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粒体メカノケミ カルピス トンの諸特性

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粒体メカノケミ カルピス トンの諸特性
生 産 研 究
96
粒体メカノケミカルピストンの諸特性
政 弘
松 島 正 太・森
Mechano−Chemical現象とは,化学的エネルギを直接機械的エネルギに変換し,化学試剤
の作用で物を動かすことができる現象のことである.これはガソリン機関が化学エネルギ
を一度熱エネルギに変換した後,ピストンを動かしたり,蓄電池が電気エネルギを媒介と
してモータを動かしたりするのとは本質的に異なつている.本文ではMechano・Chemical
な性質のある高分子粒子をつめたピストンの特性の実測結果の主なものを発表している.
1.はじめに
ポリメタアクリル酸とポリビニールアルコールの架橋高
周囲の媒体の化学的性質の変化に応じて伸縮をし,そ
分子からなるM.C.物質を水につけ,それにNaOHを
の化学的エネルギを直接機械的エネルギに変換すること
入れてゆくと,ポリメタアクリル酸中の(COO−, H+)が
ができる高分子物質をMechano−Chemical物質という1).
(COO−,Na+)に変化する,このH+と置きかわったNa+
このもっとも高度化したものとしては,動物の筋肉
は完全にはCOO一にとらえられてしまってはいず,ある
(その中でもとくに横紋筋)があげられる.筋肉はいま
程度自由にその近傍を不規則に動きまわり,自己の運動
のところ人工的合成はまったく不可能だが,Mechano−
範囲をひろげようとする結果,糸まり状に丸まっている
Chemical物質には合成可能の低級なものもあり,ポリ
M.C.物質の分子をのばすことになる.このためM.C.
アクリル酸とポリビニールアルコールを架橋させたもの
物質はマクロな意味においても,ふくらむというのが定
を初め,ポリアクリル酸とグリセリン,ポリメタアクリ
説である.この伸張力と平衡する力は,M. C.物質に外
ル酸とディビニルベンゼン,ポリメタアクリル酸とポリ
から加わる荷重と,M.C.物質自身のゴム状弾性力が考
ビニールアルコールを,それぞれ適当な度合で架橋させ
えられる.この理論によればM.C.物質をふくらませ
たものなど,かなりの種類の高分子電解質が,Mechano−
ようとする力は,ちょうど浸透圧と同類の,したがって
Chemicalな性質を顕著に示すことがわかっている1}.そ
気体の圧力とも同類の力であるということができる.
して,これらはいずれも周囲の液のpHの変化に応じ
M。C.物質によって物体を動かそうとする時には,場
て,ふくらんだり,縮んだりするのである*.
合場合に応じて各種の形が考えられるが,ここではその
このMechano−Chemicalな性質は,これまでは主と
もっとも単純で基本的な,粒体M.C.物質を内蔵する
して筋肉モデルとして筋肉生理研究者の興味の対象にな
第1図のようなピストンについて,その二三の実験デー
っていたり,また近くは生物物理学者や高分子分性論研
タを発表することにする.
2
究者の純理学的な研究対象となっていたに過ぎず,これ
液流入
を技術畑で物体を動かすエンジンとして,あるいは自動
M.C.ピストン
第1図は筆者の
機械の手や指に相当する操作部その他として使うという
実験室で実験中の
ことは考えられてもいなかった.筆者はこのMechano
M.C,ピストンの
Chemica1物質**(以下M. C.物質と略記する)を技術
荷
荷重L
構造の原理図であ
の領域で,なんとか応用できないものかと思い,これを
黷oピ
る.シリンダCの
工学的に研究することをはじめ,pH自動制御用の自力
Cシリンダ 中に粒状M.C.物
bシ
制御弁2)やpH検出スイッチ3}などの具体的な機器の
質をつめ,その上
開発をするとともに,M.C.フィラメントや, M.C.粒子
の力学的性質の測定も行なっている.
