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貯蓄率と社会保障(年金)の関係についての実証分析

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貯蓄率と社会保障(年金)の関係についての実証分析
GRIPS Policy Information Center
Research Report : I-2006-0005
貯蓄率と社会保障(年金)の関係についての実証分析
大
来
洋
一
エルビラ・クルマナリエバ
2006 年 8 月
要旨
我が国の貯蓄率が国際的にみて高いという状態は高度成長期が終った後もかなり長く続いてい
た。しかし、貯蓄率は、ライフサイクル仮説に従えば人口の高齢化によって低下していくはずであ
る。ところが、国民経済計算旧系列では貯蓄率が 90 年代に「高止まり」する事態が生じていた。
これに対して、いくつかの研究においては老後のリスクに対応する予備的貯蓄の増加が有力な説明
要因と提示された。こうした研究を本稿ではいくつかサーベイする。
ところが国民経済計算が93SNAという新系列になると、1990 年代の貯蓄率「高止まり」の
傾向はなくなってしまい、貯蓄率は 1992、93 年頃の 13%程度から最近では 6%以下へと大きく下
落した。にもかかわらず、老後の不安に関連する家計の予備的貯蓄が家計の行動にやはり影響を与
えていることを本稿は明らかにした。すなわち、オイラー方程式を流動性制約と老後のリスクなど
リスク要因で拡大したモデルを応用して、老後のリスクと貯蓄率の関係を確認した。
他方で、本稿の共和分(cointegration)分析による長期的関係でみると、社会保障基金の貯蓄は
家計の貯蓄と代替的であるものと思われる。したがって、過去の長期の関係としては、社会保障の
充実は貯蓄の減少、消費の増加につながるということになる。
しかし、これは社会保障に関する不安、裏をかえせば老後の生活に関する不安がないという条件
が満たされている場合である。1990 年代には、年金の将来に関する不安に強く結びつく保険料の
引き上げがかなり頻繁に行われた。長期的関係としては、保険料の引き上げは、老後の生活に関す
る不確実性を減じて予備的貯蓄を減らすものであるという計測結果にもかかわらず、1990 年代に
は人々の意識の中では老後生活に関する不確実性が増大し、「高止まり」という現象を通じてでは
ないが貯蓄率に影響を与えていた。
本研究は、平成15年度∼平成17年度科学研究費補助金[基盤研究(C)
]15530179と
家計経済研究所の消費プロジェクト(主査大来洋一)の成果に基づき行われた。前者の研究分担者
の諸氏(太田清、小塩隆士、小原美紀)と家計経済研究所に謝意を表する。
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Research Report : I-2006-0005
はじめに
家計貯蓄率についてはこれまで、「日本の家計貯蓄率はなぜ高いか」という観点を中心に、
多くの研究が行われてきた。そのサーベイについても Horioka (1990)、大来(1993)がすでに
ある。しかし、最近の研究の傾向としては、パネル・データを使った分析や、予備的貯蓄(あ
るいは不確実性に備える貯蓄)など、以前と異なる研究が増えてきており、再びサーベイを行
う意味もでてきている。
また、その後、事態が変化したり、データが追加されることによって、新たな視点からサー
ベイをしたり、実証分析をする必要が生じてきているように思われる。
そうした事態の変化とは次のようなものである。
(1)日本の貯蓄率が高いとはいえなくなってきた、
(2)しかし、データによっては、90 年代においてそれが高止まりしているともみらえる
ことから、なぜ高止まりしているのかという疑問(中川、1999)があること、
(3)この 1990 年代から最近までの期間においては年金制度のかなり大幅な改正が頻繁に
行われてきたことから、それが貯蓄率に影響を与えているのではないかという問題、
(4)肥後・須合・金谷(2001)が指摘しているように、意識調査では近年、雇用不安、金
融不安、年金不安の「三つの不安」が消費に影響を与えていること。
以下では、これらを念頭に、次の3つの節を設ける。
第1節では、1990 年代以来、貯蓄率は高止まりしたのかどうか、国際的にみて依然高いの
かどうか、の問題に直結する国民経済計算(SNA)の貯蓄率の推移と、SNAの基準改定の
影響についてとりあげる。
第2節では、この時期において、所得のリスク、不確実性が貯蓄率にどのような影響を与え
たか、についての文献をサーベイする。
第3節では、社会保障、なかんずく年金制度の変化が、不確実性の増大、予備的貯蓄の増大
という形を通じて、あるいは、リカード中立の関係を通じて、貯蓄率に影響を与えていないか
の問題をとりあげる。不確実性の増大と貯蓄率の関係は、上述の「三つの不安」と予備的貯蓄
の関係にほかならない。
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第1節
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最近の貯蓄率の推移と新旧統計の比較
よく知られているように、わが国の家計貯蓄率は 1970 年代の半ばにかけて長期的に上昇し、
その後 1980 年代 1990 年代初までは趨勢的に低下してきた(第1図)。この山型の推移は、主
として可処分所得の伸び率の変化と、人口の年齢構成の変化によって説明される(大来、1993)。
これらの説明要因は、また、日本の貯蓄率が国際的に見てなぜ高いかを説明するものでもある
(Horioka、1990)。
しかし、その後 1990 年代(厳密には 1998 年まで)には、旧体系の国民経済計算(旧68S
NA・平成 2 年基準、以下では68SNA)によると、第 1 図でもみられるように、貯蓄率は
横ばい、ないしはやや上昇気味というのが基調となっていた。このため、中川(1999)による
「90 年代入り後も日本の家計貯蓄率はなぜ高いのか?」という題の論文も現れた。これによ
ると「将来に対する様々な不確実性(リスク)が高まる中、家計が予備的な意味合いの貯蓄を
増やしている」ことが背景とされる。
しかるに、SNAの 1993 年に国連によって採択された体系(以下では93SNA)への移
行、基準年の変更、そして、2000 年前後の数字の追加によって、まったく異なった趨勢が現
出した。すなわち第2図にみられるように、93SNAによる貯蓄率は 1992、93 年頃の 13%
程度から最近では 6%以下へと大きく下落している。
また、前出の肥後・須合・金谷(2001)によると、消費実態調査では全世帯ベースの貯蓄率
は 1994 年から 1999 年の間にほぼ横ばいであった。家計調査では同じ期間に貯蓄率は上昇して
いるが、家計調査については、各種の問題があり1、全世帯についての統計としては使用する
わけにはいかない。というわけで家計調査は除くとしても、1990 年代において貯蓄率が横ば
いなのか、下落傾向なのかは判然としない。
そこでまず、68SNA(旧)と93SNA(新)の違いの要因を探ることにしよう。
93SNAの導入にあったって、経済企画庁経済研究所(当時、現内閣府経済社会総合研究
所)が 2000 年 11 月に公表した「我が国の93SNA への移行について(暫定版)」では、
68SNAとの違いの例として、「コンピューター・ソフトウェアへの支出を中間消費ではな
く投資として総固定資本形成に計上する扱い」などとともに、「68SNA 上での金融機関の
不良債権償却の取扱いは明確化されておらず、所得支出勘定の『その他の経常移転』の一つと
1
岩本康志・尾 哲・前川裕貴(1995)、および、古川彰(2001)を参照。
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して位置付けて」いたものを、「不良債権償却額をストックの調整勘定の『その他の資産量変
動』の一項目として新たに表章し」たことをあげている。この不良債権償却の扱いは金融機関
の家計(個人企業を含む)に対する債権についても、対法人企業と同じである。
この不良債権償却額の扱いの変更に注目したのが、斉藤・白塚(2003)である。彼らは、新
旧の家計貯蓄率の間の違いについて、「内閣府・経済社会総合研究所によると、この乖離は主
として、93SNAでは不良債権償却が可処分所得から控除されていることによるとされてい
る」としたうえで、「家計部門で発生した不良債権の償却を93SNAベースの可処分所得に
加算すると、新旧ベースの貯蓄率の乖離は若干縮小する。民間金融機関全体の不良債権償却を
加算すると、新旧ベースの貯蓄率の乖離はほぼ解消する。」という。これに基づき、彼らは二
つの「調整」を行った。彼らの図4(10 頁)の備考で第 1 の調整は「93SNAベースの可
