...

知識・技能を活用させ科学的思考力・表現力を育成する指導の工夫

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

知識・技能を活用させ科学的思考力・表現力を育成する指導の工夫
沖縄県立総合教育センター前期長期研修員
第52集
研究集録
2012年9月
〈生物〉
知識・技能を活用させ科学的思考力・表現力を育成する指導の工夫
-遺伝分野におけるジグソー学習を取り入れた授業づくりを通して-
沖縄県立那覇高等学校教諭
Ⅰ
大
城
直
輝
テーマ設定の理由
21世紀を切り開く日本人の育成を目指す観点から,言語活動の充実等を図りながら,基礎的・基本的な
知識・技能,思考力・判断力・表現力等及び学習意欲の向上を重視することが求められている。
平成24年度より先行実施されている「生物基礎」は,①「生物と遺伝子」
,②「生物の体内環境の維持」,
③「生物の多様性と生態系」の三つの大項目から構成され,「生物学の基本的な概念や原理・法則を理解
させ,科学的な見方や考え方を養う科目(高等学校学習指導要領解説理科編)」であり,学習した内容を
活用できる授業づくりに取り組む必要があると考える。
私はこれまで年間授業計画の中で,なるべく多くの実験を取り入れるなど生物に対する興味・関心を高
めるような授業実践を行ってきた。生徒の授業に対する姿勢は,一斉授業に集中して取り組む一方で,グ
ループ学習を好む生徒も多い。しかし,グループ学習では相互協力して授業に取り組む反面,私語が増え
たり,集中力散漫になったりするなど,自ら考えるという面での課題もみられる。
これらの課題の解決を図るため,情報を集めて,それらを統合して課題を解決する協同学習法の一つで
あるジグソー学習を授業計画に取り入れることとした。ジグソー学習によって、一人一人の知識・技能の
定着を図るとともに,一人一人が責任を持って学習に取り組み,自らの知識や考えを表現し,伝達するこ
とで科学的思考力・表現力の育成ができるでのではないかと考えられる。
本研究では,模型を用いてDNAの構造に対する理解を深めながら,ジグソー学習を取り入れた授業に
加え,「遺伝子の状態変化がタンパク質合成にどう関わるか」等の発展的な問いを与えることによって,科
学的思考力・表現力が育成できるのではないかと考え,本テーマを設定した。
〈研究仮説〉
「遺伝子とそのはたらき」の単元で,ジグソー学習を取り入れ,知識・技能の習得を図り,それを活用
させ,課題の解決に取り組ませることで科学的思考力・表現力が育成できるだろう。
Ⅱ
研究内容
1
実態調査
(1) 目的
① 事前のアンケートおよびテストにより生徒の実態を把握し授業設計での基礎資料とする。
② 研究仮説を検証する資料とする。
(2) 対象及び実施期日
① 対象:沖縄県立那覇高等学校 1学年4クラス(159名)
② 実施期日:平成24年6月4日~7日
(3) 結果と考察
① 事前アンケート
ア「生物の学習に興味があるか」の質問に対して約71%の生
徒が興味関心があると回答した(図1)。その内容に関し
ては,「遺伝子とそのはたらき」に興味があると答えた生
徒が約45%と最も多く,遺伝子に対する学習に興味関心を
持っている
( 図 2 )。 し
かし,その反
面日常生活の
中で「遺伝子」
を身近に感じ
図1 「生物」の学習に興味があるか
図2 「生物基礎」で興味ある分野
- 41 -
ることは多くないようである(図3)。身近に感じること
の例としては「家族と似ている」が最も多く,「遺伝子組
み換え」,「クローン」をあげる生徒が少数みられた。全体
的に遺伝子に関する事柄に興味はあるが,知識が少ないこ
とから遺伝子関連の情報が入りづらいのだと考えられる。
イ 自分の考えを科学的な文章表現で書いたり,図表を使い
