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第 29 回 タイ国弁護士 トモヨシ・ジャイオブオーム 【倒産法③】 今回も

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第 29 回 タイ国弁護士 トモヨシ・ジャイオブオーム 【倒産法③】 今回も
MOTHER BRAIN MONTHLY REPORT
31 MAY 2016
第 29 回
日本国及びニューヨーク州弁護士 小原 英志
日本国及びニューヨーク州弁護士 下向 智子
タイ国弁護士
トモヨシ・ジャイオブオーム
【倒産法③】
今回も、引き続きタイの倒産法制度について書きたいと思います。前回、債権者を保護するための暫定
的措置について述べましたが、今回は確定的保全処分について説明したいと思います。
1. 財産の確定的保全処分
債権者が破産手続開始の申立てを行った場合、裁判所は前々回の「破産手続の開始」の箇所で述べた
要件を検証し、要件が満たされていると裁判所が判断した場合には財産の確定的保全処分を決定しま
す。一方で、それら要件が満たされていないと判断した場合、または債務者が支払い能力を証明した場
合または債務者が破産するべきではないその他の理由がある場合、裁判所は申立を棄却します(破産法
14条)。
財産の確定的保全処分制度は、債務者が破産状態に陥るような状態でも、裁判所が破産を宣告する前
に、債務者が債権者と債務弁済について合意する(和議)機会を与えることを目的としており、破産手続開
始の申立てを受けた債務者には破産が宣告される前に必ず和議の機会が与えられます。
財産の確定的保全処分が決定された場合、管財人は、官報及び1紙以上の日刊新聞で財産の確定的保
全命令(absolute receiving order)を掲載し、債権者に対してその確定的保全を公示します。公示内容に
は、破産申立て、裁判所による命令が下された日、債務者の氏名・住所・職業、債権者による債務弁済請
求期限が含まれる必要があります(破産法28条)。なお、暫定的保全と異なり、確定的保全では債権者に
対して担保の提供は要求されません。
2. 財産の確定的保全処分による効果
①財産の管理
確定的保全(absolute receivership)の決定は裁判所の令状とみなされ、裁判所より選任された管財人
(official receiver)は、債務者の資産や事業に関連する印鑑・帳簿・書類及び債務者が占有する財産、
または第三者が占有し破産手続において債権者へ分配することが可能な財産等を差し押さえる権限
を有することとなります(破産法19条1項)。
この場合、管財人は債務者の住居や債務者が占有する場所に立ち入り、必要に応じて鍵や扉、金庫
などを壊すことも可能とされています(破産法19条2項)。差し押さえた財産は、原則として裁判所が債務
者の破産を宣告するまでは売却されません(破産法19条3項)。
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MOTHER BRAIN MONTHLY REPORT
31 MAY 2016
債務者に帰属する財産が隠匿されていると信じるに足る十分な根拠のある場合、裁判所は、当該財産
の所在特定のため管財人または裁判所職員へ捜索令状(search
warrant)を発行することができます
(破産法20条)。通常は、管財人が執行担当官(execute officer)へ財産の差押を要請します。
これに対し債務者は、債務者の財産・印鑑・帳簿・書類及び債務者の事業を管財人に明け渡す義務が
あり(破産法23条)、裁判所、管財人または債権者集会の命令に基づく場合を除き自らの資産や事業を
管理してはならないとされています(破産法24条)。また、債務者は財産の確定的保全処分を受けてか
ら24時間以内に、管財人へ自身がパートナーとなっているパートナーシップの有無につき報告しなけ
ればならず、更には確定的保全処分を受けてから7日以内に自身の資産・負債、支払不能となった理
由、債権者一覧、担保として債権者に渡した財産とその日時、今後債務者のものとなる財産、配偶者
の財産、及び自身が占有する第三者の財産を記載した書式を提出する義務があります(破産法30条)。
②債務者の権利制限
財産の確定的保全処分を受けた債務者(破産宣告を受け、破産から復権していない債務者を含みま
す)は、破産法により、以下のとおりその権利が制限されます(破産法67条)。
(a) 債務者は債務者とその家族の生活に必要な生活費の額を管財人に定めてもらい、その金額から
