうか(すなわち人口密度が高いかどうか)、
というのが店舗展開の判断基準ではなく、その場所の市街地度が高いかどうか、とい
う基準で店舗展開していたことがうかがわれる。しかしながら、郵便局についても全
エリアにおいて商店密度の方が説明力があることは以外な結果である。もちろん、郵
便局の店舗展開については、商店密度よりも前述の面積に大きくかつ安定的に影響さ
れていることが読み取れるので、面積重視の展開を行う地域金融機関である、という
事実を傷つけるものではない。なお、エリアCの地方銀行についての人口密度に関す
る係数は問題があるがおかしいが、これは、分析対象市区町村の中で人口密度最も高
い中野区、豊島区、荒川区の3区に地方銀行が1つずつしかなかったためである。す
なわち、市街地における地方銀行の店舗展開は、都市銀行と正面から競合しているの
で、このような地域については本稿のようなモデルでは説明ができない。また、視点
を変えれば、都市銀行は、市街地においては、地域金融機関としての役割を担ってい
るといえるのかもしれない。
このモデル自体のフィットを決定係数からみると、エリアCの信用金庫や郵便局の
フィットは高い反面、その他のエリアや業態については相対的に低くなる。エリアC
のような市街地は信用金庫のメインフィールドであり、かつ都市銀行や地方銀行とは
286
地域金融機関の地域金融機関性
異なる独自の顧客層を対象にしているため、本稿のシンプルなモデルで十分に説明で
きるのであろう。郵便局についても、あらゆる地域に展開しなければならないという
公共性、郵便や保険などの他の事業を抱えていることにもよる独自の顧客層という点
から、もっぱら面積と市街化の程度に依存して展開していることがわかる。
他業態のフィットはあまりよくないが、これから考えられる点としては、地方銀行
や第二地方銀行の顧客層は互いに重なる部分が大きかったり、また都市銀行とも重複
したりするため、その地域における他業態の進出程度などをモデルに含める必要があ
るかもしれない。
信用組合についてのフィットがあまりよくない理由は、他業態(具体的には信用金
庫である)との競合があらゆる進出地域で発生しているのか、または過去において出
店に対する規制が厳しかったか、または信用組合の資金調達に関する制約 8 が信用組
合の店舗展開の制約となったのか、または信用組合のスタートがそもそも1950年代前
半であったために、店舗規制の存在とあいまって、出店可能な場所がかなり多く残っ
ていたという可能性もある。表3からわかるように、信用組合は、高度成長期以後、
金融機関各業態の中で、最も成長率が高かったのであるが、主要な信用組合の設立が
信用金庫法施行(1951年6月)以後であったため、成長率が高くても、他業態に絶対的
な大きさで追いつくことはなかった。よって、1990年代に入って金融システムが混乱
する前までは、出店する余地が多くあったために、本稿のようなモデルのフィットが
悪いということが考えられるだろう。
表3 信用金庫と信用組合の数と預金額 金額の単位 億円
1960年度末 1970年度末 1980年度末 1990年度末 1996年度末
預金額
地方銀行 銀行数
店舗数
預金積金
相互銀行
銀行数
第二地銀
店舗数
預金積金
信用金庫 金庫数
店舗数
預金積金
信用組合 組合数
店舗数
29,752
64
3,821
8,401
72
2,490
9,890
538
2,716
2,044
481
1,101
120,699
61
4,341
62,986
72
2,879
78,857
499
3,390
20,420
536
2,117
580,807
63
5,677
270,160
71
3,861
342,824
461
5,670
87,609
475
2,575
1,591,511 1,728,695
64
64
7,598
7,949
567,251
588,071
68
62
4,727
4,525
823,135
977,321
451
410
8,146
8,643
222,324
221,668
407
363
2,982
2,872
1 店舗数には出張所を含む
2 1990年度以降の相互銀行は第二地方銀行。
3 預金には譲渡性預金を含まない。
出所 大蔵省『銀行局金融年報』各号、大蔵省『金融年報』各号から作成。
60∼90年度 60∼96年度
年平均伸び率 年平均伸び率
14.19%
11.95%
0.00%
