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ブラジル経済レポート 2004 年 9 月

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ブラジル経済レポート 2004 年 9 月
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ブラジル経済レポート
2004 年 9 月
ブラジル
浜口伸明氏 神戸大学経済経営研究所
(1)経済概況:景気拡大続くがインフレ懸念も強まる。
COPOM は SELIC を 0.25%ポイント引き上げて 16.25%とした。引き上げ幅を 0.5%ポイン
トにする案もあって意見が分かれたが、全体に金利 引上げ止む無し、との流れができていた。
今回の決定に先立って中央銀行は、現在の景気回復の勢いからすれば、17%まで金利を上げ
ても失速させることはな い、とする調査結果も公表している。今回の決定は 8 月の公式イン
フレ率 IPCA が予想を上回る 0.69%となり、すでに年初からの累積物価上昇が 5.14%となっ
て、今年のインフレ目標中央値 5.5%(上下 2.5%ポイントの許容幅)に近づいているためで
ある。今年前半の GDP 成長率が対前年比実 質 4.2%と 2000 年以降最も高い水準にあるが、
現在のインフレ圧力は石油価格や為替レートなどの一過性の要因ではなく、景気回復にとも
なう需要超過か ら生じているとの見方が固まってきたことから、中銀ではインフレが拡大す
る前に緩やかな調整局面に入ったとコメントし、今後更なる金利引上げの可能性を示 唆して
いる。今回の利上げは金融関係者の間ではすでに予想されていて、また引き上げ幅も予想の
範囲内であったことから、市場を安定させるものと歓迎してい る。しかし政治家、製造業経
営者、労働組合は景気回復を遅らせるとして、いっせいに反発している。企業経営者は、物
価の上昇は全般的な原料費のコスト高に よってもたらされているもので需要側の要因では
なく、利上げは間違ったシグナルになると警告している。
工業生産、雇用は順調に拡大している。工業部門の雇用数は下のグラフにあるように今年に
入ってから明らかに増加傾向が続いている。IBGE が発表した季節 調整済みの 7 月の工業生
産指数は対前年同月比で 9.6%上昇した。工業生産指数は 5 月以降高い伸びを示している。た
だし対前年同月比で見た場合ベースが低 いために誇張される。対前月比でみると数値はさほ
ど大きくないが、成長が持続していることは確かであって、成長が 5 ヶ月続いたのは過去 10
年で 2001 年 11 月∼2002 年 3 月以来で、最近では 2003 年 7 月から 4 ヶ月成長が続いたこ
とがあったが年末にインフレが高進するとともに失速した。今回の金利引上 げは、このとき
の教訓を踏まえてのものと理解できよう。政府や民間のシンクタンクは今年4%台の成長が
可能との見通しが出始めている。
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工業部門に雇用されている労働者
(出所)IBGE, 月次工業調査 PIM
工業生産指数の成長率
(出所)O Estado de Sao Paulo, 9 月 10 日 B3 面
(現データは IBGE の月次工業調査(PIM))
景気拡大は財政面にもプラスの効果をもたらしている。税収の増加によってプライマリー黒
字が目標値である GDP 比 4.25%を上回ることがすでに確実と なってきた。4143 億ドルを
予想していた税収は 4190 億ドルを見込んでいる。ムーディーズはブラジル国債の格付けを
B2 から B1 に引き上げた。リオデ ジャネイロ連邦大学の研究グループの調査によれば、すで
に競争力のある一部の企業は輸出関連を中心に成長経路に乗っているが、大部分の中小企業
を含む技術 革新が遅れた企業は景気回復の波に乗り遅れている。とくに後者にとっては成長
資金へのアクセスがないというハンディキャップが立ちはだかっている。
(2)IBGE 家計調査の結果
IBGE が 2002 年から 2003 年にかけて行った家計調査の結果がこのほど公表された。これに
よると、ブラジル人平均家計の 1 ヶ月の所得は 1789.66 レアル(約 900 ドル)で、ほぼそれ
と同額の 1778.03 レアルを支出している。このうち 93.26%は、食事、住居、健康衛生管理、
納 税、社会保険料など、社会生活を送るための基本的支出に費やされており、この比率は
30 年前 80%程度であったのから大きく上昇している。ブラジル人の消 費生活は以前よりも
余裕がなくなっていることを示しているが、反面、都市部を中心に食品のバラエティが拡大
するなどその内容は豊かになっていることも意味 している。地域別にみると、東北地方では
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平均家計収入は 900 レアル前後と低く、リオデジャネイロやサンパウロでは 2300 レアル以
上となっている。また この調査では農村部では家計収入が都市部よりも低いが、その分を自
宅での食料の調達など非金銭的な収入で補っていることを明らかにしている。
(3)対外関係
フルラン開発相は 9 月 15 日の国際アマゾン展示会の席上で、今年の年間輸出額の見通しを