生計を立てる必要があります。
(b) 債務者は6か月毎に、自身の収支を記載した帳簿を管財人に提出して報告し、また、何らかの財
産を受け取る場合には、債務者はその都度、管財人に書面にして通知しなければなりません。
(c) 債務者は裁判所、または管財人が書面により許可した場合を除き、国外に渡航してはなりません。
また、債務者がその住居を移す場合には、新しく移り住む住所を管財人に知らせる必要があります。
③提起済み訴訟の扱い
債権者は、財産の確定的保全処分の前であれば、いつでも債務者に対して破産法に基づき弁済を受
け得る自己の債権に関する民事訴訟を提起することができます(破産法26条)。ただし、財産の確定的
保全処分が命じられた場合、債務者に代わって管財人が当事者となります(破産法25条)。財産の確定
的保全処分後は、債権者による民事訴訟の提起は認められず、既に民事訴訟において勝訴している
債権者(judgment creditor)や既に訴訟を提起している債権者を含め、全ての債権者は、破産法に定め
る手続に従った管財人への分配請求によってのみ債務弁済を求めることができます(破産法27条)。
財産の確定的保全処分の前に発生していた訴訟または予定されていた訴訟については、管財人がそ
の当事者となるほか、裁判所へ訴訟の中止を請求することもできます。裁判所は訴訟の中止以外にも
適切と判断する命令を下す権限を有するとされています(破産法25条)。
次回からも、しばらくタイの倒産法制度について書きたいと思います。
(本記事はタイ法に関するアドバイスを行うものではなく、経験や一般情報に基づいて事案等を整理・分析した
ものになります。)
NISHIMURA & ASAHI BANGKOK OFFICE
Unit 1607/1, 16th Floor, Athenee Tower, 63 Wireless Road, Lumpini
Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand
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30 JUNE 2016
第 30 回
日本国及びニューヨーク州弁護士 小原 英志
日本国及びニューヨーク州弁護士 下向 智子
タイ国弁護士
トモヨシ・ジャイオブオーム
【倒産法④】
今回も、引き続きタイの倒産法制度について書きたいと思います。今回は、管財人の役割、債権者集会、
和議について説明したいと思います。
1. 管財人
管財人は、債務者の財産の分配処理を調整するとともに、債務者及び関係者に対して以下のような権
限・責務を有するため、破産手続において重要な役割を果たすこととなります。
① 債務者の財産を管理・処分し、継続している債務者の事業を完了させること(破産法22条(1))
② 債務者の金銭、財産、または債務者が第三者より受け取る金銭、財産を回収すること(破産法22条(2))
③ 債務者の財産について原告または被告として訴訟の当事者となること、または第三者と和解すること
(破産法22条(3))
④ 破産手続の最中に債務者またはその他の者が破産法に定める違法行為を犯している疑いのある場
合、捜査を実施すること(破産法160条)
⑤ 債務者の事業を継続すべき事由がある場合に、債権者集会で承認を受けた上で自らその一切を管
理すること、または第三者もしくは債務者にその権限を与えること(破産法120条)
⑥ 管財人は裁判所の要請に応じて債務者の事業や行為に関して裁判所に報告するとともに、裁判所に
よる債務者への照会を援助する責務を負う(破産法142条)
2. 債権者集会
財産の確定的保全により選任を受けた管財人は、債務者が申し出る和議(和議については下記3をご参
照ください。)を受け入れるか、裁判所に対して破産宣告を申し立てるかを検討し、債務者の財産の管理
方法について協議するため、できる限り速やかに第1回債権者集会を招集しなければなりません。招集に
あたり、管財人は1紙以上の日刊新聞で第1回債権者集会の開催日時・場所を開催予定日の少なくとも7
日前に掲載して公示するとともに、可能な限り各債権者に対して通知することとされています(破産法31
条)。財産の確定的保全処分を受けた債務者は、債権者集会へ出席し、集会において管財人や債権者
からの質問に回答しなければなりません(破産法64条)。
第2回以降の債権者集会は、管財人が必要と判断した場合、法律で開催が義務づけられた場合、裁判
所の命令による場合、債務の弁済請求がなされた債務総額の4分の1以上の債務を有する債権者が書面