処分所得に家計の調整勘定におおける NPL 償却額を加算したもの」、第 2 の調整は第 1 の調整
にさらに「民間金融機関の NPL 償却額を加算した」ものだという説明がある。第 1 の調整は
新旧の乖離を若干縮小させるだけなので、第 2 のそれについて、ここで検討する。彼らは四半
期移動平均で新旧を比較し、新を調整して旧に合わせようとしているが、ここでは暦年で同じ
ことを行う。それが第 2 図で、乖離がほとんどなくなっていることがわかる。
しかし、二村(2005)によると、彼らの第 2 の調整は問題があるという。二村の説明を一部
引用しつつ要約する。
(概念の差)
まず新旧の間では概念の差がある。
(1) 現物社会給付等の取り扱い
現物社会給付(医療保険及び介護保険に係る社会保障基金からの給付)、教科書購入費等の
移転的支出について、68SNAでは家計の可処分所得及び消費の双方に含まれていたが、9
3SNAではいずれにも含めない。この変更により、貯蓄額には影響はないが、可処分所得が
減少するため、家計貯蓄率は68SNAベースに比べて高まる2。
(2) 不良債権の償却の取り扱い
68SNAでは、貸出金償却の取り扱いに関する明確な決まりはなく、慣行上、金融機関等
2
教科書購入費等は相対的に少額なため、ここでは無視する。
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による不良債権の償却を「その他の経常移転」として取り扱っていた。すなわち、償却分が可
処分所得に含まれる。一方、93SNAでは、不良債権の償却について、「破産等により金融
債権がもはや徴収できないため、債権者によって当該資産が貸借対照表から除去された場合は、
これを(調整勘定の)その他の資産量変動勘定に記録する」という新指針に従い、金融機関等
による不良債権の償却を、従来のような経常移転として捉えるのではなく、調整勘定の「その
他の資産量変動」において捉えることとなった。ということは、償却分は可処分所得には含ま
れない。その結果、金融機関等から家計に対する貸出金の償却分だけ、家計の可処分所得及び
貯蓄が減少し、家計貯蓄率は68SNAベースに比べて低くなる。
なお、68SNAでは、債権の直接償却額及び償却を目的とした貸倒引当金の取り崩し額、
すなわち実現額の合計を計上していたが、93SNAでは、直接償却額及び個別貸倒引当金へ
の繰入額、すなわち発生額の合計を計上している。
齊藤・白塚(2003)の、93SNAの家計貯蓄率を68SNAに近づけるための第2の調整、
「民間金融機関全体の不良債権償却を加算」するという調整は、新旧の概念の差ではないもの
を調整していることになる。民間金融機関の不良債権償却額の中には、家計向けのみならず、
法人等への債権の償却も含まれるが、68SNAにおいて家計の可処分所得に含まれていたの
は、あくまでも家計向けの貸出金の償却分のみである。このような調整の結果として68SN
Aに近い計数が得られたのは、偶然ということになる。
実際に数字で概念の差をみよう。第1−1表では、(a)欄、(b)欄はいずれも93SNAベー
スの平成 15 年確報、11 年確報における家計貯蓄率であり、(c)欄は68SNAベースの 10 年
確報における家計貯蓄率である。
まず、15 年確報の家計貯蓄率を68SNA概念に転換しよう。具体的には、年金準備金変
動と現物社会給付を可処分所得に加え、家計に対する不良債権の抹消額を貯蓄及び可処分所得
に加える(第1−2表参照。)その結果が(イ)欄の「概念調整後」である。調整後(新ベース)
の(イ)と、旧ベースの(c)との乖離は依然として大きい(第3図参照)ことから、概念の
違いは貯蓄率の乖離の主因とはいえない。
(原統計改訂等の影響)
、
新旧家計貯蓄率乖離の要因は、以上の概念の変更の影響のほかに、①93SNAへの移行時
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、
における推計方法・基礎統計の改定等の影響、と②93SNA移行後の基礎統計の改定等の影
響がある。
まず①の移行時については、家計の財産所得(受取)と家計最終消費支出に関するものの寄
与が大きい。このうち、家計の財産所得については、93SNAへの移行に際し、金融情勢(金
利等の動き)をより適切にとらえるように推計方法を改定した結果、1990 年代における家計
の利子所得受取の減少幅が大きくなり、1996 年以前では新SNAのネットの財産所得受取が
旧のそれおより大きく、1997 年以降はその逆になった。この影響を調整するため、ネットの
財産所得の受取を旧ベースに戻す調整をした結果が(ロ)欄である。
移行時の原統計の変更の影響としては、産業連関表が新しくなったためと思われる家計最終
消費支出の68SNAに比べての増加がある。家計最終消費の概念には上記の変更があるので、
93SNAのそれに現物社会給付を加えて68SNAと概念上統一した上で、新旧を比較し、
この新旧の差を原統計の変更の影響とする。これを93SNAの貯蓄に加えるという調整をお
こなったものが(ハ)欄である。これで、ある程度新旧の差は縮まるが、それでもまだ乖離が
かなり残っている。
最後に、②の移行後の基礎統計の改訂等の影響については、その程度を細かく基礎統計にさ
かのぼって把握することは困難なため、次のような試算を行う。すなわち 15 年確報値と 11
年確報値は93SNAベースで揃っているので、これらの差が概ね基礎統計の改定等による影
響を示しているとみなすことができる。このように考えて(a)欄と(b)欄の差を、(ハ)欄
に加えた結果が(ニ)欄である。この結果は第 4 図にも示しておいたが、目立った乖離は残っ
ていない。
要するに概念の違いによる差はあまり大きくなく、推計方法の改善や、原データの改訂、追
加による分が新旧の差のかなりの部分を説明している。また、1990 年代前半以前は概念の差
による差は小さく、また 1980 年代には、68SNAと93SNAの差はあまりないので、1980
年で、二つの系列をつないでもそれほど問題はないものと考えられる。
また、斉藤・白塚(2003)のいうように、新旧貯蓄率の乖離は「主として、93SNAでは
不良債権償却が可処分所得から控除されていること」だけで説明されるとすると、不良債権の
償却が終わることは貯蓄率の要因である。しかし、新旧乖離の要因は上でみたように概念の変
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更以外、不良債権償却以外のものが大きい。したがって日本の家計貯蓄率はもはや国際的に見
て高いとはいえない。
貯蓄率は、ライフサイクル仮説に従えば人口の高齢化によって低下していくはずであり、そ
の決定要因として人口の年齢構成を重視した Horioka(1989)は、2012 年に貯蓄率がマイナス
になると予測していた。この予測の示した方向というのは正しかったということになる。また
下でみる中川(1999)は 1990 年代の貯蓄率高止まりに注目したが、この現象は存在しなかっ
たことになった。しかし、中川が高止まりの要因として指摘したリスク(不安)は貯蓄率にや
はり影響を与えていたことを第 3 節で示す。
第2節
不確実性、予備的貯蓄と日本の家計貯蓄率の関係―文献のサーベイ―
マクロのデータ(消費態度などのサーベイ・データ)を使って所得の不確実性が消費・貯蓄
に与える影響を分析したものは小川(1991)、中川(1998)、土居(2001)、大越(2002)など
がある。それぞれ、所得の不確実性について、期待所得にどのような指標を使うか、その指標
の分散を不確実性とするか、平均を不確実性とするかなどの違いがあるが、いずれも所得の不
確実性が予備的貯蓄を通じて消費・貯蓄に影響を与えるという結果を出している。
小川(1991)は、所得のリスクと予備的貯蓄の関係について定量的に分析をし、前者がどの
程度貯蓄を増やしているかの計測をわが国について最初に提示した。手法としては、アンケー
ト調査から Carlson and Parkin (1975) によって開発された手法(以下ではCP法)で所得リス
クを計測し、これを貯蓄関数に組み込んで推定を行うというものである。その結果勤労者家計
では、第 1 次石油危機後の 1974 年から 77 年まで総貯蓄の 5%から 11%を予備的貯蓄が占めた
ものの、その後は小さな割合(2%)に留まったほか、農家家計では、予備的貯蓄の総貯蓄に
占める割合が非常に高かった、等の結果を導いている。しかし、これらは、それまでの多くの
実証研究から得られていた結果とさほどかわりはない。また、最近時において、不確実性が増
えているか、年金制度などの社会保障関係の将来不安の影響が出ているのかについてはふれて
いない。
中川(1998)はオイラー方程式の考え方を用いて、「実質所得リスク」を説明変数に組み込
んだマクロ消費関数を定式化、計測し、これが消費の説明要因として有意であるという結果を
