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「高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発」 事業原簿

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「高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発」 事業原簿
第1回「高効率クリーンエネルギー自
動車の研究開発」(事後評価)分科会
資料 5-1
「高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発」
事業原簿
担当部
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
省エネルギー技術開発部
―目次―
概 要
プログラム・プロジェクト基本計画
プロジェクト用語集
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1.
NEDOの関与の必要性・制度への適合性 ......................................................................................................................1
1.1 NEDOが関与することの意義 .....................................................................................................................................1
1.2 実施の効果(費用対効果) ............................................................................................................................................1
2.
事業の背景・目的・位置づけ..................................................................................................................................................2
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1.
事業の目標 ...................................................................................................................................................................................3
2.
事業の計画内容 .........................................................................................................................................................................3
2.1 研究開発の内容................................................................................................................................................................3
2.2 研究開発の実施体制 ...............................................................................................................3
2.3 研究の運営管理 ......................................................................................................................8
3. 情勢変化への対応..........................................................................................................................10
4.
中間評価結果 ........................................................................................................................................................................... 10
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果 ...................................................................................................................................................................... 11
2.
研究開発項目毎の成果........................................................................................................................................................ 13
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて ...................................................................................................................................190
概
要
作成日
制度・施策(プログラ
ム)名
次世代低公害車技術開発プログラム
事業(プロジェクト)名
高効率クリーンエネルギー自動車の
開発
担当推進部/担当者
省エネルギー技術開発部/松村
0.事業の概要
Ⅰ.事業の位置付け・必
要性について
P97001
プロジェクト番号
敏美
運輸部門における中長期的なエネルギー基盤技術の確立に資するとともに、エネルギー起
源温室効果ガス排出の抑制に資するべく、燃費を大幅に向上するハイブリッド機構、ク
リーンエネルギー及び排出ガスの後処理技術を組み合わせた新しい自動車を開発する。
近年、地球規模での問題となっている二酸化炭素の排出抑制に取り組んでいく上で、運
輸部門、とりわけ自動車部門におけるエネルギー消費量の低減は、極めて重要な課題であ
る。また、一次エネルギーの大宗を石油資源に依存する我が国としては、石油代替エネル
ギー対策として、クリーンエネルギー(天然ガス、合成燃料等)を自動車燃料として導入
していくことが重要である。さらに、大気環境の保全の観点からも自動車からの排出ガス
(窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)等)を低減することが重要である。これら
の課題を達成していくために、次世代低公害車技術開発プログラムの一環として、燃費向
上及び排出ガス低減を可能とする革新的な自動車技術を開発する。具体的には、燃費を大
幅に向上するハイブリッド機構、クリーンエネルギー及び排出ガスの後処理技術を組み合
わせた新しい自動車を開発する。
このため、これらの要求性能を満足すべく、国内外の技術交流・情報交換を図りつつ、
要素技術、システム設計研究等を実施し、クリーンエネルギーを燃料とする高効率の自動
車を開発する。
本技術の確立により、運輸部門における中長期的なエネルギー基盤技術の確立に資する
とともに、エネルギー起源温室効果ガス排出の抑制に資する。
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
・燃費(km/L)の向上
二酸化炭素排出量と概ね相関関係を有する燃費について、各車種別に基準車の 2 倍以上
の向上を図る。なお、重量車については目標値を表 1 の通りとする。
表1.試作車両の目標燃費(単位:km/L)
開発車両
燃費目標*
14.80
CNGセラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラック
12.00
CNGエンジン搭載ハイブリッドトラック
4.334
LNGエンジン搭載ハイブリッドバス
3.78
DMEエンジン搭載ハイブリッドバス
事業の目標
*燃費目標は軽油換算値
・排出ガスの低減
天然ガス、合成燃料等のクリーンエネルギーを燃料として利用する。なお重量車に
ついては新短期規制(H15∼)の超低排出ガスレベル(表 2)以下を目指す。
表 2.重量車新短期規制の超低排出ガスレベル(単位:g/kWh)
目標値
NOx
PM
CO
HC
0.85
0.05
16
0.22
NMHC*
0.18
*NMHC: Non Methane Hydrocarbon
主な実施事項
H9fy
10fy
11fy
12fy
13fy
14fy
15fy
H9fy
10fy
11fy
12fy
13fy
14fy
15fy
要素技術開発及び評価
事業の計画内容
車両試作及び評価
総合性能評価
技術動向調査
成果とりまとめ
会計・勘定
開発予算
(会計・勘定別に事
業費の実績額を記
載)
(単位:百万円)
一般会計
特別会計
開発体制
経産省担当原課
総額
210
500
625
564
579
965
797
4240
210
500
625
564
579
965
797
4240
(電多・高度化・石油の別)
総予算額
製造産業局
自動車課
プロジェクトリーダー
なし
(財)日本自動車研究所[再委託:(株)本田技術研究所、マツ
ダ(株)、(株)三菱総合研究所]、日野自動車(株)、(株)
いすゞ中央研究所、三菱ふそうトラック・バス(株)、日産
ディーゼル工業(株)、いすゞ自動車(株)、(株)三菱総合研
究所
NEDO が、年に 3 回程度の ACE 技術委員会を開催し、研究開発がプログラム及びプロ
ジェクトの目的・目標並びに国内外の技術開発動向に対して適切であるかを審議し、必要
に応じて基本計画の見直しを行った。
平成 14 年度からは ACE プロジェクト開発車両の排ガス目標を確実とするために、ACE
プロジェクト内で排ガス後処理触媒を開発することを追加した。
研究開発成果を実用化と研究開発レベルに分けて以下に示す。
1.実用化
(1) 14 年度に日産ディーゼル工業(株)がキャパシタハイブリッドトラックを発売。
(2) これに加えて 15 年度は三菱ふそうトラック・バス(株)も大型バスを 2004 年 2
月から販売を開始した。
2.研究開発
(1) クリーン燃料(天然ガスおよび DME )エンジン及び各ハイブリッド要素の適
合・開発を完了した。
(2) 開発エンジンを搭載した各社の開発ハイブリッドトラックおよびバスで都内走行
モードを代表する運転モードでテストを行い、燃費は約 2 倍、排出ガスは新短期規
制値の 4 分の1 レベルの最終目標値達成を確認した。
(3) 排ガス後処理技術については、尿素 SCR システムを試作して排出ガス低減性能等
を確認し、実用性の確認と実用化への課題抽出を行った。
(3) 開発を進めた商用車ハイブリッドについて市場導入方策のシナリオを纏めた。更
に、2010 年を想定した、自動車技術の動向と、それに対応する、燃料選定のシナ
リオを作成した。
委託先(*委託先が管
理法人の場合は参加企
業数も記載)、平成
15 年度
情勢変化への対応
Ⅲ.研究開発成果につい
て
Ⅳ.実用化、事業化の見
通しについて
Ⅴ.評価に関する事項
Ⅵ.基本計画に関する事
項
投稿論文
「査読付き」3 件、
「その他」88 件
特
「出願済」54 件、
「登録」43 件、
「実施」0 件(うち国際出願 0 件)
許
本事業の成果を適用して、以下の実用化を行った。
(1) 日産ディーゼル工業(株)がトラック、三菱ふそうトラック・バス(株)がバスの
ハイブリッド車を発売開始。
これ以外に以下の成果導入をそれぞれに検討中である。
・日産ディーゼル工業(株)はキャパシタ式大型トラック、バスを 2006 年以降に展
開することを検討中
・三菱ふそうトラック・バス(株)はパラレル式小型トラックを 2004 年に実用供試
することを検討中
・日野自動車(株)はワンウエイクラッチ・モータコントローラを 2006 年頃に市場
導入することを検討中
・いすゞ自動車(株)はハイブリッド制御技術を 2005 年に市場導入することを検討
中
(2) 天然ガストラックの導入
H15 年度で天然ガストラック、バスは約 3000 台導入されており、本プロジェクト
で開発されたエンジン技術が効果的に活用されている。
事前評価
○○年度実施
中間評価以降
11年度
担当部
中間評価実施
作成時期
9年5月
作成
変更履歴
14年3月
変更
○○部
16年度
事後評価実施予定
次世代低公害車技術開発プログラム
「高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発」基本計画
1.研究開発の目的・目標・内容
(1)研究開発の目的
近年、地球規模での問題となっている二酸化炭素の排出抑制に取り組んでいく上で、運輸部門、とりわけ自動車
部門におけるエネルギー消費量の低減は、極めて重要な課題である。また、一次エネルギーの大宗を石油資源に依
存する我が国としては、石油代替エネルギー対策として、クリーンエネルギー(天然ガス、合成燃料等)を自動車
燃料として導入していくことが重要である。さらに、大気環境の保全の観点からも自動車からの排出ガス(窒素酸
化物(NOx)、粒子状物質(PM)等)を低減することが重要である。これらの課題を達成していくために、次
世代低公害車技術開発プログラムの一環として、燃費向上及び排出ガス低減を可能とする革新的な自動車技術を開
発する。具体的には、燃費を大幅に向上するハイブリッド機構、クリーンエネルギー及び排出ガスの後処理技術を
組み合わせた新しい自動車を開発する。
このため、これらの要求性能を満足すべく、国内外の技術交流・情報交換を図りつつ、要素技術、システム設計
研究等を実施し、クリーンエネルギーを燃料とする高効率の自動車を開発する。
本技術の確立により、運輸部門における中長期的なエネルギー基盤技術の確立に資するとともに、エネルギー起
源温室効果ガス排出の抑制に資する。
(2)研究開発の目標
・燃費(km/l)の向上
二酸化炭素排出量と概ね相関関係を有する燃費について、各車種別に基準車の2倍以上の向上を図る。
表1.試作車両の目標燃費(単位:km/L)
開発車両
燃費目標*
14.80
CNGセラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラック
12.00
CNGエンジン搭載ハイブリッドトラック
4.334
LNGエンジン搭載ハイブリッドバス
3.78
DMEエンジン搭載ハイブリッドバス
*燃費目標は軽油換算値
・排出ガスの低減
天然ガス、合成燃料等のクリーンエネルギーを燃料として利用し、重量車新短期規制(H15∼)の超低排出ガス
レベル以下を目指す。
表 2.重量車新短期規制の超低排出ガスレベル(単位:g/kWh)
目標値
NOx
PM
CO
HC
0.85
0.05
16
0.22
NMHC*
0.18
*NMHC: Non Methane Hydrocarbon
(3)研究開発内容
上記目標を達成するために、以下の研究開発項目について、別紙の研究開発計画に基づき研究開発を実施する。
① 要素技術の開発および評価
② 車両試作および評価
③ 総合性能評価
④ 技術動向調査
2.研究開発の実施方式
(1)研究開発の実施体制
本研究開発は、NEDO が、企業、民間研究機関、独立行政法人、大学等(委託先から再委託された研究開発実施
者を含む)から公募によって委託先を選定後、委託契約を締結し、実施する。
研究開発に参加する各研究グループの有する研究開発ポテンシャルの最大限の活用により効率的な研究開発の推
進を図る観点から、委託先決定後に研究開発責任者を置き、その下に研究者を可能な限り結集して効果的な研究開
発を実施する。
(2)研究開発の運営管理
研究開発全体の管理・執行に責任を有する NEDO は、経済産業省と密接な関係を維持しつつ、プログラムの目
的及び目標、並びに本研究開発の目的及び目標に照らして適切な運営管理を実施する。具体的には、必要に応じて
外部有識者の意見を運営管理に反映させる他、四半期に一回程度研究開発責任者等を通じてプロジェクトの進捗に
ついて報告を受けること等を行う。
3.研究開発の実施期間
本研究開発の期間は平成 9 年度から平成 15 年度までの 7 年間とする。
4.評価の実施
NEDO は、国の定める技術評価に係る指針及び技術評価要領に基づき、技術的及び産業技術政策的観点から、研
究開発の意義、目標達成度、成果の技術的意義ならびに将来の産業への波及効果等について、NEDO に設置する
技術評価委員会において外部有識者による研究開発の中間評価を平成 11 年度に実施し、事後評価を平成 16 年度に
実施する。なお、評価の時期については、上記に定めるほか、研究開発に係る技術動向、政策動向等に応じ、
NEDO が必要と認めるときには、適時技術評価を実施するものとする。
5.その他の重要事項
(1)研究開発成果の取り扱い
① 成果の普及
得られた研究開発の成果については、NEDO、実施者とも普及に努めるものとする。
② 知的所有権の帰属
委託研究開発の成果に関わる知的所有権については、「新エネルギー・産業技術総合開発機構新エネルギー業務
方法書」第 43 条の規定等に基づき、原則として、すべて受託先に帰属させることとする。
(2)基本計画の変更
NEDO は研究開発内容の妥当性を確保するため、社会・経済的状況、内外の研究開発動向、エネルギー政策動向、
プログラム基本計画の変更、第三者の視点からの評価結果、研究開発費の確保状況等を総合的に勘案し、達成目標
や研究開発体制等、基本計画の見直しを弾力的に行うものとする。
(3)根拠法
本プロジェクトは、エネルギー使用合理化に関する法律(昭和 54 年法律第 49 号)第221 条の 2 第 1 号の規程
に基づき実施する。
6.基本計画の改訂履歴
(1) 平成 9 年 5 月、NEDO で制定。
(2) 平成 14 年 3 月、省庁再編に伴う経済産業省と NEDO の役割分担の見直し、プログラム/プロジェクト制度の
導入を受けて、研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する等の改訂。
研究開発項目①「要素技術の開発及び評価」
1.研究開発の必要性
地球温暖化防止に係る自動車燃費の向上及び都市環境改善に係る排出ガスの低公害化は、運輸部門の喫緊の課題
といわれている。高効率クリーンエネルギー自動車は、ハイブリッド機構による高効率化とクリーンエネルギー利
用及び排ガス後処理設備による低公害化を同時に達成する革新的な自動車技術である。
昨今、クリーンエネルギー自動車導入の動きは加速されているが、本研究開発では様々な要素技術の開発を行い、
車両としてだけでなく、要素技術単独での市場導入も大いに期待されるところであり、クリーンエネルギー自動車
普及への一層の促進にもなりうる。
2.研究開発の具体的内容
・ 高効率クリーンエネルギー自動車の開発に必要な要素技術(エンジン、キャパシター、電動機、発電機、インバー
ター、エネルギー回生装置等)の開発および評価を行う。
・ より一層の低公害化を図るため、排出ガス後処理装置の開発および評価を行う。
3.達成目標
要素個別ごとに、車載するために必要な性能(効率、重量等)を満足させることを目標とする。
研究開発項目②「車両試作及び評価」
1.研究開発の必要性
地球温暖化防止に係る自動車燃費の向上及び都市環境改善に係る排出ガスの低公害化は、運輸部門の喫緊の課題
といわれている。高効率クリーンエネルギー自動車は、ハイブリッド機構による高効率化とクリーンエネルギー利
用及び排ガス後処理設備による低公害化を同時に達成する革新的な自動車技術である。
平成 11 年度に実施した中間評価において、乗用車の車両試作に関しては一部量産体制に入ったため本研究開発
においては行わないこととしたが、大型車においては環境問題の解決が急務であること等から、車両試作を目標と
して継続することを決定した。
2.研究開発の具体的内容
・車両を試作し、システムの最適化(各要素の小型軽量化等)、評価を行う。
3.達成目標
以下の目標を達成する車両を試作する。
・燃費(km/L)の向上
二酸化炭素排出量と概ね相関関係を有する燃費について、各車種別に基準車の2倍以上の向上を図る。
表1.試作車両の目標燃費(単位:km/L)
開発車両
燃費目標*
14.80
CNGセラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラック
12.00
CNGエンジン搭載ハイブリッドトラック
4.334
LNGエンジン搭載ハイブリッドバス
3.78
DMEエンジン搭載ハイブリッドバス
*燃費目標は軽油換算値
・排出ガスの低減
天然ガス、合成燃料等のクリーンエネルギーを燃料として利用し、重量車新短期規制(H15∼)の超低排出ガス
レベル以下を目指す。
表 2.重量車新短期規制の超低排出ガスレベル(単位:g/kWh)
目標値
NOx
PM
CO
HC
0.85
0.05
16
0.22
NMHC*
0.18
*NMHC: Non Methane Hydrocarbon
研究開発項目③「総合性能評価」
1.研究開発の必要性
開発成果の性能を正確に把握するため、統一的な評価基準を確立し、試作車両の性能を評価する必要がある。
2.研究開発の具体的内容
財団法人日本自動車研究所が、シャシダイナモまたはテストコースで、試作車両の総合性能評価を実施する。具体的には、走行燃費、
排出ガス、騒音、ブレーキ、ドライバビリティー等の評価を行う。目標値を設定している燃費と排出ガスについては、基準車両との比
較となるため、基準車両と開発車両の両方について、試験を行う。
3.達成目標
統一的な評価基準で各試作車両の性能評価を行うことを目標とする。
研究開発項目④「技術動向調査」
1.研究開発の必要性
運輸部門における燃費改善、クリーンエネルギーの導入、排出ガス低減は、国際的にも大きな課題となっている。
欧米における国家プロジェクト、アジアを含めた各国のクリーンエネルギー自動車技術動向に関するトレンドを知
ることは、研究開発の方向付け及び国際競争力強化の視点でも重要である。また、本開発車両が、将来のクリーン
エネルギー自動車の中心的存在として普及していくためには、その効果を把握し、国内における市場動向を常に調
査しておく必要がある。
一方、今後のエネルギー動向を考慮すると、合成燃料を始めとするクリーンエネルギーに関する調査は、重要な
キーテクノロジーと言える。
2.研究開発の具体的内容
・
・
国内外の研究機関を中心に、先進的な自動車関連技術について調査する。
開発車両の導入効果を整理し、プロジェクト成果の導入方策を検討する。
・ 合成燃料のコスト、供給能力、安全性、エンジン性能への影響調査等について調査した。(平成 9 年度∼平成 12
年度)
3.達成目標
以下の目標を達成する調査を行う。
・プロジェクトに有益な技術情報を収集する。
・開発成果の導入方策を作成する。
合成燃料の調査については各調査結果から、自動車での使用に対しての有効性、課題についてまとめ、これらを
踏まえて燃料製法に関する提言を行った。
平成 16・02・03 産局第 14 号
平 成 1 6 年 2 月 3 日
次世代低公害車技術開発プログラム基本計画
1.目的
大気汚染問題や地球温暖化問題等の環境問題に対する関心が高まりつつあり、自動車
に起因する環境問題への対応が急務である中、乗用車や大型車の分野において、次世代
低公害車の実用化に向けて、燃料面も含め、包括的な技術開発を行い、大気汚染問題や
地球温暖化問題等において環境負荷の小さい自動車社会の構築を図る。
2.政策的位置付け
科学技術基本計画(2001年3月閣議決定)における国家的・社会的課題に対応し
た研究開発の重点化分野である環境分野、分野別推進戦略(2001年9月総合科学技
術会議)における重点分野である環境分野に位置づけられるものである。
また、産業技術戦略(2000年4月工業技術院)における社会的ニーズ(環境と調
和した経済社会システムの構築)への対応を図るものである。
また、低公害車の開発、普及に関する総合的、包括的取り組みをまとめた低公害車開
発普及アクションプラン(2001年7月
経済産業省、国土交通省及び環境省策定)
に対応するものである。
さらに、「産業発掘戦略−技術革新」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2
002」(2002年6月閣議決定)に基づき2002年12月取りまとめ)の環境分
野における戦略目標(技術のグリーン化)に対応するものである。
3.目標
大型車については、2010年において、超低燃費でゼロまたはゼロに近い排出ガス
レベルの次世代低公害車の普及を目指す。また乗用車については、燃料電池自動車を早
期実用化し、2010年度において5万台の普及を図ることを目標とする。これら低公
害車の開発等により、環境面における懸念を払拭するとともに、我が国自動車産業の国
際競争力強化を図る。
4.研究開発内容
【プロジェクト】
Ⅰ.大型車を中心とした次世代低公害車の開発
(1)革新的次世代低公害車総合技術開発(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、大気環境・地球温
暖化・エネルギー問題の同時解決に向けて、次世代の低公害車の技術開発を実施す
る。
特に、都市間の輸送に用いられる「都市間トラック・バス」を中心とした分野に
おける要素技術の開発を燃料技術・自動車技術の両面から実施していく。
②技術的目標及び達成時期
今後更に厳しくなる排出ガス規制により燃費悪化(=CO2 排出量増大)が懸念さ
れる中、2008年度までに次世代エンジン等の技術開発により1∼2割の CO2 排
出量削減を目指す。また、ディーゼル車の燃費性能の高さに注目し、現状のガソリ
ン車の排出ガスレベルのディーゼル車の開発を目指すとともに、「都市間トラック・
バス」を中心とした分野にGTL等の代替燃料を導入・普及させるための開発を2
008年度までに行う。
③研究開発期間
2004年度∼2008年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2007年度、事後評価を2009年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発/高効率・超低公害天然ガス自動車
実用化開発(運営費交付金)
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、燃費の大幅な向上、
天然ガス・合成燃料等のクリーンエネルギー燃料の利用拡大、極めて低い水準の排出
ガスレベルの達成を目指し、技術動向調査、要素技術開発、車両試作を行い、高効
率・低公害な自動車の早期実用化に資する技術の高度化を図る。
(2)−1
①概要
次世代ハイブリットシステムの開発
車の走行状態に応じエンジンとモーターを使い分ける技術について、減速時のエ
ネルギー回生システムやウルトラキャパシタ等の蓄電システムの技術開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2003年度までに、既存車と比較し燃費を2倍以上向上、極めて低い水準の排
出ガスレベル(最新規制値から更に75%低減レベル)を達成した試作車を完成さ
せる。
③研究開発期間
1997年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を1999年度、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)―2
DME(ジメチルエーテル)自動車の開発
①概要
低公害で天然ガス等から作られる合成燃料であるDMEを燃料とした自動車につ
いて、エンジン等の技術開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2003年度までに、DMEを燃料とした極めて低い水準の排出ガスレベル(最
新規制値から更に75%低減レベル)を達成する試作車を完成させる。
③研究開発期間
1997年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を1999年度、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)−3
高効率天然ガス自動車の開発
①概要
低燃費かつ超低排ガスの高効率天然ガス自動車の開発に向け、直接筒内噴射方式
や、セラミックス材料の使用といった、エンジンの高効率化技術開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2003年度までに、既存車と比較し燃費を大幅に向上、極めて低い水準の排出
ガスレベル(最新規制値から更に75%低減レベル)を達成した試作車を完成させ
る。
③研究開発期間
1997年度∼2003年度、一部テーマについては2001年度∼2003
年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を1999年度、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)−4
次世代大型車革新的環境技術開発
①概要
次世代大型車の排出ガス中の有害物質を大幅に低減する革新的排ガス技術(触媒
技術等)の開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2003年度までに、次世代大型自動車について極めて低い水準の排出ガスレベ
ル(最新規制値から更に75%低減レベル)を達成するための要素技術を確立する。
③研究開発期間
1997年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を1999年度、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(3)高効率LPガスエンジンの開発
①概要
石油の生産及び流通の合理化を図る観点から行うものであり、LPガス液直接筒
内噴射方式による既存ディーゼルエンジンと同等の熱効率を持つ、低排ガスな高効
率LPガスエンジンの開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2002年度までに、熱効率30∼32%(13モード平均効熱効率)、排ガス
に関してはG13モードで NOx:1.4g/kWh、THC:0.2g/kWh、CO:0.01g/kWh を達成
する。
③研究開発期間
1999年度∼2002年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2003年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
Ⅱ.次世代低公害車に関連する燃料等の技術開発
(1)環境負荷低減型燃料転換技術開発
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、天然ガス、石炭、
重質油を基にした合成ガス等からDMEを直接合成することにより、安価で高効率
なDME製造技術を確立する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに大型DME製造プラントの実用化を図る。
③研究開発期間
2002年度∼2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)重質残油クリーン燃料転換プロセス技術開発(運営費交付金)
①概要
石油の生産及び流通の合理化を図る観点から行うものであり、アスファルト等
を効率的に、硫黄分を含まない等高品質で付加価値の高い液体燃料に転換する技
術の研究開発を行う。
②技術目標及び達成時期
転換後の液体燃料中の硫黄分 1ppm 以下、芳香族分0%、セタン価70(現行の
軽油規格の 1.5 倍)を達成する、既存の精製プロセスとは違う新たなプロセスを確
立する。
③研究開発期間
2001年度∼2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(3)軽油硫黄分低減化技術等の開発(運営費交付金)
①概要
石油の生産及び流通の合理化を図る観点から行うものであり、自動車排出ガス
に含まれる窒素酸化物等の大気汚染物質の低減に必要とされる自動車燃料の品質
改善を図るため、石油製品に含まれる環境汚染物質低減化技術等の開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2003年度までに既存の精製設備を大幅に変更することなく軽油中の硫黄分
を大幅に低減する(15ppm 以下)基盤技術を確立する。
③研究開発期間
1999年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2001年度、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
Ⅲ.燃料電池自動車の開発
(1)固体高分子形燃料電池システム技術開発事業(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、エネルギーの安定供
給と環境制約を同時に克服することを可能とした固体高分子形燃料電池の早期実用
化・普及に資するため、要素技術(固体高分子電解質膜、セパレーター等の技術)
及びシステム化技術を開発する。
②技術的目標及び達成時期
2004年度までに、固体高分子形燃料電池の高性能化、高耐久化、低コスト化
等の要素技術及びシステム化技術の開発を行い、初期導入に遜色のないレベルの基
本的技術を確立する。
③研究開発期間
2000年度∼2004年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を固体高分子形燃料電池要素技術開発等事業については2003年度、
固体高分子形燃料電池システム化技術開発事業については2002年度、事後評
価を2005年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。
(2)水素エネルギー利用技術開発事業
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から、水素エネルギー社会の構築に向
け、水素エネルギー利用のトータルシステムの調査・研究を行うとともに、水素
貯蔵タンク、水素供給ステーションなど水素の製造、輸送・貯蔵、利用等に係る
技術開発を実施する。
②技術的目標及び達成時期
2003年度までに、水素エネルギー利用システムのエネルギー総合効率、環
境性及び経済性評価を行い水素の導入戦略の検討を行うとともに、安全評価手法
の検討等を行う。また、そのシステムを構成する水素製造技術(固体高分子電解
質水電解法)、輸送・貯蔵技術(断熱構造、低温溶接技術、液体水素ポンプ、水
素貯蔵材料、水素タンク等)及び利用技術(水素供給ステーション等)の開発を
行う。
③研究開発期間
1999年度∼2002年度
※燃料電池の初期導入時の環境整備を加速化するため、本事業は2002年度
で終了するが、その成果を水素安全利用等基盤技術開発事業で活用する。
④事後評価の実施時期
事後評価を2003年度に実施。
⑤実施形態等
民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。
(3)水素安全利用等基盤技術開発事業(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、2005年の
燃料電池の本格的な導入を前に、円滑な普及・導入に資するために、水素安全技
術開発、水素インフラ技術開発、水素周辺技術開発及び水素技術開発支援を行う。
②技術的目標及び達成時期
2004年度末までに、規制の再点検に資する信頼性等の評価試験方法の確立
及びデータ取得、水素の安全性に関する技術開発を行い、民間事業者が主体と
なって実施する例示基準案等の作成につなげる。また、燃料電池の普及に向け、
2007年度までに、更なる安全・低コストな水素製造・利用に係る技術開発を
行う。
③研究開発期間
2003年度∼2007年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2005年度に、事後評価を2008年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。
Ⅳ.自動車軽量化のための技術開発
(1)自動車軽量化のためのアルミニウム合金高度加工・形成技術(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、自動車の軽量化によ
る燃費向上を図るため、自動車材料に要求される高信頼性、高強度、軽量性等の性
能をもつ高度に安全性等に配慮したアルミニウム材料を開発する。具体的には、超
微細結晶化による高強度・高成形性アルミニウム板材の成形・加工技術の開発、鉄
鋼系材料等とアルミニウム材料との接合技術、高強度で衝突吸収性の良い構造(セ
ル構造)をもつアルミニウム材料の創製・形成・加工技術を開発する。
②技術的目標及び達成時期
2006年度までに、乗用車におけるアルミニウム使用量を増加させるための技
術課題、具体的には自動車用ベークハード型高張力鋼板と同等の性能を持つアルミ
ニウム板材開発技術、アルミニウム材と異種素材との接合技術、ポーラス構造にお
いて衝撃エネルギー吸収性能に優れた超軽量構造部材の設計、製造技術を確立する。
③研究開発期間
2002年度∼2006年度
④中間・事後評価の時期
中間評価を2004年度、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態等
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)環境調和型超微細粒鋼創製基盤技術の開発(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、自動車の軽量化によ
る燃費向上を図るため、従来鋼より優れた強度を有することから鋼材の薄肉化が可能
となる、結晶粒径が1μm程度の超微細粒鋼の自動車材料等への適用を目指し、成
形・加工・利用技術等の基盤技術の開発を行う。
②技術的目標及び達成時期
2006年までに、超微細粒鋼の実用化のための利用技術、成形・加工技術等の
基盤要素技術の確立を図る。具体的には、成形・加工技術として、超微細化を可能
とする高度大歪み加工技術や、革新的なロール・潤滑技術の開発、及び超微細粒の
特質を失わせないより低温での接合を可能とする接合技術を開発する。
③研究開発期間
2002年度∼2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。
(3)自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、自動車の軽量化によ
る燃費向上を図るため、自動車材料に要求される高信頼性、高強度、軽量等の性能を
もつ高度に安全性等に配慮した炭素繊維強化複合材料を開発する。
②技術的目標及び達成時期
2007年度までに、自動車に実装可能な炭素繊維材料の創製・成形・加工技術等
を確立する。
③研究開発期間
2003年度∼2007年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2005年度に、事後評価を2008年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。
(4)カーボンナノファイバー複合材料プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、自動車の軽量化によ
る燃費向上を図るため、熱伝導性、剛性、摺動特性、耐摩耗性、加工性等に優れた自
動車軽量部品の実現に向けた、マグネシウム合金、アルミニウム合金と、カーボンナ
ノファイバーとの複合化技術とその成形加工技術を開発する。
②技術的目標及び達成時期
2005年度までに、自動車用ブレーキ、エンジン部品等に適用可能な、アルミニ
ウム合金、マグネシウム合金とカーボンナノファイバーの複合材料の実用化技術、成
形加工技術を確立する。
③研究開発期間
2003年度∼2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。
5.研究開発の実施に当たっての留意事項
事業の全部又は一部について独立行政法人の運営費交付金により実施されるもの
(事業名に(運営費交付金)と記載したもの)は、運営費交付金の総額を算定する際
に使用するものであることから、当該部分は、国の裁量によって実施されるものでは
なく、中期目標、中期計画等に基づき当該独立行政法人の裁量によって実施されるも
のである。
[フォーカス21の成果の実用化の推進]
フォーカス21は、研究開発成果を迅速に事業に結び付け、産業競争力強化に直結させる
ため、次の要件の下で実施。
・技術的革新性により競争力を強化できること。
・研究開発成果を新たな製品・サービスに結びつける目途があること。
・比較的短期間で新たな市場が想定され、大きな成長と経済波及効果が期待できること。
・産業界も資金等の負担を行うことにより、市場化に向けた産業界の具体的な取組が示
されていること。
具体的には、成果の実用化に向け、実施者による以下のような取組を求める。
・カーボンナノファイバー複合材料プロジェクト
事業費の1/2負担により、アルミニウム合金、マグネシウム合金と、カーボンナ
ノファイバーとの複合化技術とその成形加工技術の開発を行う。
なお、適切な時期に、実用化・市場化状況等について検証する。
6.プログラムの期間、評価等
プログラムの期間は2002年度∼2006年度までとし、プログラムの中間評価を
2004年度に、事後評価を2007年度におこなうとともに、研究開発以外のものに
ついては2010年度に検証する。また、中間評価を踏まえ、必要に応じ基本計画の内
容の見直しを行う。
7.研究開発成果の政策上の活用
各プロジェクトで得られた成果のうち、標準化すべきものについては、適切な標準化
活動(国際規格(ISO/IEC)、日本工業規格(JIS)、その他国際的に認知された標準の提
案等)を実施する。
8.政策目標の実現に向けた環境整備
低公害車購入時やインフラ整備への支援、税制措置等により、低公害車の普及を推進
する。
9.改訂履歴
(1)平成14年2月28日付け制定。
(2)平成15年3月10日付け制定。次世代低公害車技術開発プログラム基本計画
(平成14・02・25産局第14号)は、廃止。
(3)平成16年2月3日付け制定。次世代低公害車技術開発プログラム基本計画(平
成15・03・07産局第20号)は、廃止。
プロジェクト用語集
DME:Di-Methyl Ether(ジメチルエーテル)
CNG:Compressed Natural Gas(圧縮天然ガス)
LNG:Liquefied Natural Gas(液化天然ガス)
SCR:Selective Catalytic Reduction(NOx 選択還元触媒)
EGR:Exhuast Gas Recirculation(排気ガス再循環)
NOx:窒素酸化物
THC:Total Hydrocarbon(全炭化水素)
NMTHC:Non Methane Hydrocarbon(メタンを含まない炭化水素)
(参考:天然ガス自動車の場合は THC の 20%)
HEV:Hybrid Electric Vehicle(ハイブリッド車)
キャパシタ:Capacitor(蓄電器)
シリーズハイブリッド方式:Series Hybrid Type
(原動機で発電機を動かし、その動力でモータを回し動力を
補助又は主力に駆動する方式)
パラレルハイブリッド方式:Parallel Hybrid Type
(原動機とモータの動力を並列に配置した駆動方式)
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1.
NEDO の関与の必要性・制度への適合性
1.1NEDO が関与することの意義
<背景>
地球温暖化問題や大気汚染問題等の環境問題に対する関心が高まりつつあり、自動車に起因
する環境問題への対応が急務である中、これまで以上に低公害車の開発・普及の必要性が高
まっている。
特に大型トラック・バスについては、その技術的困難さから排ガス対策の技術開発が遅れてい
る。
<行政関与の必要性>
上記のような背景の中、環境負荷の高い従来のディーゼルエンジンにかわる高効率でクリー
ンなエンジン、大気汚染物質の低減に役立つ燃料などを開発することによって、国として、
ディーゼル車の環境面における懸念を払拭する見通しを示す必要がある。
また、我が国の自動車産業は、欧米各国と環境対策技術の激しい開発競争を繰り広げており、
その優劣がすなわち競争力につながっていく状況であることから、国が主導的かつ早期に環境
対策技術を開発し、公共財として提供することにより、各自動車メーカーにおいて、限られた
経営資源を適切に投入できる環境を整備する。
このために本事業を「次世代低公害車技術開発プログラム」の一環として実施する。
1.2 実施の効果(費用対効果)
市場規模の見通し
<考え方;概要>
・総合資源エネルギー調査会の見込み値をベースとして、近年の車両構成比率から対象車両(2t
トラック、路線バス)の数を想定(省エネ効果説明書と同様の考え方に基づく)
。
<考え方;詳細(以下、省エネ効果説明書より)>
➀総合資源エネルギー調査会によると、2010 年におけるクリーンエネルギー自動車導入予測台数は 348 万台、そ
のうちハイブリッド自動車は 211 万台(燃料電池車含む)の見込み。
➁2020 年度、2030 年度のハイブリッド自動車導入量は 2010 年度までと同じ増加率、及び買い替え年数
約 10 年を考慮し、それぞれ、約 600 万台、約 1000 万台と想定。
➂ハイブリッド自動車に対するトラック・バスの割合を近年の車両構成割合と同等とし、車数を算定した。た
だし、近年の乗用車増/トラック減傾向を考慮に入れる。
表 1;導入予測台数
車数(万台)
車種
2010年 2020年 2030年
ハイブリッド車
211
600
1000
乗用車
161
466.2
786
トラック
49.2
131.4
210
内2t以下
22.8
61
97.4
バス
0.8
2.4
4
0.5
1.5
2.4
内路線バス
※2010年、2020年、2030年の乗用車、トラック、バスの割合は、過去
5年間の車種別保有台数から推算 (過去の保有台数は自動車ガイド
ブックより引用)
※2t以下のトラック台数は、全トラックにおける2t以下のトラック
の割合を2000年の生産台数の比(=46.4%)として計算 (生産台数
は自動車ガイドブック引用)
※路線バスの台数は、全バスにおいける路線バスの割合を平成11年度
の日本バス協会登録台数比(=60.9%)として計算
省エネルギー効果
出典;省エネ効果説明書
<考え方>
・ベース車両と開発車両の燃費及び年間走行距離から、各車両1台当たりの燃料削減量を算出。
・前ページ導入予測台数(表1)と、上記1台あたりの燃料削減量より、各年度のエネルギー消費
抑制量を推算(詳細については参考資料を参照)
。
・なお、開発車両は均等に普及すると推定(普及台数の半数ずつが各車両の普及台数)してい
る。また、定額補助のプロジェクトのため、成功率は10%と設定している。
(プロジェクトの開発目標値を用いた場合)
年度
省エネ効果
単位
2010年度
2020年度
2030年度
総計
431,889
1,165,278
1,860,920
3,458,086
kl
kl
kl
kl
(開発車両の実燃費データを用いた場合)
年度
省エネ効果
単位
2010年度
2020年度
2030年度
総計
341,157
921,498
1,471,640
2,734,294
kl
kl
kl
kl
導入予測台数(台)
トラック(2t以下)
バス(路線バス)
228,000
5,000
610,000
15,000
974,000
24,000
-
導入予測台数(台)
トラック(2t以下)
バス(路線バス)
228,000
5,000
610,000
15,000
974,000
24,000
-
(成功率:100%の場合)
(プロジェクトの開発目標値を用いた場合)
年度
省エネ効果
単位
2010年度
2020年度
2030年度
総計
43,189
116,528
186,092
345,809
(開発車両の実燃費データを用いた場合)
年度
省エネ効果
単位
2010年度
2020年度
2030年度
総計
34,116
92,150
147,164
273,429
(成功率:10%の場合)
-1-
kl
kl
kl
kl
kl
kl
kl
kl
導入予測台数(台)
トラック(2t以下)
バス(路線バス)
228,000
5,000
610,000
15,000
974,000
24,000
導入予測台数(台)
トラック(2t以下)
バス(路線バス)
228,000
5,000
610,000
15,000
974,000
24,000
-
2.事業の背景・目的・位置づけ
近年、地球規模での問題となっている二酸化炭素の排出抑制に取り組んでいく上で、運輸部門、と
りわけ自動車部門におけるエネルギー消費量の低減は、極めて重要な課題である。また、一次エネル
ギーの大宗を石油資源に依存する我が国としては、石油代替エネルギー対策として、クリーンエネル
ギー(天然ガス、合成燃料等)を自動車燃料として導入していくことが重要である。さらに、大気環
境の保全の観点からも自動車からの排出ガス(窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)等)を低減
することが重要である。これらの課題を達成していくために、次世代低公害車技術開発プログラムの
一環として、燃費向上及び排出ガス低減を可能とする革新的な自動車技術を開発する。具体的には、
燃費を大幅に向上するハイブリッド機構、クリーンエネルギー及び排出ガスの後処理技術を組み合わ
せた新しい自動車を開発する。
このため、これらの要求性能を満足すべく、国内外の技術交流・情報交換を図りつつ、要素技術、
システム設計研究等を実施し、クリーンエネルギーを燃料とする高効率の自動車を開発する。
本技術の確立により、運輸部門における中長期的なエネルギー基盤技術の確立に資するとともに、エ
ネルギー起源温室効果ガス排出の抑制に資する。
-2-
Ⅱ.研究開発マネジメントついて
1.事業目標
本技術の確立により、運輸部門における中長期的なエネルギー基盤技術の確立に資するとともに、
エネルギー起源温室ガス排出の抑制に資する。
・燃費(km/L)の向上
二酸化炭素排出量と概ね相関関係を有する燃費について、各車種別に基準車の 2 倍以上の向上を図る。なお、重
量車については目標値を表 1 の通りとする。
表1.試作車両の目標燃費(単位:km/L)
開発車両
燃費目標*
14.80
CNGセラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラック
12.00
CNGエンジン搭載ハイブリッドトラック
4.334
LNGエンジン搭載ハイブリッドバス
3.78
DMEエンジン搭載ハイブリッドバス
*燃費目標は軽油換算値
・排出ガスの低減
天然ガス、合成燃料等のクリーンエネルギーを燃料として利用する。なお重量車に
ついては新短期規制(H15∼)の超低排出ガスレベル(表 2)以下を目指す。
表 2.重量車新短期規制の超低排出ガスレベル(単位:g/kWh)
目標値
NOx
PM
CO
HC
0.85
0.05
16
0.22
NMHC*
0.18
*NMHC: Non Methane Hydrocarbon
2.事業の計画内容
2.1研究開発の内容
上記目標を達成するために、以下の研究開発項目について、別紙の研究開発計画に基づき研究開発を実施する。
① 要素技術の開発および評価
② 車両試作および評価
③ 総合性能評価
④ 技術動向調査
2.2研究開発の実施体制(平成15年度)
(1)研究体制スキーム
委託
NEDO
再委託先
財団法人 日本自動車研究所
株式会社 本田技術研究所
高効率クリーンエネルギー自動車開発ワーキング委員
会
マツダ株式会社
排出ガス後処理システム開発ワーキング委員
会
株式会社 三菱総合研究所
株式会社 三菱総合研究所
検討委員会
日野自動車株式会社
株式会社 いすゞ中央研究所
三菱ふそうトラック・バス株式会社
日産ディーゼル工業株式会社
いすゞ自動車株式会社
株式会社 三菱総合研究所
-3-
(2)法人内体制スキーム
Ⅰ 財団法人日本自動車研究所
所 長
副所長
常勤理事
総務部
人事・教育グループ
(人事・教育を担当)
研究推進部
研究総括グループ
(研究事業の管理担当)
経理・財務グループ
(経理・財務を担当)
購買グループ
(購買業務の実施を担
当)
エネルギー
環境研究部
動力システムグループ
(NEDO事業担当)
研究主幹
化学分析グループ
(NEDO事業担当)
環境実験グループ
(NEDO事業担当)
健康影響グループ
(NEDO事業担当)
Ⅰ-1
株式会社
本田技術研究所
研究統括
上席研究員 利光 一成
F/W責任者
栃木研究所 H2開発ブロック
阿部 昇栄
ANG責任者
業務管理者
栃木研究所 M3研究ブロック
小笠 博司
和光基礎技術研究センター
第92研究室 栃木
板井 幸彦
P M (※)
栃木研究所 開発管理推進ブロック
中島 敏晴
※ PM
…プロジェクト・マネージャー
-4-
担当研究員
栃木研究所 H2開発ブロック
須永 義弘/村山 芳也
井上 順二
担当研究員
栃木研究所 M3研究ブロック
向坊 長嗣/森田 善幸
栃木研究所 試作課
佐山 満
経理担当者
栃木研究所 会計課
岩上 宏
Ⅰ-2 マツダ株式会社
マツダ株式会社
技術研究所
企画推進
研究企画、業務・経理管理を担当
車両研究
エンジン始動技術を担当
パワトレイン研究
電動過給技術を担当
Ⅰ-3 株式会社 三菱総合研究所
①管理体制
常務会
産業戦略研究部
産業・市場戦略
研究本部
エネルギー
研究本部
エネルギー技術研究部
総務部
プロジェクト管理グループ
総務部プロジェクト管理グループはプロジェクトの円滑な進行のため支援を行う。
②実施体制
産業戦略研究部
産業戦略研究チーム
エネルギー技術研究部
-5-
エネルギーソリューション研究チーム
Ⅱ
日野自動車株式会社
技術研究所
DME 及び排出ガス処理装置関連
の研究・開発を担当
商品企画部
研究担当役員
HV・FC 開発部
ハイブリッド関連の研究・開発
担当
車両RE部
DME ハイブリッド,排ガス処理
装置関連の研究・開発を担当
経理部
経理の管理を担当
調達部
外部への部品等発注を担当
Ⅲ
株式会社 いすゞ中央研究所
総務/人事/経理担当
総務部
統括
エンジン研究一部
国プロ管理担当
プロジェクトの経理と管理
を担当
エンジン研究二部
取締役社長
車両研究部
統括
所管役員
基盤技術研究部
エンジン技術担当チ−ム
遮熱エンジンの開発を担当
発電電動機システム技術担当チ
−ム
発電電動機開発、車両開
発、システム制御開発を担当
-6-
Ⅳ
三菱ふそうトラック・バス株式会社
社
長
技術管理部
研究開発プロジェクト総括管理を担当
開発本部
管理部
研究開発プロジェクト予算・研究管理を担当
車両研究部
実証試験車設計・製作取りまとめおよびシャシー要素部品設
計・製作・評価を実施
駆動系設計部
駆動系要素部品設計・製作・評価を実施
電子技術部
電気・電子系部品設計・製作・評価を実施
エンジン研究部
エンジン研究・評価・改良(尿素SCR含む)
を実施
エンジン設計部
尿素SCRの改良設計を実施
Ⅴ 日産ディーゼル工業株式会社
社長
担当役員
Ⅵ
研究グループ
エンジン・車両の開発を担当
担当役員
開発管理部
管理グループ
研究予算・計画および経理
の管理を担当
いすゞ自動車株式会社
社長
開発部門統括
開発技術企画部
パワートレイン
製品企画・設計部
エンジン
装置設計第二部
メカニックセンター
-7-
Ⅶ
三菱総合研究所
(契約・調査・経理担当)
取締役社長
谷野 剛
科学技術研究ユニット
ユニット長 角田 弘和
科学技術政策研究部
2.3研究の運営管理
委員会、ワーキング委員会をそれぞれ年2∼3回程度開催し、学識経験者や外部有識者の意見
を研究開発に採り入れることにより、事業の推進を図った。
1.NEDO 技術開発機構
ACE技術委員会委員
職位
氏名
所属及び役職
1 委員長 大聖 泰弘
2 委員
石谷 久
3 委員
石井 彰三
4 委員
宮本 登
5 委員
清水 健一
6 委員
小椋 正己
7 委員
松村 幾敏
早稲田大学 理工学部 機械工学科
教授
慶応義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 教授
東京工業大学 大学院 理工学研究科
電気電子工学専攻 教授
北海道大学 工学部 機械工学科 教授
(独)産業技術総合研究所 エネルギー利用研究部門 主任研究員
(社)日本自動車工業会 電動車両技術部会
新日本石油株式会社
取締役
2.財団法人 日本自動車研究所
① 高効率クリーンエネルギー自動車開発ワーキング委員会における登録委員
氏 名
所属・役職
清水 健一
独立行政法人 産業技術総合研究所
エネルギー利用研究部門 クリーン動力研究グループ 主任研究員
梶谷 修一
茨城大学 工学部 教授
野崎 健
独立行政法人 産業技術総合研究所
電力エネルギー研究部門 燃料電池グループ 主任研究員
-8-
② 排出ガス後処理システム開発ワーキング委員会における登録委員
氏 名
大聖 泰弘
所 属・役 職
早稲田大学 理工学部 理工学部 田村 昌三
東京大学 大学院 新領域創世科学研究科 環境学専攻 教授
宮本 登
北海道大学 工学研究科 機械科専攻 教授
御園生 誠
工学院大学 工学部環境化学工学科 教授
林 章二
いすゞ自動車株式会社 開発管理室 法規・認証部 部長
三浦 昭憲
日産ディーゼル工業株式会社 開発本部 研究部 部長
伊達 真也
三菱ふそうトラック・バス株式会社 トラック・バス開発本部 エンジン研究部 次長
末永 紘一
日野自動車株式会社 開発企画部 環境・安全担当 チーフエンジニア
阪田 清治
いすゞ自動車株式会社 開発管理室 環境担当 部長
西川 輝彦
石油連盟 技術環境部 部長
中沢 貢一
昭和シェル石油株式会社 研究開発部 商品開発課 課長
森 友男
三井化学株式会社 化学品事業部 部長補佐
永石 俊祐
鈴与トラックステーション株式会社 関東支店 取締役支店長
3.株式会社 三菱総合研究所
本調査にあたっては、以下の方々からなる委員会を組織し、情報収集へのご協力および
調査研究に対するご意見、ご助言を賜りながら調査を進めていくこととした。
氏
名
石谷
久
大聖 泰弘
浦田
隆
小川 芳樹
尾崎 裕
塩路 昌宏
高木 靖雄
中西
清
林
直義
藤元
薫
松村 幾敏
御園生 誠
森
牧彦
所属・役職
慶應義塾大学大学院・教授
早稲田大学・教授
いすゞ自動車株式会社パワートレイン開発室・室長、執行役員
財団法人日本エネルギー経済研究所・第二研究部長
社団法人日本ガス協会・常務理事
京都大学大学院・教授
武蔵工業大学・教授
トヨタ自動車株式会社・取締役
財団法人日本自動車研究所・理事
北九州市立大学・教授
新日本石油株式会社・取締役開発部長
工学院大学・教授
岩谷産業株式会社・上級理事
-9-
3.情勢変化への対応
NEDOが、年に3回程度のACE技術委員会を開催し、研究開発がプログラム及びプロ
ジェクトの目的・目標並びに国内外の技術開発動向に対して適切であるかを審議し、必要に応
じて基本計画の見直しを行った。
平成 14 年度からはACEプロジェクト開発車両の排ガス目標を確実とするために、ACEプ
ロジェクト内で排ガス後処理触媒を開発することを追加した。
4.中間評価結果
平成11年12月(第2回)に行われた中間評価結果は以下のとおりである。
高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発 中間評価
外部評価委員会総論
本プロジェクトは、現在既に乗用車のハイブリッド自動車は量産体制に入っておりまた燃料
電池自動車は競争領域に入っている、など計画作成当初と比べその状況が激変している。
中間評価では、その状況変化を十分に認識したうえで、全体計画は以下のとおりとする。
日本自動車研究所 プロジェクト管理と技術評価
:従来どおり継続する。
日産自動車
メタノール燃料電池搭載ハイブリッド乗用車の開発(プレート
フィン式水蒸気改質反応器、水素分離膜の要素開発)
:プレートフィン式水蒸気改質反応器、水素分離膜の要素開発
に特化。
本田技術研究所
ANG エンジン搭載ハイブリッド乗用車の開発(FWB と ANG
の要素開発)
:FWB と ANG の要素開発に特化。
日産ディーゼル
LNG エンジン搭載ハイブリッドバスの開発
:CNG エンジン搭載の高効率クリーンエネルギー自動車を製
作し、LNG 自動車の成立性については机上で確認する。
研究開発期間は7年から5年に短縮する。
いすゞセラミックス セラミックス高効率クリーンエネルギートラックの研究開発
研究所 :懸架系の開発は除いて継続し、高効率クリーンエネルギー自
動車の試作を行う。
日野自動車工業
DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発
:DME エンジンとハイブリッド自動車は分けて開発し、自動
車としての性能はシミュレーションによって予測する。
三菱自動車工業
リーンバーン CNG エンジン搭載ハイブリッドトラックの研究
開発
:研究開発を継続し、高効率クリーンエネルギー自動車の試作
を行う。
トヨタ自動車
合成燃料のエンジン性能への影響調査
:調査研究を継続する。
三菱総研
高効率クリーンエネルギー自動車技術動向調査
:調査研究を継続する。
この例からも認められるとおり、本プロジェクト実施体制における開発委員会は極めて高
い評価及びステアリング機能を発揮しており、実施体制は万全である。
- 10 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.事業全体の成果
1.事業全体の成果
1.1 研究開発の技術的成果
「高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発」事業は、平成 9 年度から平成 15 年度の 7 ヶ年計画で実施した。
(1) 開発車両の概要
以下にコンセプトを示す 4 台のクリーンエネルギーハイブリッド電気自動車を開発した。
① CNG セラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラック(ACEV3)
燃焼室周りにセラミックスを用いて遮熱し、CNG 燃料を副燃焼室と吸気管に噴射することによって、予混合圧縮着
火(HCCI)燃焼させるセラミックスエンジンを開発した.排気マニホールド直後にタービン発電機を装備し、遮熱構
造によって発生する大量の排気エネルギーを回収可能とした。ハイブリッド方式には、エンジンが駆動輪と接続されて
いないために運転条件の自由度が高く高効率運転が可能であり,低速・低負荷走行になるほど燃費改善効果が期待でき
るシリーズ方式を採用した.エネルギー貯蔵装置には高効率キャパシタを採用し,エンジン∼発電機∼エネルギー貯蔵
装置∼モータと多くの要素部品をエネルギーが通過するため損失が大きくなるシリーズ方式の欠点を最小限に抑えた。
図1
CNG セラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラック(ACEV3)
② CNG エンジン搭載ハイブリッドトラック(ACEV4)
ストイキ燃焼と三元触媒の採用によって超低 NOx を狙った火花点火 CNG エンジンを開発した。ハイブリッド方式とし
ては、シリーズ/パラレル方式を採用し、低負荷時のモータ走行と高負荷時のエンジン走行を可能とした.リヤのデフ
レスモータと Li-ion 電池によって電気駆動系の効率を高めた。また、リヤ荷重の小さい空積時や高減速度においては、
リヤモータに加えてフロントモータでも回生制動をおこなう四輪回生システムを採用し、車両の安定性を損なわずにブ
レーキエネルギーの高効率回収を可能とした。
図2
CNG エンジン搭載ハイブリッドトラック(ACEV4)
③ LNG エンジン搭載ハイブリッドバス(ACEV5)
油圧駆動可変制御型ミラーサイクル機構を装備した CNG エンジンを開発した。再始動直後の発電過渡域含めてベー
スエンジンに比べて熱効率が 10%程度改善し、最大熱効率が約 39%に達した。ハイブリッド方式としては、都市内走
行で高効率が期待できるシリーズ方式を開発した。エネルギー貯蔵装置としてはキャパシタを開発し,エネルギー密度
が 6.8Wh/kg,充電および放電の効率が走行平均で 97%に達した。なお、車両は CNG 仕様で製作し、LNG 化した際の
性能は計算により検討した。
図3
LNG エンジン搭載ハイブリッドバス(ACEV5)
④ DME エンジン搭載ハイブリッドバス(ACEV6)
セタン価が 60 程度と高く酸素を含むため,圧縮着火させて高効率・無煙燃焼が期待できる DME を燃料としたエン
ジンを開発した。ハイブリッド方式としては、従来より市販車に採用してきた HIMR を改良し、エンジンとモータ/
ジェネレータの間にワンウェイクラッチを設けたシステムを開発した。これによって、低速・低負荷時はエンジンを停
止してモータのみでの走行を可能した。
11
図4
DME エンジン搭載ハイブリッドバス(ACEV6)
(2) 開発目標値の達成状況
開発車両 4 台のエネルギー消費率を M15 モードで評価した結果、比較基準車より 41∼50%の範囲で低減した(燃費
では 1.7∼2.0 倍)。CO2 排出率は、特に天然ガス車両では発熱量当りの CO2 排出率が軽油よりも小さいためエネル
ギー消費率よりも効果が大きくなり、48∼67%の範囲で低減した。また、排出ガスについては、M15 モード(1 台の
NOx についてのみ D13 モード)で評価した結果、NOx は、全車両が超低排出ガスレベル(ULEV)を満足した。PM
は 3 台が ULEV を満足したが、1 台は基準値を超えた。オイル下がりが原因と考えられることから設計変更によって対
応可能である。また、CO および NMHC についても ULEV を満足しない車両が存在したが、これは、過渡運転や再始
動時の燃焼改善や酸化触媒の装着によって改善可能と考えられる。
48%
47%
50%
C O2 排出率 g/ km
67%
60%
47%
80
41%
100
56%
従来車基準に対す る割合 %
エ ネルギ ー消費率 M J/ km
60
40
目標ライン
59
53
44
53 52
50
40
37
20
0
ACEV3
AC EV4
AC EV5
ACEV6
図 5 開発車両のエネルギー消費率および CO2 排出率
LEV
ULEV:目標
1.69
0.22
0.85
0.00
0.00
0.18
TLEV
LEV
ULEV:目標
0.14
PM g/kWh
2.54
エンジン単体D13
エンジン単体D13モード
D13モード
ではULEV
ではULEVを満足
ULEVを満足
0.09
0.05
0.00
Current
TLEV
LEV
ULEV:目標
N.A.