説明したりすることができると答えた生徒はともに50%以
下で,知識や考えを他者に論理的に伝えることを苦手にし
ているようである(図4)。しかし,科学的思考の習得状
況に関しては,予想を立てて取り組むことができると答え
図3 遺伝子を身近に感じるか
た生徒が約71%,実験結果や現象に対して根拠をあげて考
えることができると答えた生徒が約65%である。多くの生徒は,事象に対して,自分自身で予
想を立てて取り組むことができ,結果について自分自身の考えを知識をもとに根拠をあげて考
えることができると自覚していることがうかがえる(図5)。しかし,事前テストの科学的思
考力に関する問題への解答をみると,「根拠を問う質問」に対し,持っている知識を引き出し
て答えているような例はほとんどなく,自分の思ったことを単純に文章化しているようである。
図4
科学的表現力について
図5
②
科学的思考力について
事前テストの結果
中学校での既習事項である問い①~③の
うち,「遺伝子の本体がDNAであること」
は,100%に近い正答率であった。しかし,
「DNAが二重らせん構造をしていること」
については約20%,「遺伝子と体を構成する
タンパク質との関係性」(3択形式)は約40
%の正答率であった。問い④~⑥の「転写」,
「翻訳」に関する問題は中学校では履修し
ておらず,知識を全く持たないことがわか
る(図6)。
図6 事前テスト結果
2 仮説検証の手だて
表1 ジグソー群と対照群の設定
ジグソー学習を実施する2クラス
ジグソー学習 ワークシート
教具活用
アニメーション視聴
(ジグソー群)と実施しない2クラス
ジグソー群
○
○
○
○
(対照群)を設定し,両群の検証を行
対照群
○
演示
○
う(表1)。
(1) 事前・事後アンケートとテストの実施・分析
検証授業の前後で同内容のアンケートを実施し,生徒の学習に対する意識の変容を考察する。ま
た,事前・事後テストで知識問題の理解度の変化を比較する。
(2) ワークシート分析
「まとめ」をA~Cの3段階で評価するとともに,学習の振り返りで生徒の理解度を測る。
(3) 定着度テストの実施・分析
知識の定着度を測るとともに,知識を活用させ,正答を得る文章問題に対する解答をA~Cの3
段階で評価し,科学的思考力・表現力の育成が図られたかを事前・事後テストと比較し分析する。
- 42 -
3
素材研究
(1) 生徒用DNA・RNAモデルの作成と改良
① DNA二重らせんモデルの作成
ア 市販玩具のブロックモデル
ブロックには多種多様なパーツがあり,それらを組み合わせることで自由に様々な模型を作
成することができる。ブロックを使用してDNA二重らせんモデルを作成した(図7)。
イ 木材を加工したブロックモデル
アのモデルは材料費が高く,結合部の強度が弱く崩れやすいので,木材を加工して同じよう
な形態のブロックを作成した(図8)。
図7
図8
市販玩具ブロックモデル
ウ
木材加工ブロックモデル
ペーパークラフトモデル
上記ア,イのモデル
作成の費用面,作成に
かかる時間を考慮し,
今回は授業で用いるた
めのモデルとしてペー
パークラフトモデルを
使用した。ペーパーク
ラフトはインターネッ
トサイト「S.F.A1」
(http://www.venus.s
annet.ne.jp/eyoshida
図9 ペーパークラフトモデル
/index.htm)で吉田英
一氏(尾崎北高校)が作成したものを一部加工し,使用した(図9)。
② タンパク質合成モデルの作成
遺伝情報(DNAの塩基配列)からタンパク質が合成されるセントラルドグマを理解させるた
めにDNAヌクレオチド,mRNAヌクレオチド,tRNA-アミノ酸モデル(図10①)を作成
し,セントラルドグマシート(図10②)上で転写・翻訳の作業を行えるようにした。DNAヌク