0.00%
2.32%
2.06%
15.08%
12.53%
-0.19%
-0.41%
2.16%
1.67%
15.88%
13.61%
-0.59%
-0.75%
3.73%
3.27%
16.92%
13.90%
-0.56%
-0.78%
3.38%
2.70%
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
287
5 地域規制が地域金融機関の費用に及ぼす影響
前節までの結果、各業態の店舗展開の方式が異なる可能性が見出された。特に、信
用金庫については、面積と商店密度を中心にかなり規則的に出店するという行動が見
られた。、地方銀行や第二地方銀行と比較すると、このような出店行動の差は、信用
金庫に対する地域規制があることによって生じていると考えられる。すなわち、もし、
信用金庫に地域規制がないのであれば、信用金庫の成長の過程において、表1や表2
でみられたようなかなりの規則性を持って店舗展開するような行動、すなわち、出せ
る所にはすべて支店を出す、というような行動を採らず、地方銀行のような、面積と
出店との緩やかな関係くらいがみられるであろう。しかしながら、このような、かな
り明確な違いが生じているので、それは地域規制がもたらした信用金庫業界でいうと
ころのいわゆる「狭域高密度戦略」の結果であろう。
ここで問題となるのは、個別信用金庫が独自に採用している戦略である「狭域高密
度戦略」は、地域規制がないような地方銀行や第二地方銀行についてはみられないこ
とからすれば、信用金庫に対する地域規制という追加的制約条件がもたらした戦略と
考えられる。そうであるとすれば、信用金庫の狭域高密度戦略に基づく行動は、地域
規制がない場合の行動よりも必ずコストアップを引き起こしているはずである。
以下では、この問題を検討するために、信用金庫のテリトリー面積の大小が信用金
庫の経費に与える影響について、最小費用関数9 を用いて分析する。
log( 業務費用 )
= α 0 + α 1 log( 資金運用収益 ) + α 2 log( 役務取引等収益 ) + α 3 log( その他収益 )
+ β1 log( 資金調達利回り ) + β 2 log( 単位あたり人件費 )
+ β 3 log( 単位あたり物件費 ) + β 4 log( 単位あたり税金 )
+ γ 1 log(1店あたりテリトリー 面積 ) + γ 2 log(1店あたり預金額 )
(2)
(2 )
ここで、 α1 ∼ α 3 は、金融機関の生産物に関する係数である 10 。 β は生産要素価格に
対する係数である。資金調達利回り、人件費率、物件比率、税金率は、それぞれ、単
位当たりの資金調達費用、人件費、物件費、税金である。業務費用≡資金調達費用+
人件費+物件費+税金、であるから、
1 = β1 + β2 + β3 + β4
(3) (3)
が厳密に成立するはずである11 。よって、推定に際してこの制約を課す。しかしなが
ら、実際の計算においては、生産要素価格の中で、単位あたり物件費、単位あたり税
金については、何を単位に選んでも、問題があろう 12 。よって、本稿では、物件費と
288
地域金融機関の地域金融機関性
税金に関する単位には店舗数と職員数を用いて、別々に、計4種類計算する。γ1 、
γ2 はレベル変数である。使用したデータは、1997年度の首都圏信用金庫財務データ13
である。
この結果は表4で示されている。上述のように、単位あたり物件費と単位あたり税
金について店舗数と職員数を用いたため、表は4種類存在する。これらによれば、1
店あたりテリトリー面積と業務費用とは負の関係がありそうである(が、有意水準5%
で負とはいうことはできない)14 。
つまり、信用金庫がしばしば主張する、いわゆる「狭域高密度戦略」は、収益的に
はプラスであるとはいえない。
では、なぜ、収益的にプラスではない「狭域高密度」戦略、つまり銀行が採用しな
い戦略を信用金庫がしばしば採るのであろうか。これは、地区が限定されているとい
う制約の下での信用金庫の最適化追求のためと考えられる15 。つまり、何らかの意味
で成長したいと考える信用金庫は、地区の拡大ができなければ、地区内に追加的に出
店するしか方法がない。地区の限定という制約は、銀行との競争条件面で信用金庫を
相対的に不利化させるかもしれないが、社会政策的観点からは、地域金融の密度を向
上させるという効果を持っている。