AC
EV
AC 3
EV
AC 4
EV
AC 5
EV
6
AC
EV
AC 3
EV
AC 4
EV
AC 5
EV
6
0
0.44
TLEV
Current
AC
EV
AC 3
EV
AC 4
EV
AC 5
EV
6
4
0.65
3.38
NOx g/kWh
8
NMHC g/kWh
CO g/kWh
12
0.87
Current
AC
EV
AC 3
EV
AC 4
EV
AC 5
EV
6
16
上限:目標
図 6 開発車両の排出ガス
(3) 開発の効果
開発車両 4 台は、従来のディーゼルエンジン車に比べてエネルギー消費率を 41∼50%の範囲で低減し、CO2 排出率
を 48∼67%の範囲で低減すると共に、ほぼ ULEV 相当の排出ガスを達成していることから、本研究開発事業において
開発した車両の環境改善効果は大きい。
1.2 成果の意義
天然ガス、DME 等のクリーンエネルギーを燃料とする自動車は、排出ガスがクリーンなため都市環境問題の解決に
寄与できる反面、ディーゼル重量車を代替した場合はエネルギー消費率が大きい(燃費が悪い)という欠点があり、地
球環境保全(CO2 排出率低減)とエネルギーセキュリティの観点から、より一層の燃費改善が求められていた。本事業
で開発した高効率クリーンエネルギー自動車は、CO2 の発生が少なく、NOx、PM の排出が少ないクリーンエネルギー
とこれを最適に使用するためのエンジン開発に加えて、高効率エネルギー貯蔵装置を始めとする先進のハイブリッドシ
ステムを組合わせることによって、従来のディーゼル重量車と比べて CO2 の排出を半減でき、さらに、規制排出ガス
に関しても ULEV レベルを達成できた。また、開発したハイブリッドシステムは、従来のディーゼル車にも適用が可能
であり、本技術開発成果の意義は大きいといえる。
12
2.研究開発項目毎の成果
研究開発項目①「要素技術の開発及び評価」
(1) 高効率ハイブリッドシステムの技術開発
1. 高効率ハイブリッドシステムの技術開発:マツダ(株)
1.1 目標
ハイブリッド車の要素技術としての,電動機と発電機およびエンジンの制御システム等からなる,トルクアシストが
可能な高効率ハイブリッドシステムの制御技術を開発する.
1.2 システム構想と計画概要
図 1 は,HEV のシステムの電力と燃費改善の関係を示す.一般的には,アイドルストップシステムからストロング
HEV に向かって,燃費改善が大きくなるがシステム電力も大きくなる.しかし,HEV システムには種々の方式が考え
られる.本技術は小さな電力を有効に利用し,エンジンを最大限活用することで効率を向上するものである.
図 2 にシステム構成を示す.本技術開発では次の制御技術を開発する.
・ エンジン始動技術:エンジン始動時にエンジン自ら燃焼トルクを発生させることにより,低トルクの電動機と組
み合わせて,エンジンを迅速かつ滑らかに始動する.
・ 電動過給技術:少ない電力で大きなトルクアシスト効果を得るために電動機を用いて過給する.
エンジン活用型
(小電力有効利用)
燃費改善
同じHEV電
力で大きな
燃費改善
本技術
高電圧ストロングHEV
高電圧ストロングHEV
・エンジン始動技術
・電動過給技術
大電力活用型
(モータの力を活用)
42V
42V-マイルドHEV
マイルドHEV
アイドルストップシステム
HEVシステムの電力(モータ、電池のパワー)
HEVシステムの電力(モータ、電池のパワー)
図 1 HEV システム電力と燃費改善
トルクアシスト
吸気
電動過給
技術
過給用モータ
高応答吸
気冷却
本技術開発で
の取組み技術
補助スタータ
Engine
Transmis sio n
エンジン始動
技術
駆動用モータ
エンジン始
動/ 発電
用 MG
用 MG
アイドルストップ
減速エネルギ回生
インバータ
駆動用電池
インバータ
14V電装品
(補助電源 )
図2
14V
14V鉛電池
減速エネルギ回生
モータ走行/トルクアシスト
モータ走行 トルクアシスト
高効率 HEV システム
1.3 技術開発の成果
1.3.1 エンジン始動技術
図 3 は今回試作したエンジン始動と発電のためのモータ/ジェネレータ(以降 MG とする)である.MG はトルクを
下げて発電効率を向上した 14V 電源の永久磁石同期型とした.低いトルクの MG でエンジンを迅速に始動するため,
エンジン停止前に燃料(ガソリン)を吸気ポートに噴射しておき,始動時に着火させることによってエンジン自らトル
クを発生する制御技術を開発した.図 4 に制御概要を示す.本技術によりアイドルストップからの全開発進でも通常の
AT 車に遜色のない発進応答が得られた.
13
図3
14V 永久磁石同期型 MG(本体)
ブレーキ解除
迅速な始動
600
400
200
0
-200
3気筒筒内圧[a.u.]
1気筒筒内圧[a.u.]
エンシ ゙ン回転数[rp m]
実験車両: デミオ1.3L
1000
800
1
1.5
2
2.5
停止前に噴射
5
3
3.5
4
2.5
3
3.5
4
2.5
3
3.5
4
始動時に点火
3
1
-1
1
1.5
2
1
1.5
2
5
3
1
-1
時間[sec]
図4
エンジン低トルク迅速始動制御概要
1.3.2 電動過給技術
14V 電源対応の遠心式電動過給機を試作し,エンジンに組み合わせる上で課題となる過給機のサージングとエンジン
のノッキングについて対策を検討した.サージングについてはバイパスバルブ制御による吸気リサーキュレーション方
法を評価し,低流量でも高過給圧が得られることを確認した.過給時のエンジンのノッキングについては吸気弁遅閉じ
方式のミラーサイクルを採用した.これら 2 つの対策を取り入れた電動過給システムを構成し(図 5)
,エンジンに装着
して台上評価を実施した結果,目標を超えるトルク向上効果が得られた.
吸気システム
コントローラ
エンジン
制御系
ス ロット
ルバルブ
コンプレッサー
バイパス
バルブ
エア クリーナー
モーター
サージタン
ク
電動過給機
電動過給機
コントローラ
バイパスバルブ制御→サージング対策
VVT
ミラーサイクル→ノッキング対策
エンジン
図5
電動過給システム
1.3.3 トルクアシスト効果と燃費効果
電動過給のトルクアシスト効果は電力換算すると最大で 9.3kW 得られた(図 6).このときの電動過給機の消費電力
は 1.4kW であり,トルクアシストを全て駆動用モータで行う場合に比べモータと電池の電力を小さくできることになる.
エンジン始動技術と電動過給技術の組み合わせによる燃費改善効果をシミュレーションで計算したところ,約
20%(10-15 モード)となった.
14
評価エンジン:1.5L
評価エンジン:
燃料: 91RON
91RON
トルク性能
通常HEVの の 通常
モータトルクアシスト
180
本 HEVコンセプトのモータトルクアシスト
コンセプトのモータトルクアシスト
トルク(Nm)
160
140
自然吸気
電動過給
120
100
電動過給によるトルクアシスト効果
最大9.3kW相当 (入力
)
最大9.3k 相当 (入力1.4k
相当 (入力 kW)
80
60
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
エンジン回転数(rpm)
図6
電動過給によるトルクアシスト効果
1.4 まとめ
高効率ハイブリッドシステムの要素技術としてエンジン始動制御技術と電動過給制御技術を開発した.これら技術を
組み合わせたときの,トルクアシスト効果と効率改善効果の大きさを評価した.
15
(財)日本自動車研究所、いすゞ自動車(株)、
(2) 排ガス後処理システムの研究開発: 三菱ふそうトラック・バス(株)、日野自動車(株)、
日産ディーゼル工業(株)
1)目的
ACE 開発車両の排出ガスをさらに低公害化するために,排ガス後処理システムを開発し、その性
能と実用性を評価する.
評価対象は,実用性の高い NOx の低減システムの一つとして注目されている尿素 SCR システム
とする.
2)実施内容
a) 尿素 SCR システムの試作
i) 尿素 SCR システムの概要
エンジンの排気中にアンモニアを添加するとバナジウムやゼオライトなどを担持した触媒上
で NOx が還元されることは,アンモニア脱硝技術として良く知られている.しかし,アンモニ
アは毒性物質であることから取り扱いには十分な注意が必要であり,自動車用エンジンの NOx
低減装置として車両に搭載することは難しい.そこで,無害な尿素を用いて間接的にアンモニ
ア脱硝を行う,尿素 SCR(Selective Catalytic Reduction)システムが注目されている.
尿素 SCR システムの構成は一般的に図 1 の通りであり,排気中に尿素水を噴射して,排気の
熱によって尿素をアンモニアに加水分解し,触媒上で NOx を還元する.
尿素水タンク
エアタンク
ECU
尿素水
尿素水
添加制御
装置
(DCU)
エア
エンジン運転状態
尿素水添加ノズル
尿素水
+エア
排気温度
排気温度
センサ
排気
エンジン
前段
酸化触媒
・NO→NO2
・CO,HC低減
SCR触媒
・NOx低減
後段
酸化触媒
・アンモニア低減
尿素→アンモニア
図 1.尿素 SCR システムの概略
尿素 SCR システムはコジェネレーションなどの定置式エンジンの脱硝触媒として既に実用化
されている技術である.自動車用としては,ディーゼル車の排出ガス規制レベルが段階的に引
き下げられていく中で注目され始め,欧州を中心に実用化に向けた開発やフリート試験が行わ
れている.
NOx 触媒を用いると,燃焼改善によって燃費や排気微粒子(PM)を改善できるが,他の NOx
低減触媒として注目されている NOx 吸蔵触媒では,還元時に燃料を過剰に噴射して還元雰囲気
を形成する必要があることと,燃料中に硫黄分が含まれている場合には触媒劣化防止用の燃料噴
射を必要とするために,燃費が悪化する.しかし,尿素 SCR はそのような制約がないことから,
NOx 低減と燃費改善の両立を図ることができる.
ii) 試作した SCR システムの構成
本事業では,尿素 SCR システムの実用性を評価するにあたって,表 1 に示すように構成の異
なる 4 種類の SCR システムを試作した.システム B は SCR 触媒のみを備えており,A では前
段酸化触媒,C および D では前後段の酸化触媒を加えた.SCR 触媒の担持金属は,SCR シス
テム A,B,C がバナジウム系であるのに対し,D はゼオライト系とした.
16
表 1.試作した尿素 SCR システムの触媒構成
システム A
前段酸化触媒
○
(白金系,5.1L)
システム B
システム C
システム D
-
○
(白金系,8.5L)
○
(白金系,8.5L)
SCR 触媒
○
(バナジウム系,46.4L)
○
(バナジウム系,30L)
○
(バナジウム系,53.4L)
○
(ゼオライト系,17L)
後段酸化触媒
-
-
○
(白金系,7L)
○
(白金系,8.5L)
システム
システム A
システム B
システム C
システム D
NOx排出率 g/kWh
表 2.ディーゼル 13 モードにおける NOx 低減率
NOx 低減率
68.2%
70.2%
65.1%
52.5%
SCRシステムなし
SCRシステムあり
低減率
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
20
40
60
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
80
低減率 %
b) 排出ガス性能の評価
i) NOx 低減効果
各システムによる NOx 低減効果について,定常運転(ディーゼル 13 モード)および各種過
渡運転モードで評価した.試験結果の例を表 2 および図 2 に示す.NOx 低減率はディーゼル 13
モードでは 52∼70%,過渡運転モードでは平均車速が低い場合で 30∼50%,平均車速が高い場
合で 30∼80%程度であった.システムによって NOx 低減効果に差があるのは,各システムが
一次試作品レベルであるために,尿素水の噴射制御が必ずしも最適に調整されていないことが
要因である.試験の結果から,制御が適切に調整されれば,尿素 SCR システムによって高い
NOx 低減効果を得られることがわかった.
平均車速 km/h
ii) アンモニアスリップ
図 2.過渡運転モードにおける NOx 低減率の例
尿素 SCR システムでは,尿素水の
噴
(システム B)
射制御が適切でなく,噴射量が過剰で
あった場合などに,アンモニアの排出(アンモニアスリップ)が懸念されるため,NOx 低減効
果とともにアンモニアスリップの状況を把握した.
自動車からのアンモニア排出濃度については規制や基準が定められていないため,本事業で
尿素 SCR システムからのアンモニア排出濃度を評価するためのガイドラインは,作業労働環境
に関する濃度基準(*)を参考にして,モード運転中の平均濃度について 25ppm 以下,モード運転
中の瞬時濃度について 200ppm 以下に設定した.
*注)参考としたデータ:
・中央労働災害防止協会:
「アンモニアの暴露濃度と人体への影響」
・日本産業衛生学会,ACGIH の許容濃度指標
・NIOSH の急性毒性指標
試験の結果,定常運転であるディーゼル 13 モードでは全てのシステムがガイドライン以下で
あった.過渡運転モードでは,当初一部のシステムでガイドラインを上回ったが,尿素水噴射
制御を適切に調整することによってガイドライン以下に低減されることがわかった.
iii) 尿素に起因する生成物
尿素 SCR システムを採用した場合,排気中に尿素水を添加することによって,尿素に起因し
て生成される新たな物質の排出が懸念される.そこで,尿素からの生成が考えられる物質のう
ち,MSDS(Materials Safety Data Sheet:製品安全データシート)が存在する 3 物質(尿素,
17
シアヌル酸,メラミン)について,試作システムからの排出されるこれらの物質の安全性を検
討した.
その結果,試作システムの排気をヒトが 1 日間直接吸引した場合でも,MSDS において慢性
毒性が懸念される 1 日あたりの吸入量,および急性毒性が懸念される吸入量に対して 2 桁以上
低いことがわかった.
c) 実使用条件における初期信頼性の評価
i) 走行試験
試作システムが実際に車両に装着され,実路を走行した際の初期信頼性を評価するために,
各システムを大型トラックに装着して公道走行試験を行った.
表 3.初期信頼性評価のための試験条件
システムを装着した車両
積載条件
GVW25t クラスの大型トラック
半積載
高速道路(450km/day)
一般国道(200km/day)
2003 年 9 月~12 月
走行形態
試験期間
図 3.試作システム装着車両の外観
表 4.各システム装着車両の走行距離
走行形態
システムA 高速道路
装着車両 一般道路
システムB 高速道路
装着車両 一般道路
システムC 高速道路
装着車両 一般道路
システムD 高速道路
装着車両 一般道路
高速道路
延べ合計
一般道路
走行日数
累積走行距離
(日)
(km)
42
29
39
36
32
38
31
41
144
144
71
75
70
72
288
18,379
5,717
17,739
7,148
14,243
7,603
14,191
8,045
64,552
28,513
24,096
24,887
21,846
22,236
尿素水/軽油
消費量比率
(%)
1.61
1.69
1.89
3.36
3.24
2.96
1.46
1.45
1.43
※
0.89
0.79 ※
0.69 ※
93,065
※:不具合により尿素水が適切に添加されていなかったと推定される期間は除外した
各システムを装着した車両は,表 4 に示すようにそれぞれ 20,000∼25,000km を走行し,延
べ走行距離は約 93,000km であった.
走行試験中には,尿素水中の尿素が析出して SCR システム中のアシストエア通路や尿素水配
管に目詰まりを発生させる不具合が数件発生した.これらの原因は,センサ類の異常や配管形
状が不適切であったこと等であり,既存の対策技術でほぼ改善できることがわかった.
18
ii) 走行試験前後の排出ガス特性比較
走行試験の前後で各試作システムの排出ガス性能を比較した結果,NOx,HC,CO,アンモ
ニアスリップについて大きな変化はなく,SCR システムの排出ガス性能について初期の信頼性
は確認された.
d) まとめ
ACE 開発車両の排出ガスをさらに低公害化するために,排ガス後処理システムとして尿素 SCR
システムを開発し,その性能と実用性を評価した.
その結果,
・システムを適切に調整すれば高い NOx 低減効果が期待できる.
・実使用条件下で初期の信頼性を有する.
ということが確認された.
また,尿素 SCR システムの実用化に向けて,以下の技術課題を抽出した.
・NOx 低減効果を維持し,システムの不具合を防止するために,尿素水の品質確保が必要で
ある.そこで本事業終了後,尿素水品質の規格化,尿素水の保管・管理に関するガイドラ
インについて自動車技術会で JASO/JIS 化に向けた作業を開始し,その規格が制定された.
車両の尿素水の欠乏,SCR システムの不具合・不正改造対策については,国土交通省が策
定中の技術指針の中で検討されている.
・低温時の尿素水凍結対策が必要である.
・尿素水インフラの整備が必要である.
19
(3) ANG エンジンシリーズハイブリッド乗用車:(株)本田技術研究所
1 プロジェクト目標
本プロジェクトの目標は車両性能が
・燃費(CO2 低減割合)
:1/2(基準車比)
・排出ガスレベル
:53 年規制の 1/10 (J-ULEV)
となる HEV の研究開発である.
2 コンセプト
本研究においては,様々な HEV(Hybrid Electric Vehicle)システムの中から,代替燃料 HEV の
一つであり,同一出力比で考えるとガソリンに対して CO2 排出量の少なくなる天然ガスエンジン
HEV システムを選択し,それにフライホイールバッテリと ANG(Adsorbed Natural Gas)燃料容
器という新規技術を組み合わせることで,CO2 排出量の大幅削減の可能性を探っていくことを基
本コンセプトとした.研究は主に本コンセプトを実現するための主要な構成要素であるフライホ
イールバッテリと ANG 燃料貯蔵技術について進めた.
発電機
天然ガス
エンジン
FWB
モータ
コントローラ
ギヤBox
ANG
図 1 車両コンセプト
2.1 フライホイールバッテリ
フライホイールバッテリは,回転体に運動エネルギーを蓄え,回転体の同軸上に配置したモータ
/発電機を介して電気エネルギーとして入出力を行う機械式バッテリである.「長寿命」,
「温度依
存性が小さい」,
「残容量の把握が容易で正確」などのメリットを持つ.長寿命であることから,有
害物質を出さないクリーンなエネルギー貯蔵装置である.
フライホイールバッテリ
モータ/発電機
ロータ
充電
コントローラ
ドライブユニット
放電
真空ケース
高回転軸受
図 2 フライホイールバッテリの原理
20
+
-
2.2 ANG 燃料貯蔵
ANG 燃料貯蔵は物理吸着を利用して天然ガスを貯蔵する技術である.比較的低圧力で貯蔵が可
能なため,これまでの圧縮天然ガス貯蔵方式に比べ,容器の形状自由度が大きい.このことから,
車両への搭載位置の選択範囲を広げることが期待できる.
活性炭
分子間力による
メタン分子の吸着
ANG燃料タンク
図 3 ANG 燃料貯蔵の原理
3 要素部品の開発と評価
3.1 フライホイールバッテリ
想定する車両の運動性能と燃費目標から,フライホイールバッテリの性能目標を以下のように定
めた.
貯蔵エネルギー 500 Wh
最大出力
30 kW
システム重量
100 kg
充放電効率(片道) 93 %
この目標を 2 機のフライホイールバッテリで実現することとし,エネルギー/出力/重量につい
ては,その 1/2 を 1 機あたりの目標値とした.
ロータ研究については,運転範囲の最高回転数である 50,000rpm を目標として CFRP ロータを
設計/製作し,破壊試験と高温状態を含む繰り返し耐久試験を行い,製作したロータが十分な強度
と耐久性を有することを確認した.
真空維持については,シール構造と構成部品からのアウトガス低減手法および組み立て後のガス
吸着という 3 手法の組み合わせで,目標とする 1 年間,10Pa 以下の真空維持を達成する技術に見
通しを得た.
搭載手法の検討においては,フライホイールのジャイロ反力が車両の操縦安定性に影響しない搭
載方法を明らかにした.
これらの技術と社内研究であるモータ/発電機,磁気軸受および電装技術を組み合わせることに
より,250Wh フライホイールバッテリシステムを製作し,50,000rpm の高回転運転と 15kW の充
放電試験により,目標とした貯蔵エネルギーと最大出力を実証した.フライホイールバッテリ本体
重量は 34.7kg であり,コントローラ/ドライブユニットと合わせて 1 機あたり 50kg 以下となる.
充放電効率は最大出力の 1/2 以上の出力範囲で 93%(片道)以上という結果が得られた.
以上の成果により,長寿命,高効率小型フライホイールバッテリ技術を構築できた.
3.2 ANG 燃料貯蔵
ANG 燃料貯蔵は車両の目標性能から重量を 50kg と定めて,ガス貯蔵量が最大となるように技
術アプローチを行ってきた.以下に得られた成果をまとめる.
(1) 吸着材
モンテカルロ法によるシミュレーションを用い,メタン吸着に適した細孔を予測した.
その結果,理想状態の細孔は比表面積が 2630m2/g,細孔径は 7.8Åであることがわかった.
活性炭は比表面積と細孔径ピークをメタン貯蔵に適した構造に近付けることによって
0.155NL/cm3 のガス貯蔵量を達成した.
炭素系ナノ材料は活性炭と同じ賦活手法を用いて吸着材を調製し,0.147NL/cm3 を達成した.
(2) 燃料タンク
構造解析を用いて耐圧性を有する軽量燃料タンクの構造を決定し,製法は押出し成形,材質は
A6063-T5,接合は底板を真空ロウ付け,ふたは FSW に決定した.
製作した燃料タンクを認定機関で評価し,破壊圧力 13.6MPa,常温圧力サイクル試験 45,000 サ
イクルを達成した.
21
(3) 燃料系システム
メタンによる繰返し吸着/脱離試験において燃料容器用活性炭は,ガス貯蔵量に変化が起きない
ことがわかった.しかし市場の天然ガス(13A)を用いた繰返し吸着/脱離試験では,ガス貯蔵量が
初期に対して 30%に低下することがわかった.
ガス貯蔵量の低下を防止するためにそれぞれの天然ガス成分に有効なフィルタ用活性炭および
フィルタ容量を選定し,システム評価を行った.
フィルタとミニタンクを組み合わせて燃料容器システムの成立性を確認した.
ブタン用
プロパン用
エタン用
From充填口
Toエンジン
以上の成果により,低圧で吸着を利用した貯蔵技術は理論値に近い値を達成できた.またそれを
使った燃料容器システムでは,ガス貯蔵量の低下を防止する下記システムを構築することができた.
図 4 燃料系システム図
22
メタン用
4 車両の燃費,排出ガス
フライホイールバッテリおよび ANG 燃料貯蔵の達成値を用いて想定車両の燃費シミュレー
ション(10-15 モード)を行った結果,燃費は 21.1km/L となり,ガソリン車換算で CO2 排出量 1/2
という目標を達成した.また,天然ガスエンジンを用いた HEV システムであることから,排出ガ
ス規制値 J-ULEV をクリアできる.
フライホイールバッテリシステム
ANG燃料貯蔵システム
項目
性能
項目
性能
エネルギー (Wh)
最大出力 (kW)
充放電効率 (%)
500
30
93 (片道)
容器重量 (kg)
50
容器内容量 (L)
56.5
重量 (kg)
100
ガス貯蔵量 (Nm3)
8.8
項目
目標
達成値
CO2排出
1/2
=燃費:21 km/L
(10-15モード)
1/2
(燃費:21.1 km/L)
(航続距離:約200km)
※燃費シミュレーション
排出ガス
天然ガスエンジン搭載
により達成
J-ULEV
図 5 達成値
5 まとめ
フライホイールバッテリについては,主要技術である CFRP ロータと真空維持,および搭
載手法に関する研究を行い,長寿命,高効率小型フライホイールバッテリ技術を構築できた.
ANG 燃料貯蔵はついては,主要技術である吸着材,燃料タンクおよびこれらを組み合わせた燃
料システムに関する研究を行い,低圧力で効率良く天然ガスを貯蔵できる技術を構築できた.
これら2つの要素技術において現在最高水準の技術を構築できたとともに,本プロジェクトの目
標(CO2 排出量 1/2,J-ULEV)を達成することができた.
23
<実用化の見通し>
フライホイールバッテリ
本研究成果や他研究機関の動向からも分かるように,現在,フライホイールバッテリは技術的課
題の大半が解決しており,実用へ向けた準備はほぼ整ったと考える.他のエネルギーストレージに
はない長所や,材料の進歩が性能進化に直結するなど魅力的な特徴を有した技術であり,本研究成
果により現在主流の化学バッテリ代替としてのポテンシャルを持つフライホイールバッテリ技術を
構築できたと考える.
フライホイールバッテリを車両,特に乗用車へ適用するために残る課題は搭載性,安全性である.
今後は実際に車両に搭載しての開発や,用途を問わずアプリケーションに合わせた外的要因に対す
る安全性の確立が必要ではあるが,いずれも本研究の中で解決の方向性は明らかにできたと考える.
技術的な課題だけでなくフライホイールバッテリの安全実績や認知度の向上が普及には必要であろ
う.実績と認知度の定着には実用化へのハードルが比較的低い定置用途での普及が期待されるが、
本研究成果は定置用途にも充分応用できる技術であると考えている.
ANG 燃料貯蔵
本研究において世界トップレベルの天然ガス低圧貯蔵技術を完成することができた.
ANG は低圧力で燃料を貯蔵できることや貯蔵装置の形状自由度が高く,車両への搭載性が良いこ
とが特徴である.必要とする天然ガススタンドの仕様は,低圧で充てんできる簡単な設備で対応可
能であり投資コストも低く,また CNG に比べ加圧コストも削減できる等の利点がある.家庭まで
天然ガスが普及した地域では,今後小型の低圧充てん装置が開発されることによって家庭内充てん
という手法が可能となる.この場合,天然ガススタンドが近くになくても燃料を充てんすることが
でき,日常生活における車両の利便性を向上させることができる.環境適合性の確認等の課題は残
すものの,今後の天然ガス自動車の普及,特に天然ガス乗用車の普及に対し貢献できる技術が完成
できたと考える.
24
(4)CNG
(4)CNG セラミックスエンジン搭載ハイブリッドトラックの研究開発:(株)いすゞ中央研究所
1.
1.1
開発コンセプトおよび目標
開発コンセプト
高効率多種燃料セラミックエンジン,高速発電機,制御システム,高速電動機,バッテリ,キ
ャパシタからなるハイブリッド車の全体システム 1)を図 1 に示す.
CAN
セラミックエンジン
ウルトラキャパシタ
45F
エンジン制御ユニット
キャパシタ制御ユニット
CNGセラミックスエンジン
増速ギヤ
50kW発電機
コンバータ
減速ギヤ
インバータ
50kW電動機
車両電装機器(24V)
DC-DCコンバ-タ
排気エネルギー回収ユニット
補機用バッテリ
操作情報入力
ウォータポンプ
状態情報出力
発電機付きタ-ボチャ-ジャ
:TCG
情報表示
ビークルコントローラ
パワステポンプ
補機リレーユニット
コントロールライン
パワーバスライン
図 1 セラミックス高効率クリーンエネルギートラック全体システム
このシステムの特徴は以下の通りである.
①セラミックス製燃焼室と遮熱構造により,冷却系を取り除いた軽量コンパクトなエンジン 2)
を搭載する.燃焼室には開閉弁付きの副燃焼室を設け天然ガス,メタノールなどの難燃性の燃
料を使用できる多種燃料エンジン 3)とする.本プロジェクトでは,クリーン燃料として CNG を
用いる.
②このエンジンに大量の排気エネルギを電気エネルギに変換して回収する電気式エネルギ回収
システム 4)5)6)を装着し高い熱効率を実現する.
③エンジンから車軸へのトルク伝達はトランスミッションなど機械的伝達装置を取り除き,エ
ンジン出力はすべて発電機により電力に変換し,その電気エネルギにより車軸に付けられた電
動機を駆動する直列型ハイブリッドシステムとする.
④エンジン最高出力は高速走行時や登坂時に要求される出力を上回る値に設定し,常に発電電
力をバッテリを経由せずに電動機に伝えることとし,バッテリを主に用いる従来型電気自動車
で経験した充放電による大きな損失の発生を防止し,効率向上を図る.この装置は連続高速走
25
行,連続登坂に対しても余裕を持つのでトラックとしての実用性が高い.
⑤発電機,電動機を永久磁石製回転子とし高速化させパワープラント重量を低減し,トラック
として重要な積載重量を確保する.
⑥バッテリを補助的に用い小型化し,システム全体の重量を減少させかつ 15∼30km のエンジ
ン停止走行を可能とする.
1.2
最終目標
実車走行燃費
基準車燃費比の 2.0 倍以上(M15 モード)
排出ガスの低減
新短期規制の超低排出ガスレベル
2.
成果
2.1
要素具術開発:CNG
要素具術開発:CNG セラミックエンジンの開発
2.1.1
CNG セラミックエンジン仕様および構造
設計,試作したエンジンの主要諸元,構造を表 1,図 2 にそれぞれ示す.
表1
項
4気筒エンジンの主要諸元
目
仕
様
型式
遮熱式4サイクル圧縮着火方式
燃焼方式
制御弁付副室式燃焼方式
給気方式
排気エネルギ回収装置付
気筒数
4気筒
内径×行程
φ110mm×125mm
排気量
4751cc
燃料
天然ガス(都市ガス13A)
圧縮比
13.7
副室容積比
15.1%
定格出力/回転速度
100kW/2000rpm
26
遮熱ポートライナー
燃料供給弁
副室弁
副室
主室
遮熱ピストン
図2
4気筒エンジンの構造
2.1.2 エンジンの性能向上
CNG セラミックエンジンへ排気エネルギ回収装置付きタ−ボ(以後 TCG)を装着した外観を図 3
に示す.
図3
遮熱エンジンへ装着した TCG 外観
27
a. 車載 TCG,
TCG, EGR システムの装着
TCG を装着した車載用エンジンシステム構成を図 4 に示す.EGR ガスは,TCG のタービン出口後
の排気管下流から分岐し,EGR クーラ,電動式 EGR バルブを通過後に TCG のコンプレッサ手前
で新気と合流させている.仕様変更内容は,EGR ガス温度の低減を目的とした EGR クーラの放
熱面積の増加,EGR 率と吸気量の増加を目的とした EGR クーラ通気面積の増加,および排気圧
損の低減である.EGR クーラは,既製品を 3 個並列に組み合わせ,EGR 配管は,本流の排気管と
同じ管径に拡大した.その他,仕様変更を行った燃料供給システムの構成を図 5 に,副室弁開
時期可変(VVT)装置の外観を図 6 に示す.燃料供給系は,マルチポイントインジェクション(MPI)
システムである.VVT 装置は,広角の制御範囲を確保した.
VVT
EGRバルブ
TCG
インタークーラ
EGRクーラ
オイルラジエータ
ウォータポンプ
スロットルバルブ
エアクリーナ
EGRラジエータ
図 4 車載時のエンジンシステム構成
副室燃料供給口
主室(予混合)燃料供給口
インジェクタ
(副室4個+主室4個)
等長分岐管
燃料供給口
図 5 MPI システムの構成
図 6 VVT 装置の外観
28
b. エンジン性能向上策とその成果
TCG 初品仕様のエンジンを用いた性能試験結果は,ターボチャージャ仕様に較べて過給圧が
低く,排圧(タービン入り口圧)が高くなり,その結果,燃料負荷 56%を超えた運転ができな
いことがわかった.これは,TCG のタービンシャフトに装着した磁石の引き摺り抵抗により,
タービン入り口圧に対して過給圧が低下し,気筒間において,失火,安定燃焼,ノッキングす
る混在する状態(以後,燃焼バラツキ)が発生したためである.燃焼バラツキが発生した時の
各気筒の熱発生率を図 7 に示す.近年,ディ−ゼルエンジンの新たな燃焼方式として,予混合
燃焼方式が世界的なレベルで各企業,研究所,大学において研究されているが,いずれも最大
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
ノッキング気筒
181-6
安定燃焼気筒
失火寸前の気筒
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
Crank Angle deg
0
30
60
Rate of Heat Release J/deg
Pressure
MPa
の技術的課題がこの気筒間燃焼のバラツキである.
図 3.2.2-14 燃焼経過
図 7 気筒間の燃焼ばらつき
そこで,過給圧の低下に起因した燃焼バラツキを抑制し,燃料負荷を増した運転を可能とす
るため,タービン静翼仕様の選定,調整に特化し,更に,エンジン回転速度低下等による性能
向上のための改良試験を進めた.
図 8 にターボチャージャ仕様に対する TCG 仕様での改良による代表的なエンジン性能を示す.
詳細は後述するが,TCG 仕様でターボチャージャ仕様相当の過給圧,排圧が得られるようにな
り,燃料負荷 80%,正味平均有効圧 0.8MPa 以上まで安定運転領域を拡大することができた.ま
た,NO は,何れのエンジン仕様においても 20ppm 以下の予混合圧縮着火燃焼方式の特徴である,
極めて低い値を得ることができた.
一方,本エンジンシステムにおいては,遮熱構造によりシリンダ内からの冷却損失を低減し,
排気温度を高め,そこで得られる高負荷側での余剰の排気エネルギを TCG で回収し,熱効率を
29
高める狙いで TCG 仕様を設定し,開発を行ったが,エンジンは燃料負荷 80%までの運転に止ま
っているため,排気エネルギを回収するには至っていない.排気エネルギの回収を可能とする
には,更に,全負荷運転を可能とする燃焼改善の必要がある.また,本燃焼方式においては,
高負荷側でノッキングを回避しながら性能向上を図るため,大量 EGR と高過給が必須である.
そのため,燃焼温度が下がり,過去に開発した圧縮着火燃焼方式の遮熱エンジンに較べ,排気
温度が低くなっている.これは,前述の排気エネルギ回収に影響するとともに,予混合圧縮着
火燃焼方式で課題となる HC 低減のための触媒機能にも影響を及ぼすと思われるので,今後後処
理装置を含めた考慮が必要である.
以下に,諸燃焼制御因子がエンジン性能に及ぼす影響を中心に,性能向上策とその成果につい
800
700
200
タービン入り口圧
Boost/Exhaust
Pressure kPa
Exhaust Temp. K
て述べる.
150
100
ブースト圧
50
0.8
0.6
0.4
0.2
40
35
30
25
20
NO ppm
100
80
TCG,1800rpm(車載仕様)
TCG,1800rpm
TCG,1600rpm
TCG,1500rpm
ターボチャージャ,1800rpm
60
40
20
0
50
75
Load (Fuel Flow Rate) %
図 8 エンジン性能
30
100
Brake Thermal
Efficiency %
BMEP MPa
1.0
b -①
過給機のタ−ビン性能改良によるエンジン性能の向上
過給機のタ−ビン性能を向上させることにより,同一のブ−スト圧でもタ−ビン入り口圧(エ
ンジン背圧)を下げることができるので,吸排気行程におけるポンピング損失が低減し,エン
ジンの燃焼が同一であれば熱効率は向上する.
図 9 は車両試験に用いた過給機のタ-ビンノズル(静翼)出口の総ガス通路幅をほぼ一定にして
(静翼 9 枚仕様 55.3mm,静翼 13 枚仕様 54.6mm),静翼の枚数を変更した時の 1800rpm における
エンジン性能の一例を示す.負荷の高い領域において,熱効率は約 0.5%向上している.エン
ジン負荷に対するブ−スト圧とタ−ビン入り口圧を図 10 に示す.静翼 9 枚仕様は,13 枚仕様
に対し,タビンノズル出口の総ガス通路幅がわずかに広いにも関わらず,ブ−スト圧,タ−ビ
ン入り口圧ともに増加しており,動的なガス通路面積は縮小している.最もエンジン出力が大
きい燃料負荷 75%(1 サイクル当たりの燃料量
0.25L/cycle)の点において,静翼 9 枚仕様で
の空気過剰率は 1.29,吸気酸素濃度は 12.8%,副室開弁時期はクランク角で上死点前 81.5deg
であり,13 枚仕様での空気過剰率は 1.26,吸気酸素濃度は 12.8%,副室開弁時期はクランク
角で上死点前 79.8deg である.燃焼に与える影響が大きい空気過剰率と吸気酸素濃度はほぼ同
等の値となる.ブ−スト圧とタ−ビン入り口圧の差圧を図 11 に示す.両仕様での高負荷域にお
けるブ−スト圧とタ-ビン入り口圧の差より,吸排気行程で発生するポンピング仕事の変化分を
計算すると,静翼 13 枚仕様では 9 枚仕様に対し,正味熱効率は 0.2%程度向上するものと推定
される.
図 12 には燃料負荷 75%での両者の熱発生率の比較を示す.両仕様とも空気過剰率,吸気酸素
濃度が同じであるため熱発生率の形に大きな差はない.副室弁開弁後に副室内で発生すると思
われる初期の燃焼は上死点前に現れ,その熱発生は少なく,主室内の予混合燃料の燃焼が主と
思われる部分の熱発生率が急激に立ち上がり,後燃え部が少ない本燃焼方式の特徴をよく示し
ている.着火時期と燃焼終了時期の明確な特定は難しいが,燃焼期間は何れもクランク角で概
ね 55deg 程度である.静翼 13 枚仕様では熱発生のピ−ク位置が進角側に進んでいる.副室開弁
時期を 1.7degCA 遅らせたことで燃焼が活発になったためである.熱効率がポンピングロスの低
下分以上(約 0.5%)に向上した理由は,副室開弁時期を遅らせたことにより,燃焼が活発と
なって熱発生の重心が進んだためと推察する.
31
タ-ビン仕様違いの過給機でのエンジン性能
31
30
28
ノズル幅
車両試験に供試したエンジン
の性能:タ-ビンノズル静翼枚
数9、絞り幅55.3
27
タ-ビンノズル仕様を変更した
エンジンの性能:タ-ビンノズ
ル静翼枚数13、絞り幅54.6
26
25
30
35
40
45
50
55
エンジン出力 kW
図 9 過給機とエンジン性能
タ-ビン仕様違いでのブ-スト圧とタ-ビン入り口圧
1500
1400
タ-ビン入り口圧
1300
1200
静翼13枚仕様の
ブ-スト圧
1100
1000
静翼13枚仕様の
タ-ビン入り口圧
900
800
ブ-スト圧
700
600
20
25
30
35
40
45
50
55
エンジン出力 kW
図 10 過給機の特性
タ-ビン仕様違いでのブ-スト圧とタ-ビン入り口圧の差
400
差圧 mmHg
25
圧力 mmHg
エンジン熱効率 %
燃料負荷75%
29
350
300
静翼9枚仕様
静翼13枚仕様
250
200
25
30
35
40
45
エンジン出力 kW
50
図 11 給排気差圧比較
32
55
静翼
1800rpm,静翼 9 枚,副室開弁時期 BTDC81.5deg
272-9
#2cyl
#3cyl
Pressure
#4cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60
Crank Angle [deg]
1800rpm,静翼 13 枚,副室開弁時期 BTDC79.5deg
273-7
#4cyl
Pressure
#3cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
Crank Angle [deg]
0
30
60
Rate of Heat Release [J/deg]
#2cyl
#1cyl
[MPa]
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
Rate of Heat Release [J/deg]
#1cyl
[MPa]
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
図 12 熱発生率の比較
図 13 は車両試験に用いた TCG の仕様に対し,タ−ビンノズル出口部の総ガス通路幅を変え,
タ-ビン翼背面に遮熱プレ−トを配置してガスの漏洩損失を低減させ,タ−ビンシャフト部への
給油圧を下げてセンタハウジング内に滞留する潤滑油をベアリングがかき回すことによって発
生する機械損失を低減した場合の,エンジン 1800rpm における性能の比較を示す.最もエンジ
ン出力が大きい燃料負荷 75%の点において,ベ−ス仕様での空気過剰率は 1.29,吸気酸素濃度
は 12.8%,副室開弁時期はクランク角で上死点前 81.5deg,ブ−スト温度は 348K であり,タ−
ビン改良仕様での空気過剰率は 1.41,吸気酸素濃度は 12.8%,副室開弁時期はクランク角で上
死点前 82.1deg であり,ブ−スト温度はインタ−ク−ラの冷却能力を上げることで 338K とした.
空気過剰率が上がるが,吸気酸素濃度が低く保たれ,ブ−スト温度も低いためノッキングは発
生しない.
33
過給機のタ-ビン改良による効果
33
エンジン熱効率 %
32
31
車両試験に搭載した仕
様、タ-ビンノズル絞り幅55.3:
車両燃費9.56km/l
30
29
28
タ-ビンノズル絞り幅56.6、タビン翼背面の漏洩損失低
減仕様
27
26
25
20
30
40
50
エンジン出力 kW
60
図 13 過給機とエンジン性能
過給機とエンジン性能
図 14 はブ−スト圧とタ-ビン入り口圧の変化を示す.タ−ビンノズル出口部の総ガス通路幅を
広げることでブ−スト圧は全域で下がった.図 15 にブ-スト圧に対するタ−ビン入り口圧の比
較を示す.同一ブ−スト圧でタ−ビン入り口圧を改良前,改良後で比較すると,全域で改良後
の仕様が低くなっている.タ-ビンを作動するガスの漏洩損失と潤滑油かき回しによる機械損失
を低減することにより,タ−ボの総合効率が上がったためである.ほぼ同一の副室開弁時期で
ブ−スト温度を 10K 下げた負荷の高い領域では,空気過剰率が 9%程度上がり,負荷の低い領
域でも同一ブ-スト温度,同一副室開弁時期で 4%程度上がった.空気過剰率が上がった理由は,
負荷の全域でタ−ビン入り口圧(エンジン背圧)が下がり,掃気が向上したことと,高負荷域
では掃気向上に加え,ブ−スト温度を下げたためと推察する.
この結果,負荷の全域でのポンピング仕事が低減され,燃焼が活発になり,熱効率が上がって
いるものと推察する.燃料負荷 75%での熱効率は 1.4%向上した.ポンピング仕事低減による
熱効率の増加分は 0.3%と予測されるので,空気過剰率が上がったことで燃焼が改善されたこ
とによる熱効率の向上分は 1.1%である.
図 16 に燃料負荷 75%における熱発生率の比較を示す.両仕様とも熱発生率の形に大きな差は
なく,本燃焼方式の特徴をよく示している.ベ−ス仕様での燃焼期間はクランク角で概ね 55deg
であり,改良仕様では概ね 50deg である.改良仕様の方が上死点前で発生する初期燃焼期間と
主燃焼後に続く後燃え燃焼期間の発熱量が少なく,主燃焼部分の熱発生のピ−ク位置は上死点
側に近づき,熱発生率も上がっている.空気過剰率が上がったことにより燃焼が活発化して熱
発生率の重心が上死点側に進み,後燃え期間の燃焼量が減少することで燃焼期間が短縮して熱
効率が向上したものである.
34
タ-ビン仕様違いでのブ-スト圧とタ-ビン入り口圧
同位置ブ-スト圧でのタ-ビン入り口圧比較
1500
タ-ビン入り口圧
車両試験に搭載したエンジン
ノブ-スト圧
1200
車両試験に搭載したエンジン
のタ-ビン入り口圧
1100
1000
タ-ビン仕様を改良したエン
ジンのブ-スト圧
900
800
タ-ビン仕様を改良したエン
ジンのタ-ビン入り口圧
ブ-スト圧
700
1400
1300
1200
車両試験に搭載したエン
ジンのタ-ビン入り口圧
1100
改良した仕様でのタ-ビン
入り口圧
1000
900
600
600
30
40
エンジン出力 kW
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
800
1000
ブ-スト圧力 mmHg
50
図 14 給・排気差圧比較
給・排気差圧比較
図 15 過給機特性
272-9
Pressure
[MPa]
#4cyl
#3cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60
Crank Angle [deg]
Rate of Heat Release [J/deg]
#2cyl
#1cyl
タ-ビン改良仕様
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
303-6
#2cyl
#1cyl
[MPa]
20
#4cyl
#3cyl
Pressure
圧力 mmHg
1300
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
Crank Angle [deg]
図 16 熱発生率の比較
35
60 -30
0
30
60
Rate of Heat Release [J/deg]
1400
タ-ビン入り口圧力 mmHg
1500
b -②
タ−ビンノズル出口のガス通路幅を変えた場合のエンジン性能
軽負荷の領域では,燃焼室壁面温度が低くノッキングが生じにくく燃焼が安定しているので,
タ−ビンノズル出口のガス通路の絞りを大きく設定してタ−ビン入り口圧とブ−スト圧を下げ,
吸排気行程におけるポンピングロスを軽減した方が,熱効率は高くなる場合がある.しかし,
負荷の増加に伴い燃焼室壁面温度が高くなるとノッキングを生じやすくなるので,EGR 率を上
げて吸気の酸素濃度を下げる必要がある.一方,空気過剰率は 1 以上に維持することが必要で,
熱効率をあげるためにはなるべく高くすることが望ましい.そのため,タ−ビンノズル出口の
ガス通路を絞り,ブ−スト圧を上げ,EGR 量を増やすことで低い酸素濃度と高い空気過剰率の
両立が可能となる.
図 17 には 1700rpm においてタ−ビンノズル出口の総ガス通路幅を変えた場合のエンジン性能の
一例を,図 18 にはその時のブ−スト圧とタ−ビン入り口圧の比較を示す.タ−ビンノズル出口
の総ガス通路幅を 59.9mm とした仕様では,総ガス通路幅を 56.6mm とした仕様に比べ,負荷の
低い領域においてブ−スト圧とタ−ビン入り口圧(エンジン背圧)の差が小さく,熱効率は
0.5%程度高い.吸排気行程でのポンピング損失の低下,筒内の圧縮圧の低下による機械損失や
熱損失の低下等が寄与しているものと推察する.しかし,燃料負荷を増加させるに従い熱効率
の増加が小さくなる.燃料負荷 63%(1 サイクル当たりの燃料量 0.209 L/cycle)以上ではノ
ッキングが発生し,EGR の調整が追いつかず,それ以上の負荷増加が困難であった.この時の
空気過剰率は 1.47 で吸気の酸素濃度は 14.2%であった.総ガス通路幅 56.6mm の仕様では,負
荷の増加に対して熱効率が比例的に上がっていく.燃料負荷は 70%(1 サイクル当たりの燃料
量 0.234 L/cycle)まで増加が可能であった.この時の空気過剰率は 1.53 であり,吸気の酸素
濃度は 14.2%であった.燃料負荷を増加したときブ−スト圧が高いので,EGR 量を増やして吸
気酸素濃度を同じ低い値に維持しても空気過剰率が増加する.EGR 量を増して吸気の酸素濃度
を低い値に維持していることに加えて,筒内の作動ガス量が増えることによる燃焼温度のピ−
ク値の低下によりノッキングが抑制さる.さらに,空気過剰率が大きくなったことにより後燃
え終了が速やかで燃焼期間が短縮されるので熱効率が向上するものと推察する.
36
タ-ビンノズル絞り面積とエンジン性能
エンジン熱効率 %
33
参考:車両試験に使用した仕
様、タ-ビンノズル絞り幅55.3、遮
熱プレ-トなし、1800rpm、車両
燃費9.56km/l
1700rpm、タ-ビンノズル絞り幅
59.9、遮熱プレ-ト付き
32
31
30
29
28
1700rpm,タ-ビンノズル絞り幅
56.6、遮熱プレ-ト付き
27
26
25
20
30
40
50
エンジン出力 kW
60
図 17 過給機特性とエンジン性能
過給機特性とエンジン性能
タ-ビンノズル出口総ガス通路幅と過給特性
1300
1200
圧力 mmHg
1100
1700rpm,タ-ビンノズル絞り幅59.9での
ブ-スト圧
タ-ビン入り口圧
1000
1700rpm、タ-ビンノズル絞り幅
59.9でのタ-ビン入り口圧
900
800
1700rpm、タ-ビンノズル絞り幅
56.6でのブ-スト圧
700
1700rpm、タ-ビンノズル絞り幅
56.6でのタ-ビン入り口圧
600
ブ-スト圧
500
400
25
30
35
40
エンジン出力 kW
45
図 18 過給機の特性比較
過給機 の特性比較
37
50
b -③ ブ -スト温度の設定
ブ−スト温度は筒内の圧縮端ガス温度に大きく影響するので,ノッキングや失火を発生させる
重要な因子である.開発したエンジンは,インタ−ク−ラと冷却用電動ファンにより負荷毎で
のブ−スト温度の設定を可能とした.ベンチ試験でのブ−スト温度の設定にあたっては,試験
車両用インタ−ク−ラと同冷却用電動ファンを用い,そのシステムで温度制御が可能な範囲内
で設定した.燃料負荷が低い範囲においては,ブ−スト温度を高く設定するほうが失火しにく
くなり,熱効率は向上した.これは,燃焼室内壁温が低い軽負荷では投入燃料の燃焼割合が少
なく,総発熱量が低下するためと推察する.燃料負荷を増加すると,ノッキングを生じやすく
なるため,ブ−スト温度を下げることが効果的である.温度の上限は,ノッキングの発生を EGR
率と副室開弁時期の制御で抑制できる範囲とした.下限値は,失火の発生を EGR 率と副室開弁
時期の制御で抑制できる範囲とした.設定した結果を図 19 に示す.