得ている。この実質所得リスクとしてはやはりCP法が使われている。この分析については下
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で再度ふれる。
中川(1999)は 90 年代入り後も家計貯蓄率はなぜ高いのか、という問題に取り組み、家計
調査、貯蓄動向調査、貯蓄と消費に関する世論調査(貯蓄広報中央委員会)などのデータをも
とに、「いかなる家計がいかなる『リスク』を主に認識し、貯蓄動機を高めているかを分析し
た」。結論としては「90 年代入り後、①中高年の低所得者、②若年層、③高齢者層(とくに勤
労者以外の世帯)という 3 つの家計が異なる「リスク」を認識し、それぞれ、①中高年の低所
得者は雇用に対する不安(企業倒産、リストラ)、②若年層は年金に対する不安、③高齢者層
は要介護となることへの不安から、貯蓄動機を高めている」とした。これら 3 つの「リスク」
は、「80 年代には、表面化あるいはあまり意識されていなかった要因である。90 年代入り後、
社会保障制度の充実、人口の高齢化といった貯蓄率を低下させる要因が強まる中にあって、こ
れらの新たな『リスク』が登場し、しかも、そのインパクトが予想以上に大きかったことが、
当初は下落傾向を辿ると思われていた 90 年代入り後の日本の家計貯蓄率を、緩やかながらも
上昇トレンドに押し上げた」という結論は説得的である。しかし、さきにみたように、国民経
済計算の改定によって、緩やかな上昇トレンドそのものの存在が覆された。にもかかわらず第
3 節では改訂後の統計によっても中川の主張が確認できることを示す。
肥後・須合・金谷(2001)は「全国消費実態調査報告」(1994 年、1999 年)を用いて、次の
ような分析結果を示した。
1. ・・・全世帯ベースの貯蓄率は、1984 年から 1994 年までは上昇したが、その後 1999
年にかけてほぼ横ばいに推移している。これは、勤労者世帯の貯蓄率は・・・1994 年
以降も上昇しているが、勤労者以外の世帯では、自営業の経営悪化などによる所得の減
少、失業者増などにより、貯蓄率が低下しているためである。
2. 60 歳以上では自営業の経営悪化などにより可処分所得が減少し、貯蓄率が低下
50 歳代は貯蓄率がほぼ横ばい
30∼40 歳代では可処分所得よりも消費支出の減少率が大きく、貯蓄率が上昇
30 歳未満については可処分所得が減少、消費支出が堅調、貯蓄率が低下。
また、収入階層別では、どの収入階層でも貯蓄率は上昇している。
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彼らは貯蓄率高止まりの要因として、「生活意識に関するアンケート調査」の個票分析
から次のような結果を得ている。
3. 将来の可処分所得に対する不確実性が高まると消費支出を削減する傾向が存在す
る。
・・・雇用や処遇に対する不安、将来の年金給付に対する不安・介護に関する不安、
金融システムに対する不安、を持っている家計のうちで消費支出を削減している比率が、
不安を持たない家計のうちで同様に消費支出を削減している家計の比率よりも(有意
に)高い。このうち、金融システムに対する不安は、各種の金融システム対策の効果も
あり一時に比べると沈静化しているが、雇用・処遇に対する不安は根強いものがある。
また、年金給付に対する不安、介護に関する不安については、年金改革の実施、介護保
険の導入といった政策努力は現時点では人々の不安の改善には十分寄与していない。
4. 住宅資産価値の下落による家計のバランスシートの悪化が、消費支出の削減、貯蓄率の
押し上げに寄与している。
(以下略)
5. 物価の変動と消費支出行動との関係・・・、「物価が下落している」ならびに「物価が
上昇している」と感じている家計では、消費支出を削減している比率が高くなっている。
これは、物価の安定が消費支出を押し上げるのに最も望ましいことを示している・・・
このように、実質所得リスクだけでは不確実性と貯蓄率の分析には不十分であることがわ
かった。
土居(2001)もCP法(カールソン・パーキン法)による予備的貯蓄仮説の検証を行うが、
次のような重要な指摘を行っている。
カールソン・パ−キン法で測った所得リスクは、実質所得成長率の予測値の世帯間分敢
である。したがって、カールソン・バーキン法で測った所得リスクの値は、
・・・将来に
おける所得の増え方について、人々の予想が大きくばらつく・・・場合、
・・・大きくな
る。しかし、将来における所得の増え方について、人々が一致して大きく減ると予想す
る場合、所得リスクの値は小さくなる。
・・・人々が一致して所得が大きく減ると予想す
るときでも、所得が大きく減る確率が高まれば消費を大きく減らさなければならないと
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いうリスクがそれだけ高まったとも言える。その意味では、この両者は性質を異にする
ものの、ともに所得に関するリスクが高まる現象と理解することができる。これらに対
して、カールソン・バーキン法で測った所得リスク・・・は、定義上前者のリスクを捉
えることはできても、後者のリスクを捉えることができない。
・・・1990 年代の景気後退
期には後者の意味でリスクが高まったと考えられるが、所得リスク・・・はほとんど変
化していない。
としている。そこで、土居は「消費動向調査」の雇用環境についての予測についてCP法から
の分散を適用せず、むしろ期待値をあてはめることによって有意な結果を導いている。
村田(2003)はミクロ・データを用いて、「景気見通しや公的年金制度に関して家計の抱く
不安が貯蓄行動に及ぼす効果を検証」、「親と同居していない家計や親から経済的援助を受け
ていない世帯を対象とした場合、年金不安のある家計は、不安のない家計に比べ金融資産をよ
り多く保有していることがわか」るなど、貯蓄行動に影響があることを示している。
この村田の分析は、「景気見通し」についてはこれまでのマクロのデータによる所得の不確
実性一般についての研究と重なっている一方、公的年金制度についての不安について金融資産
保有行動=貯蓄行動と関係があることが示された点が重要である。
第3節
実証分析
以下では、3つの分析を行う。第1には、
「家計の金融資産に関する世論調査」
(金融広報中
央委員会)で得られるアンケートの結果と年金改革の年表を対比させて、年金改革が年金不安
にどのような影響を与えているかを検証する。第2は、社会保障基金の貯蓄と家計の貯蓄の間
に代替関係があるか、すなわち、リカードの中立の関係が成立するかどうかを、cointegration
の手法で確かめようというものである。第3は中川(1998)の定式化にしたがって理論モデル
から計測用のモデルを導き、その所得リスク(不確実性要因)の項に、第1の分析で用いた不
安(不確実性)の変数をあてはめるものである。
3−1
老後の生活、年金についての世論調査と年金制度の推移
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第5図は「家計の金融資産に関する世論調査(平成 15 年)」3の主な結果を示したものであ
る。敢えて異なる質問項目の結果をひとつのグラフに集約している。
まず「心配である」という凡例が示されている系列(以下ではA)は、「老後の生活につい
ての考え方」についての調査である。この問についての回答の選択肢としては、「心配してい
ない」4と「心配である」(「多少心配」、「非常に心配」にわかれている)から回答するように
なっている。この系列は 1992 年に質問方法が変更されたため連続した系列とはみなせないが、
質問方法の変更の前後についてはそれぞれ上昇傾向がみられ、特に 1997 年と 1998 年には目立
った上昇となっている。しかしその後は横這い気味に推移し、特に 2004、2005 年には若干の
減少も見られている。
つぎに「老後の生活を心配する理由」を聞いた問に対する答(複数回答)についてみると、
「年金や保険が不十分」という回答(以下ではB)が 1989 年から 1992 年にかけて減少したも
のの、その後「老後が心配」という回答と同様に緩やかな増加傾向をみせ、また 2004 年には
これも若干の減少をみている。
最後に貯蓄の目的を聞いた問に対する答(複数回答)として「老後の備え」とする回答(以
下ではC)の割合も 1990 年代はおおむね上昇傾向にある。
以上から見て、これらの三種の問の回答は相互に整合的であり、いずれも老後の生活に対す
る不安、リスクの指標として用いることができるといえよう。
そして系列Bと系列Cが 1989 年、ないしは 1990 年にかけて上昇しているのは、厚生、共済
などの年金の保険料がこの両年の予算で引き上げられたこと(第2表)に対応しているように
みえる。さらにA、B、C系列とも上昇している時期(1994 年頃から 98 年)は、この間に国
民年金、厚生年金、各種共済年金の保険料率が引き上げられ(第2表)、厚生年金ほかの定額