メカノ
粒一チ
ケミカル粒一チ
“M.C.物質がなぜ伸縮できるのか?”という原理につ
いては,ようやく物性物理学者の間で定説1》が生まれた
ような状態であって,なおくわしいことはまだ十分には
明らかになっていないように見うけられる.しかしM.
灘
因であることはたしかのようである.たとえば,上記の
@ガ
中空のピストンを
/ }
通り,上から下へ
D液ドー
流
C。系を構成する高分子電解質の電離基の周囲に凝縮し
た対イオンのミクロな運動状態が,M.C.系の伸縮の原
下にはガラスフィ
ガラス
フィルタ ルタを入れ,液は
@フィ
荷重の中心孔から
出
向かってシリンダ
内を通過できる
が,M.C.粒子は
第1図 粒体メカノケミカルピ
ストン
こぼれ出さぬよう
にしてある.中空のピストンPの上に荷重を乗せ,
シリ
*最近では,pH変化つまり中和のエネルギを機械エネル
ギに変換するこれらの物質のほかに,酸化還元のエネル
ギを機械エネルギに変換する物質も合成できている.
2
**イオン交換体の膨潤はM.C.現象の一つだが,イオン交
換の場合には,この現象は逆に邪魔なものとなっている.
97
第15巻 第4←
ンダ内を種々のpHの液体を通過させると,そのpH
に対し,つまり中性およびその付近でもっともふくら
に対応してM.C.位子はふくらんだり,縮んだりしてビ
み,それ以[一,あろいは以下のpHで収縮する.とくに
ストンを介Lて荷重を上げ下げし,(中和の)エネルキ..
pH=1以下ではほとんど直線的伸縮となっている,た
によって直接〔熱エネルギや電気エネルギを媒介とする
だし,ア」Lカ1}側では,一度NaOH液を通して収縮さ
.ことなく)機械的仕事をするのである,
せた後,純{κを通Lてふくらまぜる場合のもどb方が極
実験では,第2図のよ
めておそく,元どおりにもどり切らないとさえ考えられ
う1こテ主射器を改造し∼二,
第2図 実験した種々のピス
トン
左よりそれぞれ直径1.2cm,
2、1cm,3crr1のもの
るほどである.したがってアルカリ側の陣縮ば実用には
それぞれ直径1.2cm,
使えそ5もない、また1駿の側でもpHが一1以下に対
2.1crnのピストンと,
応したところまで縮ませると,各M.C,柁ア間のすき間
パンライトで作った直径
がつまってLまい,つぎにふくら重そうとして,pHの
3.Ocmのものの3本を
値の大きな液〔.たとえば純水}を通す場合,非常に通過
使用した.また拉状M.
しにくく,M.C.粒予がふくらみかltるまでの畦問が長
C.物質は第一一段階とL
くなり,したがってピストンの伸びる速さが極めておそ
て,市販のイオン交換樹
く,実用にならなくなる.実用になる胞囲ぱpH⊇−0,5
脂中より選び出した,
∼7の間〔このうちpH=2∼7の問はほとんど.伸縮なし)
SO,H些を有するポリス
と見てよい,
チレン・ディビニルベ
OgからIO60gまでの各荷重に対する.各曲線を左へ
ンゼン・スルフォン酸
延長してゆくと,だいたい.体積Dの1・r近で(こういうこ
DOWEX 50WX 1,50∼
とは実際には起こり得ないがグラフの上だけの話で)一
1DOメッシュを使用し,
点に集っているのは興味深い.
シリンダ内を通過させる
伸縮の再現性は酸の側(すなわち第3図の左半分)で
液体として1よ. 各種pH
は良好である,伸縮の回数,伸縮の大きさ,伸縮をはじ
.のHC[, NaOH,純水を使った.
める起点などに無関係に第3図の佐半分)のrt,1 ’R.ヒを
3,pH伸縮特性
第3図は直径1.2cmのピストンについて液のpH
なお,オ文中のすべてのデータにっいて,液のpHの
たどる.
とシIJンダ内M.C.粒子の総体積およびピストン伸縮の
値は液のモル濃度より換算した値をとった.これはM.