他方、銀行は、限られた区域内に出店して、金融機関密度を高めることが高コスト
につながることをよく知っており、よって、区域制限のない銀行の店舗は広いエリア
内からもっとも収益性が高いと考えられる地点を選択するため、信用金庫と異なる出
店パターンとなるものと思われる。
今回の推定では、狭域高密度戦略がマイナスであるという明確な証拠は出なかった
が、自由な戦略を決定できる銀行がこの戦略をとっていないという点は、間接的なが
ら、やはりコストアップの可能性を示している。
6 結論
本稿は、地域金融機関の「地域金融機関性」という点について、地方銀行、第二地
方銀行、信用金庫、地域信用組合、郵便局について、首都圏における店舗展開の方式
から把握しようと試みた。その結果、地域への広がり方という点について、郵便局、
信用金庫、地方銀行という順番で地域性が高いことが示された。さらに、地域面積に
対して比例的に店舗展開しているか、という点では、郵便局と信用金庫が地域面積に
対してかなり比例的に店舗展開していることがわかった。
郵便局や信用金庫が地方銀行や第二地方銀行よりも面積に忠実に店舗展開するとい
経営研究所論集 第23号(2000年1月)
289
表4 信用金庫の費用に対する地域性(1店舗あたり面積)の影響(1) 信用金庫の費用に対する地域性(1店舗あたり面積)の影響(2)
決定係数
0.9983
決定係数
0.9966
同自由度修正済
0.9981
同自由度修正済
0.9962
オブザーベーション数
71
係数
オブザーベーション数
標準誤差
t
P
95%信頼区間
係数
切片
資金運用収益
-0.1529
0.2677
0.5118
0.0331
-0.299
8.079
0.7661 -1.176 ∼ 0.870
0.0001 0.201 ∼ 0.334
切片
資金運用収益
役務取引等収益
-0.0225
0.0267
-0.844
0.4018 -0.076 ∼ 0.031
役務取引等収益
その他業務収益
-0.0006
0.0057
-0.106
0.9157 -0.012 ∼ 0.011
その他業務収益
資金調達等利回り
-0.0980
0.0411
-2.384
0.0202 -0.180 ∼ -0.016
資金調達等利回り
人件費/職員数
0.3891
0.0469
8.292
0.0001
0.295 ∼ 0.483
物件費/店舗数
0.3193
0.0387
8.261
0.0001
税金 /店舗数
0.3896
0.0322
12.095
0.0001
1店あたりテリトリー面積
-0.0123
0.0085
-1.458
0.1499 -0.029 ∼ 0.005
1店あたり預金
-0.7807
0.0463 -16.869
0.0001 -0.873 ∼ -0.688
オブザーベーション数
t
P
P
95%信頼区間
-2.557
7.674
0.0130
0.0001
-3.154 ∼ -0.386
0.268∼ 0.457
0.0400
0.0383
1.045
0.2999
-0.036 ∼ 0.116
0.0081
1.118
0.2679
-0.007 ∼ 0.025
0.0604
-1.650
0.1041
-0.220 ∼ 0.021
人件費/職員数
0.6045
0.0661
9.149
0.0001
0.472∼ 0.737
0.242 ∼ 0.397
物件費/職員数
0.0710
0.0553
1.283
0.2043
-0.040 ∼ 0.182
0.325 ∼ 0.454
税金 /店舗数
0.4241
0.0460
9.212
0.0001
0.332∼ 0.516
1店あたりテリトリー面積
-0.0220
0.0120
-1.832
0.0718
-0.046 ∼ 0.002
1店あたり預金
-0.5869
0.0573 -10.242
0.0001
-0.701 ∼ -0.472
71
標準誤差
t
0.6924
0.0473
0.0090
0.9955
0.9949
係数
標準誤差
-1.7704
0.3627
-0.0996
信用金庫の費用に対する地域性(1店舗あたり面積)の影響(3) 決定係数
同自由度修正済
71
信用金庫の費用に対する地域性(1店舗あたり面積)の影響(4)
決定係数
同自由度修正済
0.9928
0.9918
オブザーベーション数
71
95%信頼区間
係数
切片
資金運用収益
-1.6600
0.4769