で要求する場合に開催されます。
債権者集会で投票が可能な債権者は、債務の弁済を受け得る債権者で、且つ、集会に先行して債務
の弁済請求をしている債権者に限られます(破産法34条1項)。債権者は、代理人を任命して自身の代わ
りに集会に出席させることも可能ですが(破産法34条2項)、一般の財産分配以外の方法により債務者の財
産から利益を受ける結果に繋がる議題については、代理人は投票することができないとされています(破
産法34条3項)。
管財人は全ての債権者集会で議長を務め、議事録を作成した上で署名します(破産法33条)。また、集
会での決定事項が法律の規定に反しているか、債権者全員の共通の利益に反していると判断した場合、
管財人は集会日から7日以内に裁判所へ当該決定事項の実行禁止命令を要請することができます(破産
法36条)。
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30 JUNE 2016
3. 和議
和議(composition)とは、債務者がその債務の一部返済またはその他の方法による債務返済を債権者に
提案し合意する破産法上の手続で、財産の確定的保全処分を受けてから破産宣告を受ける前に行われ
る和議と、破産宣告を受けた後に行われる和議に分けられます。
① 破産前の和議
債務者は、債権者との間で債務の一部弁済またはその他の方法による債務弁済の合意を希望する場
合、自身の資産・負債、支払不能となった理由、債権者一覧、担保として債権者に渡した財産とその日時、
今後債務者のものとなる財産、配偶者の財産及び自身が占有する第三者の財産を記載した書類を提出し
てから7日以内または管財人が指定する期日までに管財人へ和議を書面にして提案することとされていま
す(破産法45条)。債務者の和議案を受け入れるかどうかは債権者集会で検討されます。和議の受入決定
には債権者らによる特別決議を得る必要があります(破産法45条)。和議の受入れを決議する債権者集会に
おいて、債権者は債権者集会の前日までに管財人へ書面で通知することにより投票することも認められて
おり、この場合債権者自らが債権者集会に出席し投票したものとみなされます(破産法48条)。
第1回債権者集会開催後、裁判所は直ちに債務者の公開尋問を実施し、債務者の事業・財産、支払い
不能になった理由、破産法及びその他の法律に反する行為の有無等を確認します(破産法42条1項)。管
財人は公開尋問の日時を予定日の7日前までに債務者及び債権者らに通知するとともに、1紙以上の日
刊新聞に公示します(破産法42条2項)。公開尋問で債務者は、管財人、弁済請求済債権者、または裁判
所による質問に自ら回答しなければならず、弁護人を立てることは認められていません(破産法43条)。公
開尋問が行われない限り、原則として債務者が提案する和議案を裁判所が承認することはできないとさ
れています(破産法51条)。
債権者集会での特別決議により和議が可決された場合、債務者または管財人は裁判所に対して和議
の承認を請求することができます(破産法49条1項)。請求を受けた裁判所は、和議の承認につき検討する
ための日程を決め、管財人は、その予定日の7日前までに債務者及び債権者に知らせるとともに、予定
日の3日前までに和議、債務者の財産・事業、債務者の行いに関する報告書を裁判所に提出します(破
産法49条、50条)。
和議の承認を判断するにあたり、裁判所は管財人が提出する報告書と、弁済請求済債権者により申し立
てられた異議がある場合にはそれを参考に検討します。なお、弁済請求済債権者は、たとえ債権者集会の
際に和議案に賛同していたとしても裁判所に対して和議の異議を申し立てることができます(破産法52条)。
裁判所が和議を承認した場合、管財人は和議が承認されてから7日以内に官報及び1紙以上の日刊新
聞に公示します(破産法55条)。裁判所により承認された和議は全ての債権者を拘束し、債務者は和議内
容以外の債務から解放されることとなります(破産法56条)。
② 破産後の和議
債務者は、裁判所から破産宣告を受けた後であっても和議を申し出ることができ、この場合、和議の提
案などの手続について上記①の破産前の和議における手続が準用されます。ただし、債務者が以前に
提案した和議案が否決されている場合には、その決定から3か月以上の間隔を空けなければならないとさ
れています(破産法63条1項)。
裁判所が破産後の和議を承認した場合、債務者を破産状態から解き、財産の管理権を与えるか、裁判
所が適当と判断する命令を下すことができます(破産法63条2項)。