ブ-スト温度 K
360
355
1800rpm
350
1700rpm
345
1600rpm
1500rpm
340
335
330
325
320
40%
50%
60%
70%
燃料負荷
図 19 ブ−スト温度
38
80%
90%
b -④
EGR ガス温度の影響
ベンチ試験において,EGR 系は車両用水冷式 EGR ク−ラ,EGR ク−ラ冷却水用ラジエータと同電
動式水ポンプを用いた.EGR ガスは,タ−ビン出口後の排気管下流から分岐し,EGR ク−ラを通
過後にタ−ボのコンプレッサ−手前で新気と合流させている.ク−ラ通過後の EGR ガス温度の
設定にあたっては,この車両システムで制御可能な範囲とした.
図 20 に 1700rpm,燃料負荷 50%(1 サイクル当たりの燃料量 0.167 L/cycle)にてブ−スト温
度を 353k 一定に制御して,EGR ク−ラ通過後のガス温度のみを連続的に変えた場合のエンジン
熱効率,および EGR ガスと新気と混合後の吸気の酸素濃度変化を示す.熱効率は EGR ガス温度
が 70℃前後で最も高い数値を示し,最適値が存在することがわかる.高負荷側では EGR ガス温
度が 403K 以上となると,ブ-スト温度を一定に制御しても空気過剰率が低下し,エンジンの熱
効率は確実に低下した.本燃焼方式では大量の EGR ガスを新気に還流させるため,EGR ク−ラ
内部が汚損されやすく,負荷毎の細かい温度制御が難しい.燃料負荷 75%にて EGR ガス温度が
約 383K 近辺になるように EGR ク−ラ冷却用電動水ポンプを設定して固定とした.EGR ク−ラ出
27.4
14.74
27.2
14.72
27.0
14.70
26.8
14.68
正味熱効率
26.6
14.66
酸素濃度
26.4
14.64
26.2
14.62
26.0
14.60
320
330
340
350
吸気酸素濃度 %
正味熱効率 %
口のガス温度が 398K を超える場合には EGR ク−ラを清掃,または交換することで対処した.
360
EGRク-ラ-出口温度 K
図 20
b -⑤
EGR ガス温度とエンジン性能
燃料の予混合率がエンジン性能に与える影響
図 21 にエンジン回転速度,燃料負荷,過給機が異なる条件で燃料の予混合率を 75%から 80%
に変えた場合のエンジン性能を示す.EGR 率は各試験条件で最適化している.予混合率を 5%上
げることで,燃料負荷 50%の場合には熱効率は約 0.5%,燃料負荷 63%では何れの条件でも熱
39
効率は約 1%向上した.本燃焼方式は,副室,主室,副室と主室を繋ぐ開閉弁を持ち,副室に
は過濃混合気,主室には予混合された希薄混合気が供給される方式であるので,予混合率を上
エンジン熱効率 %
げることにより,主室内に比較的均一な混合気の量が増え,燃焼が改善されるためと推察する.
32.5
32.0
31.5
31.0
30.5
30.0
29.5
29.0
28.5
28.0
27.5
27.0
燃料負荷63%:TCG仕様、1700rpm
y=0.2031x+13.711
燃料負荷63%:T仕様、1800rpm
燃料負荷50%:T仕様、1800rpm
74
75
76
77
78
79
80
81
予混合率 %
図 21 予混合率とエンジン性能
予混合率とエンジン性能
図 22 には予混合率を変えた場合の燃焼変化の一例として,燃料負荷 63%,1800rpm、副室開
弁時期一定(クランク角で上死点前 76.5deg)の条件で,予混合率 75%で吸気酸素濃度 14.7%,
予混合率 80%で吸気酸素濃度 14.1%,予混合率 80%で吸気酸素濃度 13.6%とした場合の熱発
生率の比較を示す.
予混合率 75%の時,全気筒ともノッキング,失火の発生は無く安定した燃焼状態にある.予
混合率を 80%に上げた場合,ノッキングの発生が見られたため,EGR 量を増やし,吸気酸素濃
度を 14.1%にすることで全気筒安定した燃焼を得られた.燃焼の開始時期,熱発生率のピ−ク
の位置ともに変化は見られない.更に,EGR 量を増し,吸気酸素濃度を 13.6%まで低下させた
時,燃焼の開始時期と熱発生率のピ−ク位置ともに遅れ側に変化した.これ以上に EGR 量を増
やすと失火傾向を示した.燃料負荷 63%,予混合率 80%,副室開弁時期 BTDC 76.5degCA の条件
では,吸気酸素濃度 13.6%となる EGR 条件が失火限界,14.1 になる EGR 条件がノッキング限界
と判断できる.熱効率は,予混合率 75%のときに 29%,予混合率 80%で吸気酸素濃度 14.1%
のときに 29.92%,予混合率 80%で吸気酸素濃度を失火限界である 13.6%としたときに 30.3%
となった.何れの条件においても燃焼期間には差が見られない.予混合率を上げ吸気酸素濃度
40
を 14.7%から 14.1%にしたとき,後燃え期間の発熱量が減少し,主燃焼期間の熱発生率のピ−
クが増加している.その結果,熱効率が向上している.失火限界近くで最も熱効率が高くなる
のは、燃焼期間が変わらないが上死点前 25deg 近辺でおきていた燃焼開始がクランク角で
5 10deg 遅れ,上死点前 5 10deg でおきていた主燃焼の開始時期がほぼ上死点位置に移行し,
上死点後の膨張行程における燃焼割合が増えるためと推察する.
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1800rpm,燃料負荷 63%,予混合窒 75%,吸気酸素濃度 14.7%
224-9
#3cyl
#4cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60
Crank Angle [deg]
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
Rate of Heat Release [J/deg]
#2cyl
Pressure
[MPa]
#1cyl
1800rpm,燃料負荷 63%,予混合窒 80%,吸気酸素濃度 14.1%
224-10
#3cyl
#4cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60
Crank Angle [deg]
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
224-10
Rate of Heat Release [J/deg]
#2cyl
Pressure
[MPa]
#1cyl
1800rpm,燃料負荷 63%,予混合窒 80%,吸気酸素濃度 13.6%
224-11
#3cyl
#4cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
0
Crank Angle [deg]
図 22 予混合率違いでの熱発生率
41
30
60
Rate of Heat Release [J/deg]
#2cyl
Pressure
[MPa]
#1cyl
224-9
224-11
b -⑥
エンジン回転速度低下による熱効率改善効果
エンジンの回転速度を下げると,機械損失が低減するので,燃焼が一定であれば正味熱効率は
向上する.しかし、ノッキングを発生しやすくなるので,その抑制のためには EGR 率を上げて
吸気の酸素濃度を下げ,同時に空気過剰率が低下しないようにブ−スト圧を上げる必要がある.
ブ−スト圧を上げるためには,回転速度毎にタ−ビンノズル出口の総ガス通路幅を最適化する
ことが必要である.
図 23 にはエンジン回転速度を変え,ブ−スト圧,副室開弁時期,EGR 率等の燃焼制御に対する
主要な因子を変えることで燃焼を最適化した場合のエンジン性能を示す.回転速度を下げるこ
とによって熱効率は負荷の全域で向上した.特に,軽負荷においても熱効率が大きく向上して
いることは,回転速度低下による機械損失が大きく寄与していることを示唆している.図 24
には1サイクル当たりの燃料投入量に対するエンジン回転速度違いの正味平均有効圧を示す.
何れの回転速度においても投入燃料の増加に対し,正味平均有効圧は直線的に増加している.
各試験条件とも,これ以上に燃料を増加するとノッキングが発生し,燃焼の制御が困難となり,
熱効率は大幅に低下した.投入した燃料に対し,正味平均有効圧が直線的に延びていることよ
り,ノッキングが発生する直前まで燃焼の悪化は生じていないものと思われる.このことは,
出力を増大させるときの最大の阻害要因がノッキングであることを示唆している.
図 25 にはエンジンの各回転速度に最適化した過給機仕様でのブ−スト圧とタ-ビン入り口圧を,
図 26 にはブ−スト圧とタ−ビン入り口圧の差圧を示す.エンジン回転速度毎に過給機のタ−ビ
ンノズル部を最適化することにより,エンジン回転速度が低いほどブ−スト圧とタ−ビン入り
口圧の差圧が小さくなる.このことは,吸排気行程におけるポンピング仕事の減少が,低回転
速度域での熱効率の向上に寄与していることを示すとともに,エンジン回転速度の使用領域を
広げるためにはタ−ビンの VGS 化が有効であることを示している.
図 27 には基準となる車両試験に供試した 1800rpm,熱効率 30%の仕様に対し軽負荷と高負荷に
おける燃効率改善に寄与した項目の効果の内訳を示す.機械損失はエンジンをモ−タリングで
運転し,その時のフリクションデ−タを用いて摩擦平均有効圧を求めた.吸排気行程における
ポンピング仕事の増減は,ブ-スト圧とタ−ビン入り口圧の差より計算した.燃焼改善分は,エ
ンジンの正味平均有効圧の差より各摩擦平均有効圧の差とポンピングロスの差を減じた残り分
とした.熱効率向上に対して,負荷が低い領域では回転速度を低下することによる機械損失低
減の効果が大きく,負荷が高い領域では低回転速度化による機械損失の低減とともに,過給機
の仕様を最適化することによる吸排気行程でのポンピング仕事の低減が大きく寄与することが
わかる.燃焼改善による効果は高負荷側では少ない.これは負荷の増加に従って燃焼室壁温の
42
上昇により,予混合気の燃焼速度が早くなりノッキングを生じやすくなるために,燃焼を制御
できる因子の制御幅が狭まるためである.
デ-タ:C
35
1500rpm、タ-ビンノズル絞り違い
34
1800→1750→
1700rpmへ
33
31
デ-タ:B
1600rpm
30
29
デ-タ:A
28
1700rpm,タ-ビンノ
ズル絞り違い
27
熱効率30%にて実車試験に供試:比較基準
JARI殿試験にて車両燃費は基準車の1.7倍
26
1800rpm、タ-ビンノズル絞り違い
25
20
25
30
35
エンジン出力 kW
40
45
50
図 23 エンジン回連速度と熱効率
0.85
0.80
正味平均有効圧 MPa
熱効率 %
32
0.75
0.70
0.65
0.60
0.55
デ-タ:A
(1800rpm)
デ-タ:B
(1600rpm)
デ-タ*C
(1500rpm)
0.50
0.45
0.40
0.35
0.15
0.17
0.19
0.21
0.23
0.25
1サイクル当たりの供給燃料 l/cycle
図 24 エンジン回連速度と正味平均有効圧
43
0.27
0.29
エンジン回転速度と最適化したブ-スト圧とタ-ビン入り口圧
1500
1400
デ-タ:A(1800rpm)のブ-スト圧
圧力 mmHg
1300
タ-ビン入り口圧
デ-タ:A(1800rpm)のタ-ビン入り口圧
1200
デ-タ:C(1500rpm)のブ-スト圧
1100
デ-タ:C(1500rpm)のエンジンのタ-ビ
ン入り口圧
デ-タ:B(1600rpm)のブ-スト圧
1000
900
デ-タ:B(1600rpm)のタ-ビン入り口圧
800
700
ブ-スト圧
600
20
30
40
エンジン出力 kW
50
図 25 エンジン回転速度と過給機の特性
エンジン回転速度と過給機の特性
エンジン回転速度と最適化した過給機でのブ-スト圧とタ-ビン入り口圧の差
450
400
差圧 mmHg
350
300
250
200
150
デ-タ:A(1800rpm)
100
デ-タ:B(1600rpm)
50
デ-タ:C(1500rpm)
0
25
30
35
40
45
50
55
エンジン出力 kW
図 26 過給機違いでの給・排気の差圧
過給機違いでの給・排気の差圧
軽負荷での熱効率改善効果内訳
高負荷での熱効率改善効果内訳
燃焼改善分
燃焼改善分
エンジン回転速度低
下によるメカロス分
タ-ビン仕様変更によ
るポンプロス分
エンジン回転速度低
下によるメカロス分
タ-ビン仕様変更によ
るポンプロス分
図 27 正味熱効率向上効果
44
図 28 には燃料負荷 75%における熱発生率の比較を示す.各回転速度にて熱発生率の形に大き
な差はなく,副室の開弁時期後の燃焼と思われる初期の燃焼の熱発生が少なく,予混合燃焼の
燃焼が主と思われる部分の熱発生率が急激に立ち上がり,後燃え部が少ない本燃焼方式の特徴
をよく示している.1800rpm の燃焼と比べ,1600rpm,1500rpm では上死点前に生じる初期の熱
発生が比較的少ない.これは 1800rpm での予混合率が 75%であるのに対し,1600rpm,1500rpm
では予混合率を 80%としているので,副室内燃料量が少なく,副室で生じる初期の発熱量が減
っているためと推察する.燃焼期間は,後燃え部の終了位置が不明瞭であるので明確に判断す
ることは難しいが,1800rpm ではクランク角で概ね 55deg,1500,1600rpm では概ねクランク角
で 50deg 程度である.高い熱発生を示す主燃焼に続く後燃え部分の熱発生率は,1800rpm での
燃焼と比べ 1500rpm,1600rpm の場合は比較的少なく,予混合率が高く,主室内で比較的均一な
混合気量が増えるためと推察する.燃焼期間がほぼ同一であっても,予混合率を上げることで
上死点前の燃焼量と後燃え期間の燃焼量が減少していることが熱効率の向上に寄与しているも
のと推察する.
45
1800rpm
2 7 2- 9
#2cyl
#4cyl
#3cyl
Pressure
[MPa]
#1cyl
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
C ra n k A n g le
0
30
60 -30
0
30
60
[d e g ]
Rate of Heat Release [J/deg]
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1600rpm
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
3 06 - 5
#4cyl
#3cyl
200
150
100
50
0
0
30
60 -30
0
30
60 -30
C ra n k A n g le
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
0
30
60 -30
0
1500rpm
60
3 08 -4
#1cyl
#2cyl
#4cyl
#3cyl
Pressure
[MPa]
30
[d e g ]
200
150
100
50
0
-30
0
30
60 -30
0
30
60 -30
C ra n k A n g le
0
30
60 -30
[d e g ]
図 28 燃料負荷 75%における熱発生率の比較
75%における熱発生率の比較
46
0
30
60
Rate of Heat Release [J/deg]
-30
Rate of Heat Release [J/deg]
#2cyl
Pressure
[MPa]
#1cyl
b -⑦ CNG セラミックスエンジン用 ECU の開発
CNG セラミックスエンジン用 ECU の開発にあたり,まだ予混合圧縮着火燃焼の燃焼バラツキに
対応できるエンジン制御用コントローラを試作開発し,プログラムにより対応した.開発した
エンジン用 ECU のブロック図を図 29 に示す.
CNG インジェクタは各気筒の主室・副室に装着され,計 8 個のインジェクタ駆動用ドライバ(電
流制御機能付き)を搭載し,CPU により各インジェクタの噴射量や噴射タイミングを独立して制
御している.予混合圧縮着火方式は,燃焼室内の雰囲気温度による影響が極めて大きいので,
高分解能の熱電対専用入力回路を実装し,燃焼に影響する各部位の温度を測定し,その温度に
対応したマップデ−タを用いて気筒毎のインジェクタ燃料流量・EGR・VVT 等を微調制御するこ
とで燃焼を安定させている.
セラミックス CNG
エンジン用 C/U ブロック図
グロープラグ
(主室)×4
シリンダヘッド温度
グロープラグ
駆動信号(主室)
オイル温度
グロープラグ
(副室)×4
EGR 冷却水温度
吸気圧力
排気圧力
進角信号
VVT
LIM SW
遅角信号
エンジン
回転センサ
1°信号
気筒別信号
GND
Vehicle
Control
Unit
グロープラグ
駆動信号(副室)
吸気絞り弁
駆動信号
吸気絞り弁
EGR 弁
駆動信号
EGR 弁
VVT
駆動信号
VVT
インジェクタ
駆動信号(主室)
4
インジェクタ
駆動信号(副室)
4
CAN
RS232
操作パネル
TCG
Control
Unit
エンジン
コントロール
ユニット
(32bit RISC CPU)
RS422
オイルクーラー
ファン駆動信号(ON/OFF 温調)
インタークーラー
ファン駆動信号(連続温調)
キースイッチ
主電源
バックアップ電源
24V
バッテリー
EGR クーラー
ファン駆動信号
EGR 冷却水
ポンプ駆動信号
アース
図 29 エンジンコントローラのブロック図
47
インジェクタ
(主室)×4
インジェクタ
(副室)×4
M
M
M
M
2.2
要素技術開発:排気エネルギ回収システム(TCG
要素技術開発:排気エネルギ回収システム( TCG)の開発
TCG)の開発
2.2.1
a.
発電機付ターボチャージャ(TCG
発電機付ターボチャージャ(TCG)の試作,評価
TCG)の試作,評価
発電性能
17 万 rpm 仕様と 14 万 rpm 仕様の TCG を試作した.TCG の構造を図 30 に示す.各仕様のマグネ
ットロータの寸法を表 2 に,その発電試験結果を図 31 に示す.マグネットロータ外径を変更す
ることにより,14 万 rpm で 20kW の発電出力を得た.また,マグネットロータの質量が変わる
ことで懸念された回転時における一次共振点の低下は無いことを確認し,構造上の問題がない
ことがわかった.
表2
マグネットロータの諸元
17 万 rpm 仕様
14 万 rpm 仕様
外 径
[ mm ]
22
23.4
内 径
[ mm ]
10
10
長 さ
[ mm ]
60
63
ステ−タ
線間電圧 V
マグネットラ−タ
200
20
160
16
120
12
80
8
40
4
0
0
0
コンプレッサ
図 30
図 31
TCG の構造
48
発電出力 kW
タ−ビンタ
20
40
60
線電流 A
80
100
14 万 rpm における発電性能(測定値)
b .車載用 TCG の設計,試作,評価
エンジン性能向上のためにエンジンの回転速度,負荷に応じて EGR 率と給気圧力を調整する
ことが極めて重要であることを先に述べた.そこで,今回はエンジンの最適な運転条件を設定
するために,TCG の固定翼を変えることで給気圧力の調整を行った.この調整は,TCG のタービ
ンスクロールに取付けた静翼のノズル出口幅を変更することで行った.ノズル出口幅を小さく
すると,タービン動翼に流入する排気ガスの速度が増加し,TCGの回転速度が増すので,給
気圧力を上げることができる.今回,エンジン性能試験へ供試するために試作を行った TCG に
おける静翼の取付け位置と静翼の形状を図 32 に示す.
ノズル出口幅
図 32
TCG 構造タ構造タ-ビン側に配置した静翼の取付け位置
c .タービンの効率向上
エンジンに供給される給気圧力を高めるには,前述の通り,静翼出口のノズル幅を小さく
することで実現できる.しかし,現行のタービン効率では,給気圧力の増加量よりタービン入
口の圧力増加量の方が大きくなり,エンジンのポンピングロスが増加して熱効率が低下するこ
とが懸念される.
そこで,TCG のタービン効率を向上させるための対策として,以下の3項目について検討を行
った.
a. 翼の翼枚数の変更によるノズル損失の低減
b. 遮熱プレートの取付けによる熱損失の低減
c. ヒートインシュレータの形状変更による漏洩損失の低減
49
これらの対策のために変更する TCG 部品の対象部位を図 33 に示す.対策の効果については,実
際に試作を行い,タービン試験機を用いて確認を行った.得られた結果について以下に述べる.
ヒートインシュレータ
遮熱板
静翼
図 33
タービン効率向上対策の対象部位
d . 静翼の翼枚数変更による流体摩擦損失の低減
タービンを流れる排気ガスと静翼の接触部の面積を低減させ,流体の摩擦損失を減らすため,
静翼の翼枚数を初品の 13 枚から 9 枚,7 枚へ減らした静翼を作製し,タービン効率の測定を行
った.なお,測定を行った3種類の静翼は,同一の排気ガス流量で TCG の回転速度を同じとす
るために,ノズル出口総面積が一定となるように作製した.
タービン試験機により,TCG の修正回転数を 9 万 rpm 一定とし,タービン入り口,出口の圧
力比を変化させた場合のタービン効率を測定した結果を図 34 に示す.翼枚数を 13 枚から 9 枚
へ変更することにより,測定した圧力比の範囲においてはタービン効率を概ね 1.5%向上させ
ることができた.しかし,翼枚数を 7 枚まで減らした場合では,13 枚と効率に大きな差は見ら
れなかった.以上の結果から,このタービン仕様においては,静翼の翼枚数は,9 枚が最適で
あることがわかった.
50
65
タービン効率 %
64
9枚
7枚
63
62
13枚
61
13枚
7枚
60
2
2.1
2.2
図 34
2.3
2.4
圧力比
2.5
2.6
2.7
静翼の翼枚数変更によるタービン効率向上
e. 遮熱板による熱損失の低減
排気ガスの熱エネルギの一部は,静翼に伝わり,スクロールを通過して,外部の配管等に伝
わっていく.この熱損失を低減し,有効エネルギを増加させるため,静翼とスクロールの間に
低熱伝導材にて作製した遮熱板を設け,タービン効率の向上を図った.タービン試験機による
遮熱板有無のタービン効率の測定結果を図 35 に示す.静翼とタービンスクロール本体との間に
遮熱板を設置することにより,熱損失を低減させ,タービン効率を最大 1.7%程改善できるこ
タービン効率 %
とがわかった.
65
64
遮熱板有
63
62
遮熱板無
61
60
2
図 35
2.1
2.2
2.3
2.4 2.5
圧力比
2.6
遮熱板によるタービン効率向上
51
2.7
2.8
f. ヒートインシュレータの変更による漏洩損失の低減
TCG のセンターハウジングとタービンスクロールの間には,タービンを流れる排気ガスの熱
を遮り,流路の一部を形成するためのヒートインシュレータが設けられている.そこで,この
インシュレータの形状を変更し,動翼との隙間を小さくして漏洩損失の低減を試みた.ヒート
インシュレータ形状の変更前後におけるタービン効率の測定結果を図 36 に示す.ヒートインシ
ュレータ形状を変更することで漏洩損失が低減でき,タービン効率を 1∼1.5%程向上できるこ
とがわかった.
67
タービン効率 %
66
形状変更後
65
64
63
形状変更前
62
61
2.1
図 36
2.2
2.3
2.4
圧力比
2.5
2.6
2.7
ヒートインシュレータの形状変更によるタービン効率
以上より,静翼の翼枚数を 9 枚にし,静翼裏に遮熱板を取付け,更に,ヒートインシュレー
タの形状変更による漏洩損失の低減を行うことにより,タービン効率を約 4.2%向上させるこ
とができた.エンジンの性能試験には,これらの 3 つの効率向上策を施した上で,各エンジン
回転速度で給気圧力が最適となるように静翼のノズル出口幅を変更した TCG を供試し,前述の
エンジン性能を得ることができた.
52
2.2.2
TCG 用コントローラの開発
TCG 用コントローラの構成を図 37 に,TCG 用コントローラの主回路構成を図 38 に示す.過給機
能(電動機動作)と回収機能(発電機動作)を持つ双方向インバータ・コンバータで,エンジンコ
ントローラと連携して動作する.
過給機能では,TCG に組み込まれた永久磁石式同期発電電動機を電動機運転させることによ
り,TCG は過給機として機能する.電動機運転制御は,誘起電圧から位相を検出して,通電タ
イミングと回転数を演算し,駆動電圧を昇降圧させる PAM 制御によって任意の過給圧(タービン
回転速度)になるよう出力を制御している.
排気エネルギ回収時には発電機動作となり,発電されたエネルギを駆動用直流高圧バスに供
給し,走行駆動用エネルギとして有効利用される.
発電制御は,任意の過給圧(タービン回転速度)を維持するよう,昇降圧コンバータで回収発
電電力を制御している.
TCG コントローラー
タービン
超高速
車両駆動系
主回路
発電電動機
直流電源部へ
過給機
シリアル通信(ECU)
制御基板
CAN 通信(VCU)
TCG
図 37 TCG 用コントローラ
IPM ドライバ
ドライブ I/F
エラー I/F
エラー I/F
L
CT
IPM1
IPM2
IPM3
図 38 TCG コントローラ用主回路
53
回路
IPM ドライバ
ドライブ I/F
電圧検出
回路
電圧検出
ドライブ I/F
エラー I/F
回路
位相検出
IPM ドライバユニット
Relay
Fuse
2.3
要素技術開発:発電電動機駆動,回生システムの開発 8)
2.3.1
発電電動機駆動システムの試作,評価
a.車載用発電電動機,イン
a.車載用発電電動機,インバータ/コンバータの試作評価
車載用発電電動機,イン バータ/コンバータの試作評価
表 3 に試作した発電電動機の仕様を,表 4 に(インバータ/コンバータ)の仕様を示す.図
39 に試作した発電電動機,図 40 に試作したインバ−タを示す.
表3
項目
目標値:出力
目標値:最高効率
ロータ構造
定格出力
最大出力
最高回転数
最大トルク
定格電圧
冷却方式
位置検出
動作雰囲気温度
耐震性
耐水性
寸法
重量
項目
目標値:最高効率
電源電圧範囲
最大容量
定格電流
最大出力電流
最大出力電圧
INV最高出力周波数
通信機能
冷却方式
動作雰囲気温度
耐水性
制御電源
耐震性
寸法
重量
発電電動機仕様
仕様
50kW
96%
%
96
IPM 型
50 kW/5900 min-1
74 kW(30 秒)
12750 min-1
190 Nm/3750 min-1
200 Vrms
水冷(LLC)
エンコーダ
-30∼80 ℃
4.5 G
JIS D0203-S1 相当
Φ206×320
約 40 kg
仕様値
98%
98%
DC 50∼400 V
185 kVA
150 Arms
400 Arms(30 秒)
270 Vrms
900 Hz
CAN ver2.0b
水冷(LLC)
-30∼80 ℃
JIS D0203-S1 相当
12 V
4 G
W600×D523×H180
約 36 kg
54
図 39
図 40
発電電動機
インバータ
図 41 に電動機とインバータを組み合せた出力特性の試験結果を示す.
試験結果より,目標出力を達成している事を確認した.
出力トルクが発電電動機仕様の最大トルクに達していないが,これは保護の為にインバ
ータ制御プログラムにて上限リミットを設定しているためである.
図 42 に,電動機とインバータを組み合わせた効率マップを示す.試験結果より,組み合わせ
での最高効率は 93.3%(6000min-1,40Nm)に達しており,設計目標の 94%をほぼ達成した.
ただし,評価モードである M15 モードでは,図中の点線部分(約 5000min-1,40Nm)の
範囲で運転され,実効率としては低出力で効率の悪い領域が含まれるため,車両での M15 モ−
ド走行時の平均効率は 86%程度になる見込みである.
インバ−タは単体の目標最高効率 98%に対し 77.2Nm、4219rpm の出力時に 98.5%となり、目
標を達成した。また、発電電動機単体の目標最高効率 96%に対し、後述の図 58 に示すように
M15 モ−ド走行パタ−ンを模したリグ試験にて 96%を示し、目標を達成した。
55
走行速度 [km/h]
200
0
10
20
180
最大出力
160
計測値
30
40
50
60
70
80
90
100
勾配 25%
20%
トルク [Nm]
140
15%
120
100
10%
定格出力
80
5%
60
40
0%
20
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
-1
図 41
回転数 [min ]
電動機+インバータ出力特性
200
51
69
55
72
50
52
M15で使用する出力
59
81
67
150
トルク[Nm]
53
79
60
82
74
88
89
55
76
58
84
100
58
77
51
90
92
57
87
61
91
52
54
80
92
56
93
57
83
50
93
63
50
92
86
66
52
0
0
78
85
50
53
2000
59
56
4000
62
65
54
6000
51
8000
回転数[min-1]
図 42
電動機+インバータ効率マップ
56
60
10000
64
12000
b .車両制御システム
図 43 に車両制御システムの概要を示す.インバータ・コンバータ・キャパシタコントローラ・
エンジンコントローラ等の各要素が最適な状態で動作するように,これらを監視し集中コント
ロールを行うメイン制御部としてビークルコントロールユニットを試作した.仕様を表 5 に示
す.
( 水冷)
( 水冷)
( 水冷)
( 水冷)
CNG
コンバータ
増速ギヤ
タービン
発電機
発電機×2
コンバータ
デフ直結
減速ギヤ
電動機×2
インバータ
ブレーキ制御ユニット
排気エネルギー回収ユニット
エンジン制御ユニット
(EVCコントローラ付)
キャパシタ制御ユニット
ウルトラキャパシタ
(14年度高性能品に交換)
(CAN2.0B)
車両電装機器
DC-DCコンバータユニッ
ラジエータ+電動ポンプ
運転者操作情報入力
状態情報出力
( 水冷)
制御系用水冷冷却ユニット
情報表示
ビークルコントローラ
表
5
図 42
制御システム図
ビ−クルコントロ−ルユニットの仕様
項目
仕様
CPU
32bit RISC マイコン 内部クロック 40MHz
メモリー
CPU 内臓 RAM 40kB フラッシュ ROM 768kB
外部シリアル EEP-ROM256kB
アナログ入力
8点
I/O 入力
絶縁32点
I/O 出力
絶縁24点
シリアル通信
RS-232C 2ch
CAN通信
絶縁 1ch 2.0B 500kbps
表示機能
電源電圧
外部タッチパネル表示
LED 表示8点
DC 20∼32V
動作温度
-30∼80℃
57
リレー8点
コントロールライン
パワーバスライン
c.車載用
c.車載用 DCDC-DC コンバータの試作
キャパシタ又は発電機から,車両補機類へエネルギ供給する為に試作した車載用 DC-DC
コンバータの仕様を表 6 に,その外観を図 43 に動作試験の結果を図 44 に示す.
表6
DCDC-DC コンバ−タの仕様
項目
入力電圧範囲
出力電圧1
出力電流1
出力電圧2
出力電流2
制御電源
冷却方式
主回路方式
外形寸法
重量
図 43
仕様
DC 50∼320 V
DC 14.25 V
127 A
DC 28.5 V
69 A
DC 16∼33 V
水冷(LLC)
入出力間絶縁方式
W380×D360×H400 mm
約 72 kg
車載用 DCDC-DC コンバータ外観
50
140
45
出力電流1
40
出力電圧 [V]
35
100
出力電圧2
30
25
出力電流2
20
80
60
出力電圧1
15
40
10
20
5
0
0
50
100
150
200
250
300
入力電圧 [V]
図 44
車載用 DCDC-DC コンバータ動作試験
58
0
350
出力電流 [A]
120
d .電気二重層キャパシタの試作
試作したキャパシタの仕様を表 8 に,単体の外観を図 45 に,その組合わせを図 46 に示す.
表 7 に示す様に,目標性能を満足していることを確認した.
表7
電気二重層キャパシタの仕様(目標値と性能)
目標値:最大貯蔵エネルギ
最大出力
充放電平均効率
測定値:最大貯蔵エネルギ
最大出力
充放電平均効率
ESR 1kHz,25℃
DCIR 10A,DC,25
定格使用電圧
使用温度範囲
図 45
312k
312k J
35.7k
35.7kW
92%
92%
1714k
1714kJ
79.2k
79.2kW
92%
92%
<0.5mΩ
<1.0mΩ
2.3V
-30∼60℃
セル単体の外観
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
30セル直列
セル直列
バンク:90
バンク: F
図 46
ユニット:45 F / 276 V
ユニット:
セルの組合わせ
59
e.車載用キャパシタ充放電制御装置の試作
e.車載用キャパシタ充放電制御装置の試作
車両搭載用のキャパシタ充放電制御装置の設計にあたっては下記の内容を中心検討を行った.
試作したキャパシタ充放電コントロ−ラの仕様を表 8 に,設計時の充放電領域検討結果を図 47
に試作した制御基盤の外観を図 48 に,主要回路を図 49,50 に示す.
1. システムの簡素化・軽量化のために,自然空冷方式(走行風利用)を採用した.
2. 筐体を防水・防塵構造とし,各部品や配線等の振動対策を施した.
3. 制御基板を小型化した.CPU を高性能なものに変更し,CAN 対応とした.
表8
充電
放電
400
備考
最大 300V
定格 320 V
連続
短時間(5 秒)
500kbps
Max.40kW
短時間放電
300
200
Max.25kW
連続充放電可能領域
100
0
200V
充放電電流 [A]
共通
キャパシタ充放電コントローラー仕様
項目
数値
定格充電出力
25 kW ,250 A
充電出力電圧
240 V
最大入力電圧
400 V
定格放電出力
25 kW ,250 A
最大放電出力
40 kW ,400 A
動作周囲温度
-30℃∼65℃
通信機能
CAN2.0b
0
100
200
キャパシター電圧 [V]
図 47 充放電マップ
図 48
キャパシタ制御基板
図 50 制御基板取を付けた状態
f.キャパシタ端子電圧アンバランスの評価
図 49 キャパシタ充電制御主回路部
60
M15 モードによるリグ評価試験(多数回)の後に,使用したキャパシタユニットの端子
電圧の測定をおこなった。
図 51 は, キャパシタバンク(1 バンクは 30 セルを直列)
50
バンク端子電圧 [V]
を 4 台直列に接続し,約 177[V]に充電した状態で各バンク
毎の電圧を測定した結果である.
その結果,キャパシタバンク毎の大きな電圧の
ばらつきは確認されなかった.
図 52 は,上記と同じ充電状態でバンク No.7
内部のセル毎の電圧を測定した結果である.
43.3 43.9
43.9
45.4
40
30
20
10
0
セル毎の電圧のばらつきが確認されるが,高電圧側
へのばらつきは少ない.これは,バランサー回路が
図 51
No.7 No.6 No.2 No.3
バンク No.
直列接続のバンク毎の電圧
適切に働いてセル過電圧防止の効果が生じているものと考
えられる.それに対して,低電
圧側へのばらつきが目立つ.バランサー回路には低電圧側へのばらつきを防止する機能は
備わっていないためと推測できる.
2.0
1.8
1.6
セル電圧 [V]
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
6
図 52
11
16
21
バンク No.7 内のセル電圧 (充電状態 )
61
26
セルNo.
図 52 の状態から,抵抗を接続して完全放電させた後に測定した結果が図 53 である.セル電
圧のばらつきは完全放電によっては解消されないことを確認した.ここで問題となるのが,低
電圧側にばらついたセルが負電圧に充電されることであり,これは劣化の促進につながるので
低電圧側へのばらつきの抑制・負電圧の防止等の機能をバランサー回路に追加する.
0.3
0.2
0.1
セル電圧 [V]
0
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
-0.6
-0.7
1
6
図 53
11
16
21
バンク No.7 内のセル電圧(
内のセル電圧(放電後)
放電後)
62
26
セルNo.
2.3.2
制動エネルギ回生システムの試作,評価
試作を行った各構成要素(発電電動機,インバ−タ/コンバ−タ,キャパシタ/制御装置)を台
上にて組合せて, M15 モードのパターン運転を評価試験リグ装置にて行い,各要素の効率及び
総合効率,目標燃費に対する評価検討を行った.
評価試験リグ装置は,駆動用電動機が繋がるロードシミュレーションリグと,発電機が繋が
るエンジンシミュレーションリグ,各計測データを収集する自動計測システム,車重等の条件
から M15 パターンに合わせて指示を出力する統合試験制御システムからなっている.図 54 に評
価試験リグ装置ブロック図を,図 55 に統合試験制御・自動計測システムを示す.
車両には電動機・発電機夫々が2台並列に搭載されるが,試験では電動機・発電機各 1 台に
て行った.また,キャパシタについては,本来は 1/2 の容量で行うべきだが,初期の試作キャ
パシタのため,今回車両搭載分(25[F], 300[V])全てを用いた.条件設定した条件を表 9 に示す.
試験は,キャパシタの SOC(充電状態)約 54%(端子電圧 220[V])から行い,M15 モードパターン
を 3 回連続して行った.また,キャパシタから,エンジンによる発電への切り替わりは,本来
はビークルコントロールユニットにて最適なポイントを演算し,エンジン始動・発電開始を行
うが,本試験では燃費シミュレーションを行った際の切り替えポイントである走行速度 25km/h
を境に行うこととし,エンジン停止は 0km/h で行う事とした.なお,燃費シミュレーションで
は減速時はエンジン停止としていたが,本試験では,実際に合わせてアイドリング状態とした.
表9
試験条件車両設定
項目
設定
車両重量
4000 kg
積載
1000 kg
タイヤ有効半径
373 mm
空気抵抗係数
0.003
走行抵抗係数
0.015
前面投影面積
3.9 m2
発電機増速比
1:4
電動機減速比
3.1:1
ファイナルギア(デフ)
5.857:1
63
図 54
評価試験リグ装置ブロック図
自動計測システム
キャパシター
コントローラ
VCU
インバータ
統合制御システム
コンバータ
図 55
統合試験制御・自動計測システム
64
エンジンシミュレーションリグ
ロードシミュレーションリグ
電動機取付部
発電機取付部
潤滑装置
図 56
発電電動機試験リグ装置
試験の結果を図 57 及び図 58 に示す.
キャパシタの SOC(充電状態)54.1%から M15 モードパターン運転(3 回繰り返し)を行った後の
SOC の値は 57.4%とプラスとなった.このことより,試作した発電電動機駆動・回生システムは,
車両での目標燃費を達成させるための要求機能・性能を充分満足できるものであり,要素技術
としての目標を達成していることを確認した.またシステムの総合平均効率は 79.5%であった.
尚,今回の試験に用いたキャパシタは一次試作品で性能劣化(特に内部抵抗増加)が著しく,そ
の為キャパシタ単体の効率が悪い結果となっている.二次試作キャパシタを用いた場合のシス
テムの総合平均効率は 82.9%と予測される.また,低出力域での電動機・インバータの効率が
低い値となっており,システム総合平均効率低下に影響している事が分かる.
65
発電機回転数
[RPM]
発電機軸入力
[kW]
キャパシター端子電圧
[V]
キャパシター出力
[kW]
電動機出力
[kW]
電動機トルク
[Nm]
車速
[km/h]
50
40
30
20
10
0
60
40
20
0
-20
-40
30
20
10
0
-10
-20
30
20
10
0
-10
-20
250
200
150
100
50
0
50
40
30
20
10
0
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
100
図 57
200
時間 [sec]
300
M15 モードパタ−ンでの試験結果(
モードパタ−ンでの試験結果(出力)
出力)
66
400
車速
[km/h]
電動機効率
[%]
インバーター
効率 [%]
キャパシター制御
効率 [%]
キャパシター
効率 [%]
発電機効率
[%]
コンバーター
効率 [%]
総合効率
[%]
50
40
30
20
10
0
100
90
80
70
60
50
100
90
80
70
60
50
100
90
80
70
60
50
100
90
80
70
60
50
100
90
80
70
60
50
100
90
80
70
60
50
100
90
80
70
60
50
0
100
図 58
200
時間 [sec]
300
400
M15 モードパタ−ンでの試験結果(
モードパタ−ンでの試験結果(効率)
効率)
67
2.3.3 総合効率の改良(
総合効率の改良 (制御系)
制御系 )
車両燃費改善のための電気系エネルギマネジメントの最適化のため実施した項目を以下に示す.
a.インバータ動作電圧(
a.インバータ動作電圧 (対回転数)
対回転数 )の改良
永久磁石式同期電動機は,回転数(=走行速度)に比例して誘起電圧が上昇するため,制御するイ
ンバータへ入力する電圧は誘起電圧より高い電圧が必要となる.一方,キャパシタは残存容量
(SOC)が下がるにつれて端子電圧が下がる特性があるため,SOC が下がると走行可能速度(=電動
機回転数)が下がる.
開発した駆動システムでは磁石埋蔵型電動機(IPM)を採用し,誘起電圧より電源電圧が低い場合,
昇圧回路を用いずに,制御インバータで弱め界磁制御を行うことで,キャパシタでより広い範
囲の走行を可能にした.
b . キャパシタ上限電圧制限の変更
開発当初は安全製確保のため,キャパシタ端子電圧の上限を 240V に制限(240V)したが,信頼性
の向上につれて上限電圧の制限を 264V に引き上げた.これにより,SOC 常用帯域(60∼90%)の
電圧レベルが上がったことで電流が下がり,キャパシタ内部抵抗による損失が減少して効率を
改善した.
c . 電動機並列運転の出力配分制御機能
電動機並列運転の出力配分制御 機能
走行駆動用電動機は減速ギアを介して並列に連結されている.走行駆動時およびブレーキ制動
回生動作時に,2台の電動機へのトルク指示を最も効率が高くなるように配分することで,電
動機による損失を改善した.
d .中速(40km/h)
中速 (40km/h)低出力時のキャパシタによる走行機能
(40km/h)低出力時のキャパシタによる走行機能
走行出力が低い一定速走行時の場合,エンジン出力による発電では効率が悪いため,低出力時
に SOC が高く十分なインバータ供給電圧が確保できる場合にはキャパシタの出力で走行走行す
る制御とした.
e.ブレーキ回生時のペダル操作適正アドバイス機能
走行試験で,運転者の運転操作の仕方によって,ブレーキ制動時のエネルギ回収効率に大きく
バラツキが見られた.運転者のブレ−キ操作方法の違いによるブレ−キ回生エネルギ量のバラ
ツキを少なし,より効果的な回生を行うために適切なペダル操作を促すためのアドバイスを音
によって行う機能を追加した.
f . ファン等補機類の運転方法改良
アイドルストップに対応することにより,従来エンジンに直結し駆動されていた補機類は電
動化された.その結果,補機駆動のためのエネルギ消費量が増え,特にキャパシタによるエネ
68
ルギ供給中は無視できないレベルであるため,より細かく制御しエネルギ消費を抑えるための
最適化を実施した.
以上のような制御系の最適化を行った結果,M15 モードシャシダイナモ試験において,キャ
パシタまたは発電機と電動機間の効率を比較した結果を図 59 に示す.改良前と比較して,改良
後の効率が上がったことが確認され,目標燃費を達成することができた.
駆動
回生
発電機
電動機
キャパシタ
○
100
改良前
改良後
CAP or GEN / MOT
efficiency %
80
60
40
20
回生側
0
-30
-20
駆動側
-10
0
10
Motor Power kW
図 59 制御系総合効率の改良
69
20
30
40
2.3.4 CNG セラミックスエンジンと車両制御系の連携
セラミックスエンジン搭載に関わる制御系の開発を行った.
a.VCU
a.VCU とエンジン ECU の連携機能
エンジン ECU は車両統合制御装置(VCU)と CAN 通信でリンクし,VCU によって走行状態,キャパ
シタ SOC 等からエネルギのマネジメントを行い,状況に応じてエンジンの運転をエンジン ECU
へ指示している.
b.エンジン出力時の発電機との連携
エンジン出力による発電動作時には,VCU によってエンジンの状態を監視しながら,発電機出
力の制御をコンバータへ指示し,最適な運転状態を維持させている.
3.
成果のまとめ
a.エンジン単体は目標の最高熱効率 35%に対し,気筒毎の空燃比(A/F)を揃えることによ
り気筒間燃焼のばらつきを低減することで 1500rpm にて最高熱効率 35.1%を達成し目標を達成
した.
b. 発電機付きターボチャージャは,目標値である発電出力 20kW/14 万 rpm に対し,14 万 rpm
にて発電出力 20kW を達成し,目標を達成した.
c. 発電電動機は,目標最大出力/最高効率の 100kW/96%に対し 100kw/96%を達成した.
d. インバ−タとコンバ−タは,目標最高効率 98%に対し,98.5%を達成し,目標を満足した.
e.電気二重層キャパシタは,目標値である最大貯蔵エネルギ 312kW,最大出力 35.7kW,充放
電平均効率 92%に対し,最大貯蔵エネルギ 1714kJ,最大出力 79.2kW,充放電平均効率 92%を
達成し,目標を達成した.
f.セラミックスエンジンに合わせたエネルギマネジメントの改良と,総合効率の改良を行い,
シリ−ズ型ハイブリッド車両システムとして車両での総合評価における目標燃費達成の目処を
つけた.
70
参考文献
1) 中島他,Development of a heat insulated natural gas engine for hybrid vehicle,JSAE,
No.176,1999
2) H.Kawamura, Study of Construction and Tribology in Heat Insulated Ceramic Engine,
SAE 900624,1990
3) 松岡他,天然ガスを用いた開閉弁付き副室式遮熱エンジンの開発、自動車技術会
論文集、Vol.28,No.3,July 1997
4) K.Kisihshita,et al., Study of the of the optimization of electrical turbo-compound
system through computer simulation, JSAE Review 16(1995)239-243
5) 岸下他,電気式ターボコンパウンドシステムの研究(第1報),自動車技術会
学術講演会前刷集,9306327, 1993.10
6) 岸下他,電気式ターボコンパウンドシステムの研究(第2報),自動車技術会
学術講演会前刷集,9437476, 1994.10
7) 関山他,CNG セラミックスエンジンハイブリッドトラックの開発,自動車研究,2003.11
8) 深田他,ハイブリッドトラックの走行エネルギー回生装置,平成 16 年電気学会全国大会,
No4-184
71
(5)CNG
(5)CNG エンジン搭載高効率ハイブリッドトラックの研究開発:三菱ふそうトラック・バス(株)
(5)−1 開発コンセプト
急激なエネルギー消費増大と地球埋蔵エネルギー枯渇に対応するため、地球・人に優しく、また
物流の主役であるディーゼルエンジン搭載車を凌ぐ、画期的な高効率ハイブリッド車の研究開発を
行った。
本研究は現行ディーゼル車の有する高効率の特長を一段と高めることにより省エネルギー化を図
るとともに、地球温暖化の原因となる CO2 排出量を極限まで低減する。これにより日本の物流の向上
と資源の有効活用を図り、地球環境改善に役立てる。
具体的に実施する内容は以下のとおりである。
・熱効率が良く経済的に優れているディーゼルエンジン車を凌ぐ画期的な CNG エンジン搭載高効率
電気ハイブリッド車の研究開発
・開発車両は都市内物流の主役である積載量 2 トン級トラック(GVW 約6.3トン)
・シリーズパラレル併用、4 輪駆動高効率ハイブリッド駆動システムによる低燃費化の実現で、開発
するハイブリッドシステム概念を以下に示す。
ハイブリッドシステム概念図
(5)−2 全体計画
本研究の全体計画は以下の通り。
年度
H9(97)
10(98)
11(99)
12(00)
13(01)
14(02)
◎
◎
15(03)
最終評価
経済産業省殿中間評価
大日程
ステップⅠ(システム設計)
当社の
開発
日程
ステップⅡ (試験車製作)
ステップⅢ(実証検討)
実証試験車
▼ :システム固定
要素技術
要素技術
実証試験車
実証試験車
・検討
・試験
・設計
・試験
・試作
・評価
システム設計 ・設計
・評価
・試験
・評価
総合評価
まとめ
(5)−3 開発目標
二酸化炭素排出量および燃料消費量は現行生産積載量2トンクラスディーゼルトラックの1/2、
排出ガスは1/4(超低排出ガスレベル)とする。
72
(5)−4 要素技術の開発および評価
燃費2倍,排出ガス1/4を目標にシリーズ・パラレル併用4輪回生高効率ハイブリッドシステ
ムを開発した。その要素部品の開発及び試験・評価結果を以下に示す。
(a)CNGエンジン台上試験結果
台上G13モードでCNGエンジン単体試験を実施した。表 a−1に供試CNGエンジンの主要諸
元を示す。図 a−1にCNGエンジンシステム図、図a−2にCNGエンジン試験状況、図a−3に
燃費試験結果の熱効率換算を示し、エンジン単体の目標熱効率34%を達成したことを試験で確認
できた。図 a−4に排出ガス試験結果を示し、新短期排出ガス規制値の1/4以下を達成した。
表 a−1 CNGエンジン主要諸元
項目
諸元
エンジン型式
三菱4D34改型CNG
配列・内径×行程
直列4気筒・104×115mm
総排気量
3907cc
最高出力
74kW/3200rpm
最大トルク
294N・m/1400rpm
圧縮比
12.0
吸気方式
無加給
燃焼方式
理論空燃比方式
燃料供給方式
SPI(シングル ポイント インジェクション)
排出ガス浄化装置
三元触媒
73
三元触媒付マフラー
排気ブレーキバルブ
排気ガス
O2センサー
スパークプラグ
エアコントロールバルブ
スロットル
CNGボンベ
(20MPa)
ガスノズル
ガスバルブ
エアフロー
センサー
CNGプレッシャー
レギュレータ
図a−1 CNGエンジンシステム図
図a−2 CNGエンジン試験状況
74
300
図中の数値は熱効率
単位:%
250
34
トルク(Nm)
200
30
150
26
100
18
50
0
500
1000
1500
2000
22
20
2500
3000
3500
エンジン回転数(rpm)
図 a−3 燃費測定結果(熱効率換算)
0.9
モード排出ガス値(g/kWh)
G13モード排出
技術指針値
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
試験結果
0
NOX
HC
NMHC
排出ガス
図 a−4 CNGエンジン単体台上排出ガス試験結果
(b)自動クラッチ及びトランスファーの開発・評価
第1クラッチ,第2クラッチおよび2スピードトランスファーを開発し、それぞれ強度、作動性、
潤滑性、信頼性等の試験・評価を実施した。トランスファー潤滑性の問題を対策し、要素部品とし
ての問題点をすべて解決した後、実証試験車へ搭載した。図 b−1 に自動クラッチ取り付け位置とト
ランスファーの構造図を示す。表 b−1 にトランスファー主要諸元を示す。
75
潤滑穴
フロントベアリング
第1クラッチ
モーター
/発電機
エン
モーター/発電機
取り付け面
エンジン&
第1クラッチ
より
強制潤滑取り入れ口
トランスファ
断面拡大図
ジン
第2クラッチ
を経て前輪へ
第2クラッチ
オイルポンプ駆動歯車
オイルポンプ
図 b−1 自動クラッチ取り付け位置と2スピードトランスファー構造
表 b− 1
トランスファー主要諸元
項目
諸元
トランスファー型式
シンクロナイザー付き2スピードトランスファー
歯車形式
ヘリカルギヤ
変速比
Low:1.44,High:0.73
潤滑方式
オイルポンプ付強制潤滑方式
(c)発電機/フロントモーターの開発・評価
図 b−1 に示したトランスファーの後部に直付けされる発電機/フロントモーターを開発し、単体
で評価試験を実施した結果、発電機/モーター単体効率で95%以上、コントローラー込みの総合効
率で最大92%以上の高効率を達成した。表 c−1 に発電機/モーターの主要諸元を、図 c−1 に構造
図を示す。
表 c− 1
発電機/モーター主要諸元
項目
諸元
発電機
永久磁石式同期発電機
発電時最高出力
60kW/6675−7500rpm
駆動時最高出力
35kW/3340−7500rpm
駆動時最大トルク
100N・m/0−3340rpm
コントローラー型式
水冷可変周波数型
制御方式
PWMインバーター
76
図 c−1 発電機/フロントモーター構造図
(d)リヤモーター付リヤアクスル
リヤモーターをリヤアクスルに内蔵しデフレスで高効率のリヤモーター付リヤアクスルを開発し
た。リヤモーター単体で評価試験を実施した結果、モーター単体効率で95%以上、コントロー
ラー込みの総合効率で最大91%以上の高効率を達成した。表 d−1 にリヤモーターの主要諸元、表
d−2 にリヤアクスル減速機の主要諸元、図 d−1 にリヤモーター付リヤアクスルの構造図を示す。
表 d−1 リヤモーター主要諸元
項目
諸元
発電機
永久磁石式同期発電機
駆動時最高出力
50kW×2/2065−5000rpm
駆動時最大トルク
231N・m×2/0−2065rpm
コントローラー型式
水冷可変周波数型
制御方式
PWMインバーター
表 d−2 リヤアクスル減速機主要諸元
項目
諸元
歯車形式
遊星ギヤ
ギヤ比
11.14
77
リヤモーター
図 d−1 リヤモーター付リヤアクスル構造図
(e)シリーズ・パラレル併用ハイブリッド制御システムの構築と制御則チューニング
図 e−1 に示すシリーズ・パラレル併用ハイブリッドシステムを構築し、シミュレーション計算に
より最適チューニングを実施した。
A:シリーズ走行時
B: シリ/パラ走行時
インバーター
電池
モータ/
発電機
#1クラッチ
#2クラッチ
リヤモーター
C:高速エンジン走行時
D:4輪回生時
図 e−1 シリーズ・パラレル併用ハイブリッドシステム
シリーズ・パラレル併用ハイブリッドシステム
78
(f)HEV電池の評価法検討と電池の耐久試験
HEV用電池の評価法を検討し、それに基いて耐久試験を実施した。供試電池の主要諸元を表f
−1に示す。
表f−1 供試電池の主要諸元
項目
諸元
種類,形状
リチウムイオン,長円形
形式
LEC24H(日本電池製)
高さ
190mm
幅
45mm
長さ
109mm
質量
1.9kg
公称電圧
3.6V
公称容量
24Ah
エネルギー密度
45Wh/kg
出力密度
1500W/kg
試験方法は電池にとって厳しいシリーズ方式で都市内走行(M15モード)を模擬した
充放電パターンで耐久試験を実施した。図f−1に充放電パターン、図f−2および図f−3に耐
400
充電パターン
(電流変化)
電流(A)
300
200
100
0
-100
-200
-300
0
30
60
90
120
時間(sec)
150
180
60
充電パターン
(SOC 変化)
SOC (%)
50
40
30
20
10
0
0
30
60
90
120
時間(sec)
150
図f−1 電池耐久試験の充放電パターン
79
180
放電容量(Ah)
久試験結果を示す。
試験は M15 モード走行を模擬した図f−1に示す電流を流し放電容量と入出力を一定サイクル毎に測
定し、20万km以上でも小型トラックとして十分な耐久性を維持していることが分かった。図f−
2に放電容量の変化、図f−3に入出力の変化の試験結果を示す。
30
20
10
0
0
5 0000 10 0000 150 000 200 000 250 000
走行距離換算(km)
入出力 at SOC40% ((W/セル
W/セル
W/セル)
)
図f−2 電池の耐久試験における放電容量の変化(雰囲気温度45℃)
2500
2000
1500
1000
output
input
500
0
0
50,000
50000 100,000
100000 150,000
150000 200,000
200000 250,000
250000
走行距離換算(km)
図f−3 電池の耐久試験における入出力の変化(雰囲気温度45℃)
(g)あとがき
シリーズ・パラレル併用高効率ハイブリッドシステムの要素技術の開発と試験・評価を
実施し、要素技術として所定の成果が得られた。この後、実証試験に搭載して実車確認試
験を実施した。
80
(6)DME
(6)DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発:日野自動車(株)
DMEエンジンおよびハイブリッドシステム各々について,調査・基礎研究,要素技術の確立,
台上試験のためのシステム設計・試作および評価を行った.