レオチドとmRNAヌクレオチド同士の結合はマジックテープを使用,塩基部の結合はマグネッ
トシートを使用し,結合の強さをイメージできるようにした。モデルは教科書と同一の色と形で
作成した。
(2) 視聴覚教材の作成
プレゼンテーションソフトの図形ツールを使用し,「塩基の相補性」,「セントラルドグマ」を視
覚的に理解できるようアニメーション形式で作成した。
- 43 -
図10 タンパク質合成モデル
4
理論研究
表2 科学的思考力の条件
(1) 「科学的思考力・表現力」とは
「科学的思考力」とは,問題解決学習の過程
で,「実証性」,「客観性」,「再現性」の三つの
条件(表2)を満たしながら考えを構築したり,
問題を解決したりすることができる力である。
「科学的表現力」とは,「科学的思考力」を
踏まえて,言語や概念を活用して,結果や考察
を文章で書いたり図表を用いて説明したり,発表する力である。
本研究においては,「科学的思考力・表現力」を,「問題解決場面において,持っている知識を活
用し,結果や解答に対し根拠をあげて考える力,科学的な用語を用いて,結果や考察,解答を文章
で書く力」と定義し,研究を進めていきたい。
(2) ジグソー学習とは
ジグソー学習が含まれる協同学習とは,小グループ(男女混合4人班を基本とする)でお互いに
力を合わせ、助け合いながら学習を進めていく集団学習であり,その具体例としては,バズ学習,
ブレインストーミングなど多くの手法があげられる。また,協同学習には五つの基本要素があり(表
3),言語活動を行わせることは,科学的思考力・表現力の育成のための授業作りに有効な手法だ
と考える。
表3
1 相互協力関係
2 対面的-積極的
相互作用
3 個人の責任
4 小集団での対人
技能
5 グループの改善
手続き
協同学習の5つの基本要素
役割分担や相補的役割を行うことにより小集団全員がそろわなければ成立しない関係
仲間への学習への努力を援助したり励ましたりすることで,互いの成功を促進し合う相
互作用,知的活動としての積極的な議論や説明を行う相互作用
役割分担としての責任であり,貢献度として評価される
相互交渉の仕方を,集団的技能や社会的技能として与えることで,効果的な対話関係を
つくる
グループが目標を達成した際のメンバーの協力的な貢献が有効だったか否かを明らかに
し改善を図る
協同の学びの必要性について佐藤(2006)は,「一つは,協同的な学びを組織することなしに一人
ひとりの学びを成立させることが不可能だからであり,もう一つは,一人ひとりの学びをより高い
レベルに導くには協同的な学びが不可欠だからである。」と述べている。
ジグソー学習は,個人に役割を与えることで,グループでの話し合いを活発にすることができ,
他者への説明により,自分の考えをはっきりさせることができる。他者の考えをできるだけ正確に
把握して自分の知識を増やす。自分の考え方と他者の考え方を比較して,それらを統合する。この
ような活動は「科学的思考力・表現力」の育成に効果があるだろう。しかし,グループ内での生徒
- 44 -
の理解度の差,各グループの課題の難易度,知識共有のための時間確保などの留意点があげられる。
(3) ジグソー学習の実際
① ホームグループ(HG)の編成
4人1グループとし個々に番号を割り当てる(A1~A4など)。本研究ではA~Jの10グル
ープ編成した。
② エキスパートグループ(EG)での活動
EGではテーマそれぞれについて話し合いや調べ学習を行い,知識を習得し,まとめた内容を
HGに戻って伝える責任があるので,真剣に取り組む必用がある。EGでのテーマを4つ準備し,
各HGのメンバーは各自の番号に従って,EGへと移動する。本研究では各テーマにつき2グル
ープ設定し,それぞれ5人配置した。