関係である.パラメータとLては荷重の重量をとった,
C.ピストンカ実用になる範囲のpH値に, いわゆるガ
荷重のたきい曲線ほど下に下がっているのは,はじめ約
ラス電極p日計では∫T確な測定が困難なためである.ま
5cc〔正確にぱ4,88 cc 1}のM、 C.粒子をシリンダにつ
た荷重がはんぱな値のものとなっているが,これは分銅
めて荷重0のデータをとり,つぎにそれに各重景の荷重
のほかにピストンの臼重をも加えた総加重を示したため
をかげてデータをとったためである.つまり,M.C,粒
である.
1じr
“
o「
c岡
l:置
41.
1
$
;3t
.悉
臼
//翼
ー
‘
1・
雲1
一i
ll〆.
1
」
耳
・一些一一.…一_噛ケ.†琳一一岩_I
tt ⊃h_
第3図 液のpHとシ1)ンダ内M. C.粒子の総体積お
よびピストンの伸縮の聞係1ピストン直径工.2cn1の場合
子が荷重で「旺縮される様子が現われている.このM、C.
粒子の弾性についてぱ第11図を参照されたい.このグ
ラフからわかるとおり,このM.C.粒子はpH=3∼12
→
蛤_」・
pH一
第4図 液のpH一ンVンダ内M,C.粒子の総体積
ピストン直径=3,0cmの場合
3
生 産 研 究
98
第4図はピストンの直径=3.Ocmの場合のデータで
s. em
2000
ある.ただしアルカリ側は上述のとおり実用にならない
ので,酸の側だけを示した.荷重Ogの曲線が,その左
,.木環境での
M.C粒子無翼荷体績
端で直線的に降下せずに,上がり気味になっているの
20 cc
は,M.C.粒子一個一個は直線的に収縮してはいるのだ
が,粒子相互間のわずかな摩擦のため粒子全体が十分縮
むことができず,空隙ができてしまうためである.ほん
のわずか(数g)の荷重さえかかっていれば,破線のよ
うに直線的に縮むことができる.もちろんこの荷重09
のときはピストンは抜きとって,ピストンの自重さえも
500
かからぬ状態にしてある.
”このM.C.ピストンの伸縮はどの程度なのか?”と
の質問にさらに一般的に答えるため,第3図,第4図お
よびここに表示せぬほかのデータを整理して体積変化率
゜ 5°° 」i°°°撫
として表わすと第5図となり,体積変化率は,ピストン
第6図 荷重一仕事の特性
ピストン直径=2,1cm, pH変化=0→5に対するもの
や寝る傾向にあ
廻
150
るのがこれをも
のがたっている.
一甥
R:撫・
実験装置の不備
とくにシリンダ
筒衙 童重
内ガラスフィル
ーー
ス置
埴鋤 径用
2055
タ(第1図参照)
中
写
σ
の強度の大きい
3 C用
ものが得られな
いため,まだデ
ー一一・一
500 jOOe t500 2000 2 500g
pH一申
第5図 液のpH一体積変化率
径,シリンダ容積にほとんど無関係にpHで定まる,と
いう結果となる.図中の丸,三角,四角の各点は第3図,
いないが,ずっ
第7図 荷重一純水無荷重環境でのM.
と荷重を増すに
C.粒子1ccのなす仕事
pH変化=0→5に対するもの
餐m
したがって,こ
の曲線はさらに
寝て,いずれは
400
飽和してしまう
第4図のデータを参考までに記入したものである.
4.仕事特性
第6図は直径2.1cmのピストンについて求めた,1
回のピストンの伸び(pHを0から5まで変化させた場
^はとれて
−一一荷重
と予想される.
鋤 初
その飽和点付近
の仕事は相当に
大きなものにち
合)によって得られる仕事と荷重の関係である+.
図からわかるように,仕事は荷重にほぼ比例してい
がいなかろう.
る.これは第3図や第4図にあらわれているように,
第6図は直径
M.C.ピストンの伸びは,この実験で問題にしている程
㎜
トンについてだ
度の荷重によってはあまり影響を受けないためである.