次回からも、しばらくタイの倒産法制度について書きたいと思います。
(本記事はタイ法に関するアドバイスを行うものではなく、経験や一般情報に基づいて事案等を整理・分析した
ものになります。)
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31 JULY 2016
第 31 回
日本国及びニューヨーク州弁護士 小原 英志
日本国及びニューヨーク州弁護士 下向 智子
タイ国弁護士
トモヨシ・ジャイオブオーム
【倒産法⑤】
今回も、引き続きタイの倒産法制度について書きたいと思います。今回は、破産宣告と債務の弁済請求
について説明したいと思います。
1. 破産宣告
破産法では、裁判所は、管財人が第1回債権者集会を開催した後、以下のいずれかの場合に債務者に対して
破産を宣告する権限を有すると定めています。
① 債権者集会において、債権者が破産宣告の申立てを決定したとき(破産法61条)
② 債権者集会において何らの決議も行われなかったとき、または一切債権者が債権者集会に出席しな
かったとき(同条)
③ 和議が承諾されなかったとき(同条)
④ 和議は承諾されたものの債務者がこれに従わず債務を弁済しない場合、和議の実施が不正行為を
せずには実行が不可能と裁判所が判断するか不当に遅延される可能性のある場合、または裁判所に
対する不正詐欺によって和議が承認された場合に、管財人または債権者が裁判所へ和議の解除及
び破産宣告を申し立てたとき(破産法60条)
裁判所により破産が宣告された場合、管財人は官報及び1紙以上の日刊新聞で破産者の氏名・住所・職
業及び破産が宣告された日を公示します(破産法61条2項)。この場合、債務者は財産の確定的保全処分
を受けた日から破産していたものとみなされることとなります(破産法62条)。
2. 債務の弁済請求
① 弁済請求手続
財産の確定的保全処分が決定した場合、債権者は、既に民事訴訟で勝訴している債権者であるか民事
訴訟を提起して係争中の債権者であるかに関わらず、破産法に基づく弁済手続により弁済を受けなけれ
ばなりません(破産法27条)。財産の分配による債務弁済を希望する債権者は、原則として財産の確定的
保全処分の公示日から2か月以内に、管財人に債務の詳細とその証拠を記載した書式を提出する必要
があります。ただし、債権者がタイ国外に居住している場合は(債権者の国籍に関わらず)、請求期限が最
長で2か月延長され得るとされています(破産法91条)。
② 弁済請求が可能な債務
破産手続において弁済請求が可能とされている債務は、その返済期限に関わらず財産の確定的保全処
分の前に債務の原因が起きたことが条件とされており、一方で以下のいずれかに該当する債務は弁済請
求が認められていません(破産法94条)。
(a) 法律の禁止事項もしくは倫理に反して生じた債務、または強制執行が不可能な債務
(b) 債権者が債務者の支払不能を知りつつ発生させた債務、ただし債務者の事業を継続させるために
発生させた債務を除く
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31 JULY 2016
③ 担保権者による債務弁済請求
担保権者については、弁済請求をせずに自ら担保権を実行するか、破産法の手続により分配を請求す
るかのいずれかを選択できます。弁済請求をせずに担保権を実行する場合、担保権者は管財人による
担保物の確認に応じなければなりません(破産法95条)。破産法の手続により分配を請求する場合は、債
権者は以下のいずれかの条件の下で弁済を請求することができます(破産法96条)。
(a) 当該担保権者が担保として提供された財産を全債権者のために引き渡すことに同意した場合には、
債権の全額について権利を主張することができる。
(b) 当該担保権者が担保として提供された財産に対して既に担保実行していた場合には、差額の未払
い債務について権利を主張することができる。
(c) 担保権者が管財人に担保として提供された財産を競売により売却することを要求した場合には、差
額の未払い債務について権利を主張することができる。
(d) 担保権者が担保として提供された財産について査定を行った場合には、未払いの差額について権
利を主張することができる。この場合、管財人はかかる財産を当該査定額で受け戻すことができる。
ただし、法律に基づき債務者が担保価値よりも多額の責任を負担しなくてよい場合には、上記の規定は
適用されないとされています(破産法97条)。
担保権者が債務の弁済を請求する場合、当該担保権者は自らが担保権者であることを宣言しなければ