1 DMEエンジン
エンジン
DME(ジメチルエーテル)を燃料とした超低排出ガスレベルの DME エンジンの研究開発につ
いて,以下の項目の評価を行った.
・DME エンジン用噴射システムの選定
・DME エンジン性能特性(第Ⅰ期:J05C-TI 型 DME エンジン仕様)
・DME エンジン性能特性(第Ⅱ期:J08C 型 DME エンジン仕様)
・DME エンジン排出ガス特性
・車載用 DME 燃料供給パージシステムの構築
1.1 DMEエンジン用噴射システムの選定
DME および軽油の物性値を表 1 に示す.DME は沸点が低く気化しやすいため,燃料温度が上
がる直接噴射式の噴射系においてはフィード圧力およびリターン回路の背圧を上げることによる
気化抑制が必要であり,合わせて燃料ギャラリなど低圧各部の耐圧性向上が必要となる.また,
DME は体積弾性係数が小さいため,噴射ポンプ回転速度の上昇に燃料圧力上昇速度が追いつかな
くなることで噴射開始時期が遅れることから,従来型の分配型噴射ポンプや列型噴射ポンプにお
いては進角タイマの大容量化や燃料温度・圧力に応じた噴射時期・噴射量の制御補正などの大幅な
改造が必要である.
表 1 DME および軽油の物性値
項目
DME
軽油
CH3OCH3
CnH1.9n
(g/mol)
46.07
170
3
分子式
分子量
液体密度ρ
(g/cm ) at 50℃
0.670
0.811
低位発熱量
(kJ/g)
28.9
43.1
沸点
(℃ ) at 1atm
-25
180~360
127
-
0.15
3
0.60E+09
1.49E+09
235
250
55 ~
~ 55
臨界温度 Tc (℃)
粘度 (液体)
(kg/m・s)
2
体積弾性係数 (N/m )
着火温度
セタン価
(℃ )
at 1atm
各々の噴射装置方式について,DME 燃料を適用した場合の特徴を次に示す.
(a) 列型ポンプ方式
・DME では温度・圧力の上昇に伴い,噴射ポンプ回転速度の上昇に伴う噴射開始時期の遅れ
が大となり,図1 に示すように噴射圧力についても軽油よりも低い圧力になる.
・噴射開始時期の遅れにより,高速では燃焼に適切なクランク角度内における噴射量確保が
困難となる.
・DME の粘度が低いため,プランジャとバレルとの隙間から燃料がエンジン内部にリークす
る恐れがある.
(b) 分配型ポンプ方式
・列型ポンプに比べ,分配型ポンプは構造上燃料温度が上がり易いため,列型ポンプに比べ
ても,より噴射開始時期の遅れが大となる.
・噴射圧力は,図 2 に示すように分配型ポンプ入口部の燃料温度が高温になるほど低下し,
81
燃料温度 40℃ではポンプ噴射(吐出)圧力はノズル開弁圧力以下となり噴射できない状況に
なる.
・分配型ポンプは現行ベースでは小型車用のため,大容量の噴射量確保が困難である.
(c) コモンレール方式
・電磁弁の開閉で噴射開始時期を直接制御する方式のため,噴射開始時期は燃料特性の影響
を受けにくい.図 3 に示すようにコモンレール方式では電磁弁の開弁時期を調整すること
で一定の噴射開始時期にできるが,列型ポンプの場合は噴射開始時期が高速ほど遅くなる.
・同様に噴射量の確保についても燃料特性の影響を受けにくい.
以上のことから,DME 燃料の物性に適する噴射系としては,あらかじめ高圧に昇圧でき,噴射時期・
噴射量の制御性に優れるコモンレール方式の噴射システムを採用した.
図 1 噴射ポンプ回転速度が噴射圧力に及ぼ
す影響(列型ポンプ)
図 2 噴射ポンプ回転速度と燃料温度が噴射圧
力に及ぼす影響(分配型ポンプ)
)
図 3 噴射ポンプ回転速度が噴射開始時期に及ぼす影響(コモンレール式と列型ポンプ)
82
1.2 DME エンジン性能特性(第Ⅰ期:J05C-TI 型 DME エンジン仕様)
< AVL 式コモンレール噴射システム搭載 4 気筒 J05C-TI 型 DME エンジン >
第Ⅰ期は 4 気筒 J05C-TI 型 DME エンジンに AVL 式コモンレール燃料噴射装置を搭載したエンジンを
試作した.図 4 に AVL 式コモンレール燃料噴射装置の概略図を示す.また,この噴射装置を搭載した
J05C-TI 型 DME エンジンの外観を 図 5 に,主要諸元を表2 に示す.高圧燃料ポンプで DME を圧送
し最大 25MPa のコモンレール圧力とし,コモンレール上の噴射制御電磁弁で各気筒の噴射タイミング
を制御した.インジェクタは従来型の自動弁であるが,リターン部に 3MPa の背圧をかけることで
DME の気化を抑制した.また,DME の粘度が極めて低く,高圧ポンプやインジェクタ等の摺動部の摩
耗や焼き付きが懸念されるため,燃料中に潤滑向上添加剤(Lubrizol 539ST )1000ppm を添加し潤滑性
を確保した.その他,エンジン停止後に噴射系内の DME 燃料が気化膨張し噴射ノズルから燃焼室へ
漏洩するのを抑制するため,コモンレール部に新たにパージ弁を設け,圧力上昇を制御できる構造と
した.
高圧燃料ポンプ
燃料圧力制御ユニット
予圧ライン コモンレール
制御弁
噴射制御
電磁弁
リターンライン
燃料供給
制御弁
インジェクタ
予圧ライン
供給ライン
燃料クーラ
DME燃料
供給ポンプ
パージライン
Compressor
コンプレッサ
storage tank
燃料タンク
purge tank
パージタンク
図 4 コモンレール式燃料噴射装置の概略図(AVL 式)
コモンレール
燃料圧力
制御ユニット
噴射制御
電磁弁
高圧
燃料ポンプ
図 5 J05C-TI 型 DME エンジン外観
83
表2
J05C-TI 型 DME エンジン主要諸元
項 目
DMEエンジン
燃料種類
DME (CH3OCH3)
軽油
エンジン型式
J05C-TI (改)
J05C-TI
エンジン種類
ターボ・インタークーラ、4バルブOHC
ベース・ディーゼルエンジン(参考)
燃料供給方式
筒内直接噴射
←
←
←
←
←
←
燃料噴射装置
コモンレール方式(AVL製)
コモンレール方式(デンソー製)
25 MPa
120 MPa
気筒数- ボア x ストローク (mm)
4 -φ114 x 130
総排気量(L)
5.308
圧縮比
18.0 : 1
スワール比
1.8
コモンレール圧力
噴射管
内径 2mm、長さ600mm
なし
機械式自動弁
二方電磁弁インジェクタ
18 MPa
(20MPa)
噴射ノズル型式
噴射ノズル開弁圧
噴射ノズルリーケージ背圧
噴射ノズル噴口仕様
3MPa
大気圧
φ0.40x6
φ0.21x6
DME は単位容積当たりの熱量が軽油の半分ほどであり,同一出力を得るには約 2 倍の噴射量が
要求されるため,ノズル噴口径の拡大を図った.
全負荷性能特性を図 6 に示す.ベースのディーゼルエンジンと比較して,低中速域は同等のト
ルクを得ることができたが,高速 2500rpm の出力点では排気温度上昇により目標出力値を達成で
きなかった.この時の筒内圧力と熱発生率を図 7 に示す.着火遅れ時間や初期燃焼のピーク位置・
高さはベースディーゼルエンジンと同等であるが,拡散燃焼域で DME エンジンの熱発生率が低
いことが判った.
DMEエンジン
エン ジン
出力
ベ ースデ ィー ゼル
100%
DME
85% レベル
ベースディーゼルエンジン
定格回転数
2500 rpm
10
300
排気温度
(℃)
700
タービン入口
高温制限
600
500
8
6
4
2
噴射期間
(計算)
0
400
タービン出口
200
熱発生率 (J/deg)
噴射 期間
(d eg)
投入熱量合わせ
12
400
筒 内 圧 力 (M Pa )
トルク
(N・m)
500
30
20
10
150
100
50
0
1000
1500
2000
-30
2500
0
30
60
クランク角 (deg) エンジン回転数 (rpm)
図7 燃焼解析(2500rpm
燃焼解析(2500rpm、全負荷)
rpm、全負荷)
図6 全負荷性能特性
高速域の燃焼改善のために,噴射圧力の燃焼への影響について調査した.噴射圧力を変更した
84
場合の燃費特性を図 8 に示す.低速 1000rpm および高速 2500rpm の全負荷時,いずれも噴射圧力が
高い方が燃費は良好であるが,特に高速 2500rpm ではその影響度は大きい.これは噴射率の影響が高
速ほど大きく出ることと,過給により筒内圧力とノズル噴射圧力との差圧が実質的に小さくなること
から,噴射圧力の影響が顕著に現れたものと考える
10
軽油 換 算 燃料 消費 率 (g / k Wh )
2500 rpm 全負荷
1000 rpm 全負荷
20
25
22.5
噴射圧力 (MPa)
図 8 噴射圧力と燃費特性
1.3 DME エンジン性能特性(第Ⅱ期:J08C 型 DME エンジン仕様)
< 新型コモンレール噴射システム搭載 6 気筒 J08C 型 DME エンジン >
出力特性の向上と燃費改善,排出ガス低減および車両搭載を考慮し,新型の DME エンジンシ
ステムを構築した.
インジェクタは,図 9 に示すように,DME の燃料物性に対応するため,DME 用直動式イン
ジェクタを開発し,噴射圧力 35MPa の高圧化を図るとともに燃料リターンレス構造としてイン
ジェクタ内の気化防止強化および高圧ポンプの吐出量の削減を図っている.図 10 に示す高圧ポン
プは,プランジャ部に 2 段構造の燃料リーク回収通路を設けるなどの DME 対策を図った.
この新型 DME 燃料噴射装置を搭載した 6 気筒 J08C 型 DME エンジンの外観を図 11 に,主要諸
元を表 3 に示す.筒内圧力を低減し噴射圧力との差圧を大きくすることと,出力確保のため,自
然吸気方式の 6 気筒エンジンを適用した.また,大量 EGR による NOx 低減を図るため,吸気絞
り弁・EGR クーラ付き EGR システムを搭載した.
DME物性
DME物性
課
題
対
応
低沸点
ポンプ吐出量
不足
・燃料リターン回路の
無い構造の採用
⇒直動式インジェクタ
低発熱量
高噴射率確保
・電磁弁吸引力の強化
・噴口径拡大とリフト量
増加
弾性係数
小
噴射時期制御
調量精度
磨耗
低動粘度
焼付き
図9
ソレノイド
・コモンレール方式
・流量特性に応じた
制御定数の設定
・燃料中への潤滑剤
添加および表面処理
による摺動性向上
ノズル噴口
φ0.35x6
直動式インジェクタにおける DME 特性への対応内容
85
吐出量制御弁
課 題
対 応
ベーパ発生防止
(フィード圧力増
対応)
・吐出量制御弁の耐圧増
DME物性
DME物性
低沸点
OFV
・オーバーフローバルブ(
オーバーフローバルブ(OFV)
開弁圧力変更
低弾性係数
大吐出量確保
・燃料リターン回路を持
たない直動式インジェク
タとの組合せによる
必要送油量の削減
低発熱量
燃料リーク防止
(プランジャ部)
・2段構造の
リーク回収通路を追加
低動粘度
磨耗
・燃料中への潤滑剤
添加により対応
焼付き
図 10
表3
プランジャ
カム
プリストローク制御方式
高圧ポンプ
高圧ポンプにおける DME 特性への対応内容
J08C 型 DME エンジン主要諸元
(参考)
項 目
DMEエンジン
ディーゼルエンジン
(HV仕様)
J08C改
J08C
エンジン型式
吸気方式
自然吸気
←
気筒配列
L6
←
φ114×130
←
ボア×ストローク(mm)
総排気量(liter)
7.961
←
圧縮比
18.0
19.2
最高出力(kW / rpm)
129 / 2500
←
最大トルク (N・m / rpm)
490 / 1500
←
燃焼方式
圧縮自己着火方式
←
EGR装置
有り
なし
コモンレール方式
←
ノズル針弁作動方式
直動式インジェクタ
二方弁式インジェクタ
噴射ノズル噴口仕様
φ0.35×6
φ0.21×6
35
120
燃料噴射システム
最高噴射圧力(MPa)
直動式インジェクタ
(ヘッド内部に装着)
EGRクーラ
吸気絞り弁
燃料パージ弁
EGR弁
コモンレール
燃料
高圧ポンプ
図 11
J08C 型 DME エンジン外観
86
1000rpm 全負荷
噴射圧力
15MPa
25MPa
30MPa
250
240
230
220
210
200
0
2
図 12
6
4
NOx (g/kWh)
8
(軽油換算)
260
燃料消費率 (g/kWh)
燃料消費率 (g/kWh)
(軽油換算)
エンジン回転数 1000rpm と 2500rpm の全負荷において噴射圧力と噴射開始時期を変更し
た場合の,NOx と燃費のトレードオフ特性を図 12 と図 13 に示す.低速 1000rpm では NOx の低い領
域では噴射圧力による燃費に対する明確な差異は見られなかったが,低 NOx 側では噴射圧力の低い
15MPa 時の燃費が改善される傾向がみられる.高速 2500rpm では,噴射圧力 25MPa よりも 30MPa
の噴射圧力の方が NOx と燃費のトレードオフ特性が良いことが判った.ただし,更に高圧化した噴射
圧力 35MPa の条件では逆に燃費が悪化したため,今回の最大噴射圧力は 30MPa とした.
280
噴射圧力の影響(1000rpm)
25MPa
30MPa
35MPa
270
260
250
240
230
220
0
10
噴射圧力
2500rpm 全負荷
2
6
4
NOx (g/kWh)
8
10
図 13 噴射圧力の影響(2500rpm)
1.4 DME エンジン排出ガス特性
噴射開始時期の遅延のみでは,目標 NOx 値に到達することは困難であったが,DME は分子構
造が単純で,含酸素燃料であるため黒煙の排出がないことから,吸気絞りを併用した大量 EGR を
行うことにより NOx 値の低減を図った.図 14 に 1000rpm 60%負荷時における EGR 率と性能,
排出ガス値を示す.EGR 率が 40%を越えると燃費や CO,HC 値が急激に悪化しているが,EGR
を行うことで大幅に NOx 値を低減できている.
図 15 に示す D13 モード NOx 排出量は,ベースディーゼルエンジンの燃費水準に対し約 4%の
燃費悪化はあるものの目標 NOx 値 0.85g/kWh を達成できることがわかった.NMHC や CO につ
いても酸化触媒により低減が可能であり,表 4 に示すように D13 モード排出ガス目標値である新
短期規制値の超低排出ガスレベルを達成した.
なお,PM(粒子状物質)は計測設備上シャシダイナモにおいて DME エンジン搭載ハイブリッ
ドバスにて計測し,ACE プロ HV 車両の JARI 評価方法に準じ求めたが,PM 排出量についても
超低排出ガスレベルを達成している.
87
燃料消費率
(g/kWh)
排気温度
(℃)
300
HC
(g/kWh)
CO
λ
200
3
2
1
6
4
2
0
(g/kWh)
空気過剰率
220
400
(g/kWh)
NOx
1000rpm 60%負荷
240
40
0
10
5
0
0
10
50
40
EGR 性能特性
DMEエンジン
ディーゼル (ベース)
300
280
260
目標 NOx レベル
燃料消費率 (g/kWh)
(軽油換算)
図 14
20
30
EGR率 (%)
240
220
0
2
4
6
8
10
12
NOx (g/kWh)
図15
表4
目標値
(超低排出ガスレベル)
到達値
D13 モード時の NOx-燃費特性
排出ガス試験結果
NOx
NMHC
CO
PM
0.85
0.18
16.0
0.05
0.83
0.11
0.17
0.008
( g/kWh )
88
1.5 車載用 DME 燃料供給パージシステムの構築
DME エンジン車載用燃料供給・パージシステム概略図を図 16 に示す.DME 燃料の物性から気化し
やすい DME 燃料を液体状態で DME エンジンに供給し,かつ環境に配慮するため下記システムを構築
した.
・DME 燃料タンクは,DME スタンド設備がないため,燃料タンクをユニットで取外し交換できる
方式とした.
・フィードポンプは,高温雰囲気温度においても系統中の DME が液化状態を確保できるよう
フィード圧力を 3MPa とし,エンジンの高圧ポンプ部の燃料循環による冷却効果も考慮しフィード
流量は最大噴射量の 2 倍強を確保し,系統途中には燃料クーラを設けた.
・燃料パージシステムは,高圧の状態の液化燃料はそのまま燃料タンクへ戻し,その後低圧で回収
したガス状の DME 燃料はパージタンクへ回収し,再液化コンプレッサにて圧縮して再液化させ燃料
タンクへ戻す方式として,パージした燃料をすべて再利用できるようにした.
吸気絞り弁
EGRバルブ
インジェクタ
エアクリーナ
パージ弁
コモンレール
燃温センサ
コモンレール圧力センサ
高圧ポンプ
フィルタ
Neセンサ
フィード
圧力センサ
触媒
燃料遮断弁
燃料クーラ
ECU
再液化コンプレッサ
安全弁
パージタンク
緊急遮断弁
DME燃料タンク
インバータ
フィードポンプ
フィルタ
図 16
DME エンジン車載用燃料供給・パージシステム概略図
89
2 ハイブリッドシステム
2.1 ハイブリッド方式の選定
ハイブリッドシステムは大きく分けてパラレル方式とシリーズ方式に大別される.それぞれの
方式のメリット・デメリットは,車両や走行条件によって変化し,どちらが優れているか一概に
は決められない.そこで種々の用途に広く対応でき,かつ高効率化が可能な間接型シリーズ・パ
ラレル方式のハイブリッドシステムを選択した.
今回の大型路線バスに適用するシステムとして,車両の運行形態,都市構造,道路事情を考慮
して,エネルギ消費率の優れたシステムを採用した.しかし,単純にシリーズ・パラレル方式を
適用すると,モータ・インバータが 2 セット必要となる.エンジン特性と走行パターンより,シ
リーズ方式での走行頻度を推定した結果,他の方式に対し,走行頻度が低いことが分かったので
直接的なシリーズ方式は不採用とし,重量やコストの面で有利なモータとインバータが 1 セット
で成立する間接的なシリーズ・パラレル方式とした.システム構成を図 17 に示す.エンジンと
モータ兼発電機の間にワンウェイクラッチを装着することにより,EV 走行が可能で減速エネルギ
の回生が有効に行える構造とした.
クラッチ1
(ワンウェイクラッチ)
モータ兼発電機
(永久磁石型)
クラッチ2
DME
エンジン
デフ
コモン
レール
トランス
ミッション
サプライ
ポンプ
インバータ
タイヤ
高効率蓄電装置
(電気二重層コンデンサ)
DMEタンク
図 17
ハイブリッドシステム構成
エネルギフローを図 18 に示す
90
電気エネルギの流れ
機械エネルギの流れ
①EVモード(モータ走行)
モード(モータ走行)
②エンジンモード(エンジン走行・発電)
クラッチ1
クラッチ
エンジン
モ ー タ
兼発電機
蓄電装置
エンジンモードでの余裕トルクで必要に応じて発電
間接的にEVモードで消費
③パラレルモード(
パラレルモード(エンジン+
エンジン+モータ走行)
図18
④回生モード(減速走行)
エネルギフロー
発進時は,エンジン騒音低減や半クラッチによるエネルギロス削減のため,EVモードで走行す
る.エンジンのみで走行可能な場合はエンジンのみで走行し,トルクに余裕のある場合には必要
に応じて同時に発電する.エンジンモードで発電したエネルギは間接的にEVモードで消費する.
さらにトルクが必要な場合には,エンジンとモータ兼発電機で走行するパラレルモードとなる.
減速時はエンジンを停止し,エンジンフリクションの影響を受けずに車両のエネルギを効率よく
回生する回生モードとなり,エンジン停止したまま停車時のアイドルストップに繋げる.以上の
ように,1モータ方式の間接型シリーズ・パラレル方式ハイブリッドシステムを構成した.
2.2 コンポーネントの設計試作
(1) ワンウェイクラッチユニット
1モータでシリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムを成立させるために,エンジンと
モータ兼発電機の間に新たに取り付けるクラッチ機構として,ワンウェイクラッチを採用した.
図19に一次試作したワンウェイクラッチユニットを示す.表5に主要諸元を示す.
表5 ワンウェイクラッチユニット
主要諸元(一次試作)
寸法
スプラグ外周径
φ330x136
210mm
質量
許容定格トルク
50kg
6,630Nm
スプラグ個数
図19 ワンウェイクラッチユニット
外観図(一次試作)
91
34
このワンウェイクラッチは,オートマチックトランスミッションのロックアップなどで実績のあるス
プラグ方式を採用した.また,クラッチ自体の駆動装置および制御装置が不要で,エンジンとモータ
の回転差のみで接続・切り離しが可能である.図 20 にスプラグ方式のワンウェイクラッチユニット動
作原理を示す.
保持器
スプラグ
リボンスプリング
アウタレース
アウタレース
インナ
レース
インナ
レース
回転方向
噛み合い状態(接続)
非噛み合い状態(切り離し)
図 20 スプラグ方式ワンウェイクラッチの動作原理
本ユニットの潤滑については,ワンウェイクラッチユニットがモータ兼発電機の内側に設置さ
れるため,強制潤滑が困難であるのでオイルバス方式を採用した.
本ユニットを用いて,エンジン台上にて動作確認を行い,噛み合い,非噛み合いが正常に動作
することが分かった.
一次試作品は質量が重く,車両搭載には不向きであったため,小型軽量化を図った二次品を試
作した.外周半径を小さくしたことで,周速を下げることができ,オイルシールのリップ部の摺
動による摩擦損失および熱発生を抑制できた.図 21 に二次試作品のワンウェイクラッチユニット
外観図を,表 6 にワンウェイクラッチユニット主要諸元を示す.
表6 ワンウェイクラッチユニット
主要諸元(二次試作)
寸法
φ298x112
スプラグ外周径
質量
許容定格トルク
スプラグ個数
150mm
25kg
6,000Nm
48
図21 ワンウェイクラッチユニット
外観図(二次試作)
(2) 電気二重層コンデンサ
効率的な充放電を行うため,種々の蓄エネルギ装置を検討した.その結果電気二重層コンデン
サの効率がもっとも良く,燃費目標を達成するには最適であることがわかった.
一次試作品として,セルを38個シリーズ接続してモジュールを構成した.図22に電気二重層コ
ンデンサのセル,モジュールを示す.表7に,主要諸元を示す.
92
セル
モジュール
図22 電気二重層コンデンサのセルおよびモジュール(一次試作)
表 7 電気二重層コンデンサの主要諸元(一次試作)
セル諸元
モジュール諸元
2750F
38個
容量
セル数
2.7V
72F
電圧
容量
164x62x62mm
102.6V
寸法
電圧
800g
511.3x482.6x221.5mm
質量
寸法
37kg
質量
充放電試験を行った結果,セルに電圧ばらつきが生じ,充放電中に許容電圧を超えるセルが生
じる可能性があることがわかった.電圧ばらつきの原因は,内部抵抗ばらつき,容量ばらつきの
ほか,残留電荷によるもの(放置時の電圧変化)であることがわかった.調査の結果,内部抵抗
および容量のばらつきは出荷時に抑制できることが分かり,残留電荷(放置時の電圧変化)によ
る電圧ばらつきは電圧バランス装置で抑制する必要があること
が分かった.
二次試作品として,軽量化された新型セルを38セル使用し,セル毎にバランス装置を取り付け
てモジュール化した.車両にはこれを6直列2並列にて接続し,12モジュールを屋根上に搭載した.
図23に二次試作品のセル,モジュールを示す.表8に電気二重層コンデンサの主要諸元を示す.
セル
モジュール
図23 電気二重層コンデンサのセルおよびモジュール(二次試作)
表8
容量
電圧
寸法
質量
電気二重層コンデンサの主要諸元(二次試作)
セル諸元
2850F
2.7V
164x62x62mm
700g
モジュール諸元
38個
セル数
72F
容量
102.6V
電圧
583x320x220mm
寸法
37kg
質量
93
電圧バランス装置は定抵抗により,各セル電圧を設定した電圧まで放電させる方式とした.電圧バラ
ンスの時期は,車両運行中の電圧ばらつきは許容するものとし,運行休止中にバランス動作させるこ
ととした.車両運行中にバランス装置を動作させることがないため,エネルギ消費を最小にすること
が可能となった.セル電圧バランス時間は夜間運行停止時間を考慮して 4 時間以内とし,バランス電
圧は放電動作終了後に直ちに運行可能な 1/2 電圧として設計した.図 24 に電圧バランス装置を示す.
モジュール化に際しては,本バランス装置をセル毎に設置している.
50.8
50.8
図 24 電圧バランス装置
電気二重層コンデンサの容量の決定については,実走行を考慮して JARI 10km/h モードの最大エネル
ギ深度の約 2 倍,M15 モードの最大エネルギ深度の約 4 倍が必要であるとして 930Wh を確保した.
図 25 にシミュレーション計算における最大エネルギ深度を示す.
600
400
200
0
0
50
時間 秒
エネルギ Wh
エネルギ
エネルギ
400
200
0
0
100
JARI 10km/hモード
約450Wh
M15モード
約250Wh
エネルギ Wh
600
200
400
時間 秒
600
(シミュレーション計算による)
図25 最大エネルギ深度
(3) モータ兼発電機およびセンサレス制御インバータ
モータ兼発電機は,小型化,高効率化を狙い永久磁石型を採用した.
一次試作品として,MRPM(Magnet Ring Permanent Magnet motor)方式永久磁石型モータ兼
発電機を試作した.ロータの外周に磁性リングを用いた構造になっている.図26に一次試作品の
モータ兼発電機を示す.主要諸元を表8に示す.
94
表8 MRPM方式永久磁石型
モータ兼発電機の主要諸元
型式
最高出力
ステー
MRPM 型 永 久 磁 石 同 期
機
70kW
最大トルク
540Nm / 0-1,250rpm
最高回転数
3,250rpm
ロータ外径
φ388
積厚
50mm
極数
12極
磁石材
冷却方式
NeFeB
空冷
70kg
ロータ
図 26 MRPM 方式永久磁石型
モータ兼発電機の外観
このモータ兼発電機とインバータを用いて台上で効率測定した結果,高効率な領域が広いこ
とが分かった.
二次試作品はこれを改良して,より効率が高いPRM(Permanent magnet Reluctance Motor)方
式永久磁石型モータ兼発電機を試作した.これは,永久磁石型モータとリラクタンス型モータの
利点を兼ねそなえたモータ兼発電機であり,ノイズが少なくリラクタンス比が大きいことから突
極位置を検出しやすくセンサレス制御が容易であると共に,リラクタンストルクを有効利用する
ことから高効率でしかも磁石の使用量を減らすことが可能である.
図 27 に二次試作品のモータ兼発電機を示す.主要諸元を表 9 に示す.一次試作品の MRPM 方
式と比較して最高効率が高いことが分かった.
表9 PRM方式永久磁石型
モータ兼発電機の主要諸元
最高出力
最大トルク
最高回転数
ステータ
PRM型永久磁石同期機
70kW
540Nm / 0-1,250rpm
3,250rpm
ロータ外径
φ388
積厚
50mm
極数
12極
磁石材
NeFeB
冷却方式
空冷
質量
69kg
ロータ
図 27 モータ兼発電機
95
モータ兼発電機を制御するインバータには,システムの簡略化と信頼性の向上を目的にセンサ
レスベクトル制御を採用した.図28に試作したインバータを示す.主要諸元を表10に示す.
表10 センサレス制御インバータの主要諸元
容量
制御方式
センサレスベクトル制御
冷却方式
空冷
入力電圧
600VDC
主回路素
子
制御電圧
IGBT
寸法
図28 センサレス制御インバータの外観
100kVA
質量
24VDC
700x288x444 mm
39kg
(4) ダンパ機構
前述のワンウェイクラッチユニットは,エンジンとモータ兼発電機の回転数差がゼロになった
瞬間にスプラグが噛み合い状態となり,その後エンジンの回転変動により回転差が生じるとスプ
ラグは非噛み合い状態となる.再度エンジン回転が上昇して回転差がゼロになった際に,スプラ
グは再度噛み合い状態となる現象を繰り返しながら上昇していくこととなる.スプラグにとって
は噛み合い状態と非噛み合い状態が繰り返されることとなり,噛み合い面その都度スプラグの衝
撃を受けることとなる.この現象が頻繁に繰り返されるとスプラグと噛み合い面の摩耗が進行す
ると考えられるので,この現象を抑制するためのダンパ機構を設計試作した.ダンパ機構には主
ダンパとダイナミックダンパを設けた.主ダンパにはエンジン低回転域からの回転変動を抑える
ため,ばね定数が低いスプリングと,高回転域でもエンジン回転変動に作用するばね定数が高い
スプリングの2段スプリングを有するねじり剛性特性を持たせた.ダイナミックダンパは,ワン
ウェイクラッチの噛み合い時に,常に安定したトルクがスプラグに作用するように設けた.
図29にダンパ機構の外観を,表11にダンパ機構の主要諸元を示す.
ダイナミッ
ク
主 ダ
ンパ
図29 ダンパ機構の外観
96
表11 ダンパ機構の主要諸元
ダイナミックダンパ
ねじり剛性
1690Nm/°
ヒステリシストルク
10±2Nm
主ダンパ
1段目:3Nm/°
2段目:20Nm/°
AC:30Nm MAX
DC:75Nm MAX
(5) クラッチフリーシステム
本ハイブリッドシステムは高効率化を狙うため,伝達効率の低いトルクコンバータ方式の自動
トランスミッションは使用せず,マニュアルトランスミッションを使用している.発進時にはEV
走行するため,半クラッチ操作が不要であるが,変速時はクラッチ操作が必
要である.このようにクラッチ操作の要否が混在し,運転者が混乱する可能性があるので,ク
ラッチペダル操作の不要なクラッチフリーシステムを装着した.クラッチフリーシステムの概略
図を図30に示す.クラッチフリーシステムはアクチュエータユニットとクラッチフリーシステム
ECUから構成される.
なお,万一クラッチフリーシステムの動作不良が生じた場合に備え,クラッチペダルを運転者
が操作できるようにクラッチペダルを残した.
電気回路
油圧回路
シフトレバー信号
クラッチペダル信号
クラッチフリーシステム
アクチュエータユニット
(床下設置)
クラッチブースタ
クラッチ
ペダル
アクチュエータ
駆動信号
ポンプリリーフ圧:7.5MPa
図 30
クラッチフリーシステム
ECU
クラッチフリーシステム概略
97
(6) 電動パワーステアリング装置
EV 走行時や回生時にはエンジンが停止する.このとき,エンジンで駆動されるパワーステアリング装置は停止してし
まうため,エンジン停止時にも油圧を供給できる電動パワーステアリング装置を平成 14 年度に設計試作した.エンジ
ン稼動時はエンジン駆動のパワーステアリングポンプが作動して油圧を供給するが,EV 走行時や回生時にエンジンが
停止した場合にのみ,電動パワーステアリング装置で油圧を供給するシステム構成とし,これによりエネルギ消費を最
小限に抑えた.図 31 に電動パワーステアリング装置の概略を示す.
ステア
リング
エンジン装着パワー
ステアリングポンプ
リザー
バタンク 電動パワー
ステアリングポンプ
電動パワーステアリング
用インバータ
既設油圧回路
図 31
電動パワーステアリング装置概略
2.3 コンポーネントの動作確認
(1) 電気二重層コンデンサ
電気二重層コンデンサの効率を測定した結果,電流150Aにおける充放電効率は90%であること
がわかった.バランス装置によりセル電圧を約3時間で設定電圧に収束させることで,電圧ばらつ
きを抑制できることが確認できた.
(2) モータ兼発電機
PRM方式永久磁石型モータ兼発電機とインバータの総合効率を測定した結果,最高効率は駆動
側96%,回生側96%で,90%以上の領域が広いことが判った.
(3) ワンウェイクラッチ
ワンウェイクラッチの噛み合いおよび非噛み合い動作の確認試験を行い,正常に機能すること
が確認できた.
(4) ダンパ機構
ダンパ機構の装着により,ワンウェイクラッチの噛み合い時の衝撃の緩和とともにワンウェイ
クラッチへのエンジン回転変動の伝達が抑制されていることを確認した.しかしその後,車両制
御にワンウェイクラッチ噛み合い時の衝撃を軽減する制御を盛り込んだ結果,衝撃は抑制できた
ことから,ダンパ機構は搭載しないこととした.
(5) クラッチフリーシステム
クラッチフリーシステムの動作チューニングを行った結果,運転者のシフトレバー操作により,
変速動作中のクラッチ断・接動作を行うとともに,運転者のアクセルペダル操作にかかわらず,
変速ショックの無いようにアクセル開度を自動的に制御した.
(6) 電動パワーステアリング装置
電動パワーステアリング装置の動作チューニングを実施し,運転者のステアリング操作に影響
を及ぼすことなくスムーズにエンジン装着のパワーステアリング装置と電動パワーステアリング
装置の切り替えを行うことが可能となった.
3
まとめ
3.1 DME エンジン
(1) DME 燃料噴射装置は,コモンレール式直動インジェクタを適用した噴射システムの構築によ
り,DME の気化し易く弾性率が大きい物性等に適合することができた.
(2) 噴射圧力は,高速高負荷において高圧化による燃費低減効果が大きい.
(3) DME は含酸素燃料であり黒煙を発生しないことから,EGR は NOx 低減に有効な方策である.
D13 モード排出ガス値は吸気絞りを併用した大量 EGR および酸化触媒の適用により,新短期規
制値の超低排出ガスレベルを達成した.
(4) PM(粒子状物質)排出量についても超低排出ガスレベルを達成した.
(5) DME 噴射系の気化抑制のための 3MPa のフィード圧力設定や,冷却およびパージ燃料の再液
98
化コンプレッサによる燃料の再利用化など,DME エンジン車載用燃料供給・パージシステムを,
環境・安全・エネルギの面で有効なシステムとして構築できた.
3.2 ハイブリッドシステム
(1) 大型路線バスに適したハイブリッドシステムを検討し,1モータ方式間接型シリーズ・パラレ
ルハイブリッドシステムに決定した.
(2) 上記ハイブリッドシステムに必要な主要コンポーネントの設計試作を実施した.
(3) 各コンポーネントの機能確認を行い,正常に機能することがわかった.
(4) 電気二重層コンデンサ,モータ兼発電機・インバータの効率を測定し,高効率であることがわ
かった.
99
(7)LNG
(7)LNG ハイブリッドバスの研究開発:日産ディーゼル工業(株)
1.開発目標
都市内ノンステップ路線バスをベースに、省エネルギと低公害を両立する次世代都市型高効率ハイブリッド路線バス
を開発した。本事業の開発目標を以下に示す。
・燃費目標
①同型ディーゼルバス比 2.2 倍以上(km/L 比、軽油 1L 発熱量換算)
②CNG バス比 2.6 倍以上(km/kg 比)
・排出ガス低減目標 ①NOx:ディーゼルバス比 1/3 以下
②PM :ほぼゼロに低減
さらにNOx、PMともに新短期規制レベルの 50%以下
(燃費および排出ガス評価はM15 モード半積。比較車は本事業開始時期の生産車とする。)
・実用性
①実用的な車両重量、乗員の確保
②都市内走行に必要十分なドライバビリティ確保
③課題の明確化
以下に本事業により得られた成果の概要を報告する。
1.1 要素技術の開発内容
上記開発目標を達成するため、
① 都市内路線バスの高効率化に最適なハイブリッド駆動方式
② 高効率・長寿命な蓄電装置およびモータ/発電機
③ クリーンでコンパクトなLNG高効率天然ガスエンジン
④ 乗降性に優れたノンステップ型路線バスへの適用
等の要素開発を行った。図 1.1 に本開発車両のシステム構成を示す。
電気二重層キャパシタ
最大378V・
・100kW 1310Wh
最大
インバータ & コンバータ
モータ
最大
最大75
最大75kW
75kW×
kW×2
発電機
CNG エンジン
定格55
定格55kW
55kW
最大81
最大81kW
81kW
補機駆動モータ
補機類
図 1.1
LNG ハイブリッドバスのシステム構成
1.2 高性能キャパシタの開発
本開発車両に搭載する蓄電装置として、耐用年数が長い商用車のハイブリッド用蓄電装置として最適
との判断から、充放電効率、入/出力密度、寿命/耐久性に優れた電気二重層キャパシタ(以下キャ
パシタという)を採用した。
1.2.1 キャパシタセルの開発
キャパシタは他の二次電池に比べエネルギ密度が極端に小さく、ハイブリッド用途として機能させるには重量、搭載
スペース、コストという実用上の問題があった。この問題を克服し、キャパシタの長所を最大限に活かすため、エネル
ギ密度の飛躍的向上を狙いに種々研究開発を推進した。キャパシタセルの開発目標は重量、車載スペースなど車載実用
上の許容レベルから以下のとおりとした。
① エネルギ密度:5.5Wh/kg 以上(内外市販キャパシタの 2 倍以上)
。
② 充放電効率 :路線バスのブレーキエネルギ回生時における主パワー領域である
500W/kg において 90%以上の効率を確保。
本開発目標の達成にあたっては、
① 活性炭電極構造
② 活性炭電極積層構造
③ パッケージ
等の構造改良を重ね、車載評価用キャパシタセルを試作した。
種々改良の結果、開発開始時点での他の内外市販キャパシタに比べ、静電容量、エネルギ密度、充放電効率が飛躍的
に向上し、開発目標を過達した。表 1.2.1 に開発セルの仕様・性能、図 1.2.1 に内外市販キャパシタとの比較を示す。
100
H13(‘01)
01)年度改良型
年度改良型
H13(
01)
H12(‘
00)
H12(
‘00
)年度型
静電容量
F
質 量
kg
エネルギ密度
Wh/kg
出力密度
W/kg
ΩF
内部抵抗
充放電効率
*)
%
図 1.2.1-(1)
キャパシタセルの仕様・性能
1550
3085
0.235
0.462
6.7
6.8
2500
2500
3.1
3.2
94.0(97.0)
Energy Density (Wh
Wh/kg
エネルギ密度(
Wh/
/kg ))
表 1.2.1
94.7(97.3)
*) 10A時
( )片道効率
8
7
6
5
4
3
2
1
00
0
開発キャパシタの
エネルギ密度と内部抵抗
開発キャパシタ
Super
Power Capacitor
市販キャパシタ
(ACE初期~最近レベル)
市販キャパシタ
2
4
2
4
6
6
8
8
10
10
()
ΩF )
内部抵抗
ESR(Ω
Internal
Resistance
ESR(ΩF
(ΩF
セルの充放電効率(%)
96
94.7
95
94.0
94
93
92.7
92
91
90
H11(99)年度型
図 1.2.1-(2)
H12(00)年度型
H13(01)年度型
開発キャパシタセルの充放電効率
1.2.2 キャパシタモジュールの開発
車載にあたっては、数十個のキャパシタセル電極を直並列に接続しモジュールを構成する必要がある
が、実用化にはモジュール組立ての容易性や接続抵抗の低減が課題となる。キャパシタセルの内部抵
抗が極めて低いことから、低レベルの端子接続抵抗でもモジュールとしての抵抗や充放電効率に大きく
影響する。キャパシタは、他の二次電池に比べ充放電時に大きな入/出力領域で使用できるので、車
載するキャパシタモジュール全体の抵抗の違いが、大電流で使用する際の電圧降下に大きく影響し、
有効エネルギ容量を制約する特性がある。したがって,端子接続部の構造・材質改良等によるキャパシ
タモジュール全体の抵抗低減は、有効エネルギ容量の増大にも大きく貢献する。そこで、端子接続抵抗
低減のため、
①キャパシタセル静電容量増によるセル直並列接続個数の低減
②端子接続部の局部面圧アップ
③特殊溶接方法による結合方式の採用
等の方策を実施し、車載用キャパシタモジュールを試作した。これにより、モジュール抵抗は開発開始当初
に比べ約 30%に、充放電効率は目標の 90%超を達成した。本改良によるモジュール抵抗、充放電効率の改善
結果を図 1.2.2-(1)に示す。
101
モジュール抵抗比(Ω比)
モジュール抵抗
1.5
1.0
1.00
0.52
0.39
0.5
0
0.30
H11年度
H12年度 改良1
H12年度 改良2
H13年度 改良
効率(%)
充放電効率(0~Max.V,20A定電流充放電)
100
95
90
93.8
88
89.5
94.6
90.1
94.9
92.9
往復
片道
96.4
85
80
H11年度
H12年度 改良1
H12年度 改良2
H13年度 改良
図 1.2.2-(1) キャパシタモジュールの改良効果
さらに、本開発モジュールには、キャパシタセルの性能を最大限に引き出すため、個々のキャパシタセル間の電圧ば
らつきを均等化する均等化充電制御システムを開発し組込んだ。これは、走行中を含め上記電圧ばらつきを随時均等化
しながら充電制御する機能を有し、キャパシタモジュールの有効エネルギ容量の増大や、充放電効率の向上ならびに
キャパシタセルの過充電による劣化を抑制する効果が期待できる。図 1.2.2-(2)に試作した均等化制御システム基板、図
1.2.2-(3)に均等化充電制御機能の作動例、図 1.2.2-(4)にモジュール外観を示す。
図 1.2.2-(2)
均等化充電制御システム実装基盤
3
セル電圧[V]
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
経過時間[s]
改良型充放電制御システム付モジュール内セルの電圧変動
図 1.2.2-(3)
均等化充電制御機能の作動例
図 1.2.2-(4)
開発モジュール外観
102
6000
1.2.3 車載キャパシタシステムの開発
以上の結果、開発した車載キャパシタシステム全体の充/放電効率は、都市内走行での平均的入/出力密度 150kW/kg
で 97%以上に達し、開発目標とした高パワー領域(500W/kg)での充/放電効率 90%以上の目標をクリアした。図 1.2.3
に開発したキャパシタの車載システム外観を示す。
図 1.2.3
車載キャパシタシステム
1.3 高効率発電機の開発
最大総合効率目標 95%の達成および広範囲の回転領域での高効率化を狙いに、永久磁石式交流同期型発電機を試作し
た。表 1.3 に開発した発電機の主な仕様を、図1.3 に発電機外観を示す。総合発電効率は主発電運転域である 4000rpm
近傍で目標の 95%にほぼ達した。
表 1.3
発電機型式
発電機仕様
永久磁石式交流同期機
磁石配置
SPM
最高/連続出力
95/51kW
最高総合効率
95%/4000∼5000rpm
最高回転数
13000rpm
冷却方式
水冷
外
寸
Φ240mm×440mm
質
量
約 65kg
図 1.3
103
発電機外観
1.4 高効率ミラーサイクルエンジンの開発
本開発車両の発電用エンジンとして、NOX の排出が少なく、PM の排出がないクリーンでコンパクトな 4 気筒 4.6L
リーンバーン CNG エンジンを採用し、発電運転開始時の過渡運転出力応答性の向上と熱効率改善を狙いに、可変吸気
弁方式としてロータリーバルブ式ミラーサイクル機構を開発、さらに改良型としてより広範囲な運転領域で任意膨張比
制御が可能な電子制御油圧駆動吸気弁方式ミラーサイクル機構を開発した。また、過給機の過給度可変制御のため電子
制御可変ノズルターボを試作し組込んだ。
本開発エンジンの開発目標はディーゼルエンジンと同等の熱効率 40%とした。図 1.4-(1)に吸気バルブ機構の構造を、
図 1.4-(2)に油圧駆動吸気弁付エンジン外観および油圧駆動弁部位を示す。図 1.4-(3)にロータリーバルブ方式との違いを
含めた油圧駆動弁方式のシステム作動図を示す。
油圧駆動式ミラーサイクル機構
閉弁制御M/V
油圧回路
吸気弁
プッシュロッド
ロータリーバルブ式
ミラーサイクル機構
図 1.4-(2) 油圧駆動可変制御吸気弁搭載 CNG エ
ンジン外観(上)およびシリンダヘッド上部油圧
駆動吸気弁機構部拡大図
図 1.4-(1)
ミラーサイクル機構
バルブリフト量
閉弁開始時期はベースエンジンのカムリフト範囲内で任意制御可能
油圧駆動弁閉弁線
早閉じBBDC40°
ロータリーバルブ開弁期間
圧縮上死点
膨張下死点
開弁開始(オイル充填済み)
チェックバルブ→
ベースカムリフト
吸気下死点
排気上死点
開弁(最大リフト)
閉
圧縮上死点
閉弁開始(油圧解放)
閉
開
OIL OIL
OUT
図 1.4-(3)
可変制御油圧駆動吸気弁システム作動図
104
試験の結果、油圧駆動吸気弁の閉じタイミングについては、エンジン始動から急激な過渡運転域である 1000RPM 付
近に達するまでは出力応答性重視とし、ベースエンジンカムリフトと同じ遅閉じタイミングに制御、その後の緩過渡運
転域では弁閉じタイミングを徐々に早閉じ側に変化させ、最適発電運転域である 1800rpm 近辺に達したところで
BBDC40°となるよう制御する方法が最適であった。図 1.4-(4)に最適発電運転点(55kW/1800rpm)における吸気弁開閉
P-V 線図を示す。油圧駆動弁方式はロータリーバルブ方式に対し、弁閉じタイミングをシャープにかつ任意時期に制御
できる。油圧駆動方式への改良により、ミラー効果をより顕著に発生させることができた。
Cylinder pressure [kPa]
2.5
ロータリーバルブ方式
2.0
1.5
油圧駆動方式
ベースエンジン
1.0
0
500
1000
1500
Cylinder volume [cc]
図 1.4-(4)
油圧駆動吸気弁式付エンジンの P-V 線図測定結果(発電運転点)
出力(kW)
図 1.4-(5)にエンジン台上試験にてチューニングした結果を示す。車両での発電運転域である低速域から最適発電運転
域である 1800rpm までの運転域において、油圧駆動弁方式はロータリーバルブ方式に比べ、特に低速域で出力および
熱効率が大幅に改善するとともに、NOX を同等に押さえることができた。熱効率はベース CNG エンジンに比べ、発電
運転域で 3 ポイント(10%)程度向上した。最適発電運転点における熱効率と NOxのトレードオフ関係については、
図 1.4-(6)に示すようにロータリーバルブ式とほぼ同等であった。即ち、両方式とも本運転点では吸気弁閉じタイミング
は BBDC40 ° と 同 じ で あ り 、 性 能 も 同 等 と い う こ と が 確 認 さ れ た 。 尚 、 発 電 運 転 点 で の NO x 排 出 量 は 2.5 ∼
3.5(g/kWh)が目標レベルである。
60
50
40
30
20
10
0
800
油圧駆動方式
ロータリーバルブ方式
1000
1200
1400
1600
1800
2000
エンジン回転数(rpm)
熱効率(%)
40
39
油圧駆動方式
ロータリーバルブ方式
ベースCNGエンジン
38
37
36
35
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
エンジン回転数(rpm)
NOx(g/kWh)
5
4
3
2
油圧駆動方式
1
ロータリーバルブ方式
0
800
図 1.4-(5)
1000
1200
1400
1600
エンジン回転数(rpm)
1800
2000
発電運転域の出力、熱効率、NOX(台上,定常運転にて)
105
熱効率(%)
42
40
38
油圧駆動方式
36
ロータリーバルブ方式
34
0
1
2
3
4
5
6
7
8
NOx(g/kWh)
図 1.4-(6) 最適発電運転点における熱効率と NOX
(55kW at 油圧式:1800rpm,R/V 式:1600rpm)
図 1.4-(7)は、台上試験では確認できなかった発電機との組み合わせ発電運転における過渡運転状態を、車載により発
電機と組み合わせて測定した結果である。台上での定常運転と同様に、低速域での急過渡運転域において油圧駆動弁方
式にすることにより出力応答、熱効率において大きな改善効果が得られた。
発電機出力[kW]
50
40
30
20
油圧駆動式
10
ロータリーバルブ式
0
Time[sec]
発電効率[%]
40
30
20
油圧駆動式
10
ロータリーバルブ式
0
Time[sec]
図 1.4-(7)
車載状態での発電運転開始時の過渡運転状
106
研究開発項目②「車両試作及び評価」
(1)CNG
(1)CNG セラミックエンジン搭載ハイブリッドトラックの研究開発:
(株)いすゞ中央研究所
1.1
開発車両
1.1.1 セラミックスエンジンを搭載する車両の改造内容
セラミックス天然ガスエンジンおよびエンジンと車両の補機類を搭載するために,キャブお
よびフレームの改造検討,要素部品の搭載レイアウトの検討と車両の改造を実施した.
試作したベース車両の諸元を表 1 に示す.
表1
諸
ベ−ス車両諸元
元
ベース車両
キャブ
ワイドキャブ
タイヤ区分
後輪ダブルタイヤ(高床)
リヤボディ
平ボディ
全長
6375mm
全幅
2195mm
ホイールベース
3365mm
トレッド:前
1680mm
トレッド:後
1525mm
タイヤサイズ
215/85/R16
車両総重量
6008kg(含む積荷 2000kg)
エンジン形式
CNG エンジン
排気量
4334cc
使用燃料
CNG13A
図1
改造前のベース車両
107
a.主な車両改造内容
a.主な車両改造内容
今回の主な改造内容を以下に示し,そのレイアウトを図 2,図 3 に示す.
・EGR クーラの熱交換量不足と圧力損失改善のために,EGR クーラの仕様変更と車両レイアウト
の変更を行なった.
・EGR ガス導入配管の変更と排気系レイアウトを変更した.
・EGR クーラ用ラジエータの増設と冷却水配管等を変更した.
図2
車両全体計画図
図3
車両全体計画図
108
① EGR クーラの仕様変更と車両レイアウト
EGR クーラの熱交換量アップと EGR クーラ内の圧力損失低減を狙い(φ80,長さ 360)を,
図 4 に示すようにマニホールドを介して縦に 3 台並列にレイアウトし車両に搭載した.