900 億ドルから上方修正して 940 億ドルになるだろうと、発言し た。これに伴って、貿易黒
字の見通しもは 300 億ドルから 320 億ドルに引き上げられた。貿易黒字の拡大を反映して、
レアルはドルに対して 1 ド ル=2.90 レアルまでレアルの価値が上昇し、3 ヶ月ぶりに過去 2
年間の標準的水準に戻った。
レアルの対ドルレートの推移(過去 1 年間)
メルコスルと EU の自由貿易協定交渉は、今月 20 日に双方が協定案を提出して 3 ヶ月以内に
交渉を再開することで合意した。EU 側は項目ごとに交渉を積み上 げていく方式を提案して
いたが、メルコスルはそれでは最終合意が部分的なものに終わってしまうことを危惧し、全
体を一括して交渉することを主張し、前回の 交渉は互いに協定案を提示しないまま決裂して
いた。今回、EU 側が譲歩する形で交渉が再開された。具体的な交渉では、EU 側が政府調達
とサービス貿易の市 場開放を要求するのに対して、メルコスル側がヨーロッパにおける農産
物市場の自由化を強く求めることが予想されている。一方 FTAA 交渉はアメリカの大統 領選
挙を控えて動きがなく、予定されていた来年 1 月の実施は確実に無理な状況になっており、
今後どのような形で交渉が進められるのか不透明になっている。
小泉首相のブラジル訪問は、12 年ぶりの従兄との対面や日系移住地に突然ヘリコプターで降
り立つなど、日系社会に深い感動を残した。経団連から要請のある 日本−ブラジル自由貿易
協定については、表明されなかったが、サンパウロでは今後の中南米との経済交流の拡大に
期待を示した「日・中南米新パートナーシッ プ構想」(小泉ビジョン)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2004/09 /15speech.html を披露し、今後の日本の中
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南米への関わり方に政府としての方針を示した。ブラジルの天然資源・エネルギー開発、南
米のインフ ラ統合には国際協力銀行のファイナンスを梃子に協力を進めていくことを表明
した。この中にはブラジルが期待しているエタノールの開発が今後具体的に検討さ れていく
ものと思われる。今後 5 年間で 4000 人の青年をラテンアメリカから招聘する計画も明らか
にした(うちブラジルから 1000 人)。さらに、ともに 国連安保理事会常任理事国入りを目
指すブラジルと国連改革で協力していく姿勢を示した。また今後「東アジア・ラテンアメリ
カ協力フォーラム」で主導的な役 割を担うことにも意欲を示した。小泉首相はこのあとメキ
シコで経済連携協定に署名し、11 月にはチリで APEC 首脳会議に出席する予定。
アルゼンチンとの経済関係は、過去数ヶ月通商問題をめぐってギクシャクしているが、9 月
10 日にラバニャ経済大臣がブラジリアを訪問して、2006 年に自 動車の域内関税の撤廃を予
定している自動車協定を見直すことでルーラ大統領から合意を取り付けた、と伝えられてい
る。どの程度具体的な合意が得られたのか は不明であるが、自由化を 2 年程度遅らせること
が含まれているとも言われている。
(4)今月の国会の焦点
1.情報産業法の改定
昨年の税制改革のときに情報産業法の恩典は 2019 年まで継続されることで基本的に合意さ
れた。情報産業法はパソコン関係の製造に国中どこでも恩典を与え ることができるため、マ
ナウス・フリーゾーンを抱えるアマゾナス州議員団は、このままではせっかくマナウスに集
積したテレビ工場がパソコンモニターの製造 にかかるインセンティブを求めて他の州へ行
ってしまうという危機感を募らせていて、アマゾナス州の利益が保証されないかぎり議決を
ボイコットすると言い出 した。政府は現行法のまま期限を延長する一方で、アマゾナス州と
の間で別途マナウスにインセンティブを増やすような法案を作成することで合意点を見出そ
う としている。
2.バイオセーフティ法案
環境保護派のマリアナ・シルバ環境大臣は遺伝子組み換え技術の商品化には環境庁(IBAMA)
の認定が必要とすべきだと反対している。この法案は環境を守 るためよりもむしろクローン
技術や遺伝子組み換え技術の商業化を制度化するための法案で、もともと PT を支持してい
た環境団体からの反発が強い。上院の検 討委員会ではネイ・スアスナ上院議員が一度科学的
専門家の間で否定的な見解が出された治療目的のクローン技術を認めるべきだと強く主張し
ている。
3.官民パートナーシップ法案(PPP)
公共事業に民間資本を導入する制度を構築しようとするもの。今後の投資喚起とインフラ整
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備の目玉とされている。下院はすでに 3 月に可決。現在上院において 野党は政府の出資制限
があいまいであり、なかんずく開発銀行の出資に事実上歯止めが無いことや、ルーラ政権下
で電力などのインフラの独立監督庁の機能が著 しく削減されて政府が直轄監督し始めてい
る中で、民間の企業活動をいかに監視するのか、具体性に乏しいと批判。また、地方政府の
借り入れを禁止した財政責 任法との整合性が保たれなくなるとも、野党から指摘されている。
※最近の動向に関する情報は研究者個人の見解であり、あり得る過ちは全て執筆者個人に帰
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