部分の支給開始年齢が 60 歳から 65 歳へ将来的に引き上げられることが決まった(第3表、1994
年)時期である。一方、1999 年以降、A系列、B系列とも横這い気味に推移しているのは、
保険料率が据え置かれていたことに対応しているものであろう。厚生年金等において 2003 年
3
金融広報中央委員会(事務局 日本銀行情報サービス局、
)「家計の金融資産に関する世論調査(平
成 15 年及び平成 17 年)
」の時系列データによる。項目は「4.生活の設計、老後の生活より、46.老
後の生活についての考え方<問 30>」(心配である、ない)、「48.老後の生活を心配する理由<問
32>」によった。http://www.shiruporuto.jp/down/down.html
4
平成 8 年までは「全く心配していない」と「それほど心配していない」という選択肢の合計であ
ったが、それ以降は、前者は回答がゼロないしは設問自体がなくなっている。
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度から、保険料に関して総報酬制が導入され(第3表)、3.6 ヶ月分以上の賞与がある保険料納
付者にとって負担の増加となった。またこのような改正は保険料納付者にとって不透明な制度
の変更と受け止められた可能性がある。そのためか、いずれの系列でも(特に系列B)2003
年に上昇がみられたが、2004 年の年金改革法が安心感を作り出したのか、2004 年、2005 年に
はいずれの系列でも 2003 年より低い水準となった。
このように、年金制度の変更は、老後についての不安(不確実性)を高め、その不安に対す
る具体的対処として貯蓄を増やしたい(「老後の備え」が貯蓄の目的)という意識に結びつい
ている。ここまでで見た制度の変更は、ほとんどが負担(保険料)に関するものであるが、給
付のほうの変化も本来はアンケートの結果に影響を与えるはずである。しかし、負担のほうが
プラスの貯蓄の主力である世代にとって目に見え、財布に直結するのに対して、給付側につい
ては、支給開始年齢の引き上げは別として、ある時点で政府が示すものが将来時点での確たる
生活水準として認識されにくい。したがって、負担率や負担に関する制度の変更が、貯蓄、あ
るいは老後の不安についての意識に強い影響を与えていると考えてよい。
以上の分析から、次の諸点が指摘できる。
第 1 は、負担率の変更を避けつつ、給付のほうで年金財政を維持可能なように調整していく
ことは、不安感を減少させる上で意味がある。2004 年の年金改革法で確定給付型の制度を採
用したことは、その意味で正しかったといえる。
第 2 は、それでも現在の不安感の水準はなお高い、ということである。従って、今後さらに
改革を進める必要があり、そのためには、制度の透明性を高める必要がある。透明性とは、年
金保険料の引上げないしは増税が必要になるときは、そうした負担の増加と給付の増加の対応
関係が明らかになっているということである。あるいは、現時点での負担増が将来の負担増を
回避する手だてであるという対応関係が明確に示されていることである。これは、保険料の支
払者や納税者が、家計の貯蓄と社会保障基金の貯蓄とが代替関係にあると認識できるようにす
るためである。
第3に、上の観察から、
「家計の金融資産に関する世論調査」の結果を不確実性の代理変数
として用いることが可能であることがわかる。この場合、調査結果の分散(あるいは標準偏差)
を用いると土居(2001)の指摘した問題が生じるので、以下の3−2節では回答の単純な集計
値を、消費関数の説明変数のひとつとして用いる。
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第4に、上の観察から派生する問題としては、過去において、家計はどの程度家計の貯蓄と
公的部門の貯蓄、特に社会保障基金の貯蓄を代替的であると考えて行動してきたか、というテ
ーマがあり、これを第3−3節でとりあげる。
3−2
オイラー方程式からのモデルの計測
中川(1998)は、いわゆる C-CAPM(Consumption-based Capital Asset Pricing Model)を用
いると同時に、オイラー方程式を用いて不確実性の消費に与える影響を計測した。以下では後
者のオイラー方程式を出発点にする分析を応用する。
中川は、基本モデルを次のように導いている。以下、省略しつつ引用するので詳細は原典
(Nakagawa and Oshima(2002)も参照)にあたられたい。
当期における資産の保有量と当期における非資産所得との合計が、当期の消費と次期の資産
保有量の合計に等しいという予算制約式のもとでの、代表的消費者の効用の当期に利用可能な
情報に基づく期待値極大化により、次のオイラー方程式を得る。
⎡ u ′(ct +1 )
⎤
Et ⎢ β
(1 + ri+1 ) − 1⎥ = 0
⎣ u ′(ct )
⎦
(1)
ここで、
β
:主観的割引率
yt
:t 期における(1人当りの)非資産所得
ct :t 期における(1人当りの)実質消費支出
u(ct )
:代表的消費者の効用関数
Et ・
( ) :t期に利用可能な情報に基づく条件付期待値
rt
:資産の平均収益率(キャピタルゲインと配当からなるもの)
。
さらに、代表的消費者の効用関数を相対的危険回避度(γ)一定のタイプに特定化すると、
⎡ ⎛ c ⎞ −γ
⎤
Et ⎢ β ⎜⎜ t +1 ⎟⎟ (1 + rt +1 ) − 1⎥ = 0
⎢⎣ ⎝ ct ⎠
⎥⎦
(2)
が得られる。ここで、
−γ
⎡ ⎛c ⎞
⎤
⎛ ct +1 ⎞
≡ β ⎜⎜ ⎟⎟ (1 + rt +1 ) − Et ⎢ β ⎜⎜ t +1 ⎟⎟ (1 + rt +1 )⎥
⎢⎣ ⎝ ct ⎠
⎥⎦
⎝ ct ⎠
−γ
ξ
t +1
とし、これを(2)式に代入したものについて log をとり、2次のオーダーまでテイラー展開を施
し、さらに期待値をとると、
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⎡ ⎛ c ⎞⎤
1
log( β ) − γEt ⎢log⎜ t +1 ⎟ ⎥ + Et [log(1 + rt +1 )] ≅ Et (ξ t +1 ) − Et (ξ 2t +1 )
2
⎢⎣ ⎝ ct ⎠ ⎥⎦
(3)
が得られる。 Et (ξ t +1 ) = σ t とし、これ以外の期待値がとられている項について、期待値を現実
2
2
値と誤差の和に直し、その誤差を集めたものを ε t +1 とすると
⎛c ⎞ 1
1
1 2
σ t + ε t +1
log⎜⎜ t +1 ⎟⎟ ≅ log(β ) + log(1 + rt +1 ) +
γ
2γ
⎝ ct ⎠ γ
(4)
となる。
中川は、(6)式に、①流動性制約を課し、② σ 2t を実質所得リスクであるとして、
log(Ct / Ct-1) = a1 + a2 rt-1 + a3 RISKt-1 + a4 log(yt / yt-1) + vt
(5)
を標準型としている。ただし RISK は、実質所得リスク、 y は実質家計可処分所得である。
中川がいうように、「本来、異時点間に亘る消費選択は、オイラー方程式からもわかるよう
に、理論的には実質金利のみで説明されるはずである」が、現実には流動性制約と実質所得リ
スク(不確実性要因)を説明変数に加える必要がある。
中川は実質所得に関するリスク変数としては、経済企画庁(当時)の「消費動向調査」の消
費者意識調査のうち、「収入の増え方」、「物価の上がり方」に、カールソン・パーキン(CP
)法を適用し、実質所得成長率の予想値の分散を求めた。しかし、上で紹介したように、CP
法は、人々の予想のばらつきの増大という形のリスク増大を捉えることはできても予想が一致
してのリスク増大は捉えることができないという土居(2001)の指摘がある。そこで、ここで
はCP法をとることなく、リスク指標として、前述した、「家計の金融資産に関する世論調査」
の「貯蓄の目的」の問に対する答のうち「老後の備え」の割合を用いる。さらに、失業率とイ
ンフレ率を「収入の増え方」、「物価の上がり方」に対応するリスクの指標として採用する。こ
れでリスク指標は三種類となる。
先行研究におけるリスク指標が主観的指標であるのに対して、失業率とインフレ率は客観的
指標であり、貯蓄目的についてのアンケート結果は主観的指標であるが、上で見たように、公
的年金の保険料など年金制度との密接な関係が認められるものである。
ここで変数の一覧と計測結果を示す。(以下でSNAの場合「実質」は固定基準年の系列。)
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C: 実質家計消費(暦年、国民経済計算年報 2000 年版、05 年版、06 年版)、10億円
Y: 実質家計可処分所得(同上、家計消費デフレーターで実質化)、10億円
R:実質金利(預金金利−消費者物価上昇率)、%を100で除した。