③ ホームグループでの活動
HGでは,4人の
メンバーがそれぞれ
習得した知識を教え
合い,学び合いなが
ら共通理解を図る。
この活動を通し様々
な知識や意見を持ち
寄り,1つの課題解
決に向けた話し合い
活動や作業を進めて
図11 ジグソー学習の例
いく。このとき与え
る課題は4人の習得してきた知識のどれかが欠けると解決できないようなものにする。
Ⅲ
指導の実際
1
2
単元名 遺伝子とそのはたらき 「遺伝情報とタンパク質の合成」
単元設定の理由
(1) 教材観
生体物質としてのタンパク質は遺伝情報によりその構造・働きが決定される。タンパク質と遺伝
子の相互作用は正しい知識とイメージ化する力がなければ理解することが難しい。
本領域では,遺伝情報の変化や欠如が与える影響について,「タンパク質合成」という学習場面
でモデル学習やグループ学習で,イメージを伝え,文章化する能力や技能を向上させることが期待
でき,遺伝子への関心を深めることができる。
(2) 生徒観
生徒は中学校理科の第2分野「(5)生命の連続性」で遺伝子の本体がDNAであること,遺伝子
に変化が起きて形質が変化することについては学習しているが,DNAの構造や生物の基礎となる
タンパク質が遺伝情報に基づいて,合成されることについては学習していない。
理科の学習においては,暗記などの知識再生型の問題は得意としているが,実験後の論理的な表
現の技術や科学的概念の活用技術が不十分な生徒が多い。
(3) 指導観
本単元の指導を通して,遺伝情報の流れに関する概念であるセントラルドグマの学習を通して,
RNAによる転写・翻訳によって合成されたタンパク質が酵素として働き,生命現象を支えている
ことを理解させたい。また,モデル教材を用いて,DNA・RNA・アミノ酸の関連性を視覚的に
理解させたい。さらに,協同学習の一つであるジグソー学習を取り入れ,知識を習得させ,グルー
プでの共有化を図り,積極的に意見交換させることで課題に対する科学的思考力・表現力を育てた
い。
3 単元の指導目標
DNAを中心とした遺伝分野において,適時,ジグソー学習を取り入れることで,授業の活性化を
図り,DNAの構造,複製,DNAの情報に基づきタンパク質が合成されることを理解させ,知識の
- 45 -
習得を図りたい。また,その知識を活用させ,グループで話し合い,考えさせることで科学的な思考
力・表現力を育てたい。
4 単元の評価規準
関心・意欲・態度
思考・判断・表現
技能
知識・理解
ア
遺伝情報とDNAに
関心をもち,意欲的に
探求しようとする。
イ 遺伝情報の分配につ
いて関心をもち,意欲
的に探求しようとす
る。
ウ 遺伝情報とタンパク
質の合成について関心
をもち,意欲的に探求
しようとする。
5
DNAの構造が遺伝
情報を担い得る特徴を
もつことを考察し,導
き出した考えを表現し
ている。
イ 体細胞分裂の前後で
の遺伝情報の同一性を
考察し,導き出した考
えを表現している。
ウ DNAの塩基配列が
アミノ酸に置き換えら
れることでタンパク質
が合成されることつい
て考察し,考えを表現
している。
ア
遺伝情報とDNAに
関する観察,実験など
の基本操作を習得し,
各過程や結果を的確に
記録,整理している。
イ 遺伝情報の分配に関
する観察,実験などの
基本操作を習得し,各
過程や結果を的確に記
録,整理している。
ウ 遺伝情報とタンパク
質合成に関する観察,
実験などの基本操作を
習得し,各過程や結果
を的確に記録,整理し
ている。
単元の指導計画と評価計画(全13時間)
【関】関心・意欲・態度 【思】思考・判断・表現
過 時
程 間
1
生 2
物
と
遺 3
伝
子
指導目標
学習活動
正確に伝
わる遺伝
情報
観察実験
DNAの
抽出
DNAの
構造
・遺伝子の本体がDNA