0.8632
0.0457
-1.923
10.445
0.0590 -3.385 ∼ 0.065
0.0001 0.386 ∼ 0.568
切片
資金運用収益
役務取引等収益
-0.0004
0.0442
-0.010
0.9922 -0.089 ∼ 0.088
その他業務収益
0.0103
0.0093
1.110
0.2714 -0.008 ∼ 0.029
資金調達等利回り
0.0222
0.0709
0.313
人件費/職員数
0.3782
0.0780
物件費/店舗数
0.3910
税金 /職員数
0.2086
1店あたりテリトリー面積
1店あたり預金
標準誤差
t
P
95%信頼区間
-3.4370
0.5943
1.0423
0.0576
-3.298
10.320
0.0016 -5.520 ∼ -1.353
0.0001 0.479 ∼ 0.709
役務取引等収益
0.1102
0.0546
2.020
0.0477
0.001 ∼ 0.219
その他業務収益
0.0286
0.0113
2.526
0.0141
0.006 ∼ 0.051
0.7553 -0.120 ∼ 0.164
資金調達等利回り
0.0940
0.0894
1.051
0.2972 -0.085 ∼ 0.273
4.852
0.0001
0.222 ∼ 0.534
人件費/職員数
0.7259
0.0942
7.708
0.0001
0.0634
6.171
0.0001
0.264 ∼ 0.518
物件費/職員数
0.0001
0.0806
0.002
0.9988 -0.161 ∼ 0.161
0.0535
3.899
0.0002
0.102 ∼ 0.316
税金 /職員数
0.1800
0.0680
2.646
0.0103
-0.0203
0.0139
-1.456
0.1504 -0.048 ∼ 0.008
1店あたりテリトリー面積
-0.0321
0.0175
-1.836
0.0711 -0.067 ∼ 0.003
-0.5023
0.0634
-7.920
0.0001 -0.629 ∼ -0.376
1店あたり預金
-0.2326
0.0591
-3.934
0.0002 -0.351 ∼ -0.114
0.538 ∼ 0.914
0.044 ∼ 0.316
290
地域金融機関の地域金融機関性
うこの顕著な特徴は、これらが国営であったり、地域規制に縛られていたりすること
から生じたのであろうと推察される。そこで、最後に、テリトリーの大小が信用金庫
の費用に与える効果を推定したが、テリトリーが小さいことがコスト減となる証拠は
なかった。よって、信用金庫の店舗が地域金融機関としての特性を高めるように展開
され、それがたとえば「狭域高密度」と呼ばれる戦略を生み出したという事実は、地
域規制があるからこそと考えるのがやはり自然であろう。
しかしながら、地域金融機関として地域内の店舗密度を高めていくような、銀行が
採用していない戦略は、理論的には、やはり、地域金融機関のコストを有意に上昇さ
せるはずと予想できる。この点については、再度調査したいと考える。
いずれにしても、地域金融を維持し、地域の金融機関店舗の密度を高く、かつ各市
区町村に満遍なく配置する、という政策が社会的に望ましいのであれば、国営の郵便
局や協同組織金融機関に対する補助金または税制上優遇措置は是認されると思われる。
* 本稿の作成にあたり、(社)全国信用金庫協会、東京郵政局貯金部から多くの貴重な資料の提供を
受けた。また、全国信用金庫協会の研究会「COFIS」のメンバーから、多くの有益なコメン
トを頂いた。記して感謝したい。
注
1
信用組合は、地域信用組合、業域信用組合、職域信用組合、外国系信用組合に分類される。本
稿は、地域性の分析が目的なので、地域信用組合のみを取り上げる。
2
使用したデータは以下のとおりである。信用金庫財務データについては、(社)全国信用金庫協
会から提供された。信用金庫店舗データについては(社)全国信用金庫協会『全国信用金庫統一
店番号簿』から得た。地方銀行、第二地方銀行店舗データについては、1999年3月31日現在の
各銀行のホームページやパンフレットから得た。信用組合の店舗データおよび預金額は、(社)
全国信用組合中央協会編『全国信用組合名簿』から得た。郵便局店舗データは、東京郵政局貯
金部企画課から提供された。市区町村人口密度・面積は、東京都庁、各県庁のホームページ掲