RISK1:「家計の金融に関する世論調査」、「貯蓄の目的」中「老後の備え」の割合、%にせず。
RISK2:完全失業率(労働力調査)、%にせず。
RISK3:家計消費デフレーター上昇率(当期と前期の平均、出所はCと同じ)、%にせず。
計測期間 1964∼2004 年(暦年)、1980 年以前は旧系列で延長推計
推計方法:2SLS。操作変数:Rt-1、RISK1t-1、RISK2 t-1、RISK3 t-1、財・サービスの輸入デフレ
ーター前年比上昇率、log(Xt / Xt-1)、log(Gt / Gt-1)[X は財・サービスの輸出、G は実質公的固
定資本形成]
log(Ct / Ct-1) = 0.0474 + 0.631 log(Yt / Yt-1) -0.136 Rt-1 -0.071 RISK1t-1 -0.081 RISK2 -0.218 RISK3
(1.88*)
(3.45***)
(0.34)
(2.37**)
(2.94***) (3.69***)
Adjusted R2= 0.910
( )内はt値
S.E.=0.0043
DW 比=1.95
***は1%水準、**は5%水準、*は 10%水準で有意
三種類のリスク変数はいずれも符号はマイナスであり、不確実性が消費を抑制することが判明
した。ことに老後の不安の指標も、消費との関係が強いことが明確になった。なお、RISK1 の
変数にだけ、ラグがつけてあるのは、原データのアンケート調査が夏前後の時期に実施される
ため、その年の行動に影響を与えるというのは非現実的である、と考えたからである。しかも、
実質金利の係数は符号条件も正しく(マイナス)、有意にゼロから離れている。
3−3
社会保障と家計の貯蓄の代替関係
ここでは、社会保障会計の収支と家計の貯蓄との代替関係、すなわち両者の間のリカード中
立定理が成り立つかどうか(統合命題ともいう)を分析する。もし、家計が社会保障基金の収
支を自らの貯蓄の代替物とみなしているのであれば、今後、社会保障負担を引き上げても、家
計の消費は減らないことになり、年金財政の展望は明るくなる。このテーマは本間(1991)に
よってとりあげられたことがあるが、単純な最小二乗法によるものである。本間の分析の概略
は以下のようなものである。
まず、変数としては
SG1
:
中央政府と地方政府の貯蓄(民間消費デフレーターで実質化)
SG2
:
社会保障基金の貯蓄(同上)
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WH
:
家計部門の金融資産(同上)
YD
:
家計可処分所得(同上)
SH
:
家計貯蓄(同上)
を採用する。観測期間は 1954 年から 1983 年。
本間(1991)の場合は、これに CS(法人貯蓄)を加えて、
SH = f(SG1, SG2, CS, WH, YD)
という関数形を OLS(単純最小二乗法)で推計しており、そのうち、すべての変数を含む結
果のみ引用すると次のとおりである。(かっこ内はt値)
constant
-5712
(18.3)
YD
WH-1
CS
SG2(-48)
SG2(48-)
SG1
.342
(18.3)
-.131
(12.9)
-.187
(2.21)
-1.01
(1.59)
.664
(1.02)
.163
(2.29)
R=.994/
DW=2.06
これによれば、SG2(-48)で示される昭和48年までについての社会保障基金の貯蓄(本間は厚
生年金と国民年金の基金の増加分を用いている)の係数がマイナスで有意であるとして、社会
保障基金の黒字は家計貯蓄と代替関係にあるという結論に達している。しかるに、昭和48年
以降については、この分析では代替関係は認められなくなっている。本間はその理由として、
昭和 48 年の年金の大改革によって「わが国の公的年金制度が実質的に賦課制度に移行した」
ことをあげている。(本間(1991)、p.354-355)。
これに対して、ここでは時系列分析の共和分分析(cointegration)の適用を試みる。時系列
分析は、構造に関する仮定を置かない手法であるので、第3−2節での、オイラー方程式とい
う構造を出発点にした分析とは、本来相容れない方法かもしれない。しかし、そしてあとでみ
るようにいずれの変数も非定常であるため spurious regression の問題があることから共和分分
析を使わざるをえない。ここで分析しようとする変数の間では双方向の因果関係がある組み合
わせがあるための同時推定バイアスの問題も回避できる。後者の問題は操作変数法で対応する
こともできるが、前者の問題も考えて、このような選択をした。
すでに述べたように、国民経済計算は68SNAと93SNAの間で家計貯蓄率の動きに大
きな差があるが、それだけでなく、二つの公的部門(中央政府+地方政府、社会保障基金)の
収支、バランス(貯蓄)の動きにもかなりの差が観察される。そこで、68SNAの 1970∼
16
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1998 年の系列と、93SNAの 1970∼2003 年の系列(1970∼1980 年については68SNAで
後方へ外挿)の2つの系列を用い、それぞれについて同じ手法をあてはめる。データはすべて
国民経済計算の暦年のデータである。
手法について一般的なモデルを示す。以下は森棟(19??)の 360 頁∼361 頁によった。
m 個の I(1)変数からなるベクトル z がVAR過程
zt = µ +
k
∑ Ai zt-i + εt
①
i =1
に従うとする。ここで
µ は定数ベクトル、Ai は m×m の母数行列、εt は独立で平均 0、共分
散Σの正規確率変数ベクトル。ここで通常行われるように1期のラグ変数を除きすべてのラグ
変数を階差に書き換えて下を得る。
k−1
∆zt = µ + Π zt-1 + ∑ Γi ∆zt-i + εt
②
i=1
ここで r 個の共和分関係が存在し、Π zt-1 が I(0) になるなら、Π のランクは r (<m) になり、
αβ のように分解できる。ここで α は調整速度(係数)行列、β は共和分係数行列とよばれ
る。以下では最終的にこの β を推計する。また、このβ については、β
zt-1 を長期均衡式
とよぶ。長期的関係としては
β zt-1 = 0
③
が成り立つ。
まず各変数の単位根の検定を、68SNAと93SNAについて行う。結果の一部は第4表
にまとめた。第 4 表は ADF 検定(トレンドと定数項あり)で、ラグが 4 期と 2 期に場合につ
いて示している。結果はすべての変数が非定常(nonstationary)となっている。なお、ADF だ
けではなく、Phillips-Perron 検定も行ったが、結果は大差がなかった。
このように変数がいずれも非定常、I(1)である場合において、変数の線形結合が定常、I(0)
であるような関係がある場合、cointegrated であるということができる。そこで、本間(1991)
の用いた変数のうち、法人貯蓄は本稿の論点に関係がないので、これを除き、次の2つのケー
スについて②の Vector Error Correction(VEC)モデルを推計することとした。
Case 1
SH, SG1, SG2, WH, YD
Case 2
SH, SG2, WH, YD
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本間においても、年金を中心とする社会保障基金の貯蓄(SG2)と家計の貯蓄(SH)との間の
統合命題が問題になっていることから、SG1 を省き、SG2のみを残した形での推計を行って
いるので、Case 2 も加えた。
さらに、VECモデルの推定に際してはデータの水準(ないしは対応する誤差修正モデル)
に定数項、及び確定トレンドがあるかないかについて次の5つのケースから選択をしなければ
ならない。
Case A
定数項もトレンドもない
共和分は平均ゼロのまわりで定常
Case B
制約つきの定数項あり
共和分は定数のまわりで定常
Case C
制約なしの定数項あり
同上
Case D
定数項及び制約つきトレンドあり
共和分は Trend stationary
(トレンドは linear)
Case E
定数項及び制約なしのトレンドあり
同上
(トレンドは quadratic)
AとEは両極端であるので、B∼Dのみを計算する。都合2×3の6ケースを計算した。
まず、68SNAについてみると、ケース1については、定数項、トレンドについての仮定
のどれをとっても、ランク1で cointegration の関係が見出される。
ケース2の場合は、 Π のランクが0∼2という仮説は棄却され、ランクが3、すなわち
cointegration の関係が3個という仮説は棄却されない。「複数の共和分がある際には、・・・
特定の経済的な意味を持つ長期的な均衡式を見出すことは恣意的な判断にすぎない場合が多