であることとその特徴を
説明できる。
・身近な材料からDNA
を取り出し,生物のDN
Aの存在を実感させる。
・DNAは塩基配列が遺
伝情報となり,二重らせ
ん構造をしていることを
説明できる。
・遺伝子とDNAとゲノ
ムの関係を説明できる。
・遺伝情報としてのDNA
に関心や探究心をもち,基
本的知識を身につける。
・身近な材料のDNA抽出
実験を通して生物がDNA
をもつことを理解する。
・DNAの構造と塩基の相
補性をモデルを使って理解
する。
・遺伝子とDNAとゲノム
の関係を理解する。
ア
・細胞周期の過程および
各時期の特徴を説明でき
る。
・身近な生物で体細胞分
裂が行われていることを
実感し,DNAの分配を
イメージさせる。
・細胞周期におけるDN
Aの量と質の変化を説明
できる。
・DNAの複製のしくみ
を説明できる。
・遺伝情報が,複製とタ
ンパク質合成で伝えられ
ることを説明できる。
・塩基配列の転写と翻訳
による遺伝情報の流れを
説明できる。
・細胞周期の過程を理解す
る。
イ
ゲノムと
遺伝情報
5
細胞分裂
とDNA
の複製
観察実験
体細胞分
裂の観察
細胞周期
とDNA
の複製
9
遺伝情報
の流れ
10
本
時
転写
翻訳
11
12
13
【技】技能
学習内容
4
遺 6
伝
情
報
の 7
分 8
配
遺
伝
情
報
と
タ
ン
パ
ク
質
の
合
成
ア
転写
翻訳
遺伝子の
発現と生
命現象
観察実験
パフの
観察
ア
遺伝情報を担う物質
としてのDNAの特徴
について理解し,知識
を身に付けている。
イ DNAが複製され分
配されることにより,
遺伝情報が伝えられる
ことを理解し,知識を
身に付けている。
ウ DNAの情報に基づ
いてタンパク質が合成
されることを理解し,
知識を身に付けてい
る。
【知】知識・理解
評価観点
評価方法
関 思 技 知
ア
ア 行動観察
発表
ワークシート
ア
行動観察
レポート
ア ア ア 行動観察
発表
ワークシート
・体細胞分裂における染色
体の変化とDNAの分配を
理解する。
ア 行動観察
発表
ワークシート
イ 行動観察
発表
ワークシート
イ
行動観察
レポート
・体細胞分裂の間期にDN
Aが複製され,分裂期に分
配されることを理解する。
イ イ
イ 行動観察
発表
ワークシート
ウ
ウ 行動観察
発表
ワークシート
ウ 行動観察
発表
ワークシート
・タンパク質の基本構造
やタンパク質により生命
活動が行われていること
を説明できる。
・遺伝子の発現と働きを
関連付けて説明できる。
・DNAの遺伝情報により
タンパク質が合成されるこ
とを理解する。
・DNAの塩基配列がRN
Aの塩基配列に転写され,
これがアミノ酸配列に翻訳
される遺伝情報の流れを理
解する。
・タンパク質はアミノ酸が
結合してできており,生体
内で多くの種類が生命活動
に関わることを理解する。
・遺伝情報の維持と発現の
仕組みを理解する。
・だ腺染色体のパフを観
察し,何が行われている
かを考察できる。
・だ腺染色体を観察し,パ
フで転写が行われているこ
とを考察する。
ウ ウ
ウ
ウ
行動観察
発表
ワークシート
ウ 行動観察
発表
ワークシート
ウ
行動観察
レポート
教材・教具
等
ワークシート
ワークシート
ブロッコリー
ワークシート
DNA二重ら
せんモデル
ジグソー学習①
ワークシート
ワークシート
ジグソー学習②
顕微鏡
ネギの根
酢酸カーミン
溶液
ワークシート
DNAモデル
ジグソー学習③
ワークシート
DNA・RN
Aモデル
アミノ酸モデル
ワークシート
ジグソー学習④
ワークシート
ワークシート
顕微鏡
ユスリカの幼
虫
※本研究では,10時間目(転写・翻訳)を検証授業として設定し,必用な知識の習得とジグソー学習の