図4
EGR クーラシステム
② EGR ガス導入配管と排気系レイアウト
EGR ガスの導入を改善するために,排気パイプから分岐した EGR ガス導入配管の配管径を量
産車両のφ50.8 からφ60.5 に変更した.配管を図 5 に示す.また,排気サイレンサのレイアウ
トを排気パイプ分岐前から,図 6 に示す分岐後の車両後部に変更することにより,EGR ガス導
入の改善を行なった.
図5
EGR ガス配管
図6
109
車両後部サイレンサ
③ EGR クーラ用ラジエータの増設と冷却水配管の変更
クーラ用ラジエータの増設と冷却水配管の変更
EGR クーラ用冷却系についても検討を実施した.EGR クーラ用ラジエータは,冷却性能の向上
を目的として図 7 に示すように既設ラジエータ下部に同サイズのラジエータを増設した.また,
冷却水用ポンプの増設とそれに伴い図 8 に示すレギュレータボックス内のレイアウト変更を行
なった.EGR クーラ本体への冷却水の供給方法は,EGR クーラサイドにタンクを設置し,そこか
ら個々のクーラに冷却水を供給した.冷却水配管を図 9,及び図 10,図 11 に示す.
図7
図9
EGR クーラ用ラジエータ
図8
EGR クーラ用冷却水配管
図 10
110
レギュレータボックス
EGR クーラ本体
b.開発車輌
b.開発車輌
開発した車両を図 11 および図 12 に示す.本開発車両を用い,JARI 殿シャシダイナモ上にお
いて,M15 モードの燃費試験を実施した.
図 11
開発車両
図 12
開発車両
111
図 13
JARI 殿シャシダイナモ試験
112
1.1.2 始動・暖機・過渡応答
a. 始動・暖機・過渡応答性
始動・暖機・過渡応答性
① M15 モード走行必要条件
M15 モ−ド試験を行う上で安定した運転をするためのエンジン制御条件のマップを作成する
ための設定を行った.項目は車両に搭載した状態での冷間始動および暖機,始動後の無負荷運
転(アイドリング),アイドリング回転速度から負荷運転回転速度への移行,無負荷運転から負
荷運転への移行である.
② 始動性・暖機
エンジンベンチの結果を基に,車両搭載における始動条件を確立した.車両ではエンジンに取
り付けた発電機を始動用電動機として使用する.そこで,エンジンベンチ上で車両に搭載する
増速ギアと発電機をエンジンに取り付け,車両と同じ条件を再現できる装置を作製し,始動,
暖機,過渡応答を評価改良した.エンジンに増速ギアを介して発電機を取り付けた状態を図 14
に示す.なお,エンジンおよびエンジンシステムの吸気絞り弁,EGR 弁,副室弁開時期,主室・
副室燃料噴射弁,エンジンコントローラなどは車載仕様のものである.
エンジン冷間時の始動は,主室,副室それぞれに取り付けられたグロープラグに通電し,電流
が安定する約 20 秒後に発電機でクランキング回転速度 300rpm で駆動し,燃料噴射を開始した.
エンジン
発電機(2台)
図 14 エンジンおよび発電機
始動性の評価は始動後の回転速度の推移および全気筒の燃焼室圧力をモニター,記録すること
によって行った.回転速度制御なしで始動操作を行なった場合のエンジン回転速度の推移を図
16 に示す.
113
この場合,2∼3 サイクル以内で全気筒とも着火する.しかし,着火後エンジンの出力が増加す
るため,回転速度が 800∼1000rpm 程度まで急上昇すると燃焼開始時期が遅れ,全気筒失火する.
このため回転速度が低下し 500rpm 程度に至ると,失火した気筒は再着火する.この結果,着火
→回転上昇→失火→回転低下→再着火が繰り返すサイクルがしばらく続き,再着火しない気筒
が現れる.このため,着火するものの,大きな回転速度のハンチングにより安定した運転が困
難であった.エンジンの回転速度が約 500rpm 程度となると燃焼は確実に回復することから,初
爆直後に回転速度を 500rpm 以下に抑えることができればアイドルハンチングの少ない安定し
た始動ができるものと考えられる.そこで,クランキング後,エンジンの回転速度が 500rpm
以上となった場合,着火したと判断し,500rpm 一定となるように制御するように ECU プログラ
ムに回転速度制御を反映した.この場合における始動後の回転速度の推移を図 15 に示す.
図から明らかなように,初爆後のエンジン回転速度を 500rpm 一定となるように制御すると失
火することなく燃焼が継続し,安定した運転が可能となった.エンジン始動後,燃焼が安定し
た後はエンジン回転速度を 600rpm に上昇させ,燃焼の安定とエンジン各部の昇温を図った.
一方,M15 モード走行において,走行燃費を向上させる方法として,車両停止時やエンジン負
荷の極めて低い極低速時にはエンジンを停止させることが効果的である.そこで,暖機後,エ
ンジン停止状態から始動させ,エンジンの出力運転回転速度である 1800rpm まで上昇させるこ
とを試みた.このときのエンジン瞬時回転速度の経過を図 16 に示す.この場合,図 17 に示す
場合と同様にクランキング後,着火は行なわれるものの,着火による回転上昇とともに,燃焼
が遅れるため,エンジン回転速度 600rpm 付近から失火する気筒が出現し,それ以上エンジンの
回転速度の上昇は困難であった.
以上のことから,金属グロ−プラグを用いた開発車両の M15 モード走行におけるエンジンの停
止は現段階では困難と判断し,M15 モード試験においては車両停止時,エンジン負荷の低い状
態でのエンジンの停止は行なわず,上記の期間ではアイドリングにて待機することにした.
③ アイドリング回転速度
M15 モード走行において,アイドリング回転速度は安定して無不可運転が継続する 1000rpm と
した.
④ 過渡応答性
性能試験の結果から,出力時のエンジン回転速度は 1800rpm とした.したがって,アイドリン
グ回転速度から 1800rpm まで瞬時にエンジンの回転が上昇する必要がある.アイドリングから
114
1800rpm までのエンジン回転速度の応答性を図 18 に示す.図に示すように,エンジン回転速度
600rpm から 1800rpm まで,約 1 秒で回転速度が安定して上昇していることがわかる.したがっ
て,M15 モード走行において,モード 6 と 9 において,モータへのエネルギ供給元がキャパシ
タからエンジン発電機への切り替わるが,この切り替えがスムースに行なえると考えられる.
1000
900
Engine Speed
rpm
800
700
全気筒着火継続
600
500
400
300
全気筒着火
200
100
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Time
9
10
11
12
13
14
15
sec
図 15 始動時の回転速度の変化(回転速度制御ありの場合)
1000
900
全気筒失火
Engine Speed
rpm
800
700
着火失火の繰り返し
#1気筒のみ失火
600
500
400
300
全気筒着火
200
100
0
0
1
2
3
4
5
6
7
Time
8
9
10
11
12
13
14
sec
図 16 始動時の回転速度の変化(回転速度制御なしの場合)
115
15
1000
900
着火失火の繰り返し
600
500
失火する気筒出現
400
300
200
全気筒着火
100
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Time
9
10
11
12
13
14
15
sec
図 17 再始動時の回転速度の推移
2000
目標回転速度
1800
1600
rpm
Engine Speed
700
Engine Speed
rpm
800
1400
1200
1000
800
600
400
移行開始
200
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Time
9
10
11
sec
図 18 アイドル∼1800rpm
アイドル∼1800rpm への移行
116
12
13
14
15
1.2 シャシダイナモ試験結果
a. M15 モード走行
M15 モードにおいて,走行燃費を向上させるには,熱効率の低いエンジンの低負荷での運転を
避け,熱効率の高い高負荷で運転させることである.この点から,エンジンでの走行を M15 モ
ードにおける 0−40km/h(モード 6),20−40km/h(モード 9)加速の後半にのみとした.その
他の走行部はキャパシタに蓄えられた電力による走行となる.また,キャパシタ電力からエン
ジンへの切り替えのタイミングは,減速時のエネルギ回収量(SOC)によって決定される.
b. 燃費・排ガス
b .-1 M15 モードにおけるエンジン運転状況
始動,アイドリング,回転速度移行の条件を満足する正味熱効率 30%のエンジンを車両に搭載
し,M15 モード試験に供試した.M15 モード走行時のハイブリッドシステムの作動状況を図 19
に示す.
FuelFlowRate
1600
240
200
1400
160
1200
120
1000
80
800
40
Fuel Flow Rate Nl/min
EngineSpeed
1800
40
CAP
MOTOR
GEN
20
0
Power kW
30
10
-10
-20
-30
100
90
80
70
60
0
50
100
150
200
250
Time sec
図 19 M15 モード走行運転状況
117
300
350
400
50
40
30
20
10
0
Vehicle Speed km/h
SOC %
Engine Speed rpm
2000
図に示すように,エンジンはハイブリッドシステムの要求に応じて作動しており,開発車両の
M15 モードの走行ができた.特に,0∼40km/h,20∼40km/h 加速では,加速途中で電動機への
電力供給がキャパシタから発電機に切り替わるポイントがあるが,ほとんど滞りなく切り替わ
っていることがわかる.この時のアイドリングおよび低速走行時のエンジンの停止を想定し,
この期間の燃料消費量を差し引いたM15 モード走行燃費は軽油換算で 9.56km/L となった.こ
の値は同車重の車両の走行燃費の約 1.7 倍に相当する.また,同様にアイドリング,低速走行
時のエンジン停止を想定した NOx 排出量は 0.232g/km で,長期規制適合車である基準車 15 モー
ド NOx1.65g/km の 14.1%で,触媒などの排出ガス低減装置を装着をしていないにもかかわらず
大幅な低減を達成した.開発車両の NOx 排出量を D13 モードに換算すると,開発車両の M15 モ
ードでの NOx 低減率は基準車の M15 モード NOx 排出量の 14.1%であるから,基準車 D13 モード
測定値 4.73g/kW より,開発車両の D13 モード NOx 排出率は
4.73×0.141=0.665
g/kWh
(1)
となる.この値は,新短期規制値 3.38g/kWh の 19.7%で,新短期規制値(3.38g/kWh)に対す
る ULEV 相当となる 25%(0.845g/kWh)以下である.したがって,開発車両の NOx 排出量は新
短期規制を十分満足し,ULEV に相当する.
b .-2 M15 モード走行時の燃焼について
開発車両に搭載したエンジンは天然ガスの予混合圧縮着火燃焼が特徴である.図 20 に示す M15
モード走行時に全気筒の副室に指圧計を取り付け,M15 モード走行時における燃焼状況をモニ
ターした.この時の代表点における各気筒の燃焼圧を図 21 に示す.図に示すように,M15 モー
ド走行においてもベンチ試験にて得られた燃焼圧と同形状となっており,全ての M15 モード運
転領域全域(最大 Pme0.62MPa/1800rpm)で予混合圧縮着火燃焼が実現できている.特に,回転
速度が大幅に変化する A∼C,無負荷から出力状態に切り替わる C∼D,負荷および給気圧,排気
圧が変化する D∼G各点とも,条件が大幅に変化しても着火時期の大幅な変化や失火,出力が
変動することなく,スムースな運転が可能であった.このために,基準燃費の 1.7 倍の燃費向
上,基準車比 14.1%の大幅な NOx 低減ができたものと考えられる.なお,本燃焼方式は平成 12
年度に単気筒エンジンで 4 気筒換算値 39%を達成しているが,4 気筒エンジンでは燃焼の気筒間
ばらつきが生じ,その結果,車両に搭載したエンジンでは正味熱効率 30%に止まる.車載した
エンジンにおいても図に示すように,着火時期が気筒毎にやや異なっており,着火時期もやや
進んだ時期となっている.また,ごく僅かではあるがノッキングも観察された.これは着火・
燃焼の安定を重視し,ベンチ試験における性能試験の場合と比べて副室弁開時期を遅らせた運
118
転条件としているためである.したがって,この気筒間ばらつきを解消し,ノッキングを完全
に回避するよう各運転パラメータを見直し,エンジンの完成度を向上させることによって,さ
らなる走行燃費の改善,NOx の低減が期待できる.
#1
6
4
2
0
#2 Cyl
A
214.34
214.36
214.38
214.40
214.42
214.44
B
215.27
6
4
2
0
215.28
215.29
215.30
215.31
215.32
215.33
215.34
C
215.70
215.71
6
4
2
0
216.24
10
8
6
4
2
0
215.72
215.73
215.74
215.75
215.76
215.77
D
216.25
216.26
216.27
216.28
216.29
216.30
216.31
E
218.03
10
8
6
4
2
0
218.04
218.05
218.06
218.07
218.08
218.09
F
221.23
221.24
10
8
6
4
2
0
221.25
221.26
221.27
221.28
221.29
221.30
G
225.05
225.06
225.07
225.08
225.09
225.10
Time from M15 start
225.11
225.12
sec
rpm
2000
400
1800
C
B
1600
D
F
Engine Speed
E
E xh au
1400
1200
Intake, Exhaust Pressure kPa
モード6,7での各気筒筒内圧
Engine Speed
Cylinder Pressure MPa
#4 Cyl
u
st P re ss
In ta ke
G
300
re
P re ss ur
250
e
200
u tp ut
G en . O
A
350
150
1000
100
40
30
20
10
800
214
216
218
220
222
Time from M15 Start
224
50
226
0
Gen. Output kW
6
4
2
0
#3 Cyl
sec
モード6,7でのエンジン回転速度
図 20 M15 モード走行時のエンジン燃焼状況
119
b .-3 熱効率が向上したエンジンを用いた場合の車両燃費
M15 モ−ドでの車両の燃費試験は,開発日程の制約上 1800rpm,最大熱効率 30%のエンジン仕
様にて行った.その結果,燃費は 9.56km/l であり目標である基準車燃費の 2 倍に対し,1.7 倍
となった(JARI 殿試験結果).燃焼安定化と熱効率を向上させるために高過給化をねらい過給
機の改良を主要項目として実施した燃焼改善の結果、1600rpm,1500rpm にても燃焼を安定化さ
せることができた.試験結果を図 21 に示す.
35
エンジン熱効率 %
1500rpmに主要諸元を最適化した性能
y = -0.0035x2 + 0.4485x + 21.497
33
1600rpmに主要諸元
を最適化した性能
31
29
y = 0.2064x + 23.5
y = -0.0053x2 + 0.5913x + 13.787
27
熱効率30%にて車両試験に供試したエンジン性能
JARI殿試験にて車両燃費は基準車の1.7倍
25
20
25
30
図 21
35
40
エンジン出力 kW
45
50
エンジン回転速度と
エンジン回転速 度と熱効率
度と 熱効率
このエンジンを用いた場合の車両燃費の換算は下記の方法で行った.
(1) M15 モ−ドで走行するために,各単位時間に要求されるエンジン出力を,その時の熱効率
で除し,必要な投入エネルギを求める.
Wni=wi/ηn(wi)
wi:単位時間毎のエンジン軸出力
ηn(wi):エンジン回転速度 n rpm で軸出力wi における熱効率
Wni:エンジン回転速度 n rpm で各軸出力wi を出すのに必要な投入エネルギ
(2) 計算された単位時間当たりの投入エネルギを M15 モ−ドの 1 サイクル間で積分し,その総
120
量を求める.
Wn=∮Wni
Wn:エンジン回転速度 n rpm で M15 モ−ド走行に必要な総投入エネルギ
(3) 車両試験を行った 1800rpm 仕様のエンジンに投入された総エネルギを基準としてエンジン
回転速度 n rpm で M15 モ−ドを走行する時の総エネルギ低減率を求め,燃費向上率を計算する.
Rn=W1800/Wn×1.7
Rn:燃費向上
その結果,1600rpm では基準車に対する燃費は 1.90 倍、1500rpm では 2.03 倍となり,1500rpm
で性能を向上させたエンジンを搭載することによりプロジェクト目標である 2.0 倍を達成でき
ることがわかった.
4.1
成果のまとめ
a. 開発した要素技術を搭載した試験車両の M15 モ−ド走行試験での燃費は,目標値である基
準車両の 2 倍に対し,1.7 倍(1800rpm 仕様エンジン搭載条件)∼2.0 倍(1500rpm エンジン搭
載条件)であり目標を達成した.
b. 開発した要素技術を搭載した試験車両の排気ガスエミッションは,目標値である新短期規
制値の 0.25 倍(超低排出ガス車)以下に対し,
(イ) NOx は 0.2 倍であり目標値を達成した.
(ロ)
CO は 0.27 倍,HC は 5.5 倍で目標値を未達であるが,酸化触媒を付ける事により達成可
能と考える.
(ハ) PM は 0.35 倍であり目標未達である.副室のリッチ燃焼とオイル上がりが原因であり,
予混合のアップによる副室燃焼割合の低減やピストンリングの張力アップによるオイル上が
り低減,又は DPF の追加により達成可能と考える.
121
4.2
成果の応用に関して
実用化の前提
ACE プロジェクトは超低公害と超低燃費を達成するための技術の可能性を研究し実証するた
めの基盤技術研究開発であるとの位置付けから,本プロジェクトでは商業車2トン積トラック
のハイブリッド化を対象に商業車として必要とされる動力性能,積載性能を既存車と同等に維
持することを前提に,多くの要素技術および将来技術を反映したシリ−ズ型ハイブリッド車を
開発した.ハイブリッド車両の市場への導入を促進する要因の一つに車両販売価格がある.開
発技術を全て盛り込んだ燃費効果の大きい開発車両は既存車両に較べて販売価格が極めて高い
ものとなり,車両使用期間中に車両購入費用の増加分を燃料費で回収できたとしても購入者の
初期購入負担が大きくなり,トラック市場での受け入れには困難が予想される.従って,研究
成果を部分的に盛り込む事で燃費向上率は下がるが販売価格を抑えたハイブリッド車両として
市場に導入することが,研究成果の普及につながるものと考える.
要素技術の現状
本プロジェクトで開発された主要な要素技術について実用化の面から検討を加えた.実用化
に際し,第一に求められるものは要素技術の品質と信頼性および製品コストであり,コストに
関しては年間 100 台程度の生産台数で予測している.
(1)ハイブリッド車両の制御技術
ハイブリッド車両全体のエネルギ効率を,車両のあらゆる走行条件に対して最大に引き出す
エネルギマネ−ジメント技術と,それらを構成する発電電動機およびコンバ−タ/インバ−タ
制御技術,ブレ−キエネルギ回生技術を主としている.ハ−ドウェア,ソフトウェアともに技
術品質としてほぼ完成されており実用化が可能な要素技術と想定している.
(2)セラミック遮熱エンジン技術
セラミック遮熱エンジンは車両で燃費性能の目標値を達成したとはいえ,実用化のためには
セラミック部品及びセラミックエンジンシステムの信頼性と寿命を評価する技術の確立と安定
した品質の確保,セラミック部品の大幅なコスト低減が必要である.吸気予混合方式を用いた
CNG圧縮着火燃焼方式で熱効率の向上および燃焼可能領域の拡大に技術的な発展は示したも
のの実用化に際しては更なる高負荷域での燃焼安定性の確保,低温始動性の確保等
残された
課題が多く,その課題を克服するためには多くの時間が必要とされるため短中期的な市場への
導入は難しい.
(3)排気エネルギ−回収技術
122
超高速発電電動機を組み込んだタ−ボチャ−ジャによる排気エネルギ−回収装置は本プロジ
ェクトで将来技術としての可能性を実証できた.更に信頼性向上のための評価と改善,製造技
術上の問題点の摘出とその改良,大幅なコスト低減等,実用化に対しては今だ解決すべき問題
が多く残されている.この要素技術はポスト新長期規制に対して有効な燃費向上技術として検
討をすすめている.
(4)キャパシタシステム技術
キャパシタ−システムは制動エネルギ−を回生することでハイブリッド車の燃費性能を大幅
に向上させるキ−テクノロジ−の一つではある.部品コストの高いことが最大の課題であり,
部品コストを現状の 1/20 以下に抑え二次電池と競合できるレベルの技術開発が必要と判断し
ている.部品メ−カ−における技術開発を待たねば2トン積トラッククラスでの市場導入は難
しいと考える.
研究成果の実用化
本プロジェクトの研究成果で,今後の実用化が想定されている技術は
(1)ハイブリッド車
両の制御技術(エネルギマネ−ジメント技術とコンバ−タ/インバ−タ制御技術,ブレ−キエ
ネルギ回生技術),(2)超高速発電電動機を組み込んだタ−ボチャ−ジャによる排気エネルギ
−回収技術
である.ハイブリッド制御技術に関しては,今回のプロジェクトを通して基本的
な部分はほぼ完成されたと考え,1∼2年後を目標に2トントラック(パラレル式ハイブリッ
ド車)での導入を想定している.ハイブリッド車の市場導入時における生産台数を年間100
台程度と予測しても,販売価格の大幅な上昇が予想され,購入者の負担が増加する.実用化に
際してコスト低減が最大の課題と考えられる.この課題克服のためにはメ−カ−のコストダウ
ンの努力とともに低公害車の助成制度の拡大と継続,優遇税制の拡大と継続,公的機関の優先
購入等の施策による市場での車両購入意欲を高めるための環境の整備が重要と考える.
123
(2) CNG エンジン搭載高効率ハイブリッドトラックの研究開発:三菱ふそうトラック・バス(株)
燃費2倍,排出ガス1/4を目標に本研究で開発したシリーズ・パラレル併用4輪回生高効率ハ
イブリッドシステムを搭載した実証試験車を製作し、試験・評価を実施した。
その結果を以下に示す。
(a)実証試験車製作
実証試験車を製作し燃費、排出ガス性能、走行性能、実用性試験を実施した。表a−1に試験車
の主要諸元を示す。実証試験車製作ではトランスファーの潤滑性問題、駆動抵抗大や電磁波障害など
多くの不具合が出たが、これらの原因を追求し1つ1つ確実に対策しさらに低転がり係数タイヤを採
用することで、目標を達成可能な試験車に仕上げられた。
表a−1 実証試験車主要諸元
項目
諸元
車両重量
定積載時(2t積)6345kg,半積載時(1t積)5290kg
最高速度
100km/h
CNGエンジン
直列4気筒,排気量3.9L
最高出力
74kW/3200rpm
最大トルク
294N・m/1400rpm
発電機/フロン 永久磁石式(PMモーター)
トモーター
最高出力
60kW/6675−7500rpm
最大トルク
100N・m/0−3000rpm
リヤモーター
永久磁石式(PMモーター)
最高出力
50kW×2/2065−7500rpm
最大トルク
231N・m×2/0−2065rpm
高性能電池
リチウムイオン電池,3.6V×80セル=288V
変速機ギヤ比
トランスファー:1.44/0.73
前軸デフギヤ :4.875
後軸遊星ギヤ :11.14
タイヤ
205/85R16(低転がり抵抗タイヤ)
124
図a−1に実証試験車の全体図を示す。実証試験車は計測装置設置および計測員の乗車を考慮し、都
市内配送を想定したキャブと荷室が一体で3列シートのバンタイプとした。
このボデー形状により種々の計測器およびドライバーと3名の計測員が乗車可能となり試験中に
データ−を見ることで、すばやくチューニングできるので試験効率が飛躍的に向上した。
低転がり抵抗タイヤ
図a−1 実証試験車全体図
(b)燃費排出ガス試験(M15モード)
HEV走行条件はシリーズHEV走行モードと4輪駆動HEV走行モードの2つ走行モードで、
従来のディーゼルエンジン車と比較試験を実施した。
HEV走行試験条件は
(ア)シリーズHEV走行モード
・ シリーズ式HEV駆動モード
・ 発電時のエンジン出力:33kW(発電量29kW)
・ エンジン回転数:1400rpm
(イ) 4輪駆動HEV走行モード
・ 前輪と後輪駆動を切換えて駆動する4輪駆動走行
・ 2駆用シャシダイナモで前輪と後輪走行を分けて1軸毎別々に測定
・ M15モード4輪駆動走行時のHEV走行切換えモードはシミュレーション計算で目標車
両効率40%(従来ディーゼル車の2倍)を達成したものをベースに、実車チューニング
で決定した。図a−2に本試験で実施した4輪駆動走行時のHEV走行切換えモードを示
す。
・ 実車チューニングではモーター駆動からCNGエンジン駆動への切替え時間の短縮が重要
課題で、この実車チューニングに非常に多くの時間を費やした。
そのためにエンジンの始動タイミングを変更したり、エンジン回転数とフロントモーター
回転数を同期させる制御を組み込んだりした。
125
バッテリ走行
エンジン走行+発電
回生制動
40
車速 km/h
30
20
10
0
0
20
40
60
80
100
120
140
時間 秒
図a−2 4輪駆動走行時のHEV切換えモード
燃費算出法は初期SOCの異なる試験を行い、走行前後の電池のエネルギー収支差
(Ah差)を補正する方法(内挿法)にて算出した。
(c)燃費および排出ガス試験結果
試験は燃料消費量、CO2、NOxおよびTHCを測定した。図c−1に燃料消費量を軽油換算で
表したものを示す。図c−2にCO2、図c−3にNOxおよび図c−4に
THCを示す。
従来ディーゼル車
燃料消費量(%)
100
80
74.2
49.4
60
目標値
40
20
0
シリーズ走行モード(
シリーズ走行モード(A)
4輪駆動走行モード(
4輪駆動走行モード(B)
図c−1 燃料消費量測定結果(軽油換算)
126
従来ディーゼル車
CO2排出量(%)
100
80
60
目標値
53.5
41.2
40
20
0
シリーズ走行モード(
シリーズ走行モード(A)
4輪駆動走行モード(
4輪駆動走行モード(B)
図c−2 CO2排出量測定結果
従来ディーゼル車
NOx排出量(%)
100
80
60
40
目標値
20
0
4.8
0.1
シリーズ走行モード(
シリーズ走行モード(A)
4輪駆動走行モード(
4輪駆動走行モード(B)
図c−3 NOx排出量測定結果
従来ディーゼル車
THC排出量(%)
100
80
60
40
20
28.6
目標値
19.9
0
シリーズ走行モード(
シリーズ走行モード(A)
4輪駆動走行モード(
4輪駆動走行モード(B)
図c−4 THC排出量測定結果
127
図c−1∼図c−4に示すとおりシリーズ走行ではCO2、NOxおよびTHCは従来車の1/4
の目標値を達成したが、燃料消費量は目標を達成しなかった。
4輪駆動走行モードではTHCは若干目標未達だが、燃料消費量、CO2およびNOx
は目標を達成し、本プロジェクトとしてはシリーズ・パラレル併用ハイブリッドシステム(4輪駆
動走行モード)でほぼ目標を達成したと考える。
(d)走行性能・車両総合評価結果
実証試験車の走行性能および実用性を評価するために最高速度試験、発信加速・追い越
し加速性能試験および車両総合評価を実施した。試験結果を以下に示す。
(ア) 最高速度試験
スペック値100km/hに対し110km/hを記録し、目標性能を達成した。
(イ) 発進加速・追い越し加速性能試験
従来ディーゼル車と同等以上の加速性能を有していることを実車試験で確認した。
(ウ) 車両総合評価
動力性能、ブレーキ性能、操縦性等車両の総合評価を実証試験車で実施した結果、
小型トラックとして十分な実用性を有していることを確認した。
(e)研究成果のまとめ
・シリーズ・パラレル併用高効率ハイブリッドシステムおよびその最適制御則を構築した。
・燃費・排出ガスシミュレーションのソフトを開発し、最適なハイブリッド切替えモードをシ
ミュレーション計算で検討した。
・HEV用電池の評価法を検討し、その評価法で電池の耐久試験を実施した結果、リチウムイオ
ン電池はM15モードのHEV用途で20万km以上の寿命があり小型トラックとしての実用
性が確認できた。
・実証試験車を製作し、数々の改良を実施、さらに制御チューニングを実施後、燃費・排出ガ
ス・動力性能を実証試験車で確認した。その結果、現行生産ディーゼル車に対し燃料消費量お
よびCO2排出量は1/2、排出ガスは1/4に低減でき、本研究の目標を達成できた。さらに、
走行性能、加速性能、ブレーキ性能、操縦安定性能等の性能試験でもディーゼル車と同等以上
の結果が得られた。
・本研究で発表および投稿は論文17件、特許は2件出願した。
(f)あとがき
熱効率が高く経済性に優れているディーゼルエンジン車に対して燃費2倍,排出ガス
1/4という開発車両の目標は高いハードルであったが、CNGエンジンと高効率シリーズ・パラ
レル併用方式ハイブリッドシステムの採用により、目標を達成した。併せて動力性能もディーゼル
車と同等以上の性能を有していることが確認できた。今後はこの成果をできる限り早急に商品化し、
市場に普及させることが自動車メーカーとしての努めと考える。そのために、コスト削減と重量軽
減についてより一層の努力を尽くしたい。
紙面をお借りしてご支援いただいたNEDO殿および試験の協力を戴いたJARI殿へ謝意を表す。
また引き続き商品化への温かいご支援をお願いする次第である。
128
(g)今後の実用化計画
本研究成果を早期に実用化するため燃費、排出ガスおよびコストを考慮し、使用用途に応じた適
切なHEVシステムを採用する。さらに、インフラ整備が整っているディーゼルHEVから実用化
を促進する。
以下に実用化計画をまとめた。
(ア)都市内大型路線バスは停留所や信号毎に発進・停止が多いので、この走行モードに最も適
したシリーズ方式ハイブリッドシステムを搭載したHEV大型ノンステップ路線バスを20
04年2月に発売開始した。
年間販売予定は2010年度で50∼100台を見込んでいる。
(イ)小型トラックは多種多様な用途に使われるので、汎用性の高いパラレル方式ハイブリッド
システムを採用予定である。パラレル方式HEV小型トラックは2005年のできるだけ早
い次期に実用供試で市場導入し、市場適合性を確認後発売予定である。
年間販売予定は2010年以降で3,000∼4,000台を見込んでいる。
(ウ)シリーズ・パラレル式ハイブリッドシステムは多種多様な走行モードで燃費、排出ガス性
能が優れているので、汎用性が高い小型トラックで実用化に向けて研究を進める。HEV機
器、特にリチウムイオン電池が普及しコスト低減が予想される
2010年以降の実用化を目指す。
129
(3)DME
(3)DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発:日野自動車(株)
DMEエンジンおよびハイブリッドシステム各々について,調査・基礎研究,要素技術の確立,
台上試験のためのシステム設計・試作を行い,最終年度にDMEエンジンとハイブリッドシステム
を組み合わせた大型バス試験車両にて実車試験評価を行った.
1. ディーゼルエンジン・ハイブリッドバスの設計試作と制御の確立および燃費評価
(1) ディーゼルエンジン・ハイブリッドバスの設計試作
ワンウェイクラッチ,電気二重層コンデンサ,モータ兼発電機とディーゼルエンジンを組み合
わせて,ハイブリッドバスを設計試作した.図1にパワーラインへのワンウェイクラッチユニット
およびモータ兼発電機の組み込み例を示す.図2に試作したディーゼルエンジン・ハイブリッドバ
スの外観を示す.
ダンパ機構
フライホイール
モータ兼発電機
ワンウェイ
クラッチ
ユニット
エンジン側
トランスミッション側
図1 パワーラインへの
ワンウェイクラッチユニット
およびモータ兼発電機の組み込み例
図2 ディーゼルエンジン・ハイブリッド
バスの外観
(2) シャシダイナモにおける組み合わせ動作確認
シャシダイナモ上にて,試作したハイブリッドバスを用いたシステム制御チューニングとシス
テム評価を実施した.その結果,ワンウェイクラッチ噛み合い時のショック抑制のためのトルク
切替機能も含め,各モードが正常に機能しシステムとしての制御が確立できた.
(3) 燃費評価
シャシダイナモ上にて,M15モードのディーゼルエンジン搭載ハイブリッドバスの燃費を測定
した結果,走行時エネルギ消費率で8.1MJ/kmが得られ,さらにEV走行領域を拡大した場合の走
行時エネルギ消費率を計算すると7.58MJ/kmとなり,目標を達成する見込みが得られた.
130
2. DMEエンジン搭載ハイブリッドバスの設計試作と制御の確立および燃費評価
(1) DMEエンジン搭載ハイブリッドバスの設計試作
ワンウェイクラッチユニット,電気二重層コンデンサ,モータ兼発電機とDMEエンジンを組み
合わせて,ハイブリッドバスを設計試作した.図3にレイアウトを、図4に試作したDMEエンジン
搭載ハイブリッドバスの外観を示す.
インジケータ
保護カバー兼計
測器棚
DME燃料タンク
フィードポンプ w/ ※ハイブリッド ※クラッチフリーシステム
システム用インバータ
インバータ
燃料遮断弁
排気触媒
※電動PSポンプ
インジェクタ
EDU
※電動PS
コントローラ
※CFS
コントローラ
DMEエンジンECU
DC-DC
コンバータ
燃料
パージタンク
保護カバー
※ウルトラキャパシタモジュール
再液化コンプレッサ
計測器
※リアクトル
DC-AC
コンバータ
燃料クーラ
※モータ兼発電機
※ワンウェイクラッチ
※電動PS用
インバータ
※電動PS用
DMEエンジン
DMEエンジン
※ハイブリッドシステム用部品
図3 DMEエンジン搭載ハイブリッドバス レイアウト図
図4 DMEエンジン搭載ハイブリッドバスの外観
(2) シャシダイナモにおける組み合わせ動作確認
シャシダイナモ上にて,試作したハイブリッドバスを用いて,システム制御チューニングとク
ラッチフリーシステムおよび電動パワーステアリング装置の動作チューニングを行った.さらに
この車両を用いてシステム評価を実施し,DMEエンジンとの組合せにおけるシステムとしての制
御が確立できた.
131
(3) 燃費評価
シャシダイナモ上にて,M15モードのDMEエンジン搭載ハイブリッドバスの燃費を測定した結
果,走行時エネルギ消費率で7.60MJ/kmが得られた.目標の8.24MJ/kmに対し,燃費で2.17倍が
得られた.
3.
まとめ
3.1 DME エンジン搭載ハイブリッドバスの車両試作および評価
(1) DMEエンジンとハイブリッドシステムを組み合わせた車両を設計試作した.
(2) 試作したDMEエンジン搭載ハイブリッドバスをシャシダイナモにて燃費測定した結果,目標で
ある燃費2倍を達成し,各コンポーネントおよび1モータ方式間接型シリーズ・パラレルハイブ
リッドシステムの有効性が確認できた.
3.2 実用化・事業化の見通しについて
(1) DMEエンジンについては,インフラ等の問題で今後検討を要す.また,適用車種についても未
定である.
(2) ハイブリッドシステムのワンウェイクラッチおよびモータ兼発電機・インバータについては,
実用化時期を 2006 年以降で検討中.また,適用車種はバス・トラックで検討中である.
132
(別紙) 研究発表・講演、文献、特許等の状況
1.
研究発表・講演の実績(19 件)
2000 年
(1)
高効率クリーンエネルギ自動車の研究開発 成果発表会
主催:NEDO、JARI
会場:スクワール麹町
日付:2000/3/22
題名:DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発
発表者:日野自動車株式会社 末永紘一
(2)
「自動車研究」2000 年 11 月号
出版:日本自動車研究所
発行:2000/11/1
題名:DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発
発表者:日野自動車株式会社 小幡篤臣、引野清治
2001 年
(3)
高効率クリーンエネルギー自動車に関する情報交換会
主催:高効率クリーンエネルギー自動車技術検討会
会場:NEDO 特別会議室
日付:2001/11/5
題名: DME Engine Hybrid Bus
発表者:日野自動車株式会社 小幡篤臣、引野清治
2002 年
(4)
日本機械学会 RC193 第4回研究分科会
主催:日本機械学会 RC193 研究分科会
会場:日本機械学会 会議室
日付:2002/3/20
題名:NEDO ACE プロジェクトにおける DME エンジンの研究開発状況
発表者:日野自動車株式会社 植松真一郎
(5)
新聞発表
日付:2002/5/22
題名:日野自動車、新型ハイブリッドシステムを開発
発表者:日野自動車株式会社
(6)
自動車技術会 No.06-02 シンポジウム 「実用期に入ったハイブリッド技術」
主催:自動車技術会
会場:工学院大学
日付:2002/5/23
題名:間接型シリーズ・パラレルハイブリッドバス
発表者:日野自動車株式会社 増田敦
(7)
DME フォーラム第3回利用分科会
主催:DME フォーラム
会場:野口英世記念会館 第1会議室
日付:2002/9/12
題名:NEDO ACE プロジェクトにおける DME エンジンの研究開発状況
発表者:日野自動車株式会社 植松真一郎
(8)
日本機械学会 交通・物流部門ニュースレターNo.24 トピックス
出版:日本機械学会
日付:2002/9/20
題名:新型ハイブリッドシステム
発表者:日野自動車株式会社
133
2003 年
(9)
自動車技術会 ガソリン機関部門委員会 電気動力技術部門委員会
主催:自動車技術会
会場:中央大学駿河台記念館430号教室
日付:2003/2/21
題名:商用車用ハイブリッドシステムの技術動向
発表者:日野自動車株式会社 小幡篤臣
(10) 自動車技術 Vol.57 No.09, 2003 年 9 月号「次世代に向けたエミッションクリーン化技
術」
出版:自動車技術会
発行:2003/9/1
題名:間接型シリーズ・パラレルハイブリッドバス
発表者:日野自動車株式会社
(11) 自動車研究 2003 年 11 月号 特集「高効率クリーンエネルギ自動車」
出版:日本自動車研究所
発行:2003/11/1
題名:「DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発」
発表者:日野自動車株式会社 植松真一郎、増田敦
(12) 中 国 ハ イ ブ リ ッ ド 自 動 車 技 術 ワ ー ク シ ョ ッ プ (China Hybrid Vehicle Technology
Workshop)
主催:米国エネルギ財団(Energy Foundation)
会場:China World Hotel Beijing
日付:2003/11/12∼13
題名:Hino New Hybrid System
発表者:日野自動車株式会社 小池哲夫
2004 年
(13) 自動車技術会 2004 年春季大会 No.47-04 クリーンエネルギー自動車プロジェクト II
主催:自動車技術会
会場:パシフィコ横浜
日付:2004/5/20
題名:DME エンジン・ハイブリッドバスの研究開発 -DME エンジンシステムの機能と性能発表者:日野自動車株式会社 植松真一郎、飯窪 将太郎、下川 清広
(14) 自動車技術会 2004 年春季大会 No.47-04 クリーンエネルギー自動車プロジェクト II
主催:自動車技術会
会場:パシフィコ横浜
日付:2004/5/20
題名:DME エンジン・ハイブリッドバスの研究開発 -高効率ハイブリッドシステムの特長と車
両性能発表者:日野自動車株式会社 増田 敦、小幡 篤臣、植松 真一郎
(15)
自動車技術会 ガス燃料エンジン部門委員会/ディーゼル機関部門委員会 第1回合同委員
会
主催:自動車技術会
会場:自動車会館 大会議室
日付:2004/7/12
題名:DME エンジンシステムの研究開発
発表者:日野自動車株式会社 植松真一郎
(16)
日本機械学会年次大会 J25-2 交通機械と進化するエネルギー技術
主催:日本機械学会
会場:北海道大学
日付:2004/9/7
題名:DME エンジン・ハイブリッドバスの研究開発
134
発表者:日野自動車株式会社 増田敦
(17)
日本機械学会年次大会 J25-2 交通機械と進化するエネルギー技術
主催:日本機械学会
会場:北海道大学
日付:2004/9/7
題名:DME エンジンの燃料噴射システムとエンジン性能
発表者:日野自動車株式会社 飯窪将太郎、植松真一郎、下川清広
2005 年
(18)
自動車技術 Vol.59 No.03 2005 年 3 月号 (予定)
出版:自動車技術会
発行:2005/3/1
題名:DME エンジン搭載ハイブリッドバスの研究開発
発表者:日野自動車株式会社 植松真一郎、増田敦、小幡篤臣
(19)
JSAE Review Vol.26, No.02 2005 年 4 月号 (予定)
出版:自動車技術会
発行:2005/4/1
題名:Research and Development of Hybrid Bus with DME Engine
発表者:日野自動車株式会社 増田敦、小幡篤臣
135
2.
出願特許一覧(24 件)
特許出願番号
(1)2001-244032
(2)2001-244033
(3)2001-244034
(4)2001-347618
(5)2001-355068
(6)2001-355069
(7)2003-177773
(8)2003-271747
(9)2003-272257
(10)2003-277406
(11)2003-288804
(12)2003-368628
(13)2003-374163
(14)2004-157311
(15)H11-063674
(16)2000-014715
(17)2000-017324
(18)2000-359826
(19)2000-370288
(20)2002-105427
(21)2002-105428
(22)2002-180158
(23)2002-192148
(24)2002-325410
名称
DME エンジンの燃料供給装置
DME エンジンの燃料供給装置
DME エンジンの燃料供給装置
DME エンジンの燃料供給装置
DME エンジンの燃料供給装置
DME エンジンの燃料供給装置
燃料噴射装置
液化ガスエンジンの燃料供給装置
液化ガスエンジンの燃料供給装置
液化ガスエンジンの燃料供給装置
DME エンジンの燃料供給装置
液化ガスエンジンの燃料供給装置
液化ガスエンジンの燃料供給装置
液化ガスエンジンの燃料噴射装置
蓄電装置
ハイブリッド自動車
ハイブリッド自動車
電動発電機及びその組み立手方法
動力装置
2ウェイクラッチ
2方向クラッチ
ハイブリッド自動車
ハイブリッド自動車
ハイブリッド自動車
136
(4)LNG
(4)LNG ハイブリッドバスの研究開発:日産ディーゼル工業(株)
2.1 試作車両の概要
表 2.1 に本事業で開発した試作車両の主な諸元および仕様を、図 2.1-(1)に車両外観、図 2.1-(2)にハイブリ
ッド要素の車載レイアウト概要を示す。車両質量については、ベースディーゼルバス比で若干の質量増加と
なったが、CNG バス比では 300kg 強軽量となり、乗客定員確保上の実用性をほぼ確保することができた。
表 2.1
開発試験車両および比較車両の諸元・仕様
ハイブリッドバス(CNG)
(ベースBody H11年)
車両質量
エンジン
燃料
燃料タンク
発電機
12,160kg
(H11年度12,140kg)
4CYL-4.6L
Natural Gas Lean-burn TCI
55kW /1800rpm
Gen. Drive Gear 2.46
CNG
165L ×2 (オールコンポジット)
燃費・排ガス比較車
ディーゼルバスB ディーゼルバスA
(H13年)
12,050kg
(H11~)
12,100kg
← + 460kg
(同左Body 時) ( Body HEV 同等)
6CYL-13.3L
6CYL-9.2L
( Body 同左)
6CYL-12.5L
Lean-burn TCI
DE-TCI
DE-NA
191kW
/2200rpm
Diesel
173kW
/2100rpm
Diesel
177kW /2100rpm
CNG
165L×4 (all C.)
130L
130L
CNGバス
(H11年)
SPM同期型
51kW /4420rpm
SPM同期型
モータ
75kW ×2
キャパシタ
システム
( )H11~12
年度
1,310Wh /465cells(1,210/840cells)
194kg of cells(198kg)
Max. 378V/100kW
常用最大515W / kg (505)
図 2.1-(1)
開発試験車両外観
CAN通信制御ビークルコントローラ
HEV作動状態表示装置
キャパシタシステム
インバータ
コンバータ
エンジン
発電機
H13年度主改造部位
図 2.1-(2)
リーンNOx触媒
ハイブリッドシステムレイアウト
137
図 2.1-(3)に本開発車両の制御系の構成を示す。システム全体を司るビークルコントローラおよび各ハイブ
リッド要素間の通信には CAN 方式(Controller Area Network;自動車用シリアル通信に関する SAE 規格)
を採用、システム協調制御性能の向上を図った。図 2.2-(4)はハイブリッド作動状態をリアルタイムに表示す
る表示装置の表示例である。
キャパシタシステム
充電制御 発電機
コンバータ
バンク切替制御
モータ
インバータ
コンタクタ制御
HEV作動状態
表示装置
ブレーキバルブ
主ブレーキ圧制御
天然ガスエンジン
燃料・点火制御 油圧吸気弁制御
補機駆動モータ1&2
インバータ1&2
VNターボ制御 アナログ信号
アナログ信号
(Back Up用)
デジタル信号
(CAN方式)
Vehicle Controller
Vehicle Controller
図 2.1-(3)
図 2.1-(4)
ハイブリッドシステム制御系の構成概要
HEV 作動状態表示装置表示例(液晶モニタ画像)
2.2 燃費、排出ガス性能
2.2.1 M15 モード走行におけるハイブリッドシステム作動確認
燃費、排ガス評価走行におけるハイブリッドシステムの作動状態を図 2.2.1-(1)に示す。エンジン ON/OFF
運転によりエンジンと発電機の総合効率はほぼ目標近傍の 35%前後で発電し、キャパシタ SOC(充電率)は
60∼80%の間を繰り返しており、走行につれて SOC の低下傾向は見られないことから、M15 走行に対して
狙いとした高効率機能を十分に発揮していると判断できる。
Power(kW)
Speed (km/h)
40
20
0
2500
2000
1500
1000
500
0
0
100 150 200 250 300 350 400
Engine N
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
50
100 150 200 250 300 350 400
エンジン・発電機・増速ギヤ総合効率
100
200
Time(Sec)
図 2.2.1-(1)
Motor
0
Generator
50 10 15 20 25 30 35 40
0 0 0 0 0 0 0
Capacitor-kW
100
50
0
-50
0
Eng・Gene.
Efficiency(%)
50
150
100
50
0
-50
-100
Capacitor-SOC Capacitor-power
(kW)
(%)
Engine (rpm)
車 速
60
300
0
50 100 150 200 250 300 350 400
-100
100
80
60
40
20
0
400
SOC(%)
0
100
200
300
Time(Sec)
M15 モード走行システム作動状態(負側 kW:回生)
138
400
2.2.2 M15 モード燃費評価結果
燃費倍率(
燃費倍率(km/kJ
km/kJ
km/kJ比)
比)
シャシダイナモ上、半積条件にて評価した。ハイブリッドバスとベースとなるディーゼルバスAおよびデ
ィーゼルバスBの半積質量はほぼ同等、ベースCNGバスは 300kg 程度重いが、半積相当慣性重量は同一と
して車両効率評価を重視した。ハイブリッドバスおよび CNG バスの燃料消費量は天然ガス流量計、ディー
ゼルバスは軽油流量計で測定した。燃費測定結果を図 2.2.2-(1)に示す。軽油換算燃費で示しており、同図に
示す天然ガス、軽油の発熱量(低位)で換算し、軽油比重は走行中の軽油温度で補正した。以上の試験によ
り、同型ディーゼルバス比目標 2.2 倍に対し 2.22 倍、CNG バス比目標 2.6 倍に対し 2.88 倍、さらに本事業
終了時点での最新同型ディーゼルバス比で 2.01 倍に達し、目標を過達した。
2.5
①目標ディーゼルバス比 2.22倍
②最新ディーゼルバス 比 2.01倍
③CNGバスス比
2.88倍
CNGバスス比 バスス比 M15モード,半積
M15
モード,半積
2.22
2.0
③
1.5
1.0
②
①
1.10
1.00
0.77
0.5
0
A
゙ス
゙スB )
゙ス )
ト ゙ハ
ッ
ルハ 年型
ルハ 年型
゙
゙
セ 13
セ 11
フ ゙リ
゙ ィー 成
゙ィー 成
ハイ
テ (平
発
テ (平
開
ス
Gバ
N
C
図 2.2.2-(1)
燃費評価結果
また、燃料消費量から算出した CO2排出量の比較を図 2.2.2-(2)に示す.最新ディーゼルバス比で約 60%
低減,CNG バス比で約 65%低減した。図 2.2.2-(3)に走行効率解析結果の比較を示す。本開発車両の走行効
率は、現在の燃料電池車の走行効率に比べてほぼ同等レベルの 40%台後半に達した。
◆最新ディーゼバス比
◆最新ディーゼバス比CO
ディーゼバス比
CNGバス比CO
バス比 2
2 ◆CNGバス比
(M15モード)
1.2
1.00
1.0
1.00
0.8
0.40
0.6
0.35
0.4
0.2
図 2.2.2-(2)
ハイブリッドバス
CNG
CNGバス
バス
(H13年型)
ハイブリッドバス
0
ディーゼルバス
ディーゼルバスB
B
CO2比(g/km
g/km比
比)
(M15モード)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
CO2 排出量比率
48.6
参考
図 2.2.2-(3)
走行効率比較
139
燃料電池
ハイブリッド車(
ハイブリッド車(H
H2)
燃料電池車(
燃料電池車(H
H2)
ガソリンハイブリッド車
ガソリン乗用車
CNGエンジン)
エンジン)
(CNG
(平成
(平成13
13
13年型)
年型)
開発ハイブリッドバス
23
ディーゼルバス
ディーゼルバスB
B
(平成
(平成11
11
11年型)
年型)
22
ディーゼルバス
ディーゼルバスA
A
17
CNG
CNGバス
バス
車両走行効率(%)
(市街走行モード)
60
50
40
30
20
10
0
2.2.3 排出ガス評価結果
M15 モード走行において燃費測定と同時に排出ガスを測定した。排出ガスは、燃費とトレードオフ関係に
ある NOX について、ダイレクトサンプリング濃度測定と排ガス流量積算法とにより計算で求める簡易方法で
行った。図 2.2.3-(1)に結果を示す。長期規制適合ディーゼルバス比 0.17 倍(83%減)
、CNG バス比 0.43 倍
(57%減)に低減した。D13 モード長期規制値の U-LEV 認定倍率が 0.188 倍であり、M15 モードでの結果
ではあるが、本開発車両の 0.17 倍は U-LEV(☆☆☆)に相当するレベルと推定される。
◆NOx排出量比
NOx排出量比
◆PM排出量比
PM排出量比
超低公害車(ULEV)相当
レベルを大幅にクリア
1.5
1.5
PM
PM比(
比(
比(g/km
g/km
g/km比)
比)
1.00
1.0
0.5
0.17
図 2.2.3-(1)
0.5
~0~
ハイブリッドバス
(H13年型)
ハイブリッドバス
ディーゼルバス
ディーゼルバスB
B
0.0
ディーゼルバス
ディーゼルバスB
B
0.0
1.00
1.0
(H13年型)
NO
NOx
x比(
比(g/km
g/km
g/km比)
比)
超低公害車(ULEV)相当
レベル0.188をクリア
M15 モード NOX 評価結果(簡易測定法)
2.3 ドライバビリティ等実用性評価
モータによる発進加速性やモード追従性および回生ブレーキ特性やメカニカルブレーキとの協調・切り替
わり特性を主体に従来エンジンバスと比較評価した。
2.3.1
実走行パターンにおけるエネルギ効率制御の実用性
図 2.3.1 は都市バス実走行パターン走行時のハイブリッドシステム作動状態を M15 モード走行時と比較し
たものである。実走行パターン走行においてエンジン発電運転制御が効率的に適応できていない状況、した
がって、エンジンと発電機の総合効率が大幅に低い状態での発電運転頻度が多く、また、SOC を最適レベル
に維持できない状況が発生している。エンジンと発電機の総合効率は、M15 モード走行時の平均 33%程度に
対し都市バスモードでは 29%程度に低下している。この対策には、基本的要素技術上の課題はほとんど見当
たらず、発電パワーおよび発電パターンと蓄電装置の SOC 範囲活用に関わるエネルギマネジメント手法を追
加することで実用性を十分に確保できるものと判断する。
150
100
50
0
-50
-100
-150
100
80
60
40
20
0
0 25507510 Motor
12 15 17 20 22 25
27 30 32 35 37
Generator
0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5
0
0
100
100
200
200
Time(Sec)
300
SOC(%)
300
20
0
2500
2000
1500
1000
500
0
0
0
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
150 0
100
50
0
-50
-100
100
80
60
40
20
0
0
50
100 150 200 250 300 350 400
50
100 150 200 250 300 350 400
Engine N
エンジン・発電機・増速ギヤ総合効率
100 Motor 200
Time(Sec)
Generator
300
400
50 10 15 20 25 30 35 40
0 0 0 0 0 0 0
SOC(%)
0
100
200
300
400
Time(Sec)
エンジン・発電機平均効率 28~29%
図 2.3.1
Engine (rpm)
Speed (km/h)
0 25507510 12 15
17 20 22 25 27 30 32 35 37
[Eng-η]×[Gen・Gear-η]
0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5
40
Eng・Gene.