載のデータを用いた。商店数については、通商産業省『平成9年商業統計表』を用いた。
3
この計算方法の他に、各業態の全支店・本店数を市区町村面積総計で割る方法もあるが、この
方法では、市街地以外の面積の広い地区の状況が強く反映される結果となるので、行わなかっ
た。
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信用金庫以外の業態では、業態に属する個別金融機関の数が小さいため、このような図を本稿
で掲載する意味が薄いと思われるので、本稿では掲載を省略した。また、図の右の方の規模の
小さい信用金庫については、それが中央区に1店舗のみで営業していたり、たまたま東京都中
央区、墨田区、葛飾区のような商店数が多い地区にひとつずつ店を持っていたため、1店舗あ
たり商店数が極めて多くなったりすることがある。よって、表が右に行くにつれて、1店舗あ
経営研究所論集 第23号(2000年2月)
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たり面積や1店舗あたり商店数の変動が大きくなる傾向がある。つまり、本図を見るにあたり、
右隅の金庫の様子については、あまり注意を払う必要はない。
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計算には、MS Excel 2000を用いた。たとえば、A市について、信用金庫が2金庫あり、支店数
がそれぞれ3支店、4支店があるとした場合、A市における信用金庫業態の支店数は7とした。
つまり、業態ごとに各市区町村合計の店舗数を求め、それを1つのオブザーベーションとして
いる。
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1km2 あたりの商店数が100以上の市区町村(エリアB)は以下のとおりである。
東京都23区、東京都武蔵野市、保谷市、埼玉県蕨市、鳩ケ谷市、神奈川県横浜市神奈川区、西
区、中区、南区、川崎市幸区、中原区。
1km2 あたりの商店数が50以上100未満の市区町村(エリアC)は以下のとおりである。
東京都立川市、三鷹市、府中市、昭島市、調布市、小金井市、小平市、東村山市、国分寺市、
国立市、田無市、福生市、狛江市、東大和市、清瀬市、東久留米市、羽村市、千葉県千葉市中
央区、稲毛区、市川市、船橋市、松戸市、習志野市、浦安市、埼玉県川口市、浦和市、大宮市、
春日部市、与野市、草加市、越谷市、戸田市、志木市、新座市、上福岡市、神奈川県横浜市鶴
見区、港南区、保土ヶ谷区、旭区、磯子区、金沢区、港北区、瀬谷区、川崎市川崎区、高津区、
宮前区、多摩区、鎌倉市、藤沢市、相模原市、大和市。
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エリアCの信用金庫については、人口密度と商店密度がともに店舗展開に影響しているが、比
較すると商店密度の影響の方がより大きい。
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中小企業等協同組合法第9条の8③は、信用組合に対する組合員外(すなわち「員外」)からの
預金・定期積金20%以内に制限している。
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一般に、最小費用を C 、生産物ベクトルを Y 、生産要素価格ベクトルを W 、生産要素ベクト
ルを N 、生産関数のシフトパラメタベクトル(本文中のレベル変数)を L 、生産関数を
f (N ) とすれば、一定の生産技術 L の下で生産物ベクトル Y 以上を生産するための最小費用
C = C ( Y , W , L ) は以下で定義できる。
C = C (Y , W , L )
= min(WN )
N
s.t . f ( N , L ) ≥ Y
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金融機関の生産物に何を用いるかということについては預金額や貸出額、預金口座件数、貸出
件数、収益項目など諸説あるが、本稿では、最近の傾向に従い、各収益項目を生産物の代理変
数とした。
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最小費用が要素価格ベクトルに対して一次同次であるからである。よって、生産要素価格で最