い」(森棟、1999)ので、ケース1についてのみ第6−68表に掲げる。
次に、93SNAについても同様のランクについての検定を行った。ケース1(SG1、SG
2両方を含む)は、制約つきの定数項あり(Case B)についてはランクが3、制約なしの定数
項あり(Case C)ではランクが1、制約つきのトレンドあり(Case D)ではランクが2で、
それぞれ cointegration があるという仮説が棄却できない。しかし、前述の理由からランクが1
の Case C のみに注目すれば十分である。
これらの cointegration のランク検定の結果から、ここでは、68SNAと93SNAにつ
いて、それぞれ Case 1−C のみをとりあげることにし、これらについて誤差修正モデル
(Vector error correction、VEC)、すなわち、上記の②式と、共和分係数行列、すなわち上
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記の β の推定結果をみよう。β は長期的な関係を表しており、重要な意味を持っている。こ
れらの推計結果は第 6−68表と第 6−93表の「共和分係数」の表に示してある
まず、68SNAを用いた推計結果を第6−68表でみよう5。この表自体に興味深い結果
があるというよりも、この表から SH を左辺においた式に変形することに意味がある。
SH = −293716 + 4439 trend + 5.855 SG1 −21.937SG2 −0.595 WH + 3.955 YD
という関係になる。係数の有意性については第 6−68表にあるように、いずれも有意である。
すなわち国と地方の政府貯蓄は家計の貯蓄と代替的ではない(統合命題が成り立たない)のに
対し、社会保障基金の貯蓄と家計の貯蓄の間には代替的な関係があり、統合命題がなりたって
いる、という結果が得られた。本間(1991)が 1973 年以降は代替関係が失われたとしたのに
対し、ここでの分析は 1970∼1998 年のデータであるので、1970 年代以降も代替関係は成立し
ていたという、反対の結果が得られたことになる。家計の金融資産の係数、可処分所得の係数
は、本間の分析と符号が同じになっており、特段の発見はない。
次に、93SNAによると、ランクが1となっているのは、制約なしの定数項を仮定したケ
ースのみである(第6−93表)。これについて、SH を左辺においた形に整理すると、
SH = −77994 −2959 trend + 0.5301 SG1 −2.0243 SG2 −0.0335 WH + 0.8053 YD
となる。係数の有意性については第 6−93表にあるように、やはりいずれも有意である。
これらの結果から、社会保障基金の貯蓄と家計貯蓄との間に統合命題が成り立つことが確認
できたといえよう。
4.結語
社会保障の充実は、68SNAの 1998 年までのデータでは、関数形にもよるが貯蓄に対し
てマイナスの効果があったと見られる(大来、2006)。また、本稿の共和分分析では、長期的
な関係としては社会保障基金の貯蓄は家計の貯蓄と代替的であることが明らかになった。した
がって、過去の長期の関係としては、社会保障基金の収支に不安がない限り、社会保障(ここ
5
ここで省略した制約条件つきのトレンドありのケースについてトレンドの係数が有意にゼロか
ら離れておらず、このケースは不要であったことがこの点からもわかる。残りの二つ(制約ありの
定数項のケースと制約なしの定数項のケース)を比べると、いずれも共和分係数がいずれも有意(に
19
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では主として公的年金)の充実は貯蓄の減少、消費の増加につながるということになる。
しかし、これは社会保障に関する不安、裏をかえせば老後の生活に関する不安がないという
条件が満たされている場合である。しかるに、肥後・須合・金谷(2001)によれば、年金の問
題が将来に対する不安に影響を与えていることが明らかである。さらに、村田(2003)のパネ
ル・データによるミクロの研究では、景気見通しや公的年金制度に関して家計の抱く不安が貯
蓄行動に影響を与えている、という結果が得られている。オイラー方程式を流動性制約と老後
のリスクなどリスク要因で拡大する本稿の分析でも、これらの先行研究の見出した関係をマク
ロのデータによって確認することができた。
中川(1999)は 1990 年代における貯蓄率の高止まりに注目して、その背景に人々の不安が
あることを見出したが、国民経済計算の方式の変更によってこの高止まりが見られなくなった
ことは上で述べたとおりである。にもかかわらず、中川(1999)が見出したリスク、不安と貯
蓄率のマクロでの関係はやはり存在することも本稿の分析で確認できた。
以上の観察から得られる政策的含意は次のようなものである。不安を高めないような社会保
障基金の収支改善策は家計の貯蓄を減少させるため、デフレ的影響をそれほど心配する必要は
ない。年金の将来に関する不安に強く結びついているのは、年金の保険料の引き上げである。
本来は、保険料の引き上げは、老後の生活に関する不確実性を減じて予備的貯蓄を減らすか、
マクロでの貯蓄率に中立である(深谷(1977)参照)はずのものである。しかるに、出生率の
予測のはずれなどによって、保険料の引き上げが度重なった結果、むしろ人々の意識において
は老後生活に関する不確実性が増大する結果になったと思われる。その結果、保険料の引き上
げは不安を高め貯蓄率に対してプラスに作用したものであろう。
ところで、2004 年の年金制度の改正は、確定給付型から確定拠出型に転換する一歩であっ
たといってよい。そしてこれは、「保険料率の上昇をできるだけ抑制し、収入の範囲内に給付
を抑制する」
(小塩、2005)という基本的考え方をとったものである。従って、保険料率は今
後変化しないことになり、その限りでは、不安心理が今後増大することが防がれた、という意
味合いを持っていることになる。今後、この方針が持続されるならば、社会保障制度の改革が
デフレ的影響を持つことをおそれる必要はない。現在、公的年金制度の保険料負担への依存を
下げ、税負担(国庫負担)の比重を引き上げることについての議論も行われるようになってき
ゼロから離れている)ということと、両者の間でそれほど係数に差がない。
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ているが、そのような改革も、将来の社会保障基金の収支の改善に役立つものであることが明
らかであれば、デフレ的影響は少ないといえる。
ここでの議論で、年金の保険料の引き上げを抑制した 2004 年の改革を積極的に評価したの
は、単にそれが負担の増加を抑制し、不安心理を防いだことのみが理由ではない。それが、給
付を自動的に抑制する途を開いたことによって将来の収支改善に役立ち、将来における不安心
理まで抑えたことも大きな理由である。
過去における小刻みな保険料の引き上げが不安心理を引き上げたことを考えると、負担の増
加であってもこれで最後、という感覚を与えるような大胆な改革が必要であったのである。し
かしせっかくの大胆な改革も上でみたような「透明性」(あるいは制度のわかりやすさ、ある
いは政府の説明の十分さ)が伴わないと価値がない。
また、負担の増加は保険料の増加という形をとる限り、世代間の不公平の増加という問題を
引き起こす。このような観点からして、税方式、ことに消費税による社会保障制度の改革につ
いての橘木(2005)の議論は傾聴に値する。
21
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Research Report : I-2006-0005
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22
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第1図
Research Report : I-2006-0005
貯蓄率の長期的推移
35
30
25
20
15
10
5
19
65
19
67
19
69
19
71
19
73
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19
93
19
95
19
97
19
63
19
61
19
59
19
57
19
55
0
家計調査貯蓄率
第2図
SNA68 貯蓄率(暦年)
68 年基準と 93 年基準のSNAによる貯蓄率
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
SNA68
93SNA
20
01
20
00
19
99
19
98
19
97
19
96
19
95
19
94
19
93
19
92
19
91
19
90
4.0
93SNA(NPLadj.)
