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コンクリート基礎の欠陥への対処 - 一般財団法人 住宅保証支援機構

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コンクリート基礎の欠陥への対処 - 一般財団法人 住宅保証支援機構
<2011.9.27 IHHWC(国際住宅建設・性能保証会議)2011 発表資料より>
コンクリート基礎の欠陥への対処
APCHQ(ケベック住宅建設業者連合)
技術・現場管理課長 ブルーノ・ナンテル
1.
APCHQ について
APCHQ(Association provinciale des constructeurs d’habitations du Québec inc.;ケ
ベック住宅建設業者連合)は、会員数 15,000 社であり、100%子会社として GMN(Garantie
des maisons neuves de l’APCHQ;新築住宅保証)がある。
※APCHQ は非営利団体
※GMN は営利法人であるが、過去の収益状況から免税措置が講じられている。
GMN の登録業者数は 3,500 社であり、保険(加入は義務)
の引受け戸数は 15,000~20,000
戸/年である。
2.
保険事故の発生
トロワリビエールにおける欠陥コンクリートに関する保険金支払い請求が、2009 年の夏
に出始めた。請求は急激に増加し、現在 607 件。請求の 88%は妥当。消費者のパニック状
態はなお続いている。メディアは、潜在的に 1,000 件(セルフビルドの住宅が数百件、分譲
住宅)はあると予想している。
※2000 年代前半にも同様の(骨材中の黄鉄鉱が原因)請求が 20 件程度あった。
3.
保証の法的根拠
「主要な瑕疵」については5年間の保証が義務付けられている。「主要な瑕疵」とはケベ
ック州民法において「機能の喪失状態を引き起こすもの」と定義付けられている。
4.
問題の状況
コンクリートの欠陥は、初めはクモの巣状のクラックとして発生する。
今後5~6年間に保険金請求総額は最大 6,500 万カナダドル(約 49 億円;1カナダドル
=75 円で換算、以下同じ)と予想される。
GMN の平均では、引受け件数 15,000~20,000 戸/年に対し、請求総額は 700~800 万
カナダドル(5.3~6億円)/年である。
コンクリートクラックの発生原因は、湿気と酸素の存在下で、磁硫鉄鉱の骨材が膨張する
ことである。コンクリートは最終的に構造上の特性を喪失し、崩壊する。
5.
被害の程度と措置
瑕疵の被害の程度は、次の4段階に区分される。
0:劣化が見られない。
1:毛細血管状のクラック
2:隙間のできたクラック
3:幅3mm 以上のクラック
酸素と水分との接触を減少させ、劣化を減速し、水分の浸入リスクを軽減することを目的
として、影響を受けたコンクリート上に部分的に被覆する保護措置を講じる。
6.
意思決定プロセス
外部の専門家の意見を基に、疑わしい期間に建設された全ての建築物の基礎から、試験サ
ンプルとしてコンクリートのコアが切り取られた。試験結果は以下の3つと考えられた。
・明らかに問題:要補修
・明らかに問題なし:補修不要
・不明:問題が発生するか経過をみる時間が必要
7.
カナダコンクリート規格
<カナダコンクリート規格(CSA(カナダ規格協会)規格 A-23,1)>
・アルカリ反応を超える反応によってコンクリート中で過剰な膨張を招く骨材は、所有者が
納得する予防措置が講じられない限り、コンクリートに使用してはならない。
注:稀ではあるが、アルカリ骨材反応以外の理由で顕著な膨張が発生することがある。この
ような膨張の原因として、黄鉄鉱、磁硫鉄鉱、白鉄鉱といった硫化物が骨材の中に存在
し、その分量が増える又は硫酸化することで酸化又は水和化され、セメントペースト又
はコンクリートに影響することが考えられる。
※骨材中の磁硫鉄鉱による被害の他に、基礎スラブの下に敷く砕石中の黄鉄鉱による被害も発生した。
8.
CRIB(コンクリート基盤施設研究センター)
ケベック州において磁硫鉄鉱又は黄鉄鉱が0%のコンクリートはほぼ不可能。磁硫鉄鉱の
許容含有レベルに関する研究が必要。現在、EU 基準(磁硫鉄鉱 最大 0.1%)のみが知られ
ている。
ケベック市にあるラバル大学内の CRIB(コンクリート基盤施設研究センター)が3年間
の研究に着手している。CRIB はコンクリートの研究においてはカナダ屈指の機関。研究結
果が CSA 規格 A-23,1 の改訂に繋がることが期待される。
9.