導入として,3時間目(DNAの構造)を事前に実施し,合計2時間の授業として実施した。
- 46 -
6
本時の学習指導(第10時/全13時間)
(1) 本時の主題
遺伝情報とタンパク質合成
(2) 本時の指導目標
DNAの遺伝情報によりタンパク質が合成されることについて,ジグソー学習を取り入れること
で,遺伝情報の流れに関する知識の習得を図る。さらに,それを活用できる発展的な問いを与える
ことで,グループでの話し合い・発表を通して科学的思考力・表現力の育成を図る。
(3) 本時の評価規準
【評価の観点】
評価規準
【関心・意欲・態度】
ウ 遺伝情報とタンパク
質の合成について関心
をもち,意欲的に探求
しようとする。
【思考・判断・表現】
ウ DNAの塩基配列が
アミノ酸に置き換えら
れることでタンパク質
が合成されることつい
て考察し,考えを表現
している。
【知識・理解】
ウ DNAの情報に基づ
いてタンパク質が合成
されることを理解し,
知識を身に付けている
A
十分満足できる
・グループ内で積極的
に発言し,課題に意欲
的に取り組み,モデル
を用いて話し合い,解
決することができる。
・DNA・RNAモデ
ルを用い,話し合い,
塩基配列でアミノ酸配
列が決まることを考察
し,書いたり,説明し
たりすることができる。
・DNA→RNA→タ
ンパク質への遺伝情報
の流れを理解し,正し
く用語を用いて説明で
きる。
評価規準
B
C
おおむね満足できる
支援の具体的方法
・グループ内で発言し, ・机間巡視しながら,
課題に取り組み,モデ 助言を行う。
ルを用いて考えている。
評価方法
行動観察
・DNA・RNAモデ
ルを用いて,グループ
で話し合っている。
・グループ内での積極
的な話し合いを促す。
・机間巡視しながら,
課題解決へのヒントを
与える。
発表
行動観察
ワークシート
・DNA→RNA→タ
ンパク質への遺伝情報
の流れを理解する。
・DNA→RNA→タ
ワークシート
ンパク質への遺伝情報
の流れを用語を確認し
ながら説明する。
(4) 準備する教材・教具
DNA・RNA・アミノ酸モデル,セントラルドグマシート,パソコン,液晶プロジェクター,
スクリーン,ワークシート
(5) 本時の展開
展
開
生徒の活動
教師の活動・支援
導
入
5
分
○ホームグループ(HG)で着席
○前時の復習
・DNAの構造,塩基の相補性につい
て確認する
○本時のねらいを確認する
○DNAの構造,塩基の相補性につ
いて振り返り,発問する
○ワークシート配布
○本時のねらいを説明する
形
態
一
斉
準備・備考
評価規準
評価の方法
プロジェクター
パソコン
スクリーン
ワークシート
目標:タンパク質合成がどのように行われるのかを理解する
展開①:エキスパートグループ(EG)で知識習得
展
開
①
10
分
○エキスパートグループ(EG)へ移
動
エ
キ
ス
パ
ト
グ
ル
ー
展
開
②
28
分
①~④それぞれが2グループ
各グループ5名
○テーマについて話し合うよう指示
・HGへ戻って自分の言葉で伝える
ことを説明する
○机間巡視・助言
・自分たちで解決できない問題がな
いか聞く
・学習のポイントを確認する。
○移動を指示
ワークシート配布
ー
○EGで各テーマについて話し合いを
行う
○EGでの役割を説明する
○移動を指示
エキスパートグループ
テーマ
①セントラルドグマ
②転写
③翻訳1
④翻訳2
プ
展開②:ホームグループ(HG)で知識活用
- 47 -
【関ウ】
遺伝情報とタン
パク質の合成に
ついて関心をも
ち,意欲的に探
求しようとする
○HGへ移動
○EGで話し合ったことを伝える。聞
いたことをワークシート記入しなが
ら,モデルを使用し課題に取り組む
ホ
ー
○教材配布
○モデルを使用して,課題に取り組