けの特性だが,
とはいうものの,荷重が大になるほどピストンの伸びの
絶対値は次第に小さくなって,仕事も荷重に比例するほ
どには増加しない,第6図の各曲線が右へゆくほど,や
+ これは当然このとであるが,同一荷重に対しては,一回の
伸びでなしうる仕事は,シリンダ内M.C.粒子の体積(し
たがって質量)に比例していることが第6図よりわかる.
4
2.1cmのピス
5°°ピ.,鬼齪か塑舞
第8図 ピストン底面圧カーM.C.粒
子単位体積(純水無荷重環境で
の)のなす仕事
pH変化=0−5に対するもの
各種の直径のビ
ストンにっい
て,荷重と,単
位体積のM.C.
粒子が一回の伸
99
第15巻 第4号
びによって行なう仕事との関係を実測した結果が第7図
No
Rlll
刈 ⊂P
@ (⊃ 一「一一一⊂9
である.ただしM.C.粒子の単位体積としては,無荷
重で純水を通した場合の値をとってある.この図の示す
o
一
日寺定数
とおり,一一定荷重ではM.C.粒子単位体積あたりの仕
1
時定数
=4.0秒
一15δ秒
._#
事は,ピストンの断面積に反比例している.したがって
鳴
o o
この荷重をピストン断面積で割って,単位面積あたりの
o
o Q
①
荷重すなわちピストン底面の圧力に換算しなおすと,第
1
8図のような,ピストンの直径,シリンダ内M.C.粒
CQ
o 」
子の体積に無関係な,ピストン底面圧カー単位体積M.
一δ
一 C.粒子のなしうる仕事の関係が得られた.この特性は,
一一一一
十撃
一
ゴー一
一1お i
い圧力において飽和すると考えられる.
と
以上,この実験の範囲では,かけた荷重が軽すぎたた
一
σ)
o o10か
← めに,このよ5な単位体積M.C.粒子は荷重をかければ
かけるほど仕事をする,という結果がでたと考えられる.
’一 H20
ずっと荷重を大にした実験を今後行なう予定である.
o Q
o
一
c◎
Hα
博 一
o o
o o
5.伸びのはやさ
第9図,第10図はMC.ピストンの伸縮の応答の例
で,それぞれ荷重3059,30109の場合のものである.
これはだいたい1次おくれ特性と見ることができる.実
験の結果では,荷重が大となるほど,伸びる場合の時定
数は増し,縮む場合の時定数は短くなる.荷重が大とな
るにつれ,それを持ち上げる仕事が増すこと以外に,大
荷重の場合には球状のM.C.粒子が圧縮されて立方体
に近づくため,液が通過するすき間が減って液が通りに
くくなることも,伸長の時定数が大きくなる原因となっ
6
5
1
.辱・
io
図示の程度の圧力範囲では,ややまがり気味のほとんど
4
o
[ o
直線とみなしてよいものとなってはいるが,はるかに高
3
恥
1
時陶
第10図 M。C.ピストン伸縮の応答
ピストン直径一2.1cm, pH 一= O∼5,荷重=30109
無荷重純水環境でのシリンダ内M.C.粒子体積
== 18 ccの場合
ている.
この程度の伸びのはやさでは,現用の空気ピストンに
代わって実用になるというわけにはゆきそうもないが,
小型自動車用ジャッキの程度にならば十分であろう。
荷重3010g(第10図)の場合の伸長の直線部分は,
だいたい1mm/secの速さとなっている.したがってこ
のM.C.ピストンの出しうる動力は,この場合3.01
g・m/sec≒0.03 Wとなる.この場合は無荷重純水環境
畦定数
でのM.C.粒子体積は18 ccだから1ccあたりの出
した動力は約1.7mWとなる。
塒定数
=8.3秒
二5.5か
C
4
20m用
2
蓉8一
1/H
戟
10紗
H㏄
§§一一日穂
0 1 2 3 K曾
第9図 M.C.ピストン伸縮の応答
一一一荷 重
ピストン直径=2.1cm, pH=0∼5,荷重;3059
無荷重純水環境でのシリンダ内M.C,粒子体積
=18ccの場合
第11図 M.C.ピストンの荷重と変位の一例
①,②,③,の体積はピストン内M.C.粒子の無荷重
純水環境での体積を示す.