なりません。かかる宣言がなされなかった場合、当該担保権者は担保として提供された財産を管財人に
返還しなければならず、当該担保権者の当該財産に対する権利はかかる宣言の欠缺が当該担保権者の
不注意によって生じたものであることを裁判所に証明しない限り消滅します。この場合、裁判所は担保とし
て提供された財産の返還を命じることにより、またはその他の適切と認められる条件の下で、弁済請求書
の内容の変更を認めることができるとされています(破産法97条)。
④ 外国籍債権者による弁済請求
外国に居住する外国債権者が破産法の手続に則り債務の弁済請求を希望する場合、以下の要件を追
加で満たさなければなりません(破産法178条)。
(a) 当該外国債権者の国の法律及び裁判所における破産手続において、タイの債権者が債務者に対
し債権を主張する権利が同様に与えられている旨を証明すること
(b) タイ国外で当該債務者の財産を受領するまたは財産の分配を受領する権利があるかを申告し、そ
の権利がある場合にはタイ国外で当該債務者から受領した財産または分配額をタイ国内の債務者
の財産に加える旨を宣誓すること
⑤ 弁済請求の審査
財産の確定的保全処分から2か月が経過した場合、管財人は速やかに債務者及び債権者らを招集し債
権者が提出した弁済請求を確認します。この際、管財人は予定日の7日前までにその招集について知ら
せなければなりません(破産法104条)。弁済請求の確認に際して、管財人は、債権者、債務者、またはそ
の他の者を呼び出し、債務について照会することができるとされています(破産法105条)。特に異議が申
し立てられない債権者については、別段の判断を下すべく理由がある場合を除き、裁判所が弁済の許可
を与えることとなります(破産法106条)。
次回も、タイの倒産法制度について書きたいと思います。
(本記事はタイ法に関するアドバイスを行うものではなく、経験や一般情報に基づいて事案等を整理・分析したものになりま
す。)
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31 AUGUST 2016
第 32 回
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【倒産法⑥】
今回はタイの破産制度について、最後の回となります。
1. 債権者を害する行為及び特定の債権者に有利となる行為の取消し
① 債権者を害する行為の取消し
民商法典237条では、「詐害行為」とは債権者を害することを知りつつ行われた、何らかの法的行為を指
すと規定されていますが、債務者がこの詐害行為を行っていた場合、管財人は裁判所に対して当該詐
害行為の取消しを請求することができるとされています(破産法113条)。なお、この法的行為により利得
を得た第三者が債権者が不利益を被るべきことを知らなかった場合には、管財人は取消しを請求するこ
とができないとされていますが、かかる行為が無償行為である場合には、債務者側が債権者がその行
為により不利益を被るべきことを認識しているのみで足りるとされています。また、法的行為の対象が物
に対する権利ではない場合には、管財人は法的行為の取消しを請求することができません。
また、上記詐害行為が破産宣告の申立てが行われた日から前後1年以内に行われた場合、無償で行わ
れた場合、または債務者が相当価額を下回る対価を受け取った場合には、当該法的行為は債権者を
害することを知りつつ行われた、と推定されます(破産法114条)。
② 特定の債権者に有利となる行為の取消し
破産宣告申立の日から前後 3 か月以内に、特定の債権者を他の債権者よりも有利にすることを目的に
債務者が自らの財産を譲渡した場合、債務者が何らかの行為を行った場合、またはそれら行為を許容
した場合、 管財人は当該行為の取消しを裁判所に請求することができます(破産法115条1項)。
また、上記行為により有利になる債権者が債務者の身内である場合、裁判所は破産宣告申立の日か
ら前後1年以内に行われた行為をも取消すことが可能とされています(破産法115条2項)。
もっとも、破産宣告の申立てが行われる前に、第三者が善意で相当な対価をもって取得した債権は、
かかる取消しによる影響を受けないとされています(破産法116条)。
2. 債務者の財産の分配
債務者の財産のうち、債権者への分配の対象とされる財産は以下のとおりです(破産法109条)。
① 破産宣告を受けた時点で債務者に帰属する全ての財産及び第三者の財産に対する債権、ただし以
下を除く
(a) 債務者及びその扶養家族(配偶者と未成年の子)の生計維持のために必要な身の回り品