93SNA(NPLadj.)は、家計と金融機関の不良債権の償却を可処分所得と貯蓄
に足し戻して、93SNA を 68SNA と比較可能にしたもの。
23
GRIPS Policy Information Center
第1表
新旧SNA統計による家計貯蓄率の比較
第1−1表
新旧SNAによる貯蓄率と新旧の乖離の説明のための試算
(a)平 15 確
報(93SNA)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
(b)平 11 確
報(93SNA)
15.5
14.8
13.1
13.5
13.6
13.9
15.1
14.2
13.7
12.6
11.9
9.9
10.0
11.2
10.8
9.6
6.7
7.3
7.5
第1−2表
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
Research Report : I-2006-0005
13.9
15.3
14.6
14.7
12.6
12.3
11.3
10.6
11.8
11.1
(c)平 10 確
報(68SNA)
(イ)概念調整
後
(ロ)財産所得
の差調整後
(ハ)消費原統
計の差調整
後
(ニ)移行後原
統計改訂の
影響調整後
15.6
15.6
13.8
13.0
12.9
12.1
13.2
13.1
13.4
13.3
13.7
13.4
12.6
13.4
14.6
14.0
12.3
12.7
12.8
13.1
14.2
13.5
12.9
12.0
11.6
9.6
10.0
11.2
10.7
9.1
6.3
7.1
7.2
10.9
12.1
11.5
11.5
11.2
11.1
9.1
10.2
11.4
11.3
12.9
12.6
13.1
13.2
13.0
10.7
11.4
12.8
11.3
13.1
13.0
14.1
13.2
13.4
12.1
12.0
13.4
新旧SNAの貯蓄率の概念の違いによる乖離
(d)家計貯蓄
(e)家計可処
分所得
(f)年金準備
金変動
(g)現物社会
給付
(h)不良債権抹
消額(家計分)
31864.0
31421.4
28482.5
31369.4
33787.5
37364.0
43208.6
42069.4
41138.7
38707.3
36719.3
30427.4
31631.8
35423.9
33949.0
29816.2
20165.7
21723.6
22398.0
203679.3
210114.3
215494.0
228813.1
244983.8
264280.4
282952.1
292026.1
296875.8
303131.4
304969.2
305253.4
311884.3
314202.5
311425.8
306764.7
297662.8
298344.2
297560.8
2189.5
2395.5
2645.2
2947.9
3504.1
3755.5
3881.9
3754.4
3878.4
3522.4
3594.5
3385.1
3194.7
3326.9
2680.6
2768.0
2248.2
1270.6
1219.9
12610.1
13523.9
14333.4
15153.0
15909.4
16775.2
17792.0
19128.0
20192.0
21085.4
22283.7
23457.7
23788.4
23671.9
24621.5
27264.5
28802.5
29308.1
29805.7
78.5
14.6
132.7
69.3
49.4
83.8
82.1
205.0
343.9
478.8
793.3
1977.9
1705.8
2636.0
3007.7
2381.7
1079.0
716.5
1598.9
1464.0
14.0
12.3
12.7
12.8
13.1
14.2
13.5
12.9
12.0
11.6
9.6
10.0
11.2
10.7
9.1
6.3
7.1
7.2
24
(d+h)/(e+f+g+h)
=概念調整後
GRIPS Policy Information Center
第3図
Research Report : I-2006-0005
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
4.0
15年確報(93SNA)
第4図
10年確報(68SNA)
概念調整後貯蓄率(%)
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
4.0
15年確報(93SNA)
原統計改訂の影響調整後
老後の不確実性についての意識家計の金融資産に関する世論調査
100
A.心配である
90
B.心配の理由:年
金や保険が不十分
80
70
60
50
C.貯蓄の目的:老後の備え
40
A.心配である
30
心配である(∼91)
心配である(92∼)
心配の理由:年金や保険が不十分
貯蓄の目的:老後の備え
25
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
20
1984
第5図
10年確報(68SNA)
GRIPS Policy Information Center
Research Report : I-2006-0005
第2表
各種公的年金の保険料の推移
厚生年金
国家公務
地方公務
私学共済
国民年金
保険料率
員共済保
員共済保
保険料率
保険料(月
額、円)
(%)
険料率(%)
険料率(%)
(%)
1986
7,100
12.4
15.3
13.8
10.2
1987
7,400
12.4
12.26
13.8
10.2
1988
7,700
12.4
12.26
13.8
10.2
1989
8,000
12.95
12.26
13.8
10.2
1990
8,400
14.5
15.2
17.6
11.8
1991
9,000
14.5
15.2
17.7
11.8
1992
9,700
14.5
15.2
17.7
11.8
1993
10,300
14.5
15.2
17.7
11.8
1994
10,950
14.5
15.2
17.7
11.8
1995
11,100
14.5
15.4
15.84
12.8
1996
12,300
16.5
17.44
15.84
12.8
1997
12,800
17.35
18.39
16.56
13.3
1998
13,300
17.35
18.39
16.56
13.3
1999
13,300
17.35
18.39
16.56
13.3
2000
13,300
17.35
18.39
16.56
13.3
2001
13,300
17.35
18.39
16.56
13.3
2002
13,300
17.35
18.39
16.56
13.3
2003
13,300
13.58
14.38
12.96
10.46
2004
13,300
13.58
14.38
12.96
10.46
2005
13,580
13.934
14.509
13.384
10.814
第3表
1961
1962
1965
1966
1969
1973
1980
1985
1989
1994
1997
2000
2003
2004
年金制度改正の経緯
拠出制国民年金実施(「国民皆年金」の実現)
地方公務員等共済組合法制定
厚年法改正(1 万円年金,厚生年金基金創設)
国年法改正(夫婦 1 万円年金)
厚年法・国年法改正(2 万円年金(国年は夫婦))
厚年法・国年法改正(5 万円年金(厚年は現役平均賃金の 6 割を決定,
国年は夫婦),物価スライド導入)
厚年法改正(支給開始年齢引き上げは見送り)
厚年法・国年法の抜本改正(全国民共通の基礎年金導入)
国年法改正(3 年 4 月から学生も強制加入に,国民年金基金創設)
厚年法改正(定額部分の支給開始年齢 60→65 歳へ引き上げ決定(実
施は平成 13 年度∼25 年度にかけて))
基礎年金番号の実施,JR・JT・NTT の 3 共済を厚生年金に統合
厚年法改正(報酬比例部分の支給開始年齢引き上げ決定(実施は 25
年度∼37 年度にかけて),総報酬制の導入決定)
厚生年金、各種共済年金の負担率に対する総報酬制の導入
年金改革法成立(保険料水準の固定、マクロ経済スライドによる給付
水準の調整,国庫負担割合を 2 分の 1 に引き上げ,在職老齢年金制度
の見直し、第 3 号被保険者期間および離婚時の厚生年金の分割)
26
GRIPS Policy Information Center
第4表
SH
SG1
SG2
WH
YD
P
1% CV
Research Report : I-2006-0005
ADF による単位根検定(トレンド、定数項あり)
68SNA
93SNA
lags(2)
lags(4)
lags(2)
lags(4)
Test
Test
Test
Test
p-value
p-value
p-value
p-value
Statistic
Statistic
Statistic
Statistic
-2.923
-1.78
-0.653
-2.751
-2.157
-2.93
0.1548
0.7144
0.9761
0.2156
0.5143
0.1526
-1.325
-2.043
-0.674
-1.555
-2.533
-1.868
-4.34
0.8816
0.5778
0.9748
0.8097
0.3116
0.6712
-2.819
-0.758
-0.167
-2.944
-1.68
-1.892
-4.38
0.1902
0.969
0.9921
0.1484
0.7594
0.6587
-1.206
-0.988
-0.059
-2.084
-1.497
-0.327
0.9093
0.9457
0.9936
0.5548
0.8303
0.9889
-4.325
-4.343
5%CV
-3.58
-3.6
-3.576
-3.584
10%CV
-3.23
-3.24
-3.226
-3.23
p-value は MacKinnon approximate p-value。CVは critical value。
第6図
時系列分析用データのグラフ(実線は 93SNA を、点線は 68SNA を示す)
30000.0
20000.0
1800000.0
国と地方の貯蓄
1600000.0
家計の金融資産残高
1400000.0
10000.0
1200000.0
1000000.0
0.0
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
800000.0
-10000.0
600000.0
400000.0
-20000.0
200000.0
-30000.0
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
0.0
-40000.0
SG1_93
SG1_68
WH93
WH68
350000.0
20000.0
300000.0
15000.0
社会保障基金の貯蓄
250000.0
個人可処分所得
200000.0
10000.0
150000.0
5000.0
100000.0
50000.0
0.0
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
0.0
-5000.0