むよう指示する
・セントラルドグマシート上で作業
するよう指示。
○机間巡視・助言
・作業の補足説明
○グループでの考えをまとめるよう
指示
ム
グ
ル
教材
DNA・RNAモ
デル
アミノ酸モデル
セントラルドグマ
シート
ー
○グループの考えをまとめる
○グループで全体への発表を行う
ま
と
め
7
分
○説明を聞く
○ワークシートまとめ・提出
プ
○グループ発表を指示
○タンパク質合成のしくみを補足説
明
○ワークシートのまとめ,提出指示
○次時の予告を行う
一
斉
○終わりのあいさつ
Ⅳ
プロジェクター
パソコン
スクリーン
【思ウ】
タンパク質の合
成に際して,D
NAの塩基配列
がアミノ酸に置
き換えられるこ
とについて考察
し,考えを表現
している
【知ウ】
DNAの情報に
基づいてタンパ
ク質が合成され
ることを理解し,
知識を身に付け
ている
仮説の検証
1
表4 テストの正答率
知識・技能の定着は図られたのか
検証の前後と1ヶ月後の定着度テストの3
回,DNAに関する①~⑥の共通問題を出題
し,正答率を比較した(表4)。ジグソー群,
対照群ともに事後テストの正答率は概ね上昇
しており,両群に大きな差は見られない。定
着度テストでは,対照群に対し,ジグソー群
の正答率が高くなると予想した。問い④,⑤
でジグソー群の正答率が高く,ジグソー学習
に知識・技能の定着を図る効果があったといえ
る。しかし,問い⑥では対照群で正答率が高
くなっている。これはジグソー群での授業において,グループでの活動に時間がかかり,問い⑥に関
する教師からの説明が不足していたためだと考えられる。
知識・技能の定着を図るためにはジグソー学習は有効であるが,繰り返し学習を行わせるなど学習
方法に工夫を加えることでさらなる定着が図れるだろう。
2 知識を活用することができたのか
(1) 授業後の生徒の認識の変容
事前・事後アンケートの結果から,対照群では授業の前後で生徒の認識に大きな変容は見られな
かったが,ジグソー群では授業後に「できる」「まあまあできる」と答えた生徒が質問①,③,④
で増加している(図12・13)。特に,質問①「わかったことを図・表・グラフを使って説明するこ
とができる」の質問に対し,ジグソー群では事前の約27%から約46%へ増加した。このことは,ジ
グソー学習でのエキスパートグループで得た知識を,グループのメンバーへ理科的な言語活動を通
して伝えることができたと実感している生徒が増えた事を示していると思われる。
図12 科学的表現力について
図13
- 48 -
科学的思考力について
(2) ワークシート分析
「タンパク質合成」の授業後に学習のま
とめ(図14)として,「遺伝情報により,何
が行われているのか」を書かせた文章をA
~Cの3段階で評価した(表5)。生徒の書
いた文章例(評価A~C)をあげておく(図
15)。ジグソー群では,評価A,Bの生徒が
約76%と多くなっており,獲得した知識を
活用しながら,科学的な思考表現の過程を
経て授業のまとめができていると考えられ
る(図16)。ジグソー学習を取り入れること
で,授業で得た用語や基本概念などの知識
図14 ワークシート(一部抜粋)
を活用し,論理的に書くことができる生徒
が増えたと評価する。
授業の振り返りを比較してみると,すべ
ての項目でジグソー群の理解度,満足度が
高まっている(図17)。ジグソー群では,
質問①~⑤のすべてで「よくできる」,「ま
図15 生徒の書いたまとめの例
あまあできる」と答えた生徒が60%を超え
ており,授業への取り組みや学習に自信を持っていると思われる。授業方法の改善によって今後の
学習のさらなる定着が期待できる。
以上のことからジグソー学習で一人一人に責任を与え,それを言語活動をとおして表現させ,グ