(b) 家畜、農作物または債務者が生計を立てるために使用している仕事道具で、その価値の合計が
10万バーツを超えないもの
② 破産宣告から復権までの間に債務者が取得した財産
③ 債務者が業務や取引において真の所有者の承諾を得た上で所持し、または債務者の管理下にある
もののうち、状況から見て破産申立時点で債務者が所有者であったと認められるもの
債務者の財産は破産が宣告されてから速やかに債権者へ分配される必要があり、その後原則として遅くと
も 6 か月以内に次の分配が行われますが、裁判所が適当と判断した場合には 6 か月の間隔が延長される可
能性があります(破産法124条)。
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31 AUGUST 2016
管財人は、財産が分配される度に配分帳簿を債権者及び債務者に確認させるための日程と場所を決め、
その7日以上前に1紙以上の日刊新聞にて公示するとともに、債権者及び債務者に通知しなければなりませ
ん。配分帳簿に対し債権者らによる異議がない場合には当該帳簿の内容が正しいものとみなされ、管財人
により分配手続が進められることとなります(破産法126条)。利害関係者により何らかの異議が唱えられた場
合には、管財人はその異議を検討した上で適宜命令を下します(破産法127条)。
3. 破産の復権
破産の復権は、破産者自らが裁判所に復権の申立てを行った上で裁判所命令により復権する場合(judicial
discharge)と、法定の期間を経過した場合の自動的復権(automatic discharge)に分けられます(破産法67/1条)。
① 裁判所命令による復権
裁判所命令による復権は、破産者による裁判所への申立てに基づき(破産法68条)、破産者が財産の
半分以上を債権者に分配していること、且つ不正行為のある破産者ではないことを証明できる場合に
認められることとされています(破産法71条)。
復権命令が下された場合、破産者は弁済を受け得るあらゆる債務から解放されますが、(a)租税、(b)
破産者の不正詐欺行為による債務、及び破産者が関与した不正詐欺により弁済請求がなされなかっ
た債務を除くとされています(破産法77条)。
② 自動的復権
自動的復権は、自然人の破産者が破産宣告を受けてから 3 年後に自動的に復権するものです。ただ
し、次のいずれかに該当する場合は別とされています(破産法81/1条)。
(a) 当該破産者が以前に破産宣告を受けたことがあり、以前の破産宣告を受けてから最後に財産の
確定的保全処分を受けるまで5年が経過していない場合、自動復権までにかかる期間は5年。
(b) 当該破産者が不正行為のある破産者で下記(c)に該当しない場合、自動復権までにかかる期間は
10年。ただし特別な理由がある場合で破産宣告を受けてから 5 年以上が経過していた場合、10年
に達する前に当該破産者の復権を命じることが可能。
(c) 国民を欺く借金行為法に基づく国民を欺く借金行為により破産した場合、自動復権までにかかる
期間は10年。
破産者が復権した場合、管財人は官報及び 1 紙以上の日刊新聞にその旨を公示しなければならないとさ
れています(破産法81/1条3項、76条)。
4. 破産の解除
復権手続に加え、以下のような場合、管財人または利害関係者は裁判所に破産の解除を請求することが
できます(破産法135条)。
① 破産手続開始の申立人である債権者が裁判所費用、手数料または保証金を支払わず、他の債権者
からも協力が得られないことにより管財人が債権者らのために活動することが困難なとき
② 債務者が破産宣告を受けるべきでなかったことが証明されたとき
③ 債務が全額弁済されたとき
④ 10年間にわたり債権者へ分配する財産がなく、いずれの債権者も管財人に対して財産の回収を要請
しないとき
上記①または②を理由に破産が解除される場合、債務者は債務を免除されないとされています(破産法136条)。
破産者が裁判所による破産解除の決定を受けた場合、管財人は官報及び1紙以上の日刊新聞にその旨を公
示しなければならないとされています(破産法138条)。
以上、これまで6回にわたりタイの破産について書いてきましたが、次回からはタイの事業再生に関して説
明していきたいと思います。
(本記事はタイ法に関するアドバイスを行うものではなく、経験や一般情報に基づいて事案等を整理・分析したものになります。)
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