住宅所有者への影響
住宅所有者は、黄鉄鉱がどのような結果をもたらすかを知っている。
・2004 年に 12 軒の住宅について TV 放映。
・住宅が基礎部分から吊り上げられ、数週間宙吊り状態。
・コンクリートが撤去、補修された。
・仮設階段が住宅への出入り手段。
・付帯設備も仮設置。
・景観は破壊され、道路は泥にまみれた。
被害住宅は事実上、中古市場で価値を失った。
・補修費用が新築価格を上回るケースも多い。
・トロワリビエール市は住宅価値の消失を反映し、固定資産税の減税を決定。
住宅所有者は自宅を売却して他の仕事に就く訳にはいかない。大部分の住宅所有者がこの
事故について怒り心頭であり、GMN のいずれの措置に対しても非常に批判的である。また、
メディアへも積極的に訴えている。このことが補修工事への取り組みをさらに困難にしてい
る。
10.地理的特性
鉄とチタン鉄鉱の鉱山、工業用鉱物の潜在性、一般金属で知られているグレンビル地方で、
原因となっている骨材が見つかっている。原因の骨材は、セント・ボニフェス産。2010 年
3月 16 日、ケベックコンクリート基準が改訂され、BNQ-2621-905 に原因となった骨材の
使用禁止が盛り込まれた。
11.状況への対処
事故に対し、以下の手順で対処が行われた。
・問題の骨材が使用された時期の特定(2004~2006,7 年、それ以降の可能性も)
・被害等級の区分(補修の優先順位の決定)
・1名が検査と決定を行う。
・問題、保証範囲及び補修手続きについての公開説明
・手続きの住宅所有者に対する文書説明を実施中
・専用ウェブサイトでの問題に関する情報の公開
・15~80 戸単位での補修契約
12.裁判
事件はすでに訴訟になっており、
「個人の利益」の問題として扱われている。2004~2006
年に黄鉄鉱をめぐる比較的小規模の訴訟を担当した裁判官が、同様な対処方法を採用した。
その裁判官は、関係者全員を定期的に行政審判に招集し、以下の点などを監視する。
・1名の専門家の指名
・保険の適用範囲に関する情報開示
GMN は、原告側の 50 人の弁護士に対する5万ページに及ぶ 4,000 の証拠書類の発送に
代えて、専用のウェブサイトに証拠書類の掲載する許可を得た。
※これらの事故に関する裁判の判決は、2012 年2月時点で出されていない。
13.住宅の典型例
トロワリビエールにおける典型的な住宅は次のとおりである。
・2.5m の高さの基礎壁(半地下)上に建設。
・地下スペースは断熱され、寝室、遊戯室、浴室として使用。
・新築住宅価格は 15 万~35 万カナダドル(1,100~2,600 万円)
。
・ビニール又はアルミニウムの外装材で、一般的には1か所の組積造のファサードを備えた
ツーバイフォー工法
14.補修工事
補修工事は以下の手順で行う。
・準備
・内装材撤去
・ジャッキアップ
・フーチングを含む欠陥コンクリート基礎の取り壊し
・新しいコンクリート基礎の打設
・新しいコンクリート基礎上への設置
2010 年:70 棟が補修完了、2011 年:126 戸が補修完了。補修費用は8万~26 万カナダ
ドル/戸(600~2,000 万円;保険金限度額)
。
15.政府の支援
地方政府は、保証の義務化による消費者保護政策のさらなる強化を検討中。連邦政府と地
方政府は、保証のない住宅とセルフビルドの住宅に対して資金援助を行うことを表明。(地
方政府:1,500 万カナダドル(11 億円)
、連邦政府:500 万カナダドル(3.8 億円)
)
ホームオーナーズ・アソシエーション(管理組合)はさらなる要求を行っている。(連邦
政府:1,000 万カナダドル(7.5 億円)の追加支援、トロワリビエール市:300 万カナダド
ル(2.3 億円)
)
16.リスクの低減
保証プランにおいて、トロワリビエールで使用されるコンクリートについて共通の「建設
ガイドライン」を採用した。コンクリート骨材は、承認された 8 か所の採石場のいずれかで
採取されたものでなければならない。
GMN は受入れ可能な骨材を特定するため、採石場の特定化に着手した。採石場は自発的
に年度の手続きに参加する。トロワリビエール地方で供給されるコンクリートは、現在、コ
ンクリートを搬送する際の伝票に、骨材の採取地、セメント中の硫黄含有率、セメントペー
ストの製造地を記載することが義務付けられている。
また、スラブの下の砕石等は DB
(Dalle
de Béton)グレードを満たさなければならない。
最悪の事態に備える特別準備金の創設を認めること、300 カナダドル/戸(2万3,000
円/戸)の追加提案、このような想定外の事態による保険金請求への支払いとすることにつ
いて、政府当局との話し合いが進行中である。
17.GMN の今後
GMN は経営を継続している。GMN は、支払請求件数、補修費用及び回復の見通しにつ
いて、支払能力がある。親会社である APCHQ は保証の競合会社(La Garantie des Maîtres
Bâtisseurs;MB)を買収した。新たな新築住宅(概ね 2012 年以後)の保証引受けは、現
在、改名した保証会社(La Garantie Abriat Inc;Abritat)において行われており、GMN
は新たな保証引受けは行っていない。両社は義務付けられている保証の運営について認可を
受けている。
※MB は住宅保証の分野で非常に小さなシェアしかなく、今後の事業実施のための要件を満たすことが不可能と
考えられた。
※現在、新規の保証引受けを行っているのは Abritat と Guarantie
Qualité Habitation (QH)の 2 社。
18.結論
3年前、GMN には何の不安もなかった。GMN は、リスクマネジメントの実績と保険金
請求の予測において高い信頼を得ていた。
今日、磁硫鉄鉱の問題は、保証のリスクに対する見通しを大きく変えた。
保証プランは独立型である。政府は、同情は示すものの、何も行動しない。業界は、すぐ
に問題から逃げ腰になる。住宅建設業者は、単に新たな会社の傘の下に移るだけである。
このような事件は消費者団体の格好の状況となる。消費者団体は、限度や費用を顧みず、
要求を増幅する。
最悪の事態に対する準備金は、絶対必要である。
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