Efficiency(%)
0
Power(kW)
20
車 速
60
Capacitor-SOC
(%)
40
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
Capacitor-SOC
(%)
Power(kW)
M15モード(15km/h)走行例
2500 0 25 50 75 10 12 15 17 20 22 25 27 30 32 35 37
0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5
2000
1500
1000
500
0
Engine・Generator
Efficiency
Engine N(rpm)
Speed(km/h)
都市バスモード(15km/h)走行例
60
エンジン・発電機平均効率 32~33%
実走行パターンにおけるハイブリッドシステムの作動状況
140
2.3.2 加速応答性,車速追従性等ドライバビリティ評価
本開発車両はシリーズ方式であり、加速はすべてモータの動力特性に、減速はモータの回生制動特性に大
きく依存している。その加減速特性に関わるドライバビリティを、複雑な走行パターンを走行した場合のモ
ード車速追従誤差で評価する方法を試みた。その結果を図 2.3.2-(1)に示す。加減速度値および加減速パター
ンが複雑な平均車速 15km/h 程度の都市バスモードにおいて、ハイブリッドバスよりもかなり高出力なディ
ーゼルバスの場合に比べて追従誤差は加速、減速ともむしろ小さい結果が得られた。これにより、本開発車
両の実用性の重要評価ポイントであるドライバビリティは、市街地走行においては、ほぼ問題ないことを確
認した。
モード追従車速誤差比較
モード追従性比較
50
車速(km/h)
40
車速誤差(km/h)
V15改モード
H13ディーゼルバス
H13ハイブリッドバス
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
ディーゼル追従誤差
ハイブリッド追従誤差
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-2.0
300
-1.0
Time(Sec)
図 2.3.2-(1)
0.0
1.0
2.0
モード加速度(m/s2)
都市バスモード追従加減速ドライバビリティ評価結果
回生制動とメカニカル制動の回生制動分担率が大きいシリーズ方式である本開発車両において、回生制動
と従来メカ制動の協調制御特性は実用上の大きなポイントである。図 2.3.2-(2)は、微妙な制動フィーリング
を要求される停車直前の微速減速状態における、各制動系の作動線図および車速の測定結果である。回生/
メカ制動切替り点の 5km/h 前後の車速低下に実用上問題になるような不自然な特性は見られなかった。
ペダル吐出圧
ブレーキペダルエア圧
200
150
100
50
0
0 ブレーキブースタ圧,モータ回生トルク
5
10
Time(sec)
15
モータトルク
ブレーキブースタ圧
150
モータトルク
ブレーキ圧
200
100
50
0
車速(km/h)
0
30
5 車速
10
15
10
15
Time(sec)
20
10
0
0
5
Time(sec)
図 2.3.2-(2)
回生制動とメカ制動の協調
2.4 LNG燃料利用の検討
天然ガス燃料を LNG 形態で利用することより、燃料タンクの小型化、軽量化または航続距離の延長が期
待できる。しかし、LNG が CNG と異なる性能、排出ガス特性を有しないかどうかが問題となる。これらの
得失を、LNG 車の研究開発例を参考に検討する。
2.4.1 燃料タンク質量軽減による燃費低減,航続距離延長の可能性
クリーンで石油代替な天然ガス車の燃料として液化天然ガス(LNG)を使用することにより、質量増加と
なりやすい天然ガスエンジンハイブリッド車の質量を軽減し、燃費改善が図れるか、または CNG 車の弱点
である航続距離を延長する可能性が考えられる。そこで、本開発車のエンジンと同方式であるリーンバーン
天然ガスエンジンをベースとした LNG 自動車の研究例1)を参考に検討を行った。
図 2.4.1 は燃料を含むタンクの総質量と1回の充填で走行可能な航続距離の関係を、従来エンジンバスお
141
よび本開発車両について検討した結果である。本事業スタート時点ではスチールタンクしか使用できなかっ
たことから、LNG 燃料利用によって大幅な軽量化や航続距離延長の効果が期待できたことになるが、オール
樹脂タンクの使用が可能な現時点では、LNG 利用のメリットは長距離走行の場合に限られることが明らかと
なった。
HEVバスの燃料タンク種類と航続距離
従来天然ガスバスの燃料タンク種類と航続距離
(都市内走行 5.8km/kg時)
(都市内走行 2.5km/kg時)
600
重量限界
500
400
300
LNG Tank
all樹脂Tank
Steel Tank
200
100
Tank & Fuel (kg)
Tank & Fuel (kg)
600
0
重量限界
500
400
300
LNG Tank
all樹脂Tank
Steel Tank
200
100
0
0
100
200
300
400
0
航続距離(km/1充填)
航続距離(km/1充填)
図 2.4.1
100 200 300 400 500 600 700 800
燃料・タンク種類と質量,航続距離の関係検討結果
2.4.2 燃費、排出ガスへの影響
LNG 燃料利用におけるエンジン性能、排ガスに関して、ウエザリングによる燃料性状の変化による影響が
考えられ、前記 LNG 自動車の研究例1)を参考に検討した。燃料性状変化、モータオクタン価低下による性
能、燃費への影響、HC/CO 排出への影響はほとんどないと判断される。NOX については、長期間車両放置
の場合のような大幅な性状変化(メタン比率大幅低下)の場合には増加要因になるが、通常の使用状態で考
えられる性状変化の範囲では影響が少ないと推定される。したがって、CNG に代えて LNG を利用する場合
に、一部排出ガスへの影響に注意が必要ではあるが、LNG 利用に関わる技術的障害は見当たらないとの結論
を得た。
3.まとめ
3.1 要素技術の開発および評価
(1)高性能キャパシタ技術の研究開発
使用期間が長く、大量のブレーキエネルギを高効率に回生したいハイブリッド商用車の蓄電装置として、
充放電サイクル劣化が極めて少ない電気二重層キャパシタが最適と考えられる。そこで、実用性の高いキャ
パシタを狙いに、エネルギ密度を従来レベルの2倍以上の約 5.5Wh/kg 以上、充放電効率を走行平均で 95%
以上、且つ、大入/出力の 500W/kg 時でも 90%以上に向上させる研究を続け、最終的にエネルギ密度は目
標を過達する 6.8Wh/kg という結果が得られた。
加えて、抵抗低減のための端子結合技術、キャパシタセル間の電圧ばらつきを抑制する均等化充電制御技
術などの開発により、車載キャパシタ全体でも開発目標である充放電効率 95%を達成した。
(2)高効率天然ガスエンジンの開発
シリーズハイブリッド方式に最適な発電ポイントにおいて高効率を得る狙いで、ミラーサイクル機構付
CNG エンジンの開発に取組み、最終的に電子制御油圧駆動吸気弁方式のエンジンを開発、出力および熱効率
を大幅に改善できた。ベースの CNG エンジンに比べ、低速から発電運転点までの広い領域で熱効率は約 10%
向上し、ほぼ要素開発の目標を達成した。
(3)モータ、発電機、制御系の開発
走行/回生用モータおよび発電機は、小型・軽量な永久磁石式同期型交流電動機をベースに、シリーズ方
式に特化した性能仕様のものを開発した。その結果、走行/回生用モータはインバータを含めた総合効率で
開発目標の 90%以上を達成した。
発電機についても、同様に目標の 95%を達成した。
ハイブリッド車の回生制動メカブレーキの協調制御では、制動力配分制御手段として、電子制御エアブレ
ーキシステムを応用開発した。また、多機能汎用ビークルコントローラをベースに本開発車両のハイブリッ
ド要素を広範囲に司る車両統合システムおよび制御ソフトウエアを開発、試験車に搭載した。
これにより、キャパシタを利用したハイブリッドシステムのエネルギフローマネジメントの最適化が図れ
た。
142
3.2
車両試作および評価
(1)車両の開発と燃費・排出ガスの評価
次世代路線バスとしての成立性確認を狙いに、ノンステップ型路線バスを改造して上記ハイブリッド要素
を搭載し、試験車両とした。平成 13 年度に最終評価を行い、燃費は同型ディーゼル比で 2.2 倍、最新ディー
ゼル車についてもの 2 倍に達し、
最終目標をクリアした。
NOX についても同様に、
目標の長期規制時の U-LEV
相当以下をほぼクリアした。
(2)実用性評価
実用上のポイントの一つである車両質量は、従来 CNG バスに比べ航続距離を上回り、且つ CNG タンク半減
が可能となり、300kg 以上軽減した。ディーゼル比では 100kg 程度増加した。この対策としてキャパシタの
さらなるエネルギ密度等の性能向上が効果的である。
また、性能・機能面の実用性については、加減速ドライバビリティ等の基本的問題はなく、発電パワーの
可変化など制御上の改善が課題である。
最後に、バス・トラック等商用車の高効率化、低公害化に向けて、キャパシタハイブリッドシステムおよ
び高効率天然ガスエンジンハイブリッドシステムが極めてポテンシャルが高いことが確認できたが、とくに
高性能キャパシタの実用化技術、コストなど、実用上ならびに普及上の課題がある。この改善のための技術
的課題は、キャパシタのエネルギ密度のさらなる性能向上や製造技術である。
4.開発成果の応用
本プロジェクトによって得られた研究成果を応用し、ディーゼルエンジンと高性能キャパシタおよびモー
タを組み合わせ、キャパシタハイブリッド中型トラックとして2002年6月発表・発売した。以下にその
概要を紹介する。
4.1
車両概要
ハイブリッドシステムは、走行用モータとブレーキエネルギ回生時の発電機を兼用する1モータのシンプ
ルなパラレル方式を採用、モータ/ジェネレータは変速機右後方に動力分割用のギヤボックスを介して搭載
した。キャパシタシステムは車両左側面にコンパクトに配置した。図 4.1-(1)に車両外観、表 4.1 に主な車
両諸元、
図 4.2-(2)にハイブリッドシステムの構成概要ならびに搭載したキャパシタシステムの外観を示す。
表 4.1
主な車両諸元
( ベッドレス、標準幅、ドライバン架装)
キャパシタハイブリッド
ディーゼル(現行車)
車両型式
MK252GB改
MK252GB
全長×全幅×全高(mm)
7,970×2,210×3,320
←
最大積載量(kg)
3,300
3,950
車両総重量(kg)
7,990
←
エンジン(出力)
FE6F(152kW/206PS)
←
変速機
電子制御機械式オートマチック
機械式マニアル
パラレル
-
ハイブリッド方式
交流同期電動式 / 55kW
-
モータ形式/出力(kW)
Super Power Capacitor
-
蓄電装置
1.5倍(ベース車比)
ベース
燃費(市街地モードM15)
新短期規制 △ 25%(☆相当)
長期規制
排出ガス
図 4.1-(1)
車両外観
電子制御ブレーキシステム
モータ/ジェネレータ x 1
ディーゼルエンジン
インバータ
電子制御機械式自動変速システム
キャパシタシステム
最大電圧 : 346V
蓄電容量 : 583Wh
充放電効率 : 95%以上
図 4.1-(2)
ハイブリッドシステムの構成概要および車載キャパシタシステム概観
143
4.2 性能概要
上記構成により、大幅な燃費の向上と排出ガスの低減が達成できた。図 4.2-(1)に燃費性能、図 4.2-(2)
に排ガス性能を示す。
[市街地走行モード(M15半積)]
[g/kWh]
0.30
ベースディーゼル
1.5
現行長期規制値
燃費
従
来
車
比
1.5倍
倍
1.0
0.5
0
0.20
新短期規制値
燃費
PM
CO 2
燃費
従来車
図 4.2-(1)
CO 2
CO2 ▽33%
%
キャパシタ
ハイブリッド車
0.10
新長期規制値
)
キャパシタ
ハイブリッド車
0
燃費性能
0
1.0
2.0
3.0
4.0
NOx [g/kWh]
図 4.2-(2) 排出ガス性能
5.0
4.3 実績
本車両は平成14年度、財団法人省エネルギーセンター主催の省エネ大賞経済産業大臣賞を受賞。
販売実績は数台/年。
参考文献
1) Prof.A.Burke(Univ. Cal)[Cost-Effective Combination of Ultracapacitors and Batteries for Vehicle
Applications] The 2nd International Advanced Battery Conference,Feb4-7,2002, Nevada,USA
2) 平成 11 年度資源エネルギー庁補助事業天然ガス自動車実用化調査報告書「天然ガス自動車の実用化に向
けて、LNG 自動車・充填設備編」日本ガス協会、平成 12 年 3 月
144
研究開発項目③「総合性能評価」
(1)高効率ハイブリッドパワーシステムの研究開発:(財)日本自動車研究所
1. 目的
本事業で開発した車両システムの性能を客観的に評価するために,仕様の異なる各システムを同一の基準
で評価できる手法を開発し,これを用いて,開発された技術および車両(Advanced Clean Energy Vehicle;
ACEV)の性能を評価する.
2. 研究内容
(1) ACEV の評価
(2) エネルギー貯蔵装置の評価
(3) シミュレーションによる燃費性能予測
3. 研究成果
3.1 ACEV の評価
3.1.1 目的
いすゞ中央研究所,三菱ふそうトラック・バス,日産ディーゼル工業および日野自動車が開発した ACEV
の燃費・排出ガスおよび動力性能を測定し,目標(エネルギー消費率 1/2,超低排出ガスレベル)達成度と実
用性を評価する.
3.1.2 開発した車両
開発した ACEV4 台および比較車両(BV)4 台の主要諸元を表 3.1.2-1 に,ACEV4 台の概観を図 3.1.2-1
に示す.
配送トラック
車種
いすゞ中央研究所
自動車メーカ
記号
車体
日産ディーゼル工 業
日野自動車
BV3
ACEV3
BV4
ACEV4
BV5
ACEV5
BV6
kg
2,060
3,125
3,155
3,455
12,100
12,160
9,260
10,735
試験 時車両重 量 kg
3,115
4,180
4,210
4,510
14,000
14,000
11,725
12,825
車両 重量
燃料
種類
総排 気量
cc
気筒 数
吸気
エンジン
都 市バス
三菱ふそうトラック・バス
ACEV6
軽油
CNG
軽油
CNG
軽油
CNG
軽油
DME
圧 縮着火
遮熱式圧縮着 火
圧縮着 火
火花点火
圧縮着火
火花 点火
ミラーサイクル
圧縮着 火
圧縮着火
3,059
4,751
5,249
3,907
9,203
4,617
9,880
7,961
4
4
4
4
6
4
6
6
自然 吸気
ターボインタークーラ
自然吸気
自然吸気
自然吸気
自然吸気
ターボインタークーラ ターボインタークーラ
燃料 噴射装置
分配型
MPI
高圧 分配型
SPI
コモ ンレール
SPI
列型
コモンレール
燃料 供給方式
渦流 室式
副室噴射+
吸気管
直接 噴射式
予混合式
直接噴射式
予混 合式
直接 噴射式
直接噴射式
20.1
13.7
17.5
12.0
17.4
12.0
18.2
18.0
希 薄燃焼
希薄燃焼
希薄燃 焼
理論混合 比燃焼
希薄燃焼
希薄 燃焼
希薄燃 焼
希薄燃焼
圧縮 比
燃焼 方式
触媒
最大 出力
kW/rpm
適合 規制
変速機
なし
なし
なし
三元触媒
なし
リーンN Ox触媒
なし
酸化触媒
69/3,600
100/2,000
103/3,200
74/3,200
191/2,200
65/2,000
169/2,500
129/2,500
長 期規制
-
長期規 制
-
長期規制
-
長期規 制
-
5速MT
なし
4速AT
2 Speed
3速AT
なし
5速MT
なし
-
シ リーズ
-
4W D
シリーズ/パラレル
-
シ リーズ
-
間接
シリーズ/パラレル
種類
-
PM
-
PMデフレス
-
PM
-
PM
個数
-
2
-
2
-
2
-
1
-
50/5,900
-
50/2065-5,000
-
75/13,000
-
70 / 1,250-2,500
種類
-
キャパ シタ
-
Li-ion電 池
-
キャパ シタ
-
キャパシタ
エネル 容量
ギー貯蔵
重量
装置
-
45F
-
24Ah
-
66F
-
25F
kg
-
96
-
152
-
194
-
319
V
-
276
-
288
-
378
-
600
ハイブリッド方式
モータ
最大 出力
総電 圧
kW/rpm
145
いすゞ中央研究所の ACEV3
三菱ふそうトラック・バスの ACEV4
日産ディーゼル工業の ACEV5
日野自動車の ACEV6
図 3.1.2-1
供試車両概観
3.1.3 評価試験方法
(1) 燃費・排出ガス試験方法
開発した車両の燃費および排出ガスは,シャシダイナモメータ(C/D)を用いて測定した.ACEV4 について
は,同車両が四輪駆動であることから,前輪用と後輪用に 2 つのローラを装備する四輪駆動車用 C/D を利用
した.走行パターンは図 3.1.3-1 に示す M15 モードとし,積載条件は半積載で試験をおこなった.
Vehicle Speed
km/h
M15 Mode Driving Cycle
60
40
20
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
Time sec
図 3.1.3-1
M15 モード走行パターン
外部充電不要な HEV を評価する際,エネルギー貯蔵装置の充電状態(State of Charge: SOC)を試験前後
で等しくしないと公正な評価ができない(例えば,バッテリーのみで運転することによって排出ガスレベルを
ゼロにできる).そのためには,試験前後におけるエネルギー変化量(ΔE)を補正し,ΔE がゼロの場合の
値を算出する必要がある.そこで,図 3.1.3-2 に示す ACEV4 の測定例のように,Li-ion 電池搭載車の場合は
試験中の電気量収支が放電側と充電側に振れるように試験を 4 回程度実施し,電気量収支と燃費・排出ガスと
の関係を直線回帰した.Li-ion 電池のクーロン効率はほぼ 100%と考えられるため,電気量収支ゼロの点をΔ
146
キャパシタ搭載車(ACEV6)の式(1)による補正例を図 3.1.3-3 に示す.エネルギー消費率とΔE とは高い相
関性が得られた.なお,図 3.1.3-4 は,同車両について電気量収支で補正した例であるが,この方法を用いて
も高い相関性が得られた
y = -1.2287x + 3.7434
2
R = 0.9982
エネルギー消費率 エネルギー消費率 MJ/km
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
電気量収支 Ah
電気量収支 y = -1.798x + 8.1802
2
R = 0.989
y = -2.7719x + 8.1688
2
R = 0.9886
10.0
エネルギー消費率 MJ/km
エネルギー消費率 M
エネルギー消費率 エネルギー消費率 MJ/km
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
0.0
-1.0
-0.5
0.0
0.5
-0.6
1.0
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
電気量収支 Ah
電気量収支 2
Δ1/2CV MJ
(2) 動力性能試験方法
動力性能試験は,一周 5.5km の高速周回路を用いておこなった.測定は,エネルギー貯蔵装置の SOC を
通常の制御範囲内の比較的高レベルに設定した後におこなった.積載条件は半積載とし,発進加速性能,追
越加速性能および最高速度性能の評価をおこなった.
3.1.4 目標達成度の評価方法
(1) エネルギー消費率および CO2 排出率
車両の走行抵抗は,縦断勾配 0%条件では,加速抵抗,ころがり抵抗および空気抵抗の 3 種に分類される.
このうち加速抵抗ところがり抵抗は,車両重量に比例する.空気抵抗は,車体形状が車両重量によらず同一
と仮定した場合,走行速度の 2/3 乗に比例する.M15 モードは平均速度が 15km/h と低いために,走行抵抗
の割合は加速抵抗と転がり抵抗が大部分を占め,空気抵抗の占める割合はわずかである.したがって,M15
モードでは走行に必要なエネルギーは車両重量に比例する.
そこで,ここでは図 3.1.4-1 に示すように,ACEV の比較車両(従来車)を含めたできるだけ多数の従来
ディーゼル車について,エネルギー消費率(MJ/km)を車両重量に対してプロットした.そのプロット点を
直線回帰して従来車の基準ラインを求め,ACEV のエネルギー消費率低減目標ラインをその 1/2(赤線)と
した.ACEV の成果は,この目標ラインに到達しているか否かで評価することとした.また,CO2 排出率に
ついても同様に評価した.
147
Energy Consumption MJ/km
25
M15 Mode
Conventional
Diesel Vehicle
20
Existing
Hybrid
15
Target of the
ACE Project
10
5
0
0
5000
10000
15000
Vehicle Weight kg
20000
(2) 排出ガス
重量 HEV の排出ガス試験法は現在,国において検討している段階であり,認証試験法が存在しない.そ
こで,ここでは,ハイブリッドの効果を表現し,且つ,規制単位(g/kWh)に対応した排出係数を出すため,
下記 3 種の評価法を試みた.
評価法 1:比較車両の 13 モード排出ガスに ACEV の M15 モード排出ガス(g/km)低減率を乗じて評価
評価法 2:M15 モードの駆動輪仕事当たり排出率(g/kWh)で評価
評価法 3:評価法 2 の値に比較車両の D13 モード/M15 モード駆動輪仕事当たり排出率(g/kWh)比を乗じ
て評価
なお,エンジン単体の 13 モード試験では ULEV レベルを満足しているが,車両試験では超過した場合は,
その旨を記述することとした.
3.1.4 評価結果
(1) エネルギー消費率および CO2 排出率
ACEV4 台のエネルギー消費率および CO2 排出率の評価結果を図 3.1.4-1 および図 3.1.4-2 に示す.エネル
ギー消費率は,ほぼ目標値に到達した.また, CO2 排出率は,CNG 車両 3 台(ACEV3, 4, 5)は目標ライ
ンを下回った.これは,天然ガスの CO2 発生量が軽油と比べて少ないことによる.DME はその性質上天然
ガスと比べて CO2 の排出が高くなるために,開発した車両(ACEV6)はエネルギー消費率に関しては目標
値に到達したが,CO2 の低減率は他の 3 台と比べて低かった.図 3.1.4-3 は,エネルギー消費率と CO2 排出
率を各 ACEV 毎に整理したものである.エネルギー消費率は同一重量の従来車に対し,41∼50%低減し,CO2
排出率は 48∼67%低減できた.表 3.1.4-1 に示す軽油換算燃費は従来車の 1.7∼2.0 倍となった.
1400
M15 Mode
Conventional
Diesel Vehicle
20
M15 Mode
1200
ACEV5
15
ACEV6
10
ACE目標:従来車
の1/2ライン
ACEV4
5
CO2 Emission g/km
Energy Consumption MJ/km
25
ACEV3
Conventional
Diesel Vehicle
1000
800
ACEV6
600
ACEV4
400
ACEV3
ACE Target: Half of
Conventional Vehicle
200
0
ACEV5
0
0
5000
図 3.1.4-1
10000
15000
Vehicle Weight kg
20000
0
ACEV のエネルギー消費率
5000
図 3.1.4-2
148
10000
15000
Vehicle Weight kg
ACEV の CO2 排出率
20000
47%
60
目標ライン
59
40
53
44
53 52
50
40
37
20
0
ACEV3
図 3.1.4-3
表 3.1.4-1
AC EV4
AC EV5
AC EV6
エネルギー消費率と CO2 排出率の目標達成度
ACEV の軽油換算燃費と燃費改善率
ACEV
車両記号
48%
50%
C O2 排出率 g/ km
67%
47%
80
60%
41%
100
56%
従来車基準に対す る割合 %
エ ネルギ ー消費率 M J/ km
エネルギー消費率
実 測値 MJ/km
従来車
軽油換算 燃費
km/L
回帰式 から求めた
ACEVと同一 重量
車の燃費 km/L
燃費改善率
ACEV3
ACEV4
3.97
3.74
9.6
10.1
5.6
5.4
1.7
1.9
ACEV5
8.21
4.6
2.3
2.0
ACEV6
8.18
4.6
2.5
1.9
(2) 車両効率と回生効率
車両の走行時の効率を示す指標として,車両効率を式(2)で定義し,市販乗用 HEV と ACEV について算出
した.
車両効率(%)=タイヤ接地面の理論駆動仕事 (J)/消費エネルギー(J)×100 ----------------------------- (2)
算出結果を図 3.1.4-4 に示す.ACEV の車両効率は,配送トラック 2 台が 31%と 34%,都市バスが 47%と
42%となり,市販乗用 HEV の 24∼27%に対して大幅に高い値が得られた.特に配送トラックは,搭載した
エンジンの効率がガソリンエンジンと同等であり,エンジンによる寄与はなかったが良好な結果が得られた
50
47
ACE車両:
モード
車両: M15モード
車両効率 %
40
42
市販HEV:
: 10-15モード
モード
市販
34
30
31
27
20
26
24
24
10
0
P-HEV
SPHEV1
図 3.1.4-4
SPHEV2
SP- ACEV3 ACEV4 ACEV5 ACEV6
HEV3
ACEV および市販乗用 HEV の車両効率
高い車両効率が得られた一因として,下記の理由により式(3)に示す回生効率が高くなったことが考えられ
る.
・ M15 モードは 10-15 モードより平均車速と最高速度が低いため空気抵抗の割合が小さくなる.
・ シリーズ HEV であるが,モータ/エンジン切替クラッチを有する.
・ ACEV4 はデフレスモータを採用し摩擦損失を低減している.
・ 回生受入れ性の高い高効率エネルギー貯蔵装置を搭載している.
回生効率(%)=エネルギー貯蔵装置に流れた電力量(J)/タイヤ接地面の理論回生
可能仕事 (J)×100 ---------- (3)
図 3.1.4-5 に回生効率の測定結果を示す.市販乗用 HEV の 32∼60%に対し,ACEV は 67%から 83%とな
り,極めて高い回生効率が得られた.
149
また,図 3.1.4-6 に示すように,重量車になるほど転がり抵抗係数が小さくなる傾向があるため,タイヤ
100
ACE車両:
車両: M15モード
モード
80
市販HEV:
: 10-15モード
モード
市販
83
回生効率 回生効率 %
78
76
67
60
60
58
54
40
32
20
0
P-HEV
SPHEV1
図 3.1.4-5
SPHEV2
SPHEV3
ACEV3 ACEV4 ACEV5 ACEV6
ACEV および市販乗用 HEV の回生効率
Driving Work %
M15 Mode
100
80
60
40
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
Acceleration
Air Drag
Rolling Resistance
Deceleration
Passenger
Car
図 3.1.4-6
Delivery
Truck
City
Bus
走行時仕事割合の比較
(3) 排出ガス
ACEV と比較車両の M15 モードにおける排出ガス比(走行距離当りの低減率)を図 3.1.4-7 に示す.NOx
と PM は全 ACEV が低減したが,CO は ACEV3 が,NMHC は ACEV3 と ACEV5 が比較車両よりも高い排
出率となった.
比較車両の D13 モード/M15 モード排出率(g/kWh)比を図 3.1.4-8 に示す.各成分の排出率比は,車両に
よってばらつきがあるものの,平均すると 0.63∼0.89 の範囲であった.そこで,ここでは評価法 3 に使用す
る排出率比を 0.7 とした.
評価法 1∼3 による試験結果を図 3.1.4-9 に示す.NOx,PM とも 3 台が ULEV レベルを満足した.ACEV3
の CO と NMHC が高かったが,酸化触媒の採用によって低減できると考えられる.また,PM が ULEV レ
ベルを超過したが,これは副室におけるリッチ燃焼とオイル下がりによると考えられる.また,ACEV4 と
ACEV5 の NMHC が ULEV レベルを超過したが,再始動時に多く排出されたためであり,火花点火天然ガ
スでは課題となる可能性がある.ACEV6 は NOx が LEV レベルを超過したが,エンジン単体の D13 モード
試験では ULEV 以下となっており,過渡運転時の燃焼チューニングが不十分であったためと推察される.こ
れらの結果は原因が明確になっており,必要に応じて対応可能であることから,本研究開発事業においては
対策を講じてない.
150
9.6
1.0
ACEV NMHC (g/km)
------------------BV THC (g/km)
ACEV CO (g/km)
---------------BV CO (g/km)
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.13
0.06
0.05
ACEV4
ACEV5
0.0
0.4
ACEV3
1.0
0.8
0.8
0.6
0.34
0.4
0.14
0.08
0.14
0.0
0.6
ACEV4
ACEV5
ACEV6
0.02
0.02
ACEV5
ACEV6
0.49
0.4
0.2
0.0
ACEV3
図 3.1.4-7
ACEV4
ACEV5
ACEV6
ACEV3
2.0
0.97
1.0
0.55
0.53
0.5
0.63
0.48
D13 mode THC (g/kWh)
----------------------M15 mode THC (g/kWh)
1.5
1.5
1.25
1.0
0.69
0.54
0.51
0.47
BV3
BV4
BV5
0.5
0.0
0.0
BV3
BV4
BV5
BV6
Average
2.0
0.65
0.78
0.62
0.71
0.5
0.0
D13 mode PM (g/kWh)
----------------------M15 mode PM (g/kWh)
0.78
BV6
Average
0.88
0.89
BV6
Average
1.87
2.0
1.5
1.0
ACEV4
ACEV と比較車両の M15 モード排出ガス比(低減率)
2.0
D13 mode CO (g/kWh)
----------------------M15 mode CO (g/kWh)
0.16
0.2
1.0
D13 mode NOx (g/kWh)
----------------------M15 mode NOx (g/kWh)
0.70
0.6
ACEV6
ACEV PM (g/km)
---------------BV PM (g/km)
ACEV NOx (g/km)
-----------------BV NOx (g/km)
0.8
3.9
0.0
ACEV3
0.2
15.5
1.5
1.0
0.5
0.43
0.38
BV3
BV4
0.0
BV3
BV4
図 3.1.4-8
BV5
BV6
Average
BV5
比較車両の D13 モードと M15 モードの排出ガス比率
151
25.24
6.0
17.67
上限:目標
2.54
4.90
4.94
4.0
8
2.0
0
0.0
評3
評1
評2
評3
(a)
上限:目標
0.87
0.65
NMHC g/kWh
CO g/kWh
12
8
0.22
4
TLEV
LEV
ULEV:目標
0.68
0.68
評1
評2
3.38
TLEV
2.54
LEV
0.14
TLEV 0.127
0.09
LEV
0.071
0.05
0.36
ULEV:目標
0.25
1.69
0.85
0.00
評2
評1
Current
0.18
TLEV
0.14
LEV
ULEV:目標
0.50
0.44
0.71
0.09
0.05
評2
評3
(b)
0.87
0.65
NMHC g/kWh
CO g/kWh
12
8
0.44
3.38
0.66
2.54
LEV
0.42
0.22
4
評2
ULEV:目標
1.69
0.85
Current
0.18
TLEV
0.14
LEV
1.04
ULEV:目標 0.73
0.61
0.09
0.05
0.00
評2
評3
0.87
0.65
NMHC g/kWh
CO g/kWh
12
0.44
0.22
4
評1
評2
評3
3.38
TLEV
2.54
LEV
ULEV:目標
0.13
0.09
0.18
0.00
評1
(d)
評2
評3
ACEV6
評3
Current
TLEV
LEV
ULEV:目標
規制対象外
評1
Current
TLEV
0.18
0.14
2.32
1.99
1.69
0.85
LEV
1.63
ULEV:目標
0.09
0.05
0.00
評1
評2
評2
評3
評3
Current
TLEV
LEV
ULEV:目標
0.008 0.008 0.006
0.30 0.28 0.19
0
評2
ACEV5
Current
NOx g/kWh
上限:目標
8
ULEV
0.00
PM g/kWh
評1
評3
(c)
16
LEV
0.006 0.003 0.002
0.00
評2
TLEV
評1
評3
0.05 0.10 0.07
0
評1
Current
ACEV4
Current 0.95
TLEV
評3
0.00
評1
NOx g/kWh
16
上限:目標
評2
規制対象外のため
測定せず
0.00
評1
評3
ULEV:目標
0.00
評3
PM g/kWh
評1
0.09
0.48
0.10 0.20 0.14
0
Current
ACEV3
Current
0.52
0.44
0.18
0.00
NOx g/kWh
評2
1.69
0.85
ULEV:目標
評1
16
NOx g/kWh
17.77
16
NMHC g/kWh
CO g/kWh
24
Current
PM g/kWh
3.38
7.05
PM g/kWh
8.0
32
0.00
評1
評2
評3
評1
評2
評3
注:NOx は D13 モードでは ULEV レベルを満足した.
図 3.1.4-9 ACEV の排出ガス評価結果
(4) 動力性能
ACEV4,ACEV5,ACEV6 の ACEV3 台およびその比較車両 3 台の発進加速性能,追越加速性能および最
高速度性能の試験結果一覧を表 3.1.4-2 に示す.同表において ACEV3 台の値は,SOC が比較的高レベルか
ら試験を開始した際の結果である.また,発進加速性能については,車速とエネルギー貯蔵装置出力の時系
列変化を図 3.1.4-10 に示す.
a) 発進加速性能
図 3.1.4-10(a)に示す ACEV4 はシリーズ/パラレル HEV であるが,ここではシリーズモードで試験をお
こなった.発進直後の数秒間において,加速の立ち上がりが遅れたが,これは,急激な加速度変化の防止と
フィーリング向上のためアクセルペダルに対するモータの応答性を鈍化させているためである.発進直後の
部分を除けば,ACEV4 は比較車両と同等以上の加速性能を示した.また,ACEV4 は Li-ion 電池搭載車であ
るため,発進後 40 秒を過ぎてもバッテリ出力が継続していることがわかる.
図 3.1.4-10(b)に示すシリーズ HEV の ACEV5 は,SOC 高レベルからの試験においては,概ね車速 40km/h
まで比較車両と同等の加速性能を示した.ACEV5 はキャパシタ搭載車であるため,30 秒前後の加
152
速においてキャパシタ出力を絞る制御となっている.
図 3.1.4-10(c)に示す間接シリーズ/パラレル HEV の ACEV6 の加速性能は,比較車両に比べて劣る結果
となった.これは,同図のキャパシタ出力に示すように,発進直後のシリーズモード時以外は,最大出力 70kW
のモータが 20kW 前後の出力で使用されていることが原因である.モータアシストを有効に使用する制御と
することで改善できると考えられる.
b)
追越加速性能
ACEV4 と ACEV5 の追越加速性能は比較車両よりも良好であった.ACEV6 は比較車両よりも遅くなった
が,これもモータ制御の変更によって改善可能と考えられる.
c)
最高速度性能
ACEV4 の最高速度性能は比較車両と同等であった.ACEV5 と ACEV6 は比較車両より低かったが,これ
は,この 2 台が都市内走行に限定して設計されているためである.
表 3.1.4-2
試験項目
発進加速
ACEV および比較車両の動力性能試験結果一覧
BV4
ACEV4
BV5
ACEV5
BV6
ACEV6
(0-10km/h)
0.9
2.0
1.8
1.7
0.9
2.1
(0-20km/h)
2.4
3.3
3.8
3.7
2.4
5.2
(0-30km/h)
4.1
4.7
7.1
6.7
4.1
9.4
(0-40km/h)
6.3
6.6
11.7
11.8
6.3
14.5
(0-50km/h)
9.2
9.3
18.3
(0-60km/h)
13.0
12.7
25.1
9.2
20.6
-
(0-70km/h)
17.6
17.1
(0-80km/h)
23.0
25.3
13.0
28.9
-
-
17.6
22.6
-
-
23.0
-
39.1
(0-90km/h)
31.5
30.0
-
-
31.5
-
(0-100km/h)
45.9
42.9
-
-
45.9
-
追越加速
(20-40km/h)
最高速度
4.9
3.8
8.3
7.5
6.8
9.0
113
110
103
64
120
79
比較車両
ACE車両:SOC高レベル開始
S
O
C
20
車速 km/h
40
120
100
80
60
40
20
0
キャパシタ出力 kW
km/h
60
100
80
60
40
20
0
-20
-40
0
10
20
30
0
40
キャパシタ出力 kW
0
100
バッテリ出力 kW
ACE車両
比較車両
ACE車両:SOC低レベル開始
ACE車両:
低レベル開始
80
120
100
80
60
40
20
0
車速
車速 km/h
ACE車両
比較車両
80
60
40
20
0
0
10
20
時間 sec
30
5
10
15
20
25
30
35
100
80
60
40
20
0
40
図 3.1.4-10
0
5
10
15
時間
20
sec
25
30
35
0
10
20
30
40
0
10
20
時間 sec
30
40
ACEV および比較車両の発進加速性能
3.1.5 まとめ
いすゞ中央研究所,三菱ふそうトラック・バス,日産ディーゼル工業および日野自動車が開発した ACEV
の燃費・排出ガスおよび動力性能を同一の評価基準で評価した.
・ エネルギー消費率および CO2 排出率:エネルギー消費率および CO2 排出率は従来車のほぼ 1/2 とな
り,所期の目標を達成した.充放電効率の高いエネルギー貯蔵装置の開発,永久磁石式モータやデフ
レスモータ等モータおよびジェネレータの高効率化,モータ/エンジン切替機構あるいはシリーズ方
式の採用,高効率クリーンエネルギーエンジンの開発によって,減速エネルギーの高効率回生,駆動
損失の低減,エンジン運転条件の最適化を実現したこと,また,都市バスや配送トラックに装着され
るタイヤは乗用車よりも転がり抵抗が小さく,回生可能な減速エネルギーが大きくなったことが要因
として挙げられる.
・ 排出ガス:NOx と PM は,所期の目標である ULEV レベルをほぼ満足した.これは,天然ガスや DME
等のクリーンエネルギーの採用に加えて,高効率ハイブリッドシステムの採用によりエンジン仕事を
従来車より大幅に低減できたことによる.
・ 動力性能:エネルギー貯蔵装置からの電力利用により比較用従来車と同等の加速性能を得ることが可
能である.
153
3.2 エネルギー貯蔵装置の評価
3.2.1 目的
ACE プロジェクトで開発したエネルギー貯蔵装置について,充放電効率と自己放電特性の評価をおこなう.
対象エネルギー貯蔵装置として市販 HEV 用ニッケル水素(NiMH)電池をベンチマークする.
3.2.2 供試ハイブリッド要素部品
評価を行ったエネルギー貯蔵装置の諸元と概観を表 3.2.2-1 に示す.最終的に ACEV に搭載されるキャパ
シタ 3 種(CAP-C,CAP-D,CAP-E)と LiIon 電池 1 種(LiIon-A)および FWB1 種(FWB-A)
,また,
比較用の市販 HEV 用 NiMH 電池 1 種(NiMH-A)について調査した.
表 3.2.2-1
供試エネルギー貯蔵装置の諸元
Type
Capacitor
Capacitor
Capacitor
Li-ion
FWB
NiMH
Vehicle
ACEV3
ACEV5
ACEV6
ACEV4
ACEV2
Market HEV
φ300×400
φ32×60
34700 (not
include
inverter)
183
dimensions (mm) 127×54×54 100×100×28 164×62×62 46×110×185
Mass (g)
485
462
700
1900
Volume (L)
0.37
0.28
0.623
0.827
28.3
0.048
Capacity
2700F
3085F
2835F
24Ah
250Wh
6.5Ah
Voltage (V)
2.3
2.7
2.7
3.6
−
1.2
Tested Year (FY)
2002
2001
2000
2002
2003
2000
Photograph
3.2.3 試験方法
(1) エネルギー貯蔵装置の初期化
エネルギー貯蔵装置は,試験前の状態により性能や特性が異なるため,NiMH 電池以外はエネルギー貯蔵
装置に付属されているバランス装置を用いる等自動車メーカに指定された方法で初期化をおこなった.FWB
では,特に初期化をおこなう必要はない.
(2) 定電力充放電試験
定電力充放電試験では,初期化した後,充電もしくは放電により,目標となる SOC に調整する.図 3.2.3-1
に示すように,FWB 以外は,ハイブリッドシミュレータを使用して試験を行った.ハイブリッドシミュレー
タは,モータ,インバータを使用することから,実使用条件に近い試験が可能である.試験では,エンジン
ダイナモを定速度制御で運転し,モータのアクセル開度と駆動方向を変化させることにより,電力を変化さ
せた.その際,電力計をエネルギー貯蔵装置に接続し,電圧,電流を連続して測定し,逐次データ収録装置
にてデータ取込をおこなった.
図 3.2.3-1
定電力充放電効率試験装置(キャパシタ,Li バッテリ,NiMH バッテリ)
本田技術研究所による FWB の試験には,図 3.2.3-2 に示すように直流電源装置および電子負荷装置を用い
た.試験では,直流電源装置より充電を行い,電子負荷装置で放電を行った.その際,電力計をエネルギー
貯蔵装置に接続し,電圧,電流を連続して測定し,逐次データ収録装置にてデータ取込をおこなった.
154
図 3.2.3-2
定電力充放電効率試験装置(FWB)
3.2.4 充放電効率算出方法
定電力充放電試験での充放電効率(充電と放電の往復の効率)は,図 3.2.4-1 に示すように定義した.放電
時の電気量積算値と充電時の電気量積算値が一致するように充放電させ,充放電効率は充電されたエネルギ
ーと放電されたエネルギーの比,すなわちワットアワー効率として算出した.
図 3.2.4-1
充放電効率(往復)の算出方法
3.2.5 定電力充放電効率の調査結果
定電力充放電試験は,SOC が 90∼20%の範囲において,それぞれのエネルギー貯蔵装置が使用可能な領域
でおこなった.出力密度は,75,150,225,300W/kg の 4 条件でおこない,充放電の深度は SOC で 10%
とした.キャパシタと二次電池の重量は,固定用の箱や枠,配線,バランス装置等の重量は加味せず,単純
にセル重量から計算した.FWB のみコントローラを含む重量で計算をおこなった.
(1) 出力密度の影響
図 3.2.5-1 に出力密度の変化が充放電効率に及ぼす影響を SOC をパラメータとして示す.充放電効率は,
キャパシタ,二次電池を問わず,出力密度の増加に伴い低下する傾向が見られたが,FWB では,モータ/ジ
ェネレータの効率にほぼ等しくなるため,低出力密度で低下する傾向になった.その低下率は,CAP-C,
CAP-D,CAP-E および LiIon-A では,出力密度が 300W/kg 程度まで変化が小さくほぼ直線的な低下であっ
たが,NiMH-A では,200W/kg 以上で大きく低下する傾向が見られた.特に,SOC の低い条件では顕著で
あった.FWB-A では,150W/kg 以上ではほぼ一定の充放電効率となった.
比較的出力密度の低い 75W/kg における充放電効率は,CAP-C,
CAP-D および CAP-E が 95%以上,
LiIon-A
が 97%以上となり,NiMH-A の 90%前後に対して良好な値が得られた.FWB-A は 84%前後であった.比較
的出力密度の高い 300W/kg の条件では,CAP-C,CAP-D および CAP-E が 85%以上,LiIon-A が 90%以上,
FWB-A が 88%程度となり,NiMH-A の 80%以下に対して良好な値が得られた.
以上,当プロジェクトで開発した各エネルギー貯蔵装置の充放電効率は,同一の出力密度においては,
FWB-A の低出力密度条件を除き,NiMH-A よりも高いことがわかった.
155
CAP-D
充放電効率 %
充放電効率 %
CAP-C
100
90
80
70
0
100
200
300
出力密度 W/kg
90
80
70
0
400
充放電効率 %
充放電効率 %
90
80
70
100
200
300
出力密度 W/kg
90
80
70
0
FWB-A
100
200
300
出力密度 W/kg
400
NiMH-A
充放電効率 %
充放電効率 %
400
100
400
100
90
80
70
0
100
200
300
出力密度 W/kg
LiIon-A
CAP-E
100
0
85%
75%
65%
55%
45%
35%
25%
100
100
200
300
出力密度 W/kg
400
100
90
80
70
0
100
200
300
出力密度 W/kg
400
注:FWB の出力密度はインバータを含むシステム重量から算出
他のエネルギー貯蔵装置についてはセル単体重量から算出
図 3.2.5-1 出力密度の変化が充放電効率(往復)に及ぼす影響
次に,出力密度の変化が充放電効率に及ぼす影響を定量的に把握するために,図 3.2.5-1 における傾きを求
めた.図 3.2.5-2 は,SOC が 50%から 60%の範囲で使用した場合の出力密度 100W/kg 増加あたりの効率低
下割合である.NiMH-A は約 10%の効率低下であったが,当プロジェクトで開発した CAP-C,CAP-D およ
び CAP-E は 4%以下,LiIon-A では 3%以下,FWB-A では 2%以下となり,出力密度の増加による効率低下
が非常に少ないことがわかった.
10
8
充放電効率
6
低下割合
(% /
100W/kg) 4
2
0
CAP-C CAP-D CAP-E LiIon-A FWB-A NiMH-A
図 3.2.5-2
出力密度 100W/kg 増加あたりの充放電効率(往復)低下割合
(2) SOC の影響
SOC を 10%刻みで充放電させた際の SOC と充放電効率の関係を図 3.2.5-3 に示す.記号は,例えば SOC
が 80%から 70%までの充放電により得られた効率を SOC が 75%のところにプロットした.
156
充放電効率は,CAP-C,CAP-D および CAP-E では,SOC の低下とともに低下する傾向が見られた.これ
は,電圧低下に伴う電流増加によるものと考えられ,出力密度が高くなるほど顕著であった.LiIon-A では
明確な影響が見られなかった.FWB では,モータ/ジェネレータの効率にほぼ等しくなるため,SOC の影
響は見られなかった.NiMH-A では,キャパシタ 3 種と同様に,SOC の低下とともに低下する傾向が,出力
密度が高くなるほど顕著に見られた.
CAP-D
100
95
90
85
80
75
70
75W/kg
150W/kg
225W/kg
300W/kg
20
40
60
SOC %
CAP-E
80
100
95
90
85
80
75
70
0
20
40
60
SOC %
FWB-A
80
充放電効率 %
充放電効率 %
95
90
85
80
75
70
20
40
60
SOC %
80
90
85
80
75
70
100
0
20
40
60
SOC %
LiIon-A
80
100
0
20
40
60
SOC %
NiMH-A
80
100
0
20
40
60
SOC %
80
100
100
95
90
85
80
75
70
100
100
0
100
95
100
充放電効率 %
充放電効率 %
0
充放電効率 %
充放電効率 %
CAP-C
100
95
90
85
80
75
70
注:FWB の出力密度はインバータを含むシステム重量から算出
他のエネルギー貯蔵装置についてはセル単体重量から算出
図 3.2.5-3
SOC 変化が充放電効率(往復)へ及ぼす影響
次に,各エネルギー貯蔵装置の容量を考慮した評価をおこなうため,図 3.2.5-3 のグラフの横軸を SOC か
ら重量あたりの残電力量にした場合の結果を図 3.2.5-4 に示す.ここで,残電力量とは,エネルギー貯蔵装置
に残っている電力量と定義した.同図では,SOC100%時の容量を直線で示した.CAP-C,CAP-D および
CAP-E,FWB-A では,二次電池と比較すると容量が小さいため高効率で使用できる電力量が大きくないこ
とがわかる.しかし,CAP-C,CAP-D および CAP-E は,同出力密度における効率が NiMH-A より高いた
め,大きな充放電振幅で使用しなければ高効率で使用できる.LiIon-A は,使用可能な SOC 範囲は広くない
が容量が大きいため,高効率で使用できる電力量は大きい.FWB-A は容量が最も小さいが,ほぼ SOC0%か
ら 100%までの広範囲で使用でき,SOC 低下時の効率低下が少ないことがわかった.
157
充放電効率 %
充放電効率 %
100
90
80
SOC100%
70
0
10
20
30
40
残電力量 Wh/kg
100
90
80
SOC100%
70
0
50
10
90
SOC100%
70
0
10
20
30
40
残電力量 Wh/kg
80
SOC100%
70
0
10
20
30
40
残電力量 Wh/kg
50
NiMH-A
充放電効率 %
充放電効率 %
50
90
FWB-A
90
80
SOC100%
70
10
40
100
50
100
0
20
30
残電力量 Wh/kg
LiIon-A
充放電効率 %
充放電効率 %
CAP-E
100
80
75W/kg
150W/kg
225W/kg
300W/kg
CAP-D
CAP-C
20
30
40
残電力量 Wh/kg
50
100
SOC100%
90
80
70
0
10
20
30
40
残電力量 Wh/kg
50
注:FWB の出力密度はインバータを含むシステム重量から算出
他のエネルギー貯蔵装置についてはセル単体重量から算出
図 3.2.5-4
SOC が充放電効率(往復)に及ぼす影響
3.2.7 まとめ
ACE プロジェクトで開発したエネルギー貯蔵装置 5 種(キャパシタ 3 種,LiIon 電池 1 種および FWB1
種)について,市販 HEV 用 NiMH 電池1種と比較して充放電効率(往復)の実測値をまとめた.
・ キャパシタと LiIon 電池の充放電効率は,同一の出力密度において NiMH 電池よりも高かった.FWB
も出力密度が約 100W/kg 以下の条件を除き,NiMH 電池よりも高かった.比較的出力密度の高い
300W/kg における充放電効率は,キャパシタが 85%以上,LiIon 電池が 90%以上,FWB が約 88%,NiMH
電池が 80%以下であった.
・ 充放電効率は,キャパシタでは,SOC の低下とともに低下する傾向が見られるが,出力密度が高くなる
ほど顕著であった.LiIon 電池では明確な影響が見られなかった.FWB では,モータ/ジェネレータの
効率にほぼ等しくなるため,SOC の影響は見られなかった.
158
3.3 数値シミュレーションによる燃費性能予測
3.3.1 目的
種々のハイブリッド方式に対応できる燃費シミュレーションプログラムを開発し,各要素部品の効率が燃
費に及ぼす影響の感度解析を行うとともに,それら要素部品を組み合わせた際の最良燃費を探る.
3.3.2 シミュレーションプログラム
(1) 燃費シミュレーションプログラム
本プロジェクトで開発した燃費シミュレーションプログラムは,要素部品およびハイブリッド方式の変更
を容易におこなうために,高い汎用性を持たせている.具体的には,エンジン,エネルギー貯蔵装置,発電
機,駆動回生用モータ,トランスミッション,デファレンシャルギア等の要素部品をそれぞれ独立したプロ
グラムとして作成し,図 3.3.2-1 に示すように,それぞれの要素部品を任意に組み合わせることが可能な構造
とした.これによって,仮想のハイブリッド車を容易に作り出し,燃費を予測することが可能である.
図 3.3.2-1
燃費シミュレーションプログラムのイメージ
燃費シミュレーションプログラムのフローチャートを図 3.3.2-2 に示す.計算方法は,まず始めに,車両の
諸元を決定する.次に,要素部品とハイブリッド方式および走行パターンを選択する.エネルギー貯蔵装置
の初期 State of Charge(SOC)は自動で設定され,計算を開始する.現在の車速と 100ms 後の目標車速か
ら,目標加速度を算出し,必要駆動力を求める.車両が停止していなければ,求めた必要駆動力と車速を,
タイヤ,デフ,トランスミッション等を介して,回転数,トルクに変換する.変換された要求トルクが駆動
側の場合は,走行可能かつ最も高効率な動力源の組み合わせで走行する.このとき,選択された動力源が消
費する燃料および電力を積算する.また,要求トルクが回生側の場合は,SOC のレベルを調べ,回生の可否
を判断し,モータ,エネルギー貯蔵装置が許容できる最大電力まで回生する.車両が停止している場合は,
インバータや補機等へ供給する電力のみを積算する.この計算をモード終了まで繰り返し,モード全体の燃
費および SOC の変化量を算出する.
HEV の燃費を計算する際は,試験前後での SOC 変化量が十分に小さいことが必要である.そのため,こ
こでは初期 SOC を任意に変更して計算をおこない,消費燃料エネルギーに対する SOC 変化分の電気エネル
ギーが,0.2%以下になるまで収束計算した.10 回の計算で収束しなければ,SOC の変化量に対する燃費変
化の傾きを求めて補正をおこなう「直線回帰法」により燃費を算出した.
図 3.3.2-2
燃費シミュレーションプログラムのフローチャート
159
燃費向上率 %
(2) 最適化プログラム
パラレル方式では,エンジンとモータの負荷分担率は,モータとエンジンからなる HEV システムの回転
数と要求トルクとのマップによって決定している.この負荷分担率マップは,燃費を最良とするためには車
両諸元や走行モードによって変更する必要があるが,エンジン効率とモータ効率が変数となるために組み合
わせが膨大になる.そこで,
「生物の進化論」を応用した手法 1)を用いて最適化した.最適化プログラムのフ
ローチャートを図 3.3.2-3 に示す.負荷分担率マップを一定値として燃費の計算をおこない,その燃費と負荷
分担率マップを保存する.次に,プログラム上で乱数を作成し,得られた乱数をランダムに負荷分担率マッ
プに取り込み,再度,燃費を計算する.得られた燃費が,前回計算した燃費より良ければ,最高燃費時マッ
プを上書きする.この動作を,規定回数繰り返す.