5
100
6.M. C.粒子の弾性とM. C.ピストン
M.C.粒子の弾性を論ずるには,レオロジの助けを借
りなければならぬことと思う.しかしM.C.ピストンと
して正常の動作をする範囲内では,MC.粒子はだいた
いフックの法則に従うと見なしてよいと思われる.
しかしこれはM.C.粒子一個を裸にした場合の話で
あって,これを多数剛体のシリンダ内に押し込んだM.
C.ピストンとなると多少おもむきがちがってくる.そ
こには粒子相互間や粒子とシリンダ内壁との影響など粉
体工学の助けを求めなければならぬやっかいな問題が起
きてきて,理論的に定量的に論ずるのは困難のように思
われる.そこで,とにかく実験的に求めたM.C.ピス
トンに対する荷重と縮みの関係の一例を第11図に示し
ておく.図示のとおり荷重と縮みとの関係は非線形とな
っている.
生 産 研 究
いはずである.自然の与えてくれる一つの示唆は,筋肉
のような高次の構造によってこそ,はじめて動物のよう
なすばらしい動きが可能になるのかも知れぬ,というこ
とではなかろうか.
M.C.系研究の第一歩として,ピストン特性を実測し
た結果を述べた次第である.頁数の都合でデータの一部
しかあげ得なかったことと,測定装置の不備でデータが
完備していないことが残念である.なおM・C・粒子の
粒度や材質を変えた場合のデータはまた別の機会に発表
することにしたい.
おわりに,この研究に対する本研究所第4部の菊池教
授・山辺助教授および山辺研究室,第2部の平尾教授は
じめ諸先生諸先輩のご援助とご理解に感謝すると同時
に,今後のいっそうのご指導をおねがい申し上げる次第
である. (1963年2月18日受理)
7. お わ り に
M.C.粒子を応用して,とにかく物体を動かすことだ
けでは筆者の実験室ではできている,しかしこれは蒸気
文
献
機関にたとえれば,蒸気の圧力でやかんのふたが持ち上
1)森 政弘:“軟体機械(人工筋肉へのこころみ”,日本
機械学会誌,Vol.65, No.517,19622月, pp.275
がったのと同程度のごく初期的段階である.この程度の
∼283.
伸縮のはやさや,この程度の馬力のものが何に応用でき
2)特許出願,昭和36年第47811号
3)特許出願,昭和36年第47809号,第47810号
るのかは,いまのところまったく未知である.しかし
M.C.エネルギの利用は何もピストンに限ったことはな
4)A.Wasserman:“Size and Shape Changes of Con−
tractile Polymers”, Pergamon Press,1960.
東京大学生産技術研究所報告刊行
第12巻第6号 花井正実 著
STUDIES ON DECISION OF DESIGN WIND LOAD
「設計用風荷重の決定に関する研究」(英文)
土木・建築を問わず,一般工学において,設計荷重選定の問題は割合あいまいに取
り扱り扱われてきた傾きがある.建築構造物の耐風設計において,従来から用いられ
ている方法は,設計荷重として,過去数10年の記録の最大値をえらび,それによる
構造物の応力が構造部材の実際の強度より十分に低い許容応力度以内におさまるよう
にする方法である.しかしながら,この方法は種々の難点を持ち.設計の方法として
もあまり明確であるとはいえない.
高い設計荷重で構造物を設計すれば,構造物の危険の確率は小さくなり,したがっ
て災害による損失の期待値も小さくなる.しかしながらそれは反面,建設費の増加を
もたらすもので,両者の和を最小ならしめる設計荷重が最も合理的な設計荷重と考え
ることができる.
本研究はこのような考えに基づき,設計荷重決定の理論を展開するとともに,風に
関する統計資料によって,その実際的適用を試みている. (1963年3月発行)
6
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