小費用関数で微分したときに生産要素に対する需要関数が導かれる、いわゆるRoy's identityか
ら、各生産要素価格の対数に関する係数 β1 、 β 2 、 β 3 、 β4 は、全費用に対する各生産要素費
用のシェアを示している。たとえば、最小費用 C を、生産物ベクトルを、生産要素価格ベクト
ル W をとすれば、本稿で推定した係数 ∂ ln C / ∂ ln W i は以下のとおり分解できる。
∂ ln C
∂C Wi
=
•
∂ ln Wi ∂Wi C
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地域金融機関の地域金融機関性
ここで、 ∂ ln C / ∂ ln W i は第i生産要素価格の対数で費用の対数を微分したものであり、本稿
で求めた係数である。また、Roy's identityから、 ∂ C / ∂ W i は第i生産要素に対する需要量、
よって ( ∂ C / ∂ W i ) • W i は第i生産要素に対する支払額となる。よって、上式の右辺は第i生
産要素に対する支払額の総費用に対するシェアとなる。
ただし、次の注12で示されているように、単位の選択の問題があるので、実際のデータについ
て、厳密に成り立つとはいえない。
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たとえば、「単位あたり物件費」については、「1単位のモノ」あたりの物件費ということであ
り、よって、各信用金庫に何単位のモノがあるかを計算しなければならない。単位あたり税金
も同じ問題がある。なお、「1人あたり人件費」は、人件費総額を職員数で割ったものであり、
これだけはもっともらしいが実際にはそうではない。なぜなら、最小費用の生産要素価格に関
する一次同じが成立するためには、厳密には各信用金庫が雇用している職員の質が等しく均一
でなくてはならないが、そのようなことはありえないからである。
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計算には、SAS ver.6.12を用いた。東京の信用金庫1つについては、分析からはずした。これ
は赤字のため税金の支払いがなく、よって税金率がゼロとなるが、その場合対数変換が不可能
なためである。
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本論とはあまり関係がないが、他の係数の推定値に関するコメントは以下のとおりである。ま
ず、資金運用収益についての係数、すなわち業務費用に対する資金運用収益の弾力性は0.2∼0.7
と考えられるが、有意水準5%でこの値が1であるという仮説は棄却される。このことは首都
圏信用金庫においては、大規模信用金庫の方が効率がよいことを示している。また、役務取引
等収益やその他業務収益については、業務費用にほとんど影響がないと考えられる。4つの生
産要素価格については結果がさまざまであり、これは前述の単位の問題のためであろう。なお、
参考のため、業務費用に占める各生産要素費用シェアの実際の値を見ると、資金調達費用、人
件費、物件費、税金は、首都圏信用金庫の合計額から計算した場合はそれぞれ0.33、0.42、0.22、
0.01であり、各信用金庫別に計算されたシェアの単純平均ではそれぞれ0.24、0.49、0.25、0.02
であった。理論的には生産要素価格に関する係数とは近い値になるはずであるが、単位の取り
方の問題のためと思われるが、かなり外れた値になっている(注11参照のこと)。
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この他の可能性としては、中小企業専業という制約のため、中小企業向けサービス、特に「足
を使う」渉外に重点をおいているので狭域高密度となるということである。この仮説について
は、取引先を中小企業へシフトさせている地方銀行や都市銀行が狭域高密度戦略をなぜ採用し
ないのか、という疑問が残る。
参考文献
宮村健一郎「協同組織金融機関に対する税制上優遇措置の経済的根拠に関する実証分析…中小企
業専門性と地域性」『経営研究所論集』東洋大学経営研究所1998年2月
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