最適化をおこなう際は,負荷分担率マップを変更しても燃費が良くならない回数まで計算を繰り返す必要
がある.そこで,何回程度の計算回数で燃費が収束するか調査した.調査例を図 3.3.2-4 に示す.マップをあ
る一定値にした場合の燃費を 100%とした場合,50 回で約 2%向上,130 回で約 3%向上した.その後は,計
算回数を増やしても,燃費の向上は見られなかった.この結果は,一例に過ぎず,初期のマップの状態やマ
ップは乱数により決定されるため,計算回数は余裕をみて 200 回とした.
104
102
100
0
100
200
300
計算回数
図 3.3.2-3
図 3.3.2-4
最適化プログラムのフローチャート
計算回数と燃費向上率
3.3.3 車両システム
計算対象となる車両システムは,ベースとなるディーゼル車およびシリーズ方式 HEV,パラレル方式 HEV,
シリーズ/パラレル方式 HEV の 4 種類の方式である.
(1) ベースディーゼル車
ベースディーゼル車(CV)のシステム構成を図 3.3.3-1 に示す.車両を構成する要素は,エンジン,クラ
ッチ,トランスミッション,デファレンシャルギア,タイヤとした.加速時にはクラッチを接続して走行し,
変速動作はエンジン回転数を基準として行う.減速時には変速動作は行わず,エンジン回転数がアイドリン
グ回転数になるまでクラッチは接続したまま,燃料カットを行う.エンジン回転数がアイドリング回転数に
達したら,クラッチを切り,アイドリングを行う.
図 3.3.3-1
車両システムイメージ(ベースディーゼル車)
(2) シリーズ方式 HEV
シリーズ方式 HEV(SHEV)のシステム構成を図 3.3.3-2 に示す.車両を構成する要素は,駆動回生用モ
160
ータ,減速機,デファレンシャルギア,タイヤとした.駆動回生用モータとの電力のやりとりのためにエン
ジン発電機および減速機,バッテリを搭載した.発電する条件は,SOC,負荷,効率を考慮して行い,発電
機で発電した電力はできるかぎり駆動用モータで消費し,発電量の過不足は,バッテリで調整する.発電量
の調整は,エンジンおよび発電機の最高効率点で発電する高効率モードとエンジンの最大出力点で発電する
高出力モードを使い分ける.
図 3.3.3-2
車両システムイメージ(シリーズ方式 HEV)
(3) パラレル方式 HEV
パラレル方式 HEV(PHEV)のシステム構成を図 3.3.3-3 に示す.車両を構成する要素は,エンジン,クラ
ッチ 2,駆動回生用モータ,クラッチ 1,トランスミッション,デファレンシャルギア,タイヤとした.駆動
回生用モータとの電力のやりとりのためにバッテリを搭載している.加速時にはクラッチ 1,2 を接続して走
行し,モータのみでの走行はしない.変速動作はシステム回転数を基準として行う.減速時にはクラッチ 2
を切り離して回生を行う.エンジン,モータの負荷分担率は最適化したものを使用する.
図 3.3.3-3
車両システムイメージ(パラレル方式 HEV)
(4) シリーズ/パラレル方式 HEV
シリーズ/パラレル方式 HEV(SPHEV)のシステム構成を図 3.3.3-4 に示す.車両を構成する要素として,
リア側にパラレル方式を構成し,エンジン,クラッチ 2,駆動回生用モータ 1,クラッチ 1,トランスミッシ
ョン 1,デファレンシャルギア 1,タイヤ 1 とした.フロント側にシリーズ方式を構成し,駆動回生用モータ
2,減速機,デファレンシャルギア 2,タイヤ 2 とした.シリーズ方式での発電時は,クラッチ 1 を切り離し
て,エンジンおよびパラレル用の駆動回生用モータ 1 を用いて,発電を行う.加速時および減速時の制御は
基本的にシリーズ方式,パラレル方式に準じ,走行時のエネルギーの少ない方式を用いて走行を行う.
図 3.3.3-4
3.3.4
車両システムイメージ(シリーズ/パラレル方式 HEV)
計算対象車種
161
ACE プロジェクト開発車両を考慮し,車両重量 2.5t クラスの小型トラック(積載重量 2t)と車両重量 10t
クラスの大型路線バス(定員 65 名)の 2 車種について計算を行った.
3.3.5 計算対象車両諸元
(1) 車両諸元決定手順
計算対象車両の基本設計において最も重要と考えられる設計コンセプトを,以下の 3 点とした.
・ 燃費を最優先に設計し,コスト,スペース等は考慮しない.
・ HEV 要素部品は,車両性能の要求を満たす最低限の出力とする.
・ 都市内走行に不要な動力性能は持たない.
・
・
・
・
・
これらを基本として,計算対象車両に要求される車両性能は,以下のように決定した.
M15 モードにおいて勾配 4%で走行が可能なシステム出力
M15 モードの回生エネルギーをすべて回収するモータ出力
モータ全負荷に耐えられるバッテリ出力(シリーズ方式の場合は発電機出力を含む)
最高速度を満たすギア比
最高速度を維持できるエンジンおよび発電機出力
小型トラックは都市内走行および高速道路を使用した都市間走行も考慮し,最高速度は 100km/h とした.
大型路線バスは,都市内走行に限定するため最高速度は 60km/h とした.これらのシステムを構成する要素
は,それぞれシステムの特徴を生かして出力が決定されるためエンジン,モータ,発電機等の出力はそれぞ
れ異なる.そこで,出力の増減は最高回転数を固定し,トルクカーブの増減で対応した.使用する効率マッ
プに関しても同様に補正を行った.また,出力の増減に比例して,要素の重量も変化させた.
(2) 車両諸元
上記を踏まえ,作成した計算対象車両の半積時の諸元を表 3.3.4-1 および表 3.3.4-2 に示す.HEV 車両は,
ベースとなるディーゼル車と同様の転がり抵抗係数,空気抵抗係数の値を用いた.回転部分の等価慣性質量
は空車重量の 7%とした.また,車両を構成する要素部品は,出力に応じた重量を使用したが,要素部品の搭
載時に必要となる構造材の重量は加味していない.その結果,半積時の重量では,小型トラックの場合で 6%,
大型路線バスの場合で 3%程度の重量変化となった.構成要素に関しては,下記のとおりとした.
エンジンは,代表的な大型ディーゼルエンジンのトルクカーブおよび効率マップを使用した.モータは,
シリーズ方式では高回転型のものを使用し,パラレル方式では,最高回転数がエンジン回転数と等しい低回
転型のものを使用した.トルクカーブおよび効率マップは ACE プロジェクトで開発したものを使用した.発
電機は,シリーズ方式では高回転型の発電機を使用した.トルクカーブおよび効率マップは ACE プロジェク
トで開発したものを使用した.エネルギー貯蔵装置は,HEV 用として市販された初期のニッケル水素電池と
した.効率マップは,JARI で測定したものを使用した.
表 3.3.4-1
小型トラック車両諸元
162
項目
シャーシ・ボディ
エンジン
モータ・ジェネレータ+インバータ等
発電機+インバータ等
トランスファー
エネルギー貯蔵装置
燃料タンク
積載重量
その他
半積重量
エンジン
最高回転数
最大トルク
最大出力
アイドリング回転数
シリーズ用モータ・ジェネレータ
最高回転数
最大トルク
最大出力
パラレル用モータ・ジェネレータ
最高回転数
最大トルク
最大出力
発電機
最高回転数
最大トルク
最大出力
エネルギー貯蔵装置
最大出力密度
最大容量
発電完了SOC
発電開始SOC
最小SOC
最大SOC
最大出力
シリーズ用ギア関連
デファレンシャル ギア比
ギア効率
減速機 ギア比
ギア効率
エンジン-発電機間 ギア比
ギア効率
シリーズ用タイヤ関連
駆動輪半径
パラレル用ギア関連
デファレンシャル ギア比
ギア効率
トランスミッション段数
トランスミッション1速 ギア比
ギア効率
トランスミッション2速 ギア比
ギア効率
トランスミッション3速 ギア比
ギア効率
トランスミッション4速 ギア比
ギア効率
エンジン-モータ間 ギア比
ギア効率
パラレル用タイヤ関連
駆動輪半径
単位
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
ディーゼル
1800
333
0
0
170
0
100
1055
42
3500
SHEV
1800
200
130
72
120
176
100
1055
42
3695
PHEV
1800
216
46
0
170
132
100
1055
42
3561
SPHEV
1800
216
92
0
290
132
100
1055
42
3727
rpm
Nm
kW
rpm
3500
279
100
500
3500
167
60
500
3500
180
65
500
3500
180
65
500
rpm
Nm
kW
-
13000
281
100
-
13000
94
35
rpm
Nm
kW
-
-
3500
359
35
3500
359
35
rpm
Nm
kW
-
13000
140
55
-
3500
359
35
W/kg
Wh
%
%
%
%
kW
-
300
7200
65
55
40
95
50
300
5400
65
55
40
95
40
300
5400
65
55
40
95
40
-
-
2.581
0.95
6.217
0.95
1.59
0.95
-
2.581
0.95
6.217
0.95
1
1
m
-
0.347
-
0.347
-
6.045
0.95
4
3.028
0.95
1.7
0.95
1
0.98
0.722
0.95
-
-
6.045
0.95
4
3.028
0.95
1.7
0.95
1
0.98
0.722
0.95
1
1
6.045
0.95
4
3.028
0.95
1.7
0.95
1
0.98
0.722
0.95
1
1
m
0.347
-
0.347
0.347
表 3.3.4-2
大型路線バス車両諸元
163
項目
シャーシ・ボディ
エンジン
モータ・ジェネレータ+インバータ等
発電機+インバータ等
トランスファー
エネルギー貯蔵装置
燃料タンク
積載重量
その他
半積重量
エンジン
最高回転数
最大トルク
最大出力
アイドリング回転数
シリーズ用モータ・ジェネレータ
最高回転数
最大トルク
最大出力
パラレル用モータ・ジェネレータ
最高回転数
最大トルク
最大出力
発電機
最高回転数
最大トルク
最大出力
エネルギー貯蔵装置
最大出力密度
最大容量
発電完了SOC
発電開始SOC
最小SOC
最大SOC
最大出力
シリーズ用ギア関連
デファレンシャル ギア比
ギア効率
減速機 ギア比
ギア効率
エンジン-発電機間 ギア比
ギア効率
シリーズ用タイヤ関連
駆動輪半径
パラレル用ギア関連
デファレンシャル ギア比
ギア効率
トランスミッション段数
トランスミッション1速 ギア比
ギア効率
トランスミッション2速 ギア比
ギア効率
トランスミッション3速 ギア比
ギア効率
トランスミッション4速 ギア比
ギア効率
エンジン-モータ間 ギア比
ギア効率
パラレル用タイヤ関連
駆動輪半径
単位
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
kg
ディーゼル
9278
533
0
0
400
0
200
1815
150
12376
SHEV
9278
251
208
94
220
352
200
1815
150
12568
PHEV
9278
333
82
0
400
220
200
1815
150
12478
SPHEV
9278
333
160
0
620
220
200
1815
150
12776
rpm
Nm
kW
rpm
2500
656
160
500
2500
292
75
500
2500
390
100
500
2500
390
100
500
rpm
Nm
kW
-
13000
430
160
-
13000
172
60
rpm
Nm
kW
-
-
2500
874
60
2500
874
60
rpm
Nm
kW
-
13000
189
70
-
2500
874
60
W/kg
Wh
%
%
%
%
kW
-
300
14400
65
55
40
95
100
300
9000
65
55
40
95
65
300
9000
65
55
40
95
65
-
-
6.039
0.95
6.217
0.95
2.23
0.95
-
6.039
0.95
6.217
0.95
1
1
m
-
0.468
-
0.468
ー
-
7.23
0.95
4
3.679
0.95
2.197
0.95
1.341
0.95
1
0.98
-
-
7.23
0.95
4
3.679
0.95
2.197
0.95
1.341
0.95
1
0.98
1
1
7.23
0.95
4
3.679
0.95
2.197
0.95
1.341
0.95
1
0.98
1
1
m
0.468
-
0.468
0.468
164
3.3.6 計算条件
(1) 走行パターン
走行パターンは,M15 モードおよび平成 17 年より実施される排出ガス規制モードである JE05 モードと
した.両モードの車速パターンを図 3.3.6-1 に示す.M15 モードは 6 サイクルを使用した.計算は,小型ト
ラックでは M15 モードと JE05 モードの両方で行い,
大型路線バスでは都市内走行のみを想定しているため,
M15 モードのみとした.
図 3.3.6-1
走行パターン
(2) SOC 制御方法
SOC の使用範囲を図 3.3.6-2 のように設定することにより,SOC の制御をおこなった.ニッケル水素電池
の場合は,最大 SOC95%,発電終了 SOC65%,発電開始 SOC55%,最小 SOC40%として計算した.SOC
を制御するために,発電モードと放電モードを設定した.シリーズ方式の場合,放電モードでは基本的にエ
ネルギー貯蔵装置からの電力により,モータで走行する.発電モードでは,発電機により発電した電力で走
行し,過不足はエネルギー貯蔵装置で調整する.パラレル方式の場合,放電モードではエネルギー貯蔵装置
からの電力により,モータでエンジンをアシストする.発電モードでは,エンジン出力に余力がある場合に
は,できるだけ発電をする.シリーズ/パラレル方式では,シリーズ方式とパラレル方式のそれぞれのモード
での動作を行う.計算開始時には,放電モードとし,発電開始 SOC に達したところで,発電モードに変更す
る.発電および回生によって発電終了 SOC に達したところで,再び放電モードに変更し,放電する.この動
作の繰り返すことにより,SOC の制御をおこなった.
図 3.3.6-2
SOC の制御方法
165
(3) 変速時回転数の決定
ベースとなるディーゼル車およびパラレル方式,シリーズ/パラレル方式のパラレル走行時は複数段のギア
を選択して走行するため,変速時の条件を決定する必要がある.そこで,車速を基準に変速した場合とシス
テムの回転数を基準に変速した場合での燃費への影響を調べたところ,燃費は概ね変速する回転数に依存し
ていることがわかったので,どのギア段でも同じ回転数で変速するものとした.走行パターンを追従可能で
かつ最も燃費が良くなる変速回転数は,それぞれの方式および車両,走行パターンを変化させたどの条件に
おいても最高回転数の 70%であった.
(4) エンジンとモータの負荷分担率の決定
パラレル方式およびシリーズ/パラレル方式のパラレル走行時においては,発電モード,放電モードでエン
ジンとモータの負荷分担率が異なるため,それぞれに対して負荷分担率マップを作成した.マップ作成にあ
たり,最も燃費が良くなるように負荷分担率を決定する必要がある.
そこで,発電モード,放電モードともに基本的な考え方として,最も効率の良いエンジン運転領域で運転
をおこない,過不足をモータで調整した.その一例を図 3.3.6-3 に示す.領域aでは,要求トルクが HEV シ
ステムの最大トルク付近であるため,エンジンは最大出力点で運転し,不足分をモータアシストで補う.領
域 b では,エンジンは最高効率点で運転し,不足分をモータアシストで補う.領域 c では,発電モードと放
電モードでそれぞれ異なった負荷分担率となる.発電モード時は,エンジンを最高効率点で運転し,要求ト
ルクを上回った余剰トルクを発電機で吸収し,発電する.放電モードでは,エンジンとモータを任意の負荷
分担率で運転することができる.領域 d でも領域 c と同様に発電モード,放電モードで負荷分担率が異なる.
発電モードでは,モータの最大出力で発電し,モータの最大トルクに要求トルクを加えたトルクでエンジン
の運転をおこなう.放電モードでは,領域 c 同様,負荷分担率は任意の値を取ることができる.方程式で表
記すると要求トルクは下記のようなエンジンとモータの負荷分担率となる.下線部で示した条件での負荷分
担率は任意の値を取ることが可能な領域となる.
図 3.3.6-3
負荷分担率マップ
P_need>P_eng_eff+P_mot_max
P_need=(P_eng_max±P_mot)
P_need<P_eng_eff+P_mot_max かつ P_need>P_eng_eff
P_need=(P_eng_eff+P_mot)
P_need<P_eng_eff+P_mot_max かつ P_need<P_eng_eff
P_need=(P_eng_eff−P_mot)
(発電モード時)
P_need=(P_eng+P_mot)
(放電モード時)
P_need<P_eng_eff―P_mot_max
P_need=(P_eng−P_mot_max)
P_need=(P_eng+P_mot)
(発電モード時)
(放電モード時)
要求出力:P_need
エンジン出力:P_eng
モータ出力:P_mot
エンジン最高効率点出力:P_eng_eff
エンジン最大出力点出力:P_eng_max
モータ最大出力:P_mot_max
166
転がり抵抗係数1%変化あたりの
燃費変化(L/km) %
転がり抵抗係数1%変化あたりの
燃費変化(L/km) %
3.3.7 感度解析結果
(1) 転がり抵抗係数が燃費に及ぼす影響
転がり抵抗係数が燃費に及ぼす影響を小型トラックおよび大型路線バスについてそれぞれ図 3.3.7-1 およ
び図 3.3.7-2 に示す.走行パターンは M15 モードとし,積載状態は半積載とした.縦軸は,転がり抵抗係数
が 1%変化した際の燃費への影響を示したものである.小型トラックでは,ベースのディーゼル車と比べて,
HEV の方が 1.7∼2.2 倍ほど燃費に及ぼす影響が大きい.大型路線バスでも同様に HEV の方が 2 倍ほど燃費
に及ぼす影響が大きいことがわかった.これは,HEV では,駆動時だけでなく減速回生時にもころがり抵抗
の影響を受けるためである.
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
ディーゼル
SHEV
PHEV
SPHEV
図 3.3.7-1 小型トラックの転がり抵抗係数の影響
(M15 モード,半積)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
ディーゼル
SHEV
PHEV
SPHEV
図 3.3.7-2 大型路線バスの転がり抵抗係数の影響
(M15 モード,半積)
回生
駆動
3
2
1
バッテリ
エンジン
PHEV
SPHEV
SHEV
SPHEV
ディーゼル
PHEV
SHEV
ディーゼル
PHEV
SPHEV
モータ
デフ
小型トラックの HEV 構成要素の影響(M15 モード,半積)
回生
駆動
3
2
1
バッテリ
図 3.3.7-4
モータ
エンジン
PHEV
SPHEV
SHEV
SPHEV
ディーゼル
PHEV
SHEV
ディーゼル
PHEV
SPHEV
SHEV
ディーゼル
SPHEV
PHEV
SHEV
0
ディーゼル
効率1%変化あたりの燃費変化(L/km) %
図 3.3.7-3
SHEV
ディーゼル
PHEV
SPHEV
SHEV
0
ディーゼル
効率1%変化あたりの燃費変化(L/km) %
(2) HEV 要素部品が燃費に及ぼす影響
HEV を構成する要素部品(バッテリ,駆動回生用モータ,エンジン,デフ)の効率が燃費に及ぼす影響を
調べた.小型トラックの結果を図 3.3.7-3,大型路線バスの結果を図 3.3.7-4 に示す.走行パターンは M15 モ
ードとし,積載状態は半積載とした.エンジン効率を変化させてもアイドリング燃費は一定とした.縦軸は,
各 HEV 構成要素の効率が 1%変化した際の燃費への影響を示したものである.小型トラックでは,HEV は
ベースのディーゼル車と比べて,エンジンおよびデフに関しては影響が大きい.SHEV はどの要素において
も 2%以上の燃費への影響がある.PHEV は,モータやバッテリよりもエンジンやデフの影響が大きい.
SPHEV は,ほぼ SHEV と同等の傾向を示す.大型路線バスでも小型トラック同様の傾向が見られる.バッ
テリに関しては,小型トラックほど大きな影響は見られなかった.
デフ
大型路線バスの HEV 構成要素の影響(M15 モード,半積)
167
3.3.8 ACE 開発要素部品の採用による燃費向上効果
ACE プロジェクトで開発した要素部品を採用した際の燃費に及ぼす効果を調べた.取り上げた開発要素は,
キャパシタ,リチウムイオン電池,インホイールモータ,低転がりタイヤとした.キャパシタおよびリチウ
ムイオン電池の諸元を表 3.3.8-1 に示す.
表 3.3.8-1
キャパシタ,リチウムイオン電池諸元
キャパシタ
小型トラック
項目
最大出力密度
最大容量
発電完了SOC
発電開始SOC
最小SOC
最大SOC
最大出力
単位
W/kg
Wh
%
%
%
%
kW
ディーゼル
-
SHEV
500
873
80
60
50
95
52
項目
最大出力密度
最大容量
発電完了SOC
発電開始SOC
最小SOC
最大SOC
最大出力
単位
W/kg
Wh
%
%
%
%
kW
ディーゼル
-
SHEV
570
5000
60
55
20
80
57
大型路線バス
PHEV
SPHEV
500
500
655
655
80
80
60
60
50
50
95
95
40
40
リチウムイオン電池
ディーゼル
-
SHEV
500
1650
80
60
50
95
120
ディーゼル
-
SHEV
570
10000
60
55
20
80
114
小型トラック
PHEV
500
1310
80
60
50
95
80
SPHEV
500
1310
80
60
50
95
80
大型路線バス
PHEV
570
3500
60
55
20
80
40
SPHEV
570
3500
60
55
20
80
40
PHEV
570
7800
60
55
20
80
91
SPHEV
570
7800
60
55
20
80
91
小型トラックの結果を図 3.3.8-1,大型路線バスの結果を図 3.3.8-2 に示す.走行パターンは,小型トラッ
クは M15 モードおよび JE05 モード,大型路線バスは M15 モードとした.積載状態は,小型トラック,大
型路線バスともに半積載とした.縦軸は,各 ACE プロジェクト開発要素部品を採用した場合の燃費向上効果
を示したものである.インホイールモータは,シリーズ方式およびシリーズ/パラレル方式に採用できる要素
である.インホイールモータとは,今回の計算では,減速機およびデフでの 2 段で減速していたものからデ
フを無くすことにより,1 段での減速に変更し,動力伝達効率の向上およびデフ重量の低減をしたものとし
た.また,低転がりタイヤとは,転がり抵抗係数を 25%減らしたものとした.
小型トラックの場合,ディーゼル車では,アイドリングストップの効果が大きく,特に停車時間の長い
M15 モードでは約 20%もの燃費向上効果が得られる.また,低転がりタイヤの影響は HEV では,ディーゼ
ル車の 2 倍の効果があり,約 10%の燃費向上効果が得られる.また,電力依存度の高いシリーズ方式やシリ
ーズ/パラレル方式では,エネルギー貯蔵装置,インホイールモータでそれぞれ約 10%の燃費向上効果が得ら
れる.M15 モードと JE05 モードを比較すると,JE05 モードの方が効果は少ないが,要素部品の効果につ
いてはほぼ同じ傾向が見られる.
大型路線バスの場合,ディーゼル車では,低転がりタイヤの効果は 5%弱であるが,HEV では約 10%程度
の効果がある.また,HEV では,エネルギー貯蔵装置で 4∼9%の燃費向上効果が得られる.シリーズ方式
では,インホイールモータで約 11%の燃費向上効果が得られる.
ACE プロジェクトで開発した要素は,小型トラックや大型路線バスなど,用途の異なる車両に採用しても
燃費向上効果が得られる.特に,キャパシタやリチウムイオン電池はシリーズ方式やシリーズ/パラレル方式
の電力依存度の高いシステムと組み合わせることにより,10%前後の燃費向上効果が得られる.また,イン
ホイールモータや低転がりタイヤでも 10%前後の燃費向上効果が得られる.この結果から,ACE プロジェク
トで開発した要素を採用することにより,それぞれ 10%前後の燃費向上効果があることがわかる.
168
M15
SHEV
JE05
燃費向上率(L/km) %
燃費向上率(L/km) %
ディーゼル車
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
20.0
10.0
5.0
0.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
電池
モータ
M15
SPHEV
JE05
燃費向上率(L/km) %
燃費向上率(L/km) %
PHEV
15.0
10.0
5.0
0.0
20.0
10.0
5.0
0.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
モータ
電池
SHEV
燃費向上率(L/km) %
燃費向上率(L/km) %
ディーゼル車
15.0
10.0
5.0
0.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
電池
モータ
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
モータ
電池
SPHEV
PHEV
20.0
燃費向上率(L/km) %
燃費向上率(L/km) %
JE05
小型トラックの ACE 開発要素部品の影響(半積)
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
電池
モータ
図 3.3.8-2
M15
15.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
電池
モータ
図 3.3.8-1
JE05
15.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
電池
モータ
20.0
M15
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
キャパ リチウム イン 低転がり アイドル
シタ
イオン ホイール タイヤ ストップ
電池
モータ
大型路線バスの ACE 開発要素部品の影響(半積)
3.3.9 ACE 開発要素部品の組み合わせによる燃費向上効果
前節では,ACE プロジェクトで開発した要素部品はそれぞれ 10%前後の燃費向上効果があることがわか
った.ここでは,さらに,ACE プロジェクトで開発した要素部品を組み合わせることによる相乗効果を調べ
た.小型トラックの M15 モードの結果を図 3.3.9-1,JE05 モードの結果を図 3.3.9-2,大型路線バスの M15
モードの結果を図 3.3.9-3 に示す.積載状態は,小型トラック,大型路線バスともに半積載とした.縦軸は,
ベースとなるディーゼル車の燃費(L/km)を 100%として相対値で示した.
小型トラックの場合,M15 モードでは,リチウムイオン電池,インホイールモータ,低転がりタイヤを採
用したシリーズ方式では,それぞれ 6.8%,7.5%,4.8%の効果があり,ベースとなるディーゼル車に比べ,
燃費は 47.6%まで低減できることがわかる.また,リチウムイオン電池および低転がりタイヤを採用したパ
ラレル方式では,それぞれ 0.8%,3.7%と効果は大きくないが,シリーズ方式同様の 47.6%まで燃費を低減
することができる.リチウムイオン電池,インホイールモータ,低転がりタイヤを採用したシリーズ/パラレ
169
ル方式では,それぞれ 6.6%,4.6%,3.9%の効果があり,42.7%まで燃費を低減することができる.JE05
モードでは,アイドリングストップをさせたディーゼル車の方が,シリーズ方式より燃費が良いことがわか
る.しかし,ACE で開発したリチウムイオン電池やインホイールモータを採用することによりシリーズ方式
でもディーゼル車以上の燃費を得ることができる.リチウムイオン電池,インホイールモータ,低転がりタ
イヤを採用したシリーズ方式では,それぞれ 8.2%,7.3%,6.7%の効果があり,ベースとなるディーゼル車
に比べ,燃費は 74.4%まで低減できることがわかる.また,リチウムイオン電池および低転がりタイヤを採
用したパラレル方式では,それぞれ 2.7%,6.5%の効果があり,71.0%まで燃費を低減することができる.リ
チウムイオン電池,インホイールモータ,低転がりタイヤを採用したシリーズ/パラレル方式では,それぞれ
6.3%,4.2%,4.4%の効果があり,67.5%まで燃費を低減することができる.
大型路線バスの場合,M15 モードでは,リチウムイオン電池,インホイールモータ,低転がりタイヤを採
用したシリーズ方式では,それぞれ 5.4%,7.9%,6.4%の効果があり,ベースとなるディーゼル車に比べ,
燃費は 50.1%まで低減できることがわかる.また,リチウムイオン電池および低転がりタイヤを採用したパ
ラレル方式では,それぞれ 4.9%,6.1%の効果があり,45.6%まで燃費を低減することができる.リチウムイ
オン電池,インホイールモータ,低転がりタイヤを採用したシリーズ/パラレル方式では,それぞれ 5.6%,
2.7%,5.8%の効果があり,44.8%まで燃費を低減することができる.
この結果から,JE05 モードは平均速度が高いため,HEV の効果が大きくないが,都市内走行を模擬する
M15 モードでは,ベースのディーゼル車に比べ,燃費は 30%以上向上する.さらに,ACE プロジェクトで
開発した要素を組み合わせることで燃費 2 倍を達成できることがわかる.
アイドリングストップ
リチウムイオン電池
インホイールモータ
低転がりタイヤ
改善後燃費
100
19.8
燃費(L/km) %
80
2.3
60
40
6.8
7.5
4.8
0.8
3.7
6.6
4.6
3.9
47.6
47.6
42.7
shev
phev
sphev
77.9
20
0
diesel
図 3.3.9-1
小型トラックの ACE 開発要素の組み合わせによる効果(M15 モード,半積)
100
9.6
4.2
燃費(L/km) %
80
8.2
7.3
6.7
2.7
6.5
6.3
4.2
4.4
74.4
71.0
67.5
shev
phev
sphev
アイドリングストップ
リチウムイオン電池
インホイールモータ
低転がりタイヤ
改善後燃費
60
40
86.3
20
0
diesel
図 3.3.9-2
小型トラックの ACE 開発要素の組み合わせによる効果(JE05 モード,半積)
100
アイドリングストップ
リチウムイオン電池
インホイールモータ
低転がりタイヤ
改善後燃費
9.8
3.4
燃費(L/km) %
80
5.4
7.9
6.4
60
40
4.9
6.1
5.6
2.7
5.8
50.1
45.6
44.8
shev
phev
sphev
86.8
20
0
diesel
図 3.3.9-3
大型路線バスの ACE 開発要素の組み合わせによる効果(M15 モード,半積)
170
3.3.10 まとめ
種々の HEV に適用可能なシミュレーションプログラムを開発し,小型トラックおよび大型路線バスの 2
車種について,駆動方式をシリーズ,パラレル,シリーズ/パラレルの各 HEV 方式に変化させた際の燃費を
予測した結果,以下の知見を得た.
・ HEV は,車両重量,転がり抵抗および終減速機効率によって回生エネルギー量が変化するため,これら
因子が燃費へ及ぼす影響も従来車より大きくなる.
・ シリーズ,シリーズ/パラレル,パラレルの順に電力依存度が大きくなり,モータとバッテリを通過する
エネルギー量が大きくなるため,これら要素部品の効率が燃費へ及ぼす影響も大きくなる.
・ 要素部品を,市販 HEV 用のニッケル水素電池と通常のモータから,当プロジェクトで開発したキャパ
シタあるいはリチウムイオン電池とインホイールモータにそれぞれ置き換えると,燃費(L/km)は概ね
10∼20%低減し,従来車の概ね 1/2 となる.したがって,当プロジェクトの燃費目標値は妥当である.
参考文献
1) 上田 松栄ほか,ディーゼル排気浄化における選択還元型 NOx 触媒の使用最適化法,自動車技術会
術講演会前刷集,No.112-01,2001.
学
4. 本研究開発事業の成果
種類の異なるエネルギー貯蔵装置を搭載する種々の HEV に適用可能な燃費評価法を確立した.また,仕
事当りの排出率(g/kWh)で規制される重量 HEV に適用可能な排出ガス評価法を考案し,ACEV の燃費・
排出ガスを評価した.また,種類の異なるエネルギー貯蔵装置を同一の基準で評価する方法を考案し,開発
したエネルギー貯蔵装置の充放電効率を評価した.また,種々の HEV に適用可能な燃費シミュレーション
プログラムを開発し,各要素部品の効率などが燃費に及ぼす影響を明らかにした.得られた知見を以下にま
とめる.
・ ACEV のエネルギー消費率および CO2 排出率は従来車のほぼ 1/2 となり,所期の目標を達成した.エ
ネルギー消費率改善に影響する要因としては,充放電効率の高いエネルギー貯蔵装置の開発,永久磁
石式モータやデフレスモータ等モータおよびジェネレータの高効率化,モータ/エンジン切替機構あ
るいはシリーズ方式の採用,高効率クリーンエネルギーエンジンの開発によって,減速エネルギーの
高効率回生,駆動損失の低減,エンジン運転条件の最適化を実現したこと,また,都市バスや配送ト
ラックに装着されるタイヤは乗用車よりも転がり抵抗が小さく,回生可能な減速エネルギーが大きく
なったことが挙げられる.
・ ACEV の NOx と PM の排出率は,所期の目標である ULEV レベルをほぼ満足した.これは,天然ガ
スや DME 等のクリーンエネルギーの採用に加えて,高効率ハイブリッドシステムの採用によりエン
ジン仕事を従来車より大幅に低減できたことによる.
・ 開発したキャパシタとリチウムイオン電池は,同一の出力密度においてニッケル水素電池よりも高い
充放電効率が得られた.フライホイールバッテリも低出力密度の条件を除き,ニッケル水素電池より
も高い充放電効率が得られた.
・ HEV は,車両重量,転がり抵抗および終減速機効率によって回生エネルギー量が変化するため,これ
ら因子が燃費へ及ぼす影響も従来車より大きくなる.
・ シリーズ,シリーズ/パラレル,パラレルの順に電力依存度が大きくなり,モータとバッテリを通過す
るエネルギー量が大きくなるため,これら要素部品の効率が燃費へ及ぼす影響も大きくなる.
・ 要素部品を,市販 HEV 用のニッケル水素電池と通常のモータから,当プロジェクトで開発したキャパ
シタあるいはリチウムイオン電池とインホイールモータにそれぞれ置き換えると,エネルギー消費率
は概ね 10∼20%低減し,従来車の概ね 1/2 となる.
以上のことから,本研究開発事業で開発した「高効率クリーンエネルギー自動車」は地球温暖化および都
市環境改善に大きく寄与できることがわかり,その成果の一部は低燃費,低公害自動車技術に反映されてい
る.また,2005 年度から施行される新長期排出ガス規制に引き続いて検討されている次期排出ガス規制対応
技術ならびに地球温暖化に関わる京都議定書の「第一約束期間」2008∼2012 年,2013∼2018 年の「第二約
束期間」における自動車技術に活用されるものと期待される.
171
研究開発項目④「技術動向調査」
(1) 技術動向調査
(1)−1.合成燃料の調査:トヨタ自動車(株)
1. コンセプトおよび目標
1.1 コンセプト
将来出現の可能性がある合成燃料のエンジン性能への影響を調査する.
1.2 全体計画
平成 9 年度
平成 10 年度
平成 11 年度
平成 12 年度
表 1.2-1 全体計画
合成燃料の燃料性状,コスト,供給能力,合成・製造技術等の従来技術に
ついて,文献や現地ヒアリング等の調査を行う.
実際に合成燃料をサンプル入手して,エンジンの出力性能,排出ガス特
性等への影響を調査する.
合成燃料のエンジン燃焼特性に及ぼす影響を調査するとともに,材料と
の適合性,燃料の潤滑性についても評価する.
合成燃料のエンジン応用に関する研究成果をまとめる.
1.3 成果の目標
入手できる代表的な合成燃料の性状が,エンジンの排出ガス,燃費,エンジン本体へ与える影響を調査し,エンジン側
からの燃料性状への要求特性および対策の方向を明らかにする.
2. 調査項目
2.1 供試合成軽油のPM粒子径への影響調査
ディーゼルエンジン搭載車両を用いて,定常走行条件下における排出PMの粒子径測定を行い,JIS2号軽油,スウェー
デンクラス1軽油との比較をすることにより,供試合成軽油のPM粒子径への影響を明らかにする.
2.2 合成軽油性状の方向性調査
これまで得られた供試合成軽油の各種エンジン評価結果を基に,将来のクリーンな自動車用燃料として望ましい合成
軽油性状の方向を提案する.また,このユーザー(自動車)側から見た将来の望ましい合成軽油の性状提案に対して,
実際に製造する場合に予想される問題点,課題等の有無について,メーカーヒアリングによる調査を行い,提案性状実
現の可能性を明らかにする.
3. 成果
3.1 供試合成軽油のPM粒子径への影響調査
3.1.1 試験方法
(a) 評価燃料
評価した供試合成軽油は,天然ガスを原料としたフィッシャー トロプシュ(Fischer-Tropsch, 以下FT)合成によ
り製造された 100%合成の燃料である.比較燃料として,JIS2号軽油の他にスウェーデンクラス1軽油を追加した.こ
の理由は,スウェーデンクラス1軽油は供試合成軽油と同様に,硫黄分,アロマ分含有量が極めて少なく,かつ蒸留特
性が供試合成軽油や JIS2号軽油に比べてかなり低沸点側の特性になっており,合成軽油の望ましい性状の方向を議論
する上で,性状の異なる燃料の評価データ蓄積が必要と考えたからである.この3種類の燃料の主な燃料性状比較を表
3.1.1-1 に示す.
表 3.1.1-1 評価燃料の主な性状比較
172
(b)供試車両およびエンジン
PMの粒子径測定に使用した試験車両は,等価慣性重量 1360kg,5 速マニュアルトランスミッションのディーゼル乗
用車である.搭載エンジンは,直列4気筒,排気量2L,ターボチャージャー,インタークーラー付きの直噴ディーゼ
ルエンジンである.エンジンの圧縮比は17とし,燃料噴射系はコモンレールタイプを使用している.後処理装置につ
いては,今回燃焼時のPM粒子径に対する燃料性状の影響を明らかにすることを目的に,酸化触媒は具備していない.
また,エンジンコントロールユニット(ECU)の燃料噴射量,噴射時期等の制御マップについては,JIS2号軽油で
適合したものを基本に、全評価燃料に対して使用した.供試車両およびエンジンの主な諸元を表 3.1.1-2 にまとめる.
表 3.1.1-2
供試車両、エンジン諸元
車種
乗 用 車 ワゴン、 5 速 M T
・等 価 慣 性 遇 量
1360 kg
エンジン
直 噴 ディーゼル、 ターボチャージャー/
ターボチャージャー /
インタークーラー付
・排 気 量
1995 cc
・シリンダー数
4
・気 筒 当 り 吸 排 気 弁 数
各2
・ボア× ストローク
φ 82.2 × 94 mm
・圧 縮 比
17
・燃 料 供 給 系
コモンレール式
・排 出 ガス浄 化 装 置
EGR 、 EGRクーラー
EGR クーラー
(c)評価条件
PMの粒子径測定は,シャシーダイナモ上での定常走行条件下にて実施した.車速は,60,100,120km/hの3条
件とし,エンジンの完全暖機状態にて行った.PMの粒子径測定方法は,試験車両から排出された排出ガスをダイ
リューショントンネルに導入し,十分に拡散された排出ガスの一部を走査型モビリティー粒径分析器(Scanning
Mobility Particle Sizer,日本カノマックス社製 Model3934,以下SMPS)に導入して計測した.PM粒子径測定に
際しては,排出ガス中の水分凝縮の影響を最小限にするために,コンスタントボリュームサンプラー(CVS)のサン
プル流量を最大(20m3/min)の条件にて行った.PMの粒子径測定方法の概要を図 3.1.1-3 に示す.
今回,国内 10.15 モードにおける実車の排出ガス特性比較も実施した.測定排出ガス成分は,HC,CO,CO2,
NOx,PMであり,PM中の可溶有機成分(SOF)についても測定を行った.
静電式エアロゾル分級器
ダイリューショントンネル
フィルタ
流量計
分級電圧
設定部
シースエアインレット
プレッシャゲージ
コントロール
バルブ
サンプルエアロゾル
荷電部
粒
子
分
級
部
インパクタ
真空ポンプ
コンピュータ
流量計
流量計
図 3.1.1-3
凝縮粒子
カウンタ
PM粒子径の測定法概要
3.1.2 試験結果
(1) PM粒子径への影響
図 3.1.2-1 に各運転条件下でのPM粒子径分布特性の比較を示す.今回,SMPSによるPM粒子径の測定範囲は 10
nm∼400nmである.各評価燃料のPM粒子径分布を比較すると,60,100,120km/hのどの定常走行条件において
も,PM粒子径分布のピーク粒子径は,スウェーデンクラス1軽油の場合が最も小さく,供試合成軽油が最も大きい
(120km/hの場合は,JIS2号軽油とほぼ同じピーク粒子径を示す)ことがわかった.また,各定常走行下における単
位走行距離あたりの排出PM量を比較すると,スウェーデンクラス1軽油<供試合成軽油<JIS2号軽油の順になってお
り,ディーゼルエンジンのPM排出量低減の観点では,供試合成軽油が必ずしも最適なクリーン燃料であるとは言えな
い結果となった.但し,PMの粒子径分布のピーク粒子径における単位走行距離あたりの排出PM粒子数を比較すると,
供試合成軽油はピーク粒子径が大きいが,その排出粒子数は3燃料の中で最も少ないことがわかった.
図 3.1.2-2 は,供試合成軽油および JIS2号軽油について,60km/h定常走行時の負荷(燃料噴射量)を増加させた
173
場合の排出PM粒子径分布変化を比較したものである.JIS2号軽油の場合, 燃料噴射量の増加とともにPMのピーク
粒子径がやや大きくなる傾向を示すのに対して,供試合成軽油の場合,ピーク粒子径はほとんど変化なく, 粒子径分布
全体にわたって排出粒子数が増加することがわかる.
今回のPM粒子径測定結果では,粒子径 10nm付近で粒子数がどの条件においても増加傾向を示しているが,これは
排出ガス中の水分凝縮の影響を受けているものと推定される.
P M 粒 子 数 (個 / k m )
60km/h
60km/h定常走行
km/h定常走行
120km/h
120km/h定常走行
km/h定常走行
100km/h
100km/h定常走行
km/h定常走行
5.0E+14
スウェーデン軽油
JIS2号軽油
スウェーデン軽油
4.0E+14
スウェーデン軽油
JIS2号軽油
JIS2号軽油
供試合成軽油
3.0E+14
供試合成軽油
2.0E+14
供試合成軽油
1.0E+14
0.0E+00
10
100
1000 10
1000 10
100
PM粒子径 (nm)
100
PM粒子径 (nm)
PM排出量
PM排出量 ピーク粒径
1000
PM粒子径 (nm)
PM排出量
PM排出量
ピーク粒径
PM排出量
PM排出量
ピーク粒径
(g/km)
(nm)
(g/km)
(nm)
(g/km)
(nm)
供試合成軽油 : 0.021
114
0.028
134
0.038
108
スウェーデン軽油 : 0.013
100
0.014
79
0.030
86
JIS2
JIS2号軽油 : 0.044
106
0.026
104
0.050
110
図 3.1.2-1
PM粒子径分布特性比較
供試合成軽油
60km/h
60 km/h定常走行
km/h定常走行
JIS2号軽油
JIS2号軽油
60 km/h定常走行
km/h 定常走行
PM粒子数 (個/km)
5.0E+14
4.0E+14
3.0E+14
燃料噴射量
17.4mm3/str
燃料噴射量
17.3mm3/str
燃料噴射量
11.6mm3/str
燃料噴射量
11.8mm3/str
2.0E+14
1.0E+14
0.0E+00
10
100
PM粒子径 (nm)
1000
10
100
PM粒子径 (nm)
噴射量
PM排出量
PM排出量
ピーク粒径
噴射量
PM排出量
PM排出量
(mm3/st
mm3/str
str)
(g/km)
(nm)
( mm3/st
mm3/str
str)
(g/km)
(nm)
ピーク粒径
11.6
:
0.028
123
11.8
:
0.032
100
17.4
:
0.048
123
17.3
:
0.059
114
図 3.1.2-2
1000
PM粒子径分布特性比較
(2)モードエミッションへの影響
図 3.1.2-3 に,試験車両による国内 10.15 モードの排出ガス特性の比較を示す.JIS2号軽油と比較して,供試合成軽
油ではHC,CO,PMが各々約 60%,53%,44%減少している.NOxは 20%程度の減少を示す.スウェーデンクラ
ス1軽油の場合,JIS2号軽油と比較して,PMの減少が顕著に現れている.これは,供試合成軽油と同様に,燃料中の
アロマ成分含有量が極めて少なく,かつ JIS2号軽油のような高沸点成分を含まないことによる.但し,HCについて
は,7%程度の減少にとどまり,JIS2号軽油とほとんど変わらない結果となった.この原因は,スウェーデンクラス1
軽油のセタン価が3燃料中最も低く,燃焼時の着火遅れが長くなることにより,燃料噴霧のオーバーリーン(過剰希
薄)領域が増加するためと推定される.
図 3.1.2-4 は,国内 10.15 モードにおける排出PMの組成を比較したものである.PM排出量の比較では,JIS2号軽
174
油に対する供試合成軽油のPM低減率より,スウェーデンクラス1軽油のPM低減率の方が大きいことがわかる.PM
中の非可溶有機成分(以下,ISOF)を比較すると,供試合成軽油のPM排出量に対するISOF成分の割合が,他
の2燃料に比べて大きい.供試合成軽油,スウェーデンクラス1軽油の場合,硫黄分含有量がゼロに近く,また,今回
の試験車両では酸化触媒を具備していないので,サルフェート(SO4)の生成は極めて少ないと考えられる.ゆえにこ
の供試合成軽油のISOF成分のほとんどがスーツ(すす)成分と言える.この供試合成軽油のPM低減率がスウェー
デンクラス1軽油に比べて小さく,そのPM中のスーツ(すす)成分割合が多い原因は,セタン価が 88 と通常の軽油よ
り高いため,着火遅れ期間が短く,燃焼室内に噴射された燃料と空気との混合が不十分であることによると考えられる.
国内10.15モード
排出量 g/km
0.35
HC
0.3
NOx
0.25
CO
0.2
PM
(×10)
(×10)
0.15
0.1
(×10)
0.05
0
JIS2号
スウェーデン
供試合成
軽油
クラス1軽油
軽油
図 3.1.2-3 国内 10.15 モード排出ガス特性比較
PM排出量 g/km
ISOF
0.12
国内10.15モード
SOF
0.1
-51%
51 %
0.08
-44%
44%
0.06
0.04
0.02
0
JIS2号
スウェーデン
供試合成
軽油
クラス1軽油
軽油
図 3.1.2-4 国内 10.15 モードPM特性比較
3.2 合成軽油性状の方向性調査
3.2.1 供試合成軽油の最適性状提案
これまで得られた供試合成軽油のエンジン台上および実車台上における各種性能評価結果,並びにモデル実験による
燃料特性評価結果を基に,将来のクリーンディーゼル燃料として,よりそのポテンシャルを引き出すための燃料性状の
在り方について考察してみる.
表 3.2.1-1 に,供試合成軽油の性状特性をまとめる.FT合成により製造される合成軽油は,セタン価が高く,硫黄
分,アロマ分を含まないため,従来の軽油のセタン価向上や硫黄分,アロマ分低減といった品質向上のための燃料基材
の一つとして用いられている.しかし,今回のように 100%合成燃料としてディーゼルエンジンに利用する場合,通常
の圧縮比(18 前後),または若干圧縮比を下げたエンジンにおいては,高セタン価特性がPM,特にすす(Smoke)を生
成し易くしている.ディーゼル燃焼時のすすの抑制には,いかに燃焼室内の空気利用率を高めるかがポイントであり,
その一つの因子として,燃料噴射してから着火までの時間を確保することが重要である.今回比較に用いたスウェーデ
ンクラス1軽油の場合,セタン価が3燃料の中で最も低く(セタン価 53),着火遅れ期間が長いために燃料噴霧と空気
の混合が十分得られ,その結果,PM排出量およびPM中のすす(Smoke)割合が低い特性になっていると考えられる.
また,PM,すす生成に影響するセタン価以外の燃料性状として,動粘度が考えられる.供試合成軽油の動粘度は,3
燃料中最も高い特性になっている.高い動粘度の燃料は,一般的に燃料噴霧の分散性が悪くなるために,燃焼室内の空
気利用率を下げる方向に働く.このように,ディーゼルエンジンのPM,すす(Smoke)低減の観点から,供試合成軽油
のセタン価,動粘度を下げることで,より低いPM排出特性が得られるものと思われる.但し,前述のようにスウェー
デンクラス1軽油並みの低セタン価では,着火遅れ期間が長いことによるオーバーリーン領域の増加で,HC排出量低
減効果が小さくなるので,供試合成軽油の現状レベルから過度にセタン価を下げることは避けるべきである.
セタン価,動粘度以外にPM,すす生成に影響を及ぼす燃料性状として,蒸留温度がある.一般的に 90%留出温度
(T90)や終点に代表される高沸点成分の低減により,PMは減少する.今回の供試合成軽油も,JIS2号軽油に比べて
終点が 20℃程度低くなっており,PM低減効果となって顕れている.但し,より低沸点の蒸留特性を持つスウェーデン
クラス1軽油の方が,PM低減効果は大きく,この点から供試合成軽油もスウェーデンクラス1軽油並みの蒸留特性に
することが望ましいと言える.
175
自動車用燃料としての特性要件の一つに,低温流動性がある.日本のような使用環境を考えた場合,供試合成軽油の
ように高い流動点の燃料では,冬期に燃料凍結の可能性が十分考えられる.寒冷地で使用される JIS 特3号軽油とは行
かないまでも,JIS2号軽油並みの流動点を確保する必要がある.また,燃料系部品の耐久信頼性の点から,潤滑性向上
剤添加による潤滑性の確保も必要である.
以上,ディーゼルエンジンのPM,すす低減,自動車用燃料要件の観点から,供試合成軽油を基に最適な性状の方向
を表 3.2.1-2 にまとめる.
表 3.2.1-1
燃料性状項目
セタン価
供試合成軽油の性状特性
供試合成軽油の特性
低
基準
高
(JIS2号軽油
JIS2号軽油)
号軽油)
着火遅れ短く、噴霧/空気の
混合不足
極高
蒸留温度(
蒸留温度(T90) やや低 噴霧の蒸発性良い
(T10T10 -T80)
動粘度
高
噴霧の蒸発性悪い
(一般的には低T90から蒸発性は良い)
高
アロマ分
極低
噴霧の微粒化/分散性悪い
熱分解し易い
(パラフィン成分主体)
すす前駆物質生成少ない
表 3.2.1-2
性状項目
供試合成軽油
スウェーデン軽油
供試合成軽油の最適な性状案
供試合成軽油
の特性
望ましい性状特性
具体的改良案
セタン価
87.8
65 (?)
現状より下げる (但し、JIS
(但し、JIS2
JIS2号軽油以上) 55 - 65(?)
蒸留温度
170170-338 ℃
T10以上をスウェーデン軽油並み
T10以上をスウェーデン軽油並み
(T10=
T10 =255 ℃
T50=
T50=292 ℃)
170 - 285 ℃
(T10=
T10 =210 ℃
T50=
T50=240 ℃)
動粘度
4.145
mm2/s スウェーデン軽油に近い低粘度
2.5 - 3.0 mm2/s
アロマ分
0
vol.%
vol.%
アロマ低減要求に対して理想的燃料
現状のゼロ維持
硫黄分
<0.0001 mass%
mass% 硫黄低減要求に対して理想的燃料
現状のゼロ維持
流動点
0
℃
JIS2
JIS2号軽油並みの流動性を確保
-5 ℃以下
潤滑性
615
μm
JIS2
JIS2号軽油並みの潤滑性(450
号軽油並みの潤滑性(450μ
450μm以
( HFRR)
HFRR)
潤滑性向上剤添加
(ex. エステル系 200ppm
200ppm)
ppm)
下)を確保
3.2.2 合成軽油の性状提案に対する問題点調査
前項で述べた供試合成軽油の最適な性状提案(表 3.2.1-2)は,ユーザー側(自動車メーカー)が希望する合成軽油
性状の一つの方向であるが、現在の合成燃料製造技術において実際に製造可能な範囲の性状変更であるか調査する必要
がある.今回評価した合成軽油の供試メーカーに対して,提案した供試合成軽油の性状変更の製造可否,問題点や課題
についてのヒアリング調査を実施した.以下に,調査項目に対する供試メーカーからの回答を示す(表 3.2.2-1)
.
(1) 今回提案した供試合成軽油の性状変更の製造可否について
セタン価以外の性状変更(蒸留温度,動粘度,流動点)は,現在の合成プロセスで対応は可能である.潤滑性は向上
剤添加にて対応可能である.
(2) 製品としての収率、プロセス全体のエネルギー効率の変化について
蒸留温度を下げることにより,ガス成分が増加するため,収率は低下する.また,必要なエネルギーも増加するため,
エネルギー効率は低下する.どの程度低下するかは不明である.
176
表 3.2.2-1
性状項目
セタン価
蒸留温度
供試メーカーへのヒヤリング調査結果
供試合成軽油特性
現プロセスでの対応可否
具体的改良案
87.8
55 - 65(?)
65(?)
