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胃がん・ 大腸がん - ひろの内科クリニック

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胃がん・ 大腸がん - ひろの内科クリニック
第30回健康教室
第30回健康教室
ひろの内科クリニック
Vol.30 2008/8/30
特集:胃がん・大腸がん
3人に一人はがん(悪性新生物)で死亡します。その中で胃がん・大腸がんは肺癌
についで多いがんです。いずれも早期に発見すると治すことのできる病気です。
がんの発見に重要な消化管内視鏡も進化しており、以前のような苦しい検査ではな
くなってきました。 今回は胃がん・大腸がんの診断・治療・予防につきまとめま
した。
宮崎県の胃がん・大腸がん
図1
宮崎県においても全国集計と同様に、胃がんの死亡率は減少傾向で大腸がんは増加
しています。胃がんの数は若干減っていますがそれよりも、死亡数の減少が大きく、
早期胃がんで発見して治療できるようになったので死亡率が減少しているのです。
胃がん
何故胃がんになるのでしょうか?
当初、胃がんは日本人に多く、日本人は胃がん体質であると考えられていました
が、欧米型の食事をしている海外の日本人には胃がんよりも大腸がんが多いことが
わかってきました。塩分の過剰摂取(塩辛い漬け物や魚の干物)、単純な食生活に
よる動物性食品やビタミンの摂取不足などの、日本人の食生活と胃がんとの関わり
が注目されています。 また、喫煙もたばこの中に含まれる有害物質が胃の粘膜を
刺激し、胃がんの原因をつくるとされています。特に飲酒と喫煙を同時に行うと危
険度が増すという説もあります。食物では塩分の多いものが最もいけないといわれ
ています。近年、ヘリコバクター・ピロリという細菌が胃の中に住みついて胃がん
の原因のひとつになっていることがわかってきました。菌によって慢性の炎症をお
こし、慢性萎縮性(まんせいいしゅくせい)胃炎と呼ばれる状態になり、そこから
胃がんが発生するといわれています。40歳では40%、50歳では50%の方がこの菌に感
染しています。衛生環境の整備された日本においては、若年者へのピロリ菌感染
ルートは菌を持った大人からの「口から口感染」であると考えられています。
1
胃の萎縮が進む程分化型腺がんが発生しやすいことがわかっていますが、胃粘膜の
萎縮を伴わなくても胃がん(未分化がん)が発生することがあります。いずれにし
ろ、さまざまな原因で胃の細胞の遺伝子にたくさんの傷がついてがんが発生すると
いわれています。また、遺伝子の傷を自力で修復する能力の劣った家系があり、そ
の家系では胃がんや大腸がんが多数発生する場合があります。親兄弟、親の兄弟な
どに胃がんが多い家系は高危険群といえるでしょう。 (図2)
図2
胃がん検診について
胃がん検診は主に胃X線検査(バリウ
ムを飲む検査)で行なわれています。
胃X線検査では、平均で約14%が要精
検となります。 そしてその約1%に
精密検査(胃内視鏡)で胃がんが見
つかります。すなわち人口の0.14%に
胃がんが見つかります。
最近ではペプシノーゲンという胃粘膜で産生される酵素を血液中で測定することに
より、萎縮性胃炎を診断して胃がん検診に用いることも行なわれています。(図3)
早期胃がんは無症状ですので、定期的に検診を受けることが大事です。早期胃がんの
治療成績は非常に良好です。
図3
胃がんの診断-胃内視鏡-
胃がんの検査には内視鏡が重要な役割を
果たします。最近では鼻から挿入でき、
嘔吐反射をおこしにくい細い胃内視鏡が
普及してきました。当院でも図4のよう
に2005年に経鼻胃内視鏡を導入以来、検
査件数が急速に増えています。このこと
は経鼻胃内視鏡が比較的楽に受けられる
検査であることを示しています。安定剤の注射も不要ですので、より安全な内視鏡検
査です。また、色素散布やコンピューターによる画像処理機能(FICE)を用いて病変
部を強調し、診断に役立てています。(図5)
図5
図4
2
胃がんの予防・早期発見
胃がんの予防・早期発見には以下のようなポイントがあります。積極的に取り組
みましょう。
z動物性食品、塩分を摂り過ぎない。適度なビタミンを摂る。禁煙