SG2_93
YD93
SG2_68
50000.0
45000.0
YD68
1.2000
家計の貯蓄
1.0000
40000.0
35000.0
民間消費デフレーター
0.8000
30000.0
0.6000
25000.0
20000.0
0.4000
15000.0
10000.0
0.2000
5000.0
0.0000
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
0.0
SH93
P93
SH68
27
P68
GRIPS Policy Information Center
第5表
Research Report : I-2006-0005
ランクの検定
68SNA(Sample: 1970-1998) lag = 2
Case 1 SH, SG1, SG2, WH, YD
1-B (r const)
1-C (const)
rank
trace st
5% CV
rank
trace st
0
90.56
76.07
0
76.13
1
52.41*
53.12
1
39.24*
2
28.76
34.91
2
16.24
Case 2 SH, SG2, WH, YD
2-B (r const)
2-C (const)
rank
trace st
5% CV
rank
trace st
0
124.41
76.07
0
103.48
1
80.25
53.12
1
61.15
2
45.59
34.91
2
30.96
3
17.25*
19.96
3
14.87*
5% CV
68.52
47.21
29.68
1-D (r trend)
rank
trace st
0
98.55
1
61.58*
2
34.86
5% CV
87.31
62.99
42.44
5% CV
68.52
47.21
29.68
15.41
2-D (r trend)
rank
trace st
0
121.11
1
77.62
2
46.82
3
22.86*
5% CV
87.31
62.99
42.44
25.32
r cons = 制約つきの定数項あり、const = 制約なしの定数項あり、r trend = 定数項及び制約つきトレンドあり
rank = maximum rank、trace st = trace statistic、5% CV = 5% critical value
93SNA (Sample: 1972 2003)
Case 1
Lags = 2
SH, SG1, SG2, WH, YD
1-B (r const)
1-C (const)
1-D (r trend)
rank
trace st
5% CV
rank
trace st
5% CV
rank
trace st
5% CV
0
104.57
76.07
0
116.27
87.31
0
80.318
68.52
1
55.85
53.12
1
71.65
62.99
1
45.55*
47.21
2
35.42
34.91
2
36.91*
42.44
2
26.736
29.68
3
17.03*
19.96
3
19.62
25.32
3
9.455
15.41
4
3.43
9.42
4
7.67
12.25
4
0.537
3.76
Case 2 SH, SG2, WH, YD
2-B (r const)
2-C (const)
2-D (r trend)
rank
trace st
5% CV
rank
trace st
5% CV
rank
trace st
5% CV
0
121.874
76.07
0
124.955
87.31
0
97.0559
68.52
1
76.784
53.12
1
85.4968
62.99
1
58.5
47.21
2
43.268
34.91
2
57.3655
42.44
2
31.434
29.68
3
20.785
19.96
3
30.468
25.32
3
12.05*
15.41
4
8.38*
9.42
4
11.16*
12.25
4
0.2951
3.76
28
GRIPS Policy Information Center
第6−68表
Research Report : I-2006-0005
68SNAによる Case 1-C(restricted trend)
②式の推計結果
1-C
Coef.
共和分係数行列の推計結果
Std.
Err.
z
P>|z|
beta
∆SH
SH-1
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
constant
0.0534
0.0224
2.38
0.017
0.1433
0.3848
-1.2457
-0.0568
0.2758
6476.6
0.2136
0.1563
0.6139
0.0155
0.1680
2908.0
0.67
2.46
-2.03
-3.67
1.64
2.23
0.502
0.014
0.042
0
0.101
0.026
SH
SG1
SG2
WH
YD
trend
const
∆SG1
SG1-1
0.0638
0.0288
2.22
0.027
-0.5535
0.2036
0.2739
0.2004
-2.02
1.02
0.043
0.31
-0.5142
0.0346
-0.0857
5945.1
0.7871
0.0199
0.2154
3728.8
-0.65
1.74
-0.4
1.59
0.514
0.082
0.691
0.111
0.0015
0.0110
0.14
0.89
-0.1245
0.1290
-0.3355
0.0027
0.1333
-473.2
0.1044
0.0764
0.3002
0.0076
0.0821
1421.9
-1.19
1.69
-1.12
0.36
1.62
-0.33
0.233
0.091
0.264
0.722
0.105
0.739
WH-1
-0.2028
0.4114
-0.49
0.622
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
constant
-2.1310
0.3937
4.5516
0.2855
-1.4026
12795.0
3.9185
2.8674
11.2613
0.2840
3.0814
53346.5
-0.54
0.14
0.4
1.01
-0.46
0.24
0.587
0.891
0.686
0.315
0.649
0.81
0.1083
0.0301
3.6
0
0.1282
0.5105
-1.4221
-0.0254
0.2446
17270.0
0.2864
0.2095
0.8230
0.0208
0.2252
3898.5
0.45
2.44
-1.73
-1.22
1.09
4.43
0.654
0.015
0.084
0.222
0.277
0
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
constant
∆SG2
SG2-1
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
constant
∆WH
∆YD
YD-1
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
constant
29
Coef.
1
-5.855
21.937
0.595
-3.955
-4439
293716
Std.
Err.
1.979
7.227
0.109
0.657
5766
-
z
-2.96
3.04
5.47
-6.02
-0.77
-
P>|z|
0.003
0.002
0
0
0.441
-
GRIPS Policy Information Center
第6-93表
Research Report : I-2006-0005
93SNAによる Case 1-C(restricted trend)、
②式の推計結果
1-C
Coef.
共和分係数行列の推計結果
Std. Err.
z
P>¦z¦
∆SH
beta
-0.3983
0.1108
0.1970
0.4137
-0.0138
0.0663
1439.1
0.3210
0.3631
0.2025
0.6712
0.0235
0.3136
2051.6
SG1-1
1.0481
0.2591
4.05
0
∆SH
∆SG1
-1.1304
0.0581
0.2931
0.1634
-3.86
0.36
0
0.722
∆SG2
∆WH
∆YD
const
0.1090
-0.0083
0.9283
-8379.5
0.5417
0.0190
0.2531
1655.7
0.2
-0.44
3.67
-5.06
0.841
0.662
0
0
SG2-1
0.0043
0.1010
0.04
0.966
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
const
-0.2765
0.0153
0.2354
0.0017
0.2310
-1530.1
0.1143
0.0637
0.2112
0.0074
0.0987
645.6
-2.42
0.24
1.11
0.23
2.34
-2.37
0.016
0.81
0.265
0.819
0.019
0.018
WH-1
6.6929
3.6586
1.83
0.067
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
const
-8.7785
-2.5045
2.0507
-0.1467
4.7601
1338.5
4.1383
2.3076
7.6497
0.2677
3.5745
23380.6
-2.12
-1.09
0.27
-0.55
1.33
0.06
0.034
0.278
0.789
0.584
0.183
0.954
0.1356
0.4032
0.34
0.737
-0.5429
0.1425
1.0124
-0.0219
0.6214
2975.5
0.4561
0.2543
0.8431
0.0295
0.3939
2576.8
-1.19
0.56
1.2
-0.74
1.58
1.15
0.234
0.575
0.23
0.458
0.115
0.248
SH-1
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
const
-1.24
0.31
0.97
0.62
-0.59
0.21
0.7
0.215
0.76
0.331
0.538
0.556
0.833
0.483
SH
SG1
SG2
WH
YD
trend
Const
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
YD-1
∆SH
∆SG1
∆SG2
∆WH
∆YD
const
30
Coef.
1
-0.5301
2.0243
0.0335
-0.8053
2958.9
77994.0
Std. Err.
0.0770
0.2378
0.0039
0.0477
324.5
-
z
P>¦z¦
-6.89
8.51
8.5
-16.9
9.12
-
0
0
0
0
0
-
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