対応できない
170-338 ℃
170 - 285 ℃
対応可能
(T10=
T10=210 ℃
T50=
T50=240 ℃)
(T10=
T10=255 ℃
T50=
T50=292 ℃)
動粘度
4.145
mm2/s
2.5 - 3.0 mm2/s
対応可能
アロマ分
0
vol.%
vol.%
現状のゼロ維持
対応可能
硫黄分
<0.0001 mass%
mass%
現状のゼロ維持
対応可能
流動点
0
℃
-5 ℃以下
対応可能
潤滑性
(HFRR)
HFRR)
615
μm
潤滑性向上剤添加
対応可能
(ex. エステル系 200ppm
200ppm)
ppm)
セタン価を下げる方法として,合成された軽油留分のノルマル-パラフィンを異性化することが考えられるが,現行プ
ロセスにおいては,ノルマル-パラフィンの炭素数が増加すると分解活性が勝ってくるため,軽油留分のように炭素数の
大きいノルマル−パラフィンの異性化は難しい.セタン価を下げるには,ノルマル−パラフィンを分解して(炭素鎖を
短くする)灯油留分にするしかないとのことであった.この場合の生成される炭化水素の炭素数範囲は,おおよそC8
∼C12位,セタン価は58程度と言われている.
(表 3.2.2-2)
供試合成軽油の低沸点側の蒸留温度および動粘度が,JIS2号軽油より高い特性になっていることに関して,供試メー
カーの見解では製品化目的によって変化するとのことであった.すなわち,同社では合成燃料を目的とした合成プロセ
スではなく,重質パラフィン(WAX)を多く,ガス成分やナフサ等の軽質パラフィンを少なくなるように合成反応を
コントロールしている.これにより,自動車用軽油より付加価値の高い潤滑油,WAX等を中心に製品化している.ま
た,軽油留分として生成される成分の軽質分についても,溶剤として利用されるので,結果として得られる軽油留分
(今回の供試合成軽油)は,低沸点側の蒸留温度が高い特性になっている.よって,軽質成分の収率が多くなるように
プロセスの反応条件を変えることにより,供試合成軽油の蒸留温度,動粘度,流動点を下げることは可能である.
以上,現在入手できる合成軽油のサンプルを対象に,将来の自動車用クリーン燃料としての性状改良の方向および製
造プロセスにおける性状改良の可能性,問題点について述べてきた.しかし,今回の調査研究では,合成軽油は1サン
プルであり,かつ評価エンジンも2種類(エンジン台上,実車)での評価結果であるため,ここで提案した性状改良が
典型である,または最終的な性状を示しているわけではない.エンジン諸元によって要求される燃料性状も異なってく
るので,一義的に決まるものではないが,ここで提案したように,ディーゼル排出ガス(特にPM)低減に対しての合
成軽油の低沸点化は必要な項目の一つと考えられる.
表 3.2.2-2
項
目
FT合成による各燃料の性状
ナフサ
灯油留分
軽油留分
密度
( g/cm3 )
0.690
0.738
0.780
初留点
(℃)
43
155
200
終点
(℃)
166
190
360
N/D
N/D
N/D
0
<1
<1
N/A
42
88
N/A
58
75
60
N/A
N/A
硫黄分
アロマ分(vol%
アロマ分( vol%)
vol%)
引火点
(℃)
セタン価
オクタン価
[メーカーデータによる]
177
4. 調査のまとめ
4.1 PM粒子径への影響調査
供試合成軽油のディーゼルエンジンから排出されるPMの粒子径への影響を調査した結果,以下のことが明らかに
なった.
・ 供試合成軽油は,比較した JIS2号軽油,スウェーデンクラス1軽油に比べてピーク粒径がやや大きい傾向を示し
た.
・ 供試合成軽油におけるPM排出量は,JIS2号軽油より少ないがスウェーデンクラス1軽油より多い.
・ 供試合成軽油において,PM中のISOF(非可溶有機成分)割合が他の2燃料に比べて多い.
・ 供試合成軽油におけるPMピーク粒径,ISOF割合が評価した3燃料の中で最も大きい要因として,高セタン
価,高動粘度,低沸点成分の比較的高い蒸留温度特性による燃料噴霧と空気の混合不足,噴霧の分散性不足が考
えられる.
4.2 合成軽油性状の方向性調査
これまで得られた供試合成軽油の各種エンジン評価,燃料特性評価の結果を基に,クリーンディーゼル燃料としての
合成軽油性状の方向について提案し,その製造上の問題点,課題について供試メーカーへのヒアリング調査を実施した.
・ 供試合成軽油の性状改良の方向として,セタン価の低下,スウェーデンクラス1軽油並みの低粘度化・蒸留温度の
低下,潤滑性向上剤添加,アロマ分・硫黄分ゼロの維持,JIS2号軽油並みの流動点確保を提案した.
・ 供試メーカーの上記性状改良提案に対する製造上の問題として,セタン価低下に対して現在の合成プロセスでは
対応が困難である点が挙げられる.他の性状変更は対応可能である.
・ 供試合成軽油の蒸留温度を下げることは,ガス成分の増加による製品の収率低下,エネルギー効率の低下を伴う.
・ セタン価を下げるには,合成されたノルマル-パラフィンを分解して(炭素鎖を短くする)灯油留分にする方法が
考えられる.この場合のセタン価は 58 程度になる.
5. 最終まとめ
この調査を通して合成燃料のクリーンエネルギーとしてのポテンシャル,海外の合成技術レベルの高さを確認できた.
これまで得られた成果を以下にまとめる.
(1) 海外合成燃料製造技術の現状
海外メーカーの合成液化燃料製造技術の主流は、FT法(Fischer-Tropsch 法)と呼ばれる間接液化法であり,石炭
を原料とするSASOL社(南ア)を除いて,他メーカーは天然ガスを原料にしている(表 5-1).合成燃料の製造コス
トは,$20∼28/バレルの範囲にあり,製造効率の向上等の技術進歩によりコスト低減が可能になってきたと言える.
現在の合成燃料の生産能力は非常に少ないが,最近の情報では,世界各地で合成プラントの建設計画が進んでいる(表
5-2)
.
(2) 供試合成軽油のエンジン評価
供試合成軽油は,ノルマル-パラフィンを成分としたアロマ分,硫黄分を含まない燃料であり,比較した JIS2号軽油
に比べてすす(Smoke)生成が少ない,酸化触媒等の後処理装置でのサルフェート(SO4)生成が少ないのが特徴であ
る.燃焼特性としては,高セタン価燃料であるために,着火遅れ期間が短いが,燃焼期間はやや長い特性になっている.
供試合成軽油における排出PMは,そのピーク粒子径が JIS2号軽油より大きく,PM中のISOF成分割合も多い
特徴がある.これは,高セタン価,高動粘度,低沸点成分の高蒸留温度特性による燃料噴霧の空気との混合不足,噴霧
の分散性の低下に起因すると思われる.
(3) 供試合成軽油の燃料特性
燃料の潤滑性をHFRR(High Frequency Reciprocating Rig)試験機にて評価した結果,JIS2号軽油に比べてかな
り低い潤滑特性になっている.潤滑性を改善する方法としては,現在の市販軽油に用いられている潤滑性向上剤を添加
することにより,市販軽油と同レベルの潤滑性が確保できることを確認した.
燃料系部品の材料適合性に関して,浸漬試験によりゴム材料の物性変化を評価した.その結果,供試合成軽油はアロ
マ成分を含まないため,JIS2号軽油に比べてゴムの物性変化が少ないことがわかった.この特性は,特に燃料系部品の
シール性に影響を及ぼすと考えられるため,合成軽油を利用する燃料系部品を設計する上で考慮すべき点である.
(4) 供試合成軽油の最適性状
よりクリーンな燃料として,セタン価を下げる,動粘度,蒸留温度,流動点を下げると言った供試合成軽油の性状改
良案を提案し,その製造上の問題点等を供試メーカーにヒアリング調査した.その結果,セタン価を現状より下げる点
以外は,現プロセスにて対応可能であることが確認できた.セタン価を下げるには,炭素鎖の長いノルマル-パラフィン
を分解して,灯油留分に変える方法が考えられ,その場合のセタン価は約 58 になる.
最後に,合成燃料は今後の自動車利用への有望なエネルギー候補の一つであると言えるが,現状,合成燃料の製造コ
スト,供給量の問題,エンジンシステムへの耐久信頼性,運転性能への影響等,自動車用燃料としての実用化には多く
の課題が残されている.しかし,昨今の環境,エネルギー問題への対応の必要性から,合成燃料の早期実用化が期待さ
れる.
178
表 5-1 海外メーカーの合成燃料製造技術の比較
メーカー or
研究機関
プロセス
原料
Sasol
(南ア)
SSPD *1
石炭
合成ガス 部分酸化
製造法
改質
酸素
酸化剤
炭化水素 FT合成
合成法
反応器 スラリー床
形式
開発段階
商業化
Mossgas
(南ア)
Shell
(マレーシア)
ExxonMobil Syntroleum
(米国)
(米国)
DOE
(米国)
Slurry Bubble
SAS *2
Sasol
SMDS *3 AGC-21 *4 Syntroleum Column Reactor
石炭
天然ガス
天然ガス
部分酸化
部分酸化
部分酸化 部分酸化
酸素
酸素
酸素
酸素
空気
酸素
FT合成
FT合成
FT合成
FT合成
FT合成
FT合成
流動床
流動床
固定床
スラリー床
固定床
スラリー床
商業化
商業化
天然ガス
水蒸気改質
商業化
実証
天然ガス 疑似合成ガス
(石炭or 天然ガス)
オートサーマル
部分酸化
実証
パイロット
*1 ; Sasol Slurry Phase Distillation
*2 ; Sasol Advanced Synthol
*3 ; Shell Middle Distillate Synthesis
*4 ; Advanced Gas Conversion for the 21st Century
表 5-2 世界の合成燃料プラントの現状
Owner/Developer
Location
Type of product
Capacity
(BPD)
Base
Feedstock
Process
South Africa
USA
170,000
35
2
Coal
Simulated
Syngas
Natural gas
Sasol
1955
Slurry Bubble
Column Reactor 1984
Syntroleum
1990
USA
South Africa
Sarawak
USA
Fuels/Speciality Products
Unrefined FT Products
(pilot)
Fuels/Speciality Products
(pilot)
Fuels/Speciality Products
Fuels/Speciality Products
Fuels/Speciality Products
Syncrude(pilot)
200
30,000
12,500
70
Natural gas
Natural gas
Natural gas
Natural gas
Exxon AGC-21
Sasol
Shell-SMDS
Syntroleum
1990
1992
1993
1999
Canada
Syncrude and Fuels(pilot)
4
Natural gas
Synergy
May 2000
Under Development
Synfuels Texas A&M
USA
Fuels(pilot)
10-12
Natural gas
Oct. 2000
Rentech Sandcreek
Conoco Ponca City
USA
USA
800+
350-400
Natural gas
Natural gas
BP Amoco
Chevron Sasol Escravos
Sweetwater Australia
Alaska
Nigeria
Australia
Fuels/Speciality Products
Fuels/Speciality Products
(pilot)
Fuels(pilot)
Fuels
Speciality Products
Synfuels
International
Rentech
Conoco
300
30,000
10,000
Natural gas
Natural gas
Natural gas
BP-Kvaermer
Sasol
Syntroleum
Target 2002
Target 2003
Target 2003
Under Discussion
PDVSA
Sasol/Qatar
Indonesia Pertamina
Venezuela
Qatar
Indonesia
Syncrude and Fuels
Fuels
Syncrude and Fuels
15,000-50,000
30,000
70,000
Natural gas
Natural gas
Natural gas
N/A
Sasol
Shell-SMDS
ANGTL Prudhoe Bay
ExxonMobil Alaska
Trinidad Reema
Forest Oil, South Africa
Exxon Qatar
Alaska
Alaska
Trinidad
South Africa
Qatar
Syncrude and Fuels
Syncrude
Fuels
N/A
N/A
50,000
100,000
10,000
10,000
100,000
Natural gas
Natural gas
Natural gas
Natural gas
Natural gas
Existing
SASOL 1,2,3
Laporte Alternative Fuels
Development Unit
Syntroleum Tulsa
Exxon Baton Rouge
Mossgas South Africa
Shell Bintulu
Arco Syntroleum Cherry
Point
Synergy Canada
USA
179
Status
Target 2001
Target 2002
Target 2004
Target 2005
Target 2005/
2006
N/A
Target 2006
Exxon AGC-21 N/A
Exxon AGC-21 N/A
Rentech
N/A
Exxon AGC-21 N/A
(1)―2高効率クリーンエネルギー自動車技術動向調査:(株)三菱総合研究所
高効率クリーンエネルギー自動車動向調査では国内外の類似研究開発の状況をとりまとめるととも
に、プロジェクト成果の市場調査や導入シナリオの策定を行った。平成 9 年(1997 年)∼平成 15 年
(2003 年)に実施した研究項目を表に示す.
年度
1997 年
・
・
・
・
・
・
各年のプロジェクト成果一覧
研究概要
米国 PNGV,欧州 Car of Tomorrow の実態調査
欧米主要企業・研究機関の取り組み
国内外の関連規制・基準
クリーンエネルギーに関する調査
産業連関表を用いた波及効果分析(その1)
総合効率の試算(その1)
1998 年
・ エネルギー貯蔵システムに関する技術開発動向
・ 産業連関表を用いた波及効果分析(その2)
・ 総合効率の試算(その2)
1999 年
・ 日米欧のハイブリッド技術開発状況
・ 要素技術の特許分析
2000 年
・
・
・
・
米国の自動車関連技術開発プログラム詳細調査
主要研究機関の研究動向
主要低公害車の開発状況
ACE 成果導入モデル・シナリオの検討(経済面)
2001 年
・
・
・
・
FreedomCAR 及び 21st Century Truck Program の概要
欧州の研究開発状況
アジア諸国のクリーンエンルギー自動車への取り組み
バス市場調査
2002 年
・ トラック市場の全体像
・ 都市内利実態の詳細
・ 導入効果の試算
2003 年
・
・
・
・
各社の研究成果
プロジェクト成果の今後の展開
プロジェクトを取り巻く環境変化
今後の課題と提言
180
(1)−2−1 海外の研究開発状況
1997 年 ACE プロジェクト発足時,米国では PNGV 計画,欧州では Car of Tomorrow が開始されてい
た.PNGV については 2000 年 2 月における USCAR のコンセプトカー(DC:ESX3,Ford:Prodigy,
GM:Precept)公開で,プロジェクト目標を達成したとされている.
その後 PNGV プロジェクトを引き継ぐかたちで 2000 年より FreedomCAR 計画がスタートした.こ
れは燃料電池自動車に特化したプロジェクトである.一方で,大型車両については 21c Truck Program
がスタートしている.
Car of tomorrow は 98 年で終了し,後継のプロジェクトは存在していない.一方,RTD プログラム
「hybrid and clean propulsion systems」は継続推進中である.これは内燃機関燃焼効率向上,バッテリー
エネルギー密度,車体材料開発,燃料電池技術開発等を目的としたものであり,EU 加盟国内でプロ
ジェクトを分担して推進するものである.(RTD: Research, Technological development and demonstration
第5次フレームワークプログラム(1998-2002)の中の研究)
ACE プロジェクトの技術開発内容を欧米の類似プロジェクトとの比較を表 1 に示す.
表 1
日
(ACE)
①開発目標
・基準車の概ね2倍の
燃費
・クリーンエネルギー
利用
②内容
・ハイブリッドシステ
ム開発
・DME/CNG/メタノール
利用内燃機関
・フライホイール,
キャパシタ
米欧の類似プロジェクト比較
米
(PNGV)/FreedomCAR
(PNGV)
①開発目標
・1994 年比 3 倍の燃
費
・自動車関連産業の国
際競争力向上
(FreedomCAR)
・燃料電池,ならびに
未利用エネルギーか
ら水素を生成する技
術の開発に焦点
欧
Car of Tomorrow
①開発目標
(短中期)
ULEV,ZEV の実用化
(長期)
燃料電池の実用化
②内容
・EC 加盟国の官民プ
ロジェクトの支援
・ディーゼル高効率化
に重点
図 1 PNGV Concept Car(GM)
一方で,米国ではクリーンエンルギー自動車の導入促進を目的とした実証研究が多数実施されてい
る.代表的なプロジェクトとしてはカリフォルニア州が国内外の民間企業等の協力のもとに実施す
る”California Fuel Cell Partnership” や Clean Cities Program がある.”California Fuel Cell Partnership”は燃
料電池自動車の実証を目的としており,Clean Cities Program は米国の 50 都市に対してクリーンエネル
ギー自動車の導入を奨励するプログラムである.
181
(1)−2−2 経済的効果
①産業競争強化策
PNGV や FreedomCAR 等の米国プロジェクトはエネルギー・環境対策とともに国内産業競争力強化
の双方の目的を持つ.
PNGV ではプログラムの各要素技術開発を大学/公的研究機関/産業界の連携により実施されてお
り,多数のベンチャー企業がこのプロジェクトをきっかけとして生み出されていった.PNGV に関係
する中小企業育成施策例を表 2 に示す.
表 2 PNGV に関係する中小企業育成施策例
施策名
所管官庁/概要
ATP
(Advanced
Technology
Program)
DOC
(Department of Commerce)
商業化を目的としたハイリス
クな技術開発への補助
DOE(Department of Energy)
DOD(Department of Defence)
DOC 他
SBIR
(Small
Business
Innovation
Research)
政府との共同開発成果の事業
化支援
DOE,DOD,DOC,他
STTR
(Small
Business
Technology
Transfer)
大学/研究機関と中小企業の
共同研究による事業化支援
PNGV における
技術テーマ
・新素材(高強度アルミ等)
・生産プロセスの改善
他
・ハイブリッド関連モーター,ス
イッチ,センサー
・バイオ燃料開発
・塗装接合技術
他
・各種センサー
・エネルギー変換技術
他
②産業波及効果
1998 年度には ACE プロジェクト車両の中から CNG ハイブリッドトラックを対象として産業波及効
果の分析を行った.
具体的手順としては対象車両メーカーへのヒアリング結果から対象車種の部品構成(重量,金額)
,
車両価格を整理し,部門別逆行列係数を用いて波及効果を算定した.
その結果 ACE 車両 10,000 台が普及した場合,6,663 百万円の生産額増加効果があるとの算定結果を
得た.
(百万円)
20,000
14,000
11,885
12,000
生産額増加効果
10,000
8,823
8,000
部品・素材
投入額
6,000
4,000
2,000
研究
開発費分
7,282
車両価格
投入額・波及額
16,000
産業波及額
18,000
4,500
818
0
HEV普及時
図 2
同クラスディーゼルトラック
生産額増加効果(ACE プロジェクト)
182
(1)−2−3 環境保全効果
産業波及効果の算定結果を用いてエネルギー消費量の算定を行った.ACE 車両本体の製造に伴うエ
ネルギー量は部品点数等が多い分,ベース車両に比較して増加するが,使用時のエネルギー消費量が
従来車の 1/2 を達成すれば,ライフサイクルでのエネルギー削減効果は 34%となることが試算された.
また,エネルギー消費量に,エネルギー源別の CO2 排出原単位を乗じることにより,CO2 排出量を
求めることができる.上記ケース(10,000 台普及,総走行距離 20 万 km/台)の場合,ACE 車両の総
CO2 排出量は 7.9ton-Carbon/台と算定された.この数値はベース車両に比較して約 57%の削減となる.
エネルギー消費量(Gcal)
400
生産台数 10,000台
350
省エネ効果
300
250
200
300
150
150
使用
100
変動範囲
50
85
製造
53
0
ベース車両
HEV
研究開発費比率 :10%
燃費 :従来車の1/2
従来車両
図 3 エネルギー削減効果(ACE プロジェクト)
また、4トン未満の都市内営業用貨物車両のすべてが ACE 開発車両に代替された場合の CO2 削減効果
は図のとおりである.
試算条件
削減効果
代替対象車両
貨物輸送部門(全国)
のCO2排出量に対する
削減寄与度
約1.2%
4トン未満の都市内
営業用貨物車両
(全国)
東京都輸送部門
のCO2排出量に対する
削減寄与度
約3.8%
4トン未満の都市内
営業用貨物車両
(東京都内)
運輸部門全体(全国)
のCO2排出量に対する
削減寄与度
約0.3%
4トン未満の都市内
営業用貨物車両
(全国)
(1)−2−4 技術波及効果
1999 年には ACE プロジェクト主要技術について特許の出願動向(経年変化など)や開発体制を日本
国特許と米国特許を用いて検索・抽出して,日米比較を行い,日本企業が有する ACE プロジェクト技
術の比較優位性の検証,ACE プロジェクトの役割を明示することを目的とした分析を行った.
対象とする技術は,エネルギー貯蔵技術,燃料,パワーユニットの 3 分野から 12 の技術を抽出した.
特許制度の違い,企業戦略上の違いが複合的に影響しているため,日米特許の出願傾向を正確に比較
することはできないが,出願件数,出願企業数について外層的にながめると,日本国特許と米国特許
の出願状況のもっとも顕著な差異は,技術分野ごとにかかわる企業数に違いが存在することがわかる.
日本では大手企業が周辺特許も含めて多数の特許を出願している.一方,米国では多くの企業は 1∼2
183
件の特許を出願しているにすぎず,年と共に先端を行く企業が移り変わっている.
米国における日本企業の出願数を分野別に比較すると,リチウムイオン電池,ニッケル水素,キャ
パシタ,同期型モーター,直噴技術などの主要技術において盛んに出願がなされており,換言すれば,
日本企業が世界的に優位性を保持しうる分野であると言える.
表 3
検索語
フライホイール
燃料電池
固体高分子型(PEFC)
キャパシタ
バッテリー
リチウムイオン
ニッケル水素
天然ガス
メタノール
DME
水素
燃料×水素
モータ
同期型モーター
ハイブリッド×エンジン
ガソリンエンジン
直噴エンジン
ディーゼルエンジン
タービン
ロータリエンジン
年別出願件数推移(日本)
1993
1994
1995
1996
1997
1998
130
671
3
900
449
77
19
66
335
21
142
835
22
799
443
115
22
78
378
41
153
695
18
667
469
143
29
97
343
24
164
674
39
748
476
144
29
101
261
25
174
595
31
736
477
250
30
89
236
31
190
551
33
834
457
329
64
86
237
51
193
592
44
968
525
413
50
90
261
37
1,146
4,613
190
5,652
3,296
1,471
234
607
2,051
230
9218
250
10445
5
20
44
0
298
998
35
9364
310
10998
2
31
41
0
304
1138
69
8582
276
10649
7
39
49
0
346
1094
50
7540
258
10640
3
60
38
0
342
1128
53
6887
252
10291
9
94
42
4
330
1077
38
6991
223
10149
3
106
45
6
306
1115
43
7236
316
10580
1
210
57
11
308
1227
29
55,818
1,885
73,752
30
560
316
21
2,234
7,777
317
184
1999 sum
表 4
ACE プロジェクト主要技術の特許出願傾向と日本企業の
比較優位性および ACE プロジェクトとの関連(その 1)
日本企業の優 ACEプロジェク
位性
トとの関連
(a) フライホイール
(b) リチウムイオン電池
燃料貯蔵技術の出願増加中
○
米国における日本企業の出願が目立つ。
○
△
(c) ニッケル水素
国内では東芝の出願人数が6人で最多
○
△
(d) キャパシタ
日本 :毎年700~1000程度の一貫した出
願。米国 EV control 、EV power supply、
electrode
○
○
(e) メタノール
毎年100件程度の出願件数
メタノール改質装置や燃料電池装置の
流露凍結防止方法、燃料電池にまつわ
る技術が主流
○
(f) 天然ガス
90年代初期より貯蔵に関するものが主
流。96年になるとメタン吸蔵材に関する特
許が出願。米国も日本とほぼ同じ技術
テーマで推移。
○
日本企業の優 ACEプロジェク
位性
トとの関連
(g) ジメチルエーテル
平成11年になってからジメチルエーテル
改質ガスを使用する発電方法および装
置など燃料電池自動車関連の特許が増
大。東芝、日本鋼管等が研究多数出願。
(h) 水素
1994年から燃料電池に関するものが圧
倒的に多くなった。改質装置と燃料電池
システム、燃料電池用メタノール改質
器、吸着材に関するものが多い。
(i) 同期型モーター
米国ではElectric Boat Corporationの開
発体制が大きい。日本企業の出願も比
較的多い。
(j) 燃料電池システム
90~94年は電極、電解質膜、改質器、
96年にCO除去、97年になるとセパレータ
の技術が出願の主流。
(k) ハイブリッド駆動
1997年に一挙に107件の出願があり、以
後増加。
97年~98年は制御、駆動。
○
○
(l)高効率直噴エンジン
噴射、制御、リーンバーン、高圧縮比、
筒内観察、燃料供給に関するものが多
数。
○
-
185
○
○
-
○
○
○
(1)−2−5 市場分析
2001 年,2002 年には ACE 成果の導入対象市場の現状把握を目的として,バス市場及び小型トラッ
ク市場の調査を行った.年度別のバス,トラック保有台数推移を以下に示す.
①トラック
トラックの保有台数推移を図 4 に示す.平成 12 年度時点において,自家用トラックは約 700 万台,
営業用トラックは 100 万台となっており,前者については近年若干減少傾向に,後者については近年
微増(ほぼ横這い)の状態にあることが分かる.
なお,営業用トラックのうち,本調査が主に対象としている 4t 未満のトラックに着目すると,その
保有台数は約 51 万台(515,631 台;H12 年度)となる.
自動車保有台数(トラック)
台
9,000,000
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
トラック 営業用
トラック 自家用
3,000,000
2,000,000
1,000,000
12
11
9
10
8
7
6
5
4
3
2
63
平成元
62
60
55
50
45
40
35
30
25
0
年
出典:自動車保有車両数(形状別)
図 4 自動車保有台数(トラック)
自動車保有車両数
営業用貨物普通車・小型車 (積載量別)
自動車保有車両数
全体 (形状別)
自家用
貨物用
貨物普通車
貨物小型車
貨物被けん引車
軽自動車
乗合車
乗合普通車
乗合小型車
乗用
営業用
計
7,000,950
1,105,336
8,106,286
1,680,488
5,311,156
9,306
901,104
79,496
124,736
2,581,592
5,390,652
134,042
21,755,340
-
137,002
98,548
235,550
27,458
109,544
82,827
15,721
110,285
125,265
42,108,726
256,343
42,365,069
14,132,311
27,976,415
31,046
225,297
14,163,357
28,201,712
特種(殊)用途用
1,516,177
238,134
1,754,311
特種普通車
特種小型車
大型特殊車
992,452
204,147
319,578
222,151
12,412
3,571
1,214,603
216,559
323,149
1,307,822
595
1,308,417
73,826,017
1,698,956
75,524,973
合計
営業用
貨物普通車 計
2t未満
2t以上3t未満
3t以上4t未満
4t以上
貨物小型車 計
4輪計
2t未満
2t以上3t未満
3t以上4t未満
4t以上
3輪計
21,755,340
乗用普通車
乗用小型車
小型二輪車
※2
※1
901,104
17,543
218,059
201,668
463,834
79,496
79,397
43,389
34,972
1,036
99
出典:自動車保有車両数(形状別)平成13年3月末現在
186
※3
計;515,631
[台
台]
計;
検討対象車両数
(4t未満の車両数)
②バス
バスの保有台数推移を図 5 に示す.平成 12 年度時点において,自家用バスは約 14 万台,営業用バ
スは 10 万台となっており,トラックの場合と同様,前者については近年若干減少傾向に,後者につい
ては近年微増(ほぼ横這い)の状態にあることが分かる.
なお,営業用バスの保有台数は約 10 万台(98,548 台;H12 年度)となっており,トラック等と比較
して市場自体小さい.
バス輸送が全旅客輸送に示す割合は,東京都の場合で約 5% ,大阪で 3.2% 名古屋で 5.4%となって
いる.
各バス事業者ともに経営状況は厳しく大阪市,名古屋市では赤字,東京都では 6 億円程度の黒字と
なっている.経費の内訳としては 7∼8 割を人件費が占める.特に,近年では運転手の高齢化が進み人
件費の削減が難しい状況となっている.バスの場合,車両更新は平均 14 年程度を目処としている。
自動車保有台数(バス)
台
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
バス 営業用
バス 自家用
60,000
40,000
20,000
12
11
9
10
8
7
6
5
4
3
2
63
平成元
62
60
55
50
45
40
35
30
25
0
年
出典:自動車保有車両数(形状別)
図 5
自動車保有台数(バス)
(1)−2−6 中国のクリーンエネルギー自動車市場分析
2000 年には ACE プロジェクト成果の海外への導入を検討するため,中国や東南アジアのクリーンエ
ネルギー自動車導入市場分析を行なった.
中国では低公害車の開発自体は 10 年以上前より行われており,特にここ 2~3 年で、中国政府は低公害
車の開発・導入に多大な投資をした.その理由としては自動車の排気ガスによる環境汚染が大都市を中心
に深刻化していることがあげられる.
また,エネルギーセキュリティーの面から、石油の輸入超過(7,000 万トン/年;総需要の約 1/3)に
よる懸念も、低公害車導入の一因となっている.
すでに低公害車の導入も進んでおり、CNG 車が約 20,000 台,CNG スタンドも 230 箇所となっている.
中国の場合,トラック,乗用車などの商用車は低価格であることが必須条件となっている.
公共交通機関については中央・地方政府が積極的に導入促進しており,北京では 2008 年オリンピック
時までにバスを 90%低公害車化する予定である.
燃料については中国は天然ガスの賦存量が豊富であり、CNG パイプラインプロジェクトが 2004 年に
完成する見通しである.
187
(1)−2−6 プロジェクト成果の今後の展開
プロジェクト成果の今後の展開については,次の手順で検討を行った.
都市内トラック・バスの燃料及び技術に関する 2010 年までの考え方については平成 15 年 8 月に経
済産業省が公表した「次世代低公害車の燃料及び技術の方向性に関する検討会」報告書を尊重した.
その上で,開発各社からのヒアリング調査結果より抽出した「導入上の課題」
,及び「導入予定年次/
車両」等を踏まえ,あわせて開発車両の実走行燃費データに基づく「投資回収年数等の試算」結果を
考慮することで今後の展開について検討を行った.
○検討会報告書
○開発各社へのヒアリング調査結果
「次世代低公害車の燃料及び技術の
「次世代低公害車の燃料及び技術の
方向性に関する検討会」報告書
方向性に関する検討会」報告書
平成15年8月 (経済産業省)
平成15年8月 (経済産業省)
○燃料
・低硫黄軽油(10ppm以下)
・CNG利用を促進
・DMEについては2010年以降
導入上の課題
導入上の課題
導入予定年次
導入予定年次
/車両
/車両
○価格 (車両上乗せ価格の上昇)
・特に、路線バスの場合は、全体でみても市場
規模が小さく、量産効果が生じにくい等
○投資回収年数等の試算結果
開発車両の実燃費データを用いた場
開発車両の実燃費データを用いた場
合の投資回収年数等の試算
合の投資回収年数等の試算
○ユーザ・コストの削減効果
・ハイブリッド化による価格上昇分と
燃費向上分による燃料経費削減
効果から投資回収年数を試算
○導入予定年次/車両
・トラック ;2004年頃より
・バス ;2006年頃より
○技術
・ハイブリッドシステムの導入
今後のACEプロジェクト成果
今後のACEプロジェクト成果
導入の考え方
導入の考え方
図 6
今後の ACE プロジェクト成果導入の考え方
①検討会報告書1
ACE プロジェクトでは燃費・環境特性向上のためのハイブリッド技術とエネルギーセキュリティ対
応のためのクリーンエネルギー利用技術の両方を開発対象としている.ACE 成果の導入検討に際して
は,それぞれを分けて考える必要がある.
経済産業省が平成 15 年 8 月に公表した「次世代低公害車の燃料及び技術の方向性に関する検討会」
報告書によると,都市内トラック・バスについて 2010 年までの燃料及び技術の考え方は次のとおりと
されている.
○ 燃料
1. 低硫黄軽油(10ppm 以下)を使用し,最先端の排出ガス低減技術との組合せによって徹底し
た排出ガス対策を行うことを基本とする.
2. CNG 利用を促進し,インフラが未整備の場合は LPG またはガソリンを使用する.GTL につ
いても軽油への混和が可能であることから導入を促進する.
3. DME については,インフラ等の問題から 2010 年以降の導入を検討する.
○ 技術
1. 低速走行頻度,加減速頻度が高いという特徴から,どのような燃料を利用する場合においても,
ハイブリッドシステムを導入していく.
188
1
「次世代低公害車の燃料及び技術の方向性に関する検討会」報告書
車両保有台数
ハイブリッド技術・
CNG 導入加速期
エネルギー政策対応期
目標保有台数
ハイブリッド小型トラック
現状
22.8 万台
ACEプロジ ェクト成果適用車両台数
モデル事業等による普及
~
~
(数10 -100 台規模)
市場立上期
2004 年
補助事業拡充
市場拡大期
2006 年
図 7
税制等の拡充 、他
(差額率の低減)
自立期
2010 年
今後の ACE プロジェクト成果導入の考え方
②開発各社へのヒアリング調査結果(ポイント)
開発各社へのヒアリング調査結果や市場調査結果を踏まえ,2010 年までの ACE プロジェクト成果導
入の考え方を整理すると,概ね以下の通りとなる.
○ トラック
各社ヒアリングによると,2004 年より「ディーゼル+ハイブリッドシステム(→ACE プロジェクト
成果の一部適用車両)」の小型トラック分野への導入が計画されている.
2010 年における導入予測台数を 22.8 万台とした場合,各社ヒアリング結果からはベース車両に対す
る上乗せ価格は 150 万円程度に留まることが想定されている.
当該価格は現行補助額,及び燃費向上に伴う燃料価格の低下を考慮すると,投資回収年数は 6∼8 年
弱と試算され,車両耐用年数(約 10 年)を考慮するとユーザにとっては価格メリットが生じることに
なる.しかしながら価格感度の高い宅配業者やコンビニ業者等,業務用車両の場合,新規投資につい
ては回収判断年数が短いことから大量導入のためには一層の価格低減が必要となる.
導入施策等をきっかけとした「ディーゼル+ハイブリッドシステム」の本格的普及の後(2010 年以
降),段階的に ACE プロジェクト成果車両(全技術の取り込み車両)の本格的普及が想定される.
○ バス
各社計画では 2006 年頃までに ACE プロジェクト成果を用いたシリーズ式大型バスの販売が計画さ
れている.
バスの国内市場規模は 3,000-3,500 台/年程度であり,量産による価格低下の期待は低い.車両価格
はベース車両に対して最低でも+1,000-1,500 万円程度と非常に高額であり,自発的な普及は困難であ
る.当面はシンボル的な導入が想定される.
そのため既販売中の CNG バスの導入を促進しつつ,車体の標準化等の推進によりハイブリッドバス
の「価格低減」を経て「導入量拡大」が図られていくことが想定される.
○ その他
CNG エンジンについては既導入車両の導入拡大を図ると共に,早期のハイブリッド化を目指す.
GTL については軽油への混和の面から導入を推進する.
189
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
[高効率クリーンエネルギー自動車技術動向調査(その2)]
高効率クリーンエネルギー自動車技術動向調査(その2)]:(株)三菱総合研究所
プロジェクト成果の市場導入については各社とも 2005 年頃から具体的な計画を検討している.これ
までに各社から発表された市場導入計画の内容及び 2002 年のモーターショーで展示されたハイブリッ
ド技術に関するコメントは表 5 のとおりである.
表 5
各社の今後の導入計画
社名
ACE 成果の導入計画
日産ディーゼル
2006 年以降に中型トラック(コ
ンドル)以外の展開(大型トラッ
ク・バス)を計画
2004 年 2 月にシリーズ式大型バ
スを販売開始
パラレル式小型トラックは 2004
年中に実証供試予定
ワンウェイクラッチ・モータコ
ントローラについて 2006 年頃に市
場導入を検討
(対象車両はバス・トラックの
両者を検討中)
ハイブリッド制御技術(エネル
ギーマネジメント技術,コンバー
タ/インバータ制御,エネルギー
回収制御)を 2005 年に 2ton ト
ラック,冷凍車へ導入予定
三菱ふそう
日野
いすゞ
2002 年モーターショー展示車両に
関するコメント
ショー出品車はコンドルキャパ
シタトラックであり,ACE 成果応
用車両を展示した
モーターショー展示のキャン
ターハイブリッドやエアロスター
ハイブリッドについては ACE 成果
の適用により実現した車両である
モーターショー展示車両に使わ
れた技術は ACE 成果とは別のもの
である
モーターショー展示車両に使わ
れた技術は ACE 成果とは別のもの
である
キャパシタ
日産
ディーゼル
キャパシタトラック
(4ton コンドル)(市販)
ハイブリッドシステム
大型トラック、バス
ミラーサイクルCNG
適用車未定
リチウムイオン電池
三菱ふそう
シリーズ式
大型バス
シリーズ式大型バス(市販)
(実証供試)
ハイブリッドシステム
リーンバーンCNG
適用車未定
パラレル式
小型トラック
市販小型トラック
(実証供試)
ハイブリッドシステム
日野自動車
大型バス・トラック等
DMEエンジン
適用車未定
ハイブリッドシステム
いすゞ
自動車
2トントラック・冷凍車等
排気エネルギー回収
適用車未定
セラミックエンジン
1997
(プロジェクト開始)
適用車未定
2002
2004
190
2006
(1)各社課題の整理
ACE 車両はハイブリッド化により燃費向上を図るものである.ハイブリッド化により駆動系部品数
が増加するため価格が上昇する等,次のような導入上の課題が指摘されている.
①エネルギー貯蔵技術の性能向上・価格低減
キャパシタやリチウムイオン電池等のエネルギー貯蔵システムが車両価格上昇の要因の一つとなっ
ている.
②量産効果のための市場確保,他分野への展開
商用車,特に大型路線バスについては,年間の市場が約 3,000∼3,500 台程度であるため,量産効果
が出ない.
③社会インフラ
ハイブリッド技術の中には,キャパシタのように車体の2倍以上の寿命を持つものがあるが,リサ
イクルシステム等が確立されていないため,再利用ができない.
④規制・基準
2005 年新長期の NOx,PM 規制は既存技術 DPF 等で対応できるため,2008-2010 のポスト新長期で
燃費も規制される時期を目標とした開発を行うことが必要であるが,技術要件が明確化されていない.
⑤経済的・制度的支援
現在のクリーンエネルギーやハイブリッド車両は,コンビニ,宅配便等の企業が主としてイメージ
向上のために少数導入したに留まっている.本格導入のためには,今後,補助金の導入に加えて政府
調達等を積極的に進めていくことが必要である.
⑥各社,今後の導入予定技術,課題等の詳細
本調査では,開発各社に対し,今後の導入予定技術,課題,波及効果等について個別調査を
行った.それら詳細を表 6∼表 9 に整理する.
表 6
今後の導入予定技
術
価格(量産効果)
波及効果
導入に関する課題
その他課題
今後の導入計画,課題等の詳細(日産ディーゼル)
・2004,5 年に販売する車両については開発計画が作成済みであるため,
ACE 成果を踏まえた車両の導入は 2006 年以降となる.
・キャパシタ+キャパシタコントロールシステムとして導入予定.
・中型トラックから,トラック・バスへと徐々に市場展開を予定(中型ト
ラックは導入済み)
.
・高効率 CNG エンジンについては実用化検討中の段階であり,市場導入時
期は現時点では未定.
・バスの場合は,量産普及段階に入ればベース車両価格約 2,000 万円プラ
ス 1,000∼1,500 万円程度.
・車体等の量産効果は 2,000 台/年規模で現れるが,エンジンは型費用等
の関係から車体の数倍以上の量産規模にならないと量産効果が現れにく
く,ハイブリッド車用エンジンも同様である.
・なお,少量生産段階のコスト高は,キャパシタおよびモータ・インバー
タの占める要因が大きい.
・キャパシタについては産業車両や風力発電への展開を検討中
・車体の量産効果は 2,000 台/年規模から現れるが,エンジンは 5,000 台
/年以上必要であり,台数の確保が必要.
・モーター,インバータは 1,000 台/月が必要
・早い技術革新への対応
・他の技術との融合開発
・技術標準・基準の整備
・導入優遇策の拡充
191
表 7
今後の導入予定技
術
価格(量産効果)
波及効果
導入に関する課題
その他課題
今後の導入計画,課題等の詳細(三菱ふそう)
・シリーズ式大型バスは供試済み.
・パラレル方式 Hybrid を小型トラックとして導入予定.パラレル方式
は,汎用性があり,小型配送車等に向いている.将来主流になると考えて
いる.
(2004 年の実証供試の結果次第)
・CNG エンジンの市場導入時期は現時点では未定.
・シリーズ式大型バス導入時,ベース車両の 1.6-1.7 倍
・小型トラックはベース車両の 1.4-1.5 倍
・小型トラックの市場は月間 2,000 台(年間 2 万台)程度あり,将来的に
はこの半分程度を置き換えられればいいと考えている(この段階にまでく
れば,+100 万円以下にまで価格は低下すると考えられる)
.
最終的には配送車はハイブリッドが主流となると考えている.10 年後に
は数千台での生産になると期待している .
・小型トラックはベース車両に比較して 100 万円以内の上昇でないと普及
しないと考えている.現在小型トラックは 2,000 台/月の生産台数であ
り,この半分が HEV になると仮定すると 100 万円程度の上昇で留ると考え
ている.量産効果のための一定市場の確保が必要.
蓄電装置の寿命増大(リサイクル)
・新長期,ポスト新長期規制のあとは燃費も規制が設けられる可能性があ
る.ここについては経済省,国交省で検討中である.
表 8
今後の導入計画,課題等の詳細(日野自動車)
今後の導入予定技
術
価格(量産効果)
ACE プロジェクトの研究開発の成果であるワンウェイクラッチ,モータ・
コントローラ関連技術を適用した車両を 2006 年頃に市場導入を検討中.
・ハイブリッド+キャパシタを盛り込んだ車両価格は,ベース車両の 1.4
倍程度になる(2013 年頃,生産台数は 100 台を想定).
・導入時生産台数の数倍レベル(アンケートでの 150 台,200 台のレベ
ル)では,量産効果は出にくい.
波及効果
導入に関する課題
−
国内のバス市場(重量車)は,全体で年間約 3,000-3,500 台程度あり,そ
の中でハイブリッド等の低公害車も含まれることから,量産効果は期待出
来ない.
その他課題
・ハイブリッド:車両価格の低減
・DMEエンジン:研究段階である
192
表 9
今後の導入予定技
術
価格(量産効果)
波及効果
導入に関する課題
その他課題
今後の導入計画,課題等の詳細(いすゞ自動車)
・高効率セラミックエンジンの市場導入時期は現時点では未定.
・エネルギーマネージメント技術,コンバータ/インバータ制御,ブレー
キ時のエネルギー回生制御の 3 項目のハイブリッド制御技術を 2005 年に
市場導入予定
・2 トンハイブリッドトラックの場合導入時 350 万円(ベース+100 万円)
−
・タービン発電機は,独自技術であるが価格上昇が+35 万円(2,000 台/
月として)となる.その場合の効率向上分が 5%程度.
・そのため,2005 年の新長期の NOx,PM 規制は既存技術 DPF 等で対応で
きるため,2008-2010 のポスト新長期規制で燃費の大幅改善を目標とした
導入の可能性がある.
・1,000 台/月を越えないとライン流しができない.
(参考)現行のエルフは 4,000-6,000 台/月販売
キャパシタの出力特性は HEV 性能向上に大きく寄与するがコスト高
各種助成措置
193
15 年度「次世代低公害車の自動車燃料に関する調査 」
2010 年までのトラック・バス等に係る技術・燃料評価と普及の方向性
自動車技術について
当該範囲の車両については、低速走行頻度、加減速頻度が高いという特徴がある。ハイブリッ
ドシステムの導入により、燃費の大幅な向上に伴う CO2排出削減効果はもとより、アイドリン
グ時や低速走行時において、自動車排出ガスの削減効果も期待される。このため、どのような燃
料を利用する場合においても、ハイブリッドシステムを積極的に導入していくべきである。
また、CNG、LPG 及びガソリンについては、現状は、三元触媒が導入され、優れた環境特性
を有している。
(一方で、CNG、LPG 及びガソリンについて、燃費改善に向けて、リーンバーン方式及びそれ
に対応した NOx 触媒の開発が行われているが、その場合には、三元触媒と同等の大気環境性能
を達成することが求められる。
)
軽油を中心とした燃料を利用する場合については、①で示したとおり、燃料噴射の更なる高圧
化及び制御の高度化、後処理技術の導入及び可能な範囲での HCCI 燃焼の導入を図っていくべき
である。なお、後処理技術については、De-NOx 触媒、PM・NOx 同時低減触媒等の触媒の導入
が有望と考えられる。(今後の技術開発動向等によっては、尿素 SCR 触媒の導入も考えられ
る。)
燃料の方向性について
①長距離都市間トラック、バス等
軽油については、総合資源エネルギー調査会石油製品品質小委員会において、2007 年からすべ
ての軽油中の硫黄分を 10ppm 以下とすること、また、一部の製油所・事業者において、2005 年
から硫黄分 10ppm 以下の軽油の早期供給が可能としている。10ppm 以下の低硫黄軽油が供給さ
れ、同時に(2)に示した自動車排出ガス低減技術を可能な限り導入することにより、自動車排出
ガスの大気環境汚染に対する寄与度が低減し、自動車が主要因とならなくなるレベルにまで改善
することは可能と考えられる。
GTL については、軽油への混和を前提とする場合には、既存のディーゼルエンジンが利用可能
であり、既存の燃料供給インフラも使用可能であることから、導入を歓迎すべきものと考えられ
る。しかし、軽油の硫黄分を精製過程において 10ppm まで下げることが、実用技術によって可
能であることを考慮すれば、軽油混和を前提とした場合、技術的、経済的メリットは大きくない
との指摘もある。また、WtW のエネルギー効率、CO2排出量の評価については現時点ではメ
リットがないとの意見もある。しかしながら、GTL は天然ガス起源の燃料であることから、我
が国のエネルギー供給源の多様化の観点からは極めてメリットが大きいと考えられる。このため、
中長期的な展望を視野に入れ、資源制約へ対応していく観点から、2010 年までの間においても、
導入を促進することが重要であると判断した。
(なお、GTL については、中長期的観点からは、軽油への混和比率の向上や、GTL のみを内燃
機関燃料として利用することも想定し、それに合わせた内燃機関側の技術改善を進めていく必要
がある。また、GTL は、オンボード改質を行う場合の燃料電池自動車の燃料(水素キャリア)
として、利用できる可能性を秘めている。このため、2010 年以前の段階から、軽油混和を前提
とした GTL が供給されることは、将来への連続性の観点からも一定の意義があると考えられ
る。)
バイオディーゼルについては、PM 中の固体すすの排出が少ないというメリットがあり、また、
軽油に混合して用いると考えた場合には、新たなインフラ投資も必要ないと考えられる。また、
パーム油の大規模プランテーション栽培により、バイオディーゼルの大量供給の検討も一部の事
業者により進められている。しかしながら、当該燃料は、既存の軽油車両に用いた場合の安全性
能、環境性能や導入意義等については議論が尽くされておらず、別途十分な検討を経た上で導入
を行うべきである。
(なお、将来的には、GTL とバイオディーゼルを同時に混和するといったことも考え得るが、
現時点でそれを想定した研究等はなされていない。バイオディーゼルの導入可否の検討の後に、
194
中長期的に検討していく課題である。)
一方、当該車両区分においては、CNG、LPG、DME 及びガソリンについて、現時点で既に開
発・普及の見通しがある燃料を選択の対象とするという前提を鑑みれば、2010 年時点での本格
的普及は困難と判断した。具体的な理由は以下のとおりである。
・CNG は気体燃料であり、現在の 200 気圧以上に高圧化してもエネルギー可搬量が軽油よりも
劣り、一充填走行距離は当該車両区分として不十分である。また、当該車両区分の走行形態
から、全国の幹線道路沿いに燃料インフラが多数配置されることが必要となるが、天然ガス
の供給地域が限定されている現状を鑑みれば、導入は現実的でないと考えられる。
・LPG 又はガソリンについては、エンジンの大型化に伴うノッキングの問題から技術的に困難
であると判断した。
・DME については、体積当たりの発熱量が小さいためタンク容量に影響し航続距離が不十分で
あること、噴射特性の最適化や高速高負荷域の性能が技術課題となっており、車両性能とし
て高速高負荷域を多用する長距離都市間トラック・バス用としては、現状ではディーゼルエ
ンジンより劣ること、当該車両区分の走行形態に合わせた燃料供給インフラの構築が 2010 年
までに困難であること等から、本格的普及は困難であると判断した。
②都市内トラック、バス等
当該車両区分については、都市間トラック、バス等に比べて一充填距離は比較的短くても車両
の運行が可能であるとともに、拠点周辺に少数の燃料インフラが設置されていれば対応可能であ
ることより、一充填走行距離の観点から長距離トラック、バスとして選択されなかった燃料も選
択肢となり得る。
このような中、CNG については、以下の理由から、都市部において、現在あるインフラを最
大限に利用しつつ、大気環境問題の改善を図るための最も有効な手段であると判断できる。
・燃料性状及び三元触媒の利用により、大気環境性能が高く、NOx、PM 低減に寄与する。
・燃料供給インフラについては、現在 200 箇所以上普及しているが、その多くが三大都市圏等の
大気環境問題が深刻化している地域内に設置されている。
(また、中長期的観点では、CO2排出量の削減及び資源制約への面でのメリットが大きい。)
ただし、現在の天然ガスの供給範囲外においてもインフラ整備を進めていくにはコストがかか
りすぎるとの指摘もあり、2010 年までに全国の都市に普及させることは困難であると考えられ
る。
(なお、CNG スタンドは、三大都市圏に 128 箇所(平成 15 年3月現在、日本ガス協会。)
、その
他自家用充填所、小型充填機は 500 箇所程度設置されているが、当該地域に導入されている
CNG トラック・バス等は約 1 万台程度であり、スタンド1箇所あたり自動車の台数は 80∼90
台程度の水準にある。スタンド数と自動車普及台数のバランスについては、スタンド1箇所当た
り 200 台程度が望ましい水準と指摘されており、現時点では供給余力は十分にあると考えられる。
他方、今後 CNG 車が増加した場合に、適切な規模について検討していく必要がある。)
また、LPG 及びガソリンについて、三元触媒の利用による大気環境性能が高く、既存のイン
フラの有効活用を考慮すれば、CNG の導入が困難な地域において導入が進むことについては、
意義があると考えられる。
ただし、LPG については、既存の LPG スタンドにおいて車両総重量 3.5t 程度より大きな車
両は利用できないスタンドもあると想定されることから、現状では導入可能範囲が限られる点も
十分考慮する必要がある。
(また、CNG に比べれば CO2やエネルギーセキュリティ面、軽油に比べても CO2の面で劣
ることを考慮する必要がある。
)
軽油については、現時点では大気環境性能が三元触媒適用可能車に比べ低いことは事実であ
るものの、長距離都市間トラックや長距離都市間バスで示したように、10ppm 以下に低硫黄化
され、先端的な自動車技術の開発・利用により、相当程度排出ガスレベルが低減される見通しが
得られている。軽油ディーゼル車が三元触媒車並みの大気環境性能を達成するまでは、CNG 車
及び LPG 車の普及が促進されるものの、ディーゼル自動車の排出ガス低減技術の開発に引き続
き取り組むことが期待される。
DME については、PM 排出量が極めて少なく、NOx も低く抑えられるとの指摘があるものの、
NOx については三元触媒を利用できず、現時点では CNG、LPG 及びガソリンに劣ると考えら
れる。また、技術的には LPG インフラの流用が可能であるものの、①既存の LPG インフラに
流用の容量が大きくあるとは考えられないこと、②既存の LPG インフラはタクシー向けのもの
195
が中心であり、対応できる車両に限界があることから、本格的な DME の普及までに、DME 専
用の新規インフラの整備が必要となる。以上から、現時点で既に開発・普及の見通しがある燃料
を選択の対象とするという前提を鑑みれば、2010 年までの本格的な普及は困難と考えられる。
(中長期的観点からは、PM が生成されず後処理フィルターを装着する必要がないこと、ディー
ゼルサイクルを利用するためオットーサイクルよりも高効率であることから、DME に関する基
礎的な技術開発を引き続き進める意義がある。また、供給源の多様性等のメリットがあること、
水素への改質温度が低いことから、オンボード改質を行う場合の燃料電池自動車の燃料(水素
キャリア)として、利用できる可能性を秘めている。)
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