zヘリコバクター・ピロリ菌の除菌(抗生物質と胃酸を抑える薬を1週間服用)
z定期的に胃がん検診を受ける
z内視鏡検査を積極的に受ける
大腸がん
食生活の欧米化に伴い、男女ともに大腸がんが増えています。大腸がんが増加し
た背景には肉類など動物性タンパク質の摂取率が増えてきたという食生活の変化が
あります。 大腸がんの特徴を表1に示します。大腸がんの症状では、特に下血
(便に血がついたり、混じること)に注意してください。次に、いつもとは異なる
腹痛や腹部不快感も、注意すべき症状です。しかし何よりもやっかいなのは、「早
期大腸がんには、症状がほとんどない」ということです。ですから、「自覚症状が
ないから検診をうけない」と考えるのは誤りです。
表1
早期発見
このような大腸がんを早期発見するための方法は、
大腸がん検診を繰り返し受けることです。大腸がん
検診は、便を採取して提出する簡単な検査です。
食事制限も不要です。「大腸がん検診」という
ステッカーを掲示した医療機関を受診してください。
早期発見さえすれば、大腸がんは90%以上は治る
といえます。 大腸がんの家族歴のある人はとくに
検診が必要です。そして要精検となれば積極的に大腸内視鏡検査を受けましょう。
大腸癌検診では他の癌検診に比べ精密検査の受診率が低いことが問題となっていま
す。
図6
大腸がんの約70%は、肛門に近いS状結腸と直
腸・肛門管に発生します(図6)。ここにガンが
多いのは、S状結腸や直腸は便がたまるところで、
便中の発ガン性物質の影響を受けやすいからだと
考えられます。
大腸がんの原因
それではなぜ大腸がんになるのでしょうか。
欧米型の食事により胆汁酸・腸内細菌バラ
ンスの変化、便の腸内停滞時間の延長によ
る発がん物質との接触時間の延長などによ
り細胞の遺伝子に傷がつき、がん遺伝子や
がん抑制遺伝子の異常が蓄積し、がんが発
生すると考えられています。APC遺伝子の
異常で腺腫が発生し、rasの異常で腺腫が
増大し、p53の異常でがん化すると考えら
れています。また腺腫を介さない発がん
(de novo がん)も知られています。
(図7)
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図7
大腸ポリープと大腸がん
表2
大腸ポリープとは大腸の粘膜表面から内腔に突出
した隆起性病変ですが、腫瘍性ポリープ(腺腫
adenoma)と非腫瘍性ポリープ(炎症性、過形成
性など)に分けられます。この中で発がんのリス
クが高いものは腺腫性ポリープです。腺腫性ポ
リープのがん化はその大きさに比例して発がん率
が高くなります。(表2)
ポリープは大きさが5mm を超えると発がんする
可能性がありますので、基本的に5mm 以上のポリープは切除(ポリペクトミー)の
対象になります。
図8
大腸がんの診断と治療
大腸がんの診断にも内視鏡検査が必須
です。大腸癌を早期に発見するには腺
腫のような隆起性の病変のみならず小
さな陥凹した病変(Ⅱc )の有無にも
注意する必要があります。大腸内視鏡
検査は検査の前処置が面倒で、時に、
痛みを伴うので敬遠されがちですが、
検査機器の進歩や検査に習熟した医師
が増え、以前ほどの大変な検査ではな
くなってきました。当院でも開院後300
例を越え11例の大腸がんを発見しました。
図9
(図8)
がんが粘膜内にとどまっている場合は内視鏡的
粘膜切除術(ポリペクトミー)あるいは粘膜切
除術(EMR)を行ないます。(図9)
がんがリンパ節に転移していると考えられる場
合は、原則として、がんとその周辺部分の大腸、
がんが転移している可能性のあるリンパ節を切
除します。 その切除の方法として腹腔鏡を用
いて手術を行なったり、開腹手術があります。
最近は患者さんに負担の少ない手術を選んで行
なっています。
大腸がんの予防・早期発見
大腸がんの予防・早期発見のためには
右の表3のポイントが大事です。
大腸がん検診で行われる便潜血検査を
受けた人は、大腸がんによる死亡率が、
受けない人に比べて約7割低かったこ
とが、厚生労働省研究班による大規模
な疫学調査でわかっています。ぜひ検
診を受けましょう。
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