ループで一つの課題に取り組ませることが知識・技能の活用において,効果的に働いたと考えられ
る。
表5
図16
ワークシート評価規準
ワークシート評価
図17 授業の振り返り
3
「科学的思考力」「科学的表現力」は育成されたのか
科学的思考力・表現力の変容を調べるため,定着度テストの内容に「遺伝情報の置換と欠失,影響
が大きいのはどちらか」という思考問題を設け
正答率を分析した。この思考問題は,授業で学
習した「転写」,「翻訳のスタート位置」,「翻訳
の手順」に関する内容を理解したうえで,それ
らがタンパク質合成に関わり,タンパク質の構
造・機能に影響を与えるという知識を活用しな
ければ解けない問題である。
定着度テストでは,思考問題を正解へ導くた
めの知識問題として「翻訳のスタート位置」,
「ア
ミノ酸配列」について出題した。その結果,両
図18 翻訳,アミノ酸配列の正答率
- 49 -
群で正答率に大きな差は見られなかった(図18)。
これは,両群のタンパク質合成に関する知識に
差がないことを示している。
次にこの知識を活用しないと解くことができ
ない思考問題の正答率をみてみると,ジグソー
群の定着度テストにおける正答率が約60%と対
照群の約45%に対して高くなっており(図19),
持っている知識に差は見られなくても,ジグソ
ー群では獲得した知識を暗記再生させるだけで
図19 思考問題への正答率
なく,有機的につなげ活用することで正解を導
き出すことができたと考えれらる。
また,先述の思考問題の記述から「解答の根
拠を科学的用語を用いて文章で書き示す力」の
達成状況を分析する方法として,3段階の基準
で評価した。A: アミノ酸配列や塩基配列につい
て述べており,専門用語を使い,形質の変化につ
いて正しく説明できている。B:アミノ酸配列の
ずれについて触れており,形質など生物の変化に
ついて述べている。C:形質の変化について述べ
図20 思考問題への評価
ている。その結果,ジグソー群では,文章で正し
く答えられたA~C評価の生徒が約33%で,そのうちB段階以上の評価が約25%である。対照群ではA~
C評価を得た生徒の割合の合計が約20%である(図20)。
これらの結果から,両群ともに知識問題に関しては,大きな差は見られないが,知識問題を解いたうえ
で,得られた知識を活用し,思考・表現するような問題に対しては,ジグソー群のほうが対照群に対し正
答率が高く,また,科学的用語を用いて,論理的に文章で書くことができている生徒が増えたといえる。
このことから,ジグソー学習を取り入れることで「科学的思考力・表現力」が育成できる可能性が示唆さ
れた。今後,ジグソー学習の回数を多く取り入れることでさらなる育成が図れるだろう。
Ⅴ
成果と課題
1
成果
(1) ジグソー学習により,知識の習得が図られ,習得した知識を相互に関係づけられたことが示唆さ
れた。
(2) ジグソー学習は,得られた知識を活用する場面で有効であり,「科学的思考力・表現力」の育成
につながった。
(3) ジグソー学習により,個々の責任感や使命感が芽生え,学習や課題に対し真剣かつ積極的に取り
組み,思考するようになった。
(4) 教具を用いた授業に対して,生徒が興味を持ち,目に見えない現象に対して,イメージを持って
学習に取り組むことができた。
2 課題
(1) 「科学的思考力・表現力」を高めるためのワークシートづくりや指導方法,生徒の発表方法など
ジグソー学習と関連付けた授業展開の工夫が必要である。
(2) ジグソー学習を取り入れながら,教師側からの説明やまとめなど時間配分を含めた指導計画の改
善が必要である。
〈主な参考文献〉
文部科学省 2009 『高等学校学習指導要領解説
佐藤学 2006 『学校の挑戦』 小学館
理科編理数編』
- 50 -
実教出版
Fly UP